説明

ナノ粒子でコーティングされた医療器具及び血管疾患を治療するための製剤

ナノ粒子がコーティングされた医療器具、ナノ粒子含有製剤、及び血管疾患を治療するために使用する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、ナノ粒子でコーティングされた医療器具及び血管疾患の治療に用いられるナノ粒子含有製剤に関する。
【0002】
[発明の背景]
内臓及び血管系の疾患を治療するために生物学的に活性な薬剤を投与する従来の方法は、全身送達によるものであった。全身送達には、個々の場所に生物学的に活性な薬剤を投与するステップと、これに続く、罹患臓器又は血管系の罹患部分ももちろん含めた患者の全身に薬剤が移動するステップを含む。しかし、罹患部位に薬剤の治療量を確保するためには、薬剤が体内を移動する際に受ける希釈を補償するように、治療量よりかなり多くの初回用量を投与しなければならない。全身送達では、生物学的に活性な薬剤を2通りの方法で導入する。すなわち、消化管内(腸内投与)又は血管系内(非経口投与投与)への方法であり、血管系内へは、静脈内注射若しくは動脈内注射など直接的に、又は筋肉内注射、若しくは骨髄内注射など間接的に、いずれかの方法により行われる。吸収、分布、代謝、分泌及び毒性といった、ADMET諸因子は、これらの各経路による送達に、強い影響を及ぼす。腸内投与の場合、化合物の溶解度、胃の酸性環境におけるその安定性、及びその腸壁を透過する能力などの諸因子すべてが、薬剤吸収、したがってその生物学的利用能に影響を及ぼす。非経口投与の場合、酵素分解、親油性/親水性の分配係数、循環系における半減期、タンパク質結合などの諸因子が、薬剤の生物学的利用能に影響を及ぼす。
【0003】
もう一方の対極に位置する領域は局所送達で、これは生物学的に活性な薬剤を罹患部位に直接投与するステップを含む。局所化送達によれば、投与は治療部位に対して本質的に直接的であるために、ADMET諸因子は全身投与の場合に比較してあまり重要でなくなる傾向がある。したがって、初期用量は、治療量か又はこれに非常に近い量となりうる。時間と共に、局所送達された生物学的に活性な薬剤の一部は、より広い領域に拡散しうるが、それは局所化送達の意図するところではなく、拡散した薬剤濃度は、通常、準治療的、すなわち有益な効果を有するには濃度が低すぎる。それにもかかわらず、生物学的に活性な薬剤の局所化送達は、現在、癌やアテローム性動脈硬化症などの多くの疾患の治療に対する最先端のアプローチとみなされている。
【0004】
また、生物学的に活性な薬剤の局所化送達には、埋込型医療器具、例えばステントの使用も含めることができる。ステントは、様々な医学的手技、例えば、経皮経管冠動脈形成術(percutaneous transluminal coronary angioplasty)(PTCA)などで、重要な役割を演じる。ステントは、物理的に開通性を保持するように、また希望する場合には、対象内の流路を拡張するように、機械的介入としての役割を果たす。しかし、ステントの使用に伴う問題として、ある特定の手技後数ヶ月に発現し、追加の血管形成術又は外科的バイパス手術の必要性をもたらす可能性のある血栓症及び再狭窄が挙げられる。
【0005】
生物学的に活性な薬剤の局所化送達には、生物学的に活性な薬剤を含有する組成物の標的送達も含まれる。この方法は、生物学的に活性な薬剤と、血管系内の罹患部位に存在し、好ましくはこの部位に限定される生化学的要素と、特異的に相互作用するように設計された標的部分を含む組成物を投与するステップからなる。
【0006】
生物学的に活性な薬剤を含有する組成物は、ナノ粒子を含有することができる。最大線寸法が約400nm以下であるナノ粒子は、血管壁透過能力を有し、この能力は疾患部位に生物学的に活性な薬剤を送達するための効果的な手段を提供する。しかし、当技術分野には、多くの部分を喪失することなくナノ粒子を体循環に投与する手段、又はナノ粒子が内皮を標的対象とするようにするための手段が欠けている。
【0007】
本発明は、内皮標的性が増強されたナノ粒子含有製剤、ナノ粒子でコーティングされた医療器具、及び血管疾患を治療するためにそれぞれを使用する方法を提供する。
【0008】
[発明の概要]
本発明は、複数のナノ粒子を含有するコーティングを含む埋込型医療器具に関し、このナノ粒子は、このナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含み、また更に、このナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数のコントラスト増強剤を含む。
【0009】
様々な態様においては、ナノ粒子は、ミセル、リポソーム、ワームミセル、ポリマソーム、ポリマー粒子、又はヒドロゲル粒子である。
【0010】
様々な態様においては、ミセル、リポソーム、ワームミセル、ポリマソーム、又はポリマー粒子は、両親媒性ブロックコポリマーを含む。
【0011】
様々な態様においては、生物学的に活性な薬剤は、コルチコステロイド、エベロリムス、エベロリムス誘導体、ゾタロリムス、ゾタロリムス誘導体、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、バイオリムスA9、ビスホスホネート、ApoA1、突然変異ApoA1、ApoA1ミラノ、ApoA1模倣ペプチド、ABC A1作動薬、抗炎症薬、抗増殖薬、血管新生阻害薬、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、及びメタロプロテイナーゼの組織阻害剤を含む群から選択される。
【0012】
様々な態様においては、1種又は複数のコントラスト増強剤は、ヨウ素、バリウム、硫酸バリウム、及びガストログラフィンを含む群から選択される。1種又は複数のコントラスト増強剤は、光学、磁気共鳴、音響、超音波、X線、γ線、及び放射線が介在する画像モダリティを含む群から選択される1つ又は複数の画像モダリティを増強する。
【0013】
様々な態様においては、ナノ粒子は更に、このナノ粒子の表面に作動的に結合した内皮に結合親和性を有する第1の官能基を含む。
【0014】
第1の官能基は、1つ又は複数の第1のペプチド、第1のタンパク質、第1のオリゴヌクレオチド、又はこれらの任意の組合せでありうる。
【0015】
第1の官能基が、1つ又は複数の第1のペプチドである場合には、それは、RGD配列又は抗体断片でありうる。
【0016】
第1の官能基が、1つ又は複数の第1のタンパク質である場合には、それは、抗体又はアフィボディーでありうる。1つ又は複数の第1のタンパク質が、抗体である場合には、それは、抗細胞間接着分子、抗血管細胞接着分子、抗インテグリン、抗血小板内皮細胞接着分子、抗トロンボモジュリン、抗e−セレクチン、抗フィブロネクチン、抗シアリルルイス[b]グリカン、抗内皮性グリコカリックスタンパク質、抗カドヘリン、又はこれらの任意の組合せである。
【0017】
第1の官能基が、1つ又は複数の第1のオリゴヌクレオチドである場合には、それはアプタマーでありうる。
【0018】
様々な態様においては、ナノ粒子は更に、このナノ粒子の表面に作動的に結合した、機能障害性の内皮上の表面発現分子に結合親和性を有する第2の官能基を含む。1つの実施形態において、第2の官能基は、抗接合接着分子(anti−junction adhesion molecule)、又は抗白血球接着分子でありうるアプタマーである。
【0019】
様々な態様においては、ナノ粒子は更に、このナノ粒子の表面に作動的に結合した血管細胞壁成分に結合親和性を有する第3の官能基を含む。様々な実施形態において、第3の官能基は、1つ又は複数の脂質、第3のペプチド、第3のタンパク質、第3のオリゴヌクレオチド、又はこれらの任意の組合せを含む。
【0020】
第3の官能基が、1つ又は複数の脂質を含む場合には、それはオレイン酸、ステアリン酸、又はオレイン酸誘導体でありうる。
【0021】
第3の官能基が、1つ又は複数の第3のペプチドを含む場合には、それは抗体断片でありうる。
【0022】
第3の官能基が、1つ又は複数の第3のタンパク質を含む場合には、それは抗体又はアフィボディーでありうる。それが抗体である場合には、それは抗エラスチン、抗コラーゲン、抗組織因子、抗ラミニン、又はこれらの任意の組合せである。
【0023】
第3の官能基が1つ又は複数の第3のオリゴヌクレオチドを含む場合には、それはアプタマーでありうる。
【0024】
様々な態様においては、ナノ粒子は更に、このナノ粒子の表面に作動的に結合したステルス基を含む。様々な実施形態において、ステルス基は、ポリ(エチレングリコール)、オリゴ糖、多糖、ポリ(ビニルピロリドン)、グルロン酸、又はポリアクリルアミドである。
【0025】
本発明の別の態様は、本発明の埋込型医療器具を提供するステップと、当該医療器具を患者に埋込むステップとを含む、血管疾患を治療するための方法に関する。治療対象となる血管疾患には、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、不安定プラーク、及び末梢動脈疾患が含まれる。
【0026】
本発明の別の態様は、血液の密度に類似した密度を有する第1のナノ粒子集団、及びこの第1のナノ粒子集団の表面に作動的に結合するように改変された、血液の密度と異なる密度を有する第2のナノ粒子集団を含む製剤に関し、当該第2のナノ粒子集団が、当該第1のナノ粒子集団に結合している場合には、血液の密度と異なる密度を有する超集合体を形成する。
【0027】
様々な態様においては、第1のナノ粒子集団は、このナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含む。適する生物学的に活性な薬剤は上に記載されている。
【0028】
様々な態様においては、第1のナノ粒子集団は、ミセル、ワームミセル、ポリマソーム、ポリマー粒子、リポソーム、又はヒドロゲル粒子からなる。
【0029】
1つ実施形態においては、第2のナノ粒子集団は、血液の密度より低い密度を有する。別の実施形態においては、第2のナノ粒子集団は、血液の密度より高い密度を有する。
【0030】
様々な態様においては、第2のナノ粒子集団は、生物学的安定性のあるポリマー又は生物吸収性のポリマーからなる。生物学的安定性のあるポリマーには、ポリイソブチレン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリプロペリン、ポリビニルエチレン、ポリブチレン、メタクリル酸ポリドデシル、アモルファスポリエチレン、又はこれらの任意の組合せが含まれる。生物吸収性のポリマーには、コハク酸ポリブチレン、ポリセバシン酸グリセロール、ポリd,lラクチド、又はこれらの任意の組合せが含まれる。
【0031】
様々な態様においては、第2のナノ粒子集団は、生物吸収性のガラス又は生物吸収性のケイ酸塩を原料とすることができる。
【0032】
本発明の別の態様は、本発明による製剤を提供するステップと、製剤を必要とする患者の血管疾患部位に、治療上有効な量の製剤を投与するステップとを含む、血管疾患を治療するための方法に関する。
【0033】
血管疾患部位に製剤を投与するステップには、経皮経管冠動脈送達により、又はカテーテルを使用することにより可能な動脈内送達が含まれる。
【0034】
治療対象となる血管疾患には、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、不安定プラーク、及び末梢動脈疾患が含まれる。
【0035】
本発明の別の態様は、血管疾患を治療するための別の方法に関する。この方法には、血液の密度と異なる密度を有する複数のナノ粒子を含み、更にこのナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含む製剤を提供するステップと、患者の血管疾患部位に生物学的に活性となるのに有効な量の製剤を投与するステップとを含む。
【0036】
1つの実施形態においては、このナノ粒子集団は、血液の密度より低い密度を有する。別の実施形態においては、このナノ粒子集団は、血液の密度より高い密度を有する。
【0037】
適する生物学的に活性な薬剤は上に記載されている。
【0038】
様々な態様においては、ナノ粒子は、生物学的安定性のあるポリマー又は生物吸収性のポリマーからなる。適する生物学的安定性のあるポリマー及び生物吸収性のポリマーは、上に記載されている。
【0039】
本製剤の投与は、上記に従って実施可能である。
【0040】
治療対象となる血管疾患は上に記載されている。
【0041】
[発明の詳細な説明]
多くの事例において、生物学的に活性な薬剤の局所的血管内投与は、当技術分野において顕しい向上をもたらすと考えられる。しかし、局所的血管内薬剤送達システムを開発する際に念頭に置かなければならない特別な配慮がある。例えば、このシステムは凝血又は血栓形成性を助長してはならない。更に、このシステムでは、血管系を経由する定常的な血流が、生物学的に活性な薬剤を急速に希釈してしまう事実を念頭に置く必要がある。本発明は、ナノ粒子でコーティングされた埋込型医療器具、及び血管内に安全に送達可能なナノ粒子製剤を提供し、これらは疾患部位を特異的に標的として、所望の期間、生物学的に活性な薬剤を放出することが可能である。
【0042】
特に、本発明は、複数のナノ粒子を含有するコーティングを含む埋込型医療器具に関し、このナノ粒子は、このナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含み、また更に、このナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数のコントラスト増強剤を含む。
【0043】
本明細書で用いる、「埋込型医療器具」とは、外科的若しくは内科的に患者の体内に、又は医学的介入により体腔内に全体的又は部分的に導入される、あらゆる種類の機器を指す。埋込の期間は本質的に永久でありえ、すなわち、患者の余命期間、器具が生分解されるまで、又は物理的に除去されるまで、その場に留めることが意図されうる。現時点で好ましい埋込型医療器具として、カテーテル及びステントが、これらに限定されずに挙げられる。ステントは自己拡張型ステント、又はバルーン拡張型ステントでありうる。器具の基底構造は実質的に任意の設計でありうる。器具は、金属材料又は合金、例えば、コバルトクロム合金(ELGILOY)、ステンレス鋼(316L)、高窒素ステンレス鋼、例えば、BIODUR 108、コバルトクロム合金L−605、「MP35N」、「MP20N」、ELASTINITE(Nitinol)、タンタル、ニッケル−チタン合金、プラチナ−イリジウム合金、金、マグネシウム、又はこれらの組合せを、但し、これらに限定されず原料とすることができる。「MP35N」及び「MP20N」は、ペンシルベニア州、ジェンキンタウンのStandard Press Steel Co.より入手可能な、コバルト、ニッケル、クロム、及びモリブデンの合金に関する商標名である。「MP35N」は、コバルト35%、ニッケル35%、クロム20%、及びモリブデン10%からなる。「MP20N」は、コバルト50%、ニッケル20%、クロム20%及びモリブデン10%からなる。生物吸収性のポリマー又は生物学的安定性のあるポリマーを原料とする器具も、本発明の実施形態と共に使用可能であり、当業者にとって既知である。
【0044】
本明細書で用いる、「ナノ粒子」とは、1つ又は複数のポリマーからなる微細粒子を指し、500ナノメーター未満の最大線寸法を含むナノメーター(nm)の大きさである。本明細書で用いる、線寸法とは、ナノ粒子表面上の任意の2点間を直線で計測したときの距離を指す。
【0045】
本発明のナノ粒子は、生物学的安定性のあるポリマー、生物吸収性のポリマー、又はこれらの組合せを含む、但しこれらに限定されない、一連の材料から構成されうる。生物学的安定性とは、インビボで分解されないポリマーを指す。生物吸収性、生分解性、及び生体侵食性、並びに、吸収される、分解される、及び侵食される、の用語は交換可能(文脈上、別途明記されない限り)に使用され、そして、患者の疾患部位に送達された後、例えば、血液などの体液に曝露されたときに分解を受け、又は吸収される能力を有し、また身体によって徐々に再吸収、吸収及び/又は排泄されうるポリマーを指す。
【0046】
本発明のナノ粒子には、送達後、1.0秒〜100時間内、10.0秒〜10時間内、又は1分〜1時間内に生分解及び生体侵食する、生分解性材料及び生体侵食性材料を含めることができる。既知の分解速度を有するナノ粒子の形成方法は当業者に知られている。例えば、これら全体が本明細書に参照(参考)として組み込まれる、Gregoriadisらの米国特許第6,451,338号明細書、Samuelらの米国特許第6,168,804号明細書、及びSchneiderらの米国特許第6,258,378号明細書を参照されたい。
【0047】
適するナノ粒子としては、ミセル、ワームミセル、リポソーム、ポリマソーム、ヒドロゲル粒子、及びポリマー粒子が挙げられる。
【0048】
本明細書で用いる、「ミセル」とは、水溶液中に存在する両親媒性分子の超分子組織体を指す。両親媒性分子は、溶質、特に水に対する親和性が異なる2つの特徴的な要素を有する。極性溶質である水に対して親和性を有する分子部分は、親水性と呼ばれる。炭化水素などの非極性溶質に対して親和性を有する分子部分は、疎水性と呼ばれる。両親媒性の分子を水溶液中に存在させると、親水性部分は水と相互作用しようとし、一方、疎水性部分は水を避けようとし、すなわちこれらは水の表面で凝集する。このような効果を有する両親媒性の分子は、「界面活性剤」として知られている。臨界ミセル濃度(CMC)に達すると、界面活性剤分子は、自己会合して分子の親水性末端を外側に向け、すなわち、水と接触してミセルコロナ(micelle corona)を形成し、疎水性の「尻尾」は球体の中心部に向いている球体となる。
【0049】
ワームミセルは、その名が示唆する通り、球形ではなく円筒形をしている。これは、親水性ポリマー−b−疎水性ポリマー構造内の全ブロックコポリマーの分子量に対する親水性ポリマーブロックの重量比を変えることにより調製される。ワームミセルは、球形ポリマーミセルとして生体不活性であり、安定であるだけでなく、柔軟でもあるという潜在的利点を有する。ワームミセルを作り出すために、ポリ(乳酸)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(エチルエチレン)、及びポリブタジエンなど、但しこれらに限定されずに、いくつかの疎水性ポリマーと共に、ポリエチレンオキシドが幅広く用いられてきた。ワームミセルの形成、特徴づけ、及び薬物負荷に関する代表的な解説は、Kim, Y.らのNanotechnology、2005年、16:S484〜S491頁に見出すことができる。上記文献に記載されている技術、並びに現在知られている技術、又は将来知られる可能性のあるその他の技術を、本発明で使用することができる。
【0050】
水性媒体中に懸濁された生物学的に活性な薬剤を、ミセル又はワームミセルの疎水的な中心部に取り込み、可溶化することができ、これは、生物学的利用能の増加、並びに生物学的環境内における安定性の改善を実現することができ、これにより、薬物動態が改善され、おそらくは生物学的に活性な薬剤の毒性も低減される。更に、ミセルは、一般的に約5nm〜約100nmのナノスケールの大きさであることから、漏洩性の血管系、リンパ排液障害が存在する病理学的部分において、ミセルは自発的な集積、すなわち透過性及び保持性の増強効果(Enhanced Permeability and Retention Effect)又はERP効果として知られている現象を示すことが明らかにされた。
【0051】
本明細書で用いる、「リポソーム」とは、典型的には、リン脂質からなる二分子層によって完全に閉ざされた区画を指す。リポソームは当業者に既知の標準的な技術に基づき調製可能である。例えば、それに限定されないが、適当な脂質、例えばジ−アシルホスファチジルコリンを水性媒体中で懸濁させて、続いてこの混合物に超音波をかけると、リポソームが形成される。或いは、エタノール−水内で脂質溶液を急速に混合、例えば、振盪したエタノール−水溶液中に、ニードル経由で脂質を注入すれば、脂質小胞を形成することができる。また、リポソームは、その他の両親媒性物質、例えば、スフィンゴミエリン又は脂質を含有するポリ(エチレングリコール)(PEG)からも構成されうる。
【0052】
本明細書で用いる、「ポリマソーム」とは、リポソームに類似した二分子層構造を形成するように改変されたジブロック又はトリブロックコポリマーを指す。ブロックコポリマー中のポリマーの長さ及び組成に依存して、ポリマソームは、リポソームよりかなり丈夫でありうる。更に、ブロックコポリマーの各ブロックの化学的性質が制御可能であることから、ポリマソームの組成を所望の用途に調整することが可能になる。例えば、膜厚、すなわち、二分子層構造の厚さは、個々のブロックの鎖長を変化させることにより制御可能である。ブロックのガラス転移点を調節すると、流動性、したがって膜の透過性に影響を及ぼす。薬剤放出機構さえも、ポリマーの性質を変えることにより改変可能である。
【0053】
有機溶媒にコポリマーを溶解し、容器の表面にこれを塗布し、次いで溶媒を除去して容器の壁にコポリマーのフィルムを形成することにより、ポリマソームを調製することができる。次に、このフィルムを水和してポリマソームを形成する。ブロックコポリマーを溶媒中で溶解し、次いでブロックの1つに対して弱溶媒を添加してもポリマソームができる。ポリマソームを調製するその他の手段は当業者に既知であり、本発明の範囲に含まれる。
【0054】
ポリマソームは、コポリマーフィルムを再水和させるために用いる水に、生物学的に活性な薬剤を含めることにより、生物学的に活性な薬剤を封入するのに用いることができる。浸透圧を利用して生物学的に活性な薬剤を、予め形成されたポリマソームのコアに導入する、強制負荷(force loading)として知られているプロセスも利用可能である。二重エマルジョン技術を用いれば、比較的単分散性であり高負荷効率のポリマソームも可能である。この技術には、有機溶媒層に囲まれた水滴を含む二重エマルジョンを生成させるための、マイクロ流体技術の使用が含まれる。次に、この液滴中に小滴が存在する構造(droplet−in−a−drop structure)を、連続水相に分散させる。ブロックコポリマーは有機溶媒に溶解し、自己会合して二重エマルジョンの同心円状の界面(concentric interface)上でプロト−ポリマソーム(proto−polymersome)となる。シェルから有機溶媒を完全に蒸発させると、実際のポリマソームができる。この手順は、ポリマソームの大きさについて精密な制御を可能にする。更に、プロセス全体を通じて、外液から内液を完全に分離して維持することができるので、極めて高効率な封入を可能にする。
【0055】
本明細書で用いる、「ヒドロゲル粒子」とは、通常、水性環境において吸収性を有するが、安定性のある、ポリマー鎖の弱く架橋したネットワークを指す。ヒドロゲル粒子は、当業者に既知の方法により、生物学的に活性な薬剤を封入するために用いることができる。
【0056】
本明細書で用いる、「ポリマー粒子」とは、リポソームやポリマソームのシェル構造、及び比較的空隙性の高い構造のヒドロゲル粒子とは対照的に、固体粒子又は多孔性粒子を指す。ポリマー粒子の表面に生物学的に活性な薬剤を接着する方法、又はポリマー粒子の構造中に生物学的に活性な薬剤を組み込む方法、又はポリマー粒子の構造中に生物学的に活性な薬剤を埋込む方法は、当業者に既知である。
【0057】
本発明のナノ粒子を調製するために用いることができるポリマーとして、ポリ(N−アセチルグルコサミン)(キチン)、キトサン、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレート)、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコリド)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(L−ラクチド−co−カプロラクトン)、ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリエステルアミド、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、co−ポリ(エーテル−エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリホスファゼン、生体分子(フィブリン、フィブリン接着剤、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸、エラスチン、及びヒアルロン酸など)、ポリウレタン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレンとエチレン−アルファオレフィンのコポリマー、アクリル酸ポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー(ポリ塩化ビニルなど)、ポリビニルエーテル(ポリビニルメチルエーテル)、ポリハロゲン化ビニリデン(例えばポリ塩化ビニリデン)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族(ポリスチレンなど)、ポリビニルエステル(ポリビニルアセテートなど)、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、ポリアミド(ナイロン66及びポリカプロラクタムなど)、チロシンベースのポリカーボネートを含むポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、フラーレン、及び脂質が、これらに限定されずに挙げられる。
【0058】
本発明の特定の態様では、本発明のナノ粒子を調製するために用いることができるポリマーとして、生物学的安定性のあるポリマー、例えば、ポリイソブチレン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリプロペリン、ポリビニルエチレン、ポリブチレン、メタクリル酸ポリドデシル、アモロファスポリエチレン、パリレン、ポリビニリデンジフルオリド又はこれらの任意の組合せなど、及び生体吸収性のポリマー、例えば、コハク酸ポリブチレン、ポリセバシン酸グリセロール、ポリd,lラクチド、又はこれらの任意の組合せなどが挙げられる。
【0059】
本発明のナノ粒子は、多孔性の生物吸収性ガラス又は生物吸収性ケイ酸塩を原料とすることもできる。
【0060】
本発明のナノ粒子は、このナノ粒子に内封された、その表面に接着された、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤、及び1種又は複数のコントラスト増強剤を有する。
【0061】
本明細書で用いる、「内封された」とは、生物学的に活性な薬剤又はコントラスト増強剤が、ナノ粒子の外表面に含まれることを意味する。
【0062】
本明細書で用いる、「の表面に接着された」とは、生物学的に活性な薬剤又はコントラスト増強剤が、ナノ粒子の外表面に共有結合的に、又は非共有結合的に結合していることを意味する。
【0063】
本明細書で用いる、「の構造内に組み込まれた」とは、生物学的に活性な薬剤又はコントラスト増強剤が、ナノ粒子を構成する物質の化学的構造の一部であることを意味する。
【0064】
本明細書で用いる、「コントラスト増強剤」とは、画像モダリティにより可視化されうる化学薬品を指し、特定の細胞及び/又は身体の部分を、これらがより容易に観察できるように強調させるために用いることができる。適するコントラスト増強剤として、ヨウ素、バリウム、硫酸バリウム、及びガストログラフィンが挙げられる。
【0065】
本明細書で用いる、「生物学的に活性な薬剤」とは、生物学的プロセスに影響を与えるあらゆる物質、或いは、その用途が、医学的治療、又は獣医による治療、又は予防であるあらゆる物質を指す。
【0066】
生物学的に活性な薬剤とは、疾患に罹患している患者に、生物学的に活性となるのに有効な量を投与したときに、患者の健康及び福祉に対して生物学的に活性で有益な治療効果を有する、生物学的に活性な薬剤を指す。患者の健康及び福祉に対する生物学的に活性で有益な効果には、(1)疾患の治癒、(2)疾患の進行遅延、(3)疾患の退化促進、又は(4)疾患の1つ又は複数の症状の緩和が、これらに限定されずに含まれる。
【0067】
また、生物学的に活性な薬剤とは、患者に投与したときに、疾患若しくは障害の発現を防ぐ、又は疾患若しくは障害の再発を遅らせる薬剤も指す。このような生物学的に活性な薬剤は、予防的に生物学的に活性な薬剤としても呼ばれる場合が多い。
【0068】
生物学的に活性な薬剤は、本明細書では薬剤又は治療薬とも呼ぶが、これは、抗増殖薬、抗炎症薬、抗新生物薬、抗分裂薬、抗血小板薬、抗凝固薬、抗フィブリン薬、抗トロンビン薬、細胞増殖抑制剤、抗生物質、抗アレルギー薬、抗酵素薬(anti−enzymatic agent)、血管形成薬、細胞保護薬、心臓保護薬、増殖薬、及びABC A1作動薬又は抗酸化薬でありうる。
【0069】
抗増殖薬の例としては、アクチノマイシンD、又はその誘導体又はその類似体が、これらに限定されずに含まれ、すなわち、アクチノマイシンDは、ダクチノマイシン、アクチノマイシンIV、アクチノマイシンI、アクチノマイシンX、及びアクチノマイシンCとしても知られている。抗増殖薬は、天然タンパク質系薬剤、例えば細胞毒素などであっても、また合成分子であってもよく、すべてのタキソイド類、例えばタキソール、ドセタキセル、及びパクリタキセル、パクリタキセル誘導体など、すべてのオリムス薬、例えばマクロライド系抗生物質、ラパマイシン、エベロリムス、ラパマイシンの構造的誘導体及び機能的類似体、エベロリムスの構造的誘導体及び機能的類似体、FKBP−12媒介mTOR阻害剤、バイオリムス、パーフェニドンなど、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ(co−drug)、及びこれらの組合せであってもよい。代表的なラパマイシン誘導体としては、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、又は40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0070】
抗炎症薬の例として、ステロイド性抗炎症薬、非ステロイド性抗炎症薬、又はこれらの組合せが、これらに限定されずに挙げられる。いくつかの実施形態では、抗炎症薬としては、クロベタゾール、アルクロフェナク、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、アルゲストンアセトニド、α−アミラーゼ、アムシナファル、アムシナフィド、アンフェナクナトリウム、塩酸アミプリロース、アナキンラ、アニロラク、アニトラザフェン、アパゾン、バルサラジド二ナトリウム、ベンダザク、ベノキサプロフェン、塩酸ベンジダミン、ブロメラインス、ブロペラモール、ブデソニド、カルプロフェン、シクロプロフェン、シンタゾン、クリプロフェン、プロピオン酸クロベタゾール、酪酸クロベタゾン、クロピラク、プロピオン酸クロチカゾン、酢酸コルメタゾン、コルトドキソン、デフラザコルト、デソニド、デソキシメタゾン、ジプロピオン酸デキサメタゾン、ジクロフェナクカリウム、ジクロフェナクナトリウム、二酢酸ジフロラゾン、ジフルミドンナトリウム、ジフルニサル、ジフルプレドネート、ジフタロン、ジメチルスルホキシド、ドロシノニド、エンドリゾン、エンリモマブ、エノリカムナトリウム、エピリゾール、エトドラク、エトフェナメート、フェルビナク、フェナモール、フェンブフェン、フェンクロフェナク、フェンクロラク、フェンドサル、フェンピパロン、フェンチアザク、フラザロン、フルアザコルト、フルフェナム酸、フルミゾール、酢酸フルニソリド、フルニキシン、フルニキシンメグルミン、フルオコルチンブチル、酢酸フルオロメトロン、フルカゾン、フルルビプロフェン、フルレトフェン、プロピオン酸フルチカゾン、フラプロフェン、フロブフェン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、酢酸ハロプレドン、イブフェナク、イブプロフェン、イブプロフェンアルミニウム、イブプロフェンピコノール、イロニダプ、インドメタシン、インドメタシンナトリウム、インドプロフェン、インドキソール、イントラゾール、酢酸イソフルプレドン、イソキセパク、イソキシカム、ケトプロフェン、塩酸ロフェミゾール、ロモキシカム、エタボン酸ロテプレドノール、メクロフェナム酸ナトリウム、メクロフェナム酸、二酪酸メクロリゾン、メフェナム酸、メサラミン、メセクラゾン、スレプタン酸メチルプレドニゾロン、モミフルメート、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキソール、ニマゾン、オルサラジンナトリウム、オルゴテイン、オルパノキシン、オキサプロジン、オキシフェンブタゾン、塩酸パラニリン、ペントサン多硫酸ナトリウム、グリセリン酸フェンブタゾンナトリウム、ピルフェニドン、ピロキシカム、桂皮酸ピロキシカム、ピロキシカムオラミン、ピルプロフェン、プレドナゼート、プリフェロン、プロドール酸、プロカゾン、プロキサゾール、クエン酸プロキサゾール、リメキソロン、ロマザリット、サルコレックス、サルナセジン、サルサレート、塩化サンギナリウム、セクラゾン、セルメタシン、スドキシカム、スリンダク、スプロフェン、タルメタシン、タルニフルメート、タロサレート、テブフェロン、テニダップ、テニダップナトリウム、テノキシカム、テシカム、テシミド、テトリダミン、チオピナク、ピバル酸チキソコルトール、トルメチン、トルメチンナトリウム、トリクロニド、トリフルミデート、ジドメタシン、ゾメピラクナトリウム、アスピリン(アセチルサリチル酸)、サリチル酸、コルチコステロイド、グルココルチコイド、タクロリムス、ピメコルリムス、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、及びこれらの組合せが挙げられる。また、抗炎症薬は、生物学的炎症シグナル分子などに対する抗体を含め、このような炎症促進性シグナル分子の生物学的阻害剤ともなりうる。
【0071】
抗新生物薬及び/又は抗分裂薬の例として、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキセート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、塩酸ドキソルビシン、及びマイトマイシンが、これらに限定されずに挙げられる。
【0072】
抗血小板薬、抗凝固薬、抗フィブリン薬、及び抗トロンビン薬の例として、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、ホルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン、プロスタサイクリンデキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体拮抗薬抗体、組換えヒルジンとトロンビン、アンジオマックス(Angiomax) a(マサチューセッツ州、CambridgeのBiogen,Inc.)などのトロンビン阻害剤、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ニフェジピン)、コルチシン、魚油(ω3−脂肪酸)、ヒスタミン拮抗薬、ロバスタチン(HMG−CoAレダクターゼの阻害剤、コレステロール低下薬、ニュージャージー州、Whitehouse StationのMerck & Co.,Inc.からの商標名メバコール(Mevacor)(登録商標))、モノクローナル抗体(例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体に特異的なものなど)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGF拮抗薬)、窒素酸化物又は窒素酸化物供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗癌剤、様々なビタミン類などの栄養補助食品、及びこれらの組合せが、これらに限定されずに挙げられる。このような細胞増殖抑制物質の例としては、アンギオペプチン、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、例えばカプトプリル(例えば、コネチカット州、StamfordのBristol−Myers Squibb Co.,からのカポテン(Capoten)(登録商標)及びカポジド(Capozide)(登録商標))、シラザプリル又はリシノプリル(例えば、ニュージャージー州、Whitehouse StationのMerck & Co.,Inc.からのプリニビル(Prinivil)(登録商標)及びプリンジド(Prinizide)(登録商標))などが挙げられる。抗アレルギー薬の一例は、ペルミロラストカリウムである。適切でありうるその他の生物学的に活性な物質又は薬剤としては、α−インターフェロン、及び遺伝子操作された上皮細胞が挙げられる。
【0073】
細胞増殖抑制薬又は抗増殖薬の例としては、アンギオペプチン、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、例えばカプトプリル、シラザプリル又はリシノプリルなど、カルシウムチャネル遮断薬、例えばニフェジピンなど;コルチシン、線維芽細胞増殖因子(FGF)拮抗薬、魚油(ω3−脂肪酸);ヒスタミン拮抗薬;ロバスタチン、モノクローナル抗体、例えばこれに限定せず、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体に特異的なもの;ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGF拮抗薬)、窒素酸化物が、これらに限定されずに挙げられる。
【0074】
抗アレルギー薬の例としては、ペルミロラストカリウムが、これに限定されずに挙げられる。
【0075】
その他の適する生物学的に活性な薬剤の例として、α−インターフェロン、遺伝子操作された上皮細胞、合成無機化合物及び有機化合物、タンパク質及びペプチド、多糖類及びその他の糖類、脂質、並びに生物学的活性、予防活性又は診断活性を有するDNA及びRNAの核酸配列が、これらに限定されずに挙げられ、核酸配列には、遺伝子、相補的DNAに結合して転写を阻害するアンチセンス分子、及びリボザイムが含まれる。適する生物学的に活性な薬剤のその他のいくつかの例としては、抗体、受容体リガンド、酵素、接着ペプチド、血液凝固因子、阻害剤又は血栓溶解薬、例えばストレプトキナーゼや組織プラスミノゲン活性化因子など、免疫用の抗原、ホルモンや成長因子、オリゴヌクレオチド、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、及びリボザイム、及び遺伝子療法で用いられるレトロウィルスベクターなど;抗ウィルス薬;鎮痛剤及び鎮痛剤複合物;食欲減退薬;駆虫薬;抗関節炎薬;抗喘息薬;抗痙攣薬;抗うつ薬;抗利尿薬;止瀉薬;抗ヒスタミン薬;抗片頭痛製剤;抗嘔吐薬;抗パーキンソン薬;かゆみ止め;抗精神病薬;解熱薬;鎮痙薬;抗コリン作用薬;交感神経興奮剤;キサンチン誘導体;カルシウムチャネル遮断薬、及びピンドロールなどのβ遮断薬、及び抗不整脈薬を含む心血管製剤;抗高血圧薬;利尿薬;冠動脈を含めた血管拡張薬;末梢及び脳;中枢神経系興奮剤;充血除去剤を含む鎮咳薬及び感冒薬:睡眠薬;免疫抑制剤;筋肉弛緩剤;副交感神経遮断薬;精神刺激薬;鎮静薬;精神安定剤;天然由来の、又は遺伝子操作されたリポタンパク質;及び再狭窄低減薬が挙げられる。
【0076】
現時点で好ましい生物学的に活性な薬剤としては、コルチコステロイド、エベロリムス、エベロリムス誘導体、ゾタロリムス、ゾタロリムス誘導体、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、バイオリムスA9、ビスホスホネート、ApoA1、突然変異ApoA1、ApoA1ミラノ、ApoA1模倣ペプチド、ABC A1作動薬、抗炎症薬、抗増殖薬、血管新生阻害薬、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、及びメタロプロテイナーゼの組織阻害剤が挙げられる。
【0077】
ナノ粒子中に存在する生物学的に活性な薬剤の量は、薬剤の必要とされる最低有効濃度(MEC)及びMECを維持するのが好ましいとされる時間の長さに依存する。ほとんどの生物学的に活性な薬剤について、MECは当業者にとって既知であり、又は当業者は本文献からすぐに導くことができる。実験的な生物学的に活性な薬剤、又は局所的送達によるMECが不明の同薬剤については、当業者に周知の技術を用いて、MECを実験的に求めることができる。
【0078】
ナノ粒子中に存在するコントラスト増強剤の量は、コントラスト増強剤の感度及び特異性、画像取得方法の質、並びに所望の信号対ノイズ比に依存する。また、所望の部位におけるナノ粒子の局所濃度は、ナノ粒子中に存在させるコントラスト増強剤の量にも影響を及ぼす。適切な濃度を決定する方法は、本明細書の開示を用いることにより、当業者は識別できる。
【0079】
本発明の様々な態様では、コントラスト増強剤は、1つ又は複数の画像モダリティ、例えば、光学、磁気共鳴、音響、超音波、X線、γ線、及び放射線が介在する画像モダリティを増強する。
【0080】
本発明のナノ粒子は、このナノ粒子の表面に作動的に結合したステルス基を有することができ、このステルス基は、ナノ粒子の循環時間を増加させる。
【0081】
本明細書で用いる、「ステルス基」とは、ナノ粒子が免疫系によって検出されるのを回避できるようにする、ナノ粒子表面上に発現した部分を指し、これにより、ナノ粒子が宿主から排除されるのを防ぐ。
【0082】
適するステルス基として、ポリ(エチレングリコール)、オリゴ糖、多糖、ポリ(ビニルピロリドン)、グルロン酸、又はポリアクリルアミドが挙げられる。
【0083】
本明細書で用いる、「作動的に結合した(coupled)」とは、直接的又は間接的手段のいずれかにより、ナノ粒子の表面にステルス基を結合する(attachment)ことを指す。例えば、ステルス基を、このステルス基そのものの部分により、ナノ粒子の表面に直接結合することも可能である。或いは、ステルス基とナノ粒子表面とを結合する中間成分を介して、当該ナノ粒子表面に当該ステルス基を結合することも可能である。そのような中間成分を、リンカーと呼ぶことが多い。リンカーは、ナノ粒子に化学的に結合する1つの部分と、ステルス基に化学的に結合する第2の部分とを有することができる二官能性分子である。適する中間成分は、当業者にとって明白であり、そのようなすべての中間成分は、本発明の範囲に含まれる。
【0084】
ステルス基を表面にアンカーで固定することにより、これをナノ粒子表面に局在化させることも可能である。例えば、ステルス基を、リン脂質の頭部基に結合された親水性スペーサー領域を有するリン脂質などの両親媒性分子、又はPEG−PLAなどの両親媒性ブロックコポリマーの親水性末端に共有結合させることができる。次いでこれらのアンカーで固定されたステルス基は、事前に作製されたナノ粒子と共にこの基を同時インキュベーションすることにより、又はナノ粒子形成プロセスの最中にこの基を含めることにより、ナノ粒子表面に局在化させることができ、この方法は当業者に既知である。
【0085】
本発明のナノ粒子は、更に、このナノ粒子の表面に作動的に結合した、内皮に対して結合親和性を有する第1の官能基を含めることができる。
【0086】
本発明の官能基は、ステルス基に関して上記で述べた通り、本発明のナノ粒子の表面に作動的に結合している。
【0087】
内皮に対して結合親和性を有する第1の官能基としては、1つ又は複数の第1のペプチド、第1のタンパク質、第1のオリゴヌクレオチド、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0088】
第1の官能基がペプチドである場合には、これは、内皮に対して結合親和性を有する、RGD配列を含むペプチド、又は抗体断片、例えば、但しこれに限定せずFab断片でありうる。第1の官能基がオリゴヌクレオチドである場合、それはアプタマーでありうる。
【0089】
第1の官能基が第1のタンパク質である場合には、それはアフィボディー又は抗体でありうる。
【0090】
本明細書で用いる、「アフィボディー」とは、標的タンパク質に高い結合親和性を有する、比較的小型の合成タンパク質分子を指す。アフィボディーは、ブドウ球菌プロテインAのIgG−結合ドメインに由来する3ヘリックスバンドルドメインからなる。このタンパク質ドメインは、一連のアフィボディー変異体をもたらす13個のランダム化したアミノ酸を含む、58個のアミノ酸配列からなる。抗体よりかなり小型であるにもかかわらず(アフィボディーの分子量は約6kDaであり、一方、抗体は一般的に約150kDaである)、その結合部位は、抗体の結合部位と表面領域においてほぼ等しいので、アフィボディー分子は抗体のように振舞う。
【0091】
第1のタンパク質が抗体である場合、それは、抗細胞間接着分子、抗血管細胞接着分子、抗インテグリン、抗血小板内皮細胞接着分子、抗トロンボモジュリン、抗e−セレクチン、抗フィブロネクチン、抗シアリルルイス[b]グリカン、抗内皮性グリコカリックスタンパク質、抗カドヘリン、又はこれらの任意の組合せである。
【0092】
第1の官能基が、オリゴヌクレオチドである場合には、それはアプタマーでありうる。
【0093】
本明細書で用いる、「アプタマー」とは、特定の標的、例えば、但しこれらに限定せずに、タンパク質、核酸、特定の全細胞、又は特定の組織に対して結合親和性を有するオリゴ核酸を指す。天然のアプタマーも本発明に含まれるが、アプタマーは、核酸の大規模なランダム配列プールからインビトロで選択することにより得ることができる。アプタマーを作製するその他の方法は、当業者に既知で、本発明の範囲に含まれる。
【0094】
本発明のナノ粒子は、更に、このナノ粒子の表面に作動的に結合した、機能障害性の内皮上の表面発現分子に対して結合親和性を有する第2の官能基を含めることができる。
【0095】
1つの態様では、第2の官能基はアプタマーである。1つの実施形態では、アプタマーは抗接合接着分子、又は抗白血球接着分子である。
【0096】
本発明のナノ粒子は、更に、このナノ粒子の表面に作動的に結合した、血管細胞壁成分に対して結合親和性を有する第3の官能基を含めることができる。第3の官能基は、ナノ粒子が、表面に発現した細胞受容体とは相違する血管細胞壁成分に結合することを可能にする。
【0097】
第3の官能基として、1つ若しくは複数の脂質、第3のペプチド、第3のタンパク質、第3のオリゴヌクレオチド、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。第3の官能基が脂質である場合には、それはオレイン酸、ステアリン酸、又はオレイン酸誘導体である。第3の官能基がオリゴヌクレオチドである場合、それはアプタマーでありうる。
【0098】
第3の官能基がペプチドである場合には、それは、血管細胞壁成分に対して結合親和性を有する抗体断片、例えば、これに限定せずに、Fab断片でありうる。
【0099】
第3の官能基がタンパク質である場合には、それはアフィボディー又は抗体でありうる。タンパク質が抗体である場合には、それは、抗エラスチン、抗コラーゲン、抗組織因子、抗ラミニン、又はこれらの任意の組合せである。
【0100】
本発明のナノ粒子には、上記のように、このナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数のコントラスト増強剤を含めることが可能であるが、上記のように、当該ナノ粒子の表面に作動的に結合したステルス基、第1の官能基、第2の官能基、及び/又は第3の官能基も任意選択的に含めうることが理解される。
【0101】
本発明の別の態様は、本発明の埋込型医療器具を提供するステップと、患者にこの医療器具を埋込むステップとを含む、血管疾患を治療する方法に関する。医療器具を埋込む方法は、当業者に既知である。
【0102】
一旦、コーティングされた器具を患者に埋込まれたら、コーティング内に存在するナノ粒子は、自然に分解して血管疾患部位で生物学的に活性な薬剤を放出する。しかし、ある実施形態では、本発明のナノ粒子は、トリガーにより放出する能力を有することができ、例えば、熱、音、又は光に感受性であることができる。したがって、一旦、ナノ粒子が血管壁に局在化すると、このナノ粒子がコーティングされた器具上に物理的に存在することにより、加熱、光による活性化、又は超音波がトリガーとなって、生物学的に活性な薬剤を放出することができる。これは、カテーテルベースの介入を通じて、体内で局所的に加熱することができる外部器具によって局所的に、例えば、集中的なマイクロ波照射によって行うことができ、又は全身的に、例えば、発熱を誘発することによって行うことができるが、後者の場合には、生物学的に活性な薬剤は、薬剤担体の局在化により、なおも局在化する。トリガーによって放出する能力を有するナノ粒子を形成する方法は、当業者に既知である。
【0103】
本発明のナノ粒子は、遅延分解を行うように、適当なポリマー(複数可)を用いて設計することもできる。この態様では、器具のコーティングが分解するに従い、ナノ粒子は器具埋込部位の血管系に放出される。上記のように、本発明の1つ又は複数の官能基が存在することから、このナノ粒子のほとんどは、埋込器具周辺の部分に局在化したままとなる。具体的には、内皮に対して結合親和性を有する第1の官能基は、ナノ粒子を血管壁に固定することができる。同様に、機能障害性内皮上の表面発現分子に対して結合親和性を有する第2の官能基は、障害を受けた血管の部分内の血管壁に、ナノ粒子を固定することができる。また更に、別の血管細胞壁成分に対して結合親和性を有する第3の官能基は、血管壁、特に不完全な内皮を有する、又は内皮細胞が剥離した血管区域にもナノ粒子を固定することができる。上記の各状況において、血管壁にナノ粒子が結合し、局在化すると、体循環へ喪失される生物学的に活性な薬剤を含むナノ粒子の量が減少する。
【0104】
一旦、生物学的に活性な薬剤を負荷したナノ粒子が内皮に局在化し、ある場合には、内皮に効率的に結合すると、ナノ粒子の生分解により、生物学的に活性な薬剤が放出され、これにより血管疾患を治療する手段が提供される。
【0105】
ある状況では、器具のコーティングが溶解するに従い、1つ又は複数の官能基を有するナノ粒子は体循環に進入することができる。このナノ粒子が、上記のような表面発現ステルス基及び/又は官能基を有する場合には、宿主免疫系による分解を免れ、その後、内皮が剥離した部位及び/又は機能障害性の内皮部位に局在化し、この時点でトリガーによる生物学的に活性な薬剤の放出を行うことができる。
【0106】
本発明の別の態様は、血液の密度に類似した密度を有する第1のナノ粒子集団、及びこの第1のナノ粒子集団の表面に作動的に結合するように改変された、血液の密度と異なる密度を有する第2のナノ粒子集団を含む製剤に関し、当該第2のナノ粒子集団が、当該第1のナノ粒子集団に結合する場合には、血液の密度と異なる密度を有する超集合体が形成される。1つの実施形態では、第2のナノ粒子集団は、血液の密度より高い密度を有する。別の実施形態では、第2のナノ粒子集団は、血液の密度より低い密度を有する。
【0107】
下記に記載するように、血液と製剤との密度の相違により、この製剤のナノ粒子を血管壁に局在化させる手段が提供される。
【0108】
本明細書で用いる、「超集合体」とは、互いに結合した少なくとも2つの異なるナノ粒子、例えば、血液の密度に類似した密度を有するナノ粒子、及び血液の密度より低い密度を有するナノ粒子からなる分子集合体を指す。
【0109】
本明細書で用いる、「血液の密度に類似した密度」とは、約1.0g/cm〜1.2g/cmの密度を指す。本明細書で用いる、「血液の密度より高い密度」とは、約1.3g/cm〜約3.0g/cmの密度を指す。本明細書で用いる、「血液の密度より低い密度」とは、約0.01g/cm〜0.9g/cmの密度を指す。
【0110】
第1のナノ粒子集団は、このナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含み、これは、上記のようにミセル、ワームミセル、ポリマソーム、ポリマー粒子、リポソーム又はヒドロゲル粒子でありうる。適する生物学的に活性な薬剤も、上記の通りである。
【0111】
第2のナノ粒子集団は、生物学的安定性のあるポリマー又は生物吸収性のポリマーを原料とすることができる。適する生物学的安定性のあるポリマーとして、ポリイソブチレン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリプロペリン、ポリビニルエチレン、ポリブチレン、メタクリル酸ポリドデシル、アモロファスポリエチレン、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。適する生物吸収性のあるポリマーとしては、コハク酸ポリブチレン、ポリセバシン酸グリセロール、ポリd,lラクチド、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。生物学的安定性のあるポリマー及び/又は生物吸収性のポリマーを含むナノ粒子を作製する方法は、当業者に既知である。
【0112】
第2のナノ粒子集団も、生物吸収性のガラス、又は生物吸収性のケイ酸塩を原料とすることもできる。
【0113】
次いで、血管疾患を治療するために、治療上有効な量の製剤を患者に投与することができる。投与経路は上記の通りである。
【0114】
本明細書で用いる、「患者」とは、生物学的に活性な薬剤の投与から利益を得ることができるあらゆる生物を指す。特に、患者とは、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、又はヒトなどの哺乳類を指す。
【0115】
本明細書で用いる、「治療」とは、血管疾患に罹患していることが知られている、又は疑われている患者に、生物学的に活性な薬剤の治療上有効な量を投与することを指す。本発明で有用な生物学的に活性な薬剤は、上記の通りである。
【0116】
本明細書で用いる、「治療上有効な量」とは、患者が罹患していることが知られている、又は疑われている血管疾患に関して、治癒的又は緩和的でありうる有益な効果を、当該患者の健康及び福祉に対して有する生物学的に活性な薬剤の量を指す。治療上有効な量は、単回ボーラスとして、間欠的なボーラスチャージとして、短期、中期、若しくは長期的な持続放出製剤として、又はこれらの任意の組合せとして投与されうる。
【0117】
本明細書で用いる、血管疾患に罹患していることが「知られている」とは、第1に、比較的すぐに観察できる及び/又は診断できる状態を指す。例えば、そのような疾患としてアテローム性動脈硬化症が、但しこれに限定されずに挙げられるが、これは患者の動脈の個発性の狭窄である。一方、再狭窄は、その後期においては、アテローム性動脈硬化症と同様に、比較的すぐに診断可能であり、又は直接的に観察可能であるが、その発生期においてはそうでない場合がある。したがって、患者は、アテローム性病変を治療するための外科手技後のある時点において、再狭窄に罹患していることが「疑われ」、又は再狭窄に罹患しやすいことが「疑われ」うる。更に、再狭窄は、一般的に以前のアテローム性病変と同じ場所に生じる傾向があるものの、その通りでない場合もあり、最初のアテローム性動脈硬化症の部位から若干離れた血管区域の領域が、実際には再狭窄部位である可能性がある。
【0118】
本明細書で用いる、「血管疾患部位」とは、アテローム性病変(複数可)が存在する、再狭窄が生ずる可能性のある患者の身体内の場所、不安定プラークの部位(複数可)、又は末梢動脈疾患部位を指す。
【0119】
「アテローム性動脈硬化症」とは、脂肪性物質、コレステロール、細胞排出物、カルシウム、及び/又はフィブリンが動脈の内層又は内膜上に堆積することを指す。
【0120】
「再狭窄」とは、狭窄を取り除くために血管形成術又は他の外科手技若しくは介入手技が以前実施された部位で、又はその近傍で生じた動脈の再狭窄、又は閉塞を指す。
【0121】
一方、不安定プラークは、アテローム性動脈硬化症又は再狭窄のいずれともまったく異なり、一般的に罹患の「疑い」として表される。これは、不安定プラークは、主として血管壁内に生じ、血管の管腔内に目立った突出を引き起こさないためである。「時すでに遅し」になって、すなわち不安定プラークが破壊してその成分が血管中に放出されるようになって初めて、その存在が判明する。不安定プラークの早期診断について、非常に多くの方法が検討済みであり、また検討中であるが、今日まで完全にうまくいったものは1つもない。したがって、不安定プラークに罹患している疑いのある血管区域の局所的な治療は、そのような病変に対処するための最良の方法となりうる。
【0122】
本明細書で用いる、「末梢動脈疾患」は、それが、動脈壁の内層に脂肪が蓄積し、これにより主に腎臓、胃、上肢、下肢及び足に至る動脈における血液循環が制限される、冠動脈疾患や頚動脈疾患と同様な状態を指す。
【0123】
製剤投与後、血液の密度より低い密度の超集合体は、密度に差異があることにより、血管壁近傍に選択的に局在化し、ここで次いでナノ粒子は、生物学的に活性な薬剤を放出することができる。
【0124】
或いは、血液の密度より高い密度の超集合体は、ある状況下で血管疾患治療を支援することができる血管底部に選択的に局在化する。
【0125】
別の実施形態では、密度に範囲を有する複数の超集合体が、患者に投与される。密度の特定の広がりに応じて、複数が投与部位への遠位側血管の長さに沿って選択的に局在化する。密度の範囲に、血液の密度より低い、及び高い密度の両方が含まれる場合には、超集合体は、血管の「底部」及び「天井部」近傍の両方に選択的に局在化する。
【0126】
本発明の別の態様では、血管疾患を治療する方法に関する。この方法には、血液の密度と異なる密度を有する複数のナノ粒子を含み、更に、このナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含む製剤を提供するステップと、この製剤の治療上有効な量を、患者の血管疾患部位に投与するステップとが含まれる。
【0127】
1つの実施形態では、ナノ粒子の集団は血液の密度より高い密度を有する。別の実施形態では、ナノ粒子の集団は血液の密度より低い密度を有する。
【0128】
適する生物学的に活性な薬剤は上記の通りである。ナノ粒子は、上記のように、生物学的安定性のあるポリマー又は生物吸収性のポリマーを原料とする。ナノ粒子集団の適する密度範囲は上記の通りである。適する投与方法は、当業者に既知である。
【0129】
上記の通り、血液の密度より低い密度のナノ粒子を含む製剤を投与すると、ナノ粒子は、密度に差異があることから血管壁近傍に選択的に局在化し、そこでナノ粒子は生物学的に活性な薬剤を放出することができる。或いは、血液の密度より高い密度のナノ粒子を含む製剤を投与すると、ナノ粒子は血管底部に選択的に局在化し、そこでは、ある状況下で、血管疾患の治療を支援することができる。
【0130】
本発明の具体的な実施形態が示され及び記載されてきたが、本発明から逸脱することなく、本発明のより広い態様において、諸変更及び諸修正を加えることができることは、当業者には明白であろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に本発明の真の精神と範囲に収まるようなすべての諸変更及び諸修正を包含するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のナノ粒子を含むコーティングを含み、前記ナノ粒子は、前記ナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含み、更に、前記ナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数のコントラスト増強剤を含む、埋込型医療器具。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、ミセル、リポソーム、ワームミセル、ポリマソーム、ポリマー粒子、又はヒドロゲル粒子を含む、請求項1に記載の埋込型医療器具。
【請求項3】
前記ミセル、リポソーム、ワームミセル、ポリマソーム、又はポリマー粒子が、両親媒性ブロックコポリマーを含む、請求項2に記載の埋込型医療器具。
【請求項4】
前記生物学的に活性な薬剤が、コルチコステロイド、エベロリムス、エベロリムス誘導体、ゾタロリムス、ゾタラリムス誘導体、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、バイオリムスA9、ビスホスホネート、ApoA1、突然変異ApoA1、ApoA1ミラノ、ApoA1模倣ペプチド、ABCA1作動薬、抗炎症薬、抗増殖薬、血管新生阻害薬、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、及びメタロプロテイナーゼの組織阻害剤からなる群から選択される、請求項1に記載の埋込型医療器具。
【請求項5】
前記1種又は複数のコントラスト増強剤が、ヨウ素、バリウム、硫酸バリウム、及びガストログラフィンからなる群から選択される、請求項1に記載の埋込型医療器具。
【請求項6】
前記1種又は複数のコントラスト増強剤が、光学、磁気共鳴、音響、超音波、X線、γ線、及び放射線が介在する画像モダリティからなる群から選択される1つ又は複数の画像モダリティを増強する、請求項1に記載の埋込型医療器具。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、更に前記ナノ粒子の前記表面に作動的に結合した、内皮に対して結合親和性を有する第1の官能基を含む、請求項1に記載の埋込型医療器具。
【請求項8】
前記第1の官能基が、1つ又は複数の第1のペプチド、第1のタンパク質、第1のオリゴヌクレオチド、又はこれらの任意の組合せを含む、請求項7に記載の埋込型医療器具。
【請求項9】
前記1つ又は複数の第1のペプチドが、RGD配列、又は抗体断片を含む、請求項8に記載の埋込型医療器具。
【請求項10】
前記1つ又は複数の第1のタンパク質が、抗体、又はアフィボディーを含む、請求項8に記載の埋込型医療器具。
【請求項11】
前記抗体が、抗細胞間接着分子、抗血管細胞接着分子、抗インテグリン、抗血小板内皮細胞接着分子、抗トロンボモジュリン、抗e−セレクチン、抗フィブロネクチン、抗シアリルルイス[b]グリカン、抗内皮性グリコカリックスタンパク質、抗カドヘリン、又はこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の埋込型医療器具。
【請求項12】
前記1つ又は複数の第1のオリゴヌクレオチドが、アプタマーを含む、請求項8に記載の埋込型医療器具。
【請求項13】
前記ナノ粒子が、更に前記ナノ粒子の前記表面に作動的に結合した、機能障害性の内皮上に表面発現した分子に対して結合親和性を有する第2の官能基を含む、請求項7に記載の埋込型医療器具。
【請求項14】
前記第2の官能基がアプタマーである、請求項13に記載の埋込型医療器具。
【請求項15】
前記アプタマーが、抗接合接着分子、又は抗白血球接着分子を含む、請求項14に記載の埋込型医療器具。
【請求項16】
前記ナノ粒子が、更に前記ナノ粒子の前記表面に作動的に結合した、血管細胞壁成分に対して結合親和性を有する第3の官能基を含む、請求項13に記載の埋込型医療器具。
【請求項17】
前記第3の官能基が、1つ又は複数の脂質、第3のペプチド、第3のタンパク質、第3のオリゴヌクレオチド、又はこれらの任意の組合せを含む、請求項16に記載の埋込型医療器具。
【請求項18】
前記1つ又は複数の脂質が、オレイン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸誘導体からなる群から選択される、請求項17に記載の埋込型医療器具。
【請求項19】
前記1つ又は複数の第3のペプチドが、抗体断片を含む、請求項17に記載の埋込型医療器具。
【請求項20】
前記1つ又は複数の第3のタンパク質が、抗体又はアフィボディーを含む、請求項17に記載の埋込型医療器具。
【請求項21】
前記抗体が、抗エラスチン、抗コラーゲン、抗組織因子、抗ラミニン、又はこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項20に記載の埋込型医療器具。
【請求項22】
前記1つ又は複数の第3のオリゴヌクレオチドが、アプタマーを含む、請求項17に記載の埋込型医療器具。
【請求項23】
前記ナノ粒子が、更に、前記ナノ粒子の前記表面に作動的に結合したステルス基を含む、請求項16に記載の埋込型医療器具。
【請求項24】
前記ステルス基が、ポリ(エチレングリコール)、オリゴ糖、多糖、ポリ(ビニルピロリドン)、グルロン酸、又はポリアクリルアミドを含む、請求項23に記載の埋込型医療器具。
【請求項25】
請求項1に記載の埋込型医療器具を提供するステップと、
前記医療器具を、これを必要とする患者に埋込むステップと、
を含む血管疾患を治療する方法。
【請求項26】
前記血管疾患が、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、不安定プラーク、及び末梢動脈疾患からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
血液の密度に類似した密度を有する第1のナノ粒子集団と、
前記第1のナノ粒子集団の表面に作動的に結合するように改変された、血液の密度と異なる密度を有する第2のナノ粒子集団と、
を含む製剤であって、
前記第2のナノ粒子集団が前記第1のナノ粒子集団に結合する場合には、血液の密度と異なる密度を有する超集合体を形成する製剤。
【請求項28】
前記第1のナノ粒子集団が、前記第1のナノ粒子集団に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた、1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含む、請求項27に記載の製剤。
【請求項29】
前記生物学的に活性な薬剤が、コルチコステロイド、エベロリムス、エベロリムス誘導体、ゾタロリムス、ゾタロリムス誘導体、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、バイオリムスA9、ビスホスホネート、ApoA1、突然変異ApoA1、ApoA1ミラノ、ApoA1模倣ペプチド、ABC A1作動薬、抗炎症薬、抗増殖薬、血管新生阻害薬、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、及びメタロプロテイナーゼの組織阻害剤からなる群から選択される、請求項28に記載の製剤。
【請求項30】
前記第1のナノ粒子集団が、ミセル、ワームミセル、ポリマソーム、ポリマー粒子、リポソーム、又はヒドロゲル粒子を含む、請求項27に記載の製剤。
【請求項31】
前記第2のナノ粒子集団が、血液の密度より低い密度を有する、請求項27に記載の製剤。
【請求項32】
前記第2のナノ粒子集団が、血液の密度より高い密度を有する、請求項27に記載の製剤。
【請求項33】
前記第2のナノ粒子集団が、生物学的安定性のあるポリマー又は生物吸収性のポリマーを含む、請求項27に記載の製剤。
【請求項34】
前記生物学的安定性のあるポリマーが、ポリイソブチレン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリプロペリン、ポリビニルエチレン、ポリブチレン、メタクリル酸ポリドデシル、アモルファスポリエチレン、パリレン、ポリビニリデンジフルオリド、又はこれらの任意の組合せを含む、請求項33に記載の製剤。
【請求項35】
前記生物吸収性のあるポリマーが、コハク酸ポリブチレン、ポリセバシン酸グリセロール、ポリd,lラクチド、又はこれらの任意の組合せを含む、請求項33に記載の製剤。
【請求項36】
前記第2のナノ粒子集団が、生物吸収性のガラス、又は生物吸収性のケイ酸塩を含む、請求項27に記載の製剤。
【請求項37】
請求項27に記載の製剤を提供するステップと、
前記製剤の治療上有効な量を、これを必要とする患者の血管疾患部位に投与するステップと、
を含む血管疾患を治療する方法。
【請求項38】
前記血管疾患部位に前記製剤を投与するステップが、動脈内送達を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
動脈内送達が、経皮経管冠動脈送達を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
動脈内送達が、カテーテルを使用するステップを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記血管疾患が、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、不安定プラーク、及び末梢動脈疾患からなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
血液の密度と異なる密度を有する複数のナノ粒子を含み、更に前記ナノ粒子に内封された、その表面に接着した、又はその構造内に組み込まれた1種又は複数の生物学的に活性な薬剤を含む製剤を提供するステップと、
前記製剤の治療上有効な量を、患者の血管疾患部位に投与するステップと、
を含む、血管疾患を治療する方法。
【請求項43】
前記生物学的に活性な薬剤が、コルチコステロイド、エベロリムス、エベロリムス誘導体、ゾタロリムス、ゾタロリムス誘導体、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、バイオリムスA9、ビスホスホネート、ApoA1、突然変異ApoA1、ApoA1ミラノ、ApoA1模倣ペプチド、ABC A1作動薬、抗炎症薬、抗増殖薬、血管新生阻害薬、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、及びメタロプロテイナーゼの組織阻害剤からなる群から選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記複数のナノ粒子が、血液の密度より低い密度を有する、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記複数のナノ粒子が、血液の密度より高い密度を有する、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記ナノ粒子が、生物学的安定性のあるポリマー又は生物吸収性のポリマーを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記生物学的安定性のあるポリマーが、ポリイソブチレン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリプロペリン、ポリビニルエチレン、ポリブチレン、メタクリル酸ポリドデシル、アモルファスポリエチレン、又はこれらの任意の組合せを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記生物吸収性のポリマーが、コハク酸ポリブチレン、ポリセバシン酸グリセロール、ポリd,lラクチド、又はこれらの任意の組合せを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記ナノ粒子が、生物吸収性のガラス、又は生物吸収性のケイ酸塩を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項50】
前記血管疾患部位に前記製剤を投与するステップが、動脈内送達を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項51】
動脈内送達が、経皮経管冠動脈送達を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
動脈内送達が、カテーテルを使用するステップを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記血管疾患が、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、不安定プラーク、及び末梢動脈疾患からなる群から選択される、請求項42に記載の方法。

【公表番号】特表2010−536421(P2010−536421A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521058(P2010−521058)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/067015
【国際公開番号】WO2009/025926
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】