説明

パターン形成方法

【課題】コーティング層の下地パターンとなる層を形成する際にプロセスを複雑化させること無くコーティング層の剥離耐性の改善するパターン形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも一種類の無機物からなる超微粒子を含むコロイド材料を基板に接触して配置し、前記コロイド材料と前記基板の接触面近傍にエネルギービームを照射することで前記基板上に前記無機物を含む層を固定化してパターンを形成するパターン形成方法であって、前記コロイド材料によってパターン形成する際のエネルギーより大きい前記エネルギービームを前記コロイド材料に照射することで、前記パターン表面にパターン上方にさらに形成されるコーティング層と機械的な結合を得るためのアンカーポイントをパターンと同時に形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成されるパターン形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハー上に真空プロセスとフォトリソグラフィー等の微細加工技術を用いて集積回路を形成する従来型の固体/ガス材料ベースの機能素子作成方法に対して、溶液化した有機材料や溶媒中にコロイド状に分散された無機材料等の液体材料と、印刷技術とを組み合わせた全く新しい材料/プロセスに基づくいわゆる印刷エレクトロニクスを用いた機能素子が数多く提案されてきている。そして、現在、印刷エレクトロニクスにおける印刷方式は、インクジェット方式を中心として、スクリーン印刷方式やグラビア印刷方式、そしてレーザー描画方式などの検討が行われている。
【0003】
レーザー描画方式は基板に接触させた材料にレーザー照射を行うことで照射部分の材料の少なくとも一部を分解、乾燥、重合、結晶化させるなどして未照射部分との間に物性の差異を生じさせその結果パターン形成を行うものであって、商業印刷分野における版下の作製などにおいて実用化されている技術である。
【0004】
一方でパターンとして形成される材料として、近年のナノテクノロジーの進展によりさまざまな材料の提案が行われてきている。これらは例えば直径数nmの銀の超微粒子を保護剤で被覆し適当な溶媒中に分散させたコロイド状液体材料を代表的なものとして挙げることができ、上市品を試薬メーカー等から購入可能である。この材料は銀インクなどと称され、あたかも従来の印刷用インクのように基板上に塗布を行うことができ、塗布後に熱処理を行うことで銀の超微粒子を被覆していた保護剤が分解除去され銀の皮膜が形成されるといったものである。銀のほかにも金や銅、白金、パラジウム等の貴金属を中心とした金属類、透明導電体として知られているインジウム錫酸化物や絶縁体や光導波路材料としての酸化ケイ素や酸化チタン、さらには半導体材料としてのシリコン微粒子を分散した半導体インクなどが盛んに検討されている。
【0005】
これら機能性インクともいうべきコロイド材料群をレーザー描画法と組み合わせて使用することで、基板上に例えば銀インクを塗布して所望のパターンにレーザー照射を行なえば導電パターンを形成することができ、また例えば酸化ケイ素のインクを塗布してパターン形成を行えば絶縁膜や光導波路を形成することが出来る。このようにして形成されるパターンはセンサやトランジスタ、コンデンサなどの電子素子用の電極や、あるいは光制御用の光学素子として利用される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
レーザー描画法と超微粒子を含むコロイド材料を用いた手法は、非常に簡易な方法で自由度高く高精細なパターン形成を行うことが出来るが、効率的に形成可能な膜厚はそれほど厚くはない。よって厚膜を必要とする場合にはレーザー描画によって形成したパターンをシード層としてメッキを行うことが行われる。この場合もメッキで形成される層はシード層のパターンに従うため精細度を維持したまま膜厚を増大させることが可能である(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−38999号公報
【特許文献2】特開2003−1342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、メッキによって形成された膜は温度変化などの環境条件や、基板の曲げ等に伴う機械的な応力によってシード層との界面で剥離を生じるという問題がある。特にメッキを行うにあたって行われる前処理が不十分であるような場合には剥離が顕著となる。また例えば温度変化のある環境下で使用され、基板が熱膨張によって伸縮するような場合、又はフレキシブルケーブルのようにプラスチックフィルムを用いた可とう性の基板上にパターン形成が行われ、パターンに繰り返し曲げの応力が作用するような場合もメッキ膜がシード層との界面で剥離を生じる確率は非常に高くなる。
【0008】
メッキ膜の剥離対策として従来一般的に行われている方法は、エッチングなどによって下地の表面を粗すことで物理的な凹凸を形成し、さらにその凹凸に噛み合うようにメッキ層を形成することで機械的な接続を得るアンカリング(投錨)と呼ばれる方法である。アンカリング法はプラスチック表面へのむ電解メッキのように下地層とメッキ層の相互作用が小さい場合にも効果を発揮する優れた手法である。アンカリング法はメッキを行う当業者にとっては極めてよく知られた手法である。
【0009】
また、メッキ以外にも例えば基板上に樹脂をバインダとするような塗装を行うような場合において予め下地層を粗にして剥離耐性を改善させる事は一般に行われているものである。
【0010】
しかしながら下地を粗にするという手法はメッキ層や塗装膜の剥離耐性改善に対して非常に有効ではあるものの、下地層を荒らすために特別な処理をする必要があり工程が複雑化するという欠点がある。
【0011】
そこで本発明では、メッキ層や塗装膜をはじめとするコーティング層の下地パターンとなる層を形成する際に同時にアンカーポイントの形成を行うことで、プロセスを複雑化させること無くコーティング層の剥離耐性の改善を可能にするパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために本発明では、少なくとも一種類の無機物からなる超微粒子を含むコロイド材料を基板に接触して配置し、コロイド材料と基板の接触面近傍にエネルギービームを照射することで基板上に無機物を含む層を固定化してパターンを形成するパターン形成方法であって、コロイド材料によってパターン形成する際のエネルギーより大きい前記エネルギービームをコロイド材料に照射することで、パターン表面にパターン上方にさらに形成されるコーティング層と機械的な結合を得るためのアンカーポイントをパターンと同時に形成することを特徴とするパターン形成方法とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プロセスを複雑化させることなしにコーティング層の剥離耐性が改善されたパターンを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の請求項1記載のパターン形成方法は、少なくとも一種類の無機物からなる超微粒子を含むコロイド材料を基板に接触して配置し、コロイド材料と基板の接触面近傍にエネルギービームを照射することで基板上に無機物を含む層を固定化してパターンを形成するパターン形成方法であって、コロイド材料によってパターン形成する際のエネルギーより大きい前記エネルギービームをコロイド材料に照射することで、パターン表面にパターン上方にさらに形成されるコーティング層と機械的な結合を得るためのアンカーポイントをパターンと同時に形成することを特徴とするので、表面を粗にするためのエッチング工程といった追加のプロセスを導入することなく、コーティング層との間の剥離耐性が改善したパターンを得ることができるという効果を奏する。
【0015】
本発明の請求項2記載のパターン形成方法は、照射エネルギービームの強度を変化させることでパターン表面にアンカーポイントを形成することを特徴とするので、プロセスおよび装置の構成を複雑化させること無く制御プログラムの変更のみでコーティング層との間の剥離耐性が改善したパターンを得ることができるという効果を奏する。
【0016】
本発明の請求項3記載のパターン形成方法は、エネルギービームを断続的に照射することでパターン表面にアンカーポイントを形成することを特徴とするので、プロセスおよび装置の構成を複雑化させること無く制御プログラムの変更のみでコーティング層との間の剥離耐性が改善したパターンを得ることができるという効果を奏する。
【0017】
本発明の請求項4記載のパターン形成方法は、エネルギービームと前記コロイド材料の相対位置関係を断続的に変化させることでパターン表面にアンカーポイントを形成することを特徴とするので、プロセスおよび装置の構成を複雑化させること無く制御プログラムの変更のみでコーティング層との間の剥離耐性が改善したパターンを得ることができるという効果を奏する。
【0018】
以下に図面を参照して、本発明にかかるパターンおよびその形成方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態によるパターンを形成するための装置構成要素の配置を示す概念図である。図1において、11はエネルギービーム源であり、本実施の形態においては波長532nm、最大出力1000mWの緑色レーザー光源である。本発明を実施可能なエネルギービームとして、このような可視光レーザーのほかに赤外線や紫外線レーザー、電子線、イオンビームなどを用いることが出来る。12はビームエキスパンダ、13は集光レンズである。14は基板であって、本実施の形態においては厚さ1.1mmの一般的な耐熱ガラスを使用している。15は基板4上に塗布された後溶媒を乾燥させ固化したコロイド材料からなる薄膜であって、厚さはおおよそ10μmである。使用している材料は銀の超微粒子を保護剤で被覆した後に有機溶媒等に分散させたいわゆる銀インクであって、ハリマ化成株式会社等の入手先より入手可能なものである。16は光源1としてのレーザー装置から射出され、ビームエキスパンダ12でそのビーム幅を拡大された後に集光レンズ13で基板上に集光されるビーム束の外縁を示す線である。このビーム束の外縁を示す線は以降単にビーム16と表現する。そして17は集光の結果形成されるビームの焦点。18は形成されたパターン、19は光源11の制御部であって、光源のON/OFF制御のほか、出力の増減の制御も可能なものである。そして20はパターン描画の開始点である照射開始点である。
【0020】
ここで、本実施の形態ではコロイド材料としてパターン形成後に導電性を持った銀の膜となるインクを用いたが、もちろん本発明にかかるパターン形成方法を用いてパターン化可能なものは銀インクに制限されるものではなく、金や白金、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、等の金属およびそれらの合金や混合物、ITO(インジウム錫酸化物)やIZO(インジウム亜鉛酸化物)やSnO2(酸化錫)等の化合物系導電体材料、SiO2(二酸化珪素)やSiN(窒化珪素)やTiO2(チタン酸化物)やAl23(アルミナ)等のセラミックス系絶縁体材料、SiやGaN(窒化ガリウム)やCdSe(セレン化カドミウム)を始めとする半導体材料等々、前述したコロイド様の状態を実現可能なものはほとんど全てについて本発明を用いることが可能である。
【0021】
ところで、本発明を実施するに当たり本質的ではないために図1に図示していない補助的な要素として、架台、各光学要素の保持調整機構、基板14上のコロイド材料15と焦点17との相対的な位置関係を変化させるための相対位置変更機構、さらにはこれらの各要素を一貫して動作させるためのコンピューター等の制御機構とその制御を予め記述した制御プログラムなどを挙げることが出来る。ここで、例えば相対位置変更機構とは、コロイド材料15と焦点17との相対位置関係を変更することが出来るような機構であって、二つのリニアステージを互いに直交に保持したいわゆるXYステージのことである。基板14をこのXYステージ上に固定し、基板14上のコロイド材料15とともに適切な方向に移動をさせることにより、任意のパターンを形成することが出来る。さらに、別の相対位置変更機構として、光源11やビームエキスパンダ12等を含む光源側をロボットアームなどを用いて可動に保持し、これをコロイド材料15に対して相対的に移動させるようなものや、レンズ13のみを可動に保持して、レンズ13を適切に移動させることによって焦点17の位置をコロイド材料15に対して移動させるといったものを用いても本発明を実現することが出来る。
【0022】
さて、以上説明したような構成要素を用いることでどのようにしてパターン形成を行うのかの概略をパターン形成の手順に従って説明する。
【0023】
なお、以下に説明するパターン形成の一連の工程は図示しない制御機構と制御機構に備えられた制御プログラムに従いスムースに進行するものである。
【0024】
まず、基板14上にコロイド材料の乾燥膜を形成し、この基板14を図示しないXYステージに固定する。ここで制御機構は光源11の制御部19を制御してレーザー光源からレーザー光を射出する。次いでXYステージを駆動して予め定められたパターンを形成するためのビーム走査を行う。そしてパターン形成が終了すると、基板はXYステージから取り外され、次いで適切な溶媒を用いるなどしてレーザー照射がなされなかった部分のコロイド材料が除去される。このようにして基板上に所望のパターン、本実施の形態では金属銀からなるパターンが形成される。
【0025】
このようにして得られるパターン上に、例えば電解メッキで形成された金属銅膜や、無電解メッキで形成されたニッケルやクロム、さらには塗装膜等がコーティング層として形成される。
【0026】
パターンおよびコーティング層形成の概略の工程はこのようなものであるが、本発明の要諦はパターン形成時に同時にアンカーポイントを形成すること、およびそうして形成されたパターンそのものにある。そこで、次に上述した構成要素を用いてパターンにコーティング層との間に機械的な結合を得るためのアンカーポイントを形成する方法について図を用いながら説明する。このアンカーポントの形成方法は前述したようなコロイド材料を用いるパターン形成において特有と考えられる現象を用いているため、まずコロイド材料そのものの説明から始める。
【0027】
コロイド材料は金属や酸化物などのセラミックスなどからなる超微粒子と、これら超微粒子を安定に保持するための保護剤と、保護剤に被覆された超微粒子を分散させる溶媒と、その他添加剤等からなる液体材料であって、保護剤などの超微粒子以外の物質は多くの場合有機物である。そして、このようなコロイド材料に含まれる超微粒子は、その粒子径が数nmから数百nmと非常に小さいために、体積に対する表面積の比率が大きくなり、物性に対する表面の特性の影響が現れる傾向が強い。その特性変化の一つとして顕著なのが見かけの融点の低下である。例えば、本実施の形態でコロイド材料として用いている銀の場合、バルク体の融点は960℃付近にあるのに対して、保護剤で被覆された超微粒子が見かけ上融解して相互に結合しバルク体を形成する温度は高々300℃付近である。
【0028】
ここで、見かけ上と表現しているのは、超微粒子がバルク体を形成するためにはその表面が融解して互いに連結すれば十分であるからであって、超微粒子の内部までが完全に融解して超微粒子を構成する原子一つ一つがばらばらになるという意味ではないからである。一般に表面に存在する原子はダングリングボンド等の不安定要素の為に内部に存在する原子対してエネルギーが高い状態であると言え、これは融点という意味ではより低くなっていると解釈することができる。これに対して内部は安定な結合の為に融点はより高くなっているといえる。我々が通常見かけるバルク体は表面に露出した原子に比べて内部に存在する原子の数が圧倒的に多く、ほとんどが内部の原子といえるため、融点を含めた諸物性は内部の原子の状態が決定する。それに対して、超微粒子では表面の比率がバルク体に比較して極端に高くなるために表面の性質が無視できなくなり、結果見かけの融点が下がったように見えるのである。
【0029】
ところで、超微粒子が一旦結合してバルク体を形成すると、その物理的な構造はバルク体銀そのものであって、当然ながら諸物性はバルク体の銀と同一となる。つまり融点もバルク体と同じになる。このような性質は銀の超微粒子に限らず、超微粒子一般に見受けられる性質である。つまり、コロイド材料は比較的低い温度で見かけ上溶解して互いに結合することでバルク体となり、そして一旦バルク体となると、その融点は上昇するという性質がある。なお、ここでいうバルク体とは超微粒子が保護剤に被覆されるなどしてそれぞれ独立している状態の対義であって、後述する薄膜もバルク体に含まれるものである。
【0030】
ところで、このような性質を持ったコロイド材料を基板に塗布して溶媒を乾燥によって除去すると、超微粒子と保護剤からなる乾燥膜が形成される。このとき、乾燥膜内の超微粒子は保護剤によって保護されているため安定している。このような乾燥膜にエネルギーを与えて加熱するなどすることで与えられるエネルギーがある一定以上になると、保護剤が分解され気化するなどすることによって超微粒子がむき出しになる。そしてむき出しになることによって不安定な状態に晒された超微粒子が互いに結合しバルク体を形成する。そして最終的にコロイド材料の乾燥膜はそのまま超微粒子を構成している材料からなる薄膜となる。
【0031】
前述したように、この薄膜化が生じる時の温度は、超微粒子を構成する材料からなるバルク体の融点に比較して低く、銀の場合で高々300℃程度である。なお、この現象はコロイド材料の乾燥薄膜を形成せずに、基盤に対してコロイド材料を液体のまま接触させて加熱を行っても同様に観察される。
【0032】
次に、パターン描画に用いるレーザーなどのエネルギービームを見てみる。今レーザーを例に取ると、意図的な光学的加工を施さない限り、レーザーの光束であるビームは中央部のエネルギーが周辺部のエネルギーよりも大きくなっている、つまりエネルギーの強度はビーム進行方向に対する垂直断面の中央部ピークとした正規分布、いわゆるガウシアンカーブ、ガウシアン分布などと呼ばれる分布状態を取るのが一般的である。そして、これはレーザー以外の多くのエネルギービームでも同様である。
【0033】
さて、このようなビームを前述したようなコロイド材料からなる膜に照射することで基板上のビームが照射された部位のみをビームのエネルギーによって加熱し、前述したようなコロイド材料の加熱によるバルク化、すなわち薄膜化を行い特定のパターン形成をすることができるが、この時ビームのエネルギー強度の違いによって異なる現象が観察される。そしてさらに、その現象はビーム走査の有無によっても変化する。まずはビームを走査せずに静止した状態で照射を行った場合を説明する。
【0034】
ビームを走査しない状態であって、かつ照射されるエネルギーがコロイド材料の薄膜化を行うのに適切な範囲(第一のエネルギー範囲とする)にある時はコロイド材料からなる膜で生じる現象は以下のようなものになる。
【0035】
照射されたビームの中央部、即ち周辺部に比較して高いエネルギーを持った部分では速やかにコロイドを構成する材料の分解が生じて膜形成が行われ、そして中央部に比較してエネルギーが小さいビーム周辺部でも中央部に比較して時間は多少かかるものの、中央部に次いで正常に膜形成が行われる。
【0036】
ところが、エネルギーが適切な範囲よりも大きくなる(第二のエネルギー範囲とする)と、ビーム中央部では大きなビームエネルギーによってコロイド材料がアブレーションされたり、薄膜化の過程で溶解した材料が周辺部に凝集するなどして材料が存在しない穴状の凹部を生じる。一方で、ビーム周辺部では薄膜化に十分な第一のエネルギー範囲程度の値となり良好な膜形成が行われる。従って、ビームのエネルギーを第二のエネルギー範囲まで大きくしたときに形成されるパターンは、中央部に凹部を持ったドーナツ状のものとなる。
【0037】
次に、照射開始点からエネルギーを保ったままパターン形成のためのビーム走査を行った場合について説明する。
【0038】
まず照射されるエネルギーがビームを走査しない状態での現象で説明したところの第一のエネルギー範囲内にある時は、ビームの中央部が移動する領域では問題なくパターンが形成されていくが、ビームの周辺部が通過するパターンの両端部近傍ではビームが移動することで単位時間当たりに照射されるエネルギーが減少するために膜形成が行われなくなる領域が生じる。そして結果的にパターンの幅が減少する。
【0039】
次にエネルギーが照射開始点での現象で説明したところの第一のエネルギー範囲よりも大きくなり、第二のエネルギー範囲になると、ビームの周辺部が通過するパターンの両端部近傍はビームの走査によって単位時間当たりに照射されるエネルギーが減少するものの、なお十分なエネルギー値であるためにパターンの幅は若干狭くなる程度でほとんど変化することなくパターン形成が行われる。そして興味深いことに、走査を行わなかったときには凹部が形成されていたビームの中央部が通過する領域も凹部の無い滑らかなパターンが形成されるのである。そして、この状態からさらにエネルギーを大きくして(第三のエネルギー範囲とする)いくと、再びビーム中央に相当する部分には凹部が形成されるようになる。そしてこのとき、ビームが走査されているために凹部はビームの走査方向に連続的に形成され、結果的にパターン中央部に溝状の構造をなすことになる。なお、ここでいう第一から第三のエネルギー範囲は説明を簡潔にするために導入された概念であって、第一から第三に向かって大きくなるエネルギー領域である。実際の定量的な値はビームの走査速度やビームのプロファイルに大きく依存するものであることを注記しておく。
【0040】
ここで第二のエネルギー範囲のビームを用いてパターン形成を行う場合に見られる現象についてさらに詳細な説明を加える。この説明においては、すでに述べたように超微粒子の融点は低く、バルクの融点はそれに比較して高いという性質、つまり超微粒子は低融点のため比較的低温で容易にバルク状態に変化し、一旦バルク状態に変化するとその融点は上昇するという性質がポイントとなる。
【0041】
前述した第二のエネルギー範囲のビームを用いてパターン形成を行うとき、ビーム走査を行わない場合にはビーム中央部では凹部を生じる。これはこの部分のコロイド材料がいきなりビーム中央部の大きなエネルギーに晒されたためにバルク化が行われる前にアブレーションされるなどして凹部を形成するということである。
【0042】
そしてこのときビームの裾野に相当する周辺部は第一エネルギー範囲程度の値となり良好な膜形成が行われる。つまりビーム周辺部ではコロイド材料中の超微粒子が互いに結合してバルク化し、その融点が上昇することになる。従って、すでに説明したようにこのとき形成されるパターンは中央部に凹部を持つドーナツ状のものになる。
【0043】
さて、この状態、すなわちビームの照射開始点において第二のエネルギー範囲でビーム照射を開始した状態で、その位置からビーム走査を始めると、ビームの周辺部が通過する部分は膜形成のための十分なエネルギーが与えられるためにコロイド材料が次々に分解してパターンが形成されていく。そして注目すべきは、エネルギーの大きなビームの中央部が照射開始点からいかなる方向に走査されても、すでに周辺にはドーナツ状に正常な膜形成がなされた結果融点が上昇している状態になっているために、もはやアブレーションなどを生じることは無く凹部を生じることも無いということである。そしてこれ以降走査が終了する点に至るまで、ビームがいずれの方向に走査方向を変化されたとしても、エネルギー値の大きなビーム中央部は必ずビーム周辺部が前もって通過して膜形成が完了した部分を通過することになり凹部は生じない。
【0044】
このように第二のエネルギー範囲のビームを用いてパターン形成を行う場合、コロイド材料はビームの照射開始点を除いていきなりビームの中央部に晒される事は無いので、凹部すなわちアンカーポイントは照射開始点のみに形成されることになる。
【0045】
ここで、本実施の形態において用いた銀を微粒子として含むコロイド材料を用い、第二のエネルギー領域のビームを走査させた場合に得られるパターンの実例を図2に示す。図2において30は照射開始点、31は走査によって形成されたパターン、32は照射終了点である。なお、図2に示した実例は以下に示すような条件にて形成された。
【0046】
微粒子として銀を30w%含み、トルエンを溶剤とするコロイド材料を厚さ1.1mmのホウ珪酸ガラス基板上にディップコート法で塗布し風乾することで厚さ約10μmのコロイド材料乾燥膜を得た。このコロイド材料に波長532nm、光出力200mWの連続レーザー光をスポットサイズ約25μmに集光して照射するとともに走査速度を500μm/secで走査を行いパターンを形成した。
【0047】
図2からわかるように照射開始点30では中央部に凹部が形成され、パターンがドーナツ状を呈している。このドーナツ状のパターンの直径は約20ミクロンであって、凹部のおおよその直径は8ミクロンである。一方走査によって形成されたパターン31は照射開始点30の幅より若干狭くなっているものの、ほぼ滑らかに形成されている。そして照射終了点ではすでに説明したように凹部は生成されない。
【0048】
次に図2の照射開始点30に形成された凹部の電子顕微鏡写真を図3に示し、さらに詳細な説明を加える。図3に見られるように、凹部は深い穴を形成しており、かつ壁面は溶解凝集した金属銀によって非常に粗な状態になっている。そして凹部の周辺部は溶解凝集した金属銀によって盛り上がっている。この様子をよりわかりやすくするために、凹部の断面を模式的に示したものが図4である。図4において35はパターンの断面、36は凹部の内部、そして37は溶解凝集した金属銀によって盛り上がった凹部の壁面である。このように、本発明によって形成される凹部は平面状のパターンに単純に穴が開いているわけではなく、内部の非常に粗な形状とともに、外部も盛り上がりがあるなど複雑な形状をしている。これら複雑な構造を含めた全体が本発明でいうところの凹部であって、この凹部が本発明でいうところのアンカーポイントとなる。この凹部深くまでコーティング層の材料が入り込み、また盛り上がっている壁面37を抱き込むなどしてパターンとコーティング層は強固な機械的結合を得るのである。
【0049】
次に第三のエネルギー領域のビームを走査させた場合に得られるパターンの実例を図5に示す。この図5に示した実例の作成条件は図2の実例に示したパターンと光出力以外の部分は同じである。図5の実例に示したパターンを形成するために用いたレーザーの光出力は700mWであった。
【0050】
図5に明らかに示されているようにパターンの中央部には凹部が連続的に形成され、実質的に溝状となっているのがわかる。そして溝の周辺は凝縮した金属銀の塊が散乱した状態になっており粗な表面を形成している。この実例におけるパターン幅は50ミクロン。そして連続する凹部の幅は約10ミクロンである。なお、このときのビームの走査方向は凹部の溝が連続して形成される方向と同じである。
【0051】
さて、本実施の形態におけるコーティング層は電解メッキを行って形成した金属銅の膜である。このメッキによって形成されたコーティング層としての金属銅が凹部と結合している状態を説明するための図が、図6(a)および図6(b)である。図6(a)は第二のエネルギー範囲のビームを用いて形成したパターンの照射開始点の断面、すなわち図3で実例を示したパターンの照射開始点の断面を、そして図6(b)は第三のエネルギー範囲のビームを用いて形成した連続する溝状の凹部、すなわち図5で示した実例の一断面をそれぞれ模式的に示したものである。41は基板、42はパターン、43は不連続な凹部の断面、44はコーティング層としての金属銅、45は連続する溝状の凹部の断面である。ここで、不連続な凹部の断面43および連続する溝状の凹部の断面45が本発明でいうところのアンカーポイントである。
【0052】
図6(a)および図6(b)はいずれも電解メッキによって金属銅44を析出させることでコーティング層を形成しているが、金属銅44の析出はパターン42の表面全体で生じるため、膜厚が増大する過程で図6(a)の不連続な凹部の断面43および図6(b)の連続する溝状の凹部の断面45は金属銅44によって埋まってしまう。このようにして凹部の深くまで侵入し、かつ図3および図5で示したような粗な表面によってパターン42と強固に結合されたコーティング層としての金属銅44は剥離に対する耐性が著しく向上するものである。さらに、連続する凹部を有するパターンの場合、この凹部はパターンの中央部に形成される。これはすでに説明したように、中央に凸部を持つビームのエネルギー分布がパターン凹部形成の原因となっているからである。従ってこの連続する溝状の凹部で二つに分割されるパターンは溝状の凹部の中心を通る線に対して対称となる。このようにパターンの中央に溝状の凹部を形成することは、例えば前述したメッキによるコーティング層を形成する際に、メッキによって形成される銅とパターンを形成する銀の熱膨張率の違いによる応力が発生した場合、その機械的な歪が左右のパターンに均等に分散されることを意味している。もし溝状の凹部がパターンの中央に無く、どちらかに偏っていた場合は、応力による歪の力はより細いパターンの側、すなわち基板との付着面積が小さいためにはがれやすくなっている側に集中し、結果的に凹部がパターン中央に形成されている場合に比較して極めて容易にパターン剥離を生じてしまう。
【0053】
さて、ここまでにアンカーポイントとして不連続な凹部と連続する溝状の凹部を例に挙げてその形成方法とともに具体的な説明を行ってきたが、不連続な凹部は図2の照射開始点30に示したごとく、第二のエネルギー範囲のビームを用いている限り、その照射開始点にのみしか形成することが出来ない。従って、パターン形状によってはアンカーポイントが一つだけでは剥離に対して十分な耐性を発揮できない場合がある。もちろんそのようなケースでは第三のエネルギー領域のビームを用いて連続する凹部を持つパターンを形成すればよいのであるが、パターンの間に連続する溝状の凹部を形成するにはある程度のパターン幅が必要であり、細線形成を要求する用途にはあまり向かないものである。よって、より微細なパターン形成と剥離耐性の改善を両立させるには更なる工夫が必要である。この工夫について以下詳細に説明する。
【0054】
工夫の一つ目の例は、第二のエネルギー範囲でパターン形成を行いながら、任意の地点で一瞬だけビームのエネルギーを第三のエネルギー値まで上昇させ、その地点にアンカーポイントを形成するというものである。
【0055】
そして第二の例は、第二のエネルギー範囲にビームの強度を保ったまま走査を行い、任意の地点でビームを瞬間的にON/OFFするというものである。ビーム走査を行いながらビームを瞬間的にOFFにし、直ちにONにすることで何故アンカーポイントが形成されるのであろうか。それはすでに説明した第二のエネルギー範囲のビームで照射開始点にアンカーポイントが形成されるメカニズムを考えることで理解できる。すなわち、第二のエネルギー範囲のビームで照射開始点にアンカーポイントとしての凹部が形成されるのは、パターン形成開始時に照射開始点にビームがいきなり照射されるからであった。そしてその位置から走査を行った場合にもはや凹部が形成されないのは、ビーム中央部を取り巻く周辺部においてすでに薄膜化が完了して融点が上昇し、ビーム中央部の高エネルギーに晒されても変化が生じないからであった。この考え方を念頭に置き、第二のエネルギー範囲にビームの強度を保ったまま走査を行いながら一瞬ビームをOFF/ONする場合にビームの中央部がどのように移動するかを考える。まずビームをOFFにする直前の状況は、ビームが照射されている焦点全体で薄膜化が完了した状態となっており、ビームの中央は薄膜化が完了した領域の端部よりやや手前に位置している。そしてビームがOFFになっている間は薄膜化が生じない状態であるがビームの中央に相当する位置は移動を続けている。そして走査速度を勘案することで、次にビームがONにしたときにビームの中心がすでに薄膜化が完了した部分を通り過ぎているようなタイミングにすることができる。そしてこの条件を満たしたとき、次にビームがONにしたときの照射部分ではコロイド材料がいきなり第二のエネルギー領域の強度を持ったビームの中央部に晒されることになり、アンカーポイントとしての凹部を生じることになる。このようなビームのON/OFFはビームを制御する電源をON/OFFすることで極めて簡単に実現することが可能である。実施の形態におけるエネルギービームはレーザーであるので、極めて早い速度でのON/OFFに追従し、非常に多様な走査条件において前述したようなアンカーポイントの形成が可能である。ここで、やむを得ず応答速度の遅いビームを光源として使用する場合でも、光路の途中にシャッターやチョッパーを挿入し光路を瞬間的にON/OFFすれば同様のアンカーポイント形成の効果を得ることができる。
【0056】
さらにもう一つの例は、第二のエネルギー範囲を保ったままビームを走査し、任意の点で走査速度を一瞬高速にする場合である。これは例えば基板を保持しているステージの移動速度をある瞬間だけパルス的にあげることで実現できる。このような操作を行うことでビームをいわば一瞬のうちに別の地点に飛び移らせたに等しい状態を実現することができ、その飛び移った先の地点においては、コロイド材料にいきなりビームが照射されるという照射開始点における条件に等しい状態が実現されることになる。そして結果的にその地点にはアンカーポイントとしての凹部が形成される。
【0057】
さて、このようにして得られる任意の位置にアンカーポイントを形成したパターンの実例を示したのが図7である。図7(a)は第二のエネルギー範囲を保った状態でアンカーポイントを形成せずにビームの走査を行った例であって、いわば図7(b)および図7(c)に対するブランクである。図7(b)は第二のエネルギー範囲を保ったままビームを走査し、瞬間的にビームをON/OFFした場合に形成されるパターンであって、前述した第二の工夫に相当するものの実例である。そして図7(c)はやはり第二のエネルギー範囲を保ったままビームを走査し、走査速度を一瞬高速にしたものであって、前述した第三の工夫に相当するものの実例である。その中でもこの実例では走査速度を一瞬高速にするという動作そのものを繰り返し速い周期で行った例であって、実際にはステージ移動を行うモーターに連続パルス信号を送っている。連続パルス駆動によってステージは早い周期で移動と停止を繰り返す。この場合、ビームは短い間隔で瞬間的飛び飛びに移動する。
【0058】
まず、図7(a)にはアンカーポイントのないスムースなパターンが示されている。ちなみに、図7(a)のパターン形成条件では、パターンの開始点、すなわちビームの照射開始点にはアンカーポイントが形成されているが、これはすでに図2においてその実例を示したので、ここではパターン形成途中の部分を示し、パターンの開始部分は割愛している。
【0059】
図7(b)にはほぼ等間隔でアンカーポイントとしての凹部が形成されたパターンが示されている。このアンカーポイントの間隔はビームをON/OFFするタイミングを制御することで任意に設定可能であって、制御プログラムを変更することで極めて自由度高く形成することができる。ここで、図7(b)に示したパターンの実例では、ビームをOFFにしている時間は短く、従ってアンカーポイントとその直前のパターンは連続している。これは、次いで行われるコーティング層の形成においてしばしば有効なものである。例えば、コーティング層を電解メッキで形成するような場合には、パターンは電源と電気的に接続されている必要があるので、少なくともパターンを電気伝導性のもので形成し、かつそれが電気的に途切れることなく連続している必要があるし、また無電解メッキのようにパターンが必ずしも互いに電気的に接続されていなくても良いような場合においても、連続的なコーティング層を得るためにはシード層となるパターンも連続しているほうが望ましい。なお、無電解メッキを用いてコーティングを行うような場合にはパターンに微小なギャップが存在していても、コーティング層が形成されていく過程でギャップは埋め合わされ、実質的に連続の膜を得ることも可能であることはいうまでもない。
【0060】
また、この実例に拠るアンカーポイント形成場所の任意性、制御性の高さは、例えば応力集中が予想されるパターンの角部や予め屈曲することが判明しているフレキシブル基板の特定部位等を選択し、その部分に集中的に多数のアンカーポイントを形成することで特にその部位の剥離耐性を高めるといったことが可能になるものであることを付記しておく。次に、図7(c)はアンカーポイントとしての凹部がほぼ隙間無く形成されているものの実例である。このように多数のアンカーポイントを連続して形成することで、パターンとコーティング層の機械的な結合は飛躍的に向上し、高い剥離耐性を付与することが可能となる。もちろんこの場合でもステージを一定時間連続的かつスムースに駆動することでアンカーポイントのないパターンを形成したり、アンカーポイントの間隔や数を任意にコントロールすることが可能であることはいうまでもない。
【0061】
以上説明したように、本発明を用いれば、パターン上にアンカーポイントとしての凹部を形成することができ、上部に形成されるコーティング層との機械的な結合を強め、剥離耐性を改善するためのパターンを形成することが可能である。そして、アンカーポイントとしての凹部の数、位置、間隔等々は複数の方法で任意に形成が可能である、さらに凹部を溝状に連続的に形成することも可能である。
【0062】
なお、本実施の形態ではパターン形成を行うためのコロイド材料として銀の微粒子を含むものを選択し、ビーム光源としてレーザーを選択しているが、コロイド材料としては銀のほかに、金や銅、白金、ITOやZnOなどの酸化物を用いることができ、この場合、パターンは導電性又は半導電性となる。このようなパターンでは電解メッキなどの方法を用いてコーティング層を形成することが可能である。さらに、コロイド材料として酸化珪素や酸化チタン、酸化アルミニウムの微粒子を含むものも選択することが可能であって、この場合にはコーティング層の形成方法として無電解メッキのほか、ディップコートやスプレー、インクジェットやそのほかの印刷手段が利用可能である。
【0063】
上記をはじめとして前述したような材料群によるいずれのコロイド材料を用いた場合でも、ビームとの相互作用においてすでに説明した微粒子とバルクの融点の変化が生じるため、多少の条件に違いはあるものの、生じる現象に本質的な差異は無く、本発明の効果を実現することが可能である。
【0064】
さらに、エネルギービームについても同様である。本発明におけるエネルギービームの作用効果はコロイド材料に対してエネルギーを照射し、結果的にコロイド材料の熱分解を誘発することである。従って、周辺部に比較して中央部のエネルギーが大きな言わば山形のプロファイルを持ったビームであるならばどのようなビームを用いても良い。またさらに、本実施の形態では微細なパターン形成、さらに言えばコーティング層がメッキで形成され最終的に微細な導電性のパターンを形成することを意図したものとなっているため、パターンを形成するための構成要素にビームを集光するための手段を含んでいるが、これは形成するパターンの目的によって任意に変更可能であることはいうまでもない。
【0065】
また、本実施の形態では基板としてガラスを用いているが、実施例の中でも言及しているように、基板はガラスに限定されるものではない。例えばアルミナやサファイア、シリコンウェハーのような無機物、セラミックス類、さらにはポリアミドやPETなどの有機物も利用可能である。そして、基板にカップリング剤処理を行うなどして、基板とパターン間の接着強度改善を行うことも好ましいものである。
【0066】
最後に、本発明を実施する際の具体的な第一から第三のエネルギー範囲の例を示す。ただし、これはあくまで一例であって、すでに言及しているようにパターン形成のための諸条件、すなわちコロイド材料の種類、乾燥膜であればその膜厚、エネルギービームの種類と強度、走査速度等は互いに密接に関連しあっている。よって、他の実施を行う場合には、本発明の本質を勘案しながら最適な条件を選択する必要がある。
【0067】
微粒子として銀を30w%含み、トルエンを溶剤とするコロイド材料を厚さ1.1mmのホウ珪酸ガラス基板上にディップコート法で塗布し風乾することで厚さ約10μmのコロイド材料乾燥膜を得た。このコロイド材料に波長532nmのレーザー光をスポットサイズ約25μmに集光して照射するとともに走査を行ってパターン形成を試みた。走査速度を500μm/secとしたときの第一のエネルギー範囲は20〜60mW、第二のエネルギー範囲は60〜380mW、そしてそれ以上が第三のエネルギー範囲であった。
【0068】
同様のコロイド材料を波長450nmのレーザーを用い、スポットサイズ約12μm、走査速度10000μm/secでパターン形成を行った際の第一のエネルギー範囲は120〜80mW、第二のエネルギー範囲は80〜350mW、そしてそれ以上が第三のエネルギー範囲であった。
【0069】
以上のように、本発明を用いればコーティング層の下地となるパターンを形成する際にコーティング層とパターンの機械的結合部位であるアンカーポイントを任意に形成することが可能である。このアンカーポイントはパターンに形成された凹部であって、この部位で機械的な結合を得ることにより、コーティング層とパターンの界面での剥離耐性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のパターン形成方法によれば、プロセスを複雑にすることなくパターンの厚膜化ができるため、基板上の配線形成等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態によるパターンを形成するための装置構成要素の配置を示す概念図
【図2】第二のエネルギー領域のビームを走査させた場合に得られるパターン図
【図3】凹部の電子顕微鏡写真を示す図
【図4】凹部の断面を模式的に示した図
【図5】第三のエネルギー領域のビームを走査させた場合に得られるパターン図
【図6】コーティング層が凹部と結合している状態を説明するための図
【図7】任意の位置にアンカーポイントを形成したパターン図
【符号の説明】
【0072】
11 エネルギービーム源
12 ビームエキスパンダ
13 集光レンズ
14 基板
15 コロイド材料
16 ビーム
17 焦点
18 パターン
19 制御部
20 照射開始点
30 照射開始点
31 走査によって形成されたパターン
32 照射終了点
35 パターン断面
36 凹部の内部
37 凹部の壁面
41 基板
42 パターン
43 不連続な凹部の断面
44 金属銅
45 連続する溝状の凹部の断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種類の無機物からなる超微粒子を含むコロイド材料を基板に接触して配置し、前記コロイド材料と前記基板の接触面近傍にエネルギービームを照射することで前記基板上に前記無機物を含む層を固定化してパターンを形成するパターン形成方法であって、前記コロイド材料によってパターン形成する際のエネルギーより大きい前記エネルギービームを前記コロイド材料に照射することで、前記パターン表面にパターン上方にさらに形成されるコーティング層と機械的な結合を得るためのアンカーポイントをパターンと同時に形成することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記パターン形成方法が前記照射エネルギービームの強度を変化させることでパターン表面にアンカーポイントを形成する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記パターン形成方法が前記エネルギービームを断続的に照射することでパターン表面にアンカーポイントを形成する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項4】
前記パターン形成方法が前記エネルギービームと前記コロイド材料の相対位置関係を断続的に変化させることでパターン表面にアンカーポイントを形成する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−106300(P2010−106300A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277971(P2008−277971)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】