説明

トナー用ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】 トナー化したときの材料分散性が良好で、低温定着性を有し、耐高温オフセット性に優れたポリエステル樹脂を工業的に生産性良く製造する方法を提供する。
【解決手段】
不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂に架橋反応開始剤を供給し、押出機によって(1)式の条件で架橋反応を行う、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
n>k/0.005・・・(1)
(n:押出機の回転速度(rps)k:架橋反応開始剤供給部での樹脂温度における架橋反応開始剤の分解速度定数(s−1))

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真印刷法及び静電荷現像法により画像を得る方法においては、感光体上に形成された静電荷像をあらかじめ摩擦により帯電させたトナーによって現像したのち、定着を行う。定着方式については、現像によって得られたトナー像を加圧及び加熱されたローラーを用いて定着するヒートローラー方式と、電気オーブン或いはフラッシュビーム光を用いて定着する非接触定着方式とがある。
【0003】
これらのプロセスを問題なく通過するためには、トナーは、まず安定した帯電量を保持することが必要であり、次に紙への定着性が良好であることが必要とされる。また、装置は定着部に加熱体を有するため、装置内で温度が上昇することから、トナーは、装置内でブロッキングしないことが要求される。
【0004】
最近では、省エネ化が特に要求されるようになってきており、その結果、ヒートローラー方式において、定着部の低温化が進んできた。そのため、トナーにはより低い温度で紙に定着する性能、つまり低温定着性が強く求められるようになってきている。また、ヒートローラー方式においては、いわゆるオフセット現象が発生するため、耐高温オフセット性が要求されるのが前提である。従って、耐高温オフセット性を維持しつつ、例えば定着温度140℃以下の条件でも紙への定着を示すといった低温定着性を発現させる必要があり、より広いワーキングレンジ、例えば定着温度幅が50℃以上を有するトナーが要求されるようになってきている。
【0005】
トナー用結着樹脂は、上述のようなトナー特性に大きな影響を与えるものであり、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等が知られているが、最近では、透明性と定着性のバランスを取りやすいことから、ポリエステル樹脂が特に注目されている。
【0006】
従来、ポリエステル樹脂の定着温度幅を拡大させる方法として、三官能以上のモノマーを使用した三次元架橋構造を有する非線状ポリエステル樹脂を用いる方法が検討されてきた(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載された非線状ポリエステル樹脂は、耐高温オフセット性に優れ、高い最高定着温度を発現することができるものの、低温定着性のレベルがまだ十分ではなかった。
【0007】
そこで、低温定着性を改良する手段として、2価のカルボン酸化合物と、2価のアルコール化合物からなる線状ポリエステル樹脂を使用することが検討されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、三次元構造を有しない線状ポリエステル樹脂は、低温定着性に優れるという反面、耐高温オフセット性に劣るため広い定着温度幅が得られないという問題があった。
【0008】
そこで、線状ポリエステル樹脂に不飽和基を導入し、重合開始剤などにより反応、架橋させる検討が行われている(例えば、特許文献3〜6参照)。
【0009】
これらの文献では、重合開始剤は低い温度で供給され、温度を上げることで、ラジカルを発生させ、架橋させている。このような方法では、工業的に生産性を向上させることは困難である。また、高温雰囲気に重合開始剤を供給すると、架橋反応が局所的に進行するため、樹脂の均一性が損なわれ、トナー化したときの材料分散性が悪い箇所が存在する。
【特許文献1】特開昭57−109825号公報
【特許文献2】特開平4−12367号公報
【特許文献3】特開平3−135578号公報
【特許文献4】特開平5−249739号公報
【特許文献5】特開昭59−49551号公報
【特許文献6】特開平8−152743号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、トナー化したときの材料分散性が良好で、低温定着性を有し、耐高温オフセット性に優れたポリエステル樹脂を工業的に生産性良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂に架橋反応開始剤を供給し、押出機によって(1)式の条件で架橋反応を行う、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法にある。
【0012】
n>k/0.005・・・(1)
(n:押出機の回転速度(rps)k:架橋反応開始剤供給部での樹脂温度における架橋反応開始剤の分解速度定数(s−1))
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トナー化したときの材料分散性が良好で、低温定着性を有し、耐高温オフセット性に優れたポリエステル樹脂を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、押出機中の不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂に、架橋反応開始剤を供給し架橋反応を行う際に、押出機の回転速度nをk/0.005より大きくすることが必要である。(k:架橋反応開始剤供給部での樹脂温度における架橋反応開始剤の分解速度定数(s−1))
押出機内で不飽和ポリエステル樹脂を溶融混合し、架橋反応開始剤により架橋反応させる場合、架橋反応開始剤の分解速度が速いために、局所的に架橋反応が過度に進み、高密度に架橋している部分が生じ、トナー材料の分散が不良となる場合がある。例えば、トナー化のために顔料を添加すると顔料が局所的に不在となる、いわゆる「色抜け」が発生し
やすくなる。
【0015】
本発明では、押し出し機の回転速度nをk/0.005より大きくすることにより、架橋反応開始剤分解速度より架橋反応開始剤の混合速度を速めることで、局所的な架橋反応を抑制し、トナー化の際の材料分散性が向上する。
【0016】
なお、回転数の上限は特に制限されないが、押出機の耐久性や、樹脂へのせん断によるダメージを抑制する点から、30(rps)以下であることが好ましい。
【0017】
また、架橋反応開始剤供給部での樹脂温度における架橋反応開始剤の分解速度定数k(s−1)は以下のようにして求める。
【0018】
架橋反応開始剤の分解速度ri(mol/L/s)は、架橋反応開始剤濃度I(mol/L)、時間t(s)、分解速度定数k(s−1)を用いて、以下の(2)式で表される。
【0019】
ri=−d I / d t=k I (2)
上式を積分することで、架橋開始剤濃度は、架橋開始剤初期濃度I0(mol/L)を用いて、以下の(3)式で表される。
【0020】
−ln(I/I0)=kt (3)
I/I0=1/2となるときの時間t、すなわち架橋開始剤濃度が半分になるときの時間を半減期とよぶ。
【0021】
分解速度定数kは、頻度因子k(s−1)、活性化エネルギーE(J/mol)、気体定数R=8.314(J/mol/℃)、温度T(℃)を用いて以下の(4)式で表されることが知られている。
【0022】
k=k exp (−E/R/T) (4)
分解速度定数は、半減期温度、活性化エネルギーから、(3)式および(4)式を用いて、頻度因子kを算出することで、(4)式から架橋反応開始剤供給部での樹脂温度における架橋反応開始剤の分解速度定数kを求める
なお、架橋反応開始剤供給部での樹脂温度とは、押出機に架橋反応開始剤を供給する点での不飽和ポリエステル樹脂温度で、押出機のシリンダー設定温度であらわされる。
【0023】
また本発明では、架橋反応開始剤の押出機への供給圧力が0.01MPa以上であることが好ましく、0.05MPa以上がより好ましい。
【0024】
架橋反応開始剤の押出機への供給部において、押出機内に不飽和ポリエステル樹脂が充満されていないと、供給した架橋反応開始剤は、不飽和ポリエステル樹脂上を滑る状態となり、速やかな混合が阻害される場合がある。供給部での圧力が0.01MPaより低いと、押出機内に、空隙が存在しやすい。
【0025】
また、架橋反応開始剤の供給部での圧力が過度に高い場合は、滞留した樹脂が増加する傾向にある。従って、架橋反応開始剤の供給部での圧力は30MPa以下であることが好ましく、25MPa以下であることが更に好ましい。
【0026】
なお、架橋反応開始剤の押出機への供給圧力は該架橋反応開始剤の供給配管の圧力を測定すればよい。
【0027】
さらに本発明では、押出機が二軸押出機であり、架橋反応開始剤供給部での押出機のスクリューエレメントが、ニーディングディスクであることが好ましい。
【0028】
二軸押出機が混合速度が早い点で好ましく、二軸押出機のスクリューエレメントとしては、樹脂を送る能力が高いフルフライトディスク、樹脂を混練する能力が高いニーディングディスク、樹脂の送りを止めて押出機の圧力を高めるシールディスクなどがある。
【0029】
フルフライトディスクは、一般的には押出機内は樹脂で充満されておらず空隙が存在するため、フルフライトディスク部に架橋反応開始剤を供給すると、空隙部で架橋反応開始剤が樹脂の上を滑って混合が遅い点、フルフライトディスクの混練能力が低い点などから、フルフライトディスクを架橋反応開始剤の供給部に用いることは好ましくない。
【0030】
さらにニーディングディスクを架橋開始剤の供給部に用いることで、混練能力が高まるため、ニーディングディスクを架橋反応開始剤の供給部に用いることが好ましい。ニーディングディスクを用いる場合は、下流にシールディスクを用いると、シールディスクの送りを止める効果により、押出機内が樹脂で充満されるため、空隙部で架橋反応開始剤が樹脂の上を滑って混合が遅いことが解消されるために、更に好ましい。
【0031】
ニーディングディスクには、順ニーディングディスク、逆ニーディングディスク、ニュートラルニーディングディスク等が挙げられる。
【0032】
また本発明で、不飽和二重結合とは炭素間二重結合であり、これをポリエステル樹脂の主鎖および/または側鎖に有するものである。不飽和二重結合をポリエステル樹脂の主鎖および/または側鎖に有するためには、不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物および/または不飽和二重結合を有するアルコール化合物を用いて重縮合反応をさせ、これらの化合物をポリエステル樹脂の構成成分として取り込めばよい。
【0033】
不飽和二重結合を有するカルボン酸化合物の例としては、特に制限されないが、例えば、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸およびこれらのエステル誘導体、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸およびこれらのエステル誘導体等が挙げられる。また、不飽和二重結合を有するアルコール化合物としては、特に制限されないが、例えば、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン等が挙げられる。
【0034】
これらの中では、反応性の観点から、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸から選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0035】
ラジカル反応開始剤としては、特に制限されず、アゾ化合物や有機過酸化物が用いられる。中でも開始剤効率が高く、シアン化合物副生成物を生成しないことから、有機過酸化物が好ましい。
【0036】
有機過酸化物としては、特に制限されないが、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、α、α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)へキサン、ジ−t−へキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシへキシン−3、アセチルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド、オクタニノルパーオキシド、デカノリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、m−トルイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンソエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート等が挙げられる。
【0037】
架橋反応開始剤の押出機への供給方法は、特に制限されず、ポリエステル樹脂に混合して供給してもよいし、架橋反応開始剤単体を供給してもよいし、架橋反応開始剤を希釈剤で希釈して供給してもよい。
【0038】
架橋反応開始剤の供給温度は特に制限されないが、架橋反応開始剤の分解による無駄な消費を抑制する点から、10時間半減期温度より低いことが好ましい。
【0039】
また、架橋反応開始剤を希釈剤で希釈することは、局所的に架橋反応を防止する点から好ましいが、希釈剤は、トナー用ポリエステル樹脂中に残存することになる。そこで、トナー用ポリエステル樹脂中に残存しても、トナー製造に悪影響を及ぼさない点から、希釈剤で希釈する場合はトナーの添加剤として使用される離型剤を希釈剤として用いることが好ましい。
【0040】
架橋反応開始剤の希釈剤として離型剤を用いる場合には、不飽和二重結合の架橋反応を阻害しないものを用いることが好ましい。不飽和二重結合の架橋反応を阻害しないもとのしては、炭化水素系の離型剤が好ましく、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;またはこれらのブロック化合物などが挙げられる。
【0041】
これらの中では、架橋反応開始剤との混合が容易であり、トナーの低温定着性をさらに高めることができる傾向にあることから、離型剤の融点は120℃以下であることが好ましい。融点が120℃以下の離型剤としては、パラフィンワックスが最も好ましく、日本精鑞社製HNPシリーズ:例えばHNP−3(融点64℃)、HNP−5(融点62℃)、HNP−9、10(融点75℃)、HNP−11(融点68℃)、HNP−12(融点67℃)、HNP−51(融点77℃)、SPシリーズ:例えば、SP−0165(融点74℃)、SP−0160(融点71℃)、SP−0145(融点62℃)、HNP−3(融点64℃)、FTシリーズ:FT−0070(融点72℃)、FT−0165(融点73℃)等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の実施の態様はこれに限定されるものではない。また、本実施例で示される樹脂やトナーの評価方法は以下の通りである。
【0043】
トナー評価方法
・定着特性:耐高温オフセット性
複写機「PAGEPREST N4−612 II」(カシオ電子工業社製)を改造した装置を用い、未定着画像を画出し、定着温度領域のテストを行った。ここで用いた定着ローラーは、シリコーンオイルが塗布されていない定着ローラーであり、ニップ幅3mm、線速30mm/分に設定したものである。
【0044】
熱ローラー設定温度を5℃ずつ上昇させ、A4普通紙(大昭和製紙製:BM64T)の上部に印刷した1%の印字比率のベタ画像がローラーに付着し、紙の下余白部分を汚すかどうかを目視にて確認し、汚れの生じない最高の設定温度を最高定着温度とし、以下の基準で判定した。
【0045】
◎+(極めて良好):最高定着温度が200℃以上
◎(非常に良好) :最高定着温度が190℃以上200℃未満
○+(良好) :最高定着温度が180℃以上190℃未満
○(使用可能) :最高定着温度が170℃以上180℃未満
×(劣る) :最高定着温度が170℃未満
・定着特性:最低定着温度
上記の測定に準じて、複写・定着処理を前記熱ローラーの設定温度を5℃ずつ低下させながら100℃まで繰り返し、この定着画像について擦り試験を行い、定着率が90%を超える温度を最低定着温度とした。
【0046】
定着率は、上記定着温度幅評価に使用した印刷用紙を用い、印刷部分を折り曲げて加重5kg/cm2をかけた後、セロハンテープ(日東電工包装システム社製、品番:N.29)を貼って剥がし、この操作の前後における印刷部分の光量をマクベス光量計にて測定し、その測定値から定着率を算出した。
【0047】
定着率(%)=(セロハンテープ剥離試験後の光量)/(試験前の光量)×100(%)
◎+(極めて良好):最低定着温度が120℃以下
◎(非常に良好):最低定着温度が120℃を超えて130℃以下
○+(良好) :最低定着温度が130℃を超えて140℃以下
○(使用可能) :最低定着温度が140℃を超えて150℃以下
×(劣る) :最低定着温度が150℃を超える
・定着特性:定着温度幅
最高定着温度と最低定着温度の差を定着温度幅とし、以下の基準で判定した。
【0048】
◎(非常に良好):定着温度幅が70℃以上
○+(良好) :定着温度幅が60℃以上70℃未満
○(使用可能) :定着温度幅が50℃以上60℃未満
×(劣る) :定着温度幅が50℃未満
・材料分散性
トナー溶融混練物をミクロトーム(ミクローム社製HM 330)を用いて切断し、1〜3μm程度の観察用薄片を作製した。この観察用薄片を、金属顕微鏡((株)ニコン製エクリプスME600L)を用いて観察した。観察視野中の未着色部分の大きさを材料分散性の判定基準とした。この未着色部分は、結着樹脂由来の過度に高密度化されたTHF不溶分である。このような未着色部分には着色剤が存在しておらず、未着色部分が多い、またはその部分のサイズが大きいということは材料分散性が悪いということを示す。
【0049】
◎(非常に良好) :未着色部分が全く存在しない
○+(良好) :5μm以下の大きさの未着色部分が存在する
○(使用可能) :5〜10μm程度の大きさの未着色部分が存在する
×(劣る) :10μm以上の大きさの未着色部分が存在する
合成例1
酸成分としてテレフタル酸95モル部およびフマル酸5モル部、アルコール成分としてエチレングリコールを65モル部およびネオペンチルグリコールを40モル部、また全酸成分に対して1000ppmのトリブチルスズオキシドを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。次いで昇温を開始し、反応系内の温度が260℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を行い、反応物を取り出し冷却して、ポリエステル樹脂(a)を得た。ポリエステル樹脂(a)の仕込組成を表1に示す。
【0050】
合成例2
酸成分としてテレフタル酸80モル部およびフマル酸20モル部、アルコール成分としてエチレングリコールを80モル部および1,4−シクロヘキサンジメタノールを40モル部、また全酸成分に対して1500ppmの三酸化アンチモンと、全酸成分に対して2000ppmのヒンダードフェノール化合物(旭電化工業(株)製AO−60)とを合成例1と同様の反応容器に投入した。次いで昇温を開始し、反応系内の温度が260℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を継続した。次いで、反応系内の温度を225℃とし、反応容器内を減圧し、反応系からジオール成分を留出させながら縮合反応を実施した。反応とともに反応系の粘度が上昇し、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで反応を行った。そして、所定のトルクを示した時点で反応物を取り出し冷却して、ポリエステル樹脂(b)を得た。ポリエステル樹脂(b)の仕込組成を表1に示す。
実施例1
離型剤(日本精鑞(株)製SP−0160)90質量部を80℃に加熱し、溶融させ、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)へキサン10質量部を添加して得られた離型剤で希釈された架橋反応開始剤(I−1)を、古江サイエンス株式会社製のマイクロフィーダーに仕込んだ。マイクロフィーダーのシリンジ部は、ジャケットにより温調することが可能であり、離型剤が凝固しないように温度を80℃に保持した。離型剤で希釈された架橋反応開始剤の組成を表2に示す。用いた開始剤の、10時間半減期温度、活性化エネルギーを表3に示す
反応装置は、二軸押出機((株)池貝製PCM−30)を用いた。ポリエステル樹脂供給部からの長さをL(mm)とする。ポリエステル樹脂(a)85質量部とポリエステル樹脂(b)15質量部の溶融混合物を溶融混合物の温度160℃で供給し、L=180mmに離型剤で希釈された架橋反応開始剤(I−1)1質量部をマイクロフィーダーで供給して、架橋ポリエステル樹脂(C−1)を得た。用いたポリエステル樹脂および希釈開始剤の種類、溶融樹脂供給温度、原料組成を表4に示す。
【0051】
スクリューエレメントは、L=0mm〜150mmをフルフライトディスク、L=150mm〜300mmをニュートラルニーディングディスク、L=300mm〜315mmをシールディスク、L=315mm〜750mmをフルフライトディスクとし、L=750mmから樹脂を押出した。
【0052】
押出機のシリンダー温度は、L=0mm〜210mmを160℃、L=210mm〜750mmを180℃とし、スクリューの回転数は、3.3rpsとした。マイクロフィーダーで測定した架橋反応開始剤の供給圧力は、0.4MPaであった。
【0053】
開始剤の分解速度定数は、0.0018と計算され、本発明の好ましいスクリューの回転数の下限値(k/0.005)は、0.36と計算される。開始剤種類、L=180mmである開始財供給部の押出機のシリンダー温度、開始剤の分解速度定数、本発明の好ましいスクリューの回転数の下限値、スクリュー回転数、架橋反応開始剤の供給圧力、開始剤供給部手前(L=150mm)からのニーディングディスクの種類および長さの製造条件を表5に示す。
【0054】
次に、ポリエステル樹脂(C−1)94質量部、キナクリドン顔料(クラリアント社製E02)3質量部、カルナバワックス2質量部および負帯電性の荷電制御剤LR−147(日本カートリット社製)1質量部を混合し、二軸押出機を用いて外温設定160℃、滞在時間1分として溶融混練し、粗粉砕後、ジェットミル型粉砕機で微粉砕し、分級機で平均粒径5μmの微粉末を得た。得られた微粉末に対して、0.2質量部となるようにシリカ(日本エアロジル社製R−972)を加え、ヘンシェルミキサーで混合し付着させ、トナー1を得た。このトナーを非磁性1成分乾式複写機に実装し、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。
【0055】
実施例2
押出機のシリンダー温度は、L=0mm〜210mmを180℃とした以外は実施例1と同様の方法でトナー2を得て、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。
【0056】
実施例3
押出機のスクリューの回転数を、0.83rpsとした以外は実施例1と同様の方法でトナー3を得て、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。
【0057】
実施例4
離型剤で希釈された架橋反応開始剤(I−4)2質量部をマイクロフィーダーで供給した以外は実施例3と同様の方法でトナー4を得て、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。
【0058】
比較例1
押出機のスクリューの回転数を、0.83rpsとした以外は実施例2と同様の方法でトナー5を得て、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。耐高温オフセット性、材料分散性が悪い結果となった。
【0059】
実施例5
離型剤(日本精鑞(株)製SP−0160)90質量部を80℃に加熱し、溶融させ、ジ−t−ブチルパーオキシド10質量部を添加して得られた離型剤で希釈された架橋反応開始剤(I−6)を、古江サイエンス株式会社製のマイクロフィーダーに仕込んだ以外は実施例2と同様の方法でトナー6を得て、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。
【0060】
比較例2
押出機のスクリューの回転数を、0.83rpsとした以外は実施例5と同様の方法でトナー7を得て、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。材料分散性が悪い結果となった。
【0061】
実施例6
離型剤(日本精鑞(株)製SP−0160)90質量部を80℃に加熱し、溶融させ、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート10質量部を添加して得られた離型剤で希釈された架橋反応開始剤(I−8)を、古江サイエンス株式会社製のマイクロフィーダーに仕込み、押出機のスクリューの回転数を、5rpsとした以外は実施例1と同様の方法でトナー8を得て、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。
【0062】
比較例3
押出機のスクリューの回転数を、1.7rpsとした以外は実施例6と同様の方法でトナー9を得て、その性能を評価した。トナーの評価結果を表6に示す。耐高温オフセット性、材料分散性が悪い結果となった。
【0063】
実施例7
スクリューエレメントは、L=0mm〜150mmをフルフライトディスク、L=150mm〜450mmを逆ニーディングディスク、L=450mm〜465mmをシールディスク、L=465mm〜750mmをフルフライトディスクとした以外は実施例2と同様の方法でトナー10を得て、その性能を評価した。
【0064】
比較例4
スクリューエレメントを全てフルフライトディスクとし、押出機のスクリューの回転数を、0.83rpsとした以外は実施例2と同様の方法でトナー11を得て、その性能を評価した。耐高温オフセット性、材料分散性が悪い結果となった。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和二重結合を有するポリエステル樹脂に架橋反応開始剤を供給し、押出機によって(1)式の条件で架橋反応を行う、トナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
n>k/0.005・・・(1)
(n:押出機の回転速度(rps)k:架橋反応開始剤供給部での樹脂温度における架橋反応開始剤の分解速度定数(s−1))
【請求項2】
架橋反応開始剤の押出機への供給圧力が0.01MPa以上である請求項1記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
押出機が二軸押出機であり、架橋反応開始剤供給部の押出機のスクリューエレメントが、ニーディングディスクである請求項1または請求項2記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2008−233296(P2008−233296A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70010(P2007−70010)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】