説明

パワー半導体モジュール

【課題】絶縁放熱樹脂層がヒートスプレッダに押しつぶされない構造を備えたパワー半導体モジュールを提供する。
【解決手段】放熱絶縁シート13には、当該放熱絶縁シート13よりも融点が高い絶縁物で構成された球状のスペーサ13aが分散されている。これにより、ヒートスプレッダ11を放熱絶縁シート13に接着する際に、ピンでヒートスプレッダ11が放熱絶縁シート13側に押し付けられたとしても、スペーサ13aによって放熱絶縁シート13の厚みが一定に保たれるので、放熱絶縁シート13が局所的に薄くつぶされることを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、パワー半導体モジュールを備えた電力変換装置が、例えば特許文献1で提案されている。このパワー半導体モジュールは、ヒートスプレッダの上面にパワー半導体チップがはんだを介して接合され、ヒートスプレッダの下面に絶縁放熱樹脂層および金属層が順に積層されている。また、リードフレームがヒートスプレッダに接合され、ワイヤを介してパワー半導体チップに接続されている。そして、リードフレームを突出させると共に金属層が露出するように、パワー半導体チップ、ヒートスプレッダ、絶縁放熱樹脂層、および金属層がモールド樹脂で封止されることでパワー半導体モジュールが構成されている。
【0003】
このような構造のパワー半導体モジュールでは、金型内に金属層、絶縁放熱樹脂層、およびチップが実装されたヒートスプレッダの順に配置し、ヒートスプレッダにピンを押し当ててヒートスプレッダを絶縁放熱樹脂層に押し付けて接着すると共に溶融したモールド樹脂を流し込んで成形する方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−166604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、ヒートスプレッダにピンを押し当ててヒートスプレッダと絶縁放熱樹脂層とを接着しているので、ヒートスプレッダに押し当てたピンの力がヒートスプレッダに加わる場所で局所的に絶縁放熱樹脂層が押しつぶされて薄くなり、ヒートスプレッダと金属層との間で絶縁不良になる可能性があった。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、局所的に絶縁放熱樹脂層がヒートスプレッダに押しつぶされない構造を備えたパワー半導体モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、板状のヒートスプレッダ(11)の一面(11a)に半導体素子(12)が実装され、ヒートスプレッダ(11)の他面(11b)が樹脂層(13)で覆われており、樹脂層(13)のうちヒートスプレッダ(11)とは反対側の面が露出するように、半導体素子(12)、ヒートスプレッダ(11)、および樹脂層(13)がモールド樹脂(14)で封止されている。そして、樹脂層(13)には、スペーサ(13a)が分散されていることを特徴とする。
【0008】
このように、樹脂層(13)内にスペーサ(13a)が分散されているので、ヒートスプレッダ(11)を樹脂層(13)に接着する際に、ピンでヒートスプレッダ(11)が樹脂層(13)側に押し付けられたとしても、スペーサ(13a)によって樹脂層(13)の厚みが一定に保たれる。したがって、樹脂層(13)が局所的に薄くつぶされることを防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、スペーサ(13a)は、樹脂層(13)よりも融点が高い絶縁物で構成されていることを特徴とする。
【0010】
これによると、樹脂層(13)がヒートスプレッダ(11)に押し付けられたとしても、スペーサ(13a)の絶縁性によってヒートスプレッダ(11)と外部部品との絶縁性を保つことができる。
【0011】
また、請求項3に記載の発明のように、スペーサ(13a)として、球状のものを採用することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、一面(20a)を有する熱交換器(20)を備えている。そして、樹脂層(13)は、ヒートスプレッダ(11)の他面(11b)と熱交換器(20)の一面(20a)とを接着していることを特徴とする。
【0013】
これにより、半導体素子(12)から熱を受け取ったヒートスプレッダ(11)の熱を、樹脂層(13)を介して熱交換器(20)に放出することができる。また、スペーサ(13a)の絶縁性によってヒートスプレッダ(11)と熱交換器(20)との絶縁性を保つことができる。
【0014】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱交換器付きパワー半導体モジュールの断面図である。
【図2】図1に示されるパワー半導体モジュールの製造工程のうちモールド樹脂の成形工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図を参照して説明する。以下で示される熱交換器付きパワー半導体モジュールは、例えばインバータ装置などの電力変換装置に適用されるものである。
【0017】
図1は、パワー半導体モジュールの断面図である。この図に示されるように、パワー半導体モジュールは、モジュール10と、熱交換器20と、を備えて構成されている。
【0018】
モジュール10は、ヒートスプレッダ11と、半導体素子12と、放熱絶縁シート13と、モールド樹脂14と、を備えている。このうち、ヒートスプレッダ11は一面11aおよび他面11bを有する板状をなしており、半導体素子12の熱を受け取って放出するヒートシンクとしての役割を果たすものである。ヒートスプレッダ11として、例えばCuのブロックが採用される。
【0019】
半導体素子12は、IGBTやパワーMOSトランジスタ等の素子が形成された半導体チップである。この半導体素子12にはゲート等のパッドや電極が形成されており、図示しないリードにボンディングワイヤを介して電気的に接続されている。また、半導体素子12は、ヒートスプレッダ11の一面11aにはんだ15を介して実装されている。
【0020】
放熱絶縁シート13は、ヒートスプレッダ11と熱交換器20とを接着するための熱伝導絶縁性の接着剤である。この放熱絶縁シート13は、ヒートスプレッダ11の他面11bを覆っている。このような放熱絶縁シート13としては、例えば熱硬化性のエポキシ樹脂にセラミックフィラーが混入されたシート状のものが採用される。セラミックフィラーが混入されていない場合の熱伝導率(1〜10W/m・K)に対して、放熱絶縁シート13の熱伝導率は例えば10〜30W/m・Kとなっている。
【0021】
また、放熱絶縁シート13には、所定の直径を持つ球状のスペーサ13aが分散されている。このようなスペーサ13aとして、セラミックボールやガラスビーズ等の放熱絶縁シート13よりも融点が高い絶縁物が採用される。これにより、放熱絶縁シート13がヒートスプレッダ11に厚み方向に押し付けられても放熱絶縁シート13が少なくともスペーサ13aの直径の厚みに維持されると共に、ヒートスプレッダ11と他の部品(後述する熱交換器20)との絶縁性が維持される。
【0022】
モールド樹脂14は、モジュール10の外観をなすものである。このモールド樹脂14は、放熱絶縁シート13のうちヒートスプレッダ11とは反対側の面が露出するように、半導体素子12、図示しないリードの一部、ヒートスプレッダ11、および放熱絶縁シート13をそれぞれ封止している。このようなモールド樹脂14として、例えばエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。なお、「放熱絶縁シート13のうちヒートスプレッダ11とは反対側の面が露出するように」とは、放熱絶縁シート13のうちヒートスプレッダ11とは反対側の面を覆わないように、という意味である。
【0023】
熱交換器20は、モジュール10つまり半導体素子12を冷却するための冷却器である。熱交換器20は一面20aおよび他面20bを有する板状をなしており、熱交換器20の一面20aが放熱絶縁シート13に接着されている。
【0024】
また、熱交換器20の他面20bには、当該他面20bの一部が突出したフィン21が複数形成されている。図1に示されるように、フィン21は例えばピンフィンであり、千鳥状に配置されている。このフィン21により、熱交換器20の放熱性が向上する。熱交換器20の材質として、例えば熱伝導性が良いAlが採用される。
【0025】
上記では、放熱絶縁シート13はヒートスプレッダ11と熱交換器20とを接着すると述べたが、より正確には、放熱絶縁シート13はヒートスプレッダ11の他面11bと熱交換器20の一面20aとを接着していると言える。また、図1に示されるように、モールド樹脂14は、放熱絶縁シート13の側面も覆うように形成され、熱交換器20の一面20aに接している。以上が本実施形態に係るパワー半導体モジュールの全体構成である。
【0026】
このような構造のパワー半導体モジュールにおいて、半導体素子12が動作して半導体素子12で熱が発生すると、半導体素子12から放出された熱は、ヒートスプレッダ11、放熱絶縁シート13、および熱交換器20に伝達される。そして、熱交換器20の他面20b側は流体等の冷媒に晒されることで、熱交換器20の熱が冷媒に奪われ、熱交換器20が冷やされる。このように、半導体素子12の熱を熱交換器20に放出することができる。
【0027】
次に、パワー半導体モジュールの製造方法について、図2を参照して説明する。まず、半導体素子12、リード、ヒートスプレッダ11、放熱絶縁シート13、および熱交換器20をそれぞれ用意しておく。また、ヒートスプレッダ11の一面11aにはんだ15を介して半導体素子12を実装し、半導体素子12に図示しないリードを接続しておく。
【0028】
そして、図2に示されるように、下側金型30に熱交換器20を配置し、熱交換器20の一面20aに放熱絶縁シート13を配置する。さらに、この放熱絶縁シート13の上に、半導体素子12が実装されたヒートスプレッダ11を配置する。
【0029】
この後、上側金型40を下側金型30に重ね、型押さえ用のピン50でヒートスプレッダ11を熱交換器20側に押し付ける。この場合、放熱絶縁シート13にはスペーサ13aが分散されているので、ヒートスプレッダ11のうちピン50で押し付けられた場所の放熱絶縁シート13が局所的に薄くつぶされることはない。また、各スペーサ13aのサイズはそれぞれ同じであるので、放熱絶縁シート13の厚さは一定に保たれる。
【0030】
この状態で、上側金型40の凹部41に図示しないゲートから溶融したモールド樹脂14を流し込み、半導体素子12、図示しないリードの一部、ヒートスプレッダ11、および放熱絶縁シート13をそれぞれ封止する。これにより、溶融したモールド樹脂14によって放熱絶縁シート13を加熱すると共に、ヒートスプレッダ11と熱交換器20とを接着する。また、モールド樹脂14および放熱絶縁シート13をそれぞれ冷却することで熱硬化させる。こうして、パワー半導体モジュールが完成する。
【0031】
以上説明したように、本実施形態では、放熱絶縁シート13にスペーサ13aが分散されていることが特徴となっている。これにより、ヒートスプレッダ11が放熱絶縁シート13に接着されるとき、ピン50でヒートスプレッダ11が放熱絶縁シート13側に押し付けられたとしても、放熱絶縁シート13が局所的に薄くつぶされてしまうことを防止することができる。つまり、スペーサ13aによって放熱絶縁シート13の厚みを確保できる。
【0032】
また、スペーサ13aが絶縁物で構成されているので、放熱絶縁シート13がヒートスプレッダ11に押し付けられても、ヒートスプレッダ11と熱交換器20との絶縁性を維持し続けることができる。すなわち、モジュール10と熱交換器20のような外部部品との絶縁性を保つことができる。
【0033】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、放熱絶縁シート13が特許請求の範囲の「樹脂層」に対応する。
【0034】
(他の実施形態)
上記一実施形態では、熱交換器20が一体化されたパワー半導体モジュールについて説明したが、これはパワー半導体モジュールの構成の一例であり、パワー半導体モジュールに熱交換器20が一体化されていなくても良い。すなわち、放熱絶縁シート13は、他の部品に接着されても良い。
【0035】
また、熱交換器20の他面20bに設けられたフィン21はピンフィンではなく、板状フィンでも良い。また、オフセットフィンでも良い。一方、熱交換器20の他面20bにフィン21を設けるのではなく、熱交換器20の他面20bが波状等の凹凸形状になっていても良い。
【0036】
上記一実施形態では、スペーサ13aとして球状のものを用いたが、これはスペーサ13aの形状の一例であり、他の形状でも良い。例えば、放熱絶縁シート13の厚みを一定に保持できるのであればサイコロ状でも良い。
【0037】
上記一実施形態では、モジュール10に1つの半導体素子12を設けた構造が示されているが、これは一例であり、モジュール10に設ける半導体素子12の数はモジュール10の用途に応じて適宜変更できる。
【符号の説明】
【0038】
11 ヒートスプレッダ
11a ヒートスプレッダの一面
11b ヒートスプレッダの他面
12 半導体素子
13 放熱絶縁シート
13a スペーサ
14 モールド樹脂
20 熱交換器
20a 熱交換器の一面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のヒートスプレッダ(11)の一面(11a)に半導体素子(12)が実装され、前記ヒートスプレッダ(11)の他面(11b)が熱伝導絶縁性の樹脂層(13)で覆われており、前記樹脂層(13)のうち前記ヒートスプレッダ(11)とは反対側の面が露出するように、前記半導体素子(12)、前記ヒートスプレッダ(11)、および前記樹脂層(13)がモールド樹脂(14)で封止されたパワー半導体モジュールであって、
前記樹脂層(13)には、スペーサ(13a)が分散されていることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
前記スペーサ(13a)は、前記樹脂層(13)よりも融点が高い絶縁物で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記スペーサ(13a)は、球状であることを特徴とする請求項1または2に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
一面(20a)を有する熱交換器(20)を備え、
前記樹脂層(13)は、前記ヒートスプレッダ(11)の他面(11b)と前記熱交換器(20)の一面(20a)とを接着していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のパワー半導体モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−238643(P2011−238643A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106270(P2010−106270)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】