説明

バイポーラ電池、組電池、およびこれらを搭載した車両

【課題】 末端極の集電体にバイポーラ電極の集電体と同じ材料を用いても、電流密度分布のばらつきを抑えて電流を均一に取り出すことが可能なバイポーラ電池、組電池、およびこれらを搭載した車両を提供する。
【解決手段】 バイポーラ電池10は、電池要素30の正極末端極33の集電体21に電気的に接続される正極タブ51と、電池要素の負極末端極34の集電体に電気的に接続される負極タブ52と、を備えている。正極タブは、正極末端極の少なくとも正極活物質層22の投影面積よりも大きい大きさを有し、正極活物質層の投影面を覆うように集電体上に重ねて配置されている。負極タブは、負極末端極の少なくとも負極活物質層24の投影面積よりも大きい大きさを有し、負極活物質層の投影面を覆うように集電体上に重ねて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイポーラ電池、該バイポーラ電池を複数個電気的に接続してなる組電池、およびこれらを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる積層型のバイポーラ電池に注目が集まっている(特許文献1参照)。
【0003】
バイポーラ電池は、バイポーラ電極を電解質層を介在させて複数直列に接続してなる電池要素を含む。バイポーラ電極は、集電体の一方の面に正極活物質層を設けて正極が形成され、他方の面に負極活物質層を設けて負極が形成されている。バイポーラ電池は、電池要素内においてはバイポーラ電極を積層する方向(以下、「積層方向」という)に電流が流れるため、電流のパスが短く、電流ロスが少なく、集電体を超薄膜化することもできる。
【0004】
特許文献1には、集電体の材質として、ステンレス鋼を用いることが記載されている。また、軽量化の観点から、積層方向の末端に位置する末端極の集電体にアルミニウムを利用することを提案している。
【特許文献1】特開2001−236946号公報(段落0019、0021)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステンレス鋼は、正極活物質および負極活物質の両者に対して安定であり、正極、負極の集電体のいずれにも使用し得るという優れた性能を備えているものの、銅やアルミニウムに比べると導電性が低い。
【0006】
ここで、バイポーラ電極の積層方向に沿っては、電流のパスが短く、集電体が薄膜であることから、集電体の導電性がやや低くとも大きな問題は生じない。しかしながら、末端極においては、電子を端子に集めなければならないため、構造上、積層方向に対して直交する方向つまり末端極の集電体が伸延する方向(以下、「平面方向」という)に沿った電流の流れが必要となる。このように電流を取り出す際には平面方向に電流が流れるため、末端極の集電体の導電性が低いと大きな問題が生じる。例えば、電流を取り出す部分周辺の電流密度が他の部分に比べて高くなり、抵抗が上がる。電流密度分布のばらつきに起因した劣化が促進される結果、電池として正常に反応しなくなる虞がある。
【0007】
特許文献1に記載されているように末端極の集電体にアルミニウムを用いた場合には、電流を取り出す際の上述した問題は生じない。その一方、末端極の集電体に、バイポーラ電極の集電体とは異なる別の材料を用いるため、末端極における活物質層と、バイポーラ電極における活物質層との間にばらつきが生じ、バイポーラ電池の性能の低下を招いてしまう。
【0008】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、末端極の集電体にバイポーラ電極の集電体と同じ材料を用いても、電流密度分布のばらつきを抑えて電流を均一に取り出すことが可能なバイポーラ電池、組電池、およびこれらを搭載した車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する請求項1に記載の本発明は、集電体の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成されたバイポーラ電極を電解質層を介在させて複数直列に接続してなる電池要素を、外装ケースに収納してなるバイポーラ電池において、
前記電池要素の正極末端極の集電体に電気的に接続される正極タブと、
前記電池要素の負極末端極の集電体に電気的に接続される負極タブと、を備え、
前記正極タブは、前記正極末端極の少なくとも正極活物質層の投影面積よりも大きい大きさを有し、前記正極活物質層の投影面を覆うように集電体上に重ねて配置され、
前記負極タブは、前記負極末端極の少なくとも負極活物質層の投影面積よりも大きい大きさを有し、前記負極活物質層の投影面を覆うように集電体上に重ねて配置されていることを特徴とするバイポーラ電池である。
【0010】
上記目的を達成する請求項12に記載の本発明は、バイポーラ電池を複数個電気的に接続したことを特徴とする組電池である。
【0011】
上記目的を達成する請求項13に記載の本発明は、バイポーラ電池、または組電池を搭載してなる車両である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の本発明によれば、電池要素とは別個のタブを末端極の集電体に活物質層の投影面を覆うように平面接触させ、かつ、電流を取り出すために必要な平面方向に沿う電流の流れをタブに生じさせていることから、末端極の集電体にバイポーラ電極の集電体と同じ材料を用いても、電流密度分布のばらつきを抑えて電流を均一に取り出すことが可能となる。
【0013】
請求項12に記載の本発明によれば、バイポーラ電池を直列または並列に接続して組電池化することにより、高容量、高出力の電池を得ることができる。
【0014】
請求項13に記載の本発明によれば、バイポーラ電池や組電池を搭載してなる車両は、高寿命で信頼性の高い車両となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、理解を容易にするために、図面には各構成要素が誇張して示されている。
【0016】
(第1の実施形態)
図1(A)は、本発明の第1の実施形態に係るバイポーラ電池10を示す断面図、図1(B)は、電池要素30の末端極の集電体21に電気的に接続されるタブ50(正極タブ51および負極タブ52の総称)を示す平面図である。図2(A)は、バイポーラ電極20を示す断面図、図2(B)は、単電池層32の説明に供する断面図である。
【0017】
図1および図2を参照して、バイポーラ電池10は、バイポーラ電極20を電解質層31を介在させて複数直列に接続してなる電池要素30を外装ケース40に収納して構成されている。バイポーラ電極20は、集電体21の一方の面に正極活物質層22を設けて正極23が形成され、他方の面に負極活物質層24を設けて負極25が形成されている(図2(A)参照)。バイポーラ電極20が積層された電池要素30において、隣接する集電体21、21の間に挟まれる、正極活物質層22、電解質層31、および負極活物質層24により単電池層32が構成されている(図2(B)参照)。電池要素30の正極末端極33は、集電体21の一方の面に正極活物質層22のみが設けられ、図1(A)において最上位のバイポーラ電極20の上に電解質層31を介して積層される。電池要素30の負極末端極34は、集電体21の一方の面に負極活物質層24のみが設けられ、図1(A)において最下位のバイポーラ電極20の下に電解質層31を介して積層される。
【0018】
第1の実施形態のバイポーラ電池10は、概説すれば、電池要素30の正極末端極33の集電体21に電気的に接続される正極タブ51と、電池要素30の負極末端極34の集電体21に電気的に接続される負極タブ52と、をさらに備えている。正極タブ51は、正極末端極33の少なくとも正極活物質層22の投影面積よりも大きい大きさを有し、正極活物質層22の投影面を覆うように集電体21上に重ねて配置されている。同様に、負極タブ52は、負極末端極34の少なくとも負極活物質層24の投影面積よりも大きい大きさを有し、負極活物質層24の投影面を覆うように集電体21上に重ねて配置されている。
【0019】
なお、以下の説明では、正極タブ51および負極タブ52を総称して「タブ50」ともいい、正極末端極33および負極末端極34を総称して「末端極35」ともいい、正極活物質層22および負極活物質層24を総称して「活物質層26」ともいう。また、末端極35の集電体21を指称する場合には、「端部集電体21e」と表記する。さらに、バイポーラ電極20を積層する方向つまり電池の厚み方向を「積層方向」といい、積層方向に対して直交する方向つまり集電体21やタブ50が伸延する方向を「平面方向」という。
【0020】
以下、バイポーラ電池10におけるタブ50、外装ケース40、集電体21、正極23(正極活物質層22)、負極25(負極活物質層24)、電解質層31についてさらに説明する。
【0021】
[正極タブ51、負極タブ52]
端部集電体21e上に重ねて配置したタブ50は、電流を取り出すための端子としての機能を有する。電池要素30を構成する電極23、25、電解質層31および集電体21はいずれも薄膜であり、機械的強度が弱い。このため、電池要素30を両側から挟持し得る強度を、タブ50に持たせることが望ましい。タブ50の厚さは、内部抵抗を抑える観点から、0.1mm〜2mm程度が望ましい。タブ50の形状は、上述したように、活物質層26の塗布面積よりも大きい形状としてある。
【0022】
タブ50の材質は、リチウムイオン電池で用いられる材質を用いることができる。例えば、アルミニウム、銅、その他の導電性が高い材質が好ましい。但し、導電性が低い材質であっても、厚さ方向を厚くすれば、許容し得る程度に抵抗を小さくでき、平面方向の電気の流れを十分に確保できる。したがって、アルミニウム等に比べて導電性が低いステンレス鋼(SUS)等を用いることもできる。耐蝕性、作り易さ、経済性等の観点からは、アルミニウムを用いることが好ましい。正極タブ51および負極タブ52の材質には、同一の材質を用いてもよいし、異なる材質を用いてもよい。
【0023】
タブ50の端部をリード状に加工することによって、正極リード部51aおよび負極リード部52aがタブ50と一体的に形成されている。外装ケース40から取り出された正極リード部51aおよび負極リード部52aに、耐熱絶縁性の熱収縮チューブ等を被覆しておくことが好ましい。これらリード部51a、52aと熱源との間の距離が小さい場合に、リード部51a、52aが熱源に接触し、漏電によって部品(特に電子機器)に悪影響を与えないようにするためである。
【0024】
端部集電体21eのうち活物質層26の投影面に相当する領域においては、電流は、実質的に、バイポーラ電極20の積層方向に沿って流れている。活物質層26の投影面を覆うように金属製のタブ50を端部集電体21e上に重ねて配置することにより、タブ50と端部集電体21eとの間が、活物質層26の投影面の全体にわたって電気的に均等に接合されることになる。これにより、タブ50は、端部集電体21eのうち電流が実質的に流れる領域の全面から均等に電流を受ける。したがって、電流密度分布のばらつきが抑えられ、電流密度のばらつきに起因した劣化の促進が抑えられる。
【0025】
電流を取り出すために必要な平面方向に沿う電流の流れを、端部集電体21e上に重ねて配置したタブ50に負わせることができる。タブ50の材質や断面積を選択することによって、タブ50の低抵抗化を図ることができる。これにより、タブ50の平面方向に沿う導電性を、集電体21の平面方向に沿う導電性に比べて、容易に高めることができる。したがって、電流を取り出す際の損失が低減され、電池の高出力化が可能になる。
【0026】
ここで、タブ50における平面方向に沿う抵抗は、集電体21における平面方向に沿う抵抗を無視できるほど低いことが望ましい。タブ50だけが平面方向に沿う電子の流れを担うことになり、低抵抗化による電池の高出力化をより一層図ることができるからである。
【0027】
電池要素30とは別個のタブ50を用いて電流を取り出すため、電池要素30の集電体21は、バイポーラ電極20および末端極35に拘わらず、同一種類の材料を使用することができる。これにより、末端極35における活物質層26と、バイポーラ電極20における活物質層26との間にばらつきが生じることがなく、各単電池層32間に容量や抵抗のばらつきがない。したがって、バイポーラ電池10の性能の低下を招く虞がない。
【0028】
上記構成のバイポーラ電池10によれば、電池要素30とは別個のタブ50を端部集電体21eに活物質層26の投影面を覆うように平面接触させ、かつ、電流を取り出すために必要な平面方向に沿う電流の流れをタブ50に生じさせていることから、端部集電体21eにバイポーラ電極20の集電体21と同じ材料を用いても、電流密度分布のばらつきを抑えて電流を均一に取り出すことが可能となる。また、低抵抗化による電池の高出力化が可能になる。さらに、バイポーラ電池10の性能の低下を招く虞がない。
【0029】
正極タブ51は、正極末端極33の外形面積より大きく、かつ、電池要素30を構成する集電体21よりも強度が高いことが望ましい。同様に、負極タブ52は、負極末端極34の外形面積より大きく、かつ、電池要素30を構成する集電体21よりも強度が高いことが望ましい。タブ50を末端極35の外形面積より大きくすることにより、電極の保護が図られるからである。
【0030】
電池要素30を構成する集電体21は、出力向上のため薄膜化が求められている。一方、最外部に配置されるタブ50は、電池要素30を構成する部材ではないため、集電体21に比べて肉厚であっても、出力低下につながらない。また、上述したように、電池要素30は機械的強度が弱いため、電池要素30を両側から挟持し得る強度を、タブ50に持たせることが望ましい。したがって、電池要素30を挟持するタブ50の厚さを増やして集電体21よりも強度を高くすることにより、電池要素30の平面度および機械的強度を向上させることができる。
【0031】
[外装ケース40]
バイポーラ電池10は、使用する際の外部からの衝撃を緩和し、環境劣化を防止するために、電池要素30やタブ50が外装ケース40内に収容されている。外装ケース40は、可撓性を有するシート状素材から形成され、電池要素30、正極タブ51、および負極タブ52を密封している。さらに、外装ケース40の内圧は、大気圧Paよりも低い圧力である。タブ50は端部集電体21eに載せているだけで、両者の間に機械的な締結は施していない。外装ケース40により密封したときに作用する圧力による金属接触によって、タブ50と端部集電体21eとの導電性を確保している。タブ50と端部集電体21eとの間に、導電性に優れた接着性または非接着性の塗布剤を介在させてもよい。両者の金属接触が密になり、導電性がより確実なものとなるからである。
【0032】
シート状素材は、外装ケース40の内部と外部との圧力差により破壊することなく容易に変形し得るフレキシブルな材料を用いればよい。大気圧Paを用いた静水圧によって、電池要素30は、タブ50を介して、図中上下方向から加圧される。
【0033】
タブ50と端部集電体21eとの接合がそれら全面にわたって電気的に不均一であると、電流密度にばらつきが生じ、これに起因して劣化が促進される虞がある。本実施形態にあっては、大気圧Paを用いた静水圧により、外装ケース40内部の圧力<外装ケース40外部の圧力(=大気圧Pa)の関係が満たされているため、タブ50と端部集電体21eとの接合は、全面が電気的に均等になる。したがって、電流密度分布のばらつきが抑えられ、電流密度のばらつきに起因した劣化の促進が抑えられる。また、タブ50の低抵抗化による電池の高出力化も確実なものとなる。
【0034】
シート状素材はさらに、電解液や気体を透過させないで電気絶縁性を示し、電解液等の材料に対して化学的に安定であることが望ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の合成樹脂が例示される。
【0035】
シート状素材として、金属箔と、合成樹脂膜とを含むラミネートフィルム41も好適に適用できる。外装ケース40の熱封止性や電解質の空気接触可能性の低減を図り、さらに軽量化を図る上で好ましいからである。ラミネートフィルム41は、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅等の金属(合金を含む)からなる金属箔42を、ポリプロピレンフィルム等の絶縁性の合成樹脂膜43、44で被覆した三層構造を有する。高分子−金属複合ラミネートフィルム41のほか、アルミラミネートパックも同様に用い得る。
【0036】
高分子−金属複合ラミネートフィルム41やアルミラミネートパック等は、熱伝導性に優れていることが好ましい。自動車に搭載する場合、自動車の熱源からバイポーラ電池10まで熱を効率よく伝え、電池要素30を電池動作温度まですばやく加熱することができるからでる。
【0037】
ラミネートフィルム41を外装ケース40に用いる場合には、ラミネートフィルム41の周辺部の一部または全部を熱融着にて接合することにより、電池要素30やタブ50を収納し密封した構成とする。リード部51a、52aは、熱融着部に挟まれてラミネートフィルム41の外部に露出される。
【0038】
本実施形態のように、ラミネートフィルム41を外装ケース40適用すれば、外装ケース40が容易に変形し、大気圧Paを用いた静水圧を電池要素30に掛けることが可能になる。さらに、金属箔42の層が存在するため気体透過性が低下し、内部と外部との圧力差を長期にわたって維持することができ、その結果、タブ50と端部集電体21eとの安定した電気的な接触を長期にわたって維持することができる。
【0039】
[集電体21]
本実施形態の集電体21は、ステンレス鋼(SUS)が用いられている。ステンレス鋼は、正極活物質および負極活物質の両者に対して安定であるため、ステンレス単一層の表裏両面のそれぞれに活物質層26を形成できる。
【0040】
末端極35では、端部集電体21eの片面のみに正極活物質層22または負極活物質層24が形成される。
【0041】
集電体21の厚さは、特に限定されないが、1μm〜100μm程度である。
【0042】
[正極23(正極活物質層22)]
正極23は、正極活物質を含む。このほかにも、導電助剤、バインダー等が含まれ得る。化学架橋または物理架橋によりゲル電解質として正極23および負極25内に十分に浸透させている。
【0043】
正極活物質としては、溶液系のリチウムイオン電池でも使用される、遷移金属とリチウムとの複合酸化物を使用できる。具体的には、LiCoO等のLi・Co系複合酸化物、LiNiO等のLi・Ni系複合酸化物、スピネルLiMn等のLi・Mn系複合酸化物、LiFeO等のLi・Fe系複合酸化物等が挙げられる。この他、LiFePO等の遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物;V、MnO、TiS、MoS、MoO等の遷移金属酸化物や硫化物;PbO、AgO、NiOOH等が挙げられる。
【0044】
正極活物質の粒径は、製法上、正極材料をペースト化してスプレーコート等により製膜し得るものであればよいが、さらにバイポーラ電池10の電極抵抗を低減するために、電解質が固体でない溶液タイプのリチウムイオン電池で用いられる一般に用いられる粒径よりも小さいものを使用するとよい。具体的には、正極活物質の平均粒径が0.1μm〜10μmであるとよい。
【0045】
高分子ゲル電解質は、イオン導伝性を有する固体高分子電解質に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を含んだものであるが、さらに、リチウムイオン導伝性を持たない高分子の骨格中に、同様の電解液を保持させたものも含まれる。
【0046】
ここで、高分子ゲル電解質に含まれる電解液(電解質塩および可塑剤)としては、通常リチウムイオン電池で用いられるものであればよく、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩(電解質塩)を含み、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1、4−ジオキサン、1、2−ジメトキシエタン、1、2−ジブトキシエタン等のエーテル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル等のニトリル類;プロピオン酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;酢酸メチル、蟻酸メチルの中から選ばれる少なくともから1種類または2種以上を混合した、非プロトン性溶媒等の有機溶媒(可塑剤)を用いたもの等が使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0047】
イオン伝導性を有する高分子としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、これらの共重合体等が挙げられる。
【0048】
高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン導伝性を持たない高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等が使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。なお、PAN、PMMA等は、どちらかと言うとイオン伝導性がほとんどない部類に入るものであるため、上記イオン伝導性を有する高分子とすることもできるが、ここでは高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン導伝性を持たない高分子として例示したものである。
【0049】
上記リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩、またはこれらの混合物等が使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0050】
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0051】
本実施形態では、これら電解液、リチウム塩、および高分子(ポリマー)を混合してプレゲル溶液を作成し、正極23および負極25に含浸させている。
【0052】
正極23における、正極活物質、導電助剤、バインダーの配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視等)、イオン伝導性を考慮して決定すべきである。例えば、正極23内における電解質、特に固体高分子電解質の配合量が少なすぎると、活物質層内でのイオン伝導抵抗やイオン拡散抵抗が大きくなり、電池性能が低下してしまう。一方、正極23内における電解質、特に固体高分子電解質の配合量が多すぎると、電池のエネルギー密度が低下してしまう。したがって、これらの要因を考慮して、目的に合致した固体高分子電解質量を決定する。
【0053】
正極23の厚さは、特に限定するものではなく、配合量について述べたように、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視等)、イオン伝導性を考慮して決定すべきである。一般的な正極活物質層22の厚さは10〜500μm程度である。
【0054】
[負極25(負極活物質層24)]
負極25は、負極活物質を含む。このほかにも、導電助剤、バインダー等が含まれ得る。負極活物質の種類以外は、基本的に「正極23」の項で記載した内容と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0055】
負極活物質としては、溶液系のリチウムイオン電池でも使用される負極活物質を用いることができる。例えば、金属酸化物、リチウム−金属複合酸化物金属、カーボン等が好ましい。より好ましくは、カーボン、遷移金属酸化物、リチウム−遷移金属複合酸化物である。さらに好ましくは、チタン酸化物、リチウム−チタン複合酸化物、カーボンである。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
本実施形態にあっては、正極活物質層22は、正極活物質として、リチウム−遷移金属複合酸化物が用いられ、負極活物質層24は、負極活物質として、カーボンまたはリチウム−遷移金属複合酸化物が用いられている。容量、出力特性に優れた電池を構成できるからである。
【0057】
[電解質層31]
電解質層31は、イオン伝導性を有する高分子から構成される層であり、イオン伝導性を示すものであれば材料は限定されない。
【0058】
本実施形態の電解質は、高分子ゲル電解質であり、既に説明したように、基材としてセパレータにプレゲル溶液を含浸させた後、化学架橋または物理架橋により高分子ゲル電解質として用いている。
【0059】
このような高分子ゲル電解質は、ポリエチレンオキシド(PEO)等のイオン導伝性を有する全固体高分子電解質に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を含んだものであるが、さらに、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のリチウムイオン導伝性を持たない高分子の骨格中に、同様の電解液を保持させたものも高分子ゲル電解質に含まれる。これらについては、正極23に含まれる電解質の一種として説明した高分子ゲル電解質と同様であるため、ここでの説明は省略する。高分子ゲル電解質を構成するポリマーと電解液との比率は幅広く、ポリマー100%を全固体高分子電解質とし、電解液100%を液体電解質とすると、その中間体はすべて高分子ゲル電解質にあたる。なお、ポリマー電解質と言う場合には、高分子ゲル電解質および全固体高分子電解質の両方が含まれる。
【0060】
高分子ゲル電解質は、電池を構成する高分子電解質のほか、上記したように正極23および/または負極25にも含まれ得るが、電池を構成する高分子電解質、正極23、負極25によって異なる高分子電解質を用いてもよいし、同一の高分子電解質を使用してもよいし、層によって異なる高分子電解質を用いてもよい。
【0061】
電池を構成する電解質の厚さは、特に限定するものではない。しかしながら、コンパクトなバイポーラ電池10を得るためには、電解質としての機能が確保できる範囲で極力薄くすることが好ましい。一般的な固体高分子電解質層31の厚さは10〜100μm程度である。ただし、電解質の形状は、製法上の特徴を生かして、電極(正極23または負極25)の上面ならびに側面外周部も被覆するように形成することも容易であり、機能、性能面からも部位によらず常にほぼ一定の厚さにする必要はない。
【0062】
バイポーラ電池10においては、電解質層31に含まれる電解液が染み出すと、各層同士が電気的に接続されてしまい、電池として機能しなくなる。これを液絡と称する。
【0063】
電解質層31に液体または半固体のゲル状物質を用いる場合には、電解質が液漏れしないように、集電体21間にシールを施す必要がある。そこで、図1に示すように、集電体21の間には、シール部材36が単電池層32の周囲を取り囲むように設けられている。シール部材36は、例えば、基材の両面に粘着材が塗布されている両面テープである。基材は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド系合成繊維等の絶縁性樹脂により形成されている。粘着剤は、合成ゴム、ブチルゴム、合成樹脂、アクリル等の耐溶剤性のある材料により形成されている。シール部材36によって、単電池層32からの液漏れが防止され、集電体21同士の接触による短絡が防止される。
【0064】
電解質層31は、固体電解質を用いることもできる。電解質として固体を用いることにより漏液を防止することが可能となり、バイポーラ電池特有の問題である液絡を防ぎ、信頼性の高いバイポーラ電池を提供できるからである。また、漏液を防止するための構成も必要とならないので、バイポーラ電池の構成を簡易にすることができるからである。
【0065】
固体電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、これらの共重合体のような公知の固体高分子電解質が挙げられる。固体高分子電解質層中には、イオン伝導性を確保するために支持塩(リチウム塩)が含まれる。支持塩としては、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO、またはこれらの混合物等が使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。PEO、PPOのようなポリアルキレンオキシド系高分子は、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO等のリチウム塩をよく溶解しうる。また、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度が発現する。
【0066】
以上説明したように、第1の実施形態のバイポーラ電池10によれば、端部集電体21eにバイポーラ電極20の集電体21と同じ材料を用いても、電流密度分布のばらつきを抑えて電流を均一に取り出すことが可能となる。また、低抵抗化による電池の高出力化が可能になる。
【0067】
(改変例)
第1の実施形態では、タブ50の端部をリード状に形成した場合を図示したが、本発明のバイポーラ電池にあっては、タブ50自体が外装ケース40から外方に伸びている必要はない。バイポーラ電池は、例えば、端部集電体21eに平面接触し外装ケース40内に収納される矩形形状のタブと、当該タブに溶接により取り付けられて外装ケース40から外方に伸びるリードとを備えてもよい。このリードには、リチウムイオン電池等で用いられる公知のリードを用いることができる。
【0068】
大気圧Paを用いた静水圧によってタブ50を端部集電体21eに密着させる場合を例示したが、本発明のバイポーラ電池にあっては、外装ケース40内部の圧力<外装ケース40外部の圧力の関係が満たされる限りにおいて、静水圧を生じる媒体は限定されない。例えば、気体、液体、または固体粉末の少なくとも1種類の媒体、あるいはそれらを混合した媒体を用いた静水圧によって、タブ50を端部集電体21eに密着させてもよい。
【0069】
(第2の実施形態)
図3(A)は、本発明の第2の実施形態に係るバイポーラ電池11を示す断面図、図3(B)は、電池要素30の端部集電体21eに電気的に接続されるタブ55(正極タブ53および負極タブ54の総称)を示す平面図である。なお、図1および図2に示した部材と共通する部材には同一の符号を付し、その説明は省略する。また、図3(A)において、タブ55のお椀形は誇張して示される。
【0070】
第2の実施形態は、タブ55の形状を改変した点で、第1の実施形態と相違する。第2の実施形態のバイポーラ電池11にあっては、正極タブ53および負極タブ54は、バイポーラ電極20を積層する方向に沿う厚みが、周辺部に比べて中央部が厚く形成されている。
【0071】
電解質層31をシール部材36により封止する場合、シール部材36が配置されている電極周囲部の厚さが厚くなり電極を反らせることがある。この場合、電極中央部の押圧が不十分になる虞がある。タブ55の形状を上記のようなお椀形とすることにより、仮に電極周辺部が反り返っていても十分な押圧を与えることができ、バイポーラ電池11の上下から作用する圧力がより均一化される。これにより、タブ50と端部集電体21eとの電気的接触がより均一化され、電流密度分布のばらつきが抑えられ、電流密度のばらつきに起因した劣化の促進が一層抑えられる。
【0072】
なお、正極タブ53または負極タブ54のいずれか一方のみを上述した形状に改変したバイポーラ電池としてもよい。
【0073】
(第3の実施形態)
図4は、本発明の第3の実施形態に係るバイポーラ電池12を示す断面図である。なお、図1および図2に示した部材と共通する部材には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0074】
第3の実施形態は、タブ50が磁性体80をさらに有している点で、第1の実施形態と相違する。第3の実施形態のバイポーラ電池12にあっては、正極タブ51および負極タブ52は、端部集電体21eに接する面とは反対側の面に配置される磁性体80を有している。
【0075】
磁性体80は、端部集電体21eの大きさとほぼ等しい板状を有している。磁性体80は、例えば、永久磁石である。永久磁石の種類は限定されないが、例えば、希土類サマコバ磁石を挙げることができる。磁性体80の磁化(着磁)方向は、厚み方向である。
【0076】
端部集電体21eは、強磁性体であるマルテンサイト系ステンレス鋼から形成するのが好ましい。端部集電体21eと磁性体80とによってタブ50が挟まれているので、タブ50は、磁性体80の磁力によって、端部集電体21eに押し付けられる。
【0077】
バイポーラ電池12は、第1の実施形態のバイポーラ電池11と同様に、大気圧Paを用いた静水圧によってタブ50が端部集電体21eに押し付けられている。これに加えて、バイポーラ電池12にあっては、磁性体80の磁力Pmによって、タブ50が端部集電体21eに押し付けられている。このため、タブ50と端部集電体21eとの接合は、全面が電気的により均等になる。したがって、電流密度分布のばらつきが一層抑えられ、電流密度のばらつきに起因した劣化の促進が一層抑えられる。また、タブ50の低抵抗化による電池の高出力化もより確実なものとなる。
【0078】
正極タブ51および負極タブ52の両者が磁性体80を有する必要はなく、正極タブ51および負極タブ52の少なくとも一方が磁性体80を有していればよい。正極タブ51または負極タブ52の一方にのみ磁性体80を配置し、他方のタブの両面のうち端部集電体21eに接する面とは反対側の面には、強磁性体である鉄、コバルト、ニッケルや、常磁性体であるアルミニウムなどを配置する形態を採用してもよい。
【0079】
図5〜図7は、磁性体80の形状例を示す図である。
【0080】
図5(A)〜(E)を参照して、磁性体80は、重心位置から外周部に向けて放射状に拡がって存在する形状を有することができる。重心位置から放射状に磁性体80が存在することによって磁性体80自体が骨格となり、ゆがみに対する補強の役割を発揮する。バイポーラ電池12を振動が加わる車両などに搭載した場合には、磁性体80自体が補強部材となって、バイポーラ電池12の剛性を高めることができる。
【0081】
図6(A)〜(D)を参照して、磁性体80は、円形形状または矩形形状の貫通穴81を有していてもよい。貫通穴81を有することにより空間が生じ、磁性体80の体積が減少する。磁性体80をばねにみたてると、ばね定数が低下し、防振効果を発揮する。バイポーラ電池12を振動が加わる車両などに搭載した場合には、磁性体80自体が電池積層方向の振動吸収材となり、さらに、磁性体80自体が補強部材となって、バイポーラ電池12の剛性を高めることができる。
【0082】
図7(A)〜(D)を参照して、磁性体80は、その表面に形成されるとともに底面の断面形状が円弧型または角型である凹部82を有していてもよい。凹部82を有することにより空間が生じ、磁性体80の体積が減少する。磁性体80をばねにみたてると、ばね定数が低下し、防振効果を発揮する。バイポーラ電池12を振動が加わる車両などに搭載した場合には、磁性体80自体が電池積層方向の振動吸収材となり、さらに、磁性体80自体が補強部材となって、バイポーラ電池12の剛性を高めることができる。
【0083】
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態に係る組電池60を示す斜視図、図9は、組電池60の内部構成を上方から見た図面である。
【0084】
組電池60は、上述したバイポーラ電池を複数個並列および/または直列に電気的に接続して構成したものである。並列化および/または直列化することにより、容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0085】
図示する組電池60は、第1の実施形態のバイポーラ電池10を複数個直列に接続したものをさらに並列に接続したものである。最上位の各バイポーラ電池10は、正極リード部51a同士が導電バー63により接続され、負極リード部52a同士が導電バー63により接続されている。組電池60の電極として、電極ターミナル61、62が、組電池60の一側面に設けられている。
【0086】
組電池60においては、バイポーラ電池10同士を接続する方法として、超音波溶接、熱溶接、レーザ溶接、リベット、かしめ、電子ビーム等を用いることができる。このような接続方法を採ることにより、長期的信頼性を備える組電池60を製造することができる。
【0087】
第4の実施形態によれば、バイポーラ電池10を直列または並列に接続して組電池60化したことにより、高容量、高出力の電池を得ることができる。しかも、個々のバイポーラ電池10は内部の単電池層32における液絡が防止されているので信頼性が高く、組電池60としての長期的信頼性を向上させることができる。
【0088】
なお、要求される容量や電圧に応じて、複数個のバイポーラ電池10のすべてを並列に接続した組電池としたり、すべてを直列に接続した組電池としたりすることができる。
【0089】
(第5の実施形態)
図10は、第5の実施形態に係る組電池モジュール70を示す斜視図である。
【0090】
図示する組電池モジュール70は、第3の実施形態の組電池60を複数個積層し、各組電池60の電極ターミナル61、62を導電バー71、72によって接続し、モジュール化したものである。
【0091】
このように、組電池60をモジュール化することによって、電池の制御を容易にし、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の車載用として最適な組電池モジュール70となる。そして、この組電池モジュール70は、上述した組電池60を用いたものであるから長期的信頼性の高いものとなる。
【0092】
なお、「組電池モジュール」という用語は、「組電池」との比較において、電池の大きさの違いを理解し易くするために用いたものである。バイポーラ電池10が複数個電気的に接続されている点において、組電池モジュール70も組電池60の一種である。
【0093】
(第6の実施形態)
図11は、第6の実施形態に係る車両として自動車100を示す概略構成図である。
【0094】
上述したバイポーラ電池10、11、12、または組電池60(組電池モジュール70が含まれる)を車両に搭載し、モータなどの電気機器の電源に使用することが望ましい。バイポーラ電池10、11、12や組電池60は上述した特性を有するため、これらを搭載してなる車両は、高寿命で信頼性の高い車両となるからである。
【0095】
図示する自動車100は、第5の実施形態に係る組電池モジュール70を搭載し、当該組電池モジュール70をモータの電源として使用している。組電池モジュール70をモータ用電源として用いる自動車としては、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、各車輪をモータによって駆動している自動車等が挙げられる。組電池モジュール70は上述した特性を有するため、これを搭載してなる自動車100は、高寿命で信頼性の高い自動車となる。
【0096】
なお、車両は自動車100に限られるものではなく、バイポーラ電池10、11、12や組電池60を電車に搭載しても同様の作用効果を奏する。
【0097】
(実施例)
以下、バイポーラ電池の実施例を説明する。作製したバイポーラ電池は、下記のとおりである。
【0098】
<基本構成>
集電体21は、ステンレス(SUS)箔(厚さ20μm)を使用した。集電体21に、下記の正極23および負極25を形成し、バイポーラ電極20を作製した。端部集電体21eには、正極23または負極25のいずれか一方を形成した。
【0099】
<電極の形成>
正極23:
正極活物質としてLiMn(85重量%)に、導電助剤としてアセチレンブラック(5重量%)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(10重量%)、スラリー粘度調整溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)(適量)を入れて、これらを混合して正極スラリーを作製した。集電休であるステンレス箔(厚さ20μm)の片面に正極スラリーを塗布し、乾燥させて正極23を形成した。
【0100】
負極25:
負極活物質としてハードカーボン(90重量%)に、バインダーとしてPVDF(10重量%)、スラリー粘度調整溶媒としてNMP(適量)を入れて、これらを混合して負極25スラリーを作製した。正極23を塗布したステンレス箔の反対面に負極スラリーを塗布し、乾燥させて負極25を形成した。
【0101】
完成した電極を130mm×80mmに切り取った。外周10mm部分はシール層を形成するために電極部分を削り取った。
【0102】
<ゲル電解質の形成>
ポリエチレン製のセパレータ(厚さ50μm)に、イオン伝導性高分子マトリックスの前駆体である平均分子量7500〜9000のモノマー溶液(ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドの共重合体)3重量%、電解液としてPC+EC(1:1)97重量%、1.5M LiBF、重合開始剤(BDK)からなるプレゲル溶液を浸漬させて、石英ガラス基板に挟み込み紫外線を15分照射して前駆体を架橋させて、ポリマー電解質層を得た。
【0103】
<バイポーラ電池の構成>
正極23と負極25とがゲル電解質を挟んで対向するようにバイポーラ電極20を積層し、単電池層32を形成した。単電池層32の周辺部で、集電体21と集電体21との間に、3層フィルムによるシーラントを挟み込んで配置した。これは、電解液漏れ出しを抑えるためのシール部材36として機能する。
【0104】
これを繰り返し、単電池層32が5層形成されるようにバイポーラ電極20および末端極35を積層し、電極積層体を構成した。
【0105】
シーラントをまず三辺熱融着し、その後最後の一辺を真空密封することにより、各層を真空シールし、各層の電解質を封じた。
【0106】
以上の工程により、各層が真空密封され、上下面が正負の末端極35となるような5層21Vのバイポーラ型電池要素30を完成させた。
【0107】
(比較例)
図12に示すように、端部集電体21eの端の部分に、電流を取り出すために使用する端子37を、超音波溶接機を用いて取り付けた。その後、この電池要素30をアルミラミネート外装内に真空密封し、バイポーラ電池を完成させた。
【0108】
(実施例1)
図1に示した第1の実施形態におけるタブ50のように、バイポーラ型電池要素30の投影面全体を覆うことのできる130mm×80mmのアルミニウム(Al)板であって、厚さが100μmである平板形状のアルミニウム(Al)板の一部が電池投影面外部まで伸びてリード部51a、52aをなしている正極タブ51および負極タブ52を作成した。これらのタブ50によってバイポーラ型電池要素30を挟み込み、これらを覆うようにアルミラミネート外装により真空密封した。バイポーラ型電池要素30の全体を大気圧Paで両面から押すことにより、タブ50−電池要素30間の接触を加圧によって高めた、実施例1に係るバイポーラ電池10を完成させた。
【0109】
(実施例2)
図3に示した第2の実施形態におけるタブ55のように、バイポーラ型電池要素30の投影面全体を覆うことのできる130mm×80mmのアルミニウム(Al)板であって、中心部の厚さ500μm、外周部の厚さが50μmであり、中心に向かうほど厚みが厚くなるお椀形状のアルミニウム(Al)板の一部が電池投影面外部まで伸びてリード部53a、54aをなしている正極タブ53および負極タブ54を作成した。これらのタブ55によってバイポーラ型電池要素30を挟み込み、これらを覆うようにアルミラミネート外装により真空密封した。バイポーラ型電池要素30の全体を大気圧Paで両面から押すことにより、タブ55−電池要素30間の接触を加圧によって高めた、実施例2に係るバイポーラ電池11を完成させた。
【0110】
(実施例3)
図4に示した第3の実施形態におけるタブ50のように、バイポーラ型電池要素30の投影面全体を覆うことのできる130mm×80mmのアルミニウム(Al)板であって、厚さが100μmである平板形状のアルミニウム(Al)板の一部が電池投影面外部まで伸びてリード部51a、52aをなしている正極タブ51および負極タブ52を作成した。これらのタブ50によってバイポーラ型電池要素30を挟み込み、その外側を覆うように、厚さが5mmである平板形状の磁性体板を配置し、これらを覆うようにアルミラミネート外装により真空密封した。バイポーラ型電池要素30の全体を大気圧Paで両面から押し、さらに磁性体板の磁力Pmにより両面から押すことにより、タブ50−電池要素30間の接触を加圧(大気圧+磁力)によって高めた、実施例3に係るバイポーラ電池12を完成させた。
【0111】
(参考例1)
参考例1〜5として、アルミラミネート外装を真空密封せずに、磁力によってのみタブ−電池要素間の接触を高めたバイポーラ電池を完成させた。
【0112】
アルミラミネート外装を真空密封しなかった点を除いて、実施例3と同じにして、参考例1に係るバイポーラ電池を完成させた。
【0113】
(参考例2)
タブによってバイポーラ型電池要素を挟み込み、その外側の一方には厚さが5mmである平板形状の磁性体板を配置し、他方には厚さが5mmである平板形状のニッケル板を配置し、参考例2に係るバイポーラ電池を完成させた。
【0114】
(参考例3)
磁性体板として、図5(A)に示した形状のものを使用し、その他は参考例1と同じにして、参考例3に係るバイポーラ電池を完成させた。
【0115】
(参考例4)
磁性体板として、図6(A)(B)に示した形状のものを使用し、その他は参考例1と同じにして、参考例4に係るバイポーラ電池を完成させた。
【0116】
(参考例5)
磁性体板として、図7(A)(B)に示した形状のものを使用し、その他は参考例1と同じにして、参考例5に係るバイポーラ電池を完成させた。
【0117】
実施例および参考例における磁性体板として、希土類サマコバ磁石を用いた(表面磁束密度:4000ガウス、吸着力:12kg)。
【0118】
<評価>
比較例、実施例1、2のそれぞれのバイポーラ電池を、0.1Cに相当する電流で15時間、21Vまで定電流定電圧(CCCV)充電を行った。
【0119】
これらのバイポーラ電池を、10mA、20mA、30mAで順に放電し、電圧降下を測定することによって各バイポーラ電池の抵抗値を測定した。
【0120】
また、容量測定を行った結果20mAhであった。
【0121】
その後、比較的大きな電流500mA(25C相当)で繰り返し21V〜12.5Vで充放電を行い1000サイクル行った。その後、容量測定を行った。
【0122】
比較例、参考例3、4、5について、加震しながら電流100mA(5C相当)で繰り返し21V〜12.5Vで充放電を行い1000サイクル行った。加震試験は、50Hz、振幅は5mmで行った。その後、容量測定を行った。
【0123】
<結果>
各電流で測定したバイポーラ電池の抵抗値を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
実施例1、2は、比較例に対して、抵抗値が大きく低減した。比較例では、最外層である末端極のステンレス(SUS)からなる集電体の部分で電流が横方向(電流を取り出す平面方向)に流れてしまい、バイポーラ電池の抵抗値が増大している。これに対し、実施例1、2では、タブ50、55が電池要素30全体を覆い、かつ、大気圧Paが電池要素30の全体を押さえているため、ステンレスに比べて導電性に優れたアルミニウムからなるタブ50、55の部分で電流が横方向に流れたため、バイポーラ電池10、11の抵抗値が低減していると考えられる。
【0126】
実施例3は、実施例1、2よりも抵抗値がさらに低減した。実施例3では、大気圧Paに加えて磁性体板の磁力Pmによって電池要素30の全体を押さえているため、タブと端部集電体との接触力が一層高まり、バイポーラ電池12の抵抗値が一層低減していると考えられる。
【0127】
参考例1〜5の磁性体板の磁力によってのみ電池要素の全体を押さえた場合には、実施例3よりも抵抗値は若干高いが、比較例に対しては抵抗値が大きく低減した。
【0128】
次に、1000サイクルの充放電後に容量測定を行った結果を表2に示す。
【0129】
【表2】

【0130】
実施例1、2は、比較例に対して、容量が大幅に増加した。比較例では、末端極35の端の部分に端子37を取り付けたため、電流密度の分布が大きくばらついており、その結果、劣化が促進されたためと考えられる。実施例1、2では、タブ50、55が電池要素30全体を覆い、かつ、大気圧Paが電池要素30の全体を押さえているため、電流密度分布のばらつきが抑えられ、劣化が少ないためと考えられる。
【0131】
実施例1と実施例2との間では、実施例2は、実施例1に比べて劣化がさらに少なく、劣化を促進を抑える点では、実施例1よりも優れていることがわかった。実施例2では、タブ55がお椀形状をなすため、電池要素30全体がより均等に押され、タブ55と端部集電体21eとの電気的接触が均一化されて電流密度が均一化され、劣化の促進が一層抑えられたためと考えられる。
【0132】
次に、加震しながら1000サイクルの充放電後に容量測定を行った結果を表3に示す。
【0133】
【表3】

【0134】
加震試験後の容量測定から参考例3〜5のような形状を持った磁性体板を用いると振動に強く、防振効果が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1(A)は、本発明の第1の実施形態に係るバイポーラ電池を示す断面図、図1(B)は、電池要素の末端極の集電体に電気的に接続されるタブ(正極タブおよび負極タブの総称)を示す平面図である。
【図2】図2(A)は、バイポーラ電極を示す断面図、図2(B)は、単電池層の説明に供する断面図である。
【図3】図3(A)は、本発明の第2の実施形態に係るバイポーラ電池を示す断面図、図3(B)は、電池要素の末端極の集電体に電気的に接続されるタブ(正極タブおよび負極タブの総称)を示す平面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るバイポーラ電池を示す断面図である。
【図5】磁性体の形状例を示す図である。
【図6】磁性体の形状例を示す図である。
【図7】磁性体の形状例を示す図である。
【図8】第4の実施形態に係る組電池を示す斜視図である。
【図9】組電池の内部構成を上方から見た図面である。
【図10】第5の実施形態に係る組電池モジュールを示す斜視図である。
【図11】第6の実施形態に係る車両として自動車を示す概略構成図である。
【図12】電池要素の末端極の集電体の端の部分に、電流を取り出すために使用する端子を取り付けた比較例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0136】
10、11、12 バイポーラ電池、
20 バイポーラ電極、
21 集電体、
21e 端部集電体(末端極の集電体)、
22 正極活物質層、
23 正極、
24 負極活物質層、
25 負極、
26 活物質層(正極活物質層および負極活物質層の総称)、
30 電池要素、
31 電解質層、
32 単電池層、
33 正極末端極、
34 負極末端極、
35 末端極(正極末端極および負極末端極の総称)、
36 シール部材、
40 外装ケース、
41 ラミネートフィルム、
42 金属箔、
43、44 合成樹脂膜、
50、55 タブ(正極タブおよび負極タブの総称)、
51、53 正極タブ、
51a、53a 正極リード部、
52、54 負極タブ、
52a、54a 負極リード部、
60 組電池、
70 組電池モジュール(組電池)、
80 磁性体、
81 貫通穴、
82 凹部、
100 自動車(車両)、
Pa 大気圧、
Pm 磁力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成されたバイポーラ電極を電解質層を介在させて複数直列に接続してなる電池要素を、外装ケースに収納してなるバイポーラ電池において、
前記電池要素の正極末端極の集電体に電気的に接続される正極タブと、
前記電池要素の負極末端極の集電体に電気的に接続される負極タブと、を備え、
前記正極タブは、前記正極末端極の少なくとも正極活物質層の投影面積よりも大きい大きさを有し、前記正極活物質層の投影面を覆うように集電体上に重ねて配置され、
前記負極タブは、前記負極末端極の少なくとも負極活物質層の投影面積よりも大きい大きさを有し、前記負極活物質層の投影面を覆うように集電体上に重ねて配置されていることを特徴とするバイポーラ電池。
【請求項2】
前記正極タブは、前記正極末端極の外形面積より大きく、かつ、電池要素を構成する集電体よりも強度が高く、
前記負極タブは、前記負極末端極の外形面積より大きく、かつ、電池要素を構成する集電体よりも強度が高いことを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ電池。
【請求項3】
前記外装ケースは、可撓性を有するシート状素材から形成され、前記電池要素、前記正極タブ、および前記負極タブを密封し、
前記外装ケースの内圧が大気圧よりも低い圧力であることを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ電池。
【請求項4】
前記シート状素材は、金属箔と、合成樹脂膜とを含むラミネートフィルムであることを特徴とする請求項3に記載のバイポーラ電池。
【請求項5】
前記正極タブおよび/または前記負極タブは、前記バイポーラ電極を積層する方向に沿う厚みが、周辺部に比べて中央部が厚いことを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ電池。
【請求項6】
前記正極タブおよび前記負極タブの少なくとも一方は、前記末端極の前記集電体に接する面とは反対側の面に配置される磁性体を有していることを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ電池。
【請求項7】
前記磁性体は、重心位置から外周部に向けて放射状に拡がる形状を有していることを特徴とする請求項6に記載のバイポーラ電池。
【請求項8】
前記磁性体は、円形形状または矩形形状の貫通穴を有していることを特徴とする請求項6に記載のバイポーラ電池。
【請求項9】
前記磁性体は、その表面に形成されるとともに底面の断面形状が円弧型または角型である凹部を有していることを特徴とする請求項6に記載のバイポーラ電池。
【請求項10】
前記電解質層は、固体電解質が用いられていることを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ電池。
【請求項11】
前記正極活物質層は、正極活物質として、リチウム−遷移金属複合酸化物が用いられ、
前記負極活物質層は、負極活物質として、カーボンまたはリチウム−遷移金属複合酸化物が用いられていることを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ電池。
【請求項12】
請求項1〜11に記載のバイポーラ電池を複数個電気的に接続したことを特徴とする組電池。
【請求項13】
請求項1〜11に記載のバイポーラ電池、または請求項12に記載の組電池を搭載してなる車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−147534(P2006−147534A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250006(P2005−250006)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】