説明

フッ化物結晶の製造方法、光学部材および露光装置

【課題】 構造欠陥密度が低減され、真空紫外光照射時の透過率低下が少ないフッ化物単結晶の製造方法であって、結晶成長段階での精密制御を必要としない製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】 ルツボに充填したフッ化物を真空炉内で加熱してフッ化物融液とする融解工程と、フッ化物融液から一酸化炭素(CO)を除去する一酸化炭素除去工程と、一酸化炭素除去工程を経たフッ化物融液を冷却して結晶化する結晶化工程と、を有する製造方法によりフッ化物単結晶を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化物結晶の製造方法に関するものであり、特に真空紫外光を利用する露光装置用光学部材に好適な、高品質なフッ化物単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年におけるVLSIは高集積化、高機能化が進行し、ウェハ上の微細加工技術が要求されている。その加工方法として光リソグラフィーによる方法が一般的に行われている。現在では露光波長も次第に短波長となり、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)を用いる投影露光装置(ステッパーやスキャナー)に続いて、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)を光源とする投影露光装置も市場に登場してきている。250nmより短波長の光を用いるリソグラフィー装置に使える光学材料は非常に少なく、主にフッ化カルシウム(CaF2)単結晶と合成石英ガラスの2種類が用いられる。
【0003】
そして、さらに微細加工をするために、光源の波長を短くする試みが行われており、F2レーザ光(波長157nm)を利用した光リソグラフィー技術への要望が近年高まりつ
つある。しかしF2レーザ光波長では、もはや合成石英ガラスは使用が困難と考えられ、
フッ化カルシウム単結晶のみが使用しうると考えられている。
【0004】
さらにフッ化カルシウム単結晶でも高品質なものだけが投影露光装置の光学部材に使用でき、露光波長での透過率が高いフッ化カルシウム単結晶が要求されている。
【0005】
フッ化カルシウム単結晶の透過率を向上させるためには原料の高純度化を進めていくことが有効である。またフッ化カルシウム結晶の製造工程中で原料の純化処理を行うことも、250nm以下の波長で光リソグラフィー用として使える光学材料を製造する上でいまや不可欠とされている。
【0006】
ここでフッ化カルシウム単結晶の製造方法の一例を示す。
【0007】
紫外域または真空紫外域において使用されるフッ化カルシウム単結晶の場合、原料として天然の蛍石を使用することはなく、化学合成により製造された高純度原料を使用することが一般的である。原料は粉末のまま使用することも可能であるが、粉末はかさ密度が低く溶融した時の体積減少が著しいため、かさ密度を高くした半溶融品やその粉砕品(カレット)を原料として用いるのが普通である。これらのかさ密度を高くした原料を一般に前処理品と呼ぶ。
【0008】
フッ化物の前処理品を製造する工程では、原料粉末にフッ化鉛(PbF2)や四フッ化炭
素(CF4)などのフッ素化剤を添加して、原料粉末中の不純物を除去することが行われる
。これらのフッ素化剤はスカベンジャーとも呼ばれ、原料粉末中に不純物として含まれる元素をフッ素に置換し、さらに置換された不純物元素を揮発性の化合物として除去する作用を持つ。たとえばフッ化カルシウム(CaF2)の半溶融品を製造する工程においては、
原料粉末にフッ化鉛を添加してから加熱炉内で加熱して融液とし、原料粉末中に酸化カルシウム(CaO)として含まれていた酸素を揮発性の酸化鉛(PbO)として除去する。
【0009】
CaO + PbF2 → CaF2 + PbO↑
原料の融解状態を一定時間保持した後に冷却して結晶化すれば、かさ密度が向上し、かつ不純物濃度が低減された多結晶体すなわち前処理品が得られる。
【0010】
次にフッ化物単結晶の製造方法を説明する。
【0011】
最も一般的に用いられるフッ化物単結晶の製造方法は垂直ブリッジマン法である。垂直ブリッジマン法とは、独立に温度制御された高温部と低温部とを有する加熱炉内にルツボを配置し、ルツボ内で加熱融解したフッ化物を、ルツボごと高温部から低温部に徐々に下降させることで結晶成長させる方法である。このような構成を備えた単結晶製造装置を垂直ブリッジマン炉と呼ぶことがある。
【0012】
垂直ブリッジマン法による結晶成長は以下のように行われる。
【0013】
まず単結晶製造装置のルツボに原料を充填する。充填するフッ化物原料としては上記の前処理品を用いることが好ましいが、不純物濃度低減およびかさ密度向上のなされていない原料粉末を直接ルツボに充填することもある。この場合はルツボに充填する原料粉末にフッ素化剤を混合するか、あるいは外部からフッ素化剤を供給することにより、ルツボ引き下げ前の原料加熱段階において、前処理品の製造時と同様の作用によって原料の精製を行うことができる。
【0014】
ルツボに原料を充填したら、真空排気装置を用いて単結晶製造装置内を10-3Pa以下の真空に保持する。次に装置内の温度をフッ化物の融点以上まで上昇させてルツボ内の原料を融液化する。結晶成長させる際、上側に設置されたヒーターの温度に対して下側に設置されたヒーターの温度を相対的に低くし、両者の間に急峻な温度勾配を持たせる。そしてヒーターまたはヒーター近傍の温度を計測して、両ヒーターの中間にフッ化物の融点に相当する温度が形成されるようにヒーターへの供給電力を制御する。この際、育成装置内の温度分布のドリフトを最小限に抑えるために、高精度なPID制御を行うのが普通である。
【0015】
単結晶成長工程では、0.1〜5mm/時程度の速度でルツボを引き下げることにより、ルツボ内の融液下部から徐々に単結晶を成長させる。融液最上部まで結晶化したところで育成は終了し、急冷を避けて簡単な徐冷を行う。育成装置内の温度が室温程度まで下がったところで装置を大気開放して単結晶(インゴット)を取り出す。
【0016】
サイズの小さい光学部品や均質性の要求されない窓材などに用いられる単結晶の場合には、インゴットを所望の大きさに切断した後、丸めなどの工程を経て最終製品まで加工される。これに対して投影露光装置の投影レンズなどに用いられ高均質性が要求される単結晶の場合には、インゴットのまま、あるいは所望の大きさに切断した後に、歪を緩和するため熱処理を行うことが多い。
【0017】
なお、フッ化物の一種であるフッ化カルシウム単結晶の製造方法については、特許文献1に詳しく記載されている。
【特許文献1】特開平11−157982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記の従来の結晶育成装置および結晶育成方法によれば、製造した単結晶インゴット中にある程度の構造欠陥が含まれることが避けられない。構造欠陥には顕微鏡観察では確認されず、エネルギーの高い短波長の光を照射した際の光透過率低下から存在が確認されるような原子レベルのミクロな欠陥から、散乱体として肉眼でも確認できるような比較的大きな欠陥まで存在する。後者の比較的大きな構造欠陥には、負結晶や、ガスを内包する泡形態のもの等がある。これら構造欠陥は光透過率低下の原因になるため、インゴットから採取する光学部材の収率を向上させるためには欠陥密度を低減する必要があった。
【0019】
結晶成長理論によれば、構造欠陥密度を低減するためには結晶の成長速度を低く維持することや固液界面の温度条件を一様に制御することが有効と考えられるが、実際にこれらの条件を精密に制御することは困難である。
【0020】
本発明は、真空紫外光照射時の透過率低下が少ないフッ化物単結晶の製造方法であって、結晶成長段階での精密制御を必要としない製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は上記の問題を解決する手段を研究した結果、前処理品または単結晶の製造工程においてフッ化物融液から一酸化炭素(CO)を十分除去することが有効であることを見出した。これまでフッ化物原料中の酸素不純物はスカベンジャーを添加することにより揮発性の酸化物として除去されると考えられていた。しかしながら本発明者の研究によって、原料中の酸素不純物の一部はルツボ等の構成材である炭素と反応して一酸化炭素を生じ、ガス化した一酸化炭素が融液中で発泡して泡となり、これが単結晶に構造欠陥を生成する要因となることが判明したのである。そのおよその経過は以下のとおりである。
【0022】
本発明者は先ず欠陥の起点となる不純物成分を調べるために、単結晶中の比較的大きな泡の内包物を質量分析器で測定した。その結果、泡の内包ガスの主成分として一酸化炭素(CO)が検出された。
【0023】
一酸化炭素は、微量の残留酸素や水分等がスカベンジ反応で除去されるときに、ルツボ材である炭素と反応して、例えば
PbO + C ⇒ Pb + CO↑
のように生成することが考えられる。
【0024】
また一酸化炭素は、フッ化物原料自体に由来して発生することも考えられる。化学合成により製造されるフッ化物原料には合成・精製過程において炭酸塩等の炭素含有化合物を経由するものがあり、このようなプロセス由来の炭素あるいは炭酸根を発生源として一酸化炭素を生じる可能性も否定できない。
【0025】
フッ化物融液中の一酸化炭素は泡の形態をとって発現するが、その除去が不十分だと融液中に泡として残存したまま冷却されることになり、これが真空紫外レーザ光照射時の光透過率低下をもたらすものと考えられる。したがってフッ化物の前処理品製造工程または単結晶製造工程においてはフッ化物融液から一酸化炭素を十分除去することが重要である。
【0026】
本発明はフッ化物結晶の製造工程において一酸化炭素の除去工程を新たに設け、このような真空紫外レーザ光照射時の光透過率低下が低減されたフッ化物単結晶の製造を可能にしたものである。
【0027】
すなわち本発明の請求項1に記載のフッ化物結晶の製造方法は、ルツボに充填したフッ化物を真空炉内で加熱してフッ化物融液とする融解工程と、フッ化物融液から一酸化炭素(CO)を除去する一酸化炭素除去工程と、一酸化炭素除去工程を経たフッ化物融液を冷却して結晶化する結晶化工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
請求項1に記載の方法は、単結晶製造用の前処理品の製造工程として利用できる他、結晶化工程を単結晶成長工程とすれば、単結晶を直接製造することもできる。そこで請求項2に記載のフッ化物単結晶の製造方法は、請求項1に記載のフッ化物結晶の製造方法において、前記結晶化工程が単結晶を成長させる単結晶成長工程であることを特徴とする。
【0029】
請求項1に記載の方法により一酸化炭素を除去して製造されたフッ化物の前処理品は、従来の単結晶製造方法における原料として利用することができるが、前処理品は単結晶製造工程に投入するまでの間に保管環境から水分を吸着することがあり、単結晶製造工程で融解した際に、ルツボを構成する炭素との反応によって再び一酸化炭素の泡を生じることになる。したがって単結晶中の構造欠陥を更に低減するためには、単結晶製造工程においても一酸化炭素除去工程を設けることが好ましい。そこで請求項3に記載のフッ化物単結晶の製造方法は、請求項1に記載の方法により製造されたフッ化物結晶をルツボに充填し真空炉内で加熱してフッ化物融液とする融解工程と、フッ化物融液から一酸化炭素(CO)を除去する一酸化炭素除去工程と、一酸化炭素除去工程を経たフッ化物融液を冷却して単結晶を成長させる単結晶成長工程と、を有することを特徴とする。
【0030】
フッ化物融液から一酸化炭素が十分除去されたか否かを、高温の融液を直接分析することによって判断するのは非常に困難である。そこで本発明者は種々の検討を行った結果、真空炉内の残留ガス組成に基づく判断が有効であることを見出した。
【0031】
フッ化物を融解状態に保つことによって融液中の一酸化炭素は徐々に気相中へ移動し、真空炉の排気装置によって系外へ排出される。このとき真空炉内の残留ガスを分析し、一酸化炭素(CO)分圧が1×10-4Pa以下であれば、融液中の一酸化炭素が十分除去されたものと判断できる。そこで本発明の請求項4に記載のフッ化物結晶またはフッ化物単結晶の製造方法は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の特徴に加え、前記一酸化炭素除去工程が、前記真空炉内の一酸化炭素(CO)分圧が1×10-4Pa以下となるまで前記フッ化物を融解状態に保持するものであることを特徴とする。
【0032】
以上の発明は、フッ化物融液に直接接するルツボが炭素(C)を含有する場合に特に大きな効果が得られる。そこで請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の特徴に加え、前記ルツボが炭素(C)を含有するものであることを特徴とする。
【0033】
以上の方法を用いれば、構造欠陥密度が低減され真空紫外レーザ光照射時の透過率低下が抑制されたフッ化物単結晶を製造することができる。フッ化物のうち特にフッ化カルシウム(CaF2)は真空紫外波長において透明で耐久性にも優れるため、露光装置の光学部
材として好適に用いうる。そこで請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の特徴に加え、前記フッ化物がフッ化カルシウム(CaF2)であること
を特徴とする。
請求項7および請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の方法により製造されたフッ化カルシウム単結晶からなる真空紫外光学系用光学部材および請求項7に記載の真空紫外光学系用光学部材を備えた露光装置である。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る製造方法により製造されたフッ化物結晶は一酸化炭素が十分除去されているため、単結晶製造用の原料として用いれば、融解工程における構造欠陥の生成を低減することができ、高エネルギーの真空紫外レーザ光を照射しても光透過率が短期間に低下しない、高品質な単結晶を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態は、単結晶製造用前処理品としてのフッ化物結晶の製造方法に関するものである。
【0036】
図1は、本発明に係るフッ化物結晶の製造に用いる製造装置の一例である。真空炉1に
は全圧計7、分圧計2および排気口3が設けられており、排気口3に取り付けられた図示しない排気装置により真空排気される。真空炉1内には断熱材4と加熱ヒータ5が配置され、ルツボ6を任意の温度に加熱することができる。
【0037】
分圧計2は真空炉1内の残留ガス分析を行うためのものである。分圧計の形式としては質量分析型のものが好ましく、特に四重極型質量分析計は小型で必要な精度が得られ使いやすい。ただし質量分析計では一酸化炭素(CO)と窒素(N2)とがほぼ同一質量数の主ピ
ークを与えるため、フラグメントや同位体ピーク等に注意を払い、窒素の影響を見積もる必要がある。なお発明者の実験結果によれば、通常の製造装置における残留ガス中の窒素分圧は無視しうる程度のものである。
【0038】
真空容器1には、真空排気時に加わる大気圧に耐えるだけの十分な機械的強度を持つことが求められる。また真空容器内部に導入され、または真空容器内部で発生する可能性がある反応性ガスに対し、ある程度の耐食性を有することも必要である。したがって真空容器1は、これらの性質を備えた材質であるステンレス鋼で構成されることが望ましい。
【0039】
ヒーター5は図示しない制御系によって所定の温度に制御される。ヒーター5の制御系は温度センサ、温度調節器、電力制御器等からなる一般的なシステムで良いが、ルツボ6をフッ化物の融点以上の温度に制御できることが必要である。
【0040】
ルツボ6は支持部材8によってヒーター5の内側に支えられるが、ルツボ6と支持部材8の上部はフッ化物の融点以上の温度に加熱されるので、高温に耐える材質で構成されなければならない。またルツボ6についてはフッ化物に直接接触するものであるため、不純物として取り込まれ悪影響を及ぼすことのない材質であることが要求される。以上の条件を満たす材質として、ルツボ6および支持部材8の上部はカーボン材(炭素材)で構成されることが望ましい。ルツボ6が炭素を含有する材質で構成される場合に、本発明は特に大きな効果を有する。
【0041】
次に、この製造装置によるフッ化物結晶の製造例を説明する。
【0042】
始めにフッ化物原料を用意する。フッ化物原料はできるだけ不純物の少ないものが好ましく、化学合成により製造されたものを用いるべきである。用意したフッ化物原料にスカベンジャーを添加し、製造装置のルツボ6に充填する。スカベンジャーにはフッ化鉛(P
bF2)、フッ化コバルト(CoF2)、フッ化マンガン(MnF2)などを用いることができる。スカベンジャーの添加量は通常0.1〜1.0mol%程度である。
【0043】
次に真空炉1内を真空排気する。内部が十分に排気されたら、排気を続けながらヒータ5に通電して加熱を開始する。真空排気によりフッ化物原料に付着した水分等は大部分脱離するが、真空排気を続けながら加熱することにより更に脱離が促進される。
【0044】
温度がフッ化物の融点よりも400℃〜600℃程度低い温度に達したら、所定時間その温度を保持してスカベンジ反応を進行させる。保持時間は通常10時間程度である。
【0045】
所定時間経過の後、再び加熱を開始し、フッ化物の融点以上の温度に加熱する。この操作によってルツボ6内のフッ化物は融解する。
【0046】
ルツボ6の温度がフッ化物の融点を超えて内容物が融解したら、分圧計2によって真空炉1内の一酸化炭素分圧を連続的に測定しながら融解状態を保ち、融液から一酸化炭素を除去する。融液から発生した一酸化炭素はルツボ6のフタ9に開けられた小孔9aを通って真空炉1内に放出される。
【0047】
一酸化炭素除去工程の進行に伴って真空炉1内の一酸化炭素分圧は徐々に減少する。これは融液中の一酸化炭素が減少し、融液から真空炉内への放出速度が低下することによる。したがって真空炉内の分圧を監視することによって一酸化炭素除去工程の進行を追跡することができる。一酸化炭素分圧が1×10-4Pa以下に低下すれば、融液から一酸化炭素が十分除去されたものと判断できる。
【0048】
真空炉1内の一酸化炭素分圧が1×10-4Pa以下であれば一酸化炭素の除去は十分と判断できるが、さらに一酸化炭素分圧が低下を続けている場合はそのまま融解状態を維持し、分圧が一定値に収束するまで加熱・真空排気を継続すれば一酸化炭素を確実に除去できる。真空炉のリーク量はほぼ一定と考えられ、またステンレス鋼等の真空炉構成材料からの脱ガスによる一酸化炭素分圧への寄与は無視しうる程度に小さいと考えられるので、時間変化する分圧成分についてはルツボ内容物から発生していると見なすことができるからである。分圧の収束値は、測定に用いる分圧計のS/N比を考慮した上で、分圧値の変動がノイズレベルと同等になった時点の値とすれば良い。
【0049】
以上の工程により融液中の一酸化炭素が十分除去した後、ルツボを徐々に冷却して内容物を結晶化させれば、単結晶製造用前処理品として好適なフッ化物結晶が得られる。
【0050】
本実施形態により製造したフッ化物結晶は、酸素不純物および一酸化炭素が十分に除去されているので、単結晶製造用の前処理品として用いれば、真空紫外レーザ光照射時に光透過率低下が少ないフッ化物単結晶を製造することができる。
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態では、第1の実施形態で製造したフッ化物結晶を原料として単結晶を製造する。
【0051】
第2の実施形態で使用する単結晶製造装置は、図2に示す構造の垂直ブリッジマン炉である。図2の単結晶製造装置においてヒーターは上部ヒーター15と下部ヒーター16とに区分される。上部ヒーター15と下部ヒーター16は独立に温度制御され、上部ヒーター15は高温部を、下部ヒーター16は低温部を構成する。ヒーターの制御系は温度センサ、温度調節器、電力制御器等からなる一般的なシステムで良いが、少なくともフッ化物を融点以上の一定温度に制御できることが必要である。
【0052】
ヒーターの内側にはフッ化物を収容するルツボ17が配置される。ルツボ17はルツボ支持部材18を介して引き下げ機構19により駆動される。ルツボ17と支持部材18の上部はフッ化カルシウムの融点以上の温度に加熱される可能性があり、高温に耐える材質で構成されなければならない。またルツボ17についてはフッ化物に直接接触するものであるため、不純物として取り込まれ悪影響を及ぼすことのない材質であることが要求される。以上の条件を満たす材質として、ルツボ17と支持部材18の上部はカーボン材(炭
素材)で構成されることが望ましい。
【0053】
次に図2の単結晶製造装置を用いたフッ化物単結晶の製造方法を説明する。
【0054】
原料としては、第1の実施形態の方法により製造したフッ化物結晶(前処理品)を用いる。第1の実施形態により製造された前処理品は製造過程において一酸化炭素が十分に除去されているため、単結晶製造工程における再溶融時にガスの放出量が少なく、高純度で構造欠陥の少ないフッ化物単結晶を製造することができる。
【0055】
用意したフッ化物結晶をルツボ17に充填したら、真空炉11を密閉し、図示しない排気装置により排気口13を通して真空炉11の内部を排気する。内部が十分に真空排気さ
れた後、上部ヒーター15および下部ヒーター16に通電し、ルツボ17をフッ化物の融点以上に加熱して、充填されたフッ化物を融解して融液とする。
【0056】
ルツボ17の温度がフッ化物の融点を超えて内容物が融解したら、分圧計12によって真空炉11内の一酸化炭素分圧を連続的に測定しながら融解状態を保ち、融液から一酸化炭素を除去する。融液から発生した一酸化炭素はルツボ17のフタ21に開けられた小孔21aを通って真空炉11内に放出される。一酸化炭素除去工程については第1の実施形態と同様であるので詳細な説明は省略するが、本実施形態では予め一酸化炭素が除去された原料を用いているため融液から発生する一酸化炭素の量は少なく、一酸化炭素除去工程は短時間で終了する。
【0057】
一酸化炭素が十分除去されたら、上部ヒーター15および下部ヒーター16を所定の温度に調整し、炉内に温度勾配を形成する。温度勾配は上部ヒーター15側が高温に、下部ヒーター16側が低温になるようにし、両者の中間点においてフッ化物の融点が得られるようにする。
【0058】
炉内に所定の温度分布が得られたら単結晶の成長工程を開始する。単結晶の成長工程ではルツボ引き下げ機構19によりルツボ17を徐々に引き下げる。ルツボ内のフッ化物融液は引き下げに伴って融点を通過し、ルツボ17の底部から単結晶が成長する。ルツボ17を最下部まで引き下げ、ルツボ内容物が完全に固化したら室温まで冷却し、ルツボ17内に生成したフッ化物単結晶を取り出す。
【0059】
このようにして製造されたフッ化物単結晶は、所望の形状に切り出し、必要に応じて熱処理、研磨、表面処理等を施すことによって光学部材とすることができる。
【0060】
なお本発明は、上述したブリッジマン法の他、チョクラルスキー法等、原料の融解を伴う一般的な単結晶製造方法に適用することが可能である。
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態は、本発明に係るフッ化物単結晶からなる光学部材を備えた露光装置に関するものである。
【0061】
図3は本実施の形態による露光装置の一例であって、表面33aに置かれた感光剤37を塗布した基板38(これら全体を単に「基板W」と呼ぶ。)を置くことのできるウェハーステージ33,露光光として用意された波長の真空紫外光を照射し、基板W上に用意されたマスクのパターン(レチクルR)を転写するための照明光学系31,照明光学系31に露光光を供給するための真空紫外光源100,基板W上にマスクRのパターンのイメージを投影するためのマスクRが配された最初の表面P1(物体面)と基板Wの表面と一致させた二番目の表面(像面)との間に置かれた投影光学系35、を含む。
【0062】
照明光学系31は、マスクRとウェハーWとの間の相対位置を調節するための、アライメント光学系110も含んでおり、マスクRは、ウェハーステージ33の表面に対して平行に動くことのできるレチクルステージ32に配置される。レチクル交換系200は、レチクルステージ32にセットされたレチクル(マスクR)を交換し運搬する。レチクル交換系200は、ウェハーステージ33の表面33aに対してレチクルステージ32を平行に動かすためのステージドライバーを含んでいる。投影光学系35は、スキャンタイプの露光装置に応用されるアライメント光学系を持っている。
【0063】
そして、本実施の形態による露光装置は、本発明に係る製造方法により製造されたフッ化物単結晶からなる光学部材を備えたものである。具体的には、図3に示した露光装置は、照明光学系31の光学部材39及び投影光学系35の光学部材30のうちのいずれか一
方又は両方に、本発明に係るフッ化物単結晶からなる光学部材を含む。
【0064】
なお、図3中、300はウェハーステージ3を制御するステージ制御系、400は装置全体を制御する主制御部である。
【0065】
この露光装置では、本発明に係るフッ化物単結晶からなる光学部材が用いられているので、高エネルギーの真空紫外レーザー光を照射しても光透過率が短期間に低下せず、露光性能を安定に維持することができる。
【実施例1】
【0066】
本実施例では、本発明に係る製造方法によりフッ化カルシウム前処理品を製造し、この前処理品を原料として、従来の製造方法によりフッ化カルシウム単結晶を製造した。
【0067】
前処理品の製造には図1に示す製造装置を用いた。原料である化学合成フッ化カルシウムに1mol%のフッ化鉛をスカベンジャーとして添加し、製造装置のルツボ6に充填した。真空炉1を密閉して内部を3×10-4Paまで排気してからヒーター5に通電し、排気を続けながら800℃に昇温した。800℃で10時間保持してスカベンジ反応を進行させた後、分圧計2により一酸化炭素の分圧を測定しながら再び加熱を開始し、融点以上の温度である1450℃に保持してフッ化カルシウムを完全に融解した。
【0068】
フッ化カルシウムの融解によって真空炉1内の一酸化炭素分圧は急激に上昇し、最高で8×10-4Paに達した。その後、1450℃での保持を継続したところ、真空炉1内の一酸化炭素分圧は最初の数時間で急速に低下し、その後はゆるやかに低下して80時間程度で8×10-5Paに収束した。融解後96時間経過したところで加熱を停止し、室温まで徐々に冷却してフッ化カルシウムを結晶化させ、前処理品を得た。
【0069】
この前処理品を原料として用い、図2に示す装置によりフッ化カルシウム単結晶を製造した。前処理品をルツボ17に充填し、装置内部を真空排気した。真空度が5×10-5Paに達したらルツボ17を最上部に位置させ、上部ヒーター15を1450℃、下部ヒーター16を1300℃に設定してフッ化カルシウムを融解した。フッ化カルシウムが完全に融解した後、12時間保持してからルツボ引き下げを開始し、1.0mm/時の一定速度でルツボ17を引き下げ、単結晶を成長させた。ルツボ引き下げ開始時における真空炉1内の一酸化炭素分圧は3×10-4Paであった。
【0070】
ルツボ17の内容物が完全に結晶化してから室温近傍まで徐冷し、その後、製造装置内を大気開放して単結晶(インゴット)を取り出した。
【0071】
得られた単結晶中の、肉眼で検出可能な欠陥(泡および負結晶を含む)の評価を行った。評価はブロックの研削面に結晶と同等の屈折率を持つ液体(以後浸液)を塗布し、集光灯の光を通してCCDカメラにより撮影した画像から散乱点を抽出し、その数を計数することによって行った。集光灯のビームサイズから計数対象領域の体積を知ることができるので、複数箇所について同様の測定を行い、単位体積あたりの欠陥数の平均を算出した。本実施例で製造した単結晶中の欠陥数は103個/1000cm3であった。
【0072】
また、このインゴットから透過率測定用のテストピースを作製した。テストピースの向かい合う平行2面は鏡面研磨し丙高度は30秒以下、表面粗さは0.5nmRMS以下とした。このテストピースに1パルスあたり50mJ/cm2のフルエンスでArFエキシ
マレーザーを照射し、10万パルス照射後の波長193nmにおける光透過率を測定した。テストピースの表面反射を除外した内部透過率は、光路長1cmあたり99.4%であった。
【実施例2】
【0073】
実施例2では、従来の方法により製造されたフッ化カルシウム前処理品を原料とし、本発明に係る単結晶製造方法によってフッ化カルシウム単結晶を製造した。
【0074】
従来の方法による前処理品の製造工程は以下のとおりである。
【0075】
図1に示す製造装置を用い、原料である化学合成フッ化カルシウムに1mol%のフッ化鉛をスカベンジャーとして添加し、製造装置のルツボ6に充填した。真空炉1を密閉して内部を5×10-5Paまで排気してからヒーター5に通電し、800℃に昇温した。800℃で10時間保持してスカベンジ反応を進行させた後、1450℃まで昇温してフッ化カルシウムを融解し、そのまま8時間保持してから冷却を開始して結晶化させ、前処理品とした。冷却開始時における真空炉1内の一酸化炭素分圧は8×10-4Paであった。
【0076】
次に、上記の従来法により製造した前処理品を原料とし、図2の単結晶製造装置を使用して、本発明に係る単結晶製造方法によりフッ化カルシウム単結晶を製造した。
【0077】
はじめに上記の前処理品を単晶製造装置のルツボ17に充填し、真空炉11の内部を真空排気した。全圧計20により真空炉11内の真空度を測定し、真空度が3×10-4Paに達したらルツボ17を最上部に位置させ、上部ヒーター15を1450℃、下部ヒーター16を1300℃に設定してルツボ17内のフッ化カルシウムを融解した。このとき同時に分圧計12による一酸化炭素分圧の監視を開始した。
【0078】
ルツボ17内のフッ化カルシウムが融解することにより、真空炉11内部の一酸化炭素分圧は一時上昇し、最高で5×10-4Paに達した。その後、1450℃での保持を継続したところ、真空炉1内の一酸化炭素分圧は最初の数時間で急速に低下し、その後はゆるやかに低下して80時間程度で8×10-5Paに収束した。
【0079】
融解後96時間経過したところでルツボ引き下げを開始し、1.0mm/時の一定速度でルツボ17を引き下げ、単結晶を成長させた。ルツボ17の内容物が完全に結晶化してから室温近傍まで徐冷し、その後、製造装置内を大気開放して単結晶(インゴット)を取り出した。
【0080】
製造したインゴットについて実施例1と同一の欠陥数評価を行ったところ、その結果は
12個/1000cm3であった。
【0081】
製造したインゴットから実施例1と同一の手順によりテストピースを作成し、1パルス
あたり50mJ/cm2のフルエンスでArFエキシマレーザーを照射して、10万パル
ス照射後の波長193nmにおける光透過率を測定した。テストピースの表面反射を除外した内部透過率は、光路長1cmあたり99.8%であった。
【実施例3】
【0082】
本実施例では、実施例1で製造した前処理品を原料として単結晶製造装置(図2)のルツボ17に充填し、その後は実施例2と同一の工程により単結晶を製造した。原料の融解後、ルツボ引き下げ開始までの保持時間は96時間とした。
【0083】
本実施例で用いた原料(実施例1で製造したもの)は既に一酸化炭素が除去されているため、単結晶製造時の融解工程における一酸化炭素分圧は実施例2よりも低くなり、最高で3×10-4Pa、収束値は8×10-5Paであった。
【0084】
製造したインゴットについて実施例1と同一の欠陥数評価を行ったところ、その結果は
0個/1000cm3であった。
【0085】
得られたインゴットからテストピースを製作し、各実施例と同様の手順でArFエキシマレーザー照射後の透過率を測定したところ、テストピースの表面反射を除外した内部透過率は光路長1cmあたり99.9%であった。
【比較例】
【0086】
比較例として、従来法によりフッ化カルシウム前処理品を製造し、該前処理品を原料として単結晶を製造した。
【0087】
各実施例と同一のフッ化カルシウム原料を用意し、1mol%のフッ化鉛をスカベンジャーとして添加して、図1に示す製造装置のルツボ6に充填した。真空炉1を密閉して内部を3×10-4Paまで排気してからヒーター5に通電し、排気を続けながら800℃に昇温した。800℃で10時間保持してスカベンジ反応を進行させた後、1450℃まで昇温してフッ化カルシウムを融解し、そのまま8時間保持してから冷却して結晶化させ、前処理品とした。冷却開始時における真空炉1内の一酸化炭素分圧は8×10-4Paであった。
【0088】
この前処理品を原料として用い、図2に示す装置のルツボ17に充填し、装置内部を真空排気した。真空度が5×10-5Paに達したらルツボ17を最上部に位置させ、上部ヒーター15を1450℃、下部ヒーター16を1300℃に設定してフッ化カルシウムを融解した。フッ化カルシウムが完全に融解した後、12時間保持してからルツボ引き下げを開始し、1.0mm/時の一定速度でルツボ17を引き下げ、単結晶を成長させた。ルツボ引き下げ開始時における真空炉1内の一酸化炭素分圧は2×10-4Paであった。
【0089】
ルツボ17の内容物が完全に結晶化してから室温近傍まで徐冷し、その後、製造装置内を大気開放してインゴットを取り出した。
【0090】
製造したインゴットについて実施例1と同一の欠陥数評価を行ったところ、その結果は
1089個/1000cm3であった。
【0091】
得られたインゴットからテストピースを製作し、各実施例と同様の手順でArFエキシマレーザー照射後の透過率を測定したところ、テストピースの表面反射を除外した内部透過率は光路長1cmあたり99.0%であった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】フッ化物結晶の製造装置の一例である。
【図2】フッ化物単結晶の製造装置の一例である。
【図3】露光装置の一例である。
【符号の説明】
【0093】
1…真空炉、2…分圧計、3…排気口、4…断熱材、5…ヒーター、6…ルツボ、7…全圧計、8…支持部材、11…真空炉、12…分圧計、13…排気口、15…上部ヒーター、16…下部ヒーター、17…ルツボ、18…支持部材、19…引き下げ機構、30…光学部材、31…照明光学系、35…投影光学系、39…光学部材、100…真空紫外光源、R…マスク、W…ウェハー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボに充填したフッ化物を真空炉内で加熱してフッ化物融液とする融解工程と、フッ化物融液から一酸化炭素(CO)を除去する一酸化炭素除去工程と、一酸化炭素除去工程を経たフッ化物融液を冷却して結晶化する結晶化工程と、を有するフッ化物結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフッ化物結晶の製造方法において、前記結晶化工程が単結晶を成長させる単結晶成長工程であることを特徴とするフッ化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法により製造されたフッ化物結晶をルツボに充填し真空炉内で加熱してフッ化物融液とする融解工程と、フッ化物融液から一酸化炭素(CO)を除去する一酸化炭素除去工程と、一酸化炭素除去工程を経たフッ化物融液を冷却して単結晶を成長させる単結晶成長工程と、を有するフッ化物単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記一酸化炭素除去工程が、前記真空炉内の一酸化炭素分圧が1×10-4Pa以下となるまで前記フッ化物を融解状態に保持するものである、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のフッ化物結晶またはフッ化物単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記ルツボが炭素(C)を含有するものである、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のフッ化物結晶またはフッ化物単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のフッ化物結晶またはフッ化物単結晶の製造方法において、前記フッ化物がフッ化カルシウム(CaF2)である、フッ化カルシウム
結晶またはフッ化カルシウム単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により製造されたフッ化カルシウム単結晶からなる真空紫外光学系用光学部材。
【請求項8】
請求項7に記載の真空紫外光学系用光学部材を備えた露光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−16242(P2006−16242A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195148(P2004−195148)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】