説明

ピストンのシール構造および整圧器

【課題】 閉止時のシール性を確保しながら、シール部の摩耗を防止することができるピストンのシール構造および整圧器を提供する。
【解決手段】 ケーシング27内のピストン28とシリンダ29との間に設けられる隙間25のシールは、Oリング32によって行われる。Oリング32の摩耗を防ぐために、隙間25として拡大部25aを設ける。整圧器23が整圧作用を行っている際には、Oリング32は隙間25の拡大部25aに存在し、摩耗を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダなどの筒状空間に挿通され、軸線方向に往復変位可能なピストンのシール構造および整圧器に関する。
【0002】
なお、本願の「ピストン」は、たとえば「プランジャ」など、筒状空間内を軸線方向に往復移動して用いられる部材であって、他の名称で示される部材をも包含するものとする。
【背景技術】
【0003】
従来から、都市ガスなどの流体を輸送して広い地域に分布する多くの顧客に供給するために敷設する配管網には、複数の整圧器が設けられる。整圧器は、ガバナとも呼ばれ、一次側に供給される流体を、減圧しながら圧力変動を抑える整圧を行って、二次側に供給する(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
図7は、整圧器の機能的な構成を示す。都市ガスの配管網では、顧客に大気圧よりも少し高い圧力で安定に都市ガスを供給するために、その供給圧力を低圧として、中圧や高圧など、複数段階の減圧を行う。より圧力が高い側の流体は一次管路1から供給され、二次管路2に整圧器3で整圧される。多くの顧客に流体を供給する配管網の途中に設けられる整圧器3は、減圧作用を行う本体部4をパイロット部5で生成する駆動圧に基づいて作動させる構成とすることが多い。パイロット部5では、一次管路1の一次圧と二次管路2の二次圧との間で駆動圧を生成し、パイロット管路6を介して本体部4に入力する。なお、比較的小容量の整圧器では、本体部のみで動作し、パイロット部を設けない場合もある。本体部4には、パイロット管路6からの駆動圧で変位する弁体が設けられる。弁体の一例としては、シリンダ中を軸線方向に往復変位するピストン形式のものがある。
【0005】
図8は、ピストンとシリンダとによる本体部4の概略的な構成を示す。本体部4はケーシング7中にピストン8を収容している。ピストン8は、ケーシング7内に形成されるシリンダ9内を、軸線8a方向に往復変位する。ピストン8が図の下方に変位して、ピストン8の底面が弁座10に当接すると、一次管路1と二次管路2との間は閉止状態となる。ピストン8の底面を弁座10に押圧するのは、パイロット管路6からの駆動圧による力と、ばね11による付勢力との和となる。この力がピストン8の底面に作用する一次管路1の一次圧による力よりも小さくなると、ピストン8は上昇し、ピストン8の底面は弁座10から離れ、一次管路1と二次管路2との間に流通路が形成されて、一次管路1から二次管路2に流体が流れる。一次管路1から二次管路2への流体の流入によって二次圧は上昇し、パイロット管路6の駆動圧も上昇する。駆動圧の上昇で、ピストン8は下方に押され、ピストン8の底面と弁座10との間に形成される流通路が狭まり、一次管路1から二次管路2に流入する流体は減少する。流体の減少によって二次圧は下がり、駆動圧も下がってピストン8は上昇し、流体の増加で二次圧が上がる動作が繰り返される。
【0006】
図7に示すような整圧器3では、このようにして、一次管路1から二次管路2に流体を減圧して供給しながら、二次圧の変動を動的に抑えるようにしている。図8に示すようなピストン8とシリンダ9とによって形成される本体部4では、ピストン8はシリンダ9内に挿通されるので、ピストン8の外周面とシリンダ9の内周面との間には隙間が生じる。この隙間を通して、駆動圧の流体と二次圧または一次圧の流体とが混合すると、整圧器3としての動作が阻害されてしまう。特に、駆動圧が上昇して、ピストン8の底面が弁座10に着座して一次管路1と二次管路2との間が閉止されている状態で、駆動圧の流体が隙間を通して二次管路2側に洩れると、弁体が閉止状態であるにもかかわらずに二次圧が上昇したり、駆動圧が低下してピストン8が上昇し、閉止状態を維持することができなくなってしまうおそれがある。このため、ピストン8の外周面とシリンダ9の内周面との間にはOリング12などのシールリングを介在させ、ピストン8とシリンダ9との間の隙間を封止するようにしている。Oリング12は、たとえば、ピストン8の外周面に形成される溝8bにはめ込まれている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−94657号公報
【特許文献2】特開2004−94658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図7および図8に示すようなピストン構造を持つ整圧器3でピストン8とシリンダ9との間のピストンシール部にOリング12を用いる場合、ピストン8の軸線8a方向への往復変位でピストン8の底面と弁座10との間に形成される弁が開閉して整圧作用が行われることによって、Oリング12がシリンダ9の内周面に対して上下に摺動し、摩耗する。
【0009】
また、摺動面は流体の流通路に接しているので、流体中に混入して運ばれる異物が摺動面に付着しやすい。異物として、硬い粒子などが摺動面に付着すると、Oリング12ばかりではなく、摺動面であるシリンダ9の内周面を削ってしまう可能性がある。
【0010】
Oリング12やシリンダ9の摺動面の摩耗などの理由でピストン8とシリンダ9との間のシール性が悪化した場合、前述のように隙間が大きい場合と同様に、弁閉止時に、駆動圧の流体が二次圧側に流れ込んで、二次圧が昇圧してしまうという問題が生じる。Oリング12などの摩耗防止のために、摺動面との接触部分に、フッ素樹脂などのキャップシールを設けることも考えられるけれども、シール性は低下してしまう。
【0011】
本発明の目的は、閉止時のシール性を確保しながら、シール部の摩耗を防止することができるピストンのシール構造および整圧器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、筒状空間に挿通されて軸線方向に往復変位可能なピストンの外周と、該筒状空間の内周との間に設けられる隙間を、弾性材料によるシール部材でシールするピストンのシール構造において、
該ピストンは、予め定める閉止位置で該筒状空間を該軸線方向に関して閉止し、
少なくとも該閉止位置では、該ピストンの外周と該筒状空間の内周との隙間が該シール部材によるシールで閉止され、
該ピストンの外周と該筒状空間の内周との隙間は、該閉止位置を除く他の位置で、該閉止位置での隙間の大きさよりも拡大するように形成される部分を有していることを特徴とするピストンのシール構造である。
【0013】
本発明に従えば、筒状空間に挿通されて軸線方向に往復変位可能なピストンの外周と筒状空間の内周との間のピストンのシール構造は、弾性材料によるシール部材を含む。ピストンは、予め定める閉止位置で筒状空間を軸線方向に関して閉止する。シール部材は、少なくとも閉止位置では、ピストンの外周と筒状空間の内周との隙間をシールする。閉止位置を除く他の位置では、ピストンの外周と筒状空間の内周との隙間が拡大するように形成される部分を有しているので、閉止位置以外の位置では、シール部材の摩耗を防ぎ、異物付着時の摺動面の摩耗も防ぐことができる。
【0014】
また本発明で、前記シール部材は、前記ピストンの外周に装着されるシールリングであり、
前記筒状空間の内周は、前記隙間が拡大するように形成される部分で、内径が拡大するように形成されることを特徴とする。
【0015】
本発明に従えば、ピストンの外周にOリングなどのシールリングを装着して、閉止位置での閉止を確実に行うことができる。ピストンの外周と筒状空間の内周との間の隙間は、筒状空間の内径が拡大して隙間も拡大するので、ピストンが閉止位置から離れて摺動変位するときには、シールリングと筒状空間内周との摩耗を防ぐことができる。
【0016】
さらに本発明は、前述のいずれかのピストンのシール構造を有するピストンを弁体とし、筒状空間がシリンダとして形成されるケーシングを有し、一次側に供給される流体を予め設定される圧力に減圧して二次側に供給する整圧器であって、
前記閉止位置では、ピストンによって一次側と二次側との間の流体の流通が遮断されることを特徴とする整圧器である。
【0017】
本発明に従えば、軸線方向に往復変位するピストンを弁体として整圧の作用を行う際に
、ピストンのシール構造の摩耗を防ぎ、シール部分の隙間を通して、閉止時でも二次側が昇圧する事態を避けることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、閉止位置を除く他の位置では、ピストンの外周と筒状空間の内周との隙間が拡大するように形成される部分を有しているので、閉止時のシール性を確保しながら、シール部の摩耗を防止することができる。
【0019】
また本発明によれば、ピストンの外周にOリングなどのシールリングを装着して、閉止位置での閉止を確実に行うことができ、ピストンが閉止位置から離れて摺動変位するときには、シールリングと筒状空間内周との摩耗を防ぐことができる。
【0020】
さらに本発明によれば、軸線方向に往復変位するピストンを弁体として整圧の作用を行い、閉止時のシール性を確保しながら、シール部の摩耗を防止することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の実施の一形態であるピストンのシール構造を、概略的に示す。ピストンのシール構造は、一次管路21と二次管路22との間に設けられる整圧器23で、弁体の開閉によって流通路24を形成するために、隙間25でパイロット管路26からの駆動圧と二次管路22の二次圧とが連通することが避けられない、ケーシング27内のピストン28とシリンダ29との間に設けられる。ピストン28は、軸線28aに沿ってシリンダ29内を往復変位可能であり、ピストン28の底面が対向する弁座30との間に流通路24を形成する。ピストン28の上面側には、パイロット管路26からの駆動圧と、ばね31による付勢力とが印加される。隙間25のシールは、Oリング32によって行われる。
【0022】
Oリング32は、ピストン28の外周面に形成されている溝28bにはめ込まれて保持される。Oリング32は、たとえば、ニトリルゴム、ポリアクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴムなどの合成ゴム材料から形成される。Oリング32の断面形状は円形や楕円形であるけれども、異なる断面形状を有して、角リングなどと呼ばれる他のシールリングも、同様に使用することができる。これら、ゴムなどの弾性材料によるシールリングは、溝の中に入れて、つぶし代を与えて密閉するように使用するシール部材であり、スクイーズパッキンとも呼ばれ、摩耗が少ない状態では隙間25を確実にシールすることができる。Vリングなどの断面形状に舌辺状の部分を有するリップシールなどをシール部材などとして使用することもできる。
【0023】
本実施形態では、Oリング32などのシール部材の摩耗を防ぐために、隙間25として拡大部25aを設けるようにしている。拡大部25aは、シリンダ29の内径が拡大している凹部29aの部分に設けられる。整圧器23が弁としてたとえば数10%の開度でピストン28の底面と弁座30との間に流通路24を形成して整圧作用を行っている際には、Oリング32は隙間25の拡大部25aに存在し、Oリング32の外周側とシリンダ29の摺動面である凹部29aとの接触による押圧力を低減し、または接触を避けて、摩耗を低減することができる。隙間25のシール機能は低下するけれども、整圧器23は閉止状態ではなく、駆動圧が隙間25を通して二次管路22側に洩れて二次圧が上昇しても、駆動圧の上昇でピストン28が下降し、流通路24が狭くなって二次圧の上昇を抑えることができる。
【0024】
図2は、図1の整圧器23でピストン28の底面が弁座30に着座して一次管路21と二次管路22との間を閉止している状態を示す。Oリング32は、シリンダ29の内周面のうち、凹部29aからはずれて内径が大きくならない部分に摺接しているので、隙間25のシールを確実に行い、パイロット管路26からの駆動圧が二次管路22側に洩れないようにすることができる。
【0025】
図3は、図1および図2に示す整圧器23について、より具体的な構造を示す。一次管路21と二次管路22とには、ケーシング27に形成されるフランジなどで接続する。一次管路21と二次管路22との間に、図7に示すパイロット部5と同様な構成を設け、駆動圧をパイロット管路26からピストン28の上面側に導く。シリンダ29内面をOリング32が接触せず、かつ流体の二次管路22側への流れ込み量が整圧に影響しない程度にシリンダ29の内径を大径化し、Oリング32の摺動摩耗を防止することができる。なお、流体の流れ込みが少しでもあれば、二次圧が上昇してしまう全閉時のみ、図2に示すようにシリンダ内面が適正にシールされる内径にする。このことによって、閉止時のシール性を確保しながら、ピストンシール部の摩耗を防止することができる。なお、通常動作する範囲が予想されているような場合は、その範囲だけシリンダ29の内径を大径化して摩耗を防止し、他の位置ではシールを確実に行うようにしてもよい。また、通常動作する範囲に閉止を行う位置が含まれている場合は、閉止位置ではシリンダ29の内径を大径化しないでシールを確実に行い、他の位置ではシール部の摩耗を防ぎ、通常動作する範囲全体でシール部の摩耗を生じる場合よりはシール機能の寿命を延ばすことができる。
【0026】
図4は、本発明の実施の他の形態であるピストンのシール構造を、概略的に示す。本実施形態で、図1〜図3に示す実施形態に対応する部分には同一の参照符を付して重複する説明を省略する。本実施形態の整圧器33では、ピストン38の上部に軸34を介してアクチュエータなどからの駆動力が伝達され、ピストン38は軸線38aに沿って上下に変位する。ピストン38の溝38bに装着されるOリング32は、シリンダ39の凹部39aを含む摺動面との間をシールする。一次管路21と二次管路22との接続位置は、図1〜図3とは逆にすることもできる。
【0027】
図5は、図4の整圧器33の構成を、より具体的に示す。軸34はアクチュエータとしてのダイヤフラム室35内に収納されるダイヤフラム36に接続される。ダイヤフラム36の下面側には、パイロット管路26からの駆動圧が導かれる。軸34がケーシング37およびダイヤフラム室35の外壁を挿通する部分でも、軸シールは必要となるけれども、軸34の外径はピストン38の外径に比較して小さくなり、充分なシールを行っても摩耗の影響を小さくすることができる。
【0028】
なお、ピストン38には、底面と上面との間を連通する通路38cを設けることもできる。ダイヤフラム室35の上部には、ばね室40を設け、ばね室40内に収納するばね41でダイヤフラム36の上面側を押圧するようにして、ピストン38を閉止側に付勢させる。このようなアクチュエータの構成や、パイロット部の構成は、種々の形式を用いることができる。
【0029】
図6は、本発明の実施のさらに他の形態であるピストンのシール構造を、概略的に示す。本実施形態で、図1〜図3または図4、5に示す実施形態に対応する部分には同一の参照符を付して重複する説明を省略する。本実施形態の整圧器43では、ピストン48ではなくケーシング47に形成するシリンダ49側の溝49aにOリング32を装着し、隙間25の拡大部25aは、ピストン48の外径に凹部48aを設けて形成する。このような構成でも、整圧器23,33と同様な効果を得ることができる。
【0030】
さらに、以上で説明しているようなピストンのシール構造は、整圧器23,33,43ばかりではなく、ピストンやプランジャを用いる弁など、他の流体機器にも用いることができる。Oリング32などのシール部材は、複数を並べたり間隔をあけたりして用いることもできる。ピストンなどの軸線方向の変位も、上下方向ばかりではなく、横方向のスプールなど、他の方向であっても同様に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の一形態であるピストン28のシール構造を含む整圧器23を、概略的に示す模式的な断面図である。
【図2】図1の整圧器23の閉止時の状態を示す模式的な断面図である。
【図3】図1の整圧器23の概略的な断面図である。
【図4】本発明の実施の他の形態であるピストン38のシール構造を含む整圧器33の模式的な断面図である。
【図5】図4の整圧器33の概略的な断面図である。
【図6】本発明の実施のさらに他の形態であるピストン48のシール構造を含む整圧器43の模式的な断面図である。
【図7】従来からの整圧器3の基本的な構成を示す簡略化した配管系統図である。
【図8】図7の整圧器3の本体部4として、ピストン構造を用いる場合の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0032】
21 一次管路
22 二次管路
23,33,43 整圧器
25 隙間
25a 拡大部
26 パイロット管路
27,37,47 ケーシング
28,38,48 ピストン
29,39,49 シリンダ
29a,39a,48a 凹部
32 Oリング
36 ダイヤフラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状空間に挿通されて軸線方向に往復変位可能なピストンの外周と、該筒状空間の内周との間に設けられる隙間を、弾性材料によるシール部材でシールするピストンのシール構造において、
該ピストンは、予め定める閉止位置で該筒状空間を該軸線方向に関して閉止し、
少なくとも該閉止位置では、該ピストンの外周と該筒状空間の内周との隙間が該シール部材によるシールで閉止され、
該ピストンの外周と該筒状空間の内周との隙間は、該閉止位置を除く他の位置で、該閉止位置での隙間の大きさよりも拡大するように形成される部分を有していることを特徴とするピストンのシール構造。
【請求項2】
前記シール部材は、前記ピストンの外周に装着されるシールリングであり、
前記筒状空間の内周は、前記隙間が拡大するように形成される部分で、内径が拡大するように形成されることを特徴とする請求項1記載のピストンのシール構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のピストンのシール構造を有するピストンを弁体とし、筒状空間がシリンダとして形成されるケーシングを有し、一次側に供給される流体を予め設定される圧力に減圧して二次側に供給する整圧器であって、
前記閉止位置では、ピストンによって一次側と二次側との間の流体の流通が遮断されることを特徴とする整圧器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−29380(P2006−29380A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205783(P2004−205783)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】