説明

ノイズ抑制体、配線用部材および多層回路基板

【課題】 体積あたりのノイズ抑制効果が高く、かつ薄く、軽量であるノイズ抑制体、これを用いた配線用部材、多層回路基板を提供する。
【解決手段】 支持体2と、該支持体2上に形成された金属材料を含むノイズ抑制層4とを有するノイズ抑制体1であって、ノイズ抑制層4の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1(Ω・cm)と金属材料の体積抵抗率R0(Ω・cm)とが、0.5≦logR1−logR0≦3を満足するノイズ抑制体1を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体中を流れる高周波ノイズ電流を抑制するノイズ抑制体、これを用いた配線用部材および多層回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット利用の普及に伴い、パソコン、情報家電、無線LAN、ブルートゥース、光モジュール、携帯電話、携帯情報端末、高度道路情報システム等、準マイクロ波帯(0.3〜10GHz)の高いクロック周波数を持つCPU、高周波バスを利用した電子機器、電波を利用した情報通信機器が普及してきており、高速デジタル化および低電圧駆動化によるデバイスの高性能化を必要とするユビキタス社会が訪れてきている。
【0003】
しかしながら、これら機器の普及に伴って、これら機器から放射される電磁波がもたらす、自身または他の電子機器への誤作動、人体への影響等の電磁波障害が問題とされてきている。そのため、これら機器には、自身または他の電子機器、人体に影響を与えないように、不要な電磁波をできるだけ放射しないこと、および外部から電磁波を受けても誤作動しないことが求められている。このような電磁波障害を防止する方法としては、(i)電磁波を反射する電磁波シールド材、(ii)空間を伝搬する電磁波(放射ノイズ)を吸収する電磁波吸収材、(iii)電磁波として放射される前に、導体中を流れる高周波ノイズ電流(伝導ノイズ)を抑制するノイズ抑制体を用いる方法がある。
【0004】
電磁波シールド材を用いた場合、電磁波のシールド効果は得られるものの、シールド材自体の不要輻射による二次的な電磁障害が問題となる。そのため、磁性体の磁気損失、すなわち虚数部透磁率μ”を利用した不要輻射の抑制が有効である。例えば、特許文献1には、軟磁性体扁平粉の厚さが表皮深さより薄く、充分なアスペクト比を有し、磁性体表面を不導体化した磁性体粉を、有機結合剤中に約95質量%加えてなる電磁干渉抑制体が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、セラミック相と強磁性超微結晶相とを含んでなる超微結晶磁性膜からなる電磁波吸収体が提案されている。この電磁波吸収体は、強磁性元素とセラミック元素をマグネトロンスパッタリングで基板上に製膜し、低温でアニールすることにより高抵抗のセラミック相中に強磁性体からなる超微結晶を析出させ、アイソレートしてなるものである。この電磁波吸収体は、100MHz〜10GHzの高周波帯域で、電気抵抗が高く、渦電流による電磁波の反射が抑えられ、虚数部透磁率が大きいため優れた電磁波吸収特性を有するとされている。
【0006】
ところで、近年、電子機器、電子部品には、高性能化、小型化、軽量化が求められており、これらに用いられる電磁波シールド材、電磁波吸収材、ノイズ抑制体にも同様に、電磁波障害を抑制する効果が高く、薄く、軽量であって、半導体素子の集積回路、半導体パッケージのサブストレート、多層回路基板等への実装作業が簡便で行いやすいものが求められている。
【0007】
しかし、特許文献1記載の電磁干渉抑制体は、銅板で裏打ちされているため合計の厚さは2mmと厚い。また、電磁干渉抑制体は、95質量%が鉄等の強磁性体であるため重く、しかも、有機結合剤が少なすぎるため脆い。よって、半導体素子の集積回路、半導体パッケージのサブストレート、多層回路基板等に実装しにくい。さらに、該電磁干渉抑制体は、放射ノイズを抑制するものであり、導体中を流れる伝導ノイズの抑制については、何の考慮もされていない。
【0008】
また、特許文献2の電磁波吸収体は、セラミック相中に強磁性超微結晶相形成したものであるため、重く、かつ脆いものである。よって、半導体素子の集積回路、半導体パッケージのサブストレート、多層回路基板等に実装しにくい。仮に、超微結晶磁性膜を有機フィルム上に形成したとしても、有機フィルムとセラミックとの熱膨張率の差が大きいため、超微結晶磁性膜にクラックが入りやすく、使用に耐えうるものではない。また、電磁波吸収体は、放射ノイズを抑制するものであり、導体中を流れる伝導ノイズの抑制については、何の考慮もされていない。
【0009】
特許文献3には、半導体素子のスイッチングによって電源層とグランド層との間に発生したノイズを抑制する目的で、電源層およびグランド層を構成する銅箔上に、高抵抗金属膜を形成することが開示されている(特許文献1参照)。高抵抗金属膜は、メッキにより形成された、銅よりも抵抗率の高いニッケル、コバルト、錫、タングステン等の単層膜あるいは合金膜であり、半導体素子がスイッチングしたとしても、電源電位およびグランド電位を安定化することができ、また、高周波ノイズ電流を高抵抗金属膜により除去するため、外部に放射される不要な電磁波を抑制できるとされている。
【0010】
しかし、例えばニッケル等の加工性のよい金属は抵抗が小さいため、充分な効果が得られない。また、タングステン等の抵抗の高い金属は、加工が非常に難しく、半導体素子周囲のように複雑かつ微細な配線パターンを形成する必要がある部位に用いることはできず、実用的ではない。
【特許文献1】特開平9−93034号公報
【特許文献2】特開平9−181476号公報
【特許文献3】特開平11−97810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって本発明の目的は、体積あたりのノイズ抑制効果が高く、かつ薄く、軽量であるノイズ抑制体;体積あたりのノイズ抑制効果が高く、かつ薄く、軽量であって、半導体素子の集積回路、半導体パッケージのサブストレート、多層回路基板等への実装作業が簡便な配線用部材;スイッチングによって電源層とグランド層との間に発生するノイズが抑えられた多層回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のノイズ抑制体は、支持体と、該支持体上に形成された金属材料を含むノイズ抑制層とを有するノイズ抑制体であって、ノイズ抑制層の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1(Ω・cm)と金属材料の体積抵抗率R0(Ω・cm)とが、0.5≦logR1−logR0≦3を満足することを特徴とする。
【0013】
前記ノイズ抑制層の平均厚さは、2〜100nmであることが好ましい。
前記ノイズ抑制層は、金属材料からなる金属クラスターの集合体であり、該金属クラスターの平均径が、2〜100nmであることが好ましい。
前記金属材料は、ニッケルまたはニッケルを含む合金であることが好ましい。
前記ノイズ抑制層は、スパッタリング法にて反応性ガス雰囲気下で金属材料を支持体上に物理的に蒸着させて形成された層であることが好ましい。
前記反応性ガスは、窒素ガスを含むものであることが好ましい。
【0014】
本発明の配線用部材は、導電体箔と、該導電体箔の少なくとも片面に設けられた本発明のノイズ抑制体とを有することを特徴とする。
前記ノイズ抑制体の支持体の厚さは、0.02〜50μmであることが好ましい。
【0015】
本発明の多層回路基板は、信号伝送層、電源層およびグランド層を有する多層回路基板において、信号伝送層とグランド層との間、または電源層とグランド層との間に、本発明のノイズ抑制体が配置されていることを特徴とする。
前記ノイズ抑制体のノイズ抑制層の面積は、該ノイズ抑制体と隣り合う信号伝送層、または電源層、またはグランド層を構成する導電体の面積の1〜10倍であることを特徴とする請求項9記載の多層回路基板。
【発明の効果】
【0016】
本発明のノイズ抑制体は、体積あたりのノイズ抑制効果が高く、かつ薄く、軽量である。
本発明の配線用部材は、体積あたりのノイズ抑制効果が高く、かつ薄く、軽量であって、半導体素子の集積回路、半導体パッケージのサブストレート、多層回路基板等への実装作業が簡便である。
本発明の多層回路基板は、スイッチングによって電源層とグランド層との間に発生するノイズが抑えられたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<ノイズ抑制体>
本発明のノイズ抑制体は、支持体と、該支持体上に形成された金属材料を含むノイズ抑制層とを有するものである。
【0018】
(ノイズ抑制層)
ノイズ抑制層は、金属材料を含む層である。例えば、支持体上に、独立した複数のナノメーターレベルの金属材料の金属クラスター(マイクロクラスター)と、これらの間に形成される金属材料の存在しない欠陥とから構成される金属クラスターの集合体である。
【0019】
図1は、ノイズ抑制層が形成された本発明のノイズ抑制体を、ノイズ抑制層(上面)側から見た高分解能走査電子顕微鏡像であり、図2は、その模式図である。このノイズ抑制体1は、支持体2と、該支持体2上に形成された独立した複数のナノメーターレベルの金属材料の金属クラスター3およびこれらの間に存在する欠陥からなるノイズ抑制層4とを有するものである。
【0020】
図3は、ノイズ抑制層の金属材料の質量をさらに増やした本発明のノイズ抑制体を、ノイズ抑制層(上面)側から見た高分解能走査電子顕微鏡像あり、図4は、その模式図である。金属クラスター3が互いに接触して集団化し、金属クラスターのサイズが大きくなっているものの、集団化した金属クラスター3の間には、金属材料の存在しない欠陥が多く残存しており、均質な金属薄膜とはなっていない。
【0021】
ここで、金属クラスターとは、数百〜数百万個の金属原子が集合して形成される集団である。該金属クラスターの凝集が進むと、微粒子、金属薄膜となるが、金属クラスターは、以下に説明するように、微粒子、金属薄膜とは明確に区別されるものである。
【0022】
図5は、ノイズ抑制層の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。また、図6は、ノイズ抑制層の電子線回折像である。図5および図6から、1つの金属クラスターは、数Å間隔で金属原子が配列した非常に小さな結晶部分と、明確な粒界が認められない小さい範囲の非晶部分とが混在しており、均質な金属薄膜とはなっていないことが観察される。ノイズ抑制層の各金属クラスターは、近接はしているが、完全に一体化せずに分散しているように認められる。そのため表面の抵抗は、均質な金属薄膜としての抵抗に対して数倍ほど高くなっている。
【0023】
このような金属クラスターの集合体からなるノイズ抑制層は、理由は定かではないが、つぎの(i)〜(iii)の理由によりノイズ抑制効果を発揮するものと考えられる。(i)金属クラスターがナノレベルの大きさで、一体化せず、密接して存在しているため、金属クラスター間を電子がジャンプするためにエネルギーを要する、すなわち抵抗が高くなっている。(ii)金属クラスター間距離が微小であることから、金属クラスター間の静電容量が場所によって複雑に変化し、誘電性の吸収材料を構成している。(iii)切り株のように枝分かれした導体パスが形成され、回路長が長くなった分だけ減衰量が増加するスタブ効果による。
【0024】
あるいは、金属クラスターのサイズが、原子分極となる大きさであり、双極子分極から原子分極に移行する中で、大きな誘電正接を示す(すなわち、このような材料分極が電場の変化に追従できずに遅れてしまう)ため、共振条件を乱し、その分が熱エネルギーとなって損失する。その結果、薄層であっても充分なノイズ抑制効果を発揮するものと思われる。
【0025】
ノイズ抑制層の平均厚さは、2〜100nmが好ましく、5〜50nmがより好ましい。ノイズ抑制層の平均厚さを2nm以上とすることにより、充分な伝導ノイズ抑制効果を発揮させることができる。一方、ノイズ抑制層の平均厚さが100nmを超えると、金属クラスターが凝集し、金属材料からなる均質な金属薄膜が形成され、バルクの金属材料の特性に戻ってしまい、金属反射が強まり、ノイズ抑制効果も小さくなり、実効的ではない。ここで、ノイズ抑制層の平均厚さとは、欠陥を含めたノイズ抑制層全体の平均厚さであり、具体的には、図7に示すようなノイズ抑制層の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像をもとにして、5箇所のノイズ抑制層の厚さを電子顕微鏡像上で測り、平均した厚さである。
【0026】
金属クラスターの平均径は、2〜100nmが好ましく、5〜50nmがより好ましい。金属クラスターの平均径が2nm未満では、金属クラスター間距離が離れすぎ、クラスター間の相互作用がなく、充分な伝導ノイズ抑制効果を発揮させることができない。一方、金属クラスターの平均径が100nmを超えると、金属クラスターが凝集し、金属材料からなる均質な金属薄膜が形成され、バルクの金属材料の特性に戻ってしまい、金属反射が強まり、ノイズ抑制効果も小さくなり、実効的ではない。ここで、金属クラスターの平均径は、ノイズ抑制体をノイズ抑制層(上面)側から見た高分解能走査電子顕微鏡像に写ったすべての各金属クラスターの径を電子顕微鏡像上で測り、平均した径である。金属クラスターが楕円形の場合の径は、長径と短径との合計の1/2とする。
【0027】
本発明においては、ノイズ抑制層が、単なる金属薄膜層として存在するのではなく、金属クラスターの集合体の状態で存在することが重要である。金属クラスターの集合体の状態は、ノイズ抑制層の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1(Ω・cm)と金属材料の体積抵抗率R0(Ω・cm)(文献値)との関係から確認することができる。すなわち、体積抵抗率R1と体積抵抗率R0とが、0.5≦logR1−logR0≦3を満足する場合に、金属材料の金属クラスターが、非常に近接した状態で、かつ個々が独立して存在することになり、優れたノイズ抑制効果が発揮される。
【0028】
このことにより、後述するマイクロストリップライン伝送路を用いたノイズ減衰効果測定における透過減衰率に見られる2〜3GHzのピークが、通常の金属薄膜では認められるのに対し、本発明のノイズ抑制体では認められずに透過減衰率は上昇を続ける。この理由は定かではないが、金属クラスターが、非常に近接した状態で、かつ個々が独立して存在することで、高周波帯におけるインピーダンス、内部抵抗、磁気的性質によりノイズ抑制に対し何らかの作用を及ぼすものと推測される。
【0029】
(支持体)
支持体としては、絶縁性支持体が好ましい。絶縁性支持体とは、表面抵抗が106 Ω/cm2 以上の支持体を意味する。支持体は、無機材料からなる支持体であってもよく、有機材料からなる支持体であってもよい。
無機材料としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、発泡セラミックスが挙げられる。
有機材料としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリレート、塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレン等の樹脂;天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム;ブチル系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の非ジエン系ゴム等が挙げられる。有機材料は、熱可塑性であっても、熱硬化性であってもよく、その未硬化物であってよい。また、上記の樹脂、ゴム等の変性物、混合物、共重合体であってもよい。
【0030】
支持体が有機材料からなる場合は、有機高分子鎖により金属クラスターの凝集が抑えられ、金属クラスターが近接した状態でその分散性を維持することができる。その結果、金属クラスターの集合体の構造を維持しやすく、ノイズ抑制効果の大きいノイズ抑制体を得ることができる。
支持体としては、金属クラスターとの密着性の点、および金属クラスターの凝集、成長を阻害し、金属クラスターの分散を安定化させる点から、金属との共有結合が可能となるO、N、S等の元素を含む基を表面に有するもの、表面に紫外線、プラズマ等を照射して表面を活性化したものが好ましい。 O、N、S等の元素を含む基としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、アミド基、チオール基、スルホン基、カルボニル基、エポキシ基、イソシアネート基、アルコキシ基等の親水性基が挙げられる。
【0031】
支持体としては、親水性ポリマー成分がシリンダー部分となり、その他の部分は疎水性ポリマー成分からなる、垂直配向した六方最密充填のシリンダーアレイ型相分離構造を有する分離構造膜(特開2004−124088号公報)、金属に対する親和性が基材より低い表面修飾膜を基材上に形成し、電子線等を用いたリソグラフィ法によって金属に対する親和性の高い基材を所望のパターンで露出させた支持体(特開2004−111818号公報)、ビーム径が数nmと小さい電子線描画装置で形成した金型を用い、ナノインプリントにより形成された微小の凹凸パターンを有する支持体等、金属クラスターが形成されやすい部分と金属クラスターが形成されにくい部分とを有する支持体(以下、選択性支持体と記す。)を用いてもよい。
選択性支持体を用いることにより、金属クラスターを所望のパターンにて配列させることができ、金属クラスターのサイズ、密度、金属クラスター間距離を制御することができる。その結果、効率よくノイズ抑制効果を発揮させることができる。このとき、金属クラスターの配列ピッチは5〜60nmが好ましく、金属クラスターの平均粒径は4〜55nnが好ましい。
【0032】
支持体としては、金属クラスターの分散性を維持する点で、後述する物理的蒸着による金属クラスターを形成する際に、せん断弾性率が低いものが好ましい。具体的には、せん断弾性率が1×1010Pa以下のものが好ましい。所望のせん断弾性率にするために、必要に応じて、例えば100〜300℃に支持体を加熱してもよい。この際、支持体の分解、蒸発、低粘度化等が起きない温度とすることが必要である。常温(25℃)で物理的蒸着を行う場合には、支持体としては、ゴム硬度が約80°(JIS−A)以下の弾性体が好ましい。
【0033】
せん断弾性率の測定方法としては、以下のような方法が知られている。
(1)JIS K7113に規定されている引張応力と歪との関係から引張り弾性率を求め、これをもとに下記式からせん断弾性率を求める。
せん断弾性率=引張り弾性率/(2×(1+ポアソン比))
ここで2×(1+ポアソン比)の値は、剛直な高分子からゴム状の弾性体まで、おおよそ2.6〜3.0である。
(2)温度特性を把握できる粘弾性率測定装置を用い、試験モードをせん断モードにしてせん断弾性率を測定する。
(3)粘弾性率測定装置を用い、試験モードを引張りモードにして貯蔵弾性率G'および損失弾性率G”を測定し、下記式から複素弾性率G*を求め、複素弾性率を引張り弾性率として、上記式からせん断弾性率を求める。
G*=√((G')2+(G”)2
本発明におけるせん断弾性率は、粘弾性率測定装置として、レオメトリック・サイエンティフィック社製ソリッドアナライザーRSA−IIを用い、せん断モードにて、測定周波数1Hzの条件で測定した値とする。
【0034】
また、支持体としては、熱的、機械的ストレスが加わっても、金属クラスターの凝集、すなわち均質化が抑えられるように、金属クラスターの形成後には、せん断弾性率が1×104 Paより高いものが好ましい。金属クラスターの形成後にせん断弾性率を高くすることにより樹脂の運動が抑えられ、ナノメートルレベルの金属クラスターが凝集して結晶化し、微粒子、金属薄膜に成長することを確実に抑えることができる。さらに好ましくは、ノイズ抑制体が使用される温度範囲で、1×107 Pa以上のものが好ましい。
所望のせん断弾性率にするために、金属クラスターの形成後に支持体を焼成固化または化学架橋することが好ましい。この点においては、金属クラスターの形成前には低せん断弾性率であり、形成後に架橋してせん断弾性率を上げることができる有機材料を用いることが特に好ましく、熱硬化性樹脂、エネルギー線(紫外線、電子線など)硬化性樹脂が好適である。
【0035】
金属クラスターの酸化を防止する観点からは、酸素透過性の低い有機材料が好ましい。このような有機材料としては、酸素透過率が1×10-10 [cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以下のポリエチレン、ポリトリフルオロクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、1×10-12 [cm3 (STP)cm/(cm2 ×s×cmHg)]以下のポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル等を挙げることができる。
ここで、酸素透過率は、JIS K7126に準拠して測定され、求められる気体透過係数である。
【0036】
さらに、支持体中にシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ノニオン系界面活性剤、極性樹脂オリゴマー等を配合しておき、金属クラスターと反応させ、金属クラスターを安定化させてもよい。このような添加剤を配合することにより、均質な金属薄膜の形成を防止するほか、金属クラスターの酸化防止が図れ、好都合である。このほか、支持体には、補強性フィラー、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、チクソトロピー性向上剤、可塑剤、滑剤、耐熱向上剤等を適宜添加して構わない。
【0037】
なお、支持体が、セラミックス(例えば、石英ガラス)等の硬い基体の場合、金属原子が支持体に入り込むことがなく、表面を移動しやすくなるので、上述したように金属に対して親和性のある部分を形成すると、金属クラスターが凝集して均質な金属薄膜を形成することなく、配列制御された金属クラスターの集合体を容易に形成でき、好都合である。
【0038】
支持体としては、ノイズ抑制体を多層回路基板に実装する場合には、ポリイミドフィルム、ガラスエポキシプリプレグ、ガラスエポキシ基板等、所望の耐熱性を有する材料が好ましい。多層プリント基板を多層化する際に、多層プリント基板の絶縁層を支持体として、この上にノイズ抑制層を形成してもよい。
支持体の厚さは、後述の導体箔等の他の基材を設けない場合は、1〜100μmが好ましく、他の基材を設ける場合は、0.02〜50μmが好ましい。
【0039】
(ノイズ抑制体の製造方法)
本発明のノイズ抑制体は、支持体上に金属クラスターの集合体からなるノイズ抑制層を形成することによって製造される。
金属クラスターは、支持体表面に核を生成させ、該核を成長させることにより形成される。金属クラスターの形成方法としては、湿式法、乾式法が挙げられる。
【0040】
湿式法としては、溶媒に金属塩および保護剤を溶解し、さらに還元剤を加えることによって金属を還元析出させる無電解メッキ法;無電解メッキ法の後に電解メッキ法によってさらに金属クラスターを成長させる方法等が挙げられる。
金属クラスターを形成させるためには、金属の析出をゆっくりと行うことが好ましく、そのためには、メッキ液の濃度を低くする、反応温度を下げる、還元剤濃度を低くする等の条件コントロールが必要である。特に、選択性支持体上に析出させるときは、初期の核生成を慎重に行う必要があり、メッキ液との均質な接触が重要である。
【0041】
乾式法は、湿式法のようなイオン性残渣の洗浄操作を必要としないため耐環境性のよいノイズ抑制体を得ることができる。また、工程が単純なため、管理しやすい。乾式法としては、物理的蒸着法(PVD)が好ましい。
物理的蒸着法は、真空にした容器の中で金属材料(ターゲット)を何らかの方法で気化させ、気化した金属材料を近傍に置いた支持体上に堆積させる方法である。物理的蒸着法は、金属材料の気化方法の違いで、蒸発系とスパッタリング系とに分けられる。蒸発系としては、EB蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。スパッタリング系としては、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法等が挙げられる。これらのうち、スパッタリング法が、ノイズ抑制層の厚さ制御、支持体の熱ダメージの低さの点から好ましい。
【0042】
EB蒸着法は、蒸発粒子のエネルギーが1eVと小さいので、支持体のダメージが少なく、膜がポーラスになりやすく膜強度が不足する傾向があるが、膜の固有抵抗は高くなるという特徴がある。
【0043】
イオンプレーティング法によれば、アルゴンガスおよび蒸発粒子のイオンは加速されて支持体に衝突するため、EB蒸着法よりエネルギーが大きく、粒子エネルギーは1KeVほどになり、付着力の強い膜を得ることはできるものの、ドロップレットと呼んでいるミクロサイズの粒子の付着を避けることができず、放電が停止してしまうおそれがある。
【0044】
マグネトロンスパッタリング法は、ターゲットの利用効率が低いものの、磁界の影響で強いプラズマが発生するため成長速度が速く、粒子エネルギーは数十eVと高いことが特徴となる。
【0045】
マグネトロンスパッタリング法のうち、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法は、対向するターゲット間でプラズマを発生させ、磁界によりプラズマを封じ込め、対向するターゲット間の外に支持体を置き、プラズマダメージを受けることなく支持体上に金属材料を堆積させる方法である。そのため、支持体上の金属を再スパッタリングすることがない、成長速度がさらに速い、スパッタリングされた金属原子が衝突緩和することがない、といった特徴を有し、ターゲット組成物と同じ組成を有する緻密な金属クラスターを形成することができる。
【0046】
金属材料(ターゲット)としては、強磁性金属、常磁性金属が挙げられる。
強磁性金属としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル;これらの合金等が挙げられる。
常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、それらの合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。
これらのうち、酸化に対して抵抗力のある点で、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、貴金属が好ましい。しかし、貴金属は高価であるため、実用的にはニッケル、鉄クロム合金、タングステンが好ましい。
【0047】
なお、支持体に金属材料を蒸着させる際には、金属材料はプラズマ化またはイオン化された金属原子として蒸着されるので、蒸着された金属材料の組成は、ターゲットとして用いた金属材料の組成と必ずしも同一であるとは限らない。
また、強磁性金属を蒸着させて形成された金属クラスターは、個々の金属が強磁性体であっても、全体では磁気モーメントの向きがバラバラなため、常磁性の状態となっている(超常磁性体状態)。
【0048】
湿式法における金属の析出速度、および乾式法における金属の蒸着速度は、金属材料の種類によって異なるため、これら条件は金属材料の種類ごとににあらかじめ確認することが好ましい。また、金属クラスターを金属薄膜に成長させないために、金属クラスターをゆっくり形成することが好ましい。場合によっては、一旦形成操作をやめ、成長の度合いを確認して再度形成操作を行ってもよい。
【0049】
金属材料の蒸着質量は、膜厚換算で5〜200nmが好ましい。5nm以上とすることでノイズ抑制のための充分な質量を確保することができ、200nm以下とすることで、金属クラスター状態を維持し、ノイズ抑制効果を得ることが可能となる。
【0050】
金属材料の蒸着質量が多くなると、金属クラスター状態が得られにくくなり、具体的には20nm程度以上では、通常のスパッタリング法では単なる金属薄膜に成長しやすい傾向がある。そこで、金属材料の蒸着時に、通常のアルゴンガスに加え、窒素ガス、酸素ガス、硫化水素ガス、シランガス等の反応性ガスを導入することで、金属クラスターを安定化させることが好ましい。特に、窒素ガスを使用することで、金属材料が堆積する際の巨大結晶化が阻害され、極めて安定化された金属クラスターとすることができる。
【0051】
また、支持体が、セラミックス等、硬く、かつ金属との親和性が低い支持体の場合は、金属クラスターと、これとは別の材料とを同時に支持体上に存在させることにより、金属クラスターが安定して分散し、これらが凝集して結晶化し、微粒子、金属薄膜等に成長することを確実に抑えることができる。具体的には、金属クラスターを湿式法で形成する場合は、保護剤、界面活性剤等を金属クラスターに配位、吸着させる方法を採用でき、金属クラスターを乾式法で形成する場合は、反応性ガスを流入し、金属クラスター表面等に無機物または有機物を一部反応させる化学的蒸着法(CVD)を採用できる。ガスとしては、窒素ガス、メタンガス、アセチレンガス、シランガス、フルオロカーボンガス、パラキシリレン等が挙げられる。
【0052】
(ロス電力比)
ノイズ抑制効果の確認方法としては、Sパラメータの反射減衰量S11および透過減衰量S21を測定する方法が挙げられる。該方法は、IEC(International Electrotechnical Commission)のWorking Group 10、Technical Committee 51にて規格化が検討されており、該規格は2005年に発行される予定である。
図8は、検討されている反射減衰量S11および透過減衰量S21の測定に用いられる装置を示す概略構成図である。テストフィクスチャー5に設けられた、規定の特性インピーダンス(50Ω等)を持つマイクロストリップ線路6上に、ノイズ抑制体1(50mm×50mm)を密着して置き、ノイズ抑制体1を装着する前後のSパラメータの変化(反射減衰量S11および透過減衰量S21)を、マイクロストリップ線路6に電気的に接続されたネットワークアナライザー7で測定する。校正をあらかじめテストフィクチャー5だけで行い、ノイズ抑制体1を装着したときのSパラメータを読み取ることでノイズ抑制効果を測定できる。
【0053】
本発明では、この方法を採用し、「工業材料」(2002年11月号、日刊工業新聞社)に記載されているロス電力比を下記式をもって求めた。ロス電力比は、0〜1の値をとり、下記式で表される。
ロス電力比(Ploss/Pin)=1−(│Γ│2+│Τ│2
ここで、S11=20log│Γ│、S21=20log│Τ│、Γは反射係数であり、Τは透過係数である。
【0054】
準マイクロ波帯で、ノイズ抑制効果を充分に発揮するためには、1GHzでのロス電力比が0.4以上であることが好ましい。これより小さいと充分なノイズ抑制効果があるとは言えない。さらにはロス電力比が0.5以上であることが好ましい。ロス電力比が0.5以上であれば充分なノイズ抑制効果がある。現状の技術では1GHzにおいて、0.9を超えるロス電力比のものを得ることは達成できていない。
伝導ノイズ抑制体のロス電力比を0.4〜0.9にするためには、支持体上に、平均粒径が2〜100nmの常磁性の金属クラスターを密に分散させた構造とすることを基本に、金属クラスターの形成の条件、支持体の表面物性等をコントロールすることにより達成される。
【0055】
本発明のノイズ抑制体は、導体をカバーする面積が大きくなるにつれて、ノイズ抑制効果が大きくなる特性を有する。例えば、図9に示すように、図8におけるノイズ抑制体1のL方向の寸法を長くすると、1GHzにおけるロス電力比が大きくなる。また、図10に示すように、図8におけるノイズ抑制体1のW方向の寸法を長くすると、1GHzにおけるロス電力比が大きくなる。
【0056】
ノイズ抑制体を設けるための充分な面積が確保できない場合、ノイズ抑制体を積層することによって、面積を稼ぐことができ、小さい面積で大きな効果をもたらすことができる。積層されたノイズ抑制体は、例えば、図11に示すように、支持体2上に形成したノイズ抑制層4上に、印刷、コーティング、物理的蒸着、化学的蒸着等により開口部9を有する、絶縁材料からなる隔離層8を形成し、さらにその上にノイズ抑制層4を形成することにより得ることができる。このとき、2つのノイズ抑制層4は、開口部9を通して一体化される。隔離層8の絶縁材料としては、上述の支持体と同様のものを用いることができる。
このように、複数のノイズ抑制層4を間隔をあけて配置すると、容量成分が増し、またスタブ構造も発生するため、より一層のノイズ抑制効果が発現する。
【0057】
以上説明した本発明のノイズ抑制体にあっては、ノイズ抑制層の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1(Ω・cm)と金属材料の体積抵抗率R0(Ω・cm)とが、0.5≦logR1−logR0≦3を満足するものであるため、ノイズ抑制層において金属材料の金属クラスターが、非常に近接した状態で、かつ個々が独立して存在することになり、優れたノイズ抑制効果が発揮される。
【0058】
また、本発明のノイズ抑制体にあっては、金属材料を含むノイズ抑制層を支持体上に形成しているため、従来の95質量%以上が強磁性体からなる電磁干渉抑制体に比べ、はるかに軽量化される。また、従来の電磁干渉抑制体は、電磁干渉抑制効果を発揮するためにはある程度の厚さが要求されていたが、本発明におけるノイズ抑制層は、2〜100nmの薄さでも充分にノイズ抑制効果を発揮でき、また、該効果は支持体の厚さに左右されないため、ノイズ抑制体の薄肉化が可能である。このように軽く、かつ薄いノイズ抑制体は、半導体素子の集積回路、半導体パッケージのサブストレート、多層回路基板等への実装作業が簡便である。また、支持体が有機材料からなるものであれば、ノイズ抑制体に可とう性が付与され、実装作業がさらに簡便となる。
【0059】
<配線用部材>
本発明のノイズ抑制体は、その理由は定かではないが、あるエネルギー損失によって、半導体素子等の電子部品が搭載された多層回路基板の導体中を流れるスイッチングノイズ等の高周波ノイズ電流を抑制することができ、電源電位およびグランド電位の安定化を図ることができる。また、電源等の不安定さから起こるグラウンドバウンスよる電源層からの放射ノイズも未然に抑制することできる。よって、多層回路基板中に容易に実装できる伝導ノイズ抑制体付き配線用部材が有用である。
【0060】
本発明の配線用部材としては、図12に示すように、導体箔10の表面に支持体2を設け、その上にノイズ抑制層4を形成したものが挙げられる。
導体箔としては、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔等の金属箔;銀ペースト等からなる金属粒子分散体膜等が挙げられる。
【0061】
図13は、1GHzでのロス電力比が、マイクロストリップ線路からノイズ抑制体までの距離によってどのような影響を受けるかを確認するためのグラフである。具体的には、図8に示すマイクロストリップ線路6とノイズ抑制体1との間にポリイミドフィルムを介在させ、ポリイミドフィルムの厚さを変化させて1GHzでのSパラメータを計測し、ロス電力比を求め、ポリイミドフィルムの厚さに対するロス電力比をプロットしたグラフである。
配線用部材のノイズ抑制効果は、図13のように、抑制の対象とする導体(導体箔10)からの距離が近いほど大きい。よって、ノイズ抑制効果の点、および、多層回路基板の厚さを薄する点から、配線用部材における支持体2の厚さは、50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましい。また、ノイズ抑制層4と導体箔10との絶縁性を維持するために、支持体2の厚さは、0.02μm以上が好ましい。
【0062】
<多層回路基板>
多層回路基板の導体中を流れる高周波ノイズ電流の抑制、電源の強化のためには、本発明の配線用部材を、信号電送層、電源層、グランド層用の導体として用いればよい。これにより、導体の近くにノイズ抑制体が設けられた多層回路基板を構成することができる。
本発明の多層回路基板としては、図14に示すように、信号伝送層11、電源層12およびグランド層13が絶縁層14を介して積層され、かつ信号伝送層11とグランド層13との間、または電源層12とグランド層13との間に、支持体2上にノイズ抑制層4が形成されたノイズ抑制体1が配置され、スルーホール15が設けられているものが挙げられる。
【0063】
本発明の多層回路基板において、ノイズ抑制体1のノイズ抑制層4の面積が、該ノイズ抑制層4に最も近い信号伝送層11または電源層12を構成する導体の面積の1〜10倍であることが好ましい。導体をカバーするノイズ抑制層4の面積が大きくなるにつれて、ノイズ抑制効果が大きくなる。ただし、導体をカバーするノイズ抑制層4の面積が大きくなりすぎると、多層回路基板自体の面積を大きくする必要があり、実用的ではない。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を示す。
(表面観察)
日本電子(株)製、走査電子顕微鏡JSM−6700Fを用いた。
(断面観察)
(株)日立製作所製、透過型電子顕微鏡H9000NARを用いた。
(せん断弾性率)
せん断弾性率は、粘弾性率測定装置として、レオメトリック・サイエンティフィック社製ソリッドアナライザーRSA−IIを用い、せん断モードにて、測定周波数1Hzの条件で測定した。
【0065】
(体積抵抗率)
金属材料の体積抵抗率R0(Ω・cm)は、文献値とした。
ノイズ抑制層の表面抵抗は、ダイアインスツルメンツ製、MCP−T600により、測定電圧10Vで直流4端子法で測定し、測定点数5点の平均値で示し、さらにこの値とノイズ抑制層の厚さとから体積抵抗率R1(Ω・cm)を算出した。
【0066】
(ノイズ抑制効果)
キーコム(株)製、近傍界用電磁波吸収材料測定装置を用いて、Sパラメーター法によるS11(反射減衰量、単位:dB)およびS21(透過減衰量、単位:dB)を測定し、ロス電力比を求めた。ネットワークアナライザーとしては、アンリツ(株)製、ベクトルネットワークアナライザー37247Cを用い、50Ωのインピーダンスを持つマイクロストリップラインのテストフィクスチャーとしては、キーコム(株)製、TF−3A(マイクロストリップライン幅4.15mm )、または自作のマイクロストリップライン幅1.44mmのものを用いた。
【0067】
具体的には、図8に示すように、テストフィクスチャー5に設けられた、規定の特性インピーダンス(50Ω)を持つマイクロストリップ線路6上に、ノイズ抑制体1(50mm×50mm)を密着して置き、ノイズ抑制体1を装着する前後のSパラメータの変化(反射減衰量S11および透過減衰量S21)を、マイクロストリップ線路6に電気的に接続されたネットワークアナライザー7で測定した。
実施例1〜6、比較例1〜3については、1GHzにおける透過減衰量、反射減衰量より下記式にて伝送減衰率(Rtp、単位:dB)を求めた。
Rtp=−10×log{10S21/10/(1−10S11/10)}
実施例7〜11、比較例4〜6については、透過減衰量、反射減衰量よりロス電力比を求めた。
【0068】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング法により、支持体(厚さ25μmのポリイミドフィルム、商品名:「カプトン」、東レ・デュポン製、表面抵抗:1010Ω/cm2 以上)の片面に、支持体の温度を常温(25℃)に保ちながら、ニッケル(純度3N)を、表1に示すスパッタ条件で物理的に蒸着させてノイズ抑制層を形成し、ノイズ抑制体を得た。得られたノイズ抑制体について、ノイズ抑制層の表面(金属クラスターの平均粒径)および断面(ノイズ抑制層の平均厚さ)を観察し、ノイズ抑制層の表面抵抗を測定し、ノイズ抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。また、実施例1のノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)のグラフを図15に示し、比較例1のノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)のグラフを図16に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例1〜5においては、2.5GHz付近の透過減衰量のピークは認められず、高周波域に渡って優れたノイズ抑制効果が確認された。
比較例1、3では、スパッタリング時に窒素ガスを導入しなかったため、logR1−logR0の値が本発明の範囲を下回り、この結果、伝送減衰率が著しく小さく、また、2.5GHz付近に透過減衰量のピークが観察され、高周波域ではさらに性能が劣化した。
比較例2では、logR1−logR0の値が本発明の範囲を上回って外れ、この結果、伝送減衰率が小さく、ノイズ抑制体としての性能は不充分であった。
【0071】
(実施例6、7、比較例4)
DC型マグネトロンスパッタリング法により、支持体(厚さ25μmのポリイミドフィルム、商品名:「カプトン」、東レ・デュポン製、表面抵抗:1010Ω/cm2 以上)の片面に、支持体の温度を常温(25℃)に保ちながら、ニッケル(純度3N)を、表2に示すスパッタ条件で物理的に蒸着させてノイズ抑制層を形成し、ノイズ抑制体を得た。得られたノイズ抑制体について、ノイズ抑制層の表面(金属クラスターの平均粒径)および断面(ノイズ抑制層の平均厚さ)を観察し、ノイズ抑制層の表面抵抗を測定し、ノイズ抑制効果の評価を行った。結果を表2に示す。また、実施例6のノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)のグラフを図17に、ロス電力比のグラフを図18に示し、比較例4のノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)のグラフを図19に、ロス電力比のグラフを図20に示す。また、実施例1のノイズ抑制体を、ノイズ抑制層(上面)側から見た高分解能走査電子顕微鏡像を図1に示し、実施例1のノイズ抑制体のノイズ抑制層の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像を図5に示し、比較例4のノイズ抑制体を、ノイズ抑制層(上面)側から見た高分解能走査電子顕微鏡像を図21に示す。
【0072】
(実施例8)
支持体をガラス板(プレパラート、縦28mm、横48mm、厚さ1.3mm、表面抵抗:1010Ω/cm2 以上)に変更し、スパッタ条件を表2に示す条件に変更した以外は、実施例6と同様にしてノイズ抑制体を得た。得られたノイズ抑制体について、ノイズ抑制層の表面(金属クラスターの平均粒径)および断面(ノイズ抑制層の平均厚さ)を観察し、ノイズ抑制層の表面抵抗を測定し、ノイズ抑制効果の評価を行った。結果を表2示す。
【0073】
(実施例9)
アクリル酸t−ブチル(27質量%)とアクリル酸2−エチルヘキシル(73質量%)とのブロック共重合体をアセトン−水混合溶媒(質量比1:1)に溶解し、濃度が3質量%のブロック共重合体溶液を調製し、該溶液をキャスティングし、乾燥させて100μmのフィルム(選択性支持体)を得た。該フィルムは、親水性ポリマー成分がシリンダー部分となり、その他の部分は疎水性ポリマー成分からなる、垂直配向した六方最密充填のシリンダーアレイ型相分離構造を有しており、シリンダー部分のサイズは約20nm、シリンダー部分間ピッチは約27nmであった。また、該フィルムの表面抵抗は109 Ω/cm2 以上であった。
【0074】
該フィルムをメルテックス社製エンプレートAct440(Pdイオンタイプ)に20℃で1分間浸漬し、フィルムに触媒付与処理を行った後、メルテックス社製メルプレートCU−5100に25℃で2時間15分間浸漬し、無電解銅メッキを施し、ノイズ抑制体を得た。得られたノイズ抑制体について、ノイズ抑制層の表面(金属クラスターの平均粒径)および断面(ノイズ抑制層の平均厚さ)を観察し、ノイズ抑制層の表面抵抗を測定し、ノイズ抑制効果の評価を行った。結果を表2示す。
【0075】
(比較例5)
支持体を厚さ25μmのポリイミドフィルム(商品名:「カプトン」、東レ・デュポン製、表面抵抗:1010Ω/cm2 以上)に変更した以外は、実施例9と同様にしてノイズ抑制体を得た。得られたノイズ抑制体について、ノイズ抑制層の表面(金属クラスターの平均粒径)および断面(ノイズ抑制層の平均厚さ)を観察し、ノイズ抑制層の表面抵抗を測定し、ノイズ抑制効果の評価を行った。結果を表2示す。
【0076】
(実施例10)
金属材料をニッケルから銀(純度3N)に変更し、スパッタ条件を表2に示す条件に変更した以外は、実施例6と同様にしてノイズ抑制体を得た。得られたノイズ抑制体について、ノイズ抑制層の表面(金属クラスターの平均粒径)および断面(ノイズ抑制層の平均厚さ)を観察し、ノイズ抑制層の表面抵抗を測定し、ノイズ抑制効果の評価を行った。結果を表2示す。
【0077】
(実施例11)
厚さ12.5μmのポリイミドフィルムにエポキシ系接着剤(Bステージ状態)が厚さ10μmで塗布されたカバーレイフィルムに、開口部として1mmφの貫通孔を12cm2 ごとに1個の割合で設けた。該カバーレイフィルムをプレスによって実施例10のノイズ抑制体のノイズ抑制層上に貼り合わせて厚さ22.5μmの隔離層を設け、該隔離層上に実施例10と同じスパッタ条件にて第2のノイズ抑制層を形成し、ノイズ抑制体を得た。得られたノイズ抑制体について、ノイズ抑制層の表面(金属クラスターの平均粒径)および断面(ノイズ抑制層の平均厚さ)を観察し、ノイズ抑制層の表面抵抗を測定し、ノイズ抑制効果の評価を行った。結果を表2示す。
【0078】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のノイズ抑制体によれば、電子機器等の高性能化、小型化、軽量化を維持しつつ、電子機器等に対して高質なEMC対策を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のノイズ抑制体をノイズ抑制層(上面)側から見た高分解能走査電子顕微鏡像である。
【図2】図1のノイズ抑制体の模式図である。
【図3】本発明の他のノイズ抑制体をノイズ抑制層(上面)側から見た高分解能走査電子顕微鏡像である。
【図4】図3のノイズ抑制体の模式図である。
【図5】図1のノイズ抑制体のノイズ抑制層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図6】図1のノイズ抑制体のノイズ抑制層の電子線回折像である。
【図7】図5の高分解能透過型電子顕微鏡像の倍率を変更した高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図8】ノイズ抑制効果の測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図9】図8におけるノイズ抑制体のL方向の寸法に対する、1GHzにおけるノイズ抑制体のロス電力比の変化を示すグラフである。
【図10】図8におけるノイズ抑制体のW方向の寸法に対する、1GHzにおけるノイズ抑制体のロス電力比の変化を示すグラフである。
【図11】本発明のノイズ抑制体の一例を示す断面図である。
【図12】本発明の配線用部材の一例を示す断面図である。
【図13】マイクロストリップ線路からノイズ抑制体までの距離に対する、1GHzびおけるノイズ抑制体のロス電力比の変化を示すグラフである。
【図14】本発明の多層回路基板の一例を示す断面図である
【図15】実施例1のノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図16】比較例1のノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図17】実施例6のノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図18】実施例6のノイズ抑制体のロス電力比を示すグラフである。
【図19】比較例4のノイズ抑制体のS11(反射減衰量)およびS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図20】比較例4のノイズ抑制体のロス電力比を示すグラフである。
【図21】比較例4のノイズ抑制体をノイズ抑制層(上面)側から見た高分解能走査電子顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0081】
1 ノイズ抑制体
2 支持体
3 金属クラスター
4 ノイズ抑制層
10 導体箔
11 信号伝送層
12 電源層
13 グランド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、該支持体上に形成された金属材料を含むノイズ抑制層とを有するノイズ抑制体であって、
ノイズ抑制層の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1(Ω・cm)と金属材料の体積抵抗率R0(Ω・cm)とが、0.5≦logR1−logR0≦3を満足することを特徴とするノイズ抑制体。
【請求項2】
前記ノイズ抑制層の平均厚さが、2〜100nmであることを特徴とする請求項1記載のノイズ抑制体。
【請求項3】
前記ノイズ抑制層が、金属材料からなる金属クラスターの集合体であり、
該金属クラスターの平均径が、2〜100nmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のノイズ抑制体。
【請求項4】
前記金属材料が、ニッケルまたはニッケルを含む合金であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のノイズ抑制体。
【請求項5】
前記ノイズ抑制層が、スパッタリング法にて反応性ガス雰囲気下で金属材料を支持体上に物理的に蒸着させて形成された層であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のノイズ抑制体。
【請求項6】
前記反応性ガスが、窒素ガスを含むものであることを特徴とする請求項5記載のノイズ抑制体。
【請求項7】
導体箔と、
該導体箔の少なくとも片面に設けられた請求項1ないし6のいずれか一項に記載のノイズ抑制体と
を有することを特徴とする配線用部材。
【請求項8】
前記ノイズ抑制体の支持体の厚さが、0.02〜50μmであることを特徴とする請求項7記載の配線用部材。
【請求項9】
信号伝送層、電源層およびグランド層を有する多層回路基板において、
信号伝送層とグランド層との間、および/または電源層とグランド層との間に、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のノイズ抑制体が配置されていることを特徴とする多層回路基板。
【請求項10】
前記ノイズ抑制体のノイズ抑制層の面積が、該ノイズ抑制層に最も近い信号伝送層または電源層を構成する導体の面積の1〜10倍であることを特徴とする請求項9記載の多層回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−295101(P2006−295101A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197446(P2005−197446)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】