説明

ハイブリッド駆動装置

【課題】燃料や電力の消費を増加させることなく湿式トルクリミッタを潤滑することが可能なハイブリッド駆動装置を提供する。
【解決手段】エンジンからのトルクを回転電機MG1と分配出力部材21とに分配して伝達する遊星歯車機構PTを備えたハイブリッド駆動装置1は、遊星歯車機構PTに潤滑液を供給する潤滑液供給部81と、一対の摩擦部材70、一対の摩擦部材70を圧着方向に付勢する付勢部材72、一対の摩擦部材70の一方を径方向外側から支持する外側支持部材74、及び一対の摩擦部材70の他方を径方向内側から支持する内側支持部材76を有するトルクリミッタTと、を備え、トルクリミッタTは遊星歯車機構PTに隣接して当該遊星歯車機構PTと同軸上に配置されるとともに、少なくとも一部が遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから伝達されるトルクを回転電機と分配出力部材とに分配して伝達する動力分配用の遊星歯車機構を備えたハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機と、エンジンから伝達されるトルクを回転電機と分配出力部材とに分配して伝達する動力分配用の遊星歯車機構と、を備えたスプリット式ハイブリッド車両が利用されている。このスプリット式ハイブリッド車両には、過大なトルク(過大トルク)が伝達された時の駆動系の負荷を軽減するためにトルクリミッタが備えられている場合がある。このようなトルクリミッタを備えた装置として下記に出典を示す特許文献1に記載のハイブリッド駆動装置がある。このハイブリッド駆動装置はトルクリミッタ付きのフライホイール兼ダンパ装置を備えて構成される。当該トルクリミッタ付きのフライホイール兼ダンパ装置は、動力分配用の遊星歯車装置とエンジンのクランク軸との間に設けられる。トルクリミッタ付きのフライホイール兼ダンパ装置が備えられる空間は油密空間ではないので、乾式のトルクリミッタが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−191760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される乾式のトルクリミッタはリミッタトルクのばらつきが比較的大きい。そして、駆動装置の各部品の強度はトルクリミッタのリミッタトルクのばらつきを考慮して当該リミッタトルク上限まで保証できる設計とする必要がある為、各部品が大きく重くなる。
【0005】
そこで、トルクリミッタを湿式のものに変更し、摺動部分に潤滑液を供給することが考えられる。係る場合には潤滑液を供給するためハイブリッド駆動装置のポンプの吐出容量を増加させる必要がある。そのため、ポンプ自体のサイズが大きくなりポンプの重量が増加するとともに、増加した吐出容量に応じてポンプを駆動するために必要なエネルギーも増加する。トルクリミッタは過大トルクが入力された場合のみ摺動するものであるため、通常時に動作しないトルクリミッタに常時、潤滑液を供給することは、ハイブリッド駆動装置のエネルギー効率を悪化させる要因となる。
【0006】
そこで、エネルギー効率を悪化させることなくトルクリミッタを潤滑可能なハイブリッド駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハイブリッド駆動装置の特徴構成は、エンジンから伝達されるトルクを回転電機と分配出力部材とに分配して伝達する動力分配用の遊星歯車機構を備えると共に、前記遊星歯車機構に潤滑液を供給する潤滑液供給部と、少なくとも一対の摩擦部材、当該一対の摩擦部材を圧着方向に付勢する付勢部材、前記一対の摩擦部材の一方を径方向外側から支持する外側支持部材、及び前記一対の摩擦部材の他方を径方向内側から支持する内側支持部材を有する湿式のトルクリミッタと、を備え、前記トルクリミッタは、前記遊星歯車機構に隣接して当該遊星歯車機構と同軸上に配置されているとともに、前記トルクリミッタの少なくとも一部が前記遊星歯車機構の径方向外側において前記遊星歯車機構と軸方向に重複するように配置されている点にある。
【0008】
このような特徴構成によれば、トルクリミッタの少なくとも一部が、遊星歯車機構の径方向外側において遊星歯車機構と軸方向に重複する部分を有して配置されるので、遊星歯車機構の潤滑に用いられた後、当該遊星歯車機構から排出された潤滑液をトルクリミッタに供給し、摩擦部材の潤滑に再利用することができる。このため、トルクリミッタの摩擦部材に潤滑液を供給するために、専用の潤滑液供給路を設ける必要がなく、ポンプの吐出容量を増加させる必要もない。したがって、トルクリミッタに潤滑液を供給するポンプを運転するためのエネルギー消費を増加させることなく、トルクリミッタに潤滑液を供給することが可能となる。
【0009】
なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また本願では、2つの部材の配置に関して、ある方向に「重複」とは、2つの部材のそれぞれが、当該方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有することを意味する。
【0010】
また、前記外側支持部材が、前記遊星歯車機構側に開口する円筒状の外側円筒部を有し、前記外側円筒部の少なくとも一部が前記遊星歯車機構の径方向外側において前記遊星歯車機構と軸方向に重複するように配置されていると好適である。
【0011】
このような構成とすれば、遊星歯車機構から排出された潤滑液を外側円筒部の内周面で回収することが可能となる。そして、回収された潤滑液を外側支持部材の径方向内側に配置された一対の摩擦部材に供給することができるので、トルクリミッタの潤滑が可能となる。
【0012】
また、前記内側支持部材が、前記遊星歯車機構側に開口する円筒状の内側円筒部を有するとともに、前記内側円筒部の内周面と外周面とを連通させる連通孔を有し、前記内側円筒部の少なくとも一部が前記遊星歯車機構の径方向外側において前記遊星歯車機構と軸方向に重複するように配置されていると好適である。
【0013】
このような構成とすれば、遊星歯車機構から排出された潤滑液を内側円筒部の内周面で回収することが可能となる。そして、回収された潤滑液を連通孔を介して内側支持部材の径方向外側に配置された一対の摩擦部材に供給することができるので、トルクリミッタの潤滑が可能となる。
【0014】
また、前記トルクリミッタの少なくとも一部が前記遊星歯車機構のリングギヤの径方向外側において前記リングギヤと軸方向に重複するように配置されていると好適である。
【0015】
遊星歯車機構の径方向の最外部には、リングギヤが配設される。このため、遊星歯車機構に供給された潤滑液は、リングギヤを伝って排出される。したがって、このような構成とすることにより、リングギヤを伝って排出された潤滑液をトルクリミッタに供給することが可能となり、トルクリミッタの潤滑が可能となる。
【0016】
例えば、前記回転電機が前記遊星歯車機構と同軸上に配置され、前記トルクリミッタが、軸方向における前記遊星歯車機構と前記回転電機との間に配置され、前記外側支持部材及び前記内側支持部材の一方が前記回転電機のロータに連結され、前記外側支持部材及び前記内側支持部材の他方が前記遊星歯車機構のサンギヤに連結されていても良い。
【0017】
このような構成とすれば、エンジン始動時等に発生してエンジンから遊星歯車機構を含む駆動伝達機構に伝達される過大トルクをトルクリミッタで吸収することができる。また、車両の走行時に車輪から駆動伝達機構に伝達される過大トルクも適切に吸収することができる。したがって、エンジン及び車輪の双方からの過大トルクに対して駆動伝達機構を保護することが可能となる。
【0018】
また、前記遊星歯車機構のキャリヤと前記エンジンとが、直接又はダンパを介して連結されていると好適である。
【0019】
このような構成では、過大トルクを吸収できるクラッチ等を備えないため、トルクリミッタを設ける必要性が高い。したがって、このような構成では、本発明をより有効に活用できる。
【0020】
また、前記外側円筒部及び前記内側円筒部の少なくとも一方における前記遊星歯車機構と軸方向に重複する領域内に、径方向内側へ突出すると共に周方向に延在する突堤が設けられていると好適である。
【0021】
このような構成とすれば、遊星歯車機構から排出された潤滑液を外側円筒部の内周面及び内側円筒部の内周面の少なくとも一方により、確実に受け取って一対の摩擦部材へ供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るハイブリッド駆動装置のスケルトン図である。
【図2】本発明に係るハイブリッド駆動装置の要部断面図である。
【図3】第二の実施形態に係るハイブリッド駆動装置の要部断面図である。
【図4】その他の実施形態に係るハイブリッド駆動装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第一の実施形態〕
本発明に係るハイブリッド駆動装置1は、エンジンEや車輪Wから過大なトルクが遊星歯車機構PTを含む駆動伝達機構に入力されるのを防止するためのトルクリミッタTを備えて構成され、エネルギーの消費を増加させることなくトルクリミッタTを潤滑する機能を備えている。以下、このようなハイブリッド駆動装置1について、図面に基づいて説明する。図1には本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1のスケルトン図が示され、図2には本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の要部断面図が示される。図2には、特にトルクリミッタT及び遊星歯車機構PTの断面図が示されている。
【0024】
ハイブリッド駆動装置1は、エンジンE及び2個の回転電機MG1、MG2の双方を駆動力源として利用して走行可能なハイブリッド車両用の駆動装置である。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、車両に横置きされるエンジンEに対して車両の幅方向に隣接して配置されると共に、エンジンEの出力軸Eoの軸方向に連結された構成の、FF(Front Engine Front Drive)車両用のハイブリッド駆動装置とされている。
【0025】
このようなハイブリッド駆動装置1は、いわゆる2モータスプリットタイプ(スプリット方式)のハイブリッド駆動装置として構成される。ハイブリッド駆動装置1は、エンジンEに駆動連結される入力軸Iと、第一ロータRo1を有する第一回転電機MG1と、エンジンEから伝達されるトルクを第一回転電機MG1と分配出力部材21とに分配して伝達する動力分配用の遊星歯車機構PTと、分配出力部材21に伝達されるトルクを車輪W側へ出力可能に設けられた出力ギヤ22と、を備えている。また、分配出力部材21及び出力ギヤ22には、カウンタギヤ機構Cを介して第二回転電機MG2が駆動連結されている。このような構成において、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、動力分配機構PTと第一回転電機MG1との間に過大トルクの入力を制限するトルクリミッタTを備えている点に特徴を有する。
【0026】
1.ハイブリッド駆動装置の全体構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の全体構成について説明する。図1に示すように、入力軸IはエンジンEに駆動連結されている。ここで、エンジンEは燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、入力軸Iは、ダンパDを介して、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoに駆動連結されている。
【0027】
第一回転電機MG1は、ケース2に固定された第一ステータSt1と、当該第一ステータSt1の径方向内側に回転自在に支持された第一ロータRo1と、を有している。第一ロータRo1は、トルクリミッタTを介して遊星歯車機構PTのサンギヤSと一体回転するように駆動連結されている。このため、第一回転電機MG1は、遊星歯車機構PTと同軸上に配置される。第一回転電機MG1は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果たすことが可能とされている。そのため、第一回転電機MG1は、不図示の蓄電装置と電気的に接続されている。本例では、蓄電装置としてバッテリが用いられている。なお、蓄電装置としてキャパシタ等を用いても好適である。本例では、第一回転電機MG1は、主に遊星歯車機構PTを介して入力される入力軸I(エンジンE)のトルクにより発電を行い、バッテリを充電し、或いは第二回転電機MG2を駆動するための電力を供給するジェネレータとして機能する。但し、車両の高速走行時やエンジンEの始動時等には第一回転電機MG1は力行して駆動力を出力するモータとして機能する場合もある。本実施形態においては、第一回転電機MG1が本発明における「回転電機」に相当する。
【0028】
第二回転電機MG2は、ケース2に固定された第二ステータSt2と、当該第二ステータSt2の径方向内側に回転自在に支持された第二ロータRo2と、を有している。第二ロータRo2は、第二ロータ軸36及び第二回転電機出力ギヤ37と一体回転するように駆動連結されている。第二回転電機MG2は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果たすことが可能とされている。そのため、第二回転電機MG2も、蓄電装置としてのバッテリと電気的に接続されている。本例では、第二回転電機MG2は、主に車両を走行させるための駆動力を補助するモータとして機能する。ただし、車両の減速時等には、第二回転電機MG2は車両の慣性力を電気エネルギーとして回生するジェネレータとして機能する場合もある。
【0029】
本実施形態においては、遊星歯車機構PTは、入力軸Iと同軸上に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構とされている。すなわち、遊星歯車機構PTは、複数のピニオンギヤPを支持するキャリヤCAと、ピニオンギヤPにそれぞれ噛み合うサンギヤS及びリングギヤRと、の3つの回転要素を有している。サンギヤSは、トルクリミッタTを介して第一回転電機MG1の第一ロータRo1の第一ロータ軸31と一体回転するように駆動連結されている。キャリヤCAは、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。リングギヤRは、分配出力部材21と一体回転するように駆動連結されている。遊星歯車機構PTが有するこれら3つの回転要素は、回転速度の順にサンギヤS、キャリヤCA、及びリングギヤRとなっている。回転速度の順とは、高速側から低速側に向かう順、又は、低速側から高速側に向かう順のいずれかであり、遊星歯車機構PTの回転状態によりいずれともなり得るが、いずれの場合にも回転要素の順は変わらない。
【0030】
遊星歯車機構PTは、入力軸Iに伝達されるエンジンEのトルクを第一回転電機MG1と分配出力部材21とに分配して伝達する。遊星歯車機構PTにおいては、上述の回転速度の順で中間となるキャリヤCAに入力軸Iが駆動連結される。また、回転速度の順で一方側となるサンギヤSに第一回転電機MG1の第一ロータRo1が駆動連結され、回転速度の順で他方側となるリングギヤRが分配出力部材21と一体回転するように駆動連結されている。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1では、回転速度の順で中間となるキャリヤCAに入力軸Iを介してエンジンEの正方向のトルクが伝達され、回転速度の順で一方側となるサンギヤSに第一ロータ軸31を介して第一回転電機MG1が出力する負方向のトルクが伝達される。第一回転電機MG1の負方向のトルクはエンジンEのトルクの反力受けとして機能し、これにより、遊星歯車機構PTは、入力軸Iを介してキャリヤCAに伝達されるエンジンEのトルクの一部を第一回転電機MG1に分配し、残りを分配出力部材21に分配する。
【0031】
ここで、本実施形態に係る遊星歯車機構PTのキャリヤCAとエンジンEとは、ダンパDを介して連結される。したがって、入力軸Iは一方がキャリヤCAに連結され、他方がダンパDを介してエンジンEのエンジン出力軸Eoと一体回転するように連結されている。ダンパDはエンジン出力軸Eoの捩れ振動を減衰させつつ、当該エンジン出力軸Eoの回転を入力軸Iに伝達する装置であり、各種公知のものを用いることができる。
【0032】
また、分配出力部材21は、リングギヤR及び出力ギヤ22と一体回転可能に形成される。これにより、遊星歯車機構PTのリングギヤRを介して分配出力部材21に伝達されたトルクは、出力ギヤ22を介して車輪W側へ出力可能となる。
【0033】
本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、更にカウンタギヤ機構Cを備えている。カウンタギヤ機構Cは、当該出力ギヤ22から出力されるトルクを更に車輪W側へ伝達する。このカウンタギヤ機構Cは、カウンタ軸41と第一ギヤ42と第二ギヤ43とを有して構成される。第一ギヤ42は出力ギヤ22に噛み合っている。また、第一ギヤ42は、出力ギヤ22とは周方向の異なる位置で第二回転電機出力ギヤ37にも噛み合っている。第二ギヤ43は、後述する出力用差動歯車装置DFが有する差動入力ギヤ46に噛み合っている。従って、カウンタギヤ機構Cは、出力ギヤ22に伝達されるトルク及び第二回転電機MG2のトルクを出力用差動歯車装置DFへ伝達する。
【0034】
また、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、更に出力用差動歯車装置DFを備えている。出力用差動歯車装置DFは、差動入力ギヤ46を有し、当該差動入力ギヤ46に伝達されるトルクを複数の車輪Wに分配して伝達する。本例では、出力用差動歯車装置DFは、互いに噛み合う複数の傘歯車を用いた差動歯車機構とされており、カウンタギヤ機構Cの第二ギヤ43を介して差動入力ギヤ46に伝達されるトルクを分配して、それぞれ車軸Oを介して左右2つの車輪Wに伝達する。
【0035】
このハイブリッド駆動装置1では、図2に一部を示すように、ケース2により形成されるオイルが封入された液密空間内に第一回転電機MG1と第二回転電機MG2と共に、遊星歯車機構PT、分配出力部材21、出力ギヤ22、カウンタギヤ機構C、及び出力用差動歯車装置DF等を備えて構成されるギヤ機構が収容される。このように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1は、ケース2内に一体的に収容された、所謂トランスアクスルとして構成されている。
【0036】
2.トルクリミッタの構成
次に、本ハイブリッド駆動装置1が備えるトルクリミッタTについて説明する。トルクリミッタTは、上述したように第一回転電機MG1の第一ロータ軸31と動力分配機構PTのサンギヤSとの間に備えられ、過大トルクが生じた場合に摺動滑りを発生させて第一ロータ軸31とサンギヤSとの間のトルク伝達を遮断する。このような機能を効果的に実現すべく、図2に示されるように、トルクリミッタTは、軸方向における遊星歯車機構PTと第一回転電機MG1との間に配置される。このようなトルクリミッタTは、一対の摩擦部材70、付勢部材72、外側支持部材74、内側支持部材76を有して構成される。また、詳細は後述するが、トルクリミッタTには、摩擦部材70の潤滑剤としてオイルが供給される。このため、本実施形態に係るトルクリミッタTは湿式のトルクリミッタTとして構成される。
【0037】
トルクリミッタTは、一対の摩擦部材70として、少なくとも1枚の第一摩擦板70A及び少なくとも1枚の第二摩擦板70Bを備えている。第一摩擦板70A及び第二摩擦板70Bは円環板状の金属材からなり、互いに対向する軸方向端面が摩擦面とされる。第一摩擦板70A及び第二摩擦板70Bの少なくとも一方の摩擦面には、例えば紙や合成樹脂等を基材とする摩擦材が貼り付けられている。本実施形態では、摩擦部材70は、3枚の第一摩擦板70Aと2枚の第二摩擦板70Bとから構成される。
【0038】
付勢部材72は、一対の摩擦部材70としての複数の第一摩擦板70A及び複数の第二摩擦板70Bを圧着方向に付勢する。圧着方向とは、第一摩擦板70A及び第二摩擦板70Bの夫々の摩擦面同士が圧着当接する方向、即ち摩擦部材70の軸方向である。本実施形態では、付勢部材72は、軸方向一方側から第一摩擦板70A及び第二摩擦板70Bを軸方向に付勢する皿バネ72Aと、軸方向他方側で第一摩擦板70A及び第二摩擦板70Bのいずれか一方を係止するスナップリング72Bとを備えて構成される。これにより、軸方向一方側から付勢された付勢力を軸方向他方側で受け止めることが可能となる。ここで、皿バネ72A及びスナップリング72Bは円環状に形成すると好適である。これにより、付勢部材72が第一摩擦板70A及び第二摩擦板70Bを周方向に亘って均一に付勢することが可能となる。
【0039】
また、外側支持部材74は、一対の摩擦部材70の一方を径方向外側から支持する。本実施形態では、外側支持部材74は、第一摩擦板70Aを径方向外側から支持する。外側支持部材74は金属材からなる外側円板部74Aと外側円筒部74Bとを有して構成される。外側円板部74Aは、径方向に延在する円板状の部材からなる。より詳しくは、外側円板部74Aは、第一ロータ軸31と同軸上に形成され、軸方向中央部に第一ロータ軸31と連結するためのボス部74Cを有する円板状の部材からなる。ボス部74Cの内周面には、スプライン溝が形成される。このスプライン溝と、第一ロータ軸31の外周面31Aに形成されたスプライン溝とが嵌合される。これにより、外側円板部74Aを有する外側支持部材74が第一回転電機MG1の第一ロータRo1と、一体回転するように連結される。
【0040】
外側支持部材74は、遊星歯車機構PT側に開口する円筒状の外側円筒部74Bを有する。本実施形態では、外側円筒部74Bは、第遊星歯車機構PT側の軸方向一方端部で開口し、軸方向他方端部で外側円板部74Aに一体的に連結された円筒状の部材である。外側円筒部74Bは、外側円板部74Aの径方向外側端部に連結される。ここで、上述のように、外側円板部74Aは、第一ロータ軸31と同軸上に形成された円板状部材である。したがって、外側円筒部74Bは、外側円板部74A側が閉塞状態となり、遊星歯車機構PT側のみが開口状態とされる。また、外側円筒部74Bは、内周面が第一ロータ軸31の軸方向と平行に形成される。この内周面には一対の摩擦部材70の一方である第一摩擦板70Aと、スナップリング72Bとが支持される。外側円筒部74Bの内周面及び第一摩擦板70Aの外周面には互いに係合するスプライン溝が形成されている。これにより、第一摩擦板70Aの外側円筒部74Bに対する軸方向の移動は許容されるが相対回転は規制される。従って、外側支持部材74が第一摩擦板70Aを径方向外側から支持し、第一摩擦板70Aが外側支持部材74と一体回転することが可能となっている。
【0041】
内側支持部材76は、一対の摩擦部材70の他方を径方向内側から支持する。本実施形態では、一対の摩擦部材70の他方とは、第二摩擦板70Bである。内側支持部材76は金属材からなる内側円板部76Aと内側円筒部76Bとから構成される。内側円板部76Aとは、遊星歯車機構PTが有するサンギヤSの回転軸と同軸上に形成され、径方向に延在する円板状の部材である。内側円板部76Aの径方向中央部は、サンギヤSの回転軸に連結固定される。この固定は、溶接により行うことが可能である。これにより、内側円板部76Aが有する内側支持部材76が遊星歯車機構PTのサンギヤSと一体回転するように連結される。
【0042】
内側支持部材76は、遊星歯車機構PT側に開口する円筒状の内側円筒部76Bを有する。本実施形態では、内側円筒部76Bは、第遊星歯車機構PT側の軸方向一方端部で開口し、軸方向他方端部で内側円板部76Aに一体的に連結された円筒状の部材である。内側円板部76Aの径方向外側端部に連結される。ここで、上述のように、内側円板部76Aは、サンギヤSの回転軸と同軸上に形成された円板状部材である。したがって、内側円筒部76Bは、内側円板部76A側が閉塞状態となり、遊星歯車機構PT側のみが開口状態とされる。また、内側円筒部76Bは、外周面がサンギヤSの回転軸の軸方向と平行に形成される。この外周面には一対の摩擦部材70の他方である第二摩擦板70Bが支持される。内側円筒部76Bの外周面及び第二摩擦板70Bの内周面には互いに係合するスプライン溝が形成されている。これにより、第二摩擦板70Bの内側円筒部76Bに対する軸方向の移動は許容されるが相対回転は規制される。従って、第二摩擦板70Bは内側支持部材76と一体回転することが可能となる。また、内側円筒部76Bには、当該内側円筒部76Bの内周面と外周面とを連通させる連通孔76Cが形成される。
【0043】
次に、トルクリミッタTの作用について説明する。外側円筒部74Bに支持された複数の第一摩擦板70Aのうち、スナップリング72Bから軸方向最遠の第一摩擦板70Aと外側円板部74Aとの間には、上述の皿バネ72Aが配設される。これにより、第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとが皿バネ72A及びスナップリング72Bからなる付勢部材72により軸方向に付勢される。
【0044】
トルクリミッタTは、このような付勢力により第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとが一体回転可能とされ、第一ロータ軸31のトルクをサンギヤSに伝達することができる。トルクリミッタTの初期滑りトルクは、遊星歯車機構PTを含むハイブリッド駆動装置1の駆動伝達機構の許容伝達トルクの上限に設定される。従って、ハイブリッド駆動装置1の駆動伝達機構に許容される以上のトルクが伝達された時にトルクリミッタTが滑り、それ以上のトルクが駆動伝達機構の各部に伝達されない。ここで、駆動伝達機構は、遊星歯車機構PT、分配出力部材21、出力ギヤ22、カウンタギヤ機構C、第二回転電機出力ギヤ37、出力用差動歯車装置DF等を含むギヤ機構で構成される。このような初期滑りトルクは、付勢手段72が有する皿バネ72Aの付勢力及び第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとの間に作用する摩擦力によって設定される。
【0045】
例えば、エンジン始動時には、エンジン出力軸Eo側から駆動伝達機構に過大なトルクが伝達される場合がある。また、例えば車両がギャップを乗り越えた時などに車輪Wが空転してから急に路面に接地した場合には、車輪W側から駆動伝達機構に過大なトルクが伝達される場合がある。エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2は大きな慣性質量を有するので、仮にトルクリミッタTを備えない場合には、駆動伝達機構の各ギヤに大きなトルクが伝わり当該各ギヤやシャフト等が破損するおそれがある。
【0046】
本発明に係るハイブリッド駆動装置1が備えるトルクリミッタTでは、このような場合には、第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとの間に作用する摩擦力に対抗する力が作用し、その力が摩擦力を超えると、第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとの間に滑りが生じる。トルクがトルクリミッタTの初期滑りトルクとして設定される駆動伝達機構の許容伝達トルクの上限は、駆動伝達機構のギヤ及びシャフト等の強度限界未満に設定されている。したがって、このような減速ギヤ強度限界以上の負荷が加わる以前に、トルクリミッタTの第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとの間に滑りが生じ、これによって負荷(過大トルク)を逃がしハイブリッド駆動装置1の駆動伝達機構の各ギヤの破損を防止している。
【0047】
3.遊星歯車機構の潤滑液供給構成
次に、動力分配用の遊星歯車機構PTの潤滑液供給構成について説明する。図2に示されるように、動力分配用の遊星歯車機構PTは、サンギヤS、リングギヤR、キャリヤCA、ピニオンギヤPを備えて構成される。サンギヤSは、回転軸がトルクリミッタTの内側支持部材76の内側円板部76Aと連結固定される。また、サンギヤSは内周面にブッシュ50が配設され、その回転軸が第一ロータ軸31と平行に構成される。更に、サンギヤSの一方の軸方向端面は、スラスト軸受け51を介して入力軸Iの大径部I1の軸方向端面に支持される。これにより、サンギヤSは、トルクリミッタTを介して第一ロータ軸31と共に一体回転すると共に、トルクリミッタTに作用するトルクが初期滑りトルク以上である場合には当該初期滑りトルク以下で第一ロータ軸31に対して相対回転することが可能となる。
【0048】
キャリヤCAは、入力軸Iの大径部I1の外周部分と溶接により固定される。これにより、キャリヤCAには入力軸Iからのトルクが入力されることになる。
【0049】
サンギヤSの外歯とリングギヤRの内歯との間には、ピニオンギヤPが備えられる。ピニオンギヤPは、サンギヤSとリングギヤRとの間で自転及び公転を行う。このため、ピニオンギヤPのピニオン軸PAの外周には、軸方向に沿ってニードルベアリングNBが備えられる。このニードルベアリングNBへは、ピニオンギヤPの自転及び公転により生じる摩擦熱を軽減するために、潤滑用のオイルが供給される。このオイルが本発明の「潤滑液」に相当する。オイルは、入力軸Iの径方向内側に設けられたオイル油路80から遠心力に応じて放出され供給される。入力軸Iには、オイル油路80から径方向外側にオイルを放出する放出孔81が形成され、遠心力により当該放出孔81から放出されたオイルは分配出力部材21と入力軸Iとの隙間を流通し、スラスト軸受52を潤滑してから径方向外側へ向かって放出される。したがって、放出孔81は、遊星歯車機構PTにオイルを供給する潤滑液供給部として機能する。
【0050】
このようなオイルをニードルベアリングNBに供給するために、ピニオン軸PAにはオイル流通路P1が形成される。また、上述の分配出力部材21と入力軸Iとの隙間及びスラスト軸受け52の隙間を流通して径方向外側へ向かって放出されたオイルを回収してオイル流通路P1に流通させるために、キャリヤCAの軸方向端面にオイルレシーバー82が備えられる。オイルレシーバー82は、固定部82A、側面部82B、延設部82Cを備えて構成される。固定部82Aはオイルレシーバー82をキャリヤCAの軸方向端面に固定する。側面部82Bは固定部82Aから立設して形成され、この立設する位置(キャリヤCAの軸方向端面)から離れるにしたがって内径が小さくなる円錐台状に形成される。延設部82Cは側面82Bの径方向内側端から径方向内側へ向かって所定の長さで延設された円環板状に形成される。このような固定部82A、側面部82B、延設部82Cは、遊星歯車機構PTと同軸上に、周方向に沿って延在して形成される。これにより、分配出力部材21と入力軸Iとの隙間、及びスラスト軸受52の隙間を流通したオイルを適切に回収することが可能となる。回収されたオイルは、オイル流通路P1を流通し、当該オイル流通孔P1からニードルベアリングNBに供給される。これにより、ニードルベアリングNBを適切に潤滑することが可能となる。ニードルベアリングNBに供給されたオイルは、その後、遠心力によりキャリヤCAとピニオンギヤPとの隙間等を抜けて遊星歯車機構PTの径方向外側へ向けて流通し、リングギヤRの内周面に到達する。そして、リングギヤRの軸方向端部から径方向外側に排出される。ここでは、リングギヤRは軸方向一方のトルクリミッタT側のみ開口し、軸方向他方は分配出力部材21により閉塞されている。よって、リングギヤRのトルクリミッタT側の端部のみからオイルが排出される。
【0051】
4.トルクリミッタと遊星歯車機構との位置関係
図2に示されるように、トルクリミッタTは、遊星歯車機構PTに隣接して当該遊星歯車機構PTと同軸上に配置される。上述のように、トルクリミッタTの内側円板部76Aと遊星歯車機構PTが有するサンギヤSとは連結固定される。したがって、トルクリミッタTは、遊星歯車機構PTと同軸上で回転可能となる。また、トルクリミッタTの少なくとも一部が遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複するように配置される。すなわち、トルクリミッタTの少なくとも一部が遊星歯車機構PTの径方向外側に位置するように配置され、トルクリミッタT及び遊星歯車機構PTのそれぞれが、軸方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有するように構成される。
【0052】
特に、本実施形態では、トルクリミッタTの外側円筒部74Bの一部が遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複するように配置される。また、トルクリミッタTの内側円筒部76Bの一部が遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複するように配置される。更に、トルクリミッタTの少なくとも一部が遊星歯車機構PTのリングギヤRの径方向外側においてリングギヤと軸方向に重複するように配置される。したがって、この例では、外側円筒部74B、内側円筒部76B、及びリングギヤRのそれぞれが、軸方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有している。
【0053】
上記のとおり、遊星歯車機構PTに供給されたオイルは、リングギヤRの回転による遠心力に応じてリングギヤRの一方の軸方向端面(トルクリミッタT側の端面)から径方向外側に向けて排出される。上述のように、本ハイブリッド駆動装置1は、内側円筒部76BがリングギヤRの径方向外側において、当該リングギヤRと軸方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有しているので、リングギヤRの軸方向端面から噴射されたオイルを内側円筒部76Bの内周面で回収することが可能となる。
【0054】
図2に示されるように、内側円筒部76Bには、内周面とから外周面とを連通させるべく、内側円筒部76Bの厚さ方向に貫通する複数の連通孔76Cが設けられる。これにより、内側円筒部76Bの内周面で回収されたオイルを、内側円筒部76Bの外周面側に移動させることができる。内側円筒部76Bの外周面側に移動されたオイルは、内側円筒部76Bの外周面に支持される第二摩擦板70Bの摩擦面に流通され、第一摩擦板70Aの摩擦面にも流通される。これにより、第一摩擦板70A及び第二摩擦板70Bにオイルを供給し、摩擦板を潤滑することができる。
【0055】
また、内側円筒部76Bには、当該内側円筒部76Bと一体的に形成されている突堤76Dが設けられる。突堤76Dは、内側円筒部76Bにおける遊星歯車機構PTと軸方向に重複する領域内に、径方向内側へ突出すると共に周方向に延在して設けられる。このような突堤76Dを設けることにより、遊星歯車機構PT側から放出されたオイルを確実に内側円筒部76Bの内周面で受け取ることができる。また、内側円筒部76Bの内周面で受け取ったオイルを軸方向外側に溢れ出さないようにすることができる。
【0056】
また、本実施形態では、外側円筒部74Bにおける遊星歯車機構PTと軸方向に重複する領域内に、径方向内側へ突出すると共に周方向に延在する突堤90が設けられる。この突堤90は、外側円筒部74Bの開口端部に設けられる。ここで、突堤90は、円筒部90A、支持部90B、及び堰止部90Cを備えて構成される。円筒部90Aは、円筒状の部材からなり、外側円筒部74Bの外周面に嵌合して設けられる。この円筒部90Aの外側円筒部74Bに対する嵌合、又は、当該嵌合及び円筒部90Aと外側円筒部74Bとの溶接固定等により、突堤90は外側円筒部74Bに対して軸方向に抜けないように固定される。支持部90Bは、円環板状の部材と円筒状の部材とを組み合わせて構成され、当該円環板状の部材が円筒部90Aの軸方向端部に付設される。堰止部90Cは、外周にスプライン溝を有する円環板状の部材からなり、支持部90Bの円筒状の部材の軸方向端部に付設される。また、堰止部90Cは、当該堰止部90Cのスプライン溝と外側円筒部74Bの内周面に形成されたスプライン溝とを係合して備えられる。これにより、突堤90の外側円筒部74Bに対する相対回転は規制される。従って、突堤90が外側支持部材74と一体回転することが可能となっている。このような突堤90と外側円筒部74Bの内周面と外側円板部74Aの一部(径方向外側部分)とにより、突堤90の径方向内側端よりも径方向外側の部分にオイルを貯留可能な液溜部91が構成される。
【0057】
遊星歯車機構PTには、液溜部91の径方向内側であって軸方向に重複する位置に、液溜部91にオイルを供給する潤滑液供給路83を備える。上述のように、遊星歯車機構PTから排出されたオイルは、リングギヤRの一方の軸方向端面から噴射される。このようなオイルを噴射する部位、すなわちリングギヤRの端部が、潤滑液供給路83に相当する。このように潤滑液供給路83は、液溜部91の径方向内側に位置するとともに、軸方向の配置に関して液溜部91と同じ位置となる部分を有するように配置されている。
【0058】
液溜部91は、外側支持部材74の径方向内側に一対の摩擦部材70の少なくとも一部が浸かる液面高さのオイルを貯留可能とする。したがって、第一回転電機MG1及び遊星歯車機構PTの回転状態において液溜部91でオイルを溜めておくことができる共に、第一回転電機MG1及び遊星歯車機構PTが回転していない状態においても液溜部91の鉛直下方向に位置する部分でオイルを貯留することが可能となる。したがって、第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとの少なくとも一部を常時、オイルに浸しておくことができるのでトルクリミッタTを潤滑することが可能である。
【0059】
このように、本ハイブリッド駆動装置1によれば、トルクリミッタTの少なくとも一部が、遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複する部分を有して配置されるので、遊星歯車機構PTの潤滑に用いられた後、当該遊星歯車機構PTから排出された潤滑液をトルクリミッタTに供給し、摩擦部材70の潤滑に再利用することができる。このため、トルクリミッタTの摩擦部材70に潤滑液を供給するために、専用の潤滑液供給路を設ける必要がなく、ポンプの吐出容量を増加させる必要もない。したがって、トルクリミッタTに潤滑液を供給するポンプを運転するためのエネルギー消費を増加させることなく、トルクリミッタTに潤滑液を供給することが可能となる。
【0060】
また、本ハイブリッド駆動装置1によれば、トルクリミッタがギヤ機構と共に液密空間内に配置されるので、ギヤ機構の各部を潤滑する潤滑液を液溜部に貯留し、トルクリミッタの潤滑に利用することができる。また、液溜部は、一対の摩擦部材の少なくとも一部が浸かる液面高さで潤滑液を貯留することができるので、トルクリミッタの回転の有無に拘らず、一対の摩擦部材の少なくとも一部に潤滑液を供給することが可能となる。このため、トルクリミッタの摩擦部材に潤滑液を供給するために、既存のポンプの吐出容量を増加させる必要もない。したがって、トルクリミッタに潤滑液を供給するポンプを運転するためのエネルギー消費を増加させることなく、トルクリミッタに潤滑液を供給することが可能となる。
【0061】
〔第二の実施形態〕
次に、本発明に係るハイブリッド駆動装置1の第二の実施形態について説明する。第二の実施形態のハイブリッド駆動装置1は、内側円筒部76Bが遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複するように配置されていない点で上述の第一の実施形態のハイブリッド駆動装置1と異なる。それ以外の点については第一の実施形態のハイブリッド駆動装置1と同様である。このため、以下では第一の実施形態のハイブリッド駆動装置1と異なる点を中心に説明する。
【0062】
図3には、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置1の要部断面図が示される。図3に示されるように、第二の実施形態のハイブリッド駆動装置1が備えるトルクリミッタTも、第一の実施形態と同様に、遊星歯車機構PTに隣接して当該遊星歯車機構PTと同軸上に配置される。特に、本実施形態では、トルクリミッタTの外側円筒部74Bの少なくとも一部が遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複するように配置される。また、トルクリミッタTの少なくとも一部が遊星歯車機構PTのリングギヤRの径方向外側においてリングギヤRと軸方向に重複するように配置される。したがって、この例では、外側円筒部74B及びリングギヤRのそれぞれが、軸方向の配置に関して同じ位置となる部分を少なくとも一部に有している。これにより、遊星歯車機構PTが有するリングギヤRの一方の軸方向端面から噴射されたオイルを外側円筒部74Bの内周面で回収することが可能となる。
【0063】
また、本実施形態においても、外側円筒部74Bにおける遊星歯車機構PTと軸方向に重複する領域内に、径方向内側へ突出すると共に周方向に延在する突堤90が設けられる。突堤90の構成は、上記第一の実施形態と同様である。これにより、突堤90と外側円筒部74Bの内周面と外側円板部74Aの一部(径方向外側部分)により、突堤90の径方向内側端よりも径方向外側の部分にオイルを貯留可能な液溜部91が構成される。したがって、第一回転電機MG1及び遊星歯車機構PTの回転状態において液溜部91でオイルを溜めておくことができる共に、第一回転電機MG1及び遊星歯車機構PTが回転していない状態においても液溜部91の鉛直下方向に位置する部分でオイルを溜めておくことが可能となる。したがって、第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとの少なくとも一部を常時、オイルに浸しておくことができるのでトルクリミッタTの潤滑が可能となる。また、このオイルは、遊星歯車機構PTの潤滑に用いられた後、当該遊星歯車機構PTの軸方向端部から排出されたものを再利用する。このため、トルクリミッタTの摩擦部材70に潤滑液を供給するために、専用の潤滑液供給路を設ける必要がなく、ポンプの吐出容量を増加させる必要もない。したがって、トルクリミッタTに潤滑液を供給するポンプを運転するためのエネルギー消費を増加させることなく、トルクリミッタTに潤滑液を供給することが可能となる。
【0064】
〔その他の実施形態〕
(1)上記実施形態では、トルクリミッタTの外側支持部材74及び内側支持部材76が、夫々第一回転電機MG1の第一ロータRo1及び遊星歯車機構PTのサンギヤSに連結して設けられるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、トルクリミッタTの外側支持部材74及び内側支持部材76を入力軸I及び遊星歯車機構PTのキャリヤCAに連結して設けることも当然に可能である。或いは、カウンタギヤ機構Cのギヤ間に設けることも当然に可能である。
【0065】
(2)上記第一の実施形態では、トルクリミッタTの外側円筒部74B及び内側円筒部76Bの双方が遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複するように配置されるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、トルクリミッタTの内側円筒部76Bの少なくとも一部が遊星歯車機構PTの径方向外側において遊星歯車機構PTと軸方向に重複するように配置され、外側円筒部74Bが遊星歯車機構PTと軸方向に重複しないように構成することも当然に可能である。図4に示されるように、外側円筒部74Bが遊星歯車機構PTのリングギヤRと軸方向に重複しないように構成することも可能である。
【0066】
このような場合にも、図4に示されるように、内側円筒部76Bには、内周面とから外周面とを連通させるべく、内側円筒部76Bの厚さ方向に貫通する複数の連通孔76Cが設けられる。これにより、内側円筒部76Bの内周面で回収されたオイルを、内側円筒部76Bの外周面側に移動させることができる。内側円筒部76Bの外周面側に移動されたオイルは、内側円筒部76Bの外周面に支持される第二摩擦板70Bの摩擦面に流通され、第一摩擦板70Aの摩擦面にも流通される。これにより、第一摩擦板70A及び第二摩擦板70Bにオイルを供給し、潤滑することが可能である。
【0067】
また、図4に示す例では、外側円筒部74Bに突堤90が備えられていない例を示したが、このような場合であっても、第一摩擦板70Aと第二摩擦板70Bとの間を潤滑することができる。もちろん、外側円筒部74Bに突堤90を設けることは可能である。
【0068】
(3)上記実施形態では、トルクリミッタTの少なくとも一部が遊星歯車機構PTのリングギヤRの径方向外側においてリングギヤRと軸方向に重複するように配置されるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。軸方向における遊星歯車機構PTからオイルが排出される位置が、トルクリミッタTの内側円筒部76Bの少なくとも一部と軸方向に重複するように配置されている場合や、トルクリミッタTの外側円筒部74Bの少なくとも一部と軸方向に重複するように配置されている場合には、トルクリミッタTの少なくとも一部が遊星歯車機構PTのリングギヤRの径方向外側においてリングギヤRと軸方向に重複するように配置される必要はない。このような場合であっても、遊星歯車機構PTから排出されたオイルを適切にトルクリミッタTに供給することができ、トルクリミッタTを潤滑することは当然に可能である。
【0069】
(4)上記実施形態では、外側支持部材74が第一回転電機MG1の第一ロータRo1に連結され、内側支持部材76が遊星歯車機構PTのサンギヤSに連結されているとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。内側支持部材76が第一回転電機MG1の第一ロータRo1に連結され、外側支持部材74が遊星歯車機構PTのサンギヤSに連結されている構成とすることも当然に可能である。この場合には、外側円筒部74BにおけるリングギヤR端部の径方向外側の位置に連通孔76Cを設けると好適である。
【0070】
(5)上記実施形態では、遊星歯車機構PTのキャリヤCAとエンジンEとが、ダンパDを介して連結されているとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。遊星歯車機構PTのキャリヤCAとエンジンEとを直接連結する構成とすることも当然に可能である。このような構成であっても、適切にトルクリミッタTが過大トルクが伝達されないように作用し、第一回転電機MG1やエンジンEを過大トルクから保護すると共に、適切にトルクリミッタTが備える摩擦部材70にオイルを供給することは当然に可能である。
【0071】
(6)上記実施形態では、遊星歯車機構PTは液溜部91にオイルを供給する潤滑液供給路83を備え、当該潤滑液供給路83はリングギヤRの端部に相当するとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えばピニオン軸PAのオイル流通路P1を、ピニオン軸PAを軸方向に貫通するように構成すると好適である。あるいは、潤滑液供給路83を別途設けることも当然に可能である。
【0072】
(7)上記実施形態では、トルクリミッタTは、遊星歯車機構PTに隣接して当該遊星歯車機構PTと同軸上に配置されているとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。トルクリミッタTと遊星歯車機構PTとを離間して設けることも可能であるし、トルクリミッタTと遊星歯車機構PTとを他軸上に別々の軸心で設けることも当然に可能である。
【0073】
(8)上記実施形態では、外側円筒部74Bに突堤90が設けられ、内側円筒部76Bに突堤76Dが設けられるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。外側円筒部74B及び内側円筒部76Bの一方又は双方における遊星歯車機構PTと軸方向に重複する領域内に、径方向内側へ突出すると共に周方向に延在する突堤90、76Dを設けずに構成することも当然に可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、エンジンから伝達されるトルクを回転電機と分配出力部材とに分配して伝達する動力分配用の遊星歯車機構を備えたハイブリッド駆動装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1:ハイブリッド駆動装置
21:分配出力部材
70:摩擦部材
72:付勢部材
74:外側支持部材
74A:外側円板部
74B:外側円筒部
76:内側支持部材
76A:内側円板部
76B:内側円筒部
81:潤滑液供給部
90:突堤
CA:キャリヤ
D:ダンパ
E:エンジン
MG1:第一回転電機(回転電機)
PT:遊星歯車機構
R:リングギヤ
Ro1:第一ロータ(ロータ)
S:サンギヤ
T:トルクリミッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから伝達されるトルクを回転電機と分配出力部材とに分配して伝達する動力分配用の遊星歯車機構を備えたハイブリッド駆動装置であって、
前記遊星歯車機構に潤滑液を供給する潤滑液供給部と、
少なくとも一対の摩擦部材、当該一対の摩擦部材を圧着方向に付勢する付勢部材、前記一対の摩擦部材の一方を径方向外側から支持する外側支持部材、及び前記一対の摩擦部材の他方を径方向内側から支持する内側支持部材を有する湿式のトルクリミッタと、を備え、
前記トルクリミッタは、前記遊星歯車機構に隣接して当該遊星歯車機構と同軸上に配置されているとともに、前記トルクリミッタの少なくとも一部が前記遊星歯車機構の径方向外側において前記遊星歯車機構と軸方向に重複するように配置されているハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記外側支持部材が、前記遊星歯車機構側に開口する円筒状の外側円筒部を有し、
前記外側円筒部の少なくとも一部が前記遊星歯車機構の径方向外側において前記遊星歯車機構と軸方向に重複するように配置されている請求項1に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記内側支持部材が、前記遊星歯車機構側に開口する円筒状の内側円筒部を有するとともに、前記内側円筒部の内周面と外周面とを連通させる連通孔を有し、
前記内側円筒部の少なくとも一部が前記遊星歯車機構の径方向外側において前記遊星歯車機構と軸方向に重複するように配置されている請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記トルクリミッタの少なくとも一部が前記遊星歯車機構のリングギヤの径方向外側において前記リングギヤと軸方向に重複するように配置されている請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド装置。
【請求項5】
前記回転電機が前記遊星歯車機構と同軸上に配置され、
前記トルクリミッタが、軸方向における前記遊星歯車機構と前記回転電機との間に配置され、
前記外側支持部材及び前記内側支持部材の一方が前記回転電機のロータに連結され、前記外側支持部材及び前記内側支持部材の他方が前記遊星歯車機構のサンギヤに連結されている請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項6】
前記遊星歯車機構のキャリヤと前記エンジンとが、直接又はダンパを介して連結されている請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項7】
前記外側支持部材が、前記遊星歯車機構側に開口する円筒状の外側円筒部を有し、
前記内側支持部材が、前記遊星歯車機構側に開口する円筒状の内側円筒部を有し、
前記外側円筒部及び前記内側円筒部の少なくとも一方における前記遊星歯車機構と軸方向に重複する領域内に、径方向内側へ突出すると共に周方向に延在する突堤が設けられている請求項1から6のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207388(P2011−207388A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78288(P2010−78288)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】