説明

フューザ部材

【課題】融着トナー又はインクの支持体への移動が良好であるフューザ部材を提供することである。
【解決手段】フューザ部材は、基材と、前記基材に配置された機能層と、前記機能層上に配置された外側層であって、テクスチャーを有するシリコン、及び前記シリコン上に配置された疎油性コーティングを含む外側層とを備える。テクスチャー構造としては、ピラー構造、溝構造が例示できる。これらの構造は、極疎油性表面の形成に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容は、概して、デジタル、イメージ・オン・イメージ等をはじめとする電子写真画像形成装置に有用なフューザ部材に関する。また、本明細書に記載したフューザ部材はまた、固体インクジェット印刷機のトランスフィックス装置にも用いることができる。
【背景技術】
【0002】
電子写真印刷プロセスにおいて、トナー画像は、フューザロールを用いて、支持体(例えば、用紙シート)に定着又は融着させることができる。従来の定着技術では、フューザロールの良好な剥離性を維持するために、定着操作中に、フューザロールへ剥離剤/フューザオイルを塗布している。例えば、油定着技術は、エントリ生産及びプロダクションカラー市場における全ての高速製品に用いられてきた。
【0003】
オイルレス定着技術を、画像品質、部品コスト、信頼性、構成部品長寿命等といった一連の厳しいシステム要件に適合しながら、1分当たり100頁以上という高速プリンタに拡大適用するには、技術的に問題が残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、オイルレス定着においては、トナー画像の剥離を補助するために、ワックス状のトナーが用いられることが多い。しかしながら、ワックスは、フューザ表面(例えば、PTFE表面)に移動して、従来のPTFE表面を用いると、フューザ表面を汚染する可能性がある。例えば、PTFEオイルレスフューザにありがちな故障モードは、ワックスゴースト発生と呼ばれるものである。PTFEについたワックスは、次の印刷の画像品質に影響する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によれば、フューザ部材が提供される。フューザ部材は、基材、基材上に配置された機能層と、機能層上に配置された外側層とを含む。外側層は、テクスチャーを有するシリコン及びシリコン上に配置されたコンフォーマルな疎油性コーティングを含む。
【0006】
テクスチャー構造は、例えば、表面凹凸構造であり、ピラー構造、溝構造が例示できる。ピラー構造、つまり柱状構造と、溝構造とは、極疎油性表面の形成に有効である。
【0007】
ピラー配列構造又は溝構造を含むテクスチャーパターンを、フォトリソグラフィー技術を用いて、機能層に与えることができる。
【0008】
表面テクスチャーが形成されたシリコンを化学的に変性することができる。シリコンテクスチャーの化学変性には、テクスチャー表面に撥油性を付与する、又は向上させる等、シリコンの任意の好適な化学処理が含まれる。例えば、テクスチャーシリコン表面の化学変性には、パーフッ素化アルキル鎖からなる自己組織化層を、テクスチャーシリコン表面に積層することが含まれる。
例えば、フッ素化テクスチャー表面を形成できる。
【0009】
シリコン上の極疎油性表面は、例えば、ヘキサデカン接触角>150°及び転落角<10°である。これらの表面は、まず、フォトリソグラフィーを用いて、シリコン表面にテクスチャーを形成してから、例えば、フルオロシランによる表面処理を行うことで作製できる。
【0010】
例えば、テクスチャー構造を、コンフォーマルな疎油性コーティングで被覆して、例えば、ピラーが規則的に配列したテクスチャーパターンを含む極疎油性可撓性デバイスを得ることができる。
【0011】
フューザ表面(定着表面)の接触角と、支持体(例えば、用紙)の接触角との差は、例えば、50を超える。当該接触角の差が大きいほど、融着トナー又はインクの用紙への移動が良好になる。つまり、オフセットが低減される。
【0012】
疎水性/疎油性シリコンテクスチャー表面を、オイルレス定着プロセスで用いると、トナーの剥離及び用紙剥離を補助し、トナー設計を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、本教示内容のいくつかの実施形態を示し、説明と共に、本教示内容の原理を説明する役割を果たす。
【0014】
【図1】本発明の実施形態である円柱基材を有する定着部材を示す図である。
【図2】本発明の実施形態であるベルト基材を有する定着部材を示す図である。
【図3】図1に示すフューザロールを用いる定着構成を示す図である。
【図4】図2に示すフューザベルトを用いる定着構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態であるフューザ部材の機能層にフッ素化テクスチャー表面を作製するプロセススキームを示す図である。
【図6】本発明の実施形態であるフューザ部材の機能層にフッ素化テクスチャー表面を作製する他のプロセススキームを示す図である。
【図7】本発明の実施形態である表面テクスチャーを示す図である。
【図8】本発明の実施形態である他の表面テクスチャーを示す図である。
【図9】融着インクの作用を示す一連の写真であり、PTFE表面及び用紙(上図)と、テクスチャーシリコン表面及び用紙(下図)とをそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
図面の詳細の一部は、単純化されており、厳密な構造の精度、詳細及び縮尺を保つよりも、実施形態の理解を促すために描かれていることに留意すべきである。
【0017】
定着部材は、基材と、それに形成された1層以上の機能層を有することができる。基材は、例えば、シリンダ又はベルトを含むことができる。1層以上の機能層は、シリコンにテクスチャー構造を形成することにより、疎水性、疎油性、超疎水性、超疎油性、極疎水性、極疎油性であるシリコンテクスチャー表面を有する。かかる定着部材は、高速、高品質電子写真印刷のためのオイルレス定着部材として用いて、画像支持材料(例えば、用紙シート)の融着トナー画像からの良好なトナー剥離を確保し、それを維持し、さらに用紙剥離を補助することができる。他の実施形態において、シリコンテクスチャー表面は、オイルレス定着プロセスに、ワックスフリー、オイルフリーのトナー設計を与えることができる。
【0018】
本明細書で用いる「疎水」という用語及び「疎油」という用語は、それぞれ、例えば、約90°以上の水及びヘキサデカン(又は炭化水素、シリコーンオイル等)接触角を有する表面の濡れ挙動のことを指す。例えば、疎水性/疎油性表面では、10〜15μL水/ヘキサデカン液滴が蓄積し、約90°以上の平衡接触角を有する。
【0019】
本明細書で用いる「超疎水」という用語及び「超疎油」という用語は、それぞれ、より厳密なタイプの疎水性及び疎油性を有する表面の濡れ性のことを指す。例えば、超疎水/超疎油表面は、約120°以上の水/ヘキサデカン接触角を有する。
【0020】
また、「極疎水」という用語及び「極疎油」という用語は、それぞれ、より厳密なタイプの疎水性及び疎油性を有する表面の濡れ性のことを指す。例えば、極疎水/極疎油表面は、約150°以上の水/ヘキサデカン接触角を有し、10〜15μL水/ヘキサデカン液滴が水平から数度傾いた表面で自由に転がる可能性がある。極疎水性/極疎油表面での水/ヘキサデカン液滴の滑り角は、約10°以下とすることができる。
傾いた極疎水性/極疎油表面では、後退表面の接触角が大きく、固体表面に貼りつく液滴の上がり坂側の界面傾向が低いため、重力が、表面を滑る液滴の抵抗性に勝る可能性がある。極疎水性/極疎油表面は、前進及び後退接触角(例えば、40°以下)間のヒステリシスが非常に低いものと説明することができる。より大きな液滴だと重力により影響され、容易に滑る傾向があるが、より小さな液体だと固定又は定位置にとどまったものとなる傾向があり得ることに留意する。
【0021】
様々な実施形態において、定着部材は、例えば、基材と、それに形成された1層以上の機能層を含むことができる。基材は、例えば、図1及び2に示すような特定の構成に応じて、非導電性又は導電性の好適な材料を用いて、様々な形状、例えば、シリンダ(例えば、シリンダ管)、シリンダ形ドラム、ベルト又はフィルム等に形成することができる。
【0022】
図1は、シリンダ形基材110を有する定着部材100を示し、図2は、ベルト基材210を有する定着部材200を示す。当然のことながら、当業者であれば、図1に示す定着部材100及び図2に示す定着部材200は、一般化された概略図を表わし、他の層/基材を追加する、又は存在する層/基材を除去又は修正することができる。
【0023】
図1において、例示の定着部材100は、シリンダ形基材110と、それに形成された1層以上の機能層120及び外側層130を有するフューザローラとすることができる。外側層130は、テクスチャーを有するシリコン、及びシリコン上に配置されたコンフォーマルな疎油性コーティングを有する。この疎油性コーティングは、典型的に、厚さが1nm〜10nmの単分子層である。様々な実施形態において、シリンダ形基材110は、加熱ランプを中に含む中空構造を有するシリンダ形管又は中空でないシリンダ形シャフトの形態を採り得る。
図2において、例示の定着部材200は、ベルト基材210と、それに形成された1層以上の機能層220及び外側表面層230を有する。外側表面層230は、テクスチャーを有するシリコン、及びシリコン上に配置されたコンフォーマルな疎油性コーティングを有する。この疎油性コーティングは、典型的に、厚さが1nm〜10nmの単分子層である。
テクスチャー構造とは、例えば、シリコン表面に形成される表面凹凸構造であり、後述するように、ピラー構造、つまり柱状構造、他にも溝構造が挙げられる。そして、例えば、当該凹凸表面の少なくとも一部に疎油性コーティングが施される。
ベルト基材210及びシリンダ形基材110は、当業者に知られているとおり、剛性及び構造上の完全性を維持するために、例えば、ポリマー材料(例えば、ポリイミド、ポリアラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフタルアミド、ポリアミド−イミド、ポリケトン、ポリフェニレンスルフィド、フルオロポリイミド又はフルオロポリウレタン)、金属材料(例えば、アルミニウム又はステンレス鋼)から形成することができる。
【0024】
機能層120及び220としては、フルオロシリコーン、シリコーンゴム、例えば、室温加硫(RTV)シリコーンゴム、高温加硫(HTV)シリコーンゴム、及び低温加硫(LTV)シリコーンゴムが例示される。
これらのゴムは公知であり、容易に商業的に利用可能であり、例えば、ダウコーニング製のシラスティック(登録商標)735ブラックRTV、及びシラスティック732RTV、ジェネラルエレクトリック製の106RTVシリコーンゴム、及び90RTVシリコーンゴム、ならびにダウコーニング東レシリコーン製のJCR6115CLEAR HTV、及びSE4705U HTVシリコーンゴムがある。その他の好適なシリコーン材料としては、シロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン)、フルオロシリコーン、例えば、サンプソンコーティング、リッチモンド、バージニアより入手可能なシリコーンゴム552、液体シリコーンゴム、例えば、ビニル架橋熱硬化性ゴム又はシラノール室温架橋材料等が挙げられる。その他の具体例は、ダウコーニングのシルガード182である。市販のLSRゴムとしては、ダウコーニング製のダウコーニングQ3−6395、Q3−6396、シラスティック590LSR、シラスティック591LSR、シラスティック595LSR、シラスティック596LSR、及びシラスティック598LSRがある。
機能層は、弾性を与え、無機粒子、例えば、SiC又はAl23等と必要に応じて混合することができる。
【0025】
機能層120及び220としてはまた、フルオロエラストマーが例示される。
フルオロエラストマーは、1)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びテトラフルオロエチレンのうち2つのコポリマー、2)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びテトラフルオロエチレンのターポリマー、及び3)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン及び硬化モノマーのテトラポリマーが挙げられる。
これらのフルオロエラストマーは、様々な名称で商業的に知られており、例えば、バイトンA(登録商標)、バイトンB(登録商標)、バイトンE(登録商標)、バイトンE 60C(登録商標)、バイトンE430(登録商標)、バイトン910(登録商標)、バイトンGH(登録商標)、バイトンGF(登録商標)、及びバイトンETP(登録商標)がある。硬化モノマーは、4−ブロモパーフルオロブテン−1,1,1−ジヒドロ−4−ブロモパーフルオロブテン−1,3−ブロモパーフルオロプロペン−1,1,1−ジヒドロ−3−ブロモパーフルオロプロペン−1又は任意のその他好適な公知の硬化モノマー、例えば、デュポンより商業的に入手可能なものとすることができる。その他の商業的に入手可能なフルオロポリマーとしては、フルオレル2170(登録商標)、フルオレル2174(登録商標)、フルオレル2176(登録商標)、フルオレル2177(登録商標)、及びフルオレルLVS76(登録商標)が挙げられる。さらに商業的に入手可能な材料としては、同じくスリーエム社より入手可能なアフラス(商標)、ポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレン)、及びフルオレルII(登録商標)(LII900)、ポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレンフッ化ビニリデン)、ならびにオーシモントより入手可能なFOR−60KIR、FOR−LHF、NMFOR−THF、FOR−TFS、TH、NH、P757、TNS、T439、PL958、BR9151、及びTN505とされるテクノフロン(いずれも登録商標)が挙げられる。
【0026】
3つの公知のフルオロエラストマーとしては、(1)バイトンAとして商業的に知られているような、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びテトラフルオロエチレンのうち2つのコポリマー、(2)バイトンBとして商業的に知られているようなフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びテトラフルオロエチレンのターポリマー、ならびに(3)バイトンGH又はバイトンGFとして商業的に知られた硬化モノマーが例示される。
【0027】
フルオロエラストマーバイトンGH又はバイトンGFは、比較的少量のフッ化ビニリデンを有する。バイトンGH又はバイトンGFは、約35重量%のフッ化ビニリデン、約34重量%のヘキサフルオロプロピレン、約29重量%のテトラフルオロエチレン、約2重量%の硬化モノマーを有する。
【0028】
ロール構成について、機能層の厚さは、0.5mm〜10mmとすることができる。
ベルトについて、機能層の厚さは、25μm〜約1mm、又は25μm〜約2mmとすることができる。
【0029】
任意で、公知の入手可能な好適な接着層を、シリコン層と機能層と基材の間に配置してもよい。好適な接着剤としては、アミノシラン(例えば、ダウコーニング製HVプライマー10)のようなシラン、チタネート、ジルコネート、アルミネート等及びこれらの混合物が例示される。一実施形態において、約0.001%〜約10%の溶液の接着剤を、基材に塗工できる。接着層は、約2nm〜約2000nm、又は約2nm〜約500nmの厚さで、基材又は外側層にコートすることができる。接着剤は、スプレーコーティング等の好適な公知の技術によりコートすることができる。
【0030】
図1及び2に示すとおり、コンフォーマルなコーティングを備えたテクスチャーシリコン外側層130及び230は、極疎水性又は極疎油性の少なくともいずれか一方の特性を有する。例えば、外側層130及び230は、約120°〜約175°、約130°〜約170°、約140°〜約160°の水接触角を有することができる。また、外側層は、約100°〜約175°、約110°〜約170°、約120°〜約160°のヘキサデカン接触角を有することができる。外側層は、約1°〜30°未満、約1°〜25°未満、約1°〜20°未満の転落角を有することができる。
【0031】
実施形態において、定着表面の接触角と、トナー支持体(用紙シート)の接触角との差は、30を超える、40を超える、又は50を超える。差が大きければ大きいほど、トナー支持体への移動が良好になる。
【0032】
図3及び図4に、定着プロセスの例示の定着構成を示す。図3(a,b)に示す定着構成300A,300B及び図4(a,b)に示す定着構成400A,400Bは、一般化された概略図を表わし、他の部材/層/基材/構成を追加する、又は存在する部材/層/基材/構成を除去又は修正することができることは当業者には明白なはずである。電子写真プリンタが本明細書には記載されているが、開示された装置及び方法は、他の印刷技術に適用することができる。オフセット印刷、インクジェット及びソリッドトランスフィックス機が例示される。
【0033】
図3に、フューザロールを用いる定着構成300A,300Bを示す。定着構成300A,300Bは、画像支持材料315のための、図3(a)の圧力ロール又は図3(b)の圧力ベルト等の圧力印加機構335によりフューザニップを形成するフューザロール100(すなわち、図1の100)を含むことができる。様々な実施形態において、圧力印加機構335を、加熱ランプ337と組み合わせて用いると、画像支持材料315でのトナー粒子の定着プロセスのために、圧力と熱の両方を与えることができる。また、定着構成300A,300Bは、1本以上の外部加熱ロール350を、例えば、図3に示すようなクリーニングウェブ360と共に含むことができる。
【0034】
図4に、フューザベルトを用いる定着構成400A,400Bを示す。定着構成400A,400Bは、媒体基材415のための、図4(a)の圧力ロール又は図4(b)の圧力ベルト等の圧力印加機構435によりフューザニップを形成するフューザロールベルト200(すなわち、図2の200)を含むことができる。様々な実施形態において、圧力印加機構435を、加熱ランプと組み合わせて用いると、媒体基材415でのトナー粒子の定着プロセスのために、圧力と熱の両方を与えることができる。また、定着構成400A,400Bは、フューザベルト200を動かす機械システム445を含むことができ、トナー粒子が融着して、媒体基材415に画像が形成される。機械システム445は、1本以上のロール445a〜cを含むことができ、これはまた、必要であれば、加熱ロールとして用いることもできる。
【0035】
図5の実施形態を参照すると、本明細書の外側表面を有するフューザ部材は、機能層120上に、シリコン層を、例えば、アモルファスシリコン50を、スパッタリングにより形成できる。機能層については前述した。シリコン層は、任意の好適な厚さとすることができる。実施形態において、シリコン層は、機能層上に、0.3〜5μm、1〜4μm、又は1.5〜3μmの厚さで形成できる。
【0036】
シリコン層50は、機能層120上に、任意の好適な方法により形成できる。実施形態において、シリコン薄膜は、特に、スパッタリング又は化学蒸着、高周波プラズマ化学気相成長、マイクロ波プラズマ化学気相成長、プラズマ化学気相成長を用いて、インラインプロセスで超音波ノズルを用いて形成できる。
実施形態において、マイクロメートルサイズの溝構造を含むテクスチャーパターンを、可撓性基材に与えることができる。実施形態において、溝構造は、例えば、基材上に垂直に立設した側壁及び窪み部からなる凹凸構造、又はシリコン表面に形成された凹部である。側壁とは、サブミクロン範囲、例えば、250nmの起伏構造を有し、当該構造は、エッチングサイクルに対応している。
【0037】
ピラー配列構造又は溝構造を含むテクスチャーパターンを、フォトリソグラフィー技術を用いて、機能層に与えることができる。ピラー配列構造は、例えば、基材上に垂直に立設した柱状形状を有し、例えば、円柱形状を有する。ピラー配列構造は、例えば、サブミクロン範囲で現れる起伏構造を有し、例えば、250nmの起伏構造を有し、当該起伏構造は、エッチングサイクルに対応している。
なお、ピラー配列構造、溝構造は、テクスチャー又は起伏パターン化垂直側壁、溝構造の上部に画定される凹凸構造、又はこれらの組み合わせを含む。本明細書で用いるテクスチャー又は起伏側壁とは、サブミクロン範囲で現れる側壁の粗さを意味する。実施形態において、側壁は、250nmの起伏構造を有し、本明細書に後述するとおり、エッチングサイクルに対応している。ピラー又は溝構造は、ベースシリコン層から、約0.25〜約5μm、約0.3〜約4μm、又は約0.5〜約2μmの高さ又は深さを有する。
【0038】
ピラー配列又は溝構造を含むテクスチャーパターンを、フォトリソグラフィー技術を用いて、シリコンコート基材に形成することができる。例えば、図5に示すとおり、公知のフォトリソグラフィー方法に従って、機能層120上のシリコン層50を作製し、クリーニングすることができる。次に、フォトレジスト材料54をシリコン層50にスピンコーティング又はスロットダイコーティングによるなどして、フォトレジスト54を適用することができる。任意の好適なフォトレジストを選択することができる。実施形態において、フォトレジストは、ローム・アンド・ハースより入手可能なメガ(商標)ポジット(商標)SPR(商標)700フォトレジストとすることができる。
【0039】
フォトレジスト54は、典型的に、紫外線露光、及び水酸化ナトリウム含有現像剤等の有機現像剤又は水酸化テトラメチルアンモニウム等の金属イオンを含まない現像剤に露光することにより、業界に公知の方法に従って、露光及び現像することができる。
【0040】
ピラー配列構造又は溝構造56(以下、パターン化構造56とする)を含むテクスチャーパターンは、業界に公知の任意の好適な方法によりエッチングすることができる。概して、エッチングには、液体又はプラズマ化学剤を用いて、マスク54により保護されていないシリコン層を除去することが含まれる。実施形態において、深堀り反応性イオンエッチング技術を用いて、パターン化構造56を形成することができる。
【0041】
エッチングプロセス後、フォトレジストは、任意の好適な方法により除去することができる。例えば、フォトレジストは、液体レジストストリッパ又はプラズマ含有酸素を用いて除去することができる。実施形態において、フォトレジストは、サープラスプロセスイクイップメントコーポレーション、サンタクララ、カリフォルニアより入手可能なガーソニックオーラ1000アッシングシステム等のO2プラズマ処理を用いてストリッピングすることができる。ストリッピング後、基材を、ホットピラニアクリーニングプロセスにより、クリーニングすることができる。
【0042】
表面テクスチャーがシリコンに形成されたら、シリコンを化学的に変性することができる。本明細書で用いるシリコンテクスチャーの化学変性には、テクスチャー表面に撥油性を付与する、又は向上させる等、シリコンの任意の好適な化学処理が含まれる。実施形態において、テクスチャーシリコン表面の化学変性には、パーフッ素化アルキル鎖からなる自己組織化層を、テクスチャーシリコン表面に付着することが含まれる。様々な技術、例えば、分子蒸着技術、化学蒸着技術又は溶液コーティング技術を用いて、パーフッ素化アルキル鎖の自己組織化層を、テクスチャーシリコン表面に付着することができる。実施形態において、テクスチャー基材の化学変性には、分子蒸着技術、化学蒸着技術又は溶液自己組織化技術により、テクスチャー表面にコンフォーマルにフルオロシランコーティングを自己組織化する化学変性が含まれる。
例えば、シリコンテクスチャー構造を化学変性、或いはコーティング処理して、フッ素化テクスチャー構造(フッ素化ピラー構造、フッ素化溝構造)を得ることができる。
具体的な実施形態において、テクスチャー基材の化学変性には、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン又はこれらの組み合わせ等により、分子蒸着技術又は溶液コーティング技術を用いて、組織化された層を付着することが含まれる。
【0043】
具体的な実施形態において、パルス又は時分割エッチングを含むボッシュ深堀り反応性イオンエッチングプロセスを用いて、ピラー配列構造又は溝構造を含むテクスチャー表面を形成する。ボッシュプロセスには、多数のエッチングサイクルが含まれ、1つのサイクル内の3つの個別の工程で、垂直エッチングされる。1)保護パッシベーション層の付着、2)エッチング1、所望の場合、例えば、谷の下部にある、パッシベーション層を除去するエッチングサイクル、3)エッチング2、シリコンを等方的にエッチングするエッチングサイクル。
パッシベーション層は、テフロン(登録商標)と同様のC48により形成され、基材全体を保護し、さらなるエッチングを防ぐ。しかしながら、エッチング1フェーズ中、所望であれば、基材と衝突する指向性のあるイオンで、パッシベーション層を攻撃する。ピラーについては、指向性のあるイオンは、ピラー側壁に沿って指向されない。イオンが、パッシベーション層と衝突して、それをスパッタして落とすと、エッチング2中、基材の谷の下部が、化学エッチング剤に露出される。エッチング2は、短時間で(例えば、約5〜約10秒で)、シリコンを等方的にエッチングする役割を果たす。短いエッチング2工程だと、短い起伏の周期(5秒だと約250nm)となり、長いエッチング2だと、長い起伏の周期(10秒だと約880nm)となる。このエッチングサイクルは、所望のピラー又は溝高さが得られるまで繰り返すことができる。
ピラー構造については、テクスチャー又は起伏側壁を有するピラーを形成することができ、各起伏は1つのエッチングサイクルに対応する。溝構造について、フォトリソグラフィーには、垂直エッチングを形成するための複数のエッチングサイクルを用いることが含まれ、複数のエッチングサイクルのそれぞれには、a)保護パッシベーション層を付着し、b)所望であれば、エッチングしてパッシベーション層を除去し、c)シリコンを等方的にエッチングし、d)所望の溝構造構成が得られるまで、工程「a」〜「c」を繰り返すことが含まれる。このプロセスにおいて、溝構造は、テクスチャー又は起伏側壁を有するように形成することができ、各起伏は1つのエッチングサイクルに対応している。実施形態において、溝構造は、起伏側壁、凹凸構造又はこれらの組み合わせを含む。
【0044】
周期的な「起伏」構造のサイズは、任意の好適なサイズとすることができる。本明細書における具体的な実施形態において、「起伏」のサイズは、約100nm〜約1000nm、又は約250nmである。
【0045】
図6を見てみると、本プロセスの実施形態には、凹凸構造を有するピラー配列構造又は溝構造を含む可撓性基材に、テクスチャー表面を形成することが含まれる。プロセスは、2つのフッ素エッチングプロセス(CH3F/O2及びSF6/O2)の組み合わせを用いる類似のプロセスを含むことができる。
図6を参照すると、プロセスには、クリーニングしたシリコン層601が配置された機能層600を提供し、クリーニングしたシリコン層601上にSiO2薄膜602を積層し、SiO2薄膜602にフォトレジスト材料604(SPRTM700−1.2フォトレジストを用いる5:1フォトリソグラフィー)を適用し、フォトレジスト材料604に露光及びこれを現像し、フッ素系反応性イオンエッチング(CH2F/O2)を用いて、ピラー配列構造又は溝構造606を含むSiO2層においてテクスチャーパターンを画定し、第2のフッ素系(SF6/O2)反応性イオンエッチングプロセスを用いた後、ホットストリッピンし、ピラニアクリーニングして、凹凸構造610を有するピラー配列構造又は溝構造608を形成することを含むことができる。
【0046】
次に、パターン化配列を、コンフォーマルな疎油性コーティング612でコートすると、直線側壁及び凹凸構造610を有するピラーのテクスチャーパターンを含む極疎油性可撓性デバイスを与えることができる。
【0047】
一実施形態において、ピラーは、約0.25μm〜約5μmの高さ、約0.5μm〜約6μm、又は約0.5μm〜約4μmの平均直径を有する。さらなる例として、表面形状は、約0.3μm〜約4μmの高さ又は深さ、約1μm〜約12μmの横寸法を有することができる。
【0048】
一実施形態において、溝は、約0.3μm〜約5μmの深さを有する。さらなる例として、表面形状は、約0.3μm〜約4μmの高さ又は深さ、約1μm〜約12μmの横寸法を有する。
【0049】
開示された疎水性/疎油性シリコンテクスチャー表面を、オイルレス定着プロセスで用いると、トナーの剥離及び用紙剥離を補助し、トナー設計を改善することができる。
【0050】
かかるオイルレス定着は、多くの利点を与えることができる。例えば、フューザシステムの油分配システム全体を排除することで、製造コスト及び操作コスト(例えば、油の補充がないことによる)を下げ、サブシステム設計を単純化し、軽量化することができる。また、オイルフリーの定着プロセス/操作だと、例えば、印刷痕や許容できない画像品質欠陥を生成するフューザの不均一な塗油、ならびに高いサービスコスト及び顧客の不満を引き起こす機械信頼性の問題(例えば、故障)を回避することができる。
【0051】
コンフォーマルな極疎油性コーティングを有するテクスチャーシリコン外側表面を有するフューザ部材は、トナー接着力を減じ、オフセットを改善し、高速での用紙剥離許容度オイルレス定着を増大する。最近では、シリコン上の極疎油性表面は、ヘキサデカン接触角>150°及び転落角<10°で製造されている。これらの表面は、まず、フォトリソグラフィーを用いて、シリコン表面にテクスチャーを形成してから、前述したとおり、フルオロシランによる表面修正により作製された。2種類のテクスチャーであるピラー構造と、溝構造とが作製され、極疎油性表面の形成に有効であることが示された。
図7に、フルオロシランコートピラー構造表面(直径〜3μm、高さ〜1μm及びピッチ12μm)を示す。
図8に、フルオロシランコートシリコン溝構造(幅〜3μm、高さ〜4μm及びピッチ6μm)を示す。
コートテクスチャーシリコン表面は、機械的に堅牢で、例えば、高硬度であり、耐摩耗性に優れる。溝構造は、機械的な堅牢性がより良好である。これら2つの表面についてのヘキサデカン接触角を表1に示す。表1に示すように、各表面は、非常に高い接触角を有する。
【表1】

【0052】
撥水撥油性を付与するためには、液滴が表面上で大きな接触角を有していなければならない。同様に、液滴と表面間の接触角が小さいと、通常、良好な濡れ及び拡散が可能となる。定着又はトランスフィックス用途については、フューザ表面でのオフセットをなくすために、融着トナー又はインクは、フューザ表面に非常に大きな接触角を有し、同時に用紙を濡らすのが望ましい。すなわち、フューザ表面では大きな接触角、用紙では小さな接触角としたい。接触角の差は、フューザ/トランスフューザ設計における性能指数となり、接触角差が大きければ大きいほど、オフセット性能が良好になる。表1には、コートシリコン表面は、フューザ部材に典型的に用いられる典型的なフルオロポリマー表面に勝る利点を与えることが示されている。
【0053】
表2に示すとおり、極疎油性表面と3つの画像形成材料による透明フィルムの接触角の差は、51°〜115°で、PTFEで見られるものより大幅に大きい。この結果は、フューザ表面が極疎油性である場合、剥離、オフセット及び用紙剥離において大きな改善が得られるはずであることの証拠となる。
【0054】
【表2】

【0055】
ワックス状ポリエステルトナーを用いるPTFEと比べたときの、疎油性コーティングを備えたテクスチャーシリコン表面の利点をさらに示す。PTFEフューザ部材と共にワックス状ポリエステルトナーが、オイルレス定着に一般的に用いられる。PTFEフューザ及びワックス状ポリエステルトナーの接触角差Δは9°であり、51°である超疎油性表面とポリエステルトナーの組み合わせより大幅に小さい。超疎油性表面の接触角Δが大きいと、フューザ部材として、疎油性コーティングを備えたテクスチャーシリコン表面を用いて、ワックスを含まないポリエステルトナーにより、高印刷速度でオイルレス定着が行えることを示している。
フューザ部材として疎油性コーティングを備えたテクスチャーシリコン表面の優れた性能を立証するために、フューザ表面、融着トナー又はインク及び用紙との相互作用を示すシミュレーションを行った。本実験において、インクの融着液滴を、PTFEと極疎油性モデル表面の2つの表面に形成し、1枚の未コートの普通紙を、融着インク液滴と徐々に、かつ慎重に接触させ、事象全体のビデオを撮った。図9に、2つの表面についてのインクオフセット実験のコマ送りを示す。固体インク液滴は、PTFE表面と用紙の間で分割され、これが定着実験であった場合には、オフセットが生じるであろうことが示唆される。対照的に、極疎油性モデル表面について、固体インク液滴は、全く異なる挙動を示すことが分かった。接触の際に、残渣を全く残すことなく、インク液滴が用紙にまさに「ジャンプ」する。
【符号の説明】
【0056】
100 定着部材、110 シリンダ形基材、120,220,600 機能層、130 外側層、200 定着部材、210 ベルト基材、230 外側表面層、300A,300B,400A,400B 定着構成、315 画像支持材料、335,435 圧力印加機構、350 外側加熱ロール、360 クリーニングウェブ、415 媒体基材、445 機械システム、50,601 シリコン層、54,604 フォトレジスト材料、56,606 パターン化構造、602 SiO2薄膜、610 凹凸構造、612 疎油性コーティング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に配置された機能層と、
前記機能層上に配置された外側層であって、テクスチャーを有するシリコン、及び前記シリコン上に配置された疎油性コーティングを含む外側層と、
を備えるフューザ部材。
【請求項2】
基材と、
テクスチャーを有し、前記基材上に配置された外側アモルファスシリコン層と、
前記外側アモルファスシリコン層上の疎油性コーティングと、
を備え、
前記外側アモルファスシリコン層は、前記テクスチャーが、約0.25μm〜約5μmの深さの溝、又は約0.25μm〜約5μmの高さのピラーを含むフューザ部材。
【請求項3】
基材と、
前記基材に配置された機能層であって、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロエラストマーからなる群より選択される機能層と、
テクスチャーパターンを有し、前記機能層上に配置されたシリコン層と、
前記シリコン層上に配置されたフルオロシランコーティングであって、ヘキサデカン接触角が約100°〜約175°であり、転落角が約1°〜約30°であるフルオロシランコーティングと、
を備えるフューザ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−175263(P2011−175263A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36696(P2011−36696)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】