トレーニングデータの収集方法及びこれを用いた移動体通信端末の位置検出方法
【課題】トレーニングデータ収集のために多大な人的労力,時間,コストを要しないトレーニングデータ収集方法及びこれを用いて高い精度で移動体通信端末の現在位置を検出することのできる移動体通信端末の位置検出方法を提供する。
【解決手段】ある一の基地局A1の設定近傍域内に位置しているPHS端末10が得た電波情報を近似的に一の基地局A1の位置で得た電波情報とみなして、これを一の基地局A1の位置情報と組としたトレーニングデータとなし、同様にして他の各基地局ごとにトレーニングデータを取得する。そしてこれを位置情報提供センタのサーバで収集して、これに基づき各基地局ごとに基地局の位置座標周りの電波強度分布を求めて、電波マップを構築し、その電波マップと位置検出対象としてのPHS端末10から得た現在の受信電波情報とを比較して、PHS端末10の現在位置を検出する。
【解決手段】ある一の基地局A1の設定近傍域内に位置しているPHS端末10が得た電波情報を近似的に一の基地局A1の位置で得た電波情報とみなして、これを一の基地局A1の位置情報と組としたトレーニングデータとなし、同様にして他の各基地局ごとにトレーニングデータを取得する。そしてこれを位置情報提供センタのサーバで収集して、これに基づき各基地局ごとに基地局の位置座標周りの電波強度分布を求めて、電波マップを構築し、その電波マップと位置検出対象としてのPHS端末10から得た現在の受信電波情報とを比較して、PHS端末10の現在位置を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線基地局を介して公衆電話回線網やインターネット等の公衆通信網に接続されるPHS端末等所定の移動体通信端末の位置検出のための基礎データとなるトレーニングデータの収集方法及びこれを用いた移動体通信端末の位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PHS(パーソナルハンディホンシステム)端末や携帯電話端末等の移動体通信端末を用いた通信では、その移動体通信端末の位置するエリアをカバーする基地局(無線基地局)を介して、移動体通信端末が既設の公衆電話回線網やインターネット等の公衆回線網に接続され、かかる公衆回線網を通じて他の移動体通信端末や通常の有線の電話器,コンピュータ等との通信が可能である。
【0003】
この場合、移動体通信端末と他との通信は、移動体通信端末が位置しているエリア内の無線の基地局のうち、通常移動体通信端末に対して最も近くに位置している基地局を通じて行われる。
【0004】
このとき移動体通信端末が現在何処にいるか分っていないと、即ち移動体通信端末に近い位置の基地局(通常は移動体通信端末の近くに複数の基地局がある)が分っていないと、その基地局を通じての通信を行うことができないため、移動通信では移動体通信端末が他の移動体通信端末等と通信(会話)を行っていないときでも、周期的に電波を出して現在位置を知らせ、また同時に基地局に関する情報を取得する動作を自身で行っている。
従って移動体通信端末の保有している電波情報から、詳しくは近くに位置している基地局の識別情報と、基地局からの受信電波強度情報とから、移動体通信端末の現在位置を割り出すことが可能である(基地局が特定できれば基地局の位置している緯度,経度等の位置情報が分り、また基地局からの電波出力の大きさも分る)。
【0005】
PHS端末や携帯電話端末等の移動体通信端末の位置検出による位置情報提供サービスは、近年急速に普及している。
基地局と移動体通信端末との関係を利用したこの種の位置検出方法は、GPS受信器による位置検出方法と比較して位置情報の精度が劣るものの、GPS電波の届かない家屋内や地下鉄等でも利用でき、またGPS受信器を備えることによる端末の大型化を避けることができ、更に消費電流が少なくて済むなどのメリットがあり、大まかな位置を絞込みするための有用な方法として利用されている。
【0006】
特にPHS端末を用いた通信では、1つの基地局から通信できる距離範囲が携帯電話に比べて大幅に短く(100〜500m程度)、そのため基地局も短い間隔で多く配置されており、このためにPHS端末の現在位置の絞込みを行い易い。
こうしたことからPHS端末を利用した位置検出は有用な方法として研究が進められている。
【0007】
このような移動体通信端末を用いた位置検出方法は、学童の移動体通信端末からの緊急信号に応じてサービス員や大人が駆けつけるといった防犯システム,迷子や徘徊老人の探索,盗難物品の探索,或いは家屋倒壊時等に建物の下敷きになった人の探索等にも利用でき、またその他利用者がいる現在位置の確認や最寄の利用施設の検索等、幅広く応用され始めている。
【0008】
移動体通信端末の現在位置を検出するに際し、単に移動体通信端末の有している電波情報だけに基づいて、即ち周辺基地局の位置情報及び基地局の電波出力情報と、移動体通信端末が基地局から受けている受信電波強度情報とから、移動体通信端末の現在位置を割り出すことも可能である。
基地局の位置情報及び電波出力の大きさは予め分っており、また電波の強度は発信源からの距離の二乗に反比例し、距離が長くなるほど減衰していくため、受信電波強度から、電波発信源となる基地局までの距離を計算により推測し、算出することができる。
従って複数の基地局に対して、それら基地局までの距離を受信電波強度から算出することで、移動体通信端末の現在位置を知ることが可能である。
【0009】
しかしながら基地局からの距離の増大に伴う電波の減衰即ち電波強度の低下の程度は、途中に電波遮蔽物や障害物等があったりすると大きく変化し、従って単に移動体通信端末が受けている受信電波強度から基地局までの距離を電波特性により、即ち電波強度が距離の二乗に反比例し、距離が長くなるほど減衰していくとする計算上の減衰曲線に基づいて計算するだけであると、位置検出の誤差は非常に大きなものとなってしまう。
【0010】
そこで各地点ごとにその地点に対応した電波状況を予め調べて、その地点の位置情報と、観測した基地局の識別情報及び基地局から受けた受信電波強度を含む電波情報とを組みとしたトレーニングデータを採って(収集したトレーニングデータで後述の電波マップを精錬する行為をトレーニングと言う)、これを基に各地点ごとの電波情報を表す電波マップを構築してデータベース化しておき、位置検出が求められている移動体通信端末からの受信電波情報をその電波マップと比較して、移動体通信端末の現在位置を検出する方法が提案されている。
例えば下記特許文献1にこの種のトレーニングデータ,電波マップを利用した位置検出方法が開示されている。
【0011】
電波マップを利用した従来の位置検出方法において、トレーニングデータの収集は、作業者がGPS受信器と無線デバイス搭載機器を携行して全国あらゆる場所に行き、各地点ごとにGPS受信器にて位置を特定しつつ、その地点で電波測定することにより行うものであり、トレーニングデータの収集のために極めて多大の人的労力と時間とコストを要してしまう。
【0012】
図14は一般的なトレーニングデータ収集作業の様子を示している。
同図に示しているようにトレーニングデータ収集は、作業者がGPS受信器と無線デバイス搭載機器とを持ち、測定対象範囲内を移動しながら、各場所(地点)において観測される無線基地局のID(識別番号即ち識別情報)や、観測される電波状況をログデータとして収集する。
図に即して見ると、地点(x,y)では各基地局A1〜A6からの受信電波強度がそれぞれS1〜S6の値を示しており、位置情報とその場で得られる電波情報とを組としてトレーニングデータとして記録する。
そしてこうした作業を全国あらゆる場所でくまなくこれを行ってトレーニングデータを収集し、これに基づいて電波マップを構築する。
【0013】
以上から分るように従来の方法ではトレーニングデータの収集及び電波マップの構築に極めて多大の労力,時間,コストを要し、またたとえこのようにして全国各地のトレーニングデータを収集し、電波マップを構築したとしても、全国各地の電波状況は新しくビルその他の電波遮蔽物や障害物が建てられたり無くなったり、或いは基地局自体が新に設置されたり無くなったりする等して日々変化しており、経時的にそのトレーニングデータ及び電波マップが劣化してしまう。
【0014】
従って常に最新の電波状況を調べ続けていないと、位置検出の精度を高く維持することができないといった問題もある。
即ち従来のトレーニングデータの収集方法及びこれに基いて構築した電波マップを利用した位置検出方法にあっては、常にトレーニングデータ,電波マップを補正し続けなければならず、従来にあってはそのために要する人的,時間的,コスト的な負荷が大であった。
【0015】
【特許文献1】特開平11−252622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は以上のような事情を背景とし、トレーニングデータ収集のために、更にはトレーニングデータを最新且つ最適のデータに補正するために実質的に多大な人的労力,時間,コストを要しないトレーニングデータの収集方法及びこれを用いて高い精度で移動体通信端末の現在位置を検出することのできる移動体通信端末の位置検出方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
而して請求項1はトレーニングデータの収集方法に関するもので、位置の判明した地点で電波観測して得た、該地点の位置情報と、観測した基地局の識別情報及び該基地局から受けた受信電波強度を含む電波情報とを組としたトレーニングデータを、PHS端末等所定の移動体通信端末の現在位置を検出するための基礎データとして収集するトレーニングデータの収集方法であって、ある一の基地局の設定近傍域内に位置している前記移動体通信端末が他の基地局に関して観測により得た前記電波情報を近似的に該一の基地局の位置で取得した電波情報とみなして、これを該一の基地局の位置情報と組とした前記トレーニングデータとなし、該一の基地局以外の他の基地局についても各基地局ごとに該トレーニングデータを取得して、それら取得したトレーニングデータを収集することを特徴とする。
【0018】
請求項2の収集方法は、請求項1において、前記トレーニングデータを取得する際、前記移動体通信端末が前記ある一の基地局の設定近傍域内に位置しているか否かを、該移動体通信端末が該一の基地局から受けている電波に基づいて判定手段により自動的に判定することを特徴とする。
【0019】
請求項3の収集方法は、請求項2において、前記判定手段は、前記移動体通信端末が前記一の基地局から受けている電波強度が、設定したしきい値よりも大であることを検知することで、該移動体通信端末が該一の基地局の前記設定近傍域に位置するものと判定することを特徴とする。
【0020】
請求項4の収集方法は、請求項3において、前記移動体通信端末に前記トレーニングデータを記憶しておき、該移動体通信端末と位置情報提供側のサーバ若しくは他の通信端末との間で該トレーニングデータの送信以外の目的で通信が行われたタイミングで、記憶してある該トレーニングデータを該位置情報提供側のサーバに自動的に送信し、該位置情報提供側のサーバで該送信された該トレーニングデータを収集することを特徴とする。
【0021】
請求項5の収集方法は、請求項4において、前記トレーニングデータを送信する際の前記通信が、位置情報の提供の求めに応じて前記位置情報提供側のサーバと前記移動体通信端末との間で行われる通信であることを特徴とする。
【0022】
請求項6は移動体通信端末の位置検出方法に関するもので、請求項1〜5の何れかにおいて得た前記トレーニングデータを位置情報提供側のサーバで収集するとともに、該収集したトレーニングデータに基づいて各基地局ごとに該基地局の位置座標周りの電波強度分布を求めることで、該トレーニングデータの得られていない基地局間の地点を含む広域に亘った電波マップを構築して予め該サーバにデータベース化しておき、位置検出対象である前記移動体通信端末が観測により得た現在の受信電波情報を、該位置情報提供側で該移動体通信端末との通信で取得して該受信電波情報を前記電波マップと比較し、該移動体通信端末の現在位置を割り出すことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0023】
以上のように本発明は事前にトレーニングデータを収集するものであるが、本発明はあらゆる地点で電波観測し、あらゆる地点についてトレーニングデータを収集するものではなく、トレーニングデータを取得する位置は原則として基地局近傍域内に限られている。
但し本発明では基地局地点(基地局の設定近傍域内の地点)での移動体通信端末の得た電波情報をトレーニングデータとして用いるために、以下のような特有の効果が得られる。
【0024】
トレーニングデータは、トレーニングデータを収集する地点の位置情報と、その地点で観測される電波情報(基地局の識別情報及び電波強度)とを組としたデータである。従ってトレーニングデータを採るためには、電波観測する地点についての位置が分っていないといけない。
そのため従来にあってはGPS受信器を携行し、そのGPS受信器により位置を特定しながらその地点で電波観測を行う。
しかしながらこうした手法をとる限り、多大な人的労力,時間,コストを要してしまう。
【0025】
そこで本発明ではトレーニングデータを採るための手段として、位置情報サービスを受ける側の移動体通信端末の持つ電波情報を活用する。
移動体通信端末は、電波観測した基地局を識別する識別情報及びその基地局からの電波の強度即ち電波情報を、もともと保有している。但し移動体通信端末が電波を受信し、電波情報を保有しているからといって、それがどの地点で電波観測したものかは一般的には分らない。
【0026】
しかしながら移動体通信端末がある基地局地点(基地局の設定近傍域内の地点)で電波観測した場合には、その位置を特定することが可能となる。
具体的には、移動体通信端末が近似的にその基地局に位置しているとみなして、移動体通信端末を位置特定することが可能となる。
この場合移動体通信端末が、その基地局から受けている電波強度を有力な手掛かりとすることができる。
【0027】
基地局から発せられた電波は、距離が離れるにつれて距離の二乗に反比例して、電波強度が減衰するため、基地局近くと、これから一定距離以上離れたところとでは観測される電波は大きく異なったものとなる。
例えば基地局から10m離れた地点,或いは20m,30m離れた地点でのそれぞれの電波の大きさはそれほど変らないが、基地局から数mの範囲内の近傍域内と、基地局から10m以上離れた地点とでは、電波の強度或いは減衰曲線の傾き等が大きく異なったものとなる。
【0028】
そこで移動体通信端末がある基地局から受けている電波に基づいて、その移動体通信端末がその基地局地点(設定近傍域内)にいるか否かを、判定手段によって自動的に判定することが可能である(請求項2)。
そしてこのことによって、基地局地点で移動体通信端末が観測した電波情報を、基地局の位置情報と組として、これをトレーニングデータとして扱うことが可能となる。
【0029】
この場合において、移動体通信端末が基地局から受けている電波強度が設定したしきい値よりも大であることを検知することで、移動体通信端末が基地局地点即ち基地局の設定近傍域内に位置しているものと自動判定するようになすのが好適である(請求項3)。
【0030】
これらの方法では、移動体通信端末を保有している使用者が、トレーニングデータを収集する意識無しに、通常の日常活動において移動体通信端末を保持し、移動する行為の中で、自動的にトレーニングデータを取得することが可能である。
即ち本発明では、積極的にその意図を持ってトレーニングデータを取得し収集する作業を行わなくても、必要とするトレーニングデータを自動的に取得し収集することが可能である。
【0031】
また移動体通信端末の持つ電波情報から得られるトレーニングデータは、同一又は他の使用者が移動体通信端末を日常的に使用する中で、常に最新のものを日々自動的に取得することができる。
【0032】
尚、刻々と変化する移動体通信端末の電波情報をすべて収集し、その大量の電波情報の中からトレーニングデータとなるものを抽出するといったことは困難な作業である。
【0033】
ここにおいて請求項4は、移動体通信端末がトレーニングデータとなる電波情報を自身に記憶しておき、移動体通信端末と位置情報提供側のサーバ若しくは他の通信端末との間でトレーニングデータの送信以外の目的で通信が行われたタイミングで、記憶してあるトレーニングデータを位置情報提供側に自動的に送信するようになしておくのが好適である(請求項4)。
【0034】
ここで他の通信端末との間でデータ通信する場合にはピギーバック(piggyback)を利用することで、トレーニングデータを位置情報提供側に自動送信することが可能である。
位置情報提供側のサーバと通信するのであればピギーバックを利用しなくとも、通信しているデータの前後等にトレーニングデータを加えて送信しても良い。
ピギーバックとは、複数のデータを同時に(重ねて)送ることで、ピギーバックに対応した通信を中継する通信端末が、ピギーバックで送られてきたデータを複数の個々のデータへ分けることで、通信相手と位置情報提供側のサーバへデータを送信することが可能である。
【0035】
その際の通信の内容には様々なものがあり得、本発明ではこれを限定するものではないが、特に請求項5に従って、位置情報の提供の求めに応じて位置情報提供側のサーバと移動体通信端末との間で通信が行われたときに、そのタイミングで移動体通信端末に記憶され保持されているトレーニングデータを自動送信するようになすのが好適である。
【0036】
次に請求項6は、請求項1〜請求項5の何れかにおいて得たトレーニングデータを用いて移動体通信端末の位置検出を行う方法に関するものである。
この請求項6の位置検出方法は、上記にて収集したトレーニングデータ及びこれを基に構築した電波マップと移動体通信端末から得た受信電波情報との比較により位置検出の求められている移動体通信端末の現在位置を割り出すものであるが、この請求項6の方法で用いるトレーニングデータは、あらゆる地点で電波観測して得たものではなく、上記のように原則として基地局近傍域内で得たトレーニングデータに限られている。
【0037】
この場合、基地局近傍域以外の地点ではトレーニングデータがないこととなるが、本発明ではこれを以下のように近似計算により求め補間する。
前述したように基地局から発せられた電波の電波強度は基地局からの距離の二乗に反比例し、減衰する。その減衰の程度は理論計算によって求めることが可能である。
しかしながら途中に電波遮蔽物や障害物等があったりすると、減衰の程度は大きく変化し、計算した通りにはならない。
【0038】
そこで本発明では、基地局近傍域内において移動体通信端末により観測された電波情報(詳しくはトレーニングデータ)に基づいて、基地局ごとに基地局の位置座標周りの電波強度分布を求める。
即ちその基地局の位置情報と、その近傍域内で移動体通信端末により観測された電波情報とを組としたトレーニングデータ(基地局近傍域内で観測された電波情報は近似的に基地局の位置で観測されたものとみなす)に基づいて、基地局の位置座標周りの電波強度分布を求める。
これは次のようにして行うことができる。
【0039】
基地局の近傍域内で移動体通信端末により観測された電波情報の中には、通常、他の複数の基地局から発信された電波の受信強度情報が含まれている。
また移動体通信端末(厳密には移動体通信端末が近傍に位置しているところの基地)と電波観測した他の各基地局までの距離、及び電波発信源たる他の各基地局のそれぞれの電波出力の大きさは分る(各基地局の位置は固定でその位置情報、つまり近似的にある基地局に位置しているとみなした移動体通信端末と各基地局間の距離は分る)ので、そこで横軸に各基地局までの距離を、縦軸に各基地局ごとに観測した電波の受信強度をとってプロットし、それらプロットにフィットする最適の減衰曲線を求めることで、移動体通信端末の位置している(厳密には近傍に位置している)基地局周りの電波強度分布を求める。
【0040】
このようにして求めた電波強度分布は、単に計算だけにより求めたものではなく、移動体通信端末の位置している基地局に対して、それぞれ異なった距離で離れた他の基地局からの到来電波の受信強度に基づいて求められたものであるため実際に即したもの、即ち現地の状況に即したものである。
【0041】
本発明ではこのような電波強度分布を他の基地局についても且つ各基地局ごとに求める。即ち他の各基地局の位置座標周りに、それぞれの基地局ごとの電波強度分布を求める。
そのようにして複数の基地局について電波強度分布を求めたものを併せて、その集合体としての電波マップを構築する。
【0042】
そしてこれを位置情報提供側のサーバにデータベース化しておき、位置検出の対象である移動体通信端末と位置情報提供側との通信により得た移動体通信端末の現在の受信電波情報を電波マップと比較照合し、移動体通信端末の現在位置を割出検出する。
【0043】
例えば移動体通信端末が基地局A1から受けている受信電波強度が−40dBm(減衰の大きさ)であり、また基地局A2から受けている電波強度が−50dBmであったとすると、移動体通信端末の現在位置は、基地局A1周りの−40dBmの電波強度の等高線で囲まれたゾーンと、基地局A2周りの−50dBmの電波強度の等高線で囲まれたゾーンが互いに重複している部分に、移動体通信端末が位置していることとなる。
【0044】
尚、予め構築してある電波マップと移動体通信端末から得た現在の受信電波情報との比較により現在位置を割り出す方法については、従来公知の様々な手法を用いることができる。
例えばその手法として、従来公知のパーティクルフィルターによる手法を用いることができる。
【0045】
本発明によれば、極めて少ない数のトレーニングデータを用いるだけで、従来のトレーニングデータを用いない位置検出方法に比べて高い精度で移動体通信端末の現在位置を検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図1において、10はPHS端末(移動体通信端末)で、基地局A,PHS接続装置14を介して公衆電話回線網16、或いはインターネットプロバイダ(のホストコンピュータ)28を通じてインターネット30に接続される。
そして公衆電話回線網16を通じて固定電話20や他のPHS端末等の移動体通信端末,位置情報提供センタ22のサーバ24と通信が可能である。或いはインターネット30を通じ、位置情報提供センタ22のサーバ24と通信が可能である。
尚18は公衆電話回線網16における交換局を表している。
【0047】
位置情報の提供を受けるユーザ(子供がPHS端末を保持している場合等において、親等のユーザ)はまた、インターネット30に接続されたパソコン32を通じ、位置情報提供センタ22のサーバ24と通信が可能である。
位置情報提供センタ22に対する位置情報の要求は、PHS端末10からも行うことができるし、またパソコン32からも行うことが可能である。
尚34は、公衆電話回線網,インターネット30等の有線の公衆通信網を表している。
【0048】
PHS端末10は、固定電話20や他のPHS端末等の移動体通信端末と通信を行っていないときにも、周期的に電波を出して基地局Aと交信しており、常時周辺の基地局情報、詳しくは通信可能な周辺の基地局の識別情報と、電波観測した各基地局ごとの受信電波強度即ち電波情報を保有し、且つその電波情報を刻々と最新の電波情報に更新している。
【0049】
PHS端末10の位置検出は、そのPHS端末10自身が保有している受信電波情報に基づいて行われる。
このときの位置検出及び位置情報の提供は次のようにして行われる。
例えばPHS端末10が、自身の現在位置の情報提供を求める信号を基地局A,公衆電話回線網16或いはインターネット30を通じて位置情報提供センタ22に送信すると、サーバ24側からPHS端末10の保有している受信電波情報を取得し、そしてその取得したPHS端末10の受信電波情報を、予めサーバ24にデータベース化してある電波マップ(電波マップの構築の仕方については後に詳述する)と比較照合して、PHS端末10の現在位置を割り出す。そしてその結果をインターネット30或いは公衆電話回線網16を通じてPHS端末10に伝送する。
【0050】
位置情報提供センタ22への位置情報の提供の要求は、ユーザのパソコン32からも行うことができ、またPHS端末10の現在位置を割り出した結果を、このパソコン32へと伝送することもできる。
この場合の位置検出の方法は上記したのと同様である。
【0051】
上記電波マップの構築は、収集したトレーニングデータ群に基づいて近似計算にて行う。
而してトレーニングデータの取得及び収集は次のようにして行う。
PHS端末10は、常時基地局と関連づけた受信電波強度即ち電波情報を保有し且つこれを刻々と更新しているが、それぞれの電波情報をどの位置で取得したかは不明であり、従ってその電波情報はトレーニングデータとして利用することはできない。
但しその電波情報が、何れかの基地局の位置する地点で取得したものであれば、それはトレーニングデータとなり得る。
基地局はその全ての位置が固定で且つ既知であり、従って観測した電波情報が、何れの地点で受信したかを特定することが可能となるからである。
但しその場合には、PHS端末10が何れの基地局の地点で電波受信したのかが分らないといけない。
【0052】
そこでこの実施形態では、PHS端末10の受信電波情報が何れの基地局の地点で得たものかを特定するために、次の手法を用いる。
基地局から発信される電波の電波強度は、基地局からの距離の二乗に反比例し、減衰する。
その電波の減衰特性上、例えば基地局から10m,20m,30mないしそれ以上離れた地点では、何れも電波強度は大差のないものとなるが、これに対して基地局から数m程度例えば2m程度の近い位置である場合、10m以上離れた地点に比べて電波強度は明らかに高く、また僅かに距離が変化しても減衰の変化程度は大きい。
換言すれば、PHS端末10が受信した電波の強度が、特定の基地局に関して著しく高い場合には、PHS端末10はその特定の基地局近傍に位置していることを意味する。
【0053】
図2は、基地局からの距離と受信電波強度との関係を表したものである(この図2のグラフは、無線LAN基地局と対応する無線通信端末とを用いて電波強度観測した実測結果を表したものである)。
この図2は、基地局から2m離れた地点及び10m,20m,30m,80m離れた地点を、歩行者が歩きながら電波受信強度を観測し、得られた多数の観測値(減衰強度)を横軸に、観測値(サンプルデータ)の累積値を縦軸にとって表したものである。
【0054】
同図に示しているように、基地局から10m以上離れた地点では、基地局からの距離が20mであっても30mであっても、或いは80m離れた地点であっても、観測される受信電波強度はそれほど差のないものとなっているが、基地局から2m離れた地点の受信電波強度は、10m以上離れた地点での受信電波強度に対して著しく大きい値となっている。
従ってある基地局に対し、そこからの受信電波強度を観測することで、PHS端末10がその基地局の近傍域内に位置しているか否かを知ることができる。
【0055】
そこでこの実施形態では、ある基地局に関してPHS端末10が観測した受信電波強度が、設定した一定のしきい値を超えたことをもって、PHS端末10がその基地局の近傍域内に位置しているものと判定し、そこで得た電波情報を、その特定の基地局の位置情報と組をなすトレーニングデータとして活用する。
【0056】
この実施形態では、そのしきい値がPHS端末10自体の制御回路に設定されている。そしてPHS端末10はまた、観測された受信電波強度が、そのしきい値を超えたものであるときには、制御回路自身でこれを判定して記憶する機能も備えている。
従ってこの実施形態では、PHS端末10に備えられた制御回路自体が、PHS端末10が何れかの基地局の近傍域内に位置しているか否かを判定する判定手段を成している。
【0057】
この実施形態では、PHS端末10を保持した使用者が基地局に対して設定した近傍域に到達した時点で観測される受信電波強度の値を、上記しきい値として設定しておく。
但し各基地局から発信される電波の出力は同じ大きさではなく、様々に異なっている。
従ってしきい値の設定は、基地局から発信される電波の出力の大小に応じて設定される(位置情報提供側がしきい値の設定及び必要に応じて更新もできる)こととなる。
従ってPHS端末10には、基地局ごとに設定されたしきい値を内部に保有しており、そのしきい値との比較により、PHS端末10が基地局の近傍域内に入り込んだか否かが判定される。
【0058】
因みに図3は、そのしきい値によってPHS端末10が基地局の近傍域内に位置したときの判定の様子を模式的に表したものである。
図に示しているようにPHS端末10を保持した使用者が基地局A1に向って移動しているとき、PHS端末10で観測される基地局A1からの受信電波強度が、基地局A1に対応して設定されたしきい値K1を超えると、そこでPHS端末10が基地局A1周りの近傍域内で電波受信したものと判定されて、その受信電波情報が、トレーニングデータとして自動的に記憶され保存される。
【0059】
また使用者が今度は基地局A2に向って移動し、そして基地局A2からの受信電波強度が、基地局A2に対応して設定されたしきい値K2を超えると、その段階でPHS端末10が基地局A2近傍域内に入ったものと自動判定されて、その受信電波情報がトレーニングデータとしてPHS端末10に記憶され保存される。
【0060】
また基地局A2と基地局A3との間の位置にあって、何れの基地局に対してもPHS端末10がそれらの近傍域内に位置しておらず、従って受信電波強度がしきい値を超えていないときには、当然ながらその受信電波情報はトレーニングデータとして扱われず、PHS端末10に記憶も保存もされない。
【0061】
図5は、PHS端末10の制御回路(制御部)が、観測により得た受信電波情報をトレーニングデータとして保存する際の動作のフローを表している。
同図に示しているようにPHS端末10は、使用者が各地を移動する中で(ステップS12)、電波情報を常時収集し(ステップS14)、そしてPHS端末10の受信電波強度がある基地局に関して設定されたしきい値よりも高くなったときに(ステップS16)、これをトレーニングデータとして保存する(ステップS18)。そして保存したトレーニングデータを、位置情報提供センタ22のサーバ24若しくは他の通信端末との通信のタイミングで同位置情報提供センタ22のサーバ24に自動的に送信する(ステップS20)。
このときPHS端末10の使用者は、意図的にトレーニングデータを送信することはせず、そのトレーニングデータは他の通信端末との通信を行ったタイミングで、例えば位置情報提供の求めに応じて位置情報提供センタ22のサーバ24とPHS端末10との間で行われる通信、詳しくは位置情報の検出や提供の通信のタイミングで、自動的に位置情報提供センタ22のサーバ24へと送信される。
【0062】
具体的にはこの実施形態では、PHS端末10を保持した使用者が位置情報提供センタ22に対し、位置情報の提供を求めるための通信を行ったときに、そのタイミングでPHS端末10に保持されたトレーニングデータ群がサーバ24へと自動的に送信される。このとき使用者自身はそのことには気付いていない(気付いていても良い)。
【0063】
即ちこの実施形態では、PHS端末10の使用者が意図してトレーニングデータを取得する作業を行わなくても、自動的にPHS端末10にトレーニングデータが取得及び蓄積され、また使用者が取得したトレーニングデータを位置情報提供センタ22のサーバ24に送るための意図した独立した行為を行わなくても、使用者がPHS端末10を用いて位置情報提供センタ22と位置情報取得のために通信を行う日常的な行為の中で、位置情報提供センタ22のサーバ24にトレーニングデータが自動的に送信され、そこで収集される。
更にその後同じPHS端末10、或いは別のPHS端末10が新たな最新のトレーニングデータを取得した場合にも、そのトレーニングデータが、日常的にサーバ24へと送信され、サーバ24側において必要に応じトレーニングデータ及びこれを基礎とした後述の電波マップの補正(修正)が行われる。
【0064】
さて基地局近傍域内でPHS端末10にて得られたトレーニングデータには、他の複数の基地局から発信された電波の受信強度情報が含まれている。図4はこれを具体的に表したものである。
同図に示しているように、基地局A1近傍域内においてPHS端末10にて得られたトレーニングデータには、他の基地局A2,A3,A4,A5,A6の各基地局から発信された電波の受信強度情報が含まれている。
【0065】
また同様に基地局A2近傍域内でPHS端末10にて得られたトレーニングデータには、他の基地局A1,A3,A4,A5,A6の各基地局から発信された電波の受信強度情報が含まれている。
他の基地局A3,A4,A5,A6の各基地局近傍域内でPHS端末10にて得られたトレーニングデータについても同様である。
【0066】
尚、図中S1は基地局A1からの受信電波強度を表しており、S2は基地局A2からの受信電波強度を表している。
S3,S4,S5,S6についても、対応する符号の基地局から発信された電波の受信強度を表している。
【0067】
この実施形態では、このようにして得られたトレーニングデータを、位置情報提供センタ22のサーバ24側で収集し、これに基づいて基地局ごとに、基地局の位置座標周りの電波強度分布を求め、それらの集合体である電波マップを構築する。
【0068】
その具体的内容は次の通りである。
例えば基地局A1周りの電波強度分布を求める場合、基地局A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9(図6参照。尚図4では基地局A7,A8,A9は図示省略されている)から発信された電波の基地局A1近傍域内での受信電波強度と、基地局A1から各基地局A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9までの距離を対とし(基地局A2〜A9までの距離はそれぞれの基地の位置が既知であるので計算で求めることができる)、そして横軸に基地局A1から各基地までの距離を、縦軸に受信電波強度をとって、それぞれのトレーニングデータをプロットする。
そして全てのプロット点からの距離を最小とする指数関数近似を最小二乗法により行って、図6(B)の式Qを求める。
【0069】
この式Qにて特定される電波強度分布を基地局A1周りに同心円状に展開させたものが、図7に示す基地局A1の位置座標周りの電波強度分布となる。
図7において直交する横軸x,yは位置座標軸を表しており、また縦軸zは電波強度を表している。
【0070】
因みに図8は、図中白四角で表した基地局近傍域内における黒四角で表した基地局Aからの受信電波強度と、白四角の各基地局から黒四角の基地局までの距離とに基づいて、最小二乗法により近似計算で求めた式Qにより求めた、黒四角の基地局周りの電波強度分布を数値で表したものである(図中の数字は電波の減衰の値を示しており、また各格子は10m四方サイズである)。
尚この図では、−80dBmを観測可能な限界位置として、−80dBmより小さい電波強度(数値の絶対値の大きい)ものについては表していない。
【0071】
以上は基地局A1周りの、詳しくは基地局A1の位置座標周りの電波強度分布であるが、図1に示す位置情報提供センタ22のサーバ24は、収集されたトレーニングデータに基づいて、他の全ての基地局周りの電波強度分布を求める。
即ち他の各基地局ごとに、対応する基地局の位置座標周りの電波強度分布を求める。そしてその集合体としての電波マップを構築する。
図9はその電波マップの要部をモデル的に表している。
【0072】
図10は、サーバ24において電波マップを構築する際の流れを表している。
図に示しているようにここではステップS22において、PHS端末10からトレーニングデータ群を取得(収集)し、そして収集したトレーニングデータ群から、特定の基地局Aiからの電波を受信し得たトレーニングデータ群を抽出する。
そしてステップS28において、距離と受信電波強度の対から基地局Ai周りの電波強度分布を求めて、トレーニングデータが存在していない基地局間の電波強度を補間する。
そして同様の処理を複数の基地局ANまで全て行い、それらの集合体である電波マップを構築する。
尚図示はしていないが、抽出したトレーニングデータ群でその値が有用でないような小さなものについては、電波強度分布の計算には用いない。
【0073】
このようにして構築された電波マップはデータベース化され、位置情報提供センタ22のサーバ24に記憶され保存される。
そして何れかのPHS端末10についての位置情報の提供が求められたときに、そのPHS端末10の保有する受信電波情報をサーバ24側で取得して、これを電波マップと比較照合し、位置情報を求めているPHS端末10の現在位置を割り出す。
【0074】
例えばPHS端末10の現在の受信電波情報が、基地局A1に関して観測した受信電波強度が−50dBmであり、また基地局A2については受信電波強度が−40dBmであったとすると、PHS端末10の位置は、図11に示しているように電波マップ上の基地局A1周りの電波強度の等高線−50dBmで囲まれたゾーンと、基地局A2周りの電波強度の等高線−40dBmで囲まれたゾーンの重複部分に位置していることになる。
そしてその位置を従来公知の手法を用いて推定し、これを位置情報提供を求めている相手側に送信し、現在位置を知らせる。
【0075】
尚その位置検出に際しては、PHS端末10と位置情報提供センタ22のサーバ24との間で通信が行われるが、このときPHS端末10がトレーニングデータを記憶し保持しているとき、その通信の際に自動的にPHS端末10から記憶しているトレーニングデータがサーバ24に送信される。
【0076】
サーバ24は送信されたトレーニングデータが最新のものであると判定したとき、必要であれば従来の対応するトレーニングデータを補正し、またこれに基づいて電波マップを再構築する。
サーバ24は常時こうした動作を行って、常に最新のトレーニングデータを収集及びこれに基づいて電波マップを構築し、位置情報検出に際しこれを用いて位置の割り出しを行う。
尚、送信の相手側はPHS端末10自身であったり、或いはパソコン32を通じて位置情報提供を求めてきたユーザであったりする。
ここではその割り出しの手法としてパーティクルフィルタ手法を用いることができる。
【0077】
図12は本実施形態に従って位置検出を行い、実際に計測した位置とのずれを求めて、これを比較例1による方法で位置検出した場合との比較において表したものである。
ここで本実施形態による位置検出は、基地局として無線LANの基地局を用い、そして人が無線端末を携行して歩きながらその時々の位置検出を行い、その位置検出結果を、横軸に経過時間を縦軸に実際に計測した位置との間の推定誤差を採って表している。
また比較例1の方法は、トレーニングデータを用いない位置検出の方法であって、無線端末の観測データの電波強度値から、理論的な電波の自由空間損失の式を用いて電波観測された各基地局への推定距離を求め、受信端末の現在位置を割り出す方法である。
【0078】
尚この比較例1では、3つ以上の基地局が無線端末で観測されていれば、基地局までの推定距離と基地局の位置情報とを基に三角測量にて位置を推定し、また観測された基地局が1つのときは、その基地局の設置位置を推定位置とし、また2つのときは、電波強度の強さに応じた内分点を推測位置として、実際に計測した位置とのずれの量を表している。
【0079】
この図から分るように、トレーニングデータ及びこれから構築された電波モデルに基づいて位置検出を行う本実施形態の方法の場合、比較例1のものに比べて位置検出の精度が高いことが見てとれる。
因みに本実施形態の方法の場合、測定した範囲内での位置検出の平均誤差は約18m程度であったが、比較例1の方法の場合、平均誤差は約54mである。
【0080】
一方図13は、本実施形態の方法による位置検出と、実際にGPS受信器を携行してトレーニングデータを採取し、その結果に基づいて電波マップを作成して、その電波マップと無線端末の観測データとの比較照合により、無線端末の現在位置を検出した結果(比較例2)とを比較して表したものである。
図13から、GPS受信器を用いてトレーニングデータを収集し、その結果から無線端末の位置検出を行う比較例2に比べて、本実施形態の方法は精度的には劣るものの、その差は比較的僅かであることが見てとれる。
【0081】
以上本発明の実施形態を詳述したが、これはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態である位置検出方法が適用される移動体通信システムの概念図を示す図である。
【図2】基地局からの距離と受信電波強度との関係を示す図である。
【図3】同実施形態におけるPHS端末がトレーニングデータを取得し保存する様子を模式的示す説明図である。
【図4】図3に続く説明図である。
【図5】同実施形態におけるPHS端末がトレーニングデータを保存する際の動作のフローを示す図である。
【図6】同実施形態における基地局周りの電波強度分布を求める方法を説明する図である。
【図7】同実施形態における基地局周りの電波強度分布を立体的に示す図である。
【図8】同実施形態における基地局周りの電波強度分布を示す図7とは異なる図である。
【図9】同実施形態における電波マップの要部をモデル的に示す図である。
【図10】同実施形態におけるサーバが電波マップを構築する際のフローを示す図である。
【図11】同実施形態におけるPHS端末の現在位置を割り出す方法を説明する図である。
【図12】同実施形態の位置検出方法によって求めた位置を比較例とともに示す図である。
【図13】同実施形態の位置検出方法によって求めた位置を他の比較例とともに示す図である。
【図14】従来の位置情報検出方法におけるトレーニングデータの収集方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0083】
10 PHS端末(移動体通信端末)
22 位置情報提供センタ
24 サーバ
34 公衆通信網
Ai 基地局
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線基地局を介して公衆電話回線網やインターネット等の公衆通信網に接続されるPHS端末等所定の移動体通信端末の位置検出のための基礎データとなるトレーニングデータの収集方法及びこれを用いた移動体通信端末の位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PHS(パーソナルハンディホンシステム)端末や携帯電話端末等の移動体通信端末を用いた通信では、その移動体通信端末の位置するエリアをカバーする基地局(無線基地局)を介して、移動体通信端末が既設の公衆電話回線網やインターネット等の公衆回線網に接続され、かかる公衆回線網を通じて他の移動体通信端末や通常の有線の電話器,コンピュータ等との通信が可能である。
【0003】
この場合、移動体通信端末と他との通信は、移動体通信端末が位置しているエリア内の無線の基地局のうち、通常移動体通信端末に対して最も近くに位置している基地局を通じて行われる。
【0004】
このとき移動体通信端末が現在何処にいるか分っていないと、即ち移動体通信端末に近い位置の基地局(通常は移動体通信端末の近くに複数の基地局がある)が分っていないと、その基地局を通じての通信を行うことができないため、移動通信では移動体通信端末が他の移動体通信端末等と通信(会話)を行っていないときでも、周期的に電波を出して現在位置を知らせ、また同時に基地局に関する情報を取得する動作を自身で行っている。
従って移動体通信端末の保有している電波情報から、詳しくは近くに位置している基地局の識別情報と、基地局からの受信電波強度情報とから、移動体通信端末の現在位置を割り出すことが可能である(基地局が特定できれば基地局の位置している緯度,経度等の位置情報が分り、また基地局からの電波出力の大きさも分る)。
【0005】
PHS端末や携帯電話端末等の移動体通信端末の位置検出による位置情報提供サービスは、近年急速に普及している。
基地局と移動体通信端末との関係を利用したこの種の位置検出方法は、GPS受信器による位置検出方法と比較して位置情報の精度が劣るものの、GPS電波の届かない家屋内や地下鉄等でも利用でき、またGPS受信器を備えることによる端末の大型化を避けることができ、更に消費電流が少なくて済むなどのメリットがあり、大まかな位置を絞込みするための有用な方法として利用されている。
【0006】
特にPHS端末を用いた通信では、1つの基地局から通信できる距離範囲が携帯電話に比べて大幅に短く(100〜500m程度)、そのため基地局も短い間隔で多く配置されており、このためにPHS端末の現在位置の絞込みを行い易い。
こうしたことからPHS端末を利用した位置検出は有用な方法として研究が進められている。
【0007】
このような移動体通信端末を用いた位置検出方法は、学童の移動体通信端末からの緊急信号に応じてサービス員や大人が駆けつけるといった防犯システム,迷子や徘徊老人の探索,盗難物品の探索,或いは家屋倒壊時等に建物の下敷きになった人の探索等にも利用でき、またその他利用者がいる現在位置の確認や最寄の利用施設の検索等、幅広く応用され始めている。
【0008】
移動体通信端末の現在位置を検出するに際し、単に移動体通信端末の有している電波情報だけに基づいて、即ち周辺基地局の位置情報及び基地局の電波出力情報と、移動体通信端末が基地局から受けている受信電波強度情報とから、移動体通信端末の現在位置を割り出すことも可能である。
基地局の位置情報及び電波出力の大きさは予め分っており、また電波の強度は発信源からの距離の二乗に反比例し、距離が長くなるほど減衰していくため、受信電波強度から、電波発信源となる基地局までの距離を計算により推測し、算出することができる。
従って複数の基地局に対して、それら基地局までの距離を受信電波強度から算出することで、移動体通信端末の現在位置を知ることが可能である。
【0009】
しかしながら基地局からの距離の増大に伴う電波の減衰即ち電波強度の低下の程度は、途中に電波遮蔽物や障害物等があったりすると大きく変化し、従って単に移動体通信端末が受けている受信電波強度から基地局までの距離を電波特性により、即ち電波強度が距離の二乗に反比例し、距離が長くなるほど減衰していくとする計算上の減衰曲線に基づいて計算するだけであると、位置検出の誤差は非常に大きなものとなってしまう。
【0010】
そこで各地点ごとにその地点に対応した電波状況を予め調べて、その地点の位置情報と、観測した基地局の識別情報及び基地局から受けた受信電波強度を含む電波情報とを組みとしたトレーニングデータを採って(収集したトレーニングデータで後述の電波マップを精錬する行為をトレーニングと言う)、これを基に各地点ごとの電波情報を表す電波マップを構築してデータベース化しておき、位置検出が求められている移動体通信端末からの受信電波情報をその電波マップと比較して、移動体通信端末の現在位置を検出する方法が提案されている。
例えば下記特許文献1にこの種のトレーニングデータ,電波マップを利用した位置検出方法が開示されている。
【0011】
電波マップを利用した従来の位置検出方法において、トレーニングデータの収集は、作業者がGPS受信器と無線デバイス搭載機器を携行して全国あらゆる場所に行き、各地点ごとにGPS受信器にて位置を特定しつつ、その地点で電波測定することにより行うものであり、トレーニングデータの収集のために極めて多大の人的労力と時間とコストを要してしまう。
【0012】
図14は一般的なトレーニングデータ収集作業の様子を示している。
同図に示しているようにトレーニングデータ収集は、作業者がGPS受信器と無線デバイス搭載機器とを持ち、測定対象範囲内を移動しながら、各場所(地点)において観測される無線基地局のID(識別番号即ち識別情報)や、観測される電波状況をログデータとして収集する。
図に即して見ると、地点(x,y)では各基地局A1〜A6からの受信電波強度がそれぞれS1〜S6の値を示しており、位置情報とその場で得られる電波情報とを組としてトレーニングデータとして記録する。
そしてこうした作業を全国あらゆる場所でくまなくこれを行ってトレーニングデータを収集し、これに基づいて電波マップを構築する。
【0013】
以上から分るように従来の方法ではトレーニングデータの収集及び電波マップの構築に極めて多大の労力,時間,コストを要し、またたとえこのようにして全国各地のトレーニングデータを収集し、電波マップを構築したとしても、全国各地の電波状況は新しくビルその他の電波遮蔽物や障害物が建てられたり無くなったり、或いは基地局自体が新に設置されたり無くなったりする等して日々変化しており、経時的にそのトレーニングデータ及び電波マップが劣化してしまう。
【0014】
従って常に最新の電波状況を調べ続けていないと、位置検出の精度を高く維持することができないといった問題もある。
即ち従来のトレーニングデータの収集方法及びこれに基いて構築した電波マップを利用した位置検出方法にあっては、常にトレーニングデータ,電波マップを補正し続けなければならず、従来にあってはそのために要する人的,時間的,コスト的な負荷が大であった。
【0015】
【特許文献1】特開平11−252622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は以上のような事情を背景とし、トレーニングデータ収集のために、更にはトレーニングデータを最新且つ最適のデータに補正するために実質的に多大な人的労力,時間,コストを要しないトレーニングデータの収集方法及びこれを用いて高い精度で移動体通信端末の現在位置を検出することのできる移動体通信端末の位置検出方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
而して請求項1はトレーニングデータの収集方法に関するもので、位置の判明した地点で電波観測して得た、該地点の位置情報と、観測した基地局の識別情報及び該基地局から受けた受信電波強度を含む電波情報とを組としたトレーニングデータを、PHS端末等所定の移動体通信端末の現在位置を検出するための基礎データとして収集するトレーニングデータの収集方法であって、ある一の基地局の設定近傍域内に位置している前記移動体通信端末が他の基地局に関して観測により得た前記電波情報を近似的に該一の基地局の位置で取得した電波情報とみなして、これを該一の基地局の位置情報と組とした前記トレーニングデータとなし、該一の基地局以外の他の基地局についても各基地局ごとに該トレーニングデータを取得して、それら取得したトレーニングデータを収集することを特徴とする。
【0018】
請求項2の収集方法は、請求項1において、前記トレーニングデータを取得する際、前記移動体通信端末が前記ある一の基地局の設定近傍域内に位置しているか否かを、該移動体通信端末が該一の基地局から受けている電波に基づいて判定手段により自動的に判定することを特徴とする。
【0019】
請求項3の収集方法は、請求項2において、前記判定手段は、前記移動体通信端末が前記一の基地局から受けている電波強度が、設定したしきい値よりも大であることを検知することで、該移動体通信端末が該一の基地局の前記設定近傍域に位置するものと判定することを特徴とする。
【0020】
請求項4の収集方法は、請求項3において、前記移動体通信端末に前記トレーニングデータを記憶しておき、該移動体通信端末と位置情報提供側のサーバ若しくは他の通信端末との間で該トレーニングデータの送信以外の目的で通信が行われたタイミングで、記憶してある該トレーニングデータを該位置情報提供側のサーバに自動的に送信し、該位置情報提供側のサーバで該送信された該トレーニングデータを収集することを特徴とする。
【0021】
請求項5の収集方法は、請求項4において、前記トレーニングデータを送信する際の前記通信が、位置情報の提供の求めに応じて前記位置情報提供側のサーバと前記移動体通信端末との間で行われる通信であることを特徴とする。
【0022】
請求項6は移動体通信端末の位置検出方法に関するもので、請求項1〜5の何れかにおいて得た前記トレーニングデータを位置情報提供側のサーバで収集するとともに、該収集したトレーニングデータに基づいて各基地局ごとに該基地局の位置座標周りの電波強度分布を求めることで、該トレーニングデータの得られていない基地局間の地点を含む広域に亘った電波マップを構築して予め該サーバにデータベース化しておき、位置検出対象である前記移動体通信端末が観測により得た現在の受信電波情報を、該位置情報提供側で該移動体通信端末との通信で取得して該受信電波情報を前記電波マップと比較し、該移動体通信端末の現在位置を割り出すことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0023】
以上のように本発明は事前にトレーニングデータを収集するものであるが、本発明はあらゆる地点で電波観測し、あらゆる地点についてトレーニングデータを収集するものではなく、トレーニングデータを取得する位置は原則として基地局近傍域内に限られている。
但し本発明では基地局地点(基地局の設定近傍域内の地点)での移動体通信端末の得た電波情報をトレーニングデータとして用いるために、以下のような特有の効果が得られる。
【0024】
トレーニングデータは、トレーニングデータを収集する地点の位置情報と、その地点で観測される電波情報(基地局の識別情報及び電波強度)とを組としたデータである。従ってトレーニングデータを採るためには、電波観測する地点についての位置が分っていないといけない。
そのため従来にあってはGPS受信器を携行し、そのGPS受信器により位置を特定しながらその地点で電波観測を行う。
しかしながらこうした手法をとる限り、多大な人的労力,時間,コストを要してしまう。
【0025】
そこで本発明ではトレーニングデータを採るための手段として、位置情報サービスを受ける側の移動体通信端末の持つ電波情報を活用する。
移動体通信端末は、電波観測した基地局を識別する識別情報及びその基地局からの電波の強度即ち電波情報を、もともと保有している。但し移動体通信端末が電波を受信し、電波情報を保有しているからといって、それがどの地点で電波観測したものかは一般的には分らない。
【0026】
しかしながら移動体通信端末がある基地局地点(基地局の設定近傍域内の地点)で電波観測した場合には、その位置を特定することが可能となる。
具体的には、移動体通信端末が近似的にその基地局に位置しているとみなして、移動体通信端末を位置特定することが可能となる。
この場合移動体通信端末が、その基地局から受けている電波強度を有力な手掛かりとすることができる。
【0027】
基地局から発せられた電波は、距離が離れるにつれて距離の二乗に反比例して、電波強度が減衰するため、基地局近くと、これから一定距離以上離れたところとでは観測される電波は大きく異なったものとなる。
例えば基地局から10m離れた地点,或いは20m,30m離れた地点でのそれぞれの電波の大きさはそれほど変らないが、基地局から数mの範囲内の近傍域内と、基地局から10m以上離れた地点とでは、電波の強度或いは減衰曲線の傾き等が大きく異なったものとなる。
【0028】
そこで移動体通信端末がある基地局から受けている電波に基づいて、その移動体通信端末がその基地局地点(設定近傍域内)にいるか否かを、判定手段によって自動的に判定することが可能である(請求項2)。
そしてこのことによって、基地局地点で移動体通信端末が観測した電波情報を、基地局の位置情報と組として、これをトレーニングデータとして扱うことが可能となる。
【0029】
この場合において、移動体通信端末が基地局から受けている電波強度が設定したしきい値よりも大であることを検知することで、移動体通信端末が基地局地点即ち基地局の設定近傍域内に位置しているものと自動判定するようになすのが好適である(請求項3)。
【0030】
これらの方法では、移動体通信端末を保有している使用者が、トレーニングデータを収集する意識無しに、通常の日常活動において移動体通信端末を保持し、移動する行為の中で、自動的にトレーニングデータを取得することが可能である。
即ち本発明では、積極的にその意図を持ってトレーニングデータを取得し収集する作業を行わなくても、必要とするトレーニングデータを自動的に取得し収集することが可能である。
【0031】
また移動体通信端末の持つ電波情報から得られるトレーニングデータは、同一又は他の使用者が移動体通信端末を日常的に使用する中で、常に最新のものを日々自動的に取得することができる。
【0032】
尚、刻々と変化する移動体通信端末の電波情報をすべて収集し、その大量の電波情報の中からトレーニングデータとなるものを抽出するといったことは困難な作業である。
【0033】
ここにおいて請求項4は、移動体通信端末がトレーニングデータとなる電波情報を自身に記憶しておき、移動体通信端末と位置情報提供側のサーバ若しくは他の通信端末との間でトレーニングデータの送信以外の目的で通信が行われたタイミングで、記憶してあるトレーニングデータを位置情報提供側に自動的に送信するようになしておくのが好適である(請求項4)。
【0034】
ここで他の通信端末との間でデータ通信する場合にはピギーバック(piggyback)を利用することで、トレーニングデータを位置情報提供側に自動送信することが可能である。
位置情報提供側のサーバと通信するのであればピギーバックを利用しなくとも、通信しているデータの前後等にトレーニングデータを加えて送信しても良い。
ピギーバックとは、複数のデータを同時に(重ねて)送ることで、ピギーバックに対応した通信を中継する通信端末が、ピギーバックで送られてきたデータを複数の個々のデータへ分けることで、通信相手と位置情報提供側のサーバへデータを送信することが可能である。
【0035】
その際の通信の内容には様々なものがあり得、本発明ではこれを限定するものではないが、特に請求項5に従って、位置情報の提供の求めに応じて位置情報提供側のサーバと移動体通信端末との間で通信が行われたときに、そのタイミングで移動体通信端末に記憶され保持されているトレーニングデータを自動送信するようになすのが好適である。
【0036】
次に請求項6は、請求項1〜請求項5の何れかにおいて得たトレーニングデータを用いて移動体通信端末の位置検出を行う方法に関するものである。
この請求項6の位置検出方法は、上記にて収集したトレーニングデータ及びこれを基に構築した電波マップと移動体通信端末から得た受信電波情報との比較により位置検出の求められている移動体通信端末の現在位置を割り出すものであるが、この請求項6の方法で用いるトレーニングデータは、あらゆる地点で電波観測して得たものではなく、上記のように原則として基地局近傍域内で得たトレーニングデータに限られている。
【0037】
この場合、基地局近傍域以外の地点ではトレーニングデータがないこととなるが、本発明ではこれを以下のように近似計算により求め補間する。
前述したように基地局から発せられた電波の電波強度は基地局からの距離の二乗に反比例し、減衰する。その減衰の程度は理論計算によって求めることが可能である。
しかしながら途中に電波遮蔽物や障害物等があったりすると、減衰の程度は大きく変化し、計算した通りにはならない。
【0038】
そこで本発明では、基地局近傍域内において移動体通信端末により観測された電波情報(詳しくはトレーニングデータ)に基づいて、基地局ごとに基地局の位置座標周りの電波強度分布を求める。
即ちその基地局の位置情報と、その近傍域内で移動体通信端末により観測された電波情報とを組としたトレーニングデータ(基地局近傍域内で観測された電波情報は近似的に基地局の位置で観測されたものとみなす)に基づいて、基地局の位置座標周りの電波強度分布を求める。
これは次のようにして行うことができる。
【0039】
基地局の近傍域内で移動体通信端末により観測された電波情報の中には、通常、他の複数の基地局から発信された電波の受信強度情報が含まれている。
また移動体通信端末(厳密には移動体通信端末が近傍に位置しているところの基地)と電波観測した他の各基地局までの距離、及び電波発信源たる他の各基地局のそれぞれの電波出力の大きさは分る(各基地局の位置は固定でその位置情報、つまり近似的にある基地局に位置しているとみなした移動体通信端末と各基地局間の距離は分る)ので、そこで横軸に各基地局までの距離を、縦軸に各基地局ごとに観測した電波の受信強度をとってプロットし、それらプロットにフィットする最適の減衰曲線を求めることで、移動体通信端末の位置している(厳密には近傍に位置している)基地局周りの電波強度分布を求める。
【0040】
このようにして求めた電波強度分布は、単に計算だけにより求めたものではなく、移動体通信端末の位置している基地局に対して、それぞれ異なった距離で離れた他の基地局からの到来電波の受信強度に基づいて求められたものであるため実際に即したもの、即ち現地の状況に即したものである。
【0041】
本発明ではこのような電波強度分布を他の基地局についても且つ各基地局ごとに求める。即ち他の各基地局の位置座標周りに、それぞれの基地局ごとの電波強度分布を求める。
そのようにして複数の基地局について電波強度分布を求めたものを併せて、その集合体としての電波マップを構築する。
【0042】
そしてこれを位置情報提供側のサーバにデータベース化しておき、位置検出の対象である移動体通信端末と位置情報提供側との通信により得た移動体通信端末の現在の受信電波情報を電波マップと比較照合し、移動体通信端末の現在位置を割出検出する。
【0043】
例えば移動体通信端末が基地局A1から受けている受信電波強度が−40dBm(減衰の大きさ)であり、また基地局A2から受けている電波強度が−50dBmであったとすると、移動体通信端末の現在位置は、基地局A1周りの−40dBmの電波強度の等高線で囲まれたゾーンと、基地局A2周りの−50dBmの電波強度の等高線で囲まれたゾーンが互いに重複している部分に、移動体通信端末が位置していることとなる。
【0044】
尚、予め構築してある電波マップと移動体通信端末から得た現在の受信電波情報との比較により現在位置を割り出す方法については、従来公知の様々な手法を用いることができる。
例えばその手法として、従来公知のパーティクルフィルターによる手法を用いることができる。
【0045】
本発明によれば、極めて少ない数のトレーニングデータを用いるだけで、従来のトレーニングデータを用いない位置検出方法に比べて高い精度で移動体通信端末の現在位置を検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図1において、10はPHS端末(移動体通信端末)で、基地局A,PHS接続装置14を介して公衆電話回線網16、或いはインターネットプロバイダ(のホストコンピュータ)28を通じてインターネット30に接続される。
そして公衆電話回線網16を通じて固定電話20や他のPHS端末等の移動体通信端末,位置情報提供センタ22のサーバ24と通信が可能である。或いはインターネット30を通じ、位置情報提供センタ22のサーバ24と通信が可能である。
尚18は公衆電話回線網16における交換局を表している。
【0047】
位置情報の提供を受けるユーザ(子供がPHS端末を保持している場合等において、親等のユーザ)はまた、インターネット30に接続されたパソコン32を通じ、位置情報提供センタ22のサーバ24と通信が可能である。
位置情報提供センタ22に対する位置情報の要求は、PHS端末10からも行うことができるし、またパソコン32からも行うことが可能である。
尚34は、公衆電話回線網,インターネット30等の有線の公衆通信網を表している。
【0048】
PHS端末10は、固定電話20や他のPHS端末等の移動体通信端末と通信を行っていないときにも、周期的に電波を出して基地局Aと交信しており、常時周辺の基地局情報、詳しくは通信可能な周辺の基地局の識別情報と、電波観測した各基地局ごとの受信電波強度即ち電波情報を保有し、且つその電波情報を刻々と最新の電波情報に更新している。
【0049】
PHS端末10の位置検出は、そのPHS端末10自身が保有している受信電波情報に基づいて行われる。
このときの位置検出及び位置情報の提供は次のようにして行われる。
例えばPHS端末10が、自身の現在位置の情報提供を求める信号を基地局A,公衆電話回線網16或いはインターネット30を通じて位置情報提供センタ22に送信すると、サーバ24側からPHS端末10の保有している受信電波情報を取得し、そしてその取得したPHS端末10の受信電波情報を、予めサーバ24にデータベース化してある電波マップ(電波マップの構築の仕方については後に詳述する)と比較照合して、PHS端末10の現在位置を割り出す。そしてその結果をインターネット30或いは公衆電話回線網16を通じてPHS端末10に伝送する。
【0050】
位置情報提供センタ22への位置情報の提供の要求は、ユーザのパソコン32からも行うことができ、またPHS端末10の現在位置を割り出した結果を、このパソコン32へと伝送することもできる。
この場合の位置検出の方法は上記したのと同様である。
【0051】
上記電波マップの構築は、収集したトレーニングデータ群に基づいて近似計算にて行う。
而してトレーニングデータの取得及び収集は次のようにして行う。
PHS端末10は、常時基地局と関連づけた受信電波強度即ち電波情報を保有し且つこれを刻々と更新しているが、それぞれの電波情報をどの位置で取得したかは不明であり、従ってその電波情報はトレーニングデータとして利用することはできない。
但しその電波情報が、何れかの基地局の位置する地点で取得したものであれば、それはトレーニングデータとなり得る。
基地局はその全ての位置が固定で且つ既知であり、従って観測した電波情報が、何れの地点で受信したかを特定することが可能となるからである。
但しその場合には、PHS端末10が何れの基地局の地点で電波受信したのかが分らないといけない。
【0052】
そこでこの実施形態では、PHS端末10の受信電波情報が何れの基地局の地点で得たものかを特定するために、次の手法を用いる。
基地局から発信される電波の電波強度は、基地局からの距離の二乗に反比例し、減衰する。
その電波の減衰特性上、例えば基地局から10m,20m,30mないしそれ以上離れた地点では、何れも電波強度は大差のないものとなるが、これに対して基地局から数m程度例えば2m程度の近い位置である場合、10m以上離れた地点に比べて電波強度は明らかに高く、また僅かに距離が変化しても減衰の変化程度は大きい。
換言すれば、PHS端末10が受信した電波の強度が、特定の基地局に関して著しく高い場合には、PHS端末10はその特定の基地局近傍に位置していることを意味する。
【0053】
図2は、基地局からの距離と受信電波強度との関係を表したものである(この図2のグラフは、無線LAN基地局と対応する無線通信端末とを用いて電波強度観測した実測結果を表したものである)。
この図2は、基地局から2m離れた地点及び10m,20m,30m,80m離れた地点を、歩行者が歩きながら電波受信強度を観測し、得られた多数の観測値(減衰強度)を横軸に、観測値(サンプルデータ)の累積値を縦軸にとって表したものである。
【0054】
同図に示しているように、基地局から10m以上離れた地点では、基地局からの距離が20mであっても30mであっても、或いは80m離れた地点であっても、観測される受信電波強度はそれほど差のないものとなっているが、基地局から2m離れた地点の受信電波強度は、10m以上離れた地点での受信電波強度に対して著しく大きい値となっている。
従ってある基地局に対し、そこからの受信電波強度を観測することで、PHS端末10がその基地局の近傍域内に位置しているか否かを知ることができる。
【0055】
そこでこの実施形態では、ある基地局に関してPHS端末10が観測した受信電波強度が、設定した一定のしきい値を超えたことをもって、PHS端末10がその基地局の近傍域内に位置しているものと判定し、そこで得た電波情報を、その特定の基地局の位置情報と組をなすトレーニングデータとして活用する。
【0056】
この実施形態では、そのしきい値がPHS端末10自体の制御回路に設定されている。そしてPHS端末10はまた、観測された受信電波強度が、そのしきい値を超えたものであるときには、制御回路自身でこれを判定して記憶する機能も備えている。
従ってこの実施形態では、PHS端末10に備えられた制御回路自体が、PHS端末10が何れかの基地局の近傍域内に位置しているか否かを判定する判定手段を成している。
【0057】
この実施形態では、PHS端末10を保持した使用者が基地局に対して設定した近傍域に到達した時点で観測される受信電波強度の値を、上記しきい値として設定しておく。
但し各基地局から発信される電波の出力は同じ大きさではなく、様々に異なっている。
従ってしきい値の設定は、基地局から発信される電波の出力の大小に応じて設定される(位置情報提供側がしきい値の設定及び必要に応じて更新もできる)こととなる。
従ってPHS端末10には、基地局ごとに設定されたしきい値を内部に保有しており、そのしきい値との比較により、PHS端末10が基地局の近傍域内に入り込んだか否かが判定される。
【0058】
因みに図3は、そのしきい値によってPHS端末10が基地局の近傍域内に位置したときの判定の様子を模式的に表したものである。
図に示しているようにPHS端末10を保持した使用者が基地局A1に向って移動しているとき、PHS端末10で観測される基地局A1からの受信電波強度が、基地局A1に対応して設定されたしきい値K1を超えると、そこでPHS端末10が基地局A1周りの近傍域内で電波受信したものと判定されて、その受信電波情報が、トレーニングデータとして自動的に記憶され保存される。
【0059】
また使用者が今度は基地局A2に向って移動し、そして基地局A2からの受信電波強度が、基地局A2に対応して設定されたしきい値K2を超えると、その段階でPHS端末10が基地局A2近傍域内に入ったものと自動判定されて、その受信電波情報がトレーニングデータとしてPHS端末10に記憶され保存される。
【0060】
また基地局A2と基地局A3との間の位置にあって、何れの基地局に対してもPHS端末10がそれらの近傍域内に位置しておらず、従って受信電波強度がしきい値を超えていないときには、当然ながらその受信電波情報はトレーニングデータとして扱われず、PHS端末10に記憶も保存もされない。
【0061】
図5は、PHS端末10の制御回路(制御部)が、観測により得た受信電波情報をトレーニングデータとして保存する際の動作のフローを表している。
同図に示しているようにPHS端末10は、使用者が各地を移動する中で(ステップS12)、電波情報を常時収集し(ステップS14)、そしてPHS端末10の受信電波強度がある基地局に関して設定されたしきい値よりも高くなったときに(ステップS16)、これをトレーニングデータとして保存する(ステップS18)。そして保存したトレーニングデータを、位置情報提供センタ22のサーバ24若しくは他の通信端末との通信のタイミングで同位置情報提供センタ22のサーバ24に自動的に送信する(ステップS20)。
このときPHS端末10の使用者は、意図的にトレーニングデータを送信することはせず、そのトレーニングデータは他の通信端末との通信を行ったタイミングで、例えば位置情報提供の求めに応じて位置情報提供センタ22のサーバ24とPHS端末10との間で行われる通信、詳しくは位置情報の検出や提供の通信のタイミングで、自動的に位置情報提供センタ22のサーバ24へと送信される。
【0062】
具体的にはこの実施形態では、PHS端末10を保持した使用者が位置情報提供センタ22に対し、位置情報の提供を求めるための通信を行ったときに、そのタイミングでPHS端末10に保持されたトレーニングデータ群がサーバ24へと自動的に送信される。このとき使用者自身はそのことには気付いていない(気付いていても良い)。
【0063】
即ちこの実施形態では、PHS端末10の使用者が意図してトレーニングデータを取得する作業を行わなくても、自動的にPHS端末10にトレーニングデータが取得及び蓄積され、また使用者が取得したトレーニングデータを位置情報提供センタ22のサーバ24に送るための意図した独立した行為を行わなくても、使用者がPHS端末10を用いて位置情報提供センタ22と位置情報取得のために通信を行う日常的な行為の中で、位置情報提供センタ22のサーバ24にトレーニングデータが自動的に送信され、そこで収集される。
更にその後同じPHS端末10、或いは別のPHS端末10が新たな最新のトレーニングデータを取得した場合にも、そのトレーニングデータが、日常的にサーバ24へと送信され、サーバ24側において必要に応じトレーニングデータ及びこれを基礎とした後述の電波マップの補正(修正)が行われる。
【0064】
さて基地局近傍域内でPHS端末10にて得られたトレーニングデータには、他の複数の基地局から発信された電波の受信強度情報が含まれている。図4はこれを具体的に表したものである。
同図に示しているように、基地局A1近傍域内においてPHS端末10にて得られたトレーニングデータには、他の基地局A2,A3,A4,A5,A6の各基地局から発信された電波の受信強度情報が含まれている。
【0065】
また同様に基地局A2近傍域内でPHS端末10にて得られたトレーニングデータには、他の基地局A1,A3,A4,A5,A6の各基地局から発信された電波の受信強度情報が含まれている。
他の基地局A3,A4,A5,A6の各基地局近傍域内でPHS端末10にて得られたトレーニングデータについても同様である。
【0066】
尚、図中S1は基地局A1からの受信電波強度を表しており、S2は基地局A2からの受信電波強度を表している。
S3,S4,S5,S6についても、対応する符号の基地局から発信された電波の受信強度を表している。
【0067】
この実施形態では、このようにして得られたトレーニングデータを、位置情報提供センタ22のサーバ24側で収集し、これに基づいて基地局ごとに、基地局の位置座標周りの電波強度分布を求め、それらの集合体である電波マップを構築する。
【0068】
その具体的内容は次の通りである。
例えば基地局A1周りの電波強度分布を求める場合、基地局A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9(図6参照。尚図4では基地局A7,A8,A9は図示省略されている)から発信された電波の基地局A1近傍域内での受信電波強度と、基地局A1から各基地局A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8,A9までの距離を対とし(基地局A2〜A9までの距離はそれぞれの基地の位置が既知であるので計算で求めることができる)、そして横軸に基地局A1から各基地までの距離を、縦軸に受信電波強度をとって、それぞれのトレーニングデータをプロットする。
そして全てのプロット点からの距離を最小とする指数関数近似を最小二乗法により行って、図6(B)の式Qを求める。
【0069】
この式Qにて特定される電波強度分布を基地局A1周りに同心円状に展開させたものが、図7に示す基地局A1の位置座標周りの電波強度分布となる。
図7において直交する横軸x,yは位置座標軸を表しており、また縦軸zは電波強度を表している。
【0070】
因みに図8は、図中白四角で表した基地局近傍域内における黒四角で表した基地局Aからの受信電波強度と、白四角の各基地局から黒四角の基地局までの距離とに基づいて、最小二乗法により近似計算で求めた式Qにより求めた、黒四角の基地局周りの電波強度分布を数値で表したものである(図中の数字は電波の減衰の値を示しており、また各格子は10m四方サイズである)。
尚この図では、−80dBmを観測可能な限界位置として、−80dBmより小さい電波強度(数値の絶対値の大きい)ものについては表していない。
【0071】
以上は基地局A1周りの、詳しくは基地局A1の位置座標周りの電波強度分布であるが、図1に示す位置情報提供センタ22のサーバ24は、収集されたトレーニングデータに基づいて、他の全ての基地局周りの電波強度分布を求める。
即ち他の各基地局ごとに、対応する基地局の位置座標周りの電波強度分布を求める。そしてその集合体としての電波マップを構築する。
図9はその電波マップの要部をモデル的に表している。
【0072】
図10は、サーバ24において電波マップを構築する際の流れを表している。
図に示しているようにここではステップS22において、PHS端末10からトレーニングデータ群を取得(収集)し、そして収集したトレーニングデータ群から、特定の基地局Aiからの電波を受信し得たトレーニングデータ群を抽出する。
そしてステップS28において、距離と受信電波強度の対から基地局Ai周りの電波強度分布を求めて、トレーニングデータが存在していない基地局間の電波強度を補間する。
そして同様の処理を複数の基地局ANまで全て行い、それらの集合体である電波マップを構築する。
尚図示はしていないが、抽出したトレーニングデータ群でその値が有用でないような小さなものについては、電波強度分布の計算には用いない。
【0073】
このようにして構築された電波マップはデータベース化され、位置情報提供センタ22のサーバ24に記憶され保存される。
そして何れかのPHS端末10についての位置情報の提供が求められたときに、そのPHS端末10の保有する受信電波情報をサーバ24側で取得して、これを電波マップと比較照合し、位置情報を求めているPHS端末10の現在位置を割り出す。
【0074】
例えばPHS端末10の現在の受信電波情報が、基地局A1に関して観測した受信電波強度が−50dBmであり、また基地局A2については受信電波強度が−40dBmであったとすると、PHS端末10の位置は、図11に示しているように電波マップ上の基地局A1周りの電波強度の等高線−50dBmで囲まれたゾーンと、基地局A2周りの電波強度の等高線−40dBmで囲まれたゾーンの重複部分に位置していることになる。
そしてその位置を従来公知の手法を用いて推定し、これを位置情報提供を求めている相手側に送信し、現在位置を知らせる。
【0075】
尚その位置検出に際しては、PHS端末10と位置情報提供センタ22のサーバ24との間で通信が行われるが、このときPHS端末10がトレーニングデータを記憶し保持しているとき、その通信の際に自動的にPHS端末10から記憶しているトレーニングデータがサーバ24に送信される。
【0076】
サーバ24は送信されたトレーニングデータが最新のものであると判定したとき、必要であれば従来の対応するトレーニングデータを補正し、またこれに基づいて電波マップを再構築する。
サーバ24は常時こうした動作を行って、常に最新のトレーニングデータを収集及びこれに基づいて電波マップを構築し、位置情報検出に際しこれを用いて位置の割り出しを行う。
尚、送信の相手側はPHS端末10自身であったり、或いはパソコン32を通じて位置情報提供を求めてきたユーザであったりする。
ここではその割り出しの手法としてパーティクルフィルタ手法を用いることができる。
【0077】
図12は本実施形態に従って位置検出を行い、実際に計測した位置とのずれを求めて、これを比較例1による方法で位置検出した場合との比較において表したものである。
ここで本実施形態による位置検出は、基地局として無線LANの基地局を用い、そして人が無線端末を携行して歩きながらその時々の位置検出を行い、その位置検出結果を、横軸に経過時間を縦軸に実際に計測した位置との間の推定誤差を採って表している。
また比較例1の方法は、トレーニングデータを用いない位置検出の方法であって、無線端末の観測データの電波強度値から、理論的な電波の自由空間損失の式を用いて電波観測された各基地局への推定距離を求め、受信端末の現在位置を割り出す方法である。
【0078】
尚この比較例1では、3つ以上の基地局が無線端末で観測されていれば、基地局までの推定距離と基地局の位置情報とを基に三角測量にて位置を推定し、また観測された基地局が1つのときは、その基地局の設置位置を推定位置とし、また2つのときは、電波強度の強さに応じた内分点を推測位置として、実際に計測した位置とのずれの量を表している。
【0079】
この図から分るように、トレーニングデータ及びこれから構築された電波モデルに基づいて位置検出を行う本実施形態の方法の場合、比較例1のものに比べて位置検出の精度が高いことが見てとれる。
因みに本実施形態の方法の場合、測定した範囲内での位置検出の平均誤差は約18m程度であったが、比較例1の方法の場合、平均誤差は約54mである。
【0080】
一方図13は、本実施形態の方法による位置検出と、実際にGPS受信器を携行してトレーニングデータを採取し、その結果に基づいて電波マップを作成して、その電波マップと無線端末の観測データとの比較照合により、無線端末の現在位置を検出した結果(比較例2)とを比較して表したものである。
図13から、GPS受信器を用いてトレーニングデータを収集し、その結果から無線端末の位置検出を行う比較例2に比べて、本実施形態の方法は精度的には劣るものの、その差は比較的僅かであることが見てとれる。
【0081】
以上本発明の実施形態を詳述したが、これはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態である位置検出方法が適用される移動体通信システムの概念図を示す図である。
【図2】基地局からの距離と受信電波強度との関係を示す図である。
【図3】同実施形態におけるPHS端末がトレーニングデータを取得し保存する様子を模式的示す説明図である。
【図4】図3に続く説明図である。
【図5】同実施形態におけるPHS端末がトレーニングデータを保存する際の動作のフローを示す図である。
【図6】同実施形態における基地局周りの電波強度分布を求める方法を説明する図である。
【図7】同実施形態における基地局周りの電波強度分布を立体的に示す図である。
【図8】同実施形態における基地局周りの電波強度分布を示す図7とは異なる図である。
【図9】同実施形態における電波マップの要部をモデル的に示す図である。
【図10】同実施形態におけるサーバが電波マップを構築する際のフローを示す図である。
【図11】同実施形態におけるPHS端末の現在位置を割り出す方法を説明する図である。
【図12】同実施形態の位置検出方法によって求めた位置を比較例とともに示す図である。
【図13】同実施形態の位置検出方法によって求めた位置を他の比較例とともに示す図である。
【図14】従来の位置情報検出方法におけるトレーニングデータの収集方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0083】
10 PHS端末(移動体通信端末)
22 位置情報提供センタ
24 サーバ
34 公衆通信網
Ai 基地局
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置の判明した地点で電波観測して得た、該地点の位置情報と、観測した基地局の識別情報及び該基地局から受けた受信電波強度を含む電波情報とを組としたトレーニングデータを、PHS端末等所定の移動体通信端末の現在位置を検出するための基礎データとして収集するトレーニングデータの収集方法であって、
ある一の基地局の設定近傍域内に位置している前記移動体通信端末が他の基地局に関して観測により得た前記電波情報を近似的に該一の基地局の位置で取得した電波情報とみなして、これを該一の基地局の位置情報と組とした前記トレーニングデータとなし、該一の基地局以外の他の基地局についても各基地局ごとに該トレーニングデータを取得して、それら取得したトレーニングデータを収集することを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項2】
請求項1において、前記トレーニングデータを取得する際、前記移動体通信端末が前記ある一の基地局の設定近傍域内に位置しているか否かを、該移動体通信端末が該一の基地局から受けている電波に基づいて判定手段により自動的に判定することを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項3】
請求項2において、前記判定手段は、前記移動体通信端末が前記一の基地局から受けている電波強度が、設定したしきい値よりも大であることを検知することで、該移動体通信端末が該一の基地局の前記設定近傍域に位置するものと判定することを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項4】
請求項3において、前記移動体通信端末に前記トレーニングデータを記憶しておき、該移動体通信端末と位置情報提供側のサーバ若しくは他の通信端末との間で該トレーニングデータの送信以外の目的で通信が行われたタイミングで、記憶してある該トレーニングデータを該位置情報提供側のサーバに自動的に送信し、該位置情報提供側のサーバで該送信された該トレーニングデータを収集することを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項5】
請求項4において、前記トレーニングデータを送信する際の前記通信が、位置情報の提供の求めに応じて前記位置情報提供側のサーバと前記移動体通信端末との間で行われる通信であることを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて得た前記トレーニングデータを位置情報提供側のサーバで収集するとともに、該収集したトレーニングデータに基づいて各基地局ごとに該基地局の位置座標周りの電波強度分布を求めることで、該トレーニングデータの得られていない基地局間の地点を含む広域に亘った電波マップを構築して予め該サーバにデータベース化しておき、位置検出対象である前記移動体通信端末が観測により得た現在の受信電波情報を、該位置情報提供側で該移動体通信端末との通信で取得して該受信電波情報を前記電波マップと比較し、該移動体通信端末の現在位置を割り出すことを特徴とする移動体通信端末の位置検出方法。
【請求項1】
位置の判明した地点で電波観測して得た、該地点の位置情報と、観測した基地局の識別情報及び該基地局から受けた受信電波強度を含む電波情報とを組としたトレーニングデータを、PHS端末等所定の移動体通信端末の現在位置を検出するための基礎データとして収集するトレーニングデータの収集方法であって、
ある一の基地局の設定近傍域内に位置している前記移動体通信端末が他の基地局に関して観測により得た前記電波情報を近似的に該一の基地局の位置で取得した電波情報とみなして、これを該一の基地局の位置情報と組とした前記トレーニングデータとなし、該一の基地局以外の他の基地局についても各基地局ごとに該トレーニングデータを取得して、それら取得したトレーニングデータを収集することを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項2】
請求項1において、前記トレーニングデータを取得する際、前記移動体通信端末が前記ある一の基地局の設定近傍域内に位置しているか否かを、該移動体通信端末が該一の基地局から受けている電波に基づいて判定手段により自動的に判定することを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項3】
請求項2において、前記判定手段は、前記移動体通信端末が前記一の基地局から受けている電波強度が、設定したしきい値よりも大であることを検知することで、該移動体通信端末が該一の基地局の前記設定近傍域に位置するものと判定することを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項4】
請求項3において、前記移動体通信端末に前記トレーニングデータを記憶しておき、該移動体通信端末と位置情報提供側のサーバ若しくは他の通信端末との間で該トレーニングデータの送信以外の目的で通信が行われたタイミングで、記憶してある該トレーニングデータを該位置情報提供側のサーバに自動的に送信し、該位置情報提供側のサーバで該送信された該トレーニングデータを収集することを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項5】
請求項4において、前記トレーニングデータを送信する際の前記通信が、位置情報の提供の求めに応じて前記位置情報提供側のサーバと前記移動体通信端末との間で行われる通信であることを特徴とするトレーニングデータの収集方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて得た前記トレーニングデータを位置情報提供側のサーバで収集するとともに、該収集したトレーニングデータに基づいて各基地局ごとに該基地局の位置座標周りの電波強度分布を求めることで、該トレーニングデータの得られていない基地局間の地点を含む広域に亘った電波マップを構築して予め該サーバにデータベース化しておき、位置検出対象である前記移動体通信端末が観測により得た現在の受信電波情報を、該位置情報提供側で該移動体通信端末との通信で取得して該受信電波情報を前記電波マップと比較し、該移動体通信端末の現在位置を割り出すことを特徴とする移動体通信端末の位置検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−55138(P2009−55138A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217658(P2007−217658)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕立命館大学大学院理工学研究科修士論文公聴会 〔主催者名〕立命館大学 〔開催日〕平成19年2月23日
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(596013143)加藤電機株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕立命館大学大学院理工学研究科修士論文公聴会 〔主催者名〕立命館大学 〔開催日〕平成19年2月23日
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(596013143)加藤電機株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
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