説明

ハイブリッド車両回路システム

【課題】ハイブリッド車両回路システムにおいて、車両搭載用回路の状態で、その回路に含まれる容量素子の容量値を計測することである。
【解決手段】ハイブリッド車両回路システム10は、スイッチ素子とインダクタンス素子と容量素子とを含む車両搭載用回路として電源回路20を備える。そして、例えば、電源回路20に含まれるスイッチング素子52をオフ状態のままとしてスイッチング素子54をオフからオンとして、インダクタンス素子であるリアクトル38と、容量素子である平滑コンデンサ42とでLC共振系を形成させる。その共振系によって平滑コンデンサ42における充放電エネルギを計測し、その計測に基いて共振時定数を求め、LCを含む共振時定数の式にリアクトル38のインダクタンス値Lを代入して平滑コンデンサ42容量値Cを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両回路システムに係り、特に容量素子を含む車両搭載用回路を備えるハイブリッド車両回路システムに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を備えるハイブリッド車両等においては、電源回路を含む回路が車両に搭載される。この車両搭載用回路には、様々な電気部品等が含まれるので、その特性劣化等が車両運行上に影響を及ぼすことがある。特に、車両の電源回路は高圧大電流を扱うので、容量素子等の特性劣化の監視等が必要である。
【0003】
例えば、特許文献1には、インバータのコンデンサ充電においてその異常を検知する電気車の制御装置として、定電流充電の場合、充電経過時間の推移に対するコンデンサの電圧の推移が正常であれば直線的になることを利用する方法が述べられている。
【0004】
また、特許文献2には、車載用電動機制御装置を構成する個々の部品の劣化検知が述べられている。平滑用コンデンサの劣化判定としては、直流母線電流量と平滑用コンデンサのリップル電流量の比を平滑用コンデンサの温度で補正して行うことが述べられている。
【0005】
また、特許文献3には、蓄電装置としての電気二重層コンデンサアレイに電圧モニタ端子を設け、各コンデンサモジュールの端子間電圧と温度の双方または一方が異常なものを劣化モジュールとみなして、コンデンサアレイから分離する監視を行うことが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−354789号公報
【特許文献2】特開2007−60866号公報
【特許文献3】特開平9−252531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術によれば、車両搭載用回路における容量素子の特性劣化について様々な検出方法が述べられている。これらの方法は、容量素子の動作特性の劣化を見るようにしているので、容量素子の容量値そのものを計測して、その劣化を検出することができない。
【0008】
本発明の目的は、車両搭載用回路の状態で、その回路に含まれる容量素子の容量値を計測できるハイブリッド車両回路システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両回路システムは、スイッチ素子とインダクタンス素子と容量素子とを含む車両搭載用回路と、スイッチ素子をオンオフして、インダクタンス素子と容量素子とを含む共振系を形成させる共振系形成手段と、共振系によって容量素子における充放電エネルギを計測する計測手段と、計測された充放電エネルギに基いて共振時定数を求め、容量素子の容量値を推定する推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るハイブリッド車両回路システムにおいて、容量値の推定値と予め定めた所定の判定値との比較によって容量素子の劣化判定を行う判定手段を備えることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るハイブリッド車両回路システムにおいて、判定手段が容量素子を劣化状態であると判定するときにその結果をユーザに通報する出力手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、ハイブリッド車両回路システムは、車両搭載用回路のスイッチ素子をオンオフして、インダクタンス素子と容量素子とを含む共振系を形成させ、その共振系によって容量素子における充放電エネルギを計測して共振時定数を求め、その共振時定数から容量素子の容量値を推定する。このようにして、車両搭載用回路の状態で、その回路に含まれる容量素子の容量値を計測することができる。
【0013】
また、ハイブリッド車両回路システムにおいて、容量値の推定値と予め定めた所定の判定値との比較によって容量素子の劣化判定を行うので、計測容量値に基いて劣化状態を判定することができる。
【0014】
また、ハイブリッド車両回路システムにおいて、判定手段が容量素子を劣化状態であると判定するときにその結果をユーザに通報するので、特性劣化に対する対処を速やかに取ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施の形態のハイブリッド車両回路システムの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、容量素子の容量値を計測するために用いられる共振系のモデル図である。
【図3】図2のモデル図において、スイッチ素子のオンによって生じる容量素子の充放電エネルギの様子を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、車両搭載用回路に含まれる容量素子の容量値を計測する手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る実施の形態において、容量素子の容量値の計測のための共振系形成の例の1つを説明する図である。
【図6】図5とは別の共振系形成の例を説明する図である。
【図7】図5、図6とは別の共振系形成の例を説明する図である。
【図8】図5から図7とは別の共振系形成の例を説明する図である。
【図9】図5から図8とは別の共振系形成の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、ハイブリッド車両回路システムが適用されるものとして、回転電機に接続される電源回路に関するシステムを説明するが、スイッチ素子とインダクタンス素子と容量素子とを含む車両搭載用回路に関するシステムであれば、電源回路以外の回路に関するシステムであってもよい。
【0017】
また、電源回路の基本的な構成を、蓄電装置、平滑コンデンサ、電圧変換器、インバータ回路を含むものとして説明するが、これら以外の要素を含むものとしてもよい。例えば、DC/DCコンバータ、補機用の電源回路等を含む電源装置であってもよい。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0018】
図1は、ハイブリッド車両回路システム10の構成を説明する図である。このハイブリッド車両回路システム10は、エンジン14と回転電機16,18とを駆動源12とするハイブリッド車両に搭載される回路システムで、具体的には、回転電機16,18二節即される電源回路20と制御装置70とを含むシステムである。駆動源12は、ハイブリッド車両回路システム10に直接的には含まれない要素であるが、図1では関連する要素として図示されている。
【0019】
ここで、エンジン14は、内燃機関で、上記のように回転電機16,18とともに車両の駆動源を構成する。エンジン14は、車両の車軸を駆動しタイヤを回転して走行を行わせる機能と共に、図示されていない動力分配機構を介して回転電機16,18と接続され、例えば、図1でMG1として示されている回転電機16を発電機として用いて発電を行わせ、MG2として示される回転電機18のアシストを受けて走行を行う機能を有する。
【0020】
また、回転電機16,18は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって、上記のようにエンジン14と動力分配機構によって接続される三相同期型の回転電機である。回転電機16,18の制御は、図示されていないMG−ECUを介して行われる。
【0021】
図1でMG1として示される回転電機16は、主として発電機として用いられ、例えばエンジン14によって駆動されて交流電力を発電し、電源回路20によって直流電力に変換されて蓄電装置22を充電する機能を有する。図1でMG2として示される回転電機18は、主として車両の力行時の走行駆動に用いられ、蓄電装置22の直流電力を電源回路20によって変換された交流電力によって作動する機能を有する。また、回転電機18は、車両の制動時にはその回生エネルギを回収して、電源回路20によって直流電力に変換し蓄電装置22を充電する機能も有する。このときには、回転電機18は発電機として機能することになる。
【0022】
電源回路20は、蓄電装置22と、3つのリレー24,26,28と抵抗素子30を含んで構成されるシステムメインリレーと、電圧変換器32と、回転電機16に接続されるMG1インバータ34と、回転電機18に接続されるMG2インバータ36を備えて構成される。
【0023】
また、電源回路20は、システムメインリレーと電圧変換器32との間に設けられる平滑コンデンサ42と、電圧変換器32と2つのインバータの間に設けられる平滑コンデンサ44を備える。ここで2つのインバータとは、上記のMG1インバータ34とMG2インバータである。
【0024】
蓄電装置22は、充放電可能な高電圧用2次電池である。蓄電装置22としては、例えば、約200Vの端子間電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池、またはキャパシタ等を用いることができる。組電池は、単電池または電池セルと呼ばれる端子間電圧が1Vから数Vの電池を複数個組み合わせて、上記の所定の端子間電圧と得るようにしたものである。上記のように、蓄電装置22は、2次電池とキャパシタを含む広い概念である。
【0025】
システムメインリレーは、電源回路20において、蓄電装置22とそれ以外の回路要素との間の接続関係を、開放遮断状態と閉成接続状態との間で切り換える機能を有する複合リレーである。システムメインリレーは、蓄電装置22の負極側母線に直列に接続配置されるBリレーと呼ばれるリレー24と、正極側母線に直列に接続配置されるPリレーと呼ばれるリレー26と、リレー26に並列に、抵抗素子30に直列接続された形態で配置されるRリレーと呼ばれるリレー28を含んで構成される。
【0026】
このように複数のリレー24,26,28と抵抗素子30を含んでシステムメインリレーを構成するのは、扱われる直流電力が高電圧、大電力であるので、遮断あるいは接続の際に各リレーの作動時間を適当に制御することで、溶着が生じないようにするためである。抵抗素子30は、蓄電装置22側から平滑コンデンサ42に突入電流が流れること、または平滑コンデンサ42からリレー側に突入電流が流れることを防止するためである。
【0027】
平滑コンデンサ42は、その両端子がそれぞれ蓄電装置22の両端子に接続される容量素子で、上記のように、蓄電装置22と電圧変換器32との間に配置される。この平滑コンデンサ42は、蓄電装置22から放電される直流電力、蓄電装置22に充電される直流電力についてその脈動を平滑化する機能を有する。
【0028】
平滑コンデンサ42に並列に配置される電圧検出部64は、平滑コンデンサ42の端子間電圧を検出し、制御装置70に伝送する機能を有する電圧センサである。この検出電圧は、蓄電装置22の端子間電圧を代表的に示すものとなる。平滑コンデンサ42の端子間電圧は、図1においてVLとして示されている。
【0029】
電圧変換器32は、蓄電装置22と2つのインバータの間に配置され、電圧変換機能を有する回路である。電圧変換器32は、インダクタンス素子であるリアクトル38と、スイッチング素子52,54を含んで構成される。スイッチング素子52,54は電圧変換器32の正極側母線と負極側母線の間に直列に接続されて配置される。リアクトル38は、一方端が蓄電装置22の正極側母線に接続され、他方端がこの2つのスイッチング素子52,54の直列接続点に接続される。
【0030】
リアクトル38に設けられる電流検出部60は、リアクトル38に流れるリアクトル電流ILを検出する電流センサである。検出されたリアクトル電流ILは、制御装置70に伝送される。
【0031】
平滑コンデンサ44は、その両端子がそれぞれ電圧変換器32および2つのインバータについての正極側母線と負極側母線に接続される容量素子で、上記のように、電圧変換器32と2つのインバータとの間に配置される。この平滑コンデンサ44は、電圧変換器32から出力される電圧変換後の直流電力、2つのインバータから電圧変換器32に供給される直流電力についてその脈動を平滑化する機能を有する。
【0032】
平滑コンデンサ44に並列に配置される電圧検出部66は、電圧検出部64と同様に、平滑コンデンサ44の端子間電圧を検出し、制御装置70に伝送する機能を有する電圧センサである。この検出電圧は、2つのインバータの正極側母線と負極側母船との間のいわゆるシステム電圧を示すものとなる。平滑コンデンサ44の端子間電圧は、図1においてVHとして示されている。
【0033】
2つのインバータのうち、MG1インバータ34は、回転電機16に接続される回路で、複数のスイッチング素子を含んで構成され、交流電力と直流電力との間の電力変換を行う機能を有する。同様に、MG2インバータ36は、回転電機16に接続される回路で、複数のスイッチング素子を含んで構成され、交流電力と直流電力との間の電力変換を行う機能を有する。
【0034】
すなわち、MG1インバータ34は、回転電機16を発電機として機能させるときは、回転電機16からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置22側に充電電流として供給する交直変換機能を有する。また、MG2インバータ36は、回転電機18をモータとして機能させるときは、蓄電装置22側からの直流電力を交流三相駆動電力に変換し、回転電機16に交流駆動電力として供給する直交変換機能を有し、回転電機18を発電機として機能させるときは、回転電機18からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置22側に充電電流として供給する交直変換機能を有する。
【0035】
制御装置70は、電源回路20の各要素の動作を統一的に制御する機能を有する。例えば、電圧変換器32と2つのインバータを構成する各スイッチング素子の動作を制御する機能を有する。ここでは特に、容量素子としての平滑コンデンサ42,44の容量値を推定し、その劣化を判定する機能を有する。制御装置70には出力部71が接続される。かかる制御装置70としては、車両搭載に適したコンピュータを用いることができる。制御装置70の機能を、例えば、図示されていないが、ハイブリッド車両の動作全体を制御するHV−ECUの機能の一部としてもよい。
【0036】
制御装置70は、電源回路20に含まれるスイッチ素子と、インダクタンス素子であるリアクトル38とを用い、スイッチ素子をオンオフして、リアクトルと容量素子とを含む共振系を形成させる共振系形成処理部72と、共振系によって容量素子における充放電エネルギを計測する充放電エネルギ計測処理部74と、計測された充放電エネルギに基いて共振時定数を求め、容量素子の容量値を推定する容量値推定処理部76と、容量値の推定値と予め定めた所定の判定値との比較によって容量素子の劣化判定を行う劣化判定処理部78と、容量素子を劣化状態であると判定するときにその結果をユーザに通報する判定結果出力処理部80とを含んで構成される。これらの各機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、電源回路制御プログラムを実行することで実現できる。かかる機能の一部をハードウェアによって実現するものとしてもよい。
【0037】
図2は、容量素子の容量値を計測するために用いられる共振系のモデル図である。電源回路20には、平滑コンデンサ42,44のような容量素子40、インダクタンス素子であるリアクトル38、リレー24,26,28、スイッチング素子52、54のようなスイッチ50が含まれている。これらの容量素子40、リアクトル38は、スイッチ50がオンすることで、LC共振系を形成する。
【0038】
この共振系は、共振周波数がf0=1/{2π(LC)1/2}となる。ここで、容量素子40の充放電エネルギの変化を、容量素氏40の端子間電圧VCの変化として電圧検出部62で検出し、または、リアクトル38を流れるリアクトル電流ILの変化として電流検出部60で検出することで、共振状態における共振周波数f0を知ることができる。したがって、共振周波数f0、あるいはその逆数をとって、共振振動の1周期時間である共振時定数T0を求め、これらの式に含まれるLCについて、リアクトル38のインダクタンス値をLに代入して、容量素子40の容量値Cを推定することができる。
【0039】
図3は、図2のモデル図において、スイッチ50のオンによって生じる容量素子40の充放電エネルギの様子を示す図である。ここでは、横軸に時間をとり、縦軸に、容量素子40の端子間電圧VC、リアクトル38に流れるリアクトル電流IL、スイッチ素子(SW)50のオンオフ状態をとってある。
【0040】
図2のモデルでLC共振系を形成するには、容量素子40が適当に充電されていることが必要である。また、容量素子40が満充電であると、スイッチ50がオンしたとき、放電電流が大きすぎてリアクトル38、スイッチ50を破損する恐れもある。そこで、スイッチ50をオンする前の時間tAからtBの間で、容量素子40を適当に放電させる。その後にスイッチ50をオンすると、LC共振系が形成され、容量素子40が放電する。
【0041】
容量素子40からの放電エネルギは、容量素子40の端子間電圧VCの時間変化で評価できる。ここでは、容量素子40の端子間電圧VCが共振周波数f0で正弦波状に変化する。そこで、スイッチ50がオンした時間tからVCがゼロとなる時間t1までの時間(t1−t0)を共振振動の(1/4)周期、あるいは、VCが負側の最大値をとる時間をt2として、(t2−t0)を共振振動の(1/2)周期として、共振振動の1周期である共振時定数T0を求めることができる。共振時定数T0が求まれば、上記のように、リアクトル38のインダクタンス値Lを用いて、容量素子40の容量値を求めることができる。
【0042】
容量素子40からの放電エネルギは、リアクトル38を流れるリアクトル電流ILの時間変化で評価できる。ここでは、リアクトル電流ILが共振周波数f0で正弦波状に変化する。そこで、スイッチ50がオンした時間tからILが正の最大値となる時間t1までの時間(t1−t0)を共振振動の(1/4)周期、あるいは、ILがゼロとなる時間をt2として、(t2−t0)を共振振動の(1/2)周期として、共振振動の1周期である共振時定数T0を求めることができる。共振時定数T0が求まれば、上記のように、リアクトル38のインダクタンス値Lを用いて、容量素子40の容量値を求めることができる。
【0043】
なお、図2では、電源が設けられていないので、スイッチ50をオンすることで容量素子40がリアクトル38を通して放電するが、スイッチ50に直列に電源が設けられているモデルでもよい。この場合には、容量素子40がリアクトル38を介して充電されることになる。
【0044】
上記原理に基いて、車両搭載用回路に含まれる容量素子の容量値を計測する手順を図4のフローチャートを用いて説明する。これらの手順は、電源回路制御プログラムの中の容量値推定パートの各処理手順に対応する。以下では、図2のモデルについて、すなわち容量素子40の放電エネルギを計測することで容量素子40の容量値を推定する手順を説明する。なお、上記のように、モデルによっては、容量素子40の充電エネルギを計測することで容量素子40の容量値を推定することも可能である。
【0045】
ここでは、まず、車両のイグニッションスイッチがオン状態からオフ状態になったか否かを確認する(S10)。車両のイグニッションスイッチがオンしている状態では、電源回路20が動作中であるので、電源回路20に含まれる容量素子40が充放電をおこなっている。そのような状態では、図2で説明したLC共振系を形成することができないので、イグニッションオフになったところで、容量素子40の容量値の推定処理を行うものとする必要がある。
【0046】
S10の判断が肯定されると、次に、容量値を推定したい容量素子40を適当に放電し(S12)、容量素子40の端子間電圧VCが予め定めた所定値となったか否かを判断する(S14)。この処理は、図2で説明したように、スイッチ50をオンしたときに過大電流が流れて、容量素子40を含めて電源回路20を構成する素子を損傷させないためである。したがって、予め定めた所定値は、スイッチ50をオンしたときに流れる電流の大きさが電源回路20を構成する素子を損傷させない程度の大きさとすることができる。例えば、予め定めた所定値として、数Vから数10Vの間の値を用いることができる。
【0047】
S14の判断が肯定されると、次に、図2の例では、スイッチ(SW)50をオンして、リアクトル38と容量素子40によるLC共振系を形成する(S16)。ここまでの処理手順は、制御装置70の共振系形成処理部72の機能によって実行される。
【0048】
そして、容量素子40の端子間電圧VCの時間変化、またはリアクトル電流ILの時間変化を計測する(S18)。この計測は、容量素子40の充放電エネルギの計測に相当する。この処理手順は、制御装置70の充放電エネルギ計測処理部74の機能によって実行される。
【0049】
S18でVCの変化、またはILの変化が計測されてそのデータが取得されると、共振時定数T0が算出される(S20)。具体的には、図2の例で、(t1−t0)を共振振動の(1/4)周期、(t2−t0)を共振振動の(1/2)周期として、共振振動の1周期である共振時定数T0が求められる。
【0050】
そして、LCを含む共振時定数T0の式に、リアクトル38のインダクタンス値Lを代入し、容量素子40の容量値Cを算出し、これを容量素子40の容量値の推定値とする(S22)。この処理手順は、制御装置70の容量値推定処理部76の機能によって実行される。
【0051】
次に、推定された容量値と、予め定めてある所定の劣化判定容量値とを比較し、前者が後者の値未満か否かを判断する(S24)。所定の劣化判定容量値は、容量素子40の仕様、または実験により設定することができる。S24の判断が否定されると、容量素子40は正常であると判断される(S26)。S24の判断が肯定されると、その容量素子40は劣化していると判断される(S28)。これらの処理手順は、制御装置70の劣化判定処理部78の機能によって実行される。
【0052】
S28において容量素子40が劣化していると判定されると、その結果が、出力部71によってユーザに通報される(S30)。出力部71における出力としては、車室内のアラームランプ等を点灯すること等とすることとできる。このようにして、容量素子40の容量値が推定でき、必要な場合にはユーザにその結果を出力して知らせることができる。
【0053】
図5と図6は、図1で説明した電源回路20における平滑コンデンサ42,44の容量値をそれぞれ推定するときの様子を説明する図である。いずれの場合もイグニッションスイッチがオフとされ、それに対応し、リレー24,26,28がいずれも遮断状態となっている。
【0054】
図5は、容量値を推定する対象の容量素子が平滑コンデンサ42であり、この場合には、オンオフされるスイッチとして、電圧変換器32のスイッチング素子54が用いられる。すなわち、スイッチング素子52をオフとして、スイッチング素子54をオフからオンとして、平滑コンデンサ42とリアクトル38とで、LC共振系を形成する。LC共振系が形成されたときの平滑コンデンサ42の充放電エネルギの計測は、図1で説明した電圧検出部64の検出するVLまたは電流検出部60のILによって行うことができる。
【0055】
図6は、容量値を推定する対象の容量素子が平滑コンデンサ44であり、この場合には、オンオフされるスイッチとして、新たに、蓄電装置22の正極側母線と負極側母線との間に計測用スイッチ82が設けられる。そして、電圧変換器32のスイッチング素子54をオフとし、その状態で、スイッチング素子54をオフからオン、計測用スイッチ82をオフからオンとする。このようにして、平滑コンデンサ44とリアクトル38とで、LC共振系を形成する。LC共振系が形成されたときの平滑コンデンサ44の充放電エネルギの計測は、図1で説明した電圧検出部66の検出するVHまたは電流検出部60のILによって行うことができる。
【0056】
図7は、蓄電装置22のほかに、第2蓄電装置46とこれに対応する第2電圧変換器33を用いるシステムの場合に、第2蓄電装置46の容量値を推定する様子を説明する図である。第2蓄電装置46としては、電気二重層キャパシタあるいは電気二重層コンデンサと呼ばれるものをあげることができる。第2蓄電装置46と第2電圧変換器33との間には、リレー84,86が設けられる。
【0057】
第2電圧変換器33は、図1で説明した電圧変換器32と同様の構成として、リアクトル88と、スイッチング素子90,92を含む。そして、第2電圧変換器33の正極側母線は、電圧変換器32の正極側母線と接続され、第2電圧変換器33の負極側母線は、電圧変換器32の負極側母線と接続される。つまり、第2蓄電装置46と第2電圧変換器33を含む部分は、2つのインバータについて、蓄電装置22と電圧変換器32を含む部分と並列に接続されるように配置される。
【0058】
図7において、第2蓄電装置46を容量値推定の対象とするときは、リレー84,86を接続状態とする。そして、この場合には、オンオフされるスイッチとして、第2電圧変換器33のスイッチング素子92が用いられる。すなわち、第2電圧変換器33のスイッチング素子90をオフとし、スイッチング素子92をオフからオンとする。このようにして、第2蓄電装置46と、第2電圧変換器33のリアクトル88とで、LC共振系を形成する。LC共振系が形成されたときの第2蓄電装置46の充放電エネルギの計測は、図示されていないが、第2蓄電装置46の端子間電圧を計測する電圧検出部が検出する電圧の変化、または、リアクトル88を流れる電流を計測する電流検出部が検出する電流の変化に基いて行うことができる。
【0059】
図8と図9は、図7のシステムにおいて、電圧変換器を双方向動作のいわゆるHブリッジ方式としたときの容量素子の容量値の推定の様子を説明する図である。このいわゆるHブリッジ方式で構成されるHブリッジ電圧変換器102は、図7の第2電圧変換器33のスイッチング素子90,92に対し、リアクトル88を挟んでさらにスイッチング素子98,100を設けたものである。このスイッチング素子98,100は直列に接続されて、その直列接続素子の両端子が、それぞれ第2蓄電装置46の正極側母線と負極側母線に接続されるように配置される。第2蓄電装置46とHブリッジ電圧変換器102との間には、リレー94,96が設けられる。
【0060】
図8は、第2蓄電装置46の容量値を推定するときの様子を説明する図である。ここでは、リレー94,96が接続状態とされる。そして、オンオフされるスイッチとして、Hブリッジ電圧変換器102のスイッチング素子98と、スイッチング素子92が用いられる。すなわち、スイッチング素子100と、スイッチング素子90がオフとされ、その状態で、スイッチング素子98と、スイッチング素子92がオフからオンとされる。
【0061】
このようにして、第2蓄電装置46と、Hブリッジ電圧変換器102のリアクトル88とで、LC共振系を形成する。LC共振系が形成されたときの第2蓄電装置46の充放電エネルギの計測は、図7と同様に、第2蓄電装置46の端子間電圧を計測する電圧検出部が検出する電圧の変化、または、リアクトル88を流れる電流を計測する電流検出部が検出する電流の変化に基いて行うことができる。
【0062】
図9は、平滑コンデンサ44の容量値を推定するときの様子を説明する図である。ここでは、リレー94,96が遮断状態とされる。そして、オンオフされるスイッチとして、Hブリッジ電圧変換器102のスイッチング素子100と、スイッチング素子90が用いられる。すなわち、スイッチング素子98と、スイッチング素子92がオフとされ、その状態で、スイッチング素子100と、スイッチング素子90がオフからオンとされる。
【0063】
このようにして、平滑コンデンサ44と、Hブリッジ電圧変換器102のリアクトル88とで、LC共振系を形成する。LC共振系が形成されたときの平滑コンデンサ44の充放電エネルギの計測は、図1で説明した電圧検出部66が検出するVHの変化、または、リアクトル88を流れる電流を計測する電流検出部が検出する電流の変化に基いて行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係るハイブリッド車両回路システムは、容量素子を含む車両搭載用回路を備えるハイブリッド車両に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
10 ハイブリッド車両回路システム、12 駆動源、14 エンジン、16,18 回転電機、20 電源回路、22 蓄電装置、24,26,28,84,86,94,96 リレー、30 抵抗素子、32 電圧変換器、33 第2電圧変換器、34 MG1インバータ、36 MG2インバータ、38,88 リアクトル、40 容量素子、42,44 平滑コンデンサ、46 第2蓄電装置、50 スイッチ(SW)、52,54,90,92,98,100 スイッチング素子、60 電流検出部、62,64,64 電圧検出部、70 制御装置、71 出力部、72 共振系形成処理部、74 充放電エネルギ計測処理部、76 容量値推定処理部、78 劣化判定処理部、80 判定結果出力処理部、82 計測用スイッチ、102 ブリッジ電圧変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチ素子とインダクタンス素子と容量素子とを含む車両搭載用回路と、
スイッチ素子をオンオフして、インダクタンス素子と容量素子とを含む共振系を形成させる共振系形成手段と、
共振系によって容量素子における充放電エネルギを計測する計測手段と、
計測された充放電エネルギに基いて共振時定数を求め、容量素子の容量値を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両回路システム。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両回路システムにおいて、
容量値の推定値と予め定めた所定の判定値との比較によって容量素子の劣化判定を行う判定手段を備えることを特徴とするハイブリッド車両回路システム。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両回路システムにおいて、
判定手段が容量素子を劣化状態であると判定するときにその結果をユーザに通報する出力手段を備えることを特徴とするハイブリッド車両回路システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−223671(P2011−223671A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87702(P2010−87702)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】