説明

パターン転写装置およびパターン転写方法

【課題】パターン転写不良やモールドの目詰まりを未然に防いで生産性を向上させる。
【解決手段】パターン転写装置11A0の制御装置23は、離型層厚取得部51と、離型層厚判定部53と、供給量演算部55と、供給量制御部59とを備える。離型層厚取得部51は、残留離型層32の厚さに係る相関値を取得する。離型層厚判定部53は、残留離型層32の厚さに係る相関値が所定の基準を満たすか否かを判定する。供給量演算部55は、離型層厚判定部53の判定結果に基づいて、離型剤供給部21における離型剤の供給量を演算する。供給量制御部59は、モールド31上のそれぞれの位置において、適正な量の離型剤を適時に供給する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドに形成した微小構造の凹凸形状パターンを、ナノインプリント法を用いて被転写材料の被転写面に転写するパターン転写技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイの反射防止フィルム、導光板等の光学部品、細胞培養シート等のバイオデバイス、太陽電池、または、発光装置等の電子デバイスの分野においては、性能の向上を図り、また、所要の機能を発現させる目的で、被転写材料の被転写面に、微小構造の凹凸形状パターンを転写することが行われている。
【0003】
被転写材料の被転写面に微小構造の凹凸形状パターンを転写する技術としては、ナノインプリント技術が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、および、非特許文献1参照)。ナノインプリント技術とは、ナノメートルオーダーの凹凸形状パターンを形成した金型原器(本明細書では、“モールド”とよぶ。)を、被転写材料の被転写面に設けた樹脂に型押しして転写する技術である。
【0004】
ナノインプリント技術では、いったんモールドを作製しさえすれば、ナノ構造の凹凸形状パターンを繰り返し成型できるので経済性に優れる。また、有害な廃棄物・排出物が少ないので環境適合性にも優れる。このため、ナノインプリント技術は、さまざまな分野への応用が期待されている。
なお、前記した特許文献1、特許文献2、および、非特許文献1に係る転写技術は、微小構造の凹凸形状パターンを形成した平板状のモールドを、樹脂材料からなる被転写面へスタンプ式に押し付けるものである。
【0005】
また、ローラータイプのモールドを用いた転写技術も知られている(例えば、特許文献3、および、非特許文献2参照)。この転写技術によれば、連続回転するモールドに対して被転写材料を連続して供給することができる。このため、平板状のモールドを使用したスタンプ式の転写技術(例えば、特許文献1、特許文献2、および、非特許文献1参照)と比較して、転写工程を高速化することができる。
【0006】
さらに、本発明者らは、無端帯状の環状モールドを用いた転写技術を提案している(例えば、特許文献4,5参照)。特許文献4,5に係る転写技術によれば、平板状のモールドを使用したスタンプ式の転写技術(例えば、特許文献1、特許文献2および非特許文献1参照)と比較して、転写工程の処理速度を高速化し、さらに良好なパターン転写精度を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5259926号明細書
【特許文献2】米国特許第5772905号明細書
【特許文献3】特開2006−326948号公報
【特許文献4】特開2009−158731号公報
【特許文献5】特開2009−078521号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Y. Chou et al., Appl. Phys. Lett., vol.67, p. 3314 (1995).
【非特許文献2】Hua Tan et al., J. Vac. Sci. Technol., B16(6), p. 3926 (1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記したパターン転写技術では、被転写材料がモールドに付着して剥離されない事態を防止する目的で、フッ素系素材などよりなる離型剤をモールドに塗布することにより、離型剤の層(以下、“離型層”とよぶ。)をモールドの表面に形成しておくことが行われている。
【0010】
ところが、モールドの表面に留まって離型層を構成している離型剤の量は、パターン転写を繰り返すにつれて徐々に減ってゆく。モールド側の離型剤は、パターン転写に伴って、被転写材料の側へ移動するからである。このモールド側における離型剤の量の減少は、離型性を低下させるばかりでなく、パターン転写不良やモールドの目詰まりを引き起こすおそれがあった。
【0011】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、パターン転写不良やモールドの目詰まりを未然に防いで製品の生産性を向上させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るパターン転写装置は、微小構造の凹凸形状パターンを被転写面に転写するためのパターン転写装置であって、前記凹凸形状パターンの形成面、および、前記被転写面を相互に対面させた状態で、前記形成面を有する帯状のモールド、および、前記被転写面を有する被転写材料を相互に押圧させる押圧機構部と、前記モールドの前記形成面に、当該形成面と前記被転写面との間の剥離を円滑に行わせる離型剤を供給することで離型層を形成させる離型剤供給部と、前記モールドの前記形成面に残留している残留離型層の厚さに係る相関値を取得する離型層厚取得部と、前記離型層厚取得部で取得された前記残留離型層の厚さに係る相関値が予め定められる基準を満たすか否かを判定する離型層厚判定部と、前記離型層厚判定部の判定結果に基づいて前記離型剤供給部における前記離型剤の供給量を制御する供給量制御部と、を備えることを最も主要な特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るパターン転写方法は、微小構造の凹凸形状パターンの形成面、および、被転写面を相互に対面させた状態で、前記形成面を有する帯状のモールド、および、前記被転写面を有する被転写材料を相互に押圧させることにより、前記凹凸形状パターンを前記被転写面に転写する押圧転写工程と、前記モールドおよび前記被転写材料を相互に剥離させる剥離工程とを交互に繰り返すことによって、前記被転写面に前記凹凸形状パターンを連続的に転写する際に用いられるパターン転写方法であって、前記モールドの前記形成面に、当該形成面と前記被転写面との間の剥離を円滑に行わせる離型剤を供給することで離型層を形成させる離型剤供給工程と、前記モールドの前記形成面に残留している残留離型層の厚さに係る相関値を取得する離型層厚取得工程と、前記離型層厚取得工程で取得された残留離型層の厚さに係る相関値が予め定められる基準を満たすか否かを判定する離型層厚判定工程と、前記離型層厚判定工程の判定結果に基づいて前記離型剤供給工程における前記離型剤の供給量を制御する供給量制御工程と、を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パターン転写不良やモールドの目詰まりを未然に防いで製品の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置の概要を模式的に表す説明図である。
【図1B】本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置で用いられるモールドに形成される凹凸形状パターンの一例を示す外観図である。
【図1C】図1B中の矢視方向からみたモールドの形成面に、凹凸形状パターンおよび離型層が積層形成されている状態を概念的に表す説明図である。
【図1D】本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置のうち、制御装置およびその周辺の概要を模式的に表す機能ブロック図である。
【図2A】本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置の動作のうち、離型剤供給量演算処理の流れを示すフローチャート図である。
【図2B】本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置の動作のうち、離型剤供給処理の流れを示すフローチャート図である。
【図3】本発明の第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置の概要を模式的に表す説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置の概要を模式的に表す説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るパターン転写装置の概要を模式的に表す説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置の概要を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
はじめに、本発明の実施形態に係るパターン転写装置の説明に先立って、本発明者らによるパターン転写技術に関する開発経緯の概要について説明する。
本発明者らは、特開2009−158731号公報および特開2009−078521号公報に記載の、無端帯状のモールドを用いたパターン転写技術の開発に取り組んできている。
【0018】
このうち、パターン転写不良やモールドの目詰まり防止を狙った開発テーマにおいて、本発明者らの実験に基づく知見によると、例えば、モールド表面の化学種と共有結合することなく吸着する非反応性離型剤を、パターン転写を複数回繰り返した後のモールド表面に逐次供給すれば、所要の水準の離型性を維持し、パターン転写不良やモールドの目詰まりを防止できることが判明した。
【0019】
前記した非反応性離型剤をモールド表面に逐次供給する処理においては、パターン転写を行うたび毎に、モールド表面に残留している非反応性離型剤が、被転写材料の表面へと逐次移動してゆく。その結果、モールド表面における残留離型層の厚さは、徐々に小さくなっていく。ここで、残留離型層の厚さと離型性とは、残留離型層の厚さが大きいほど離型性が高くなるといったように、正の相関関係がある。
【0020】
ところが、非反応性離型剤の移動量は、パターン転写のたび毎に等量であるとは限らない。例えば、非反応性離型剤をモールド表面に供給した直後と、複数回のパターン転写を繰り返した後とでは、非反応性離型剤の移動量、つまり、残留離型層の厚さは、それぞれ異なる傾向がある。こうした残留離型層の厚さの違いは、モールドの凹凸形状パターンを被転写材料に転写して得られる製品の性能にバラつきを生じさせて、製品歩留りを悪化させる要因となる。
【0021】
そこで、本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、パターン転写を繰り返すなかで、凹凸形状パターンを形成したモールドの形成面に残留している残留離型層の厚さに係る相関値が所定の基準を満たすか否かを監視し、この監視結果に従ってモールドの形成面に対する離型剤の供給量を制御することによって、パターン転写不良やモールドの目詰まりを未然に防いで製品の生産性を向上させるようにしている。
【0022】
(本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の概要)
本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の概要について、図1Aを参照して説明する。図1Aは、本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の概要を模式的に表す説明図である。第1実施形態に係るパターン転写装置11A0は、図1に示すように、モールド搬送機構部13と、被転写材料搬送機構部15と、押圧機構部17と、離型層厚センサ19と、モールド支持部材20と、離型剤供給部21と、制御装置23とを備えて構成されている。
【0023】
モールド搬送機構部13は、無端帯状のモールド31が環状に掛け渡される4つの円筒状ロール(以下、“ロール”と省略する。)33a,33b,33c,33dと、これらロール33a,33b,33c,33dを各個別に回転駆動するステッピングモータ35a,35b,35c,35dと、を含んで構成されている。ロール33a,33b,33c,33dは、モールド31に適当なテンションをかけた状態で、モールド31の内方面と接するように設けられている。これにより、モールド31は、図1Aに示す正面から視て環状の形状を形成するように構成されている。
【0024】
ステッピングモータ35a,35b,35c,35dは、それぞれのロール33a,33b,33c,33dを反時計周りに同期駆動し、所定の回転角度による回転駆動および回転停止を交互に繰り返すことにより、モールド31を間欠的に搬送(左回転)させるように動作する。これにより、モールド搬送機構部13は、後記する押圧機構部17へモールド31を、所定の長さごとに間欠的に、かつ、エンドレスに送り込むようになっている。
【0025】
前記した所定の回転角度は、例えば、押圧機構部17へ送り込まれるモールド31の搬送方向に沿う長さが、予め定められた長さ(具体的には、後記する押圧部材6の搬送方向に沿う長さ)と一致するように設定されている。図1A中、符号Xを付した矢印は、モールド31の搬送方向を示している。
【0026】
4つのロール33a,33b,33c,33dのうち、図1A中の下側に位置する一対のロール33b,33cは、後記する被転写材料搬送機構部15によって搬送される被転写材料37に対して、モールド31を部分的に押し当てるように設けられている。これにより、一対のロール33b,33cのうち、上流側のロール33bは、搬送されてきたモールド31を被転写材料37(被転写面37a)に当接させるように送り込む一方、下流側のロール33cは、モールド31を被転写材料37から引き離すようにはたらく。
【0027】
〔本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A0で用いられるモールド31〕
ここで、本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置で用いられるモールド31について、図1A、図1B、および図1Cを参照して説明する。図1Bは、本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置で用いられるモールドに形成される凹凸形状パターンの一例を示す外観図である。図1Cは、図1B中の矢視SV方向からみたモールド31の形成面31aに、凹凸形状パターン31pおよび離型層32が積層形成されている状態を概念的に表す説明図である。
【0028】
モールド31は、図1Aに示すように、無端帯状に形成されている。このモールド31を環状に配することにより、環状のモールド搬送経路14が形成されている。このモールド搬送経路14に沿って、モールド31は、エンドレスに搬送されるようになっている。モールド31の形成面31aには、図1Bおよび図1Cに示すように、微小構造の凹凸形状パターン31pが形成されている。図1Aに示す例では、形成面31aは、無端帯状かつ環状のモールド31の外方側にのみ位置している。ただし、形成面31aは、被転写材料の配置によっては、内方側にのみ、または、外方側および内方側の両方に位置していてもよい。
【0029】
この凹凸形状パターン31pは、図1Bおよび図1Cに示すように、所定形状の凹部31p1および凸部31p2に係る形状を規則的に繰り返して(不規則な形状であってもよい)形成されている。凸部31p2の高さH(または凹部の深さ)、凸部31p2の幅W(または凹部の幅)、凸部31p2同士の間隔I(または凹部同士の間隔)のそれぞれは、数百マイクロメートル乃至数十ナノメートルオーダーである。従って、凹凸形状パターン31pは、微小構造体を形成している。
【0030】
凹部31p1または凸部31p2に係る形状は、製品(凹凸形状パターン31pが転写形成された被転写材料37)の用途に応じて、例えば、円柱凸状、円柱凹状、ラメラ状(襞状)などの所要の形状を、適宜設定することができる。また、凹凸形状パターン31pは、モールド31の全部に亘って形成されていてもよいし、モールド31の一部にのみ形成されていてもよい。さらに、後記するように、モールド31の表裏両面(全部または一部)に形成されていてもよい。
【0031】
モールド31の性質としては、可撓性を有すること、および、要求される強度や加工精度を充足することのふたつの条件を満たすものであれば、特に制限はない。例えば、各種金属や各種樹脂などを、モールド31の材質として好適に用いることができる。金属としては、ニッケルが好ましい。樹脂としては、ポリイミド樹脂および光硬化性樹脂が好ましい。
【0032】
モールド31は、凹凸形状パターン31pが形成されるパターン形成部分と、このパターン形成部分を支持する支持体部材とが一体となった複合積層体により構成してもよい。この場合、パターン形成部分は、ニッケル等の金属やポリイミド樹脂等の樹脂から構成すればよい。また、支持体部材は、例えば、ステンレス、芳香族ポリアミド樹脂(例えばケブラー(登録商標)樹脂)から構成すればよい。
【0033】
被転写材料搬送機構部15は、図1Aに示すように、長尺帯状の転写前の被転写材料37の一側を巻回してこれを送り出す送り出しリール39aと、転写後の被転写材料37の他側を巻き取る巻取りリール39bと、巻取りリール39bを図1A中の矢印方向に回転駆動するステッピングモータ41と、を含んで構成されている。図1A中、符号Yを付した矢印は、被転写材料37の搬送方向を示している。
【0034】
被転写材料搬送機構部15は、被転写材料37を押圧機構部17へと送り込む機能と、転写後の被転写材料37を巻き取る機能とを有している。具体的には、被転写材料搬送機構部15は、モールド搬送機構部13と同期して動作する。これにより、被転写材料37を押圧機構部17へ送り込むタイミングと、モールド31を押圧機構部17へ送り込むタイミングとを同期させると共に、押圧機構部17へ送り込む被転写材料37の長さと、押圧機構部17へ送り込むモールド31の長さとを一致させている。
【0035】
要するに、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、図1Aに示すように、モールド31と被転写材料37とを重ね合わせた状態を維持して、モールド31および被転写材料37を押圧機構部17へと送り込むようになっている。
【0036】
ここで、被転写材料37について説明する。被転写材料37は、例えば、長尺帯状の熱可塑性樹脂フィルムにより構成されている。被転写材料37の幅は、例えば、モールド31の幅と略同じ(異なっていてもよい)である。熱可塑性樹脂としては、製品の用途に応じて、適宜の素材を選択することができる。熱可塑性樹脂が有する特性としては、ガラス転移温度Tgが100〜160°C程度のものが好ましい。具体的には、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどの熱可塑性樹脂を、被転写材料37として好適に用いることができる。
【0037】
押圧機構部17は、ロール33bからロール33cに至る区間を搬送されるモールド31と、この区間のモールド31に重ね合わせられて搬送される被転写材料37とを、共に挟み込んで押圧する機能を有する。この押圧は、図1Aに示すように、モールド31に形成された凹凸形状パターン31pの形成面31a、および、被転写材料37の被転写面37aを相互に対面させた状態を維持して行われる。
【0038】
詳しく述べると、押圧機構部17は、上側押圧部材43aおよび下側押圧部材43bを組み合わせてなる押圧部材43と、不図示の押圧アクチュエータとを備えて構成されている。上側押圧部材43aと下側押圧部材43bとの間は、相互に離間するように付勢されている。したがって、後記する押圧アクチュエータによる押圧動作がない状態では、上側押圧部材43aと下側押圧部材43bとは相互に離間するように位置している。
【0039】
上側押圧部材43aおよび下側押圧部材43bを組み合わせてなる押圧部材43は、ロール33bからロール33cに至る区間に、モールド31および被転写材料37を挟み込むように対向して設けられている。押圧アクチュエータは、上側押圧部材43aおよび下側押圧部材43bの間に、モールド31および被転写材料37を挟み込んで位置させた状態で、上側押圧部材43aおよび下側押圧部材43bを、相互に押圧させるように機能する。
なお、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、押圧アクチュエータによる押圧動作は、モールド31および被転写材料37の搬送が停止している間に行われる。
【0040】
上側押圧部材43aには、ヒータ43a1が内蔵されている。このヒータ43a1は、モールド31を熱媒体として被転写材料37を加熱することによって、熱可塑性樹脂からなる材料37を、そのガラス転移温度Tg以上に昇温する役割を果たす。
なお、第1実施形態では、上側押圧部材43aの側にのみヒータ43a1を設ける例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。すなわち、例えば、下側押圧部材43bの側にのみヒータを設けてもよいし、上側および下側押圧部材43a,43bの双方にヒータを設けてもよい。
【0041】
離型層厚センサ19は、モールド31の形成面31aに残留している残留離型層32(図1C参照)の厚さに係る相関値を計測する機能を有する。離型層厚センサ19は、図1Aに示すように、ロール33dからロール33aに至る区間のモールド搬送経路14に沿う位置に設けられている。ここで、“残留離型層32の厚さに係る相関値”とは、ナノメートルオーダーの残留離型層32の厚さを物理的に計測することの困難性に鑑みて、残留離型層32の厚さを、例えば光学的などの何らかのアプローチを用いて得た計測値を意味する。
なお、離型層厚センサ19は、離型層厚取得部51との組み合わせによって、本発明の“離型層厚取得部”を構成している。
【0042】
残留離型層32の厚さを計測するためのアプローチとしては、種々のものがある。すなわち、例えば、分光エリプソメトリーによって残留離型層32の厚さに係る相関値を計測してもよいし、特定の波長の光を残留離型層32に照射したときの反射率によって残留離型層32の厚さに係る相関値を計測してもよい。また、例えば、残留離型層32に不図示の測定子を接触させ、モールド31が搬送されて移動するときに測定子との間に生じる摩擦力の変化を、残留離型層32の厚さに係る相関値として計測してもよい。
【0043】
さらに、残留離型層32の真上に純水などの液滴を滴下して、この液滴の接線とモールド31の形成面31aとが成す接触角を、残留離型層32の厚さに係る相関値として計測してもよい。
【0044】
なお、離型層厚センサ19を用いて残留離型層32の厚さに係る相関値を計測している最中に、仮にモールド31が振動したとすると、精度の高い計測が困難になる。そこで、モールド搬送経路14のうち、離型層厚センサ19が位置するモールド31の背面側に、図1Aに示すように、モールド31を背面側から支えるモールド支持部材20を設けている。これにより、離型層厚センサ19の計測動作中において、モールド31の形成面31aに対する法線方向への振動を防止し、これをもって、精度の高い計測を担保するようにしている。
【0045】
ところで、モールド31の形成面31aに残留する残留離型層の厚さを計測するに際し、モールド31の形成面31aに形成された微小構造の凹凸形状パターン31pが、高精度の計測を妨げるおそれがある。すなわち、凹凸形状パターン31pが形成された形成面31aの領域において、そこでの残留離型層の厚さについて、光学的なアプローチによる計測を試みる場合、凹凸形状パターン31pの存在に起因して、光の乱反射が生じることがある。また、この光の乱反射は、凹凸形状パターン31pの形状によっても変化する。このため、残留離型層の厚さに係る相関値にバラつきを生じて、高精度の計測を妨げるおそれがあった。
【0046】
そこで、計測誤差をもたらす凹凸形状パターン31pが形成されていない空白領域を、モールド31の形成面31aに設け、同空白領域を対象として、残留離型層32の厚さに係る相関値を計測するようにしてもよい。
具体的には、モールド31を用いて製造する製品(デバイス)の性能に影響を与えない位置に、凹凸形状パターン31pの無い空白領域を設ければよい。また、この空白領域をモールド31表面の複数の位置に設けて、各位置における残留離型層32の厚さに係る相関値を計測すれば、残留離型層32の面内バラつきを評価することができる。
【0047】
この離型層の面内バラつきに応じて、モールド31の形成面31aにおける個々の位置に供給する離型剤の量を調整するように構成すれば、残留離型層32の面内バラつきを小さくすることができる。その結果、均一性に優れた製品(デバイス)の製造を期待することができる。
【0048】
モールド支持部材20は、図1Aに示すように、離型層厚センサ19の直下に位置するモールド31の背面側に設けられる。モールド支持部材20は、モールド31を、その背面側から支える役割を果たす。なお、図1Aではモールド支持部材20をモールド31の背面側に設けた例を示したが、離型層厚センサ19による計測を阻害せず、かつ、モールドの形成面31aの残留離型層32の厚さに影響を与えない位置であれば、モールド支持部材20をモールドの形成面31aの側に設けてもよい。
【0049】
離型剤供給部21は、無端帯状かつ環状のモールド搬送経路14に沿って搬送されるモールド31の外方側、つまり、モールド31のうち凹凸形状パターン31pが形成されている側に、離型剤を供給する機能を有する。具体的には、離型剤供給部21は、図1Aに示すように、ロール33dからロール33aに至る区間のモールド搬送経路14に設けられている。
【0050】
離型剤としては、モールド31の形成面31aを組成する化学種と共有結合しない、いわゆる非反応性離型剤が好ましい。具体的には、フッ素系離型剤が好ましい。中でも、分子末端に極性基を有するフッ素系離型剤が好ましい。特に、極性基として、水酸基、エーテル基、または、エステル基のうち1または複数を組み合わせたものを分子末端に有するフッ素系離型剤が好ましい。
【0051】
離型剤供給部21を用いた離型剤供給態様としては、モールド31の形成面31aに形成された凹凸形状パターン31pに対して離型剤を供給することを通じて離型層を形成することができれば、いかなる構成を採用してもよい。具体的には、離型剤供給部21を用いた離型剤供給態様としては、例えば、液状の離型剤にモールド31を浸漬するか、または、液状の離型剤をモールド31に形成された凹凸形状パターンに対して塗布することなどがある。塗布する方式としては、例えば、スプレー式、インクジェット式、ディスペンサー式、ブラシ式などのいずれであってもよい。
なお、常温で固体となる性質を有する離型剤については、適当な溶媒または分散媒を用いて溶液または分散液として調製し、これを使用すればよい。
【0052】
〔本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の制御装置23〕
次に、本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の制御装置23について、図1Dを参照して説明する。図1Dは、本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A0のうち、制御装置23およびその周辺の概要を模式的に表す機能ブロック図である。
【0053】
制御装置23は、図1Dに示すように、離型層厚取得部51と、離型層厚判定部53と、供給量演算部55と、供給量記憶部57と、供給量制御部59と、を備えて構成されている。
制御装置23は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えた不図示のマイクロコンピュータ(以下“マイコン”という。)により構成される。このマイコンは、ROMに記憶されているプログラムを読み出して実行し、離型層厚取得部51、離型層厚判定部53、供給量演算部55、供給量記憶部57、および、供給量制御部59を含む各種機能部の実行制御を行うように機能する。
【0054】
図1Dに示す離型層厚取得部51は、離型層厚センサ19によって計測された残留離型層(図1C参照)32の厚さに係る相関値を取得する機能を有する。
なお、“残留離型層32の厚さに係る相関値を取得する”とは、多様なアプローチを用いて得た残留離型層32の厚さに係る計測値のすべてを、本発明に係る残留離型層32の厚さとして取得する意味である。
【0055】
また、離型層厚取得部51が、残留離型層32の厚さに係る相関値を取得する意味は次の通りである。すなわち、モールド31の形成面31aに残留している残留離型層32の厚さは、モールド31の長手方向(搬送方向)および幅方向(搬送方向に直交する方向)の二次元方向にわたり、必ずしも均一ではない。残留離型層32は、厚いところがあれば薄いところもある。
【0056】
そこで、本発明の第1実施形態に係るパターン転写装置11A01では、後記するように、不均一な残留離型層32の厚さに係る分布データをそれぞれ取得し、個々の部位(モールド31上の特定位置)において取得した残留離型層32の厚さに応じた離型剤の供給量制御を行う。これにより、残留離型層32の厚さの均一化を図り、これをもって、パターン転写不良やモールド31の目詰まりを未然に防止しようとしている。
【0057】
図1Dに示す離型層厚判定部53は、離型層厚取得部51で取得された残留離型層32の厚さに係る相関値が予め定められる基準を満たすか否かを判定する機能を有する。具体的には、離型層厚判定部53は、残留離型層32の厚さに係る相関値が、残留離型層厚の適正範囲を定める基準範囲内に収束しているか否かを調べて、残留離型層32の厚さに係る相関値が、基準範囲内に収束している場合に、基準を満たす旨の判定を下すように動作する。
【0058】
また、前記に代えて、離型層厚判定部53は、残留離型層32の厚さに係る相関値が、残留離型層厚の適正下限値を定める基準値を超えているか否かを調べて、残留離型層32の厚さに係る相関値が前記基準値を超えている場合に、基準を満たす旨の判定を下すように構成してもよい。
【0059】
図1Dに示す供給量演算部55は、離型層厚判定部53の判定結果に基づいて、離型剤供給部21における離型剤の供給量を演算する機能を有する。具体的には、供給量演算部55は、残留離型層32の厚さに係る相関値が、基準範囲を超えるか、または、基準範囲に満たない旨の判定が下された場合に、残留離型層32の厚さが、基準範囲に基づき設定される目標供給量と一致するように、離型層厚を取得したモールド31上の現在位置に関する、離型剤の供給量を求める。
【0060】
ここで、残留離型層32の厚さは、基準範囲内に収束していることが重要である。残留離型層32の厚さが基準範囲を超える(離型剤の量が過剰)場合は、離型剤を無駄に消費し、また、被転写材料37から離型剤を除去する工程を別途要するなどの製品製造作業の煩雑化を招いて好ましくない。また、残留離型層32の厚さが基準範囲に満たない(離型剤の量が不足)場合は、離型性の不足を生じて好ましくない。
なお、基準範囲に基づき設定される目標供給量としては、基準範囲の平均値や、基準範囲の上限値または下限値などを適宜採用すればよい。
【0061】
図1Dに示す供給量記憶部57は、供給量演算部55で求められた離型剤の供給量を、その離型層厚を取得したモールド31上の特定位置に関連づけて記憶する役割を果たす。
【0062】
離型層厚センサ19と、離型剤供給部21とは、図1Aに示すように、それぞれが所定の間隔を置いて設けられている。また、図1Aに示す例では、モールド31の搬送方向を基準とすると、離型層厚センサ19は、離型剤供給部21の上流側に位置している。こうした場合、例えば、モールド31上のいずれかの特定位置に関し、残留離型層32の厚さが基準範囲に満たない(離型剤の量が不足)旨の判定が下されたとき、離型剤供給部21では、前記所定の間隔に相当する搬送時間だけ待って、別途求められた量の離型剤を供給することを要する。
そこで、供給量記憶部57は、モールド31上の個々の位置において、適正な量の離型剤を適時に供給する制御を行う際に参照される。
【0063】
図1Dに示す供給量制御部59は、モールド31上の個々の位置において、供給量記憶部57の記憶内容を参照して、適正な量の離型剤を適時に供給する制御を行う機能を有する。要するに、例えば、モールド31上の個々の位置において、残留離型層32の厚さが基準範囲の下限値にも満たない場合に、供給量制御部59は、離型剤供給部21を用いてモールド31の形成面31aに、基準範囲を充足する量の離型剤を供給するように動作する。一方、例えば、モールド31上の個々の位置において、残留離型層32の厚さが基準範囲の上限値を超えている場合、供給量制御部59は、対応するモールド31の形成面31aへの離型剤の供給を休む(通常のパターン転写動作を通じて離型層32の厚さが基準範囲に収束するのを待つ)ように動作する。
【0064】
制御装置23には、図1Dに示すように、離型層厚センサ19、モールド位置センサ61、および、離型剤供給部21が接続されている。これにより、制御装置23には、離型層厚センサ19で計測された残留離型層32の厚さに係る相関値情報、および、モールド位置センサ61で検出されたモールド31上の現在位置情報が入力される。また、制御装置23から離型剤供給部21に対し、供給量制御信号が出力される。
【0065】
モールド位置センサ61は、モールド31上の現在位置に係るモールド位置情報を検出する機能を有する。具体的には、モールド位置センサ61は、例えば、ステッピングモータ35aの回転角度信号に基づいて、モールド31の搬送方向に沿って予め設定される原点位置を基準としたモールド31上の特定位置を検出し、検出したモールド31上の特定位置情報を、制御装置23へ送る。
なお、モールド位置センサ61としては、例えばロータリーエンコーダなどの位置センサを、モータ35aの回転軸に別途設ける構成を採用してもよい。
【0066】
さらに詳しく述べると、例えば、環状のモールド13を“256(2の8乗)”に区分し、それぞれの区間(特定位置)に固有の区間アドレスを割り振ることにより、モールド13上の任意の特定位置を、区間アドレスの態様で表現することができる。第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、この区間アドレスを、モールド13上の任意の位置を特定する用途に用いる。
【0067】
制御装置23から送られてきた供給量制御信号を受けて、離型剤供給部21は、離型剤の供給動作を行う。図1Dに示す例では、供給量制御部59から発せられた供給量制御信号に従って、離型剤供給部21の供給口21aから、モールド31の形成面31aに向けて、液状の離型剤が供給される様子を模式的に表している。
【0068】
(第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の動作)
次に、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の動作(パターン転写方法)の概要について説明する。
なお、パターン転写装置11A0では、図1Aに示す被転写材料37がセットされていない状態において、環状のモールド31の外方側(形成面31aの側)の全周にわたり、モールド搬送機構部13によってモールド31を搬送させながら離型剤供給部21を用いて離型剤を供給することにより、予め適正な(基準範囲に収束する)離型層が形成されているものとする。
【0069】
まず、押圧転写工程について説明する。押圧転写工程では、微小構造の凹凸形状パターン31pの形成面31a、および、被転写面37aを相互に対面させた状態で、形成面31aを有する帯状のモールド31、および、被転写面37aを有する被転写材料37を、押圧機構部17を用いて相互に押圧させることにより、凹凸形状パターン31pを被転写面37aに転写する。
【0070】
具体的には、押圧機構部17において、上側押圧部材43aと下側押圧部材43bとが、モールド31および被転写材料37を挟み込んで押圧する。この際、上側押圧部材43aに内蔵されたヒータ43a1によって、被転写材料37がガラス転移温度Tg以上となるように加熱されて可塑化(または半流動化)する。その結果、モールド31の凹凸形状パターン31pが被転写材料37に転写される。
【0071】
その後、上側押圧部材43aおよび下側押圧部材43bが、モールド31および被転写材料37から離れると、被転写材料37は、その温度がガラス転移温度Tgよりも低下して硬化する。
【0072】
一方、上側押圧部材43aおよび下側押圧部材43bが離れた状態で、モールド搬送機構部13および被転写材料搬送機構部15が、押圧機構部17の搬送方向上流側に位置するモールド31および被転写材料37を、押圧機構部17の直下へと送り込む。そして、前記した手順と同様に、上側押圧部材43aおよび下側押圧部材43bがモールド31および被転写材料37を挟み込んだ状態で押圧して、凹凸形状パターン31pを被転写材料37の被転写面37aに転写する。
【0073】
第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、モールド搬送機構部13および被転写材料搬送機構部15によるモールド31および被転写材料37の搬送工程と、押圧機構部17による被転写材料37への凹凸形状パターン31pの押圧転写工程とが、間欠的に繰り返される。
【0074】
凹凸形状パターン31pが転写されてロール33cにまで到達した被転写材料37は、図1Aに示すように、巻取りリール39bに向かって搬送される。この搬送動作と同期して、モールド31は、ロール33cからロール33dに向かって搬送される。その後、モールド31は、ロール33cによる屈曲位置において、被転写材料37から剥離される。つまり、第1実施形態に係るロール33cは、剥離ロールとしての機能を有する。
【0075】
また、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、押圧機構部17とロール33cとは、所定の冷却区間を置いて設けられている。このため、凹凸形状パターン31pの転写時において、上側押圧部材43aに内蔵されたヒータ43a1から、モールド31を熱媒体として被転写材料37に伝わった熱を、前記の冷却区間において冷ますことができる。すると、冷却区間において十分に冷却されて確実に硬化した被転写材料37から、モールド31を円滑かつ適確に剥離することができる。
【0076】
なお、前記の冷却区間に、不図示のエアブローや冷却ロールなどの冷却機構を設ける構成を採用してもよい。このように構成すれば、生産性の向上を狙って、モールド31および被転写材料37の搬送速度を増加させる場合であっても、前記の冷却区間において、モールド31および被転写材料37を十分に冷却でき、剥離動作を円滑かつ適確に行うことができる。前記の、ロール33cによる屈曲位置において、モールド31を、被転写材料37から剥離させる工程は、本発明の“剥離工程”に相当する。
【0077】
その後、被転写材料37は巻取りリール39bに巻き取られる一方、モールド31は離型層厚センサ19および離型剤供給部21に向かって搬送される。
離型層厚センサ19および離型剤供給部21が設けられているモールド搬送経路14では、本発明の“離型剤供給工程”、“離型層厚取得工程”、“離型層厚判定工程”、および、“供給量制御工程”がそれぞれ実行される。これらについては後記する。
【0078】
そして、離型剤供給部21を用いて適量の離型剤が供給されたモールド31は、モールド搬送機構部13によって、再び押圧機構部17へと送り込まれる。
【0079】
次に、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の動作(パターン転写方法)のうち、離型剤供給量演算処理の流れについて、図2Aを参照して説明する。図2Aは、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の動作のうち、離型剤供給量演算処理の流れを示すフローチャート図である。
【0080】
図2Aに示す離型剤供給量演算処理の流れは、モールド31の形成面31aに形成した微小構造の凹凸形状パターン31pを、ナノインプリント法を用いて被転写材料37の被転写面37aに転写する製品製造工程において、所定の周期をもって実行される。
なお、パターン転写装置11A0では、図1Aに示す被転写材料37がセットされていない状態において、環状のモールド31の外方側(形成面31aの側)の全周にわたり、モールド搬送機構部13によってモールド31を搬送させながら離型剤供給部21を用いて離型剤を供給することにより、予め適正な厚さ(基準範囲に収束する)の離型層32が形成されているものとする。
【0081】
ステップS11において、制御装置23は、離型層厚センサ19の直下に搬送されてきたモールド31上の特定位置情報(区間アドレス)を取得する。
【0082】
ステップS12において、離型層厚取得部51は、離型層厚センサ19によって計測された残留離型層32の厚さに係る相関値情報を取得する。ステップS12の処理は、本発明の“離型層厚取得工程”に相当する。
【0083】
ステップS13において、離型層厚判定部53は、モールド31上の特定位置情報(区間アドレス)に関する残留離型層32の厚さに係る相関値が、残留離型層厚の適正範囲を定める基準範囲内に収束しているか否かを判定する。ステップS13の処理は、本発明の“離型層厚判定工程”に相当する。
【0084】
ステップS13の判定の結果、残留離型層32の厚さに係る相関値が、残留離型層厚の適正範囲を定める基準範囲内に収束している旨(正常)の判定が下された場合、制御装置23は、処理の流れをリターンさせて、次のサイクルでの離型剤供給量演算処理の開始まで待機する。
【0085】
一方、ステップS13の判定の結果、残留離型層32の厚さに係る相関値が、残留離型層厚の適正範囲を定める基準範囲内に収束していない旨(異常)の判定が下された場合、ステップS14において、制御装置23は、特定位置に係る区間アドレスに関し、残留離型層厚が適正か否かの状態を表す残留離型層厚フラグに、異常値である旨を表す値“1”を設定する。こうして設定された残留離型層厚フラグの値は、後記する離型剤供給処理において、離型剤供給部21の直下に時々刻々と搬送されてくるモールド31上におけるそれぞれの特定位置において、離型剤を供給すべきか否かを判断する際に参照される。
【0086】
ステップS15において、供給量演算部55は、ステップS13の判定結果などに基づいて、離型剤供給部21における離型剤の供給量を演算する。具体的には、供給量演算部55は、ステップS12で取得した残留離型層32の厚さに係る相関値が、基準範囲を超えるか、または、基準範囲に満たない旨の判定が下された場合に、残留離型層32の厚さが、目標供給量(例えば、基準範囲の平均値)と一致するように、モールド31上の特定位置に係る区間アドレスに関する、離型剤の供給量を求める。
【0087】
ステップS16において、供給量記憶部57は、ステップS15で求められた離型剤の供給量を、ステップS12において離型層厚を取得したモールド31上の特定位置に係る区間アドレスに関連づけて記憶する。その後、制御装置23は、処理の流れをリターンさせて、次のサイクルでの離型剤供給量演算処理の開始まで待機する。
なお、供給量記憶部57の記憶内容は、離型剤供給部21の直下に搬送されてくるモールド31上の特定位置を表す各個別の区間アドレスにおいて、離型剤を供給すべき旨の判断が下された場合に、同位置における適正な離型剤の供給量を取得する際に参照される。
【0088】
次に、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の動作のうち、離型剤供給処理の流れについて、図2Bを参照して説明する。図2Bは、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の動作のうち、離型剤供給処理の流れを示すフローチャート図である。
図2Bに示す離型剤供給処理の流れは、離型剤供給部21の直下に、モールド31における新しい現在位置が搬送されてくるごとに開始される。
【0089】
ステップS21において、制御装置23は、離型剤供給部21の直下に搬送されてきたモールド31上の特定位置に係る区間アドレスに関し、残留離型層厚フラグの値として、異常値である旨を表す値“1”が設定されているか否かを判定する。
【0090】
ステップS21の判定の結果、モールド31上の特定位置に係る区間アドレスに関し、残留離型層厚フラグの値として、異常値である旨を表す値“1”が設定されていない旨(正常)の判定が下された場合、制御装置23は、処理の流れをリターンさせて、次のサイクルでの離型剤供給処理の開始まで待機する。
【0091】
一方、ステップS21の判定の結果、モールド31上の特定位置に係る区間アドレスに関し、残留離型層厚フラグの値として、異常値である旨を表す値“1”が設定されている旨(異常)の判定が下された場合、ステップS22において、制御装置23は、モールド31上の特定位置に係る区間アドレスに関係付けられた離型剤の供給量を、供給量記憶部57の記憶内容のなかから読み出す。
【0092】
ステップS23において、供給量制御部59は、ステップS22で読み出した量の離型剤を、モールド31上の特定位置に供給する旨の供給量制御信号を、離型剤供給部21へと送る。これにより、離型剤供給部21では、供給量制御信号に従う離型剤の供給が行われる。
【0093】
ステップS24において、制御装置23は、モールド31上の特定位置に係る区間アドレスに関する残留離型層厚フラグの値をリセット(クリア)する。その後、制御装置23は、処理の流れをリターンさせて、次のサイクルでの離型剤供給処理の開始まで待機する。
【0094】
(第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の作用効果)
第1実施形態に係るパターン転写装置11A0によれば、モールド31上の特定位置が時々刻々と変位するなかで、モールド31の形成面31aに残留している残留離型層32の厚さを監視し、この監視の結果、残留離型層32の厚さが基準範囲から逸脱している場合、残留離型層32の厚さが基準範囲内に収束するように離型剤の供給量を制御するので、モールド31の離型性低下に起因するパターン転写不良やモールド31の目詰まりを未然に防いで製品の生産性を向上させることができる。
【0095】
また、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、離型剤として、モールド31の形成面31aを組成する化学種と共有結合しない性質を有する非反応性離型剤を採用したので、モールド31の形成面31aを組成する化学種と非反応性離型剤とが共有結合することなく、非反応性離型剤はモールド31の形成面31aに堆積する。このため、離型剤として、モールド31の形成面31aを組成する化学種と共有結合する性質を有する反応性離型剤を採用した場合と比べて、離型剤はモールド31から脱離し易い。これは、モールド31に対する離型剤の定着性向上(つまり、離型性向上)を図る立場からは、明らかに不利である。
【0096】
ところが、一般に離型剤は、パターン転写を繰り返すに連れて劣化してゆく。このため、凹凸形状パターン31pの転写を繰り返すことで劣化した離型剤が残留しているモールド31の再生処理を試みる場合、劣化した離型剤をいったんきれいに除去した後に、新たな離型剤を供給する必要がある。こうしたモールド31の再生処理のためには、離型剤の定着性は低い方が好ましい。
しかも、定着性の高い離型剤では、その除去が困難であるばかりか、劣化した離型剤の除去を無理に行うと、モールド31自体を損傷するおそれもある。
【0097】
これに対し、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、離型剤として定着性の低い非反応性離型剤を採用している。非反応性離型剤は、モールド31と化学的に結合せずに堆積しているに過ぎない。このため、被転写材料37からモールド31を剥離する際に、モールド31から離脱した非反応性離型剤は、被転写材料37へと実に身軽に移動してゆく。従って、劣化した離型剤をいったんきれいに除去した後に、新たな離型剤を供給するモールド31の再生処理を、モールド31の損傷を生じさせることなく、簡易かつ的確に実行することができる。
【0098】
また、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、離型剤として、分子末端に極性基を有するフッ素系離型剤を採用し、特に、前記の極性基は、水酸基、エーテル基、または、エステル基のうち1または複数を組み合わせたものを採用したので、モールド31の形成面31aに対する離型剤の親和性を高めることができ、より均一な厚さの離型層を形成することができる。
【0099】
(第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置11A1)
次に、第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置11A1について、図3を参照して説明する。図3は、第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置11A1の概要を模式的に表す説明図である。
なお、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0と、第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置11A1とでは、離型層厚センサ19および離型剤供給部21の位置関係を除き、その他の構成は共通である。したがって、共通の機能を有する部材については、共通の符号を付してその説明を省略し、前記の相違点に注目して説明を進めることとする。
【0100】
第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、図1Aに示すように、モールド31の搬送方向を基準とすると、離型層厚センサ19を、離型剤供給部21の上流側に置く構成を採用している。
【0101】
これに対し、第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置11A1では、図3に示すように、モールド31の搬送方向を基準とすると、前記とは逆に、離型剤供給部21を、離型層厚センサ19の上流側に置く構成を採用している。
【0102】
要するに、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、モールド31の形成面31aに残留している残留離型層32の厚さを計測した直後に、その計測を行った特定位置に関する離型剤の供給制御を行うのに対し、第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置11A1では、モールド31上の特定位置に関する離型剤の供給量制御を行った直後に、その特定位置に残留している残留離型層32の厚さを計測しており、“計測(離型層厚取得工程)”および“供給(離型剤供給工程)”の各工程における時系列的な順序が相互に異なっている。
【0103】
第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置11A1によれば、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0とは逆に、モールド31上の特定位置に関する離型剤の供給量制御を行った直後に、その特定位置に残留している残留離型層32の厚さを計測するので、離型剤の供給量制御が適切に行われたか否かに係る評価を速やかに行うことができる利点がある。
【0104】
(第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置11A2)
次に、第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置11A2について、図4を参照して説明する。図4は、第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置11A2の概要を模式的に表す説明図である。
なお、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0と、第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置11A1とでは、離型層厚センサ19および離型剤供給部21の位置関係、並びに、離型層厚センサ19の数量を除き、その他の構成は共通である。したがって、共通の機能を有する部材については、共通の符号を付してその説明を省略し、前記の相違点に注目して説明を進めることとする。
また、数量が変わる離型層厚センサ19については、共通の符号“19”を用いると共に、その共通符号に枝番号“a”,“b”を付加することにより、個々の部材を識別可能に表現することとする。
【0105】
第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、図1Aに示すように、モールド31の搬送方向を基準とすると、離型層厚センサ19を、離型剤供給部21の上流側に置く構成を採用している。
【0106】
これに対し、第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置11A2では、図4に示すように、モールド31の搬送方向を基準とすると、ひとつの離型剤供給部21の上流側および下流側のそれぞれに、離型層厚センサ19a,19bを個々に設ける構成を採用している。
【0107】
要するに、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、モールド31の形成面31aに残留している残留離型層32の厚さを計測した直後に、その計測を行った特定位置に関する離型剤の供給制御を行うのに対し、第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置11A2では、モールド31上の特定位置に関する離型剤の供給量制御を行った直後に、その特定位置に残留している残留離型層32の厚さを計測し、この計測の直後に、モールド31上の特定位置に関する離型剤の供給量制御をさらに行う構成を採用している。
【0108】
第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置11A2によれば、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0の動作(“計測(離型層厚取得工程)”の直後に“供給(離型剤供給工程)”)に加えて、さらに、“供給(離型剤供給工程)”の直後に“計測(離型層厚取得工程)”を行うので、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0が奏する基本的な作用効果に加えて、離型剤の供給量制御が適切に行われたか否かに係る評価を速やかに行うことができる利点がある。
【0109】
(第2実施形態に係るパターン転写装置11B0)
次に、第2実施形態に係るパターン転写装置11B0について、図5を参照して説明する。図5は、第2実施形態に係るパターン転写装置11B0の概要を模式的に表す説明図である。
なお、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0と、第2実施形態に係るパターン転写装置11B0とでは、押圧機構部17の構成を除き、その他の構成は共通である。したがって、共通の機能を有する部材については、共通の符号を付してその説明を省略し、前記の相違点に注目して説明を進めることとする。また、第1実施形態に係る押圧機構部17とは、その構成が異なる第2実施形態に係る“押圧機構部”に対して、符号“18”を与えて説明を進めることとする。
【0110】
第1実施形態に係るパターン転写装置11A0では、図1Aに示すように、一対の平板状の上側および下側押圧部材43a,43bを組み合わせてなる押圧部材43と、上側および下側押圧部材43a,43bを、相互に押圧または離間させるように動作する押圧アクチュエータとを備える押圧機構部17の構成を採用している。
【0111】
これに対し、第2実施形態に係るパターン転写装置11B0では、図5に示すように、一対の円筒状の上側および下側ロール44a,44bを組み合わせてなる押圧部材44と、上側および下側ロール44a,44bを、相互に押圧または離間させるように動作する不図示の押圧アクチュエータとを備える押圧機構部18の構成を採用している。
【0112】
上側ロール44aには、図5に示すように、ヒータ44a1が内蔵されている。このヒータ44a1は、モールド31を熱媒体として被転写材料37を加熱することによって、熱可塑性樹脂からなる材料37を、そのガラス転移温度Tg以上に昇温する役割を果たす。
なお、第2実施形態では、上側ロール44aの側にのみヒータ44a1を設ける例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。すなわち、例えば、下側ロール44bの側にのみヒータを設けてもよいし、上側および下側ロール44a,44bの双方にヒータを設けてもよい。
【0113】
第2実施形態に係るパターン転写装置11B0によれば、第1実施形態に係るパターン転写装置11A0が奏する基本的な作用効果に加えて、次の作用効果を奏する。
すなわち、第2実施形態に係るパターン転写装置11B0では、上側および下側ロール44a,44bを用いて押圧機構部18を構成したので、モールド31および被転写材料37を連続して押圧機構部18へと送り込んでパターン転写を行うことができる。
【0114】
したがって、第2実施形態に係るパターン転写装置11B0によれば、スタンプ式の押圧機構部17を備える第1実施形態に係るパターン転写装置11A0と比べて、パターン転写速度を高めて生産性を格段に向上することができる利点がある。
【0115】
(第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置11B1)
次に、第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置11B1について、図6を参照して説明する。図6は、第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置11B1の概要を模式的に表す説明図である。
なお、第2実施形態に係るパターン転写装置11B0と、第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置11B1とでは、モールド搬送機構部13、離型層厚センサ19、モールド支持部材20、離型剤供給部21、および、制御装置23などがそれぞれ一対あるのを除き、その他の構成は共通である。したがって、共通の機能を有する部材については、共通の符号を付してその説明を省略し、前記の相違点に注目して説明を進めることとする。
また、数量が一対に変わるモールド搬送機構部13、離型層厚センサ19、モールド支持部材20、離型剤供給部21、および、制御装置23については、共通の符号“13”,“19”,“20”,“21”,“23”を用いると共に、その共通符号の直下に枝番号“A”,“B”を付加することにより、個々の部材を識別可能に表現することとする。
【0116】
第2実施形態に係るパターン転写装置11B0では、図5に示すように、モールド搬送機構部13(4つのロール33a,33b,33c,33d、および、それぞれのロールを各個別に回転駆動するステッピングモータ35a,35b,35c,35dを含む)、離型層厚センサ19、モールド支持部材20、離型剤供給部21、および、制御装置23を、それぞれひとつずつ設ける構成を採用している。
【0117】
これに対し、第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置11B1では、図6に示すように、被転写材料搬送経路16を挟んで上側部分に、モールド搬送機構部13A(4つのロール33Aa,33Ab,33Ac,33Ad、および、それぞれのロールを各個別に回転駆動するステッピングモータ35Aa,35Ab,35Ac,35Adを含む)、離型層厚センサ19A、モールド支持部材20A、離型剤供給部21A、および、制御装置23Aを、それぞれひとつずつ設けると共に、被転写材料搬送経路16を挟んで下側部分に、被転写材料搬送経路16を対称軸としてそれぞれの部材間が線対称となるように、モールド搬送機構部13B(4つのロール33Ba,33Bb,33Bc,33Bd、および、それぞれのロールを各個別に回転駆動するステッピングモータ35Ba,35Bb,35Bc,35Bdを含む)、離型層厚センサ19B、モールド支持部材20B、離型剤供給部21B、および、制御装置23Aを、それぞれひとつずつ設ける構成を採用している。本第2実施形態の変形例は、第1実施形態にも同様に適用することができる。
なお、図6中、符号XAを付した矢印はモールド31Aの搬送方向を示し、符号XBを付した矢印はモールド31Bの搬送方向を示している。
【0118】
第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置11B1によれば、円筒状ロール33Aa,33Ab,33Ac,33Adの動作により押圧機構部18へと供給されるモールド31によって、被転写材料37の上面側にパターン転写が行われるのと同時に、円筒状ロール33Ba,33Bb,33Bc,33Bdの動作により押圧機構部18へと供給されるモールド31によって、被転写材料37の下面側にパターン転写が行われる。
したがって、第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置11B1によれば、第2実施形態に係るパターン転写装置11B0が奏する基本的な作用効果に加えて、被転写材料37の上下両面にパターン転写を行うことができる利点がある。
【0119】
(その他の実施形態について)
以上説明した実施形態は、本発明に係る具現化の例を示したものである。従って、本実施形態の記載事項によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0120】
すなわち、例えば、第1および第2実施形態、並びに、これらの変形例において、離型剤供給部21の設定位置は、図示したロール33dからロール33aに至る区間の位置に限定されない。離型剤供給部21は、ロール33cからロール33dに至る区間、または、ロール33aからロール33bに至る区間のモールド搬送経路14上に設定してもよい。また、離型剤供給部21は、モールド搬送経路14上において、複数箇所に設けてもよい。
【0121】
また、第1および第2実施形態、並びに、これらの変形例において、モールド機構部13を搬送するための円筒状ロール33a,33b,33c,33d(これらと同等の機能を有するものを含む)の数は、4つに限定されない。前記した一対のロール33b,33cが有する被転写材料37へのモールド31の押し当て機能を発揮することができるのであれば、3つまたは5以上など、任意の数だけ設けてもよい。
【0122】
また、第1および第2実施形態、並びに、これらの変形例において、被転写材料搬送機構部15は、送り出しリール39aおよび巻取りリール39bの間に架け渡された長尺帯状の被転写材料37に弛みが生じないように調整する、張力調整機構を別途備えていてもよい。
【0123】
また、第1および第2実施形態、並びに、これらの変形例において、巻取りリール39bの側にのみステッピングモータ41を設ける例をあげて説明したが、巻取りリール39bの回転に同期して送り出しリール39aを回転させるステッピングモータを、送り出しリール39aの側にも設けてもよい。
【0124】
また、第1および第2実施形態、並びに、これらの変形例において、被転写材料37は、熱可塑性樹脂で形成された単一層からなるフィルム材を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。被転写材料37は、少なくとも一方の最外層が熱可塑性樹脂で形成された多層構造体であってもよい。
【0125】
また、第1および第2実施形態、並びに、これらの変形例において、モールド31の実施態様として、無端帯状のモールド31を用いる例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。モールド31の実施態様として、長尺帯状のモールド31を採用してもよい。このようなパターン転写装置のモールド搬送機構としては、例えば、長尺帯状のモールド31の一端側を巻き回してこれを送り出す送り出しリールと、その他端側を巻き取る巻取りリールとを含んで構成することができる。
さらに、モールド31の実施態様として、間欠的に分割された複数のモールドを相互に接続した、いわゆる無限軌道状の態様を用いてもよい。
【0126】
最後に、第1および第2実施形態、並びに、これらの変形例において、パターン転写を繰り返すなかで、凹凸形状パターン31pを形成したモールド31の形成面31aに残留している残留離型層32の厚さに係る相関値が所定の基準を満たすか否かを監視し、この監視結果に従って、モールド31の形成面31aに対する離型剤の供給量をフィードバック制御する例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。
本発明は、パターン転写を繰り返すなかで、凹凸形状パターン31pを形成したモールド31の形成面31aに残留している残留離型層32の厚さに係る相関値が所定の基準を満たすか否かを監視し、この監視結果に基づいて制御量(離型剤の供給量)を予測して、この予測により得られた制御量に従って、モールド31の形成面31aに対する離型剤の供給量をフィードフォワード制御する適用をも、技術的範囲の射程に含むことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0127】
11A0 第1実施形態に係るパターン転写装置
11A1 第1実施形態の変形例1に係るパターン転写装置
11A1 第1実施形態の変形例2に係るパターン転写装置
11B0 第2実施形態に係るパターン転写装置
11B1 第2実施形態の変形例に係るパターン転写装置
13 モールド搬送機構部
15 被転写材料搬送機構部
17 押圧機構部
18 押圧機構部
19 離型層厚センサ(離型層厚取得部)
20 モールド支持部材
21 離型剤供給部
23 制御装置
31 モールド
31a 形成面
31p 凹凸形状パターン
32 残留離型層(離型層)
33a,33b,33c,33d 円筒状ロール
35a,35b,35c,35d ステッピングモータ
37 被転写材料
37a 被転写面
43 押圧部材
44 押圧部材
51 離型層厚取得部
53 離型層厚判定部
55 供給量演算部
57 供給量記憶部
59 供給量制御部
61 モールド位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小構造の凹凸形状パターンを被転写面に転写するためのパターン転写装置であって、
前記凹凸形状パターンの形成面、および、前記被転写面を相互に対面させた状態で、前記形成面を有する帯状のモールド、および、前記被転写面を有する被転写材料を相互に押圧させる押圧機構部と、
前記モールドの前記形成面に、当該形成面と前記被転写面との間の剥離を円滑に行わせる離型剤を供給することで離型層を形成させる離型剤供給部と、
前記モールドの前記形成面に残留している残留離型層の厚さに係る相関値を取得する離型層厚取得部と、
前記離型層厚取得部で取得された前記残留離型層の厚さに係る相関値が予め定められる基準を満たすか否かを判定する離型層厚判定部と、
前記離型層厚判定部の判定結果に基づいて前記離型剤供給部における前記離型剤の供給量を制御する供給量制御部と、
を備えることを特徴とするパターン転写装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパターン転写装置であって、
無端帯状の前記モールドが前記押圧機構部へとエンドレスに送り込まれるように、前記モールドを環状のモールド搬送経路に沿って搬送するモールド搬送機構部と、
帯状の前記被転写材料が前記押圧機構部へ送り込まれるように、前記被転写材料を被転写材料搬送経路に沿って搬送する被転写材料搬送機構部と、
をさらに備えることを特徴とするパターン転写装置。
【請求項3】
請求項2に記載のパターン転写装置であって、
前記離型剤供給部および前記離型層厚取得部は、前記モールド搬送経路に沿って並んで設けられる、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項4】
請求項2に記載のパターン転写装置であって、
前記離型層厚取得部は、前記モールド搬送経路に沿って複数設けられ、
前記離型剤供給部は、前記モールド搬送経路に沿う位置であって、前記複数の前記離型層厚取得部の間に設けられ、
前記離型層厚判定部は、前記複数の前記離型層厚取得部で取得されたそれぞれの残留離型層の厚さに係る相関値が前記基準を満たすか否かをそれぞれ判定し、
前記供給量制御部は、前記離型層厚判定部のそれぞれの判定結果に基づいて前記離型剤供給部における前記離型剤の供給量を制御する、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記離型層厚取得部が位置する前記モールドの背面側に、前記モールドを支える支持部材をさらに備える、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記離型層厚取得部は、分光エリプソメータからなる、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記離型層厚取得部は、特定波長の光を前記モールドの前記形成面に照射してその光の反射率を測定するものである、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記離型層厚取得部は、前記離型剤が供給された前記モールドの前記形成面に接触させた部材に加わる機械的な応力を測定するものである、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記離型層厚取得部は、前記モールドの前記形成面に供給された前記離型剤上に液滴を滴下した場合に前記液滴の接線と前記モールドの前記形成面とが成す接触角を観測するものである、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記押圧機構部は、相互に対面する前記モールドと前記被転写材料とを、それぞれの背面側から挟み込む少なくとも一対のロールを備える、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記モールドは、ニッケルを含む金属材料より構成されている、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記モールドは、ポリイミドまたは光硬化性樹脂を含む樹脂材料より構成されている、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のパターン転写装置であって、
前記離型層厚取得部は、前記モールドのうち前記形成面を除く領域に対面させて設けられる、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のパターン転写装置であって、
前記離型剤は、分子末端に極性基を有するフッ素系離型剤である、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項15】
請求項14に記載のパターン転写装置であって、
前記極性基は、水酸基、エーテル基、または、エステル基のうち少なくとも1種である、
ことを特徴とするパターン転写装置。
【請求項16】
微小構造の凹凸形状パターンの形成面、および、被転写面を相互に対面させた状態で、前記形成面を有する帯状のモールド、および、前記被転写面を有する被転写材料を相互に押圧させることにより、前記凹凸形状パターンを前記被転写面に転写する押圧転写工程と、前記モールドおよび前記被転写材料を相互に剥離させる剥離工程とを交互に繰り返すことによって、前記被転写面に前記凹凸形状パターンを連続的に転写する際に用いられるパターン転写方法であって、
前記モールドの前記形成面に、当該形成面と前記被転写面との間の剥離を円滑に行わせる離型剤を供給することで離型層を形成させる離型剤供給工程と、
前記モールドの前記形成面に残留している残留離型層の厚さに係る相関値を取得する離型層厚取得工程と、
前記離型層厚取得工程で取得された残留離型層の厚さに係る相関値が予め定められる基準を満たすか否かを判定する離型層厚判定工程と、
前記離型層厚判定工程の判定結果に基づいて前記離型剤供給工程における前記離型剤の供給量を制御する供給量制御工程と、
を有することを特徴とするパターン転写方法。
【請求項17】
請求項16に記載のパターン転写方法であって、
前記離型剤供給工程は、前記剥離工程および前記押圧転写工程の間に行われ、
前記離型層厚取得工程は、前記離型剤供給工程および前記押圧転写工程の間に行われる、
ことを特徴とするパターン転写方法。
【請求項18】
請求項16に記載のパターン転写方法であって、
前記離型剤供給工程は、前記剥離工程および前記押圧転写工程の間に行われ、
前記離型層厚取得工程は、前記剥離工程および前記離型剤供給工程の間、並びに、前記離型剤供給工程および前記押圧転写工程の間に複数回行われる、
ことを特徴とするパターン転写方法。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれか一項に記載のパターン転写方法において、
前記離型剤供給工程では、前記離型剤は、予め定められる時間間隔ごとに供給開始および供給停止を交互に繰り返すことによって前記モールドの前記形成面に供給され、前記モールドの前記形成面への供給量の調整は、前記時間間隔を変更することによって行われる、
ことを特徴とするパターン転写方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−18214(P2013−18214A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154098(P2011−154098)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】