説明

ヒト肥満感受性遺伝子およびその使用

本発明は、肥満および関連した疾患の診断、予防、および処置に、ならびに、治療活性薬物のスクリーニングに使用できる、ヒト肥満感受性遺伝子の同定を開示する。本発明は、より特定すると、第11染色体上のMAP3K11遺伝子およびその特定の対立遺伝子は、肥満への感受性に関連し、治療的介入の新規標的を示すことを開示する。本発明は、MAP3K11遺伝子および発現産物の特定の突然変異、ならびに、これらの突然変異に基づいた診断ツールおよびキットに関する。本発明は、冠動脈性心疾患および代謝疾患(低アルファリポタンパク血症、家族性複合型高脂血症、インスリン抵抗性症候群Xを含む)または複数の代謝疾患、冠動脈疾患、糖尿病、および異常脂肪血症性高血圧の疾病素質の診断、検出、予防、および/または処置に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、遺伝学および医学の分野に関する。本発明は、より具体的には、肥満および関連した疾患の診断、予防および処置に、ならびに、治療活性薬物のスクリーニングに使用できる、ヒト肥満感受性遺伝子の同定を開示する。本発明は、より特定すると、肥満に対する感受性に関連し、治療介入の新規標的を表す、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼ11(MAP3K11)遺伝子の特定の対立遺伝子を開示する。本発明は、MAP3K11遺伝子および発現産物の特定の突然変異、ならびに、これらの突然変異に基づいた診断ツールおよびキットに関する。本発明は、冠動脈性心疾患および代謝疾患(低アルファリポタンパク血症、家族性複合型高脂血症、インスリン抵抗性症候群Xを含む)または複数の代謝疾患、冠動脈疾患、糖尿病、および異常脂肪血症性高血圧の疾病素質の診断、検出、予防、および/または処置に使用できる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
近代工業国の全医療費の約3〜8%が、現在、肥満の直接費に起因している(Wolf、1996)。ドイツでは、肥満および合併疾患に関連する全費用(直接費用と間接費用の両方)は、1995年に、210億ドイツマルクと推定された(Schneider、1996)。2030年までに、これらの費用は、たとえ肥満罹患率がさらに増加しなくても、50%増加するだろう。
【0003】
肥満は、しばしば、健康が損なわれる程度までに、脂肪組織において異常または過剰に脂肪が蓄積された状態として単純に定義される。根底にある疾患は、望ましくない正のエネルギー平衡と体重増加の過程である。内臓脂肪分布は、皮下脂肪分布よりも健康リスクがより高い。
【0004】
肥満度指数(BMI;kg/m)は、最も有用であるが雑な個体群レベルの肥満の指標を提供する。個体群における肥満の発生率およびそれに関連したリスクを推定するのに使用できる。しかし、BMIは、体組成または体脂肪分布を説明するものではない(WHO、1998)。
【0005】
【表1】

【0006】
肥満は、肥満および重度の肥満の定義のためにカットオフ値として85および95BMIパーセンタイル値を使用して定義されている。BMIパーセンタイル値は、数個の個体群で計算され;1994年より、ドイツ国民栄養調査に基づいたドイツ人口におけるパーセンタイル値が入手可能となった(Hebebrandら、1994、1996)。様々な重量クラスのWHO分類は、成人にのみ適用可能であるので、小児および青年期の肥満の定義にはBMIパーセンタイル値を言及することが慣用的になっている。
【0007】
肥満の罹患率の近年の上昇は、数カ国の健康システムにとって大きな関心事である。米国では、全てのクラスの肥満の罹患率の増加が、1976年から1990年の間の期間に始まった。この期間に、肥満の罹患率は、1.5倍を超過して増加し、14.5%から22.5%にまで上昇した。類似の傾向が、ヨーロッパおよび南アメリカの他の国でも観察されている。
【0008】
小児および青年もこの傾向から除外されていない。全く正反対に、米国での増加はかなりのものである。従って、1960年代から1990年の間に、過体重および肥満は、6歳から17歳の間で劇的に増加した。この増大分は、カットオフ値として85BMIパーセンタイル値(1960年代で計算)を使用して40%の相対的増加、および、95パーセンタイル値を使用すると100%の相対的増加につながる。1985年から1995年までに極度の肥満の入院患者として処置したドイツ人小児および青年の横断研究において、この10年間の期間にわたり、ほぼ2kg/mという平均BMIの有意な増加を報告した。この極端なグループにおいては、増大分は、最上部のBMI範囲において最も顕著であった。
【0009】
肥満罹患率のこのような増加の根底にある機序は不明である。根底にある原因として環境的な因子が一般的に思い出される。基本的には、カロリー摂取増加と身体的活動レベルの減少の両方が考察されている。英国では、肥満率の増加は、後者の機序に起因する。従って、この国では、平均的なカロリー摂取は過去20年間において幾分減少しているが、テレビを見てすごす時間の増加および家あたりの車の平均数から生じる間接的な証拠により、関連性のある原因因子として身体的活動レベルの低減が提示されている。
【0010】
肥満に関連した潜在的に生命に危険のある慢性的な健康問題は、4つの主な領域に該当する:1)心臓血管問題(高血圧、慢性心疾患、および卒中を含む)、2)インスリン抵抗性に関連した容態、すなわち非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)、3)特定の種類の癌、主にホルモンに関連した大腸癌、および4)胆嚢疾患。肥満に関連した他の問題には、呼吸困難、慢性筋骨格問題、皮膚問題および不妊(WHO、1998)が含まれる。
【0011】
これらの疾患を処置するための主な現在利用可能な戦略には、食事制限、身体的活動の増大、薬理学的および手術的アプローチが含まれる。成人では、保守的な介入を使用しての長期体重減少は稀である。現在の薬理学的介入では、典型的には、5kgから15kgの体重減少を誘導し;医薬を中止すれば、新たな体重増加が起こる。手術的処置は比較的成功を収めており、極度の肥満および/または重度の医学的合併症の患者に準備される。
【0012】
近年、10歳の非常に肥満の少女(レプチン欠陥突然変異が検出されている)を、組換えレプチンで成功裡に処置した。これは、病的肥満の根底にある突然変異の検出から治療的に恩恵を受けた最初の個体である。
【0013】
数回の双子の研究を実施して、BMIの遺伝率を推定し、このいくつかの研究には1000を超える双子の対が包含されている。結果は非常に一貫していた:一卵性双生児の間の対内相関は、典型的には、年齢および性別に関係なく、0.6から0.8の間であった。1つの研究では、一卵性双生児と二卵性双生児の相関は、基本的に同じであり、双子が別々に育てられようと一緒に育てられようと関係なかった。BMIの遺伝率は0.7と推定され;非共有環境的な因子により、残りの30%のばらつきが説明された。驚くべきことに、共有環境因子では、ばらつきのかなりの割合が説明されなかった。高カロリーおよび低カロリー栄養の両方により、一卵性双生児対の両方のメンバー間で類似した度合いの体重増加または減少が起こり、このことは、遺伝因子が、体重に対する、環境的に誘導されたエネルギー利用度のばらつきの効果を調節していることを示す。食べ過ぎおよび少食時の代謝反応および体脂肪分布の変化もまた、遺伝的制御下にある(Hebebrandら、1998に論評)。
【0014】
大規模な養子縁組研究により、養子のBMIは、その生物学的両親のBMIと相関しており、養父母のBMIとは相関していないことが判明した。家族研究によれば、兄弟姉妹のBMI間の相関は、0.2から0.4の間である。親子相関は、典型的には僅かにより低い。分離分析により、大きな劣性遺伝子効果が繰り返し示唆されている。これらの分析に基づいて、サンプルサイズの計算は、調和および不調和アプローチの両方に基づいて実施した。期待に反して、調和した兄弟姉妹対のアプローチは優れており;同じ力を達成するのに、より少ない数の家族が必要とされた。
【0015】
母親または父親または両方の極めて肥満の若い初発患者に基づいた家族研究では、大半の家族においてBMI>90デシルを示す。BMI>95パーセンタイルを有する指標患者に基づいて、それぞれの家族の約20%が、BMI>90パーセンタイルを有する兄弟姉妹を有する。
【0016】
結論すると、環境因子が特定の遺伝子型と相互作用し、これにより個体が肥満の発生に多かれ少なかれ感受性となるようである。さらに、主な遺伝子は検出されているという事実にも関わらず、このような主な遺伝子から、僅かな影響しかない遺伝子まで分布が及んでいると考えることは必要である。
【0017】
1994年の終盤におけるレプチン遺伝子の発見(Zhangら、1994)の後、食欲および体重調節の根底にある調節システムを明らかにする科学的努力が実質的に数多くなされた。現在最も急速に成長している生物医学分野である。この急成長により大規模な分子遺伝子的活動がなされ、明白な臨床的関心から、これらは基本的に全てヒト、げっ歯類および他の哺乳動物の肥満に関連したものである(Hebebrandら、1998)。
【0018】
これに関して、突然変異によって現在知られている単一遺伝子形の肥満が生じる多くの遺伝子が、げっ歯類においてクローニングされている。これらの突然変異の全体的な結果は、現在解析中である。これらのモデルにより、体重調節に関与する複雑な調節システムへの洞察が提供され、その最もよく知られているものには、レプチンおよびその受容体が含まれる。
【0019】
マウスでは、またブタにおいても、体重調節に最も関連のある可能性がある15を超える量的形質遺伝子座(QTL)が同定されている。
【0020】
ヒトでは、4つのきわめて稀な常染色体劣性形の肥満が、1997年現在で記載されている。レプチン、レプチン受容体、プロホルモン転換酵素1およびプロオピオメラノコルチン(POMC)をコードする遺伝子の突然変異が、過食症に関連した、早期発症型の重度の肥満を引き起こすことが示されている。明確なさらに他の臨床異常(例えば赤毛、原発性無月経)および/または内分泌学的異常(例えば顕著に変化した血清レプチンレベル、ACTH分泌欠乏)により、それぞれの候補遺伝子が指摘された。単一遺伝子動物モデルおよびヒト単一遺伝子形の両方により、体重調節の根底にある複雑なシステムへの新しい洞察がなされている。
【0021】
ごく最近では、ヒトにおける最初の常染色体優性形の肥満が記載された。メラノコルチン−4受容体遺伝子(MC4R)内の異なる2つの突然変異が、これらの変異体にヘテロ接合性の発端者において極度の肥満をもたらすことが観察された。前記の知見とは対照的に、これらの突然変異は、極度の肥満以外の容易に明確な表現型異常とは関係しない(Vaisseら、1998;Yeoら、1998)。興味深いことに、両方のグループが、比較的小さな試験群(n=63およびn=43)における系統的な選抜により突然変異を検出した。
【0022】
Hinneyら(1999)は、合計して492の肥満小児および青年におけるMC4Rをスクリーニングした。全部でハプロ不全をもたらす2つの異なる突然変異を有する4人の個体が検出された。1人は、以前にYeoら(1998)により観察された人と同一であった。3人の個体で検出された他の突然変異は、受容体の細胞外ドメインにおいて終止突然変異を誘導した。約1%の極めて肥満な個体が、MC4Rにおいてハプロ不全突然変異を有している。2つの形のハプロ不全の他に、Hinneyら(1999)はまた、保存的および非保存的アミノ酸交換の両方につながるその他の突然変異を検出した。興味深いことに、これらの突然変異は、主に、肥満試験群において観察された。これらの突然変異の機能的関係は現在不明である。
【0023】
MC4R突然変異を有する個体の同定は、可能な薬理学的判断に照らして興味深い。従って、全てのメラノコルチンのコア配列を示す副腎皮質刺激ホルモン4−10(ACTH4−10)の鼻腔内適用により、健康対照において、体重、体脂肪質量および血漿中レプチン濃度が低下した。突然変異保有者が、この処置(理論的にはその減少した受容体密度の埋め合わせができる)に対してどのように反応するのかに関する疑問が生じる。
【0024】
体重調節における特定の遺伝子の関与は、トランスジェニックマウスから得られたデータによりさらに実証される。例えば、MC4R欠損マウスは、初期発症型の肥満を発生する(Huszarら、1997)。
【0025】
異なるグループが、肥満または依存的な表現型に関連したゲノム走査を実施している(BMI、レプチンレベル、脂肪質量など)。このアプローチは系統的でモデルが必要ないことから、非常に見込みがあるようである。さらに、すでに珍しく成功裏であることが示されている。従って、比較的小さな試験群を解析することにより、正の連鎖結果が得られた。より重要なことには、いくつかの知見はすでに反復されている。以下の各々の領域は、少なくとも2つの独立したグループにより同定されている:染色体1q32、染色体2p21、染色体10、および染色体20q13(Rankinenら、2002)。
【0026】
発明の開示
発明の要約
本発明は、今回、ヒト肥満感受性遺伝子の同定を開示し、これは、肥満および関連した疾患の診断、予防、および処置に、ならびに、治療活性薬物のスクリーニングに使用できる。
【0027】
本発明は、肥満、冠動脈性心疾患および代謝疾患(低アルファリポタンパク血症、家族性複合型高脂血症、インスリン抵抗性症候群Xを含む)または複数の代謝疾患、冠動脈疾患、糖尿病、および異常脂肪血症性高血圧の疾病素質の診断、検出、予防、および/または処置に使用でき、この方法は、被験者からの試料中における、MAP3K11遺伝子またはポリペプチドの変化の存在を検出することを含み、前記変化の存在は、肥満または関連した疾患の存在または疾病素質を示すものである。
【0028】
本発明はまた、MAP3K11発現または活性のモジュレーション(modulation)を通して、被験者における肥満および/または関連した疾患を処置する方法に存する。このような処置は、例えば、MAP3K11ポリペプチド、MAP3K11DNA配列(MAP3K11遺伝子座に指向したアンチセンス配列およびRNAiを含む)、抗MAP3K11抗体、またはMAP3K11発現または活性をモジュレーションする薬物を使用する。
【0029】
本発明はまた、遺伝子療法、タンパク質置換療法、またはMAP3K11タンパク質模倣体および/または阻害剤の投与などの、前駆症状処置または併用療法を含む、MAP3K11遺伝子の有害な対立遺伝子を有する個体を処置する方法に関する。
【0030】
本発明のさらなる態様は、肥満または関連した疾患に関連したMAP3K11遺伝子の対立遺伝子またはその遺伝子産物のモジュレーションまたはそれへの結合に基づいた、肥満または関連した疾患の治療のための薬物のスクリーニングに存する。
【0031】
本発明はさらに、患者におけるMAP3K11遺伝子座における肥満または関連した疾患に関連した変化(群)のスクリーニングに関する。このようなスクリーニングは、肥満および関連した疾患の存在、リスクまたは疾病素質を診断するのに、および/またはこのような疾患の処置の効力を評価するのに有用である。
【0032】
本発明はまた、特に、変化したMAP3K11遺伝子または遺伝子産物を特異的に検出または増幅するように設計された、プライマー、プローブ、オリゴヌクレオチド、および基材または支持体(これに前記産物が固定されている)などの産物に存する。本発明はまた、変化したMAP3K11遺伝子または遺伝子産物の検出のための、プライマー、プローブ、オリゴヌクレオチド、および前記産物が固定されている基材または支持体の使用に関する。
【0033】
本発明のさらなる態様は、MAP3K11ポリペプチド断片に特異的な抗体およびこのような抗体の誘導体、このような抗体を分泌しているハイブリドーマ、およびこのような抗体を含む診断キットを含む。より好ましくは、前記抗体は、変化を含むMAP3K11ポリペプチドまたはその断片に特異的であり、前記変化は、MAP3K11の活性を修飾している。
【0034】
本発明はまた、変化を含むMAP3K11遺伝子またはその断片に関し、前記変化は、MAP3K11の活性を修飾している。本発明はさらに、変化を含むMAP3K11ポリペプチドまたはその断片に関し、前記変化は、MAP3K11の活性を修飾している。
【0035】
発明の詳細な説明
本発明は、ヒト肥満感受性遺伝子としてのMAP3K11の同定を開示する。肥満である89家族からの様々な核酸試料を、特定のゲノムHIPプロセスにかけた。このプロセスにより、肥満被験者において変化している個体群における特定の同祖的(identical-by-descent)断片の同定がなされた。IBD断片のスクリーニングにより、我々は、肥満および関連表現型の候補として、染色体11q13.1(MAP3K11)遺伝子上にマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼを同定した。この遺伝子は、実際に重要な区間に存在し、肥満の遺伝的調節に一致した機能的表現型を表す。
【0036】
従って、本発明は、肥満および関連した疾患の診断、予防および処置のために、ならびに、治療活性薬物のスクリーニングのための、MAP3K11遺伝子および対応する発現産物を使用することを提案する。
【0037】
定義
肥満および代謝疾患:肥満は、健康が損なわれる程度までに、脂肪組織において異常または過剰に脂肪が蓄積された任意の状態として捉えられる。関連疾患、疾病または病態には、より具体的には、任意の代謝疾患(低アルファリポタンパク血症、家族性複合型高脂血症、インスリン抵抗性症候群Xを含む)または複数の代謝疾患、冠動脈疾患、糖尿病、および異常脂肪血症性高血圧が含まれる。本発明は、様々な被験者、特にヒト(成人、小児、および出生前段階を含む)に使用し得る。
【0038】
本発明の脈絡内で、MAP3K11遺伝子座は、細胞または生物中の全てのMAP3K11配列または産物を示し、これにはMAP3K11コード配列、MAP3K11非コード配列(例えばイントロン)、転写および/または翻訳を制御しているMAP3K11調節配列(例えばプロモーター、エンハンサー、終結因子などを含む)、ならびに、対応する発現産物、例えばMAP3K11RNA(例えばmRNA)およびMAP3K11ポリペプチド(例えばプレタンパク質および成熟タンパク質)が含まれる。
【0039】
本出願に使用したような「MAP3K11遺伝子」なる用語は、肥満および代謝疾患に対する感受性に関連した、ヒト染色体11上のヒトマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼ遺伝子、ならびに、その変異体、類似体およびその断片(その対立遺伝子を含む(例えば生殖系列突然変異))を示す。MAP3K11遺伝子はまた、MLK3、PTK1、SPRK、MLK−3、またはMGC17114と称してもよい。
【0040】
「遺伝子」なる用語は、ゲノムDNA(gDNA)、相補的DNA(cDNA)、合成または半合成DNAを含む、あらゆる種類のコード核酸、ならびに、あらゆる形の対応するRNAを含むものと考える。遺伝子なる用語は、特に、MAP3K11をコードしている組換え核酸、すなわち、例えば配列の会合、切断、ライゲート、または増幅により人工的に創造したあらゆる非天然の核酸分子を含む。MAP3K11遺伝子は、典型的には、二本鎖であるが、例えば一本鎖のように他の形態も考えられ得る。MAP3K11遺伝子は、様々な入手先から、当分野で知られている様々な技術に従って、例えばDNAライブラリーのスクリーニングにより、または様々な天然源からの増幅により得ることができる。組換え核酸は、化学合成、遺伝子工学、酵素的技術、またはその組合せを含む慣用的な技術により調製し得る。適切なMAP3K11遺伝子配列は、MAP3K11のユニジーン・クラスターなどの遺伝子バンクで見出し得る(Hs.NM_002419)。MAP3K11遺伝子の具体例には、配列番号1が挙げられる。
【0041】
「MAP3K11遺伝子」なる用語は、配列番号1または前記に同定したような任意のコード配列の任意の変異体、断片または類似体を含む。このような変異体には、例えば、個体間の対立遺伝子変異による天然変異体(例えば多型)、肥満に関連した突然変異対立遺伝子、選択的スプライシング形などが含まれる。変異体なる用語にはまた、他の起源または生物からのMAP3K11遺伝子配列も含まれる。変異体は、好ましくは、実質的には配列番号1と相同であり、すなわち、配列番号1と少なくとも約65%、典型的には少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約95%のヌクレオチド配列同一性を示す。MAP3K11遺伝子の変異体および類似体はまた、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で前記に定義したような配列(またはその相補鎖)とハイブリダイズする、核酸配列も含む。典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、30℃を超える、好ましくは35℃を超える、より好ましくは42℃を超過した温度、および/または約500mM未満、好ましくは200mM未満の塩分が含まれる。ハイブリダイゼーション条件は、温度、塩分、および/またはSDS、SSCなどの他の試薬の濃度を修飾することにより当業者により調整され得る。
【0042】
MAP3K11遺伝子断片は、前記に開示したような配列の少なくとも約8個連続したヌクレオチド、好ましくは少なくとも約15個、より好ましくは少なくとも約20個のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも30個のヌクレオチドの任意の部分を示す。断片には、8から100個のヌクレオチド、好ましくは15から100個、より好ましくは20から100個の全ての可能なヌクレオチド長が含まれる。
【0043】
MAP3K11ポリペプチドは、前記に開示したようなMAP3K11遺伝子によりコードされる任意のタンパク質またはポリペプチドを示す。「ポリペプチド」なる用語は、ある長さのアミノ酸を含む任意の分子を含む。この用語には、ペプチドおよびタンパク質などの様々な長さの分子が含まれる。ポリペプチドは、グリコシル化および/またはアセチル化および/または化学反応またはカップリングなどにより修飾されていてもよく、1または数個の非天然または合成アミノ酸を含んでいてもよい。MAP3K11ポリペプチドの具体例には、配列番号2の全てもしくは一部またはその変異体が挙げられる。
【0044】
診断
本発明は、今回、被験者におけるMAP3K11遺伝子座のモニタリングに基づいた診断法を提供する。本発明の脈絡内では、「診断」なる用語には、成人、小児、および出生前における、様々な段階(初期、前駆症状段階、および後期段階を含む)における検出、モニタリング、投与、比較などが含まれる。診断には、典型的には、予後、疾病素質または発生リスクの評価、最も適切な処置を規定するための被験者の特徴づけ(薬理遺伝学)などが含まれる。
【0045】
本発明の特定の目的は、被験者における肥満または関連した疾患の存在またはその疾病素質を検出する方法に存し、この方法は、被験者からの試料中において、前記試料中のMAP3K11遺伝子座の変化の存在を検出することを含む。前記変化の存在は、肥満または関連した疾患またはその疾病素質の存在を示す。所望により、前記方法は、被験者から試料を得る前段階を含む。好ましくは、前記試料中のMAP3K11遺伝子座の変化の存在は、試料の遺伝子型解析により検出される。
【0046】
本発明の別の特定の目的は、肥満または関連した疾患の処置に対する被験者の応答を評価する方法に存し、この方法は、被験者からの試料中において、前記試料中のMAP3K11遺伝子座の変化の存在を検出することを含む。前記変化の存在は、前記処置に対する特定の応答を示す。好ましくは、前記試料中のMAP3K11遺伝子座の変化の存在は、試料の遺伝子型解析により検出される。
【0047】
変化は、MAP3K11gDNA、RNA、またはポリペプチドのレベルで決定し得る。所望により、検出は、MAP3K11遺伝子の全てまたは一部のシークエンスにより、あるいは、MAP3K11遺伝子の全てまたは一部の選択的ハイブリダイゼーションまたは増幅により実施する。より好ましくは、MAP3K11遺伝子特異的増幅は、変化同定段階前に実施する。
【0048】
MAP3K11遺伝子座の変化は、遺伝子座のコードおよび/または非コード領域の、単独または様々な組合せの、任意の形態の突然変異(群)、欠失(群)、再編成(群)および/または挿入であり得る。突然変異には、より具体的には、点突然変異も含まれる。欠失は、2残基から全体の遺伝子または遺伝子座までのように、遺伝子座のコードまたは非コード部分の2個以上の残基の任意の領域を包含し得る。典型的な欠失は、ドメイン(イントロン)または反復配列または約50個未満の連続塩基対断片のようなより小さな領域に影響を及ぼすが、より大きな欠失も同様に起こり得る。挿入は、遺伝子座のコードまたは非コード部分の1または数個の残基の付加を包含し得る。挿入には、典型的には、遺伝子座の1から50個の塩基対の付加が含まれ得る。再編成は、配列の反転を含む。MAP3K11遺伝子座変化により、終止コドンの創造、フレームシフト突然変異、アミノ酸置換、特定のRNAスプライシングまたはプロセシング、産物不安定性、切断短縮ポリペプチド産生などが生じ得る。変化により、機能、安定性、標的化または構造の変化したMAP3K11ポリペプチドが産生され得る。また変化により、タンパク質発現の減少、または、代替的には、前記産生の増加が引き起こされ得る。
【0049】
第一の変法において、本発明の方法は、MAP3K11遺伝子配列の変化の存在を検出することを含む。これは、例えば、MAP3K11遺伝子、ポリペプチド、またはRNAの全てまたは一部のシークエンスにより、選択的ハイブリダイゼーションにより、または選択的増幅により実施できる。
【0050】
別の変法において、前記方法は、MAP3K11RNA発現の変化の存在を検出することを含む。RNA発現の変化は、変化したRNA配列の存在、変化したRNAスプライシングまたはプロセシングの存在、RNAの質の変化の存在などを含む。これらは、例えば、MAP3K11RNAの全てまたは一部のシークエンス、または、選択的ハイブリダイゼーション、または前記RNAの全てまたは一部の選択的増幅を含む、当分野で知られている様々な技術により検出し得る。
【0051】
さらなる変法において、前記方法は、MAP3K11ポリペプチド発現の変化の存在を検出することを含む。MAP3K11ポリペプチド発現の変化は、変化したポリペプチド配列の存在、MAP3K11ポリペプチドの質の変化の存在、組織分布の変化の存在などを含む。これらは、例えば、シークエンスおよび/または特異的リガンド(例えば抗体)への結合を含む、当分野で知られている様々な技術により検出し得る。
【0052】
前記に示したように、当分野で知られている様々な技術を使用して、変化したMAP3K11遺伝子またはRNA発現または配列を検出または定量し得、これには、シークエンス、ハイブリダイゼーション、増幅および/または特異的リガンド(例えば抗体)への結合が含まれる。他の適切な方法には、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)、対立遺伝子特異的増幅、サザンブロット(DNA用)、ノザンブロット(RNA用)、一本鎖コンフォメーション解析(SSCA)、PFGE、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、ゲル泳動、クランプト(clamped)変性ゲル電気泳動、ヘテロ2重鎖解析、RNase保護、化学的ミスマッチ切断、ELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)および免疫酵素学的アッセイ(IEMA)が含まれる。
【0053】
これらの中のいくつかのアプローチ(例えばSSCAおよびCGGE)は、変化した配列の存在の結果としての、核酸の電気泳動移動度の変化に基づく。これらの技術によれば、変化した配列は、ゲル上の移動度のシフトにより可視化される。その後、断片をシークエンスして変化を確認し得る。
【0054】
いくつかのその他のものは、被験者からの核酸と、野生型または変化したMAP3K11遺伝子またはRNAに特異的なプローブとの特異的ハイブリダイゼーションに基づく。プローブは、懸濁液中にあっても基材に固定されていてもよい。プローブは、典型的には、ハイブリッドの検出を容易にするために標識されている。
【0055】
ノザンブロット、ELISA、およびRIAのように、これらの中のいくつかのアプローチは、ポリペプチド配列または発現レベルを評価するのに特に適している。これらの後者は、ポリペプチドに特異的なリガンド、より好ましくは特異的抗体の使用を必要としている。
【0056】
特に好ましい実施形態において、前記方法は、被験者からの試料中における、MAP3K11遺伝子発現プロファイルの変化の存在を検出することを含む。前記に示したように、これは、より好ましくは、前記試料中に存在する核酸のシークエンス、選択的ハイブリダイゼーション、および/または選択的増幅により達成できる。
【0057】
シークエンス
シークエンスは、自動シークエンサーを使用して、当分野で公知の技術を使用して実施できる。シークエンスは、完全なMAP3K11遺伝子またはより好ましくはその特異的ドメイン、典型的には有害な突然変異または他の変化を有することが知られているかまたは疑われているものを用いて実施し得る。
【0058】
増幅
増幅は、核酸再生を開始するのに役立つ相補的核酸配列間の特異的ハイブリッドの形成に基づく。
【0059】
増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(strand displacement amplification)(SDA)および核酸配列に基づいた増幅(NASBA)などの当分野で知られている様々な技術に従って実施し得る。これらの技術は、商業的に入手可能な試薬およびプロトコルを使用して実施できる。好ましい技術は、対立遺伝子特異的PCRまたはPCR−SSCPを使用する。増幅には通常、反応を開始するための、特異的核酸プライマーの使用が必要である。
【0060】
MAP3K11遺伝子または遺伝子座から配列を増幅するのに有用な核酸プライマーは、前記遺伝子座の標的領域にフランキングしているMAP3K11遺伝子座の一部と特異的にハイブリダイズでき、前記標的領域は、肥満または関連した疾患を有する一部の被験者において変化している。
【0061】
MAP3K11標的領域の増幅に使用できるプライマーは、配列番号1の配列に基づいて設計し得る。
【0062】
本発明はまた、核酸プライマーに関するものであって、前記プライマーは、肥満または関連した疾患を有する特定の被験者において変化したMAP3K11コード配列(例えば遺伝子またはRNA)の一部と相補的であるかまたは特異的にハイブリダイズする。これに関して、本発明の特定のプライマーは、MAP3K11遺伝子またはRNA中の変化した配列に特異的である。このようなプライマーを使用することにより、増幅産物の検出により、MAP3K11遺伝子座の変化の存在が示される。対照的に、増幅産物がないことにより、試料中には特異的変化が存在しないことが示される。
【0063】
本発明の典型的なプライマーは、約5から60ヌクレオチド長、より好ましくは約8から約25ヌクレオチド長の一本鎖核酸分子である。配列は、MAP3K11遺伝子座の配列から直接得ることができる。高い特異性を確実にするためには、完全な相補性が好ましい。しかし、一部のミスマッチも許容され得る。
【0064】
本発明はまた、被験者の肥満または関連した疾患の存在または疾病素質を検出する方法における、または、肥満または関連した疾患の処置に対する被験者の応答を評価する方法における、前記したような核酸プライマーまたは核酸プライマー対の使用に関する。
【0065】
選択的ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーション検出法は、核酸配列変化(群)を検出するのに役立つ相補的核酸配列間の特異的ハイブリッドの形成に基づく。
【0066】
特定の検出技術には、野生型または変化MAP3K11遺伝子またはRNAに特異的な核酸プローブの使用、その後、ハイブリッドの存在の検出が含まれる。プローブは、懸濁液中にあっても、または、基材または支持体(核酸アレイまたはチップ技術のように)に固定されていてもよい。プローブは、典型的には、ハイブリッドの検出を容易にするために標識されている。
【0067】
これに関し、本発明の特定の実施形態は、被験者からの試料を、変化したMAP3K11遺伝子座に特異的な核酸プローブと接触させ、ハイブリッドの形成を評価することを含む。特に好ましい実施形態において、この方法は、試料を、それぞれ野生型MAP3K11遺伝子座および様々なその変化形に特異的であるプローブセットと同時に接触させることを含む。この実施形態において、試料中のMAP3K11遺伝子座の様々な変化形の存在を直接検出することが可能である。また、様々な被験者からの様々な試料を平行して処理し得る。
【0068】
本発明の脈絡内で、プローブは、MAP3K11遺伝子またはRNA(の標的部分)と相補的であり特異的にハイブリダイズでき、肥満または代謝疾患の疾病素質があるかまたは関連しているMAP3K11対立遺伝子と関連したポリヌクレオチド多型を検出するのに適した、ポリヌクレオチド配列を意味する。プローブは、好ましくは、MAP3K11遺伝子、RNA、またはその標的部分と完全に相補的である。プローブは、典型的には、8から1000ヌクレオチド長、例えば10から800、より好ましくは15から700、典型的には20から500の一本鎖核酸を含む。より長いプローブも同様に使用し得ることを理解されたい。本発明の好ましいプローブは、変化を有するMAP3K11遺伝子またはRNAの一領域に特異的にハイブリダイズできる、8から500ヌクレオチド長の一本鎖核酸分子である。
【0069】
本発明の特定の実施形態は、変化した(例えば突然変異した)MAP3K11遺伝子またはRNAに特異的な核酸プローブ、すなわち、前記の変化したMAP3K11遺伝子またはRNAに特異的にハイブリダイズし、前記の変化を欠失しているMAP3K11遺伝子またはRNAとは実質的にハイブリダイズしない核酸プローブである。特異性は、標的配列へのハイブリダイゼーションが、非特異的ハイブリダイゼーションにより生じたシグナルとは区別できる特異的シグナルを生じることを示す。本発明に記載のプローブを設計するためには、完全に相補的な配列が好ましい。しかし、特異的シグナルが、非特異的ハイブリダイゼーションとは区別できる限りにおいて、一部のミスマッチも許容され得ると理解すべきである。
【0070】
プローブの配列は、本出願で提供したようなMAP3K11遺伝子およびRNAの配列から得ることができる。プローブのヌクレオチド置換ならびに化学的修飾も実施し得る。このような化学的修飾を行なって、ハイブリッドの安定性を増加したり(例えば介在基)またはプローブを標識し得る。標識の典型例には、これに限定されないが、放射能、蛍光、発光、酵素標識などが含まれる。
【0071】
本発明はまた、被験者における肥満または関連した疾患の存在またはその疾病素質を検出する方法における、あるいは、肥満または関連した疾患の処置に対する被験者の応答を評価する方法における、前記したような核酸プローブの使用に関する。
【0072】
特異的リガンド結合
前記に示したように、MAP3K11遺伝子座の変化はまた、MAP3K11ポリペプチド配列または発現レベルの変化(群)をスクリーニングすることにより検出し得る。これに関して、本発明の特定の実施形態は、試料を、MAP3K11ポリペプチドに特異的なリガンドと接触させ、複合体の形成を決定することを含む。
【0073】
特異的抗体などの様々な種類のリガンドを使用し得る。特定の実施形態において、試料を、MAP3K11ポリペプチドに特異的な抗体と接触させ、免疫複合体の形成を決定する。免疫複合体を検出する様々な方法、たとえばELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)および免疫酵素学的アッセイ(IEMA)などを使用できる。
【0074】
本発明の脈絡において、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ならびに、実質的に同じ抗原特異性を有するその断片または誘導体を示す。断片には、Fab、Fab'2、CDR領域などが含まれる。誘導体には、一本鎖抗体、ヒト化抗体、多機能抗体などが含まれる。
【0075】
MAP3K11ポリペプチドに特異的な抗体は、MAP3K11ポリペプチドに選択的に結合する抗体、すなわち、MAP3K11ポリペプチドまたはそのエピトープ含有断片に対して産生された抗体を示す。他の抗原に対する非特異的結合も生じ得るが、標的MAP3K11ポリペプチドへの結合はより高い親和性で起こり、非特異的結合とは確実に区別できる。
【0076】
特定の実施形態において、この方法は、被験者からの試料を、MAP3K11ポリペプチドの変化形に特異的な抗体(でコーティングした支持体)と接触させ、免疫複合体の存在を決定することを含む。特定の実施形態において、試料は、様々な形のMAP3K11ポリペプチド、例えば野生型およびその様々な変化形に特異的な様々な抗体(でコーティングされた支持体)と同時にまたは平行してまたは連続的に接触させ得る。
【0077】
本発明はまた、被験者における肥満または関連した疾患の存在または疾病素質を検出する方法における、または、肥満または関連した疾患の処置に対する被験者の応答を評価する方法における、リガンド、好ましくは抗体、その断片または誘導体の使用に関する。
【0078】
本発明はまた、MAP3K11遺伝子またはポリペプチドの変化、MAP3K11遺伝子またはポリペプチド発現の変化、および/またはMAP3K11活性の変化の存在を、被験者からの試料中において検出するための産物および試薬を含む診断キットに関する。本発明に記載の前記診断キットは、本発明に記載した、任意のプライマー、任意のプライマー対、任意の核酸プローブおよび/または任意のリガンド、好ましくは抗体を含む。本発明に記載の前記診断キットは、さらに、ハイブリダイゼーション、増幅、または抗原−抗体免疫反応を実施するための試薬および/またはプロトコルを含むことができる。
【0079】
診断法は、インビトロで、生体外で、またはインビボで、好ましくはインビトロでまたは生体外で実施できる。MAP3K11遺伝子座の状態を評価するために、被験者からの試料を使用する。試料は、核酸またはポリペプチドを含む、被験者から得られた任意の生物学的試料であり得る。このような試料の例には、液体、組織、細胞試料、器官、生検材料などが含まれる。最も好ましい試料は、血液、血漿、唾液、尿、精液などである。出生前診断もまた、例えば、胎児細胞または胎盤細胞を試験することにより実施し得る。試料は、慣用的な技術に従って収集し得、診断に直接使用するかまたは保存し得る。試験用の核酸またはポリペプチドの利便性を付与または向上するために、この方法を実施する前に試料を処理し得る。処理には、例えば、溶解(例えば機械的、物理的、化学的など)、遠心分離などが含まれる。また、核酸および/またはポリペプチドは、慣用的な技術により前精製または濃縮し得、および/または複雑度を低減し得る。核酸およびポリペプチドはまた、酵素または他の化学的または物理的処理で処理して、その断片を作製し得る。特許請求した方法の感度が高いことを考慮すると、アッセイを実施するのには非常に少量の試料で十分である。
【0080】
示したように、試料は、好ましくは、プローブ、プライマー、またはリガンドなどの試薬と接触させて、変化したMAP3K11遺伝子座の存在を評価する。接触は、任意の適切な器具、例えばプレート、チューブ、ウェル、ガラスなどで実施し得る。特定の実施形態において、接触は、試薬でコーティングされた基材、例えば核酸アレイまたは特異的リガンドアレイで実施する。基材は、ガラス、プラスチック、ナイロン、紙、金属、ポリマーなどを含む任意の支持体などの、固体または半固体基材であり得る。基材は、様々な形およびサイズであり得、例えばスライド、メンブラン、ビーズ、カラム、ゲルなどであり得る。接触は、試薬と試料の核酸またはポリペプチドとの間で形成される複合体に適した任意の条件下で行ない得る。
【0081】
試料中の変化したMAP3K11ポリペプチド、RNA、またはDNAの発見は、被験者における変化したMAP3K11遺伝子座の存在を示すものであり、これは、肥満または代謝疾患の存在、疾病素質または進行段階と相関することができる。例えば、生殖系列MAP3K11突然変異を有する個体は、肥満または代謝疾患を発生するリスクが高い。被験者における変化したMAP3K11遺伝子座の存在の決定により、より効果的で個別に対応した、適切な治療介入の設計が可能となる。また、症候前レベルのこのような決定により、予防的措置を適用できる。
【0082】
遺伝子、ベクター、組換え細胞、およびポリペプチド
本発明のさらなる態様は、診断、治療、またはスクリーニングに使用するための新規産物に存する。これらの産物は、MAP3K11ポリペプチドまたはその断片をコードする核酸分子、それを含むベクター、組換え宿主細胞および発現ポリペプチドを含む。
【0083】
より特定すると、本発明は、変化もしくは突然変異したMAP3K11遺伝子または前記変化もしくは突然変異を含むその断片に関する。本発明はまた、変化もしくは突然変異したMAP3K11ポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片をコードする核酸分子に関する。前記変化または突然変異により、MAP3K11活性が修飾される。修飾された活性は上昇する場合も低下する場合もある。本発明はさらに、変化もしくは突然変異したMAP3K11遺伝子または前記変化もしくは突然変異を含むその断片、変化もしくは突然変異したMAP3K11ポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片をコードする核酸分子、組換え宿主細胞、および発現ポリペプチドを含むベクターに関する。
【0084】
本発明のさらなる目的は、本発明に記載のMAP3K11ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターである。ベクターは、クローニングベクターまたはより好ましくは発現ベクター、すなわち、コンピテント宿主細胞において前記ベクターからのMAP3K11ポリペプチドの発現を引き起こす調節配列を含むベクターであり得る。
【0085】
これらのベクターは、インビトロ、生体外、またはインビボでMAP3K11ポリペプチドを発現し、トランスジェニックまたは「ノックアウト」非ヒト動物を創造し、核酸を増幅し、アンチセンスRNAなどを発現するのに使用できる。
【0086】
本発明のベクターは、典型的には、調節配列(例えばプロモーター、ポリAなど)に作動可能に連結した本発明に記載のMAP3K11コード配列を含む。「作動可能に連結」なる用語は、コード配列および調節配列が機能的に関連し、よって調節配列がコード配列の発現(例えば転写)を引き起こすことを示す。ベクターはさらに、1または数個の複製起点および/または選択マーカーを含み得る。プロモーター領域は、コード配列に関して同種であっても異種であってもよく、任意の適切な宿主細胞において(インビボ使用も含まれる)、遍在的、構成的、調節的および/または組織特異的な発現を提供する。プロモーターの例には、細菌プロモーター(T7、pTAC、Trpプロモーターなど)、ウイルスプロモーター(LTR、TK、CMV−IEなど)、哺乳動物遺伝子プロモーター(アルブミン、PGKなど)などが含まれる。
【0087】
ベクターは、プラスミド、ウイルス、コスミド、ファージ、BAC、YACなどであり得る。プラスミドベクターは、pBluescript、pUC、pBRなどの商業的に入手可能なベクターから調製し得る。ウイルスベクターは、当分野で知られている組換えDNA技術に従って、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、AAVなどから作製し得る。
【0088】
これに関して、本発明の特定の目的は、前記に定義したようなMAP3K11ポリペプチドをコードする組換えウイルスに存する。組換えウイルスは、好ましくは、複製欠損であり、さらにより好ましくはE1−および/またはE4−欠損アデノウイルス、Gag−、pol−、および/またはenv−欠損レトロウイルスおよびRep−および/またはCap−欠損AAVから選択される。このような組換えウイルスは、パッケージング細胞をトランスフェクトすることにより、または、ヘルパープラスミドもしくはウイルスを用いての一過性トランスフェクションによるなどの、当分野で知られている技術により作製し得る。ウイルスパッケージング細胞の典型例には、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などが含まれる。このような複製欠陥組換えウイルスを作製する詳細なプロトコルは、例えば、WO95/14785、WO96/22378、米国特許第5,882,877号、米国特許第6,013,516号、米国特許第4,861,719号、米国特許第5,278,056号、およびWO94/19478に見出し得る。
【0089】
本発明のさらなる目的は、前記に定義したような組換えMAP3K11遺伝子またはベクターを含む組換え宿主細胞に存する。適切な宿主細胞には、これに制限されないが、原核細胞(例えば細菌)および真核細胞(例えば酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など)が含まれる。具体例には、E.coli、クルイベロマイセスまたはサッカロミセス酵母、哺乳動物細胞系(例えばVero細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞など)ならびに初代または樹立哺乳動物細胞培養物(例えば線維芽細胞、胚細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞などから作製)が含まれる。
【0090】
本発明はまた、本発明に記載のMAP3K11ポリペプチドを発現している組換え宿主細胞を作製する方法に関し、前記方法は、(i)インビトロまたは生体外で、コンピテント宿主細胞に、前記したような組換え核酸またはベクターを導入すること、(ii)得られた組換え宿主細胞をインビトロまたは生体外で培養すること、および(iii)所望により、MAP3K11ポリペプチドを発現する細胞を選択することを含む。
【0091】
このような組換え宿主細胞は、MAP3K11ポリペプチドの作製に、ならびに、以下に記載したような活性分子のスクリーニングに使用できる。このような細胞は、肥満および代謝疾患を研究するためのモデルシステムとして使用することもできる。これらの細胞は、任意の適切な培養器具(プレート、フラスコ、皿、チューブ、ポーチなど)の中の、適切な細胞媒体中、例えばDMEM、RPMI、HAMなどの中に維持できる。
【0092】
薬物スクリーニング
本発明はまた、薬物候補またはリード化合物をスクリーニングするための新規標的および方法を提供する。この方法には、結合アッセイおよび/または機能的アッセイが含まれ、インビトロ、細胞系、動物などで実施し得る。
【0093】
本発明の特定の目的は、生物学的に活性な化合物を選択する方法に存し、前記方法は、インビトロで、試験化合物を、本発明に記載のMAP3K11遺伝子またはポリペプチドと接触させ、前記試験化合物が、前記MAP3K11遺伝子またはポリペプチドと結合する能力を決定することを含む。前記遺伝子またはポリペプチドへの結合は、前記化合物が、前記標的の活性をモジュレーションし(modulate)、従って被験者における肥満または代謝疾患に至る経路に影響を及ぼす能力についての指標を提供する。好ましい実施形態において、この方法は、インビトロで、試験化合物を、本発明に記載のMAP3K11ポリペプチドまたはその断片と接触させ、前記試験化合物が、前記MAP3K11ポリペプチドまたは断片と結合する能力を決定することを含む。前記断片は、好ましくは、MAP3K11ポリペプチドの結合部位を含む。好ましくは、前記MAP3K11遺伝子またはそのポリペプチドまたは断片は、変化もしくは突然変異したMAP3K11遺伝子もしくはポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片である。
【0094】
本発明の特定の目的は、肥満および関連した疾患に対して活性のある化合物を選択する方法に存し、前記方法は、インビトロで、試験化合物を、本発明に記載のMAP3K11ポリペプチドまたは結合部位を含有するその断片と接触させ、前記試験化合物が、前記MAP3K11ポリペプチドまたはその断片と結合する能力を決定することを含む。好ましくは、前記MAP3K11ポリペプチドまたはその断片は、変化もしくは突然変異したMAP3K11ポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含む断片である。
【0095】
さらに特定の実施形態において、この方法は、本発明に記載のMAP3K11ポリペプチドを発現している組換え宿主細胞を、試験化合物と接触させ、前記試験化合物が、前記MAP3K11と結合し、MAP3K11ポリペプチドの活性をモジュレーションする能力について決定することを含む。好ましくは、前記MAP3K11ポリペプチドまたはその断片は、変化もしくは突然変異したMAP3K11ポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片である。
【0096】
結合の決定は、試験化合物の標識、標識した参照リガンドとの競合によるなど、様々な技術により実施し得る。
【0097】
本発明のさらなる目的は、生物学的に活性な化合物を選択する方法に存し、前記方法は、インビトロで、試験化合物を、本発明に記載のMAP3K11ポリペプチドと接触させ、前記化合物が、前記MAP3K11ポリペプチドの活性をモジュレーションする能力を決定することを含む。好ましくは、前記MAP3K11ポリペプチドまたはその断片は、変化もしくは突然変異したMAP3K11ポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片である。
【0098】
本発明のさらなる目的は、生物学的に活性な化合物を選択する方法に存し、前記方法は、インビトロで、試験化合物を、本発明に記載のMAP3K11遺伝子と接触させ、前記試験化合物が、前記MAP3K11遺伝子の発現をモジュレーションする能力を決定することを含む。好ましくは、前記MAP3K11遺伝子またはその断片は、変化もしくは突然変異したMAP3K11遺伝子または前記変化もしくは突然変異を含むその断片である。
【0099】
他の実施形態において、本発明は、活性化合物、特に肥満または代謝疾患に対して活性のある化合物をスクリーニング、選択、または同定する方法に関するものであって、前記方法は、試験化合物を、リポーター構築物を含む組換え宿主細胞と接触させ(前記リポーター構築物は、MAP3K11遺伝子プロモーターの制御下のリポーター遺伝子を含む)、リポーター遺伝子の発現をモジュレーション(例えば刺激または低減)する試験化合物を選択することを含む。好ましくは、前記MAP3K11遺伝子プロモーターまたはその断片は、変化もしくは突然変異したMAP3K11遺伝子プロモーターまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片である。
【0100】
スクリーニング法の特定の実施形態において、モジュレーションは阻害である。スクリーニング法の他の特定の実施形態において、モジュレーションは活性化である。
【0101】
前記のスクリーニングアッセイは、任意の適切な器具、例えばプレート、チューブ、皿、フラスコなどで実施し得る。典型的には、アッセイは、マルチウェルプレートで実施する。数個の試験化合物を、平行してアッセイできる。さらに、試験化合物は、様々な入手先、様々な性質、および様々な組成のものであり得る。有機物質でも無機物質でもよく、例えば、脂質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、小分子などであり得、単離されているか、または、他の物質と混合されていてもよい。前記化合物は、例えばコンビナトリアルライブラリー産物の全部または一部であり得る。
【0102】
医薬組成物、療法
本発明のさらなる目的は、(i)MAP3K11ポリペプチドまたはその断片、MAP3K11ポリペプチドまたはその断片をコードする核酸、前記したようなベクターまたは組換え宿主細胞、および(ii)医薬的に許容される担体またはビヒクルを含む、医薬組成物である。
【0103】
本発明はまた、被験者における肥満または関連疾患を処置または予防する方法に関するものであって、前記方法は、前記被験者に、機能的(例えば野生型)MAP3K11ポリペプチドまたはそれをコードする核酸を投与することを含む。
【0104】
本発明の別の実施形態は、被験者における肥満または関連した疾患を処置または予防する方法に存し、前記方法は、前記被験者に、本発明に記載のMAP3K11遺伝子またはタンパク質の発現または活性をモジュレーション、好ましくは活性化または模倣する化合物を投与することを含む。前記化合物は、MAP3K11のアゴニストまたはアンタゴニスト、MAP3K11のアンチセンスまたはRNAi、本発明に記載のMAP3K11ポリペプチドに特異的な抗体またはその断片もしくは誘導体であり得る。前記方法の特定の実施形態において、モジュレーションは阻害である。前記方法の他の特定の実施形態において、モジュレーションは活性化である。
【0105】
本発明はまた、一般に、被験者における肥満または関連した代謝疾患の処置または予防のための医薬組成物の製造における、機能的MAP3K11ポリペプチド、それをコードする核酸、または、本発明に記載のMAP3K11遺伝子もしくはタンパク質の発現もしくは活性をモジュレーションする化合物の使用に関する。前記化合物は、MAP3K11のアゴニストまたはアンタゴニスト、MAP3K11のアンチセンスまたはRNAi、本発明に記載のMAP3K11ポリペプチドに特異的な抗体またはその断片または誘導体であり得る。前記方法の特定の実施形態において、モジュレーションは阻害である。前記方法の他の特定の実施形態において、モジュレーションは活性化である。
【0106】
本発明は、肥満(および関連した疾患)とMAP3K11遺伝子座の間の相関を実証する。従って、本発明は、治療的介入の新規標的を提供する。被験者において、特に、変化したMAP3K11遺伝子座を有する被験者において、MAP3K11活性または機能を回復またはモジュレーションするために様々なアプローチを行なうことができる。このような被験者に野生型機能を提供することにより、病的細胞または生物における肥満および関連した疾患の表現型発現が抑制されると期待される。このような機能の提供は、遺伝子またはタンパク質療法により、または、MAP3K11ポリペプチド活性をモジュレーションまたは模倣する化合物(例えば前記のスクリーニングアッセイで同定したようなアゴニスト)を投与することにより行なうことができる。
【0107】
野生型MAP3K11遺伝子またはその機能的部分は、前記したようなベクターを使用して、それを必要とする被験者の細胞に導入し得る。ベクターは、ウイルスベクターでもプラスミドでもよい。遺伝子はまた、裸DNAとして導入してもよい。遺伝子は、レシピエントの宿主細胞のゲノムに組み込まれるように、または染色体外に留まるように提供され得る。組込みは、ランダムに、または相同的組換えなどにより正確に規定された部位で起こり得る。特に、相同的組換えにより、MAP3K11遺伝子の機能的コピーを、細胞中の変化形を置換するように挿入し得る。さらなる技術には、遺伝子銃、リポソームにより媒介されるトランスフェクション、カチオン脂質により媒介されるトランスフェクションなどが含まれる。遺伝子療法は、直接的な遺伝子注入により、または、機能的MA3K11ポリペプチドを発現している生体外で調製した遺伝子的に修飾された細胞を投与することにより達成され得る。
【0108】
被験者における機能的MAP3K11活性を回復するために、または、細胞中の有害な表現型を抑制するために、MAP3K11活性を有する他の分子(例えばペプチド、薬物、MAP3K11アゴニストまたは有機化合物)も使用し得る。
【0109】
細胞中の機能的MAP3K11遺伝子機能の回復を使用して、肥満または代謝疾患の発生を予防、あるいは、前記疾患の進行を減退し得る。このような処置により、細胞、特に有害な対立遺伝子を有する細胞の肥満表現型が抑制され得る。
【0110】
本発明のさらなる態様および利点は、以下の実験章に開示し、これは、例示的なものと捉えるべきであり、本出願の範囲を制限するものではない。
【0111】
実施例
1.ヒト第11染色体上における肥満感受性遺伝子座の同定
A.連鎖研究
Hagerら(1998)は初めて、重度のヒト肥満に連関したヒト第11染色体上の遺伝子座との連鎖の証拠を同定した。
【0112】
Hinneyら(2002)は、独立したゲノム全域にわたる走査において第11染色体への連鎖を繰り返した。連鎖への最大の証拠(MLS=1.48)は、44931408位から69727939位における、マーカーD11S903、D11S1313およびD11S1883の間に見出された。さらなる研究(Price RA、2001)により、独立的に、アメリカ人個体群におけるこの遺伝子座の連鎖が確認された。それ故、かなりの数の肥満家族が、第11染色体上の遺伝子に、肥満の疾病素質となる対立遺伝子(群)を有していると結論づけることは現在では無難であった。
【0113】
B.第11染色体感受性遺伝子を同定するためのゲノムHIPプラットフォーム
前記に概略を示したように、最初に発見された連鎖の染色体区間は巨大(39cM)であり、この領域における肥満感受性遺伝子を同定するためのポジショナルクローニングアプローチは可能ではなかった。我々はゲノムHIPプラットフォームを適用してこの領域を小区間に狭め、肥満感受性遺伝子の迅速な同定が可能となるようにした。簡潔には、この技術は、関連個体のDNAから対を形成することからなる。各DNAを、その同定が可能となるように特異的標識でマークした。その後、2つのDNA間でハイブリッドを形成させた。その後、複数のステップ手順で2つのDNAから同祖的(IBD)な全ての断片を選択する、特定のプロセス(WO00/53802)を適用した。その後、残りのIBD強化DNAを、BACクローンから得られたDNAマイクロアレイに対してスコアリングし、これにより、染色体上のIBD画分の位置づけが可能となった。
【0114】
多くの異なる家族にこのプロセスを適用することにより、各家族の各対についてのIBD画分の母集合が得られた。その後、統計学的解析により、試験した全ての家族間で共有される最小IBD領域を計算した。有意な結果(p値)は、目的の特徴(ここでは肥満)と正の領域との連鎖の証拠であった。有意なp値を示した2つの最も遠いクローンにより連鎖区間の範囲を定めることができた。
【0115】
現在の研究では、重度の肥満(>90パーセンタイルの肥満度指数により定義される)と一致したドイツ人血統の89家族(117の独立した兄弟姉妹対)を、ゲノムHIPプロセスにかけた。その後、得られたIBDの強化されたDNA画分を、Cy5蛍光ダイで標識し、連鎖領域を完全に網羅した(45451827位から84002801位まで)9946個の第11染色体由来ヒトBACクローンからなるDNAアレイに対してハイブリダイズさせた。Cy3で標識した非選択DNAを使用して、各クローンにおけるシグナル値および算出比を標準化した。その後、比の結果を集積し、各クローンおよび対におけるIBD状況を決定した。
【0116】
この手順を適用することにより、第11染色体上の領域の約156キロベース(66954126から67110369の塩基)にわたる1つのBACクローン(RP11−9K14)を同定し、これは、肥満への連鎖に関して有意な証拠を示した(p<2.5×10−5)。
【0117】
C.第11染色体上の肥満感受性遺伝子の同定
連鎖した染色体領域における前記の156キロベースをスクリーニングすることにより、我々は、肥満および関連表現型の候補として、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼ(MAP3K11)遺伝子を同定した。この遺伝子は、実際に、連鎖の証拠と共に、前記に概略を示したクローンにより範囲が定められた重要な区間に存在した。
【0118】
MAP3K11遺伝子は、推定847アミノ酸ポリペプチド(mRNA3.5kb)をコードし、ゲノム配列の15.5kbにわたる。この遺伝子によりコードされるタンパク質は、セリン/トレオニン混合系統キナーゼファミリーのメンバーであり、SH3およびロイシンジッパードメインを含む。このキナーゼは、IカッパーBキナーゼアルファおよびベータを直接的にリン酸化および活性化し、NF−カッパーBのの転写活性に関与することが判明した。
【0119】
最も重要なことには、このキナーゼは、優先的にJNK1(MAPK8)を活性化し、JNKシグナル伝達経路の正のレギュレーターとして機能した。
【0120】
近年、JNK1活性は、肥満において異常に上昇しており(J.Hirosumiら、Nature 420:333-336、2002)、JNKは、肥満およびインスリン抵抗性の重要なメディエーターであることが示された。
【0121】
さらに、JNK1活性が存在しなければ、体脂肪蓄積が減少することが示された。MAP3K11は、JNK活性に対して有意な影響を及ぼし、それ故、MAP3K11の対立遺伝子形が、肥満で見られるこのようなJNK1活性の顕著な変化の原因であろう。
【0122】
第11染色体上の肥満に連関した重要な遺伝子的変化区間においてヒトMAP3K11遺伝子を同定した、本出願で提供した連鎖結果と、JNKシグナル伝達経路におけるその関与とを合わせて考えて、我々は、MAP3K11遺伝子またはその調節配列の変化(例えば突然変異および/または多型)が、ヒト肥満発生の原因となり得、診断または治療的介入の新規標的を示すと結論づけた。
【0123】
【表2】



【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】肥満に連関した領域についてのゲノム全域にわたるミクロサテライト走査から得られた、ヒト第11染色体についての結果のグラフ表示。染色体11q13.1の領域のミクロサテライトで得られた結果は、MAPキナーゼの領域における連鎖についての証拠を示す。ノンパラメトリック連鎖解析により、マーカーD11S903、D11S1313、およびD11S1883についての最大LODスコアが示された(LOD=1.48)。
【図2】ゲノム・ハイブリッド・アイデンティティ・プロファイリング(ゲノムHIP)を使用した高密度マッピング。染色体11q13上の連鎖ピークのグラフ表示。曲線は、領域におけるゲノムHIP手順の連鎖結果を示す。点線は、それぞれ示唆的な証拠および連鎖証拠のLander & Krygliak閾値に対応する。cen-45451827から84002801-q-terの位置までの範囲のヒト染色体11q上の合計46のBACクローンを、ゲノムHIPを使用して連鎖について試験した。x軸上の各点は、クローンに対応する。いくつかのクローンは、より良好な配向のためにそのライブラリー名により示される(例えばRP11-193F22)。p値に関する3×10−4と2×10−5の2つの水平線は、全ゲノムスクリーンについてKrygliakおよびLanderにより提案された有意的連鎖および示唆的連鎖についての有意レベルに対応する。連鎖に関する重要な証拠は、クローンRP11−9K14について計算された(p<2.5×10−5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における肥満または関連した代謝疾患の存在または疾病素質を検出する方法であって、この方法には(i)被験者から試料を得て、(ii)前記試料中のMAP3K11遺伝子座の変化の存在を検出することが含まれる、前記方法。
【請求項2】
肥満または関連した代謝疾患の処置に対する被験者の応答を評価する方法であって、この方法には、(i)被験者から試料を得て、(ii)前記試料中のMAP3K11遺伝子座の変化の存在を検出することが含まれる、前記方法。
【請求項3】
MAP3K11遺伝子座の変化の存在が、シークエンス、選択的ハイブリダイゼーション、および/または選択的増幅により検出される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
変化したMAP3K11ポリペプチドの存在を検出することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
試料を、前記の変化したMAP3K11ポリペプチドに特異的な抗体と接触させ、免疫複合体の形成を決定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
被験者における肥満または関連した代謝疾患を処置または予防するための医薬組成物の製造における、機能的MAP3K11ポリペプチドまたはそれをコードする核酸の使用。
【請求項7】
精製または単離されたMAP3K11ポリペプチドまたはその断片。
【請求項8】
請求項7に記載のMAP3K11ポリペプチドをコードする核酸を含むベクター。
【請求項9】
組換えウイルスである、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
請求項8または9に記載のベクターを含む組換え宿主細胞。
【請求項11】
(i)MAP3K11ポリペプチド、MAP3K11ポリペプチドをコードする核酸、請求項8もしくは9に記載のベクター、または請求項10に記載の組換え宿主細胞、および(iii)医薬的に許容される担体またはビヒクルを含む医薬組成物。
【請求項12】
核酸が、変化したMAP3K11ポリペプチドをコードする核酸と相補的であり特異的にハイブリダイズする、前記核酸プローブ。
【請求項13】
プライマーが、変化したMAP3K11遺伝子またはRNAの一部と相補的であり特異的にハイブリダイズする、前記核酸プライマー。
【請求項14】
抗体が、変化したMAP3K11ポリペプチドまたはエピトープに特異的である、前記抗体。
【請求項15】
基材上に固定された請求項12〜13に記載のいずれか一項の核酸プローブまたは請求項14に記載の抗体を含む産物。
【請求項16】
請求項12に記載の核酸プローブ、または請求項13に記載のプライマー、または請求項14に記載の抗体、およびハイブリダイゼーション、増幅、もしくは抗原−抗体免疫反応を実施するための試薬もしくはプロトコルを含む、キット。
【請求項17】
肥満および関連した疾患に対して生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、前記方法には、試験化合物を、MAP3K11ポリペプチドまたは遺伝子またはその断片と接触させ、前記試験化合物が、MAP3K11ポリペプチドまたは遺伝子またはその断片と結合する能力について決定することが含まれる、前記方法。
【請求項18】
肥満および関連した疾患に対して生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、前記方法には、MAP3K11ポリペプチドを発現している組換え宿主細胞を試験化合物と接触させ、前記試験化合物が、前記MAP3K11ポリペプチドと結合し、MAP3K11ポリペプチドの活性をモジュレーションする能力について決定することが含まれる、前記方法。
【請求項19】
肥満および関連した疾患に対して生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、前記方法には、試験化合物をMAP3K11遺伝子と接触させ、前記試験化合物が前記MAP3K11遺伝子の発現をモジュレーションする能力について決定することが含まれる、前記方法。
【請求項20】
肥満および関連した疾患に対して生物学的に活性な化合物を選択する方法であって、前記方法には、試験化合物を、リポーター構築物を含む組換え宿主細胞と接触させ、ここでの前記リポーター構築物は、MAP3K11遺伝子プロモーターの制御下のリポーター遺伝子を含んでおり、そして、リポーター遺伝子の発現をモジュレーション(例えば刺激または低減)する試験化合物を選択することが含まれる、前記方法。
【請求項21】
前記MAP3K11遺伝子またはポリペプチドまたはその断片が、変化もしくは突然変異したMAP3K11遺伝子もしくはポリペプチドまたは前記変化もしくは突然変異を含むその断片である、請求項17〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記モジュレーションが活性化である、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記モジュレーションが阻害である、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
被験者における肥満または関連した疾患を処置または予防するための医薬組成物の製造における、MAP3K11のアゴニストまたはアンタゴニスト、MAP3K11のアンチセンスまたはRNAi、MAP3K11ポリペプチドに特異的な抗体またはその断片または誘導体からなる群より選択された化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−503806(P2007−503806A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524463(P2006−524463)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002953
【国際公開番号】WO2005/021787
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(501358068)
【氏名又は名称原語表記】INTEGRAGEN
【Fターム(参考)】