説明

フェニレンビニレン化合物、およびそれを含有した電界効果トランジスタ

【課題】有機半導体材料に有用であるフェニレンビニレン化合物、およびそれを含有しているn型トランジスタを提供する。
【解決手段】下記化学式(I)


(式中、X〜XまたはX〜Xのうち2つがシアノ基でその残余とX〜Xとが水素原子若しくは炭化水素基であり、R〜R10のうち、少なくとも1つがパーフルオロアルキル基で、残余が水素原子または炭化水素基である)で表されるフェニレンビニレン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料に有用であるフェニレンビニレン化合物、およびその化合物を電子移動層とするn型有機電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタは、一種類のキャリアを用いるユニポーラトランジスタの一つであり、重要なスイッチング素子や増幅素子として広く利用されているものである。その構造は、ソース電極およびドレイン電極の間の電流路を形成している半導体層と、電圧を印加して電流の流れを制御するゲート電圧からその半導体層を隔離している絶縁体層とで構成されている。
【0003】
電界効果トランジスタの特性は、半導体の移動度およびオン/オフ値が重要であり、用いられる半導体、なかでも半導体材料の特性により決まる。
【0004】
半導体材料には、従来からアモルファスシリコンやポリシリコンなどの無機半導体材料が汎用的に用いられてきた。このシリコンに代表される無機半導体は、製造時に高温で処理されるため、基板にプラスチック基板やプラスチックフィルムを用いることが困難であるという欠点がある。また、真空における素子作製プロセスを経るため、高価な製造設備を必要とし、高コストになるという欠点もある。
【0005】
近年では、有機半導体の基本的な光電子工学の観点から、有機電界効果トランジスタ、有機発光ダイオード、光電池などで用いられており、その視点から有機半導体および有機半導体材料の研究が進められている。
【0006】
無機半導体材料に代え、有機半導体材料を使用した有機電界効果トランジスタは、軽量化、大面積化が可能になるとともに、製造プロセスが簡易なものとなる。このため、コストの低減化や廃棄処理の簡易化が可能となる利点を有する。また、溶媒に可溶な有機化合物を用いることで、溶液の塗布やインクジェット等の印刷法を用いて有機半導体を製膜し、有機電界効果トランジスタを製造することが可能となる利点も有している。
【0007】
有機半導体材料は、正の電荷を有する正孔が電流を伝える役割を担う半導体であるp型有機半導体として多数開発されてきている。負の電荷を有する自由電子が電流を伝える役割を担う半導体であるn型有機半導体としては、バリエーションが少ない現状である。
【0008】
例えば、特許文献1に、p型有機半導体層にポリパラフェニレンビニレンを備える有機薄膜トランジスタが開示されている。p型有機半導体層は、ソース電極とドレイン電極との間で正孔を移動させる正孔輸送層である。また、非特許文献1および非特許文献2に、n型特性を示す有機半導体が開示されている。これらの非特許文献に開示されている有機半導体は、ある程度はn型特性を示すものであるといえるが、塗布法や印刷法により製膜することができるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−253675号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】エイ.ファケッティ(A.Facchetti)ら、アドバンスト マテリアルズ(AdvancedMaterials)、2003年、第15巻、第1号、p.33-38.
【非特許文献2】シー.アール.ニューマン(C.R.Newman)ら、ケミストリー オブ マテリアルズ(Chemistry of Materials)、2004年、第16巻、p.4436-4451.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、有機半導体材料に有用であるフェニレンビニレン化合物、およびそれを含有している有機半導体材料から塗布法や印刷法により簡便に有機半導体層が製膜されており、高い電子移動度とオン/オフ値とを示すn型有機電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたフェニレンビニレン化合物は、下記化学式(I)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、X〜Xのうち2つがシアノ基でその残余とX〜Xとが水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、またはX〜Xのうち2つがシアノ基でその残余とX〜Xとが水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、R〜RおよびR〜R10のうち、それぞれ、少なくとも1つがC2n+1(nは1〜20の正の数)で示されるパーフルオロアルキル基で、残余が水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である)で表されることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載のフェニレンビニレン化合物は、請求項1に記載されたものであって、前記化学式(I)が、下記化学式(II)
【0016】
【化2】

(式中、X〜X、X〜Xおよびnは前記と同じ)で表されることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載のフェニレンビニレン化合物は、請求項1に記載されたものであって、前記化学式(II)が、下記化学式(III)
【0018】
【化3】

下記化学式(IV)
【0019】
【化4】

または下記化学式(V)
【0020】
【化5】

で表されることを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載された有機半導体材料は、請求項1〜3のいずれかに記載のフェニレンビニレン化合物を含有していることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載されたn型有機電界効果トランジスタは、基板上で、ソース電極およびドレイン電極の間の電流路を形成している有機半導体層と、前記電流路の電流を制御しているゲート電極とが、絶縁体層で隔離されており、前記有機半導体層に請求項4に記載の有機半導体材料が含有されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のフェニレンビニレン化合物は、そのフェニレンビニレン骨格に電子求引性の置換基を有しており、有機半導体材料として有用である。この有機半導体材料は、π共役系にみられるような縮環化合物と異なり溶解性が高いフェニレンビニレン化合物によって、蒸着法だけでなく塗布法やインクジェット等の印刷法により簡便に製膜することができる。
【0024】
この有機半導体材料で製造したn型有機電界効果トランジスタは、高い電子移動度を示し、キャリア障壁を解消することができ、さらに高いオン/オフ値を有することができる。
【0025】
またこのn型有機電界効果トランジスタは、フェニレンビニレン化合物の高い発光量子効率による発光性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を適用するフェニレンビニレン化合物を有機半導体層に含有しているn型電界効果トランジスタの断面図である。
【図2】本発明を適用するフェニレンビニレン化合物を有機半導体層に含有している別のn型電界効果トランジスタの断面図である。
【図3】本発明を適用するフェニレンビニレン化合物を有機半導体層に含有している別のn型電界効果トランジスタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0028】
本発明の一例のフェニレンビニレン化合物は、上記化学式(I)のXおよびXがシアノ基であり、XおよびX〜Xが水素原子であり、RおよびRが−CFであり、R、R、R〜R、RおよびR10が水素原子である、下記化学式(III)に示されるものである。
【0029】
【化6】

【0030】
ビニレン部位の置換基であるX〜Xのうち、2つがシアノ基で残りの2つが水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であるとき、芳香環の置換基であるX〜Xは、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。
【0031】
逆に、芳香環の置換基であるX〜Xのうち、2つがシアノ基で残りの2つが水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であるとき、ビニレン部位の置換基であるX〜Xは、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。
【0032】
これらの置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基は、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基等が挙げられる。
【0033】
アルキル基は、直鎖や分岐鎖のアルキル基であってもよいし、環状のシクロアルキル基であってもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等の直鎖や分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプタニル基、シクロオクタニル基、シクロノナニル基、シクロデカニル基、シクロウンデカニル基、シクロドデカニル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0034】
アルキル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等のアリール基;ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラジニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基等の複素芳香環基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基等のアリールチオ基;tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジフェニルシリルオキシ基等の三置換シリルオキシ基;メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;フェニルスルフィニル基等のアリールスルフィニル基;メチルスルフォニルオキシ基、エチルスルフォニルオキシ基、フェニルスルフォニルオキシ基、メトキシスルフォニル基、エトキシスルフォニル基、フェニルオキシスルフォニル基等のスルフォン酸エステル基;シアノ基;ニトロ基;などが挙げられる。
【0035】
アルケニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。これらアルケニル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0036】
アルキニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、フェニルエチニル基等が挙げられる。これらアルキニル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0037】
アリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。これらアリール基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示されたアリール基以外の置換基や、上述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等を用いることができる。
【0038】
フェニレンビニレン化合物の製造方法を以下に示す。
【0039】
上記化学式(III)および(IV)で示されるようにX〜Xにシアノ基を有する場合、アルデヒド化合物またはケトン化合物とフェニルアセトニトリル化合物とのクネーフェナーゲル(Knoevenagel)縮合反応が好適に用いられる。
【0040】
およびXがシアノ基である場合の化学反応を下記反応式(VI)に、XおよびXがシアノ基である場合の化学反応を下記反応式(VII)に示す。
【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
一方、上記化学式(V)で示されるようにX〜Xにシアノ基を有する場合、アルデヒド化合物またはケトン化合物とフェニルメチルりん酸エステル化合物とのウィッティヒ・ホーナー(Wittig−Horner)反応が好適に用いられる。
【0044】
例えば、XおよびXがシアノ基である場合の化学反応を下記反応式(VIII)に示す。
【0045】
【化9】

【0046】
これらの反応で得られたフェニレンビニレン化合物は、有機化合物の単離・精製において通常行われる方法により単離・精製することができる。例えば、反応混合液に目的物が固体として析出している場合は、そのままろ過することができる。また、目的物が析出していない場合は、反応混合液をそのまま濃縮して固体を析出させ、ろ過により目的物を得ることができる。このようにして得られた目的物を、必要に応じて昇華、再結晶、蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどで精製することで、純度の高いフェニレンビニレン化合物を得ることができる。
【0047】
これらの反応式(VI)、(VII)および(VIII)において、R〜R10は先述した置換基を用いることができるが、反応操作の簡便性の観点から、R〜RとR〜R10はそれぞれこの順で同じ置換基であることが好ましい。
【0048】
また、これらの反応は、塩基存在下で行われると好ましい。
【0049】
塩基としては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどの金属アルコキシド;水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウムなどの金属水素化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩および炭酸水素塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、キノリンなどの三級アミンなどが挙げられる。上記の中でも、金属アルコキシド、金属水素化物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物を使用するのが好ましい。
【0050】
塩基の使用量は、(VI)の場合、フェニルアセトニトリル化合物1モルに対して、1.5〜10モルであると好ましく、2〜5モルの範囲であるとより好ましい。また、(VII)の場合、アルデヒド化合物またはケトン化合物1モルに対して、1.5〜10モルであると好ましく、2〜5モルの範囲であるとより好ましい。(VIII)の場合、フェニルメチルりん酸エステル化合物1モルに対して、1.5〜10モルであると好ましく、2〜5モルの範囲であるとより好ましい
さらに、これらの反応は、溶媒存在下で行われると好ましい。
【0051】
溶媒は、原料となる各化合物が反応速度に支障をきたさない程度に溶解する溶媒であると好ましい。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル;メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブタノールなどのアルコール類;ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒;およびこれらの混合溶媒などが挙げられる。これらの中でも、トルエンに代表される芳香族炭化水素またはテトラヒドロフランに代表されるエーテルが好適に用いられる。また、塩基として金属アルコキシドを用いる場合、アルコールが好適に用いられる。
【0052】
溶媒の使用量は、アルデヒド化合物またはケトン化合物1質量部に対して、1〜500質量部であることが好ましく、3〜100質量部であることがより好ましい。
【0053】
反応温度は、−80℃〜200℃の範囲であると好ましく、反応速度および目的物の安定性の観点から−20℃〜100℃の範囲であるとより好ましい。
【0054】
反応時間は、各反応において、原料となる各化合物の使用量比および反応温度によっても異なるが、0.5〜100時間の範囲であると好ましい。
【0055】
これらのフェニレンビニレン化合物は、高い電子移動およびオン/オフ値を有するn型特性の有機半導体材料として用いることができる。
【0056】
さらに、本発明のフェニレンビニレン化合物を含有している有機半導体材料を有機半導体層に用いることで、n型有機電界効果トランジスタを製造することができる。
【0057】
n型有機電界効果トランジスタは、基板上で、電圧が印加されるゲート電極層と、絶縁体層と、有機半導体層と、電流路となるソース/ドレイン電極層とが、積層されているものである。それらの各層の積層配置の違いにより、ボトムゲート・トップコンタクト型、ボトムゲート・ボトムコンタクト型、トップゲート・ボトムコンタクト型、およびトップゲート・トップコンタクト型がある。
【0058】
n型有機電界効果トランジスタの好ましい一形態について、図1を参照しながら、詳細に説明する。
【0059】
n型有機電界効果トランジスタ1は、図1に示す通り、基板5である絶縁性支持基板上に、ゲート電極6からなるゲート電極層、絶縁体層7、フェニレンビニレン化合物を含有している有機半導体層8、およびソース電極9とドレイン電極10とからなるソース/ドレイン電極層が、順次積層されているボトムゲート・トップコンタクト型である。ゲート電極6は、電流路に流れる電流を制御しており、絶縁体層7によって有機半導体層8およびソース/ドレイン電極層から隔離されている。ソース/ドレイン電極層は、有機半導体層8に蒸着されており、ソース電極9およびドレイン電極10の間の電流路となるチャネル領域を形成している。
【0060】
n型有機電界効果トランジスタ1は、ゲート電極6に電圧を印加すると電界が生じ、ソース/ドレイン電極層において、ソース電極9とドレイン電極10との間で電流路となるチャネル領域を形成する。そのソース/ドレイン電極層と有機半導体層8とにおいて、ソース電極9から有機半導体層8へ電子の供給が行われ、また有機半導体層8からドレイン電極10へ電子の排出が行われ、電流が流れる。有機半導体層8と絶縁体層7のキャリア密度を変化させ、ソース電極9およびドレイン電極10の間に流れる電流量を変化させることで、トランジスタ動作が行われる。
【0061】
絶縁性支持基板5となる原材料として、具体的に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ガラス、石英、シリコン、セラミック、プラスチック等が挙げられる。
【0062】
絶縁性支持基板5の厚みは、0.05〜2mm程度であると好ましく、0.1〜1mm程度であるとより好ましい。
【0063】
絶縁体層7は、室温における電気伝導度が、1.0MV/cmの電界強度下においてリーク電流が10−2A/cm以下のものであると好ましい。また、その比誘電率は、通常で4.0程度であり、高い値を示すものであると好ましい。
【0064】
絶縁体層7となる原材料として、具体的に、酸化シリコン、窒化シリコン、アモルファスシリコン、酸化アルミニウム、酸化タンタル等が挙げられる。また、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シアノ基を有する炭化水素樹脂およびフェノール樹脂、ポリイミド樹脂およびポリパラキシリレン樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上の樹脂を主成分とする樹脂または樹脂組成物から形成してもよい。
【0065】
絶縁体層7の膜厚は、好ましくは50nm〜2μm程度であり、更に好ましくは100nm〜1μm程度である。
【0066】
ゲート電極6、ソース電極9およびドレイン電極10となる原材料は、特に制限されず導電性を示すものであればよい。具体的に、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、シリコン、炭素、グラファイト、クラッシーカーボン、銀ペーストおよびカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アモルファスシリコン等が挙げられる。また、ドーピング等で導電率を向上させた、公知の導電性ポリマー、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、で導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等も好適に用いられる。
【0067】
ゲート電極6、ソース電極9、ドレイン電極10の膜厚は、0.01〜2μmであると好ましく、0.2〜1μmであるとより好ましい。
【0068】
また、ソース電極9およびドレイン電極10の間の距離であるチャネル長Lは、通常では100μm以下であり、50μm以下であると好ましい。一方、チャネル幅Wは、通常では2000μm以下であり、500μm以下であると好ましい。L/Wは、通常では0.1以下であり、0.05以下であると好ましい。
【0069】
有機半導体層8は、本発明のフェニレンビニレン化合物またはそれを含有している有機半導体材料を用いている。有機半導体層8は、一方の電極からもう一方の電極へ電子を移動させるための電子移動層である。
【0070】
有機半導体層8の膜厚は、1nm〜10μm程度であると好ましく、10〜500nm程度であるとより好ましい。
【0071】
n型有機電界効果トランジスタ1を形成する方法は、特に制限なく、従来公知の方法を用いることができる。
【0072】
絶縁体層7は、例えば、スピンコートやブレードコート等の塗布法、蒸着法、スパッタ法、スクリーン印刷やインクジェット、静電荷像現像方法等の印刷法等により形成することができる。また、絶縁体の前駆物質としてモノマーを塗布した後、光を照射して硬化させることにより絶縁体を形成する光硬化樹脂を用いてもよい。
【0073】
ゲート電極6、ソース電極9およびドレイン電極10は、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等により形成することができる。更に、それらのパターニング法としては、フォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法およびこれらの手法を複数組み合わせた手法等が挙げられる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去する方法等によっても形成することができる。
【0074】
有機半導体層8は、フェニレンビニレン化合物を溶媒に溶解してキャスト、ディップ、スピンコート法等により塗布する方法や、真空蒸着法等により製膜することができる。
【0075】
次に、別のn型有機電界効果トランジスタ1aの一形態を図2に示す。
【0076】
n型有機電界効果トランジスタ1aは、図2に示す通り、絶縁体性基板5上に、ゲート電極6、絶縁体層7、ソース電極9とドレイン電極10とであるソース/ドレイン電極層、および有機半導体層8が、順次積層されて形成されているボトムゲート・ボトムコンタクト型である。ソース/ドレイン電極層および有機半導体層8の配置の違いによるチャネル領域の相違点以外は、図1に示すものと同様である。
【0077】
さらに別のn型有機電界効果トランジスタ1bの一形態を図3に示す。
【0078】
n型有機電界効果トランジスタ1bは、図3に示す通り、絶縁体性基板5上に、ソース/ドレイン電極層、有機半導体層8、絶縁体層7、およびゲート電極6が順次形成されているトップゲート・ボトムコンタクト型である。
【0079】
なお、n型有機電界効果トランジスタの構造は、特に限定されず、図1および図2に示されるように有機半導体層8が露出している場合、その有機半導体層8の上に保護膜を形成しているものであってもよい。この保護膜は、有機半導体層8への外気の影響を最小限にすることができる。保護膜の原材料として、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール等のポリマーや酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化物や窒化物等が挙げられる。保護膜は、塗布法や真空蒸着法等で形成することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1
実施例1の化学反応を下記反応式(IX)に示す。
【0082】
【化10】

【0083】
温度計および滴下漏斗を備えた内容積100mlの三口フラスコに、p−フェニレンジアセトニトリル(313mg、2mmol)、4−トリフルオロメチルベンズアルデヒド(870mg,5mmol)およびエタノール(25ml)を加え、アルゴン置換した。カリウムt−ブトキシド(110mg,1.0mmol)のエタノール(EtOH)溶液(5ml)を、内温が30℃以下に保たれるように滴下し、滴下終了後、還流条件下2時間加熱攪拌した。反応液を冷却後、エタノールを減圧下留去して得られた濃縮物に、塩化メチレン30mlを加えた。分液漏斗を用いて水20mlで洗浄し、有機層を分離した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、得られたろ液から低沸点成分を減圧下に留去して得られた濃縮物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:塩化メチレン)により精製し、黄色固体である化合物を得た(収量:740mg、収率:79%)。
【0084】
化合物の核磁気共鳴(NMR)スペクトルデータを以下に示す。
H−NMR(270MHz,CDCl) δ: 8.03(d,4H)、7.81(s,4H)、7.76(d,4H)、7.65(s,2H).
【0085】
実施例2
実施例2の化学反応を下記反応式(X)に示す。
【0086】
【化11】

【0087】
温度計および滴下漏斗を備えた内容積200mlの三口フラスコに、テレフタルアルデヒド(518mg、3.88mmol)、4−トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル(1440mg,7.75mmol)、t−ブタノール(55ml)およびテトラヒドロフラン(20ml)を加え、アルゴン置換した。内温が50℃になるまで加熱した後、カリウムt−ブトキシド(100mg,0.89mmol)のテトラヒドロフラン(THF)溶液(25ml)を、内温が50〜55℃の範囲に保たれるように滴下し、滴下終了後、50℃にて30分加熱攪拌した。反応液を冷却後、析出した固体をろ取し、この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:塩化メチレン)により精製し、黄色固体である化合物を得た(収量:1030mg、収率:57%)。
【0088】
化合物のNMRスペクトルデータを以下に示す。
H−NMR(270MHz,CDCl) δ:8.05(s,4H)、7.79(dd,8H)、7.64(s,2H)
【0089】
実施例3
実施例3の化学反応を下記反応式(XI)に示す。
【0090】
【化12】

【0091】
温度計および滴下漏斗を備えた内容積100mlの三口フラスコに、(2,5−ジシアノ−1,4−フェニレンビスメチレン)ビス(ホスホン酸ジエチル)(300mg、0.7mmol)(シンセシス(Synthesis)1988年、386頁およびオルガニック・リアクションズ(Organic・Reactions)1977年、25巻、73頁を参考に合成)、4−トリフルオロメチルフェニルアセトニトリル(292mg,1.7mmol)およびテトラヒドロフラン(10ml)を加え、アルゴン置換した。反応液を0℃n冷却した後、カリウムt−ブトキシド(165mg,1.5mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10ml)を、内温が0〜5℃の範囲に保たれるように滴下し、滴下終了後、0℃にて1時間攪拌し、室温にて12時間攪拌した。反応混合液に水10mlを添加し、減圧下テトラヒドロフランを留去して得られた濃縮物に、塩化メチレン30mlを加えた。分液漏斗を用いて水20mlで洗浄し、有機層を分離した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、得られたろ液から低沸点成分を減圧下に留去して得られた濃縮物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:塩化メチレン)により精製し、黄色固体である化合物を得た(収量:156mg、収率:48%)。
【0092】
化合物のNMRスペクトルデータを以下に示す。
H−NMR(270MHz,CDCl) δ:8.11(s,2H)、7.70(s,8H)、7.42(d,J=14.7Hz,4H)
【0093】
実施例4 トップコンタクト型−n型有機電界効果トランジスタ
厚さ500μmのシリコンウェハを3.5×2.5cmの大きさに切り出し、このフィルムを絶縁性支持基板とした。この基板に、オゾン処理、またはオゾン処理後にヘキサメチルジシラザン(HMDS)かオクチルトリクロロシラン(OTs)かの処理をした。この処理基板上に、n型シリコンウェハを形成し、これをゲート電極とした。このゲート電極上に、熱酸化法を用いて200nmの酸化シリコン(SiO)絶縁体層を形成した。次いで、SiO上に真空蒸着法を用いて、実施例1〜3の化合物を30nm蒸着し、有機半導体層を形成した。さらに、その有機半導体層上に、真空蒸着法を用いて、金を50nmの厚みで蒸着し、図1で示されるトップコンタクト型のn型有機電界効果トランジスタを得た。なお、チャネル長(L)が50、75および100μm、チャネル幅(W)が1000μmとなるようにして蒸着を行った。
【0094】
得られたn型有機電界効果トランジスタについて、エレクトロメーターを用いて、ソース電極およびドレイン電極間に10〜60Vの電圧を印加し、ゲート電圧を−20〜100Vの範囲で変化させて、電圧−電流曲線を25℃の温度において求め、そのトランジスタ特性を評価した。トランジスタ特性は、正バイアスについてのみ観察された。このことは、得られた電界効果トランジスタがn型有機電界効果トランジスタであることを意味する。
【0095】
電界効果移動度(μ)は、ドレイン電流Idを表わす下記式(A)を用いて算出した。
Id=(W/2L)μCi(Vg−Vt) (A)
上記式(A)において、Lはゲート長であり、Wはゲート幅である。また、Ciは絶縁層の単位面積当たりの容量であり、Vgはゲート電圧であり、Vtは閾値電圧である。
【0096】
また、オン/オフ比は、最大および最小ドレイン電流値(Id)の比より算出した。
【0097】
得られたトランジスタ特性評価結果を表1に示す。
【0098】
実施例5 ボトムコンタクト型−n型有機電界効果トランジスタ
実施例4と同様に形成した酸化シリコン絶縁体層(膜厚300nm)上にフォトリソグラフィー法を用いて櫛形パターンの電極を形成した。電極の層構造は、酸化シリコン上にクロム(Cr)を膜厚10nmまで蒸着し、その上に金を膜厚20nmまで蒸着した。また、櫛形パターンは、電極のチャネル長が25μm、チャネル幅が294μm(6μm×49)となるようにした。
【0099】
この電極を形成した酸化シリコンに圧力10−5Paの超真空下で基板温度を室温または50℃、蒸着速度0.1〜0.3Åで実施例1〜3の化合物を50nm蒸着し、有機半導体層を形成した。また、塗布法の場合はクロロホルム溶液を基板にドロップキャストして製膜した。
【0100】
得られたn型有機電界効果トランジスタについて、実施例4と同様にトランジスタ特性を評価した。トランジスタ特性評価結果を表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1において、素子作製法の表記である、トップとはトップコンタクト型、ボトムとはボトムコンタクト型を示し、表面処理の表記である、なしとはオゾン処理のみであることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のフェニレンビニレン化合物は、有機電界効果トランジスタ、有機発光ダイオード、光電池の有機半導体材料として用いられる。
【符号の説明】
【0104】
1・1a・1bはn型有機電界効果トランジスタ、5は基板、6はゲート電極、7は絶縁体層、8は有機半導体層、9はソース電極、10はドレイン電極、Lはチャネル長である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)
【化1】

(式中、X〜Xのうち2つがシアノ基でその残余とX〜Xとが水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、またはX〜Xのうち2つがシアノ基でその残余とX〜Xとが水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、
〜RおよびR〜R10のうち、それぞれ、少なくとも1つがC2n+1(nは1〜20の正の数)で示されるパーフルオロアルキル基で、残余が水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である)
で表されることを特徴とするフェニレンビニレン化合物。
【請求項2】
前記化学式(I)が、下記化学式(II)
【化2】

(式中、X〜X、X〜Xおよびnは前記と同じ)
で表されることを特徴とする請求項1に記載のフェニレンビニレン化合物。
【請求項3】
前記化学式(II)が、下記化学式(III)
【化3】

下記化学式(IV)
【化4】

または下記化学式(V)
【化5】

で表されることを特徴とする請求項2に記載のフェニレンビニレン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフェニレンビニレン化合物を含有していることを特徴とする有機半導体材料。
【請求項5】
基板上で、ソース電極およびドレイン電極の間の電流路を形成している有機半導体層と、前記電流路の電流を制御しているゲート電極とが、絶縁体層で隔離されており、前記有機半導体層に請求項4に記載の有機半導体材料が含有されていることを特徴とするn型有機電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−57638(P2011−57638A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210751(P2009−210751)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月13日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第89春季年会 2009年 講演予稿集II」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】