説明

ピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体の製造方法

本発明は、式(I)[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニル(ここで、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニルは、場合により、低級アルコキシカルボニル、アリール及びヘテロシクリルよりなる群によって置換されていてもよい)よりなる群から選択される]で示されるピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体、及びその薬学的に許容しうる塩の新規な製造方法に関する。本発明の式(I)で示されるピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体は、DPP IVに関連する疾患の治療及び/又は予防に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DPP IVに関連する疾患の治療及び/又は予防に有用な、式(I):
【0002】
【化1】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニル(ここで、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニルは、場合により、低級アルコキシカルボニル、アリール及びヘテロシクリルよりなる群によって置換されていてもよい)よりなる群から選択される]で示されるピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体、及びその薬学的に許容しうる塩の製造方法に関する。
【0003】
本発明は詳しくは、式(9):
【0004】
【化2】


で示されるピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体の製造方法に関する。
【0005】
式(I)のピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体は、PCT国際特許出願WO 2005/000848に開示されている。
【0006】
式(I)の化合物の合成における主要な課題は、ピリド[2,1−a]イソキノリン残基のキラル中心の導入であるが、これは、PCT国際出願WO 2005/000848の合成法では、キラルHPLCによる後の段階のエナンチオマー分離を伴う。しかしこのような製造法は、技術的スケールでは扱いにくい。よって解決すべき問題は、製造法のもっと早い段階で目的の光学異性体が得られ、もっと高い収率を与え、そして技術的スケールで実施できる、適切な代替製造法を見い出すことであった。
【0007】
以下に略述されるような本発明の製造法により、この問題は解決できることが分かった。
【0008】
式(I):
【0009】
【化3】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニル(ここで、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニルは、場合により、低級アルコキシカルボニル、アリール及びヘテロシクリルから選択される基により置換されていてもよい)よりなる群から選択される]で示されるピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体、及びその薬学的に許容しうる塩の製造方法は、下記工程の1つ以上を含む:
a) 式(1):
【0010】
【化4】


で示される(S)−4−フルオロメチル−ジヒドロ−フラン−2−オンの開環、及びこれに続くエステル化により、式(2):
【0011】
【化5】


[式中、R1aは、低級アルキルである]で示される(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルを得る工程;
b) 式(2)の(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルをN−保護グリシンアルキルエステルにより、式(3):
【0012】
【化6】


[式中、R1a及びR1bは、低級アルキルであり、そしてProtは、アミノ保護基である]で示されるN−保護−(S)−4−(アルコキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸エステルに変換する工程;
c) 式(3)のN−保護−(S)−4−(アルコキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸エステルの脱保護、及びこれに続く閉環により、式(4):
【0013】
【化7】


[式中、R1bは、低級アルキルである]で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルを形成する工程;
d) 式(4)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルを、式(5a):
【0014】
【化8】


[式中、R1cは、保護基である]で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステル又はその塩に変換する工程;
e) 式(5a)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステルを、式(5b):
【0015】
【化9】


で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸又はその塩に変化させる工程;
f) 式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸を、式(6):
【0016】
【化10】


[式中、R、R及びRは、上記のとおりである]で示されるイソキノリン誘導体、又はその塩とカップリングさせることにより、式(7a):
【0017】
【化11】


[式中、R、R及びRは、上記のとおりである]で示される化合物、又はその塩を形成し、続いて式(7a)の化合物をホルムアルデヒドで閉環することにより、式(7b):
【0018】
【化12】


[式中、R、R及びRは、上記のとおりである]で示される(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体又はその塩を形成する工程;
g) 式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体を、式(8):
【0019】
【化13】


[式中、R、R及びR並びにProtは、上記のとおりである]で示される(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オン又はその塩に変化させる工程;
h) 式(8)の(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オン中の保護基Protを脱離する工程。
【0020】
特に断りない限り、下記の定義は、本明細書において本発明を説明するために使用される種々の用語の意味及び範囲を例証及び規定するために述べられる。
【0021】
本明細書において「低級」という用語は、1〜6個、好ましくは1〜4個の炭素原子よりなる基を意味するのに使用される。
【0022】
「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素のことをいい、フッ素、臭素及び塩素が好ましい。
【0023】
「アルキル」という用語は、単独で、又は他の基との組合せで、1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜16個の炭素原子、更に好ましくは1〜10個の炭素原子の、分岐鎖又は直鎖の一価の飽和脂肪族炭化水素ラジカルのことをいう。
【0024】
「低級アルキル」という用語は、単独で、又は他の基との組合せで、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子の、分岐鎖又は直鎖の一価のアルキルラジカルのことをいう。この用語は更に、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、3−メチルブチル、n−ヘキシル、2−エチルブチルなどのようなラジカルを典型例とする。好ましい低級アルキル残基は、メチル及びエチルであり、メチルが特に好ましい。
【0025】
「ハロゲン化低級アルキル」という用語は、低級アルキル基の水素の少なくとも1個が、ハロゲン原子、好ましくはフルオロ又はクロロにより置換されている、上記と同義の低級アルキル基のことをいう。好ましいハロゲン化低級アルキル基には、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、フルオロメチル及びクロロメチルがある。
【0026】
「アルケニル」という用語は、本明細書で使用されるとき、2〜6個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子を有し、かつ1個又は2個のオレフィン性二重結合、好ましくは1個のオレフィン性二重結合を有する、非置換又は置換炭化水素鎖ラジカルを意味する。例には、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル(アリル)又は2−ブテニル(クロチル)である。
【0027】
「アルコキシ」という用語は、R’−O−基(ここで、R’は、アルキルである)のことをいう。「低級アルコキシ」という用語は、R’−O−基(ここで、R’は、上記と同義の低級アルキル基である)のことをいう。低級アルコキシ基の例は、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ及びヘキシルオキシであり、メトキシが特に好ましい。
【0028】
「低級アルコキシカルボニル」という用語は、R’−O−C(O)−基(ここで、R’は、上記と同義の低級アルキル基である)のことをいう。
【0029】
「アリール」という用語は、フェニル又はナフチル、好ましくはフェニルのような、芳香族の一価の単環式又は多環式炭素環ラジカルのことをいい、そしてこれらは、場合により、低級アルキル、低級アルコキシ、ハロ、シアノ、アジド、アミノ、ジ−低級アルキルアミノ又はヒドロキシにより独立に単置換、二置換又は三置換されていてもよい。
【0030】
「シクロアルキル」という用語は、3〜6個、好ましくは3〜5個の炭素原子の一価の炭素環ラジカルのことをいう。この用語は更に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルを典型例とし、シクロプロピル及びシクロブチルが好ましい。このようなシクロアルキル残基は、場合により、低級アルキル又はハロゲンにより独立に単置換、二置換又は三置換されていてもよい。
【0031】
「ヘテロシクリル」という用語は、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピリミジル、モルホリノ、ピペラジノ、ピペリジノ又はピロリジノ、好ましくはピリジル、チアゾリル又はモルホリノのような、場合により更に別の窒素又は酸素原子を含有してもよい、5員又は6員の芳香族又は飽和のN−複素環残基のことをいう。このような複素環は、場合により、低級アルキル、低級アルコキシ、ハロ、シアノ、アジド、アミノ、ジ−低級アルキルアミノ又はヒドロキシにより独立に単置換、二置換又は三置換されていてもよい。好ましい置換基は、低級アルキルであり、メチルが好ましい。
【0032】
「塩」という用語は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などのような無機酸(好ましくは塩酸)、及び酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、N−アセチルシステインなどのような有機酸と共に形成される塩のことをいう。
【0033】
更に、これらの塩は、遊離酸への無機塩基又は有機塩基の付加により調製することができる。無機塩基から誘導される塩は、特に限定されないが、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム塩などを包含する。有機塩基から誘導される塩は、特に限定されないが、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、リシン、アルギニン、N−エチルピペリジン、ピペリジンのような、第1級、第2級、及び第3級アミン、天然置換アミンを包含する置換アミン、環状アミン及び塩基性イオン交換樹脂を包含する。
【0034】
「薬学的に許容しうる塩」という用語は、生物に対して非毒性である、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸、ギ酸、マレイン酸、酢酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸などのような無機又は有機酸との式(I)の化合物の塩を包含する。好ましい酸との塩は、ギ酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩及びメタンスルホン酸塩であり、塩酸塩が特に好ましい。
【0035】
工程a)
工程a)は、式(1)の(S)−4−フルオロメチル−ジヒドロ−フラン−2−オンの開環、及びこれに続くエステル化を必要として、式(2)の(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルが得られる。
【0036】
開環反応は、通常、臭化水素酸により、適切には臭化水素酸の酢酸溶液により、20℃〜100℃の、好ましくは40℃〜80℃の反応温度で行われる。
【0037】
続くエステル化には、低級アルコール、好ましくはメタノール又はエタノール、更に好ましくはメタノールを反応混合物に加える。反応温度は、決定的に重要ではないが、通常40℃未満に保持される。
【0038】
あるいは、開環及びエステル化は、(S)−4−フルオロメチル−ジヒドロ−フラン−2−オンを低級アルコール中の臭化水素酸溶液と上に略述された条件で反応させることにより直接達成できる。
【0039】
反応が終了したら、式(2)の(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルは、当業者には知られている水性処理法を適用して単離することができる。生成物の更なる精製は、蒸留により達成することができる。
【0040】
工程b)
工程b)は、式(2)の(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルをN−保護グリシンアルキルエステルにより式(3)のN−保護−(S)−4−(アルコキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸エステルに変換することを必要とする。
【0041】
好ましい式(2)の(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルは、対応するメチルエステルである。
【0042】
適切なN−保護グリシンアルキルエステルは、N−保護グリシン低級アルキルエステル、好ましくはメチル−又はエチルエステルである。
【0043】
N−保護基「Prot」は、アミノ基の反応性を妨げるのに従来から使用されている任意の置換基のことであってよい。適切なアミノ保護基は、Green T., "Protective Groups in Organic Synthesis", Chapter 7, John Wiley and Sons, Inc., 1991, 309-385に記載されている。ベンジル基は、好ましいN−保護基「Prot」であることが分かった。
【0044】
よって最も好ましいN−保護グリシンアルキルエステルは、N−ベンジルグリシンエチルエステルである。
【0045】
本反応は、通常、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン又はトリエチルアミンのような適切な極性非プロトン性溶媒中で、好ましくはアセトニトリル中で、60℃〜溶媒の還流温度の反応温度で、通常溶媒の還流温度で実行される。
【0046】
工程b)の生成物、好ましくは(S)−4−(ベンジル−エトキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸メチルエステルは、当業者には知られている方法を適用して、例えば、溶媒の除去により単離することができる。精製は、シリカゲル上の残渣を適切な有機溶媒又は有機溶媒混合物、例えば、酢酸エチルとヘプタンとの混合物を溶離液として用いて濾過することにより達成できる。
【0047】
工程c)
工程c)は、式(3)のN−保護−(S)−4−(アルコキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸エステルの脱保護、及びこれに続く閉環を必要として、式(4)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルが形成される。
【0048】
最初の工程において、N−保護基「Prot」は、当業者には知られている条件を適用した水素化分解を介して脱離される(例えば、"Hydrogenolysis of Benzyl Groups Attached to Oxygen, Nitrogen, or Sulfur." Org. React. (N.Y.) 7:263を参照のこと)。
【0049】
好ましい脱ベンジル化には、水素化分解は、通例1bar〜10barの水素雰囲気下で、炭のような不活性支持体上のパラジウム又は白金のような一般的水素化触媒の存在下で、そして溶媒として低級アルコール、好ましくはエタノール中で実行することができる。
【0050】
反応温度は、0℃〜60℃、好ましくは10℃〜30℃の間で目的に適うように選択される。
【0051】
閉環は、水素化分解の過程で既に観測することができる。閉環の完了は、反応温度を、好ましくは溶媒の還流温度まで上昇させることにより達成できる。触媒は、温度上昇に先立ち濾別することができる。
【0052】
工程c)の生成物、好ましくは((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エチルエステルは、溶媒の除去により、及び必要に応じてこれに続く残渣の蒸留により、反応混合物から単離することができる。
【0053】
式(4):
【0054】
【化14】


[式中、R1bは、低級アルキルである]で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステル、詳しくは((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エチルエステルは、新規であり、よって本発明の更に別の実施態様に相当する。
【0055】
工程d)
工程d)は、式(5a)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステルへの、式(4)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルの変換を必要とする。
【0056】
最初に下記式:
【0057】
【化15】


[式中、R1cは、保護基である]で示される酢酸エステルを、非求核性有機強塩基の存在下で、例えば、LDA=リチウムジイソプロピルアミド、LiHMDS=ヘキサメチルジシラザンリチウム、KHMDS=ヘキサメチルジシラザンカリウム、NaHMDS=ヘキサメチルジシラザンナトリウム又はLiTMP=リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジドにより、0℃〜−100℃、好ましくは0℃〜−40℃の温度で、適切な不活性有機溶媒の存在下で、例えば、テトラヒドロフラン中で脱プロトン化する。
【0058】
適切な保護基R1cは、ベンジル又は1−フェニルエチル、好ましくはベンジルである。好ましくは酢酸ベンジルが使用される。
【0059】
次にその場で形成されたエノラートに、式(4)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルを、−50℃〜−100℃、好ましくは−60℃〜−80℃の温度で、エノラートの形成に使用されたものと同じ溶媒の存在下で加えることができる。
【0060】
反応が終了したら、式(5a)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステル、好ましくは((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸ベンジルエステルは、当業者には知られている水性処理法を適用して単離することができる。本生成物の精製は、適切な有機溶媒又は有機溶媒混合物、例えば、酢酸エチルとヘプタンとの混合物を溶離液として使用したシリカゲルでの濾過により達成できる。
【0061】
式(5a):
【0062】
【化16】


[式中、R1cは、保護基である]で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステル、詳しくは((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸ベンジルエステル、又はその塩は、新規化合物であり、よって本発明の更に別の実施態様に相当する。
【0063】
β−ケトエステル類は、ケト−エノール互変異性を示すため、((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステルはまた、式(5a'):
【0064】
【化17】


で示されるそのエノール型で存在することができる。
【0065】
工程e)
工程e)は、式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸への、式(5a)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステルの変化を必要とする。
【0066】
酸の形成は、通例、当業者には知られている方法を適用して実行することができる、水素化分解よりなる(例えば、W.H. Hartung, R. Smirnoff (1953). "Hydrogenolysis of Benzyl Groups Attached to Oxygen, Nitrogen, or Sulfur." Org. React. (N.Y.) 7:263を参照のこと)。
【0067】
通常、本反応は、1bar〜10barの水素雰囲気下で、炭のような不活性支持体上のパラジウム又は白金のような一般的水素化触媒の存在下で、そして溶媒として低級アルコール、好ましくはエタノール中で実行される。
【0068】
反応温度は、0℃〜60℃、好ましくは0℃〜30℃の間で目的に適うように選択される。
【0069】
生じる式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸は、触媒を濾別することにより、そして溶媒の除去後に反応混合物から単離することができる。
【0070】
しかし、式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸は単離せずに、濾液(触媒の除去後)を次の工程f)に使用するのが好ましい。
【0071】
式(5b):
【0072】
【化18】


で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸又はその塩は、新規化合物であり、よって本発明の更に別の実施態様に相当する。
【0073】
工程f)
工程f)は、式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸と式(6)のイソキノリン誘導体、又はその塩とのカップリングを必要として、式(7a)の化合物又はその塩が形成され、そして続くホルムアルデヒドでの式(7a)の化合物の閉環により、式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体が形成される。
【0074】
工程e)の下に略述されたように、工程e)から得られ、式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸を含有する濾液は、式(6)のイソキノリン誘導体に加えることにより、式(7a)の化合物又はその塩(反応条件及び単離手順に応じて)を得ることができる。
【0075】
式(6)の適切なイソキノリン誘導体は、式(6a.HCl):
【0076】
【化19】


で示されるジヒドロイソキノリンである。
【0077】
この場合に、好ましい条件は、式(5b)の(S)−(4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸と式(6a.HCl)の化合物との、水、低級アルコール又は好ましくはこれらの混合物のような適切な溶媒中での反応を伴う。塩基の添加は、反応を進行させるのに必要である。適切な塩基としては、カルボン酸塩が好ましく、更に好ましくは酢酸ナトリウム又はカリウム、更になお好ましくは酢酸ナトリウムがある。好ましい条件は、共溶媒としてのエタノール、水及び場合によりヘプタンの混合物中の、0.05〜1当量、好ましくは0.05〜0.5当量、更に好ましくは0.1〜0.2当量の酢酸ナトリウムの使用を含む。式(7a)の生成物は、便利には次の工程に導入することができるか、又は(その塩酸塩の)直接結晶化により単離することができるか、又は抽出処理により単離することができる。
【0078】
反応温度は、通例0℃〜40℃の間、好ましくは20℃〜30℃の間で選択される。最適温度範囲は、基質ごとに変化させることができる。
【0079】
続く閉環は、水性ホルムアルデヒドにより20℃〜60℃、好ましくは20℃〜50℃の温度で達成される。最適温度範囲は、基質ごとに変化させることができる。本反応は、5〜7の間、好ましくは6〜7の間のpHで実行される。
【0080】
ジアステレオマーの分離及び特定のジアステレオマーである式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体の、好ましくは(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−9,10−ジメトキシ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オンの単離は、酢酸エチルとエタノールとの、又はt−ブチル−メチルエーテルとエタノールとの混合物のような適切な有機溶媒を溶離液として用いる、シリカゲルクロマトグラフィーにより行うことができる。適切な有機溶媒中、例えば、ジクロロメタン/エタノール中での結晶化を行えば、更に純粋な生成物が得られる。
【0081】
式(7a):
【0082】
【化20】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニル(ここで、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニルは、場合により、低級アルコキシカルボニル、アリール及びヘテロシクリルから選択される基により置換されていてもよい)よりなる群から選択される]で示される化合物又はその塩、及び式(7b):
【0083】
【化21】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニル(ここで、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニルは、場合により、低級アルコキシカルボニル、アリール及びヘテロシクリルから選択される基により置換されていてもよい)よりなる群から選択される]で示される化合物又はその塩は、共に新規化合物であり、よって本発明の更に別の実施態様に相当する。
【0084】
式(7a)及び(7b)の化合物の好ましい代表例は、R及びRが、メトキシであり、そしてRが、水素である化合物である。式(7a)及び(7b)の化合物の好ましい塩は、塩酸塩である。
【0085】
工程g)
工程g)は、式(8)の(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オンへの、式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体の変化を必要とする。
【0086】
本明細書に以降式(8)の化合物について使用されるN−保護基「Prot」は、アミノ基の反応性を妨げるのに従来から使用されている任意の置換基のことであってよい。適切なアミノ保護基は、Green T., "Protective Groups in Organic Synthesis", Chapter 7, John Wiley and Sons, Inc., 1991, 309-385に記載されている。ベンジル基は、好ましいN−保護基「Prot」であることが分かった。
【0087】
N−保護アミノ基によるオキソ基の交換は、通常、還元的アミノ化の原理にしたがう(例えば、E.W. Baxter, A.B. Reitz (2002). "Reductive aminations of carbonyl compounds with borohydride and borane reducing agents." Org. React. (N.Y.) 59:1-714を参照のこと)。
【0088】
式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体は、N−保護アミンと、好ましくはベンジルアミンと、チタンテトライソプロポキシドのようなTi−有機化合物の存在下でテトラヒドロフランのような適切な有機溶媒中で0℃〜40℃の温度で反応させ、次に水素化ホウ素ナトリウムのような一般的な還元剤で0℃〜−50℃の温度で前に形成されたイミンを還元する。
【0089】
式(8)の(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オンの、好ましくは(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−9,10−ジメトキシ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オンの単離は、適切な有機溶媒、例えば、ジクロロメタンとメタノールとの混合物を溶離液として用いる、シリカゲルでの濾過により行うことができる。溶媒の留去及び適切な有機溶媒中、例えば、ジクロロメタン/エタノール中での結晶化を行えば、更に純粋な生成物が得られる。
【0090】
工程h)
最後に工程h)は、式(8)の(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オン中の保護基Protの脱離、及び式(I)の目標化合物の形成を必要とする。
【0091】
N−保護基の、好ましくはベンジル基の脱離は、通例、当業者には知られている条件を適用した水素化分解を介して達成することができる(例えば、W.H. Hartung, R. Smirnoff (1953). "Hydrogenolysis of Benzyl Groups Attached to Oxygen, Nitrogen, or Sulfur." Org. React. (N.Y.) 7:263を参照のこと)。
【0092】
好ましい脱ベンジル化には、水素化分解は、通例、1bar〜10barの水素雰囲気下で、炭のような不活性支持体上のパラジウム又は白金のような一般的水素化触媒の存在下で、そして溶媒として低級アルコール、好ましくはエタノール中で実行することができる。
【0093】
反応温度は、0℃〜60℃、好ましくは20℃〜50℃の間で目的に適うように選択される。
【0094】
反応が終了したら、反応混合物を濾過して、濾液を濃縮することにより、脱保護生成物を得る。
【0095】
続いての式(I)の化合物の薬学的に許容しうる塩の形成は、当業者の技能の範囲内である。
【0096】
二塩酸塩の好ましい形成は、式(I)の脱保護生成物を、塩化アセチルのような適切な塩化アルカノイルと、メタノール中のような適切な溶媒中で0℃〜30℃の間の反応温度で、又はHClと、イソプロパノール若しくはジオキサン中のような適切な溶媒中で、反応させることにより達成できる。
【0097】
最も好ましい式(I)の生成物は、式(9)の(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−アミノ−9,10−ジメトキシ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オン二塩酸塩である。
【0098】
下記の実施例は、本発明を限定することなく例証するものである。
【0099】
実施例
実施例1
(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸メチルエステルの合成(2)
【0100】
【化22】

【0101】
機械式撹拌機、還流冷却器、Pt−100温度計、及びアルゴン入口/出口を備えた2.5−Lの4口フラスコ中で、臭化水素酸(400ml、2.28mol、酢酸中5.7M)をラクトン(1)(80g、677mmol)に加えた。混合物を60℃に加熱し、3時間撹拌して、清澄な黄色の溶液を得た。温度を30℃未満に保持しながら、メタノール(800ml)を、氷冷却下で10分間かけて加えた。得られた混合物を、周囲温度で19時間撹拌し、次に減圧下で40℃にて濃縮した。残留物をトルエン(400ml)で希釈し、飽和重炭酸ナトリウム水溶液(1000ml)を、CO発生下でゆっくりと加えた。相を分離し、有機層を水(200ml)で洗浄し、無水NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で40℃にて濃縮して、粗生成物139gを、黄色の油状物として得た。粗生成物を真空蒸留(62〜65℃、0.9mbar)により精製して、エステル(2)(111.3g、収率77%)を無色の油状物として得た。
MS:m/e 213(M+H)
【0102】
実施例2
(S)−4−(ベンジル−エトキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸メチルエステルの合成(3)
【0103】
【化23】

【0104】
機械式撹拌機、還流冷却器、Pt−100温度計、及びアルゴン入口/出口を備えた2.5−Lの4口フラスコ中で、ブロミド(2)(110g、519mmol)をアセトニトリル(880ml)に溶解した。この溶液に、N−ベンジルグリシンエチルエステル(256g、1.30mol)を加え、反応混合物を71時間還流し、この間にゆっくりと暗赤色に変わった。室温に冷ました後、混合物を減圧下で濃縮した。暗赤色の油状物を、溶離剤としてEtOAc:ヘプタン 1:9を使用するシリカゲル(800g)で濾過し、粗標記化合物(3)(169g)を黄色の油状物として得て、これを更に精製しないで使用した。
MS:m/e 326(M+H)
【0105】
実施例3
((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エチルエステルの合成(4)
【0106】
【化24】

【0107】
5−Lの反応器中で、エステル(3)(148g、455mmol)をエタノール(500ml)に溶解し、エタノール(40ml)中のパラジウム担持炭(13.8g、10wt% Pd)の懸濁液を一度に加えた。混合物を水素雰囲気(1.1bar)下、20℃で2時間撹拌した。反応混合物を濾過し、フィルターケーキをエタノールで洗浄した。濾液を減圧下で40℃にて約500mlの容積に濃縮し、得られた溶液を還流温度で6時間撹拌した。周囲温度に冷ました後、溶媒を減圧下で40℃にて除去した。粗生成物(92.0g)を、減圧下(0.75mbar、134〜139℃)で部分的に蒸留して、エステル(5)(75.5g、収率81%)を無色の油状物として得た。
MS:m/e 204(M+H)、130、158。
【0108】
実施例4
4−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸ベンジルエステルの合成(5)
【0109】
【化25】

【0110】
機械式撹拌機、Pt−100温度計、添加漏斗、及びアルゴン入口/出口を備えた2.5−Lの4口フラスコ中で、ジイソプロピルアミン(112ml、792mmol)をTHF 960mlに溶解し、混合物を−30℃に冷却した。n−ブチルリチウム(507ml、787mmol、ヘキサン類中1.55M)を35分間かけて滴下し、添加が終了した後で、清澄な溶液を−25℃で30分間撹拌した。−70℃に更に冷却した後、酢酸ベンジル(114ml、794mmol)を35分間かけて滴下し、黄色の溶液を更に1.5、時間撹拌した。THF(40ml)中のエチルエステル(4)(80.0g、394mmol)の溶液を、−70℃で1時間かけて加え、添加が終了した後で、混合物を90分間かけて−25℃に温まるにまかせた。
【0111】
反応混合物を1.0M 塩酸水溶液(2000ml)に加えることにより、反応をクエンチした。有機溶媒を減圧下で40℃にて蒸発により除去し、残留水層をジクロロメタン(3×970ml)で抽出した。合わせた有機層を無水NaSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で40℃にて濃縮して、橙色の油状物(176.5g)を得た。粗生成物を、EtOAc:ヘプタン 3:1で溶離するシリカゲルクロマトグラフィー(シリカゲル1.75kg)により精製した。エステル(5)(109g、収率90%)を、黄色を帯びた油状物として単離した。
MS:m/e 308(M+H)、325、330(M+Na)
【0112】
実施例5
4−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸ベンジル酸の合成(5b)
【0113】
【化26】

【0114】
磁気式撹拌棒を備えた10−mLの2口フラスコ中で、ベンジルエステル(5)(150mg、0.488mmol)をメタノール(1.5ml)に溶解し、パラジウム担持炭(10.0mg、10wt% Pd)を加えた。混合物を水素雰囲気下(1bar)で2時間撹拌し、次に濾過し、フィルターケーキをエタノール(1.6ml)で洗浄した。揮発物を減圧下で周囲温度にて除去し、粗ケトエステル(5b)(105mg、収率99%)を、清澄な無色の油状物として得た。
MS:m/e 218(M+H)
【0115】
実施例6
(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−9,10−ジメトキシ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オンの合成(7)
【0116】
【化27】

【0117】
ガス−注入撹拌機及びPt−100温度計を備えた、350−mLの4口フラスコ中で、ベンジルエステル(5)(16.19g、52.7mmol)をエタノール(134ml)に溶解し、パラジウム担持炭(1.07g、10wt% Pd)を加えた。混合物を水素雰囲気下(1bar)で80分間撹拌し、次に濾過し、フィルターケーキをエタノール(20ml)で洗浄した。
【0118】
温度を、冷却浴を使用して20℃〜23℃の間に維持しながら、黄色を帯びた濾液を、エタノール(56ml)中のジヒドロイソキノリン(6)(12.0g、52.7mmol)、酢酸ナトリウム(432mg、5.24mmol)、及び水(3.7ml)の混合物に、COの発生下で10分間かけて加えた。添加が終了した後で、撹拌を4時間保持して、オフホワイトの懸濁液を得た。
【0119】
酢酸ナトリウム(3.89g、47.2mmol)(反応混合物のpH、約7)及びホルムアルデヒド水溶液(4.5ml、60.3mmol、HO中36.5%)を加え、得られた混合物を40℃で17時間撹拌した。オフホワイトの懸濁液をゆっくりと3時間かけて0℃に冷却し、この温度で6時間撹拌した。固体を濾別し、エタノール(8ml)で洗浄した。
【0120】
固体残留物を、溶離剤としてEtOAc:EtOH 9:1を使用するシリカゲル(650g)クロマトグラフィーにより精製した。溶媒を蒸発させた後、精製した生成物をジクロロメタン(40ml)に溶解し、エタノール(23ml)を加えた。ジクロロメタンを減圧下で40℃にて蒸発させると、結晶化が起こった。懸濁液を周囲温度で3時間撹拌した。結晶を濾別し、エタノール(6ml)で洗浄して、減圧下(10mbar、50℃)で24時間乾燥させて、ケトン(7)(5.18g、収率26%)を白色の結晶として得た。
融点(融点)=134℃。
MS:m/e 377(M+H)、399(M+Na)
【0121】
実施例7
(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−ベンジルアミノ−9,10−ジメトキシ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オンの合成(8)
【0122】
【化28】

【0123】
機械式撹拌機、Pt−100温度計、アルゴン入口/出口及びゴム製隔壁を備えた350−mLの4口フラスコ中で、ケトン(7)(10g、26.6mmol)をTHF(150ml)に懸濁した。チタンテトライソプロポキシド(15.7ml、53.1mmol)及びベンジルアミン(5.9ml、53.1mmol)を加えて、橙色の溶液を得て、それを室温で1時間撹拌した。水素化ホウ素ナトリウム(1.57g、39.9mmol)を加え、混合物を−30℃に冷却した後、エタノール(20ml)を6分間かけて滴下した。反応混合物を−30℃で15分間撹拌し、次に45分間かけてゆっくりと0℃に温まるにまかせた。0℃で100分後、溶媒を減圧下で蒸発により除去して、固体残留物を得て、それをジクロロメタン(100ml)に懸濁し、室温で15分間撹拌した。濾過の後、ジクロロメタン溶液を、溶離剤としてCHCl:MeOH 19:1を使用するシリカゲル(150g)のプラグで濾過した。揮発物を減圧下で蒸発させて、白色の固体(12.6g)を得て、それをジクロロメタン(100ml)に溶解した。エタノール(200ml)を加え、ジクロロメタンを、減圧下で40℃にて撹拌下しながら蒸発させて、結晶化させた。周囲温度で15時間撹拌した後、結晶を濾別し、エタノール(5ml)で洗浄し、減圧下(10mbar、50℃)で乾燥させて、アミン(8)(8.61g、収率69%)を白色の結晶として得た。
融点=192℃(分解)
MS:m/e 468(M+H)
【0124】
実施例7
(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−アミノ−9,10−ジメトキシ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オン塩酸塩の合成(9)
【0125】
【化29】

【0126】
1.5−Lのガラス製オートクレーブ中で、ベンジルアミン(8)(8.5g、18.2mmol)をメタノール(300ml)に溶解し、パラジウム担持炭(1.68g、10wt% Pd)をアルゴン下で加えた。反応器を密閉し、水素でフラッシュした。混合物を4barの圧力下で40℃にて水素化した。反応混合物を濾過し、フィルターケーキをメタノールで洗浄した。
【0127】
濾液を減圧下で40℃にて濃縮して、脱ベンジル化生成物6.65g(粗収率97%)をオフホワイトの固体として得た。
【0128】
温度を17℃未満に保持しながら、アセチルクロリド(5.1ml)を、氷冷却下でメタノール(22.7ml)に注意深く加えた。この溶液を、メタノール(50ml)中の粗生成物の溶液に室温で40分間かけて加えると、結晶化が起こった。添加完了後、撹拌を2時間維持した。固体を濾過により回収し、メタノール(7ml)で洗浄し、減圧下(10mbar、50℃)で乾燥させた。二塩酸塩(9)(7.13g、収率87%)を、白色の結晶として単離した。
MS:m/e 378(M−2HCl+H)、400(M−2HCl+Na)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化30】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニル(ここで、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニルは、場合により、低級アルコキシカルボニル、アリール及びヘテロシクリルから選択される基により置換されていてもよい)よりなる群から選択される]で示されるピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体、及びその薬学的に許容しうる塩の製造方法であって、
a) 式(1):
【化31】


で示される(S)−4−フルオロメチル−ジヒドロ−フラン−2−オンの開環、及びこれに続くエステル化により、式(2):
【化32】


[式中、R1aは、低級アルキルである]で示される(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルを得る工程;
b) 式(2)の(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルをN−保護グリシンアルキルエステルにより、式(3):
【化33】


[式中、R1a及びR1bは、低級アルキルであり、そしてProtは、アミノ保護基である]で示されるN−保護−(S)−4−(アルコキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸エステルに変換する工程;
c) 式(3)のN−保護−(S)−4−(アルコキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸エステルの脱保護、及びこれに続く閉環により、式(4):
【化34】


[式中、R1bは、低級アルキルである]で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルを形成する工程;
d) 式(4)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルを、式(5a):
【化35】


[式中、R1cは、保護基である]で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステル又はその塩に変換する工程;
e) 式(5a)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステルを、式(5b):
【化36】


で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸又はその塩に変化させる工程;
f) 式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸を、式(6):
【化37】


[式中、R、R及びRは、上記のとおりである]で示されるイソキノリン誘導体、又はその塩とカップリングさせることにより、式(7a):
【化38】


[式中、R、R及びRは、上記のとおりである]で示される化合物、又はその塩を形成し、続いて式(7a)の化合物をホルムアルデヒドで閉環することにより、式(7b):
【化39】


[式中、R、R及びRは、上記のとおりである]で示される(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体又はその塩を形成する工程;
g) 式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体を、式(8):
【化40】


[式中、R、R及びR並びにProtは、上記のとおりである]で示される(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オン、又はその塩に変化させる工程;
h) 式(8)の(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オン中の保護基Protを脱離する工程の1つ以上を含む、方法。
【請求項2】
式(I)のピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体が、式(9):
【化41】


で示されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)における式(2)の(R)−4−ブロモ−3−フルオロメチル−酪酸エステルの形成が、臭化水素酸により20℃〜100℃の反応温度で実行されることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程a)における続くエステル化が低級アルコール中で実行されることを特徴とする、請求項1〜3記載の方法。
【請求項5】
工程b)における式(3)のN−保護−(S)−4−(アルコキシカルボニルメチル−アミノ)−3−フルオロメチル−酪酸エステルの形成のために使用されるN−保護グリシンアルキルエステルが、N−ベンジルグリシンエチルエステルであることを特徴とする、請求項1〜4記載の方法。
【請求項6】
工程b)における変換が、極性非プロトン性溶媒中で60℃〜溶媒の還流温度で実行されることを特徴とする、請求項1〜5記載の方法。
【請求項7】
工程c)における式(4)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルの形成が、水素化触媒の存在下、1bar〜10barの水素雰囲気下でN−保護基を脱離し、これに高温での閉環反応が続く、水素化分解であることを特徴とする、請求項1〜6記載の方法。
【請求項8】
工程d)における式(5a)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステルの形成が、下記式:
【化42】


[式中、R1cは、保護基である]で示される酢酸エステルの非求核性有機強塩基の存在下での脱プロトン化により、その場で形成されたエノラートと、有機溶媒中、−50℃〜−100℃の温度で、式(4)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステルとの縮合を介して実行されることを特徴とする、請求項1〜7記載の方法。
【請求項9】
工程e)における式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸の形成が、水素化触媒の存在下、1bar〜10barの水素雰囲気下で保護基R1cを脱離する、水素化分解を介して実行されることを特徴とする、請求項1〜8記載の方法。
【請求項10】
式(5b)の((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸が、単離されないが、単離せずに反応工程f)に移行されることを特徴とする、請求項1〜9記載の方法。
【請求項11】
工程f)における式(7a)の化合物の形成が、式(6a.HCl):
【化43】


で示されるイソキノリン誘導体により塩基の存在下で実行されることを特徴とする、請求項1〜10記載の方法。
【請求項12】
工程f)における式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体の形成が、水性ホルムアルデヒドにより20℃〜60℃の温度で実行されることを特徴とする、請求項1〜11記載の方法。
【請求項13】
工程g)における式(8)の(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オンの形成が、式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体の還元的アミノ化により実行されることを特徴とする、請求項1〜12記載の方法。
【請求項14】
還元的アミノ化が、式(7b)の(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体と、Ti−有機化合物の存在下でベンジルアミンと反応させ、そして形成されたイミンを還元剤で還元することにより実行されることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
工程h)における、式(8)の(S)−1−((2S,3S,11bS)−2−N−保護アミノ−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−2H−ピリド[2,1−a]イソキノリン−3−イル)−4−フルオロメチル−ピロリジン−2−オンの保護基Protの脱離、及び式(I)のピリド[2,1−a]イソキノリン誘導体の形成が、水素化触媒の存在下、1bar〜10barの水素雰囲気下で水素化分解を介して実行されることを特徴とする、請求項1〜14記載の方法。
【請求項16】
式(4):
【化44】


[式中、R1bは、低級アルキルである]で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−酢酸エステル。
【請求項17】
式(5a):
【化45】


[式中、R1cは、保護基である]で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸エステル、又はその塩。
【請求項18】
式(5b):
【化46】


で示される((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−3−オキソ−酪酸、又はその塩。
【請求項19】
式(7a):
【化47】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニル(ここで、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニルは、場合により、低級アルコキシカルボニル、アリール及びヘテロシクリルから選択される基により置換されていてもよい)よりなる群から選択される]で示される化合物、又はその塩。
【請求項20】
式(7b):
【化48】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニル(ここで、低級アルキル、低級アルコキシ及び低級アルケニルは、場合により、低級アルコキシカルボニル、アリール及びヘテロシクリルから選択される基により置換されていてもよい)よりなる群から選択される]で示される(3S,11bS)−3−((S)−4−フルオロメチル−2−オキソ−ピロリジン−1−イル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−ピリド[2,1−a]イソキノリン−2−オン誘導体、又はその塩。

【公表番号】特表2011−506526(P2011−506526A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538572(P2010−538572)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067136
【国際公開番号】WO2009/080500
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】