説明

ヒトの皮膚での経時老化を防止および治療するための薬剤

【課題】レチノイド、好ましくはレチノールの局所塗布によって、経時老化を防止および治療する薬剤の提供。
【解決手段】ヒトの皮膚の光老化(すなわち、太陽に誘発された早期皮膚老化)によって活性化した同じ経路のうちいくつかは、高齢者の皮膚において同様に増える。また、他の経路(すなわち、マイトジェン活性化ERK経路)が同じ皮膚において抑制される。経時的に老化した皮膚をレチノイドで処理すると、真皮コラーゲンの分解が抑制されると同時に、プロコラーゲンの合成が促進される。高齢者(80を越える年齢)の皮膚から得た生検切片は、単回処理によって表皮厚を増し、真皮コラーゲン密度を高め、網状組織の突出部分および真皮乳頭の形成を促進でき、かつc−Junの量を減らし、I型およびIII型のプロコラーゲンの量を増やすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者の皮膚におけるケラチノサイトおよび線維芽細胞の増殖促進、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)発現の抑制、コラーゲン合成の促進に有用であり、老化皮膚の再生回復効果をもたらす薬剤に関し、特に、好ましくは局所的に適用されるレチノイドを含む薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物について言えば、ヒトは本質的に無毛である。すなわち、人体の皮膚の大半が毛のない状態で目に見えるのである。このため、皮膚は(自然あるいは人工の)環境に潜む様々な侵襲に暴露される。紅斑が太陽によって生じることが初めて明らかになって以来、人々はその「有害な光線」を避けるために様々な対策を講じている。1世紀ほど前、エリザベス女王時代のイギリスでは、誰もが何としても太陽を避けようとしていた。それにもかかわらず、エリザベス女王時代の人々の皮膚にはしわがあり、他にも経時老化の徴候が認められた。
【0003】
ヒトの皮膚は体中を覆う複雑な器官である。体の様々な部分に様々なタイプの皮膚が存在している。例えば、顔面の皮膚は頭皮とは異なっており、手の前面(手掌)の皮膚ですら手の甲の皮膚とは異なっている。皮膚のタイプは人体の場所によって違うとはいえ、皮膚は組織の2種類の主な層すなわち、最外層である表皮または角皮は表層(外側から順に角質層、淡明層、顆粒層)と深層(有棘層および基底層)とで構成されているのが普通である。真皮(dermis)、真皮(cutis vera)、真皮(true skin)は、上側の乳頭層と下側の網状層とで構成されている。
【0004】
はるか昔から、皮膚に様々な物質を塗布し、通常は皮膚の最外層に手を施すことで見た目をよくしたり、通常は真皮に手を施すことで皮膚病を治療したりしていた。近年になって、皮膚を再生回復させ、太陽光(紫外線)および周囲環境に暴露されることによって失われた弾力としなやかさを回復するよう様々な努力がなされている。
【0005】
経時的に老化した皮膚または自然に老化した皮膚(古い皮膚)と、光老化皮膚(すなわち、太陽からの紫外線放射によってダメージを受けて老化した皮膚)との間には違いがある。古い皮膚は一般に滑らかで傷のない外観を維持しているが、これに対して光老化皮膚は固くてしみがあり、多くの場合に深いしわもある。古い皮膚の表皮は一般に健常な皮膚より薄いが、光老化皮膚の表皮は一般に健常な皮膚より厚く(表皮肥厚)時間が経つにつれて萎縮する。光老化皮膚のGrenzゾーン(表皮のすぐ下にある好酸球物質の広い帯で、傷を治癒するコラーゲン形成構造体)は一般に大きく、経時的に老化した皮膚は存在しない。非特許文献1も参照のこと。
【0006】
Kligman et al.による特許文献1には、自然に老化した皮膚をレチノイドで治療または防止するための方法が記載されている。Kligman et al.は、無毛種のアルビノマウスと5名のコーカサス人の高齢女性にて全トランス型レチノイン酸(Retin−A(登録商標)クリーム)を試験した。研究の前後で得られた唯一の臨床知見はこの女性らについてのものであり、得られた生検結果は1つしか報告されておらず、それも6ヶ月治療した後のものであった(すなわち、この公開公報は、治療前または治療の初期段階での被験者からの対照生検については何ら開示していない)。
【0007】
特許文献2および特許文献3には、ざ瘡の治療と皮膚角化の治療にレチナール(ビタミンAアルデヒド)を使用することが開示されている。特許文献4を参照のこと。レチナールおよびその誘導体は、しわ、いぼ、乾癬、湿疹、フケなどの状態の治療に有用であるとして提案されている(特許文献5を参照のこと)。さらに、トレチノイン(全トランス型レチノイン酸)が光老化皮膚の見た目を改善するということを示す証拠がある。
【0008】
非特許文献2および非特許文献3。
Burger et al.は、特許文献6において、ナリンゲニンおよび/またはケルセチンとレチノイドとを含有する皮膚への局所塗布用の組成物を記載している。これらの組成物は、しわ、ざ瘡、皮膚の電撃症、年齢による斑など、互いに関連性のない多くの皮膚状態の治療に有用なものであると説明されている。その組成物がヒトの皮膚におよぼす作用は、細胞外皮さらには表皮を形成する上で重要な酵素(グルタミン転移酵素)に関して記載されている。これとは対照的に、本発明は、真皮の変化と有益な真皮細胞および構造体の増殖に注目している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0 379,367号明細書
【特許文献2】米国特許第3,932,665号明細書
【特許文献3】米国特許第4,934,114号明細書
【特許文献4】米国特許第3,060,229号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0 391 033号明細書
【特許文献6】米国特許第5,665,367号明細書
【特許文献7】米国特許第4,877,805号明細書
【特許文献8】米国特許第4,887,805号明細書
【特許文献9】米国特許第4,888,342号明細書
【特許文献10】米国特許第5,514,825号号明細書
【特許文献11】米国特許第5,698、700号明細書
【特許文献12】米国特許第5,696,162号明細書
【特許文献13】米国特許第5,688,957号明細書
【特許文献14】米国特許第5,677,451号明細書
【特許文献15】米国特許第5,677,323号明細書
【特許文献16】米国特許第5,677,320号明細書
【特許文献17】米国特許第5,675,033号明細書
【特許文献18】米国特許第5,675、024号明細書
【特許文献19】米国特許第5,672,710号明細書
【特許文献20】米国特許第5,688,175号明細書
【特許文献21】米国特許第5,663,367号明細書
【特許文献22】米国特許第5,663,357号明細書
【特許文献23】米国特許第5,663,347号明細書
【特許文献24】米国特許第5,648,514号明細書
【特許文献25】米国特許第5,648、503号明細書
【特許文献26】米国特許第5,618,943号明細書
【特許文献27】米国特許第5,618,931号明細書
【特許文献28】米国特許第5,618,836号明細書
【特許文献29】米国特許第5,605,915号明細書
【特許文献30】米国特許第5,602,130号明細書
【特許文献31】米国特許第5,648,563号明細書
【特許文献32】米国特許第5,648,385号明細書
【特許文献33】米国特許第5,618,839号明細書
【特許文献34】米国特許第5,559,248号明細書
【特許文献35】米国特許第5,616,712号明細書
【特許文献36】米国特許第5,616,597号明細書
【特許文献37】米国特許第5,602、135号明細書
【特許文献38】米国特許第5,599,819号明細書
【特許文献39】米国特許第5,556,996号明細書
【特許文献40】米国特許第5,534,516号明細書
【特許文献41】米国特許第5,516,904号明細書
【特許文献42】米国特許第5,498,755号明細書
【特許文献43】米国特許第5,470,999号明細書
【特許文献44】米国特許同第5,468、879号明細書
【特許文献45】米国特許第5,455,265号明細書
【特許文献46】米国特許第5,451,605号明細書
【特許文献47】米国特許第5,343,173号明細書
【特許文献48】米国特許第5,426,118号明細書
【特許文献49】米国特許同第5,414,007号明細書
【特許文献50】米国特許同第5,407,937号明細書
【特許文献51】米国特許第5,399、586号明細書
【特許文献52】米国特許第5,399,561号明細書
【特許文献53】米国特許同第5,391,753号明細書
【特許文献54】欧州特許出願公開第0 558635号明細書
【特許文献55】欧州特許出願公開第0 558648号明細書
【特許文献56】米国特許第5637703号明細書
【特許文献57】米国特許第5665367号明細書
【特許文献58】仏国特許出願公開第2,671,724号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】N.A. FenskeおよびC.W.Lober著、「Structural and functional changes of normal aging skin(健常な老化皮膚の構造および機能の変化)」、J. Am. Acad. Dermatol、15:571~585 (1986).
【非特許文献2】Albert M.Kligman著、「Current Status of Topical Tretinoin in the Treatment of Photoaged Skin(光老化皮膚の治療における局所トレチノインの現状)」、Drugs & Aging、2(1):7~13(1992)および
【非特許文献3】Chas.N.Ellis et al.著、「Tretinoin: Its Use in Repair of Photodamage(トレチノイン:光損傷の修復への応用)」,Journal of Cutaneous Aging & Cosmetic Dermatology、第1巻、 No.1、 第33~40頁 (1988)
【非特許文献4】A.S.Zelickson et al.、「Topical Tretinoin in Photoaging: An Ultrastructural Study(光老化における局所トレチノイン:超微細構造研究)」、いずれもJournal of Cutaneous Aging & Cosmetic Dermatology、第1巻、 No.1、 第41~47頁 (1988).
【非特許文献5】Fujimori,T. et at.、Jpn J Pharmacol (1991) 55(1):81~91.
【非特許文献6】Fanjul,et al.、Nature(1994)372:104~110.
【非特許文献7】Gearing,A.J.H. et al.、Nature(1994)370:555~557.
【非特許文献8】McGeehan G.M., et al.、Nature(1994)370:558~561.
【非特許文献9】Goldsmith,L.A.(Physiology, Biochemistry and Molecular Biology of the skin、第2版(New York: Oxford Univ. Press、1991)、第17章.
【非特許文献10】Varani,J., et al.、J Clin. Invest.、96、1747~1756 (1994).
【非特許文献11】Fisher,G.J., et al.、Nature、379、335~339 (1996).
【非特許文献12】Hu,C−L,et al.、Analytic. Biochem、88、638~643(1978).
【非特許文献13】J.D. Weber et. al.(「Sustained activation of extracellular-signal regulated kinase I(ERK1) is required for the continued expression of cyclin D1 in G1 phase(サイクリンD1のG1相での連続発現には細胞外シグナル制御キナーゼI(ERK1)の活性抑制が必要)」、Biochem. J、 326:61~68 (1997).
【非特許文献14】M.Hibi el al、「Identification of an oncoprotein and UV-responsive protein kinase that binds and potentiates the c-Jun activation domain(c−Jun活性化ドメインと結合およびこれを増強する腫瘍性タンパク質およびUV反応性タンパク質キナーゼの同定)」、Genes Dev.、7:2135-2148(1993).
【非特許文献15】G.J.Fisher et al.、「Cellular, immunologic and biochemical characterization of topical retinoic acid-treated human skin(局所レチノイン酸処理したヒトの皮膚の細胞的、免疫的および生化学的キャラクタリゼーション)」、J Investig. Dermatol.、96:699~707(1991).
【非特許文献16】「All trans retionic acid induces cellular retinol-binding protein in human skin 生体内(全トランス型レチノイン酸は、ヒトの皮膚での細胞レチノール結合タンパク質を生体内にて誘発する)」、J. Investig. Dermatol、105:80~86(1995).
【非特許文献17】「Immunologycal identification and functional quantitation of retionic acid and retionid X receptor proteins in human skin(ヒトの皮膚におけるレチノイン酸およびレチノイドX受容体タンパク質の免疫学的同定および官能定量化)」、J Biol. Chem.、 269:20629~20635(1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
【0011】
主な発明はヒトの皮膚を再生回復させるための方法の開示である。本発明の明細書記載および請求の範囲において、「再生回復」には、老化したヒトの皮膚でコラーゲン分解を防止すると同時に新しいコラーゲンの形成も促進するステップを含む。本発明は、高齢(80歳を越える年齢)のボランティアから得たヒトの皮膚で、サンプロテクトを施して処理した生検試料と未処理の生検試料を、若い個体から得たサンプロテクトを施した皮膚の生検試料と比較した結果に基づくものである。若い人々から得た皮膚と比較して、老化皮膚は薄く、表皮(ケラチノサイト)と真皮(線維芽細胞)の細胞数が少なく、密度が低くて結合組織の組織崩壊量が多く、cJunキナーゼ活性およびマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のレベルが高く、ERK、サイクリンD、I型プロコラーゲンおよびIII型プロコラーゲンの活性レベルは低い。
【0012】
要するに、老化したヒトの皮膚は、コラーゲン分解を抑制かつプロコラーゲン合成を促進するのに有効な量で1種以上の化合物を局所投与することによって再生回復可能であることが、一発明として明らかになっている。この塗布は、定期的に行うのが好ましい。両方の機能を果たす化合物の好ましいクラスとしては、レチノイド、特にレチノールおよび全トランス型レチノイン酸が挙げられる。
【0013】
老化したヒトの皮膚は、プロコラーゲン合成量を高めることで利益が得られる。本願発明者らは、有効量のレチノイドを皮膚に好ましくは規則的に塗布することによって、老化したヒトの皮膚でのプロコラーゲンレベルを高めることができるというもう1つの発明を見出した。好ましい実施形態では、処理にMMP抑制剤を使用することによってコラーゲン分解を抑制することも含む。
【0014】
皮膚の経時老化を治療および/または防止することに加えて、皮膚に塗布した有効量のレチノイドは、プロコラーゲンの合成を促進するという本願発明者らの発見によって、皮膚の潰瘍の阻止(予防法)にもう1つの発明を提供する。皮膚のコラーゲン含有量を増加することで、皮膚の張りと機能が高まる。プロコラーゲン合成が促進され、これによって皮膚のコラーゲン含有量が増加すると、コラーゲンの減少と劣化が原因で張りとサポートが失われることが少なくなる。このため、改善されたプロコラーゲン合成は、皮膚潰瘍の発生および/または重症度を緩和するものと思われる。
【0015】
上記に関連して、本願発明者らは、さらに他の発明として、ここでも好ましくは規則的に行われるレチノイドの局所塗布によって、いずれも皮膚の完全さを保つ上で有益であるケラチノサイトおよび線維芽細胞の数が増えることを見出した。線維芽細胞は表皮に栄養を運ぶ。通常の条件下で、この細胞は多数の成長因子(例、FGF、IGF、KGFなど)を分泌すると共に、真皮マトリックスに入り、構造コラーゲンとなるプロコラーゲンを産生する。
【0016】
さらに他の発明は、老化皮膚に有効量のレチノイドを局所投与することによって、老化皮膚で、皮膚に存在するcJUN活性の低減および/またはc−Junタンパク質の量の削減、さらにはERK活性の促進をおこなうことである。
【0017】
別の実施形態では、上記活性成分に加えて、UVA1、UVA2およびUVBのうち少なくとも1種に対するサンスクリーン剤と、酸化防止剤と、MMP(マトリックスメタロプロテイナーゼ)抑制剤と、これらの混合物とから選択した少なくとも1種のさらなる化合物を塗布することで、真皮の経時老化の予防と治療が各々促進される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】理想的なものとしての皮膚細胞における特定のERK経路およびSAP経路を本願発明者らが表現したものを示している。
【図2】本願発明者らが生検試料で研究を行ったあらゆる年齢の個体群における線維芽細胞密度(2A)、真皮結合組織の特徴(2B)、表皮厚(2C)、ケラチノサイト密度(2D)を示している。
【図3】本願発明者らが研究した種々な年齢の個体群におけるヒトのケラチノサイト(3A)および線維芽細胞(3B)の相対成長の可能性(1生検試料あたりの細胞コロニー数として測定)を示している。
【図4】本願発明者らが研究した種々な年齢の個体群に3種類のMMP(図4AがMMP−1、図4BがMMP−9、図4CがMMP−2)における相対活性を示している。
【図5】若い皮膚と古い皮膚とについて、生体内における内在的コラゲナーゼの発現の差を示している。
【図6】若い皮膚と古い皮膚とについて、生体内におけるI型プロコラーゲンの発現の差を示している。
【図7】若い皮膚と古い皮膚とについて、生体内におけるERK活性の差を示している。
【図8】若い皮膚と古い皮膚とについて、生体内におけるリン酸化(活性化)ERKの発現の差を示している。
【図9】若い皮膚と古い皮膚とについて、生体内におけるサイクリンD発現の差を示している。
【図10】若い皮膚と古い皮膚とについて、生体内におけるcJUNキナーゼ活性の差を示している。
【図11】レチノイド(1%レチノール;単回塗布、密封、7日後に検討)塗布時の、高齢者(80歳を越える年齢)の皮膚における線維芽細胞密度(11A)、真皮結合組織の特徴(11B)、表皮厚(11C)、ケラチノサイト密度(11D)を示している。
【図12】生検試料から生体外で培養したヒトのケラチノサイトおよび線維芽細胞の成長に対する、レチノイド(レチノール)処理による効果を示している。
【図13】若年個体(13Aおよび13B)、高齢個体(13Cおよび13D)、同じ高齢個々(13Eおよび13F)で1%レチノールを単回塗布後(密封、7日間放置した後に生検)の皮膚の染色切片を拡大したものを示している。
【図14】レチノールを高齢者の皮膚に単回塗布後に生検によって判断した、3種類のMMP酵素(MMP1、2および9;図4と同様)の活性に対する効果を示している。
【図15】ヒトの培養皮膚線維芽細胞におけるI型コラーゲン合成のレチノイン酸媒介誘発を示している。
【図16】高齢者の皮膚にレチノールを投与することによって引き起こされたIII型プロコラーゲンα1(III)mRNAの生体内誘発を示している。
【図17】高齢者の皮膚にレチノールを投与することによって引き起こされたERK活性の生体内誘発を示している。
【図18】高齢者の皮膚の染色切片の生検試料において、1%レチノールの単回投与7日後に、皮膚のc−Junタンパク質が減少し、I型およびIII型プロコラーゲンの量が増加したことを示している顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本願発明者らの知見による、理想的なものとしての皮膚細胞の機能に影響する特定の分解経路を示している。ヒトの皮膚の経時老化の特に重要な原因は、食餌、遺伝、環境などの要因を含む高齢者の個体群ごとに異なる傾向にある。とはいえ、一般に、本願発明者らは、経時的な皮膚の老化は、ストレス活性化経路(SAP)の活性化と、マイトジェン活性化経路(ERK)の抑圧とに起因するものであると考えている。従来知られていたこととは対照的に、ヒトの皮膚の光老化に関する本願発明者らの発明と比較し、本願発明者らは、ヒトの皮膚の経時老化および光老化は、同様の分子的病態生理を持つことを見出した。ERKは、健康な皮膚には必須である成長因子の作用を媒介する。ERKが干渉することで、経時的に老化した皮膚は薄くなる。これは、表皮と真皮に存在する細胞数か少なくなるためである。これとほぼ逆で、SAPは、プロコラーゲン合成の抑制と成熟コラーゲンの分解の両方を促進する因子(例えばc−Jun)を活性化し、これによって皮膚の形状、張り、機能が衰える。皮膚の経時老化には、ERKによる干渉および/または若干のSAPの活性化が含まれるとも考えられる。本願発明者らは、経時的に老化したヒトの皮膚ではどちらの事象も起こるということを見出した。図1に示すように、理想的なものとしての皮膚細胞101は、様々な化合物が通過する場であり、また細胞表面の受容体を介して細胞と相互作用する細胞膜103を有する。105で示す一方の入力群はERK経路を活性化し、リン酸エステル化によってERKを活動させる。活性化ERKは細胞核でのサイクリンD形成107を誘発し、この結果細胞の成長が促進される。他方の入力群は109で示され、ストレス活性化経路を活性化する。これによって、cJUNキナーゼ活性が高まる。一度活性化されると(ここでもリン酸エステル化による)、c−JunはAP−1の構成成分になる。これがMMPの形成111および細胞からのMMPの搬出につながり、真皮マトリックスにおいてコラーゲンが分解される。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、コラゲナーゼやゼラチナーゼの他、コラーゲンなどヒトの皮膚に生来存在して細胞外マトリックス分子を分解する他の酵素を含んでいる。特定の理論に拘束されることは望ましくはないが、本願発明者らは、cJUNキナーゼ活性が高まることでプロコラーゲン(可溶コラーゲン先駆物質)の合成が妨害され、これが細胞からマトリックスに搬出され(図1の113)構造化コラーゲン(不溶コラーゲン)になるのだと考えている。本願発明者らは、活性化cJUNは、図に示すようにプロコラーゲン合成に伴う1つまたは複数のステップを抑制すると考えている。
【0020】
本願発明者らの発明は主に、高齢者の皮膚で、健常なレベルまでケラチノサイトおよび線維芽細胞のうち少なくとも1種の増殖を引き起こし、MMPの発現を抑え、プロコラーゲンの合成を促進することおよび/または活性化ERKレベルを高め、cJUNキナーゼの活性を抑えてc−Junタンパク質のレベルを落とすのに有効な量で、一定量のレチノイド、好ましくはレチノールまたはレチノイン酸を、好ましくは定期的に、高齢者の皮膚に局所投与することに関するものである。
【0021】
高齢者の皮膚の分析
本願発明者らは、18歳から80歳を越える年齢までの範囲の40名の個体の皮膚をサンプロテクトし、この皮膚から得た4mmの複製穿孔生検試料を比較して判断したところ、ケラチノサイトおよび線維芽細胞の数には年齢に関連した減少があることが分かった。ケラチノサイトは主要な細胞であり、この細胞から表皮が構成されている。表皮の細胞は基底ケラチノサイトの分化によって生じ、このうちいくつかは、連続的に重なった層によって角質層(皮膚の最外層)になる。図2のA、B、CおよびDは、本願発明者らが行った個体群全体の研究に基づく形態計測資料である。ボランティア個体群から得た生検試料では、図2のAおよびDに示すように、最年少の群(18〜29歳)と最高齢の群(80歳より上)とを比較した場合に(どちらの細胞型でもp<0.1)、平均減少率が27%(ケラチノサイト)および39%(線維芽細胞)であることが明らかになった。また、30歳を越えると線維芽細胞が減少し、80歳を越えるとこれが再度減少(図2のA)することから、皮膚に年齢に関連した変化が認められることに注意されたい。さらに、本願発明者らの個体群研究では、60歳を越えると望ましくない真皮結合組織の特徴が増加(図2のB)し、60歳を越えると表皮の厚さが薄くなる(図2のC)ことも明らかになった。これらの資料から、結合組織の組織崩壊および/または退化には、図2のBに示すように、年齢に関連した増加が認められる(最高齢の群では最年少の群と比べて2.25倍増;p<0.05)ことが分かる。高齢被験者から得た生検皮膚組織を若年個体から得た皮膚生検試料の組織と比較する顕微組織学的試験によって、結合組織の組織崩壊および退化を測定した。
【0022】
さらに、図3に示すように、生検組織から得た培養中の細胞コロニー数を同じ年代の2つの群を比較して測定すると、ケラチノサイト(54%減)および線維芽細胞(50%減)の成長にも年齢に関連した減少が認められるという本願発明者らの発見により、上記の知見が裏付けられる。
【0023】
図4に示されるように、本願発明者らは、若年個体の群と高齢個体の群とを比較する(それぞれ、平均増加率40%、82%および53%であり、p<0.01、 p<0.001およびp<0.01)と、MMP−1、MMP−2およびMMP−9の相対活性にも年齢に関連した増加が認められることを発見した。40名のボランティア被験者から得た4mmの複製穿孔生検試料を用いてこれらの結果を判定した。
【0024】
図5に示されるように、2つの群(若年および高齢)の各々から抽出した16個体の生検皮膚から本願発明者らが得た内在的コラゲナーゼについての測定結果から、高齢者の皮膚にはコラゲナーゼタンパク質の相対発現が、若年被験者の場合の約2倍の量で認められることが明らかになった。
【0025】
図6は、被験個体の2つの群(若年および高齢)各々から得た未暴露皮膚の生体内試料におけるI型プロコラーゲンの有無を判断するための、本願発明者らの分析結果を示している。本願発明者らは、未暴露(サンプロテクトした)若年者の皮膚には、未暴露の高齢者の皮膚と比べて約2倍のI型プロコラーゲンが発現することを見出した。
【0026】
図7は、主に本願明細書において説明する方法による、高齢(80歳を越える年齢)および若年(19〜29歳)の両方のボランティアから得た皮膚生検試料におけるERKの定常状態活性についての本願発明者らの知見を示している。図7に示す組織記載から、高齢ボランティアの皮膚におけるERKの相対活性は、若い人々の皮膚での活性レベルの約半分であることが分かる。
【0027】
ERK活性の低下は、老化皮膚でのERKレベルの低下またはERK活性化量の低下が原因で生じているか、あるいはこれらの組み合わせが原因で生じている可能性がある。したがって、本願発明者らは、15名のボランティアに対して試験を行い、皮膚に存在するERKの相対量を全形態と活性化(リン酸化)形態の両方で判断した。活性化形態は細胞成長を促進する。図8に示されるように、高齢被験者の皮膚では、ERKの全体量は半世紀ほど若い被験者と本質的に同じであったが、活性のあるリン酸化形態のERKはかなり少なかった。したがって、本願発明者らは、高齢者の皮膚でERK活性が低下するのは、ERKの全体量が少なくなることではなく、活性化形態の濃度が低いことが原因であることを見出した。
【0028】
図1に示すERK経路では、ERKが細胞成長に必要なサイクリンDを誘発している。また、このERKエフェクタとの干渉によって細胞の成長および修復が遅れていると思われる。したがって、皮膚に対する老化の影響が大きくなる。図9は、12名の若年被験者と11名の高齢被験者において、普通に被覆した(サンプロテクトした)皮膚でのサイクリンD発現を分析した結果を示している。
【0029】
図9の組織記載から、経時的に老化した皮膚でのサイクリンDの発現量は、若い皮膚での発現と比較して大幅に少なくなっていることが分かる。
【0030】
本願発明者らは、年齢に応じて若年被験者(19〜29歳)と高齢被験者(80歳を越える)の2群に分けた15名の被験者を試験し、各群におけるストレス活性化タンパク質キナーゼ(SAPK)の活性の程度を判断した。c−Junタンパク質のリン酸エステル化によってSAPK活性を測定した。図10は、若年被験者から得た未暴露皮膚の生体内試料のcJUNキナーゼ相対活性は、高齢被験者の未暴露皮膚の場合と比べて約25%であることを示している。これらの結果から、高齢者の皮膚で活性化c−Junレベルが高くなると、MMP活性が高まると思われる。
【0031】
老化皮膚のレチノイド処理
図1に戻り、SAP(ストレス活性化経路109)が活性化されることによって、コラゲナーゼおよび92kDaのゼラチナーゼを含むMMPが産生されて皮膚コラーゲンの分解が促進される。SAPは、UV放射(本願発明者らによって1996年1月16日に出願された係属中の出願第08/588,771号、1997年6月4日提出の仮出願第60/048,520号および1997年9月5日提出の同第60/057,976号(いずれもヒトの皮膚光老化に関連したものであり、かかる内容全体を本願明細書に引用したものとする)に記載されている)、腫瘍壊死因子(例えばTNF−α)、インターロイキン(例えばIL−1α)および他のストレスによって活性化または上方制御可能である。上記の’771出願および’520および’976仮出願において説明されているように、コラーゲンを分解する酵素であるMMPはAP−1によって誘発される。本願発明者らは、コラゲナーゼのUV−誘発産生を妨害できることを上記にて引用した光老化にかかる特許出願にて示したが、経時老化に関与する経路にはさらに他のものがあるため、患者の皮膚の光老化を治療する場合に皮膚の経時老化に影響する経路(例えばERK経路など)も機能させることが意図されているとは限らない(例えば、MMPの形成のみを抑制する化合物を使用しても、必ずしもERK経路に作用するとは限らない)。
【0032】
経時的に老化した皮膚の処理について調査するために、少なくとも80歳の17名の被験者に1%レチノールまたはビヒクルのみで単回局所処理し、被験領域を7日間密封し、被験領域から生検試料を採取した。このビヒクルは、エタノールとポリエチレングリコールとを容量比70:30で混合した混合物からなるものであった。ビヒクル処理した皮膚と同じ高年齢範囲の個体から得た未処理の皮膚とを比較すると、図2に挙げるパラメータすなわち、線維芽細胞数およびケラチノサイト数、表皮厚、望ましくない真皮結合組織の特徴のいずれにおいても、統計的に有意な差異は認められなかった。同一個体のレチノール処理した皮膚とビヒクル処理した皮膚とを比較すると、図11に示されるように、レチノール処理した皮膚の切片ごとにケラチノサイト数の増加(図11のA)および線維芽細胞数の増加(図11のD)が認められた(平均増加率はそれぞれ、273%(p<0.001)および30%(p<0.05))。さらに、レチノイド処理を施すと、表皮厚が大幅に増加した(図11のC)。レチノイド(レチノール)処理効果の持続時間は短いため、有害な真皮結合組織の特徴の数にはほとんど変化が認められなかった(図11のB)。
【0033】
図12のAおよびBは、7日間生体内でレチノール処理すると、80歳を越える個々のボランティアから得たサンプロテクトした皮膚の生検試料から抽出したケラチノサイトおよび線維芽細胞の生体外での成長に、どのような影響がおよぶかを示している。すなわち、高齢者のボランティアをレチノール処理(1%レチノールの単回塗布、7日間密封)し、処理領域を生検し、生検試料からのケラチノサイトおよび線維芽細胞を生体外にて培養した。このような生体内での細胞のレチノール処理によって、どちらの細胞型でも生体外での成長が実質的に増加した。特に、いずれもp<0.05で、ケラチノサイトの成長が約30%増加(図12のA)し、一方、線維芽細胞の成長は約200%増加(図12のB)した。したがって、老化皮膚に対するレチノイドの局所塗布によって、皮膚のケラチノサイト数および/または線維芽細胞数が増加するものと思われる。
【0034】
本願発明者らの新規な処理方法による結果をグラフ表示したものを図13に示す。図13のAおよびBは、22歳の個体から得たサンプロテクトした皮膚の組織学的な外見を示す顕微鏡写真である。図13のBの一部は、図13のAの枠で囲った部分の拡大図である。同図に示されるように、皮膚には真皮Dの上にある表皮Eがある。表皮と真皮との間の界面面積は大きいため、表皮と真皮との間の部分は容易に付着した状態になっている。このような界面は、表皮から下方向に真皮まで延在する網状組織の突出した部分すなわち隆線Rと、真皮から表皮まで上方向に延在する真皮乳頭Pとによって規定される。これらの突出した部分と乳頭は、図13のAの断面に示されるような折り畳み構造を形成し、皮膚のこれら2つの層の間の界面での表面積を大きくしている。底面の断面(図13のB)は、細胞Cがほとんど含まれず、ほとんどがコラーゲンLで構成された真皮を一層詳細に示している。この若い個体から得た切片から明らかなように、真皮のコラーゲンは比較的密であり、均一な構造を有している。
【0035】
図13のCおよびDは、86歳の個体のサンプロテクトした皮膚にビヒクル処理を施した組織を示している。図13のCから明らかなように、老化皮膚では表皮が薄く、網状組織は事実上存在せず、真皮乳頭も事実上存在しない。図13のDの詳細図から、老化皮膚の真皮は通常、若い個体で見られるよりも細胞数が少なく、コラーゲン密度は低く、分布も不均一であることが分かる。表皮が薄くなり、表皮と真皮との間の界面の表面積が小さくなればなるほど、高齢者では挫傷およびBateman紫斑などの潰瘍状態が発症しやすい。
【0036】
図13のEおよびFは、図13のCおよびDに示す生検試料を得た個体と同一個体について、サンプロテクトした皮膚に、上述したような(レチノール単回塗布)処理方法でレチノール処理を施し7日後の皮膚を示している。図に示される皮膚の変化は極めて顕著かつ予想外のものである。新しい網状組織の突出部分と真皮乳頭とが存在していることからも分かるように、表皮が厚くなり、界面の表面積が大きくなった。また、詳細な図から明らかなように、真皮コラーゲンが密になり、見た目も規則的になった。このように、有効量のレチノイドを局所塗布すると、表皮の厚さを増し(例えば、若い皮膚のように正常化される)、網状組織の突出部分と真皮乳頭の形成を促進し、真皮のコラーゲンの量と密度を増して規則性を高める作用が生じる。これらの変化は老化皮膚に見られる見かけ上の組織学的変化とは逆のものであり、これによって、挫傷、ひび割れ、潰瘍化の他、若い皮膚には起こらないが老化皮膚では起こる同様の外傷を防止しやすくなる。
【0037】
本願発明者らはまた、上述したボランティアから得た生検試料も使用し、同じレチノイド処理が、図4に示す結果を得るために利用したものと同じコラゲナーゼ酵素の相対活性に及ぼす影響を判断した。図14のA、BおよびCは、高齢個体をレチノールで処理した後の平均MMP活性レベル(それぞれ、コラゲナーゼMMP−1、ゼラチナーゼMMP−9およびMMP−2)を示している。図14に示されるように、単回レチノール処理の7日後、MMP−1およびMMP−9の活性はいずれも低下(それぞれ減少率48%および39%;どちらの酵素でもp<0.001)した。MMP−2の活性には何ら有意な変化は認められなかった。酵素の活性レベルは、ビヒクルのみの対照処理と比較してMMP1および9で有意に低下した。(図14のA〜Cでは、それぞれの図についての被験者数は10であった。「*」は、p<0.5で18歳〜29歳の値、「**」はp<0.1、「***」はp<0.001を示す。)上述した手法および同様の手法を使用して、80歳を越える7名のボランティアから得た試料と、彼らの未暴露(サンプロテクトした)皮膚から得た生検試料を用いて得た培養線維芽細胞とを使用し、本願発明者らは、図15から明らかなように、レチノイン酸濃度が0.25μg/mlであるときに、コラーゲンの相対発現量が未処理細胞の場合と比べて3倍に増加し、0.5および1.0μg/mlの場合に、通常でこれらの培養細胞におけるコラーゲンの生合成が未処理細胞の場合と比べて5倍に増加することを見出した。
【0038】
80歳を越える年齢の個体7名を、サンプロテクトした皮膚に単回塗布し、パッチで覆い、7日間そのままにする形で、1%レチノールクリームで臨床治療した。パッチの下の治療域の生検試料から、III型プロコラーゲンmRNAが、これらの個体の皮膚において、同じ方法(単回塗布および7日間被覆)で処理した対照(ビヒクル処理した)領域よりも約2.5倍に増えたことが明らかになった。これらの結果を図16に示す。
【0039】
レチノイド処理(サンプロテクトした皮膚に1%レチノールを塗布し、密封し、7日後に検査する)について上述したものと同じ手法を使用して、本願発明者らは、80歳を越える年齢のボランティア3名を処理および試験し、レチノイド処理がERK活性に及ぼす影響について判断した。これらの個体から得た生検試料での結果から、処理後には生体内でのERK活性が、同じボランティアのビヒクル処理した生検領域と比べて2倍以上であることが分かる。これらの結果を図17に示す(同図では、ビヒクル処理した対照皮膚を値1に正規化した)。
【0040】
レチノイド処理後に最も高齢(80歳を越える年齢)のボランティアのグループから得たさらに他の染色切片の生検試料を図18に示す。上述したように、AP−1はMMP形成を誘発し、c−Junタンパク質およびc−Fosタンパク質のヘテロダイマー化によって形成される。図18Aは、レチノイド(レチノール「ROL」)処理の1週間後、高齢者の皮膚におけるc−Junレベル(c−Junは赤く染色)が、ビヒクル処理した皮膚の生検切片と比較して有意に低下している(皆無に等しい)ことを示している。このように、本願発明者らの発明は、c−Jun形成を抑制し、これによってAP−1および結果として生じるMMPの形成を抑制しているように思われる。図18のBおよびCは、I型およびIII型のプロコラーゲン(赤く染色)のレベルは、レチノイド処理した皮膚で高くなることを示している(図18のCの真皮でのプロコラーゲン密度が見掛け上低いのは作成した切片のアーチファクトである;ビヒクル処理した切片よりもレチノール処理した切片の方が染色レベルが高いのは明らかである。)。
【0041】
従って、一実施形態では、本発明は、無毒有効量のレチノイドを有効間隔で塗布することによる、老化皮膚の再生回復方法を含む。この有効間隔は、通常は1日ごとであり、好ましくは毎日組成物の塗布/投与は1回だけである。好ましい処理および管理計画では、有効量をレチノイド約0.4%としているが、正当な理由があればこれよりも高い用量とすることも可能である。レチノールはレチノイドであるのが好ましい。
【0042】
他の実施形態では、本発明は、無毒有効量のレチノイド(好ましくはレチノールまたは全トランス型レチノイン酸)を有効間隔で局所投与することによって、生体内においてケラチノサイトおよび/または線維芽細胞の増殖を誘発する方法を提供する。また、この処理を1日1回または2回行うと好ましく、レチノイドの量は約0.1%〜約1.0%であると好ましい。
【0043】
さらに他の実施形態では、本発明は、有効量のレチノイドを有効間隔で局所投与することによって、高齢者の皮膚におけるMMP−1および/またはMMP−9の発現を低下および/または抑制する。ここでも、この処理を1日1回または2回行うと好ましく、レチノイドの量は約0.1%〜約1.0%であると好ましい。
【0044】
上述したように、ケラチノサイトおよび線維芽細胞の減少とMMP発現の増加は、太陽によるダメージなどの攻撃に影響されることのない、年齢に関連した状態として観察される。このため、本発明では、このような年齢に関連したパラメータすべての有害な変化に対する予防法を提供すると共に、老化によって引き起こされるこれらの有害な病原学的変化を改善するための処理を提供する。
【0045】
もう1つの態様では、本発明は、高齢者の皮膚におけるI型およびIII型のプロコラーゲンの合成を改善または促進することを目的としている。本願発明者らは、多く(少なくとも50%)の高齢の個体のサンプロテクトした皮膚でI型およびIII型のプロコラーゲンの合成量が有意に減少することと、レチノイドの局所塗布によってこの状態を治療できることとを見出した。プロコラーゲンは、皮膚の線維芽細胞によって合成された後、細胞外基質(medium)に分泌されるタンパク質である。この細胞外基質にて、プロコラーゲンは天然産酵素によってコラーゲンに変換される。上側の真皮(細胞外)と線維芽細胞の両方において真皮全体でプロコラーゲンタンパク質の存在量が減ることからも、高齢者の皮膚においてプロコラーゲンの合成量が減ることは明白であり、(例)免疫組織化学などによって判断できる。
【0046】
総合すると、図1に示す対照経路についての本願発明者らの調査から、皮膚の経時老化は、ERKの非活性化および/またはSAPの活性化によって生じ得ることが分かる。事実、本願発明者らは、高齢者の皮膚ではいずれの事象も起こることを確認した。図7〜9に示す結果から、高齢者のサンプロテクトした(太陽光から保護した)皮膚(この皮膚は、通常長期にわたって太陽に暴露されない)では、活性ERKの量が減少し、サイクリンDの量も減少しており、これによって細胞成長率が落ちていることがわかる。また、本願発明者らは、高齢者の皮膚ではI型およびIII型のプロコラーゲンの合成率が落ちることも示した(図6参照)。真皮での細胞成長率が低下すると、これを覆う表皮も易感染性になることが多い。ヒトの皮膚において成長を促すのに重要なERK経路の様々なシグナル成分について本願発明者らが得た試験の結果から、ヒトの皮膚における経時老化は、細胞成長を促進する経路の少なくとも2種類の成分の活性が低下することが特徴であることが分かる。皮膚が老化するにつれて、ERKの活性が低下し、サイクリンDの産生量も減少するため、これによって生じる細胞成長が少なくなり、ついには老化皮膚となる。図15〜図17に示す本願発明者らが得た結果から、ERKの活性レベルを高め、I型およびIII型のプロコラーゲンの産生量を増大する上で、レチノイド処理は生体内にて有効であることが明らかである。
【0047】
もう1つの側面から(新しい真皮の形成に対するものとしての真皮の分解)みると、図4、図5および図10に示す結果から、高齢者の未暴露皮膚でcJUNキナーゼおよびMMPの活性が高まっていることが分かる。分解性MMP酵素の上方制御とプロコラーゲン合成の下方制御によってコラーゲンが欠失し、皮膚が老化して老化皮膚の修復に悪影響がおよぶ。経路の活性が高まると(真皮マトリックスのMMP媒介分解やプロコラーゲン合成の抑制などにより)皮膚が崩壊する割合が増えるが、これに伴って細胞成長を促進する経路の活性が低下(ERK活性の低下など)し、ヒトの皮膚の経時老化を助けることになる。経時的に老化した皮膚を防止および再生回復するための本願発明者らの方法は、未暴露のサンプロテクトした皮膚において、かなりの頻度で被処理部位を密封して試験を行った限りは、顔面や手を含む体中の皮膚の経時老化に適用可能である。光老化を対象とした上述の特許出願および仮出願の教示内容も考慮すると、レチノイドを毎日皮膚に塗布することで、自然老化による作用だけでなく、皮膚の自然老化の太陽による増悪作用も改善される。
【0048】
このように、機能についての特定の理論に拘束されるのは望ましくないとはいえ、本願発明者らは、例えば図13のEおよびFに示す結果には、ERK活性化の改善、c−Jun量の減少、I型および/またはIII型プロコラーゲン量の増加が何らかの形で組み合わさることが、少なくとも部分的に影響していると考えている。レチノイド処理について説明したものと同じ手法(サンプロテクトした皮膚に1%レチノールを塗布し、密封し、7日後に検査する)を使用して、本願発明者らは、80歳を越える年齢のボランティア3名を試験した。これらの個体から得た生検試料での結果から、図13に示すように、処理後には生体内でのERK活性が2倍を上回ったことが分かる(ビヒクル処理した対照皮膚は値1に正規化してある)。
【0049】
レチノイドは、MMP抑制剤の1クラスである。MMPからなる抑制剤は、MMPおよび/または転写因子AP−1およびNF−YBに直接作用することができ、これによってMMPが自然に産生される。アスピリンおよびE5510(非特許文献5に記載)は、NF−KB活性化を抑制する。特許文献7に記載されているようなレチノイドおよびAP−1拮抗作用に特異な解離レチノイド(非特許文献6に記載されているものなど)、グルココルチコイドおよびビタミンDは、AP−1を標的にする。ビタミンDの治療効果を高める化合物は、1997年4月4日に出願され、その内容全体を本願明細書に引用したものとする係属中の出願第08/832,865号(J. Voorhees et al、「Method for Assessing 1,25(OH) Activity in Skin and for Enhancing the Therapeutic Use of 1,25(OH)(皮膚における1,25(OH)活性の評価方法および1,25(OH)の治療用途の拡大方法))に記載されている。レチノール以外の他のレチノイドとしては、ビタミンA(レチノール)、ビタミンAアルデヒド(レチナール)、全トランス、9−シスおよび13−シス レチノイン酸を含むビタミンA酸(レチノイン酸(RA))、エトレチナートの他、特許文献7、特許文献8および特許文献9(これらの内容全体を本願明細書に引用したものとする)に記載されているような他のものなどそれぞれの、天然および合成の類似物が挙げられる。様々な合成レチノイドおよびレチノイド活性を有する化合物は、生体内にてレチノイド活性を呈する程度において、本発明において有用であるものと思われる。これらは、Allergan Inc.に譲渡された様々な特許に記載されており、一例として、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献21、特許文献22、特許文献23、特許文献24、特許文献25、特許文献26、特許文献27、特許文献28、特許文献29、特許文献30が挙げられる。レチノイド活性を有するとされているさらに他の化合物は、特許文献31、特許文献32、特許文献33、特許文献34、特許文献35、特許文献36、特許文献37、特許文献38、特許文献39、特許文献40、特許文献41、特許文献42、特許文献43、特許文献44、特許文献45、特許文献46、特許文献47、特許文献48、特許文献49、特許文献50、特許文献51、特許文献52、特許文献53などの他の米国特許に記載されている。本願明細書に挙げる上述した特許および後述する特許ならびに文献については、その内容全体を本願明細書に引用したものとする。
【0050】
MMPは、BB2284(非特許文献7に記載)、GI129471(非特許文献8に記載)およびTIMP(メタロプロテイナーゼの組織抑制剤であり、脊椎動物のコラゲナーゼおよび他のメタロプロテイナーゼを抑制し、ゼラチナーゼおよびストロメライシンが挙げられる)によっても抑制される。本発明に有用なさらに他の化合物としては、Galardin、BatimastatおよびMarimastatなどのヒドロキサム酸およびヒドロキシウレア誘導体、特許文献54および特許文献55(他の病原のなかでも、皮膚潰瘍、皮膚癌および表皮水泡症の治療におけるMMPの抑制に有用であるとして開示されている)に記載されているものなどが挙げられる。レチノイドは、非特許文献9によって、転写制御を示唆する定常状態レベルでTIMPmRNAの増加を引き起こすと報告されている。それにもかかわらず、本願発明者らの発見によれば、本願発明者らは、これは生体内でのヒトの皮膚には当てはまらないことを見出した。局所塗布可能であり、請求の範囲に記載の発明を実施する上で有用なMMPのさらに他の抑制剤としては、ミノサイクリン、ロリテラサイクリン(roliteracycline)、クロロテトラサイクリン、メタサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリンおよびこれらの様々な塩などのテトラサイクリンおよびその誘導体が挙げられる。アレルギー反応または感作反応が生じる可能性があるため、テトラサイクリンの局所投与時はこのような望ましくない反応が見られないか慎重に観察すべきである。他のMMP抑制剤としては、ゲニステインおよびケルセチン(特許文献56、特許文献57および特許文献58に記載されているものなどであり、これらの内容全体を本願明細書に引用したものとする)および関連の化合物、さらにはNAC(N−アセチルシステイン)などの他の酸化防止剤、緑茶エキスが挙げられる。
【0051】
皮膚に塗布する活性成分の有効量は、組成物の総重量に対して約0.001〜5重量%の範囲であると好ましく、約0.01〜2重量%であるとより好ましく、0.1〜1重量%であるとさらに好ましい。組成物は、塗布時に好ましくは皮膚の約5μg/cmになるように組成する。例えば、本発明において使用するのに好ましい組成物は、強度0.01%〜0.1%のRetin−A(R)レチノイン酸ゲルおよびクリーム(Ortho Pharmaceuticalsから尋常性ざ瘡の治療用に入手可能)であり、ビヒクルは、好ましくは、個々の剤形に応じて、少なくとも1種のブチル化ヒドロキシトルエン、アルコール(t−ブチルアルコールおよび硫酸ブルシンで変性)、ステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、ポリオキシル40ステアリン酸塩、ステアリルアルコールなどの他、これらの相溶混合物が挙げられる。
【0052】
本願発明者らは、年齢に応じて若年被験者(19〜29歳)と高齢被験者(80歳を越える)の2群に分けた15名の被験者を試験し、各群におけるSAPの活性の程度を判断した。c−Junのリン酸エステル化によってSAPキナーゼ活性を測定した。図10は、若年被験者から得た未暴露皮膚の生体内試料のcJUNキナーゼ相対活性は、高齢被験者の未暴露皮膚の場合と比べて約25%であることを示している。これらの結果から、これに対応して高齢者の皮膚でAP−1およびMMPのレベルが高くなると思われる。
【0053】
高齢者の経時老化した皮膚をレチノイドで局所処理すると、細胞内プロコラーゲンタンパク質レベルが若年個体(40歳以下など)で観察されるレベルと同程度まで復旧することが予想外に分かった。特に、本願発明者らは、1%レチノールを経時的に老化した皮膚に単回塗布し、空気透過性の接着絆創膏で覆い、7日後に検査すると、プロコラーゲンタンパク質レベルは、かなり若い個体(例えば40歳未満)のサンプロテクトした皮膚で認められる値に匹敵することを見出した。高齢者にとっては、レチノイドを1日1回または2回塗布し、治療計画に従う方が好ましい。作用薬の塗布頻度を減らしてもよいが、規則的にしておく(例えば1日おき、毎週など)のが好ましい。また、皮膚を密封し、特に紫外線光や洗剤、他の刺激の強い化学物質など環境による侵襲から保護するのが好ましい。したがって、レチノイド組成物に紫外線によるサンスクリーン剤、酸化防止剤などを混合すると有用である。
【0054】
プロコラーゲン産生による刺激は、経時的に老化した皮膚の完全さを維持する上での重要な要因である。老化皮膚は、コラーゲン含有量が減少し、コラーゲン繊維組織が減少していることが一部影響して、薄く脆弱である。レチノイドによるプロコラーゲン合成の促進と、これに続いて起こるコラーゲンへの変換によって、老化皮膚の脆弱さが減り、厚みが増し、外見が改善されるものと思われる。従って、本発明では、細胞内および細胞外の両方においてプロコラーゲン濃度を高め、かつ経時的に老化した皮膚すべてにおいてコラーゲン濃度を増す方法を提供する。さらに、本願明細書に示されるように、高齢者の皮膚では若い人々の皮膚と比べてMMPレベルが高い。得られるコラーゲンが皮膚で分解されてしまうと、プロコラーゲン産生の改善効果が落ちるため、高齢者の皮膚をレチノイドおよびMNIP抑制剤の両方で処理することは、プロコラーゲン生合成の改善という望ましい利益を得る上で重要なことである。事実、本願発明者らは、コラーゲンレベルが落ちていない皮膚では、レチノイドで処理をしてもコラーゲンレベルは正常値を上回らないことを見出した。このため、本願発明者らの発明から、レチノイドを塗布することでコラーゲンレベルが所望のベースライン値まで回復することが分かる。このように、本願発明者らによるレチノイドを用いた発明性のある処理は、(プロ)コラーゲンの線維芽細胞の産生量を増加すると同時に、表皮が薄くなる原因であるMMP活性に妨害される。
【0055】
レチノールは局所投与に好ましい化合物であるが、本発明を実施する上で有用であると思われるレチノールの有効な誘導体としては、レチナール、レチノイン酸(全トランス、9−シス、3−シス異性体を含む)およびこれらの誘導体(7,8−ジデヒドロレチノイン酸など)の他、化粧的に許容可能な塩、エステル、リバースエステルおよびこれらのエーテル、これらの抱合体、これらの混合物をはじめとして先に引用したKligman et al(その内容全体を本願明細書に引用したものとする)に記載されているものなどが挙げられる。
【0056】
商業ベースで組成されている本願明細書に記載の組成物には、従来の様々な着色料、香料、増粘剤(キサンタンガムなど)、防腐剤、湿潤剤、皮膚軟化剤、緩和剤、界面活性剤、分散剤、浸透促進剤などを含むことができ、さらに利点が得られ、かつ局所製剤の触り心地および/または外見が改善されるように添加可能である。同様に、この組成物は、クリーム、ローション、軟膏、石鹸または液体ソープ、シャンプー、マスクなどに組成可能である。
【0057】
上述した説明および以下の方法は、本発明の一例を示すためだけのものであり、これを限定することは意図していない。様々な変更、修正おおび追加が可能であることは、本明細書を熟読した当業者であれば理解できると思われ、これらは請求の範囲に規定する本発明の趣旨および範囲に包含されるものとする。
【0058】
実施例で使用する方法
このセクションで挙げる参考文献は、その内容全体を本願明細書に引用したものとする。
【0059】
組織および形態計測
各個体の臀部の皮膚から4mmの複製穿孔生検試料を得た。ホルマリン固定した組織片を切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、無作為化して盲検用にした。Sony DCX−151高解像度カメラと組み合わせたオリンパス BX40顕微鏡を使用して、これらの切片を検査した。NIH画像形成ソフトウェアを使用して一方の側のブロックした領域200μmを単離し、これら2つの領域各々について(25μm離れた)4部位ずつ、上皮の厚さを評価した。これと同じ2つのブロックした領域を使用して、上皮細胞の数を計数した。組織切片全体での内在細胞核(すなわち、毛細血管とは関連のない真皮表皮接合部の下の核)を、真皮細胞性の測定値として得た。同じ盲検切片の結合組織の繊維間隔、厚さ、組織崩壊の程度および組織崩壊深度について、各パラメータごとに1〜9までの評点を付けた。
【0060】
生化学分析用の皮膚上澄みの調製
液体窒素下で乳鉢および乳棒を用いて皮膚試料を砕き、10mM Hepesと、1mM EDTAと、5mM EGTAと、10mM MgClと、50mM グリセロリン酸と、5mM NaVOと、2mM DTTと、0.5mM PMSFと、アプロチニン10μg/mlと、ロイペプチン10μg/mlと、ペプスタチン10μg/mlと、0.5%NP−40とを含有する緩衝液中にて、Dounce組織グラインダを使用して均質化した。ホモジネートを14,000gで15分間遠心分離し、上澄みを回収して本願明細書で説明する生化学的判定に用いた。
【0061】
生体外細胞成長
生検試料を小さな断片に切断(組織片1つあたり断片約15個)し、この組織断片をプラスチック製の細胞培養フラスコに移した。培地は、アール塩を含むダルベッコ変法イーグル最小必須培地、非必須アミノ酸および10%ウシ胎仔血清で構成した。組織断片を5%C0/95%空気にて37℃で1ヶ月まで保温した。ケラチノサイトおよび/または線維芽細胞が組織から成長したか否かを判断し、ここからケラチノサイトおよび線維芽細胞が単離された断片の比率について各断片に評点を付け、非特許文献10=Varani,J., et al.、J Clin.Invest.、96、1747〜1756(1994)に記載の方法に従って判断した。
【0062】
マトリックスメタロプロテイナーゼアッセイ 組織片を生検直後に液体窒素中にて凍結し、0mMトリスHCl(pH7.6)に5mM CaClを加えた中で均質化し、3000×gで10分間遠心分離して粒子を除去した。3H−標識した原線維I型コラーゲン(非特許文献11に記載されている)から可溶の放射性断片を放出する能力を、コラーゲン分解性活性の測定基準として用いた。組織抽出物を1mMアミノフェニル酢酸水銀(APMA)と一緒に3時間保温し、マトリックスメタロプロテイナーゼの不活性形態を活性形態に変換した。次に、コラーゲン基質(マサチューセッツ州ボストンのNEN−DuPont)0.2μCiを組織抽出物50μlと一緒に24時間保温した。24時間の温置期間の最後で、12,000×gにて10分間試料を遠心分離し、無傷タンパク質をペレット化した。上澄流体に残っている放射能を測定し、ここから加水分解された基質の比率を求めた。
【0063】
ゼラチン酵素電気泳動法(Varani et al.、前述の非特許文献9)を使用して、MMP−2(72−kDのゼラチナーゼ;ゼラチナーゼA)およびMMP9(92−kDのゼラチナーゼ;ゼラチナーゼB)活性を評価した。ゼラチン1mg/mlを含有した8.5%SDS−ポリアクリルアミドゲル中で、組織抽出物を電気泳動した。泳動後、1% リトンX−100にて3回連続して洗浄し、SDSを除去した。最初の2回の洗浄は各々20分、最後の洗浄は一晩行った。レーザデンシトメトリーによって加水分解ゾーン幅を定量化した。
【0064】
ERKリン酸化(phosphorylation)および活性のアッセイ
Santa Cruz Biotechnology Inc.から得た抗体を用いて皮膚上澄中のERK1およびERK2を免疫沈降し、非特許文献13に記載されているようにして、ミエリン塩基性タンパク質を基質として用いて酵素学的活性についてアッセイした。上澄中の全ERKおよびリン酸化ERK1およびERK2を、New England Biolabs Inc.(マサチューセッツ州ビバリー)から得た抗体を用いたウエスタン分析によって求めた。
【0065】
c−Junキナーゼ活性アッセイ
(例えば、非特許文献14に記載されているようにして)皮膚上澄中のc−Jun活性を固相キナーゼアッセイによって求めた。
【0066】
RNAのノーザン分析
(非特許文献15に記載されているような)塩酸グアニジニウム溶解および超遠心分離によって、全RNA(例えばc−Junでは、プロコラーゲン(α1(III))を皮膚試料から単離した。判定対照とするmRNAごとにランダムに初回抗原刺激した32P標識cDNAプローブを用いて、G.J.Fisher et al.によって記載されている(非特許文献16)ようにして、全RNAのノーザン分析(40μg/レーン)を行った。逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応を使用してIII型プロコラーゲンmRNAを判断した。
【0067】
タンパク質のウエスタン分析
Junタンパク質、サイクリンD(いずれの抗体もSanta Cruz Biotechnology Inc.から入手)およびリン酸化c−Jun(New England Biolabs Inc.から得た抗体)を、G.J.Fisher et al.によって記載されている(非特許文献17)ようにして、ウエスタン分析によって、ヒトの皮膚から得た原子核抽出物中にて検出した。
【0068】
免疫反応性タンパク質を拡張化学ルミネッセンス検出によって可視化し、レーザデンシトメトリーによって定量化するか、あるいは拡張化学蛍光検出によって可視化し、Storm画像形成装置(カリフォルニア州パロアルトのMolecular Dynamics)によって定量化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスメタロプロテナーゼ(MMP)非レチノイド抑制剤を使用することで、経時的に老化した皮膚を再生回復させるための薬剤であって、前記薬剤は、アスピリン、E5510、糖質コルチコイド、ビタミンD、BB2284、GI12947、ヒドロキサム酸塩およびハイドロキシウレア誘導体、テトラサイクリンおよびその誘導体、ゲニステイン、ケルセチン、N−アセチルシステイン、緑茶エキス、及びこれらの様々な塩から選択される少なくとも一種の前記MMP非レチノイド抑制剤の無毒有効量含み、さらに、前記薬剤は、更に前記MMPを抑制し、前記プロコラーゲン合成を促進するレチノイドを含むことを特徴とする薬剤。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤において、前記レチノイドが、レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノイン酸塩、これらの誘導体または類似物、またはこれらの混合物から選択されることを特徴とする薬剤。
【請求項3】
請求項2に記載の薬剤において、前記レチノイドがレチノール、または、レチノイン酸であることを特徴とする薬剤。
【請求項4】
請求項2に記載の薬剤において、前記皮膚がサンプロテクトした皮膚であることを特徴とする薬剤。
【請求項5】
請求項1に記載の薬剤において、前記ヒドロキサム酸塩およびハイドロキシウレア誘導体は、ガラルジン(Galaredin)、バチマスタット(Batimastat)及びマリマスタット(Marimastat)の内のいずれか一つであることを特徴とする薬剤。
【請求項6】
無毒のレチノイドと局所投与可能な非レチノイドMMP抑制剤を使用することで、経時的に老化した皮膚でのプロコラーゲンでの産生を正常化するための局所投与可能な化粧用薬剤であって、を製造するために、無毒のレチノイドと局所投与可能な非レチノイドMMP抑制剤を使用する方法であって、第1の薬剤は、無毒のレチノイド投与量を備え、第2の薬剤は非レチノイドMMP抑制剤の投与量を備え、前記薬剤が皮膚に投与されたときに、前記投与量はプロコラーゲンでの産生を正常化し、UV−誘発されたMMPを抑制するのに有効な量を備え、前記非レチノイドMMP抑制剤は、アスピリン、E5510、糖質コルチコイド、ビタミンD、BB2284、GI12947、ヒドロキサム酸塩およびハイドロキシウレア誘導体、テトラサイクリンおよびその誘導体、ゲニステイン、ケルセチン、N−アセチルシステイン、緑茶エキス、及びこれらの様々な塩から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする薬剤。
【請求項7】
請求項6に記載の薬剤において、前記レチノイドがレチノールであることを特徴とする薬剤。
【請求項8】
請求項6に記載の薬剤において、前記レチノイドを規則的に塗布するように、調剤されていることを特徴とする薬剤。
【請求項9】
請求項8に記載の薬剤において、前記レチノイドを毎日塗布するように、調剤されていることを特徴とする薬剤。
【請求項10】
請求項6に記載の薬剤において、前記ヒドロキサム酸およびハイドロキシウレア誘導体は、ガラルジン(Galaredin)、バチマスタット(Batimastat)及びマリマスタット(Marimastat)の内のいずれか一つであることを特徴とする薬剤。
【請求項11】
請求項6に記載の薬剤において、前記第1及び第2の薬剤が、局所的に投与可能な単一剤形で結合していることを特徴とする薬剤。
【請求項12】
請求項6に記載の薬剤において、前記経時的に老化した皮膚が、サンプロテクトした皮膚であることを特徴とする薬剤。
【請求項13】
レチノイドと非レチノイドMMP抑制剤を使用することで、老化したヒトの皮膚でのERK活性レベルを改善する局所用薬剤であって、レチノイドと非レチノイドMMP抑制剤を使用する方法であって、前記局所用薬剤は、レチノイドと非レチノイドMMP抑制剤の無毒有効量を含み、前記非レチノイドMMP抑制剤は、アスピリン、E5510、糖質コルチコイド、ビタミンD、BB2284、GI12947、ヒドロキサム酸塩およびハイドロキシウレア誘導体、テトラサイクリンおよびその誘導体、ゲニステイン、ケルセチン、N−アセチルシステイン、緑茶エキス、及びこれらの様々な塩から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする薬剤。
【請求項14】
請求項13に記載の薬剤において、前記レチノイドがレチノールまたはレチノイン酸であることを特徴とする薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−195817(P2010−195817A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107925(P2010−107925)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願平10−537021の分割
【原出願日】平成10年2月23日(1998.2.23)
【出願人】(504293492)ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティー、オブ、ミシガン (2)
【Fターム(参考)】