説明

パラレルメカニズム及びそのキャリブレーション方法

【課題】機構パラメータの変動に応じてアクチュエータを駆動制御し、リンクヘッドの位置精度を高めることができるパラレルメカニズムを提供する。
【解決手段】直交座標系で与えられるリンクヘッドの回動位置及び移動位置に対応する指令値を機構パラメータに基づいてヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305に対する指令値に変換し、ヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305を制御する制御部を備え、この制御部は、リンクヘッド301に所定の回動量及び移動量で動作させたときのヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305に対する指令値とそのときの角度センサの出力値とに基づいて機構パラメータを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば被加工物(ワーク)を加工するための工具(加工ツール)を変位させる場合に駆動力伝達機構として用いるパラレルメカニズム及びそのキャリブレーション方法に関する。
【0002】
周知のように、工作機械には研削盤及び旋盤・フライス盤等があり、これら各種の工作機械はその加工内容に応じて選択的に用いられる。
【0003】
このような工作機械においては、砥石,切削工具等の加工ツールを支持する主軸ヘッドや、ワークを支持するテーブル等を所望の位置に移動させたり、所望の角度で回動させたりすることにより、ワークと加工ツールとを相対的に変位させて研削や切削等の加工が行われる。
【0004】
近年、この種の工作機械には、高剛性・高精度・高速性を実現する機構として有効であることから、ベースからリンクヘッドまでが並列に連結されたリンクを有するパラレルメカニズムを備えたものが注目されてきており、例えば図11に示すような工作機械(一部)が知られている(例えば特許文献1)。
【0005】
この工作機械につき、図11を用いて説明すると、図11において、符号19で示す工作機械は、加工ツールTを支持するリンクヘッド19A、及びこのリンクヘッド19Aを移動・回動させる1対のリンク190B,191Bを有するパラレルメカニズム19Bとを備えている。
【0006】
リンクヘッド19Aは、その長手方向に沿って基準線Bを有する平面矩形状のツール支持台からなり、ベース(図示せず)上の第1ガイド19Cにヘッドスライダ19Dを介して回動かつ移動可能に支持されている。
【0007】
一方のリンク190Bは、一端がリンクヘッド19Aに共通枢支部19Eを介して回動可能に枢支され、他端が第1ガイド19Cと平行なベース上の第2ガイド19Fに一方のリンクスライダ19Gを介して回動かつ移動可能に支持されている。
【0008】
他方のリンク191Bは、一端がリンクヘッド19Aに共通枢支部19Eを介して回動可能に枢支され、他端が第1ガイド19C及び第2ガイド19Fと平行なベース上の第3ガイド19Hに他方のリンクスライダ19Iを介して回動かつ移動可能に支持されている。
【0009】
以上の構成により、一方のリンク190Bを第2ガイド19F(X軸方向)に沿って、また他方のリンク190Cを第3ガイド19H(X軸方向)に沿ってそれぞれ移動させると、リンクヘッド19Aがリンクスライダ19G上でX軸方向と直交する軸線の回り(B軸方向)に回動するとともに、第1ガイド19Cに沿って移動する。
【0010】
一方、ワーク支持台(図示せず)を第1ガイド19C及び第2ガイド19F・第3ガイド19Hと直交する軸線方向(Z軸方向)に移動させるとともに、この移動方向に沿う軸線の回りに回動させると、ワークがZ軸方向に移動するとともに、この移動方向に沿う軸線の回りに回動する。
【0011】
これにより、ワークに対する加工ツールによる3軸方向(X軸方向及びZ軸方向・B軸回り)の加工が行われる。
【0012】
ところで、この種の工作機械においては、直交座標系で与えられる工具の先端位置情報等に対応する指令値をアクチュエータの出力値に変換(逆変換)し、アクチュエータを駆動制御することが行われる。
【特許文献1】特開2003−291041号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に示す工作機械によると、各構成部品の製造誤差や組付誤差によって機構パラメータは必ずしもその設計値とは一致しない。また、その稼動状況や周囲環境の温度変化によって各構成部品の傾斜角度や長さ等の機構パラメータが変動する。このため、機構パラメータの誤差や変動に応じてアクチュエータが駆動制御されず、リンクヘッドの位置精度を高めることができないという問題があった。
【0014】
従って、本発明の目的は、機構パラメータの誤差や変動に応じてアクチュエータを駆動制御することができ、もってリンクヘッドの位置精度を高めることができるパラレルメカニズム及びそのキャリブレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、ワークを加工する加工ツール、及び前記ワークのうち一方を支持するリンクヘッドを第1軸線の回りに回動させるとともに、前記第1軸線と直交する平面内で移動させることにより、前記リンクヘッドの少なくとも2自由度の動作が制御可能なパラレルメカニズムであって、前記リンクヘッドを前記第1軸線と直交する第2軸線に沿って移動させるためのヘッド駆動機構と、一端が前記リンクヘッドにリンク回動部を介して前記第1軸線と直交する平面内で互いに回動可能に接続され、他端が前記第1軸線と平行な軸線の回りに回動可能にかつ前記第1軸線と直交する平面内で移動可能に支持された1対のリンクからなるリンク機構と、前記1対のリンクの他端を前記第1軸線と直交する平面内でそれぞれ移動させるための1対のリンク駆動機構と、前記リンクヘッドの前記第1軸線の回りの回動量を検出する検出器と、直交座標系で与えられる前記リンクヘッドの回動位置及び移動位置に対応する指令値を、パラレルメカニズム全体の構成を規定する機構パラメータに基づいて前記ヘッド駆動機構及び前記1対のリンク駆動機構に対する指令値に変換し、前記ヘッド駆動機構及び前記1対のリンク駆動機構を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記リンクヘッドを所定の回動量及び移動量で動作させたときの前記ヘッド駆動機構及び前記1対のリンク駆動機構に対する指令値とそのときの前記検出器の出力値とに基づいて前記機構パラメータを補正することを特徴とするパラレルメカニズムを提供する。
【0016】
(2)本発明は、上記目的を達成するために、上記(1)に記載のパラレルメカニズムのキャリブレーション方法であって、k(k:自然数)個の前記機構パラメータに対して、前記リンクヘッドの少なくともk回の異なる位置及び姿勢への回動及び移動の少なくとも一方の動作を実行させてそのときのk個の前記検出器の出力値を取得し、前記k回の前記リンクヘッドの回動及び移動の際の前記ヘッド駆動機構及び前記1対のリンク駆動機構に対する指令値と前記k個の前記検出器の出力値とに基づいて前記k個の機構パラメータの補正値を同定することを特徴とするパラレルメカニズムのキャリブレーション方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、機構パラメータの誤差や変動に応じてアクチュエータを駆動制御することができ、リンクヘッドの位置精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る工作機械の全体を説明するために示す平面図である。図2は、本発明の実施の形態に係る工作機械の要部を説明するために示す斜視図である。図3は、本発明の実施の形態に係る工作機械の要部を説明するために示す平面図である。図4は、本発明の実施の形態に係る工作機械の制御装置を説明するために示すブロック図である。なお、以下の説明においては、互いに直交する3つの方向をそれぞれZ軸方向(図1における主軸方向)及びX軸方向(図1における紙面に平行しかつZ軸に直交する方向)・Y軸方向(X軸及びZ軸に直交する方向)とする。
【0019】
〔工作機械の全体構成〕
図1〜図4において、符号1で示す工作機械は、例えば円筒研削盤からなり、工作機械本体2及び制御装置3・付属装置(図示せず)から大略構成されている。
【0020】
(工作機械本体2の構成)
工作機械本体2は、図1に示すように、ワークWを回転駆動可能に支持するワーク支持駆動ユニット100と、砥石等の加工ツール501が着脱可能に装着されるホイール回転主軸ユニット200と、リンクヘッド301をツール取付側で支持するパラレルメカニズム300とを備えている。
【0021】
<ワーク支持駆動ユニット100の構成>
ワーク支持駆動ユニット100は、図1に示すように、主軸台ベース101及び左右2つの主軸台103,103を有し、ベッド(基台)10上の前方端部(図1では下側)に載置されている。
【0022】
主軸台ベース101の背面部(図1では上側)には、左右(Z軸)方向に所定の間隔をもって互いに並列し、かつZ軸方向に延在する2つの主軸台スライドガイド102,102が配設されている。
【0023】
主軸台103,103は、それぞれが対応する主軸台スライドガイド102,102上にZ軸方向に沿って移動自在に配設されている。そして、それぞれが各主軸台スライドガイド102,102上における所定の位置に位置決めされ、その両中心部間でワークWを挟持するように構成されている。主軸台103,103には、それぞれ主軸105,105を所定の回転数で回転駆動する主軸駆動モータ104,104が搭載されている。
【0024】
<ホイール回転主軸ユニット200の構成>
ホイール回転主軸ユニット200は、図1に示すように、加工ツール501の被把持部を把持可能なホイール回転主軸201、及びこのホイール回転主軸201を回転駆動するホイール回転主軸駆動モータ(図示せず)を有し、リンクヘッド301に搭載されている。そして、ホイール回転主軸駆動モータの回転駆動力をホイール回転主軸201に伝達し、さらにホイール回転主軸201上の加工ツール501を所定の回転数で回転駆動するように構成されている。
【0025】
<パラレルメカニズム300の構成>
パラレルメカニズム300は、図2及び図3に示すように、リンクヘッド301をX軸方向に沿って移動させるためのヘッド駆動機構302と、一端(ヘッド側端部)がX軸及びZ軸と平行な水平面内でY軸と平行な軸線の回りに回動可能に互いに接続された1対のリンク303A,303Bからなるリンク機構303と、このリンク機構303のリンク303A,303Bの他端(レール側端部)をX軸方向に沿ってそれぞれ移動させるための1対のリンク駆動機構304,305とを備え、ベッド10(図示せず)上に配置されている。
【0026】
リンクヘッド301は、ヘッド回転ジョイント3010及び直動ジョイント3011を有し、ヘッド回転ジョイント3010がベッド10上のスライダ案内用のレール306,306にスライダ3012を介して移動可能に配置され、かつ直動ジョイント3011がリンク機構303(リンク303A,303B)のヘッド取付側端部(リンク自由端部)にリンク連結用回転ジョイント3030を介して回動可能に支持されている。そして、レール306,306上でスライダ3012を介してX軸(第2軸線)方向に移動し、かつヘッド回転ジョイント3010でY軸と平行な軸線(第1軸線:B軸)の回りに回動し得るように構成されている。
【0027】
リンク連結用回転ジョイント3030は、Y軸と平行な軸線の回りに回動する1自由度のジョイントして機能するように構成されている。
【0028】
リンクヘッド301の上面部には、加工ツール501の回転軸線T(図3に示す)と平行な方向に延在し、かつ直動ジョイント3011をY軸と直交する一軸線方向に案内するジョイント案内用のレール3013(図2に示す)が配置されている。
【0029】
リンクヘッド301の下面部には、ヘッド回転ジョイント3010の回転量(回転角度)を検出するエンコーダ等の角度センサ380(図4に示す)が配設されている。
【0030】
ヘッド回転ジョイント3010は、Y軸と平行な軸線の回りに回転する1自由度のジョイントして機能し、リンクヘッド301の下面部に配設され、かつリンク連結用回転ジョイント3030の配設位置とは直動ジョイント3011の移動方向にオフセットされた位置で移動不能に配置されている。
【0031】
直動ジョイント3011は、レール3013上に移動可能に配置されている。これにより、リンク連結用回転ジョイント3030が直動ジョイント3011と共にレール3013に沿って移動案内される。
【0032】
ヘッド駆動機構302は、スライダ3012を移動させる送りねじ3020、及びこの送りねじ3020を駆動するサーボモータ3021からなり、制御装置3(インターフェース73)にサーボモータユニット80を介して接続されている。そして、スライダ3012を介してリンクヘッド301をX軸方向に沿って移動させ、リンク駆動機構304,305と共にリンクヘッド301の位置及び姿勢を変更し得るように構成されている。ヘッド駆動機構302には、サーボモータ3021の回転量を検出するモータ回転検出用エンコーダ3022が取り付けられている。
【0033】
リンク機構303は、リンクヘッド301の移動・回動平面と同一の仮想平面内で揺動可能な1対のリンク303A,303Bを有し、ワーク支持駆動ユニット100の後方に配置されている。そして、前述したようにツール取付部(リンク自由端部)側にリンクヘッド301の上方部を保持するように構成されている。
【0034】
一方のリンク303Aは、一方側のリンク端部がベッド10上におけるスライダ案内用のレール3030Aを移動するスライダ3031Aにリンク回転ジョイント3032Aを介して回動可能に連結され、他方側のリンク端部がリンクヘッド301にリンク連結用回転ジョイント3030を介して回動可能に連結されている。
【0035】
レール3030Aは、X軸方向に沿って延在するガイド部材によって形成され、一方のリンク303Aにおける一方側のリンク端部を案内するように構成されている。なお、本実施の形態に示すレール3030Aは、X軸(レール306,306)と平行である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、Y軸と直交する平面内であれば、X軸に対して傾斜してもよい。リンク回転ジョイント3032Aは、Y軸と平行な軸線の回りに回転する1自由度のジョイントとして機能するように構成されている。
【0036】
他方のリンク303Bは、一方側のリンク端部がベッド10上におけるスライダ案内用のレール3030Bを移動するスライダ3031Bにリンク回転ジョイント3032Bを介して回動可能に連結され、他方側のリンク端部がリンクヘッド301にリンク連結用回転ジョイント3030を介して回動可能に連結されている。リンク303Bのリンク長は、リンク303Aのリンク長と同一の寸法に設定されている。
【0037】
レール3030Bは、レール3030AとZ軸方向に所定の間隔をもって並列し、かつX軸方向に沿って延在するガイド部材によって形成されている。そして、他方のリンク303Bにおける一方側のリンク端部を案内するように構成されている。なお、本実施の形態に示すレール3030Bは、X軸(レール306,306)と平行である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、Y軸と直交する平面内であれば、X軸に対して傾斜してもよい。リンク回転ジョイント3032Bは、Y軸と平行な軸線の回りに回転する1自由度のジョイントとして機能するように構成されている。
【0038】
一方のリンク駆動機構304は、スライダ3031Aを移動させる送りねじ3040、及びこの送りねじ3040を駆動するサーボモータ3041からなり、制御装置3(インターフェース73)にサーボモータユニット80を介して接続されている。そして、スライダ3031Aを介してリンク303Aの一方側のリンク端部をX軸方向に沿って移動させ、リンクヘッド301をY軸と平行な軸線の回りに回動させるように構成されている。リンク駆動機構304には、サーボモータ3041の回転量を検出するモータ回転検出用エンコーダ3042が取り付けられている。
【0039】
他方のリンク駆動機構305は、スライダ3031Bを移動させる送りねじ3050、及びこの送りねじ3050を駆動するサーボモータ3051からなり、制御装置3(インターフェース73)にサーボモータユニット80を介して接続されている。そして、スライダ3031Bを介してリンク303Bの一方側のリンク端部をX軸方向に沿って移動させ、リンクヘッド301をY軸と平行な軸線の回りに回動させるように構成されている。リンク駆動機構305には、サーボモータ3051の回転量を検出するモータ回転検出用エンコーダ3052が取り付けられている。
【0040】
(制御装置3の構成)
制御装置3は、図4に示すように、CPU(中央演算処理装置)71及びメモリ72・インターフェイス(I/F)73〜75を備え、直交座標系で与えられるリンクヘッド301の移動位置情報に対応する指令値Uを機構パラメータPに基づいてヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305の出力値に変換し、これらヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305を駆動制御するように構成されている。
【0041】
<CPU71の構成>
CPU71は、メモリ72あるいは外部記憶装置78に記憶された加工プログラムを読み出し解析し、直交座標系で与えられるリンクヘッド301の移動位置・姿勢情報を機構パラメータPに基づきヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305への駆動指令値に変換してサーボモータユニット80へ出力する。
【0042】
<メモリ72の構成>
メモリ72には、加工ツール501による実加工処理を実行するための加工プログラムや機構パラメータP等の各種情報が記憶されている。
【0043】
<インターフェース73〜75の構成>
インターフェース73には、ヘッド駆動機構302(サーボモータ3021)及びリンク駆動機構304,305(サーボモータ3041,3051)を駆動するサーボモータユニット80(81〜83)が接続されている。サーボモータユニット81〜83は、CPU71からの指令値に基づいてヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305をそれぞれ駆動し、これらヘッド駆動機構302のモータ回転検出用エンコーダ3022及びリンク駆動機構304,305のモータ回転検出用エンコーダ3042,3052からの出力によってフィードバック制御を実行する。インターフェース74には、加工データ等を入力するためのキーボード(KB)76及び加工データや工作機械1の状態等を表示する画像表示装置(CRT)77・加工データを記憶する外部記憶装置78が接続されている。インターフェース75には角度センサ380が接続されている。
【0044】
(付属装置の構成)
付属装置は、オイル供給装置・冷却装置・エア供給装置・クーラント供給装置と、これら装置を工作機械本体2に接続するダクト装置等とから構成されている。
【0045】
〔工作機械1の動作〕
次に、本実施の形態に係る工作機械の動作につき、図5〜図8を用いて説明する。図5は、本発明の第1の実施の形態に係る工作機械におけるリンクヘッドのX軸平行動作を説明するために示す平面図である。図6は、本発明の第1の実施の形態に係る工作機械におけるリンクヘッドの回動動作を説明するために示す平面図である。図7は、本発明の第1の実施の形態に係る工作機械にヘッド駆動機構を備えた場合の利点について説明するために示す平面図である。図8は、本発明の第1の実施の形態に係る工作機械におけるリンクヘッドのX軸平行・回動動作を説明するために示す平面図である。なお、図5〜図8においては、直動ジョイント等が省略されている。
【0046】
「X軸平行動作」
ヘッド回転ジョイント3010(スライダ3012)をレール3013に沿って、またリンク回転ジョイント3032A,3032B(スライダ3031A,3031B)をレール3030A,3030Bに沿って同一の方向及び同一の移動量Xでそれぞれ移動させると、加工ツール501の回転軸線Tを基準線Oに合致させた状態でリンクヘッド301が図5に2点鎖線で示す初期位置からX軸方向に移動して図5に実線で示す位置に配置される。
【0047】
「回動動作」
リンク回転ジョイント3032A,3032B(スライダ3031A,3031B)をレール3030A,3030Bに沿って互いに異なる移動量X,X(X>X)で同方向に移動させると、リンクヘッド301が図6に2点鎖線で示す初期位置からY軸と平行な軸線を中心に反時計方向に回動して例えば加工ツール501の回転軸線Tを基準線Oと交差させた状態で図6に実線で示す位置に配置される。
【0048】
ここで、図7に示すように、ワーク加工時にリンクヘッド301が加工ツール501の回転軸線Tを基準線Oと直交させた状態で配置されると、ヘッド回転ジョイント3010(スライダ3012)をレール306に沿ってワーク側(図7では下方)に移動させることができ、すなわちX軸方向の作用力f,fに対するリンクヘッド301に反力Fを発生させることができる。このため、X軸方向の作用力f,fに対するリンクヘッド301に反力Fを発生させることができない、従来存在した特異点を無くすことができる。
【0049】
「X軸平行・回動動作」
リンク回転ジョイント3032A,3032B(スライダ3031A,3031B)をレール3030A,3030Bに沿って互いに異なる移動量X,X(X>X)で同方向に移動させた後、ヘッド回転ジョイント3010(スライダ3012)をレール3013に沿って、またリンク回転ジョイント3032A,3032B(スライダ3031A,3031B)をレール3030A,3030Bに沿って同一の方向及び同一の移動量Xでそれぞれ移動させると、リンクヘッド301が図8に2点鎖線で示す初期位置からY軸と平行な軸線を中心に反時計方向に回動して例えば加工ツール501の回転軸線Tを基準線Oと交差させた状態で図8に1点鎖線で示す位置に配置され、さらにX軸方向に移動して図8に実線で示す位置に配置される。
【0050】
このように、本実施の形態においては、リンクヘッド301をX軸に沿って移動させるとともに、Y軸と平行な軸線の回りに回動させることによりリンクヘッド301の位置及び姿勢を制御し、さらに主軸台103,103をZ軸方向に沿って移動させることによりワークWの位置を制御し、主軸台103,103によって挟持されたワークWに対する加工を行うことができる。
【0051】
この場合、スライダ3012,3031A,3031Bを位置決めすると、リンクヘッド301上のリンク連結用回転ジョイント3030の位置が決定されるため、リンクヘッド301の移動・回動位置(加工ツール501の先端位置)が決定される。このため、リンクヘッド301を所望の移動・回動位置に位置決めするには、これら移動・回動位置から特定の演算式(逆変換式)に基づいてスライダ3012,3031A,3031Bの位置を演算し、これら演算値に対応する位置にスライダ3012,3031A,3031Bを移動させる。
【0052】
〔工作機械1のキャリブレーション方法〕
次に、本実施の形態に係る工作機械1のキャリブレーション方法につき、図9及び図10を用いて説明する。図9は、本発明の実施の形態に係る工作機械のキャリブレーション方法を説明するために示す平面図である。図10は、本発明の実施の形態に係る工作機械(パラレルメカニズム)のキャリブレーション方法を説明するために示すフローチャートである。
【0053】
本実施の形態に示す工作機械1の制御装置3においては、直交座標系で与えられるリンクヘッド301の移動位置情報に対応する指令値(X,B)をアクチュエータ(ヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305)の出力値に機構パラメータP(スライド原点位置:SLOxu1,SLOzu1,SLOxu2,SLOzu2,SLOxu3,SLOzu3、スライド角度:SLAu1,SLAu2,SLAu3、リンク長:RL1,RL2)に基づいて変換してアクチュエータ座標U(U1〜U3)を求め、ヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305を駆動制御する。この場合、次に示す手順を経て機構パラメータPのキャリブレーションが一定周期毎あるいは任意のタイミングで実施される。
【0054】
本実施の形態におけるキャリブレーションは、ヘッド回転ジョイント3010の回動角の誤差dBを角度センサ380で測定し、この誤差dBを用いて機構パラメータPの誤差を求めることにより実施される。
【0055】
先ず、ヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305を駆動し、リンクヘッド301を任意の位置に位置決めする(図10のステップS1)。次に、このリンクヘッド301の位置決め状態において角度センサ380から出力値を測定し、ヘッド回転ジョイント3010の回転角の誤差dBを求める(図10のステップS2)。これをk回繰り返してk個の異なる位置にリンクヘッド301を位置決めし、k個の誤差dBを得る(図10のステップS3)。この場合、kの回数としては、機構パラメータPの数、すなわち本実施の形態においては11個の機構パラメータがあるので、11回が最低限必要な回数である。ここで、精度を高める上では、これ以上の回数を繰り返して多数の誤差dBを得ることが好ましい。また、リンクヘッド301の位置・姿勢については、X軸方向・B軸回りの広い範囲にリンクヘッド301を位置決めして誤差dBを得ることが精度を高める上では好ましい。
【0056】
このようにして、k個の誤差dBを得る(図10のステップS3のYES)と、これらk個の誤差dBとそのときのアクチュエータ座標(スライダ3031A,3031B,3012への位置指令値)Uとを用いて機構パラメータPを同定する(図10のステップS4)。以下、機構パラメータPの同定の仕方を説明する。なお、図10のステップS3において、誤差dBの個数が(k−1)個である(図10のステップS3のNO)場合にはステップS1に戻る。
【0057】
アクチュエータ座標(指令値)UをU=(U1,U2,U3)とするとともに、そのときのスライダ3031A,3031B,3012(図3に示す)の座標をそれぞれ(x1,z1)・(x2,z2)・(x,z)とすると、リンク長RL1,RL2は座標(x1,z1)・(x2,z2)・(x0,z0)を用いて次のように表すことができる。
【0058】
【数1】

【0059】
(1)よりz0を求めると、次のようになる。
【0060】
【数2】

【0061】
(3)を(2)に代入すると、次のようになる。
【0062】
【数3】

【0063】
これを次のように置き換える。
【0064】
【数4】

【0065】
これを整理すると、次に示すようになる。
【0066】
【数5】

【0067】
ここで、δ,σ,ηを用いて(4)を表わすと、次に示すようになる。
【0068】
【数6】

【0069】
(5)よりx0(小さい方の解)を求めると、次のようになる。
【0070】
【数7】

【0071】
一方、(1)−(2)を演算し、この演算式に(6)を代入すると、z0が得られる。同様にして、x1,z1とx2,z2についても求めることができる。これより、ヘッド回転ジョイント3010とリンク連結用回転ジョイント3030との間の距離dpaは次のようになる。
【0072】
【数8】

【0073】
また、ヘッド回転ジョイント3010の座標は次のようになる。
【0074】
【数9】

【0075】
上式Bpaは、機構パラメータP及び指令値Uの関数とすると、次のように表わせる。
【数10】

【0076】
上式を機構パラメータPについて全微分すると、次のようになる。
【0077】
【数11】

【0078】
ここで、k個の位置U(U=U1,U2,…,Uk)について誤差dB(dB=dB1,dB2,…,dBk)を考えると、次のようになる。
【0079】
【数12】

【0080】
これを行列表記すると、次のようになる。
【0081】
【数13】

【0082】
従って、パラメータ誤差は、次のように表わせる。
【0083】
【数14】

【0084】
【数15】

【0085】
関数fは非線形であるため、求められた機構パラメータP1を新たなパラメータ値として上記計算を繰り返し、パラメータ誤差が許容値以下になるまで収束計算を行い、機構パラメータPを補正する。
【0086】
【数16】

【0087】
この後、補正後の機構パラメータを新たな機構パラメータPとして置換し(図10のステップS5)、作業が終了される。その後のリンクヘッド301の制御においては、ここで求められた補正後の機構パラメータPを用い、リンクヘッド301の位置及び姿勢の指令値からアクチュエータ座標が演算される。
【0088】
このようにして、機構パラメータPのキャリブレーションを実施することができる。これにより、定期的にキャリブレーション作業を行うことにより、経年変化による機構部品の磨耗により生じる機構パラメータPの誤差にも対応可能となる。
【0089】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0090】
(1)機構パラメータPの変動に応じてアクチュエータ(ヘッド駆動機構302及びリンク駆動機構304,305)を駆動制御することができ、リンクヘッド301の位置精度を高めることができる。
【0091】
(2)機構パラメータPのキャリブレーションが一定周期毎あるいは任意のタイミングで実施されるため、機構パラメータPの熱変位による変動の影響を小さくすることができる。
【0092】
(3)リンク連結用回転ジョイント3030が直動ジョイント3011を介してリンクヘッド301上で移動可能であるため、各構成部品の加工精度や構成部品同士の組付精度が悪い場合や、またリンク303A,303Bが使用時等の熱変化によって伸縮する場合等の機構パラメータPに起因する各種誤差を吸収することができ、これら寸法誤差に起因する構成部品及びアクチュエータへの過負荷発生を防止することができる。
【0093】
以上、本発明の工作機械(パラレルメカニズム)を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0094】
(1)本実施の形態では、リンク連結用回転ジョイント3030がリンクヘッド301の上面部に直動ジョイント3011を介して配置されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、リンクヘッドの上下両面にそれぞれ直動ジョイントを介してリンク連結用回転ジョイントを配置してもよい。
【0095】
(2)本実施の形態では、制御対象としての加工ツール501がリンクヘッド301に保持されるパラレルメカニズム300である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、リンクヘッドにワークを保持するパラレルメカニズムであってもよい。
【0096】
(3)本実施の形態では、リンクヘッド301をB軸(Y軸と平行な軸線)回りに回動させるとともに、X軸方向に沿って移動させることにより、リンクヘッド301の2自由度の動作が制御可能なパラレルメカニズム300である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、リンクヘッドをB軸回りに回動させるとともに、X軸方向及びZ軸方向に沿って移動させることにより、リンクヘッド301の3自由度の動作が制御可能なパラレルメカニズムであってもよい。すなわち要するに、本発明は、リンクヘッドを第1軸線の回りに回動させるとともに、第1軸線と直交する平面内で移動させることにより、リンクヘッドの少なくとも2自由度の動作が制御可能なパラレルメカニズムであればよい。
【0097】
(4)本実施の形態では、砥石を加工ツール501とする工作機械1に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば旋削用電着ホイール等の旋削工具あるいはレーザ焼入れヘッド等の熱処理工具・表面仕上げ工具等を加工ツールとする他の工作機械に適用し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムを備えた工作機械の全体を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムを説明するために示す斜視図。
【図3】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムを説明するために示す平面図。
【図4】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムを備えた工作機械の制御装置を説明するために示すブロック図。
【図5】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムにおけるリンクヘッドのX軸平行動作を説明するために示す平面図。
【図6】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムにおけるリンクヘッドの回動動作を説明するために示す平面図。
【図7】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムにヘッド駆動機構を備えた場合の利点について説明するために示す平面図。
【図8】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムにおけるリンクヘッドのX軸平行・回動動作を説明するために示す平面図。
【図9】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムを備えた工作機械のキャリブレーション方法を説明するために示す平面図。
【図10】本発明の実施の形態に係るパラレルメカニズムを備えた工作機械のキャリブレーション方法を説明するために示すフローチャート。
【図11】従来の工作機械を説明するために示す斜視図。
【符号の説明】
【0099】
1…工作機械
2…工作機械本体
3…制御装置
10…ベッド
71…CPU
72…メモリ
73〜75…インターフェース
76…キーボード
77…画像表示装置
78…外部記憶装置
80〜83…サーボモータユニット
100…ワーク支持駆動ユニット、101…主軸台ベース、102…主軸台スライドガイド、103…主軸台、104…主軸駆動モータ、105…主軸
300,81,91,111,121,161,171…パラレルメカニズム
301…リンクヘッド、3010…ヘッド回転ジョイント、3011…直動ジョイント、3012…スライダ、3013…ジョイント案内用のレール、3014…連結部
302…ヘッド駆動機構、3020…送りねじ、3021…サーボモータ、3022…モータ回転検出用エンコーダ
303…リンク機構、3030…リンク連結用回転ジョイント
303A…リンク、3030A…スライダ案内用のレール、3031A…スライダ、3032A…リンク回転用ジョイント、3033A…リンク分岐部
303B…リンク、3030B…スライダ案内用のレール、3031B…スライダ、3033B…リンク分岐部
304…リンク駆動機構、3040…送りねじ、3041…サーボモータ、3042…モータ回転検出用エンコーダ
305…リンク駆動機構、3050…送りねじ、3051…サーボモータ、3052…モータ回転検出用エンコーダ
302…ヘッド駆動機構
380…角度センサ
400…テーブル
500…スライダ
501…加工ツール
1000…パラレルメカニズム支持体、1001…天井部、1002…側壁部、1003…底面部
O…基準線
T…回転軸線
W…ワーク
19…工作機械、19A…リンクヘッド、19B…パラレルメカニズム、190B,191B…リンク、19C…第1ガイド、19D…ヘッドスライダ、19E…共通枢支部、19F…第2ガイド、19G…リンクスライダ、19H…第3ガイド、19I…リンクスライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加工する加工ツール、及び前記ワークのうち一方を支持するリンクヘッドを第1軸線の回りに回動させるとともに、前記第1軸線と直交する平面内で移動させることにより、前記リンクヘッドの少なくとも2自由度の動作が制御可能なパラレルメカニズムであって、
前記リンクヘッドを前記第1軸線と直交する第2軸線に沿って移動させるためのヘッド駆動機構と、
一端が前記リンクヘッドにリンク回動部を介して前記第1軸線と直交する平面内で互いに回動可能に接続され、他端が前記第1軸線と平行な軸線の回りに回動可能にかつ前記第1軸線と直交する平面内で移動可能に支持された1対のリンクからなるリンク機構と、
前記1対のリンクの他端を前記第1軸線と直交する平面内でそれぞれ移動させるための1対のリンク駆動機構と、
前記リンクヘッドの前記第1軸線の回りの回動量を検出する検出器と、
直交座標系で与えられる前記リンクヘッドの回動位置及び移動位置に対応する指令値を、パラレルメカニズム全体の構成を規定する機構パラメータに基づいて前記ヘッド駆動機構及び前記1対のリンク駆動機構に対する指令値に変換し、前記ヘッド駆動機構及び前記1対のリンク駆動機構を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記リンクヘッドを所定の回動量及び移動量で動作させたときの前記ヘッド駆動機構及び前記1対のリンク駆動機構に対する指令値とそのときの前記検出器の出力値とに基づいて前記機構パラメータを補正する
ことを特徴とするパラレルメカニズム。
【請求項2】
前記リンク機構は、前記1対のリンクの他端が前記第2軸線と平行な軸線に沿って移動可能に支持されている請求項1に記載のパラレルメカニズム。
【請求項3】
前記リンク機構は、前記1対のリンクの前記リンク回動部が前記リンクヘッドに前記第1軸線と直交する一軸線方向に相対移動可能に配置されている請求項1に記載のパラレルメカニズム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のパラレルメカニズムのキャリブレーション方法であって、
k(k:自然数)個の前記機構パラメータに対して、前記リンクヘッドの少なくともk回の異なる位置及び姿勢への回動及び移動の少なくとも一方の動作を実行させてそのときのk個の前記検出器の出力値を取得し、
前記k回の前記リンクヘッドの回動及び移動の際の前記ヘッド駆動機構及び前記1対のリンク駆動機構に対する指令値と前記k個の前記検出器の出力値とに基づいて前記k個の機構パラメータの補正値を同定する
ことを特徴とするパラレルメカニズムのキャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−291878(P2009−291878A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147360(P2008−147360)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】