説明

バーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】装置全体の小型化およびコストの低減を図る。
【解決手段】第一液圧路内のブレーキ液圧を昇圧させることなく、第一液圧路から分岐した第二液圧路内のブレーキ液圧を昇圧可能な昇圧手段と、昇圧手段によって昇圧されたブレーキ液圧を調圧可能な調圧手段と、マスタシリンダで発生されたブレーキ液圧を推定するマスタ圧推定手段200と、を備え、マスタ圧推定手段200は、ブレーキ制御時に第二ホイールシリンダW2に付与すべく目標ホイール圧を算出する目標ホイール圧算出部10と、昇圧手段により昇圧されたブレーキ液圧が、目標ホイール圧に近づくようにフィードバック制御し、調圧手段に設定する目標調整圧を算出する目標調整圧算出部と、目標ホイール圧と目標調整圧とからマスタシリンダのブレーキ液圧を算出するマスタ圧算出部40と、を具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主として自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)などのバーハンドルタイプの車両に用いられるブレーキ液圧制御装置の液圧回路として、各車輪ブレーキに対するアンチロックブレーキ制御に加えて、前後輪の車輪ブレーキを連動させるブレーキ制御(以下、連動ブレーキ制御という)を行えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この液圧回路では、前後二つの車輪ブレーキのうちの一方(例えば後輪の車輪ブレーキ)を制動するためのブレーキ系統と、他方の車輪ブレーキ(例えば前輪の車輪ブレーキ)を制動するためのブレーキ系統とを備えて構成されている。そして、後輪のブレーキ系統に設けられたマスタシリンダと、前輪のブレーキ系統に設けられたホイールシリンダとが、液圧路を通じて接続されるとともに後輪のブレーキ系統がブレーキ液圧の昇圧制御を可能に設けられており、後輪のブレーキレバーを操作することによって、前輪の車輪ブレーキにブレーキ液圧が作用するように構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−117233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置では、前記したように、後輪のブレーキ系統がブレーキ液圧の昇圧制御を可能に設けられており、そのための構成として、後輪のマスタシリンダに通じる液圧路のブレーキ液圧を検出するセンサと、後輪の車輪ブレーキにかかるブレーキ液圧を検出するセンサとを設けることが、必須となっていた。
このため、制御装置内にこれらのセンサを配置するスペースを設けなければならず、制御装置が大型化するとともにコストがかかるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ブレーキ液圧の昇圧制御が可能でありながら装置全体の小型化およびコストの低減を図ることができるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決する本発明は、前輪ブレーキに制動力を付与する前輪用のブレーキ系統と、後輪ブレーキに制動力を付与する後輪用のブレーキ系統と、を備えるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、一方の前記ブレーキ系統は、ブレーキ操作子のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダに通じる第一液圧路と、前記第一液圧路から分岐した第二液圧路と、前記第一液圧路に接続された第一ホイールシリンダと、前記第二液圧路に接続された第二ホイールシリンダと、前記第二液圧路に設けられ、前記第二液圧路のブレーキ液圧を検出可能な第二液圧路検出手段と、前記第一液圧路内のブレーキ液圧を昇圧させることなく、前記第二液圧路内のブレーキ液圧を昇圧可能な昇圧手段と、前記昇圧手段によって昇圧された前記第二液圧路内のブレーキ液圧を調圧可能な調圧手段と、前記マスタシリンダで発生されたブレーキ液圧を推定するマスタ圧推定手段と、を備え、前記マスタ圧推定手段は、ブレーキ制御時に前記第二ホイールシリンダに付与すべき目標ホイール圧を算出する目標ホイール圧算出部と、前記昇圧手段により昇圧されたブレーキ液圧が、前記目標ホイール圧に近づくようにフィードバック制御し、前記調圧手段に設定する目標調整圧を算出する目標調整圧算出部と、前記目標ホイール圧と前記目標調整圧とから前記マスタシリンダのブレーキ液圧を推定するマスタ圧算出部と、を具備したことを特徴とする。
【0008】
このバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、一方のブレーキ系統の第二ホイールシリンダを昇圧手段によって昇圧させることができるので、他方のブレーキ系統に対応するブレーキ操作子の操作に連動して一方のブレーキ系統のブレーキに制動力を発生させる連動ブレーキ制御を実行することができる。
しかも、本発明によれば、マスタ圧推定手段が設けられており、昇圧手段が設けられる一方のブレーキ系統の第一液圧路のブレーキ液圧を推定できるようになっているので、一方のブレーキ系統に対して従来のようなブレーキ液圧を検出するための検出手段を設けることなく、第一液圧路のブレーキ液圧を把握することができる。つまり、一方のブレーキ系統が第一液圧路と第二液圧路との二つの液圧路を備え、この二つの液圧路間で液圧差を発生させることが可能な構成とされていても検出手段の数を増やす必要がなくなる。
これにより、一方のブレーキ系統に対して検出手段の設置個数を削減することができ、第一液圧路のブレーキ液圧を検出するための検出手段を設けた場合と同様に昇圧制御を実行することが可能でありながら、装置全体としての小型化やコストダウンを図ることができるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置が得られる。
【0009】
また、連動ブレーキ制御時に第一液圧路内のブレーキ液圧を昇圧させずに済むので、連動ブレーキ制御中にブレーキ操作子による追加入力を行ってもブレーキ操作子に操作反力が生じず、運転者に、いわゆる「壁感(剛性感)」を与えることがない。つまり、本発明によれば、連動ブレーキ制御中におけるブレーキ操作子の操作フィーリングを、連動ブレーキ制御が実行されていない通常ブレーキ時の操作フィーリングと同様にすることが可能となる。
【0010】
なお、「一方のブレーキ系統」は、前輪用のブレーキ系統であってもよいし、後輪用のブレーキ系統であってもよい。
【0011】
また、前記目標調整圧算出部は、前記目標調整圧算出部は、前記目標ホイール圧算出部が前回算出した目標ホイール圧と、前記第二液圧路検出手段が検出したブレーキ液圧と、からフィードバック制御し、目標調整圧を算出する構成とするのがよい。
【0012】
このバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、前回算出した目標ホイール圧と、実際に検出されたブレーキ液圧とに基づいてマスタ圧推定手段による推定が行われることとなるので、装置全体としての小型化やコストダウンを図ることができる構成でありながら、高精度にブレーキ液圧の推定を行うことができる。
【0013】
また、前記目標ホイール圧算出部は、他方の前記ブレーキ系統において発生されたブレーキ液圧に基づいて目標ホイール圧を算出する構成とするのがよい。
【0014】
このバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、実際に検出された他方のブレーキ系統におけるブレーキ液圧に基づいて目標ホイール圧が算出されるので、良好な連動ブレーキ制御を実現することができるとともに、高精度にブレーキ液圧の推定を行うことができる。
【0015】
また、他方の前記ブレーキ系統は、ブレーキ操作子のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダに通じる液圧路内のブレーキ液圧を少なくとも検出可能な検出手段と、を備えており、前記検出手段により検出されたブレーキ液圧に基づいて、一方の前記ブレーキ系統の前記目標ホイール圧算出部が目標ホイール圧を算出する構成とするのがよい。
【0016】
このバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、他方のブレーキ系統におけるブレーキ操作子のストローク量に応じたブレーキ液圧に基づいて目標ホイール圧が算出されることとなるので、良好な連動ブレーキ制御を実現することができるとともに、高精度にブレーキ液圧の推定を行うことができる。
【0017】
また、前記目標調整圧算出部は、前記目標ホイール圧算出部で算出された今回の目標ホイール圧P(n)に、前回算出した前記目標ホイール圧と前記第二液圧路検出手段が検出したブレーキ液圧とから算出された今回のフィードバック制御量PPI(n)を加算して、目標調整圧PREG(n)を求め、前記マスタ圧算出部は、目標ホイール圧算出部で算出した今回の目標ホイール圧P(n)から前記目標調整圧PREG(n)を減算して求めることで、前記マスタシリンダからのブレーキ液圧PM(n)を推定するように構成することで、マスタシリンダからのブレーキ液圧の推定を容易に行うことができ、推定したブレーキ液圧を用いて良好なブレーキ制御を実行することができる。
【0018】
また、前輪ブレーキに制動力を付与する前輪用のブレーキ系統と、後輪ブレーキに制動力を付与する後輪用のブレーキ系統と、を備えるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、一方の前記ブレーキ系統は、ブレーキ操作子のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダに通じる液圧路内のブレーキ液圧を昇圧させることなく、ホイールシリンダに通じる液圧路内のブレーキ液圧を昇圧可能な昇圧手段と、前記昇圧手段によって昇圧されたブレーキ液圧を調圧可能な調圧手段と、前記マスタシリンダで発生されたブレーキ液圧を推定するマスタ圧推定手段と、を備え、前記マスタ圧推定手段は、他方の前記ブレーキ系統において発生されたブレーキ液圧に基づいて、ブレーキ制御時に前記ホイールシリンダに付与すべき目標ホイール圧を算出する目標ホイール圧算出部と、前記昇圧手段により昇圧されたブレーキ液圧が、算出された前記目標ホイール圧に近づくようにフィードバック制御し、前記調圧手段に設定する目標調整圧を算出する目標調整圧算出部と、前記目標ホイール圧と前記目標調整圧とから前記マスタシリンダのブレーキ液圧を推定するマスタ圧算出部と、を具備したことを特徴とする。
【0019】
このバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、一方のブレーキ系統のホイールシリンダを昇圧手段によって昇圧させることができるので、他方のブレーキ系統に対応するブレーキ操作子の操作に連動して一方のブレーキ系統のブレーキに制動力を発生させる連動ブレーキ制御を実行することができる。
しかも、本発明によれば、昇圧手段が設けられる一方のブレーキ系統に、マスタ圧推定手段が設けられており、マスタシリンダに通じる液圧路のブレーキ液圧を算出により求めることができるので、一方のブレーキ系統に対して従来のようなマスタシリンダのブレーキ液圧を検出するためのセンサを設けることなく、マスタシリンダに通じる液圧路のブレーキ液圧を把握することができる。つまり、一方のブレーキ系統に対してセンサの設置個数を削減することができ、マスタシリンダのブレーキ液圧を検出するためのセンサを設けた場合と同様に昇圧制御を実行することが可能でありながら、装置全体としての小型化やコストダウンを図ることができるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ブレーキ液圧の昇圧制御が可能でありながら装置全体の小型化およびコストの低減を図ることができるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置は、自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)などバーハンドルタイプの車両に好適に用いられるものであり、図1に示すように、前輪ブレーキBに制動力を付与する前輪用のブレーキ系統Fと、後輪ブレーキBに制動力を付与する後輪用のブレーキ系統Rと、両ブレーキB,Bを連動させる連動ブレーキ制御や両ブレーキB,Bのアンチロックブレーキ制御などを実行する制御ユニットSU(図2参照)とを備えている。
制御ユニットSUには、図2に示すように、マスタ圧推定手段200が設けられており、本実施形態では、このマスタ圧推定手段200によって、後輪用のブレーキ系統Rの第一液圧路A1に発生したブレーキ液圧を推定するように構成されている。つまり、後輪用のブレーキ系統Rでは、第一液圧路A1に発生したブレーキ液圧を検出する圧力センサ等の検出手段を省略した構成となっている。
【0022】
ここで、両ブレーキ系統F,Rは、主たる液圧回路が同一であるので、以下においては主として前輪用のブレーキ系統Fについて説明し、適宜後輪用のブレーキ系統Rについて説明する。なお、両ブレーキ系統F,Rに設けられる電磁弁やモータ等の構成部品は、両ブレーキ系統F,Rで同一であるので同一の符号を付して説明するが、説明の便宜上、後輪用のブレーキ系統Rについては、付した英数字の符合に続けて「’」の符号を付し、前輪用のブレーキ系統Fと区別するようにした。
【0023】
前輪用のブレーキ系統Fは、ブレーキ操作子Lのストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダMと、このマスタシリンダMに通じる第一液圧路A1に接続された第一ホイールシリンダW1,W1と、第一液圧路A1から分岐した第二液圧路A2に接続された第二ホイールシリンダW2と、第一液圧路A1内のブレーキ液圧を昇圧させることなく第二ホイールシリンダW2内のブレーキ液圧を昇圧可能な昇圧手段Sと、第一液圧路A1に設けられた第一制御弁手段V1と、第二液圧路A2に設けられた第二制御弁手段V2と、ブレーキ液を貯溜可能なリザーバTと、第一液圧路A1内のブレーキ液圧を計測する第一圧力センサP1と、第二液圧路A2内のブレーキ液圧を計測する第二圧力センサP2(第二液圧路検出手段)とを備えている。
本実施形態では、両ブレーキB,Bに対して、前記した第一ホイールシリンダW1,W1と第二ホイールシリンダW2(ブレーキBでは第一ホイールシリンダW1’,W1’と第二ホイールシリンダW2’)とを備えた3ポットブレーキをそれぞれ用いており、後記するように、そのうちの第二ホイールシリンダW2(ブレーキBでは第二ホイールシリンダW2’)を、後記する連動ブレーキ制御時に駆動されるシリンダとしている。
【0024】
マスタシリンダMは、ブレーキ液を貯蔵するタンク室と接続された図示しないシリンダを有しており、シリンダ内にはブレーキ操作子Lの操作によりシリンダの軸方向へ摺動して第一液圧路A1へとブレーキ液を流出する図示しないロッドピストンが組み付けられている。
【0025】
第一ホイールシリンダW1,W1および第二ホイールシリンダW2は、ディスクDの片側に配置されていて、一つの浮動式キャリパCa内に形成されている。本実施形態では、第二ホイールシリンダW2を挟むように第一ホイールシリンダW1,W1が配置されている。なお、第一液圧路A1は、マスタシリンダMから二つの第一ホイールシリンダW1,W1に至るブレーキ液の流路であり、第二液圧路A2は、第一液圧路A1から分岐して第二ホイールシリンダW2に至るブレーキ液の流路である。
【0026】
昇圧手段Sは、ポンプ1と、カット弁2と、吸入弁3とを備えて構成されている。
ポンプ1は、カット弁2を迂回する吸入用流路A3に設けられた往復動ポンプであり、モータMoの動力を得て作動し、自身よりもマスタシリンダM側にあるブレーキ液を吸入して第二ホイールシリンダW2側に吐出する。吸入用流路A3は、マスタシリンダMに通じる流路(本実施形態では第一液圧路A1)からカット弁2よりも第二ホイールシリンダW2側の第二液圧路A2に至るブレーキ液の流路である。なお、リザーバTから吸入用流路A3に至る流路には、吸入用流路A3からリザーバTへのブレーキ液の流入を阻止するチェック弁1aが介設されている。
【0027】
ポンプ1は、後記する連動ブレーキ制御などを実行する際に作動し、吸入用流路A3を介してカット弁2よりも第二ホイールシリンダW2側の第二液圧路A2にブレーキ液を供給する。例えば、後記するフロント連動ブレーキ制御時において、後輪用のブレーキ系統Rのポンプ1’によって加圧される液圧路は、図7に示すように、ブレーキ系統Rにおいて太線で示した液圧路、つまり、ポンプ1’よりも下流側の吸入用流路A3’、およびカット弁2’よりも第二ホイールシリンダW2’側の第二液圧路A2’となる。なお、図示はしないが、リア連動ブレーキ制御時においては、前輪用のブレーキ系統Fにおいて同様の液圧路がポンプ1によって加圧される液圧路となる。
また、ポンプ1は、アンチロックブレーキ制御の際にも作動し、リザーバTに一時的に貯溜されたブレーキ液を第二液圧路A2側に吐出する。なお、ポンプ1には、その吸入口側から吐出口側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁が内包されているので、吐出口側のブレーキ液圧が吸入口側のブレーキ液圧より高くなっても、ブレーキ液が逆流することはない。また、ポンプ1の吐出側には、図示せぬダンパやオリフィスが設けられており、その協働作用によってポンプ1から吐出されたブレーキ液の脈動を減衰させている。
【0028】
なお、モータMoは、前輪用のブレーキ系統Fのポンプ1および後輪用のブレーキ系統Rのポンプ1’の共通の動力源であり、制御ユニットSUからの指令に基づいて作動する。
【0029】
カット弁2は、第二液圧路A2と吸入用流路A3との接続部よりもマスタシリンダM側において第二液圧路A2を開閉するものであって、常開型の電磁弁からなる。カット弁2を構成する常開型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御ユニットSUと電気的に接続されており、制御ユニットSUからの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると閉弁し、消磁すると開弁する。本実施形態のカット弁2は、開弁圧を制御可能なリニア型の電磁弁からなり、自身よりもホイールシリンダW2側におけるブレーキ液圧からマスタシリンダM側におけるブレーキ液圧を差し引いた値が設定した開弁圧以上になると、自動的に開弁する。すなわち、カット弁2は、自身よりも第二制御弁手段V2側におけるブレーキ液圧を設定値以下に調節するリリーフ弁2bとしても機能する。カット弁2の開弁圧(リリーフ弁2bの開弁圧)は、電磁コイルに与える電流値の大きさを制御することで増減させることができる。
【0030】
なお、カット弁2は、自身と並列に設けられたチェック弁2aとともに、レギュレータRe(調圧手段)を構成している。チェック弁2aは、マスタシリンダM側から第二制御弁手段V2側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁である。
【0031】
レギュレータReは、カット弁2よりも第二ホイールシリンダW2側の第二液圧路A2(以下において、第二液圧路A2(A2’)というときは、カット弁2(2’)よりも第二ホイールシリンダW2(W2’)側の第二液圧路A2(A2’)をいうものとする)におけるブレーキ液圧の大きさを調整する役割(差圧制御弁としての役割)を担うものであるが、本実施形態のものは、第二液圧路A2を開閉する機能(カット弁2)と、第二液圧路A2におけるブレーキ液圧を設定値以下に調節する機能(リリーフ弁2b)と、第一液圧路A1のブレーキ液圧が第二液圧路A2のブレーキ液圧よりも大きくなったときに、第一液圧路A1から第二液圧路A2へのブレーキ液の流入を許容する機能(チェック弁2a)を有している。
例えば、後記するようなフロント連動ブレーキ制御が行われている場合に、レギュレータRe’は、後輪のブレーキ系統Rの第二液圧路A2’において第二圧力センサP2’により計測されるブレーキ液圧が、例えば、前輪と後輪との理想制動力配分曲線に対応したブレーキ液圧(所望の目標ホイール圧)となるように制御する。
なお、以下においては、説明の便宜上、後記するマスタ圧推定手段200(図3参照)によって推定された後輪の第一液圧路A1’のブレーキ液圧を「マスタ圧」と称し、後記するフロント連動ブレーキ制御時に、後輪のブレーキ系統Rの第二液圧路A2’に設定するブレーキ液圧を「目標ホイール圧」と称する。
ここで、レギュレータRe’は、前記のように差圧制御弁としての機能を備えているので、フロント連動ブレーキ制御中に、後輪のブレーキ系統Rのブレーキ操作子L’の操作によるブレーキ液圧の追加入力がなされた場合には、次のように作用する。
すなわち、フロント連動ブレーキ制御中に、ブレーキ操作子L’による追加入力がなされると、レギュレータRe’は、差圧制御弁としての機能を有することから所望の差圧を保持しようとしてリリーフ弁2b’を調節し、第一液圧路A1’のブレーキ液圧と、第二液圧路A2’のブレーキ液圧とが所望の差圧を有する状態となるように維持する。そのため、第二液圧路A2’のブレーキ液圧は、第一液圧路A1’のブレーキ液圧が増圧された分、昇圧することとなり、その結果として、第二液圧路A2’に設定された目標ホイール圧よりも昇圧されたものとなってしまう。
そこで、本実施形態では、この第二液圧路A2’のブレーキ液圧の昇圧を阻止するための機能を、後記するマスタ圧推定手段200に設けており、第二液圧路A2’のブレーキ液圧が所望の目標ホイール圧に維持されるようにしてある。マスタ圧推定手段200の詳細は後記する。
なお、本実施形態では、リニア型の電磁弁であるカット弁2にリリーフ弁2bの機能を付加したが、リニア型ではない電磁弁をカット弁2とした場合には、所定の差圧で開弁するリリーフ弁をカット弁2と並列に設ければよい。
【0032】
吸入弁3は、ポンプ1の吸入側において吸入用流路A3を開閉するものであり、本実施形態では、常閉型の電磁弁からなる。つまり、吸入弁3は、吸入用流路A3を開放する状態および閉塞する状態を切り換えるものであり、開弁状態にすると、マスタシリンダMとポンプ1の吸入口とが連通した状態になる。吸入弁3を構成する常閉型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御ユニットSUと電気的に接続されており、制御ユニットSUからの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると開弁し、消磁すると閉弁する。
【0033】
第一制御弁手段V1は、第一ホイールシリンダW1,W1に作用するブレーキ液圧の大きさを調整するために設けられたものであり、リザーバTに通じる減圧用流路A4に接続されていて、減圧用流路A4へのブレーキ液の流出を許容する状態と阻止する状態とを切り替える機能を備えている。本実施形態の第一制御弁手段V1は、入口弁4、チェック弁4aおよび出口弁5を備えて構成されていて、第一液圧路A1を開放しつつ減圧用流路A4へのブレーキ液の流出を阻止する状態(増圧状態)、第一液圧路A1を閉塞しつつ減圧用流路A4へのブレーキ液の流出を許容する状態(減圧状態)、および第一液圧路A1を閉塞しつつ減圧用流路A4へのブレーキ液の流出を阻止する状態(保持状態)を切り換える機能を有している。
【0034】
入口弁4は、第一液圧路A1に設けられた常開型の電磁弁からなる。入口弁4を構成する常開型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御ユニットSUと電気的に接続されており、制御ユニットSUからの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると閉弁し、消磁すると開弁する。
【0035】
チェック弁4aは、入口弁4と並列に設けられた一方向弁であり、その第一ホイールシリンダW1,W1側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流入のみを許容する。
【0036】
出口弁5は、第一液圧路A1から減圧用流路A4に至る流路に設けられた常閉型の電磁弁からなる。出口弁5を構成する常閉型の電磁弁は、その弁体を駆動させるための電磁コイルが制御ユニットSUと電気的に接続されており、制御ユニットSUからの指令に基づいて電磁コイルを励磁すると開弁し、消磁すると閉弁する。
【0037】
第二制御弁手段V2は、第二ホイールシリンダW2に作用するブレーキ液圧の大きさを調整するために設けられたものであり、減圧用流路A4に接続されていて、減圧用流路A4へのブレーキ液の流出を許容する状態と阻止する状態とを切り替える機能を備えている。なお、本実施形態の第二制御弁手段V2は、第一制御弁手段V1と同一の構成を備えているので、その詳細な説明は省略する。
【0038】
リザーバTは、減圧用流路A4の終点に設けられており、各出口弁5が開弁したことによって逃がされるブレーキ液を一時的に貯溜する機能を有している。また、リザーバTは、ポンプ1の吸入側に連通しており、リザーバTに貯溜されたブレーキ液は、ポンプ1によって汲み出され、第二液圧路A2へ還流される。
【0039】
第一圧力センサP1は、第一制御弁手段V1よりもマスタシリンダM側の第一液圧路A1に連通する流路に設けられていて、直接的には第一液圧路A1のブレーキ液圧を計測しているが、第一圧力センサP1で得られるブレーキ液圧は、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧とみなすことができる。なお、第一圧力センサP1で計測されたブレーキ液圧は、制御ユニットSUに随時取り込まれ、連動ブレーキ制御などの各種制御に用いられる。
ここで、第一圧力センサP1は、前輪のブレーキ系統Fにのみ設けられており、本実施形態では、後輪のブレーキ系統Rの第一液圧路A1’に作用するブレーキ液圧を後記するマスタ圧推定手段200によって推定する構成としている。これにより、後輪用のブレーキ系統Rから第一圧力センサP1が削除された分、バーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置の小型化が可能となっている。
【0040】
第二圧力センサP2は、第二制御弁手段V2よりも第二ホイールシリンダW2側の第二液圧路A2に連通する流路に設けられていて、直接的には第二液圧路A2のブレーキ液圧を計測しているが、第二圧力センサP2で得られるブレーキ液圧は、第二ホイールシリンダW2に作用するブレーキ液圧とみなすことができる。第二圧力センサP2で計測されたブレーキ液圧は、制御ユニットSUに随時取り込まれ、連動ブレーキ制御などの各種制御に用いられる。
ところで、後記する通常のブレーキ時において、第一液圧路A1と第二液圧路A2とは、開弁したカット弁2を通じて連通するようになっており、後輪用のブレーキ系統Rに設けられた第二圧力センサP2’には、ブレーキ操作子L’の操作により増圧されたブレーキ液圧が作用するようになっている。これにより、通常ブレーキ時には、第二圧力センサP2’の計測値を後輪のブレーキ系統RのマスタシリンダM’で発生されたブレーキ液圧とみなすことができる。
また、後記するフロント連動ブレーキ制御中は、後輪のブレーキ系統Rのカット弁2’が閉弁して、原則的に第一液圧路A1’と第二液圧路A2’とが分離されることとなるので、第二圧力センサP2’は、第二液圧路A2’に作用するブレーキ液圧のみを計測する。また、フロント連動ブレーキ制御中に、後輪のブレーキ系統Rのブレーキ操作子L’による追加入力がなされたときには、前記したようにレギュレータRe’が差圧制御弁として作用することから増圧したブレーキ液圧に伴って第二液圧路A2’のブレーキ液圧が昇圧することとなるが、この昇圧したブレーキ液圧を第二圧力センサP2’で計測し、その計測値(ブレーキ液圧PR2の値)が目標ホイール圧となるように目標レギュレータ電流AREGが調節される。これによって、第二液圧路A2’のブレーキ液圧が後記する目標ホイール圧Pに維持されるようになっている。
【0041】
制御ユニットSUは、図2に示すように、車輪速度センサSNに基づいて得た車体速度V、第一圧力センサP1で計測した第一液圧路A1のブレーキ液圧PF1、第二圧力センサP2で計測した第二液圧路A2のブレーキ液圧PF2といった各種の物理量に基づいて、液圧ユニットEUにおけるカット弁2、入口弁4、出口弁5および吸入弁3の開閉、並びに、ポンプ1(直接的にはモータMo)のON/OFFを制御するものであり、図示は省略するが、CPU(中央演算処理装置)や、RAM、ROM、入出力回路を備えていて、前記した物理量、ROMに記憶された制御プログラムや各種の閾値(基準値)等に基づいて演算処理を行うことによって、アンチロックブレーキ制御や連動ブレーキ制御などを実行する。
【0042】
制御ユニットSUは、連動ブレーキ制御手段100、マスタ圧推定手段200を備えている。
連動ブレーキ制御手段100は、連動判定部101、連動制御部102、モータ回転数制御部103を備えている。
【0043】
連動判定部101は、例えば、一方の前輪用のブレーキ系統Fに対応するブレーキ操作子Lの操作に連動して、他方の後輪用のブレーキ系統Rに対応する後輪ブレーキBにブレーキ液圧を付与する必要があるか否か(すなわち、連動ブレーキ制御を実行する必要があるか否か)を判定する機能と、判定結果を連動制御部102に出力する機能とを具備している。
本実施形態では、前輪用のブレーキ系統Fにおける第一液圧路A1のブレーキ液圧(第一圧力センサP1で計測)が所定値以上(以下「フロント連動条件」という)であるときに、連動判定部101がフロント連動ブレーキ制御を実行(前輪用のブレーキ系統Fに連動して後輪用のブレーキ系統Rを制御)する必要があると判定する。また、後輪用のブレーキ系統Rにおける第二液圧路A2’のブレーキ液圧(第二圧力センサP2’で計測)が所定値以上であるときに、連動判定部101がリア連動ブレーキ制御を実行(後輪用のブレーキ系統Rに連動して前輪用のブレーキ系統Fを制御)する必要があると判定する。
そして、連動判定部101は、フロント連動ブレーキ制御時に、前輪用のブレーキ系統Fにおける第一液圧路A1のブレーキ液圧がゼロになった(前輪のブレーキ操作子Lの操作が終了した)ときに、フロント連動ブレーキ制御を終了させる必要があると判定する。また、リア連動ブレーキ制御時に、後輪用のブレーキ系統Rにおけるブレーキ液圧がゼロになった(後輪のブレーキ操作子L’の操作が終了した)ときに、リア連動ブレーキ制御を終了させる必要があると判定する。
なお、所定値は、「ゼロ」や第一,第二圧力センサP1,P2の測定誤差等を除外できる程度の値に設定してもよいが、本実施形態では、ブレーキ操作子L,L’が軽く操作された程度で発生するブレーキ液圧よりも大きい値に設定してある。
また、本実施形態では、ブレーキ系統Fの第一圧力センサP1、ブレーキ系統Rの第二圧力センサP2’の計測値が後記する通常設定状態における各ブレーキ系統F,RのマスタシリンダM,M’から発生されるブレーキ液圧であると見なせることに基づいて連動ブレーキ制御を実行する必要があるか否かを判定する場合を例示するが、判定手法を限定する趣旨ではない。例えば、マスタシリンダM,M’のブレーキ液圧に相関する物理量の一つであるブレーキ操作子L,L’のストローク量の大きさを検知するストロークセンサを具備している場合には、当該ストロークセンサで取得されたストローク量の大きさに基づいて連動ブレーキ制御を実行する必要があるか否かを判定してもよい。
【0044】
連動制御部102は、連動判定部101がフロント連動ブレーキ制御、あるいはリア連動ブレーキ制御を実行する必要があると判定した場合に、予め定義された連動ブレーキ制御を実行する機能を具備している。連動制御部102による連動ブレーキ制御には、カット弁2を閉弁させる制御、吸入弁3を開弁させる制御およびポンプ1(本実施形態ではモータMo)を駆動させる制御が含まれている。また、連動制御部102は、連動判定部101が連動ブレーキ制御を終了させる必要があると判定した場合に、連動ブレーキ制御の対象となっていたカット弁2を開弁させる制御、吸入弁3を閉弁させる制御およびポンプ1を停止させる制御を実行し、連動ブレーキ制御を終了させる。
【0045】
モータ回転数制御部103は、連動判定部101がフロント連動ブレーキ制御、あるいはリア連動ブレーキ制御を実行する必要があると判定した場合に、予め定義された連動ブレーキ制御のためのモータ回転数制御を実行する機能を具備している。モータ回転数制御部103によるモータ回転数制御には、例えば、連動ブレーキ時に所定のモータ回転数n1に設定する制御や、連動ブレーキ制御中のブレーキ操作子Lの追加入力に対応して、脈動を抑制する比較的低回転のモータ回転数n2に設定する制御等を含んでいる。また、モータ回転数制御部103は、連動判定部101が連動ブレーキ制御を終了させる必要があると判定した場合に、モータMoを停止させる(通電を停止させる)。
本実施形態では、フロント連動ブレーキ制御時に、後記するマスタ圧推定手段200によって推定された後輪の第一液圧路A1’のマスタ圧の大きさに基づいて、モータ回転数制御部103によるモータ回転数制御が行われるようにしてある。また、リア連動ブレーキ制御時に、前輪のブレーキ系統Fの第一圧力センサP1から取得した計測値に基づいて、モータ回転数制御部103によるモータ回転数制御が行われるようにしてある。
【0046】
マスタ圧推定手段200は、後輪用のブレーキ系統RのマスタシリンダM’で発生されたブレーキ液圧を推定するものであり、図3に示すように、目標ホイール圧算出部10、目標調整圧算出手段としての液圧フィードバック制御部20および目標レギュレータ圧算出部30、さらに、マスタ圧算出部40、目標レギュレータ電流算出部50を備えている。
【0047】
目標ホイール圧算出部10は、基準ホイール圧設定部11、車速補正係数算出部12、マスタ圧補正係数算出部13を備え、フロント連動ブレーキ制御時に、後輪のブレーキ系統Rの第二液圧路A2’に設定する目標ホイール圧Pを算出する。
【0048】
基準ホイール圧設定部11は、他方(前輪)のブレーキ系統Fのブレーキ液圧PF1に基づいて一方(後輪)のブレーキ系統Rに設定する目標ホイール圧Pの基準となる基準ホイール圧PKを設定する機能を具備している。基準ホイール圧PKは、前輪ブレーキBと後輪ブレーキBとが所定の制動力配分となるように、前輪のブレーキ系統Fのブレーキ液圧PF1の大きさに基づいて算出される。ここでは、マップ記憶部11Aに予め記憶されたマップや関数に基づいてブレーキ液圧PF1を取得する。
マップ記憶部11Aが記憶しているマップとしては、例えば、図4(a)に示すようなものであり、例えば、基準ホイール圧PKとブレーキ液圧PF1とを所望の理想制動力配分曲線等に対応させたものを用いることができる。なお、基準ホイール圧PKは、前輪用のブレーキ系統Fの第一圧力センサP1から取得したブレーキ液圧PF1(あるいは前輪用のブレーキ系統Fの第二圧力センサP2から取得したブレーキ液圧PF2)の増圧速度を加味して設定することもできる。
【0049】
車速補正係数算出部12は、車速補正係数K1を設定する機能を具備しており、入力された車体速度Vの大きさに基づいて、マップ記憶部12Aに予め記憶されたマップや関数から車速補正係数K1を取得する。車速補正係数K1は、基準ホイール圧PKを補正するための係数であり、車体速度Vの関数になっている。
マップ記憶部12Aが記憶しているマップとしては、例えば、図4(b)に示すような関数のグラフを用いることができる。
なお、車体速度Vは、前輪や後輪に固着された図示しないパルサーギアの側面に対向配置した車輪速度センサSNからの出力値に基づいて算出したものを用いることができる。
【0050】
マスタ圧補正係数算出部13は、マスタ圧補正係数K2を設定する機能を具備しており、後記するように推定したマスタ圧のうち、前回のマスタ圧PM(n−1)の大きさに基づいて、マップ記憶部13Aに予め記憶されたマップや関数からマスタ圧補正係数K2を取得する。マスタ圧補正係数K2は、基準ホイール圧PKを補正するための係数であり、マスタ圧PMの関数になっている。
マップ記憶部13Aが記憶しているマップとしては、例えば、図4(c)に示すような関数のグラフを用いることができる。
ここで、マスタ圧PM(n−1)の初期値は「ゼロ」である。なお、本明細書において、PMなどの変数に続けて記す(n−1)は、前回の計算結果を示し、(n)は、今回の計算結果を示す。
【0051】
そして、目標ホイール圧算出部10は、前記基準ホイール圧設定部11で設定した基準ホイール圧PKに車速補正係数K1およびマスタ圧補正係数K2を乗算して、目標ホイール圧P(n)を算出する。例えば、目標ホイール圧P(n)を、次式
(n) = PK × K1 × K2 ・・・(1)
により算出する。算出した目標ホイール圧P(n)は、目標レギュレータ圧算出部30およびマスタ圧算出部40に出力される。
【0052】
液圧フィードバック制御部20は、算出した前回の目標ホイール圧P(n−1)と後輪のブレーキ系統Rの第二圧力センサP2’の今回の計測値であるブレーキ液圧PR2とを入力して、両者間における差圧を算出し、この算出した差圧を基に周知のPI演算(Pは比例制御、Iは積分制御)を行って、差圧に応じたPI制御量(フィードバック制御量)PPI(n)を算出する機能を具備している。算出したPI制御量PPI(n)は、目標レギュレータ圧算出部30に出力される。
ここで、後記するようなフロント連動ブレーキ制御が行われて、後輪のブレーキ系統Rの第二液圧路A2’に、ブレーキ液圧が作用している状態から、さらに、後輪のブレーキ操作子L’の追加入力が行われた場合には、レギュレータRe’(図1参照)が差圧制御弁であることから、第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2が、第一液圧路A1’に作用するブレーキ液圧に対して所定の差圧を維持しながら昇圧する。このため、第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2が目標ホイール圧算出部10で算出した目標ホイール圧P(n)を上回ってしまうこととなるが、液圧フィードバック制御部20によって、前回の目標ホイール圧P(n−1)と後輪のブレーキ系統Rの今回のブレーキ液圧PR2との差圧に応じたPI制御量PPI(n)がなされて、これが後段の目標レギュレータ圧PREGの算出に反映され、これによって、第二液圧路A2のブレーキ液圧PR2の昇圧が抑えられるようになっている。
【0053】
目標レギュレータ圧算出部30は、目標ホイール圧算出部10にて算出した今回の目標ホイール圧P(n)に、液圧フィードバック制御部20で算出した今回のPI制御量PPI(n)を加算して、レギュレータRe’(図1参照、以下同じ)に設定する目標レギュレータ圧PREG(n)(目標調整圧)を算出する機能を有している。例えば、目標レギュレータ圧PREG(n)を、次式
REG(n) = P(n) + PPI(n) ・・・(2)
により算出する。算出した目標レギュレータ圧PREG(n)は、マスタ圧算出部40および目標レギュレータ電流算出部50に出力される。
【0054】
マスタ圧算出部40は、目標ホイール圧算出部10にて算出した今回の目標ホイール圧P(n)から目標レギュレータ圧算出部30にて算出した今回の目標レギュレータ圧PREG(n)を減算して、マスタ圧PM(n)を算出し、ブレーキ系統Rの第一液圧路A1’のブレーキ液圧を推定する。例えば、マスタ圧PM(n)を、次式
M(n) = P(n) − PREG(n) ・・・(3)
により算出する。算出したマスタ圧PM(n)は、目標ホイール圧算出部10のマスタ圧補正係数算出部13に出力されるとともに連動ブレーキ制御手段100に出力されて液圧ユニットEUが制御される。
【0055】
目標レギュレータ電流算出部50は、目標レギュレータ圧算出部30にて算出した目標レギュレータ圧PREG(n)に基づいてレギュレータRe’の目標レギュレータ電流AREG(n)を設定する機能を具備しており、入力した目標レギュレータ圧PREG(n)の大きさに基づいて、マップ記憶部50Aに予め記憶されたマップや関数から目標レギュレータ電流AREG(n)を取得する。目標レギュレータ電流AREG(n)は、カット弁2’の電磁コイルに流す電流である。
マップ記憶部50Aが記憶しているマップとしては、例えば、図5に示すような関数のグラフを用いることができる。図5に示すように、目標レギュレータ電流AREG(n)は、算出された目標レギュレータ圧PREG(n)に比例しており、目標レギュレータ圧PREG(n)が大きいほど目標レギュレータ電流AREG(n)が大きくなるように規定されている。
目標レギュレータ電流算出部50で算出した目標レギュレータ電流AREG(n)は、連動ブレーキ制御手段100に出力され、この目標レギュレータ電流AREG(n)に基づきレギュレータRe’が駆動される。つまり、目標レギュレータ電流AREG(n)に基づいて、カット弁2’が所望の開弁圧に設定され、第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2と第一液圧路A1’のブレーキ液圧との差圧が調節されることで、第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2が、目標ホイール圧算出部10で算出された目標ホイール圧P(n)になるように調整される。
【0056】
なお、図示は省略するが、ポンプ1、各種電磁弁、リザーバT、制御ユニットSUを収納する図示せぬハウジング、モータMoなどは、ブレーキ液の流路が形成されたブロック状の基体に組み付けられている。
【0057】
次に、本実施形態のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置の作用を説明する。本実施形態のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置では、以下に説明するように、ブレーキ操作子Lの操作に応じた制動力を発生させることができるほか、アンチロックブレーキ制御、連動ブレーキ制御などを実行することができる。
【0058】
まず、ブレーキ操作子Lの操作に応じた制動力を発生させる通常設定状態(連動ブレーキ制御やアンチロックブレーキ制御が実行されていない状態や、エンジンが停止した状態(図示しないイグニッションスイッチがオフ状態))における液圧回路の状態およびブレーキ液圧の作用状況を説明する。
制御ユニットSUが通常設定状態を選択しているときには、図1に示すように、総ての電磁コイルが消磁された状態となり、かつ、モータMo(ポンプ1)も停止した状態となる。すなわち、通常設定状態においては、カット弁2および入口弁4が開弁し、吸入弁3および出口弁5が閉弁していることから、運転者がブレーキ操作子Lを操作すると、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧が、第一液圧路A1を介して第一ホイールシリンダW1,W1に直接的に作用するとともに、第二液圧路A2を介して第二ホイールシリンダW2に直接的に作用し、前輪ブレーキB,後輪ブレーキBにそれぞれのブレーキ操作子L,L’のストローク量に応じた制動力が付与されることになる。
ここで、後輪用のブレーキ系統Rでは、ブレーキ操作子L’の操作により発生したブレーキ液圧が、第一液圧路A1’およびカット弁2’を通じて第二液圧路A2’にそれぞれ作用する。つまり、第二圧力センサP2’で計測されるブレーキ液圧は、後輪のマスタシリンダM’からのブレーキ液圧とみなすことができ、第二圧力センサP2’でこのブレーキ液圧を直接的に計測することができる。したがって、第一液圧路A1’から第一圧力センサP1を削除した構成であってもマスタシリンダM’からのブレーキ液圧を計測することができる。
【0059】
続いて、アンチロックブレーキ制御時における液圧回路の状態およびブレーキ液圧の作用状況を説明する。
アンチロックブレーキ制御は、車輪がロック状態に陥りそうになったときに実行されるものであり、ロック状態に陥りそうになっているブレーキ系統F,Rにおける第一制御弁手段V1および第二制御弁手段V2を制御して、第一ホイールシリンダW1,W1および第二ホイールシリンダW2に作用するブレーキ液圧を減圧、増圧あるいは一定に保持することによって実現される。減圧、増圧および保持のいずれのモードを選択するかは、車輪速度センサSNから得た車体速度Vに基づいて、制御ユニットSUによって判断される。なお、以下では、前輪のブレーキ操作子Lのみが操作され、前輪のブレーキ系統Fに対してアンチロックブレーキ制御が実行された場合を想定して説明を行う。
【0060】
前輪のブレーキ系統Fに対するアンチロックブレーキ制御において、各ホイールシリンダW1,W2に付与するブレーキ液圧を減圧させるモードが実行されると、図6に示すように、第一制御弁手段V1および第二制御弁手段V2のそれぞれにおいて、入口弁4が閉弁し、出口弁5が開弁する。このようにすると、入口弁4よりも前輪ブレーキB側にあるブレーキ液が減圧用流路A4を通ってリザーバTに流入することになるので、各ホイールシリンダW1,W2に作用していたブレーキ液圧が減圧することになる。なお、アンチロックブレーキ制御を実行する場合には、ポンプ1(直接的にはモータMo)を作動させ、リザーバTに貯溜されたブレーキ液を第二液圧路A2に還流することで、減圧された第一液圧路A1や第二液圧路A2の圧力状態を回復させる。
【0061】
なお、前輪のブレーキ操作子Lのみを操作すると、後輪用のブレーキ系統Rに対して連動ブレーキ制御が実行されることになるが、当該連動ブレーキ制御は、前輪用のブレーキ系統Fに対してアンチロックブレーキ制御が実行された後も、継続される。
【0062】
前輪用のブレーキ系統Fに対するアンチロックブレーキ制御において、各ホイールシリンダW1,W2に付与するブレーキ液圧を保持するモードが実行されると、図示は省略するが、第一制御弁手段V1および第二制御弁手段V2のそれぞれにおいて、入口弁4および出口弁5が閉弁する。このようにすると、入口弁4および出口弁5で閉じられた流路内にブレーキ液が閉じ込められることになるので、各ホイールシリンダW1,W2に作用していたブレーキ液圧が保持されることになる。
【0063】
前輪用のブレーキ系統Fに対するアンチロックブレーキ制御において、各ホイールシリンダW1,W2に付与するブレーキ液圧を増圧させるモードが実行されると、入口弁4が開弁し、出口弁5が閉弁する。このようにすると、ブレーキ操作子Lの操作に起因してマスタシリンダMで発生したブレーキ液圧が、第一液圧路A1を介して第一ホイールシリンダW1,W1に付与されるとともに、第二液圧路A2を介して第二ホイールシリンダW2に付与されることになるので、各ホイールシリンダW1,W2のブレーキ液圧が増圧することになる。
【0064】
次に、連動ブレーキ制御時における液圧回路の状態およびブレーキ液圧の作用状況を、図7,図8および先に示した図2,図3を参照して説明する。
ここで、連動ブレーキ制御は、一方のブレーキ操作子Lが操作されていない状態(一方のブレーキ操作子Lの操作により発生したブレーキ液圧が小さい場合を含む)で他方のブレーキ操作子Lが操作された場合(すなわち、他方のブレーキ操作子の操作により発生したブレーキ液圧が所定値以上になった場合)に実行されるものである。なお、以下では、後輪のブレーキ操作子L’が操作されていない状態で前輪のブレーキ操作子Lが操作された場合のフロント連動ブレーキ制御を想定して説明を行う。
【0065】
前輪のブレーキ操作子Lが操作されると、図8の制御フローに示すように、ステップS1では、連動ブレーキ制御手段100が、前輪の第一圧力センサP1からブレーキ液圧PF1を取得する。また、連動ブレーキ制御手段100は、後輪の第二圧力センサP2’からブレーキ液圧PR2を取得するとともに、車輪速度センサSNに基づく車体速度Vを取得する。なお、ここでは、第一圧力センサP1で取得したブレーキ液圧PF1に基づいて連動ブレーキ制御を行うこととしたが、前輪の第二圧力センサP2から取得されたブレーキ液圧PF2に基づいて、または、ブレーキ液圧PF1およびブレーキ液圧PF2に基づいて、連動ブレーキ制御を行うようにしてもよい。
【0066】
ステップS2では、連動判定部101によって、フロント連動条件が成立したか否かが判定される。フロント連動条件が成立した(Yes)と判定された場合には、ステップS3に進み、目標ホイール圧算出部10によって目標ホイール圧P(n)が算出される。
目標ホイール圧算出部10では、まず、基準ホイール圧設定部11が、第一圧力センサP1のブレーキ液圧PF1に基づいて、マップ記憶部11Aのマップから基準ホイール圧PKを取得し、車速補正係数算出部12が取得した車体速度Vに基づいて、マップ記憶部12Aのマップから車速補正係数K1を取得し、さらに、マスタ圧補正係数算出部13が前回のマスタ圧PM(n−1)に基づいて、マップ記憶部13Aのマップからマスタ圧補正係数K2を取得する。なお、連動ブレーキ開始当初は、マスタ圧PM(n−1)に初期値「ゼロ」が設定され、マップ記憶部13Aのマップからマスタ圧補正係数K2=1を取得する(図4(c)参照)。
また、フロント連動条件が成立したと判定されると、モータ回転数制御部103が予め定義された連動ブレーキ制御のためのモータ回転数n1(図9(b)参照)となるように制御を実行する。
そして、目標ホイール圧算出部10は、前記式(1)により、後輪用のブレーキ系統Rの第二液圧路A2’(ホイールシリンダW2’)に設定するための目標ホイール圧P(n)を算出する。
【0067】
ここで、制御ユニットSUにより後輪用のブレーキ系統Rに対して連動ブレーキ制御が実行されると、ブレーキ系統Rにおけるカット弁2’と吸入弁3’に対応する電磁コイルが励磁された状態となり、図7に示すように、カット弁2’が閉弁するとともに、吸入弁3’が開弁し、さらに、ポンプ1’(直接的にはモータMo)が作動する。なお、第一,第二液圧路A1’,A2’の入口弁4’と出口弁5’とに対応する電磁コイルは、消磁された状態となり、入口弁4’が開弁するとともに、出口弁5’が閉弁する。カット弁2’を閉じ、吸入弁3’を開いた状態でポンプ1’を作動させると、吸入用流路A3’を介してポンプ1’に取り込まれたブレーキ液が第二液圧路A2’側に供給されてカット弁2’よりも第二ホイールシリンダW2’側における第二液圧路A2’内のブレーキ液圧が昇圧され、さらに第二ホイールシリンダW2’内のブレーキ液圧が昇圧される結果、後輪ブレーキBに制動力が付与されるようになる。
【0068】
その後、ステップS4では、液圧フィードバック制御部20によって、PI制御量PPI(n)が算出される。液圧フィードバック制御部20では、まず、前回の目標ホイール圧P(n−1)と、ステップS1で取得した第二圧力センサP2’のブレーキ液圧PR2との差圧を算出し、この算出した差圧を基にPI演算を行って、差圧に応じたPI制御量PPI(n)を算出する。なお、連動ブレーキ開始時は、目標ホイール圧P(n−1)に初期値「ゼロ」が設定され、差圧は「ゼロ」となる。
【0069】
ステップS5では、目標レギュレータ圧算出部30が、前記式(2)に基づいて、ステップS1で算出した目標ホイール圧P(n)に、ステップS4で算出したPI制御量PPI(n)を加算し、レギュレータRe’に設定する目標レギュレータ圧PREG(n)を算出する。
ここで、フロント連動ブレーキ開始後、後輪用のブレーキ系統Rにおいてブレーキ操作子L’による追加入力がなされない場合には、算出されるマスタ圧が「ゼロ」のままであるので、目標レギュレータ圧算出部30では、目標ホイール圧算出部10で算出した目標ホイール圧P(n)のみに基づいて、目標レギュレータ圧PREG(n)の算出を行う。つまり、後輪用のブレーキ系統Rのブレーキ液圧PR2が、目標ホイール圧算出部10で算出した目標ホイール圧P(n)となるように、目標レギュレータ圧PREG(n)が算出される。
【0070】
ステップS6では、マスタ圧算出部40が、前記式(3)に基づいて、ステップS3で算出した目標ホイール圧P(n)からステップS5で算出した目標レギュレータ圧PREG(n)を減算し、マスタ圧PM(n)を算出する。
【0071】
ステップS7では、目標レギュレータ電流算出部50によって、レギュレータRe’の目標レギュレータ電流AREG(n)が算出される。目標レギュレータ電流算出部50では、ステップS5で算出した目標レギュレータ圧PREG(n)に基づいてマップ記憶部50Aのマップから目標レギュレータ電流AREG(n)を取得し、「リターン」へ進む。
【0072】
なお、連動ブレーキ制御中、ブレーキ液圧PR2が目標ホイール圧P(n)よりも大きくなると、レギュレータRe’(カット弁2’)の調圧機能により、第二液圧路A2’内のブレーキ液がレギュレータRe’を通ってマスタシリンダM’側に流出し、第二ホイールシリンダW2’(第二液圧路A2’)のブレーキ液圧が目標ホイール圧P(n)に保たれることになる。また、連動ブレーキ制御を終了すると、カット弁2’と吸入弁3’に対応する電磁コイルが消磁され、カット弁2’が開弁するとともに、吸入弁3’が閉弁し、第二液圧路A2’内のブレーキ液がカット弁2’を通ってマスタシリンダM’に還流するので、第二ホイールシリンダW2’に作用するブレーキ液圧が速やかに減圧されることになる。
【0073】
次に、図9(a)(b)に示すタイムチャートを参照して説明する。ここでは、前記のような制御フローにおいてフロント連動ブレーキ制御が開始された後に、後輪のブレーキ操作子L’が操作された場合のブレーキ液圧の作用状況、目標レギュレータ圧の設定状況、モータ回転数の変化について説明する。
【0074】
図9(a)に示すように、フロント連動ブレーキ制御が開始されると、目標レギュレータ圧算出部30が、目標ホイール圧算出部10で算出した目標ホイール圧P(n)に基づいて、目標レギュレータ圧PREG(n)を算出し、目標レギュレータ電流算出部50が目標レギュレータ電流AREG(n)を設定する。
また、モータ回転数制御部103が、モータMoの回転数を連動ブレーキ制御用のモータ回転数n1に設定する(図9(b)参照)。
【0075】
時刻t1において、後輪のブレーキ操作子L’による追加入力がなされると、第一液圧路A1’の入口弁4’が開弁し、出口弁5’が閉弁していることから、マスタシリンダM’で発生したブレーキ液圧が、第一液圧路A1’を介して第一ホイールシリンダW1’,W1’に直接的に作用し、連動ブレーキ制御により後輪ブレーキBに付与された制動力に、ブレーキ操作子L’のストローク量に応じた制動力が追加されることになる。
【0076】
時刻t2を過ぎて、ブレーキ操作子L’により追加入力したブレーキ液圧が、ブレーキ操作子L’が軽く操作された程度で発生するブレーキ液圧よりも大きい値、つまり、第一液圧路A1’のブレーキ液圧がカット弁2’の開弁圧に影響を及ぼす大きさのブレーキ液圧になると、差圧制御弁としてのレギュレータRe’の作用により、第一液圧路A1’と第二液圧路A2’との差圧が維持されることから、第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2が昇圧し、液圧フィードバック制御部20がPI制御量PPI(n)を算出する。そして、目標レギュレータ圧算出部30が、追加入力に応じた目標レギュレータ圧PREG(n)を算出し、目標レギュレータ電流AREG(n)が設定される。つまり、時刻t2以降は、目標ホイール圧P(n−1)と、第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2との差圧が、液圧フィードバック制御部20において随時算出され、それを基にPI演算が行われて、差圧に応じたPI制御量PPI(n)が算出される(ステップS4)。そして、目標レギュレータ圧算出部30が、前記式(2)に基づいて、ステップS1で算出した目標ホイール圧P(n)に、ステップS4で算出したPI制御量PPI(n)を加算して、レギュレータRe’に設定する目標レギュレータ圧PREG(n)を算出する(ステップS5)。
【0077】
一方、時刻t2以降、マスタ圧算出部40が、前記式(3)に基づいて、ステップS3で算出した目標ホイール圧P(n)からステップS5で算出した目標レギュレータ圧PREG(n)を減算して、第一液圧路A1’のマスタ圧PM(n)を逐次算出する。
【0078】
算出されたマスタ圧PM(n)は、モータ回転数制御部103に入力され、マスタ圧PM(n)の値が増加すると第二液圧路A2のブレーキ液圧PR2の昇圧量を低下させても目標ホイール圧P(n)を維持できることから、モータ回転数制御部103が、モータMoの回転数を、脈動を抑制する比較的低回転のモータ回転数n2に設定する(図9(b)参照)。これにより、ブレーキ操作子L’に伝わる脈動は極めて小さいものとされる。
【0079】
ところで、算出された目標レギュレータ圧PREG(n)は、時刻t2から時刻t3にかけて、第一液圧路A1’のブレーキ液圧が漸次増圧していくことから、これとは反対に漸次減少するようになり、第一液圧路A1’のブレーキ液圧が第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2と等しくなる時刻t3において「ゼロ」となる。
また、推定したマスタ圧PM(n)がブレーキ液圧PR2と等しくなると、そのことが、モータ回転数制御部103に入力され、モータ回転数制御部103が、モータMoを停止制御する(図9(b)参照)。
【0080】
時刻t3以降は、第一液圧路A1’のブレーキ液圧が第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2よりも大きくなるため、第一液圧路A1’から第二液圧路A2’にブレーキ液圧が作用し、第一液圧路A1’のブレーキ液圧および第二液圧路A2’のブレーキ液圧PR2が共に増圧する。
【0081】
以上説明した本実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、ブレーキ系統F,Rのそれぞれにおいて、第二ホイールシリンダW2,W2’に通じる第二液圧路A2,A2’内のブレーキ液圧を昇圧手段S,S’によって昇圧させることができるので、連動ブレーキ制御をはじめとする各種制御を実行することができる。
しかも、本実施形態によれば、マスタ圧推定手段200が設けられており、昇圧手段S’が設けられる後輪のブレーキ系統Rの第一液圧路A1’のブレーキ液圧(マスタ圧)を推定できるようになっているので、後輪用のブレーキ系統Rに対して従来のようなブレーキ液圧を検出するための第一圧力センサP1を設けることなく、第一液圧路A1’のブレーキ液圧の大きさを把握することができる。つまり、後輪のブレーキ系統Rが第一液圧路A1’と第二液圧路A2’との二つの液圧路を備え、この二つの液圧路間で液圧差を発生させることが可能な構成とされていてもセンサの数を増やす必要がなくなる。
これにより、後輪のブレーキ系統Rに対してセンサの設置個数を削減することができ、ブレーキ液圧を検出するための第一圧力センサP1を設けた場合と同様に昇圧制御を実行することが可能でありながら、装置全体としての小型化やコストダウンを図ることができるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置が得られる。
【0082】
また、連動ブレーキ制御時に第一液圧路A1’内のブレーキ液圧を昇圧させずに済むので、連動ブレーキ制御中にブレーキ操作子L’による追加入力を行ってもブレーキ操作子L’に操作反力が生じず、運転者に、いわゆる「壁感(剛性感)」を与えることがない。つまり、本発明によれば、連動ブレーキ制御中におけるブレーキ操作子L’の操作フィーリングを、連動ブレーキ制御が実行されていない通常ブレーキ時の操作フィーリングと同様にすることが可能となる。このような効果は、リア連動ブレーキ制御時に、前輪用のブレーキ系統Fのブレーキ操作子Lによる追加入力を行った場合にも同様に得られる。
【0083】
また、目標レギュレータ圧算出部30は、目標ホイール圧算出部10が前回算出した目標ホイール圧P(n−1)と、ブレーキ液圧PR2とから算出されたフィードバック制御量PPI(n)を用いて目標レギュレータ圧PREG(n)を算出するので、実際に検出された各部の圧力に基づいてブレーキ液圧(マスタ圧)の推定が行われることとなり、高精度にブレーキ液圧の推定を行うことができて、装置全体としての小型化やコストダウンを図ることができる。
【0084】
また、目標ホイール圧算出部10は、他方のブレーキ系統(前輪用のブレーキ系統F)において発生されたブレーキ液圧に基づいて目標ホイール圧P(n)を算出するので、良好な連動ブレーキを実現することができるとともに、高精度にブレーキ液圧(マスタ圧)を推定することができ、装置全体としての小型化やコストダウンを図ることができる。また、他方のブレーキ系統におけるブレーキ操作子Lのストローク量に応じたブレーキ液圧に基づいて目標ホイール圧P(n)が算出されるので、良好な連動ブレーキを実現することができるとともに、高精度にブレーキ液圧(マスタ圧)を推定することができる。
【0085】
なお、本実施形態では、ブレーキ系統F,Rのいずれに対しても連動ブレーキ制御等を行えるようなバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置を例示したが、これに限定されることはなく、図示は省略するが、ブレーキ系統F,Rのいずれか一方のみに連動ブレーキ制御等を行うバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であっても差し支えない。
【0086】
また、本実施形態では、液圧フィードバック制御部20がPI演算を行うことによってフィードバック制御量を算出しているが、これに限定されるものではなく、例えば、PI演算に微分制御を追加した周知のPID演算によってフィードバック制御量を算出してもよい。
【0087】
また、本実施形態では、モータ回転数制御部103は連動ブレーキ制御中のブレーキ操作子L(L’)の追加入力に対応して、モータ回転数n1から一定のモータ回転数n2に低下させるようにしているが、これに限定されることはなく、例えば、ブレーキ操作子L(L’)の追加入力時の入力量や入力速度等に応じてモータ回転数を段階的またはリニアに低下させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置の液圧回路図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置の機能を説明するためのブロック図である。
【図3】マスタ圧推定手段の機能を説明するためのブロック図である。
【図4】(a)はブレーキ液圧と基準ホイール圧との関係を示す図、(b)は車体速度と車体速度補正係数との関係を示す図、(c)はマスタ圧計算部により算出したマスタ圧とマスタ圧補正係数との関係を示す図である。
【図5】目標レギュレータ圧と目標レギュレータ電流との関係を示す図である。
【図6】アンチロックブレーキ制御を説明するための液圧回路図である。
【図7】フロント連動ブレーキ制御中の液圧回路図である。
【図8】制御フローを説明するためのフローチャートである。
【図9】(a)は連動ブレーキ制御時における第一液圧路のブレーキ液圧と第二液圧路のブレーキ液圧との関係と目標レギュレータ電流との関係を示す図、(b)は連動ブレーキ制御時におけるモータ回転数の推移を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
2 カット弁
2b リリーフ弁
3 吸入弁
4 入口弁
5 出口弁
10 目標ホイール圧算出部
11 基準ホイール圧設定部
12 車速補正係数算出部
13 マスタ圧補正係数算出部
20 液圧フィードバック制御部
30 目標レギュレータ圧算出部
40 マスタ圧算出部
50 目標レギュレータ電流算出部
100 連動ブレーキ制御手段
101 連動判定部
102 連動制御部
103 モータ回転数制御部
200 マスタ圧推定手段
A1 第一液圧路
A2 第二液圧路
A3 吸入用流路
A4 減圧用流路
前輪ブレーキ
後輪ブレーキ
F,R ブレーキ系統
L ブレーキ操作子
M マスタシリンダ
P1 第一圧力センサ
P2 第二圧力センサ
Re レギュレータ
S 昇圧手段
S1 車輪速度センサ
SU 制御ユニット
V1 第一制御弁手段
V2 第二制御弁手段
W1 第一ホイールシリンダ
W2 第二ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪ブレーキに制動力を付与する前輪用のブレーキ系統と、
後輪ブレーキに制動力を付与する後輪用のブレーキ系統と、を備えるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
一方の前記ブレーキ系統は、
ブレーキ操作子のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、
前記マスタシリンダに通じる第一液圧路と、
前記第一液圧路から分岐した第二液圧路と、
前記第一液圧路に接続された第一ホイールシリンダと、
前記第二液圧路に接続された第二ホイールシリンダと、
前記第二液圧路に設けられ、前記第二液圧路のブレーキ液圧を検出可能な第二液圧路検出手段と、
前記第一液圧路内のブレーキ液圧を昇圧させることなく、前記第二液圧路内のブレーキ液圧を昇圧可能な昇圧手段と、
前記昇圧手段によって昇圧された前記第二液圧路内のブレーキ液圧を調圧可能な調圧手段と、
前記マスタシリンダで発生されたブレーキ液圧を推定するマスタ圧推定手段と、を備え、
前記マスタ圧推定手段は、
ブレーキ制御時に前記第二ホイールシリンダに付与すべき目標ホイール圧を算出する目標ホイール圧算出部と、
前記昇圧手段により昇圧されたブレーキ液圧が、前記目標ホイール圧に近づくようにフィードバック制御し、前記調圧手段に設定する目標調整圧を算出する目標調整圧算出部と、
前記目標ホイール圧と前記目標調整圧とから前記マスタシリンダのブレーキ液圧を推定するマスタ圧算出部と、を具備したことを特徴とするバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記目標調整圧算出部は、
前記目標ホイール圧算出部が前回算出した目標ホイール圧と、前記第二液圧路検出手段が検出したブレーキ液圧と、からフィードバック制御し、目標調整圧を算出することを特徴とする請求項1に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記目標ホイール圧算出部は、他方の前記ブレーキ系統において発生されたブレーキ液圧に基づいて目標ホイール圧を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
他方の前記ブレーキ系統は、
ブレーキ操作子のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、
前記マスタシリンダに通じる液圧路内のブレーキ液圧を少なくとも検出可能な検出手段と、を備えており、
前記検出手段により検出されたブレーキ液圧に基づいて、一方の前記ブレーキ系統の前記目標ホイール圧算出部が目標ホイール圧を算出することを特徴とする請求項3に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
前記目標調整圧算出部は、前記目標ホイール圧算出部で算出された今回の目標ホイール圧P(n)に、前回算出した前記目標ホイール圧と前記第二液圧路検出手段が検出したブレーキ液圧とから算出された今回のフィードバック制御量PPI(n)を加算して、目標調整圧PREG(n)を求め、
前記マスタ圧算出部は、目標ホイール圧算出部で算出した今回の目標ホイール圧P(n)から前記目標調整圧PREG(n)を減算して求めることで、前記マスタシリンダからのブレーキ液圧PM(n)を推定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
前輪ブレーキに制動力を付与する前輪用のブレーキ系統と、
後輪ブレーキに制動力を付与する後輪用のブレーキ系統と、を備えるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
一方の前記ブレーキ系統は、
ブレーキ操作子のストローク量に応じたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、
前記マスタシリンダに通じる液圧路内のブレーキ液圧を昇圧させることなく、ホイールシリンダに通じる液圧路内のブレーキ液圧を昇圧可能な昇圧手段と、
前記昇圧手段によって昇圧されたブレーキ液圧を調圧可能な調圧手段と、
前記マスタシリンダで発生されたブレーキ液圧を推定するマスタ圧推定手段と、を備え、
前記マスタ圧推定手段は、
他方の前記ブレーキ系統において発生されたブレーキ液圧に基づいて、ブレーキ制御時に前記ホイールシリンダに付与すべき目標ホイール圧を算出する目標ホイール圧算出部と、
前記昇圧手段により昇圧されたブレーキ液圧が、算出された前記目標ホイール圧に近づくようにフィードバック制御し、前記調圧手段に設定する目標調整圧を算出する目標調整圧算出部と、
前記目標ホイール圧と前記目標調整圧とから前記マスタシリンダのブレーキ液圧を推定するマスタ圧算出部と、を具備したことを特徴とするバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−202690(P2009−202690A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45729(P2008−45729)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】