説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】 回生量の増加および加速遅れの抑制を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】 駆動輪RL,RRに駆動力を付与可能なエンジンEと、駆動輪RL,RRと自動変速機ATを介して連結したモータジェネレータMGと、ドライバの選択により、自動変速機ATの変速モードを、ATモードとMモードとの一方に切り替える変速モード切り替えスイッチ26と、ドライバのATモードからMモードへの切り替えを検出する変速モード切り替え検出部10bと、Mモードにおけるドライバの選択ギア段を検出するギア段検出部10cと、ドライバがATモードからMモードへの切り替えたときのドライバの選択ギア段が変速モード切り替え直前のギア段よりも高い場合、車両の走行モードを、EV走行モードとし、それ以外の場合にはHEV走行モードとする走行モード切り替え部10aと、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両の制御装置では、減速要求時かつ燃料カット時における手動変速モードの選択変速段に基づき、低速段ほどモータジェネレータによる回生量が増加するように、車速およびアクセル開度も加味して目標回生量を算出し、当該目標回生量となるようにモータジェネレータの回生制御を実施している。これにより、自動変速機の実変速段を維持した状態で、シフト段に応じた擬似的なエンジンブレーキ感を生成している。一方、減速時において燃料カットされない場合は、モータジェネレータの回生制御を禁止している。
【0003】
具体的には、手動変速モードにおいては、手動によるシフトレバー操作によりダウンシフト操作を検知することにより、減速要求時であるか否かを判定し、減速要求時であるならば、実燃料噴射量がゼロ相当であるか否か、すなわち燃料カット制御が行われているか否かを判定し、追い越し加速をする際のダウンシフト操作ではないことを判定していた。上記説明に関係する技術の一例は、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2005−102365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のハイブリッド車両の制御装置は、燃料カット制御に基づき加速要否を決定しているため、ドライバが自動変速モードから手動変速モードへと変速モードを切り替えたとき、加速要否の判定に時間を要する。このため、回生制御への移行やエンジン始動に遅れが生じ、回生量の低下や加速遅れが生じる可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、早期に加速要否の判定を行うことができ、回生量の増加および加速遅れの抑制を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明では、ドライバが自動変速モードから手動変速モードへの切り替えたときのドライバの選択変速段が変速モード切り替え直前の変速段よりも高い場合、車両の走行モードを、エンジンを停止しモータジェネレータの動力のみを動力源として走行するモータ走行モードとし、それ以外の場合、少なくともエンジンを動力源に含めて走行する走行モードとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、自動変速モードの変速段と手動変速モードの選択変速段とを比較して加速要否を判定しているため、早期に加速要否の判定を行うことができ、EV走行モードにおける回生量の増加と、HEV走行モードにおける加速遅れの抑制とを共に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、実施例1のハイブリッド車両を示す全体システム図である。ハイブリッド車両の駆動系は、エンジンEと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有している。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等を制御する。なお、エンジン出力軸はフライホイールFWを備える。
【0011】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装した締結要素(クラッチ)であり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、その締結(スリップ締結を含む)および解放を制御する。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御する。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作し(この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電する(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパを介して自動変速機ATの入力軸と連結する。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装した締結要素(クラッチ)であり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、その締結(スリップ締結を含む)および解放を制御する。
【0014】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速VSPやアクセル開度APO等に応じて自動的に切り替える変速機である。第2クラッチCL2は、ハイブリッド車両専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の締結要素のうち、いくつかの締結要素を流用している。
【0015】
なお、上記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いているが、他の構成としてもよい。
自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0016】
[変速モード]
自動変速機ATの各走行レンジには、走行状態に応じて自動的にギア段(変速段)を切り替える「自動変速モード」と、ドライバにより選択されたギア段(選択変速段)にギア段を固定する「手動変速モード」とを設定している。これら2つの変速モードは、ドライバの選択に応じて切り替え可能である。具体的には、ドライバによって操作される後述の変速モード切り替えスイッチ(変速モード切り替え手段)26のON/OFF信号により切り替える。以下、「自動変速モード」を「ATモード」、「手動変速モード」を「Mモード」と記載する。
【0017】
ATコントローラ7は、ドライバがATモードを選択した場合には、走行条件(アクセル開度APOおよび車速VSP)に基づき、あらかじめ設定し記憶した変速マップに従ってギア段を選択し、自動変速機ATのギア段をマップにより選択したギア段へと自動的に切り替える。
【0018】
一方、ATコントローラ7は、ドライバがMモードを選択した場合には、上記走行条件や変速マップにかかわらず、ドライバにより選択されたギア段に変速し、ドライバが操作しない限りそのギア段に固定される。なお、ドライバがMモードを選択した場合であっても、エンジンEやモータジェネレータMGの上限回転数(レブリミット)を超える場合には、自動的にアップシフトする構成としてもよい。
【0019】
[走行モード]
実施例1のハイブリッド車両の駆動系は、第1クラッチCL1の締結・解放状態に応じた2つの走行モードを有している。第1の走行モードは、第1クラッチCL1の解放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしてのモータ走行モード(以下、「EV走行モード」)である。第2の走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」)である。
【0020】
さらに上記「HEV走行モード」は、「エンジン走行モード」、「モータアシスト走行モード」および「走行発電モード」の3つの走行モードを有する。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪RL,RRを動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪RL,RRを動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RL,RRを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0021】
上記「走行発電モード」は、定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、発電した電力をバッテリ4の充電のために使用する。また、減速運転時には、制動エネルギーを利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、制動エネルギーを回生する。
【0022】
次に、実施例1のハイブリッド車両の制御系を説明する。
ハイブリッド車両の制御系は、後述する各種センサおよびスイッチの他、エンジンコントローラ1、モータコントローラ2、インバータ3、バッテリ4、第1クラッチコントローラ5、第1クラッチ油圧ユニット6、ATコントローラ7、第2クラッチ油圧ユニット8、ブレーキコントローラ9、および統合コントローラ10を有している。
なお、各コントローラ(エンジンコントローラ1、モータコントローラ2、第1クラッチコントローラ5、ATコントローラ7、ブレーキコントローラ9および統合コントローラ10)は、CAN通信線11を介して情報交換可能に接続している。
【0023】
各種センサおよびスイッチは、エンジン回転数センサ12、レゾルバ13、第1クラッチ油圧センサ14、第1クラッチストロークセンサ15、アクセル開度センサ(アクセルオフ検出手段)16、車速センサ17、第2クラッチ油圧センサ18、車輪速センサ19、ブレーキストロークセンサ20、モータ回転数センサ21、第2クラッチ出力回転数センサ22、第2クラッチトルクセンサ23、ブレーキ油圧センサ24、バッテリ電力センサ25、変速モード切り替えスイッチ26を有している。
【0024】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数Neや統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等の情報に基づき、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、統合コントローラ10は、エンジン回転数Ne、すなわち第1クラッチCL1入力回転数の情報を、エンジンコントローラ1からCAN通信線11を介して入力する。
【0025】
モータコントローラ2は、レゾルバ13からのモータジェネレータMGのロータ回転位置および統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に基づき、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。
【0026】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14からの第1クラッチ圧、第1クラッチストロークセンサ15からの第1クラッチストロークC1Sおよび統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に基づき、第1クラッチCL1の締結・解放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。統合コントローラ10は、CAN通信線11を介して第1クラッチストロークC1Sの情報を入力する。
【0027】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16からのアクセル開度APO、車速センサ(AT出力回転数センサ)17からの車速VSP、第2クラッチ油圧センサ18からの第2クラッチ圧および統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令等に基づき、第2クラッチCL2の締結・解放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。統合コントローラ10は、CAN通信線11を介してアクセル開度APOと車速VSPを入力する。
【0028】
ブレーキコントローラ9は、車輪速センサ19からの4輪の各車輪速、ブレーキストロークセンサ20からのブレーキストロークBSおよび統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づき、回生協調ブレーキ制御を行う。例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから算出される要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように制御する。
【0029】
統合コントローラ10は、主に、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせる機能を有している。
統合コントローラ10は、モータ回転数センサ21からのモータ回転数Nm、第2クラッチ出力回転数センサ22からの第2クラッチ出力回転数N2out、第2クラッチトルクセンサ23からの第2クラッチトルクTCL2、ブレーキ油圧センサ24からのブレーキ圧、変速モード切り替えスイッチ26からの選択された変速モード、バッテリ電力センサ25からのバッテリ4の使用可能な電力容量(以下、バッテリSOC)等の情報、およびCAN通信線11を介して得られた各情報、すなわちエンジン回転数Ne(第1クラッチCL1入力回転数)、第1クラッチストロークC1S、第1,第2クラッチ圧、アクセル開度APO、車速VSPおよびブレーキストロークBS等を入力する。
統合コントローラ10は、エンジン回転数Ne等に基づき算出した目標エンジントルクをエンジンコントローラ1に出力し、エンジンEの動作を制御する。
【0030】
統合コントローラ10は、走行モード切り替え部(走行モード切り替え手段)10aを備える。この走行モード切り替え部10aは、エンジン回転数Ne(第1クラッチCL1入力回転数)およびモータ回転数Nm(第1クラッチCL1出力回転数)等に基づき算出した第1クラッチ制御指令を第1クラッチコントローラ5に出力し、第1クラッチCL1の締結(スリップ締結を含む)および解放を制御する。具体的には、走行状態に応じて自動的に第1クラッチ制御指令を第1クラッチコントローラ5に出力することにより、EV走行モードとHEV走行モードとを自動的に切り替える。
【0031】
図2に、走行モードマップの一例を示す。このモードマップ内には、EV走行モードとHEV走行モードを設定し、アクセル開度APOと車速VSPとから走行モードを選択する。図2に示すように、アクセル開度APOが所定値APO1以下、かつ車速VSPが所定値VSP1以下である場合にはHEV走行モードを選択し、それ以外の場合にはHEV走行モードを選択する。
【0032】
ただし、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的にHEV走行モードを選択する。
なお、上述したように、HEV走行モードは、エンジン走行モード、モータアシスト走行モードおよび走行発電モードの3つの走行モードを有し、これらの各走行モードについてもアクセル開度APO、車速VSPおよびバッテリSOCに応じて適宜選択されるが、図2では記載を省略している。また、図示はしていないが、ハンチング防止のため、EV走行モードとHEV走行モードの遷移線にはヒステリシスを設定している。
【0033】
統合コントローラ10は、モータ回転数Nm(第2クラッチCL1入力回転数)および第2クラッチ出力回転数N2out等に基づき算出した第2クラッチ制御指令をATコントローラ7に出力し、第2クラッチCL2の締結および解放を制御する。
【0034】
統合コントローラ10は、バッテリ電力センサ25が検出したバッテリ4の使用可能な電力容量(バッテリSOC)に基づき、バッテリSOCの上限値および下限値を設定する。これにより、バッテリ使用領域を制御する。そして、統合コントローラ10は、モータ回転数Nm等に基づき算出した目標モータジェネレータトルクTmをモータコントローラ2に出力して、設定したバッテリ使用領域の範囲内で、モータジェネレータMGの動作を制御する。
【0035】
統合コントローラ10は、上記走行モード切り替え部(走行モード切り替え手段)10aに加え、変速モード切り替え検出部(変速モード切り替え検出手段)10bとギア段検出部10c(変速段検出手段)とを備える。
変速モード切り替え検出部10bは、変速モード切り替えスイッチ26のON/OFF信号に基づいて、ドライバによる変速モードの切り替えを検出する。
ギア段検出部10cは、シフトレバーの位置に応じてMモードにおけるドライバの選択ギア段(以下、Mギア段)を検出する。
【0036】
走行モード切り替え部10aは、変速モード切り替え検出部10bにより検出された変速モードに応じて、自動変速機ATの変速モードをATモードとMモードとで切り替える。
また、走行モード切り替え部10aは、ドライバが変速モードをATモードからMモードへ切り替えたとき、アクセル開度APO、直前の自動変速機ATの変速段およびドライバの選択変速段に応じてEV走行モードへの移行を許可するEV走行モード許可処理を行う。以下、このEV走行モード許可処理について説明する。
【0037】
[EV走行モード許可処理]
図3は、EV走行モード時のEV走行モード許可処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0038】
ステップS1では、アクセル開度センサ16からのアクセル開度APOを読み込み、アクセル開度APOが所定値APO1以下であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS2へ移行し、NOの場合にはステップS6へ移行する。このステップは、アクセル開度APOがEV走行モード領域内にあるか否かを判定するステップである。
【0039】
ステップS2では、現在のギア段(以下、ATギア段)がドライバの選択ギア段(以下、Mギア段)よりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS5へ移行し、NOの場合にはステップS3へ移行する。このステップは、ドライバが加速を要求しているか否かを判定するステップである。
【0040】
ステップS3では、ステップS1で読み込んだアクセル開度APOが0/8(ゼロ)であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS4へ移行し、NOの場合にはステップS6へ移行する。このステップは、アクセルOFFを判定するためのステップである。
【0041】
ステップS4では、車両が減速中であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS5へ移行し、NOの場合にはステップS6へ移行する。ここで、減速中であるか否かの判定は、車速センサ17からの車速VSPを読み込み、車速VSPが低下している場合には減速中であると判定する。また、車両前後方向加速度を検出する加速度センサを設け、加速度センサからの信号に基づいて減速中であることを判定してもよい。
【0042】
ステップS5では、「EV走行モード許可」、すなわちEV走行モードを維持し、リターンへ移行する。
【0043】
ステップS6では、「EV走行モード不許可」、すなわちEV走行モードからHEV走行モードへと移行し、リターンへ移行する。
【0044】
図4は、HEV走行モード、かつMモード時のEV走行モード許可処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、図3に示したEV走行モード時の処理と同一の処理を行うステップには、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0045】
ステップS7では、EV走行モード許可カウンタが所定値TIM1以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS5へ移行し、NOの場合にはステップS6へ移行する。
【0046】
ステップS8では、EV走行モード許可カウンタをインクリメントし、ステップS6へ移行する。
【0047】
ステップS5では、「EV走行モード許可」、すなわちHEV走行モードからEV走行モードへと移行し、リターンへ移行する。
【0048】
ステップS6では、「EV走行モード不許可」、すなわちHEV走行モードを維持し、リターンへ移行する。
【0049】
すなわち、HEV走行モード、かつMモード時、アクセル開度APOがEV走行モード領域内にあり、かつ、Mギア段がATギア段よりも高い状態が、所定時間(EV走行モード許可カウンタがゼロから所定値TIM1となるまでの間)継続した場合は、ドライバの加速要求無しと判定し、EV走行モードへと移行する。つまり、ドライバの加速要求が無いことを十分確認した上で、EV走行モードを許可することにより、動力性能を損なうことなく、燃料消費を抑えることができる。
【0050】
上記EV走行モード許可処理によるEV走行モード許可条件を図5に示す。図において、「○」は「EV走行モード許可」、それ以外は「EV走行モード不許可」を表す。また、「EV走行モード不許可」領域において、「×」はエンジン始動を表す。
【0051】
図5に示すように、アクセル開度APOはEV走行モードの領域(APO≦APO1)にある場合、Mギア段がATギア段よりも高いときには、EV走行モードを許可する。また、Mギア段がATギア段と同じまたは低い場合であっても、アクセルオフかつ減速している場合には、EV走行モードを許可する。
【0052】
次に、作用を説明する。
図6の変速マップ上で動作点が変化したときのEV走行モードの許可または不許可を具体的に説明する。図7は、図6の各動作点における運転条件とEV走行モードの許可(OK)/不許可(NG)判定結果を示す。なお、各動作点は、モードマップ上でいずれもEV領域内にあるものとする。
【0053】
動作点が(1)→(2)に変化した場合、ATギア段(4速)=Mギア段(4速)でアクセルONであるため、加速要求有りと判定してEV走行モード不許可とする。このとき、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS6へと進む流れとなる。
【0054】
動作点が(1)→(3)に変化した場合、アクセルOFFであるため減速目的と判定してEV走行モード許可とする。このとき、図3のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む流れとなる。
【0055】
動作点が(3)→(4)に変化した場合、ATギア段(3速)<Mギア段(4速)であるため、加速要求無しと判定してEV走行モード許可とする。このとき、図3のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS5へと進む流れとなる。
【0056】
動作点が(3)→(5)に変化した場合、ATギア段(3速)>Mギア段(1速)であるため、ダウンシフトを要求する操作で加速要求有りと判定してEV走行モード不許可とする。このとき、図3のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6へと進む流れとなる。
【0057】
動作点が(3)→(6)に変化した場合、アクセルOFFであるため減速目的と判定してEV走行モード許可とする。このとき、図3のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む流れとなる。
【0058】
動作点が(6)→(7)に変化した場合、ATギア段(1速)=Mギア段(1速)であるため、ダウンシフトを要求する操作で加速要求有りと判定してEV走行モード不許可とする。このとき、図3のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6へと進む流れとなる。
【0059】
図8の変速マップ上で動作点が変化したときのEV走行モードの許可または不許可を具体的に説明する。図9は、図8の各動作点における運転条件とEV走行モードの許可(OK)/不許可(NG)判定結果を示す。なお、各動作点は、モードマップ上でいずれもEV領域内にあるものとし、アクセルON、ブレーキOFFとする。
【0060】
動作点が(1)→(2)に変化した場合、ATギア段(2速)<Mギア段(3速)であるため、加速要求無しと判定してEV走行モード許可とする。このとき、図3のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS5へと進む流れとなる。
【0061】
動作点が(2)→(5)に変化した場合、加速要求有りと判定してEV走行モード不許可とする。このとき、図4のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS6へと進む流れとなる。
【0062】
動作点が(2)→(6)に変化した場合、減速要求有りと判定して所定時間経過後、EV走行モード許可とする。このとき、図4のフローチャートでは、EV走行モード許可カウンタが所定値TIM1に到達するまでの間、ステップS1→ステップS2→ステップS7→ステップS8→ステップS6へと進む流れを繰り返し、EV走行モード許可カウンタが所定値TIM1に到達後、ステップS1→ステップS2→ステップS7→ステップS5へと進む流れとなる。
【0063】
動作点が(3)→(4)に変化した場合、ATギア段(4速)>Mギア段(3速)であるため、ダウンシフトを要求する操作で加速要求有りと判定してEV走行モード不許可とする。このとき、図3のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6へと進む流れとなる。
【0064】
以上説明したように、実施例1のハイブリッド車両の制御装置では、ドライバがATモードからMモードへと切り替えたとき、アクセル開度APOはEV走行モードの領域(APO≦APO1)にある場合、Mギア段がATギア段よりも高いときには、減速要求有りまたは加速要求無しと判定してEV走行モードを許可する。一方、Mギア段がATギア段以下であるときには、アクセルOFFで車両が減速している場合を除き、加速要求有りと判定してEV走行モードを不許可とする。
【0065】
すなわち、実施例1では、ATギア段とMギア段との比較により加速の要否を判定するため、容易かつ迅速に加速の要否を判定でき、加速の要否に応じた処理を早期に開始できる。
【0066】
特に、実施例1のように、エンジンEとモータジェネレータMGとの間にクラッチ(第1クラッチCL1)を有するハイブリッド車両では、第1クラッチCL1の締結・開放を早期に行うことができるため、顕著な効果を奏する。つまり、HEV走行モード、すなわち第1クラッチCL1の締結時には、エンジン始動性および加速性の向上を図ることができる。また、EV走行モード、すなわち第1クラッチCL1の開放時には、エンジンEを連れ回すことに伴うフリクションを低減でき、回生効率向上を図ることができる。
【0067】
また、実施例1では、Mギア段がATギア段と同じまたは低い場合であっても、アクセルOFFかつ車両が減速している場合には、EV走行モードを許可する。すなわち、Mモードにおけるドライバの選択ギア段がATモードのギア段以下である場合であっても、アクセルOFFで減速しているときには、ドライバは加速要求しておらず、エンジンEを始動させる必要はない。
【0068】
したがって、アクセルOFFで車両が減速している場合、EV走行モードを許可することにより、走行シーンにおいてEV走行領域を広げることができ、回生制動領域の拡大を図ることができる。
【0069】
通常、ドライバは加速要求により変速モードをATモードからMモードへと切り替えることが多いため、第1クラッチCL1を締結してエンジンEを駆動状態にしておくことが望ましい。しかし、軽度の減速をする目的で、ブレーキペダルの代わりにMモードのマニュアルシフトを利用してエンジンブレーキで減速する場合がある。
【0070】
このとき、ブレーキペダルの操作であれば、モータジェネレータMGの協調回生によりエネルギーを回収しているところを、エンジンブレーキに置き換えてしまうため、回生効率の悪化を招く。これに対し、実施例1では、ドライバが変速モードをATモードからMモードへと切り替えた場合であっても、Mギア段がATギア段よりも高いとき、またはアクセルOFFで車両が減速しているときには、EV走行モードを維持するため、回生効率の悪化を抑制できる。
【0071】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
【0072】
(1) 駆動輪RL,RRに駆動力を付与可能なエンジンEと、駆動輪RL,RRと自動変速機ATを介して連結したモータジェネレータMGと、ドライバの選択により、自動変速機ATの変速モードを、ATモードとMモードとの一方に切り替える変速モード切り替えスイッチ26と、ドライバのATモードからMモードへの切り替えを検出する変速モード切り替え検出部10bと、Mモードにおけるドライバの選択ギア段を検出するギア段検出部10cと、ドライバがATモードからMモードへの切り替えたときのドライバの選択ギア段が変速モード切り替え直前のギア段よりも高い場合、車両の走行モードを、EV走行モードとし、それ以外の場合にはHEV走行モードとする走行モード切り替え部10aと、を備えた。これにより、早期に加速要否の判定を行うことができ、EV走行モードにおける回生量の増加と、HEV走行モードにおける加速遅れの抑制とを共に図ることができる。
【0073】
(2) ドライバのアクセルオフを検出するアクセル開度センサ16を備え、走行モード切り替え部10aは、アクセルオフかつ車両が減速している場合、車両の走行モードをモータ走行モードとする。これにより、回生制動領域の拡大を図ることができる。
【0074】
(3) 走行モード切り替え部10aは、HEV走行モード、かつMモード時、アクセル開度APOがEV走行モード領域内にあり、かつ、Mギア段がATギア段よりも高い状態が、所定時間(EV走行モード許可カウンタがゼロから所定値TIM1となるまでの間)継続した場合は、EV走行モードへと移行する。これにより、動力性能を行うことなく、燃料消費を抑えることができる。
【0075】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づく実施例により説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に示したものに限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない程度の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0076】
例えば、実施例では、エンジンとモータジェネレータとの間にクラッチを有するハイブリッド車両を例に説明したが、本発明は、駆動輪に駆動力を付与可能なエンジンと、駆動輪と自動変速機を介して連結したモータジェネレータとを有するハイブリッド車両に適用でき、実施例と同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の走行モードマップの一例である。
【図3】実施例1におけるEV走行モード時のEV走行モード許可処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1におけるHEV走行モード、かつMモード時のEV走行モード許可処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1におけるEV走行モード許可処理のEV走行モード許可条件を示す。
【図6】動作点の変化を示す変速マップである。
【図7】図6で動作点が変化したときの実施例1のEV走行モード許可作用を示す図である。
【図8】動作点の変化を示す変速マップである。
【図9】図8で動作点が変化したときの実施例1のEV走行モード許可作用を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 クラッチコントローラ
6 クラッチ油圧ユニット
7 コントローラ
8 クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
10a走行モード切り替え部(走行モード切り替え手段)
10b 変速モード切り替え検出部(変速モード切り替え手段)
10c ギア段検出部(変速段検出手段)
11 通信線
12 エンジン回転数センサ
13 レゾルバ
14 クラッチ油圧センサ
15 クラッチストロークセンサ
16 アクセル開度センサ(アクセルオフ検出手段)
17 車速センサ
18 クラッチ油圧センサ
19 車輪速センサ
20 ブレーキストロークセンサ
21 モータ回転数センサ
22 クラッチ出力回転数センサ
23 クラッチトルクセンサ
24 ブレーキ油圧センサ
25 バッテリ電力センサ
26 変速モード切り替えスイッチ(変速モード切り替え手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に駆動力を付与可能なエンジンと、
前記駆動輪と自動変速機を介して連結したモータジェネレータと、
ドライバの選択により、前記自動変速機の変速モードを、走行状態に応じて前記自動変速の変速モードを切り替える自動変速モードと、変速段をドライバの選択変速段に固定する手動変速モードとの一方に切り替える変速モード切り替え手段と、
ドライバの前記自動変速モードから前記手段変速モードへの切り替えを検出する変速モード切り替え検出手段と、
前記手動変速モードにおけるドライバの選択変速段を検出する変速段検出手段と、
ドライバが前記自動変速モードから前記手動変速モードへの切り替えたときのドライバの選択変速段が変速モード切り替え直前の変速段よりも高い場合、車両の走行モードを、前記エンジンを停止し前記モータジェネレータの動力のみを動力源として走行するモータ走行モードとし、それ以外の場合、少なくとも前記エンジンを動力源に含めて走行する走行モードとする走行モード切り替え手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
ドライバのアクセルオフを検出するアクセルオフ検出手段を備え、
前記走行モード切り替え手段は、アクセルオフかつ車両が減速している場合、車両の走行モードを前記モータ走行モードとすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−143383(P2010−143383A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322460(P2008−322460)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】