説明

フィレットローラの欠損判定装置およびその方法

【課題】簡易な制御でありながら、精度よくフィレットローラの欠損を判定する。
【解決手段】逐次算出した所定時間あたりの電力変化量ΔPiを用いて電力変化量積算値ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxjを算出し(ステップS102〜S108,S114)、電力変化量積算値ΔPjと電力変化量最大値ΔPmaxjとを含む直近20ケの電力変化量積算値ΔPj−19〜ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxj−19〜ΔPmaxjを用いて許容値範囲ΔPjmav±3σsjおよびΔPmaxjmav±3σmjを設定して(ステップS112〜S118)、電力変化量積算値ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxjが許容値範囲ΔPjmav±3σsjおよびΔPmaxjmav±3σmjの範囲内であるか否かによってフィレットローラRが欠損しているか否かを判定する(ステップS120)。この結果、簡易な制御で欠損判定をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィレットローラの欠損判定装置およびその方法に関し、特に、電動機により回転するワークに押し当てるフィレットローラを備えるフィレットロール加工装置におけるフィレットローラの欠損を判定するフィレットローラの欠損判定装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のフィレットローラの欠損判定装置としては、振動センサにより検出したロール掛け作動に起因する振動量に基づいてフィレットローラが欠損したか否かを判定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この装置では、検出した振動が予め定めた基準レベルを超えた場合に、フィレットローラに欠損が生じたと判定する。
また、従来から、工具を駆動するモータの電力値に基づいて工具の欠損を判定する装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
この装置では、複数サイクルの加工を行なったときの複数の電力波形から、同一サンプリグ箇所毎に平均値および標準偏差を求め、これから許容範囲を設定し、実測電力値が許容範囲を超えたときに、工具が欠損したと判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−121638号公報
【特許文献2】特開2002−341909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の前者の欠損判定装置では、ロール掛け作動に起因する振動量だけを検出することは困難であり、精度良く判定することができない。また、振動センサが複数必要であるなど非常に高価である。一方、後者の欠損判定装置をフィレットローラに適用することも考えられるが、扱うデータ数が多く、大きな記憶容量が必要になるとともに、制御が複雑なものとなる。
本発明のフィレットローラの欠損判定装置およびその方法は、簡易な制御でありながら、精度良くフィレットローラの欠損を判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、フィレットロール加工の際にワークを回転する電動機の所定時間当たりの電力変化量をフィレットロール加工1サイクル分積算した値を用いることにより、フィレットローラの欠損判定を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明のフィレットローラの欠損判定装置は、
電動機により回転するワークに押し当てるフィレットローラを備えるフィレットロール加工装置における前記フィレットローラの欠損を判定するフィレットローラの欠損判定装置であって、
前記電動機の負荷電力を所定時間毎に検出する電力検出手段と、
前記所定時間あたりの前記負荷電力の変化量を電力変化量として逐次算出する電力変化量算出手段と、
算出された前記電力変化量を電力変化量積算値として積算する電力変化量積算手段と、
前記電力変化量積算値を記憶する記憶手段と、
記憶された複数の前記電力変化量積算値に基づいて該電力変化量積算値の許容範囲としての積算値許容範囲を設定する許容範囲設定手段と、
今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲内であれば前記フィレットローラは欠損していないと判定し、今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲外であれば前記フィレットローラは欠損していると判定する欠損判定手段と、
を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
この本発明のフィレットローラの欠損判定装置では、所定時間あたりの電力変化量を逐次算出し、算出した電力変化量を積算して電力変化量積算値を求めるとともに記憶し、記憶された複数の電力変化量積算値に基づいて積算値許容範囲を設定する。そして、今回積算した電力変化量積算値が設定した積算値許容範囲内であればフィレットローラは欠損していないと判定し、今回積算した電力変化量積算値が設定した積算値許容範囲外であればフィレットローラは欠損していると判定する。
1回のフィレットロール加工を通して電力変化量積算値が許容範囲内であるか否かを判定するだけでフィレットローラに欠損が生じたか否かを判定するから、簡易な制御で済む。しかも、電力変化量積算値はフィレットローラの欠損に対する指標のうち感度が高いものの一つであることから、精度良くフィレットローラの欠損を判定することができる。
【0007】
こうした本発明のフィレットローラの欠損判定装置において、前記許容範囲設定手段は、前記記憶手段により記憶された最新所定個の前記電力変化量積算値の移動平均および標準偏差を演算し、該移動平均と該標準偏差とに基づいて前記積算値許容範囲を設定する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、電力変化量積算値の判定を精度良く行うことができる。この結果、フィレットローラの欠損判定を精度良く判定することができる。
【0008】
また、本発明のフィレットローラの欠損判定装置において、前記電力変化量算出手段により算出した前記電力変化量の中から最大値としての電力変化量最大値を抽出する抽出手段を備え、前記記憶手段は、前記抽出手段によって抽出された前記電力変化量最大値を記憶する手段であり、前記許容範囲設定手段は、記憶された複数の前記電力変化量最大値に基づいて該電力変化量最大値の許容範囲としての最大値許容範囲を設定する手段であり、前記欠損判定手段は、今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲外であるとともに今回抽出した前記電力変化量最大値が前記最大値許容範囲外であるときに前記フィレットローラが欠損していると判定する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、フィレットローラの欠損に対する指標のうち感度が高いものの一つである電力変化量積算値と電力変化量最大値とを用いて、何れもが許容範囲外となったときにだけフィレットローラが欠損していると判定するから、フィレットローラの欠損をより精度良く判定することができる。
【0009】
さらに、本発明のフィレットローラの欠損判定装置において、前記許容範囲設定手段は、前記記憶手段により記憶された最新所定個の前記電力変化量最大値の移動平均および標準偏差を演算し、該移動平均と該標準偏差とに基づいて前記最大値許容範囲を設定する手段であるものとすることもできる。
こうすれば、電力変化量最大値の判定を精度良く行うことができる。この結果、フィレットローラの欠損判定を精度良く判定することができる。
【0010】
本発明のフィレットローラの欠損判定方法は、
電動機により回転するワークに押し当てるフィレットローラを備えるフィレットロール加工装置における前記フィレットローラの欠損を判定するフィレットローラの欠損判定方法であって、
(a)前記電動機の負荷電力を所定時間毎に検出し、
(b)前記所定時間あたりの前記負荷電力の変化量を電力変化量として逐次算出し、
(c)算出された前記電力変化量を電力変化量積算値として積算し、
(d)前記電力変化量積算値を記憶し、
(e)記憶された複数の前記電力変化量積算値に基づいて該電力変化量積算値の許容範囲としての積算値許容範囲を設定し、
(f)今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲内であれば前記フィレットローラは欠損していないと判定し、今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲外であれば前記フィレットローラは欠損していると判定する
ことを要旨とする。
【0011】
この本発明のフィレットローラの欠損判定方法では、所定時間あたりの電力変化量を逐次算出し、算出した電力変化量を積算して電力変化量積算値を求めるとともに記憶し、記憶された複数の電力変化量積算値に基づいて積算値許容範囲を設定する。そして、今回積算した電力変化量積算値が設定した積算値許容範囲内であればフィレットローラは欠損していないと判定し、今回積算した電力変化量積算値が設定した積算値許容範囲外であればフィレットローラは欠損していると判定する。
1回のフィレットロール加工を通して電力変化量積算値が許容範囲内であるか否かを判定するだけでフィレットローラに欠損が生じたか否かを判定するから、簡易な制御で済む。しかも、電力変化量積算値はフィレットローラの欠損に対する指標のうち感度が高いものの一つであることから、精度良くフィレットローラの欠損を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例であるフィレットローラ欠損判定装置10を備えたフィレットロール加工システム1の構成の概略を示す構成図である。
【図2】フィレットロール加工装置30の構成の概略を示す構成図である。
【図3】フィレットロール加工装置30の要部を拡大して示す拡大図である。
【図4】フィレットローラ欠損判定装置10により実行されるフィレットローラ欠損判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施例であるフィレットローラ欠損判定装置10を備えたフィレットロール加工システム1の構成の概略を示す構成図である。
実施例のフィレットローラ欠損判定装置10を備えるフィレットロール加工システム1は、図示するように、ベース2と、ベース2上に取り付けられたレール2a上を移動可能に配置された駆動ヘッド4と、同じくレール2a上を移動可能に駆動ヘッド4に対向配置された従動ヘッド6と、レール2aに対してほぼ直交するようにベース2上に取り付けられたレール2b上を移動可能に配置されたフィレットロール加工装置30と、フィレットロール加工装置30におけるフィレットローラRの欠損の有無を判定する実施例のフィレットローラ欠損判定装置10と、装置全体をコントロールする電子制御ユニット50とを備える。
【0014】
駆動ヘッド4は、駆動ヘッドモータMと、駆動ヘッドモータMの回転軸に接続されるとともにワークとしてのクランクシャフトCSの一端を掴む駆動側チャック4aとを備えており、ベース2上に固定配置された駆動ヘッド用エアシリンダ14の作動によりレール2a上を往復動(図1中左右方向)する。
【0015】
従動ヘッド6は、駆動ヘッド4の駆動側チャック4aと同心状であってクランクシャフトCSの他端を支持可能なセンタ6aを備えており、ベース2上に固定配置された従動ヘッド用エアシリンダ16の作動によりレール2a上を往復動(図1中左右方向)する。即ち、クランクシャフトCSは、一端側を駆動側チャック4aでチャックされ、他端側をセンタ6aにより支持されて、駆動ヘッドモータMの回転駆動によりクランクシャフトCSの図示しないジャーナル部Jを中心として回転する。
【0016】
図2は、フィレットロール加工装置30の構成の概略を示す構成図である。
フィレットロール加工装置30は、図示するように、レール2b上を移動可能に配置されたテーブル32と、テーブル32上に固定配置された支持プレート34と、クランクシャフトCSの軸線と平行な支軸31によって支持プレート34に揺動可能に取り付けられた上部アーム36と、同じく支軸31によって支持プレート34に揺動可能に取り付けられた下部アーム38と、上部アーム36の一端側に取り付けられたロールカセット40と、ロールカセット40に対向するように下部アーム38の一端側に取り付けられたワークレスト42と、上部アーム36および下部アーム38の他端側に架橋的に接続された加圧シリンダ44とを備えており、加圧シリンダ44のロッド44aの伸縮作動により上部アーム36および下部アーム38の一端側が開閉する(支軸31を中心に揺動する)ように構成されている。
なお、フィレットロール加工装置30は、図1に示すように、クランクシャフトCSの加工部位であるジャーナル部およびピン部ごとに独立して支持プレート34,上部アーム36,下部アーム38,ロールカセット40,ワークレスト42および加圧シリンダ44をそれぞれ有している。また、フィレットロール加工装置30は、ベース2に固定配置されたテーブル用エアシリンダ18の作動によりテーブル32をレール2b上で往復動(図2中左右方向)することによって、クランクシャフトCSに接近したり遠ざかったりする。
【0017】
図3は、フィレットロール加工装置30の要部を拡大して示す拡大図である。
ロールカセット40には、図示するように、バックアップローラ40aを介して図示しないカセットハウジングに回転可能に保持されたフィレットローラRを備えており、クランクシャフトCSのジャーナル部Jのフィレット部fやピン部Pのフィレット部fを加圧加工する。図3では、ジャーナル部Jの両端のフィレット部f,fを加圧加工するために、ほぼハの字状の一対のフィレットローラR,Rが記載されているが、片側のフィレット部fだけを加圧加工する場合には、何れか一方のフィレットローラRがあれば良いのは言うまでもない。
【0018】
ワークレスト42は、図2に示すように、クランクシャフトCSの周方向に沿って配置された一対のレストローラ42aを備えており、フィレットローラRによりクランクシャフトCSのジャーナル部Jのフィレット部fやピン部Pのフィレット部fをフィレットロール加工する際に、クランクシャフトCSのジャーナル部Jのフィレット部fを除く軸方向のほぼ全域やピン部Pのフィレット部fを除く軸方向のほぼ全域に接触してクランクシャフトCSの下部側を支持する。
【0019】
フィレットローラ欠損判定装置10は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサを備え、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM76と、データを一時的に記憶するRAM74と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。フィレットローラ欠損判定装置10には、フィレットローラRの欠損の有無を判定するために必要な信号、例えば、駆動ヘッドモータMに供給される電力を検出する電力計82からの電力などが入力されている。フィレットローラ欠損判定装置10は、後述する電子制御ユニット50と通信しており、必要に応じて駆動ヘッドモータMに供給される電力に関するデータを電子制御ユニット50に出力する。
【0020】
電子制御ユニット50は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、操作パネル(図示せず)で設定された指示を受けて、フィレットロール加工装置30の動作制御や駆動ヘッドモータMへの電力量,駆動ヘッド用エアシリンダ14や従動ヘッド用エアシリンダ16,テーブル用エアシリンダ18へのエア供給の切替えを行う切替弁84の駆動制御など装置全体の運転制御を行う。
【0021】
次に、こうして構成された実施例のフィレットローラ欠損判定装置10を備えるフィレットロール加工システム1の動作、特に、フィレットローラ欠損判定装置10によるフィレットローラRの欠損の有無を判定する際の動作について説明する。
図4は、フィレットローラ欠損判定装置10により実行されるフィレットローラ欠損判定処理の一例を示すフローチャートであり、フィレットロール加工の開始指示がなされてから、所定時間Ts経過したときに実行される。ここで、所定時間Tsは、フィレットロール加工開始から電力の立ち上がりが終了するまでに必要な時間に設定される。なお、所定時間Tsは、実施例では、フィレットロール加工の開始指示がなされてから図示しないタイマにより計時されるものとした。
【0022】
フィレットローラ欠損判定処理が実行されると、フィレットローラ欠損判定装置10のCPU72は、先ず、後述する電力変化量最大値ΔPmaxの値をリセット、即ち、値0にセットするとともに(ステップS100)、電力計82からの電力値Pを入力する(ステップS102)。そして、入力した電力値Pから電力変化量ΔPiを計算するとともに、計算した電力変化量ΔPiをRAM74の所定領域に設定された電力変化量用バッファに格納する(ステップS104)。電力変化量ΔPiは、実施例では、今回読み込んだ電力値Pnから前回読み込んだ電力値Pn−1を減じて絶対値を算出するものとした。
【0023】
次に、算出した電力変化量ΔPiと電力変化量最大値ΔPmaxとを比較する(ステップS106)。
この分岐に入ってくるのが初回の場合には、電力変化量最大値ΔPmaxは値0に設定されているので、算出した電力変化量ΔPiを電力変化量最大値ΔPmaxとしてRAM74の所定領域に設定された電力変化量最大値一時保管用バッファに格納するとともに(ステップS108)、電力測定時間Tmが経過したか否かの判定を行う(ステップS110)。
一方、この分岐に入ってくるのが2回目以降の場合には、算出した電力変化量ΔPiと電力変化量最大値一時保管用バッファに格納された電力変化量最大値ΔPmaxとを比較して(ステップS106)、算出した電力変化量ΔPiが電力変化量最大値ΔPmaxよりも大きければ電力変化量ΔPiを電力変化量最大値ΔPmaxに置き換えるとともに(ステップS108)、電力測定時間Tmが経過したか否かの判定を行う(ステップS110)。
また、算出した電力変化量ΔPiが電力変化量最大値ΔPmax以下であれば何もせずに電力測定時間Tmが経過した否かの判定を行う(ステップS110)。
電力測定時間Tmは、実施例では、1回のフィレットロール加工に要する時間よりも若干短い時間に設定するものとした。これにより、加工終了時における電力の立下りの際の不安定な電力を判定から除外することができる。
【0024】
電力測定時間Tmが経過していないときには、電力測定時間Tmが経過するまでステップS102からステップS110までの処理を繰り返し実行する。電力測定時間Tmが経過すると、電力変化量最大値一時保管用バッファに格納されている電力変化量最大値ΔPmaxを今回のフィレットロール加工における電力変化量最大値ΔPmaxjとしてRAM74の所定領域に設定された電力変化量最大値用バッファに格納する(ステップS112)。
【0025】
続いて、今回のフィレットロール加工における電力変化量積算値ΔPjを計算するとともに、計算した電力変化量積算値ΔPjをRAM74の所定領域に設定された電力変化量積算値用バッファに格納する(ステップS114)。
そして、今回、電力変化量最大値用バッファおよび電力変化量積算値用バッファに格納された電力変化量最大値ΔPmaxjおよび電力変化量積算値ΔPjを含む、電力変化量最大値用バッファおよび電力変化量積算値用バッファに格納された直近の20ケの電力変化量最大値ΔPmaxj−19〜ΔPmaxjおよび電力変化量積算値ΔPj−19〜ΔPjを用いて、今回のフィレットロール加工における電力変化量最大値の移動平均値ΔPmaxjmavおよび電力変化量積算値の移動平均値ΔPjmavと、今回のフィレットロール加工における電力変化量最大値の標準偏差σmjおよび電力変化量積算値の標準偏差σsjとを算出する(ステップS116)。
ここで、各移動平均値ΔPmaxjmavやΔPjmavおよび各標準偏差σmjやσsjは、周知の移動平均値算出方法および標準偏差算出方法により求めることができる。実施例では、移動平均値ΔPmaxjmavは、前回に求めた移動平均値ΔPmax(j−1)mavに、今回求めた電力変化量最大値ΔPmaxjを値20で除したものを加え、一番古い、即ち21ケ前に電力変化量最大値用バッファに格納した電力変化量最大値ΔPmax(j−20)を値20で除したものを差し引くことにより求めるものとした。
また、標準偏差σmjは、今回求めた電力変化量最大値ΔPmaxjを含む過去20ケの電力変化量最大値ΔPmax(j−19)〜ΔPmaxjのそれぞれと今回求めた移動平均値ΔPmaxjmavとの差の総和を求め、二乗平均平方根をとるものとした。
【0026】
こうして求めた移動平均値ΔPmaxjmav,ΔPjmavおよび標準偏差σmj,σsjから電力変化量最大値ΔPmaxjおよび電力変化量積算値ΔPjの許容値範囲を設定する(ステップS118)。電力変化量最大値ΔPmaxjおよび電力変化量積算値ΔPjの許容値範囲は、実施例では、各移動平均値ΔPmaxjmav,ΔPjmavに、各標準偏差σmj,σsjに定数3を乗じたものを加減算することにより設定するものとし、それぞれΔPmaxjmav±3σmjおよびΔPjmav±3σsjとした。
【0027】
そして、今回求めた電力変化量最大値ΔPmaxjと電力変化量積算値ΔPjが許容値範囲ΔPmaxjmav±3σmjおよびΔPjmav±3σsjの範囲内であるか否かを判定し(ステップS120)、何れか一方でも許容値範囲内であればフィレットロールの工具は正常であると判断し(ステップS122)、何れもが許容値範囲外であったときにフィレットロールの工具に異常が発生したと判断して(ステップS124)、本処理を終了する。
【0028】
以上説明した実施例のフィレットローラ欠損判定装置10を備えたフィレットロール加工システム1によれば、逐次算出した所定時間あたりの電力変化量ΔPiを用いて今回のフィレットロール加工における電力変化量積算値ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxjを算出し、電力変化量積算値ΔPjと電力変化量最大値ΔPmaxjとを含む電力変化量積算値用バッファおよび電力変化量最大値用バッファに格納された直近20ケの電力変化量積算値ΔPj−19〜ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxj−19〜ΔPmaxjを用いて許容値範囲ΔPjmav±3σsjおよびΔPmaxjmav±3σmjを設定して、電力変化量積算値ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxjが許容値範囲ΔPjmav±3σsjおよびΔPmaxjmav±3σmjの範囲内であるか否かによってフィレットローラRが欠損しているか否かを判定するから、フィレットローラRの欠損判定を簡易な制御とすることができる。即ち、従来のように、所定時間毎に許容値範囲を設定する必要がなく、1回のフィレットロール加工を通して電力変化量積算値ΔPjと電力変化量最大値ΔPmaxjとが許容範囲内であるか否かを判定するだけで良い。しかも、電力変化量積算値ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxjは、フィレットローラRの欠損に対する指標のうち感度が高いものの一つであることから、精度良くフィレットローラRの欠損を判定することができる。
【0029】
また、実施例のフィレットローラ欠損判定装置10を備えたフィレットロール加工システム1によれば、今回のフィレットロール加工における電力変化量積算値ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxjを含む直近20ケの電力変化量積算値ΔPj−19〜ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxj−19〜ΔPmaxjを用いて許容値範囲ΔPjmav±3σsjおよびΔPmaxjmav±3σmjを設定するから、フィレットローラRの欠損判定をより精度良く判定することができる。
【0030】
実施例のフィレットローラ欠損判定装置10を備えたフィレットロール加工システム1では、装置全体の運転制御を行う電子制御ユニット50とは別にフィレットローラ欠損判定装置10を設けるものとしたが、フィレットローラ欠損判定装置10は設けず電子制御ユニット50がフィレットローラRの欠損を判定するものとしても構わない。
【0031】
実施例のフィレットローラ欠損判定装置10を備えたフィレットロール加工システム1では、電力変化量積算値ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxjを算出し、算出した電力変化量積算値ΔPjおよび電力変化量最大値ΔPmaxjが、許容値範囲ΔPjmav±3σsjおよびΔPmaxjmav±3σmjの範囲内であるか否かによってフィレットローラRが欠損しているか否かを判定するものとしたが、電力変化量積算値ΔPjのみを算出し、算出した電力変化量積算値ΔPjが許容値範囲ΔPjmav±3σsjの範囲内であるか否かのみによってフィレットローラRが欠損しているか否かを判定するものとしても差し支えない。
【0032】
実施例のフィレットローラ欠損判定装置10を備えたフィレットロール加工システム1では、各移動平均値ΔPmaxjmav,ΔPjmavに、各標準偏差σmj,σsjに定数3を乗じたものを加減算することにより許容値範囲ΔPjmav±3σsjおよびΔPmaxjmav±3σmjを設定するものとしたが、各標準偏差σmj,σsjに乗じる定数は3に限られることはなく、2や4など如何なる値であっても構わない。また、例えば、許容値範囲をΔPjmav±3σsjおよびΔPmaxjmav±4σmjなどとするなど各標準偏差σmj,σsjに乗じる値を互いに異なるものとしても構わない。
【0033】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 フィレットロール加工システム
2 ベース
2a,2b レール
4 駆動ヘッド
4a 駆動側チャック
6 従動ヘッド
6a センタ
10 フィレットローラ欠損判定装置
14 駆動ヘッド用エアシリンダ
16 従動ヘッド用エアシリンダ
18 テーブル用エアシリンダ
30 フィレットロール加工装置
31 支軸
32 テーブル
34 支持プレート
36 上部アーム
38 下部アーム
40 ロールカセット
40a バックアップローラ
42 ワークレスト
44 加圧シリンダ
44a ロッド
50 電子制御ユニット
72 CPU
74 RAM
76 ROM
82 電力計
84 切替弁
CS クランクシャフト
M 駆動ヘッドモータ
R フィレットローラ
J ジャーナル部
f フィレット部
P ピン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機により回転するワークに押し当てるフィレットローラを備えるフィレットロール加工装置における前記フィレットローラの欠損を判定するフィレットローラの欠損判定装置であって、
前記電動機の負荷電力を所定時間毎に検出する電力検出手段と、
前記所定時間あたりの前記負荷電力の変化量を電力変化量として逐次算出する電力変化量算出手段と、
算出された前記電力変化量を電力変化量積算値として積算する電力変化量積算手段と、
前記電力変化量積算値を記憶する記憶手段と、
記憶された複数の前記電力変化量積算値に基づいて該電力変化量積算値の許容範囲としての積算値許容範囲を設定する許容範囲設定手段と、
今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲内であれば前記フィレットローラは欠損していないと判定し、今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲外であれば前記フィレットローラは欠損していると判定する欠損判定手段と、
を備えるフィレットローラの欠損判定装置。
【請求項2】
前記許容範囲設定手段は、前記記憶手段により記憶された最新所定個の前記電力変化量積算値の移動平均および標準偏差を演算し、該移動平均と該標準偏差とに基づいて前記積算値許容範囲を設定する手段である請求項1記載のフィレットローラの欠損判定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のフィレットローラの欠損判定装置であって、
前記電力変化量算出手段により算出した前記電力変化量の中から最大値としての電力変化量最大値を抽出する抽出手段を備え、
前記記憶手段は、前記抽出手段によって抽出された前記電力変化量最大値を記憶する手段であり、
前記許容範囲設定手段は、記憶された複数の前記電力変化量最大値に基づいて該電力変化量最大値の許容範囲としての最大値許容範囲を設定する手段であり、
前記欠損判定手段は、今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲外であるとともに今回抽出した前記電力変化量最大値が前記最大値許容範囲外であるときに前記フィレットローラが欠損していると判定する手段である
フィレットローラの欠損判定装置。
【請求項4】
前記許容範囲設定手段は、前記記憶手段により記憶された最新所定個の前記電力変化量最大値の移動平均および標準偏差を演算し、該移動平均と該標準偏差とに基づいて前記最大値許容範囲を設定する手段である請求項3記載のフィレットローラの欠損判定装置。
【請求項5】
電動機により回転するワークに押し当てるフィレットローラを備えるフィレットロール加工装置における前記フィレットローラの欠損を判定するフィレットローラの欠損判定方法であって、
(a)前記電動機の負荷電力を所定時間毎に検出し、
(b)前記所定時間あたりの前記負荷電力の変化量を電力変化量として逐次算出し、
(c)算出された前記電力変化量を電力変化量積算値として積算し、
(d)前記電力変化量積算値を記憶し、
(e)記憶された複数の前記電力変化量積算値に基づいて該電力変化量積算値の許容範囲としての積算値許容範囲を設定し、
(f)今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲内であれば前記フィレットローラは欠損していないと判定し、今回積算した前記電力変化量積算値が前記積算値許容範囲外であれば前記フィレットローラは欠損していると判定する
フィレットローラの欠損判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−125864(P2012−125864A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278630(P2010−278630)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(390009896)愛知機械工業株式会社 (190)
【Fターム(参考)】