説明

パワーテイクオフ装置

【課題】単一のPIDゲインでは対応が困難である場合でも、複数のソフトウェア及び複数種類のハードウェアを必要とすることなく、単一のソフトウェアとハードウェアにより対応することが出来るパワーテイクオフ装置の提供。
【解決手段】燃料噴射量を制御する制御装置(10)を備え、制御装置(10)は、目標エンジン回転速度と実際のエンジン回転速度の偏差に基づいて燃料噴射量を制御するためのPIDゲインを決定する決定ユニット(14)と、記憶ユニット(13)と、診断ユニット(16)と、PIDゲインが適正でない場合に記憶ユニット(13)に記憶されている他のPIDゲインを選択して切り替える切替ユニット(17)を有している

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジン動力を架装機器の動力源として取り出すPTO装置(パワーテイクオフ装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に各種機器を架装した特装車では、自動車のエンジン動力を架装機器の動力源として取り出す場合が多い。そして、係る特装車の架装機器は、自動車のエンジンに設けたエンジン出力取り出し装置であるPTO装置によって作動する。
【0003】
ここで、係る架装機器が、塵芥車のコンパクターである場合、建設現場等で使用されるコンクリートポンプである場合、カーキャリアの荷台である場合等が存在する。
塵芥車(ごみ収集車両)のコンパクターは、ごみの収集効率を高めるため、収集したごみを小さく潰す機構である。
コンクリートポンプ車に搭載されるコンクリートポンプは、容量が大きく、出力や消費動力も大きい。
コンパクターやコンクリートポンプでは、作業中に負荷が大きく変動し、エンジン回転数が不安定となるケースがある。
カーキャリアの荷台は、昇降速度が変更可能であり、そのため、目標速度の変動が大きい。
【0004】
架装機器をPTO運転(パワーテイクオフ運転)する際には、運転室外の操作系(例えば、レバー等)によって回転数を設定して、それに追随させるべく、エンジン回転速度フィードバック制御を行うのが一般的である。
しかし、コンパクターやコンクリートポンプ等のように負荷変動が大きな架装機器や、カーキャリアのように目標エンジン回転数が大きく変動する架装機器と、その他の一般的な架装機器とでは、制御パラメータであるPIDゲイン(PID演算を行なう際に用いるゲイン)が大きく異なり、共通化することは困難である。
これに対処するために、架装機器とその使用条件により、複数の制御ソフトウェアを使い分けることが考えられる。しかしながら、複数の制御ソフトウェアを使用するためには、ソフトウェア管理や架装後のソフトウェア変更が必要となり、架装機器のコストを高騰化してしまうという問題がある。
【0005】
その他の従来技術として、例えば、作業車両における作業機の上昇、下降の開始時および終了時のショックを軽減すると共に、作業機の耕転深さの制御における精度を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る技術(特許文献1)は、上述した従来技術の問題点を解消するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−350565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、目標エンジン回転速度が大きく変動する架装機器や、負荷が大きく変動する架装機器の様に、その他の架装機器と制御パラメータであるPIDゲインを共通化することが困難な架装機器についても、複数のソフトウェア及び複数種類のハードウェアを必要とすることなく、単一のソフトウェアとハードウェアにより対応することが出来るパワーテイクオフ装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のパワーテイクオフ(PTO)装置は、自動車のエンジン動力を架装機器の動力源として取り出すパワーテイクオフ装置(4)において、燃料噴射量を制御する制御装置(10)を備え、制御装置(10)は、目標エンジン回転速度(架装機器によるPTO作業を行なうためのエンジン回転速度)と実際のエンジン回転速度の偏差に基づいて燃料噴射量を制御するための制御パラメータであるPIDゲインを決定する決定ユニット(14)と、複数のPIDゲインを記憶している記憶ユニット(13)と、架装機器による作業におけるPIDゲインが適正であるか否かを診断する診断ユニット(16)と、PIDゲインが適正でない場合に記憶ユニット(13)に記憶されている他のPIDゲインを選択して切り替える切替ユニット(17)を有していることを特徴としている。
ここで、PID制御は、「比例制御(P)」と、「積分制御(I)」と、「微分制御(D)」を、順次行うプロセス制御を意味している。PID制御において、比例制御(PID制御のP項)ではゲインが高いと安定性が低くなり、積分制御(I項)では入力信号が継続して与えられている場合に出力が増大し、微分制御(D項)では入力信号が入るとパルスの出力を行う。
【0009】
本発明において、前記制御装置(10)は、目標エンジン回転速度演算ユニット(11)とエンジン回転速度偏差決定ユニット(12)を備え、エンジン回転速度偏差決定ユニット(12)は、アクセルの開度から目標エンジン回転速度演算ユニット(11)により演算された目標エンジン回転速度(架装機器によるPTO作業を行なうためのエンジン回転速度)と、エンジンの回転速度を検出する検出装置の検出結果(実エンジン回転速度)との差を、目標エンジン回転速度(架装機器によるPTO作業を行なうためのエンジン回転速度)と実際のエンジン回転速度の偏差に決定する機能を有しているのが好ましい。
【0010】
また本発明において、前記診断ユニット(16)は、前記偏差がしきい値よりも大きい状態が予め定められた制御サイクルに亘って続いた場合にPIDゲインが適正ではないと判断する機能を有しており、そして、前記切替ユニット(17)は、記憶ユニット(13)に記憶されている制御力の大きいPIDゲイン(回転数偏差に対して燃料噴射量を増大させる制動力の大きいPIDゲイン)を選択して切り替える機能を有しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上述した構成を具備する本発明によれば、診断ユニット(16)により、架装機器による作業における制御パラメータであるPIDゲインが適正であるか否かを診断して、PIDゲインが適正でないと診断された場合には、切替ユニット(17)により、他のPIDゲイン(例えば、制御力が大きいPIDゲイン)を選択して切り替えることが出来る。
その結果、例えば、いわゆる「カーキャリア」の様に目標エンジン回転速度が大きく変動する架装機器によるパワーテイクオフ作業や、いわゆる「ゴミ収集車」や「コンクリートポンプ車」の様に負荷が大きく変動する架装機器によるパワーテイクオフ作業の様に、その他の架装機器を用いた作業における制御とPIDゲインを共通化することが困難である場合でも、複数のソフトウェアを装備することなく、単一のソフトウェアのみで対処することが出来る。
【0012】
ここで、負荷変動はエンジンの回転数或いは回転速度の変動として現われるので、本発明において、目標エンジン回転速度演算ユニット(11)により演算された目標エンジン回転速度(架装機器によるPTO作業を行なうためのエンジン回転速度)と、エンジンの回転速度を検出する検出装置の検出結果(実エンジン回転速度)との差を、目標エンジン回転速度(架装機器によるPTO作業を行なうためのエンジン回転速度)と実際のエンジン回転速度の偏差とすれば、目標エンジン回転速度が大きく変動する架装機器によるパワーテイクオフ作業のみならず、(コンクリートポンプの様に)負荷が大きく変動する架装機器によるパワーテイクオフ作業についても、PIDゲインが適切か否かを判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態のブロック図である。
【図2】実施形態における制御装置のブロック図である。
【図3】実施形態に係るパワーテイクオフ装置による作業手順を示すフローチャートである。
【図4】図3のフローチャートで示すPTO作業におけるPIDゲイン変更の要否の診断とPIDゲイン切替を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係るパワーテイクオフ装置(PTO装置)を搭載した特装車両1を示している。
図1において、全体を符号1で示す特装車両は、キャブを含むシャーシ2、エンジン3、PTO装置4、架装機器(特装車両におけるシャーシ2を除いた架装部分:例えば、塵芥車のコンパクター)7を有している。
【0015】
PTO装置4は、図示を省略したPTOギヤセット、PTOフランジ5、アクセル開度センサ6、エンジン回転センサ7、制御装置10、車外操作盤20を有している。
図示を省略したPTOギヤセットは、エンジン3の図示しないギヤトレインに噛み合うと共に、PTOフランジ5にエンジン回転を伝達している。
PTOフランジ5は、図示しないドライブシャフトを介して、例えば、図示しない油圧ポンプ(塵芥車に装備されたコンパクターの動力源)を駆動している。
【0016】
制御装置10は、アクセル開度センサ6、エンジン回転センサ7、車外操作盤20とラインLiを介して接続しており、ラインLoを介してエンジンコントローラ30と接続している。
エンジンコントローラ30は、制御装置10からの制御信号に基いて、エンジン回転数を制御するように構成されている。
図1では、制御装置10と車外操作盤20を別体に設けているが、制御装置10と車外操作盤20を一体に構成しても良い。
【0017】
図2を参照して、制御装置10の構成を説明する。
図2において、制御装置10は、目標エンジン回転速度演算ユニット11、エンジン回転速度偏差決定ユニット12、記憶ユニット13、PIDゲイン決定ユニット14、PIDコントローラ15を備えている。
【0018】
目標エンジン回転数演算ユニット11は、アクセル開度センサ6からのアクセル開度情報及び/または車外操作盤20の設定情報によって、目標とするエンジン回転数を演算する。
エンジン回転速度偏差決定ユニット12は、目標エンジン回転数演算ユニット11が求めた目標エンジン回転数と、エンジン回転センサ7が検知した実際のエンジン回転速度から、エンジン回転速度の偏差(目標エンジン回転数と実際のエンジン回転速度との差)を決定する。
【0019】
記憶ユニット13は、架装機器の動作に対応する複数のPIDゲインを記憶している。
PIDゲイン決定ユニット14は、エンジン回転速度偏差決定ユニット12で決定されたエンジン回転速度の偏差から、記憶ユニット13に記憶されたPIDゲインの内から、燃料噴射量を制御するためのPIDゲインを選択(決定)する。
【0020】
PIDコントローラ15は、診断ユニット16と切替ユニット17を有している。
診断ユニット16は、エンジン回転速度の偏差がしきい値よりも大きい状態が、予め定められた時間(あるいは予め定められた回数の制御サイクル)にわたって続いた場合に、PIDゲインが適正ではないと判断する機能を有している。
切替ユニット17は、PIDゲインが適正ではないと判断された場合に、記憶ユニット13に記憶されているPIDゲインから適正なPIDゲインを選択して、切り替える機能を有している。図示の実施形態では、適正なPIDゲインとしては、制御力の大きいPIDゲイン(回転数偏差に対して燃料噴射量を増大させる制動力の大きいPIDゲイン)が選択される。
【0021】
PIDゲインを診断して切り替えるべきと判断された場合には、燃料噴射に関して適正なPIDゲインが、PIDコントローラ15からエンジンコントローラ30に送信される。
適正なPIDゲインを受信したエンジンコントローラ30は、当該PIDゲインにより燃料噴射量を制御して、適正量の燃料を噴射するべく図示しない燃料噴射装置を操作する。
【0022】
図3を参照して、PTO装置により架装機器を運転する作業(架装機器による実作業)の運転手順を説明する。
図3のステップS1では、PTO作業を開始したか、すなわち、架装機器の運転を開始したか否かを判断する。
PTO作業を開始したならば(ステップS1がYES)、ステップS2に進む。一方、PTO作業を開始していない場合(ステップS1がNO)は、ステップS1を繰り返す。
【0023】
ステップS2では、テストモードとしてPTO作業(例えば、塵芥車であれば、コンパクターの圧縮工程)を、複数サイクルだけ実行する。
このテストモードは、実行されたPTO作業において選択されているPIDゲインが適正であるか否かをチェックするために行なわれる。
次のステップS3では、テストモードが完了したか否かを判断する。テストモードが完了したならば(ステップS3がYES)、ステップS4に進む。一方、テストモードが完了していなければ(ステップS3がNO)、ステップS2以降を繰り返す。
ここで、テストモード(ステップS3がNOのループ)では、後述する図4のPIDゲイン診断フローチャートに従って、PIDゲイン診断が行われる。図4のPIDゲイン診断については後述する。
【0024】
ステップS4では、テストモードの結果(すなわち、図4を参照して後述するPIDゲイン診断の結果)に基づいて、PIDゲインをPTO装置により架装機器の運転を行うのに適合したPIDゲインに切り替える。ここで、PTOゲインを切り替える際には、必ず、キースイッチを切ってから(OFFにしてから)行なう。PTO運転中にPIDゲインを変更した際に、架装機器が作業者(オペレーター)の想定外の動作をしてしまうことを防止するためである。
ステップS4でPIDゲインをPIDゲインに切り替えたならば、ステップS5に進む。
ステップS5では、PTO装置によって架装機器の実作業(PIDゲイン切替のためのテストではない、実際の作業)を開始する。
【0025】
次のステップS6では、架装機器により実作業が行なわれている間に、不都合(例えば、急激なエンジン回転数の減少、急激なエンジン回転数の上昇等)が生じたか否かを判断する。
不都合が生じていれば(ステップS6がYES)、ステップS7に進む。
ステップS7では、車両のキースイッチを切り、架装機器による実作業を中止する。そして、ステップS2に戻り、テストモードを再度行なう。
【0026】
架装機器による実作業において、急激なエンジン回転数の減少や、急激なエンジン回転数の上昇等の不都合が生じていなければ(ステップS6がNO)、ステップS8に進み、架装機器による作業(PTO作業)を続行する。そして、ステップS9に進む。
ステップS9では、制御装置10は、PTO作業を終了するか否かを判断する。
PTO作業を続行するのであれば(ステップS9がNO)、ステップS6に戻る。
PTO作業を終了するのであれば(ステップS9がYES)、架装機器によるPTO作業を終了し、制御を終える。
【0027】
次に、図4のフローチャートを参照して、PIDゲインの適否診断及びPIDゲインを切り替える制御について説明する。
ここで、図示はされていないが、エンジンコントローラ30は、車両走行用の燃料噴射制御用マップと、PTO作業用の燃料噴射用マップを備えている。
図4のステップS11において、エンジンへの燃料噴射量の制御が、PTO作業を行なう際の噴射量制御(PTO制御)になっているか否か、換言すれば、PTO運転であるか否かを判断する。
エンジンへの燃料噴射量の制御がPTO制御になっていれば(ステップS11がYES)ステップS12に進む。一方、エンジンへの燃料噴射量の制御がPOT制御になっていなければ(ステップS11がNO)、ステップS11を繰り返す(ステップS11が「NO」から「リターン」に進み、ステップS11に戻るループ)。
【0028】
ステップS12では、PTO制御におけるPIDゲインが、ベース(ノーマル)仕様となっているか否かを判断する。
PTO制御におけるPIDゲインがベース仕様であれば(ステップS12がYES)、ステップS13に進む。
一方、PTO制御におけるPIDゲインがベース仕様になっていなければ(ステップS12がNO)、再びステップS11以降を繰り返す(ステップS12が「NO」から「リターン」に進み、ステップS11に戻るループ)。
【0029】
PTO制御におけるPIDゲインがベース仕様になっていない場合(ステップS12がNO)に、ステップS13〜ステップS20の操作が行なわれないのは、PTO制御におけるPIDゲインがベース仕様ではないということは、既に後述するステップS20で制御力の強いPIDゲインに切り替えられており、図示の実施形態では、再度、PIDゲインを診断、切替する必要が無いからである。
換言すれば、図示の実施形態では、通常の架装機器ではPIDゲインが不適切な場合(架装機器が、例えば、塵芥車のコンパクターである場合、建設現場等で使用されるコンクリートポンプである場合、カーキャリアの荷台である場合の様に、負荷変動が大きいか、或いは、目標エンジン回転数が大きく変動する場合)に、通常の架装機器(負荷変動と目標エンジン回転数の変動が小さい架装機器)におけるPIDゲインを、より制御力が強くなるゲインに切り替えることが目的となっているため、PTO制御におけるPIDゲインがベース仕様になっていない場合(ステップS12がNO)に、ステップS13〜ステップS20の操作が行なわれないのである。
【0030】
ステップS13では、オプションのPIDゲイン診断モードがONとなっているか否かを判断する。PIDゲイン診断モードがONとなっているか否かは、車外操作盤20の操作により、制御用のトリガーが制御装置10に入力されたか否かにより、判定される。
PIDゲイン診断モードがONであれば(ステップS13がYES)、ステップS14に進む。
一方、PIDゲイン診断モードがONでなければ(ステップS13がNO)、再びステップS11以降を繰り返す(ステップS13が「NO」から「リターン」に進み、ステップS11に戻るループ)。
【0031】
ステップS14では、前回の制御サイクル(制御演算)における目標エンジン回転速度と今回の制御サイクル(制御演算)における目標エンジン回転速度の差異が、所定範囲以内か否かを判断する。
PIDゲインを切り替えるか否かの診断に際しては、制御が安定した状態で行なうことが必要である。ステップS14は、制御が安定した状態、すなわちPIDゲインを切り替えるか否かの診断を行ない得る状態となったか否かを判断している。
前回の制御サイクルにおける目標エンジン回転速度と今回の制御サイクルにおける目標エンジン回転速度の差異が所定範囲以内であれば(ステップS14がYES)、安定した状態であると考えられるのでステップS15に進む。
これに対して、一方、前回の制御サイクルにおける目標エンジン回転速度と今回の制御サイクルにおける目標エンジン回転速度の差異が所定範囲よりも大きい場合には(ステップS14がNO)、安定した状態ではないと判断して、ステップS11に戻る。そして、制御が安定するまで、ステップS14が「NO」のループを繰り返す(ステップS14が「NO」から「リターン」に進み、ステップS11に戻るループ)。
【0032】
ステップS15では、PIDコントローラ15の診断ユニット16によって、PIDゲインが適正であるか否かの診断を開始する。そしてステップS16に進む。
ステップS16では、目標エンジン回転速度から実際のエンジン回転速度を引いた値の絶対値(偏差値)が、規定値以上であるか否かを判断する。偏差が規定値以上であれば(ステップS16がYES)ステップS17に進み、偏差が規定値未満であれば(ステップS16がNO)ステップS18に進む。
偏差が規定値以上であるステップS17では、図示しないカウンタの数値を一つ増加する。
上述した様に、エンジン回転速度の偏差がしきい値よりも大きい状態が、予め定められた時間(あるいは予め定められた回数の制御サイクル)にわたって続いた場合には、PIDゲインが適正ではないと判断される。図4の制御では、当該カウンタの数値が所定値以上になった場合に、「予め定められた時間」或いは「予め定められた回数の制御サイクル」が経過した、と判断している。
【0033】
エンジン回転速度の偏差がしきい値よりも大きい状態が、予め定められた時間(あるいは予め定められた回数の制御サイクル)にわたって続いていない場合には、偏差が規定値未満となり(ステップS16がNO)、ステップS18においてカウンタクリアされる。すなわち、カウンタの数値がゼロとなる。
ステップS18でカウンタがクリアされたならば、ステップS19に進む。
【0034】
ステップS19では、カウンタの数値が規定値以上であるか否かが判断される。
カウンタが規定値以上であれば(ステップS19がYES)、エンジン回転速度の偏差がしきい値よりも大きい状態が、予め定められた時間(あるいは予め定められた回数の制御サイクル)にわたって続いたと判断されて、ステップS20に進む。
カウンタが規定値未満であれば(ステップS19がNO)、エンジン回転速度の偏差がしきい値よりも大きい状態は、予め定められた時間(あるいは予め定められた回数の制御サイクル)にわたって続いてはいないと判断されて、再びステップS11以降を繰り返す(ステップS19が「NO」から「リターン」に進み、ステップS11に戻るループ)。
【0035】
ステップS20では、PTO制御における制御パラメータであるPIDゲイン変更が必要であると判断する。
PIDゲイン変更に際しては、車両の図示しないキースイッチを切り(OFF)、PTO運転中にPIDゲインを変更することによる危険を未然に防止する。そして、PIDユニット15の切替ユニット17が、適正なPIDゲイン(例えば、作業力が大きいPIDゲイン)を選択して切り替える。
そして、再びステップS11に戻り、ステップS11以降を繰り返す。
【0036】
図示の実施形態によれば、診断ユニット16により、架装機器による作業におけるPIDゲインが適正であるか否かを診断して、PIDゲインが適正でないと診断した場合には、切替ユニット17により、他のPIDゲイン(例えば、作業力が大きいPIDゲイン)を選択して切り替えることが出来る。
その結果、例えば、いわゆる「カーキャリア」の様に目標エンジン回転速度が大きく変動する架装機器によるPTO作業や、「ゴミ収集車」や「コンクリートポンプ車」の様に負荷が大きく変動する架装機器によるPTO作業の様に、制御パラメータであるPIDゲインの共通化が困難である場合でも、複数のソフトウェアとそれに対応する複数種類のハードウェアを装備することなく、単一のソフトウェアとハードウェアのみで、対応することが出来る。
【0037】
ここで、負荷変動はエンジンの回転数或いは回転速度の変動として現われるので、本発明において、目標エンジン回転速度演算ユニット11により演算された目標エンジン回転速度と、実エンジン回転速度との差を、目標エンジン回転速度と実際のエンジン回転速度の偏差とすれば、目標エンジン回転速度が大きく変動する架装機器によるPTO作業のみならず、負荷が大きく変動する架装機器によるパワーテイクオフ作業についても、PIDゲインが適切か否かを判定することが可能である。
【0038】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
【符号の説明】
【0039】
1・・・特装車両
2・・・シャーシ
3・・・エンジン
4・・・PTO装置
5・・・PTOフランジ
6・・・アクセル開度センサ
7・・・エンジン回転センサ
10・・・制御装置
11・・・目標エンジン回転速度演算ユニット
12・・・エンジン回転速度偏差決定ユニット
13・・・記憶ユニット
14・・・PIDゲイン決定ユニット
15・・・PIDコントローラ
16・・・診断ユニット
17・・・切替えユニット
20・・・車外操作盤
30・・・エンジンコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のエンジン動力を架装機器の動力源として取り出すパワーテイクオフ装置において、燃料噴射量を制御する制御装置を備え、制御装置は、目標エンジン回転速度と実際のエンジン回転速度の偏差に基づいて燃料噴射量を制御するための制御パラメータであるPIDゲインを決定する決定ユニットと、複数のPIDゲインを記憶している記憶ユニットと、架装機器による作業におけるPIDゲインが適正であるか否かを診断する診断ユニットと、PIDゲインが適正でない場合に記憶ユニットに記憶されている他のPIDゲインを選択して切り替える切替ユニットを有していることを特徴とするパワーテイクオフ装置。
【請求項2】
前記制御装置は、目標エンジン回転速度演算ユニットとエンジン回転速度偏差決定ユニットを備え、エンジン回転速度偏差決定ユニットは、アクセルの開度から目標エンジン回転速度演算ユニットにより演算された目標エンジン回転速度と、エンジンの回転速度を検出する検出装置の検出結果との差を、目標エンジン回転速度と実際のエンジン回転速度の偏差に決定する機能を有している請求項1のパワーテイクオフ装置。
【請求項3】
前記診断ユニットは、前記偏差がしきい値よりも大きい状態が予め定められた制御サイクルに亘って続いた場合にPIDゲインが適正ではないと判断する機能を有しており、そして、前記切替ユニットは、記憶ユニットに記憶されている制御力の大きいPIDゲインを選択して切り替える機能を有している請求項2のパワーテイクオフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−112009(P2011−112009A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271025(P2009−271025)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】