説明

ピリミジンジオン誘導体

本発明はピリミジンジオン誘導体である新規な化合物、およびそれらの薬学的に受容可能な塩に関する。より具体的には、本発明はアログリプチン誘導体である新規なピリミジンジオン誘導体に関する。本発明はまた、一つ以上の本発明の化合物およびキャリアを含む組成物、ならびにジペプチダルペプチターゼIV(DPP4)阻害剤を投与することにより、有益に処置される疾患および状態を処置する方法において、開示されたこれらの化合物および組成物を使用することをも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願)
本出願は、2007年10月2日に出願された米国仮出願第60/997,265号の利益を主張し、その仮出願の教示の全体は本明細書中で参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
糖尿病は、適切にインスリンを生産または使用することが不能であることに起因する、高水準の血中グルコースにより特徴付けられる疾患である。疾病管理予防センターによると、米国内では、推定2080万の人々が糖尿病に罹患しており、その3分の1は、自分がその疾患に罹患したことに気づいていない。糖尿病は2002年に、225,000人近くの死亡の原因になったと考えられる。
【0003】
2−[6−[3(R)−アミノ−1−ピペリジニル]−3,4−ジヒドロ−3−メチル−2,4−ジオキソ−1(2H)−ピリミジニル]メチル]−ベンゾニトリルとして知られる、アログリプチン(Alogliptin)は安息香酸塩として予備登録されている。アログリプチンはDPP4を阻害し、従って、GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の加水分解を妨害し、そして血中のGLP−1の濃度を維持する。GLP−1の作用は、すい臓のベータ細胞を刺激しインスリンの生産を増やすこと、およびすい臓のアルファ細胞からのグルカゴンの分泌の阻害を含む。
【0004】
アログリプチンは、現在、II型糖尿病の治療のために予備登録されている。
【0005】
第I相および第II相の臨床試験は、この薬物が概して十分に許容されることを示した(非特許文献1)。
【0006】
アログリプチンの有益な作用にもかかわらず、糖尿病を処置するための新しい化合物に対し継続して必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Christopher R et al., Annual Meeting andScientific Sessions of the American Diabetes Association, 2007, 67th:June22 (Abs 0495-P)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明はピリミジンジオン誘導体である新規な化合物、およびそれらの薬学的に受容可能な塩に関する。より具体的には、本発明はアログリプチン誘導体である新規なピリミジンジオン誘導体に関する。本発明はまた、一つ以上の本発明の化合物およびキャリアを含む組成物、ならびにジペプチダルペプチターゼIV(DPP4)阻害剤を投与することにより、有益に処置される疾患および状態を処置する方法において、開示されたこれらの化合物および組成物を使用することをも提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(発明の詳細な記述)
「改善させる(ameliorate)」および「処置する(treat)」という用語は相互に取り替え可能に使用され、そして治療および予防の処置を両方含む。両用語は疾患(例えば、本明細書中に記載されている疾患または障害)の発生または進行を、減少、抑制、弱毒化、縮小、停止または安定化させること、その疾患の重症度を減らすこと、あるいは、その疾患と関連する症状を改善することを意味する。
【0010】
「疾患」は細胞、組織または器官の通常の機能を損傷または干渉する任意の状態あるいは障害を意味する。
【0011】
合成において用いられる化学物質の起源に依存して合成される化合物において天然同位体存在度のいくらかの変動が起こることが認識される。従って、アログリプチンの調製物は本来的に、少量の重水素化されたアイソトポログ(isotopologue)を含む。この変動にもかかわらず、天然に豊富にある水素および炭素の安定な同位体の濃度は、本発明の化合物の安定同位体の置換の度合いと比較して、低くおよび重要でない。例えば、Wada E et al., Seikagaku 1994, 66:15; Ganes LZ et al., Comp BiochemPhysiol Mol Integr Physiol 1998, 119:725.を参照。本発明の化合物において、特定の位置が重水素を有すると明示されている場合、その位置の重水素の存在度は、0.015%である重水素の天然存在度より、十分に高いことが理解される。重水素を有すると明示されている位置は、典型的に、上述の化合物において重水素であると明示されたそれぞれの原子で、少なくとも3340(50.1%の重水素取り込み)という最低限の同位体濃縮係数(isotopic enrichment factor)を有する。
【0012】
本明細書中で用いられる用語「同位体濃縮係数」は、特定された同位体の同位体存在度とその天然存在度との比率を意味する。
【0013】
他の形態において、本発明の化合物はそれぞれの明示された重水素原子に対して、少なくとも3500(明示されたそれぞれの重水素原子において52.5%の重水素取り込み)、少なくとも4000(60%の重水素取り込み)、少なくとも4500(67.5%の重水素取り込み)、少なくとも5000(75%重水素)、少なくとも5500(82.5%の重水素取り込み)、少なくとも6000(90%の重水素取り込み)、少なくとも6333.3(95%の重水素取り込み)、少なくとも6466.7(97%の重水素取り込み)、少なくとも6600(99%の重水素取り込み)、または少なくとも6633.3(99.5%の重水素取り込み)の同位体濃縮係数を有する。
【0014】
本発明の化合物において、特定の同位体として具体的に明示されない任意の原子は、その原子の任意の安定な同位体を表すことを意図される。そうではないと言明される場合を除いて、ある位置が「H」または「水素」として具体的に明示されるときは、その位置は水素を、その天然存在度の同位体組成で有すると理解される。また、そうではないと言明される場合を除いて、ある位置が「D」または「重水素」として具体的に明示されるときは、その位置は重水素を、0.015%である重水素の天然存在度より少なくとも3340倍高い存在度で有する(すなわち、少なくとも50.1%の重水素の取り込み)と理解される。
【0015】
用語「アイソトポログ」とは本発明の特定の化合物とその同位体組成においてのみ異なる化学種をいう。
【0016】
本発明の化合物について言及するとき、用語「化合物」とは、分子の構成原子の中で同位体の変動があり得ることを除いて、同一の化学構造を有する分子の集まりをいう。したがって、表示された重水素原子を含む特定の化学構造により表された化合物もまた、その構造において一つ以上の明示された重水素の位置の一つ以上に水素原子を有するアイソトポログをより少量含むことは当業者にとって、明白である。本発明の化合物においてそのようなアイソトポログの相対量はいくつかの要因に依存し、それらの要因はその化合物を作製するために用いられる重水素化された試薬の同位体純度およびその化合物を調製するために用いられる種々の合成工程においての重水素の取り込みの効率を含む。しかしながら、上記で説明したようにそのようなアイソトポログの相対量は全体としてその化合物の49.9%未満である。
【0017】
本発明はまた、本発明の化合物の塩を提供する。本発明の化合物の塩は、アミノ官能基のようなその化合物の塩基性基と酸との間で、またはカルボキシル官能基のようなその化合物の酸性基と塩基との間で形成される。別の実施形態によると、その化合物は薬学的に受容可能な酸の付加塩である。
【0018】
本明細書中で用いられる用語「薬学的に受容可能な」とは、堅実な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび他の哺乳類の組織との接触において、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などを伴わない使用に適し、および適正な利益/危険(risk)比率に相当する成分をいう。「薬学的に受容可能な塩」は、受容者への投与上、本発明の化合物を直接あるいは間接いずれでも提供する能力がある任意の無毒な塩を意味する。「薬学的に受容可能な対イオン」は塩のイオン性部分であり、受容者への投与の際、その塩から放出されるとき有毒でないものである。
【0019】
薬学的に受容可能な塩を形成するために一般に使用される酸として、硫化水素(hydrogen bisulfide)、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、およびリン酸のような無機酸ならびにパラ−トルエンスルホン酸、サリチル酸、酒石酸、酒石酸水素酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ベシル酸、フマル酸、グルコン酸、グルクロン酸、ギ酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、乳酸、シュウ酸、パラ−ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸のような有機酸、ならびに関連する無機酸および有機酸が挙げられる。したがってそのような薬学的に受容可能な塩として、硫酸塩、ピロ硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−ジカルボン酸(butyne-1,4-dioate)塩、ヘキシン−1,6−ジカルボン酸(hexyne-l,6-dioate)塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩(terephathalate)、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、β−ヒドロキシ酪酸、グリコール酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、マンデル酸塩、および他の塩が挙げられる。一つの実施形態において、薬学的に受容可能な酸の付加塩として、塩酸および臭化水素酸のような鉱酸に加えて形成される付加塩、ならびに特に、マレイン酸のような有機酸に加えて形成される付加塩が挙げられる。
【0020】
本発明はまた、本発明の化合物の溶媒和物および水和物を含む。本明細書中で用いられる用語「水和物」は、非共有結合性の分子間力により結合した、化学量論量または非化学量論量の水をさらに含む化合物を意味する。用語「溶媒和物」は、非共有結合性の分子間力により結合した、化学量論量または非化学量論量の溶媒(水、アセトン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、2−プロパノール、など)をさらに含む化合物を意味する。
【0021】
本発明の化合物(例えば、式Iの化合物)は、例えば、重水素置換またはそうではないものの結果としての不斉炭素原子を含み得る。そうであるので、本発明の化合物は個々の鏡像異性体、または二つの鏡像異性体の混合物のいずれとしても存在し得る。したがって、本発明の化合物はラセミ混合物もしくはスケールミック(scalemic)混合物のいずれかとして、または別の可能な立体異性体を実質的に含まない、それぞれ個々の立体異性体として存在し得る。本明細書中で用いられる用語「他の立体異性体を実質的に含まない」は、他の立体異性体が25%未満、好ましくは他の立体異性体が10%未満、より好ましくは他の立体異性体が5%未満、および、もっとも好ましくは他の立体異性体が2%未満であることを意味し、または他の立体異性体が「X」%未満(Xは0から100までの間の数値であり、0および100を含む)であることを意味する。所定の化合物の個々の鏡像異性体を得る、または合成する方法は当該分野で公知であり、そして最終化合物に対し、または出発原料もしくは中間体に対し実行可能なものとして利用され得る。
【0022】
そうではないと表示されない限り、開示された化合物が、立体化学を特定せずに示され、または構造により記載され、そして一つ以上のキラル中心を有するとき、その化合物の全ての可能な立体異性体を表していると理解される。
【0023】
本明細書中で使用される用語「安定な化合物」とは、それらの製造に備えて十分な安定性を有し、そして本明細書に詳細に記載される目的(例えば、治療用の製品への処方、治療用の化合物の生産に使用する中間体、単離または保存可能な中間体化合物、治療剤に反応する疾患または状態の処置)にとって有用であるのに十分な期間その化合物の完全性を維持する化合物をいう。
【0024】
「D」とは、重水素をいう。「立体異性体」とは、鏡像異性体およびジアステレオマー両方をいう。「Tert」、「」、および「t−」とは、それぞれ第三級をいう。「US」とは、アメリカ合衆国をいう。
【0025】
本明細書すべてを通して、変数は一般に言及(例えば、「各々のR」)され得、または具体的に言及(例えば、R、R、R、など)され得る。そうではないと表示されない限り、変数が一般に言及されるとき、変数は、その特定の変数のすべての実施形態を含むことを意図される。
【0026】
(治療用の化合物)
本発明は:
【0027】
【化1】

式Iの化合物またはその薬学的に受容可能な塩を提供し、ここで:
は−CH、−CHD、−CHD、または−CDであり;
Lは−CH−、−CHD−、または−CD−であり;
環Aは、必要に応じて、1個から4個の環の水素が重水素で置換され;そして
環Bは、必要に応じて、1個から9個の環の水素が重水素で置換される;
ただし、Rが−CHであり、そしてLが−CH−であるとき、環A上または環B上に少なくとも一つの重水素が存在する。
【0028】
本発明の一つの実施形態は式で示される化合物を提供し、ここでRは−CHまたは−CDである。この実施形態の一つの局面において、Lは−CH−、または−CD−である。
【0029】
別の実施形態は式Iの化合物を提供し、ここで、
環Bは
【0030】
【化2】

であり:
ここで、Z1aはZ1bと同一であり、Z2aはZ2bと同一であり、Z3aはZ3bと同一であり、そしてZ4aはZ4bと同一である。この実施形態の一つの局面において、Rは−CHまたは−CDである。この実施形態の別の局面において、Rは−CHまたは−CDであり、そしてLは−CH−または−CD−である。この実施形態のさらに別の局面において、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4aおよびZ4b各々は重水素であり、Rは−CHまたは−CDであり、そしてLは−CH−または−CD−である。この実施形態のさらなる局面において、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a、Z4b、およびZ各々は重水素であり、Rは−CHまたは−CDであり、そしてLは−CH−または−CD−である。この実施形態のさらに別の局面において、Rは−CHまたは−CDであり、Lは−CH−または−CD−であり、そして環Aは0個または4個の重水素を有する。この実施形態のさらに別の局面において、Rは−CHまたは−CDであり、Lは−CH−または−CD−であり、環Aは0個または4個の重水素を有し、そしてZ1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4aおよびZ4b各々は重水素である。この実施形態のさらなる局面において、Rは−CHまたは−CDであり、Lは−CH−または−CD−であり、環Aは0個または4個の重水素を有し、そして、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a、Z4b、およびZ各々は重水素である。
【0031】
さらに別の実施形態において、本発明の化合物は、以下の化合物:
【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

のいずれか一つ、または前述のいずれかの薬学的に受容可能な塩から選択される。
【0034】
実施形態の別のセットにおいて、上記に説明される実施形態のいずれにおいても、重水素として明示されていない任意の原子はその天然同位体存在度で存在する。
【0035】
以下に示される合成スキームは、式Iの化合物を調製するための経路を示す。重水素化されない点以外は、式Iに対応する化合物を作製するための手順は国際公開第2005/095381号パンフレットおよび国際公開第2007/035629号パンフレットに開示されている。適切に重水素化されたものを用いて、これらの手順は本発明の化合物を調製するように適合されることができる。
【0036】
対応する、重水素化され、そして必要に応じて他の同位体を含む試薬および/もしくは中間体を用いてこのような方法を実行し、または当該分野で公知である、同位体原子を化学構造に導入する標準の合成実験計画(synthetic protocols)を実施して、このような方法を実行し本明細書中に記載される化合物を合成することができる。特定の中間体は、精製(例えば、ろ過、蒸留、昇華、結晶化、粉砕化、固相抽出、およびクロマトグラフィー)され、または精製されずに用いられ得る。
【0037】
(好例となる合成)
スキーム1. 式Iの化合物への一般の経路
【0038】
【化5】

上記スキーム1は式Iの化合物を作製するための一般の経路を示す。クロロウラシルXはベンジルブロミドで処理され(ここで、Lおよび環Aは式Iの化合物に対し定義される)XIを与え、XIはその後アルキルヨージドR−Iでアルキル化されXIIを与える。キラルな3−アミノピペリジンとの反応は式Iの化合物を与える。
【0039】
スキーム2. 重水素化されたベンジルブロミド中間体XVaの調製
【0040】
【化6】

スキーム1の第一工程で用いられ得る、重水素化されたベンジルブロミド中間体を作製するため経路を上記スキーム2は示す。重水素化されたベンジルブロミドXVaは市販のフェノールXIIIから、Takagi, K et al., Chem Lett, 1989, 11:1957−1958.に記載されるような、トリフラートそして引き続くシアニドとの置換を経て調製され得る。その後、Orita, A et al., Chemistry - A European Journal, 2002, 8:2000−2004.に記載されるように、得られたニトリルXIVは四塩化炭素中、N−ブロモスクシンイミドと反応させられベンジルブロミドXVaを与えることができる。
【0041】
市販のo−クレゾール−3,4,5,6−d,OD、
【0042】
【化7】

はスキーム2において用いられ、重水素化されたベンジルブロミドXVb(ここで、Lは−CH−であり、そして環Aは4個の重水素原子を有する)を類似した方法で与え得る。
【0043】
スキーム2b. 別の重水素化されたベンジルブロミド中間体XVcの調製
【0044】
【化8】

上記スキーム2bは別の重水素化されたベンジルブロミド中間体(XVc)を作製するための経路を示し、XVcもまた、スキーム1の第一工程において使用され得る。市販のサリチル酸XIXは, Mazzini, F., et al. Synthesis (2005), (15), 2479−2481.の方法に従い、重水素化されたo−クレゾールXIIIaへと変換される。その後、XIIIaは、上記スキーム2に示されている経路に従い、XVcへと変換される。
【0045】
スキーム3. 重水素化された3−アミノピペリジン中間体XVIIIの調製
【0046】
【化9】

スキーム1において有用である、重水素化された3−アミノピペリジン中間体を作製するための経路を上記スキーム3は示す。商業的に入手可能なd−3−アミノピリジンXVIは、水素化の触媒としてPfrengle, W et al., Ger. Offen. (2006) DE 102004054054に記載されるNishimura触媒を用いて、重水素ガスで還元され得る。ラセミ体であるジアミンXVIIはSamuel, HJ et al., WO 2007075630に記載されるように分割され得る。
【0047】
前述の特定のアプローチ(approaches)および化合物は限定するものであるとは意図されない。本明細書中のスキームにおける化学構造は、変数を記載し、この変数は、同じ変数名(すなわち、R、R、R、など)により識別されるか、されないかに拘らず、本明細書中の化合物の式において対応する位置の化学基の定義(部分、原子など)と同一基準で本明細書により定義される。別の化合物の合成に使用するための化合物の構造においての化学基の適切さは当業者の知識の範囲内である。式Iの化合物およびそれらの合成前駆体を合成する追加の方法は、本明細書中のスキームに明示的に記載されない経路の範囲内である方法を含み、それらの方法は当業者である化学者が用いる方法の範囲内である。反応条件を最適化するため方法、および必要ならば、競合する副生成物を最少化するための方法は当該分野で公知である。本明細書中で引用される合成の参考文献に加えて、市販の構造−検索可能なデータベースソフトウェア、例えば、SciFinder(登録商標)(CAS division of the American Chemical Society)、STN(登録商標)(CAS division of the American Chemical Society)、CrossFire Beilstein(登録商標)(Elsevier MDL)またはGoogle(登録商標)のようなインターネット検索エンジン、または米国特許商標庁テキストデータベースのようなキーワードデータベースを利用することにより、反応スキームおよび反応プロトコルは熟練の当業者により決定され得る。
【0048】
本明細書中に記載される方法はまた、本明細書中に具体的に記載される工程の前後いずれにも、本明細書中の化合物の合成を最終的に可能にするために、適切な保護基を付加または脱離する工程をもさらに含み得る。加えて、所望の化合物を与えるために、種々の合成工程は別の順序または順番(sequence or order)で行われ得る。適用可能な化合物を合成するときに有用な合成化学変換および保護基の方法論(保護および脱保護)は、当該分野で公知であり、そして、例えばLarock R, Comprehensive Organic Transformations, VCH Publishers (1989);Greene TW et al., Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Ed., John Wiley and Sons (1999);Fieser L et al., Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis, John Wiley and Sons (1994);およびPaquette L, ed., Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis, John Wiley and Sons (1995)ならびにこれらの以降の版に記載されるものを含む。
【0049】
本発明により意図される置換基および変数の組み合わせは安定な化合物の形成を生ずる組み合わせのみである。
【0050】
(組成物)
本発明はまた、発熱物質を含まない組成物をも提供し、その組成物は有効量の式I(例えば、本明細書中の任意の式を含む)の化合物、または有効量の前記化合物の薬学的に受容可能な塩;および受容可能なキャリアを含む。好ましくは、本発明の組成物は薬学的な使用のために処方され(薬学的組成物)、ここで、そのキャリアは薬学的に受容可能なキャリアである。このキャリアがその処方物の他の成分と適合性であるという意味で、、そして薬学的に受容可能なキャリアの場合,医薬中で使用される量ではそのキャリアの受容者(recipient)にとって有毒でない意味で、そのキャリアは「受容可能」である。
【0051】
本発明の薬学的組成物において用いられ得る、薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントおよびビヒクルとしては、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清タンパク質のような血清タンパク質、リン酸、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムのような緩衝物質、植物性の飽和脂肪酸の部分的なグリセリドの混合物、水、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩のような塩または電解質、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ロウ、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
必要ならば、薬学的組成物における本発明の化合物の溶解度および生物学的利用能は当該分野で周知の方法により向上され得る。一つの方法として、処方においての脂質賦形剤の使用が挙げられる。“Oral Lipid−Based Formulations: Enhancing the Bioavailability of Poorly Water−Soluble Drugs (Drugs and the Pharmaceutical Sciences),” David J. Hauss, ed. Informa Healthcare, 2007;および“Role of Lipid Excipients in Modifying Oral and Parenteral Drug Delivery: Basic Principles and Biological Examples,” Kishor M. Wasan, ed. Wiley−Interscience, 2006を参照。
【0053】
生物学的利用能を向上させる別の公知の方法は、LUTROLTM およびPLURONICTM (BASF Corporation)のようなポロキサマー(poloxamer)、またはエチレン酸化物およびプロピレン酸化物のブロック共重合体を用いて,必要に応じて処方される本発明の化合物の無結晶形態(amorphous form)を使用することである。米国特許第7014866号;および米国特許出願公開第2006/0094744号および米国特許出願公開第2006/0079502号を参照。
【0054】
本発明の薬学的組成物は、経口、直腸、鼻、局所(頬側および舌下を含む)、膣または非経口(皮下、筋肉内、静脈、および皮内を含む)での投与に適した組成物を含む。特定の実施形態において、本明細書内の式で示される化合物は経皮で投与される(例えば経皮パッチまたはイオン導入技術を用いて)。他の処方物は、便宜的に単位用量の形式(例えば、錠剤、徐放性カプセル)およびリポソーム中で存在し、そして薬学の分野で周知である任意の方法により調製され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA (17th ed. 1985)を参照。
【0055】
そのような調製方法は、投与されるべき分子と、一つ以上の付属の成分を構成するキャリアのような成分とを会合させる工程を含む。一般に、液体キャリア、リポソームもしくは細かく分割された固体キャリアまたはその両方と、有効成分と一様および緊密に会合させること、そして必要であればその後、その生成物を成形することにより本発明の組成物は調製され得る。
【0056】
特定の実施形態において、本発明の化合物は経口で投与される。経口投与に適した本発明の組成物は、カプセル剤、サシェ剤(sachets)、もしくは錠剤(各々が、所定の量の有効成分を含む);散剤または顆粒剤;水性液体または非水性液体の液剤または懸濁剤;水中油液体乳剤;油中水液体乳剤;リポソーム中に充填されるもののような分割された単位で、またはボーラスなどとして表され得る。軟ゼラチンカプセル剤は、そのような懸濁剤を含むことに有用であり、化合物の吸収速度を有益に高め得る。
【0057】
経口用途の錠剤の場合、一般に使用されるキャリアとしては、ラクトースおよびトウモロコシデンプンが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤もまた典型的に加えられる。カプセル剤形態での経口投与のために有用な希釈剤としては、ラクトースおよび乾燥トウモロコシデンプンが挙げられる。水性懸濁剤が経口で投与されるとき、有効成分は乳化剤および懸濁化剤と合わせされる。望むならば、特定の甘味料および/または香味料および/または着色料が加えられ得る。
【0058】
経口投与に適した組成物としては、風味付けられた基剤(basis)(通常は、スクロースおよびアラビアゴム(acacia)またはトラガカント)に成分を含むロゼンジ剤;ならびにゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴムのような不活性な基剤に有効成分を含むパステル剤が挙げられる。
【0059】
非経口投与に適した組成物としては、水性および非水性の滅菌注射液剤であって、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬、および意図される受容者の血液と処方物とを等浸透圧にする電解質を含み得るもの;ならびに懸濁化剤および濃化剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁剤が挙げられる。本発明の処方物は、単位用量または多単位用量の容器(例えば、密封アンプルおよびバイアル)中に存在し、そして使用の直前に滅菌液体キャリア(例えば、水)を注射のために添加することのみを必要とするフリーズドライ凍結乾燥(lyophilized)の状態で保管され得る。即時注射液剤および懸濁剤は滅菌の散剤、顆粒剤および錠剤から調製され得る。
【0060】
そのような注射液剤は、例えば滅菌の注射可能な水性または油性の懸濁剤の形態であり得る。この懸濁剤は、適切な分散化剤または湿潤剤(例えばTween 80のような)および懸濁化剤を用いる当該分野で公知の技術に従って処方され得る。滅菌の注射可能な調製物はまた、例えば、1,3−ブタンジオール中の液剤のような、無毒の非経口に受容可能な希釈剤または溶媒中の注射可能な滅菌の液剤または懸濁剤であり得る。受容可能なビヒクルおよび溶媒の中で使用され得るのは、マンニトール、水、Ringer溶液および等浸透圧塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌の固定油は、溶媒または懸濁媒として慣用的に用いられ得る。この目的のために、任意の低刺激性の固定油は合成モノ−またはジグリセリドを含んで、用いられ得る。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、注射可能物の調製において有用である。特にポリオキシエチル化された形のオリーブ油またはヒマシ油のような天然由来の薬学的に受容可能な油も注射可能物の調製において有用である。これらの油性液剤または油性懸濁剤はまた、長鎖アルコールの希釈剤または分散剤をも含み得る。
【0061】
本発明の薬学的組成物は、直腸での投与のために坐剤の形態で投与されうる。室温では固体であるが直腸の温度では液体となり、そして、それゆえに直腸内で融解し有効成分を放出する、非刺激性の適切な賦形剤と本発明の化合物とを混合することにより、これらの組成物は調製され得る。そのような物質としては、カカオ脂、蜜ロウおよびポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
本発明の薬学的組成物は鼻用のエアゾール剤または吸入剤により投与され得る。そのような組成物は薬学的処方の分野で周知の技術に従って調製され、そしてベンジルアルコール、または他の適切な保存料、生物学的利用能を強化する吸収促進剤、フルオロカーボン類、および/または当該分野で公知である他の可溶化剤もしくは分散化剤を使用する、生理食塩水中の液剤として調製され得る。例えば、Rabinowitz JD and Zaffaroni AC,米国特許第6,803,031号(Alexza Molecular Delivery Corporationへと譲渡された)を参照。
【0063】
所望の処置が、局所的塗布により容易に接近できる範囲または器官に及ぶとき、本発明の薬学的な組成物の局所的な投与は特に有用である。皮膚に対しての局部的な局所塗布のために、その薬学的組成物は、キャリア中に懸濁化され、または溶解される有効成分を含む適切な軟膏剤を用いて処方されるべきである。本発明の化合物の局所投与のためのキャリアとしては、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン ポリオキシプロピレン化合物、乳化ロウ、および水が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、本発明の薬学的組成物は、キャリア中に懸濁化され、または溶解される有効成分を含む適切なローション剤またはクリームを用いて処方されることが可能である。適切なキャリアとしては、鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート(polysorbate)60、セチルエステルロウ、セテアリールアルコール(cetearyl alcohol)、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の薬学的組成物はまた、直腸用の 坐剤の処方により、または適切な浣腸剤の処方において、腸管下部へと局所的に塗布され得る。局所経皮パッチおよびイオン導入投与もまた本発明に含まれる。
【0064】
問題の箇所に投与するために、本発明の治療物の塗布は局部的であり得る。注射、カテーテル、トロカール、放射体、プルロニックゲル(pluronic gel)、ステント、持続薬物放出ポリマー、または内部への接近を提供する他のデバイスの利用のような種々の技術が、本発明の組成物を目的の箇所へと提供するために用いられることが可能である。
【0065】
したがって、さらに別の実施形態によると、本発明の化合物は、移植可能な医療器具(プロテーゼ、人工弁、血管グラフト、ステント、またはカテーテルのような)を被覆するための組成物へと組み入れられ得る。適切な被覆および被覆された移植可能なデバイスの一般的な調製は当該分野で公知であり、そして米国特許第6,099,562号; 第5,886,026号および第5,304,121号に例示される。本発明の被覆物は、ヒドロゲルポリマー、ポリメチルジシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、エチレンビニルアセテート、およびそれらの混合物のような、典型的に生体適合可能なポリマー性の物質である。この被覆物はフルオロシリコーン、多糖類、ポリエチレングリコール、リン脂質、またはそれらを組み合わせたものの適切なトップコート(topcoat)により、必要に応じてさらに覆われ、組成物においての調節放出特性を与え得る。侵襲性デバイスのための被覆物は、以下の用語が本明細書中で用いられるのと同様に、薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントまたはビヒクルの用語の定義の範囲内に含められるべきである。
【0066】
別の実施形態に従うと、本発明は、前記のデバイスに上記の被覆組成物を接触させる工程を含む、移植可能な医療デバイスを被覆する方法を提供する。デバイスの被覆が哺乳動物への移植に先んじて行われることは、当業者にとって明らかである。
【0067】
別の実施形態に従うと、本発明は、前記薬物放出デバイスに本発明の化合物または組成物を接触させる工程を含む、移植可能な薬物放出デバイスに含浸させる方法を提供する。移植可能な薬剤放出デバイスとしては、生分解性ポリマーのカプセルまたは弾丸状物(bullets)、非分解性で拡散性のポリマーのカプセルおよび生分解性ポリマーのウェーハが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
別の実施形態に従うと、本発明は、上述の化合物が治療上活性であるように、化合物または本発明の化合物を含む組成物を用いて被覆される移植可能な医療デバイスを提供する。
【0069】
別の実施形態に従うと、本発明は、上述の化合物が上述のデバイスから放出され、そして治療上活性であるように、化合物または本発明の化合物を含む組成物を含浸される、または含む移植可能な薬物放出デバイスを提供する。
【0070】
患者から摘出されることにより器官または組織がアクセス可能であり、そのような器官または組織が本発明の組成物を含む培地に浸され得るとき、本発明の組成物はその器官上に塗られ得、または本発明の組成物は任意の他の便宜的な方法において塗布され得る。
【0071】
別の実施形態において、本発明の組成物は第二の治療剤をさらに含む。第二の治療剤は、アログリプチンと同じ作用機構を有する化合物とともに投与されたとき、有利な性質を有することが知られているか、または有利な性質が実証される、任意の化合物または治療剤から選択され得る。そのような薬剤としては、アログリプチンとの組み合わせにおいて有用であるように示される薬剤が挙げられ、国際公開第2007/074884号パンフレットに記載の薬剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
好ましくは、第二の治療剤は、糖尿病、より特定すると2型真性糖尿病、糖尿病性脂血症、グルコース寛容減損(IGT)状態、空腹時血糖異常(IFG)状態、代謝性アシドーシス、ケトーシス、食欲調節、肥満、免疫抑制またはサイトカイン放出調節、炎症性腸疾患のような自己免疫疾患、多発性硬化症および関節リウマチ、AIDS、ガン(転移、例えば、乳房腫瘍および前立腺腫瘍の肺への転移の予防)、乾癬および扁平苔癬のような皮膚病、女性不妊症の処置、骨粗しょう症、男性の避妊、ならびに神経障害から選択される疾患または状態の処置または予防において有用な薬剤である。
【0073】
一つの実施形態において、上記第二の治療剤はピオグリタゾン、インスリン、メトホルミンおよびスルホニル尿素から選択される。
【0074】
別の実施形態において、本発明は、本発明の化合物および一つ以上の任意の上述の第二の治療剤の別個の投薬形態を提供し、ここで本発明の化合物と第二の治療剤は互いに会合される。本明細書で用いられる用語「互いに会合される」は、別個の投薬形態が一緒に包装されること、または、そうでなければ、別個の投薬形態が一緒に販売および(結果的または意図的に、互いの24時間未満に)投与されることが意図されることが容易に明らかであるあるように、互いに付随していることを意味する。
【0075】
本発明の薬学的組成物において、本発明の化合物は有効量で存在する。本明細書中で用いられる用語「有効量」とは、適切な投薬レジメンにおいて投与されるとき、標的の障害を(治療的に、または予防的に)処置するのに十分である量をいう。そして、例えば、有効量は、処置される障害の重篤度、持続期間または進行を減少または改善するために、処置される障害の進展を防ぐために、処置されている障害の退後を引き起こすために、または別の治療の予防または治療の効果を強化または改善するために十分である。
【0076】
動物およびヒトに対する投薬量の相互関係(体表面の平方メートル当りミリグラムに基づく)は、Freireich et al., (1966) Cancer Chemother. Rep 50:219に記載されている。患者の体の表面積は身長および体重から、おおよそ決定され得る。例えば、Scientific Tables, Geigy Pharmaceuticals, Ardsley, N.Y., 1970, 537を参照のこと。
【0077】
一つの実施形態において、本発明の化合物の有効量は、処置ごとに約0.25mgから約8000mgの範囲であり得る。より具体的な実施形態においては、その範囲は、処置ごとに約2.5mgから4000mg、または5mgから1600mg、またはもっとも具体的には25mgから800mgである。処置物は、典型的に毎日一回、投与される。
【0078】
有効投薬量もまた、当業者により認識されるように、処置される疾患、疾患の重篤度、投与の経路、患者の性別、年齢および一般的な健康状態、賦形剤の使用法、他の薬剤の使用のような他の治療処置との併用の可能性、および処置する医師の判断に依存して変動する。例えば、有効投薬量を選択するためのガイダンスは、アログリプチンのための処方情報に対する参照により決定され得る。
【0079】
第二の治療剤を含む薬学的組成物に対して、第二の治療剤の有効量は、その薬剤のみを使用する単独治療レジメ(regime)において標準的に使用される投薬量の約20%と100%との間である。好ましくは、有効量は標準的な単独治療での投薬量の約70%と100%との間である。これらの第二の治療剤の標準的な単独治療での投薬量は当該分野で周知である。例えば、Wells et al., eds., Pharmacotherapy Handbook, 2nd Edition, Appleton and Lange, Stamford, Conn. (2000); PDR Pharmacopoeia, Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000, Deluxe Edition, Tarascon Publishing, Loma Linda, Calif. (2000)を参照。これらの参考文献各々は、その全体が参考として、本明細書中で援用される。
【0080】
上記に参照される第二の治療剤のいくつかは本発明の化合物と相乗作用的に作用することが意図される。このことが起こるとき、このことは、第二の治療剤および/または本発明の化合物の有効投薬量が、単独治療において必要とされる有効投薬量より減少されることを可能にする。このことは、本発明の化合物の第二の治療剤の両方の毒性のある副作用を最少化する、有効性においての相乗作用的改善、投与または使用の容易さが改善される、および/または化合物の調製もしくは処方の全費用が減少される、という利点を有する。
【0081】
(処置の方法)
別の実施形態において、本発明は、DPP4が発現される細胞においてDPP4の活性を阻害する方法を提供し、この方法は上記の細胞と一つ以上の本明細書中の式Iの化合物とを接触させることを含む。
【0082】
別の実施形態によると、本発明は、アログリプチンを必要とする患者においてアログリプチンにより有益に処置される疾患を処置する方法を提供し、この方法は有効量の本発明の化合物または組成物を上記の患者に投与する工程を含む。そのような疾患は当該分野で周知であり、そして、以下の特許および出願公開:国際公開第2005/095381号パンフレット(ただしこれに限定されない)に開示される。そのような疾患としては、糖尿病、より特定すると2型真性糖尿病、糖尿病性脂血症、グルコース寛容減損(IGT)状態、空腹時血糖異常(IFG)状態、代謝性アシドーシス、ケトーシス、食欲調節、肥満、免疫抑制またはサイトカイン放出調節、炎症性腸疾患のような自己免疫疾患、多発性硬化症および関節リウマチ、AIDS、ガン(転移、例えば、乳房腫瘍および前立腺腫瘍の肺への転移の予防)、乾癬および扁平苔癬のような皮膚病、女性不妊症の処置、骨粗しょう症、男性の避妊、ならびに神経障害が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
一つの特定の実施形態において、本発明の方法は2型真性糖尿病を処置するために用いられる。
【0084】
本明細書中に記載される方法はまた、患者が特定の言明される処置を必要とすると確認される方法をも含む。患者がそのような処置を必要とすると確認することは、患者または健康管理の従事者の判断内であり得、そして、主観的(例えば、意見)または客観的(例えば、検査または診断方法により測定可能)であり得る。
【0085】
別の実施形態において、上記の処置の方法のいずれもが、一つ以上の第二の治療剤を上記の患者に共投与する(co−administering)工程をさらに含む。第二の治療剤の選択はアログリプチンとの共投与において有用であると知られている任意の第二の治療剤からなされ得る。第二の治療剤の選択はまた、処置される特定の疾患または状態にも依存する。本発明の方法において使用され得る第二の治療剤の例は、本発明の化合物および第二の治療剤を含む組み合わせ組成物においての使用のための、上記に記載の第二の治療剤である。
【0086】
特に、本発明の組み合わせ治療は、以下の状態:2型糖尿病の処置のための第二の治療剤(ピオグリタゾン、インスリン、メトホルミン、およびスルホニル尿素)および式Iの化合物を共投与することを含む。
【0087】
本明細書中で用いられる用語「共投与される」は、第二の治療剤が、単一の投薬形態(本発明の化合物および上記に記載の第二の治療剤を含む本発明の組成物のような)の一部、または別個の多投薬形態として、本発明の化合物と一緒に投与され得ることを意味する。または、追加の薬剤が、本発明の化合物の投与の前に、投与と連続して、または投与に引き続いて、投与され得る。そのような組み合わせ治療処置において、本発明の化合物および第二の治療剤いずれも慣用的な方法により投与される。本発明の化合物および第二の治療剤いずれをも含む本発明の組成物の患者への投与は、処置の経過の間の別の時点で、その同じ治療剤、任意の他の第二の治療剤、または任意の本発明の化合物を上記の患者に別個で投与することを妨げない。
【0088】
これらの第二の治療剤の有効量は当業者にとって周知であり、そして投薬のための手引きは、本明細書中に参照される特許および特許出願公開において、ならびにWells et al., eds., Pharmacotherapy Handbook, 2nd Edition, Appleton and Lange, Stamford, Conn. (2000); PDR Pharmacopoeia, Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000, Deluxe Edition, Tarascon Publishing, Loma Linda, Calif. (2000)、および他の医学テキストにおいて見出され得る。しかしながら、第二の治療剤の最適な有効量の範囲を決定することは、当業者の十分な範囲内である。
【0089】
本発明の一つの実施形態において、被験者に第二の治療剤が投与されるときの本発明の化合物の有効量は、第二の治療剤が投与されないときの本発明の化合物の有効量より少ない。別の実施形態においては、第二の治療剤の有効量は本発明の化合物が投与されないときの第二の治療剤の有効量より少ない。このように、両薬剤の投薬量の多さに関連する望まない副作用は最少化され得る。他の可能性のある利点(投薬レジメンを改善すること、および/または薬物の価格を下げることを含むが、これらに制限されない)は、当業者にとって明らかである。
【0090】
さらに別の局面において、本発明は、上記に記載の疾患、障害または症状の患者における処置または予防のための医薬の製造において、単一の組成物、または別個の投薬形態のいずれかとして、式Iの化合物のみを、または式Iの化合物を一つ以上の上記に記載される第二の治療剤と一緒に使用することを提供する。本発明の別の局面は、本明細書中に記載の疾患、障害または症状の患者における処置または予防において使用される式Iの化合物である。
【0091】
(診断の方法およびキット)
本発明の化合物および組成物はまた、溶液中または血漿のような生物学的試料中のアログリプチンの濃度を決定するため、アログリプチンの代謝および他の分析研究を試験するための方法における試薬として有用である。
【0092】
一つの実施形態によると、本発明は、溶液中または生物学的試料中のアログリプチンの濃度を決定する方法を提供し、その方法は:
a)既知の濃度の式Iの化合物を生物学的試料の溶液に加える工程;
b)上記の溶液または生物学的試料を、アログリプチンと式Iの化合物とを峻別する測定デバイスに付す工程;
c)式Iの化合物の検出量と、生物学的試料または溶液に加えられた式Iの化合物の既知の濃度とを相関させるため測定デバイスを較正する工程;
d)生物学的試料中のアログリプチンの量を、上記の較正された測定デバイスを用いて測定する工程、および;
e)式Iの化合物に対して得られた検出量と濃度との間にある上記の相関を用いて、試料の溶液中におけるアログリプチンの濃度を決定する工程を含む。
【0093】
アログリプチンと、対応する式Iの化合物とを峻別することが可能な測定デバイスは、同位体存在度においてのみ互いに異なる二つの化合物の間で峻別することが可能な任意の測定デバイスを含む。例示的な測定デバイスとしては、質量分析計、NMR分光計、またはIR分光計が挙げられる。
【0094】
別の実施形態において、本発明は式Iの化合物の代謝安定性を評価する方法を提供し、その方法は式Iの化合物と代謝酵素源(metabolizing enzyme source)とを一定時間接触させ、そして式Iの化合物の量と、上記一定時間のあとにおける式Iの化合物の代謝産物とを比較する工程を含む。
【0095】
関連する実施形態において、本発明は、式Iの化合物の投与後の患者における式Iの化合物の代謝安定性を評価する方法を提供する。この方法は、被験者への式Iの化合物の投与後、一定時間における患者から漿液、尿または便の試料を採取する工程、および漿液、尿または便の試料中の、式Iの化合物の量と式Iの化合物の代謝産物を比較する工程を含む。
【0096】
本発明はまた、2型真性糖尿病を処置する用途のためのキットを提供する。これらのキットは(a)式Iの化合物またはその塩を含む薬学的組成物、および(b)2型真性糖尿病を処置するために薬学的組成物を使用する方法を記載する使用説明書を含み、ここで上記薬学的組成物はようきコンテナ(container)の中にある。
【0097】
上記のコンテナは、上述の薬学的組成物を保管することが可能な、任意の容器または他の密封された、もしくは密封可能な器具であり得る。例としては、ビン、アンプル、区分された、または多空間ホルダーを有するビン(ここで、それぞれの区分または空間は上記の組成物の単一の投薬量を含む)、区分された金属箔の包装(各区分は、上記の組成物の単一の投薬量を含む)、または上記組成物の単一の投薬量を供するディスペンサーが挙げられる。上記のコンテナは、当該分野で公知であるような、薬学的に受容可能な物質で作られる任意の慣用的な形状または形態であり得、例えば、紙製または厚紙製の箱、ガラスまたはプラスチック製のビンまたはつぼ(jar)、(例えば、異なるコンテナの中へと配置するための錠剤の「補充分(refill)」を保管するための)再密封可能な袋、治療計画に従い包装の外に押し出される個々の投薬量を有するブリスター包装であり得る。使用される容器は、関係する正確な投薬形態に依存し得、例えば、慣用的な厚紙の箱は液体懸濁剤を保管するためには一般に用いられない。単一の投薬形態を市販するために、単一の包装において、一つ以上のコンテナが一緒に用いられ得ることは可能である。例えば、錠剤はビンに包装され、次に箱の中に包装され得る。一つの実施形態において、上記のコンテナはブリスター包装である。
【0098】
本発明のキットはまた、薬学的組成物の単位用量を投与または計り取るためのデバイスをも含み得る。そのようなデバイスとしては、上記組成物が吸入可能なときは、吸入器;上記組成物が注射可能な組成物のときは、注射器および針;上記組成物が経口用の液体組成物のときは、注射器、スプーン、ポンプ、または容積目盛付のまたは目盛なしの容器;または、キットにおける組成物の投薬処方に適した、任意の他の測定または送付デバイスが挙げられ得る。
【0099】
特定の実施形態において、本発明のキットは、本発明の化合物との共投与のために使用する上記に記載の第二の治療剤のうちの一つのような第二の治療剤を含む薬学的な組成物を、コンテナの別個の容器の中に含み得る。
【0100】
(代謝安定性の評価)
特定のインビトロでの肝臓の代謝の研究は以下の参考文献において以前に記載されており、これらの参考文献各々はそれらの全体が本明細書中に援用される:Obach, RS, Drug Metab Disp, 1999, 27:1350; Houston, JB et al., Drug Metab Rev, 1997, 29:891; Houston, JB, Biochem Pharmacol, 1994, 47:1469; Iwatsubo, T et al., Pharmacol Ther, 1997, 73:147;およびLave, T, et al., Pharm Res, 1997, 14:152。
【0101】
ミクロソームのアッセイ:ヒト肝臓ミクロソーム(20mg/mL)は、Xenotech, LLC (Lenexa, KS)より入手される。β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元体(NADPH)、塩化マグネシウム(MgCl)およびジメチスルホキシド(DMSO)はSigma−Aldrichから購入される。インキュベーション混合物は表1にしたがって調製される。
【0102】
表1.ヒト肝臓ミクロソーム研究のための反応混合物組成
【0103】
【表1】

代謝安定性の決定:一つの本発明の化合物について、この反応混合物の二個のアリコートが用いられる。上記のアリコートは振とう水浴中で37℃において3分間インキュベートされる。その後、試験化合物が0.5μMの最終濃度でそれぞれのアリコート中へと加えられる。反応は補助因子(NADPH)の一つのアリコート中への添加により開始される(NADPHを欠くもう一方のアリコートは負の対照としての役割を果たす)。その後、両アリコートは振とう水浴中で37℃でインキュベートされる。0、5、10、20および30分におけるそれぞれのアリコートから50マイクロリットル(50μL)のインキュベーション混合物が三連で取り出され、そして50μLの氷冷アセトニトリルと合わせられ、反応を停止させる。同じ手順が、正の対照としてのアログリプチンおよびエトキシクマリンに対して従われる。試験は三連で行われる。
【0104】
データ分析:試験化合物のインビトロt1/2は、%親の残存(ln)対インキュベーション時間の関係の線形回帰の傾きから計算される。
【0105】
インビトロt1/2 = 0.693/k
k = −[%親の残存(ln)対インキュベーション時間の線形回帰の傾き]
データ分析はMicrosoft Excel Softwareを用いて行われる。
【0106】
式Iの化合物の代謝安定性は、プールした肝臓ミクロソームのインキュベート物を用いて試験される。その後、全スキャンLC−MS分析が実行され、主要な代謝物質を検出する。プールしたヒト肝臓ミクロソームへと暴露された試験化合物の試料は、HPLC−MS(またはMS/MS)検出を用いて分析される。代謝安定性の決定には、試験化合物の消失を測定するために多反応モニタリング(MRM)が用いられる。代謝物質の検出には、主要な代謝物質を検出するためにQ1全スキャンが調査スキャンとして用いられる。
【実施例】
【0107】
実施例1.2−(ブロモメチル−d)−3,4,5,6−d−ベンゾニトリル(XVa)の合成。以下のスキーム4に概説されるように中間体IVaを調製した。合成の詳細は以下に記載される。
【0108】
スキーム4.中間体13の調製
【0109】
【化10】

トリフルオロメタンスルホン酸o−トリル−d(11)の合成。o−クレゾール−d10(CDN Isotopes、99.3原子%D、10g)のピリジン(50mL)溶液を氷水浴中で冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物(「TfO」、18.5mL)を10分間(min)かけてゆっくりと加え、そして、その反応混合物を室温(rt)へとゆっくりと加温し、その後18時間(h)撹拌した。得られた混合物に、氷、引き続いてMTBE(500mL)を加えた。相を分離し、そして有機相を1NのHCl(3×80mL)、飽和NaHCO溶液(50mL)、およびブラインで洗浄し、その後NaSOで乾燥し、ろ過し、そして溶媒を減圧下で留去した。その粗生成物を、シリカゲル上でMTBE/ヘキサン(1:10)を用いて溶出するクロマトグラフィーにより精製し、22.1g(100%)の11を無色油状物として得た。
【0110】
2−(メチル−d)−3,4,5,6−d−ベンゾニトリル(XIV)の合成。d−トリフルオロメタンスルホン酸o−トリル11(10g、40mmol)のN,N−ジメチルアセトアミド(「DMAc」、60mL)および水(5mL)中の溶液にZn(CN)(4.7g、40mmol)、Zn(0.52g、8mmol)およびPd(dppf)Cl−CHCl(0.98g、1.2mmol)を加えた。反応混合物の気体を、二度、排出しNで置換した。その混合物を1時間かけて120〜130℃まで加熱し、この温度を3時間保持し、室温まで冷却し、そしてその後、氷水浴中に置いた。濃アンモニア(10mL)、飽和NHCl溶液(20mL)および水(20mL)の混合物を加え、そして得られた混合物をおよそ30分間室温で撹拌した。その混合物をCeliteのパッドを通してろ過し、そしてそのパッドをMTBE(100mL)を用いて洗浄した。そのろ液をMTBE(500mL)でさらに希釈し、そして、その溶液を水(3×100mL)およびブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、ろ過し、そして、その溶媒を減圧下で留去した(揮発性による生成物の損失を最少化するためロータリーエバポレーターの水浴を室温に保持した)。その粗生成物を、シリカゲル上でMTBE/ヘキサン(1:6)を用いて溶出するクロマトグラフィーにより精製し、4.1g(81%)のXIVを橙色油状物として得た。
【0111】
2−(ブロモメチル−d)−3,4,5,6−d−ベンゾニトリル(XVa)。CCl(100mL)中のXIV(6.8g、55mmol)、N−ブロモスクシンイミド(「NBS」、12.5g、70mmol)および過酸化ベンゾイル(1.45g、6mmol)の混合物を穏やかに還流するまで加熱し、一夜(およそ18時間)撹拌した。飽和Na溶液(50mL)を得られた混合物に加え、続いてCHCl(3×100mL)で抽出した。合わせた有機溶液をNaSOで乾燥し、ろ過し、そして溶媒を減圧下で留去した。その粗生成物を、シリカゲル上でEtOAc/ヘプタン(1:5)を用いて溶出するクロマトグラフィーにより精製した。混合した画分を濃縮し、そしてその固体をMTBE/ヘプタン(1:1)を用いて粉砕した。粉砕から得た物質を、純粋な画分を濃縮して得た物質を合わせて、全量5.8g(52%)のXVaを黄色がかった白色(off−white)固体として得た。
【0112】
実施例2.(R)−2−((6−(3−アミノピペリジン−1−イル)−3−(メチル−d)−2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メチル−d)−3,4,5,6−d−ベンゾニトリル(107)の合成。以下のスキーム5に概説されるように化合物107を調製した。その合成の詳細は以下に記載される。
【0113】
スキーム5.化合物107の調製
【0114】
【化11】

2−((6−クロロ−2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メチル−d)−3,4,5,6−d−ベンゾニトリル(12)の合成。クロロウラシルX(4.5g、30mmol)のDMF(90mL)およびDMSO(15mL)の混合物中の溶液を氷水浴中で冷却した。NaH(油中60%、1.32g、33mmol)を2つに分けて加え、そしてその混合物を氷水浴中で0.5時間撹拌した。LiBr(2.87g、33mmol)を加え、そしてその混合物を20分間撹拌した。XVa(5.5g、27.2mmol)のDMF(15mL)溶液を上記反応混合物に滴下した。その混合物をゆっくりと室温まで加温し、そして一夜撹拌した。水(およそ200mL)を上記反応混合物に加え、そしてその混合物をおよそ20〜30mLの体積まで減圧下で濃縮した。冷水(およそ100mL)を上記の混合物に加え、その混合物をろ過し、そして固体を水および酢酸エチル(200mL)で洗浄した。ろ取した固体は、TLC(EtOAc/ヘプタン、1:1)によると所望の生成物12を主生成物として含んでいた。上記の二相のろ液を分液し、そしてその有機相を減圧下で濃縮した。その残渣を上記の元のろ取した固体と合わせ、そしてシリカゲル上でヘプタン/EtOAc(1:2〜2:1)を用いて溶出するクロマトグラフィーにより精製し3.7g(48%)の12を純度85%で得た。
【0115】
2−((6−クロロ−3−(メチル−d)−2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)−メチル−d)−3,4,5,6−d−ベンゾニトリル(13)の合成。12(3.6g、13.5mmol)のDMF(50mL)およびTHF(50mL)中の溶液を氷水浴中で冷却し、そしてNaH(油中60%、0.6g、15mmol)を二つに分けて加え、続いて、LiBr(1.3g、15mmol)を加えた。その混合物を室温で30分間撹拌し、その後氷水浴中で冷却した。CDI(Cambridge Isotopes、99原子%D、1.9mL、30mmol)を加え、そしてその混合物を室温まで加温し、そして1.5時間撹拌した。その後上記混合物をおよそ32℃まで加熱し、そして一夜撹拌した。その反応混合物を、およそ20mLの体積まで減圧下で濃縮し、そしてCHCl(300mL)で希釈した。その溶液を水(3×80mL)、ブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、ろ過し、そしてその溶媒を減圧下で留去した。粗生成物をAnalogixクロマトグラフィーシステム上、10〜25%EtOAc/ヘプタンの傾斜で溶出し、精製することで、3g(78%)の13を黄色がかった白色(off−white)固体として得た。
【0116】
(R)−2−((6−(3−アミノピペリジン−1−イル)−3−(メチル−d)−2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)メチル−d)−3,4,5,6−d−ベンゾニトリル(107)の合成。化合物13(280mg、1mmol)を(R)−ピペリジン−3−アミン二塩酸14(192mg、1.1mmol)、NaHCO(420mg、5当量)、4Aモレキュラーシーブ(200mg)および乾燥MeOH(5mL)とを封管中で混合した。LCMSが13の残留を示さなくなるまで、上記混合物を110℃で4時間加熱した。その混合物を室温まで冷却し、そしてCeliteのパッドを通してろ過し、そのパッドをMeOH(20mL)で洗浄した。そのろ液をおよそ2mLの体積まで濃縮し、CHCl(200mL)で希釈し、そして得られた溶液を、水(3×30mL)およびブラインで洗浄し、NaSOで乾燥し、そしてろ過した。粗製の107のHPLC(方法:20mmC18−RPカラム−3.3分間で2〜95%ACN+0.1%ギ酸、95%ACNで7分間保持という傾斜法;波長254nm):保持時間2.23分。
【0117】
107のTFA塩をさらなる分析のために調製した。粗製の107(上述)を含むろ過液のおよそ1/3をおよそ2mLまで濃縮し、そしてTFA(4滴)を加えた。その混合物を室温で2時間撹拌し、そしてその後、減圧下で濃縮した。残った粘着性の油状物を数滴のMeOHに溶解させ、そしてMTBEを加え、上記の溶液を飽和させた。その溶液を一夜冷凍した。得られた結晶を集め、そして乾燥することでおよそ20mgの107をトリフルオロ酢酸塩として得た。MS(遊離塩基に対してのM+H):349.2。
【0118】
さらなる記載がなくとも、当業者が、前述の記載および例示となる実施例を用いて、本発明の化合物を作製および利用すること、そして特許請求される方法を実行することは可能であると考えられる。前述の議論および実施例はただ、特定の好ましい実施形態の詳細な記載を提示しているに過ぎないことは理解されるべきである。当業者にとっては、本発明の意図および範囲から離れることなく、種々の改変および等価体が作製され得ることは明らかである。上記で議論されたまたは引用された全ての特許、雑誌論文および他の文書は、参考により本明細書中で援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造:
【化12】

を有する式Iの化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、ここで:
が−CH、−CHD、−CHD、または−CDであり;
Lが−CH−、−CHD−、または−CD−であり;
環Aが、必要に応じて、1個から4個の環水素が重水素で置換され;そして
環Bが、必要に応じて、1個から9個の環水素が重水素で置換され;
ただし、Rが−CHであり、そしてLが−CH−であるとき、環A上または環B上に少なくとも一つの重水素が存在する化合物またはその薬学的に受容可能な塩。
【請求項2】
請求項1の化合物であって、ここでRが−CHまたは−CDであり、そしてLが−CH−または−CD−である化合物。
【請求項3】
請求項2の化合物であって、ここで環Bが以下の構造:
【化13】

であり、ここで、Z1aはZ1bと同一であり、Z2aはZ2bと同一であり、Z3aはZ3bと同一であり、そしてZ4aはZ4bと同一である化合物。
【請求項4】
請求項3の化合物であって、ここでZ1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4aおよびZ4b各々が重水素である化合物。
【請求項5】
請求項3の化合物であって、ここでZ1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a、Z4b、およびZ各々が重水素である化合物。
【請求項6】
請求項3の化合物であって、ここで環Aが0個または4個の重水素を有する化合物。
【請求項7】
請求項6の化合物であって、ここでZ1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4aおよびZ4b各々が重水素である化合物。
【請求項8】
請求項6の化合物であって、ここでZ1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a、Z4b、およびZ各々が重水素である化合物。
【請求項9】
請求項1の化合物であって、以下の化合物:
【化14】

【化15】

からなる群より選択される化合物または、該化合物のいずれかの薬学的に受容可能な塩。
【請求項10】
以下の構造式
【化16】

で表される化合物またはその薬学的に受容可能な塩。
【請求項11】
請求項1〜10の化合物であって、ここで重水素として明示されていない任意の原子がその天然同位体存在度で存在する化合物。
【請求項12】
請求項1の化合物および薬学的に受容可能なキャリアを含む、発熱物質を含まない薬学的組成物。
【請求項13】
請求項12の組成物であって、以下:糖尿病;糖尿病性脂血症;グルコース寛容減損(IGT)状態;空腹時血糖異常(IFG)状態;代謝性アシドーシス、ケトーシス、食欲調節、肥満、免疫抑制剤またはサイトカイン放出調節;自己免疫疾患;AIDS;ガン;皮膚病;女性不妊症;骨粗しょう症;および神経障害から選択される疾患または状態の処置または予防において有用である第二の治療剤をさらに含む組成物。
【請求項14】
請求項13の組成物であって、ここで前記第二の治療剤がピオグリタゾン、インスリン、メトホルミン、およびスルホニル尿素から選択される組成物。
【請求項15】
細胞中の一つ以上のDPP4の活性を阻害する方法であって、前記細胞と請求項1の化合物とを接触させることを含む方法。
【請求項16】
糖尿病;糖尿病性脂血症;グルコース寛容減損(IGT)状態;空腹時血糖異常(IFG)状態;代謝性アシドーシス、ケトーシス、食欲調節、肥満、免疫抑制剤またはサイトカイン放出調節;自己免疫疾患;AIDS;ガン;皮膚病;女性不妊症;骨粗しょう症;および神経障害から選択される疾患または状態を、処置を必要する患者において処置する方法であって、前記患者に請求項1の化合物または請求項12の組成物の有効量を投与する工程を含む方法。
【請求項17】
請求項16の方法であって、ここで前記の疾患または状態が2型真性糖尿病である方法。
【請求項18】
請求項17の方法であって、糖尿病;糖尿病性脂血症;グルコース寛容減損(IGT)状態;空腹時血糖異常(IFG)状態;代謝性アシドーシス、ケトーシス、食欲調節、肥満、免疫抑制剤またはサイトカイン放出調節;自己免疫疾患;AIDS;ガン;皮膚病;女性不妊症;骨粗しょう症;および神経障害の処置において有用である第二の治療剤を、共投与を必要とする前記患者に共投与する工程をさらに含む方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、ここで前記疾患が2型真性糖尿病であり、そして前記第二の治療剤がピオグリタゾン、インスリン、メトホルミン、およびスルホニル尿素から選択される方法。

【公表番号】特表2010−540635(P2010−540635A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527991(P2010−527991)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/011417
【国際公開番号】WO2009/045476
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(509239071)コンサート ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】