説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジンブレーキ動作時の節度感を改善するハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】第1電動機MG1のトルクを力行側に増加させることによりエンジン12の回転速度NEを上昇させるエンジン吹き上げ制御を行う際、仮想的な目標エンジン回転速度vgdを設定し、その仮想的な目標エンジン回転速度vgdが達成されるまでは第1電動機MG1の力行トルクによりエンジン回転速度NEを上昇させるものであることから、エンジン回転速度NEを目標エンジン回転速度vgdまで吹き上がらせることができると共に、要求されるエンジンブレーキトルクを確保することができる。すなわち、エンジンブレーキ動作時の節度感を改善するハイブリッド車両10の制御装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、エンジンブレーキ動作時の節度感を改善するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
主駆動源であるエンジンと、駆動源として機能する電動機とを、備えたハイブリッド車両が知られている。例えば、エンジンと、第1回転要素、入力回転部材であってそのエンジンに連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、上記第1回転要素に連結された第1電動機と、上記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機とを、備えたハイブリッド車両がそれである。斯かるハイブリッド車両において、エンジンブレーキ動作時に第1電動機でエンジンをモータリングする技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された動力出力装置の制御方法がそれである。この技術によれば、Bレンジへの操作が行われる等してエンジンブレーキ動作が行われる際、高車速ほどエンジン回転速度が高くなるように第1電動機によりエンジンをモータリングすることで、斯かるエンジンのフリクションによる制動力を駆動軸に効率的に作用させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−021622号公報
【特許文献2】特開2010−023628号公報
【特許文献3】特開2005−002989号公報
【特許文献4】特開2010−013001号公報
【特許文献5】特開平10−336804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のようなハイブリッド車両におけるエンジンブレーキ動作時であって、特にスポーツモードやシーケンシャルシフト時等、スポーティな走りが求められる場合に、前記第1電動機のトルクを力行側に増加させることにより前記エンジンの回転速度を上昇させるエンジン吹き上げ制御を行う技術が知られている。しかしながら、斯かるエンジン吹き上げ制御において、前記従来の技術では、前記エンジンの回転開始時における回転上昇のために前記第1電動機のトルクが一部消費されて駆動軸に伝達されるトルクが小さくなり、エンジンブレーキトルクが浅くなってメリハリある節度感が得られない場合があった。すなわち、エンジンブレーキ動作時の節度感を改善するハイブリッド車両の制御装置は、未だ開発されていないのが現状である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンブレーキ動作時の節度感を改善するハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、エンジンと、第1回転要素、入力回転部材であってそのエンジンに連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機とを、備えたハイブリッド車両の制御装置であって、エンジンブレーキ動作時であって、前記第1電動機のトルクを力行側に増加させることにより前記エンジンの回転速度を上昇させるエンジン吹き上げ制御を行う際、仮想的な目標エンジン回転速度を設定し、その仮想的な目標エンジン回転速度が達成されるまでは前記第1電動機の力行トルクによりエンジン回転速度を上昇させるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、前記第1電動機のトルクを力行側に増加させることにより前記エンジンの回転速度を上昇させるエンジン吹き上げ制御を行う際、仮想的な目標エンジン回転速度を設定し、その仮想的な目標エンジン回転速度が達成されるまでは前記第1電動機の力行トルクによりエンジン回転速度を上昇させるものであることから、エンジン回転速度を目標エンジン回転速度まで吹き上がらせることができると共に、要求されるエンジンブレーキトルクを確保することができる。すなわち、エンジンブレーキ動作時の節度感を改善するハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。
【0008】
ここで、前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記エンジン吹き上げ制御は、予め定められた関係に基づいて前記第1電動機のトルク及び第2電動機のトルクを決定するものであり、前記仮想的な目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差が予め定められた既定値より大きい場合には、前記エンジンの回転開始時の慣性に係る補正要素を前記関係に適用するものである。このようにすれば、前記エンジンの回転開始時に、その回転上昇のための慣性を考慮することで、エンジンブレーキ動作時にメリハリある節度感を実現しつつ、エンジンを必要十分に吹き上がらせることができる。
【0009】
また、前記第2発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、前記仮想的な目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差が予め定められた既定値より大きい場合においても、前記エンジン吹き上げ制御開始から予め定められた規定時間が経過した場合には、前記関係に前記補正要素を非適用とするものである。このようにすれば、エンジンの個体差等によりそのエンジンの回転速度が仮想的な目標エンジン回転速度に達しない場合であっても、エンジンの回転開始時における慣性の影響が収束した段階においてはその慣性を考慮しない制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1のハイブリッド車両の駆動を制御するためにそのハイブリッド車両に備えられた制御系統の要部を説明する図である。
【図3】図2の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図4】図1のハイブリッド車両に備えられた差動機構における3つの回転要素それぞれの回転速度を相対的に示すことができる共線図である。
【図5】図2の電子制御装置による仮想的な目標エンジン回転速度の導出に用いられるマップの一例を示す図である。
【図6】図2の電子制御装置によるエンジンブレーキ制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記仮想的な目標エンジン回転速度は、好適には、予め定められた関係(マップ)から車速等に基づいて算出(導出)されるものである。また、斯かる関係は、好適には、車速が大きくなるほど仮想的な目標エンジン回転速度が高くなるように予め定められたものである。
【0012】
前記差動機構は、好適には、前記第1電動機及び第2電動機相互間の電気パスにより電気的な無段変速機として機能するものである。また、好適には、前記差動機構と駆動輪との間の動力伝達経路に、複数の油圧式摩擦係合装置を備えた有段式の自動変速機や、ベルト式無段変速機やトロイダル式無段変速機等のCVTを備えたハイブリッド車両にも本発明は好適に適用される。
【0013】
本発明は、回生量制限方式によるエンジンブレーキ制御に好適に適用される。この回生量制限方式によるエンジンブレーキ制御とは、第2電動機による回生量を一時的に制限することにより、強制的に第1電動機のトルクを正側に大きくしてエンジン回転速度を上昇させる制御である。また、本発明は、電動機の回生が制限されない状態におけるエンジンブレーキ制御にも好適に適用される。
【0014】
前記仮想的な目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差が予め定められた既定値より大きいか否かの判定は、その差の最大値を選択して行うものであってもよい。すなわち、目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差及び仮想的な目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差から最大値を選択し、その最大値が上記予め定められた既定値より大きいか否かを判定するものであってもよい。更に、ヒステリシスを設けて、仮想的な目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差或いは上記選択された最大値が予め定められた上昇側判定値としての既定値より大きいと判定される場合には、更にその差が予め定められた下降側判定値としての既定値より小さいか否かを判定するものであってもよい。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両10の駆動装置の構成を説明する骨子図である。このハイブリッド車両10の駆動装置は、例えば車両において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、主動力源としてのエンジン12と、第1電動機MG1と、第2電動機MG2とを、備えた動力伝達機構(変速機構)である。
【0017】
上記エンジン12は、例えば、気筒内噴射されるガソリン等の燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン等の内燃機関である。また、上記第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、好適には、何れも駆動力を発生させるモータ(発動機)及び反力を発生させるジェネレータ(発電機)としての機能を有する所謂モータジェネレータであるが、上記第1電動機MG1は少なくともジェネレータとしての機能を備えたものであり、上記第2電動機MG2は少なくともモータとしての機能を備えたものである。
【0018】
図1に示すように、前記ハイブリッド車両10の駆動装置には、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスルケース14(以下、ケース14という)内において、前記エンジン12側から順に、そのエンジン12の出力軸(例えばクランク軸)に作動的に連結されてエンジン12からのトルク変動等による脈動を吸収するダンパ16と、そのダンパ16を介して前記エンジン12によって回転駆動させられる入力軸18と、動力分配機構として機能する第1遊星歯車装置20と、その第1遊星歯車装置20を介して上記入力軸18及び出力歯車24に動力伝達可能に連結された前記第1電動機MG1と、減速装置として機能する第2遊星歯車装置22と、その第2遊星歯車装置22を介して上記出力歯車24等に動力伝達可能に連結された前記第2電動機MG2とが備えられている。
【0019】
前記入力軸18は、両端がベアリング26及び28によって回転可能に支持されると共に、一端が前記ダンパ16を介して前記エンジン12に連結されることでそのエンジン12により回転駆動させられるように構成されている。また、前記入力軸18における他方の端部には、潤滑油供給装置としての機械式オイルポンプ30が連結されており、前記入力軸18が回転駆動されることによりそのオイルポンプ30が回転駆動させられて、前記ハイブリッド車両10の各部例えば前記第1遊星歯車装置20、第2遊星歯車装置22、ベアリング26及び28等に潤滑油が供給されるように構成されている。
【0020】
前記第1遊星歯車装置20は、シングルピニオン型の遊星歯車装置であり、第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1、その第1ピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリアCA1、及び第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。斯かる構成により、前記第1遊星歯車装置20は、前記入力軸18に伝達された前記エンジン12の出力を機械的に分配する機械的機構として機能し、そのエンジン12の出力を前記第1電動機MG1及び出力歯車24に分配する。
【0021】
すなわち、前記第1遊星歯車装置20において、上記第1キャリアCA1は前記入力軸18すなわち前記エンジン12に連結され、上記第1サンギヤS1は前記第1電動機MG1に連結され、上記第1リングギヤR1は前記出力歯車24に連結されている。これにより、上記第1サンギヤS1、第1キャリアCA1、及び第1リングギヤR1は、それぞれ相互に相対回転可能となることから、前記エンジン12の出力が前記第1電動機MG1及び出力歯車24に分配されると共に、その第1電動機MG1に分配された前記エンジン12の出力によって前記第1電動機MG1において発電が行われ、その発電された電気エネルギが蓄電装置であるバッテリ46(図2を参照)に蓄電されたり、その電気エネルギにより前記第2電動機MG2が回転駆動される。この作動により、前記ハイブリッド車両10の駆動装置は、例えば無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、前記エンジン12の回転状態に拘わらず前記出力歯車24の回転が連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。すなわち、前記ハイブリッド車両10の駆動装置においては、前記第1遊星歯車装置20が、第1回転要素に対応する第1サンギヤS1と、入力回転部材であり第2回転要素に対応する第1キャリアCA1と、出力回転部材であり第3回転要素に対応する第1リングギヤR1とを、備えた差動機構に相当する。
【0022】
前記第2遊星歯車装置22は、シングルピニオン型の遊星歯車装置であり、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2、その第2ピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持する第2キャリアCA2、及び第2ピニオンギヤP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を回転要素として備えている。なお、図1に示すように、前記第1遊星歯車装置20のリングギヤR1及び前記第2遊星歯車装置22のリングギヤR2は一体化された複合歯車となっており、その外周部に前記出力歯車24が設けられている。すなわち、前記第2電動機MG2は、前記第2遊星歯車装置22を介して前記第1遊星歯車装置20の第1リングギヤR1に動力伝達可能に連結されている。
【0023】
前記第2遊星歯車装置22において、上記第2キャリアCA2は非回転部材である前記ケース14に連結されることで回転が阻止され、上記第2サンギヤS2は前記第2電動機MG2に連結され、上記第2リングギヤR2は前記出力歯車24に連結されている。これにより、例えば、車両発進時等においては前記第2電動機MG2が駆動源として用いられる。すなわち、その第2電動機MG2から出力される駆動力により上記第2サンギヤS2が回転させられ、前記第2遊星歯車装置22によって減速させられて前記出力歯車24に回転が伝達される。この出力歯車24は、カウンタギヤ対32の一方を構成するものであり、その出力歯車24に伝達された駆動力は、そのカウンタギヤ対32、ファイナルギヤ対34、差動歯車装置(終減速機)36、及び一対の車軸38等を順次介して一対の駆動輪40へ伝達される。
【0024】
図2は、前記ハイブリッド車両10の駆動を制御するためにそのハイブリッド車両10に備えられた制御系統の要部を説明する図である。この図2に示す電子制御装置50は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェイス等を含んで構成され、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を実行する所謂マイクロコンピュータであり、前記エンジン12の駆動制御や、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に関するハイブリッド駆動制御をはじめとする前記ハイブリッド車両10の駆動に係る各種制御を実行する。なお、この電子制御装置50は、前記エンジン12の出力制御用や前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動制御用といったように、必要に応じて各制御毎に個別の制御装置として構成される。
【0025】
図2に示すように、上記電子制御装置50には、前記ハイブリッド車両10の各部に設けられたセンサやスイッチ等から各種信号が供給されるように構成されている。すなわち、アクセル開度センサ52により運転者の出力要求量に対応する図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、エンジン回転速度センサ54により前記エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、MG1回転速度センサ56により前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を表す信号、MG2回転速度センサ58により前記第2電動機MG2の回転速度NMG2を表す信号、出力回転速度センサ60により車速Vに対応する前記出力歯車24の回転速度NOUTを表す信号、車輪速センサ62により前記ハイブリッド車両10における各車輪それぞれの速度NWを表す信号、バッテリSOCセンサ64により前記バッテリ46の充電容量(充電状態)SOCを表す信号、及びシフトポジションセンサ66により図示しないシフト操作装置の操作位置に対応するシフトポジションSPを表す信号等が、それぞれ上記電子制御装置50に供給される。
【0026】
また、前記電子制御装置50からは、前記ハイブリッド車両10の各部に作動指令が出力されるように構成されている。すなわち、前記エンジン12の出力を制御するエンジン出力制御指令として、燃料噴射装置による吸気配管等への燃料供給量を制御する燃料噴射量信号、点火装置による前記エンジン12の点火時期(点火タイミング)を指令する点火信号、及び電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを操作するためにスロットルアクチュエータへ供給される電子スロットル弁駆動信号等が、そのエンジン12の出力を制御するエンジン出力制御装置42へ出力される。また、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を指令する指令信号がインバータ44へ出力され、そのインバータ44を介して前記バッテリ46からその指令信号に応じた電気エネルギが前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に供給されてそれら第1電動機MG1及び第2電動機MG2の出力(トルク)が制御される。また、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2により発電された電気エネルギが上記インバータ44を介して前記バッテリ46に供給され、そのバッテリ46に蓄積されるようになっている。
【0027】
図3は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図3に示すハイブリッド駆動制御手段70は、前記ハイブリッド車両10におけるハイブリッド駆動制御を実行する。例えば、予め定められて記憶装置48に記憶された図示しないマップから、前記アクセル操作量センサ60により検出されるアクセル操作量ACC及び車速センサ62により検出される車速Vに基づいて、駆動輪に伝達されるべき駆動力の目標値である要求駆動力Freqを算出し、算出されたその要求駆動力Freqに応じて、低燃費で排ガス量の少ない運転となるように前記エンジン12及びMG2の少なくとも一方から要求出力を発生させる。斯かるハイブリッド駆動制御を実現するために、上記ハイブリッド駆動制御手段70は、前記エンジン出力制御装置42を介して前記エンジン12の駆動を制御するエンジン駆動制御手段72、前記インバータ44を介して前記第1電動機MG1の作動を制御する第1電動機駆動制御手段74、及び前記インバータ44を介して前記第2電動機MG2の作動を制御する第2電動機駆動制御手段76を備えており、それらの制御手段により、例えば、前記エンジン12を停止させると共に専ら前記第2電動機MG2を駆動源とするモータ走行モードすなわちEVモード、前記エンジン12の動力で発電を行い前記第2電動機MG2を駆動源として走行する走行モード、前記エンジン12及び第2電動機MG2を共に駆動源として走行するハイブリッド走行モード、前記エンジン12の動力を機械的に前記駆動輪18に伝えて走行するエンジン走行モードを、走行状態に応じて選択的に成立させる。
【0028】
上記エンジン駆動制御手段72は、前記エンジン出力制御装置42を介して電子スロットル弁のスロットル弁開度θTH、燃料噴射装置による燃料供給量、点火装置による前記エンジン12の点火時期等を制御することにより、前記エンジン12により必要なエンジン出力すなわち前記目標エンジン出力が得られるようにそのエンジン12の駆動を制御する。また、上記第1電動機駆動制御手段74は、前記インバータ44を介して前記バッテリ46から前記第1電動機MG1へ電気エネルギを供給することによりその第1電動機MG1により必要な出力が得られるように制御したり、その第1電動機MG1により発電された電気エネルギを前記インバータ44を介して前記バッテリ46に蓄積する等の制御を行う。また、上記第2電動機駆動制御手段76は、前記インバータ44を介して前記バッテリ46から前記第2電動機MG2へ電気エネルギを供給することによりその第2電動機MG2により必要な出力が得られるように制御したり、その第2電動機MG2により発電された電気エネルギを前記インバータ44を介して前記バッテリ46に蓄積する等の制御を行う。
【0029】
上記ハイブリッド駆動制御手段70は、前記エンジン12を駆動する場合であっても、前記第1電動機MG1によって最適燃費曲線上で作動するようにそのエンジン12の回転速度を制御する。また、コースト走行時には車両の有する慣性エネルギで前記第1電動機MG1或いは第2電動機MG2を回転駆動することにより電力として回生し、前記インバータ44を介して前記バッテリ46にその電力を蓄える。上記エンジン走行モードにおける制御を一例としてより具体的に説明すると、上記ハイブリッド駆動制御手段70は、動力性能や燃費向上等のために、前記エンジン12を効率のよい作動域で作動させる一方で、そのエンジン12と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力を最適になるよう制御する。
【0030】
また、前記ハイブリッド駆動制御手段70は、好適には、前述のようにして算出される要求駆動力Freqから充電要求値等を考慮して要求出力軸パワーを算出する。そして、その要求出力軸パワーが得られるように伝達損失、補機負荷、前記第2電動機MG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶されたエンジンの最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿って前記エンジン12を作動させつつ上記目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクとなるように前記エンジン12の駆動を制御すると共に、前記第1電動機MG1の発電量を制御する。
【0031】
また、前記ハイブリッド駆動制御手段70は、前記第1電動機MG1により発電された電気エネルギを前記インバータ44を介して前記バッテリ46や前記第2電動機MG2へ供給する制御を行う。前記ハイブリッド車両10の駆動装置において、前記エンジン12の動力の主要部は前記第1遊星歯車装置20により機械的に前記出力歯車24へ伝達されるが、そのエンジン12の動力の一部は前記第1電動機MG1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、前記インバータ44を介してその電気エネルギが前記第2電動機MG2へ供給される。斯かる電気エネルギによりその第2電動機MG2がモータ(駆動源)として駆動させられることで、その第2電動機MG2から出力される動力が前記出力歯車24へ伝達される。この電気エネルギの発生から前記第2電動機MG2で消費されるまでに関連する機器により、前記エンジン12の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。なお、前記ハイブリッド駆動制御手段70は、電気パスによる電気エネルギ以外に、前記バッテリ46からインバータ44を介して直接的に電気エネルギを前記第2電動機MG2へ供給してその第2電動機MG2を駆動することが可能である。
【0032】
また、前記ハイブリッド駆動制御手段70は、前記ハイブリッド車両10におけるエンジンブレーキ動作すなわち前記エンジン12の圧縮抵抗や機械摩擦を利用した前記ハイブリッド車両10の制動動作を制御する。例えば、前記シフトポジションセンサ66によりBレンジ(ブレーキレンジ)への操作が検出された場合や、前記アクセル開度センサ54により検出されるアクセル開度ACCが零(アクセルオフ)である場合等、予め定められたエンジンブレーキ動作実行条件が成立した場合には、前記エンジン12の摩擦(フリクション)による制動力を前記入力軸18に作用させるエンジンブレーキ動作を実行する。なお、本実施例のエンジンブレーキ制御において、好適には、前記エンジン12に対して燃料の供給及び点火等の制御は行われず、専ら前記第1電動機MG1等の作動状態が制御されることでそのエンジン12の回転が制御される。
【0033】
前記ハイブリッド駆動制御手段70は、前記ハイブリッド車両10におけるエンジンブレーキ動作に関して、例えば前記バッテリSOCセンサ64により検出される前記バッテリ46の充電容量(充電状態)SOCが所定の閾値以上である場合等、前記第1電動機MG1、第2電動機MG2による回生が制限される場合において、回生量制限方式によるエンジンブレーキ制御を実行する。図4は、差動機構としての前記第1遊星歯車装置20における3つの回転要素それぞれの回転速度を相対的に示すことができる共線図であり、上記回生量制限方式によるエンジンブレーキ制御を説明する図である。この図4においては、縦軸Y1が第1回転要素である前記第1サンギヤS1の回転速度すなわち第1電動機MG1の回転速度NMG1を、縦軸Y2が第2回転要素である前記第1キャリアCA1の回転速度すなわち前記エンジン12の回転速度NEを、縦軸Y3が第3回転要素である前記第1リングギヤR1の回転速度すなわち前記第2電動機MG2の回転速度NMG2・(−1/ρ2)をそれぞれ示している。ここで、ρ2は前記第2遊星歯車装置22の第2サンギヤS2の歯数をZS、第2リングギヤR2の歯数をZRとしてρ2=ZS/ZRで表される値である。
【0034】
図4においては、回生量制限方式によるエンジンブレーキ制御開始前の各要素の回転速度を破線で、制御開始後の各要素の回転速度を実線でそれぞれ示している。この図4を用いて上記回生量制限方式によるエンジンブレーキ制御を説明すると、先ず、エンジン回転速度NEが零の状態から前記第1電動機MG1のトルクTgが力行側に増加させられることにより前記エンジン12の回転速度NEが引き上げられる。ここで、前記第2電動機MG2の駆動は、その第2電動機MG2の回生量が前記バッテリ46の充電容量SOCに応じて定まる入力制限値Winを超えないようにそのトルクTmが制限される。このように、エンジンブレーキ動作に際して前記エンジン12の回転速度NEを上昇させるエンジン吹き上げ制御が行われることで、特にスポーツモードやシーケンシャルシフト時等において、運転者を満足させるスポーティ感を実現することができる。すなわち、本実施例において、上記回生量制限方式によるエンジンブレーキ制御とは、電動機の回生量(特に、第2電動機MG2による回生量)を一時的に制限することにより、強制的に発電機トルクすなわち前記第1電動機MG1のトルクTgを正側に大きくしてエンジン回転速度NEを上昇させる制御である。換言すれば、電動機の駆動状態を変更することにより前記エンジン12の吹き上げを実現する制御であり、斯かる制御においては、エンジンに個体差が存在すること等に起因して到達エンジン回転速度は成り行きとなる。
【0035】
ここで、前記ハイブリッド駆動制御手段70による前記ハイブリッド車両10の駆動制御においては、前述のようにして算出される要求駆動力Freqを実現するため、例えば、反力キャンセル式である次の(1)式を用いて前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2のトルク指令値が決定される。この(1)式において、Tpは駆動軸指令トルク(本実施例のハイブリッド車両10においては出力歯車24からの出力指令トルク)、Tgは発電機トルクすなわち前記第1電動機MG1のトルク、Tmはモータトルクすなわち前記第2電動機MG2のトルク、Grmは前記第2電動機MG2から出力歯車24への動力伝達経路における減速比、ρは前記第1遊星歯車装置20のギヤ比、αは後述する慣性項未反映率を示している。この(1)式のような関係に基づいて決定される発電機トルクTg、モータトルクTm応じて前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動状態が制御されることで、所望の駆動軸指令トルクTpが実現される。なお、この駆動軸指令トルクTpは、エンジンブレーキ動作時におけるエンジンブレーキトルクに相当する。
【0036】
p=(1−α)・(−1/ρ)・Tg+Grm・Tm ・・・(1)
【0037】
上記(1)式における慣性項未反映率αは、前記エンジン12の回転開始時の慣性に係る補正要素に相当する。このαを考えない場合(α=0)において、上記(1)式は厳密にはエンジン回転速度NEに変動がない場合にのみ成立する。例えば、エンジン停止状態から所定のエンジン回転速度が実現されるまでの間、エンジン回転速度NEは加速的に変化し、それに伴い慣性によって駆動軸のトルクが消費される。すなわち、エンジンブレーキ動作時においてエンジン回転速度NEが上昇する場合、出力側に伝達されるエンジンブレーキトルクが慣性によって浅くなる。換言すれば、エンジン回転速度上昇のため発電機トルクTgが一部消費されて出力側に伝達されるトルクが小さくなる。
【0038】
そこで、エンジン回転速度NEが上昇していると判定される場合、前記(1)式における値αにより発電機トルクTgの未伝達分を設定し、慣性を考慮して駆動軸トルク(出力側へのトルク)を算出する制御が行われる。例えば、次の(2)式が成立する場合には、前記(1)式に慣性項未反映率αを適用する。この(2)式において、Netagnfは目標エンジン回転速度、Netagcmはエンジン回転速度指令値、Aは目標回転速度に未達と判定できる回転速度差(予め定められた閾値)である。また、上記エンジン回転速度指令値Netagcmは、例えば前記(1)式に基づいて算出される駆動軸指令トルクTpに対応する値である。例えば、上記(2)式において、αが零よりも大きい値(α>0)に設定されると、αを考えない場合(α=0)と比較して大きい発電機トルクTgが要求されるようになり、エンジン回転速度上昇のため発電機トルクTgの消費分が補償されて理想的なエンジンブレーキトルクが実現される。
【0039】
etagnf−Netagcm>A ・・・(2)
【0040】
しかしながら、例えば回生量制限方式によるエンジンブレーキ制御においては、前述のように到達エンジン回転速度は成り行きとなるため、目標エンジン回転速度は不定となる。従って、上記(2)式における目標エンジン回転速度Netagnfを定めることができず、慣性項未反映率αを適用するか否かの判定を行うことができない。結果、出力側に伝達されるエンジンブレーキトルクが前記エンジン12の回転変動に係る慣性によって浅くなる(エンジン回転速度上昇のため発電機トルクが一部消費され、出力側に伝達されるトルクが小さくなる)不具合を解消することができず、理想的なエンジンブレーキトルクを実現することができなかった。
【0041】
そこで、本実施例においては、前記ハイブリッド車両10におけるエンジンブレーキ制御において、前記第1電動機MG1のトルクを力行側に増加させることにより前記エンジン12の回転速度NEを上昇させるエンジン吹き上げ制御を行う際には、仮想的な目標エンジン回転速度vgdを導入し、その仮想的な目標エンジン回転速度vgdに基づいて前記(2)式に係る判定を行う。以下、斯かる本実施例のエンジンブレーキ制御について説明する。
【0042】
図3に示す仮想目標エンジン回転速度算出手段78は、前記第1電動機MG1のトルクを力行側に増加させることにより前記エンジン12の回転速度NEを上昇させるエンジン吹き上げ制御に際して、仮想的な目標エンジン回転速度vgd(以下、仮想目標エンジン回転速度vgdという)を設定(算出)する。例えば、予め定められて前記記憶装置48に記憶された図5に示すような関係(マップ)から、前記出力回転速度センサ60により検出される車速V等に基づいて仮想目標エンジン回転速度vgdを算出する。この仮想目標エンジン回転速度vgdを算出するための関係は、好適には、例えば図5に示すように、車速Vが大きくなるほど仮想目標エンジン回転速度vgdが高くなるように予め定められたものである。
【0043】
エンジン回転速度到達判定手段80は、上記仮想目標エンジン回転速度算出手段78により算出される仮想目標エンジン回転速度vgdとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差が予め定められた既定値Aより大きいか否かを判定する。例えば、前述した(2)式において、目標エンジン回転速度Netagnfを上記仮想目標エンジン回転速度算出手段78により算出される仮想目標エンジン回転速度vgdとした場合にその(2)式が成立するか否かを判定する。好適には、前記仮想目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差の最大値を選択して斯かる判定を行う。すなわち、目標エンジン回転速度Netagnfとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差(=Netagnf−Netagcm)、及び、仮想目標エンジン回転速度vgdとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差(=vgd−Netagcm)から最大値wrkを選択し、その最大値wrkが上記予め定められた既定値Aより大きいか否かを判定する。また、好適には、ヒステリシスを設けて、仮想目標エンジン回転速度vgdとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差或いは上記選択された最大値wrkが予め定められた上昇側判定値としての既定値Aより大きいと判定される場合には、更にその差が予め定められた下降側判定値としての既定値B(>A)より小さいか否かを判定するものであってもよい。
【0044】
慣性項未反映率導入判定手段82は、上記エンジン回転速度到達判定手段80の判定が肯定される場合、すなわち前記仮想目標エンジン回転速度算出手段78により算出される仮想目標エンジン回転速度vgdとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差が予め定められた既定値Aより大きいと判定される場合には、前記エンジン12の回転開始時の慣性に係る補正要素を適用する。例えば、前記(1)式に基づく前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の制御において、上記エンジン回転速度到達判定手段80の判定が肯定される場合には、その(1)式に前述した慣性項未反映率αを適用する(α>0となる値を適用する)制御を行う。
【0045】
上記慣性項未反映率導入判定手段82は、好適には、前記エンジン回転速度到達判定手段80の判定が肯定される場合、すなわち前記仮想目標エンジン回転速度vgd(=Netagnf)とエンジン回転速度指令値Netagcmとの差が予め定められた既定値Aより大きい場合においても、前記エンジン吹き上げ制御開始から予め定められた規定時間tlimが経過した場合には、前記補正要素を非適用とする。換言すれば、前記エンジン吹き上げ制御開始から予め定められた規定時間tlimが経過した場合すなわち前記エンジン12の回転開始時における慣性の影響が収束した段階においては、前記エンジン回転速度到達判定手段80の判定結果によらず前記補正要素を非適用とする。前記エンジン12の個体差によって、長時間制御を継続しても前記エンジン12の回転速度が仮想目標エンジン回転速度vgdに到達しない場合が考えられるが、前記(1)式における慣性項未反映率αを時間制限により非適用とする(適用を解除する)ことで、徒に補正要素が適用され続けるのを抑制できる。
【0046】
前記ハイブリッド駆動制御手段70は、前記慣性項未反映率導入判定手段82により慣性項未反映率αが適用された前記(1)式に基づいて前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2のトルクを算出し、その算出結果に基づいてそれら第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動状態を制御する。すなわち、本実施例の前記ハイブリッド車両10におけるエンジンブレーキ制御において、前記ハイブリッド駆動制御手段70は、前記仮想目標エンジン回転速度算出手段78により仮想目標エンジン回転速度vgdを設定し、その仮想目標エンジン回転速度vgdが達成されるまでは前記第1電動機MG1の力行トルクによりエンジン回転速度NEを上昇させる。また、この際、回生制限が行われる場合には、前記バッテリ46の充電容量SOCに応じて定まる入力制限値Winを超えないように第2電動機MG2のトルクTmを制限する。
【0047】
図6は、前記電子制御装置50によるエンジンブレーキ制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0048】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、予め定められて前記記憶装置48に記憶された図5に示すような関係(マップ)から、前記出力回転速度センサ60により検出される車速V等に基づいて仮想目標エンジン回転速度vgdが算出(取得)される。次に、S2において、目標エンジン回転速度Netagnfとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差(=Netagnf−Netagcm)、S1にて取得された仮想目標エンジン回転速度vgdとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差(=vgd−Netagcm)から最大値wrkが選択される。次に、S3において、S2にて選択されたwrkが既定値A以上であるか否かが判断される。このS3の判断が肯定される場合には、S4において、エンジン回転速度NEが仮想目標エンジン回転速度vgdに未到達であると判定された後、S8以下の処理が実行されるが、S3の判断が否定される場合には、S5において、S2にて選択されたwrkが既定値B未満であるか否かが判断される。このS5の判断が肯定される場合には、S6において、エンジン回転速度NEが仮想目標エンジン回転速度vgdに到達したと判定された後、S8以下の処理が実行されるが、S5の判断が否定される場合には、S7において、エンジン回転速度NEが仮想目標エンジン回転速度vgdに到達したとの判定が保持された後、S8において、エンジン回転速度NEが仮想目標エンジン回転速度vgdに未到達であり且つ制御開始からの経過時間が規定時間tlim以下であるか否かが判断される。このS8の判断が肯定される場合には、前記(1)式に慣性項未反映率αが適用された後、本ルーチンが終了させられるが、S8の判断が否定される場合には、前記(1)式に慣性項未反映率αが非適用(α=0)とされた後、本ルーチンが終了させられる。
【0049】
以上の制御において、S1及びS2が前記仮想目標エンジン回転速度算出手段78の動作に、S3〜S7が前記エンジン回転速度到達判定手段80の動作に、S8〜S10が前記慣性項未反映率導入判定手段82の動作にそれぞれ対応する。
【0050】
このように、本実施例によれば、前記第1電動機MG1のトルクを力行側に増加させることにより前記エンジン12の回転速度NEを上昇させるエンジン吹き上げ制御を行う際、仮想的な目標エンジン回転速度vgdを設定し、その仮想的な目標エンジン回転速度vgdが達成されるまでは前記第1電動機MG1の力行トルクによりエンジン回転速度NEを上昇させるものであることから、エンジン回転速度NEを目標エンジン回転速度vgdまで吹き上がらせることができると共に、要求されるエンジンブレーキトルクを確保することができる。すなわち、エンジンブレーキ動作時の節度感を改善するハイブリッド車両10の制御装置を提供することができる。
【0051】
また、前記エンジン吹き上げ制御は、予め定められた関係である(1)式に基づいて前記第1電動機MG1のトルクTg及び第2電動機MG2のトルクTmを決定するものであり、前記仮想的な目標エンジン回転速度vgdとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差が予め定められた既定値Aより大きい場合には、前記エンジン12の回転開始時の慣性に係る補正要素である慣性項未反映率αを前記(1)式に適用するものであるため、前記エンジン12の回転開始時に、その回転上昇のための慣性を考慮することで、エンジンブレーキ動作時にメリハリある節度感を実現しつつ、前記エンジン12を必要十分に吹き上がらせることができる。
【0052】
また、前記仮想的な目標エンジン回転速度vgdとエンジン回転速度指令値Netagcmとの差が予め定められた既定値Aより大きい場合においても、前記エンジン吹き上げ制御開始から予め定められた規定時間tlimが経過した場合には、前記(1)式に慣性項未反映率αを非適用とするものであるため、前記エンジン12の個体差等によりそのエンジン12の回転速度NEが仮想的な目標エンジン回転速度vgdに達しない場合であっても、前記エンジン12の回転開始時における慣性の影響が収束した段階においてはその慣性を考慮しない制御を行うことができる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0054】
10:ハイブリッド車両、12:エンジン、20:第1遊星歯車装置(差動機構)、40:駆動輪、50:電子制御装置、CA1:第1キャリア(第2回転要素)、MG1:第1電動機、MG2:第2電動機、R1:第1リングギヤ(第3回転要素)、S1:第1サンギヤ(第1回転要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、第1回転要素、入力回転部材であって該エンジンに連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機とを、備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
エンジンブレーキ動作時であって、前記第1電動機のトルクを力行側に増加させることにより前記エンジンの回転速度を上昇させるエンジン吹き上げ制御を行う際、仮想的な目標エンジン回転速度を設定し、該仮想的な目標エンジン回転速度が達成されるまでは前記第1電動機の力行トルクによりエンジン回転速度を上昇させるものであることを特徴とするものであるハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記エンジン吹き上げ制御は、予め定められた関係に基づいて前記第1電動機のトルク及び第2電動機のトルクを決定するものであり、前記仮想的な目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差が予め定められた既定値より大きい場合には、前記エンジンの回転開始時の慣性に係る補正要素を前記関係に適用するものである請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記仮想的な目標エンジン回転速度とエンジン回転速度指令値との差が予め定められた既定値より大きい場合においても、前記エンジン吹き上げ制御開始から予め定められた規定時間が経過した場合には、前記関係に前記補正要素を非適用とするものである請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250626(P2012−250626A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124918(P2011−124918)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】