説明

フィルム除去方法及び液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】基板から有機フィルムを容易且つ良好に除去することができるフィルム除去方法を提供する。
【解決手段】基板30上に接着剤150によって接着された有機フィルム140を基板から除去するフィルム除去方法であって、有機フィルム及び接着材を過酸化水素水200に所定時間浸漬した後に、有機フィルムを基板から引き剥がすことで、有機フィルムを基板から除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機フィルムを基板から除去するフィルム除去方法及び液滴を吐出する液体噴射ヘッドの製造方法、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面の圧電体層を形成して、圧電体層の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表的な例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成されるシリコン基板からなる流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成される圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側の面に接着されて圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板(保護基板)とを有するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載されているように、インクジェット式記録ヘッドの製造方法としては、次のような方法がある。具体的には、まず流路形成基板が複数一体的に形成されるシリコンウェハの一方面に振動板を介して圧電素子を形成し、このシリコンウェハに封止基板となる封止基板形成材を接合する。次いで、封止基形成材の表面に、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム等からなる封止シートを貼着し、当該封止基板形成材の表面をこの封止シートで封止する。このとき、封止シートの周縁部のみが、接着剤によって封止基板形成材に貼着されるようにする。そして、封止シートが封止基板形成材に貼着された状態で、シリコンウェハをアルカリ溶液でウェットエッチングすることにより圧力発生室等を形成する。その後、封止シートを接着剤の内側で切断して、封止シートを封止基板形成材から除去し、シリコンウェハを所定のチップサイズに分割することにより、インクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0004】
【特許文献1】特開2004−34555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述したようにシリコンウェハをエッチングして圧力発生室等を形成する際には、封止基板形成材がエッチングされてしまうのを防止したり、封止基板形成材に形成された貫通孔を介して圧電素子にエッチング液が付着してしまう等の問題を未然に防止するために、一般的に、封止基板形成材の表面に封止シートが貼着される。
【0006】
そして、この封止シートは、特許文献1に記載されているように、例えば、切断することによって除去することもできる。しかしながら、その後に、例えば、予め形成されたブレークパターンに沿ってシリコンウェハを分割しようとすると、シリコンウェハの周縁部でブレーク性が低下するため、チップ部分(製品部分)にクラックが発生してシリコンウェハを所望の形状に分割することができない場合がある。また、特許文献1に記載されているように、シリコンウェハの周縁部をダイシングにより切断することもあるが、この場合には、ダイシング工程で発生した汚れ(異物)が圧力発生室等の流路内に入り込み、ノズル詰まりを起こす虞がある。
【0007】
なお、このような封止シートを除去する際に生じる問題は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドの製造時だけでなく、フィルムを基板から除去するあらゆる場合に生じる虞がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、基板から有機フィルムを容易且つ良好に除去することができるフィルム除去方法を提供することを目的とする。また、圧力発生室を良好に形成できると共に吐出不良の発生を防止でき、歩留まりを向上することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、基板上に接着剤によって接着された有機フィルムを前記基板から除去するフィルム除去方法であって、前記有機フィルム及び前記接着剤を過酸化水素水に所定時間浸漬した後に、前記有機フィルムを前記基板から引き剥がすようにしたことを特徴とするフィルム除去方法にある。
かかる第1の態様では、過酸化水素水が接着剤に浸透したせいか、有機フィルムを接着剤の界面から比較的容易に且つ短時間で剥離させて基板から除去することができる。また、有機フィルムを基板から剥離させた際に、当該有機フィルムが基板上に部分的に残存してしまうことを抑制することができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、前記有機フィルムがポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)であることを特徴とする第1の態様のフィルム除去方法にある。
かかる第2の態様では、有機フィルムとしてポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)を用いた場合には、有機フィルムをより確実に剥離させることができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、前記接着剤がエポキシ系の接着剤であることを特徴とする第1又は2の態様のフィルム除去方法にある。
かかる第3の態様では、接着剤としてエポキシ系の材料を用いることで、有機フィルムを確実に接着できると共に、有機フィルムをより確実に剥離させることができる。
【0012】
本発明の第4の態様は、前記過酸化水素水の温度が、80℃以上100℃未満であることを特徴とする第1〜3の何れかの態様のフィルム除去方法にある。
かかる第4の態様では、過酸化水素水の温度を比較的高くすることで、有機フィルムをより確実に剥離させることができる。
【0013】
本発明の第5の態様は、前記基板の表面にシリコン酸化膜が形成されていることを特徴とする第1〜4の何れかの態様のフィルム除去方法にある。
かかる第5の態様では、基板の表面にシリコン酸化膜が形成されていることで、接着剤は基板に密着された状態になり、有機フィルムを接着剤との界面からより確実に剥離させることができる。
【0014】
本発明の第6の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板上に前記圧力発生室に圧力を付与する圧力発生素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記流路形成基板が一体的に形成される流路形成基板用ウェハ上に前記圧力発生素子を形成する工程と、前記圧力発生素子を保護する圧力発生素子保持部を有する保護基板が一体的に形成される保護基板用ウェハを前記流路形成基板用ウェハ上に接合する工程と、有機フィルムを前記保護基板用ウェハの前記流路形成基板用ウェハ側の面とは反対側の表面に接着剤によって接着する工程と、前記流路形成基板用ウェハをエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する工程と、前記有機フィルム及び前記接着剤を過酸化水素水に一定時間浸漬させた後に当該有機フィルムを前記保護基板用ウェハから引き剥がす工程と、前記流路形成基板用ウェハ及び前記保護基板用ウェハを所定の大きさに分割する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第6の態様では、有機フィルムによって保護基板用ウェハの流路形成基板用ウェハ側の面とは反対側の表面を覆った状態で、流路形成基板用ウェハに圧力発生室等の液体流路を形成することで、液体流路形成時に異物が発生するのを防止することができる。また、液体流路を形成した後、有機フィルムを比較的容易に且つ短時間で剥離させて保護基板用ウェハから除去することができるため、有機フィルムが保護基板用ウェハに残ってしまうことなどの影響を受けることないので流路形成基板用ウェハ等を良好に分割することができる。すなわち、流路形成基板用ウェハ等を分割する際に、流路形成基板用ウェハ等に割れ等が生じて異物が発生するのを防止することができる。このように製造過程における異物の発生を防止することができるため、異物によるノズル詰まりの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
本実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて、本発明を説明する。まずは、本発明の製造方法によって製造されるインクジェット式記録ヘッドの構成について説明する。図1は、実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0016】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では結晶面方位が(110)であるシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した酸化シリコン(SiO)からなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、隔壁11によって区画され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。さらに、連通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部15は、後述する保護基板30のリザーバ部32と連通して、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する。
【0017】
なお、流路形成基板10は、図3に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110に複数個が一体的に形成され、詳しくは後述するが、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12等を形成した後、この流路形成基板用ウェハ110を分割することによって形成される。
【0018】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、圧力発生室12を形成する際のマスクとして用いられる絶縁膜51を介して、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。
【0019】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧力発生素子としての圧電素子300が形成されている。また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、リード電極90がそれぞれ接続されている。本実施形態では、各リード電極90は、例えば、金(Au)等からなり、上電極膜80のインク供給路13側の端部近傍から絶縁体膜55上にまで延設されている。
【0020】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、圧電素子300を保護するための圧電素子保持部31(圧力発生素子保持部の一種)を有する保護基板30が、例えば、接着剤35によって接合されている。ここで圧電素子保持部31は密封されていても密封されていなくてもよい。また、保護基板30には、複数の圧力発生室12に供給するインクが貯留されるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられており、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、この貫通孔33内に露出されている。
【0021】
このような保護基板30の材料は、特に限定されないが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス材料、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料であるシリコン単結晶基板を用いている。
【0022】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっており、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0023】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し圧電素子300を撓み変形させることによって、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出される。
【0024】
以下、このような本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図4〜図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明する図であり、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0025】
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜52を形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜52)上に、ジルコニウム(Zr)層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図4(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
【0026】
次に、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成し、圧電体層70及び上電極膜80をパターニングして、図4(d)に示すように、各圧力発生室12となる領域に圧電素子300を形成する。次いで、図5(a)に示すように、リード電極90を流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って形成すると共に圧電素子300毎にパターニングする。次に、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ130を接合する。この保護基板用ウェハ130の表面にシリコン酸化膜を形成することで後に説明する接着剤の密着性を向上させている。なお、この保護基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するため、保護基板用ウェハ130を接合することによって流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
【0027】
次に、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチング、例えば、スピンエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みまで薄くする。次いで、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなる絶縁膜51を新たに形成し、この絶縁膜51を所定形状にパターニングする。
【0028】
次に、図6(b)に示すように、保護基板用ウェハ130の流路形成基板用ウェハ110側の面とは反対側の表面に、例えば、ポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)等の有機フィルム140を接着剤150によって接着することにより、保護基板用ウェハ130の表面をこの有機フィルム140で覆う。すなわち、保護基板用ウェハ130を厚さ方向に貫通して形成されているリザーバ部32等の空間が有機フィルム140によって完全に封止されるようにする。このとき、有機フィルム140は、保護基板用ウェハ130の周縁部のみに接着剤150によって接着し、保護基板30となる領域には接着されないようにするのが好ましい。また、有機フィルム140の接着剤150よりも内側の領域では、保護基板用ウェハ130と有機フィルム140との間に空間が確保されているようにするのが望ましい。
【0029】
なお、ここでいう保護基板用ウェハ130の周縁部とは、保護基板用ウェハ130の表面の周縁部はもちろん、流路形成基板用ウェハ110又は保護基板用ウェハ130の外周面を含む。すなわち、有機フィルム140は、保護基板用ウェハ130の表面の周縁部に限らず、保護基板用ウェハ130の外周面、または流路形成基板用ウェハ110の外周面に接着されていてもよい。
【0030】
また、有機フィルム140と保護基板用ウェハ130とを接着するための接着剤150は、特に限定されないが、エポキシ系の接着剤であることが好ましい。また、接着剤150は、有機フィルム140又は保護基板用ウェハ130の何れに塗布してもよい。接着剤の塗布方法も特に限定されず、有機フィルム140に塗布する場合には、例えば、フィルム転写方法等を用いればよい。保護基板用ウェハ130に塗布する場合には、例えば、ディスペンサ等により直接塗布するようにすればよい。
【0031】
また、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110の加工工程(図5(c))においては、保護基板用ウェハ130の流路形成基板用ウェハ110側の面とは反対側の表面に接着剤150や有機フィルム140が設けられていない状態で、流路形成基板用ウェハ110を加工するようにしている。接着剤150や有機フィルム140は柔軟性のある部材であるため、上記加工工程時に保護基板用ウェハ130の流路形成基板用ウェハ110側の面とは反対側の表面に接着剤150や有機フィルム140が設けられていると、流路形成基板用ウェハ110を均一に研磨できない虞があるからである。具体的には、例えば、流路形成基板用ウェハ110を加工台に保護基板用ウェハ130の流路形成基板用ウェハ110側の面とは反対側の表面を当接するように戴置させて研磨する際に、流路形成基板用ウェハ110ががたつきやすくなり、均一な研磨ができなくなる虞があるためである。
【0032】
そして、この絶縁膜51をマスクとして流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングすることにより、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15を形成する。このとき、保護基板用ウェハ130の表面は有機フィルム140によって覆われて流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側の面全面に形成されているため、流路形成基板用ウェハ110又は圧電素子300がエッチング液によって破壊されるのを確実に防止することができる。
【0033】
なお、有機フィルム140は、有機系であればよいが、ポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)フィルムからなることが好ましい。PPTAフィルムは、シリコンウェハと略同等の熱膨張係数を有するため、流路形成基板用ウェハ110のエッチング時等に発生する熱により各ウェハ110,130に反りが生じることがない。したがって、圧力発生室12等をエッチングにより高精度に形成することができ、良好な吐出特性が得られるインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0034】
具体的には、流路形成基板用ウェハ110をエッチングする際には、各ウェハ110,130及び有機フィルム140は、約80℃程度まで加熱されるためこの熱によって膨張してしまう。このため、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130と有機フィルム140との線膨張係数が大きく異なると、その膨張率の違いによって各ウェハ110,130が変形して割れてしまう虞がある。
【0035】
また、例えば、この熱によって有機フィルム140を接着している接着剤150が一旦軟化する場合がある。この場合には、有機フィルム140は熱により膨張した状態で保護基板用ウェハ130に固定されてしまい、エッチング終了後に各ウェハ110,130及び有機フィルム140が冷却されて収縮する際に、各ウェハ110,130が変形して割れてしまう虞がある。
【0036】
しかしながら、ポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)フィルムの線膨張係数は2.0×10−6/℃であり、シリコンウェハの線膨張係数(3.0×10−6/℃)と略同等であるため、加熱又は冷却により各ウェハ110,130及び有機フィルム140はほぼ同じ量だけ膨張又は収縮することになり、各ウェハ110,130に反り等の変形が生じることはない。
【0037】
次に、図7(a)に示すように、有機フィルム140及び接着剤150を、過酸化水素水200に所定時間浸漬させる。この過酸化水素水200の濃度は、特に限定されないが、30%程度であるとその剥離性にかかる効果が向上する。また、過酸化水素水200の温度は、比較的高いことが好ましく、具体的には、80℃以上100℃未満であることが好ましい。さらに、浸漬時間は、過酸化水素水200の濃度、温度等の条件によって異なるが、少なくとも1時間以上とするのが好ましい。これにより、接着剤150に過酸化水素水200が十分浸透するためか、有機フィルム140と接着剤150との界面での密着力が低下する。したがって、図7(b)に示すように、有機フィルム140を引き剥がすことにより、有機フィルム140が接着剤150との界面で比較的容易に且つ短時間で剥離させることができる。尚、保護基板用ウェハ130は上述したようにシリコンウェハであり、その表面にはシリコン酸化膜(図示なし)が形成されている。保護基板用ウェハ130の表面にシリコン酸化膜が形成されていることで、保護基板用ウェハ130に対する接着剤150の密着性が向上し、有機フィルム140を剥離する際に接着剤150が有機フィルム140に引っ張られて接着剤150から有機フィルム140を剥離できないということがなくなる。よって、有機フィルム140を保護基板用ウェハ130から容易且つ確実に除去することができる。なお、有機フィルム140及び接着剤150を過酸化水素水200に浸漬させても、保護基板用ウェハ130と有機フィルム140との間の空間に過酸化水素水200が入り込むことはない。
【0038】
その後は、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割する。すなわち、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130に予め形成されているブレークパターン(図示なし)に沿って、これらのウェハ110,130を分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0039】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚さに加工する加工工程の後に、保護基板用ウェハ130に有機フィルム140を接着するようにしたが、これに限定されず、勿論、上記加工工程の前に、保護基板用ウェハ130に有機フィルム140を接着するようにしてもよい。何れにしても、流路形成基板用ウェハ110をエッチングして圧力発生室12等を形成する前に、有機フィルム140が保護基板用ウェハ130に接着されていればよい。また、上記加工工程は、勿論、実施しなくてもよい。
【0040】
また、上述した実施形態においては、圧力発生素子として圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッドを例示したが、圧力発生素子の形態は特に限定されず、いわゆる静電式アクチュエータ等を用いたものでもよい。
【0041】
また、上述した実施形態においては、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を一例として本発明を説明したが、これに限定されず、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0042】
また、上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの製造方法について説明したが、勿論、本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法だけでなく、基板上に接着剤によって接着された有機フィルムを基板から除去するあらゆる場合に適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る流路形成基板用ウェハを示す斜視図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 インク供給路、 14 連通路、 15 連通部、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 50 弾性膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 110 流路形成基板用ウェハ、 130 保護基板用ウェハ、 140 有機フィルム、 150 接着剤、 200 過酸化水素水、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に接着剤によって接着された有機フィルムを前記基板から除去するフィルム除去方法であって、前記有機フィルム及び前記接着剤を過酸化水素水に所定時間浸漬した後に、前記有機フィルムを前記基板から引き剥がすようにしたことを特徴とするフィルム除去方法。
【請求項2】
前記有機フィルムがポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム除去方法。
【請求項3】
前記接着剤がエポキシ系の接着剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム除去方法。
【請求項4】
前記過酸化水素水の温度が、80℃以上100℃未満であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のフィルム除去方法。
【請求項5】
前記基板の表面にシリコン酸化膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフィルム除去方法。
【請求項6】
ノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板上に前記圧力発生室に圧力を付与する圧力発生素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記流路形成基板が一体的に形成される流路形成基板用ウェハ上に前記圧力発生素子を形成する工程と、前記圧力発生素子を保護する圧力発生素子保持部を有する保護基板が一体的に形成される保護基板用ウェハを前記流路形成基板用ウェハ上に接合する工程と、有機フィルムを前記保護基板用ウェハの前記流路形成基板用ウェハ側の面とは反対側の表面に接着剤によって接着する工程と、前記流路形成基板用ウェハをエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する工程と、前記有機フィルム及び前記接着剤を過酸化水素水に一定時間浸漬させた後に当該有機フィルムを前記保護基板用ウェハから引き剥がす工程と、前記流路形成基板用ウェハ及び前記保護基板用ウェハを所定の大きさに分割する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−60150(P2008−60150A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232426(P2006−232426)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】