説明

ハイブリッド型作業機械

【課題】 エンジンが速度制御されている場合、高負荷または過負荷状態になると、トルクリミット制御が働き、適切な速度制御を行うことが困難になる。
【解決手段】 エンジンがトルクを発生する。電動発電機が、発電動作とアシスト動作とを、選択的に行う。外部負荷が、エンジンの負荷となる。トルク伝達機が、エンジンのトルク、電動発電機のトルク、及び外部負荷に印加されるトルクの相互授受を行う。速度センサが、エンジンの回転速度を測定する。制御装置が、エンジン及び電動発電機を制御する。制御装置は、エンジンの速度制御の目標値となる速度指令値を記憶し、外部負荷に要求される動力に基づいて、電動発電機に発生させるトルクを算出して電動発電機をトルク制御し、速度センサで測定された回転速度と速度指令値との差分に基づいて、電動発電機を速度制御する。電動発電機をトルク制御する制御状態と、速度制御する制御状態とを切り替えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを電動発電機でアシストするハイブリッド型作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設作業機械等の動力発生機械に、地球環境に配慮した省燃費、低公害、低騒音等の性能が求められている。これらの要請を満たすために、油圧ポンプに代えて、または内燃機関等のエンジンの補助として電動機を利用した油圧ショベル等の作業機械が登場している。電動機を組み込んだ作業機械においては、電動機から発生する余剰の運動エネルギが電気エネルギに変換され、キャパシタ等に蓄積される。
【0003】
エンジン負荷が大きくなり、回転数が低下したときに、目標回転数からの実回転数の偏差に応じて、電動発電機を電動機として作動させてトルクアシストを行うことにより、回転数を目標回転数に近づけることができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−210870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンが速度制御されている場合、高負荷または過負荷状態になると、トルクリミット制御が働き、適切な速度制御を行うことが困難になる。電動発電機にも速度制御を適用すると、エンジンの回転数が低下する度に、エンジンの出力に余裕があっても、電動発電機が力行運転されてしまう。電動発電機の力行運転時に消費した電力を、エンジンからバッテリ(キャパシタ)に回収するために、電動発電機の効率に起因する損失が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
燃料の燃焼によってトルクを発生するエンジンと、
発電動作とアシスト動作とを、選択的に行うことができる電動発電機と、
前記エンジンの負荷となる外部負荷と、
前記エンジンのトルク、前記電動発電機のトルク、及び前記外部負荷に印加されるトルクの相互授受を行うトルク伝達機と、
前記エンジンの回転速度を測定する速度センサと、
前記エンジン及び前記電動発電機を制御する制御装置と
を有し、
前記制御装置は、
前記エンジンの速度制御の目標値となる速度指令値を記憶し、
前記外部負荷に要求される動力に基づいて、前記電動発電機に発生させるトルクを算出し、該電動発電機をトルク制御し、
前記速度センサで測定された回転速度と、前記速度指令値との差分に基づいて、前記電動発電機を速度制御し、
前記電動発電機をトルク制御する制御状態と、速度制御する制御状態とを切り替えることができるハイブリッド型作業機械が提供される。
【発明の効果】
【0007】
トルク制御と速度制御とを切り替えることにより、運転状況に応じて、より適切な制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例によるハイブリッド型作業機械の側面図である。
【図2】実施例によるハイブリッド型作業機械のブロック図である。
【図3】(3A)は、実施例によるハイブリッド型作業機械の動力及び電力の流れを示すブロック図であり、(3B)は、制御装置の機能を示すブロック図である。
【図4】電気負荷出力指令値と電気負荷出力要求値との関係を示すグラフである。
【図5】油圧負荷出力指令値と油圧負荷出力要求値との関係を示すグラフである。
【図6】(6A)及び(6B)は、蓄電回路出力指令値と蓄電回路出力目標値との関係を示すグラフである。
【図7】(7A)及び(7B)は、電動発電機出力指令値と、蓄電回路出力指令値と、電気負荷出力指令値との関係を示すグラフである。
【図8】エンジン、電動発電機の制御系の機能ブロック図である。
【図9】エンジンの実回転速度及び発生トルクの時刻暦の一例を示すグラフである。
【図10】エンジンの実回転速度及び発生トルクの時刻暦の他の一例を示すグラフである。
【図11】(11A)及び(11B)は、全体制御モジュールと、サーボ制御モジュールとの機能分担を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、実施例によるハイブリッド型作業機械の側面図を示す。下部走行体(基体)1に、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。旋回機構2は、電動機(モータ)を含み、上部旋回体3を時計回り、または反時計周りに旋回させる。上部旋回体3に、ブーム4が取り付けられている。ブーム4は、油圧駆動されるブームシリンダ7により、上部旋回体3に対して上下方向に揺動する。ブーム4の先端に、アーム5が取り付けられている。アーム5は、油圧駆動されるアームシリンダ8により、ブーム4に対して前後方向に揺動する。アーム5の先端にバケット6が取り付けられている。バケット6は、油圧駆動されるバケットシリンダ9により、アーム5に対して上下方向に揺動する。上部旋回体3には、さらに運転者を収容するキャビン10が搭載されている。
【0010】
図2に、ハイブリッド型作業機械のブロック図を示す。図2において、機械的動力系を二重線で表し、高圧油圧ラインを太い実線で表し、電気系統を細い実線で表し、パイロットラインを破線で表す。
【0011】
エンジン11の駆動軸がトルク伝達機13のひとつの回転軸に連結されている。エンジン11には、燃料の燃焼によって駆動力を発生するエンジン、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関が用いられる。エンジン11は、作業機械の運転中は、常時駆動されている。
【0012】
電動発電機12の駆動軸が、トルク伝達機13の他の回転軸に連結されている。電動発電機12は、力行(アシスト)運転と、回生(発電)運転との双方の運転動作を行うことができる。電動発電機12には、例えば磁石がロータ内部に埋め込まれた内部磁石埋込型(IPM)モータが用いられる。
【0013】
トルク伝達機13のもうひとつの回転軸に、メインポンプ14の駆動軸が連結されている。メインポンプ14が、エンジン11の外部負荷となる。
【0014】
エンジン11に加わる負荷が大きい場合には、電動発電機12がアシスト運転を行い、電動発電機12の駆動力がトルク伝達機13を介してメインポンプ14に伝達される。これにより、エンジン11に加わる負荷が軽減される。一方、エンジン11に加わる負荷が小さい場合には、エンジン11の駆動力がトルク伝達機13を介して電動発電機12に伝達されることにより、電動発電機12が発電運転される。電動発電機12のアシスト運転と発電運転との切り替えは、電動発電機12に接続されたインバータ18により行われる。インバータ18は、制御装置30により制御される。
【0015】
制御装置30は、表示装置35に、各種装置の劣化状態等を表示することにより、運転者の注意を喚起する。
【0016】
メインポンプ14は、高圧油圧ライン16を介して、コントロールバルブ17に油圧を供給する。コントロールバルブ17は、運転者からの指令により、油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9に油圧を分配する。油圧モータ1A及び1Bは、それぞれ図1に示した下部走行体1に備えられた左右の2本のクローラを駆動する。
【0017】
電動発電機12の電気系統の入出力端子が、インバータ18を介して蓄電回路90に接続されている。蓄電回路90には、さらに、他のインバータ20を介して旋回用電動機(負荷電動機)21が接続されている。蓄電回路90は、キャパシタと、キャパシタの充放電を制御するコンバータを含む。キャパシタには、例えば電気二重層キャパシタが用いられる。蓄電回路90及びインバータ20は、制御装置30により制御される。
【0018】
電動発電機12がアシスト運転されている期間は、必要な電力が、蓄電回路90から電動発電機12に供給され、電動発電機12が機械的パワー(動力)を出力する。電動発電機12が発電運転されている期間は、エンジン11から必要な動力が供給され、電気的パワー(電力)を出力する。電動発電機12によって発電された電力が、蓄電回路90に供給される。インバータ18が、制御装置30からの指令を受けて、指令された動力または電力を出力するように電動発電機12の運転制御を行う。
【0019】
旋回用電動機21は、インバータ20からのパルス幅変調(PWM)制御信号により交流駆動され、動力を発生する力行動作、及び電力を発生する回生動作の双方の運転を行うことができる。インバータ20は、制御装置30からの指令を受け、指令された動力を発生するように旋回用電動機21の運転制御を行う。旋回用電動機21には、例えばIPMモータが用いられる。IPMモータは、回生時に大きな誘導起電力を発生する。
【0020】
旋回用電動機21の力行動作中は、蓄電回路90から電力が旋回用電動機21に電力が供給される。旋回用電動機21の動力(回転力)が減速機24を介して、図1に示した旋回機構2に伝達される。この際、減速機24は、回転速度を遅くする。これにより、旋回用電動機21で発生した回転力が増大して、旋回機構2に伝達される。また、回生動作時には、上部旋回体3の回転運動が、減速機24を介して旋回用電動機21に伝達されることにより、旋回用電動機21が回生電力を発生する。この際、減速機24は、力行運転の時とは逆に、回転速度を速める。これにより、旋回用電動機21の回転数を上昇させることができる。回生電力は、蓄電回路90に供給される。
【0021】
レゾルバ22が、旋回用電動機21の回転軸の回転方向の位置を検出する。検出結果は、制御装置30に入力される。旋回用電動機21の運転前と運転後における回転軸の回転方向の位置を検出することにより、旋回角度及び旋回方向が導出される。
【0022】
メカニカルブレーキ23が、旋回用電動機21の回転軸に連結されており、機械的な制動力を発生する。メカニカルブレーキ23の制動状態と解除状態とは、制御装置30からの制御を受け、電磁的スイッチにより切り替えられる。
【0023】
パイロットポンプ15が、油圧操作系に必要なパイロット圧を発生する。発生したパイロット圧は、パイロットライン25を介して操作装置26に供給される。操作装置26は、レバーやペダルを含み、運転者によって操作される。操作装置26は、パイロットライン25から供給される1次側の油圧を、運転者の操作に応じて、2次側の油圧に変換する。2次側の油圧は、油圧ライン27を介してコントロールバルブ17に伝達されると共に、他の油圧ライン28を介して圧力センサ29に伝達される。
【0024】
圧力センサ29で検出された圧力の検出結果が、制御装置30に入力される。これにより、制御装置30は、下部走行体1、旋回機構2、ブーム4、アーム5、及びバケット6の操作の状況を検知することができる。特に、実施例によるハイブリッド型作業機械では、旋回用電動機21が旋回機構2を駆動するため、旋回機構2を制御するためのレバーの操作量を高精度に検出することが望まれる。制御装置30は、圧力センサ29を介して、このレバーの操作量を高精度に検出することができる。
【0025】
図3Aに、実施例によるハイブリッド型作業機械のブロック図、及び動力と電力との流れを示す。エンジン11からの出力Pgoが、メインポンプ14及び電動発電機12に供給される。電動発電機12がアシスト運転されているときは、電動発電機12からメインポンプ14に、電動発電機の出力(動力)Paoが供給される。電動発電機12が発電運転されているときは、電動発電機で発電された出力(電力)−Paoが蓄電回路90に入力される。ここで、電動発電機12がアシスト運転しているときの出力を正、発電運転しているときの出力を負と定義した。
【0026】
蓄電回路90からの出力される電力Pboが、電動発電機12及び旋回用電動機21に供給される。旋回用電動機21は、力行運転状態のとき、出力(動力)Peoを出力する。回生運転状態のとき、出力(電力)−Peoを出力し、蓄電回路90に供給する。ここで、力行運転状態のときの出力を正とし、回生運転状態のときの出力を負と定義した。また、蓄電回路90から出力される電力を正とし、蓄電回路90に供給される電力を負と定義した。
【0027】
図3Bに、制御装置30の機能のブロック図を示す。油圧負荷出力要求値Phr、電気負荷出力要求値Per、エンジン回転数Nact、及び蓄電回路90のキャパシタ電圧Vmが、制御装置30に入力される。
【0028】
油圧負荷出力要求値Phrは、図2に示した油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9等の油圧により駆動される油圧機構に必要とされる動力の合計である。例えば、油圧負荷出力要求値Phrは、操作者が操作する操作レバーの操作量から算出される。
【0029】
電気負荷出力要求値Perは、図2に示した旋回用電動機21が必要とする電力に相当する。例えば、電気負荷出力要求値Perは、操作者が操作する操作レバーの操作量から算出される。
【0030】
エンジン回転数Nactは、図2に示したエンジン11の実際の回転数に相当する。エンジン11は、作業機械の運転時には常時駆動されており、その回転数Nactが検出されている。キャパシタ電圧Vmは、図2に示した蓄電回路90のキャパシタの端子間電圧に相当する。
【0031】
エンジン回転数Nactが、エンジン出力範囲決定ブロック32に入力される。エンジン出力範囲決定ブロック32には、エンジン回転数Nactから、エンジン出力上限値Pgomax及びエンジン出力下限値Pgominを求めるためのマップまたは変換テーブルが記憶されている。エンジン出力範囲決定ブロック32は、入力されたエンジン回転数Nactから、エンジン出力上限値Pgomax及びエンジン出力下限値Pgominを算出し、動力分配ブロック35に与える。
【0032】
キャパシタ電圧Vmが、SOC算出ブロック33Aに入力される。SOC算出ブロック33Aは、入力されたキャパシタ電圧Vmからキャパシタの充電率(SOC)を算出する。算出された充電率は、蓄電回路出力範囲決定ブロック33B及び蓄電回路出力目標値決定ブロック33Cに与えられる。
【0033】
蓄電回路出力範囲決定ブロック33Bに、充電率から、蓄電回路出力上限値Pbomax、及び蓄電回路出力下限値Pbominを算出するためのマップまたは変換テーブルが記憶されている。蓄電回路出力範囲決定ブロック33Bは、充電率に基づいて、蓄電回路出力上限値Pbomax及び蓄電回路出力下限値Pbominを決定する。蓄電回路出力上限値Pbomaxは、蓄電回路90から出力される電力の上限値に相当する。蓄電回路出力下限値Pbominは負であり、その絶対値は、蓄電回路90に供給される電力の上限値に相当する。蓄電回路出力上限値Pbomaxと蓄電回路出力下限値Pbominとにより、蓄電回路90の入出力電力の適正範囲が定義される。決定された蓄電回路出力上限値Pbomax及び蓄電回路出力下限値Pbominは、動力分配ブロック35に入力される。
【0034】
以下、蓄電回路出力上限値Pbomax及び蓄電回路出力下限値Pbominの算出方法の一例について説明する。蓄電回路90のキャパシタに、充放電電流の適正範囲、及び充電率の適正範囲が定められている。蓄電回路出力上限値Pbomaxは、キャパシタの放電電流がその適正範囲の上限値を超えず、かつキャパシタの充電率がその適正範囲の下限値を下回らないように設定される。蓄電回路出力下限値Pbominは、キャパシタの充電電流がその適正範囲の上限値を超えず、かつキャパシタの充電率がその適正範囲の上限値を上回らないように設定される。
【0035】
蓄電回路出力目標値決定ブロック33Cに、充電率から蓄電回路出力目標値Pbotを算出するためのマップまたは変換テーブルが記憶されている。蓄電回路出力目標値決定ブロック33Cは、充電率に基づいて、蓄電回路出力目標値Pbotを決定する。決定された蓄電回路出力目標値Pbotは、動力分配ブロック35に入力される。
【0036】
以下、蓄電回路出力目標値Pbotの算出方法の一例について説明する。蓄電回路90のキャパシタに、充電率の目標値が定められている。蓄電回路出力目標値Pbotは、実際の充電率が、充電率の目標値に近づくように決定される。例えば、実際の充電率が、充電率の目標値よりも高い場合には、キャパシタを放電させることが好ましいため、蓄電回路出力目標値Pbotは正になる。逆に、実際の充電率が、充電率の目標値よりも低い場合には、キャパシタを充電することが好ましいため、蓄電回路出力目標値Pbotは負になる。蓄電回路出力目標値Pbotの絶対値は、充電率の目標値を基準としたときの実際の充電率の偏差に比例する。
【0037】
動力分配ブロック35は、電気負荷出力指令値Peo、油圧負荷出力指令値Pho、蓄電回路出力指令値Pbo、及び電動発電機出力指令値Paoを決定する。図4〜図7を参照して、これらの指令値の決定方法について説明する。
【0038】
図4は、電気負荷出力要求値Perと電気負荷出力指令値Peoとの関係を示す。電気負荷出力要求値Perが、エンジン出力上限値Pgomaxと蓄電回路出力上限値Pbomaxとの合計値Peomaxよりも大きい場合、電気負荷出力指令値Peoを、この合計値Peomaxに等しくする。すなわち、
Peo=Pgomax+Pbomax
とする。これは、電気負荷出力指令値Peoが、エンジン11と蓄電回路90とから取り出せる最大パワーを超えないことを意味する。
【0039】
電気負荷出力要求値Perが、エンジン出力下限値Pgominから油圧負荷出力要求値Phrと蓄電回路出力下限値Pbominの絶対値を減じた値Peominよりも小さい場合には、電気負荷出力指令値Peoを、この値Peominに等しくする。すなわち、
Peo=Pgomin−Phr+Pbomin
とする。Pbominは負の値であるため、上述の式において、Pbominに付された演算子は「+」(プラス)である。この式は、エンジン11から取り出す動力が最も小さくなるようにエンジン11を動作させた状態で、旋回用電動機21の発電電力が、油圧負荷出力要求値Phrと蓄電回路10に供給し得る電力の上限値との合計値を超えないことを意味する。
【0040】
電気負荷出力要求値Perが、PeomaxとPeominとの間である場合、電気負荷出力指令値Peoを、電気負荷出力要求値Perに等しくする。すなわち、
Peo=Per
とする。この式は、電気負荷に対して、要求どおりの出力が確保されることを意味する。
【0041】
図5は、油圧負荷出力要求値Phrと油圧負荷出力指令値Phoとの関係を示す。油圧負荷出力要求値Phrが、エンジン出力上限値Pgomaxと蓄電回路出力上限値Pbomaxとの合計値から、電気負荷出力指令値Peoを減じた値Phomaxを超えた場合、油圧負荷出力指令値Phoを、この値Phomaxに等しくする。すなわち、
Pho=Pgomax+Pbomax−Peo
とする。これは、油圧負荷出力指令値Phoが、エンジン11と蓄電回路90とから取り出せる最大パワーから、既に決定された電気負荷出力指令値Peo分のパワーを引き出した残りのパワーを超えないことを意味する。
【0042】
油圧負荷出力要求値Phrが、Phomax以下である場合、油圧負荷出力指令値Phoを、油圧負荷出力要求値Phrと等しくする。すなわち、
Pho=Phr
とする。これは、油圧負荷に対して、要求どおりの出力が確保されることを意味する。
【0043】
図6A及び図6Bは、蓄電回路出力目標値Pbotと蓄電回路出力指令値Pboとの関係を示す。図4に示したグラフに基づいて決定された電気負荷出力指令値Peoと、図5に示したグラフに基づいて決定された油圧負荷出力指令値Phoとの合計値から、エンジン出力下限値Pgominを減じた値をPbomax1とする。電気負荷出力指令値Peoと油圧負荷出力指令値Phoとの合計値から、エンジン出力上限値Pgomaxを減じた値をPbomin1とする。
【0044】
図6Aは、Pbomax1が、図3Bの蓄電回路出力範囲決定ブロック33Bで決定された蓄電回路出力上限値Pbomaxよりも小さく、かつPbomin1が、蓄電回路出力下限値Pbominよりも大きい場合を示す。蓄電回路出力目標値Pbotが、Pbomax1を超えた場合、蓄電回路出力指令値Pboを、Pbomax1と等しくする。これは、蓄電回路90から取り出すことができる電力が十分大きいため、エンジン11をその出力下限値Pgominで動作させ、蓄電回路90から余分な電力は取り出さないことを意味する。蓄電回路出力目標値Pbotが、Pbomin1を下回った場合、蓄電回路出力指令値Pboを、Pbomax1と等しくする。これは、蓄電回路90の充電率が十分ではないため、エンジン11をその出力上限値Pgomaxで動作させ、蓄電回路90に電力を供給することを意味する。
【0045】
蓄電回路出力目標値Pbotが、Pbomax1とPbomin1との間の場合には、蓄電回路出力指令値Pboを、蓄電回路出力目標値Pbotと等しくする。これにより、蓄電回路90の充電率を、充電率の目標値に近づけることができる。
【0046】
図6Bは、Pbomax1が、図3Bの蓄電回路出力範囲決定ブロック33Bで決定された蓄電回路出力上限値Pbomaxよりも大きく、かつPbomin1が、蓄電回路出力下限値Pbominよりも小さい場合を示す。この場合には、蓄電回路出力指令値Pboが、図3Bに示した蓄電回路出力範囲決定ブロック33Bで決定された適正範囲に収まるように、蓄電回路出力指令値Pboの上下限値が制限される。
【0047】
このように、蓄電回路出力指令値Pboの上限は、PbomaxとPbomax1との小さい方の値で制限され、下限は、PbominとPbomin1との大きい方の値で制限される。
【0048】
図7A及び図7Bは、電動発電機出力指令値Paoの決定方法を示す線図である。図3Aから、
Pbo=Pao+Peo
が成立することがわかる。蓄電回路出力指令値Pbo及び電気負荷出力指令値Peoが決定されたら、上述の式から電動発電機12の出力Paoが算出される。
【0049】
図7Aに示すように、蓄電回路出力指令値Pboが電気負荷出力指令値Peoよりも大きい場合、余剰電力で電動発電機12をアシスト動作させ、動力Paoを出力する。図7Bに示すように、蓄電回路出力指令値Pboが電気負荷出力指令値Peoよりも小さい場合、不足電力を供給するために電動発電機12を発電動作させ、電力Paoを出力する。
【0050】
図8に、エンジン11及び電動発電機12の制御系のブロック図を示す。トルク伝達機13が、エンジン11が発生するトルクTeと、電動発電機12が発生するトルクTaのN倍とを足し合わせる。ここで、Nは、トルク伝達機13の減速比である。エンジン11が発生するトルクTeと電動発電機12が発生するトルクTaとの合計のトルクで回転する回転軸の回転速度を、速度センサ40が測定する。図8の1/Jsのブロックは、慣性モーメントJの慣性体に対してトルクを加え、発生した加速度が積分されて速度に変換される状態を連続系の物理モデルとして表現している。
【0051】
電動発電機12に取り付けられた速度センサ41も、合計のトルクで回転する回転軸の回転速度を測定する。ただし、速度センサ41は、減速比(N)倍された回転速度を測定している。
【0052】
制御装置30に、エンジン11に対する速度指令値Riが記憶されている。エンジンコントローラ45の速度制御ブロック46が、速度指令値Riを基準としたときの、エンジン11の回転速度の実測値Reの偏差に基づいて、必要トルクを算出する。必要トルクの算出には、例えばPID制御が用いられる。噴射量算出ブロック47が、必要トルクに基づいて、燃料噴射量Seを決定する。必要トルクが許容上限値(トルクリミット)を超えた場合には、燃料噴射量Seが許容上限値を超えないように制限される。燃料噴射量Seを制限する制御を、「トルクリミット制御」という。決定された燃料噴出量Seに基づいて、エンジン11が制御される。
【0053】
制御装置30の動力分配ブロック35が、図3Bに示したように、電動発電機12の出力指令値Paoを算出する。速度センサ41で測定された電動発電機12の回転速度Raと、出力指令値Paoとから、電動発電機12のトルク指令値Tatが算出される。通常の状態では、トルク指令値Tatが、トルク制御ブロック52に入力される。トルク制御ブロック52は、電動発電機12の発生するトルクがトルク指令値Tatになるように、電動発電機12を制御する。なお、図8では、図2に示したインバータ18を省略している。
【0054】
制御方法判定ブロック51に、速度指令値Ri、エンジン11の回転速度の実測値Re、及び燃料噴射量Seが入力される。制御方法判定ブロック51は、これらの情報に基づいて、電動発電機12の制御方法を、トルク制御とするべきか、速度制御とするべきかを判定する。
【0055】
速度制御ブロック50が、速度指令値Riの減速比(N)倍を基準としたときの、電動発電機12の回転速度の実測値Raの偏差に基づいて、トルク指令値Tatを算出する。トルク指令値Tatは、例えば、以下の式により算出される。
Tat=K×(Ri×N−Ra)+T
ここで、Kは、比例定数であり、Tは、トルクの初期値である。回転速度の実測値Raが速度指令値Riの減速比(N)倍よりも小さい場合、偏差が大くなるに従って、トルク指令値Tatが大きくなる。
【0056】
切替ブロック53が、制御方法判定ブロック51からの指令により、トルク指令値Tat及びTatのいずれか一方を、トルク制御ブロック52に入力する。
【0057】
制御方法判定ブロック51は、制御方法をトルク制御とするべきであると判定した場合には、トルク指令値Tatがトルク制御ブロック52に与えられるように、切替ブロック53を制御する。このとき、電動発電機12はトルク制御される。制御方法を速度制御とするべきであると判定した場合には、トルク指令値Tatがトルク制御ブロック52に与えられるように、切替ブロック53を制御する。このとき、電動発電機12は速度制御される。このように、電動発電機12の制御方法を切り替えることができる。
【0058】
上述の式のトルクの初期値Tとして、例えば、制御方法がトルク制御から速度制御に切り替わった時点におけるトルク指令値Tatを採用することができる。
【0059】
図9に、エンジン11の回転速度の実測値Reと、発生トルクTeとの時刻歴の一例を示す。時刻tまで、エンジン11がほとんど無負荷状態で運転されている。エンジン11の実回転速度Reは、速度指令値Riに一致する。このとき、電動発電機12はトルク制御されている。油圧負荷が大きくなって、時刻tにおいて、エンジン11に負荷が発生すると、回転速度Reが低下する。同時に、エンジンコントローラ45の速度制御ブロック46の制御により、エンジン11の発生するトルクTeが上昇する。負荷が大きい場合には、時刻tにおいて、トルクリミット制御が開始される。トルクリミット制御が開始された時刻t以降は、油圧負荷の上昇にもかかわらずエンジン11のトルクTeは、殆ど上昇しない。
【0060】
時刻tにおいて、回転速度Reが、速度制御開始しきい値Reまで低下する。制御方法判定ブロック51が、回転速度Reが速度制御開始しきい値Reまで低下したことを検出すると、制御方法を、トルク制御から速度制御に切り替える。電動発電機12が速度制御されることにより、回転速度の実測値Reが速度指令値Riに向かって上昇を始める。
【0061】
エンジン11に要求されるトルクが小さくなると、速度制御ブロック46で決定される必要トルクが低下し、トルクリミット制御が解除される。以下、トルクリミット制御が解除される過程について、より具体的に説明する。
【0062】
エンジン11の負荷トルクがトルクリミット制御開始のトルクを下回ると、速度制御されている電動発電機12が発生したトルクは、エンジン11の負荷トルクを補助するために使用されるのではなく、エンジン11の回転数を速度指令値Riに復帰させるために使用されるようになる。このため、エンジン11の回転速度の実測値Reが速度指令値Riに近づく。これにより、速度制御ブロック46で決定される必要トルクが低下し、トルクリミット制御が解除される。
【0063】
図9では、時刻tにおいて、エンジン11の負荷トルクが低下し始めることにより、エンジン11の発生するトルクTeが低下し始める。
【0064】
時刻tにおいて、エンジン11の発生するトルクTeが、速度制御解除しきい値Teまで低下する。制御方法判定ブロック51は、トルクTeが、速度制御解除しきい値Teまで低下したことを検出すると、制御方法を速度制御からトルク制御に戻す。なお、制御方法判定ブロック51は、燃料噴射料Seから、エンジン11の発生するトルクTeを算出することができる。
【0065】
速度制御解除しきい値Teとして、例えばエンジン11の定格最大トルクよりもやや小さい値、例えば定格最大トルクよりも50Nmだけ小さい値を採用することができる。
【0066】
動力分配ブロック35は、エンジン11の速度制御が正常に行われていることを前提にして、電動発電機12の出力指令値Paoを算出する。この出力指令値Paoに基づいて決定されたトルク指令値Tatも、エンジン11の速度制御が正常に行われていることを前提としている。従って、トルクリミット制御が開始されている場合や、エンジン11の回転速度の実測値Reが過渡的に速度指令値Riから大幅に低下した場合には、トルク指令値Tatが、エンジン11の回転速度を速度指令値Riに保つための適正な値であるとはいえない。
【0067】
実施例のように、電動発電機12の制御方法を速度制御に切り替えることにより、電動発電機12の発生トルクTaを大きくして、エンジンストールすることなく、エンジン11の回転速度Reを速度指令値Riの近傍まで戻すことができる。
【0068】
エンジン11の速度制御が適切に行われている場合に、電動発電機12を速度制御すると、エンジン11の回転速度Reが低下する度に、電動発電機12がアシスト運転されることになる。アシスト運転が行われて蓄電回路90に蓄積されている電気エネルギ(キャパシタの充電率SOC)が低下すると、図3Bに示した蓄電回路出力目標値決定ブロック33Cが算出する蓄電回路出力目標値Pbotが負(充電の指令)になる。これにより、電動発電機12が発電運転され、蓄電回路90に電力が供給される。このように、必要のないアシスト運転が行われることにより、蓄電回路90からの電力の取り出しと、蓄電回路90への電力の供給が繰り返されることになり、効率が低下する。
【0069】
これに対し、電動発電機12をトルク制御すると、エンジン11の発生するトルクに余裕があるときには、図3Bに示した制御装置30の機能により、電動発電機12が発電運転される。エンジン11の速度制御が適切に行われている場合には、電動発電機12をトルク制御することにより、蓄電回路90からの電力の取り出しと、蓄電回路90への電力の供給とが繰り返されることによる損失の発生を防止できる。
【0070】
図10に、エンジン11の回転速度の実測値Reと、発生トルクTeとの時刻歴の他の一例を示す。図9では、制御方法をトルク制御から速度制御に切り替える契機を、回転速度の実測値Reの変化から検出した。図10に示した例では、エンジン11のトルクリミット制御が開始されたことを契機として、制御方法をトルク制御から速度制御に切り替える。このため、トルクリミット制御が開始された時刻tにおいて、速度制御が開始される。回転速度の実測値Reは、時刻tにおいて、上昇し始める。
【0071】
時刻tにおいて、トルクリミット制御が解除されるたことを契機として、制御方法を、速度制御からトルク制御に戻す。
【0072】
図10に示した例でも、時刻t以降、制御方法を速度制御に切り替えることにより、エンジンストールすることなく、エンジン11の回転速度Reを速度指令値Riの近傍まで戻すことができる。
【0073】
次に、図11A及び図11Bを参照して、制御装置30の具体的な構成例について説明する。制御装置30は、主として動力及び電力の分配比率の算出を行う全体制御モジュール30Aと、電動発電機12の制御を行うサーボ制御モジュール30Bとで構成される。なお、図11A及び図11Bでは、図2に示したインバータ18を省略している。
【0074】
図11Aに示した例では、速度指令値Riを基準としたときの、回転速度の実測値Raの偏差の算出機能、速度制御ブロック50、切替ブロック53、及びトルク制御ブロック52の機能が、サーボ制御モジュール30Bで実現される。サーボ制御モジュール30Bの演算周期が、全体制御モジュール30Aの演算周期よりも十分短い場合、この構成が有効である。サーボ制御モジュール30Bの演算周期が短いため、電動発電機12の回転速度の実測値Raの変動に直ちに追随して、速度制御を行うことができる。
【0075】
図11Bに示した例では、速度指令値Riを基準としたときの、回転速度の実測値Raの偏差の算出機能、速度制御ブロック50、及び切替ブロック53の機能が、全体制御モジュール30Aで実現される。この構成では、電動発電機12をトルク制御する従来のサーボ制御モジュール30Bをそのまま利用することができる。
【0076】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0077】
1 下部走行体
1A、1B 油圧モータ
2 旋回機構
3 上部旋回体
4 ブーム
5 アーム
6 バケット
7 ブームシリンダ
8 アームシリンダ
9 バケットシリンダ
10 キャビン
11 エンジン
12 電動発電機
13 トルク伝達機
14 メインポンプ(外部負荷)
15 パイロットポンプ
16 高圧油圧ライン
17 コントロールバルブ
18 インバータ
19 キャパシタ
21 旋回用電動機
22 レゾルバ
23 メカニカルブレーキ
24 減速機
25 パイロットライン
26 操作装置
27、28 油圧ライン
29 圧力センサ
30 制御装置
30A 全体制御モジュール
30B サーボ制御モジュール
32 エンジン出力範囲決定ブロック
33A SOC算出ブロック
33B 蓄電回路出力範囲決定ブロック
33C 蓄電回路出力目標値決定ブロック
35 動力分配ブロック
40、41 速度センサ
45 エンジンコントローラ
46 速度制御ブロック
47 噴射量決定ブロック
50 速度制御ブロック
51 制御方法判定ブロック
52 トルク制御ブロック
53 切替ブロック
90 蓄電回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼によってトルクを発生するエンジンと、
発電動作とアシスト動作とを、選択的に行うことができる電動発電機と、
前記エンジンの負荷となる外部負荷と、
前記エンジンのトルク、前記電動発電機のトルク、及び前記外部負荷に印加されるトルクの相互授受を行うトルク伝達機と、
前記エンジンの回転速度を測定する速度センサと、
前記エンジン及び前記電動発電機を制御する制御装置と
を有し、
前記制御装置は、
前記エンジンの速度制御の目標値となる速度指令値を記憶し、
前記外部負荷に要求される動力に基づいて、前記電動発電機に発生させるトルクを算出し、該電動発電機をトルク制御し、
前記速度センサで測定された回転速度と、前記速度指令値との差分に基づいて、前記電動発電機を速度制御し、
前記電動発電機をトルク制御する制御状態と、速度制御する制御状態とを切り替えることができるハイブリッド型作業機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電動発電機の回転速度に基づいて、前記電動発電機の制御状態を切り替える請求項1に記載のハイブリッド型作業機械。
【請求項3】
前記エンジンは、発生すべきトルクが許容制限値を超えたときに、トルクリミット制御され、
前記制御装置は、前記エンジンのトルクリミット制御が開始されたことを契機として、前記電動発電機の制御状態を、トルク制御から速度制御に切り替える請求項1に記載のハイブリッド型作業機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記エンジンのトルクリミット制御が解除されたされたことを契機として、前記電動発電機の制御状態を、速度制御からトルク制御に切り替える請求項3に記載のハイブリッド型作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−12426(P2011−12426A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156516(P2009−156516)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】