説明

ナビゲーション装置

【課題】道路以外での学習結果を排除し、地図データに登録されていない道路に該当する学習結果のみを新規道路として登録することで、道路学習機能の効果をより向上させる。
【解決手段】現在地が地図データに既存の道路から離脱してから復帰するまでの移動軌跡を生成し、その移動軌跡を未確定経路として記録する(S100)。記憶している複数の未確定経路の中から判定対象となる2つの未確定経路を特定する(S110〜S130)。特定した2つの未確定経路の軌跡座標列における座標変数X,Yごとに相関係数rx,rYを算出する(S150)。相関度合いの値としてrx,rYの積を算出し、この値が基準値C以上か否かを判定する(S160)。相関度合いの値が基準値C以上の場合(S160:YES)、未確定経路のデータに基づいて新規道路データを作成し(S170)、学習道路として地図データに格納する(S180)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地図データに基づいて経路案内を行うナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の移動体の移動軌跡に基づき、地図データに登録されていない新たな道路を学習するナビゲーション装置が知られている。道路学習機能は、現在地が地図データ内の既存の道路から離脱した地点から、再び地図データ内の既存の道路へ復帰した地点までの移動軌跡に基づいて、地図データに存在しない新たな道路データを作成して記憶することにより、地図データに登録されていない新たな道路を学習する機能である(例えば、特許文献1参照)。このような道路学習機能によれば、外部から地図データを更新することなく、新たに建設された道路等を利用した経路案内を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−172578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような道路学習機能では、ナビゲーション装置による目的地までの経路案内に対する貢献度の高低に関わらず、様々な新規道路が学習され得る。例えば、新たに建設された利用価値の高い道路を新規道路として獲得することで、経路案内の精度向上に大いに貢献すると考えられる。
【0005】
一方、目的地へ向かう経路の途中で一寸寄り道をした際などに、駐車場内での移動が新規道路として学習されてしまう場合もある。このようにして学習された新規道路は、経路案内を行うための用途としては利用価値が低く、経路案内の精度向上には貢献しないものと考えられる。よって、このような不必要な道路まで学習の対象とすると、道路学習機能全体の効果が小さくなることが懸念される。
【0006】
本願発明は、上記問題を解決するためになされており、道路以外での学習結果を排除し、地図データに登録されていない道路に該当する学習結果のみを新規道路として登録することで、道路学習機能の効果をより向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載のナビゲーション装置は、地図記憶手段に格納されている地図データを用いて経路案内を行うナビゲーション装置であって、記憶手段と、経路生成手段と、特定手段と、相関係数算出手段と、相関判定手段と、新規道路記録手段とを備える。
【0008】
記憶手段は、現在地が地図データに既存の道路の領域から逸脱している間の未確定経路を記憶するためのものである。経路生成手段は、自ナビゲーション装置の現在地が地図データに既存の道路の領域から離脱してから復帰するまでの時系列の移動軌跡を生成し、その生成した移動軌跡を1つの未確定経路として記憶手段に記録する。特定手段は、記憶手段に記憶された複数の未確定経路の中から判定対象となる2つの未確定経路を特定する。
【0009】
相関係数算出手段は、特定手段により特定した判定対象の2つの未確定経路を所定の座標系に対応する軌跡座標列でそれぞれ表したときの各座標変数について、両未確定経路の軌跡座標列間で対応する座標変数同士に関する所定の回帰次数の相関係数をそれぞれ算出する。相関判定手段は、相関係数算出手段により算出した座標変数ごとの相関係数の値に基づいて、判定対象の未確定経路同士の相関の度合いを算出し、その算出した相関の度合いが基準値以上であるか否かを判定する。新規道路記録手段は、相関判定手段により判定対象の未確定経路同士の相関の度合いが基準値以上であると判定した場合、判定対象の未確定経路における移動軌跡に基づいて新規道路を生成し、その生成した新規道路を経路案内に用いる地図データとして地図記憶手段に記録する。
【0010】
本発明のナビゲーション装置では、現在地が地図データに存在する道路から逸脱している間の移動軌跡を記憶し、2つの移動軌跡の形状を示す軌跡座標列の相関度合いが高いものについては同一の道路による移動軌跡であると判断し、学習結果を新規道路として記録する。
【0011】
例えば、図4(a)に示すように、駐車上のような道路以外の領域を走行した場合、走行する度に通り方が変わるため、同じ領域を複数回走行した場合でもその移動軌跡の形状が互いに異なると考えられる。一方、同じ道路を複数回走行した場合、理論的にはその移動軌跡は互いに一致するはずである。しかしながら、同じ道路を走行した場合でも走好条件の違いや測位機器による誤差によって、図4(b)に示すように実際の移動軌跡にはばらつきが生じ、同一の道路と判別しにくい場合がある。
【0012】
本発明は、記録した移動軌跡同士の一致度合いを、軌跡座標列の座標変数ごとに算出した相関係数に基づく相関度合いによって判断することを特徴とする。例えば、軌跡座標列に(X,Y)ニ次元直交座標系を採用した場合、2つの移動軌跡においてX軸の変数列同士の相関係数と、Y軸の変数列同士の相関係数とを算出し、この2つの相関係数の値から移動軌跡同士の相関度合いを判断する。また、軌跡座標列に(r,θ)二次限極座標系を採用した場合も同様に、2つの座標変数列ごとにそれぞれ相関係数を算出する。また、三次元の直交座標系や極座標系を採用した場合、3つの座標変数ごとにそれぞれ相関係数を算出する。
【0013】
そして、2つの移動軌跡の相関度合いが高い場合、移動軌跡の形状の一致度合いが高いと判断し、新規道路として学習する。この場合、2つの移動軌跡の間で多少のばらつきが生じている場合でも、相関度合いが高いと判断されれば同一の道路と判断することができる。一方、2つの移動軌跡の相関度合いが低い場合、移動軌跡の一致度合いが低いと判断し、学習の対象から除外する。
【0014】
このようにすることで、道路以外での学習結果を排除し、地図データに登録されていない道路に該当する学習結果のみを新規道路として登録することで、ナビゲーション装置における道路学習機能の効果をより向上させることができる。
【0015】
なお、2つの未確定経路が同一の道路の移動軌跡であるか否かをより的確に判定するためには、相関度合いを判定する対象となる2つの未確定経路を適切に選択することが肝要である。そこで、請求項2に記載のように構成するとよい。すなわち、特定手段は、2つの未確定経路の始点同士及び終点同士がそれぞれ所定の近接範囲内にあることを条件に判定対象となる未確定経路を特定する。ここで、始点同士、終点同士が所定の近接範囲内にあるというのは、2つの未確定経路の始点(すなわち、地図データに既存の道路から離脱した地点)同士が、例えば半径○m以内の範囲で近接(一致も含む)しており、かつ、2つの未確定経路の終点(すなわち、地図データの既存の道路へ復帰した地点)同士も、始点と同様に半径○m以内の範囲で近接(一致も含む)している状態をいう。
【0016】
このように構成することで、相関度合いを判定する対象が始点及び終点を同じくする未確定経路同士に限られる。すなわち、始点及び終点が一致しない明らかに異なる未確定経路同士で対していちいち相関度合いを判定するといった無用な負担を省くことができる。よって、2つの未確定経路が同一の道路の移動軌跡であるか否かをより的確に判定できる。
【0017】
ところで、相関係数算出手段が算出する相関係数の具体例としては、請求項3に記載のように一次回帰直線に対応するものが挙げられる。この場合、相関係数を算出する一方の座標変数列と他方の座標変数列との間に一次回帰直線を当てはめる単回帰モデルに対応した相関係数を算出する。なお、その他にも、本発明には回帰式として、多項関数や、多次元関数、三角関数、指数関数、対数関数等の様々な関数を用いる回帰モデルに対応する相関関数を算出するような構成も採用できる。
【0018】
さらに、未確定経路の軌跡座標列に適用する座標系の具体例としては、請求項4に記載のように、直交座標系が挙げられる。この場合、測位点の緯度・経度に対応する(X,Y)二次元直交座標系や、更に高さを加えた(X,Y,Z)三次元直交座標系等を採用することが考えられる。軌跡座標列に(X,Y)ニ次元直交座標系を採用した場合、X軸の変数列同士の相関係数と、Y軸の変数列同士の相関係数とを算出し、この2つの相関係数の値から移動軌跡の相関度合いを判断する。一方、(X,Y,Z)三次元直交座標系を採用した場合、3つの座標変数ごとにそれぞれ相関係数を算出する。
【0019】
あるいは、請求項5に記載のように、未確定経路の軌跡座標列に極座標系を採用してもよい。この場合、測位点をある基準地点からの距離と角度からなるベクトルで表現することになる。具体的には、測位点を基準地点からの距離rと、1つの角度θで表す(r,θ)二次元極座標系や、測位点を基準地点からの距離rと、2つの角度θ1,θ2で表す
(r,θ1,θ2)三次元極座標系等を採用することができる。軌跡座標列に(r,θ)二次元極座標系を採用した場合、変数r同士の相関係数と、変数θ同士の相関係数とを算出し、この2つの相関係数の値から移動軌跡の相関度合いを判断する。一方、(r,θ1,θ2)三次元極座標系を採用した場合、3つの座標変数ごとにそれぞれ相関係数を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ナビゲーション装置1の概略構成をしめすブロック図である。
【図2】学習対象道路特定処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】相関判定の対象となる未確定経路の特定方法を模式的に示す説明図である。
【図4】従来技術の問題点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
[ナビゲーション装置1の構成の説明]
図1は、本実施形態のナビゲーション装置1の概略構成を示すブロック図である。
【0022】
本実施形態のナビゲーション装置1は、車両に搭載されるナビゲーションシステムであり、図1に示すように、車両の現在地を検出するための位置検出器21と、利用者からの各種指示を入力するための操作スイッチ群22と、地図データやプログラム等を記憶する大容量記憶装置であるハードディスクドライブ(HDD)24と、各種情報を記憶する外部メモリ25と、地図表示画面等の各種表示を行うための表示装置26と、各種ガイド音声を出力するための音声出力装置27と、制御部29とを備える。
【0023】
位置検出器21は、GPS(Global Positioning System)用の人工衛星からの送信信号を受信し、車両の位置座標や高度を検出するGPS受信機21aと、車両に加えられる回転運動の角速度に応じた検出信号を出力するジャイロスコープ21bと、車両の速度に応じた検出信号を出力する車速センサ21cとを備えている。そして、これらの各センサ21a〜21cは、各々が性質の異なる誤差を有しているため、互いに補完しながら車両の現在地を検出するように構成されている。
【0024】
操作スイッチ群22は、表示装置26の表示面上に一体に設置されるタッチパネルや表示装置26の周囲に設けられるメカニカルなキースイッチ等で構成されている。HDD24は、制御部29からの制御に基づいてハードディスクからのデータの読み出し、及びハードディスクへのデータの書き込みを行う外部記憶装置である。HDD24が記憶しているデータは、交差点等の特定地点に対応するノード及びノード間を接続するリンクによって道路の接続状況を示す道路データ、及び地図画像の表示に必要な描画データ等からなる地図データや、いわゆるマップマッチング用のデータ、経路案内用のデータ、ナビゲーション装置1の作動のためのプログラム、意匠画像データ等を含む各種データである。
【0025】
外部メモリ25は、各種データを記憶するためものである。この外部メモリ25には、電位的又は磁気的に記憶内容を書き換え可能で、かつ、電源を切っても記憶内容を保持できる記憶装置(例えば、不揮発性半導体メモリ等)を用いる。表示装置26は、液晶ディスプレイ等の表示面を有するカラー表示装置であり、制御部29からの映像信号の入力に応じて各種画像を表示可能である。この表示装置26は、地図画像の表示や、出発地から目的地までの誘導経路、車両の現在地を示すマーク、その他の案内情報等の表示に用いられる。音声出力装置27は、各種情報を音声にてユーザに報知できるように構成されている。これによって、表示装置26による表示と音声出力装置27による音声出力との両方でユーザに対して方向案内等の各種経路案内をすることができる。
【0026】
制御部29は、CPU,ROM,RAM,I/O及びこれらの構成を接続するバスライン等からなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成されており、上述した各部構成を制御する。この制御部29は、ROMやHDD24、外部メモリ25等から読み込んだプログラムやデータに基づいて種々の処理を実行する。
【0027】
ここまででナビゲーション装置1の概略構成を説明したが、HDD24が特許請求の範囲における地図記憶手段に相当し、HDD24あるいは外部メモリ25が特許請求の範囲における記憶手段に相当し、制御部29が特許請求の範囲における経路生成手段、特定手段、相関係数算出手段、相関判定手段、新規道路記録手段に相当する。
【0028】
[動作の説明]
つぎに、制御部29が実行する処理について説明する。
ナビゲーション関係の処理としては、地図表示処理や経路案内処理等が挙げられる。地図表示処理では、まず、位置検出器21からの検出信号に基づいて自車両の現在地を算出する。そして、HDD24から読み込んだ現在地周辺の地図データに基づいて地図画像を生成し、表示装置26に現在地周辺の地図画像を表示させる。また、制御部29は、位置検出器21からの検出信号により検出した自車両の現在地を示すマークを、表示装置26に表示させる地図画像上に重ね合わせて表示し、自車両の移動に伴って現在地のマークを移動させたり、地図画像をスクロールさせる。
【0029】
また、経路案内処理では、ユーザが操作スイッチ群22を操作して目的地を設定すると、制御部29は車両の現在地を出発地とし、出発地から目的地までの最適経路をHDD24から読み込んだ道路データを用いて探索する。そして、経路探索により得られた最適経路を誘導経路として、その誘導経路を地図画像上に重ね合わせて表示装置26に表示させる。そして、制御部29は自車両の移動に伴って所定のタイミングで案内情報を表示又は音声で出力し、自車両が目的地までの誘導経路に沿って走行できるように案内する。
【0030】
さらに、本実施形態のナビゲーション装置1では、自車両がHDD24に格納されている地図データに登録されている既存の道路以外の領域を走行した際、そのときの移動軌跡に基づいて新規道路のデータを作成し、それを学習道路としてHDD24に格納されている地図データに登録する学習機能を備える。制御部29は、この登録した学習道路を既存の道路データと同様に上述の経路案内に利用する。
【0031】
具体的には、制御部29は、自車両の走行中に定期的に位置検出器21により現在地を特定し、自車両が地図データに登録されている既存の道路から離脱した地点から、再び地図データに既存の道路へ復帰するまでの測位データに基づいて、自車両の座標の移動軌跡(未確定経路)を作成する。そして、その作成した移動軌跡に基づいて、新規道路のデータを生成する。この新規道路のデータは、離脱した既存の道路のリンクIDと離脱地点の座標、復帰した既存の道路のリンクIDと復帰地点の座標、離脱地点と復帰地点との間の道路形状を示す座標点の集合から構成される。
【0032】
さらに、制御部29は、上記学習機能における本発明の特徴的な処理として、下記のような「学習対象道路特定処理」を実行する。この処理では、上述のようにして作成した複数の未確定経路のうち、始点及び終点を同じくする2つの未確定経路同士で座標変数ごとの相関係数を算出し、その算出した相関係数を積算した値に基づいて2つの未確定経路の相関度合いを判定する。そして、2つの未確定経路の相関度合いが基準値以上である場合のみ、その未確定経路に対応する新規道路のデータを生成し、その生成した新規道路を学習対象として地図データに登録する。この学習対象道路特定処理の詳細な説明については後述する。
【0033】
[学習対象道路特定処理の説明]
つぎに、制御部29が実行する上述の学習対象道路特定処理の詳細な内容について、図2のフローチャート及び図3の説明図に基づいて説明する。
【0034】
図2は、制御部29が実行する学習対象道路特定処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、HDD24に格納されているプログラムに基づいてナビゲーション装置1の起動中において繰り返し実行される。
【0035】
制御部29は、まず、自車両の現在地が地図データに既存の道路から離脱した場合、その離脱した地点を始点とし、再び地図データに既存の道路へ復帰した地点を終点とする時系列の移動軌跡を生成する。そして、この生成した移動軌跡を未確定経路としてHDD24又は外部メモリ25に記憶する(S100)。なお、本実施形態では、未確定経路の移動軌跡は測位点の緯度・経度に対応する(X,Y)二次元直交座標系の軌跡座標列として記録する。
【0036】
つぎに、S100で記憶した未確定経路(以下、未確定経路1と表記する)に対して相関判定の対象となるもう一つの未確定経路の候補(以下、未確定経路2)を、HDD24又は外部メモリ25に記憶している未確定経路の中から1つ抽出する(S110)。
【0037】
そして、未確定経路1と未確定経路2とを比較し、両者の始点及び終点がそれぞれ同一であるか否かを判定する(S120:同一判定)。ここでは、図3に示すように、2つの既存道路の間を通る2つの未確定経路1,2のそれぞれの始点1,2が共に半径N1メートルの円からなる近接範囲内にあり、かつ、それぞれの終点1,2が同じく半径N1メートルの円からなる近接範囲内にある場合、両者の始点及び終点がそれぞれ同一であると判定する。
【0038】
図2のフローチャートの説明に戻る。S120で未確定経路1,2の始点及び終点がそれぞれ同一であると判定した場合(S120:YES)、当該未確定経路1,2を相関判定の対象に決定し(S130)、S150の処理へ移行する。一方、S120で未確定経路1,2の始点同士又は終点同士の少なくとも何れかが同一でないと判定した場合(S120:NO)、まだ同一判定をしていない他の未確定経路のレコードがあるか否かを判定する(S140)。他の未確定経路のレコードがある場合(S140:YES)、S110の処理へ戻り、次の候補となる別の未確定経路2を抽出し、S120で再び同一判定を行う。一方、S140で他の未確定経路のレコードが存在しないと判定した場合(S140:NO)、学習対象道路特定処理を終了する。
【0039】
S130の次に後に進むS150では、S130で決定した相関判定対象の2つの未確定経路1,2に関する相関係数を算出する。ここでは、未確定経路1の軌跡座標列[X1,Y1]が下記の(1)、未確定経路2の軌跡座標列[X2,Y2]が下記の(2)で示すとおりであるとし、未確定経路1の座標変数X1と、これに対応する未確定経路2の座標変数X2との相関係数rX、及び、未確定経路1の座標変数Y1と、これに対応する未確定経路2の座標変数Y2との相関係数rYを算出する。
【0040】
未確定経路1:[X1,Y1]={(x1i,y1i)}(i=1,2,3,…,n)…(1)
未確定経路2:[X2,Y2]={(x2i,y2i)}(i=1,2,3,…,n)…(2)
なお、未確定経路1,2の軌跡座標のサンプルデータにおいて、互いに座標点数が異なる場合、座標点数が少ない方のデータにおいて軌跡座標点を補完するか、座標点数の多い方のデータにおいて軌跡座標点を間引くかして座標点数をnに統一する。
【0041】
本実施形態では、変数列[X1,X2]及び[Y1,Y2]の散布をそれぞれ一次回帰直線で近似する単回帰モデルに対応する相関係数を算出するものとし、相関係数として最も一般的に知られるピアソンの積率相関係数を採用する。
【0042】
したがって、変数列[X1,X2]に対応する相関係数rXは、下記式(1)により算出する。
【0043】
【数1】

一方、変数列[Y1,Y2]に対応する相関係数rYは、下記式(2)により算出する。
【0044】
【数2】

S150で相関係数rX,rYをそれぞれ算出した後、未確定経路1,2の相関度合いを示す値としてrXとrYとの積を算出し、この算出した相関度合いの値が規定値C以上であるか否かを判定する(S160)。
【0045】
なお、相関係数は−1から1までの実数値をとり、相関係数が1に近いとき座標変数の相関が強い。すなわち、相関係数rX,rYが共に1に近ければ未確定経路1,2においてX軸,Y軸共に相関が強く、移動軌跡の形状の一致性が高いといえる。したがって、相関係数rX,rYの積が1に近ければ、2つの未確定経路1,2が同一の道路を走行したときの移動軌跡である可能性が高いと判断でき、相関係数rX,rYの積が1から遠ければ、2つの未確定経路1,2は同一の道路を走行したものではなく、道路以外の領域を走行したものである可能性が高いと判断できるのである。そこで、相関度合いの判定に用いる規定値Cは、1に近い値(だだし、C<1)であって、2つの未確定経路1,2が同一の道路を走行したときの移動軌跡であると判断できる程度の相関度合いの値を予め設定しておく。
【0046】
S160で未確定経路1,2の相関度合いの値が規定値C以上であると判定した場合(S160:YES)、すなわち、未確定経路1,2が同一の道路を走行したときの移動軌跡であると判断できる場合、未確定経路1,2のデータに基づいて新規道路のデータを生成する(S170)。これにより学習した道路が確定する。この新規道路のデータは、離脱した既存の道路のリンクIDと離脱地点(始点)の座標、復帰した既存の道路のリンクIDと復帰地点の座標(終点)、始点と終点との間の道路形状を示す座標点の集合から構成される。なお、新規道路の道路形状を示す座標点は、未確定経路1,2それぞれの軌跡座標列の平均をとったものを採用すればよい。
【0047】
つづいて、S170で作成した新規道路データをHDD24の地図データ内の所定領域に格納し(S190)、学習対象道路特定処理を終了する。
一方、S160で未確定経路1,2の相関度合いの値が規定値C未満であると判定した場合(S160:NO)、すなわち、未確定経路1,2の形状の一致性が低く、同一の道路を走行したときの移動軌跡ではなく駐車場等の道路以外の領域を走行したものであると判断できる場合、記憶している未確定経路1,2のデータを削除し(S180)、学習対象道路特定処理を終了する。この場合、学習結果は地図データに登録されない。
【0048】
[効果]
上記実施形態のナビゲーション装置1によれば、下記のような効果を奏する。
現在地が地図データに既存の道路から逸脱している間に取得した2つの未確定経路1,2の一致度合いを、軌跡座標列の座標変数X,Yごとにそれぞれ算出した相関係数rX,rYの積の値よって判断できる。そして、未確定経路1,2の一致度合いが基準値C以上である場合、未確定経路1,2同士の形状の一致度合いが高いと判断し、新規道路として学習する。この場合、2つの未確定経路1,2の間で多少のばらつきが生じている場合でも、相関度合いが高いと判断されれば同一の道路と判断することができる。一方、2つの未確定経路1,2の相関度合いが基準値C未満である場合、未確定経路1,2同士の形状の一致度合いが低いと判断し、学習の対象から除外する。
【0049】
このようにすることで、道路以外での学習結果を排除し、地図データに登録されていない道路に該当する学習結果のみを新規道路として登録することで、ナビゲーション装置1における道路学習機能の効果をより向上させることができる。
【0050】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく様々な態様にて実施することが可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態では、相関判定の対象となる未確定経路1,2の座標系として、測位点の緯度・経度に対応する(X,Y)二次元直交座標系を採用した。この他にも、緯度・経度に高さを加えた(X,Y,Z)三次元直交座標系を採用することが考えられる。この場合、相関判定の対象となる2つの未確定経路における変数X,Y,Zについて、それぞれの相関係数rx,rY,rZを算出する。そして、2つの未確定経路の相関度合いとしてrx,rY,rZの積を算出し、この算出した相関度合いに基づいて未確定経路が道路であるか否かを判定すればよい。
【0052】
あるいは、相関判定の対象となる未確定経路の座標系として、測位点をある基準地点からの距離rと角度θからなるベクトルで表現した(r,θ)二次元極座標系を採用してもよい。この場合、相関判定の対象となる2つの未確定経路における変数r,θについて、それぞれの相関係数rr,rθを算出する。そして、2つの未確定経路の相関度合いとしてrr,rθの積を算出し、この算出した相関度合いに基づいて未確定経路が道路であるか否かを判定すればよい。
【0053】
あるいは、相関判定の対象となる未確定経路の座標系として、測位点をある基準地点からの距離rと2つの角度θ1,θ2からなるベクトルで表現した(r,θ1,θ2)三次元極座標系を採用してもよい。この場合、相関判定の対象となる2つの未確定経路における変数r,θ1,θ2について、それぞれの相関係数rr,rθ1,rθ2を算出する。そして、2つの未確定経路の相関度合いとしてrr,rθ1,rθ2の積を算出し、この算出した相関度合いに基づいて未確定経路が道路であるか否かを判定すればよい。
【0054】
また、上記実施形態では、未確定経路1,2において対応する座標変数同士の散布をそれぞれ一次回帰直線で近似する単回帰モデルに対応する相関係数を算出するものとし、相関係数として最も一般的に知られるピアソンの積率相関係数を採用した。この他にも、回帰式として、多項関数や、多次元関数、三角関数、指数関数、対数関数等の様々な関数を用いる回帰モデルに対応する相関関数を算出するような構成であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…ナビゲーション装置、21…位置検出器、21a…GPS受信機、21b…ジャイロスコープ、21c…車速センサ、22…操作スイッチ群、24…ハードディスクドライブ、25…外部メモリ、26…表示装置、27…音声出力装置、29…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図記憶手段に格納されている地図データを用いて経路案内を行うナビゲーション装置であって、
未確定経路を記憶するための記憶手段と、
自ナビゲーション装置の現在地が前記地図データに既存の道路の領域から離脱してから復帰するまでの時系列の移動軌跡を生成し、その生成した移動軌跡を1つの未確定経路として前記記憶手段に記録する経路生成手段と、
前記記憶手段に記憶された複数の未確定経路の中から判定対象となる2つの未確定経路を特定する特定手段と、
前記特定手段により特定した判定対象の2つの未確定経路を所定の座標系に対応する軌跡座標列でそれぞれ表したときの各座標変数について、両未確定経路の軌跡座標列間で対応する座標変数同士に関する所定の回帰次数の相関係数をそれぞれ算出する相関係数算出手段と、
前記相関係数算出手段により算出した各座標変数ごとの相関係数の値に基づいて、前記判定対象の未確定経路同士の相関の度合いを算出し、その算出した相関の度合いが基準値以上であるか否かを判定する相関判定手段と、
前記相関判定手段により前記判定対象の未確定経路同士の相関の度合いが基準値以上であると判定した場合、前記判定対象の未確定経路における移動軌跡に基づいて新規道路を生成し、その生成した新規道路を経路案内に用いる前記地図データとして前記地図記憶手段に記録する新規道路記録手段とを備えること
を特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナビゲーション装置において、
前記特定手段は、2つの未確定経路の始点同士及び終点同士がそれぞれ所定の近接範囲内にあることを条件に判定対象となる未確定経路を特定すること
を特徴とするナビゲーション装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のナビゲーション装置において、
前記相関係数算出手段は、一次回帰直線に対応する相関係数を算出すること
を特徴とするナビゲーション装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のナビゲーション装置において、
相関係数算出手段は、前記判定対象の2つの未確定経路を直交座標系に対応する軌跡座標列でそれぞれ表したときの各座標変数について、両未確定経路の軌跡座標列間で対応する座標変数同士に関する相関係数をそれぞれ算出すること
を特徴とするナビゲーション装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のナビゲーション装置において、
相関係数算出手段は、前記判定対象の2つの未確定経路を極座標系に対応する軌跡座標列でそれぞれ表したときの各座標変数について、両未確定経路の軌跡座標列間で対応する座標変数同士に関する相関係数をそれぞれ算出すること
を特徴とするナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−261783(P2010−261783A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112153(P2009−112153)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】