説明

ドリップ防止剤、並びに、樹脂組成物

【課題】取り扱い性に優れたドリップ防止剤を提供する。
【解決手段】本発明は、平均粒径が300〜800μm、見掛密度が0.40〜0.52g/ml、圧縮性比が1.20以下、振動時間50秒における凝集崩壊度が70%以上、リダクションレシオ1500における円柱押出し圧力が80MPa以下、標準比重(SSG)が2.140〜2.230であり、かつ変性ポリテトラフルオロエチレンからなることを特徴とするドリップ防止剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリップ防止剤、並びに、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭、オフィス、工場などで使用されている熱可塑性樹脂成形品、たとえば電気器具、OA機器では、熱可塑性樹脂の多くが易燃性であるため、通常、その成形用原料に難燃剤を添加し、樹脂成形品の難燃性を向上させる工夫が求められている。
【0003】
しかしながら、多くの難燃剤は、燃焼しにくくする効果をもたらすが、いったん燃焼しはじめると熱可塑性樹脂が液状になって、燃えながらドリップ(滴り)して延焼するのを防ぐ効果は乏しい。これに対し、たとえば、Underwriters′ Laboratories (以下、ULと略す)94の規格では、燃焼試験(Fire Test)の等級として、抗ドリップ性を条件とする難燃度が高いクラス(V−1、V−0)が設けられている。また、ドリップも防止してさらに安全性を高めるためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粉末や水性分散体を易燃性熱可塑性樹脂に難燃剤とともに溶融混合することが行なわれている。
【0004】
PTFEは耐熱性、耐薬品性、電気的絶縁性に優れ、撥水撥油性、非粘着性、自己潤滑性等の特異な表面特性を有するためコーティング剤に広く用いられている。また、高結晶性で分子間力が低いためわずかな応力で繊維化する性質を有しており、熱可塑性樹脂に配合した場合、成形加工性、機械的性質などが改良され、熱可塑性樹脂用添加剤としても使用されている。
【0005】
たとえば、特許文献1では、易燃性熱可塑性樹脂と難燃剤、不燃性繊維とともにPTFEを0.1〜5%(重量%、以下同様)添加した組成物が、特許文献2では、ポリフェニレンエーテルやスチレン系樹脂に難燃剤とPTFEを添加した組成物が、特許文献3では芳香族ポリカーボネートに有機アルカリ金属塩および/または有機アルカリ土類金属塩の難燃剤0.01〜10%とASTM D−1457タイプ3のPTFE0.01〜2.0%を添加した組成物が、特許文献4ではアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)に難燃剤とPTFEを添加した組成物が開示されている。
【0006】
また、芳香族ポリカーボネートとスチレン系樹脂とのポリマーアロイに関して、特許文献5では、有機臭素化合物とアンチモンまたはビスマス化合物などの難燃剤とPTFEを添加した組成物が、特許文献6〜9では、リン化合物とともにPTFEを添加した組成物が、特許文献10では、有機または無機酸のアルカリ金属塩とともにPTFEを添加した組成物が開示されている。ポリアミドに関しても、たとえば、特許文献11では、リン酸エステルなどの難燃剤とともにPTFEを添加した組成物が開示されている。例えば、特許文献12や特許文献13に、ポリテトラフルオロエチレンをポリオレフィンに配合してなる樹脂組成物が開示されている。また、特許文献14にはポリテトラフルオロエチレンと分散媒パウダーとを高せん断下で混合しポリテトラフルオロエチレンをあらかじめ繊維化した後にポリオレフィンと混合するポリオレフィン系樹脂組成物の製法が開示されている。
【0007】
ドリップ防止用のPTFEとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)を乳化重合してえられるラテックスを凝析・乾燥した粉末(通常、PTFEファインパウダーと呼ばれ、標準比重(SSG)が2.14〜2.23の範囲にあり、ASTM D−1457タイプ3に分類される)、あるいはそのラテックスに界面活性剤を加え濃縮・安定化して製造される水性分散体(通常、PTFEディスパージョンと呼ばれる)が使用される。
【0008】
ドリップ防止の機能は、PTFE粒子が容易にフィブリル化する性質を有していることによる。すなわち、熱可塑性樹脂を溶融状態で前記ファインパウダーや前記ディスパージョンと混合すると、混合の剪断力でPTFE微粒子がフィブリル化し、熱可塑性樹脂中にそのフィブリルが分散する。熱可塑性樹脂の最終的な成形品にもフィブリルが分散したまま残ることによって燃焼時のドリップが防止される。
【0009】
しかし、易燃性熱可塑性樹脂とPTFEを混合するには、溶融混合に先だって、易燃性熱可塑性樹脂の粉末、ペレットまたは液状のものと、前記ファインパウダーや前記ディスパージョンとを混ぜ合わせる必要がある。しかし、前記ファインパウダーは常温でもフィブリル化しやすい性質のためファインパウダー同士の凝集物が発生しやすく粉体の取り扱い性が劣り、混合する際の作業性に重大な問題がある。前記ディスパージョンは易燃性熱可塑性樹脂が水性分散体の場合は互いの混合が容易であるが、該樹脂が粉末またはペレットであれば、混合したあとで前記ディスパージョン中の不必要な水分や界面活性剤を取り除く工程が必要となる。
【0010】
PTFEドリップ防止剤としては、粉体の取り扱い性に優れるものが求められている。さらに、原料樹脂へ添加する際に予めPTFE粉末と原料樹脂とを予備混合する必要があるが、この時混合機や押出機フィーダー内で原料樹脂とPTFEの混合粉末が凝集してブロッキングをおこし、作業性、生産性を著しく阻害するという問題がある。
【0011】
そこで、PTFE粒子と有機系重合体粒子の混合物(PTFE含有混合粉末)の添加により、熱可塑性樹脂組成物の難燃性を向上させる試みが、特許文献15、特許文献16、特許文献17等に記載される。特許文献15には、ポリテトラフルオロエチレン分散液と、芳香族ビニル系重合体分散液とを、混合し、凝固して得られる粉体の添加により、難燃性が向上すると記載される。特許文献16にはポリテトラフルオロエチレン分散液の存在下有機系単量体を重合して得られる粉体は取り扱い性に優れると記載される。特許文献17には、ポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体およびポリオルガノシロキサン含有複合ゴム系グラフト共重合体から成る熱可塑性樹脂組成物は、難燃性、耐衝撃性に優れると記載される。
しかしながら、ドリップ防止剤としてのPTFE含有混合粉末を熱可塑性樹脂に添加すると、同じ添加量でPTFE単体のドリップ防止剤を添加した場合と比較して、ドリップ防止性能に寄与するPTFEの添加量が少ないために十分なドリップ防止効果が得難く、十分な効果を得るためにドリップ防止剤の添加量が増え、コストが高くなる問題があった。
【0012】
また、TFEの懸濁重合によりえられるPTFEモールディングパウダー(標準比重が2.13〜2.23の範囲にあり、ASTM D−1457タイプ4、6、7に分類される)があり、これを易燃性熱可塑性樹脂の添加剤として用いることも提案されている(例えば、特許文献18参照。)。
【0013】
また、特許文献19では、PTFEラテックスからファインパウダーを製造する際に、予めPTFEラテックスに多量のフッ素系界面活性剤を共存させた上で凝析する粉体流動性に優れた0.52g/ml以上の高い見掛密度を有するPTFEファインパウダーの製法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭50−44241号公報
【特許文献2】特公昭59−36657号公報
【特許文献3】特公昭60−38418号公報
【特許文献4】特公昭62−58629号公報
【特許文献5】特公平1−60181号公報
【特許文献6】特開昭61−55145号公報
【特許文献7】特開昭61−261352号公報
【特許文献8】特開昭63−278961号公報
【特許文献9】特開平2−32154号公報
【特許文献10】特開昭61−127759号公報
【特許文献11】特開平5−186686号公報
【特許文献12】特開平5−214184号公報
【特許文献13】特開平6−306212号公報
【特許文献14】特開平7−324147号公報
【特許文献15】特開昭60−258263号公報
【特許文献16】特開平9−95583号公報
【特許文献17】特開平10−310707号公報
【特許文献18】特開平10−77378号公報
【特許文献19】国際公開第97/17382号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、従来のPTFEファインパウダーを用いたドリップ防止剤は、未だ凝集しやすい問題があり、取り扱い性が充分なものとはいえなかった。
【0016】
例えば、特許文献18では、PTFEモールディングパウダーが一般にフィブリル化し難いため、粉体の取り扱い性に優れ、易燃性熱可塑性樹脂と該樹脂の溶融状態で混練して剪断力を加えるとフィブリル化を生じドリップ防止能が発現すると記載されているが、成形品表面に繊維化せずに残留するPTFE粉末の白斑が発生しやすく、また十分なドリップ防止効果が得難いという問題がある。特許文献19においても、特許文献18と同様に、成形品表面に繊維化せずに残留するPTFE粉末の白斑が発生しやすい問題があった。
【0017】
本発明の目的は、取り扱い性に優れたドリップ防止剤を提供することにある。また、該ドリップ防止剤を含有する樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、平均粒径が300〜800μm、見掛密度が0.40〜0.52g/ml、圧縮性比が1.20以下、振動時間50秒における凝集崩壊度が70%以上、リダクションレシオ1500における円柱押出し圧力が80MPa以下、標準比重(SSG)が2.140〜2.230であり、かつ変性ポリテトラフルオロエチレンからなることを特徴とするドリップ防止剤である。
【0019】
本発明はまた、上記ドリップ防止剤及び熱可塑性樹脂からなることを特徴とする樹脂組成物でもある。
【0020】
熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、アクリルニトリル−スチレン樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、(ポリカーボネート)/(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン)アロイ樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、及び、ポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂は、ポリカーボネートであることが好ましい。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、更に、難燃剤からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のドリップ防止剤は、上述の構成よりなることにより、取り扱い性に優れる。また、本発明の樹脂組成物は、上記ドリップ防止剤からなるものであることから、取り扱い性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】圧縮性比および凝集崩壊度の測定方法を示した図である。
【図2】圧縮性比および凝集崩壊度の測定方法を示した図である。
【図3】圧縮性比および凝集崩壊度の測定方法を示した図である。
【図4】コーン型撹拌翼の一例を示す模式図である。(a)は、上向き型のコーン型撹拌翼、(b)は下向き型のコーン型撹拌翼、(c)は正面合せ型のコーン型撹拌翼、(d)はディスクソウを有するダブルコーン型撹拌翼である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者等がドリップ防止剤について鋭意検討したところ、特定構成のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーが、取り扱い性に優れるドリップ防止剤となることが見出された。
【0026】
本発明のドリップ防止剤は、平均粒径が300〜800μm、見掛密度が0.40〜0.52g/ml、圧縮性比が1.20以下、振動時間50秒における凝集崩壊度が70%以上、リダクションレシオ1500(RR1500)における円柱押出し圧力が80MPa以下、標準比重(SSG)が2.140〜2.230であり、かつ変性ポリテトラフルオロエチレンからなるものである。
【0027】
本発明のドリップ防止剤は、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、「変性PTFE」ともいう。)からなるものであり、上記変性ポリテトラフルオロエチレンからなるPTFEファインパウダーである。
本発明のドリップ防止剤は、上記構成のものであることによって、取り扱い性に優れる。なお、取り扱い性は、後述する圧縮性比と凝集崩壊性から評価することができ、圧縮性比は小さいほど、凝集崩壊性は大きいほど取り扱い性に優れるということができる。このようなドリップ防止剤は、凝集しにくいものとなり、また、凝集してもほぐれやすいものとなる。上記のように取り扱い性に優れるドリップ防止剤は、粉末流動性に優れるものとなり、ドリップ防止剤が自動定量供給機内で詰まるという問題も解消することができる。また、熱可塑性樹脂や他の粉体と混合する際に分散性に優れたものともなる。更に、樹脂等へ分散しやすいため、従来のPTFEファインパウダーを用いたドリップ防止剤よりも少ない添加量で効果を発揮しやすく、低コスト化を図ることもできる。
【0028】
上記変性PTFEは、フィブリル化性および非溶融二次加工性を有するものである。
【0029】
上記変性PTFEは、テトラフルオロエチレン〔TFE〕とTFE以外のモノマー(以下、「変性モノマー」ともいう。)とからなる変性PTFEである。変性PTFEは、融点が325〜347℃であることが好ましい。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)の昇温速度を10℃/分として測定した値である。
【0030】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン:エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF=CF−ORf (1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜5である。
【0031】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパープルオロプロピルビニルエーテル〔PPVE〕が好ましい。
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(1)において、Rfが炭素数4〜9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、mは、0又は1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、nは、1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
パーフルオロアルキルエチレンとしては特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン等が挙げられる。
【0036】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PPVE、PFBE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種の単量体である。
【0037】
上記変性PTFEにおいて、上記変性モノマー単位は、全単量体単位の1質量%以下であることが好ましく、0.001〜1質量%であることがより好ましい。本明細書において、上記変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味し、全単量体単位とは、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分を意味する。
【0038】
本発明のドリップ防止剤は、標準比重(SSG)が2.140〜2.230である。より好ましくは、2.150〜2.220である。標準比重が大きすぎると、樹脂に対する分散性が劣るおそれがあり、小さすぎると、ドリップ防止性能が十分発現しないおそれがある。標準比重(SSG)は、ASTM D 4895−89に準拠して測定した値である。
【0039】
本発明のドリップ防止剤は、見掛密度が0.40〜0.52g/mlである。より好ましくは、0.45〜0.52g/mlである。見掛密度が小さすぎると、粉体の取り扱い性が低下するおそれがあり、大きすぎると、樹脂に対する分散性が劣るおそれがある。
上記見掛密度は、JIS K6892に準拠して測定した値である。
【0040】
本発明のドリップ防止剤は、圧縮性比が1.20以下である。より好ましくは、1.15以下である。圧縮性比の下限は、例えば、1である。圧縮性比は、1に近いほうが好ましく、1に近いほどドリップ防止剤が凝集しにくく、取り扱い性に優れる。
圧縮性比は、下記(1)〜(6)に示す手順に従って、25℃の温度で測定した値である。
(1)SUS製円柱状カップ(内径:50mm(実測値:51.7mm),容量:150ml)の底面に円形(直径50mm)の薬包紙を敷き、さらにカップ内側面にも薬包紙を巻く。
(2)ドリップ防止剤を10メッシュの篩で篩い、メッシュパス50gを計量した後、上記円柱状カップに入れる。
(3)円柱状カップに入れたドリップ防止剤の粉面を平滑に均し、粉面に円形(直径50mm)の薬包紙を乗せる。
(4)粉面に乗せた薬包紙上に錘(直径50mm円柱、重量330g)を乗せ、ホソカワミクロン社製パウダーテスターでタッピング操作を20回行う(タッピング高さ20mm)。
(5)タッピング後、上記円柱状カップからドリップ防止剤からなる円柱状ケーキを取り出し、その高さをノギスで測定する。
(6)ケーキの断面積と高さから、ケーキの見掛密度を計算し、下記式(A)により圧縮性比を求める。
(圧縮性比)=(ケーキの見掛密度)/(ドリップ防止剤の見掛密度)(A)
なお、ドリップ防止剤の見掛密度は、上述したように、JIS K6892に準拠して測定された値である。
【0041】
本発明のドリップ防止剤は、振動時間50秒における凝集崩壊度が70%以上である。より好ましくは、80%以上である。凝集崩壊度は、値が大きいほうが好ましく、値が大きいほどほぐれやすく、取り扱い性及び粉末流動性に優れる。
振動時間50秒における凝集崩壊度は、下記(1)〜(7)に示す方法により25℃の温度で測定した値である。
(1)SUS製円柱状カップ(内径:50mm(実測値:51.7mm),容量:150ml)の底面に円形(直径50mm)の薬包紙を敷き、さらにカップ内側面にも薬包紙を巻く。
(2)ドリップ防止剤を10メッシュの篩で篩い、メッシュパス50gを計量した後、上記円柱状カップに入れる。
(3)円柱状カップに入れたドリップ防止剤の粉面を平滑に均し、粉面に円形(直径50mm)の薬包紙を乗せる。
(4)粉面に乗せた薬包紙上に錘(直径50mm円柱、重量330g)を乗せ、ホソカワミクロン社製パウダーテスターでタッピング操作を20回行う(タッピング高さ20mm)。
(5)タッピング後、上記円柱状カップからドリップ防止剤からなる円柱状ケーキを取り出す。
(6)取り出した円柱状ケーキを8メッシュの篩の上に載せ、ホソカワミクロン社製パウダーテスターで50秒間振動させる(振動メモリ4.5)。
(7)振動によって落下したドリップ防止剤の質量を測定し、凝集崩壊度を下記式(B)により求める。
(凝集崩壊度)=(振動により50秒間に篩を通過したドリップ防止剤の質量)/(ドリップ防止剤の全質量)×100(質量%) (B)
【0042】
本発明のドリップ防止剤は、平均粒径が300〜800μmである。好ましくは、400〜700μmである。平均粒径が小さすぎると、微粉末の存在割合が多くなり舞い立ちや付着等の問題が起こりやすくなるおそれがあり、大きすぎると、樹脂に対する分散性が劣るおそれがある。上記平均粒径は、JIS K6891に準拠して測定した値である。
【0043】
本発明のドリップ防止剤は、リダクションレシオ1500における円柱押出し圧力が80MPa以下であることが好ましい。より好ましくは、70MPa以下である。また、リダクションレシオ1500における円柱押出し圧力は50MPa以上であることが好ましい。
リダクションレシオ1500における円柱押出し圧力は、ドリップ防止剤50gと押出助剤である炭化水素油(商品名アイソパーG、エクソン化学株式会社製)10.25gとをガラス瓶中で混合し、室温(25±2℃)で1時間熟成し、シリンダー(内径25.4mm)付きの押出ダイ(絞り角30°で、下端にオリフィス(オリフィス直径:0.65mm、オリフィス長:2mm)を有する)に上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに1.2MPaの負荷を加えて1分間保持する。その後、直ちに室温においてラム速度20mm/分で上記混合物をオリフィスから押出し、ロッド状物を得る。押出後半において、圧力が平衡状態になる部分の圧力をシリンダー断面積で除した値を押出圧力とする。
【0044】
本発明のドリップ防止剤は、後述する製造方法により製造することができる。
【0045】
本発明のドリップ防止剤は、変性ポリテトラフルオロエチレン、水性媒体及び界面活性剤(A)を含む水性分散液を準備する工程(1)、該水性分散液を攪拌することにより、該水性分散液中の変性ポリテトラフルオロエチレンの凝析を開始する工程(2)、工程(2)の後に界面活性剤(B)を添加する工程(3)、凝析を終了させる工程(4)、変性ポリテトラフルオロエチレンの湿潤粉末を回収する工程(5)、及び、変性ポリテトラフルオロエチレンの湿潤粉末を乾燥させる工程(6)、を含む製造方法により好適に製造することができる。
【0046】
上記製造方法は、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕、水性媒体及び界面活性剤(A)を含む水性分散液を準備する工程(1)を含む。
【0047】
工程(1)における水性分散液の準備は、水性分散重合により行うこともできるし、水性分散重合(乳化重合)により得られた水性分散液を、イオン交換処理法、曇点濃縮法、電気濃縮法、限外ろ過法等により処理することによって行うこともできる。
【0048】
上記界面活性剤(A)としては、アニオン界面活性剤、含フッ素アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、及び、含フッ素ノニオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、含フッ素アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、含フッ素アニオン界面活性剤であることが更に好ましい。上記界面活性剤(A)として、炭素数が7以下、若しくは、6以下の含フッ素界面活性剤(含フッ素アニオン界面活性剤及び含フッ素ノニオン界面活性剤を含む)を用いて重合を行ったPTFEファインパウダーであっても、上記製造方法は有効である。
【0049】
上記含フッ素アニオン界面活性剤としては、例えば、カルボン酸系界面活性剤、スルホン酸系界面活性剤等が挙げられる。含フッ素アニオン界面活性剤としては、下記一般式(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)又は(vii)で表されるカルボン酸系界面活性剤が好ましい。
【0050】
上記含フッ素アニオン界面活性剤としては、一般式(i):
X−RfCOOM (i)
で表されるカルボン酸系界面活性剤が挙げられる。式中、XはH、F、またはClである。Rfは炭素数4〜14、好ましくは炭素数5〜7の直鎖または分岐のフルオロアルキレン基であり、例えば、炭素数7の直鎖または分岐のフルオロアルキレン基であり、とりわけ、直鎖または分岐のパーフルオロアルキレン基である。Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表す。
【0051】
一般式(i)で表されるカルボン酸系界面活性剤としては、例えば、C11COOH、C13COOH、C15COOH等やこれらの塩が挙げられる。
【0052】
上記含フッ素アニオン界面活性剤としてはまた、一般式(ii):
(CF−O−CX−(CF−O−CX−(CF−COOM (ii)
(式中、X、X、X、X及びXは、同一又は異なって、H、F又はCFを表し、Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表し、pは1又は2を表し、qは1又は2を表し、rは0又は1を表す。)で表されるカルボン酸系界面活性剤が挙げられる。一般式(ii)で表されるフルオロエーテルカルボン酸としては、例えば、CFOCF(CF)CFOCF(CF)COONH、CFCFOCFCFOCFCOONH、CFOCFCFCFOCHFCFCOONH等が挙げられる。
【0053】
上記含フッ素アニオン界面活性剤は、また、一般式(iii):
X−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)COOM
(iii)
で表されるカルボン酸系界面活性剤であってもよい。式中、XはH、F、またはClであり、mは1〜10の整数、例えば5であり、そしてnは0〜5の整数、例えば1である。Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表す。
【0054】
一般式(iii)で表されるカルボン酸系界面活性剤としては、例えば、CF−O−CF(CF)CFO−CF(CF)COOH等や、これらの塩が好ましいカルボン酸系界面活性剤として例示される。
【0055】
上記含フッ素アニオン界面活性剤は、一般式(iv):
X−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CHFCFCOOM
(iv)
で表されるカルボン酸系界面活性剤であってもよい。式中、X、m、n及びMは上記と同じである。
【0056】
上記含フッ素アニオン界面活性剤は、一般式(v):
X−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CHCFCOOM(v)
で表されるカルボン酸系界面活性剤であってもよい。式中、X、m、n及びMは上記と同じである。
【0057】
上記含フッ素アニオン界面活性剤としてはまた、一般式(vi)
RfOCFCFO(CFCOOM (vi)
(式中、Rfは部分または全部フッ素置換されたアルキル基を表し、Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表し、pは1又は2を表す。)で表されるカルボン酸系界面活性剤が挙げられる。Rfは、炭素数が1〜3のアルキル基であることが好ましい。一般式(vi)で表されるカルボン酸系界面活性剤としては、例えば、CFCFOCFCFOCFCOONH、CFCFOCFCFOCFCOOH等が挙げられる。
【0058】
上記含フッ素アニオン界面活性剤としてはまた、一般式(vii)
RfOCHFCFCOOM (vii)
(式中、Rfは部分または全部フッ素置換された、直鎖の脂肪族基又は1以上の酸素原子が挿入された直鎖の脂肪族基、Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表す。)で表されるフルオロエーテルカルボン酸が挙げられる。Rfは、炭素数が1〜3の脂肪族基であることが好ましい。一般式(vii)で表されるカルボン酸系界面活性剤としては、例えば、CFOCFCFCFOCHFCFCOONH、CFOCFCFCFOCHFCFCOOH等が挙げられる。
【0059】
すなわち、含フッ素界面活性剤は、一般式(i):
X−RfCOOM (i)
(式中、XはH、F、またはClである。Rfは炭素数4〜14、好ましくは炭素数5〜7の直鎖または分岐のフルオロアルキレン基である。Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表す。)で表されるカルボン酸系界面活性剤、一般式(ii):
(CF−O−CX−(CF−O−CX−(CF−COOM (ii)
(式中、X、X、X、X及びXは、同一又は異なって、H、F又はCFを表し、Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表し、pは1又は2を表し、qは1又は2を表し、rは0又は1を表す。)で表されるカルボン酸系界面活性剤、一般式(iii):
X−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)COOM
(iii)
(式中、XはH、F、またはClであり、mは1〜10の整数、nは0〜5の整数である。Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表す。)で表されるカルボン酸系界面活性剤、一般式(iv):
X−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CHFCFCOOM
(iv)
(式中、X、m、n及びMは上記と同じである。)で表されるカルボン酸系界面活性剤、一般式(v):
X−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CHCFCOOM(v)
(式中、X、m、n及びMは上記と同じである。)で表されるカルボン酸系界面活性剤、一般式(vi):
RfOCFCFO(CFCOOM (vi)
(式中、Rfは部分または全部フッ素置換されたアルキル基を表し、Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表し、pは1又は2を表す。)で表されるカルボン酸系界面活性剤、及び、一般式(vii):
RfOCHFCFCOOM (vii)
(式中、Rfは部分または全部フッ素置換された、直鎖の脂肪族基又は1以上の酸素原子が挿入された直鎖の脂肪族基、Mは1価のアルカリ金属、NH又はHを表す。)で表されるカルボン酸系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の含フッ素界面活性剤であることが好ましい。
【0060】
界面活性剤(A)として使用する上記ノニオン界面活性剤としては、フッ素を含有しないノニオン界面活性剤であれば特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル等のエーテル型ノニオン界面活性剤、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドブロック共重合体等のポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル型ノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等のアミン系ノニオン乳化剤が挙げられる。また、環境面で、アルキルフェノールを構造中に有しないノニオン界面活性剤を好ましく使用することができる。
【0061】
上記水性分散液は、界面活性剤(A)の濃度がPTFEに対して0.001〜10質量%であることが好ましく、0.005〜1質量%であることがより好ましい。
【0062】
工程(1)における水性分散液の準備は、水性分散重合により行うこともできるし、水性分散重合(乳化重合)により得られた水性分散液を、イオン交換処理法、曇点濃縮法、電気濃縮法、限外ろ過法等により処理することによって行うこともできる。
【0063】
上記水性分散重合は、回分操作、半回分操作及び連続操作の何れの操作でも実施でき、公知の重合方法が適用できる。上記水性分散重合において、上述した含フッ素アニオン界面活性剤、変性モノマー、重合開始剤、安定化剤、連鎖移動剤等は、重合反応の間、目的とするPTFEの分子量や特性に応じて連続的に添加することができ、適宜追加することもできる。上記水性分散重合は、一般的に0.5〜50時間行う。
【0064】
上記水性分散重合は、撹拌機が備えられた耐圧反応容器に、水性媒体中、含フッ素アニオン界面活性剤の存在下、撹拌しながら重合開始剤を用いて行われる。上記水性分散重合は、水性媒体と連鎖移動剤とモノマーと、必要に応じて安定化剤等とを仕込み、温度及び圧力を調整した後、重合開始剤を添加することにより開始することができる。
【0065】
上記水性分散重合は、上述の水性媒体中にモノマーを供給しながら行うことができる。上記水性分散重合は、上記モノマーとして、テトラフルオロエチレン〔TFE〕のみを供給するものであってもよいし、TFEに加え、TFEと共重合が可能な上述の変性モノマーとを供給するものであってもよい。
【0066】
上記水性媒体は、脱イオンされた高純度の純水であることが好ましい。
【0067】
上記含フッ素アニオン界面活性剤の重合反応系への仕込みは、種々の方法で行うことができ、例えば、反応開始前に全量を一括して反応系に仕込んでもよく、あるいは粒子径を制御する目的で特公昭44−14466号公報に記載されているような分割仕込みを行うことも可能である。また、重合中の水性分散液の安定性を向上させる点でも、重合中に追加あるいは連続添加することが好ましい。
【0068】
上記含フッ素アニオン界面活性剤の使用量は、その含フッ素アニオン界面活性剤の種類と目標とする一次粒子径にもよるが、一般に反応に用いる水性媒体に対して、0.02〜0.50質量%の範囲から選択することができる。
【0069】
必要に応じて反応系の分散安定化を目的として、安定化剤を添加してもよい。
上記安定化剤としては、実質的に反応に不活性なパラフィンワックス、フッ素系オイル、フッ素系化合物、シリコーンオイル等が好ましく、なかでも、パラフィンワックスが好ましい。
上記パラフィンワックスとしては、反応条件下で液状の炭素数12以上の炭化水素が好ましく、炭素数16以上の炭化水素がより好ましい。また、融点が40〜65℃であるものが好ましく、融点が50〜65℃であるものがより好ましい。
上記パラフィンワックスの使用量は、上記水性媒体の1〜12質量%に相当する量が好ましく、2〜8質量%に相当する量がより好ましい。
【0070】
また、反応中のpHを調整するために緩衝剤として、例えば炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどを添加してもよい。
【0071】
上記乳化重合における重合開始剤としては、TFEの重合において従来から使用されているものが使用できる。
上記乳化重合における重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、レドックス系重合開始剤等が好ましい。
上記重合開始剤の量は、少ないほど、SSGが低いTFE重合体を得ることができる点で好ましいが、あまりに少ないと重合速度が小さくなり過ぎる傾向があり、あまりに多いと、SSGが高いTFE重合体が生成する傾向がある。
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、水溶性過酸化物が挙げられ、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩、ジコハク酸パーオキサイド等の水溶性有機過酸化物等が好ましく、過硫酸アンモニウムがより好ましい。これらは、1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、重合温度と目標とするSSGに応じて適宜選択することができるが、一般的に使用される水系媒体の質量の1〜100ppmに相当する量が好ましく、1〜20ppmに相当する量がより好ましい。
上記重合開始剤としてラジカル重合開始剤を使用する場合、重合中にラジカル捕捉剤を添加することにより、SSGが低いTFE重合体を容易に得ることができる。
【0072】
上記ラジカル捕捉剤としては、例えば、非置換フェノール、多価フェノール、芳香族ヒドロキシ化合物、芳香族アミン類、キノン化合物等が挙げられるが、なかでもハイドロキノンが好ましい。
上記ラジカル捕捉剤は、SSGが低いPTFEを得る点で、重合反応に消費される全TFEの50質量%が重合される前に添加することが好ましく、該TFEの30質量%が重合される前に添加することがより好ましい。
上記ラジカル捕捉剤は、一般に使用される水系媒体の質量の0.1〜10ppmに相当する量が好ましい。
【0073】
上記レドックス系重合開始剤としては、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩、過硫酸塩、臭素酸塩等の水溶性酸化剤と、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、シュウ酸、塩化第一鉄、ジイミン等の還元剤との組合せが挙げられる。中でも、過マンガン酸カリウムとシュウ酸との組み合わせが好ましい。
上記重合開始剤としてレドックス系重合開始剤を使用する場合、SSGが低く、破断強度が高いTFE重合体が得ることができる。
上記レドックス系重合開始剤の使用量は、重合温度と目標とするSSGに応じて適宜選択することができるが、一般的に使用される水系媒体の質量の1〜100ppmに相当する量が好ましい。
上記レドックス系重合開始剤は、SSGが低いPTFEを得る点で、上記酸化剤又は還元剤の何れか、好ましくは酸化剤の添加を重合途中で中止することが好ましく、該添加中止時期としては、重合反応に消費される全TFEの50質量%が重合される前が好ましく、該TFEの30質量%が重合される前がより好ましい。
【0074】
上記水性分散重合は、重合中に生じる凝固物の量を減少させるために水性媒体に対して30〜200ppmのジカルボン酸の存在下に行うことが好ましい。上記ジカルボン酸は、重合反応の開始前に添加してもよいし、重合途中に添加してもよい。
上記ジカルボン酸としては、例えば、一般式:HOOCRCOOH(式中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基を表す。)で表されるものが好ましく、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸がより好ましく、コハク酸が更に好ましい。
【0075】
成形性や押出圧力、成形物品の透明性や機械的強度を調整する目的として、変性モノマーを用いることもできる。
【0076】
分子量や押出圧力を調整する目的として、必要に応じて連鎖移動剤を添加してもよい。上記連鎖移動剤としては、水素;メタン、エタン、プロパンなどの炭化水素;CHCF、CHCl、CHCl、CClFなどのハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノールなどの水溶性有機化合物などが挙げられる。添加する時期は添加する目的によって異なるが、重合初期に添加しても、重合途中に添加してもよく、また一括、分割、あるいは連続で仕込んでもよい。
【0077】
上記水性分散重合において、重合温度、重合圧力等の重合条件は、特に限定されず、使用するTFEの量、変性モノマーの種類や量、重合開始剤の種類や量、あるいは生産性等に応じて、適宜選択することができる。上記重合温度は、5〜100℃であることが好ましく、50〜90℃であることが更に好ましい。上記重合圧力は、0.1〜3.9MPaであることが好ましい。
【0078】
重合反応は、生成したポリマーラテックスの濃度が20〜45質量%になった時点で攪拌を停止し、系外にモノマーを放出して終了させることができる。
【0079】
上記製造方法は、工程(1)で準備した水性分散液を撹拌することにより、前記水性分散液中のポリテトラフルオロエチレンの凝析を開始する工程(2)を含む。当業者であれば、容器の大きさと撹拌翼の形状、邪魔板の構造によって、撹拌回転数を適切に選択することができる。通常、工程(2)における撹拌は水性分散重合における攪拌よりも激しく行う必要があることも当業者に公知である。一般に、水性分散液に激しいせん断を与えると、PTFEの一次粒子が凝集し、スラリー状態を経由して、水中で湿潤性粉末が形成された後、この湿潤粉末が撥水化し、水と分離する。
【0080】
工程(1)で準備した水性分散液を10〜20質量%のポリマー濃度になるように水で希釈してもよい。
【0081】
工程(1)において水性分散液を水性分散重合により準備する場合には、工程(1)と工程(2)とを連続して行ってもよい。
【0082】
工程(2)は、凝析剤を添加した後に、または凝析剤を添加したと同時に、撹拌を開始することにより凝析を開始する工程であることも好ましい。凝析剤は、無機酸、無機塩及び水溶性有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられ、無機塩としては、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。水溶性有機化合物としては、メタノール、アセトン、エタノール等が挙げられる。
【0083】
工程(2)において、必要に応じてpHを調整してもよい。工程(2)において、水性分散液の温度を0〜80℃に調整することが好ましく、水性分散液の比重を1.03〜1.20に調整することが好ましい。また、凝析前や凝析中に、着色のための顔料や導電性付与、機械的性質改善のための充填剤を添加することもできる。
【0084】
工程(2)は、工程(1)で準備した水性分散液を吐出流型攪拌翼で撹拌することにより、前記水性分散液中のポリテトラフルオロエチレンの凝析を開始する工程であることも好ましい。
【0085】
上記製造方法において、工程(2)は、工程(1)で準備した水性分散液を吐出流型撹拌翼で撹拌することにより、前記水性分散液中のポリテトラフルオロエチレンの凝析を開始する工程であることも好ましい。
【0086】
TFEの乳化重合から得られたPTFE水性分散液(一次粒子が水性媒体中に分散)に、強いせん断を与えることにより不安定化された一次粒子が凝集すると同時に、空気を抱き込み、水相から分離することでPTFEファインパウダーが得られる(フッ素樹脂ハンドブック(里川孝臣編)参照。)。水性分散液から一次粒子の凝集体(ファインパウダー)を取り出すと、所謂凝析によって得られたPTFEファインパウダーの比表面積は大きく、フィブリル化特性を有する。一方で、TFEの懸濁重合によって得られた粉末を造粒した粉末は、その比表面積が小さく、フィブリル化特性が乏しい。このように、PTFEの一次粒子が分散した水性分散液を撹拌することにより凝析することと、懸濁重合により得られたPTFE粉末を造粒することは本質的に異なるものである。
【0087】
吐出流型撹拌翼は、軸流を形成することができ、凝析により撥水化したファインパウダーを容易に水中に巻き込むことができるため、ファインパウダーが壊れにくく、撹拌による槽壁での転動効果が得られやすい。そのため、得られたファインパウダーは圧縮されにくく、ファインパウダーの凝集物は解れやすい、また、形状分布が小さい粉末が得られるものと考えられる。
【0088】
吐出流型撹拌翼としては、例えば、円筒、又は、コーン(円錐の上部を切り取った形状)の内部に、シャフトの回転により流動を誘発させる部位が内包されている撹拌翼が挙げられる。撹拌により流動を誘発させる部位としては、パドル型、アンカー型、リボン型、プロペラ型等の既存の撹拌翼であってもよいし、例えば、円筒、又は、コーンに直接接続された平板であってもよい。上記流動を誘発させる部位、あるいは、平板が直接接続された円筒又はコーンを回転させることにより、円筒又はコーンが存在することで軸流が発生し、撹拌することができる。
また、吐出流型撹拌翼としては、上記に例示した既存の撹拌翼の周囲に案内板または案内円筒が挿入されたものも挙げられる。案内板の形状、枚数は特に限定されない。案内円筒は、円筒型または円錐の上部を切り取った形状(コーン型)が好ましい。上記撹拌翼を回転させることにより、案内板または案内円筒が存在することで軸流が発生し、撹拌することができる。
中でも、吐出流型撹拌翼としては、図4に示すような、コーン型撹拌翼が好ましい。
【0089】
コーン型撹拌翼としては、上向き型のコーン型撹拌翼、下向き型のコーン型撹拌翼、正面合せ型のコーン型撹拌翼、ディスクソウを有するダブルコーン型撹拌翼等が挙げられる。図4は、コーン型撹拌翼の一例を示す模式図である。(a)は、上向き型のコーン型撹拌翼、(b)は下向き型のコーン型撹拌翼、(c)は正面合せ型のコーン型撹拌翼、(d)はディスクソウを有するダブルコーン型撹拌翼である。
コーン型撹拌翼としては、下向き型がより好ましい。
【0090】
当業者であれば、容器の大きさと撹拌翼の形状、邪魔板の構造によって、撹拌回転数を適切に選択することができる。通常、工程(2)における撹拌は水性分散重合における撹拌よりも激しく行う必要があることも当業者に公知である。一般に、水性分散液に激しいせん断を与えると、PTFEの一次粒子が凝集し、スラリー状態を経由して、水中で湿潤性粉末が形成された後、この湿潤粉末が撥水化し、水と分離する。
撹拌回転数は限定されるものではないが、一般的には、50〜1000rpmで行うことができる。
【0091】
なお、工程(2)において、吐出流型撹拌翼で撹拌を行う場合、通常、工程(4)で凝析を終了させるまで、吐出流型撹拌翼で撹拌を行う。
【0092】
上記製造方法は、工程(2)の後に界面活性剤(B)を添加する工程(3)を含む。
【0093】
上記界面活性剤(B)としては、例えば含フッ素アニオン界面活性剤、含フッ素ノニオン界面活性剤、含フッ素カチオン界面活性剤、含フッ素ベタイン界面活性剤等の含フッ素界面活性剤、炭化水素系ノニオン界面活性剤、炭化水素系アニオン界面活性剤等の炭化水素系界面活性剤等を挙げることができる。
【0094】
含フッ素アニオン界面活性剤としては例えば一般式(1)で表される化合物を挙げることができ、具体的にはCF(CFCOONH、CF(CFCOONa、H(CFCFCOONH等を例示できる。
【0095】
【化3】

【0096】
〔式中RはF又はCF、RはH、F又はCF、nは4〜20の整数、mは0又は1〜6の整数、RはCOOM又はSOM(ここでMはH、NH、Na、K又はLi)をそれぞれ示す。〕
【0097】
含フッ素ノニオン界面活性剤としては、例えば一般式(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0098】
【化4】

【0099】
〔式中R、R、n及びmは前記に同じ。kは0又は1、RはH、CH又はOCOCH、Rは(OCHCHOR(ここでpは0又は1〜50の整数、RはH、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜26の芳香族基)をそれぞれ示す。〕
【0100】
含フッ素カチオン界面活性剤としては、上記一般式(2)においてRが式(3)の基を示す化合物を例示できる。
【0101】
【化5】

【0102】
含フッ素ベタイン界面活性剤としては、上記一般式(2)においてRが式(4)の基を示す化合物を例示できる。
【0103】
【化6】

【0104】
炭化水素系ノニオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンアルキレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート等を挙げることができる。
【0105】
また炭化水素系アニオン界面活性剤としては、例えばアルキルカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルホスホン酸塩、アルキルリン酸塩等を挙げることができる。
【0106】
界面活性剤(B)としては、少量添加で効果に寄与できるノニオン界面活性剤が好ましく、炭化水素系ノニオン界面活性剤がより好ましい。
【0107】
界面活性剤(B)の使用量は、PTFE水性分散液中のポリマー固形分に対し1ppm〜10質量%が好ましい。界面活性剤(B)が少なすぎると取り扱い性に優れたPTFEファインパウダーを得ることができないおそれがあり、多すぎると界面活性剤(B)がファインパウダー中に残留しやすく着色するおそれがある。界面活性剤(B)の使用量の下限は、50ppmであることがより好ましく、上限は10000ppmであることがより好ましい。
【0108】
工程(3)において、界面活性剤(B)は、PTFEの一次粒子が凝集することによりスラリーが形成された後に添加することが好ましい。ファインパウダー内部に界面活性剤が取り込まれると、界面活性剤の添加効果が乏しく、またファインパウダーや成形物品の着色の原因となりやすいが、このタイミングで界面活性剤(B)を添加すると、少量の界面活性剤で本発明の所望の効果を得ることができる。同様の理由で、界面活性剤(B)は、PTFEの湿潤性粉末が形成された後に添加することがより好ましい。また、水から分離及び撥水化する直後又は水から分離及び撥水化する直前に添加することが好ましく、水から分離及び撥水化する直前に添加することが特に好ましい。
【0109】
上記製造方法は、工程(3)の後に凝析を終了させる工程(4)を含む。凝析の終了は撹拌を停止することにより行うことができる。凝析の終了は、スラリーが残留していないこと、また水相が透視できる透明度になっていることが確認できた後に終了させることが好ましい。また、凝析の終了は、水から分離してから(撥水化後)30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは3分間以上の撹拌を継続してから行うことが好ましい。
【0110】
また、凝析中のトルク変化、サウンドの変化を観察することにより、界面活性剤の添加のタイミング、凝析を終了させるタイミングを把握することが可能である。
【0111】
上記製造方法は、PTFEの湿潤粉末を回収する工程(5)を含む。ポリテトラフルオロエチレンの湿潤粉末の回収は、工程(4)で得られたPTFEの凝析粒子、水、及び、界面活性剤(B)の混合物から、PTFEの湿潤粉末をろ別することにより行うことができる。
【0112】
上記製造方法は、工程(4)により得られたPTFEの湿潤粉末を洗浄する工程を含むものであってもよい。洗浄は、上記湿潤粉末に水及び界面活性剤(B)を加え、PTFE粒子が撥水するまで撹拌を継続し、PTFEの湿潤粉末を回収することにより行うことができる。上記の撹拌を30〜90℃で行うと、さらに取り扱い性に優れるPTFEファインパウダーを得ることができる。上記撹拌の温度としては、30〜60℃がより好ましい。
【0113】
上記製造方法は、PTFEの湿潤粉末を乾燥させる工程(6)を含む。
【0114】
乾燥は、PTFEの湿潤粉末をあまり流動させない状態で、熱風などの加熱手段を用いて行うことが好ましく、減圧・真空と組み合わせてもよい。乾燥温度は、ポリマーの融点より低い温度であればよいが、通常100〜300℃の範囲が適している。また、乾燥温度は高い方が好ましく、180℃以上300℃未満がより好ましい。
【0115】
乾燥条件がペースト押出性能に影響を与える場合がある。ペースト押出圧力は、乾燥温度が高いほど高くなる傾向がある。また、粉末同士の摩擦、特に高温での摩擦は、ファインパウダーの性質に悪影響を与えやすい。これは、ファインパウダーが小さな剪断力でも簡単にフィブリル化して、元の粒子構造の状態を失い、ペースト押出性能の低下をもたらすためである。
【0116】
本発明の樹脂組成物は、上記ドリップ防止剤及び熱可塑性樹脂からなる。本発明の樹脂組成物は、上記ドリップ防止剤からなるものであるため、取り扱い性に優れる。
【0117】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、上記ドリップ防止剤0.01〜5重量部からなることが好ましい。より好ましくは、熱可塑性樹脂100重量部に対して、上記ドリップ防止剤0.03〜2重量部からなるものである。ドリップ防止剤が少なすぎると、所望のドリップ防止性が得られなくなるおそれがある。多すぎると、ドリップ防止性、金型からの離型性、成型品の摩擦特性は向上するものの、樹脂組成物中でのドリップ防止剤の分散不良が生じるおそれがある。
【0118】
上記熱可塑性樹脂は、易燃性熱可塑性樹脂であることが好ましく、易燃性熱可塑性樹脂を用いる場合、より優れたドリップ防止効果が奏される。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ブタジエンゴムグラフト共重合体(例えばABS樹脂)、アクリルゴムグラフト共重合体、シリコーン−アクリル複合ゴムグラフト共重合体、エチレンプロピレンゴムグラフト共重合体、HIPS、AS等のスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂(PA)、PMMA等のアクリル樹脂、その他各種ポリマーアロイであるPET/PBT、PC/PBT、PBT/ABS、PC/ABS、PA/ABS、PPE/PBT、PPE/HIPS、PPE/PA等が挙げられる。
中でも、ポリカーボネート、アクリルニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、(ポリカーボネート)/(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン)アロイ樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、及び、ポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂が好ましい。
【0119】
また、難燃要求レベルの高い用途、例えば家電・OA機器で、ハウジングや各種機構部品に使用される樹脂、例えばPC、PC系アロイ樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテルなどの樹脂を対象にするとき、優れたドリップ防止効果が奏される。例えば、熱可塑性樹脂としては、PC、PC/ABSアロイ樹脂、PC/PBTアロイ樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリフェニレンエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂が好ましい。中でも、ポリカーボネートが特に好ましい。
【0120】
本発明の樹脂組成物は、更に、難燃剤からなるものであることが好ましい。難燃剤からなるものであることにより、難燃性樹脂組成物として好適に使用可能である。
【0121】
難燃剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.001〜40重量部であることが好ましい。より好ましくは、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.01〜30重量部である。難燃剤が少なすぎると、難燃効果が不足する傾向にあり、多すぎると、経済的でないうえに、樹脂組成物の機械的性質(耐衝撃性など)が低下する傾向にある。
【0122】
難燃剤としては、例えば窒素、リン、アンチモン、ビスマスなどの周期律表5B族を含む化合物や、7B族のハロゲン化合物を含む化合物などが代表的である。ハロゲン化合物としては脂肪族、脂環族、芳香族有機ハロゲン化合物、たとえば臭素系のテトラブロモビスフェノールA(TBA)、デカブロモジフェニルエーテル(DBDPE)、オクタブロモジフェニルエーテル(OBDPE)、TBAエポキシ/フェノキシオリゴマー、臭素化架橋ポリスチレン、塩素系の塩素化バラフィン、パークロロシクロペンタデカンなどが挙げられる。リン化合物としては例えばリン酸エステル、ポリリン酸塩系などが挙げられる。また、アンチモン化合物がハロゲン化合物と組み合わせて使用することが好ましく、たとえば三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどが挙げられる。このほか、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化モリブデンも使用できる。これらの難燃剤は熱可塑性樹脂の種類に応じて、少なくとも1種と配合量を任意に選ぶことができ、これらに限定されるものではない。
【0123】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と本発明のドリップ防止剤とからなる。前記組成物は各成分を公知の方法によってブレンドして製造できるが、ブレンドする順序、粉末状態でブレンドするか分散体の状態でブレンドするか、あるいはブレンド機械の種類とその組み合わせなど、製造方法は限定されない。予め難燃剤と本発明のドリップ防止剤をブレンドしたあとで、混練り機に樹脂とともに供給したり、一部または全体が水性分散体もしくはオルガノゾルである熱可塑性樹脂に、本発明のドリップ防止剤をブレンドするなど、種々のブレンド方法が可能であり、これらのみに限定されるものではない。
【0124】
本発明の樹脂組成物には、公知の添加剤、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、成形助剤、炭酸カルシウム、ガラス繊維などを必要に応じて添加することができる。
【0125】
本発明のドリップ防止剤は、平均粒径が300〜800μm、見掛密度が0.40〜0.52g/ml、圧縮性比が1.20以下、振動時間50秒における凝集崩壊度が70%以上、リダクションレシオ1500における円柱押出し圧力が80MPa以下であり、標準比重(SSG)が2.140〜2.230の変性ポリテトラフルオロエチレンからなるPTFEファインパウダーである。このPTFEファインパウダーは、発塵埃性粉体からなる分粉体組成物に発塵埃性を付与することも可能である。上記PTFEファインパウダー及び発塵埃性粉体からなる粉体組成物は、上記PTFEファインパウダーからなるものであるため、発塵埃性を抑制した粉体組成物となり、取り扱い性及び作業性に優れるものとなる。
【0126】
発塵埃性粉体としては、各種コンクリート構造物のほか、土質改良剤として使用されるポルトランドセメント系組成物、土質改良剤として使用される生石灰、消石灰、肥料として使用されるケイ酸カルシウム、炭酸カルシウムその他フライアッシュ、スラグ、フェライト、アスファルタイト、製鋼炉集塵ダスト、シリカゲル、アルミナ、顔料、カーボンブラック、タルク、活性炭、難燃剤、酸化アンチモン、また赤泥や汚泥等のいわゆる粉粒状廃棄物等が例示される。
【0127】
上記粉体組成物は、発塵埃性粉体への配合量は発塵埃性粉体100重量部あたりPTFEファインパウダー0.005〜1.0重量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。PTFEファインパウダーが少なすぎると所望の塵埃抑制効果が得られなくなるおそれがある。多すぎると、効果が飽和するので経済的にも好ましくない。
【実施例】
【0128】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0129】
なお、実施例における各データは、下記測定方法で得られたものである。
【0130】
1.PTFEファインパウダー(ドリップ防止剤)の二次粒子の平均粒子径
JIS K6891に準拠して測定した。
【0131】
2.見掛密度
JIS K6892に準拠して測定した。
【0132】
3.標準比重(SSG)
ASTM D 4895−89に準拠して測定した。
【0133】
4.ペースト押出圧力
PTFEファインパウダー(ドリップ防止剤)50gと押出助剤である炭化水素油(商品名アイソパーG、エクソン化学株式会社製)10.25gとをガラス瓶中で混合し、室温(25±2℃)で1時間熟成する。次に、シリンダー(内径25.4mm)付きの押出ダイ(絞り角30°で、下端にオリフィス(オリフィス直径:0.65mm、オリフィス長:2mm)を有する)に上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに1.2MPaの負荷を加えて1分間保持する。その後、直ちに室温においてラム速度20mm/分で上記混合物をオリフィスから押出し、ロッド状物を得る。押出後半において、圧力が平衡状態になる部分の圧力をシリンダー断面積で除した値を押出圧力とする。
【0134】
5.圧縮性比
圧縮性比の測定には、ホソカワミクロン社製パウダーテスターを使用した。圧縮性比の測定は、25℃にて行った。圧縮性比の測定の概要を図1〜3に示す。SUS製円柱状カップ2(内径:50mm(実測値:51.7mm),容量:150ml)の底面に円形(直径50mm)の薬包紙を敷き、さらにカップ内側面にも薬包紙を巻いた。PTFEファインパウダー1(ドリップ防止剤)を10メッシュの篩で篩い、メッシュパス50gを計量した後、図1に示すように、円柱状カップ2に入れた。粉面を平滑に均し、粉面にも円形(直径50mm)の薬包紙を乗せた。図2に示すように、錘3(直径50mm円柱,重量330g)を乗せ、パウダーテスターでタッピング操作を20回行った(タッピング高さ20mm)。タッピング後、図3に示すように、円柱状カップ2からPTFEファインパウダーからなる円柱状ケーキ4を取り出し、その高さをノギスで測定した。ケーキの断面積と高さから、ケーキの見掛密度を計算した。また、圧縮性比を次式により求めた。
(圧縮性比)=(ケーキの見掛密度)/(PTFEファインパウダーの見掛密度)
圧縮性比は、1に近いほうが好ましく、1に近いほどファインパウダーが凝集しにくく、取り扱い性に優れることを示す。
【0135】
6.凝集崩壊度
凝集崩壊度の測定は、25℃にて行った。予め、振動メモリ5.5で振幅が1mmになるように振動強さを調整した。図3に示すように、円柱状ケーキ4を8メッシュの篩5の上に載せ、ホソカワミクロン社製パウダーテスターで振動させ(振動メモリ4.5)、5秒毎に振動によって落下したPTFEファインパウダー1(ドリップ防止剤)の質量を測定し、凝集崩壊度を次式により求めた。
(凝集崩壊度)=(振動により篩を通過したPTFEファインパウダーの質量)/(PTFEファインパウダーの全質量)×100(質量%)
凝集崩壊度は、値が大きいほうが好ましく、値が大きいほどほぐれやすく、取り扱い性に優れることを示す。
【0136】
7.変性剤含有量
ポリマー中の変性剤含有量(重量%)は、試料ポリマーの赤外吸収スペクトルバンドから求めた。
・クロロトリフルオロエチレン
957cm−1の吸収値(ピーク高さ)と2360cm−1の吸収値との比に0.58を乗じて得られる値
・パーフルオロプロピルビニルエーテル
995cm−1の吸収値と935cm−1の吸収値との比に0.14を乗じて得られる値
・ヘキサフルオロエチレン
983cm−1の吸収値と935cm−1の吸収値との比に0.3を乗じて得られる値
【0137】
重合例1
特開2005−298581号公報に記載された方法に準拠してPTFEラテックスを作製した。
ステンレス鋼(SUS316)製アンカー型攪拌翼と温度調節用ジャケットを備え、内容量が6リットルのステンレス鋼(SUS316)製オートクレーブに、脱イオン水3000g、パラフィンワックス120g及びパーフルオロオクタン酸アンモニウム4.4gを仕込み、70℃に加温しながら窒素ガスで3回、TFEガスで2回、系内を置換して酸素を除いた。その後、TFEガスで内圧を0.70MPaにし、280rpmで攪拌し、内温を70℃に保った。
重合槽内の温度が安定した後、重合初期の変性モノマーとしてヘキサフルオロプロピレン(HFP)を0.6g、続いて脱イオン水20gに過硫酸アンモニウム18mgを溶かした水溶液、及び脱イオン水20gにジコハク酸パーオキサイド270mgを溶かした水溶液をTFEで圧入し、オートクレーブ内圧を0.78MPaにした。反応は、加速的に進行したが、反応温度は70℃、攪拌は280rpmを保った。また、オートクレーブ内圧を常に0.78MPaに保つようにTFEを連続的に供給した。
重合開始剤を添加してから反応で消費されたTFE量が280gに到達した時点で撹拌及びTFEの供給を停止し、直ちに内圧が大気圧に達するまでオートクレーブ内のガスを放出した(TFEの排気)後、内圧が0.78MPaになるまでTFEを供給し、280rpmで再び撹拌を開始し、引き続き反応を行った。
重合開始剤を添加してから反応で消費されたTFE量が1264gに到達した時点で追加変性モノマーとしてHFP5gを槽内に仕込み、撹拌速度を240rpmに変更して反応を行った。
【0138】
重合開始剤を添加してから反応で消費されたTFE量が1400gに到達した時点でTFEの供給を停止し、直ちにオートクレーブ内のガスを常圧まで放出し反応を終了した。得られたPTFE水性分散液の固形分濃度は31.5重量%であった。また、平均一次粒子径は0.25μm、標準比重(SSG)は2.169、ポリマー中のHFP変性量は0.12重量%であった。
【0139】
実施例1
重合例1で得られたPTFE水性分散液に脱イオン水を加え、比重を1.080g/ml(25℃)に調整した。下向き型のコーン型撹拌翼と邪魔板を備えた内容量が17Lのステンレス鋼製凝析槽に、比重調整した上記PTFE水性分散液8.0Lを加え、液温が22℃になるように温度調節した。調節後直ちに撹拌速度600rpmで撹拌を開始した。撹拌開始後、水性分散液がスラリー状態を経て、湿潤粉末が形成され、湿潤粉末が水から分離する直前に、予め準備していた非イオン性界面活性剤 ラオールXA−60−50(ライオン株式会社製)1%水溶液46gを凝析槽内に添加し、3分間撹拌を継続した。
【0140】
続いて、得られた湿潤状態のポリマー粉末を濾別し、ポリマー粉末と40℃の脱イオン水8.5Lを予め40℃に温度調節した凝析槽に仕込み、撹拌速度600rpmでポリマー粉末を洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄の後、湿潤状態のポリマー粉末を濾別し、210℃の熱風循環式乾燥機内で18時間静置、乾燥を行い、ファインパウダーを得た。得られたファインパウダー(ドリップ防止剤)の平均粒子径、見掛密度、圧縮性比、凝集崩壊度を測定した。評価結果は、表1に示す。
【0141】
実施例2
洗浄温度を室温(25℃)に変更して実施すること以外は、実施例1と同様にしてファインパウダーを得た。実施例1と同様にして、得られたファインパウダーの平均粒子径、見掛密度、圧縮性比、凝集崩壊度を測定した。評価結果は、表1に示す。
【0142】
実施例3
凝析し水と分離する時に非イオン性界面活性剤水溶液を添加しない、及び洗浄温度を室温(25℃)に変更して実施すること以外は、実施例1と同様にしてファインパウダーを得た。実施例1と同様にして、得られたファインパウダーの平均粒子径、見掛密度、圧縮性比、凝集崩壊度を測定した。評価結果は、表1に示す。
【0143】
比較例1
下向き型のコーン型撹拌翼の代わりにアンカー型撹拌翼を使用すること、添加するPTFE水性分散液の液量を7.0Lに変更すること、凝析及び洗浄条件を表1のように変更すること、及び、非イオン性界面活性剤水溶液を添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてファインパウダーを得た。実施例1と同様にして、得られたファインパウダーの平均粒子径、見掛密度、圧縮性比、凝集崩壊度を測定した。評価結果は、表1に示す。
【0144】
【表1】

【0145】
実施例4〜6及び比較例2
ポリカーボネート(PC)/PTFEの混合と混合粉体の安息角及び凝集崩壊性評価
ポリカーボネート(PC)樹脂粉末1840gと、実施例1〜3、及び比較例1で得られたファインパウダー160gを計量し、予めポリエチレン袋内で充分シェイキングした後、ヘンシェルミキサーに投入し、撹拌速度500rpm、撹拌時間90秒で混合し、PC/PTFEの混合粉体(樹脂組成物)を得た。
【0146】
得られたPC/PTFE混合粉体の安息角と凝集崩壊度を測定した。PC/PTFE混合粉体の凝集崩壊度の測定は、タッピング回数を50回に変更する以外は、上述のPTFEファインパウダー(ドリップ防止剤)の凝集崩壊度と同様にして測定した。結果を表2に示す。安息角は、ホソカワミクロン社製パウダーテスターを用いて、測定温度25℃で測定した。
【0147】
【表2】

【0148】
難燃性評価
PC樹脂パンライトL−1225W(帝人化成株式会社製)6.63kg、PC/ABS樹脂マルチロンT−3714(帝人化成株式会社製)1.58kg、難燃剤として芳香族縮合リン酸エステル PX−200(大八化学工業株式会社製)1.3kg、及び上述のPC/PTFE混合粉体0.5kgをタンブラーミキサーで予備混合し、35φ二軸混練り押出機でペレット化し(混練条件 スクリュー回転数200rpm、ヘッド温度270℃、押出速度20kg/h)、難燃性樹脂組成物を得た。次に射出成形機(住友重機械株式会社製 SG50)を用いて、短冊状試験片(厚み1/16インチ)を作製し、UL94燃焼試験に準拠して難燃性の評価を行った。結果を表3に示す。表3の結果から、実施例1〜3で得られたドリップ防止剤は、比較例1で得られたドリップ防止剤と同等のドリップ防止性を発揮していることがわかる。
【0149】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明のドリップ防止剤は、各種樹脂の性質を改質するための樹脂添加剤として好適に用いられる。本発明の難燃性樹脂組成物は、家電、OA機器、通信分野の成形品に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0151】
1 ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー
2 円柱状カップ
3 錘
4 ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーの円柱状ケーキ
5 篩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が300〜800μm、見掛密度が0.40〜0.52g/ml、圧縮性比が1.20以下、振動時間50秒における凝集崩壊度が70%以上、リダクションレシオ1500における円柱押出し圧力が80MPa以下、標準比重(SSG)が2.140〜2.230であり、かつ変性ポリテトラフルオロエチレンからなることを特徴とするドリップ防止剤。
【請求項2】
請求項1記載のドリップ防止剤及び熱可塑性樹脂からなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、アクリルニトリル−スチレン樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、(ポリカーボネート)/(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン)アロイ樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、及び、ポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂である請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂は、ポリカーボネートである請求項2又は3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
更に、難燃剤からなることを特徴とする請求項2、3又は4記載の樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14773(P2013−14773A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187854(P2012−187854)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【分割の表示】特願2011−214052(P2011−214052)の分割
【原出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】