説明

ハンドリング機構及び成膜装置

【課題】被成膜物の反転作業の作業効率を向上させ、被成膜物に対して効率的に成膜すること。
【解決手段】減圧状態で被成膜物Hを一定方向側から成膜する成膜機構21が配置された成膜室2と、被成膜物を収容するために成膜室に隣接して連通可能に設けられた収容室3と、を備える成膜装置1に用いられる機構であって、被成膜物を把持及び把持解除する把持ハンド43と、該把持ハンドを、収容室から成膜室までの範囲で移動可能且つ把持姿勢を反転可能に支持するハンド支持部61と、収容室及び成膜室の外部に配置され、ハンド支持部を介して、収容室から成膜室までの範囲で把持ハンドを移動させるハンド移動部41と、収容室及び成膜室の外部に配置され、把持ハンドの把持姿勢を反転させる反転部44と、を備えるハンドリング機構4を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドリング機構及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
減圧状態で被成膜物を一定方向側から成膜する成膜機構が配置された成膜室を有する成膜装置において、成膜室から、成膜室と隣接して連通可能に設けられたカバー待避室までの範囲で、被搬送物を搬送することができるハンドリング機構である水平移動機構が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載のハンドリング機構は、カバー退避室内に設けられ、カバー退避室から成膜室までの範囲で水平方向に移動可能なテーブルを備えるものである。また、テーブルは、被搬送物を載置する載置部を有する。
このハンドリング機構によれば、被搬送物を載置部に載置した状態で、テーブルをカバー退避室から成膜室までの範囲で移動させることで、被搬送物を両室の間で搬送することができる。
【特許文献1】特開2006−346765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のハンドリング機構を利用して、成膜機構によって成膜する被成膜物を移動させる場合には、以下の点で問題があった。
まず、成膜機構は一定方向側から成膜するため、被成膜物を両面とも成膜するためには、被成膜物を反転させる必要があるが、上記ハンドリング機構では、被成膜物を反転させることができなかった。そのため、被成膜物を反転させるには、被成膜物を一度ハンドリング機構から取り外して反転させた後に、再度ハンドリング機構に取り付ける必要がある。その結果、被成膜物の反転作業に時間がかかり、作業効率が悪化するという問題がある。
【0005】
また、被成膜物を反転させるときには、成膜室外から成膜室内に入って被成膜物を反転させるために成膜室を大気開放する必要があり、その際、成膜室の外部から、成膜室内に塵等が侵入してしまうことがある。このため、成膜機構により被成膜物を成膜する際に、塵等を含んだ状態で成膜してしまう恐れがある。この結果、成膜室内を減圧、清浄化する手間がかかり、効率的に成膜を行うことができないという問題がある。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、被成膜物の反転作業の作業効率を向上させ、被成膜物に対して効率的に成膜することができるハンドリング機構及び成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るハンドリング機構は、減圧状態で被成膜物を一定方向側から成膜する成膜機構が配置された成膜室と、前記被成膜物を収容するために前記成膜室に隣接して連通可能に設けられた収容室と、を備える成膜装置に用いられる前記被成膜物のハンドリング機構であって、前記被成膜物を把持及び把持解除する把持ハンドと、該把持ハンドを、前記収容室から前記成膜室までの範囲で移動可能且つ把持姿勢を反転可能に支持するハンド支持部と、前記収容室及び前記成膜室の外部に配置され、前記ハンド支持部を介して、前記収容室から前記成膜室までの範囲で前記把持ハンドを移動させるハンド移動部と、前記収容室及び前記成膜室の外部に配置され、前記把持ハンドの把持姿勢を反転させる反転部と、を備えるものである。
【0008】
この発明に係るハンドリング機構によれば、被成膜物を把持した把持ハンドを、ハンド移動部が、ハンド支持部を介して、収容室から成膜室までの範囲で移動させることで、被成膜物を収容室から成膜室の範囲で搬送することができる。
また、反転部により、把持ハンドの把持姿勢を反転させることができるので、被成膜物を把持した状態の把持ハンドを反転させることで、被成膜物を取り外すことなく反転させることができる。従って、被成膜物の反転作業の作業効率を向上させることができる。
また、被成膜物を反転させるときに、成膜室外から成膜室内に入って被成膜物を反転させる必要がないので、収容室及び成膜室を大気開放せずに、収容室及び成膜室の減圧状態を維持した状態で被成膜物を反転させることができる。従って、被成膜物を反転させる際、外部から成膜室内に塵等の侵入を低減することができ、成膜室内を減圧、清浄化する手間をかけることなく、効率的に成膜を行うことが可能となる。
【0009】
また、本発明に係るハンドリング機構では、前記ハンド支持部は、一定の軸線方向に沿って真直に延ばされて、前記軸線方向に沿って進退可能に支持され、前記把持ハンドが一端側に設けられたシャフト部を有し、前記反転部は、前記シャフト部を前記軸線方向周りに回転させることで前記把持ハンドを反転させること、が好ましい。
【0010】
この場合、反転部は、シャフト部を回転させるだけの単純なものとすることができ、ハンドリング機構を簡素にすることができる。
【0011】
また、本発明に係る成膜装置は、減圧状態で被成膜物を一定方向側から成膜する成膜機構が配置された成膜室と、前記被成膜物を収容するために前記成膜室に隣接して連通可能に設けられた収容室と、を備える成膜装置であって、上記ハンドリング機構と、該ハンドリング機構によって前記収容室から前記成膜室へ移動された前記被成膜物を把持し、前記成膜機構による成膜位置に配置する把持機構と、を備えるものである。
【0012】
この発明に係る成膜装置によれば、上記したハンドリング機構を備えているので、被成膜物の反転作業の作業効率を向上させ、被成膜物に対して効率的に成膜することができる。
【0013】
また、本発明に係る成膜装置では、前記成膜機構は、前記成膜位置に配置された前記被成膜物を鉛直下方向から成膜し、前記ハンドリング機構は、前記把持ハンドを、前記収容室と前記成膜室との間で水平方向に移動して、前記被成膜物を前記成膜機構の上方に配置し、前記把持機構は、前記ハンドリング機構によって前記成膜機構上に移動された前記被成膜物に対して、鉛直上方から進退して、前記被成膜物の把持及び前記成膜位置への移動を行うこと、が好ましい。
【0014】
この場合、把持機構は鉛直上方から進退するものであるので、成膜機構の上方に重なる位置に配置することができる。従って、成膜装置の設置スペースを低減することができる。
【0015】
また、本発明に係る成膜装置では、前記収容室と前記成膜室との間に設けられた連通開口と、該連通開口を開閉し、閉状態では前記連通開口を気密に遮断する遮断機構と、前記成膜室を減圧する第1の減圧機構と、前記収容室を減圧する第2の減圧機構と、を備えることが好ましい。
【0016】
この場合、収容室に被成膜物を搬入、或いは収容室から被成膜物を搬出するときに、遮断機構によって連通開口を閉じることで、成膜室の減圧状態を維持することができる。従って、被成膜物を搬入した後に、成膜室内で被成膜物を成膜するために成膜室内及び収容室内を減圧状態にする場合、収容室側のみ第2の減圧機構によって減圧すればよい。このため、収容室と成膜室との両方を減圧機構により減圧する場合に比べて、減圧に要する時間を短縮することができ、成膜作業を効率よく行うことができる。
また、遮断機構によって連通開口を閉じることで、成膜室を大気開放せずに、収容室に被成膜物を搬入、或いは収容室から被成膜物を搬出することができる。従って、被成膜物を搬入或いは搬出する際、外部から成膜室内に塵等の侵入を低減することができ、被成膜物に対して効率的に成膜することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のハンドリング機構及び成膜装置によれば、被成膜物の反転作業の作業効率を向上させ、被成膜物に対して効率的に成膜することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る一実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
図1は、本発明に係る一実施形態の成膜装置を示す模式的な断面図である。図2は、本発明に係る一実施形態のハンドリング機構の一部分を示す模式的な断面図である。
本実施形態の成膜装置1は、被成膜物Hの両面を成膜するものである。なお、本実施形態の被成膜物Hの例としては、両面コーティングが必要とされるレンズの光学素子等を挙げることができる。また、これら被成膜物Hは、小さいものの場合、平板状の治具に保持された状態で搬送、成膜、反転を行うことが多い。そこで、本実施形態では、被成膜物Hを保持した治具も含めて、被成膜物Hと称することにする。
成膜装置1は、図1に示すように、成膜室2と、収容室3と、ハンドリング機構4と、把持機構5と、を備える。また、成膜装置1は、内部の各機構を制御する図示しない制御手段(例えば、コンピュータ等)を有する。
【0019】
成膜室2は、矩形状の底部、底部の各辺から鉛直方向に立設された側壁部、及び底部と対向する天井部からなる直方体状の成膜室筐体20によって外部と仕切られた空間である。本実施形態の成膜室筐体20は、図示しない水平面上に設置されている。この成膜室筐体20は、円筒形状であってもよい。
【0020】
成膜室筐体20の底部の上面には、例えば抵抗加熱等により成膜材料を加熱して気化させ、気化された成膜材料によって鉛直上方側の成膜位置に位置する被成膜物Hに対して成膜を行う成膜機構21が設けられている。
また、成膜室筐体20の天井部の上面には、例えば真空ポンプ等で構成され、成膜室2内を減圧する第1の減圧機構22が設けられている。
【0021】
また、成膜室筐体20の側壁部の1つである側壁部20aには、連通開口23が形成されており、この連通開口23を介して、成膜室2と収容室3とが連通されている。
【0022】
収容室3は、矩形状の底部、底部の三辺から立設された側壁部、及び底部と対向する天井部からなる、1つの側方が開いた収容室筐体30が、開いた側方側を側壁部20aに向けた状態で連結されたことで、成膜室筐体20と収容室筐体30とによって外部と仕切られた空間である。
【0023】
また、側壁部20aの収容室3側には、連通開口23を覆うように、連通開口23を開閉するゲートバルブ(遮断機構)31が設けられている。このゲートバルブ31は、収容室3内に設けられ、図示しない制御手段により成膜室2及び収容室3の外部から開閉が制御できるようになっている。
【0024】
収容室筐体30の側壁部の1つには、被成膜物Hを搬入或いは搬出するために利用される、開閉自在の収容扉32が設けられている。
また、収容室筐体30の天井部の上面には、例えば真空ポンプ等で構成され、収容室3内を減圧する第2の減圧機構33が設けられている。
また、収容室筐体30の側壁部の他の1つには、連通開口23の中央部分と対向する位置に、後述するシャフト部(ハンド支持部)61を進退可能に挿通させる貫通円孔34が形成されている。
【0025】
ハンドリング機構4は、被成膜物Hの把持姿勢を180度回転可能に保持して、被成膜物Hを、収容室3の収容扉32の近傍と、成膜室2の成膜機構21の鉛直上方との間で進退させて搬送するものであり、テーブル(ハンド移動部)41と、テーブル41に載置されてテーブル41によって移動自在な進退部42と、進退部42に一端側が連結されて他端側が収容室3と成膜室2との間で出入し且つ反転可能なシャフト部61と、シャフト部61の他端側に取り付けられて被成膜物Hを把持するチャック(把持ハンド)43と、を備える。
【0026】
テーブル41は、成膜室筐体20の側壁部20aの外部に配設され、載置された進退部42を側壁部20aに対して垂直な進退方向Dに沿って移動可能に支持する移動機構である。
【0027】
進退部42は、テーブル41によって、テーブル41上を進退方向Dに沿って移動される進退筐体46と、進退筐体46内に設けられ、シャフト部61を回転可能に支持する回転支持部(反転部)44と、を備える。
【0028】
回転支持部44は、進退筐体46内の底部の上面に設けられた反転用モータ441と、反転用モータ441の回転駆動力をプーリ及びタイミングベルトを介してシャフト部61に伝動するトルク伝動部442と、図示しない支持部材に支持された状態で、シャフト部61を回転自在に保持するベアリング46aと、を備える。回転支持部44は、反転用モータ441の回転駆動力により、シャフト部61をシャフト部61の軸心(軸線)L周りに回転させるものである。
【0029】
シャフト部61は、図2に示すように、長手方向に沿って中空部が形成されている円筒状の中空シャフトであって、図1に示すように、ベアリング46aに保持されて進退筐体46から進退方向Dに沿って真直に延ばされ、貫通円孔34に設けられたシール材(不図示)により気密にシールされた状態で、貫通円孔34に進退移動可能に挿通されている。
【0030】
また、シャフト部61の収容室3内側の端部である室内端部63には、この室内端部63の開口側にチャック43が設けられ、シャフト部61の進退筐体46内の端部には、チャック43を開閉させるチャック開閉部62が連結されている。シャフト部61及びチャック開閉部62は、図2に示すように、内部が繋がった状態で形成されている。
【0031】
チャック43は、L字状に形成された2つのチャック片が、それぞれのL字の屈曲部分で室内端部63の壁面に立設された一対の固定軸631によって回動可能に支持され、L字の長辺側である把持端43aが室内端部63の開口を介して外部に突出され、L字の短片側である駆動端43bが室内端部63の内側を向いた状態で支持されている。
【0032】
駆動端43bの先端側には、係止孔がそれぞれ設けられ、該係止孔には、Y字状に分岐されたワイヤWの先端がそれぞれ係止されている。ワイヤWの他端は、シャフト部61内に挿通され、シャフト部61内で可動シール部Pと連結されている。
【0033】
可動シール部Pは、シャフト部61の内径より僅かに小さい円を断面とする円柱体のシール部本体の外周部に、室内端部63とチャック開閉部62との間を気密にシールするシール材Sが設けられてなる。これにより、可動シール部Pは、シャフト部61の長手方向に沿って移動できるようになっている。
【0034】
また、可動シール部Pのチャック開閉部62側にも、室内端部63側同様にワイヤWが連結されており、該ワイヤWの他端は、チャック開閉部62内に設けられたチャック用モータ621の巻取プーリ621bに連結されている。
【0035】
チャック用モータ621は、回転駆動力を利用してVプーリである巻取プーリ621bにワイヤを巻き取らせるもので、チャック開閉部62内に固定されている。
【0036】
また、室内端部63の2つの固定軸631には、一端側にフック部を有する2つのねじれコイルばね632がそれぞれ挿通されている。
各ねじれコイルばね632は、フック部が各把持端43aの内側面に掛合され、他端側が固定軸631の近傍に設けられたバネ固定部633に固定されており、チャック43の把持端43a間を離間させる方向に付勢するように取り付けられている。
【0037】
このように構成されたハンドリング機構4によれば、チャック用モータ621がワイヤWの巻き取り量を調整することで、チャック43の把持端43a間の間隔を調整することができる。そのため、チャック43により被成膜物Hを側面から把持及び把持解除することができる。
【0038】
把持機構5は、図1に示すように、ハンドリング機構4によって収容室3から成膜室2へ移動された被成膜物Hを把持し、成膜機構21による成膜位置に配置するものであり、シャフト部52と、ツメ53と、ツメ開閉部54と、昇降部51と、を備える。
【0039】
シャフト部52は、成膜室筐体20の天井部に設けられた貫通円孔24に、図示しないシール材により気密にシールされた状態で上下移動可能に挿通されている中空シャフトである。
【0040】
シャフト部52の下端側には、チャック43に把持された被成膜物Hの外周面を、チャック43の把持端43aを避けて上面側から把持できるように複数のツメ53が設けられている。
また、シャフト部52の上端側には、ハンドリング機構4に用いたモータ、ワイヤ及びバネを用いた機構等でツメ53を開閉させる、ツメ開閉部54が設けられている。
【0041】
昇降部51は、ツメ開閉部54、シャフト部52を介してツメ53を上下動させる、モータ若しくはシリンダ等で構成された移動機構である。昇降部51は、ツメ53を、シャフト部61の反転時にチャック43に把持された被成膜物Hと接触しない高さである反転退避位置と、成膜機構21による成膜位置との間を昇降させる。
【0042】
このように構成された把持機構5によれば、成膜機構21の鉛直上方に位置する被成膜物Hの外周面を、ツメ53で把持した後、昇降部51によって、成膜機構21による成膜位置まで下降させることができる。また、把持機構5を成膜機構21の上方に重なる位置に配置することができるので、成膜装置1を少ないスペースで設置することができる。
【0043】
次に、上記のように構成された成膜装置1の動作について説明する。図3は、本発明に係る一実施形態の成膜装置の動作を説明するための図である。図4は、本発明に係る一実施形態の成膜装置の動作を説明するための図である。
【0044】
まず、制御手段によってゲートバルブ31を閉状態にして、収容室3と成膜室2とを遮断し、その後、第1の減圧機構22によって成膜室2内を減圧状態にする。第1の減圧機構22の動作と同時、或いは動作終了後に、作業者は、外部から収容扉32を通して収容室3内に被成膜物Hを搬入する。そして、搬入された被成膜物Hを、図1に示すように、チャック43が側面側から把持して、作業者が収容扉32を閉めた後、第2の減圧機構33によって収容室3内を減圧状態にする。
【0045】
収容室3が減圧状態になった後、制御手段によってゲートバルブ31を開状態にして、収容室3と成膜室2とを連通させる。その後、図3に示すように、テーブル41が、進退筐体46を進退方向Dに沿って収容室3側に進出させることで、チャック43に把持された被成膜物Hを進退方向Dに沿って成膜機構21の鉛直上方に進出させる。
【0046】
チャック43の移動後、ツメ53は、被成膜物Hの外周面を把持可能な位置まで昇降部51によって下降され、チャック43によって側面側から把持されている被成膜物Hを、上面側から把持する。ツメ53による把持が完了した後、図4に示すように、チャック43は、被成膜物Hを把持解除する。これにより、被成膜物Hが、チャック43からツメ53に受け渡される。チャック43は、その後テーブル41によって収容室3側へ退避される。
【0047】
チャック43の退避後、ツメ53が把持している被成膜物Hを、昇降部51によって、成膜機構21の成膜位置まで下降させ、成膜機構21によって一方の面を成膜する。成膜終了後、昇降部51によって、ツメ53に把持されている被成膜物Hを、チャック43によって把持可能な高さまで上昇させる。
【0048】
被成膜物Hを上昇させた後、該被成膜物Hを把持可能な位置まで、テーブル41がチャック43を成膜室2内に進出させた後、チャック43によって、被成膜物Hを側面側から把持させる。チャック43による把持終了後、ツメ53は、被成膜物Hを把持解除し、その後昇降部51によって反転退避位置まで上昇される。
【0049】
ツメ53の上昇後、回転支持部44によって、シャフト部61を軸心L周りに180度回転させ、チャック43に把持されている被成膜物Hをシャフト部61の軸心L周りに180度回転させる。
その後、被成膜物Hの一方の面を成膜したときと同様にして被成膜物Hの他方の面を成膜し、上記とは逆の動作によって把持機構5からハンドリング機構4で被成膜物Hを受け取り、被成膜物Hを把持したチャック43を、テーブル41によって収容扉32の近傍まで移動させる。
【0050】
チャック43の移動終了後、制御手段によりゲートバルブ31を閉状態にして、収容室3と成膜室2とを遮断し、その後、作業者は、収容室3内を大気開放して、収容扉32を通して被成膜物Hを搬出する。
以上で、成膜作業が終了する。
【0051】
この成膜装置1によれば、回転支持部44により、被成膜物Hを把持した状態のチャック43を反転させることで、被成膜物Hを取り外すことなく反転させることができる。従って、被成膜物Hの反転作業の作業効率を向上させることができる。
【0052】
また、被成膜物Hを反転させるときに、成膜室2外から成膜室2内に入って被成膜物Hを反転させる収容室3及び成膜室2を大気開放せずに、収容室3及び成膜室2の減圧状態を維持した状態でチャック43の把持姿勢を反転させることができる。従って、被成膜物Hを反転させる際、外部から成膜室2内に塵等の侵入を低減することができ、成膜室2内を減圧、清浄化する手間をかけることなく、効率的に成膜を行うことができる。
【0053】
また、テーブル41及び回転支持部44は、いずれも収容室3及び成膜室2の内部ではなく、外部に設けられており、また、ハンドリング機構4のチャック開閉部62も、可動シール部P及びシール材Sによって成膜室2に対して気密にシールされている。従って、成膜室2で成膜機構21による成膜のために、成膜室2内が高温になった場合であっても、その熱がテーブル41及び回転支持部44に伝わりにくい。このため、テーブル41、回転支持部44及びチャック開閉部62に設けられている駆動装置の信頼性を高めることができる。
【0054】
また、収容室3に被成膜物Hを搬入、或いは収容室3から被成膜物Hを搬出するときに、ゲートバルブ31によって連通開口23を閉じることで、成膜室2の減圧状態を維持することができる。従って、被成膜物Hを搬入した後に、成膜室2内で被成膜物Hを成膜するために成膜室2及び収容室3内を減圧状態にする場合、収容室3側のみ第2の減圧機構33によって減圧すればよい。このため、収容室3と成膜室2との両方を減圧機構22、33により減圧する場合に比べて、減圧に要する時間を短縮することができ、成膜作業を効率よく行うことができる。
【0055】
また、ゲートバルブ31によって連通開口23を閉じることで、成膜室2を大気開放せずに、収容室3に被成膜物Hを搬入、或いは収容室3から被成膜物Hを搬出することができる。従って、被成膜物Hを搬入或いは搬出する際、外部から成膜室2内に塵等の侵入を防ぐことができ、被成膜物Hに対して効率的に成膜することができる。
【0056】
次に、本発明のハンドリング機構4の変形例であるハンドリング機構4Aを、図5を参照して説明する。図5は、本発明に係る一実施形態のハンドリング機構の変形例の一部分を示す模式的な断面図である。なお、以下のハンドリング機構4Aの説明においては、ハンドリング機構4の構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0057】
ハンドリング機構4Aにおいて、チャック43には、図5に示すように、駆動端43bの先端側に、軸心が固定軸631と平行な円柱状の駆動ピン71がそれぞれ設けられている。駆動ピン71には、矩形状のプレート72が、プレート72の長手方向に並んで、且つ長手方向に沿って設けられた2つの長穴72aに駆動ピン71が挿通することで、支持されている。
【0058】
また、プレート72のシャフト部61側の長手方向の中間位置には、円柱状の駆動シャフト73が連結されている。
駆動シャフト73は、シャフト部61に挿通され、連結部材を介してチャック開閉部62内のエアシリンダ74のロッド74aに連結されている。また、駆動シャフト73の中間部には、駆動シャフト73の円周方向に沿って溝が形成されており、この溝には、チャック開閉部62と室内端部63とを気密にシールするシール材Sが設けられている。
【0059】
エアシリンダ74は、ロッド74aをシャフト部61の長手方向に沿って進退させるものであり、チャック開閉部62の内部で側壁面に固定されている。
【0060】
このように構成されたハンドリング機構4Aによれば、エアシリンダ74によってプレート72を進退させて、固定軸631に対し駆動ピン71を移動させることで、チャック43の把持端43a間の間隔を調整することができる。そのため、チャック43により被成膜物Hを側面から把持及び把持解除することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、上記実施形態では、トルク伝動部442として、プーリ及びタイミングベルトを用いたが、シャフト部61を反転させることができればこれに限らず、両ギアを噛合させてトルクを伝動し、シャフト部61を反転させる等しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る一実施形態の成膜装置を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態のハンドリング機構の一部分を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の成膜装置の動作を説明するための図である。
【図4】本発明に係る一実施形態の成膜装置の動作を説明するための図である。
【図5】本発明に係る一実施形態のハンドリング機構の変形例の一部分を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 成膜装置
2 成膜室
3 収容室
4、4A ハンドリング機構
5 把持機構
H 被成膜物
L シャフト部の軸心(軸線)
21 成膜機構
22 第1の減圧機構
23 連通開口
31 ゲートバルブ(遮断機構)
33 第2の減圧機構
41 テーブル(ハンド移動部)
43 チャック(把持ハンド)
44 回転支持部(反転部)
61 シャフト部(ハンド支持部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧状態で被成膜物を一定方向側から成膜する成膜機構が配置された成膜室と、前記被成膜物を収容するために前記成膜室に隣接して連通可能に設けられた収容室と、を備える成膜装置に用いられる前記被成膜物のハンドリング機構であって、
前記被成膜物を把持及び把持解除する把持ハンドと、
該把持ハンドを、前記収容室から前記成膜室までの範囲で移動可能且つ把持姿勢を反転可能に支持するハンド支持部と、
前記収容室及び前記成膜室の外部に配置され、前記ハンド支持部を介して、前記収容室から前記成膜室までの範囲で前記把持ハンドを移動させるハンド移動部と、
前記収容室及び前記成膜室の外部に配置され、前記把持ハンドの把持姿勢を反転させる反転部と、
を備えることを特徴とするハンドリング機構。
【請求項2】
請求項1に記載のハンドリング機構において、
前記ハンド支持部は、一定の軸線方向に沿って真直に延ばされて、前記軸線方向に沿って進退可能に支持され、前記把持ハンドが一端側に設けられたシャフト部を有し、
前記反転部は、前記シャフト部を前記軸線方向周りに回転させることで前記把持ハンドを反転させること、
を特徴とするハンドリング機構。
【請求項3】
減圧状態で被成膜物を一定方向側から成膜する成膜機構が配置された成膜室と、前記被成膜物を収容するために前記成膜室に隣接して連通可能に設けられた収容室と、を備える成膜装置であって、
請求項1又は請求項2に記載のハンドリング機構と、
該ハンドリング機構によって前記収容室から前記成膜室へ移動された前記被成膜物を把持し、前記成膜機構による成膜位置に配置する把持機構と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項3に記載の成膜装置において、
前記成膜機構は、前記成膜位置に配置された前記被成膜物を鉛直下方向から成膜し、
前記ハンドリング機構は、前記把持ハンドを、前記収容室と前記成膜室との間で水平方向に移動して、前記被成膜物を前記成膜機構の上方に配置し、
前記把持機構は、前記ハンドリング機構によって前記成膜機構上に移動された前記被成膜物に対して、鉛直上方から進退して、前記被成膜物の把持及び前記成膜位置への移動を行うこと、
を特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の成膜装置において、
前記収容室と前記成膜室との間に設けられた連通開口と、
該連通開口を開閉し、閉状態では前記連通開口を気密に遮断する遮断機構と、
前記成膜室を減圧する第1の減圧機構と、
前記収容室を減圧する第2の減圧機構と、
を備えることを特徴とする成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−275260(P2009−275260A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127430(P2008−127430)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】