説明

トー角制御装置

【課題】ダストブーツに回転力が作用しない構造を採用し、ダストブーツに飛び石に強く、耐候性のよい材料を使用して、トー角制御装置に搭載されるアクチュエータの信頼性の向上を図ることを可能にする。
【解決手段】後輪12のトー角を変化させるアクチュエータ30とを備えた後輪トー角制御装置10において、アクチュエータ30は、車体11側に設けられる車体側部材31と、この車体側部材31から突出可能に設けられるとともに、後輪12側に設けられる車輪側部材32と、これらの車体側部材31と車輪側部材32との間に被せられるダストブーツ42を備え、これらのダストブーツ42と、車体側部材31若しくは車輪側部材32との間に、車体側部材31若しくは車輪側部材32に対してダストブーツ42のねじれを防止するとともに、車体側部材31と車輪側部材32との間をシールする回転シール部材41を介在させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪又は後輪のトー角を制御するトー角制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前輪又は後輪のトー角を制御するトー角制御装置として、車体側から車輪側に掛けられ、回転力を直動力に変換制御するアクチュエータを設けたものが知られている。
この種のトー角制御装置は、車体の下部後方に車輪をトー角調整可能に設け、この車輪を揺動自在にサスペンションで支持し、車体側と車輪側との間に車輪のトー角を変化させるアクチュエータを設けたものであった。
【0003】
このようなトー角制御装置として、モータの回転力を、ねじ部及びナット部で直動力に変換するアクチュエータを用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−290417公報
【0004】
同公報の図1及び図2に示されたように、特許文献1の車輪操舵装置(トー角制御装置)100は、ねじ山(ねじ部)38が形成されサーボモータ(モータ)14の回転力が伝達されるフレクスプライン(内筒)26と、ねじ溝(ナット部)40が形成され、ねじ山38に噛み合わされる出力軸(外筒)32と、この出力軸32を覆うハウジング(カバー部材)30と、このハウジング30と出力軸32との間に介在させたブッシュ34とを備えた直動アクチュエータ(アクチュエータ)10を採用したものである。
【0005】
このようなトー角制御装置では、一般的にハウジングと出力軸との間から水や異物が侵入したり、摺動面への傷付きを防止する為に、出力軸側とハウジング側との間に蛇腹状のダストブーツが設けられている。
ダストブーツには、飛び石に強く、耐候性に優れた材料を選定されることが多かったが、飛び石に強く、耐候性に優れた材料は、ひねりには脆弱な一面もあった。
【0006】
このため、出力軸とハウジングとの間に周り止めを設けているものはダストブーツにひねりほとんど入力されないが、アクチュエータの両端に配置されたブッシュにより周り止めをかねている場合には、サスペンションの上下動などにより出力軸がひねられ、ダストブーツに回転力(ひねり)が加わることがある。トー角を制御するアクチュエータにおいては、伸縮量が小さくて済むために、ダストブーツの長さも短いこともあり、ダストブーツの耐久性の更なる向上が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ダストブーツに回転力が作用しない構造を採用し、ダストブーツに飛び石に強く、耐候性のよい材料を使用して、トー角制御装置に搭載されるアクチュエータの信頼性の向上を図ることのできる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車体の下部後方にトー角調整可能に設けられる車輪と、この車輪を揺動自在に支持するサスペンションと、車体側と車輪側との間に掛け渡され、車輪のトー角を変化させるアクチュエータとを備えた前輪又は後輪のトー角を制御するトー角制御装置において、アクチュエータは、車体側に設けられる車体側部材と、この車体側部材から突出可能に設けられるとともに、車輪側に設けられる車輪側部材と、これらの車体側部材と車輪側部材との間に被せられるダストブーツを備え、これらのダストブーツと、車体側部材若しくは車輪側部材との間に、車体側部材若しくは車輪側部材に対してダストブーツのねじれを防止するとともに、車体側部材と車輪側部材との間をシールする回転シール部材を介在させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明では、前輪又は後輪のトー角を制御するトー角制御装置は、車体の下部後方にトー角調整可能に車輪が設けられ、この車輪を揺動自在にサスペンションで支持し、車体側と車輪側との間に車輪のトー角を変化させる、アクチュエータが掛け渡される。
アクチュエータは、車体側に設けられる車体側部材と、この車体側部材から突出可能に設けられるとともに、車輪側に設けられる車輪側部材と、これらの車体側部材と車輪側部材との間に被せられるダストブーツを備える。
ダストブーツと、車体側部材若しくは車輪側部材との間に、車体側部材若しくは車輪側部材に対してダストブーツのねじれを防止するとともに、車体側部材と車輪側部材との間をシールする回転シール部材を介在させたので、サスペンションの揺動で車輪側部材に回転力(ひねり)が加わっても、この回転力を回転シール部材で滑らすことができ、ダストブーツに回転力がかかることはない。この結果、ダストブーツに、飛び石に強く、耐候性優れた材料を安心して使用することができ、トー角制御装置に搭載されるアクチュエータの耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るトー角制御装置の原理図である。
後輪トー角制御装置(独立後輪操舵装置)10は、車体11の下部後方にトー角調整可能に設けられる車輪(後輪)12と、この後輪12を揺動自在に支持するサスペンション(懸架装置)13と、車体11側と後輪12側との間に掛け渡され、後輪12のトー角を制御するアクチュエータ30とから構成される。後輪トー角制御装置10は、後輪12のトー角を制御するトー角制御装置である。
【0011】
サスペンション13は、一例としてダブルウィッシュボン形式の懸架装置であり、車体11下方から揺動自在に延出されるロアアーム16と、このロアアーム16の上方且つ車体11から揺動自在に延出されるアッパアーム17と、これらのアーム16,17に回転自在に設けられ、後輪12を支持するナックル18と、車体11に上端が支持され、下端がロアアーム16に取付けられ、後輪12から車体11に加わる衝撃を和らげるショックアブソーバユニット19とからなる。
【0012】
アクチュエータ30は、一端が車体11側に揺動自在に支持され、他端がナックル18に揺動自在に取付けられ、後述するように、回転力を直動力に変換して後輪12のトー角を制御するものである。
次図で後輪トー角制御装置10の動作原理を説明する。
【0013】
図2(a)〜(c)は本発明に係るトー角制御装置の作用説明図である。
(a)において、後輪12を車体中心に平行に位置させる初期状態の後輪トー角制御装置10が示される。
【0014】
(b)において、アクチュエータ30を矢印a1の如く伸ばすことで後輪12を車体11内方に駆動し、トーインの状態に制御することができる。
(c)において、アクチュエータ30を矢印a2の如く縮めることで、後輪12を車体11外方に駆動し、トーアウトの状態に制御することができる。
以下、アクチュエータ30の詳細を説明する。
【0015】
図3は本発明に係るトー角制御装置のアクチュエータの正面断面図であり、図4は本発明に係るトー角制御装置のアクチュエータの主要部品の分解斜視図である。
図3及び図4に示されたように、アクチュエータ30は、回転力を直動力に変換する部材であり、2分割構成され、車体11側に取付けられる一方側ハウジング(車体側部材)31と、2分割構成され、後輪12側に取付けられる他方側ハウジング(車輪側部材)32と、一方側ハウジング31の内周面33に設けられ、回転力を発生する駆動源としてのモータ34と、このモータ34の出力軸(回転出力軸)35に配置されるとともに、一方側ハウジング31に構成され、モータ34の回転数を減速する減速機36と、この減速機36の最終段(回転動力出力部材)75にカップリング37を介して接続されるとともに、他方側ハウジング32に構成され、回転力から直動力に変換するための送りねじ38と、この送りねじ38に噛み合わされるとともに他方側ハウジング32に取付けられ、回転力から直動力に変換するためのナット部39と、一方側ハウジング(車体側部材)31と他方側ハウジング(車輪側部材)32との間を回転シール部材41を介して覆うダストブーツ42とを主要構成とする部材である。
【0016】
ダストブーツ42は、飛び石に強く、耐候性優れた材料としてエラストマーが採用される。
一般的に、エラストマーは、飛び石に強く、耐候性優れた材料であるが、回転力(ひねり)には脆弱性があることが知られる。そこで、エラストマーで形成されたダストブーツには、回転力(ひねり)が加わらない構造とすることが好ましい。
なお、エラストマーは、合成高分子材料で、特に常温付近でゴムのような弾性や屈曲性をもつ材料である。
【0017】
そこで、後輪トー角制御装置10に採用されるアクチュエータ30は、他方側ハウジング32に回転シール部材41を受けるハウジング側受け部材44が設けられ、ダストブーツ42の他方側ハウジング32側に回転シール部材41を受けるダストブーツ側受け部材45が設けられ、これらの受け部材44,45の間に回転シール部材41を介在させて、一方側ハウジング31と他方側ハウジング32との間にダストブーツ42を被せた。
【0018】
回転シール部材41は、好ましくは、耐摩耗性に優れたシリコンゴムなどの弾性部材が使用され、ハウジング側受け部材44、ダストブーツ側受け部材45及び回転シール部材41で構成される回転シール構造は、例えば、エンジンのクランクシャフトなどのオイルシールに類する構造が採用される。
【0019】
なお、送りねじ38及びナット部39は、回転力から直動力に変換する変換部材であり、ナット部39は、他方側ハウジング32に止めねじ47で係止されている。
【0020】
一方側ハウジング31は、車体11側に連結される車体側連結部48を備え、一方側ハウジング31には、モータ34及び減速機36が設けられる。
他方側ハウジング32は、後輪12側に連結される後輪側連結部49を備え、他方側ハウジング32には、送りねじ38及びナット部39が設けられる。
【0021】
すなわち、アクチュエータ30は、モータ34及び減速機36が設けられた一方側ハウジング31に、送りねじ38及びナット部39が設けられた他方側ハウジング32をカップリング37を介して合わせ、取付けねじ46で結合し、一方側ハウジング31と他方側ハウジング32との間にダストブーツ42が被せられる。
【0022】
モータ34は、ロータ51と、このロータ51の周りに設けられるステータ52と、これらのロータ51とステータ52とを覆うモータケース53とからなり、ロータ51の中心に出力軸35が設けられる。
【0023】
モータケース53は、出力軸35の一端を減速機36側に突出させるブロック部54とこのブロック部54に取付けられ、ステータ52を固定するとともにロータ51を回転自在に支持する収納部55とからなる。
さらに、モータケース53は、一方側ハウジング31にモータケース53の外周面56(ブロック部54の端面)が挟持され、減速機36の構成部品であるリングギヤ62で一方側ハウジング31に保持される。
【0024】
減速機36は、図4に示されたように、モータ34の出力軸35に嵌合されるサンギヤ61と、このサンギヤ61と同心に配置されるリングギヤ62と、これらのサンギヤ61及びリングギヤ62に噛み合わされる第1のギヤ組立体64と、この第1のギヤ組立体64に噛み合わされる第2のギヤ組立体65とからなる。
【0025】
一方側ハウジング31の内周面33には雌ねじ66が形成されており、リングギヤ62は、外周部67に雄ねじ68が形成され、一方側ハウジング31の内周面33に螺合される。
【0026】
第1のギヤ組立体64は、円板状の第1の基部71と、この第1の基部71に回転自在に取付けられ、サンギヤ61及びリングギヤ62に噛み合わされる複数の遊星歯車72と、第1の基部71の中心に且つ複数の遊星歯車72の対向面に設けられたピニオン73とからなる。
【0027】
第2のギヤ組立体65は、円板状の第2の基部75と、この第2の基部75に回転自在に取付けられ、第1のギヤ組立体64のピニオン73に噛み合わされる複数の歯車76とからなる。
【0028】
第2の基部75は、減速機36の最終段であって、回転動力出力部材に相当する部材であり、第2の基部75に同心状に且つ複数の歯車76の対向面に設けられ、カップリング37に係合する複数の突起77と、複数の歯車76を回転自在に支持する支持軸78とを備える。
図中、79は一方側ハウジング31と他方側ハウジング32との間に介在させたオイルシールである。
【0029】
図5は本発明に係るトー角制御装置のアクチュエータのねじ部及びカップリングの斜視図であり、図6は本発明に係るトー角制御装置のアクチュエータのカップリング及び減速機の構成部品の斜視図である。
送りねじ38は、図5に示されるように、ナット部39に螺合するねじ部81と、このねじ部81のカップリング37側にカップリング37を収納するカップ部82と、カップリング37の円筒部91が摺接する底部83と、カップリング37に噛み合う複数のつめ部84とを備える。
【0030】
カップリング37は、図5及び図6に示されたように、一方側部材87、中間部材88及び他方側部材89の3つの部材が積層された部材であり、中央の円筒部91と、この円筒部91から放射状に延出され、送りねじ38の複数のつめ部84と、減速機36の複数の突起77との間に介在され、送りねじ38側の軸心とモータ34側の軸心とのズレを吸収しつつ、モータ34側の回転力を送りねじ38側に伝達する係合片92とからなる。
【0031】
図7(a),(b)は本発明に係るトー角制御装置の作用説明図である。
(a)において、実施例の後輪トー角制御装置10のアクチュエータ30が示され、例えば、アクチュエータ30の車体側部材31に対して車輪側部材32に矢印b1の如く回転力(ひねり)が加わる場合にも、車輪側部材32とダストブーツ42との間に回転シール部材41を介在させたので、車輪側部材32の回転力(ひねり)を回転シール部材41で滑らすことができる。従って、ダストブーツ42に車輪側部材32の回転力(ひねり)が作用しない。この結果、ダストブーツ42の寿命を延ばすことができる。
【0032】
(b)において、比較例の後輪トー角制御装置240のアクチュエータ241が示され、例えば、アクチュエータ241の車体側部材242に対して車輪側部材243に矢印b2の如く、回転力(ひねり)が加わると、ダストブーツ244の一端が車体側部材242に固定され、ダストブーツ244の他端が車輪側部材243に固定されているので、ダストブーツ244に車輪側部材243に回転力(ひねり)がそのままかかる。従って、ダストブーツ244の寿命が短い。
【0033】
すなわち、後輪トー角制御装置10は、車体11の下部後方にトー角調整可能に後輪12が設けられ、この後輪12を揺動自在にサスペンション13で支持し、車体11側と後輪12側との間に後輪12のトー角を変化させる、アクチュエータ30が掛け渡される。
【0034】
アクチュエータ30は、車体11側に設けられる車体側部材31と、この車体側部材31から突出可能に設けられるとともに、後輪12側に設けられる車輪側部材32と、これらの車体側部材31と車輪側部材32との間に被せられるダストブーツ42を備える。
【0035】
ダストブーツ42と、車体側部材31若しくは車輪側部材32との間に、車体側部材31若しくは車輪側部材32に対してダストブーツ42のねじれを防止するとともに、車体側部材31と車輪側部材32との間をシールする回転シール部材41を介在させたので、サスペンション13の揺動で車輪側部材32に回転力(ひねり)が加わっても、この回転力を回転シール部材41で滑らすことができ、ダストブーツ42に回転力がかかることはない。この結果、ダストブーツ42に、飛び石に強く、耐候性優れた材料を安心して使用することができ、後輪トー角制御装置10に搭載されるアクチュエータ30の耐久性の向上を図ることができる。
【0036】
尚、本発明に係るトー角制御装置は、後輪12のトー角を制御する後輪トー角制御装置10であったが、これに限るものではなく、前輪に同様の構成を採用した前輪トー角制御装置であってもよい。
本発明に係るトー角制御装置は、図3に示すように、ダストブーツ42と車輪側部材32との間に回転シール部材41を介在させたが、これに限るものではなく、ダストブーツと車体側部材との間に回転シール部材を介在させるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るトー角制御装置は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るトー角制御装置の原理図である。
【図2】本発明に係るトー角制御装置の作用説明図である。
【図3】本発明に係るトー角制御装置のアクチュエータの正面断面図である。
【図4】本発明に係るトー角制御装置のアクチュエータの主要部品の分解斜視図である。
【図5】本発明に係るトー角制御装置のアクチュエータのねじ部及びカップリングの斜視図である。
【図6】本発明に係るトー角制御装置のアクチュエータのカップリング及び減速機の構成部品の斜視図である。
【図7】本発明に係るトー角制御装置の作用説明図である。
【符号の説明】
【0039】
10…トー角制御装置(後輪トー角制御装置)、12…車輪(後輪)、13…サスペンション、30…アクチュエータ、31…車体側部材(一方側ハウジング)、32…車輪側部材(他方側ハウジング)、41…回転シール部材、42…ダストブーツ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の下部後方にトー角調整可能に設けられる車輪と、この車輪を揺動自在に支持するサスペンションと、前記車体側と前記車輪側との間に掛け渡され、車輪のトー角を変化させるアクチュエータとを備えた前輪又は後輪のトー角を制御するトー角制御装置において、
前記アクチュエータは、前記車体側に設けられる車体側部材と、この車体側部材から突出可能に設けられるとともに、前記車輪側に設けられる車輪側部材と、これらの車体側部材と車輪側部材との間に被せられるダストブーツを備え、
これらのダストブーツと、車体側部材若しくは車輪側部材との間に、前記車体側部材若しくは前記車輪側部材に対して前記ダストブーツのねじれを防止するとともに、前記車体側部材と前記車輪側部材との間をシールする回転シール部材を介在させたことを特徴とするトー角制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−241639(P2009−241639A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87542(P2008−87542)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】