説明

フィルタ触媒

【課題】 高い排ガスの浄化性能と圧損の上昇が抑えられたフィルタ触媒を提供すること。
【解決手段】 本発明のフィルタ触媒は、触媒担体基材40と、排ガスを浄化する触媒部5,6と、をもつフィルタ触媒であって、排ガスを浄化する触媒部5,6は、HC,COおよびNOxを浄化する第一の触媒部5と、パティキュレートを浄化する第二の触媒部6と、からなることを特徴とする。また、第一の触媒部5は、少なくとも一部のセル壁40の表面に形成され、第二の触媒部6は細孔の内部の表面に形成されたことを特徴とする。本発明のフィルタ触媒は、高い排ガスの浄化性能と圧損の上昇が抑えられたフィルタ触媒となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出されるガスに含まれているパティキュレートを除去し、HC,CO,NOxも同時に浄化するフィルタ触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガスには、HC,CO,NOx等の成分だけでなくパティキュレートが含まれている。パティキュレートには、人体に有害な物質が含まれており、これを除去することが環境上の課題となっている。
【0003】
このような排気ガスの浄化には、フィルタ触媒が用いられている。フィルタ触媒は、たとえば、特許文献1〜2に示されている。
【0004】
従来のフィルタ触媒は、多孔質セラミックスよりなり多数のセルとセル壁に連続した細孔をもつ触媒担体基材の表面上にアルミナ等の耐熱性無機酸化物よりなる担持層に触媒金属が担持してなる触媒層を形成した構造を有している。そして、フィルタ触媒は、表面に触媒層が形成された触媒担体基材の連続した細孔から形成された通気孔を排気ガスが通過するときに、パティキュレートを捕捉するとともにそれ以外の有害な成分を浄化する。また、多孔質セラミックス上に形成された触媒層が捕捉したパティキュレートを分解する。
【0005】
フィルタ触媒は、排気ガスが通過するだけの通気孔が形成されていないと、捕捉したパティキュレートが堆積し、排気ガスの通過時に圧損が生じる。この圧損の発生を抑える方法として、触媒担体基材の細孔内部の表面に均一な触媒層を形成する方法が用いられている。この方法は、触媒層の担持層を小さな粒径の耐熱性無機酸化物が分散したスラリーから作製している。
【0006】
しかしながら、この触媒層は、耐熱性無機酸化物の粒径が小さいことから、ガスの拡散性が低く、排ガス中のHC,CO,NOx等のガス状の成分の浄化性能が十分でないという問題があった。
【0007】
これに対して、担持層を粒径の大きな耐熱性無機酸化物から触媒層を製造すると、ガス拡散性は上昇するが、触媒担体基材の細孔が閉塞され、圧損が高くなるという問題があった。
【特許文献1】特開平9−173866号公報
【特許文献2】特開2002−295228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、高い排ガスの浄化性能と圧損の上昇が抑えられたフィルタ触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らはフィルタ触媒の製造方法について検討を重ねた結果、触媒担体基材に異なる特性を持つ触媒層を形成したフィルタ触媒とすることで上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明のフィルタ触媒は、開口部の両端が交互に目封じされた複数のセルがセル壁に区画され、セル壁が多数の連続した細孔をもつ触媒担体基材と、少なくとも一部のセル壁の表面に形成された排ガスの被浄化成分を分解浄化する第一の触媒部と、セルの一部を区画し、細孔の内部の表面に形成された排ガスの被浄化成分を分解浄化する第二の触媒部と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のフィルタ触媒は、開口部の両端が交互に目封じされた複数のセルがセル壁に区画され、セル壁が多数の連続した細孔をもつ触媒担体基材と、触媒担体基材の表面に形成されたHC,CO,NOxおよびパティキュレートを含むディーゼルエンジンからの排ガスを浄化する触媒部と、をもつフィルタ触媒であって、排ガスを浄化する触媒部は、HC,COおよびNOxを浄化する第一の触媒部と、パティキュレートを浄化する第二の触媒部と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルタ触媒は、一つのセルをガス拡散性にすぐれた第一の触媒部とセル壁の通気性にすぐれた第二の触媒部とにより区画している。第一の触媒部で排ガス中のHC,COおよびNOxを浄化し、第二の触媒部で排ガス中のパティキュレートを浄化する。第二の触媒部が形成されたセル壁の連続した多数の細孔を排ガスが通過することで圧損の上昇が抑えられる。本発明のフィルタ触媒は、高い排ガスの浄化性能と圧損の上昇が抑えられたフィルタ触媒となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のフィルタ触媒は、触媒担体基材と、第一の触媒部と、第二の触媒部と、を有する。
【0014】
触媒担体基材は、開口部の両端が交互に目封じされた複数のセルがセル壁に区画され、セル壁が多数の連続した細孔をもつ。セル壁により複数のセルが区画されセルの開口部の両端が交互に目封じされたことで、排ガスは、上流側が開口した(下流側が閉塞した)セルの開口部からセルの内部に流入し、セル壁の細孔を通過して隣接するセルであって下流側が開口した(上流側が閉塞した)セルの開口部から流出する構造となる。排ガスが細孔を通過するときにパティキュレートが捕捉される。
【0015】
触媒担体基材は、耐熱性多孔質体よりなることが好ましい。触媒担体基材が耐熱性多孔質体よりなることで、耐熱性をもつことができ、その表面に触媒部を安定して形成できる。また、多孔質体よりなることで、排ガスが通過する細孔を有することとなる。耐熱性多孔質体としては、コーディエライト、SiC、その他の耐熱性のセラミックスをあげることができる。
【0016】
また、触媒担体基材は、ウォールフローDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)、セラミックスフォームフィルタ、メタル不織布DPFを用いることができる。より好ましい触媒担体基材は、低熱膨張係数セラミックスとして知られているコーディエライト(化学組成2MgO・2Al2 3 ・5SiO2 )よりなるウォールフローDPFである。
【0017】
第一の触媒部は、少なくとも一部のセル壁の表面に形成される。また、第一の触媒部は、排ガスの被浄化成分を分解浄化する。セル壁の表面は、セル内に流入した排ガスと接触しやすい位置であり、第一の触媒部が排ガス中の被浄化成分をより浄化しやすくなる。また、第一の触媒部は、少なくとも一部のセル壁の表面に形成されたことで十分な厚さをもつこととなり、その内部に排ガスが拡散しやすくなっている。すなわち、第一の触媒部は、高い拡散性を有している。第一の触媒部は、排ガス中のガス状の被浄化成分を浄化する。第一の触媒部において浄化される被浄化成分としては、HC,COおよびNOxをあげることができる。
【0018】
第二の触媒部は、セルの一部を区画する。つまり、第二の触媒部が形成されたセル壁の部分がセルの内表面の一部を形成する。第二の触媒部は、セルの内表面の一部を形成していればよく、セルの内表面を形成していない部分があってもよい。すなわち、第二の触媒部が形成されたセル壁の表面上に第一の触媒部が形成されてもよい。
【0019】
また、第二の触媒部は、細孔の内部の表面に形成された排ガスの被浄化成分を分解浄化する触媒部である。第二の触媒部が形成された細孔は、排ガスを通過させることができる。すなわち、第二の触媒部が形成された部分のセル壁は、排ガスを通過させることができ、圧損の上昇を抑えることができる。
【0020】
第二の触媒部は、セル壁にもうけられた細孔を通過するときに排ガスを浄化する。つまり、第二の触媒部が浄化する被浄化成分としては、パティキュレートをあげることができる。
【0021】
セルの上流側に第一の触媒部が形成され、第一の触媒部が形成されていない部分のセル壁には第二の触媒部が形成されていることが好ましい。すなわち、第一の触媒部がセルの上流側に形成されたことが好ましい。第一の触媒部がセルの上流側に形成されることで、この第一の触媒部はより高温の排ガスと接触する。すなわち、着火性能が向上する。また、第一の触媒部において被浄化成分を浄化したときに発せられた反応熱が第二の触媒部に伝達され、第二の触媒部の着火性能が向上する。さらに、第二の触媒部に捕捉されたパティキュレートがすぐに分解されることとなり、十分な通気性が確保できる。これにより圧損の上昇が抑えられる。
【0022】
第一の触媒部が、セルの上流側の端部から軸方向の長さの1/5〜3/5の長さで形成されたことが好ましい。ここで、軸方向とは、セルののびる方向である。第一の触媒部の軸方向の長さがこの範囲内となることで、本発明のフィルタ触媒は高い浄化性能と低い圧損とを達成できる。すなわち、第一の触媒部が軸方向の長さの1/5未満では第一の触媒部が小さくなりすぎて排ガスの浄化性能が低下し、3/5を超えると第二の触媒部が小さくなり圧損が上昇する。
【0023】
第一の触媒部は、少なくとも一部のセル壁の表面に形成された排ガスの被浄化成分を分解浄化することができる触媒部であれば特に限定されるものではない。たとえば、第一の触媒部は、耐熱性無機酸化物よりなる第一の担持層と、第一の担持層に担持された第一の触媒金属と、からなることが好ましい。そして、耐熱性無機酸化物は、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、CeO2、遷移金属の酸化物、希土類元素の酸化物、これら酸化物の複合酸化物より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。第一の触媒金属は、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Au、Agより選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0024】
また、第二の触媒部は、セルの一部を区画し、細孔の内部の表面に形成された排ガスの被浄化成分を分解浄化する触媒部であれば特に限定されるものではない。たとえば、第二の触媒部は、耐熱性無機酸化物よりなる第二の担持層と、第二の担持層に担持された第二の触媒金属と、からなることが好ましい。そして、耐熱性無機酸化物は、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、CeO2、遷移金属の酸化物、希土類元素の酸化物、これら酸化物の複合酸化物より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。第二の触媒金属は、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Au、Agより選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0025】
第一の触媒部と第二の触媒部は、それぞれを構成する担持層および触媒金属が同じであっても異なっていてもいずれでもよい。
【0026】
本発明のフィルタ触媒において、第一の触媒部をセル壁の表面に、第二の触媒部を細孔の内表面に形成する方法は、限定されるものではない。
【0027】
第一の担持層は、耐熱性無機酸化物粉末が分散したスラリーを塗布、焼成してなり、第一の担持層を形成するための耐熱性無機酸化物粉末の平均粒径が2μm以上であることが好ましい。平均粒径が2μm以上の耐熱性無機酸化物を用いて調製されたスラリーを塗布、焼成することで、セル壁表面に第一の担持層を形成できる。そして、この担持層に第一の触媒金属を担持することで、第一の触媒部を形成できる。第一の触媒金属を第一の担持層に担持する方法は、第一の担持層を形成した後に第一の触媒金属を担持させても、第一の触媒金属を分散したスラリーから第一の触媒金属を担持した第一の担持層を形成しても、どちらでもよい。
【0028】
第二の担持層は、耐熱性無機酸化物粉末が分散したスラリーを塗布、焼成してなり、第二の担持層を形成するための耐熱性無機酸化物粉末の平均粒径が1μm未満であることが好ましい。平均粒径が1μm未満の耐熱性無機酸化物を用いて調製されたスラリーを塗布、焼成することで、細孔の内表面に第二の担持層を形成できる。そして、この担持層に第二の触媒金属を担持することで、第二の触媒部を形成できる。第二の触媒金属を第二の担持層に担持する方法は、第二の担持層を形成した後に第二の触媒金属を担持させても、第二の触媒金属を分散したスラリーから第二の触媒金属を担持した第二の担持層を形成しても、どちらでもよい。
【0029】
第一の触媒部と第二の触媒部の重量の比は、1:5〜3:2であることが好ましい。第一の触媒部と第二の触媒部の重量の比がこの範囲内にあることで、本発明のフィルタ触媒は高い浄化性能と低い圧損とを達成できる。ここで、第一の触媒部の重量および第二の触媒部の重量は、本発明のフィルタ触媒に形成された各触媒部のそれぞれの重量である。すなわち、重量比が1:5未満では第一の触媒部が小さくなりすぎて排ガスの浄化性能が低下し、3:2を超えると第二の触媒部が小さくなり圧損が上昇する。
【0030】
上記したように、本発明のフィルタ触媒は、第一の触媒部が被浄化成分のガス状の成分を浄化し、第二の触媒部がパティキュレートを浄化することができる。
【0031】
すなわち、本発明のフィルタ触媒は、開口部の両端が交互に目封じされた複数のセルがセル壁に区画され、セル壁が多数の連続した細孔をもつ触媒担体基材と、触媒担体基材の表面に形成されたHC,CO,NOxおよびパティキュレートを含むディーゼルエンジンからの排ガスを浄化する触媒部と、をもつフィルタ触媒であって、排ガスを浄化する触媒部は、上流側にもうけられたHC,COおよびNOxを浄化する第一の触媒部と、下流側にもうけられたパティキュレートを浄化する第二の触媒部と、からなることを特徴とする。
【0032】
このような構成となると、さらに、第一の触媒部においてHC,COおよびNOxを浄化するときに発生した反応熱が第二の触媒部に伝達され、第二の触媒部において捕捉されたパティキュレートの分解浄化を促進する。この結果、第二の触媒部の細孔に捕捉されたパティキュレートは直ちに分解浄化されることとなり、捕捉されたパティキュレートが細孔を閉塞する時間が短くなる。これにより、細孔が開口し続けることとなり、圧損の上昇が抑えられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0034】
本発明の実施例として、フィルタ触媒を製造した。
【0035】
(実施例1)
まず、アルミナ(Al23)粉末を脱イオン水に投入、攪拌して分散させ、ミリングを施してスラリーAを調製した。このスラリーAに分散したアルミナ粒子の平均粒子径は、0.8μmであった。
【0036】
つづいて、調製されたスラリーAを触媒担体基材にコーティングした。触媒担体基材1は、厚さが300μmのセル壁で区画されたセルを48セル/cm2(約300セル/inch2)で軸方向に有し、外径129mm、軸方向長さ150mmの略円柱状の見かけの容積が2リットルのコーディエライト製の触媒担体基材である。この触媒担体基材は、平均細孔径が30μmの細孔をもち、この細孔による気孔率は60%であった。この触媒担体基材1は、各セルの両端部に形成された2つの開口部のうち1つは、封止材2によって交互に封止されている。つまり、多数あるセルのうち、約半数のものは一方の端面において開口し、残りのものは他方の端面において開口している。触媒担体基材1の端面において、封止されたセル2と開口したセル3とが交互に並んでいる。従って、触媒担体基材1の端面は、市松模様状になっている。触媒担体基材1の端面を図1に示した。
【0037】
スラリーAの触媒担体基材へのコーティングは、スラリーA中に触媒担体基材を浸漬し、引き出した後に過剰なスラリーを除去した後に、乾燥させることで行われた。なお、本実施例において過剰なスラリーの除去は、セル中にエアーを流すエアブローによりなされた。
【0038】
乾燥後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり75gの担持量でアルミナが担持されていることがわかった。また、スラリーAから製造されたアルミナ担持層は、セル壁の細孔の内部の表面にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0039】
その後、平均粒子径が5μmのアルミナ粉末を脱イオン水に投入、攪拌して分散させ、スラリーBを調製した。
【0040】
調製されたスラリーBをスラリーAから製造されたアルミナ担持層をもつ触媒担体基材にコーティングした。調製されたスラリーBの触媒担体基材へのコーティングは、スラリーB中に触媒担体基材を上流側の端部から75mmを浸漬し、引き出した後に過剰なコーティングスラリーを除去した後に、乾燥、焼成させることで行われた。なお、本実施例において過剰なコーティングスラリーの除去は、セル中にエアーを流すエアブローによりなされた。ここで、スラリーBは、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面にコーティングされた。
【0041】
焼成後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり75gの担持量でスラリーBより製造されたアルミナが担持された。また、このアルミナ担持層は、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面に上流側の端部から75mmの範囲にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0042】
そして、Ptを含む水溶液を調製し、担持層が形成された触媒担体基材を浸漬し、引き出した後に乾燥した。乾燥は、350℃で1時間加熱することで行われた。触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり2gの担持量でPtが担持された。ここで、Ptは、担持層に均一な状態で担持された。このPtは、触媒成分としてパティキュレートの燃焼をおこなう。
【0043】
以上の手順により、実施例1のフィルタ触媒が製造された。
【0044】
本実施例のフィルタ触媒は、セル壁に多数の連続した細孔をもつコーディエライト製の触媒担体基材のセル壁の細孔の内表面にスラリーAから製造された第二の担持層が75g/Lの担持量で形成され、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面に上流側の端部から75mmの範囲にはさらにスラリーBから製造された第一の担持層が75g/Lの担持量で形成されている。そして、それぞれの担持層には、合計で2g/Lの担持量でPtが担持され、第一の触媒部および第二の触媒部を形成している。本実施例のフィルタ触媒は、下流側の端部から75mmのセル壁の表面には第二の触媒部が露出している。本実施例のフィルタ触媒の構成がわかるように、軸方向の断面を図2に示した。
【0045】
本実施例のフィルタ触媒は、第一の触媒部が形成された長さはセルの長さの1/2であった。また、第一の触媒部と第二の触媒部の重量比は、1:1であった。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同様に、スラリーAを調製し、触媒担体基材にコーティングを行った。乾燥後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり100gの担持量でアルミナが担持されていることがわかった。また、スラリーAから製造されたアルミナ担持層は、実施例1の第二の触媒部と同様にセル壁の細孔の内部の表面にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0047】
つづいて、実施例1のときと同様にスラリーBを調製し、触媒担体基材にコーティングを行った。スラリーBのコーティングは、上流側の端部から50mmの範囲になされた。ここで、スラリーBは、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面にコーティングされた。
【0048】
焼成後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり50gの担持量でスラリーBより製造されたアルミナが担持された。また、このアルミナ担持層は、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面に上流側の端部から50mmの範囲にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0049】
その後、実施例1と同様な手段により担持層にPtを担持した。
【0050】
以上の手順により、実施例2のフィルタ触媒が製造された。
【0051】
本実施例のフィルタ触媒は、第一の担持層が50g/Lの担持量で上流側の端部からの長さが50mmで形成され、第二の担持層の担持量が100g/Lの担持量で形成されている以外は実施例1のフィルタ触媒と同様な構成である。
【0052】
本実施例のフィルタ触媒は、第一の触媒部が形成された長さはセルの長さの1/3であった。また、第一の触媒部と第二の触媒部の重量比は、1:2であった。
【0053】
(実施例3)
実施例1と同様に、スラリーAを調製し、下流側の端部から75mmの範囲の触媒担体基材にコーティングを行った。乾燥後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり75gの担持量でアルミナが担持されていることがわかった。また、スラリーAから製造されたアルミナ担持層は、実施例1の第二の触媒部と同様にセル壁の細孔の内部の表面にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0054】
つづいて、実施例1のときと同様にスラリーBを調製し、触媒担体基材にコーティングを行った。スラリーBのコーティングは、上流側の端部から75mmの範囲になされた。ここで、スラリーBは、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面にコーティングされた。
【0055】
焼成後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり75gの担持量でスラリーBより製造されたアルミナが担持された。また、このアルミナ担持層は、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面に上流側の端部から75mmの範囲にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0056】
その後、実施例1と同様な手段により担持層にPtを担持した。
【0057】
以上の手順により、実施例3のフィルタ触媒が製造された。
【0058】
本実施例のフィルタ触媒は、触媒担体基材の下流側の端部から75mmの範囲のセル壁の細孔の内表面にスラリーAから製造された第二の担持層が75g/Lの担持量で形成され、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面に上流側の端部から75mmの範囲の表面にはさらにスラリーBから製造された第一の担持層が75g/Lの担持量で形成されている。そして、それぞれの担持層には、合計で2g/Lの担持量でPtが担持され、第一の触媒部および第二の触媒部を形成している。本実施例のフィルタ触媒は、下流側の端部から75mmのセル壁の表面には第二の触媒部が露出している。
【0059】
本実施例のフィルタ触媒は、第一の触媒部が形成された長さはセルの長さの1/2であった。また、第一の触媒部と第二の触媒部の重量比は、1:1であった。
【0060】
(実施例4)
実施例1と同様に、スラリーAを調製し、下流側の端部から120mmの範囲の触媒担体基材にコーティングを行った。乾燥後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり120gの担持量でアルミナが担持されていることがわかった。また、スラリーAから製造されたアルミナ担持層は、実施例1の第二の触媒部と同様にセル壁の細孔の内部の表面にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0061】
つづいて、実施例1のときと同様にスラリーBを調製し、触媒担体基材にコーティングを行った。スラリーBのコーティングは、上流側の端部から30mmの範囲になされた。スラリーBは、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面にコーティングされた。
【0062】
焼成後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり30gの担持量でスラリーBより製造されたアルミナが担持された。また、このアルミナ担持層は、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面に上流側の端部から30mmの範囲にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0063】
その後、実施例1と同様な手段により担持層にPtを担持した。
【0064】
以上の手順により、実施例4のフィルタ触媒が製造された。
【0065】
本実施例のフィルタ触媒は、第一の担持層が30g/Lの担持量で上流側の端部からの長さが30mmで形成され、第二の担持層の担持量が120g/Lの担持量で下流側の端部からの長さが120mmで形成されている以外は実施例3のフィルタ触媒と同様な構成である。
【0066】
本実施例のフィルタ触媒は、第一の触媒部が形成された長さはセルの長さの1/5であった。また、第一の触媒部と第二の触媒部の重量比は、1:4であった。
【0067】
(実施例5)
実施例1と同様に、スラリーAを調製し、下流側の端部から60mmの範囲の触媒担体基材にコーティングを行った。乾燥後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり60gの担持量でアルミナが担持されていることがわかった。また、スラリーAから製造されたアルミナ担持層は、実施例1の第二の触媒部と同様にセル壁の細孔の内部の表面にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0068】
つづいて、実施例1のときと同様にスラリーBを調製し、触媒担体基材にコーティングを行った。スラリーBのコーティングは、上流側の端部から90mmの範囲になされた。スラリーBは、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面にコーティングされた。
【0069】
焼成後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり90gの担持量でスラリーBより製造されたアルミナが担持された。また、このアルミナ担持層は、上流側の端部が目封じされていないセルのセル壁の表面に上流側の端部から90mmの範囲にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0070】
その後、実施例1と同様な手段により担持層にPtを担持した。
【0071】
以上の手順により、実施例4のフィルタ触媒が製造された。
【0072】
本実施例のフィルタ触媒は、第一の担持層が60g/Lの担持量で上流側の端部からの長さが60mmで形成され、第二の担持層の担持量が90g/Lの担持量で下流側の端部からの長さが90mmで形成されている以外は実施例3のフィルタ触媒と同様な構成である。
【0073】
本実施例のフィルタ触媒は、第一の触媒部が形成された長さはセルの長さの3/5であった。また、第一の触媒部と第二の触媒部の重量比は、3:2であった。
【0074】
(比較例1)
実施例1と同様にしてスラリーAを調製した。
【0075】
調製されたスラリーAを実施例1と同様な触媒担体基材にコーティングした。スラリーAの触媒担体基材へのコーティングは、スラリーA中に触媒担体基材を浸漬し、引き出した後に過剰なスラリーを除去した後に、乾燥、焼成させることで行われた。なお、本実施例において過剰なスラリーの除去は、セル中にエアーを流すエアブローによりなされた。
【0076】
乾燥後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり150gの担持量でアルミナが担持されていることがわかった。また、スラリーAから製造されたアルミナ担持層は、セル壁の細孔の内部の表面にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0077】
その後、実施例1のときと同様にして担持層にPtを担持した。触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり2gの担持量でPtが担持された。
【0078】
以上の手順により、比較例1のフィルタ触媒が製造された。
【0079】
本比較例のフィルタ触媒は、触媒担体基材のセル壁の細孔の内表面にスラリーAから製造された担持層が150g/Lの担持量で形成され、担持層には、2g/Lの担持量でPtが担持されている。
【0080】
(比較例2)
実施例1と同様にしてスラリーBを調製した。
【0081】
調製されたスラリーBを実施例1と同様な触媒担体基材にコーティングした。スラリーBの触媒担体基材へのコーティングは、スラリーB中に触媒担体基材を浸漬し、引き出した後に過剰なスラリーを除去した後に、乾燥、焼成させることで行われた。なお、本実施例において過剰なスラリーの除去は、セル中にエアーを流すエアブローによりなされた。
【0082】
乾燥後の重量を測定したところ、触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり150gの担持量でアルミナが担持されていることがわかった。また、スラリーBから製造されたアルミナ担持層は、セル壁の表面にほぼ均一な厚さで形成されていることが確認できた。
【0083】
その後、実施例1のときと同様にして担持層にPtを担持した。触媒担体基材の見かけの容積1リットルあたり2gの担持量でPtが担持された。
【0084】
以上の手順により、比較例1のフィルタ触媒が製造された。
【0085】
本比較例のフィルタ触媒は、触媒担体基材のセル壁の表面にスラリーBから製造された担持層が150g/Lの担持量で形成され、担持層には、2g/Lの担持量でPtが担持されている。
【0086】
(評価)
実施例および比較例のフィルタ触媒を用いて排ガスの浄化を行い、評価を行った。
【0087】
(50%浄化温度の測定)
まず、排気量が2リットルの加給式直噴ディーゼルエンジンを有する車両の排気系にフィルタ触媒を設置した。そして、2000rpmの回転数でトルクを変動させてフィルタ触媒の触媒昇温を150℃から450℃にまで昇温させた。
【0088】
このとき、フィルタ触媒の前後の排ガス中のHCとCOの濃度を測定し、フィルタ触媒での浄化前の濃度と浄化後の濃度から浄化率を求めた。浄化率は、下記数1に示した式により求めた。そして、浄化率が50%となったときの温度を測定し、フィルタ触媒の活性値とした。測定結果を表1および図3〜4に示した。なお、図3にはHCの浄化率が50%となった温度を、図4にはCOの浄化率が50%となった温度を示した。
【0089】
【数1】

【0090】
【表1】

【0091】
表1および図3〜4より、各実施例のフィルタ触媒は、セル壁の細孔の内部の表面に形成された比較例1のフィルタ触媒より高い活性値を有することがわかる。すなわち、セル壁の表面に形成された第一の触媒部がガス成分の浄化において有効に機能していることがわかる。
【0092】
(パティキュレート浄化率および背圧の測定)
まず、排気量が2.8リットルの直噴ディーゼルエンジンを有する車両の排気系に(圧損を測定される)フィルタ触媒を設置した。排気系のフィルタ触媒の前後には圧力センサが取り付けられている。そして、ECモードで運転を行った。そして、フィルタ触媒を通過した排ガス中のパティキュレートを捕集し、重量を測定した。パティキュレートの重量は、可溶性成分(SOF)とすす(SOOT)の合計の重量として計測された。また、フィルタ触媒を設置しない状態で同様の運転条件で運転を行い、排出されたパティキュレートを捕集しその重量も測定した。測定されたパティキュレートの重量から、下記数2に示した式を用いてパティキュレートの浄化率を求めた。パティキュレートの浄化率を図5に示した。
【0093】
また、フィルタ触媒を設置した状態でパティキュレートを捕集しているときに、フィルタ触媒の上流側での排ガスの圧力(背圧)を測定し、図6に示した。なお、測定された背圧は、ECモードでの運転において最高速時の背圧である。
【0094】
【数2】

【0095】
図4より、各実施例のフィルタ触媒は、セル壁表面に触媒部が形成された比較例2のフィルタ触媒よりパティキュレートの浄化率が高いことがわかる。すなわち、細孔の内部の表面に形成された第二の触媒部がパティキュレートの浄化に有効に機能していることがわかる。
【0096】
また、図5より、各実施例のフィルタ触媒は、セル壁表面に触媒部が形成された比較例2のフィルタ触媒より背圧が低いことがわかる。すなわち、各実施例のフィルタ触媒は、圧損の上昇が抑えられたことがわかる。
【0097】
上記の各評価試験より、各実施例のフィルタ触媒は、HCおよびCOのガス状およびパティキュレートの粒子状の被浄化成分の浄化性能に優れ、かつ圧損の上昇が抑えられたフィルタ触媒となっている。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】触媒担体基材の端面を示した上面図である。
【図2】フィルタ触媒の軸方向の断面図である。
【図3】各フィルタ触媒のHCの浄化における50%浄化温度の測定結果を示したグラフである。
【図4】各フィルタ触媒のCOの浄化における50%浄化温度の測定結果を示したグラフである。
【図5】各フィルタ触媒のパティキュレートの浄化率の測定結果を示したグラフである。
【図6】各フィルタ触媒の背圧の測定結果を示したグラフである。
【符号の説明】
【0099】
1…触媒担体基材
2…封止されたセル
3…開口したセル
4…フィルタ触媒
40…セル壁 41…封止材
5…第一の触媒部
6…第二の触媒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部の両端が交互に目封じされた複数のセルがセル壁に区画され、該セル壁が多数の連続した細孔をもつ触媒担体基材と、
少なくとも一部の該セル壁の表面に形成された排ガスの被浄化成分を分解浄化する第一の触媒部と、
該セルの一部を区画し、該細孔の内部の表面に形成された排ガスの被浄化成分を分解浄化する第二の触媒部と、
を有することを特徴とするフィルタ触媒。
【請求項2】
前記セルの上流側に前記第一の触媒部が形成され、該第一の触媒部が形成されていない部分の該セル壁には前記第二の触媒部が形成されている請求項1記載のフィルタ触媒。
【請求項3】
前記第一の触媒部が、前記セルの上流側の端部から軸方向の長さの1/5〜3/5の長さで形成された請求項2記載のフィルタ触媒。
【請求項4】
前記第一の触媒部は、耐熱性無機酸化物よりなる第一の担持層と、該第一の担持層に担持された第一の触媒金属と、からなり、
該第一の担持層は、耐熱性無機酸化物粉末が分散したスラリーを塗布、焼成してなり、
該第一の担持層を形成するための該耐熱性無機酸化物粉末の平均粒径が2μm以上である請求項1記載のフィルタ触媒。
【請求項5】
前記第二の触媒部は、耐熱性無機酸化物よりなる第二の担持層と、該第二の担持層に担持された第二の触媒金属と、からなり、
該第二の担持層は、耐熱性無機酸化物粉末が分散したスラリーを塗布、焼成してなり、
該耐熱性無機酸化物粉末の平均粒径が1μm以下である請求項1記載のフィルタ触媒。
【請求項6】
前記第一の触媒部と前記第二の触媒部の重量の比は、1:5〜3:2である請求項1記載のフィルタ触媒。
【請求項7】
開口部の両端が交互に目封じされた複数のセルがセル壁に区画され、該セル壁が多数の連続した細孔をもつ触媒担体基材と、
該触媒担体基材の表面に形成されたHC,CO,NOxおよびパティキュレートを含むディーゼルエンジンからの排ガスを浄化する触媒部と、
をもつフィルタ触媒であって、
排ガスを浄化する該触媒部は、HC,COおよびNOxを浄化する第一の触媒部と、パティキュレートを浄化する第二の触媒部と、からなることを特徴とするフィルタ触媒。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−136784(P2006−136784A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327697(P2004−327697)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】