説明

フレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法及び洗浄装置

【課題】レーザー彫刻方式にて表面が凹凸パターンに形成されたフレキシブル円筒状印刷版を簡便に洗浄する方法の提供。
【解決手段】樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンが形成された印刷層を含有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法であって、(1)該印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、(2)2つのローラーの間隔を離し、該印刷版にテンションをかけつつ回転させながら洗浄液により洗浄する洗浄工程、を含むフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法、製造装置及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スリーブ印刷版に代表される円筒状印刷版は、印刷機での装着性の容易さ、印刷速度を高速化できる生産性の高さ、高精度なレジストレーションが簡単に得られるなどの特徴を有する。また、スリーブ印刷版に対応した印刷機の増加と、薄いFRP(繊維強化プラスチック)スリーブに印刷層を形成した安価なブランクスリーブの普及に伴いスリーブ印刷版などの円筒状印刷版は特にその比率を高めている。
円筒状印刷版の印刷原版層は一般的に感光性樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物の硬化物が用いられるており、該樹脂組成物および印刷原版を円筒状に製造する方法及び装置は数多く提案されている。また、印刷層がシームレス態様ではないが、シート状に成型された樹脂硬化版を両面粘着テープやクッションテープなどで円筒状支持体に貼り付けて円筒状印刷版とする方法も提案されている。
【0003】
しかし、前記印刷原版層の表面をCOレーザー、YAGレーザー、またはファイバーレーザーなどのコヒーレントな光線で彫刻して凹凸パターンを形成すると、デブリーと呼ばれる彫刻残渣(融除滓)が印刷層の表面に残る。そのため、綺麗で高品質な印刷を行うにはデブリーを除去するための洗浄が必要である。
そこで、円筒状支持体が高剛性で厚く高強度を有する円筒状印刷版であればテーパーコーンで両端を保持し回転させながら洗浄する方法、または一対の弾性ローラーを装備して回転機構を有する弾性ローラーで円筒状印刷版を保持させ、もう片方の弾性ローラーとで円筒状印刷版を挟持することによって円筒状印刷版を回転させながら洗浄する方法などが知られている。
しかし、剛性が低く薄いフレキシブルな円筒状支持体の場合は、円筒状印刷版がダメージを受けない程度に洗浄能力を下げなければならないため、高品質な洗浄を得ることは難しく、高品質な洗浄を得るためには回転や洗浄などの外的負荷に耐えるための特別な工夫が必要である。そこで、特許文献1には、マンドレルに円筒状印刷版を装着してマンドレルとの一体態様で洗浄を行う方法などが提供されている。
【特許文献1】特開平10−198046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術では、上記の円筒状印刷版の洗浄方法及び洗浄装置においては、内径が異なる円筒状印刷版を処理する場合、内径に応じて外径の異なるマンドレルを用意しなければならないため経済的ではなく、重いマンドレルを取り扱う場合にはホイストなどの設備が必要となり、部品の交換作業などを含め作業性が悪い。
そこで本発明は、任意の内径を有するフレキシブル円筒状印刷版を特別な操作や作業を必要とすることなく、高品質な洗浄を可能とするフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法及び洗浄装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、印刷版にテンションをかけつつ回転させながら洗浄することにより上記課題を解決することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンが形成された印刷層を有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法であって、
(1)該印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、
(2)2つのローラーの間隔を離し、該印刷版にテンションをかけつつ回転させながら洗浄液により洗浄する洗浄工程、
を含むフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[2]
工程(2)の後に
(3)フレキシブル円筒状印刷版表面に気体を吹きつけてフレキシブル円筒状印刷版の印刷層の洗浄液を吹き飛ばす洗浄液切り工程
を含む前項[1]に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[3]
工程(2)の後に
(4)水洗水でフレキシブル円筒状印刷版の印刷層の洗浄液を洗い流すリンス工程、
(5)フレキシブル円筒状印刷版の印刷層に気体を吹きつけて水洗水を吹き飛ばす水洗水切り工程、
をさらに含む前項[1]に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[4]
工程(3)のあとに
(4)水洗水でフレキシブル円筒状印刷版の印刷層の洗浄液を洗い流すリンス工程、
(5)フレキシブル円筒状印刷版の印刷層に気体を吹きつけて水洗水を吹き飛ばす水洗水切り工程、
をさらに含む前項[2]に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[5]
工程(2)において、洗浄する方法がブラシ洗浄法および/またはスプレー洗浄法である前項[1]〜[4]のいずれかに記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[6]
樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンが形成された印刷層を含有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法であって、
(6)該印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、
(7)2つのローラーの間隔を離し、該印刷版にテンションをかけつつ回転させながらスチームジェット洗浄法により洗浄する洗浄工程、
を含むフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[7]
工程(7)の後に
(8)フレキシブル円筒状印刷版の印刷層に気体を吹きつけて水を吹き飛ばす工程
を含む前項[6]に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[8]
樹脂硬化物層が、フレキシブルな円筒状支持体の外周面に設けられた光硬化性樹脂硬化物層又は熱硬化性樹脂硬化物層である前項[1]〜[7]のいずれかに記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[9]
前記円筒状支持体が、円筒形状を保持するための強度補強されたスリーブまたは金属製スリーブである前項[1]〜[8]のいずれかに記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
[10]
(i)フレキシブル円筒状支持体上の樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンを形成するレーザー彫刻されたフレキシブル円筒状印刷版を製造する工程、または、シート状樹脂硬化物表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンを形成した後に該シート状樹脂硬化物をフレキシブル円筒状支持体上に配置するレーザー彫刻されたフレキシブル円筒状印刷版を製造する工程、
(ii)印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、
(iii)2つのローラーの間隔を離して該印刷版にテンションをかけつつ回転させながら洗浄液又はスチームジェット法により洗浄する洗浄工程、
を含むフレキシブル円筒状印刷版の製造方法。
[11]
回転機能を有する駆動ローラー、回転可能で線形移動機構を有するテンションローラー、駆動ローラーの外周部に噴射可能な洗浄液噴射ノズルを含む洗浄機構、を有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
[12]
駆動ローラーの外周部に噴射可能なリンス水噴射ノズルを含む水洗機構を更に有する前項[11]記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
[13]
駆動ローラーの外周部に噴射可能な水切りノズルを含む水切り機構を更に有する前項[11]又は[12]に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
[14]
回転機能を有する駆動ローラー、回転可能で線形移動機構を有するテンションローラー、駆動ローラーの外周部に噴射可能なスチームジェットノズルを含む洗浄機構、を有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
[15]
駆動ローラーの外周部に噴射可能な水切りノズルを含む水切り機構を更に有する前項[14]に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、レーザー彫刻方式にて表面が凹凸パターンに形成された任意の内径を有するフレキシブル円筒状印刷版を、特別な操作や作業が不要で、かつ、高品質な洗浄効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[洗浄方法]
本実施の形態の洗浄方法は、レーザー彫刻方式にて表面が凹凸パターンに形成された樹脂硬化物層を含有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法であって、(1)該印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、(2)2つのローラーの間隔を離して該印刷版にテンションをかけつつ回転させながら洗浄液で洗浄する洗浄工程を含む洗浄方法である。印刷版にかけるテンションは、用いるフレキシブル円筒状支持体や樹脂硬化物層の種類により一義的に定まるものではないが、フレキシブル円筒状印刷版の品質を害さない範囲でかけることができる。
【0008】
本実施の形態の洗浄方法は、上記工程(1)(2)のほかに、レーザー彫刻方式にて表面が凹凸パターンに形成された樹脂硬化物層を含有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法であって、(6)該印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、(7)2つのローラーの間隔を離し、該印刷版にテンションをかけつつ回転させながらスチームジェット洗浄法により洗浄する洗浄工程を含む方法である。印刷版にかけるテンションは、上述の通り用いるフレキシブル円筒状支持体や樹脂硬化物層の種類により一義的に定まるものではないが、フレキシブル円筒状印刷版の品質を害さない範囲でかけることができる。
樹脂硬化物層をレーザー彫刻方式にて表面に凹凸パターンを形成した際に、樹脂硬化物層の表面には樹脂硬化物層の分解物である彫刻残渣が発生する。本実施の形態において彫刻残渣とは、レーザー照射による樹脂硬化物層中の分子の切断により発生する低分子のモノマー、オリゴマー類などの粘稠性の液状彫刻残渣や、該液状彫刻残渣を吸収した後述の無機多孔質体(e)より発生する粉末状の固体彫刻残渣を示し、本実施の形態の洗浄方法は液状彫刻残渣、固体彫刻残渣のいずれに対しても優れた洗浄効果を有する。
【0009】
[工程(1)(6)装着工程]
本実施の形態の装着工程は、上記工程(1)または(6)により、印刷版の内径が大きく変わっても、特別な操作や作業をしないで同一操作で簡単に装着できる効果を奏する。
[工程(2)洗浄工程]
本実施の形態の洗浄方法は、上記工程(2)により、印刷版にテンションをかけて回転させているため、印刷版の表面に弛みやシワがない状態となり綺麗で高品質な洗浄が可能となるなどの効果を奏する。印刷版にかけるテンションは特に制限されないが、ローラーを回転させたときに滑ることなくフレキシブル円筒状支持体が回転する張力以上、フレキシブル円筒状支持体の許容引張応力以下であることが好ましい。
工程(2)の洗浄方式は、ブラシ洗浄法および/またはスプレー洗浄法であることが好ましい。
【0010】
ブラシ洗浄法とは、温調された洗浄液を丸ブラシまたは平ブラシに供給し、ブラシで印刷層表面を擦ることにより高い洗浄能力を得る方法である。洗浄液の温度は洗浄性の観点から30〜90℃が好ましく、更に対環境性を考慮すると、より好ましくは40〜60℃である。また、ブラシで印刷層表面を擦る際にブラシを左右に揺動させることが好ましい。ブラシを揺動させることで印刷層全体が均一に洗浄された印刷版を得ることができる。
スプレー洗浄法とは、洗浄ポンプで温調された洗浄液を0.1MPa以上に昇圧しノズルから印刷版に吹き付けて洗浄するものであり高い洗浄効果を得る方法である。洗浄液の温度は洗浄性の観点から30〜90℃が好ましく、更に対環境性を考慮すると、より好ましくは40〜60℃である。
本実施の形態において洗浄液とはレーザー彫刻時に発生する彫刻残渣に対して除去効果を有する液体であれば特に制限されないが、例えばライオン社製の洗浄液「サンウォッシュTL−75A」(商標)やバッヒャー社製の洗浄液「AQUASOL」(商標)に代表される界面活性剤を含む液や、それらを水で希釈したものが挙げられる。
【0011】
[工程(3)洗浄液きり工程]
本実施の形態の洗浄方法は、上記工程(2)の後、工程(3)フレキシブル円筒状印刷版表面に気体を吹きつけて上記洗浄工程で付着したフレキシブル円筒状印刷版表面の液体を吹き飛ばす洗浄液切り工程を有することが好ましい。用いる気体としては特に制限されないが、コストの観点から圧縮空気が好ましい。工程(3)により印刷版表面にフレキシブル円筒状印刷版表面の液体が残らないなどの洗浄品質の向上及び乾燥負荷を軽減する効果を奏する。
[工程(4)リンス工程]
さらに、本実施の形態の洗浄方法は上記(1)または(2)の後に、工程(4)水洗水で印刷版表面の洗浄液を洗い落とすリンス工程を行うことが好ましい。工程(4)(5)により、印刷版表面に洗浄液および水洗水が残らないなどの洗浄品質の更なる向上及び乾燥負荷の更なる軽減する効果を奏する。
[工程(5)水洗水きり工程]
さらに、本実施の形態の洗浄方法は上記(4)の後に工程(5)フレキシブル円筒状印刷版表面に気体を吹きつけて水洗水を吹き飛ばす水洗水切り工程を行うことが製造効率の観点から好ましい。
【0012】
[工程(7)洗浄工程]
本実施の形態の洗浄方法は、上記工程(2)のほかに、上記工程(7)のスチームジェット洗浄法による洗浄方法がある。工程(7)により、印刷版にテンションをかけて回転させながら洗浄するため、印刷版の表面に弛みやシワがない状態となり綺麗で高品質な洗浄が可能となるなどの効果を奏する。印刷版にかけるテンションは特に制限されないが、ローラーを回転させたときに滑ることなくフレキシブル円筒状支持体が回転する張力以上、フレキシブル円筒状支持体の引張許容応力以下であることが好ましい。
ここでスチームジェット洗浄法とは、蒸気発生器にて水を温度100℃以上、圧力を好ましくは5MPa以上、より好ましくは10MPa以上に温調昇圧された洗浄能力に秀でた蒸気に変換してノズルから印刷版に吹き付けて洗浄する方法であり、高い洗浄能力し、かつ洗浄剤や上述の工程(3)〜(5)が不要となる等の効果を奏する。
[工程(8)水洗水きり工程]
工程(7)の後に、(8)フレキシブル円筒状印刷版の印刷層に気体を吹きつけることによりスチームジェット洗浄法により印刷層の表面に付着した水を吹き飛ばす工程を含むことが製造効率の観点から好ましい。
【0013】
[フレキシブル円筒状印刷版]
本実施の形態のフレキシブル円筒状印刷版は、後述の樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンが形成された印刷層を有する。レーザー彫刻方式にて凹凸パターンが形成された印刷層は円筒状に形成された感光性樹脂組成物を光硬化せしめて得られる樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻をしてもよいし、円筒状に形成された熱硬化性樹脂組成物を熱硬化せしめて得られる樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻をしてもよいし、シート状樹脂硬化物層をフレキシブル円筒状支持体に配置した後にレーザー彫刻してもよいし、シート状樹脂硬化物層をレーザー彫刻した後にフレキシブル円筒状支持体に配置してもよい。
また、フレキシブル円筒状印刷版は印刷層のほかに印刷方式に応じて最適な構成体が採用される。例えば、フレキソ印刷などにおいては印刷層の他に円筒状支持体表面にクッション層を有する構成体が好ましく、ドライオフセット印刷では印刷層のみの構成体が好ましい。円筒状支持体とクッション層との間、円筒状支持体と印刷層の間、あるいはクッション層と印刷層との間には、接着剤又は粘着剤層(以下、これらを総称して、単に「接着剤層」という)が存在していても構わない。円筒状支持体上に両面粘着テープやクッションテープを使用して樹脂硬化物層または印刷層を貼り付けて用いることもできる。フレキシブル円筒状印刷版の構成体としては、支持体側から順に円筒状支持体/接着剤層/印刷層、円筒状支持体/クッション層/印刷層、または円筒状支持体/接着剤層/クッション層/印刷層などが挙げられるがこの限りではない。
【0014】
[樹脂硬化物層]
本実施の形態で用いる樹脂硬化物層はレーザー彫刻方式にて凹凸パターンが形成可能な樹脂硬化物層であればシート状であっても円筒状であっても特に制限されないが、製造効率の観点から好ましくはフレキシブル円筒状支持体の外周面に設けられ、かつ、レーザー彫刻方式を用いて表面に凹凸パターンが形成可能な円筒状樹脂硬化物層であり、より好ましくは感光性樹脂組成物または熱硬化性樹脂組成物の硬化物層であり、更に好ましくは円筒状に形成された感光性樹脂組成物を光硬化せしめて得られる樹脂硬化物層または円筒状に形成された熱硬化性樹脂組成物を熱硬化せしめて得られる樹脂硬化物層である。
[感光性樹脂組成物]
レーザー彫刻方式を用いて表面に凹凸パターンが形成可能な感光性樹脂組成物としては、後述の樹脂(a)、有機化合物(b)および光重合開始剤(c)を含有することが好ましい。
[熱硬化性樹脂組成物]
レーザー彫刻方式を用いて表面に凹凸パターンが形成可能な熱硬化性樹脂組成物としては、後述の樹脂(a)、有機化合物(b)および熱重合開始剤(d)を含有することが好ましい。
【0015】
[樹脂(a)]
樹脂組成物は、20℃において固体状であっても液状であっても構わないが、成形性の容易さから、20℃において液状樹脂組成物であることが特に好ましい。ここで言う液状樹脂組成物とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対する言葉である。
樹脂(a)が20℃において液状樹脂である場合に、樹脂組成物も20℃において液状である。これから得られる液状樹脂組成物をシート状、もしくは円筒状に成形する際、良好な厚み精度や寸法精度を得ることができる樹脂組成物は、好ましくは、20℃における粘度が10Pa・s以上10kPa・s以下である。さらに好ましくは、50Pa・s以上5kPa・s以下である。粘度が10Pa・s以上であれば、作製される樹脂硬化物層の機械的強度が十分であり、円筒状に成形する場合においても形状を保持し易く、加工し易い。粘度が10kPa・s以下であれば、常温でも変形し易く、加工が容易である。シート状あるいは円筒状の樹脂硬化物に成形し易く、プロセスも簡便である。特に厚み精度の高い円筒状樹脂硬化物層を得るためには、円筒状支持体上に液状樹脂組成物層を形成する際に、該液状樹脂組成物が重力により液ダレ等の現象を起こさないように粘度を100Pa・s以上、より好ましくは200Pa・s以上、更に好ましくは500Pa・s以上の比較的粘度の高い液状樹脂組成物であることが望ましい。
【0016】
樹脂(a)の数平均分子量は、1000以上30万以下、より好ましくは2000以上15万以下、更に好ましくは5000以上5万以下である。樹脂(a)の数平均分子量は1000以上であれば、後に硬化して作製する樹脂硬化物層が強度を保ち、印刷層として用いる場合、繰り返しの使用にも耐えられる。また、樹脂(a)の数平均分子量の上限は、20万以下が好ましい。30万以下であれば、樹脂組成物の粘度が過度に上昇することもなく、シート状、あるいは円筒状の樹脂硬化物を作製する際に加熱押し出し等の複雑な加工方法は必要ない。ここで言う数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
樹脂(a)は、分子内に重合性不飽和基を有していても構わない。特に好ましい化合物として1分子あたり平均で0.7以上の重合性不飽和基を有するポリマーを挙げることができる。1分子あたり平均で0.7以上であれば、樹脂硬化物層の機械強度に優れ、耐久性も良好で、特に円筒状印刷版として繰り返しの使用にも耐えうるものとなり好ましい。樹脂硬化物層の機械強度を考慮すると、樹脂(a)の重合性不飽和基は1分子あたり0.7以上が好ましく、1を越える量が更に好ましい。また、1分子あたりの重合性不飽和基数の上限については特に限定しないが、好ましい範囲としては20以下である。20以下であれば、硬化時の収縮を低く抑えることができ、また表面近傍でのクラック等の発生も抑制できる。
【0017】
ここで言う分子内とは高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端や高分子主鎖中や側鎖中に直接、重合性不飽和基が付いている場合なども含まれる。
具体的な樹脂(a)としては、下記に示すようなポリマーを骨格として、前記特定官能基を有するものを挙げることができる。骨格となるポリマーの例として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのポリジエン類、ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニリデン等のポリハロオレフィン類、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリウレア、ポリイミド等の主鎖にヘテロ原子を有する高分子化合物等からなる群より選ばれる1種若しくは2種以上のものをもちいることができる。複数の高分子化合物を用いる場合の形態としては共重合体、ブレンドどちらでもよい。
【0018】
特にフレキソ印刷版用途のように柔軟なレリーフ画像が必要な場合には、樹脂(a)として、一部、ガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂、さらに好ましくはガラス転移温度0℃以下の液状樹脂を添加することもできる。このような液状樹脂として、例えばポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポイソプレン等の炭化水素類、アジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン類、(メタ)アクリル酸及び/またはその誘導体の重合体及びこれらの混合物やコポリマー類があげられる。その含有量は、樹脂(a)全体に対して30wt%以上100wt%以下含有することが好ましい。特に耐候性の観点からポリカーボネート構造を有する不飽和ポリウレタン類が好ましい。
【0019】
樹脂(a)を構成する化合物に重合性不飽和基を導入する方法として、例えば直接、重合性の不飽和基をその分子末端あるいは分子鎖中に導入したものを用いても良いが、別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、エステル基などの反応性基を複数有する化合物に、前記反応性基と結合しうる官能基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後に、反応によって得られた化合物と、この化合物の末端結合性基と反応する官能基および重合性不飽和基を有する化合物とを反応させて、末端に重合性不飽和基を導入する方法などの方法が好適にあげられる。
【0020】
また、レーザー彫刻の観点から樹脂(a)として熱分解性の高い化合物を使用することが好ましい。例えば、α−メチルスチレン、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、カーボネート結合、カルバメート結合等を分子内に有する化合物は、熱分解性の高い化合物として知られている。熱分解性の指標として、不活性ガス雰囲気中でサンプルを加熱した際の重量減少を測定した熱重量分析法のデータを用いることができる。好ましい樹脂としては、重量が半減する時点の温度が、150℃以上450℃以下の範囲であることが好ましい。より好ましい範囲は、250℃以上400℃以下、更に好ましくは、250℃以上380℃以下である。また、熱分解が狭い温度範囲で起こる化合物が好ましい。その指標として、前記熱重量分析において、重量が初期重量の80%に減少する温度と、重量が初期重量の20%に減少する温度との差が、100℃以下であることが好ましい。より好ましくは、80℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
【0021】
[有機化合物(b)]
有機化合物(b)は、ラジカル重合反応あるいは開環重合反応に関与する不飽和結合を有した化合物であり、樹脂(a)との希釈のし易さを考慮すると数平均分子量は1000以下が好ましい。有機化合物(b)は例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリルアルコール、アリルイソシアネート等のアリル化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸及びそれらの誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、シアネートエステル類等があげられるが、その種類の豊富さ、価格等の観点から(メタ)アクリル酸及び、(メタ)アクリル酸エステル等の誘導体が好ましい例である。
【0022】
該誘導体は、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、シクロアルケン基、ビシクロアルケン基等の官能基を有する脂環族化合物、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、メチルスチリル基、スチリル基等の官能基を有する芳香族化合物、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、テトラヒドロフルフリル基、グリシジル基等の官能基を有する化合物、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、(アルキル/アリルオキシ)ポリアルキレングリコールやトリメチロールプロパン等の多価アルコールのエステル化合物等があげられる。
本実施の形態において、これら重合性不飽和基を有する有機化合物(b)はその目的に応じて1種若しくは2種以上のものを選択できる。例えば印刷版として用いる場合、印刷インキの溶剤であるアルコールやエステル等の有機溶剤に対する膨潤を押さえるために用いる有機化合物として長鎖脂肪族、脂環族または芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。
感光性樹脂組成物または熱硬化性樹脂組成物より得られる樹脂硬化物層および円筒状印刷版の機械強度を高めるためには、有機化合物(b)としては脂環族または芳香族置換基を有する化合物が、少なくとも1種類以上有することが好ましい。
【0023】
[微粒子]
感光性樹脂組成物および熱硬化性樹脂組成物には無機系微粒子、有機系微粒子、有機無機複合微粒子を添加することができる。これらの微粒子を添加することにより硬化させて得られる樹脂硬化物層および円筒状印刷版の機械的物性の向上、樹脂硬化物層および円筒状印刷版表面の濡れ性改善、あるいは感光性樹脂組成物および熱硬化性樹脂組成物の粘度の調整、樹脂硬化物層および円筒状印刷版の粘弾性特性の調整等が可能となる。無機系微粒子あるいは有機系微粒子の材質は特に限定するものではなく、公知のものを用いることができる。また、有機無機複合微粒子として、無機系微粒子の表面に有機物層あるいは有機系微粒子を形成した微粒子、あるいは有機系微粒子表面に無機物層あるいは無機微粒子を形成した微粒子等をあげることができる。
【0024】
樹脂硬化物層および円筒状印刷版の機械的物性を向上させる目的では、窒化珪素、窒化ホウ素、炭化珪素等の剛性の高い無機系微粒子あるいはポリイミド等の有機系微粒子を用いることができる。更に、得られた樹脂硬化物層および円筒状印刷版の耐溶剤特性を向上させる目的で、無機系微粒子や、使用する溶剤への膨潤特性の良好な材質で形成された有機系微粒子を添加することもできる。
また、レーザー彫刻法により樹脂硬化物層表面にパターンを形成する目的のために、レーザー彫刻時に発生する粘稠性液状残渣の吸着除去特性に優れる無機多孔質微粒子を添加しても構わない。特に限定するものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等を挙げることができる。
【0025】
微粒子は、数平均粒径が0.01〜100μmであることが好ましい。この数平均粒径の範囲の微粒子を用いた場合、樹脂(a)及び有機化合物(b)との混合を行う際に粘度の上昇、気泡の巻き込み、粉塵の大量発生等の不都合を生じることなく、樹脂硬化物層および円筒状印刷版表面に凹凸が発生することもない。より好ましい平均粒子径の範囲は、0.1〜20μmであり、更に好ましい範囲は1〜10μmである。本実施の形態の微粒子の平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した値である。
微粒子の粒子形状は特に限定するものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、あるいは表面に突起のある粒子などを使用することができる。特に耐磨耗性の観点からは、球状粒子が好ましい。
また、微粒子の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の有機化合物で被覆し表面改質処理を行い、より親水性化あるいは疎水性化した粒子を用いることもできる。これらの微粒子は1種類もしくは2種類以上のものを選択できる。
感光性樹脂組成物または熱硬化性樹脂組成物の割合は、通常、樹脂(a)100重量部に対して、有機化合物(b)は5〜200重量部が好ましく、20〜100重量部の範囲がより好ましい。又、微粒子は1〜100重量部が好ましく、2〜50重量部の範囲がより好ましい。更に好ましい範囲は、2〜20重量部である。
【0026】
[光重合開始剤(c)]
前記感光性樹脂組成物を光硬化させて樹脂硬化物層を形成する場合、光硬化に用いる光としては、紫外線、可視光線の他、電子線、X線等の高エネルギー線を用いることもできる。特に紫外線、可視光線を用いて光硬化させる場合、光重合開始剤を添加することが好ましい。光重合開始剤(c)としては、水素引き抜き型光重合開始剤(c−1)あるいは/および崩壊型光重合開始剤(c−2)を添加することが好ましい。
【0027】
水素引き抜き型光重合開始剤(c−1)として、特に限定するものではないが、芳香族ケトンを用いることが好ましい。芳香族ケトンは光励起により効率良く励起三重項状態になり、この励起三重項状態は周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化学反応機構が提案されている。生成したラジカルが光架橋反応に関与するものと考えられる。本実施の形態で用いる水素引き抜き型光重合開始剤(c−1)として励起三重項状態を経て周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化合物であれば何でも構わない。芳香族ケトンとして、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、キサンテン類、チオキサントン類、アントラキノン類を挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾフェノン類とは、ベンゾフェノンあるいはその誘導体を指し、具体的には3,3‘,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3‘,4,4’−テトラメトキシベンゾフェノン等である。ミヒラーケトン類とはミヒラーケトンおよびその誘導体をいう。キサンテン類とはキサンテンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をいう。チオキサントン類とは、チオキサントンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をさし、エチルチオキサントン、メチルチオキサントン、クロロチオキサントン等を挙げることができる。アントラキノン類とはアントラキノンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基等で置換された誘導体をいう。水素引き抜き型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の0.3wt%以上10wt%以下、より好ましくは0.5wt%以上5wt%以下であることが望ましい。添加量がこの範囲であれば、液状感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合、硬化物表面の硬化性は充分に確保でき、また、長期保存時に表面にクラック等が発生せず、退候性を確保することができる。
【0028】
崩壊型光重合開始剤(c−2)とは、光吸収後に分子内で開裂反応が発生し活性なラジカルが生成する化合物を指し、特に限定するものではない。具体的には、ベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類、アセトフェノン類、アシルオキシムエステル類、アゾ化合物類、有機イオウ化合物類、アシルホスフィンオキシド類、ジケトン類等を挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等を挙げることができる。2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン等を挙げることができる。アセトフェノン類としては、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン等を挙げることができる。アシルオキシムエステル類としては、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム等を挙げることができる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾニウム化合物、テトラゼン化合物等を挙げることができる。ジケトン類としては、ベンジル、メチルベンゾイルホルメート等を挙げることができる。崩壊型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の0.3wt%以上10wt%以下、より好ましくは0.5wt%以上5wt%以下であることが望ましい。添加量がこの範囲であれば、液状感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合、硬化物内部の硬化性は充分に確保できる。
【0029】
水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する化合物を、光重合開始剤として用いることもできる。α−アミノアセトフェノン類を挙げることができる。例えば、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン等の化合物を挙げることができる。
水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する光重合開始剤の添加量としては、感光性樹脂組成物全体量の0.3wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.5wt%以上3wt%以下である。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合であっても、硬化物の機械的物性は充分に確保できる。
【0030】
[熱重合開始剤(d)]
熱重合開始剤は、ラジカル重合反応系の場合、有機過酸化物、無機過酸化物、チオール化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂等の化合物を挙げることができる。また、開環重合反応系の場合は、マイクロカプセル中に塩基性化合物や酸性化合物を含む潜在性熱重合開始剤が好ましい。熱重合開始剤の添加量としては、熱硬化性樹脂組成物全体量の0.3wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.5wt%以上3wt%以下である。添加量がこの範囲であれば、熱硬化性樹脂組成物の機械的物性は充分に確保できる温度の範囲内での硬化を可能にする。
【0031】
[クッション層]
本実施の形態では、樹脂硬化物層の下部にエラストマーからなるクッション層を形成することもできる。本実施の形態で形成される樹脂硬化物の厚さは、0.05〜50mmであることが好ましく、それ以外の下部層は組成の異なる材料であっても構わない。クッション層としては、ショアA硬度が10以上70度以下、あるいはASKER−C型硬度計で測定したASKER−C硬度が20度以上85度以下のエラストマー層であることが好ましい。ショアA硬度が10度以上あるいはASKER−C硬度が20度以上である場合、適度に変形するため、印刷品質を確保することができる。また、ショアA硬度が70度以下あるいはASKER−C硬度が85度以下であれば、クッション層としての役割を果たすことができる。より好ましいショアA硬度の範囲は20〜60度、ASKER−C硬度では45〜75度の範囲である。ショアA硬度とASKER−C硬度は、クッション層に使用する材質により使い分けることが好ましい。2種類の硬度の違いは、測定に用いる硬度計の押針形状の違いに由来する。均一な樹脂組成の場合、ショアA硬度を用いることが好ましく、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等の発泡性基材のように不均一な樹脂組成の場合には、ASKER−C硬度を用いることが好ましい。ASKER−C硬度は、JIS K7312規格に準拠する測定法である。
【0032】
前記クッション層は、特に限定せず、熱可塑性エラストマー、光硬化型エラストマー、熱硬化型エラストマー等ゴム弾性を有するものであれば何でも構わない。特にシート状あるいは円筒状印刷版への加工性の観点から、光で硬化する液状感光性樹脂組成物を用い、硬化後にエラストマー化する材料を用いることが簡便であり好ましい。
本実施の形態のクッション層は、気泡あるいは有機系微粒子を含有することが好ましい。前記有機系微粒子の平均粒子径が1μm以上500μm以下であることが好ましい。より好ましい範囲は10μm以上300μm以下、更にこのましくは80μm以上200μm以下である。
【0033】
クッション層の密度は、0.1g/cm以上0.9g/cm以下であることが好ましい。より好ましくは0.3g/cm以上0.7g/cm以下、更に好ましくは0.4g/cm以上0.6g/cm以下である。クッション層の密度がこの範囲であれば、印刷工程においてレーザー彫刻された硬化物層(A)にかかる衝撃を充分に吸収することができる。
クッション層に用いる熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン系熱可塑性エラストマーであるSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0034】
光硬化型エラストマーとしては、前記熱可塑性エラストマーに光重合性モノマー、可塑剤および光重合開始剤等を混合したもの、液状樹脂に光重合性モノマー、光重合開始剤等を混合した液状感光性樹脂組成物などを挙げることができる。本実施の形態では、微細パターンの形成機能が重要な要素である感光性樹脂組成物の設計思想とは異なり、光を用いて微細なパターンの形成を行う必要がなく、全面露光により硬化させることにより、必要な機械的強度を確保できれば良いため、材料の選定において自由度が極めて高い。
また、硫黄架橋型ゴム、有機過酸化物、フェノール樹脂初期縮合物、キノンジオキシム、金属酸化物、チオ尿素等の化合物を架橋剤として用いる非硫黄架橋型ゴムでも構わない。
【0035】
更に、テレケリック液状ゴムを反応する硬化剤を用いて3次元架橋させてエラストマー化したものを使用することもできる。
また、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等の材質で、独立あるいは連続気泡を層内に有するクッション層であっても構わず、市販品として入手可能なクッション材、クッションテープを使用することもでき、クッション層の片面あるいは両面に接着剤あるいは粘着剤が塗布されたものであっても構わない。
本実施の形態において多層化して印刷基材として使用する場合、前記バックフィルムの位置は、クッション層の下、すなわち印刷基材の最下部、あるいは、光硬化性樹脂硬化物層とクッション層との間の位置、すなわち印刷基材の中央部、いずれの位置でも構わない。
【0036】
[フレキシブル円筒状支持体]
フレキシブル円筒状支持体とは、外力に応じて形状が変化するものを意味し、中空のフレキシブル円筒状支持体(以下スリーブと称すことがある)をいう。
スリーブの材質がニッケル、鉄等の金属製であれば、スリーブの厚みは0.2mm以下が好ましい。ガラス繊維、炭素繊維、プラスチック繊維等で強化された繊維強化プラスチックであれば、スリーブの厚みは1.0mm以下が好ましい。スリーブは、エアーシリンダに装着した状態で印刷工程において用いられる。ここでエアーシリンダとは印刷業界でエアーマンドレルと呼ばれる中空の金属芯棒に圧気を供給し外周面から圧気を吹き出すことによってスリーブの装脱着が可能となるシステムである。
【0037】
[樹脂硬化物層およびフレキシブル円筒状印刷版の製造方法]
樹脂硬化物層およびフレキシブル円筒状印刷版を製造する方法としては特に制限されないが、使用する樹脂組成物の性質により下記の方法を例示することができる。
使用する樹脂が感光性樹脂組成物の場合は例えば、シート状に成形しシート状のまま光硬化させて得られたシート状樹脂硬化物層をフレキシブル円筒状支持体上に積層し、樹脂硬化物層の表面に後述のレーザー彫刻法により表面に印刷パターンを形成しフレキシブル円筒状印刷版を得る方法、
シート状に成形しシート状のまま光硬化させて得られたシート状樹脂硬化物層を作製し、該樹脂硬化物層の表面に後述のレーザー彫刻法により表面に印刷パターンを形成し、それをフレキシブル円筒状支持体上に積層しフレキシブル円筒状印刷版を得る方法、
シート状の感光性樹脂組成物層をフレキシブル円筒状支持体上に形成した後に光硬化させ、樹脂硬化物層の表面に後述のレーザー彫刻法により表面に印刷パターンを形成しフレキシブル円筒状印刷版を得る方法が挙げられ、
さらに使用する樹脂が室温で液状の感光性樹脂組成物である場合は、液状感光性樹脂を樹脂塗布平滑化ユニットに供給し、フレキシブル円筒状支持体を回転させながら樹脂塗布平滑化ユニットにてフレキシブル円筒状支持体の外周面に液状感光性樹脂を塗布しながら均一な厚みに成型する。更に、フレキシブル円筒状支持体を回転させながら高強度な紫外線で露光し光硬化させ円筒状樹脂硬化物層を作製し、該円筒状樹脂硬化物層の表面に後述のレーザー彫刻法により表面に印刷パターンを形成しフレキシブル円筒状印刷版を得る方法が例として挙げられる。
【0038】
使用する樹脂が熱硬化性樹脂組成物の場合は例えば、シート状に成形しシート状のまま熱硬化させて得られたシート状樹脂硬化物層をフレキシブル円筒状支持体上に積層し、樹脂硬化物層の表面に後述のレーザー彫刻法により表面に印刷パターンを形成しフレキシブル円筒状印刷版を得る方法、
シート状に成形しシート状のまま熱硬化させて得られたシート状樹脂硬化物層を作製し、該樹脂硬化物層の表面に後述のレーザー彫刻法により表面に印刷パターンを形成し、それをフレキシブル円筒状支持体上に積層しフレキシブル円筒状印刷版を得る方法、
シート状の熱硬化性樹脂組成物層をフレキシブル円筒状支持体上に積層した後に熱硬化させ、樹脂硬化物層の表面に後述のレーザー彫刻法により表面に印刷パターンを形成しフレキシブル円筒状印刷版を得る方法が挙げられ、
さらに使用する樹脂が室温で液状の熱硬化性樹脂組成物である場合は、液状熱硬化性樹脂を樹脂塗布平滑化ユニットに供給し、フレキシブル円筒状支持体を回転させながら樹脂塗布平滑化ユニットにてフレキシブル円筒状支持体の外周面に液状熱硬化性樹脂を塗布しながら均一な厚みに成型した後又は同時に熱を加え硬化させ円筒状樹脂硬化物層を作製し、該円筒状樹脂硬化物層の表面に後述のレーザー彫刻法により表面に印刷パターンを形成しフレキシブル円筒状印刷版を得る方法が例として挙げられる。
【0039】
[レーザー彫刻]
レーザー彫刻法においては、形成したい画像をデジタル型のデータとしてコンピューターを利用してレーザー装置を操作し、レリーフ画像を作成する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、樹脂硬化物層が吸収を有する波長の光を発振するものであればどのようなものを用いてもよいが、彫刻を高速度で行うためには出力の高いものが望ましく、炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線あるいは赤外線放出固体レーザーが好ましいものの一つである。また、可視光線領域に発振波長を有するYAGレーザーの第2高調波、銅蒸気レーザー、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3あるいは第4高調波へ波長変換したYAGレーザーは、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に適する。また、レーザーは連続照射でも、パルス照射でも良い。印刷層のレリーフ深度が0.1mm以上の印刷層においては、レーザー彫刻による印刷版の生産性の観点から、炭酸ガスレーザーを用いることが好ましい。
レーザーによる彫刻は酸素含有ガス下、一般には空気存在下もしくは気流下に実施するが、炭酸ガス、窒素ガス下でも実施できる。
【0040】
[洗浄装置]
フレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置の形態の一つとしては、能動回転機能を有する駆動ローラーと、回転可能で線形移動機構を有するテンションローラーの少なくとも2つのローラー、駆動ローラーの外周部に噴射可能な洗浄液噴射ノズルを含む洗浄機構を有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置である。駆動ローラーの回転はモーターなどの外力によりローラー自身が能動的に回転する機能であり、テンションローラーの回転は能動回転でも受動回転でもよい。洗浄液噴射ノズルの位置は駆動ローラーの外周部に対して洗浄液を噴射可能であれば特に制限されないが、駆動ローラーの外周面からの距離が5cm以上50cm以下であることが好ましく、5cm以上20cm以下であることがより好ましい。
【0041】
この構成によれば、任意の内径を有するフレキシブル円筒状印刷版を、駆動ローラーとテンションローラーで内周面を保持し、テンションローラーと駆動ローラーの間隔を離すことにより、該印刷版が弛んだ状態から伸ばされてテンションがかかった状態となる。そして該テンションのかかった状態で駆動ローラーを回転させフレキシブル円筒状印刷案を回転させながら洗浄することで、印刷層表面が弛みやシワがない状態での洗浄が可能となり、彫刻残渣(融除滓)の除去がムラなく効率的に行われ、綺麗で高品質な洗浄効果を得ることが可能となる。
また、駆動ローラーの外周部に噴射可能なリンス水噴射ノズルを含む水洗機構を更に有することによりフレキシブル円筒状印刷版の印刷層に付着しうる洗浄液を容易に除去することを可能にする。リンス水噴射ノズルの位置は駆動ローラーの外周部に対してリンス水を噴射可能であれば特に制限されないが、駆動ローラーの外周面からの距離が10cm以上50cm以下であることが好ましく、10cm以上20cm以下であることがより好ましい。
【0042】
さらに外周部に噴射可能な水切りノズルを含む水切り機構を更に有することによりフレキシブル印刷版の印刷層に付着しうる洗浄液や水を容易に除去することを可能にする。水切りノズルの位置は駆動ローラーの外周部に対して気体を噴射可能であれば特に制限されないが、駆動ローラーの外周面からの距離が5cm以上20cm以下であることが好ましく、5cm以上10cm以下であることがより好ましい。
本実施の形態のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置の別の形態としては、能動回転機能を有する駆動ローラーと、回転可能で線形移動機構を有するテンションローラーの少なくとも2つのローラー、駆動ローラーの外周部に噴射可能なスチームジェットノズルを含む洗浄機構、を有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置であってもよい。駆動ローラーの回転はモーターなどの外力によりローラー自身が能動的に回転する機能であり、テンションローラーの回転は能動回転でも受動回転でもよい。洗浄液噴射ノズルは駆動ローラーの外周部に対して洗浄液を噴射可能な位置であれば特に制限されないが、装着性の観点から駆動ローラーの外周面からの距離が5cm以上50cm以下であることが好ましく、5cm以上20cm以下であることがより好ましい。
【0043】
この構成によれば、任意の内径を有するフレキシブル円筒状印刷版を、駆動ローラーとテンションローラーで内周面を保持し、テンションローラーと駆動ローラーの間隔を離すことにより、該印刷版が弛んだ状態から伸ばされてテンションがかかった状態となる。そして該テンションのかかった状態で駆動ローラーを回転させフレキシブル円筒状印刷案を回転させながら洗浄することで、印刷層表面が弛みやシワがない状態での洗浄が可能となり、彫刻残渣(融除滓)の除去がムラなく効率的に行われ、綺麗で高品質な洗浄効果を得ることが可能となる。
さらに駆動ローラーの外周部に噴射可能な水切りノズルを含む水切り機構を更に有することによりフレキシブル印刷版の印刷層に付着しうる洗浄液や水を容易に除去することを可能にする。水切りノズルの位置は駆動ローラーの外周部に対して気体を噴射可能であれば特に制限されないが、駆動ローラーの外周面からの距離が5cm以上20cm以下であることが好ましく、5cm以上10cm以下であることがより好ましい。
【0044】
[用途]
本実施の形態のフレキシブル円筒状印刷版は、例えば、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、グラビア印刷、Printable Electronicsパターン印刷などに用いることができるがこの限りではないが、彫刻残渣の残存に過敏な精密印刷分野、電子材料用印刷分野において特に有用である。
【実施例】
【0045】
以下、本実施の形態のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法が容易に実施可能な洗浄装置の好ましい一例を、図面を用いて説明するが、本発明は以下の限定されるものではない。
[洗浄装置]
図1は、本実施の形態に係るフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置(以下、本洗浄装置と称す)の概略構成を説明するための正面模式図である。
図2はスチームジェット洗浄法を用いたフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置を説明するための正面模式図である。
図1に示す本洗浄装置は、レーザー彫刻が完了したフレキシブル円筒状印刷版を一対のローラーに装着してテンションをかけた状態で回転させ、ブラシで洗浄、洗浄完了後に水道水によるリンス、次に圧気噴射させて水切りを行い、一連の洗浄工程が完結する。
本洗浄装置は、図1で示すように、印刷版100の内周面を保持するための回転機能を有する駆動ローラー110と、回転可能で線形移動機構を有しているテンションローラー120を一対で備えている。駆動ローラー110は、回転機構と連結されており該印刷版にテンションをかけながら回転させるローラーであり、テンションローラー120は回転可能で線形移動機構を有しており、線形移動しながら駆動ローラーとの間隔を離すことで、装着時には2つのローラーにぶらさがっているだけであった印刷版100にテンションかけることが可能なローラーである。
【0046】
洗浄機能としては、温調機能を有する洗浄液タンク150と、洗浄ポンプ160と、噴射ノズル170と、移動と揺動機能を有する平ブラシ180とを備え、水道水に連結したリンス水噴射ノズル190と、圧縮空気と連結した水切りノズル200とを備えている。
図2はスチームジェット洗浄方法の一例であり、蒸気発生器400と、スチームジェットノズル410とを備えている。
次に、上記構成の本洗浄装置を用いたフレキシブル円筒状印刷版の製造方法の一例を説明する。
洗浄液としてはライオン社製の洗浄液「サンウォッシュTL−75A」(商標)、バッヒャー社製の洗浄液「AQUASOL」(商標)や、それらを水に希釈した液を使用する。
【0047】
図1で示すように、駆動ローラー110と待機状態に位置するテンションローラー120に円筒状印刷版100の内周面をベルトのように掛けて装着する。装着が終わったら、安全カバー300を閉めて洗浄が始まる。テンションローラー120がエアーシリンダで矢印Aの方向に線形移動を行いテンションが円筒状印刷版100に加わると、駆動ローラーが回転を始め、それとともに円筒状印刷版100が回転する。次に、平ブラシ180が矢印Bの方向に前進し円筒状印刷版100表面と接触する設定位置まで移動するが、設定位置は平ブラシ180の先端が0〜1mm程度円筒状印刷版100表面に食い込む位置が好ましい。平ブラシ180の移動開始と共に洗浄ポンプ160から温調された洗浄液500を円筒状印刷版100に向けて噴射して洗浄とブラシ洗浄を同時に行うが洗浄中はブラシを揺動させる方が好ましい。洗浄が終わったら、平ブラシ180が後退しリンス水噴射ノズル190から水道水を吹きつけ、リンス行程が終わったら、水切りノズル200から圧気を吹き付けて水切りを行う。以上の洗浄工程が完結したら、安全カバー300を開け、テンションローラー120を待機状態に戻して円筒状印刷版100を取り出す。
【0048】
[製造例1]フレキシブル円筒状印刷版の製造
温度計、攪拌機、還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに旭化成株式会社製ポリカーボネートジオールである、商標「PCDL L4672」(数平均分子量1990、OH価56.4)447.24gとトリレンジイソシアナート30.83gを加え80℃に加温下に約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート14.83gを添加し、さらに約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約2個)である数平均分子量約10000の樹脂(a−1)を製造した。この樹脂は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0049】
樹脂(a)として、製造例1で作製した樹脂(a−1)70重量部、有機化合物(b)として、フェノキシエチルメタクリレート(分子量190)10重量部およびポリピレングリコールモノメタクリレート(分子量400)10重量部、富士シリシア化学株式会社製、多孔質性微粉末シリカである、「サイロスフェアC−1504」(以下略してC−1504、数平均粒子径4.5μm、比表面積520m/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5wt%、吸油量290ml/100g)(商標)5重量部、光重合開始剤(c)としてベンゾフェノン0.5重量部および2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン0.6重量部を混合した感光性樹脂組成物を調整した。得られた感光性樹脂組成物は、20℃において液状であった。また、B型粘度計を用いて測定した粘度は、20℃において、1200Pa・sであった。
得られた感光性樹脂組成物を、光硬化性接着剤を厚さ0.1mmで塗布した厚さ0.45mm、内径226.12mm、幅200mmのナイロンクロスで強化された中空円筒状支持体上に、厚さ0.5mmに成形し、メタルハライドランプ(フュージョン社製、商標「F450V型UVランプ」)の光を350nmにおいて4000mJ/cmの条件で露光し、円筒状樹脂硬化物層を形成した。
得られた樹脂硬化物層の表面に、炭酸ガスレーザー彫刻機を用いて凹凸パターンを形成し円筒状印刷版を得た。円筒状印刷版の表面には粘稠性の液状彫刻残渣および粉末状の固体彫刻残渣が存在していた。
【0050】
[製造例2]フレキシブル円筒状印刷版の製造
多孔質性微粉末シリカである、「サイロスフェアC−1504」を添加しなかった以外は製造例1と同様にして感光性樹脂組成物、円筒状樹脂硬化物層、円筒状印刷版を作製した。円筒状印刷版の表面には粉末状の固体彫刻残渣は存在していなかったが、粘稠性の液状彫刻残渣が製造例1よりも多く存在していた。
【0051】
[製造例3]熱硬化性樹脂組成物
光重合開始剤としてベンゾフェノンおよび2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを添加せず、替わりに熱重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(日本油脂株式会社製 商標「パーブチルE」)1質量部加えた以外は製造例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
得られた熱硬化性樹脂組成物を、光硬化性接着剤を厚さ0.1mmで塗布した厚さ0.45mm、内径226.12mm、幅200mmのナイロンクロスで強化されたプラスチックからなる中空円筒状支持体上に、厚さが1mmになるようにプレス成形した。この時、プレスの温度は130℃で30分間加熱し熱硬化させ、円筒状の樹脂硬化物層を形成した。
得られた樹脂硬化物層の表面に、炭酸ガスレーザー彫刻機を用いて凹凸パターンを形成し円筒状印刷版を得た。円筒状印刷版の表面には粘稠性の液状彫刻残渣および粉末状の固体彫刻残渣が存在していた。
【0052】
[製造例4]
中空円筒状支持体として光硬化性接着剤を厚さ0.1mmで塗布した厚さ0.125mm、内径226.12mm、幅200mmのニッケルメッキスリーブを用いた以外は実施例1と同様にして感光性樹脂組成物、円筒状の樹脂硬化物層、円筒状印刷版を作製した。円筒状印刷版の表面には粘稠性の液状彫刻残渣および粉末状の固体彫刻残渣が存在していた。
【0053】
[実施例1]
図1に示される装置を用いて、駆動ローラー110と待機状態に位置するテンションローラー120に製造例1で得られたフレキシブル円筒状印刷版の内周面をベルトのように掛けて装着し、テンションローラー120をエアーシリンダで矢印Aの方向に線形移動させて円筒状印刷版100にテンションを加えた後、駆動ローラー110を回転させ円筒状印刷版100を回転させた。
次に平ブラシ180を矢印Bの方向に前進させ円筒状印刷版100表面と平ブラシ180の先端が0.5mm程度円筒状印刷版100表面に食い込む位置まで移動させると同時に、洗浄ポンプ160から50℃に温調され、1MPaに昇圧された洗浄液500(ライオン社製の洗浄液「サンウォッシュTL−75A」(商標)を水で20倍に希釈)を円筒状印刷版100に向けて噴射して、かつ、ブラシを振動させることで洗浄とブラシ洗浄を同時に行った。該洗浄が終わった後に、平ブラシ180を後退させ、リンス水噴射ノズル190から水道水を吹きつけ、最後に水切りノズル200から圧縮空気を吹き付けて水切りを行った。以上の洗浄工程により洗浄された円筒状印刷版を、安全カバー300を開け、テンションローラー120を待機状態に戻してから取り出し、版表面を観察した。
版表面には液状彫刻残渣・固体彫刻残渣のいずれも存在していなかった。また、印刷の凹凸パターンの版欠けは存在していなかった。
【0054】
[実施例2]
洗浄ポンプでの昇圧を0.2MPaにした以外は実施例1と同様にフレキシブル円筒状印刷版の洗浄を行った。洗浄前は版表面に存在していた液状彫刻残渣・固体彫刻残渣はいずれも存在しておらず、十分な洗浄がなされていた。また、印刷の凹凸パターンの版欠けは存在していなかった。
【0055】
[実施例3]
平ブラシを使用しなかった以外は実施例1と同様にフレキシブル円筒状印刷版の洗浄を行った。洗浄前は版表面に存在していた液状彫刻残渣・固体彫刻残渣はいずれも存在しておらず、十分な洗浄がなされていた。また、印刷の凹凸パターンの版欠けは存在していなかった。
【0056】
[実施例4]
図2に示される装置を用い、スチームジェット方式でフレキシブル円筒状印刷版の洗浄を行った。版表面には液状彫刻残渣・固体彫刻残渣のいずれも存在していなかった。また、印刷の凹凸パターンの版欠けは存在していなかった。
【0057】
[実施例5]
製造例2で得られたフレキシブル円筒状印刷版を用いた以外は実施例1と同様にフレキシブル円筒状印刷版の洗浄を行った。版表面には液状彫刻残渣は存在していなかった。また、印刷の凹凸パターンの版欠けは存在していなかった。
【0058】
[実施例6]
製造例3で得られたフレキシブル円筒状印刷版を用いた以外は実施例1と同様にフレキシブル円筒状印刷版の洗浄を行った。版表面には液状彫刻残渣・固体彫刻残渣は存在していなかった。また、印刷の凹凸パターンの版欠けは存在していなかった。
【0059】
[実施例7]
製造例4で得られたフレキシブル円筒状印刷版を用いた以外は実施例1と同様にフレキシブル円筒状印刷版の洗浄を行った。版表面には液状彫刻残渣・固体彫刻残渣は存在していなかった。また、印刷の凹凸パターンの版欠けは存在していなかった。
【0060】
[比較例1]
図1に示される装置を用いるが、テンションローラー120を線形移動させずフレキシブル円筒状印刷版100にテンションをかけないことと、駆動ローラー110を回転させない以外は実施例1と同様にフレキシブル円筒状印刷版の洗浄を行った。版表面には液状彫刻残渣が残っていた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、レーザー彫刻方式にて表面が凹凸パターンに形成されたフレキシブル円筒状印刷版を簡便に洗浄できる。従って、本発明は、フレキソ印刷版用レリーフ画像の形成、缶印刷などのドライオフセット印刷用レリーフ画像の形成、液晶配光膜や有機ELバンクなどのPrintable Electronicsパターンの形成、エンボス加工などの表面加工用パターンの形成、及びタイルなどの印刷用レリーフ画像の形成などに用いられるフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法及び洗浄装置として、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の洗浄装置(一例)を示す正面模式図である。
【図2】本発明のスチームジェット洗浄法による洗浄装置を示す正面模式図である。
【符号の説明】
【0063】
100 フレキシブル円筒状印刷版
110 駆動ローラー
120 テンションローラー
150 洗浄液タンク
160 洗浄ポンプ
170 洗浄液噴射ノズル
180 平ブラシ
190 リンス水噴射ノズル
200 水切りノズル
300 安全カバー
400 蒸気発生器
410 スチームジェットノズル
500 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンが形成された印刷層を有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法であって、
(1)該印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、
(2)2つのローラーの間隔を離し、該印刷版にテンションをかけつつ回転させながら洗浄液により洗浄する洗浄工程、
を含むフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項2】
工程(2)の後に
(3)フレキシブル円筒状印刷版表面に気体を吹きつけてフレキシブル円筒状印刷版の印刷層の洗浄液を吹き飛ばす洗浄液切り工程
を含む請求項1に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項3】
工程(2)の後に
(4)水洗水でフレキシブル円筒状印刷版の印刷層の洗浄液を洗い流すリンス工程、
(5)フレキシブル円筒状印刷版の印刷層に気体を吹きつけて水洗水を吹き飛ばす水洗水切り工程、
をさらに含む請求項1に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項4】
工程(3)のあとに
(4)水洗水でフレキシブル円筒状印刷版の印刷層の洗浄液を洗い流すリンス工程、
(5)フレキシブル円筒状印刷版の印刷層に気体を吹きつけて水洗水を吹き飛ばす水洗水切り工程、
をさらに含む請求項2に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項5】
工程(2)において、洗浄する方法がブラシ洗浄法および/またはスプレー洗浄法である請求項1〜4のいずれかに記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項6】
樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンが形成された印刷層を含有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法であって、
(6)該印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、
(7)2つのローラーの間隔を離し、該印刷版にテンションをかけつつ回転させながらスチームジェット洗浄法により洗浄する洗浄工程、
を含むフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項7】
工程(7)の後に
(8)フレキシブル円筒状印刷版の印刷層に気体を吹きつけて水を吹き飛ばす工程
を含む請求項6に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項8】
樹脂硬化物層が、フレキシブルな円筒状支持体の外周面に設けられた光硬化性樹脂硬化物層又は熱硬化性樹脂硬化物層である請求項1〜7のいずれかに記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項9】
前記円筒状支持体が、円筒形状を保持するための強度補強されたスリーブまたは金属製スリーブである請求項1〜8のいずれかに記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄方法。
【請求項10】
(i)フレキシブル円筒状支持体上の樹脂硬化物層表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンを形成するレーザー彫刻されたフレキシブル円筒状印刷版を製造する工程、または、シート状樹脂硬化物表面にレーザー彫刻方式にて凹凸パターンを形成した後に該シート状樹脂硬化物をフレキシブル円筒状支持体上に配置するレーザー彫刻されたフレキシブル円筒状印刷版を製造する工程、
(ii)印刷版の内周面を少なくとも2つのローラーで保持する装着工程、
(iii)2つのローラーの間隔を離して該印刷版にテンションをかけつつ回転させながら洗浄液又はスチームジェット法により洗浄する洗浄工程、
を含むフレキシブル円筒状印刷版の製造方法。
【請求項11】
回転機能を有する駆動ローラー、回転可能で線形移動機構を有するテンションローラー、駆動ローラーの外周部に噴射可能な洗浄液噴射ノズルを含む洗浄機構、を有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
【請求項12】
駆動ローラーの外周部に噴射可能なリンス水噴射ノズルを含む水洗機構を更に有する請求項11記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
【請求項13】
駆動ローラーの外周部に噴射可能な水切りノズルを含む水切り機構を更に有する請求項11又は12に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
【請求項14】
回転機能を有する駆動ローラー、回転可能で線形移動機構を有するテンションローラー、駆動ローラーの外周部に噴射可能なスチームジェットノズルを含む洗浄機構、を有するフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。
【請求項15】
駆動ローラーの外周部に噴射可能な水切りノズルを含む水切り機構を更に有する請求項14に記載のフレキシブル円筒状印刷版の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−83058(P2010−83058A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255952(P2008−255952)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】