説明

ハンマーグラブ制御システム

【課題】ハンマーグラブの回転を制御すて、油圧配管チューブ等の捩じれ破損を防止するハンマーグラブ制御システムを提供する。
【解決手段】筒状基枠10に、地盤中に打ち込まれるケーシングCの中心部側から半径方向に進退移動可能で、ケーシングC内周面に圧接し筒状基枠10をケーシングCと一体化するプッシャー31を有するスタビライザー13を一体的に設け、スタビライザー13に一体的に連結する内軸体14aと回転可能に外嵌された外筒体14bとからなるスイベル機構14を有し、スイベル機構14の外筒体14bに吊り下げ接続部5を設けたハンマーグラブH1において、伝動機構を介してスイベル機構14の外筒体14bを回転駆動するモータ3と、ハンマーグラブH1の回転時に発生する外筒体14bの周方向のねじれ角を補正し、モータ3の回転を制御して外筒体14bをねじれ前の位置に復帰させるモータ制御装置4を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、場所打ち杭工法におけるケーシング内側の岩石や適当な手段で切断又は破砕した既設杭の如き埋入障害物の掴み出し等で使用されるハンマーグラブの回転を制御するハンマーグラブ制御システムに関する。より好ましくは、スイベル機構の外筒体の回転制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハンマーグラブとしては、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1に開示されているハンマーグラブを図5及び図6に示す。図5は、ハンマーグラブHの全体を示す縦断面図、図6は、図5のX−X線断面図である。
【0003】
ハンマーグラブHは、筒状基枠10の下端部にシェル取付枠11を固定し、このシェル取付枠11に一対のシェル12,12が枢着されている。そして、筒状基枠10には、スタビライザー13が一体的に設けられ、このスタビライザー13にはスイベル機構14が一体的に連結されている。
【0004】
筒状基枠10は、筒状基枠10内に、シェル開閉駆動用の油圧シリンダ15を同心状に配置すると共に、筒状基枠10内の下部に昇降枠16が昇降可能に取り付けられている。そして、油圧シリンダ15は、油圧シリンダ本体15aと、ピストンロッド15bからなり、このピストンロッド15bが、昇降枠16と一体的に連結されている。
【0005】
一方、昇降枠16の下端部には、ロッド取付部材17が一体的に設けられ、このロッド取付部材17の両端部側には一対のコネクティングロッド18,18の一端部がピン19で枢着されている。また、筒状基枠10の下端部に一体的に取り付け固定されたシェル取付枠11には、一対のシェル12,12が夫々ピン20で枢着され、両シェル12,12の揺動レバー12a,12aの夫々先端部と両コネクティングロッド18,18の他端部とが夫々ピン21で枢着されている。なお、ロッド取付部材17、一対のコネクティングロッド18,18、両シェル12,12の揺動レバー12a,12a及びピン19,20,21がリンク機構22を構成している。
【0006】
スタビライザー13は、シェル取付枠11やシェル12の外径とほぼ同じ外径の周壁30aを備えた機枠30を有する。周壁30aには前後左右4つの開口部38が設けられ、機枠30内には、図5及び図6から分かるように、下段側と上段側とに夫々両側一対のプッシャー31,31が配設されている。そして、下段側2つのプッシャー31,31は、スライド部材33,33の先端部に夫々取り付けられ、このスライド部材33,33は、直径方向に沿うように設けられた下段側ガイド枠32の両端部側に設けられている。このように構成された下段側2つのプッシャー31,31は、両スライド部材33,33間に介設された復動形油圧シリンダ34により同時に進退駆動される。
【0007】
一方、上段側2つのプッシャー31,31は、スライド部材36,36の先端部に夫々取り付けられ、このスライド部材36,36は、下段側ガイド枠32と直交するように直径方向に設けられた上段側ガイド枠35の両端部側に設けられている。このように構成された上段側2つのプッシャー31,31は、両スライド部材36,36間に介設された復動形油圧シリンダ37により同時に進退駆動される。
【0008】
スイベル機構14は、内軸体14aと外筒体14bとからなり、外筒体14bは、内軸体14aに軸受(図示せず)を介して相対回転のみ可能に外嵌され、内軸体14aは、油圧シリンダ本体15aの上端側にスタビライザー13を介して同軸状に一体的に連結されている。それがために、スタビライザー13の機枠30が、筒状基枠10の上端部に取付枠40を介して筒状基枠10に同心状に取付け固定されているから、この機枠30の上端側中央部に内軸体14aが筒状基枠10と同心状に立設固定されることとなる。
【0009】
また、スイベル機構14の外筒体14bには、シェル開閉駆動用油圧シリンダ15のシリンダ本体15aに対する圧力油の給排を行う給排油口41,42が設けられ、これら給排油口41,42には、内軸体14aに設けられた通油路43,44が夫々連通されている。そして、これら通油路43,44は、図示しない通油管を介して油圧シリンダ本体15aの給排油口につながっている。
【0010】
さらに、スイベル機構14の外筒体14bには、スタビライザー13の油圧シリンダ34,37に対する圧力油の給排を行う給排油口45,46が設けられている。これら給排油口45,46は、内軸体14aに設けられた通油路(図示せず)に夫々連通され、それらの通油路は通油管を介して油圧シリンダ34,37の夫々の給排油口につながっている。
【0011】
一方、スイベル機構14の外筒体14bには、吊り下げ接続部50が設けられている。この吊り下げ接続部50は、取付リング50a及び複数の支持片50bで構成され、取付リング50aは、外筒体14bに同心状に外嵌された状態に固着されると共に、この取付リング50aの下面側には複数の支持片50bが垂設された状態で外筒体14bの外周面に周方向一定間隔で固着される。そして、このように形成された吊り下げ接続部50上には2個のシーブ60,60が並設され、両シーブ60,60に吊り下げ用ワイヤー61が掛装されている。しかして、このように、吊り下げ接続部50上に2個のシーブ60,60に吊り下げ用ワイヤー61を掛装することにより、ハンマーグラブHの吊り下げ時に吊り下げ接続部50の回転を阻止して固定状態に保持することができる。
【0012】
以上のように構成されたハンマーグラブHを用いて地盤中に埋設されている既設杭を引き抜くには、まず、クレーンのジブ先端から垂下した吊り下げ用ワイヤー61によりハンマーグラブHを吊支し、場所打ち杭工法において一般的に使用される全周回転駆動装置を用いて地盤中に貫入されたケーシングCの内周面に、ハンマーグラブHのシェル12,12を図5の実線図示のような開放姿勢の状態にしたまま降下させる。そして、ハンマーグラブHを降下させた後、ケーシングCの内周面側に存在する地盤中に埋設されている既設杭を掴むために、シェル12,12を図5の仮想線図示のような閉鎖姿勢にする。なお、シェル12,12を閉鎖姿勢にするには、油圧シリンダ15のピストンロッド15bを収縮作動させることによって、昇降枠16が下限位置から上限位置まで上昇するため、両シェル12,12が、上記リンク機構22によって開放姿勢から閉鎖姿勢となる。
【0013】
そして次に、ハンマーグラブHのシェル12,12によって既設杭を掴んだ後、ケーシングCの内周面にスタビライザー13のプッシャー31を圧接させて、筒状基枠10をケーシングCと一体化した状態で、全周回転駆動装置によりケーシングCを回転させながら引き抜く。そうすると、ハンマーグラブHのシェル12,12で掴んだ既設杭を地上へ容易に引き出すことができる。なお、ケーシングCの内周面にスタビライザー13のプッシャー31を圧接させるには、復動形油圧シリンダ34,37を外向き半径方向に前進駆動させればよい。そうすると、4つのプッシャー31・・・が、機枠30の周壁30aに設けられた前後左右4つの開口部38・・・から突出して、図5及び図6の仮想線図示のようにケーシングCの内周面に圧接する。それにより機枠30を介して筒状基枠10をケーシングCと一体化させることができる。
【0014】
また一方で、このハンマーグラブHによれば、筒状基枠10とシェル取付枠11とシェル12とシェル開閉駆動用油圧シリンダ15と昇降枠16とスイベル機構14の内軸体14aとスタビライザー13とが互いに一体的に連結されていて、これら一連の部材10,11,12,13,14a,15,16と、スイベル機構14の外筒体14bとが相対回転可能であるから、スイベル機構14の外筒体14bに一体的に設けた吊り下げ接続部50を固定状態に保持することによって、上記一連の部材10,11,12,13,14a,15,16が回転フリーとなる。しかして、このハンマーグラブHは、シェル取付枠11やシェル12が回転するケーシングCに接触したとしても、上記一連の部材10,11,12,13,14a,15,16が共周りするだけで、吊り下げ接続部50は非回転状態に保持されるから、吊り下げ用ワイヤー61、油圧配管チューブ、その他のワイヤーが捩じれて破損するおそれがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−138394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記説明したように、特許文献1に開示されているハンマーグラブは、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損を防止できる点でかなり有用なものであった。しかし、このハンマーグラブの吊支には2本以上の吊り下げ用ワイヤーが必要であり、1本の吊り下げ用ワイヤーでは、このハンマーグラブを吊支することができず、それがために、1本の吊り下げ用ワイヤーでハンマーグラブを吊支した場合に、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損を防止できないという問題が生じていた。そのため、1本の吊り下げ用ワイヤーでハンマーグラブを吊支した場合であっても、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損を防止できるようなハンマーグラブの開発が望まれていた。
【0017】
本発明は、上記のような事情に鑑み開発されたもので、1本の吊り下げ用ワイヤーでハンマーグラブを吊支した場合であっても、ハンマーグラブの回転、特に、スイベル機構の外筒体の回転を制御することで、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損を防止することができるハンマーグラブ制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための手段を、後述する実施形態の参照符号を付して説明すると、請求項1の発明にかかるハンマーグラブ制御システムは、筒状基枠10に、地盤中に打ち込まれるケーシングCの内周面に対し中心部側から外向き半径方向に進退移動可能で前進時にケーシングC内周面に圧接して筒状基枠10をケーシングCと一体化するためのプッシャー31を有するスタビライザー13を一体的に設けてなり、該スタビライザー13に一体的に連結されてなる内軸体14aとこれに回転可能に外嵌された外筒体14bとからなるスイベル機構14を有し、該スイベル機構14の外筒体14bに吊り下げ接続部5を設けてなるハンマーグラブH1において、伝動機構(第1の歯車1,第2の歯車2)を介して前記スイベル機構14の外筒体14bを回転駆動するモータ3と、前記前記ハンマーグラブH1の回転時に発生する前記外筒体14bの周方向のねじれ角を補正し、前記外筒体14bがねじれ前の位置に復帰するよう前記モータ3の回転を制御してなるモータ制御装置4,4´と、を有してなることを特徴としている。
【0019】
請求項2の発明は、前記請求項1に記載のハンマーグラブ制御システムにおいて、前記モータ制御装置4は、前記ハンマーグラブH1の回転角度変位量を検知する位置センサ4aと、前記位置センサ4aで検知した回転角度変位量に応じた前記モータ3の回転量を算出する中央制御部4cと、前記中央制御部4cで算出したモータ3の回転量に応じて前記モータ3を駆動するモータ駆動部4dと、前記中央制御部4cを作動させるために、前記筒状基枠10が、前記プッシャー31によって前記ケーシングCと一体化したことを検知し、その検知した信号を作動信号として前記中央制御部4cに送出する圧力スイッチ4eと、を有してなることを特徴としている。
【0020】
請求項3の発明は、前記請求項1に記載のハンマーグラブ制御システムにおいて、前記モータ制御装置4´は、前記モータ3の回転量をあらかじめ設定可能な中央制御部4c´と、前記中央制御部4c´で設定されたモータ3の回転量に応じて前記モータ3を駆動するモータ駆動部4dと、前記中央制御部4c´を作動させるために、前記筒状基枠10が、前記プッシャー31によって前記ケーシングCと一体化したことを検知し、その検知した信号を作動信号として前記中央制御部4c´に送出する圧力スイッチ4eと、を有してなることを特徴としている。
【0021】
請求項4の発明は、前記請求項2に記載のハンマーグラブ制御システムにおいて、前記位置センサ4aは、光ファイバジャイロであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。まず、請求項1の発明にかかるハンマーグラブ制御システムは、プッシャー31によって筒状基枠10とケーシングCとが一体化し、筒状基枠10は、ケーシングCの回転にともなって回転し、且つ、筒状基枠10に一体的に設けられているスタビライザー13及び、そのスタビライザー13に一体的に連結されているスイベル機構14の内軸体14aも共周りする。一方で、スイベル機構14の外筒体14bは、内軸体14aと共周りしないように内軸体14aに回転可能に外嵌されているものの、内軸体14aの回転時にその摩擦抵抗によって回転付勢され回転変位が発生する。その際、上記外筒体14bを回転変位前の位置に戻すために、伝動機構(第1の歯車1,第2の歯車2)を介して上記外筒体14bをモータ3によって回転駆動する。これによって、外筒体14bは、伝動機構(第1の歯車1,第2の歯車2)を介してモータ3によって回転変位前の位置に回転駆動されることになる。
【0023】
このモータ3の回転制御は、モータ制御装置4によって制御されている。モータ制御装置4は、ハンマーグラブH1の回転時に発生する上記外筒体14bの周方向のねじれ角(内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転変位した際の回転変位角度)を補正し、上記外筒体14bがねじれ前の位置(内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転する回転変位前の位置)に復帰するようにモータ3の回転を制御する。
【0024】
しかして、上記のようなモータ制御装置4を用いてモータ3を回転駆動することによって、スイベル機構14の外筒体14bは、内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転付勢された回転力に抗して回転変位前の位置に復帰し、あたかも静止しているかのような状態に保持されることとなる。それがために、1本の吊り下げ用ワイヤーで吊り下げ接続部5を用いてハンマーグラブH1を吊支した場合であっても、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損を防止することができる。
【0025】
請求項2の発明によれば、圧力スイッチ4eにて前記プッシャー31によって前記ケーシングCと一体化したことを検知し、その検知した信号によって中央制御部4cは作動する。そして、その作動後、中央制御部4cは、位置センサ4aを用いて検知したハンマーグラブH1の回転角度変位量に基づいてモータ3の回転量を算出し、その算出した回転量に応じてモータ駆動部4dは、モータ3を駆動している。それがために、スイベル機構14の外筒体14bは、内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転する回転変位前の位置に、精度よく、保持されることとなるから、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損の防止をより確実に行うことができる。
【0026】
請求項3の発明によれば、圧力スイッチ4eにて前記プッシャー31によって前記ケーシングCと一体化したことを検知し、その検知した信号によって中央制御部4cは作動する。そして、その作動後、中央制御部4c´はあらかじめ設定されているモータ3の回転量に応じてモータ駆動部4dは、モータ3を駆動している。それがために、スイベル機構14の外筒体14bの位置は、スイベル機構14の内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転する回転変位前の位置に限りなく近い位置に戻ることとなるから、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損を防止することができる。さらには、部品点数が少ないため、モータ制御装置を安価に製作することができる。
【0027】
請求項4の発明によれば、位置センサ4aは、光ファイバジャイロからなるから、機械的な回転を精度よく検知しえる。それがために、スイベル機構14の外筒体14bは、スイベル機構14の内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転する回転変位前の位置に、さらに精度良く保持されることとなるから、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損の防止をさらに確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ハンマーグラブ制御システム全体を示す縦断面図である。
【図2】第1実施形態に係るモータ制御装置のブロック図である。
【図3】ハンマーグラブの回転を制御、すなわち、スイベル機構の外筒体の回転を制御する方法を示すフローチャート図である。
【図4】第2実施形態に係るモータ制御装置のブロック図である。
【図5】従来のハンマーグラブの全体を示す縦断面図である。
【図6】図5のX−X線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1実施形態>
以下、本発明に係るハンマーグラブ制御システムの第1実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明に係るハンマーグラブ制御システム全体を示す縦断面図、図2はモータ制御装置のブロック図である。なお、後述する本発明に係るハンマーグラブH1については、ハンマーグラブHと同一構成については同一符号を付し、その構成についての説明は省略することとする。
【0030】
ハンマーグラブ制御システムは、図1に示すように、ハンマーグラブH1のスイベル機構14の外筒体14aに第1の歯車1が取り付けられ、その第1の歯車1に噛合する第2の歯車2が、モータ3の出力軸3aに取り付けられている。そして、このモータ3の出力軸3aはスタビライザー13の機枠30に回転可能に取り付けられる。さらに、スタビライザー13の機枠30には、上記ハンマーグラブH1の回転時に発生する上記外筒体14bの周方向のねじれ角を補正し、上記外筒体14bがねじれ前の位置に復帰するようにモータ3の回転を制御するモータ制御装置4が固定されている。なお、本実施形態においては、伝動機構として歯車機構を例示しているが、これに限定されることはなく、例えば、ベルト機構であってもよい。また、ねじれ角とは、スイベル機構14の外筒体14bが、内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転変位した際の回転変位角度をいう。
【0031】
ハンマーグラブH1は、上記説明したハンマーグラブHと略同様の構成であり、吊り下げ用ワイヤーを取り付ける吊り下げ接続部の構造が異なる。ハンマーグラブH1の吊り下げ接続部5は、支持片5a及び取付リング5bとからなり、支持片5aが、スイベル機構14の外筒体14bにピン6で固定され、取付リング5bは、支持片5aにボルト・ナット7で固着されている。このように構成されたハンマーグラブH1は、吊り下げ接続部5の取付リング5bに吊り下げ用ワイヤー(図示せず)が取り付けられることで吊支される。
【0032】
モータ3は、DCモータからなり、減速機が取り付けられている。このように、モータ3に減速機を取り付ければ、モータ3のトルクが上がり、さらには回転速度を低速に変えることができる。
【0033】
このように構成されたハンマーグラブ制御システムは、地盤中に埋設されている既設杭を引き抜くにあたって、ハンマーグラブH1のシェル12,12を用いて既設杭を掴み、ケーシングCの内周面にハンマーグラブH1のスタビライザー13に設けられているプッシャー31を圧接させて、筒状基枠10をケーシングCと一体化した状態で、全周回転駆動装置を用いてケーシングCを回転させながら引き抜く。その際、ケーシングCと筒状基枠10とは一体化しているため、筒状基枠10と一体的に連結しているシェル取付枠11とシェル12とシェル開閉駆動用油圧シリンダ15と昇降枠16とスイベル機構14の内軸体14aとスタビライザー13も、筒状基枠10の回転にともない共周りすることとなる。一方で、スイベル機構14の外筒体14bは、内軸体14aと共周りしないように、内軸体14aに軸受(図示せず)を介して相対回転のみ可能に外嵌されているものの、外筒体14bは、上記吊り下げ接続部5で吊り下げられているだけで外力を受けると、回転変位する可能性があるため、外筒体14bは、内筒体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転変位する。そこで、モータ制御装置4は、外筒体14bの周方向のねじれ角、すなわち、内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転した際の回転変位角度を補正するために、モータ3を駆動し、モータ3の出力軸3aに取り付けられている第2の歯車2を回転させる。これにより、第2の歯車2に噛合する第1の歯車1は、第2の歯車2の回転にともない回転し、それがために、スイベル機構14の外筒体14bは、第1の歯車1の回転と同方向に回転することになる。
【0034】
しかして、スイベル機構14の外筒体14bは、その静止位置、すなわち、内筒体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転付勢されて回転変位する前の位置に、モータ3の回転を、モータ制御装置4を用いて制御することによって復帰させることができる。それがために、1本の吊り下げ用ワイヤーで吊り下げ接続部5を用いてハンマーグラブH1を吊支した場合であっても、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損を防止することができる。
【0035】
次に、モータ3の回転をモータ制御装置4で制御する方法をより具体的に説明する。モータ制御装置4は、図2に示すように、位置センサ4a、位置センサ制御部4b、中央制御部4c、モータ駆動部4d、圧力スイッチ4e、バッテリー4f、DC/DCコンバータ4gで構成される。
【0036】
位置センサ4aは、光ファイバジャイロからなり、筒状基枠10とケーシングCとが一体化してケーシングCが回転した際に、ハンマーグラブH1がいくら回転したかの回転角度変位量を検知する。なお、光ファイバジャイロとは、光の干渉を利用して機械的な回転を検出するジャイロスコープである。より具体的には、光源から出力される光を、ループ状の光路を構成するセンシングループ(光ファイバをコイル状に巻いたセンサ部)に伝搬させると、ジャイロの回転の際、右回りの光と左回りの光との間に伝搬時間差が生じるというサニャク効果を利用して、回転角速度を検出するというものである。このような光ファイバジャイロとしては、光干渉型光ファイバジャイロや受動型リング共振方式光ファイバジャイロなど各種のものが知られており、いずれの方式のものを用いてもよい。なお、位置センサとしては、光ファイバジャイロを用いるのが好ましい。機械的な回転を検知するのに最適だからである。
【0037】
位置センサ制御部4bは、位置センサ4aで検知したハンマーグラブH1の回転角度変位量を受信し、中央制御部4cに送信する。また、位置センサ制御部4bは、位置センサ4aをリセットして回転角の初期値をゼロにする制御も行う。
【0038】
中央制御部4cは、CPU等からなるもので、位置センサ制御部4bから送信された回転角度変位量に基づいて、モータ3の回転量を算出し、その算出した回転量をモータ駆動部4cに送信する。また、中央制御部4cは、リセット信号を位置センサ制御部4bに送信する。このリセット信号は、位置センサ制御部4bが位置センサ4aをリセットするための作動信号である。なお、中央制御部4cは、圧力スイッチ4eから送信されてくる作動信号によって作動するものである。
【0039】
モータ駆動部4dは、位置センサ制御部4bから送信される回転量に応じて、モータ3を駆動する。また、モータ駆動部4dは、上記回転量に応じてモータ3を駆動したか否かの信号を中央制御部4cへ送信する。
【0040】
圧力スイッチ4eは、ハンマーグラブH1のスタビライザー13に設けられているプッシャー31をケーシングCの内周面に圧接させて、筒状基枠10をケーシングCと一体化させたことを検知する。すなわち、圧力スイッチ4eは、上記プッシャー31がケーシングCの内周面に圧接したことを検知する。そして、圧力スイッチ4eは、その検知した信号を作動信号として、中央制御部4cに送信する。
【0041】
バッテリー4fは、中央制御部4c、モータ駆動部4d、DC/DCコンバータ4gの駆動電源を供給する。なお、バッテリーとしては、場所打ち杭工法におけるケーシング内側の岩石や適当な手段で切断又は破砕した既設杭の如き埋入障害物の掴み出し等で使用されるハンマーグラブの回転を制御するという事情に鑑み、8時間〜9時間程度持続的に使用できるものが好ましい。
【0042】
DC/DCコンバータ4gは、バッテリー4fから供給された電圧を位置センサ制御部4bの駆動電源に応じた電源に変換し、その変換した電源を位置センサ制御部4bに供給する。
【0043】
以上のように構成されるモータ制御装置4を用いて、モータ3を駆動し、スイベル機構14の外筒体14bを、あたかも静止しているかのような状態に保持する方法を図3に基づいて説明する。図3は、ハンマーグラブH1の回転を制御、すなわち、スイベル機構14の外筒体14bの回転を制御する方法を示すフローチャート図である。
【0044】
まず、圧力スイッチ4eにて、ハンマーグラブH1のスタビライザー13に設けられているプッシャー31がケーシングCの内周面に圧接し、筒状基枠10とケーシングCとが一体化したことを検知する(ステップS1)。そして、圧力スイッチ4eは、その検知した信号を作動信号として中央制御部4cに送信し、中央制御部4cは、その作動信号によって動作を開始する(ステップS2)。
【0045】
中央制御部4cは、上記作動信号によって動作を開始すると共に、リセット信号を位置センサ制御部4bに送信する。すると、位置センサ制御部4bは、そのリセット信号に基づいて、位置センサ4aをリセットし、回転角の初期値をゼロにする(ステップS3)。なお、本実施形態に示したように、必ずしも位置センサ制御部4bを用いて位置センサ4aをリセットし、回転角の初期値をゼロにしなくても良いが、回転角の初期値をゼロにした方が好ましい。検知の精度が向上するためである。
【0046】
回転角の初期値がゼロとなった位置センサ4aは、全周回転駆動装置によってケーシングCと共に回転させられているハンマーグラブH1が、例えば左に5rpm/sで回転した際に左に5°回転したという回転角度変位量を検知する(ステップS4)。その検知した回転角度変位量は、位置センサ制御部4bを介して中央制御部4cに送信され、中央制御部4cは、その回転角度変位量に応じて、モータ3の回転量を算出する。すなわち、位置センサ4aで検知したハンマーグラブH1の回転角度変位量は、左に5°回転した量であるから、中央制御部4cは、上記スイベル機構14の外筒体14bを右に5°回転させるようにモータ3の回転量を算出する(ステップS5)。
【0047】
中央制御部4cは、上記算出した回転量を、モータ駆動部4dに送信し、モータ駆動部4dは、その回転量に応じてモータ3を駆動する。これにより、ケーシングCと共に回転するスイベル機構14の内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって、左に5°回転したハンマーグラブH1におけるスイベル機構14の外筒体14bは、右に5°回転することとなり、スイベル機構14の外筒体14bの位置は、スイベル機構14の内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転する回転前の位置に戻ることとなる(ステップS6)。しかして、ステップS4〜ステップS6の動作を繰り返すことにより、スイベル機構14の外筒体14bは、あたかも静止しているかのような状態に保持されることとなる。
【0048】
以上説明した本発明の第1実施形態によれば、圧力スイッチ4eにて前記プッシャー31によって前記ケーシングCと一体化したことを検知し、その検知した信号によって中央制御部4cは作動する。そして、その作動後、中央制御部4cは、位置センサ4aを用いて検知したハンマーグラブH1の回転角度変位量に基づいてモータ3の回転量を算出し、その算出した回転量に応じてモータ駆動部4dは、モータ3を駆動している。それがために、スイベル機構14の外筒体14bは、内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転する回転変位前の位置に、精度よく、保持されることとなるから、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損の防止をより確実に行うことができる。
【0049】
<第2実施形態>
以下に本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明すると、図4は第2実施形態に係るモータ制御装置のブロック図である。第1実施形態に係るハンマーグラブ制御システムと第2実施形態に係るハンマーグラブ制御システムとの相違は、モータ制御装置のみが相違する。そのため、以下、相違点であるモータ制御装置のみについて説明し、それ以外の構成についての説明は省略することとし、第1実施形態と同一構成については、同一の符号を付し、説明は省略することとする。
【0050】
第2実施形態のハンマーグラブ制御システムに係るモータ制御装置4´は、中央制御部4c´、モータ駆動部4d、圧力スイッチ4e、バッテリー4fで構成される。
【0051】
中央制御部4c´は、CPU等からなるもので、モータ3の回転量をあらかじめ設定できるようなフラッシュメモリ等からなる記憶装置が内蔵されている。なお、中央制御部4cは、圧力スイッチ4eから送信されてくる作動信号によって作動する。
【0052】
以上のように構成されるモータ制御装置4´は、圧力スイッチ4eにて、ハンマーグラブH1のスタビライザー13に設けられているプッシャー31がケーシングCの内周面に圧接し、筒状基枠10とケーシングCとが一体化したことを検知する。そして、圧力スイッチ4eは、その検知した信号を作動信号として中央制御部4c´に送信し、中央制御部4c´は、その作動信号によって動作を開始する。すると、中央制御部4c´は、あらかじめ設定されているモータ3の回転量(例えば、まず右に5rpm/s、次に左に5rpm/s、そして次に右に5rpm/s等)をモータ駆動部4dに送信し、モータ駆動部4dは、その回転量に応じて、モータ3を駆動する。しかして、スイベル機構14の外筒体14bの位置は、スイベル機構14の内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転する前の位置に限りなく近い位置に戻ることとなる。
【0053】
以上説明した本発明の第2実施形態によれば、圧力スイッチ4eにて前記プッシャー31によって前記ケーシングCと一体化したことを検知し、その検知した信号によって中央制御部4cは作動する。そして、その作動後、中央制御部4c´はあらかじめ設定されているモータ3の回転量に応じてモータ駆動部4dは、モータ3を駆動している。それがために、スイベル機構14の外筒体14bの位置は、スイベル機構14の内軸体14aの回転時の摩擦抵抗によって回転する前の位置に限りなく近い位置に戻ることとなるから、吊り下げ用ワイヤー、油圧配管チューブ、その他のワイヤーの捩じれ破損を防止することができる。さらには、部品点数が少ないため、モータ制御装置を安価に製作することができる。
【0054】
なお、上記説明した第1実施形態及び第2実施形態で説明したモータ制御装置4,4´の各ブロックは、本実施形態で説明したように一体的に形成してもよいし、各ブロック毎に別個の装置として形成してもよい。
【0055】
また、上記説明した第1実施形態及び第2実施形態のハンマーグラブH1では、1本のワイヤーでハンマーグラブH1を吊支したものを示したが、勿論2本以上のワイヤーでハンマーグラブを吊支してもよい。
【0056】
さらに、上記説明した第1実施形態及び第2実施形態のハンマーグラブ制御システムを、地下水に浸入する場合には、モータ3及びモータ制御装置4,4´に防水カバーを取り付けた方が好ましい。
【符号の説明】
【0057】
H1 ハンマーグラブ
C ケーシング
1 第1の歯車(伝動機構)
2 第2の歯車(伝動機構)
3 モータ
4,4´ モータ制御装置
4a 位置センサ
4b 位置センサ制御部
4c,4c´ 中央制御部
4d モータ駆動部
4e 圧力スイッチ
5 吊り下げ接続部
10 筒状基枠
13 スタビライザー
14 スイベル機構
14a 内軸体
14b 外筒体
31 プッシャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状基枠に、地盤中に打ち込まれるケーシングの内周面に対し中心部側から外向き半径方向に進退移動可能で前進時にケーシング内周面に圧接して筒状基枠をケーシングと一体化するためのプッシャーを有するスタビライザーを一体的に設けてなり、該スタビライザーに一体的に連結されてなる内軸体とこれに回転可能に外嵌された外筒体とからなるスイベル機構を有し、該スイベル機構の外筒体に吊り下げ接続部を設けてなるハンマーグラブにおいて、
伝動機構を介して前記スイベル機構の外筒体を回転駆動するモータと、
前記ハンマーグラブの回転時に発生する前記外筒体の周方向のねじれ角を補正し、前記外筒体がねじれ前の位置に復帰するよう前記モータの回転を制御してなるモータ制御装置と、
を有してなることを特徴とするハンマーグラブ制御システム。
【請求項2】
前記モータ制御装置は、
前記ハンマーグラブの回転角度変位量を検知する位置センサと、
前記位置センサで検知した回転角度変位量に応じた前記モータの回転量を算出する中央制御部と、
前記中央制御部で算出したモータの回転量に応じて前記モータを駆動するモータ駆動部と、
前記中央制御部を作動させるために、前記筒状基枠が、前記プッシャーによって前記ケーシングと一体化したことを検知し、その検知した信号を作動信号として前記中央制御部に送出する圧力スイッチと、を有してなる請求項1に記載のハンマーグラブ制御システム。
【請求項3】
前記モータ制御装置は、
前記モータの回転量をあらかじめ設定可能な中央制御部と、
前記中央制御部で設定されたモータの回転量に応じて前記モータを駆動するモータ駆動部と、
前記中央制御部を作動させるために、前記筒状基枠が、前記プッシャーによって前記ケーシングと一体化したことを検知し、その検知した信号を作動信号として前記中央制御部に送出する圧力スイッチと、を有してなる請求項1に記載のハンマーグラブ制御システム。
【請求項4】
前記位置センサは、光ファイバジャイロである請求項2に記載のハンマーグラブ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−102463(P2011−102463A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256694(P2009−256694)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(390016458)三和機工株式会社 (19)
【Fターム(参考)】