説明

ニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法

【課題】耐サワーガソリン性および耐寒性に優れ、ガソリン透過性の小さいニトリル共重合体ゴム架橋物を与えるニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位10〜75重量%を有するニトリル共重合体ゴム(A)のラテックス、前記ラテックス中のニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)1〜200重量部を添加してなるニトリル共重合体ラテックス組成物を、凝固することによりニトリル共重合体ゴム組成物を製造する方法であって、前記ニトリル共重合体ラテックス組成物の凝固を、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、pH5.0以下の条件にて行うことを特徴とするニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐サワーガソリン性および耐寒性に優れ、ガソリン透過性の小さいニトリル共重合体ゴム架橋物を与えるニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位と、共役ジエン単量体単位またはオレフィン単量体単位と、を含有するゴム(ニトリル共重合体ゴム)は、耐油性に優れるゴムとして知られており、その架橋物は主に燃料用ホース、ガスケット、パッキンおよびオイルシールなどの主として自動車用途の各種油類周りのゴム製品の材料として用いられている。
【0003】
近年、世界的な環境保護活動の高まりにより、ガソリンなどの燃料の大気中への蒸散量を低減させる取り組みが進んでおり、燃料ホース、シールおよびパッキンなどの用途においてガソリン透過性が一層低いことが求められている。また、燃料ホースには、酸敗ガソリン中に発生するフリーラジカルに対する耐性(耐サワーガソリン性)のあることも要求されている。
【0004】
このような状況において特許文献1は、ゴムラテックスに粘土物質を分散、混合することにより、得られる架橋物の特性を改善するために、各種ゴムラテックスと、モンモリロナイト懸濁水と、ピロリン酸化合物等のモンモリロナイト用分散剤とを高速で撹拌して混合することを提案している。しかしながら、この特許文献1の方法では、得られる架橋物のガスバリア性は向上するものの、ガソリン透過性が不十分であった。
【0005】
また、特許文献2には、ゴム系高分子と層状無機化合物とを含有する混合液を調製し、調製した混合液からゴム系高分子と層状無機化合物とを含有するゴム組成物を回収するゴム組成物の製造方法が開示されている。しかしながら、この特許文献2は、そもそも、制振性に優れたゴム架橋物を得ること目的とするものであり、ガソリン透過性や耐サワーガソリン性が不十分であった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−70137号公報
【特許文献2】特開2003−201373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、耐サワーガソリン性および耐寒性に優れ、ガソリン透過性の小さいニトリル共重合体ゴム架橋物を与えるニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、所定量のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するニトリル共重合体ゴムのラテックスに、所定のアスペクト比を有する無機充填剤を添加することで得られるニトリル共重合体ラテックス組成物を凝固させ、ニトリル共重合体ゴム組成物を製造する際に、凝固剤として、1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、かつ凝固時のpHを5.0以下の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位10〜75重量%を有するニトリル共重合体ゴム(A)ラテックス、前記ラテックス中のニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)を1〜200重量部を添加してなるニトリル共重合体ラテックス組成物を、凝固することによりニトリル共重合体ゴム組成物を製造する方法であって、前記ニトリル共重合体ラテックス組成物の凝固を、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、pH5.0以下の条件にて行うことを特徴とするニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法が提供される。
【0010】
本発明において、好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム(A)が、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位をさらに有する。
好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム組成物は、前記ニトリル共重合体ゴム100重量部に対して、10〜150重量部の塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂をさらに含有する。
好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム組成物は、前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、0.1〜200重量部の可塑剤をさらに含有する。
好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム組成物に、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して10〜150重量部の塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂を非水系で混合するニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法が提供される。
【0011】
本発明によれば、上記いずれかの方法により得られたニトリル共重合体ゴム組成物に架橋剤を加えてなる架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物、および該架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、2以上の層からなり、少なくとも1層が上記架橋物から構成される積層体が提供される。
さらに、本発明によれば、上記架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を筒状に成形し、マンドレルを挿入して得られる成形体を、架橋して得られるホースが提供される。本発明のホースは、好ましくは、上記架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物からなる層を含む2層以上の積層体を筒状に成形し、マンドレルを挿入して得られる成形体を、架橋して得られるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐サワーガソリン性および耐寒性に優れ、ガソリン透過性の小さいニトリル共重合体ゴム架橋物を与えるニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位10〜75重量%を有するニトリル共重合体ゴム(A)ラテックス、前記ラテックス中のニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)を1〜200重量部添加してなるニトリル共重合体ラテックス組成物を、凝固することによりニトリル共重合体ゴム組成物を製造する方法であって、
前記ニトリル共重合体ラテックス組成物の凝固を、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、pH5.0以下の条件にて行うことを特徴とするものである。
【0015】
ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックス
まず、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスについて説明する。
本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスを構成するニトリル共重合体ゴム(A)は、少なくともα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位10〜75重量%を有するゴムである。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、10〜75重量%であり、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜65重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が低すぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が悪化し、ガソリン透過性が大きくなる。一方、含有割合が高すぎると、得られるゴム架橋物が耐寒性に劣るものとなり、脆化温度が高くなる。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば、特に限定されないが、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0018】
また、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位に加えて、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位をさらに有することが好ましい。
【0019】
カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、0.1〜20重量%であり、好ましくは0.3〜15重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位の含有割合が低すぎると、得られるゴム架橋物のガソリン透過性が大きくなる傾向がある。一方、含有割合が高すぎると、得られるゴム架橋物の耐寒性が悪化する傾向がある。
【0020】
カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位を形成する単量体としては、得られる重合体が水または酸水溶液に接した際にプラスに帯電するような単量体単位を形成する単量体であれば、特に限定されない。このような単量体としては、たとえば、カチオン性単量体として、第四級アンモニウム塩基を含有する単量体が挙げられる。また、カチオンを形成可能な単量体として、第三級アミノ基のように塩酸および硫酸等の酸水溶液と接触した際にアンモニウム塩(たとえば、アミン塩酸塩やアミン硫酸塩)などにカチオン化される前駆体部(置換基)を有する単量体が挙げられる。
【0021】
カチオン性単量体の具体例としては、(メタ)アクリロイルオキシトリメチルアンモニウムクロライド〔アクリロイルオキシトリメチルアンモニウムクロライドおよび/またはメタクリロイルオキシトリメチルアンモニウムクロライドを意味する。以下、同様。〕、(メタ)アクリロイルオキシヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシトリメチルアンモニウムメチルサルフェート等の第四級アンモニウム塩基を含有する(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩基を含有する(メタ)アクリルアミド単量体;などが挙げられる。
【0022】
カチオンを形成可能な単量体の具体例としては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等のビニル基含有環状アミン単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の第三級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリルアミドジメチルアミノエチル、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等の第三級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド単量体;N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリン等が挙げられる。
【0023】
カチオン性単量体およびカチオンを形成可能な単量体のなかでも、本発明の効果がより一層顕著になることから、ビニル基含有環状アミン単量体、第三級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体および第三級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド単量体が好ましく、ビニル基含有環状アミン単量体および第三級アミノ基含有アクリルアミド単量体が特に好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0024】
また、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、得られる架橋物がゴム弾性を有するものとするために、通常、ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位も含有する。
【0025】
ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの好ましくは炭素数が4以上の共役ジエン;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどの好ましくは炭素数が5〜12の非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中では共役ジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0026】
α−オレフィン単量体としては、好ましくは炭素数が2〜12のものであり、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが例示される。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0027】
上記ニトリル共重合体ゴム(A)が、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位に加えて、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位をさらに有する場合、ニトリル共重合体ゴム(A)におけるジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位の含有量は、5〜89.9重量%であり、好ましくは15〜69.7重量%、より好ましくは25〜59.5重量%である。ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがある。一方、多すぎると得られるゴム架橋物の耐熱老化性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0028】
また、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、上記α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、ならびに、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位以外に、これらの単量体単位を形成する単量体と共重合可能な他の単量体の単位を含有していてもよい。このような他の単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0029】
このような共重合可能な他の単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどのフッ素含有ビニル化合物;1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどの非共役ジエン化合物;エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα―オレフィン化合物;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、無水フマル酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸およびその無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル;マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステルおよびジエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル;ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリメタクリル酸エステル類;などの多官能エチレン性不飽和単量体のほか、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N′-ジメチロール(メタ)アクリルアミドなどの自己架橋性化合物;などが挙げられる。
【0030】
ニトリル共重合体ゴム(A)のムーニー粘度(以下、「ポリマー・ムーニー粘度」と記すことがある。)(ML1+4、100℃)は、好ましくは3〜250、より好ましくは15〜180、特に好ましくは20〜160である。ニトリル共重合体ゴム(A)のポリマー・ムーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の強度特性が低下するおそれがある。一方、高すぎると、ニトリル共重合体ゴム組成物とした場合における加工性が悪化する可能性がある。
【0031】
本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスは、上記したニトリル共重合体ゴム(A)を構成する各単量体を共重合することにより製造することができる。各単量体を共重合する方法としては、特に限定されないが、たとえば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの乳化剤を用いて約50〜1,000nmの平均粒径を有する共重合体のラテックスを得る乳化重合法や、ポリビニルアルコールなどの分散剤を用いて約0.2〜200μmの平均粒径を有する共重合体のラテックスを得る懸濁重合法(微細懸濁重合法も含む)などを好適に用いることができる。これらのなかでも、重合反応制御が容易なことから乳化重合法がより好ましい。
【0032】
ニトリル共重合体ゴム(A)が、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体、ならびに、カチオン性単量体および/またはカチオンを形成可能な単量体を共重合して得られるものである場合、乳化重合法は、下記の手順で行うことが好ましい。
なお、以下において、適宜、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体を「単量体(m1)」とし、共役ジエン単量体を「単量体(m2)」とし、カチオン性単量体および/またはカチオンを形成可能な単量体を「単量体(m3)」とする。
【0033】
すなわち、単量体(m1)10〜75重量部、好ましくは30〜70重量部、より好ましくは40〜65重量部、単量体(m2)5〜89.9重量部、好ましくは15〜69.7重量部、より好ましくは25〜59.5重量部、および単量体(m3)0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜15重量部、より好ましくは0.5〜10重量部からなる単量体混合物100重量部(ただし、単量体(m1)、単量体(m2)および単量体(m3)の合計量が100重量部である。)を、乳化重合し、重合転化率が好ましくは50〜95重量%の時点で、重合反応を停止した後、所望により未反応の単量体を除去する方法が好ましい。
【0034】
乳化重合法に用いる、単量体(m1)の使用量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が悪化し、ガソリン透過性が大きくなり、一方、多すぎると、耐寒性が悪化する傾向がある。単量体(m2)の使用量が少なすぎると重合初期段階で反応が失活し、一方、多すぎると、得られるゴム架橋物のガソリン透過性が大きくなる傾向がある。また、単量体(m3)の使用量が少なすぎると、無機充填剤(B)を添加した際に、無機充填剤(B)の分散性が悪化して、ガソリン透過性が大きくなる傾向があり、一方、多すぎると、耐寒性が悪化する傾向がある。
また、重合反応を停止する重合転化率が低すぎると、未反応の単量体の回収が非常に困難になる。一方、高すぎると、得られるゴム架橋物の常態物性が悪化する。
【0035】
なお、乳化重合を行うに際し、乳化重合の分野で従来公知の乳化剤、重合開始剤、重合副資材などを適宜用いることができ、重合温度や重合時間も適宜調節すればよい。
【0036】
本発明においては、乳化重合に用いる単量体(m1)〜(m3)の全量を用い、重合反応を開始してもよいが、生成する共重合体の各単量体単位の組成分布を制御し、よりゴム弾性に富むゴム架橋物が得るという観点より、乳化重合に用いる単量体(m1)〜(m3)の全量のうち一部を用い、重合反応を開始し、その後、乳化重合に用いる単量体(m1)〜(m3)の残余を反応器に添加して重合することが好ましい。これは、一般に、重合反応開始時から、乳化重合に用いる単量体(m1)〜(m3)の全量を反応させてしまうと、共重合体の組成分布が広がるためである。
【0037】
この場合、重合に用いる単量体(m1)の好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜100重量%、特に好ましくは30〜100重量%、重合に用いる単量体(m2)の好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜80重量%、特に好ましくは15〜70重量%、および、重合に用いる単量体(m3)の好ましくは0〜100重量%、より好ましくは30〜100重量%、特に好ましくは70〜100重量%からなる単量体混合物を反応器に仕込み、重合反応を開始した後、反応器に仕込んだ単量体混合物に対する重合転化率が好ましくは5〜80重量%の範囲で、残余の単量体を反応器に添加して重合反応を継続することが好ましい。
【0038】
残余の単量体を添加する方法は、特に制限されないが、一括で添加しても、分割して添加しても、また、連続的に添加してもよい。本発明では、得られる共重合体の組成分布をより簡便に制御できる点から、残余の単量体を、分割して添加することが好ましく、1〜6回に分割して添加することが特に好ましい。残余の単量体を、分割して添加する場合、分割添加する単量体の量や分割添加する時期は、重合反応の進行に合わせ、所望の共重合体が得られるよう調整すればよい。
【0039】
そして、その後、所望により、加熱蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留などの公知の方法を用いて未反応の単量体を除去することにより、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスが得られる。
【0040】
本発明においては、乳化重合法によって得られるニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスの固形分濃度は、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
【0041】
なお、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、上記のように共重合して得られた共重合体のジエン単量体単位部分における不飽和結合部分を水素化(水素添加反応)したものであっても良い。水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0042】
ニトリル共重合体ラテックス組成物
本発明で用いるニトリル共重合体ラテックス組成物は、上記ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックス、前記ラテックス中のニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)を1〜200重量部を添加してなるものである。なお、ニトリル共重合体ラテックス組成物は、ゴム架橋物とした場合に、各種特性が向上できるという観点より、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスと無機充填剤(B)とが均一に混合・分散したものであることが好ましい。これらを均一に分散させる方法としては、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスに、無機充填剤(B)の水性分散液を撹拌下で添加する方法等が挙げられる。
【0043】
本発明で用いる無機充填剤(B)は、アスペクト比が30〜2,000であり、好ましくは35〜1,800、より好ましくは40〜1,600である。このような扁平状の無機充填剤を用いることにより、得られる架橋物にガソリンの浸透遮断効果をもたらすことができる。しかも、扁平状の無機充填剤のうちでも、アスペクト比が上記範囲にある無機充填剤を用い、これを上記ニトリル共重合体ゴム(A)と組み合わせることにより、得られる架橋物を、ガソリン透過性および耐サワーガソリン性を良好なものとしながら、耐寒性に優れたものとすることができる。アスペクト比が小さすぎると、得られる架橋物の耐ガソリン透過性が悪化してしまう。一方、大きすぎると、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックス中への分散が困難となり、機械的強度が低下してしまう。
【0044】
なお、本発明において無機充填剤(B)のアスペクト比とは、無機充填剤(B)の面平均径と平均厚みとの比である。ここで、面平均径および平均厚みは原子間力顕微鏡で無作為に選んだ100個の無機充填剤(B)の面方向の径と厚みとを測定し、その算術平均値として算出される個数平均の値である。
【0045】
アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤としては、特に限定されないが、天然物由来のものであっても、天然物に精製などの処理を加えたものであっても、合成品であってもよい。具体例としては、カオリナイトやハロサイトなどのカオリナイト類;モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイト、マイカなどのスメクタイト類;およびバーミキュライト類;緑泥石類;タルクなどが挙げられ、中でもスメクタイト類が好ましく、モンモリロナイト、マイカおよびサポナイトが特に好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。特に、本発明では、モンモリロナイト、マイカ、サポナイトを水分散処理することにより、多層構造を有する化合物であるモンモリロナイト、マイカ、サポナイトを構成する各層を分離して得られるものを用いることが好ましい。このような水分散処理を行うことにより分散性が良好な組成物を得ることができる。
【0046】
また、モンモリロナイト、マイカ、サポナイトは、層間に交換性陽イオンを有する多層構造であるため、上記ニトリル共重合体ゴム(A)中のカチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位への分散性に優れることから好適に用いることができる。特に、ニトリル共重合体ゴム(A)と、無機充填剤(B)との分散性を高めることにより、ガソリン透過性をより小さく、また、脆化温度をより低くできる。
【0047】
また、無機充填剤(B)の平均粒径は、好ましくは0.001〜20μm、より好ましくは0.005〜15μm、特に好ましくは0.01〜10μmである。本発明においては、無機充填剤(B)の平均粒径は、X線透過法で粒度分布を測定することにより求められる50%体積累積径で定義される。無機充填剤(B)の粒径が小さすぎると、得られるゴム架橋物の伸びが低下するおそれがあり、逆に、大きすぎると安定なラテックス組成物が調製できない可能性がある。
【0048】
無機充填剤(B)の使用量は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対し、1〜200重量部であり、好ましくは2〜150重量部、より好ましくは3〜100重量部である。無機充填剤(B)の使用量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のガソリン透過性が大きくなったり、耐サワーガソリン性が不十分になる。一方、使用量が多すぎると、伸びが低下するおそれがある。
【0049】
ニトリル共重合体ラテックス組成物の調整方法としては、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスに、無機充填剤(B)の水性分散液を撹拌下で添加する方法が好ましい。これにより両者が均一に混合・分散したラテックス組成物となる。
【0050】
また、無機充填剤(B)の水性分散液の調整方法は特に限定はないが、水媒体を強く撹拌しながら、無機充填剤(B)を添加して調製すればよい。また、無機充填剤(B)に対して、0.1〜10重量%となる量のポリアクリル酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリマレイン酸ナトリウム、β−ナフタレンスルホン酸・ホルマリン縮合物のNa塩などの分散剤や界面活性剤等を含有する水媒体を使用してもよく、アニオン性の分散剤や界面活性剤を含有するのが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。無機充填剤(B)の水性分散液の固形分濃度は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜40重量%である。
【0051】
さらに、本発明においては、無機充填剤(B)の水性分散液を調製する際には、湿式粉砕機を用いて、無機充填剤(B)を水中に分散させてもよい。湿式粉砕機を用いて分散させることにより、無機充填剤(B)が二次凝集している場合に、無機充填剤(B)の二次凝集を解消することができ、得られる架橋物をガソリン透過性により優れたものとすることができる。この場合に用いる湿式粉砕機としては、ナスマイザー(吉田機械興業(株)製)、スーパーウイングミルDM−200((株)エステック製)などが挙げられるが、同様の効果が得られるものであれば、もちろん他の湿式粉砕機を用いることも可能である。
【0052】
なお、ニトリル共重合体ラテックス組成物には、本発明の効果がより一層顕著になることから、可塑剤を含有させることが好ましい。可塑剤を含有させる場合においても、可塑剤がニトリル共重合体ラテックス組成物中に均一に混合・分散させることが好ましい。可塑剤としては、従来からゴム配合用の可塑剤として使用されているものが使用でき、特に限定されない。
【0053】
このような可塑剤としては、たとえば、アジピン酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのアジピン酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;アゼライン酸ジブトキシエチル、アゼライン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのアゼライン酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;セバシン酸ジブトキシエチル、セバシン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのセバシン酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;フタル酸ジブトキシエチル、フタル酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのフタル酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;イソフタル酸ジブトキシエチル、イソフタル酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのイソフタル酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;アジピン酸ジ−(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソノニルなどのアジピン酸ジアルキルエステル類;アゼライン酸ジ−(2−エチルヘキシル)、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジ−n−ヘキシルなどのアゼライン酸ジアルキルエステル類;セバシン酸ジ−n−ブチル、セバシン酸ジ−(2−エチルヘキシル)などのセバシン酸ジアルキルエステル類;フタル酸ジブチル、フタル酸ジ−(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジノニルなどのフタル酸ジアルキルエステル類;フタル酸ジシクロヘキシルなどのフタル酸ジシクロアルキルエステル類;フタル酸ジフェニル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸アリールエステル類;イソフタル酸ジ−(2−エチルヘキシル)、イソフタル酸ジイソオクチルなどのイソフタル酸ジアルキルエステル類;テトラヒドロフタル酸ジ−(2−エチルヘキシル)、テトラヒドロフタル酸ジ−n−オクチル、テトラヒドロフタル酸ジイソデシルなどのテトラヒドロフタル酸ジアルキルエステル類;トリメリット酸トリ−(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリイソオクチル、トリメリット酸トリ−n−ヘキシル、トリメリット酸トリイソノニルなどのトリメリット酸誘導体;などが挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0054】
これらのなかでも、得られる架橋物の脆化温度とガソリン透過性を良好なものとすることができることから、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびフタル酸などの二塩基酸と、エーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;が好ましく、アジピン酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;がより好ましく、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)が特に好ましい。
【0055】
本発明で用いるニトリル共重合体ラテックス組成物における可塑剤の含有量は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対し、好ましくは0.1〜200重量部、より好ましくは1〜150重量部、特に好ましくは2〜100重量部である。可塑剤の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の脆化温度が高くなりすぎる場合がある。一方、多すぎると、ブリードが生じる可能性がある。
【0056】
本発明で用いるニトリル共重合体ラテックス組成物に可塑剤を添加する方法としては、特に限定はないが、ニトリル共重合体ラテックス組成物に、可塑剤濃度を5〜70重量%とした可塑剤の水性分散液(エマルジョン)を攪拌下で添加してゆく方法を採用すると好ましい。これにより、ニトリル共重合体ゴム(A)、無機充填剤(B)および可塑剤を均一に混合・分散させることができる。
【0057】
また、上記可塑剤の水性分散液の調整方法は特に限定はないが、可塑剤の0.5〜10重量%となる量の界面活性剤を含有する水媒体を強く撹拌しながら、可塑剤を添加して調製することが好ましい。このような界面活性剤としては、ロジン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなどのノニオン界面活性剤;ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン界面活性剤等が挙げられる。
【0058】
本発明で用いるニトリル共重合体ラテックス組成物は、さらにアクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂を含有していても良い。アクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂を含有するものとすることにより、ゴム架橋物とした場合に、耐オゾン性がより一層改善されたものとすることができる。アクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂の含有量は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは10〜150重量部、より好ましくは15〜125重量部、さらに好ましくは20〜100重量部である。アクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂の含有量が少なすぎると、その添加効果が得難くなる。一方、多すぎると耐寒性が悪化するおそれがある。
【0059】
ニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法
ニトリル共重合体ゴム組成物は、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、pH5.0以下の範囲で、上記ニトリル共重合体ラテックス組成物を凝固させることにより製造される。なお、必要に応じて、ニトリル共重合体ゴム組成物を凝固させた後に、水洗・乾燥しても良い。
【0060】
本発明で用いる凝固剤としての1〜3価の金属イオンを含む塩は、水に溶解させた場合に1〜3価の金属イオンとなる金属を含む塩であれば何でも良く、特に限定されないが、たとえば、塩酸、硝酸および硫酸等から選ばれる無機酸や酢酸等の有機酸と、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムおよびスズ等から選ばれる金属との塩が挙げられる。また、これらの金属の水酸化物なども用いることもできる。
【0061】
このような1〜3価の金属イオンを含む塩の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化チタン、塩化マンガン、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化アルミニウム、塩化スズなどの金属塩化物;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛、硝酸チタン、硝酸マンガン、硝酸鉄、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸アルミニウム、硝酸スズなどの硝酸塩;硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸チタン、硫酸マンガン、硫酸鉄、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸アルミニウム、硫酸スズなどの硫酸塩;等が挙げられる。これらのなかでも、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸亜鉛が好ましい。また、これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0062】
このような凝固剤としての1〜3価の金属イオンを含む塩を用いて、ニトリル共重合体ゴム組成物を凝固させる方法としては特に限定されないが、たとえば、上述の凝固剤と水とからなる凝固液を調製し、この凝固液と、ニトリル共重合体ラテックス組成物とを接触させて塩析凝固させる方法や、ニトリル共重合体ラテックス組成物に、凝固剤を直接添加し、これらを接触させて凝固させる方法などが挙げられる。これらのうちでは、凝固液と、ニトリル共重合体ラテックス組成物とを接触させて凝固させる方法が好ましく、たとえば、凝固液中にニトリル共重合体ラテックス組成物を添加することにより、これらを接触させて塩析凝固させることができる。
【0063】
また、本発明においては、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用いて、ニトリル共重合体ラテックス組成物を凝固させる際における、凝固pH(凝固時における、凝固剤または凝固液とニトリル共重合体ラテックス組成物との混合液のpH)を5.0以下、好ましくは4.5以下、より好ましくは4.0以下とする。なお、上記凝固pHの下限は、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上である。
凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、かつ、pH5.0以下の範囲として、ニトリル共重合体ラテックス組成物を凝固させ、ニトリル共重合体ゴム組成物を製造することで、ニトリル共重合体ゴム(A)に含まれるカチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位が有する官能基のゼータ電位が上昇し、これにより、無機充填剤(B)の分散性が向上するため、得られるゴム架橋物を、耐寒性および耐サワーガソリン性を良好なものとしながら、ガソリン透過性のさらなる低減が可能となる。凝固時のpHが高すぎると、得られる架橋物のガソリン透過性が大きくなってしまう。また、凝固時のpHが上記範囲であっても、凝固剤として、1〜3価の金属イオンを含む塩以外の凝固剤を用いた場合にも、ガソリン透過性の低減効果が得難くなり、得られる架橋物のガソリン透過性が大きくなってしまう。
【0064】
なお、凝固時のpHを上記範囲とする方法としては、特に限定されず、凝固剤を含有する凝固液のpHを調整することにより凝固時のpHを上記範囲とする方法、ニトリル共重合体ラテックス組成物のpHを調整することにより凝固pHを上記範囲とする方法、凝固剤を含有する凝固液のpHおよびニトリル共重合体ラテックス組成物のpHをそれぞれ調整することにより凝固pHを上記範囲とする方法の他、凝固液とニトリル共重合体ラテックス組成物とを接触させる際に、希硫酸水溶液などのpH調整用の水溶液をさらに添加することにより凝固pHを上記範囲とする方法などが挙げられる。なお、凝固液やニトリル共重合体ラテックス組成物のpHの調整は、これらに希硫酸水溶液のpH調整用の水溶液を添加することにより行うことができる。
また、本発明においては、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、かつ、pH5.0以下の範囲であれば、感熱凝固剤、高分子凝集剤、水溶性有機液体等を併用して凝固してもスチームを吹き込みながら凝固してもよい。凝固温度は特に限定されないが、10℃以上にすることが好ましい。なお、凝固温度の上限は、好ましくは98℃以下、より好ましくは80℃以下である。
【0065】
凝固剤の使用量は、ニトリル共重合体ラテックス組成物中のニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.5〜200重量部、より好ましくは0.5〜150重量部である。
【0066】
また、凝固後によって得られるニトリル共重合体ゴム組成物のクラムの平均粒径は、0.1〜40mmであることが好ましい。一般に、クラム粒径は、凝固、洗浄工程に続く振動スクリーンやスクイーザーでの脱水度、クラム回収率、さらには乾燥工程での乾燥度に大きな影響を及ぼすものである。たとえば、クラム粒径が小さすぎると、振動スクリーンなどでは、クラム粒径が小さくてスクリーンの目から流出したり、スクイーザーでのポリマーの噛みこみが不充分になって脱水度が低下したりして、生産性が悪化する。そのため、クラム粒径は、上記範囲であることが好ましい。
【0067】
クラムの洗浄、脱水および乾燥方法については、一般的なゴムの製造における洗浄・脱水方法および乾燥方法と同様とすることができる。洗浄・脱水方法としては網目状のフィルター、遠心分離機等を用いて、凝固によって得られたクラムと水とを分離させた後、洗浄し、スクイーザー等でクラムを脱水すればよい。次に一般にゴムの製造に用いられるバンドドライヤー、通気竪型乾燥機、二軸押出機等により、所望の含水率になるまで乾燥させることにより、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物を得ることができる。また、二軸押出機内で、凝固、乾燥を同時に行ってもよい。
【0068】
本発明のニトリル共重合体ゴム組成物は、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスに無機充填剤(B)を含有させたニトリル共重合体ラテックス組成物に、塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂、ならびに可塑剤の全成分もしくはこれらのうち1つ以上の成分の全量またはその一部を含有させ、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、かつ、pH5.0以下の範囲で凝固し、乾燥して得られたゴム組成物に、残余の成分をロールやバンバリーミキサー等の混錬機で混錬(非水系で混合)して得ることもできる。
【0069】
また、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスに無機充填剤(B)を含有させたニトリル共重合体ラテックス組成物を、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、かつ、pH5.0以下の範囲で凝固し、乾燥して得られたゴム組成物に、塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂、可塑剤をロールやバンバリーミキサー等の混錬機で混錬(非水系で混合)して得ることもできる。
すなわち、本発明の製造方法においては、上述のニトリル共重合体ゴム組成物に、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して10〜150重量部の塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂を非水系で混合することができる。
【0070】
このようにして得られるニトリル共重合体ゴム組成物のムーニー粘度は、好ましくは5〜300、より好ましくは15〜180である。
【0071】
架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物は、上記方法で得られたニトリル共重合体ゴム組成物に、架橋剤を加えてなる。
架橋剤は、ニトリル基含有共重合体ゴムの架橋剤として通常使用されるものであればよく、特に限定されない。代表的な架橋剤としては、ニトリル共重合体ゴム(A)の不飽和結合間を架橋する硫黄系架橋剤または有機過酸化物架橋剤が挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。これらのなかでも、硫黄系架橋剤が好ましい。
【0072】
硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。
【0073】
有機過酸化物架橋剤としては、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ビス−(t−ブチル−ペルオキシ)−n−ブチルバレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0074】
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物中における、架橋剤の含有量は特に限定されないが、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜5重量部である。
【0075】
有機過酸化物架橋剤を用いる場合には、架橋助剤として、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、ジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレン、イソシアヌル酸トリアリルなどの多官能性単量体などを併用することができる。これらの架橋助剤の使用量は特に限定されないが、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部の範囲である。
【0076】
硫黄系架橋剤を用いる場合には、亜鉛華、ステアリン酸などの架橋助剤;グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系などの架橋促進剤を併用することができる。これらの架橋助剤および架橋促進剤の使用量も特に限定されず、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部の範囲である。
【0077】
また、本発明に係るニトリル共重合体ゴム組成物または架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物には、その他必要に応じて一般的なゴムに使用される配合剤、例えば、架橋遅延剤、老化防止剤、充填剤、補強剤、カップリング剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、加工助剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤などの添加剤を配合してもよい。
【0078】
老化防止剤としては、フェノール系、アミン系、ベンズイミダゾール系、リン酸系などの老化防止剤を使用することができる。フェノール系では、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が、アミン系では、4,4’−ビス(α、α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン等が、ベンズイミダゾール系では2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上併せて使用される。
【0079】
充填剤としては、たとえば、カーボンブラックや、シリカ、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、短繊維、(メタ)アクリル酸亜鉛や(メタ)アクリル酸マグネシウムなどのα,β−エチレン系不飽和カルボン酸金属塩などが挙げられる。これらの充填剤はシランカップリング剤、チタンカップリング剤等によるカップリング処理や、高級脂肪酸またはその金属塩、エステル若しくはアミド等の高級脂肪酸誘導体や界面活性剤等による表面改質処理剤を施すことができる。
【0080】
また、本発明に用いるニトリル共重合体ラテックス組成物、本発明に係るニトリル共重合体ゴム組成物および架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ニトリル共重合体ゴム(A)以外のゴムを含有していてもよい。ニトリル共重合体ゴム(A)以外のゴムとしては、特に限定されないが、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムなどを挙げることができる。なお、ニトリル共重合体ゴム(A)以外のゴムを配合する場合における配合量は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは100重量部以下、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは30重量部以下である。
【0081】
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物のムーニー粘度(以下、「コンパウンド・ムーニー粘度」と記すことがある。)(ML1+4、100℃)は、好ましくは5〜250、より好ましくは10〜150である。
【0082】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上記架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋してなる。
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋する際には、製造する成形品(ゴム架橋物)の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、次いで架橋反応させることにより架橋物の形状を固定化する。架橋を行う際には、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜1時間である。
【0083】
また、ゴム架橋物は、その形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0084】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、耐サワーガソリン性および耐寒性に優れ、ガソリン透過性の小さいという性質を有するものである。特に、本発明によれば、ニトリル共重合体ラテックス組成物を凝固させて、ニトリル共重合体ゴム組成物とする際に、上記したように特定の凝固剤を用い、特定の条件にて凝固を行うため、得られる架橋物を、耐サワーガソリン性および耐寒性を良好なものとしながら、ガソリン透過性のさらなる低減が可能となるものである。そして、本発明のゴム架橋物は、このようなニトリル共重合体ゴム組成物を用いて得られるものであるため、本発明のゴム架橋物からなる層(I)を少なくとも1つの層とする一層または二層以上からなるホースとすることにより燃料用ホースなどとして好適に用いられる。なお、二層以上の積層体の場合においては、本発明のゴム架橋物からなる層(I)を内層、中間層、外層のいずれに用いてもよい。積層体の層(I)以外を構成する層(II)としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量が好ましくは5〜55重量%、より好ましくは18〜45重量%であるニトリル共重合体ゴム(L)、ニトリル共重合体ゴム(L)とアクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂を含有するものや、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン3元共重合体、ブチルゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0085】
また、必要に応じて、層(I)と層(II)を接着させるために、層(I)、層(II)のいずれか/または両方にホスニウム塩などを含有させてもよく、層(I)、層(II)の間に、新たな層(III)を接着層として用いてもよい。層(III)としては、上述した層(II)を構成する樹脂又はゴム組成物と同様の樹脂又はゴム組成物を用いることができる。層(III)としては、上述した層(II)を構成する樹脂又はゴム組成物を一種単独でまたは複数種併せて用いることができ、ホスニウム塩などを含有させてもよい。
【0086】
ここで、層(I)の厚みは、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは0.5〜5mmである。また、二層以上の積層体の場合においては、層(I)以外の層の厚みは、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは0.5〜5mmである。これらの単層ホース、二層以上の積層体からなる多層ホースは、たとえば、燃料用ホースとして好適に使用できる。
【0087】
なお、上述のような構成を有する、本発明のゴム架橋物を含むホースを製造する方法としては、特に限定されないが、押出機などを用いて筒状に成形し、それを架橋することにより本発明のホースとなる、本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物は、マンドレルクラックが発生しにくいという性質を有しているため、マンドレルを用いて製造することができる。
すなわち、ホースを、本発明の架橋物のみからなる単層のものとする場合には、まず、本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を筒状に成形し、得られた筒状の成形体にマンドレルを挿入することにより形状を固定し、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋させることにより製造することができる。
あるいは、ホースを、本発明の架橋物を含む多層のものとする場合には、本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物と、本発明の架橋物からなる層以外の層を形成することとなる樹脂又はゴム組成物と、を積層させながら筒状に成形し、得られた筒状の積層成形体にマンドレルを挿入することにより形状を固定し、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋させることにより製造することができる。
【0088】
また、本発明のゴム架橋物は、上記の他、パッキン、ガスケット、O−リング、オイルシール等のシール部材;オイルホース、燃料ホース、インレットホース、ガスホース、ブレーキホース、冷媒ホース等のホース類;に好適である。上記ガスホースのガスとしては、空気、窒素、酸素、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ジメチルエーテル、LPG等が挙げられる。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0090】
ムーニー粘度
ニトリル共重合体ゴムおよび架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物のムーニー粘度(ポリマー・ムーニー粘度、コンパウンド・ムーニー粘度)(ML1+4、100℃)は、JIS K6300に準拠して測定した。
【0091】
常態物性(引張強さ、伸び、100%引張応力、硬さ)
架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、加圧しながら160℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。得られたシート状のゴム架橋物を用いてJIS K6251に従い、ダンベル状3号形で打ち抜いた試験片を用いてゴム架橋物の引張強さ、伸びおよび100%引張応力を、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機タイプAを用いてゴム架橋物の硬さを、それぞれ測定した。
【0092】
ガソリン透過係数
上記常態物性の評価に用いたシート状のゴム架橋物と同様のものを準備し、燃料油として(イソオクタンとトルエンとエタノールを重量比2:2:1で混合したもの)を使用して、アルミカップ法によりガソリン透過係数を測定した。具体的には、100ml容量のアルミニウム製のカップに、上記燃料油を50ml入れ、その上にシート状のゴム架橋物をのせ、これで蓋をして、締め具で、シート状のゴム架橋物によりアルミカップ内外を隔てる面積が25.50cmになるように調整し、該アルミカップを23℃の恒温槽内にて、放置し、24時間毎に重量測定することにより24時間毎の油の透過量を測定し、その最大量を透過量とするものである(単位:g・mm/m・day)。
なお、ガソリン透過係数が低い程、良い。
【0093】
脆化温度
上記常態物性の評価に用いたシート状のゴム架橋物と同様のものを用い、JIS K6301に従い、脆化温度を測定した。
【0094】
耐サワーガソリン試験
上記常態物性の評価に用いたシート状のゴム架橋物と同様のものを準備し、燃料油としての(イソオクタンとトルエンとエタノールを重量比2:2:1で混合したもの)にジラウロイルペルオキシドを3重量%の濃度で溶解させた試験油中に、温度40℃、500時間(試験油は168時間当たり2回の割合で新規のものと交換した。)の条件にて、シート状のゴム架橋物を浸漬させた。そして、500時間経過後のサンプルについて、JIS K6253に準拠して、引張試験を行い、引張試験による伸長時にクラックの発生の有無を観察し、耐サワーガソリン性を評価した。
【0095】
実施例1
ニトリル共重合体ゴムのラテックスの製造
反応容器に、水240部、アクリロニトリル75.7部、2−ビニルピリジン2.2部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)2.5部を仕込み、温度を5℃に調整した。次いで、気相を減圧して十分に脱気してから、1,3−ブタジエン22部、重合開始剤であるパラメンタンヒドロペルオキシド0.06部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.02部、硫酸第一鉄(7水塩)0.006部およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.06部、ならびに連鎖移動剤のt−ドデシルメルカプタン1部を添加して乳化重合の1段目の反応を開始した。反応開始後、仕込み単量体に対する重合転化率が42重量%、60重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ12部および12部追加して2段目および3段目の重合反応を行った。その後、仕込み全単量体に対する重合転化率が75重量%に達した時点でヒドロキシルアミン硫酸塩0.3部、と水酸化カリウム0.2部を添加して重合反応を停止させた。反応停止後、反応容器の内容物を70℃に加温し、減圧下に水蒸気蒸留により未反応の単量体を回収してニトリル共重合体ゴム(n1)のラテックス(固形分24重量%)を得た。
【0096】
得られたニトリル共重合体ゴム(n1)の単量体を構成する各単量体の含有割合を、日本電子株式会社製FT NMR装置(JNM−EX400WB)を用いて測定したところ、アクリロニトリル単量体単位50重量%、1,3−ブタジエン単位48重量%、2−ビニルピリジン単量体単位2重量%であった。また、ニトリル共重合体ゴム(n1)のムーニー粘度(ポリマー・ムーニー粘度)は73であった。また、ニトリル共重合体ゴム(n1)のラテックスの等電点のpHは2.6であった。
【0097】
ニトリル共重合体ラテックス組成物、ニトリル共重合体ゴム組成物の調製
無機充填剤(B)として精製モンモリロナイト(製品名「クニピアF」、クニミネ工業社製)100部を、蒸留水1995部に、ポリアクリル酸ナトリウム5部の存在下に添加して強攪拌し、固形分濃度5%、pH10の無機充填剤水性分散液を得た。また、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)(商品名「アデカサイザーRS−107」、旭電化工業社製、可塑剤)の50重量%水性エマルジョンを、乳化剤としてのオレイン酸カリウムを該可塑剤の2重量%使用し、強撹拌下で混合して調製した。
【0098】
そして、上記にて得られたニトリル共重合体ゴム(n1)ラテックスを容器内で撹拌しつつ、上記にて調製した無機充填剤水性分散液を添加して分散させた。なお、無機充填剤水性分散液は、ニトリル共重合体ゴム(n1)ラテックスの固形分(ニトリル共重合体ゴム量)100部に対して、無機充填剤20部となるように添加し、固形分(ニトリル共重合体ゴムと無機充填剤)濃度15%とした。
【0099】
次いで、ニトリル共重合体ゴム(n1)に無機充填剤を分散させた溶液に、ニトリル共重合体ゴム(n1)100部に対して、上記にて調製したアジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)を含有するエマルジョン20部(可塑剤量は10部)を加えて混合・分散して、ニトリル共重合体ラテックス組成物を得た。また、上記とは別に、水中に、ニトリル共重合体ゴム(n1)100重量部に対して、5重量部となるように塩化カルシウムCaCl(凝固剤としての2価の金属イオンを含有する塩)を溶解することにより凝固液を調整した。そして、得られたニトリル共重合体ラテックス組成物を、上記にて調整した凝固液中に、凝固中の水溶液のpHが2.0となるよう10%希硫酸を適時添加してpHを調整しながら、撹拌下で注ぎ入れて凝固させ、ニトリル共重合体ゴム(n1)、無機充填剤および可塑剤の混合物からなるクラムを生成させた。
そして、得られたクラムを濾別、水洗した後、60℃で減圧乾燥してニトリル共重合体ゴム組成物を得た。
【0100】
架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物の調製
次いで、バンバリーミキサを用いて、ニトリル共重合体ゴム組成物中のニトリル共重合体ゴム(n1)100部に対して、FEFカーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)2部、架橋助剤としての亜鉛華5部およびステアリン酸1部を添加して50℃にて混合した。そして、この混合物をロールに移して架橋剤である325メッシュ硫黄0.5部およびテトラメチルチウラムジスルフィド(商品名「ノクセラーTT」、大内新興化学工業社製)1.5部、およびN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(商品名「ノクセラーCZ」、大内新興化学工業社製、架橋促進剤)1.5部を添加して50℃で混練し、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を調製した。
【0101】
得られた架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンド・ムーニー粘度)、ならびに、該組成物を架橋して得られたゴム架橋物について、常態物性(引張強さ、伸び、100%引張応力、硬さ)、ガソリン透過係数、脆化温度、および耐サワーガソリン性の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
実施例2
ニトリル共重合体ラテックス組成物を、凝固液中に注ぎ入れて凝固させる際に、凝固中の水溶液のpHが5.0となるよう10%希硫酸を適時添加した以外は、実施例1と同様にして、各組成物を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
実施例3
凝固剤として、2価の金属イオンを含有する塩である塩化カルシウムCaClの代わりに、1価の金属イオンを含有する塩である塩化ナトリムNaClを用い、ニトリル共重合体ゴム(n1)100重量部に対して80重量部となるように凝固液を調整した以外は、実施例2と同様にして、各組成物を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
実施例4
ニトリル共重合体ゴムを製造する際に、乳化重合1段目の反応の仕込み単量体として、2−ビニルピリジンを用いず、アクリロニトリル75.7部、1,3−ブタジエン22部に変更した以外は実施例1と同様にして重合反応を行い、アクリロニトリル単量体単位50重量%、1,3−ブタジエン単位50重量%、ムーニー粘度75であるニトリル共重合体ゴム(n2)を得た。ニトリル共重合体ゴム(n2)のラテックスは等電点を持たないものであった。そして、このニトリル共重合体ゴム(n2)を用い、実施例1と同様にして、各組成物を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
実施例5
無機充填剤として、ナトリウム4珪酸雲母(合成マイカ、製品名「DMA−350」、トピー工業社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、各組成物を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。なお、ナトリウム4珪酸雲母(合成マイカ)のアスペクト比を原子間力顕微鏡で測定した結果、1,000であった。
【0106】
比較例1
ニトリル共重合体ラテックス組成物を、凝固液中に注ぎ入れて凝固させる際に、凝固中の水溶液のpHが7となるよう10%の希硫酸を適時添加した以外は、実施例1と同様にして、各組成物を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
比較例2
ニトリル共重合体ラテックス組成物を、凝固液中に注ぎ入れて凝固させる際に、凝固中の水溶液のpHが12.0となるよう10%の苛性ソーダ水溶液を適時添加した以外は、実施例1と同様にして、各組成物を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
比較例3
凝固剤として、2価の金属イオンを含有する塩である塩化カルシウムCaClを含む凝固液の代わりに、メタノールを用いた以外は、実施例1と同様にして、各組成物を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
表1より、ニトリル共重合ラテックス組成物を凝固させて、ニトリル共重合ゴム組成物を得る際に用いる凝固剤を1〜3価の金属イオンを含有する塩とし、かつ、凝固時のpHを5.0以下とした場合には、得られるゴム架橋物を、常態物性を良好なものとしながら、脆化温度が低く、耐サワーガソリン性に優れ、しかもガソリン透過係数の小さなものとすることができる(実施例1〜5)。
【0111】
一方で、凝固時のpHが高すぎる場合には、ガソリン透過係数が高くなる結果となった(比較例1,2)。
さらに、凝固剤として、メタノールを使用した場合にも、ガソリン透過係数が高くなる結果となった(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位10〜75重量%を有するニトリル共重合体ゴム(A)ラテックス、前記ラテックス中のニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)を1〜200重量部添加してなるニトリル共重合体ラテックス組成物を、凝固することによりニトリル共重合体ゴム組成物を製造する方法であって、
前記ニトリル共重合体ラテックス組成物の凝固を、凝固剤として1〜3価の金属イオンを含む塩を用い、pH5.0以下の条件にて行うことを特徴とするニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ニトリル共重合体ゴム(A)が、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位をさらに有する請求項1に記載のニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、10〜150重量部の塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂をさらに含有する請求項1または2に記載のニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、0.1〜200重量部の可塑剤をさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載のニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により得られたニトリル共重合体ゴム組成物に、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して10〜150重量部の塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂を非水系で混合するニトリル共重合体ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により得られたニトリル共重合体ゴム組成物に架橋剤を加えてなる架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【請求項8】
2以上の層からなり、少なくとも1層が請求項7に記載のゴム架橋物から構成される積層体。
【請求項9】
請求項6に記載の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を筒状に成形し、マンドレルを挿入して得られる成形体を、架橋して得られるホース。
【請求項10】
請求項6に記載の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物からなる層を含む2層以上の積層体を筒状に成形し、マンドレルを挿入して得られる成形体を、架橋して得られるホース。

【公開番号】特開2009−221371(P2009−221371A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68037(P2008−68037)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】