ブレーキ倍力装置
【課題】 ブレーキ倍力装置とホイルシリンダとの間にブレーキ液圧制御ユニットが介在したとしても、良好なペダルフィーリングを得ることが可能なブレーキ倍力装置を提供すること。
【解決手段】 液圧制御ユニットの作動時と非作動時とで倍力装置の制御を異ならせ、液圧制御ユニットが作動したとしても入力部材の変位が小さくなるように制御することとした。
【解決手段】 液圧制御ユニットの作動時と非作動時とで倍力装置の制御を異ならせ、液圧制御ユニットが作動したとしても入力部材の変位が小さくなるように制御することとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダル操作に対するアシスト力を付与可能なブレーキ倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスタシリンダ内の容積を変化させる入力部材及びアシスト部材を設け、ブレーキペダル操作に伴う入力部材の変位に伴ってアシスト部材を変位させる技術が開示されている。これにより、ブレーキペダル操作によるマスタシリンダ内の容積変化に加え、アシスト部材による容積変化を与えることで、ブレーキペダル操作時にアシスト力を付与する所謂倍力機構を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ブレーキ倍力装置とホイルシリンダの間にアンチロックブレーキ制御等を実行可能なブレーキ液圧制御ユニットが配置される場合、以下に示す問題があった。アンチロックブレーキ制御では、ホイルシリンダ内のブレーキ液圧をタイヤのスリップ状態に応じて適宜増減圧する。具体的には、増圧時はマスタシリンダからホイルシリンダにブレーキ液を供給し、減圧時はホイルシリンダからブレーキ液をリザーバに排出する。そして、このリザーバに蓄えられたブレーキ液は、ポンプによってマスタシリンダ内に環流される。液量収支を確保するためである。
【0005】
このとき、マスタシリンダ内では、ブレーキペダル操作に係わらずブレーキ液の変動が生じ、この変動に伴って入力部材やアシスト部材がストロークする。上述したように、制御上は、入力部材の変位に対するアシスト部材の変位を制御しているため、ブレーキペダル操作に伴う入力部材の変位以外の外乱によって入力部材やアシスト部材が変位すると、制御が振動的または発散的になり、脈圧やペダル振動を招くおそれがあった。
【0006】
また、マスタシリンダ側に環流されるブレーキ液は減圧量等によって異なり、環流作動自体も間欠的に実行されることから、ブレーキペダルに与える反力が一定とならず、運転者に違和感を与えるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、ブレーキ倍力装置とホイルシリンダとの間にブレーキ液圧制御ユニットが介在したとしても、良好なペダルフィーリングを得ることが可能なブレーキ倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、液圧制御ユニットの作動時と非作動時とで倍力装置の制御を異ならせ、液圧制御ユニットが作動したとしても入力部材の変位が小さくなるように制御することとした。
【発明の効果】
【0009】
よって、脈圧やペダル振動を抑えて良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】実施例1の制御構成を表すブロック図である。
【図3】実施例1のアシスト部材受動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
【図4】実施例1の入力絶対変位量に対するアシスト部材絶対変位量との倍力比に基づく関係、及び、入力変位量に対する相対変位量との倍力比に基づく関係、及び入力絶対変位量に対するマスタシリンダ液圧との倍力比に基づく関係を表す図である。
【図5】実施例1のアシスト部材能動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
【図6】実施例1のペダル変化量算出処理を表すフローチャートである。
【図7】実施例1のアシスト部材絶対変位量記憶処理を表すフローチャートである。
【図8】実施例1の能動制御目標値設定処理を表すフローチャートである。
【図9】実施例1のペダル初期変位記憶部,比較部及び切換部において実行される制御切り換え処理を表すフローチャートである。
【図10】実施例1のペダル初期変位検出処理を表すフローチャートである。
【図11】実施例1におけるABS制御作動時のアシスト部材能動制御を表すタイムチャートである。
【図12】実施例2の制御構成を表すブロック図である。
【図13】実施例2のアシスト部材能動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
【図14】実施例2のマスタシリンダ圧記憶処理を表すフローチャートである。
【図15】実施例2の能動制御目標値設定処理を表すフローチャートである。
【図16】実施例2におけるABS制御作動時のアシスト部材能動制御を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実現する最良の形態を、図面に基づき説明する。
〔実施例1〕
〔ブレーキ制御装置の構成〕
図1は、本実施例1のブレーキ制御装置1の全体構成を示す。FL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪である。また、矢印付きの破線は信号線であり、矢印の向きによって信号の流れを表す。
【0012】
ブレーキ制御装置1は、マスタシリンダ2と、リザーバタンクRESと、ホイルシリンダ圧制御機構3と、各輪FL,FR,RL,RRに設けられたホイルシリンダ4a〜4dと、マスタシリンダ2に接続して設けられたマスタシリンダ圧制御機構5およびインプットロッド6と、ブレーキ操作量検出装置7と、マスタシリンダ圧制御機構5を制御するマスタシリンダ圧制御装置8と、ホイルシリンダ圧制御機構3を制御するホイルシリンダ圧制御装置9と、を有している。
【0013】
インプットロッド6は、ブレーキペダルBPとともに、マスタシリンダ2内の液圧(以下、マスタシリンダ圧Pmc)を加減圧する。マスタシリンダ圧制御機構5およびマスタシリンダ圧制御装置8は、マスタシリンダ2のプライマリピストン2bとともに、マスタシリンダ圧Pmcを加減圧する。
【0014】
以下、説明のため、マスタシリンダ2の軸方向にx軸を設定し、ブレーキペダルBPの側を負方向と定義する。マスタシリンダ2はいわゆるタンデム型であり、シリンダ2a内にプライマリピストン2bおよびセカンダリピストン2cを有している。シリンダ2aの内周面と、プライマリピストン2bのx軸正方向側の面およびセカンダリピストン2cのx軸負方向側の面との間で、加圧室としてのプライマリ液室2dが形成されている。シリンダ2aの内周面とセカンダリピストン2cのx軸正方向側の面との間で、加圧室としてのセカンダリ液室2eが形成されている。
【0015】
プライマリ液室2dは、ブレーキ回路10と連通可能に接続され、セカンダリ液室2eは、ブレーキ回路20と連通可能に接続されている。プライマリ液室2dの容積は、プライマリピストン2bおよびセカンダリピストン2cがシリンダ2a内で摺動することで変化する。プライマリ液室2dには、プライマリピストン2bをx軸負方向側に付勢する戻しバネ2fが設置されている。セカンダリ液室2eの容積は、セカンダリピストン2cがシリンダ2a内で摺動することで変化する。セカンダリ液室2eには、セカンダリピストン2cをx軸負方向側に付勢する戻しバネ2gが設置されている。
【0016】
インプットロッド6のx軸正方向側の一端6aは、プライマリピストン2bの隔壁2hを貫通し、プライマリ液室2d内に設置されている。インプットロッド6の一端6aとプライマリピストン2bの隔壁2hとの間はシールされ、液密性が保たれているとともに、一端6aは隔壁2hに対してx軸方向に摺動可能に設けられている。一方、インプットロッド6のx軸負方向側の他端6bは、ブレーキペダルBPに連結されている。ブレーキペダルBPが踏まれるとインプットロッド6はx軸正方向側に移動し、ブレーキペダルBPが戻されるとインプットロッド6はx軸負方向側に移動する。
【0017】
プライマリ液室2dの作動液は、インプットロッド6または(駆動モータ50により駆動される)プライマリピストン2bがx軸正方向側へ推進することによって加圧される。加圧された作動液は、ブレーキ回路10を経由してホイルシリンダ圧制御機構3に供給される。また、加圧されたプライマリ液室2dの圧力により、セカンダリピストン2cがx軸正方向側へ推進する。セカンダリ液室2eの作動液は、セカンダリピストン2cの上記推進によって加圧され、ブレーキ回路20を経由してホイルシリンダ圧制御機構3に供給される。
【0018】
このようにインプットロッド6がブレーキペダルBPと連動して移動し、プライマリ液室2dを加圧する構成により、万一、故障により駆動モータ50が停止した場合にも、運転者のブレーキ操作によってマスタシリンダ圧Pmcを上昇でき、所定のブレーキ力が確保される。また、マスタシリンダ圧Pmcに応じた力がインプットロッド6を介してブレーキペダルBPに作用し、ブレーキペダル反力として運転者に伝達されるため、上記構成を採らない場合に必要な、ブレーキペダル反力を生成するバネ等の装置が不要となる。よって、ブレーキ制御装置の小型化・軽量化が図られ、車両への搭載性が向上する。
【0019】
インプットロッド6の他端6b側には、運転者の要求ブレーキ力を検出するブレーキ操作量検出装置7が設けられている。ブレーキ操作量検出装置7は、インプットロッド6のx軸方向変位量を検出する変位センサ(ブレーキペダルBPのストロークセンサ)である。本実施例1では、2つの変位センサ7a,7bが設けられており、これらにより検出された変位量はそれぞれマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。このように複数個の変位センサを組み合わせることにより、万一、故障により1つのセンサからの信号が途絶えた場合にも、残りのセンサによって運転者のブレーキ要求が検出・認知されるため、フェールセーフが確保される。
【0020】
また、ブレーキ操作量検出装置7としては、ブレーキペダルBPの踏力を検出する踏力センサや、ストロークセンサと踏力センサを組み合わせた構成であってもよい。
【0021】
リザーバタンクRESは、隔壁によって互いに仕切られた少なくとも2つの液室を有している。各液室はそれぞれブレーキ回路10j,20jを介して、マスタシリンダ2のプライマリ液室2dおよびセカンダリ液室2eと連通可能に接続されている。
【0022】
ホイルシリンダ圧制御機構3は、ABS制御や車両挙動安定化制御等を実行可能な液圧制御ユニットであり、マスタシリンダ2等で加圧された作動液を、ホイルシリンダ圧制御装置9の制御指令に従って、各ホイルシリンダ4a〜4dへ供給する。
【0023】
ホイルシリンダ4a〜4dは、シリンダ、ピストン、パッド等を有しており、ホイルシリンダ圧制御機構3から供給された作動液によって上記ピストンが推進され、このピストンに連結されたパッドがディスクロータ40a〜40dに押圧される周知のものである。なお、ディスクロータ40a〜40dはそれぞれ車輪FL,FR,RL,RRと一体回転し、ディスクロータ40a〜40dに作用するブレーキトルクは、車輪FL,FR,RL,RRと路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0024】
マスタシリンダ圧制御機構5は、プライマリピストン2bの変位量すなわちマスタシリンダ圧Pmcを、マスタシリンダ圧制御装置8の制御指令に従って制御するものであり、駆動モータ50と、減速装置51と、回転−並進変換装置55と、を有している。
【0025】
マスタシリンダ圧制御装置8は演算処理回路であり、ブレーキ操作量検出装置7や駆動モータ50からのセンサ信号や、後述するホイルシリンダ圧制御装置9からの信号等に基づいて、駆動モータ50の作動を制御する。
【0026】
ホイルシリンダ圧制御装置9は演算処理回路であり、先行車との車間距離や道路情報、および車両状態量(例えば、ヨーレート、前後加速度、横加速度、ハンドル舵角、車輪速、車体速等)に基づき、各輪FL,FR,RL,RRで発生させるべき目標ブレーキ力を算出する。そして、この算出結果に基づき、ホイルシリンダ圧制御機構3の各アクチュエータ(ソレノイドバルブやポンプ)の作動を制御する。
【0027】
なお、マスタシリンダ圧制御装置8とホイルシリンダ圧制御装置9とは信号線Lで結線されて通信可能である。
【0028】
[ホイルシリンダ圧制御機構]
以下、ホイルシリンダ圧制御機構3の油圧回路構成を説明する。
【0029】
ブレーキ回路は独立した2つのブレーキ系統を有し、プライマリ系統およびセカンダリ系統に分かれている。プライマリ系統は、プライマリ液室2dから作動液の供給を受け、ブレーキ回路10を介してFL輪とRR輪のブレーキ力を制御する。セカンダリ系統は、セカンダリ液室2eから作動液の供給を受け、ブレーキ回路20を介してFR輪とRL輪のブレーキ力を制御する。このようにいわゆるX配管構造であるため、一方のブレーキ系統が失陥した場合でも、他方の正常なブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力が確保され、車両の挙動が安定に保たれる。以下、プライマリ系統を例にとって説明する。
【0030】
ブレーキ回路10のマスタシリンダ2側(以下、上流という)からホイルシリンダ4a,4d側(以下、下流という)に向かう途中には、アウト側ゲート弁11が設けられている。アウト側ゲート弁11は、マスタシリンダ2で加圧された作動液をホイルシリンダ4a,4dに供給する際に開弁される。
【0031】
アウト側ゲート弁11が設けられたブレーキ回路10kの下流はブレーキ回路10a,10bに分岐し、ブレーキ回路10a,10bは、それぞれブレーキ回路10l,10mを介してホイルシリンダ4a,4dに接続している。ブレーキ回路10a,10b上には、それぞれ増圧弁12,13が設けられている。増圧弁12,13は、マスタシリンダ2または後述のポンプPで加圧された作動液をホイルシリンダ4a,4dに供給する際に開弁される。
【0032】
ブレーキ回路10a,10bには、増圧弁12,13の下流側で、リターン回路10c,10dがそれぞれ接続している。リターン回路10c,10d上にはそれぞれ減圧弁14,15が設けられている。減圧弁14,15は、ホイルシリンダ4a,4d内の圧力(以下、ホイルシリンダ圧Pwc)を減圧する際に開弁される。リターン回路10c,10dは合流してリターン回路10eを形成し、リターン回路10eはリザーバ16に接続している。
【0033】
一方、ブレーキ回路10はアウト側ゲート弁11の上流で分岐し、吸入回路10gを形成している。吸入回路10g上には、吸入回路10gの連通・遮断を切り換えるイン側ゲート弁17が設けられている。イン側ゲート弁17は、例えば、マスタシリンダ2で加圧された作動液を後述のポンプPで昇圧してホイルシリンダ4a,4dに供給する際に開弁される。吸入回路10gは、リザーバ16からのリターン回路10fと合流して吸入回路10hを形成している。
【0034】
ブレーキ回路10には、マスタシリンダ2以外の液圧源として、作動液の吸入・吐出を行うポンプPが接続されている。ポンプPはプランジャ式又はギヤ式のポンプであって、第1ポンプP1および第2ポンプP2を備えている。ポンプPは、例えば、車両挙動安定化制御等の自動ブレーキ制御を行う際、マスタシリンダ2の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタシリンダ圧Pmcを昇圧してホイルシリンダ4a,4dに供給する。第1ポンプP1は、吸入回路10hおよび吐出回路10iと接続し、吐出回路10iを介してブレーキ回路10kと接続している。
【0035】
モータMは、DC(直流)ブラシレスモータ又はDCブラシモータであり、その出力軸にはポンプP1、P2が連結されている。モータMは、ホイルシリンダ圧制御装置9の制御指令に基づき供給される電力によって作動し、ポンプP1、P2を駆動する。
【0036】
アウト側ゲート弁11、イン側ゲート弁17、増圧弁12,13、および減圧弁14,15は、ソレノイドへの通電により弁の開閉が行われる電磁式のものであり、ホイルシリンダ圧制御装置9が出力する駆動信号に応じた大きさの駆動電流が通電されることで、弁の開閉量が各弁個々に制御される。
【0037】
なお、アウト側ゲート弁11および増圧弁12,13は常開弁であり、イン側ゲート弁17および減圧弁14,15は常閉弁である。これにより万一、故障によりいずれかの弁への電力供給が停止した場合であっても、マスタシリンダ2で加圧された作動液が全てホイルシリンダ4a,4dに到達する回路構成となるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0038】
ブレーキ回路20側の油圧回路も、上記ブレーキ回路10側と同様に構成されている。
【0039】
ブレーキ回路10(マスタシリンダ2とホイルシリンダ圧制御機構3との間)、およびブレーキ回路20(ホイルシリンダ圧制御機構3内)には、それぞれ、マスタシリンダ圧Pmc(プライマリ液室2dおよびセカンダリ液室2eの圧力)を検出する圧力センサであるマスタシリンダ圧センサ3a,3bが設けられている。マスタシリンダ圧センサ3a,3bが検出したマスタシリンダ圧Pmcの情報は、マスタシリンダ圧制御装置8およびホイルシリンダ圧制御装置9に入力される。なお、マスタシリンダ圧センサの個数および設置位置に関しては、制御性やフェールセーフ等を考慮して任意に決定できる。
【0040】
以下、ブレーキ制御時のホイルシリンダ圧制御機構3の動作を説明する。
通常制御時には、マスタシリンダ2の作動液がブレーキ回路10,20を介して各ホイルシリンダ4a〜4dに供給され、ブレーキ力が発生する。
【0041】
ABS制御時には、車輪FLを例にとると、ホイルシリンダ4aに接続されている減圧弁14を開弁させるとともに増圧弁12を閉弁させ、ホイルシリンダ4aの作動液をリザーバ16に戻すことで減圧を行う。また、車輪FLがロック傾向から回復したら、増圧弁12を開弁させるとともに減圧弁14を閉弁させることで増圧を行う。このときポンプPは、リザーバ16に逃がした作動液をブレーキ回路10kに戻す。
【0042】
車両挙動安定化制御等の自動ブレーキ制御時には、アウト側ゲート弁11,21を閉弁させる一方で、イン側ゲート弁17,27を開弁させる。同時にポンプPを作動させ、吸入回路10g,10h,20g,20h、吐出回路10i,20iを介してマスタシリンダ2からブレーキ回路10k,20kに向けて作動液を吐出させる。さらに、ホイルシリンダ圧Pwcが必要なブレーキ力に応じた目標圧となるようにアウト側ゲート弁11,21または増圧弁12,13,22,23を制御する。
【0043】
〔マスタシリンダ圧制御機構〕
以下、マスタシリンダ圧制御機構5の構成と動作について説明する。駆動モータ50は三相DCブラシレスモータであり、マスタシリンダ圧制御装置8の制御指令に基づき供給される電力によって動作し、所望の回転トルクを発生する。
【0044】
減速装置51は、駆動モータ50の出力回転をプーリ減速方式により減速する。減速装置51は、駆動モータ50の出力軸に設けられた小径の駆動側プーリ52と、回転−並進変換装置55のボールネジナット56に設けられた大径の従動側プーリ53と、駆動側および従動側プーリ52,53に巻き掛けられたベルト54と、を有している。減速装置51は、駆動モータ50の回転トルクを、減速比(駆動側および従動側プーリ52,53の半径比)分だけ増幅させて、回転−並進変換装置55に伝達する。
【0045】
なお、駆動モータ50の回転トルクが十分に大きく、減速によるトルク増幅が必要でない場合には、減速装置51を省略して、駆動モータ50と回転−並進変換装置55とを直結することとしてもよい。この場合、減速装置51の介在に起因して発生する、信頼性や静粛性、および搭載性等に関する諸問題を回避できる。
【0046】
回転−並進変換装置55は、駆動モータ50の回転動力を並進動力に変換し、この並進動力によりプライマリピストン2bを押圧する。本実施例1では、動力変換機構としてボールネジ方式を採用しており、回転−並進変換装置55は、ボールネジナット56と、ボールネジ軸57と、可動部材58と、戻しバネ59と、を有している。
【0047】
マスタシリンダ2のx軸負方向側には第1ハウジング部材HSG1が接続され、第1ハウジング部材HSG1のx軸負方向側には第2ハウジング部材HSG2が接続されている。ボールネジナット56は、第2ハウジング部材HSG2内に設けられたベアリングBRGの内周に、軸回転可能に設置されている。ボールネジナット56のx軸負方向側の外周には、従動側プーリ53が嵌合されている。ボールネジナット56の内周には、中空のボールネジ軸57が螺合している。ボールネジナット56とボールネジ軸57との間の隙間には、複数のボールが回転移動可能に設置されている。
【0048】
ボールネジ軸57のx軸正方向側の端には、可動部材58が一体に設けられている。可動部材58のx軸正方向側の面には、プライマリピストン2bが接合している。プライマリピストン2bは、第1ハウジング部材HSG1内に収容されている。プライマリピストン2bのx軸正方向側の端は第1ハウジング部材HSG1から突出してマスタシリンダ2のシリンダ2aの内周に嵌合している。
【0049】
第1ハウジング部材HSG1内では、プライマリピストン2bの外周に、戻しバネ59が設置されている。戻しバネ59のx軸正方向側の端は第1ハウジング部材HSG1内部のx軸正方向側の面Aに固定される一方、x軸負方向側の端は可動部材58に係合している。戻しバネ59は、面Aと可動部材28との間でx軸方向に押し縮められて設置され、可動部材58およびボールネジ軸57をx軸負方向側に付勢している。
【0050】
従動側プーリ53が回転するとボールネジナット56が一体に回転し、このボールネジナット56の回転運動により、ボールネジ軸57がx軸方向に並進運動する。x軸正方向側へのボールネジ軸57の並進運動の推力により、可動部材58を介して、プライマリピストン2bがx軸正方向側に押圧される。なお、図1では、ブレーキ非操作時にボールネジ軸57がx軸負方向側に最大変位した初期位置にある状態を示す。
【0051】
一方、ボールネジ軸57には、上記x軸正方向側への推力と反対方向(x軸負方向側)に、戻しバネ59の弾性力が作用する。これによりブレーキ中、すなわちプライマリピストン2bがx軸正方向側に押圧されマスタシリンダ圧Pmcが加圧されている状態で、万一、故障により駆動モータ50が停止し、ボールネジ軸57の戻し制御が不能となった場合でも、戻しバネ59の反力によりボールネジ軸27が初期位置に戻される。これによりマスタシリンダ圧Pmcがゼロ付近まで低下するため、ブレーキ力の引きずりの発生が防止され、この引きずりに起因して車両挙動が不安定になる事態が回避される。
【0052】
また、インプットロッド6とプライマリピストン2bとの間に画成された環状空間Bには、一対のバネ6d,6e(付勢手段)が配設されている。一対のバネ6d,6eは、その各一端がインプットロッド6に設けられたフランジ部6cに係止され、バネ6dの他端がプライマリピストン2bの隔壁2hに係止され、バネ6eの他端が可動部材58に係止されている。一対のバネ6d,6eは、プライマリピストン2bに対してインプットロッド6を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢し、ブレーキ非作動時にインプットロッド6とプライマリピストン2bとを相対移動の中立位置に保持する機能を有している。また、インプットロッド6とプライマリピストン2bとが中立位置からいずれかの方向に相対変位したとき、一対のバネ6d,6eにより、プライマリピストン2bに対してインプットロッド6を中立位置に戻す付勢力が作用する。
【0053】
なお、駆動モータ50には回転角検出センサ50aが設けられており、これにより検出されるモータ出力軸の位置信号がマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。マスタシリンダ圧制御装置8は、入力された位置信号に基づき駆動モータ50の回転角を算出し、この回転角に基づき回転−並進変換装置25の推進量、すなわちプライマリピストン2bのx軸方向変位量を算出する。
【0054】
また、駆動モータ50には温度センサ50bが設けられており、検出された駆動モータ50の温度情報はマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。
【0055】
(倍力制御処理)
次に、マスタシリンダ圧制御機構5とマスタシリンダ圧制御装置8による、インプットロッド6の推力の増幅作用について説明する。
【0056】
マスタシリンダ圧制御機構5およびマスタシリンダ圧制御装置8は、運転者のブレーキ操作によるインプットロッド6の変位量に応じて、プライマリピストン2bを変位させる。これによりプライマリ液室2dが、インプットロッド6の推力に加えてプライマリピストン2bの推力によって加圧され、マスタシリンダ圧Pmcが調整される。すなわちインプットロッド6の推力が増幅される。増幅比(以下、倍力比α)は、プライマリ液室2dにおけるインプットロッド6とプライマリピストン2bの軸直方向断面積(以下、それぞれ受圧面積AIRおよびAPP)の比等により、以下のように決定される。
【0057】
マスタシリンダ圧Pmcの液圧調整は、式(1)で示される圧力平衡関係をもって行われる。
Pmc=(FIR+K×△x)/AIR=(FPP−K×△x)/APP …(1)
ここで、圧力平衡式(1)における各要素は、以下のとおりである。
Pmc:プライマリ液室2dの液圧(マスタシリンダ圧)、
FIR :インプットロッド6の推力、
FPP :プライマリピストン2bの推力、
AIR :インプットロッド6の受圧面積、
APP :プライマリピストン2bの受圧面積、
K :バネ6d,6eのバネ定数、
Δx:インプットロッド6とプライマリピストン2bとの相対変位量。
【0058】
尚、実施例1では、インプットロッド6の受圧面積AIRは、プライマリピストン2bの受圧面積APPよりも小さく構成されている。
【0059】
ここで相対変位量Δxは、インプットロッド6の変位をxIR、プライマリピストン2bの変位をxPPとして、Δx=xPP−xIRと定義する。よって、Δxは、相対移動の中立位置では0、インプットロッド6に対してプライマリピストン2bが前進(x軸正方向側へ変位)する方向では正符号、その逆方向では負符号となる。なお、圧力平衡式(1)ではシールの摺動抵抗を無視している。プライマリピストン2bの推力FPPは、駆動モータ50の電流値から推定できる。
【0060】
一方、倍力比αは、下記(2)式のように表わされる。
α=PM/C×(APP+AIR)/FIR …(2)
よって、この(2)式に上記(1)式のPM/Cを代入すると、倍力比αは下記(3)式のようになる。
α=(1+K×Δx/FIR)×(AIR+APP)/AIR …(3)
【0061】
倍力制御では、目標のマスタシリンダ圧特性が得られるように、駆動モータ50(プライマリピストン2bの変位xPP)を制御する。ここでマスタシリンダ圧特性とは、インプットロッド6の変位xIRに対するマスタシリンダ圧Pmcの変化の特性を指す。インプットロッド6の変位xIRに対するプライマリピストン2bの変位xPPを示すストローク特性と、上記目標マスタシリンダ圧特性とに対応して、インプットロッド6の変位xIRに対する相対変位量Δxの変化を示す目標変位量算出特性が得られる。検証により得られた目標変位量算出特性データに基づき、相対変位量Δxの目標値(以下、目標変位量Δx*)が算出される。
【0062】
すなわち、目標変位量算出特性は、インプットロッド6の変位xIRに対する目標変位量Δx*の変化の特性を示し、インプットロッド6の1つの変位量xIRに対応して1つの目標変位量Δx*が定まる。検出されたインプットロッド6の変位量xIRに対応して決定される目標変位量Δx*を実現するように駆動モータ50の回転(プライマリピストン2bの変位量xPP)を制御すると、目標変位量Δx*に対応する大きさのマスタシリンダ圧Pmcがマスタシリンダ2で発生する。
【0063】
ここで、上記のようにインプットロッド6の変位量xIRはブレーキ操作量検出装置7により検出され、プライマリピストン2bの変位量xPPは回転角検出センサ50aの信号に基づき算出され、相対変位量Δxは上記検出(算出)された変位量の差により求められる。倍力制御では、具体的には、上記検出した変位量xIRと目標変位量算出特性とに基づいて目標変位量Δx*を設定し、上記検出(算出)された相対変位量Δxが目標変位量Δx*と一致するように駆動モータ50を制御(フィードバック制御)する。なお、プライマリピストン2bの変位量xPPを検出するストロークセンサを別途設けることとしてもよい。
【0064】
このように踏力センサを用いることなく倍力制御を行った場合、その分、コストを低減できる。また、相対変位量Δxが任意の所定値となるように駆動モータ50を制御することにより、受圧面積比(AIR+APP)/AIRで定まる倍力比よりも大きな倍力比や小さな倍力比を得ることができ、所望の倍力比に基づく制動力を得ることができる。
【0065】
一定倍力制御は、インプットロッド6およびプライマリピストン2bを一体的に変位させる、すなわちインプットロッド6に対してプライマリピストン2bが常に上記中立位置となり相対変位量Δx=0で変位するように、駆動モータ50を制御するものである。このようにΔx=0となるようにプライマリピストン2bを変位させた場合、上記(3)式により、倍力比αは、α=(AIR+APP)/AIRとして一意に定まる。よって、必要な倍力比に基づいてAIRおよびAPPを設定し、変位量xPPがインプットロッド6の変位量xIRに等しくなるようにプライマリピストン2bを制御することで、常に一定の(上記必要な)倍力比を得ることができる。
【0066】
一定倍力制御における目標マスタシリンダ圧特性は、インプットロッド6の前進(x軸正方向側への変位)に伴い発生するマスタシリンダ圧Pmcが2次曲線、3次曲線、あるいはこれらにそれ以上の高次曲線等が複合した多次曲線(以下、これらを総称して多次曲線という)状に大きくなる。また、一定倍力制御は、インプットロッド6の変位xIRと同じ量だけプライマリピストン2bが変位する(xPP=xIR)ストローク特性を有している。このストローク特性と上記目標マスタシリンダ圧特性とに基づき得られる目標変位量算出特性では、インプットロッド6のあらゆる変位xIRに対して目標変位量Δx*が0となる。
【0067】
これに対して、倍力可変制御は、目標変位量Δx*を正の所定値に設定し、相対変位量Δxがこの所定値となるように駆動モータ50を制御する。これにより、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が前進移動するに従い、インプットロッド6の変位量xIRに比べてプライマリピストン2bの変位量xPPが大きくなるようにするものである。上記(3)式により、倍力比αは、(1+K×Δx/FIR)倍の大きさとなる。すなわち、インプットロッド6の変位量xIRに比例ゲイン(1+K×Δx/FIR)を乗じた量だけプライマリピストン2bを変位させることと同義となる。このようにΔxに応じて倍力比αが可変となり、マスタシリンダ圧制御機構5が倍力源として働いて、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させつつペダル踏力の大きな低減を図ることができる。
【0068】
すなわち、制御性の観点からは上記比例ゲイン(1+K×Δx/FIR)は1であることが望ましいが、例えば緊急ブレーキ等により運転者のブレーキ操作量を上回るブレーキ力が必要な場合には、一時的に、1を上回る値に上記比例ゲインを変更することができる。これにより、同量のブレーキ操作量でも、マスタシリンダ圧Pmcを通常時(上記比例ゲインが1の場合)に比べて引き上げることができるため、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキ操作量検出装置7の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定できる。
【0069】
このように倍力可変制御は、インプットロッド6の前進に対してプライマリピストン2bの前進をより進め、インプットロッド6に対するプライマリピストン2bの相対変位量Δxがインプットロッド6の前進に伴い大きくなり、これに対応してインプットロッド6の前進に伴うマスタシリンダ圧Pmcの増加が一定倍力制御よりも大きくなるように駆動モータ50を制御する方法である。
【0070】
倍力可変制御における目標マスタシリンダ圧特性は、インプットロッド6の前進(x軸正方向側への変位)に伴い発生するマスタシリンダ圧Pmcの増加が一定倍力制御よりも大きくなる(多次曲線状に増加するマスタシリンダ圧特性がより急峻になる)。また、倍力可変制御は、インプットロッド6の変位xIRの増加に対するプライマリピストン2bの変位xPPの増加分が1よりも大きいストローク特性を有している。このストローク特性と上記目標マスタシリンダ圧特性とに基づき得られる目標変位量算出特性では、インプットロッド6の変位xIRが増加するに応じて目標変位量Δx*が所定の割合で増加する。
【0071】
また、倍力可変制御として、上記制御〔マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が移動するに従い、インプットロッド6の変位量xIRに比べてプライマリピストン2bの変位量xPPが大きくなるように駆動モータ50を制御すること〕に加え、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が移動するに従い、インプットロッド6の変位量xIRに比べてプライマリピストン2bの変位量xPPが小さくなるように駆動モータ50を制御することを含めてもよい。このように1を下回る値に上記比例ゲインを変更することで、ハイブリッド車両の回生ブレーキ力分だけ液圧ブレーキを減圧する回生協調ブレーキ制御に適用することも可能である。
【0072】
図2は実施例1の制御構成を表すブロック図である。まず、基本となる通常倍力制御の構成(アシスト部材受動制御)について説明し、ABS制御時においてアシスト部材の作動範囲を制限するアシスト部材能動制御の構成について説明する。
【0073】
以下の説明において、回転−並進変換装置55及び減速機構51を総称して伝達機構と記載する。また、駆動モータ50の回転により伝達機構を介して進退作動する部材(ボールネジ軸57,可動部材58及びプライマリピストン2b)を総称してアシスト部材と表記する。アシスト部材の変位量は、駆動モータ50の回転角検出センサ50aに基づいて算出されるものであるが、以下、この変位量をアシスト部材絶対変位量と記載する。
【0074】
また、ブレーキ操作量検出装置7である変位センサ7a,7bを総称して変位センサ7と表記する。また、ブレーキペダルBPに連動して進退作動するインプットロッド6を入力部材と表記し、変位センサ7は入力部材のX軸方向変位量を検出するものであるが、以下、この変位量を入力部材絶対変位量と記載する。
【0075】
〔アシスト部材受動制御〕
目標相対変位量演算部a1では、入力部材絶対変位量に基づいて目標相対変位量が演算される。尚、この目標相対変位量とは、設定された倍力比と入力部材絶対変位量との関係に基づいて設定する方法や、他のコントローラ等において緊急制動が必要な場合等に基づいて設定する方法や、ハイブリッド車両における回生協調制動が必要な場合等に基づいて設定する方法等がある。詳細については後述するが、ここでは、アシスト部材受動制御において目標相対変位量が設定されるという点が明確であればよい。
【0076】
実相対変位量演算部a2では、変位センサ7により検出された入力部材絶対変位量と回転角検出センサ50aにより検出されたアシスト部材絶対変位量との偏差に基づいて実相対変位量を演算する。
【0077】
受動制御偏差演算部a3では、目標相対変位量と実相対変位量との偏差を演算する。この偏差は後述する切換部c3に出力される。以下、切換部c3においてアシスト部材受動制御が選択されている場合について示す。
【0078】
サーボ制御部d1では、受動制御偏差演算部a3において演算された偏差に基づいてフィードバックによるサーボ制御を行う。そして、駆動モータ50に供給する電流指令値を演算し、駆動モータ50に出力する。駆動モータ50に出力された電流は、回転駆動し、伝達機構を介してアシスト部材の進退移動を行う。ここで、サーボ制御とは、例えば、比例ゲインをKp,積分ゲインをKi,微分ゲインをKdとしたとき、下記の式に基づき制御量が算出される。
電流指令値=Kp×(偏差)+Ki∫(偏差)dt+Kd×d(偏差)/dt
尚、上記比例成分と積分成分と微分成分を適宜組み合わせてサーボ制御を構成してもよく特に限定しない。
【0079】
〔アシスト部材能動制御〕
アシスト部材絶対変位量記憶部b1では、アシスト部材絶対変位量及びホイルシリンダ圧制御装置9からのABS制御信号を入力とし、ABS制御信号入力時におけるアシスト部材絶対変位量を記憶する。
【0080】
ペダル変化量演算部b2では、予め設定されたタイマ値毎に入力部材絶対変位量の変化量を更新して記憶する。
【0081】
目標値補正部b3では、ペダル変化量演算部b2において演算されたペダル変化量に応じてアシスト部材能動制御において設定される目標値を補正する。
【0082】
能動制御目標値演算部b4では、アシスト部材絶対位置記憶部b1において記憶された絶対位置を初期のアシスト部材の目標値とし、目標値補正部b3からの指令に応じて補正された値を最終的なアシスト部材の能動制御目標値として出力する。
【0083】
能動制御偏差演算部b5では、能動制御目標値演算部b4において設定された能動制御目標値とアシスト部材絶対変位量との偏差を演算する。この偏差は後述する切換部c3に出力される。以下、切換部c3においてアシスト部材能動制御が選択されている場合について示す。
【0084】
サーボ制御部d1では、能動制御偏差演算部b5において演算された偏差に基づいてフィードバックによるサーボ制御を行う。そして、駆動モータ50に供給する電流指令値を演算し、駆動モータ50に出力する。駆動モータ50に出力された電流は、回転駆動し、伝達機構を介してアシスト部材の進退移動を行う。尚、アシスト部材能動制御では、アシスト部材受動制御における制御ゲインKp,Ki,Kdを異なるゲインに設定して制御してもよく、特に限定しない。
【0085】
〔制御切換処理〕
次に、アシスト部材受動制御とアシスト部材能動制御の切換処理について説明する。ペダル初期変位記憶部c1では、入力部材絶対変位量及びホイルシリンダ圧制御装置9からのABS制御信号を入力とし、ABS制御信号入力時における入力部材絶対変位量に所定のオフセット値を差し引いた値を記憶する。
【0086】
比較部c2では、記憶されたペダル初期変位から所定のオフセット値を差し引いた値と現在の入力部材絶対変位量とを比較し、運転者によりブレーキペダルBPが戻された場合には、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換える指令を出力する。
【0087】
切換部c3では、ABS制御信号及び比較部c2からの切換信号に基づき、制御を切り換える。ABS制御信号が入力されたときは、アシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換え、比較部c2から指令信号が入力されたときはアシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換える。
【0088】
〔アシスト部材能動制御導入の論理〕
ここで、変位センサ7に入力される運転者の踏力,液室2e,2d及び付勢手段6d,6eとの関係について説明する。実施例1の制御構成では、アシスト部材を駆動モータ50により駆動すると、その影響は付勢手段を介して入力部材に作用すると共に、液室2e,2dに作用する。入力部材は液室2e,2dに臨んで配置されており、また、付勢手段を介してアシスト部材と弾性的に接続されていることから、この液室2e,2dに作用した影響は、液圧の変化によって入力部材にも影響を与える。また、入力部材は運転者の踏力が入力されることで変位するため、変位センサ7が検出する値は、運転者の踏力に基づく影響とアシスト部材の作動に基づく影響の両方が現れる。
【0089】
上述したように、通常制御であるアシスト部材受動制御は、運転者の踏力によって生じた入力部材の変位を検出し、その変位に応じてアシスト部材を制御する。このとき、制御系が振動等を起こさないような制御ゲインを設定し、制御系の安定化を図っている。
【0090】
ここで、ホイルシリンダ圧制御装置9においてABS制御が実行されると、ホイルシリンダから減圧により流出したブレーキ液がマスタシリンダ側に環流され、その影響は液室2e,2dに及ぶ。そうすると、この影響によって変位センサ7も影響を受け、当初、アシスト部材受動制御において想定していた影響とは異なり、制御系に外乱が作用することとなる。
【0091】
このマスタシリンダ側へのブレーキ液の環流による影響は、減圧作動が間欠的に行われること、また、非常に細かな周期で繰り返されること、を想定すると、これに伴って入力信号が振動し、制御系全体が振動するおそれがある。また、この振動によって入力部材が大きく進退移動し、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0092】
そこで、実施例1では、ABS制御作動が検出されたときは、変位センサ7による検出値に基づくアシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換え、変位センサ7のように直接的に液室2e,2dに作用する外乱の影響を受けにくい能動制御目標値を設定してフィードバック制御を行うこととした。
【0093】
具体的には、ABS制御開始時点におけるアシスト部材絶対変位量を目標値としたフィードバックループを形成する。このとき、アシスト部材の変位が制限されるため、マスタシリンダ側へのブレーキ液の環流による影響は、入力部材に作用する。しかしながら、アシスト部材と入力部材との間には、一対のばね6d,6e(付勢手段)により両者の相対変位を中立位置に保持する機能を有しているため、大きなマスタシリンダ圧が入力部材に作用しても、この付勢手段により反力が作用し、入力部材が大きく変動することがない。よって、運転者に与える違和感を抑制することができる。また、若干の振動が生じることで、運転者はABS制御作動が行われていることを感知することができる。
【0094】
また、上述のように、本制御によれば、入力部材の絶対変位量は若干変動するものの、アシスト部材能動制御における入力信号として入力部材の絶対変位量を用いていないため、制御系に影響はない。
【0095】
ただし、入力部材の絶対変位量を入力情報として用いないため、ブレーキペダル操作に基づく情報がなくなることになる。そうすると、運転者のブレーキペダル操作に応じた入力部材の変位を許容できず、ABS制御中に運転者がブレーキペダルを戻したとしても、入力部材が戻らなくなる。そのため、変位センサ7の検出値を所定のタイマ値に基づいて更新し、言い換えると、変位センサ7の信号の位相を遅らせて検出し、その変化量に応じて能動制御目標値の補正や、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御への切り換えを行うこととした。
【0096】
以下、上記実施例1の制御構成に基づく制御処理についてフローチャートにも基づいて説明する。
【0097】
図3はアシスト部材受動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
ステップS101では、入力絶対変位量を検出する。
ステップS102では、目標相対変位量を演算する。
ステップS103では、実相対変位量を演算する。
ステップS104では、目標相対変位量と実相対変位量との受動制御偏差に基づいてサーボ制御を実行する。
【0098】
図4は入力絶対変位量に対するアシスト部材絶対変位量との倍力比に基づく関係、及び、入力変位量に対する相対変位量との倍力比に基づく関係、及び入力絶対変位量に対するマスタシリンダ液圧との倍力比に基づく関係を表す図である。例えば、倍力比を1よりも大きな値に設定したときは、入力絶対変位量に対するアシスト部材絶対変位量を倍力比1のときよりも大きくなるように設定する。言い換えると、入力絶対変位量に応じて目標相対変位量が大きくなるように設定する(倍力比が1のとき目標相対変位量は0である)。尚、詳細な原理については上述したため、説明を省略する。
【0099】
図5はアシスト部材能動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
ステップS201では、ペダル変化量を演算する。
ステップS202では、ABS制御開始時におけるアシスト部材絶対変位量を記憶する。
ステップS203では、記憶されたアシスト部材絶対位置を能動制御目標値として設定する。
ステップS204では、能動制御目標値をペダル変化量に基づいて補正する。
ステップS205では、設定された能動制御目標値とアシスト部材絶対変位量とが一致するようにサーボ制御を実行する。
【0100】
図6は図5のステップS201において実行されるペダル変化量算出処理を表すフローチャートである。
ステップS11では、ABS制御信号を受信したと同時にカウントアップが開始されるタイマが予め設定された所定値よりも大きいか否かを判断し、大きいときは更新タイミングが来たと判断してステップS12に進み、それ以外のときはステップS16へ進む。
【0101】
ここで、予め設定された所定値とは、ABS制御によるマスタシリンダ側への外乱の周期に比べて長く、かつ、運転者のブレーキペダル操作の状態をある程度の応答性で検出できる程度に設定しておく。これにより、制御系の振動を抑制するとともに、応答性を確保する。
ステップS12では、ペダル変化量算出フラグを1にセットする。
ステップS13では、タイマの値を0にリセットする。
ステップS14では、ペダル変化量として、現時点での入力部材絶対変位量と記憶されたペダル位置記憶値と差を算出する。
ステップS15では、現時点での入力部材絶対変位量を記憶されたペダル位置記憶値として更新する。
ステップS16では、ペダル変化量算出フラグを0にリセットする。
ステップS17では、タイマをカウントアップする。
【0102】
図7は図5のステップS202において実行されるアシスト部材絶対変位量記憶処理を表すフローチャートである。
ステップS21では、前回制御周期においてABS制御非作動状態から、今回の制御周期においてABS制御作動状態に変化したかどうかを判断し、変化した場合にはステップS22に進み、それ以外のときはステップS23に進む。
ステップS22では、現時点でのアシスト部材絶対変位量をアシスト部材絶対変位量記憶値として記憶する。
ステップS23では、ABS制御状態が非作動か否かを判断し、ABS制御非作動のときはステップS22に進んで現時点でのアシスト部材絶対変位量を記憶値として更新し、ABS制御作動のときは記憶値の更新を禁止して本制御フローを終了する。
【0103】
図8は図5のステップS203,S204において実行される能動制御目標値設定処理を表すフローチャートである。
ステップS41では、図6に示すフローチャートにおいて設定されるペダル変化量算出フラグが1に設定されているか否かを判断し、1に設定されているときはペダル変化量の更新が行われると判断してステップS42に進み、0にセットされているときは、ペダル変化量の更新が禁止されているため本制御フローを終了する。
【0104】
ステップS42では、更新されたペダル変化量が予め設定された所定値Aよりも大きいか否かを判断し、大きいときはステップS43に進み、それ以外のときはステップS44に進む。尚、この所定値Aとは、運転者のブレーキペダル操作の状態をある程度の応答性で検出しつつ、制御系が振動を起こさない範囲で設定される。
【0105】
ステップS43では、ブレーキペダルが運転者により踏み込まれていると判断し、ABS制御開始時に記憶されたアシスト部材絶対変位量(もしくは補正された能動制御目標値)を、アシスト部材が更に前進するような値に補正して能動制御目標値とする。
【0106】
ステップS44では、ペダル変化量が所定値B未満か否かを判断し、所定値未満のときはステップS45へ進み、それ以外のときはペダル操作が行われていないと判断して本制御フローを終了する。尚、この所定値Bとは、運転者のブレーキペダル操作の状態をある程度の応答性で検出しつつ、制御系が振動を起こさない範囲で設定される。
【0107】
ステップS45では、ブレーキペダルが運転者により戻されていると判断し、ABS制御開始時に記憶されたアシスト部材絶対変位量(もしくは補正された能動制御目標値)を、アシスト部材が後退するような値に補正して能動制御目標値とする。
【0108】
図9はペダル初期変位記憶部c1,比較部c2及び切換部c3において実行される制御切り換え処理を表すフローチャートである。
【0109】
ステップS301では、ホイルシリンダ圧制御装置9からの信号に基づいてABS制御作動か否かを判断し、ABS制御作動状態であればステップS302に進み、ABS制御非作動状態であればステップS306に進んで通常の倍力制御であるアシスト部材受動制御を実行する。
ステップS302では、ABS制御信号入力時における入力部材絶対変位量から所定のオフセット値を差し引いた値をペダル初期変位として記憶する。
【0110】
ステップS303では、ペダル初期変位が入力部材絶対変位量と一致しているか否かを判断し、一致しているときはステップS305へ進み、アシスト部材能動制御を実行する。一致していないときはステップS304に進む。
【0111】
ステップS304では、現時点での入力部材絶対変位量がペダル初期変位よりも大きいか否かを判断し、大きいときはステップS305へ進んでアシスト部材能動制御を実行し、小さいときは運転者によりブレーキペダルが戻されたと判断してステップS306に進み、アシスト部材受動制御に切り換える。
【0112】
図10はペダル初期変位検出処理を表すフローチャートである。
ステップS3021では、前回制御周期においてABS制御非作動状態から、今回の制御周期においてABS制御作動状態に変化したかどうかを判断し、変化した場合にはステップS3022に進み、それ以外のときはステップS3023に進む。
ステップS3022では、ペダル初期変位として、現時点での入力部材絶対変位量を記憶する。
ステップS3023では、ABS制御非作動状態か否かを判断し、ABS制御非作動状態のときはステップS3022に進んでペダル初期変位を更新し、ABS制御作動状態のときはペダル初期変位の更新を行うことなく本制御フローを終了する。すなわち、ABS制御開始時点で設定されたペダル初期変位は、ABS制御中は更新しないことを意味する。
【0113】
次に、上記制御フローに基づく作用について説明する。図11は実施例1におけるABS制御作動時のアシスト部材能動制御を表すタイムチャートである。図11中、太い実線が実施例1の作動を表し、細い実線が制御切り換えを行わない比較例の作動を表す。
【0114】
時刻t1において、この時点ではアシスト部材受動制御が選択されている。よって、運転者がブレーキペダルBPを踏み始めると、入力部材がストロークを開始し、それに伴ってアシスト部材も移動する。また、この時点で設定された倍力比に応じたマスタシリンダ圧が発生し、それに伴ってホイルシリンダ圧も上昇を開始する。
【0115】
時刻t2において、車輪のスリップ率が所定値以上になり、ABS制御が開始されると、ホイルシリンダ圧制御機構3においては、減圧信号が出力され、ホイルシリンダからブレーキ液がリザーバに流出する。同時にポンプP1,P2の駆動によってマスタシリンダ側に環流される。一方、マスタシリンダ圧制御機構5においては、ABS制御信号を入力した時点でアシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換えられ、ABS制御信号を入力した時点でのアシスト部材絶対変位量が能動制御目標値として設定される。
【0116】
同時に、ABS制御開始時点での入力部材絶対変位量から所定のオフセット値を差し引いた値がペダル初期位置として記憶され、ペダル変位量を算出するためのタイマのカウントアップが開始される。
【0117】
ABS制御作動が継続している間は、基本的にはアシスト部材の絶対変位量は能動制御目標値に維持される。このとき、ABS制御作動により環流したブレーキ液量に応じてマスタシリンダ圧が上昇するものの、アシスト部材の絶対変位量が変化しないよう制御されているため、マスタシリンダ圧の変化に伴うアシスト部材絶対変位量の変化はない。ただし、アシスト部材に対し付勢手段を介して接続された入力部材には、マスタシリンダ圧の変化が作用するため、付勢手段に規制されつつ若干の変動が発生する。
【0118】
以降、この制御状態が継続され、ABS制御作動に伴う減圧制御がなされると、その都度マスタシリンダ側にブレーキ液が環流されて、その作動に応じたマスタシリンダ圧が発生する。
【0119】
すなわち、比較例では、ブレーキ液の環流によってマスタシリンダ圧が変化すると、この変化によって入力部材絶対変位量が変動し、この変動に応じてアシスト部材絶対変位量も変動する。以後、この変動を繰り返すことで制御系が振動し、入力部材絶対変位量も大きく変化し、運転者に違和感を与えていた。これに対し、実施例1のようにアシスト部材能動制御に切り換え、アシスト部材絶対変位量を抑制することで、制御系の振動を抑制することが可能となり、入力部材絶対変位量の変化も小さくすることができる。
【0120】
時刻t3において、運転者がブレーキペダルを若干戻すと、記憶されたペダル初期位置からのペダル変化量が所定値B未満と判断され、能動制御目標値がアシスト部材絶対変位量として小さくなるように、すなわちブレーキペダルBPを戻す方向に変更される。これにより、アシスト部材絶対変位量が変更される。
【0121】
時刻t4において、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み始めると、入力部材の絶対変位量が増加する。このとき、入力部材が大きく変化した場合であっても、タイマのカウントアップ中であるため、ペダル変化量が更新されず、能動制御目標値が変更されないため、アシスト部材絶対変位量は維持される。
【0122】
時刻t5において、運転者がブレーキペダルBPを戻し始めると、その分、マスタシリンダ圧も低下し始める。そして、時刻t6において、入力部材絶対変位量がペダル初期変位を下回ると、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換えられ、アシスト部材は入力部材絶対変位量に応じた相対変位量を達成するように制御される。
【0123】
以下、実施例1に基づく技術的思想の創作に係る作用効果について下記に列挙する。
(1)ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の移動方向に対して相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材を進退移動させるアクチュエータ(駆動モータ50)と、駆動モータ50をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、アシスト部材の移動による推力によりマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられ、車輪のスリップ状態を検出した時にホイルシリンダ4のブレーキ液を排出し、排出したブレーキ液をマスタシリンダ2に環流させる液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、マスタシリンダ圧制御装置8は、駆動モータ50を駆動して入力部材の移動量に応じてアシスト部材を進退移動させるアシスト部材受動制御と、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動時にはアシスト部材からの力の入力に対する入力部材の変位を制限するアシスト部材能動制御と、を行うこととした。
【0124】
よって、液圧制御ユニットの作動によってマスタシリンダ側にブレーキ液が環流され、この環流によってアシスト部材が影響を受けたとしても、アシスト部材から付勢手段を介して伝達される入力部材の変位を制限するため、脈圧やペダル振動を抑えて良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0125】
(2)アシスト部材能動制御は、アシスト部材の移動量を所定の範囲内に制限することとした。よって、アシスト部材自体の変動を所定範囲内に抑制することで、アシスト部材と付勢手段を介して接続された入力部材の変動を抑制することができる。
【0126】
(3)入力部材とアシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋(プライマリ液室2d)内に臨んで配置され、入力部材の受圧面積は、アシスト部材の受圧面積より小さいこととした。よって、マスタシリンダ圧が変化したとしても、入力部材に作用する力を小さくすることが可能となり、入力部材の変動を小さくすることができる。
【0127】
(4)アシスト部材能動制御は、アシスト部材の移動量をゼロとした。具体的には、ABS制御作動時のアシスト部材絶対変位量を目標値とし、この目標値となるようにアシスト部材を制御することとした。よって、更に入力部材の変動を抑制することができる。
【0128】
(5)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)は通信線Lで接続している。よって、種々の情報のやりとりができる。
【0129】
(6)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態を、通信線Lを介して液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)から受信することとした。よって、液圧制御ユニットの情報を素早く検知することができる。
【0130】
(7)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態を受信した時にアシスト部材能動制御を行うこととした。よって、マスタシリンダ側に何らかの影響が想定された段階で事前にアシスト部材能動制御を行うことが可能となり、ペダルフィーリングを更に向上できる。
【0131】
(8)液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動はアンチロックブレーキ制御の作動(ABS制御作動)であり、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)はアンチロックブレーキ制御開始時のアシスト部材の絶対位置であるアシスト部材絶対変位量を記憶する位置記憶手段(アシスト部材絶対変位量記憶部b1)を有し、アシスト部材能動制御は、記憶された位置に対して所定の範囲内にアシスト部材の位置を制御することとした。
【0132】
よって、ABS制御作動によってマスタシリンダ圧が変動し、入力部材が変動したとしても、この入力部材の情報を用いることなく、記憶された位置に対して制御されるため、制御系が振動することなく、良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0133】
(9)ブレーキペダルBPの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、所定の入力信号に応じてアシスト部材を駆動するアクチュエータ(駆動モータ50)をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられた液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態に応じてアクチュエータを駆動するための所定の入力信号を切り換えることとした。
【0134】
よって、液圧制御ユニットの作動状態によっては制御系の安定化が阻害される場合、入力信号を切り換えることで、制御系の安定化を図ることができる。
【0135】
(10)所定の入力信号は、液圧制御ユニット非作動時には入力部材のストローク量(入力部材絶対変位量)であり、液圧制御ユニットの作動時にはアシスト部材の絶対位置(アシスト部材絶対変位量)に応じた信号である。すなわち、液圧制御ユニット非作動時は運転者の意図を最も反映しやすい入力部材絶対変位量を用いて制御し、液圧制御ユニット作動時は、液圧制御ユニットの作動に伴う入力部材の変動が制御系に与える影響を考慮して、より位相遅れが小さな、すなわち直接的な制御対象であるアシスト部材絶対変位量に応じた信号とすることで、安定したペダルフィーリングを得ることができる。
【0136】
(11)ブレーキペダルBPの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、入力信号に応じて前記アシスト部材を駆動するアクチュエータ(駆動モータ50)をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4の間に設けられた液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態に応じてアクチュエータ(駆動モータ50)を駆動するための制御ゲインを切り換えることとしてもよい。
【0137】
すなわち、実施例1では、変位センサ7をそのまま用いてアシスト部材受動制御を行うと、変位センサ7の変動に対して制御系が振動することを回避するために、ABS制御作動時のアシスト部材絶対変位量を用いてアシスト部材能動制御を行うものである。そして、このアシスト部材能動制御の制御目標値である能動制御目標値は、タイマにより更新タイミングが規制されたペダル変化量を用いて補正するように構成している。
【0138】
言い換えると、変位センサ7の信号の伝達を遅らせて入力信号の変動を抑制し、制御系の振動を抑制しているものである。すなわち、入力信号に遅れ要素を付与し、安定化させたものである。ここで、フィードバック制御ループを考えたとき、系の目標値に対する応答性は制御ゲインによって調整される。よって、例えばサーボ制御部d1の制御ゲインを応答性が低下するように変更することで、制御系の振動を抑制することとしてもよい。
【0139】
〔実施例2〕
次に実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため異なる点についてのみ説明する。図12は実施例2の制御構成を表すブロック図である。基本となる通常倍力制御の構成(アシスト部材受動制御)、及び制御切換処理については実施例1と同じであるため説明を省略する。実施例1では、アシスト部材の位置を所定範囲に制限することで入力部材の変動を抑制した。これに対し、実施例2では、マスタシリンダ圧を制御対象としている点が異なる。
【0140】
以下、ABS制御時においてアシスト部材の作動範囲を制限するアシスト部材能動制御の構成について説明する。尚、マスタシリンダ圧センサ3a,3bを総称してマスタシリンダ圧センサと記載する。
【0141】
〔アシスト部材能動制御〕
マスタシリンダ圧記憶部e1では、マスタシリンダ圧センサ信号及びホイルシリンダ圧制御装置9からのABS制御信号を入力とし、ABS制御信号入力時におけるマスタシリンダ圧を記憶する。
【0142】
ペダル変化量演算部e2では、予め設定されたタイマ値毎に入力部材絶対変位量の変化量を更新して記憶する。
【0143】
目標値補正部e3では、ペダル変化量演算部e2において演算されたペダル変化量に応じてアシスト部材能動制御において設定される目標値を補正する。
【0144】
能動制御目標値演算部e4では、マスタシリンダ圧記憶部e1において記憶されたマスタシリンダ圧に所定のオフセットを設定した値を初期のマスタシリンダ圧目標値とし、目標値補正部e3からの指令に応じて補正された値を最終的なマスタシリンダ圧の能動制御目標値として出力する。
【0145】
記憶されたマスタシリンダ圧にオフセットを加算するのは、ABS制御によって減圧制御が行われた後は、増圧制御が成される際にマスタシリンダ側からブレーキ液を十分に供給するためである。尚、環流液量を、例えばABS制御において減圧弁14,15,24,25の開弁時間により推定し、減圧時間が所定時間以上のときは減圧量が多く、それに伴って環流液量が多いと判断してオフセット値を大きい値に変更するようにしてもよい。減圧量が多いと、その分マスタシリンダ側に環流されるブレーキ液量も多いと推定され、能動制御目標値を高くしておけばブレーキ液が環流されたときとしてもさほどアシスト部材の移動によって吸収する必要がない。すなわち、アシスト部材の作動量を低減できるからである。
【0146】
更に、環流液量の推定には、減圧弁や増圧弁の作動時間の組み合わせによって推定してもよいし、ABS制御において目標液圧を演算する構成の場合は、その目標液圧と現時点でのホイルシリンダ圧との偏差に応じて推定してもよい。更に、リザーバ16,26に流入したブレーキ液量を推定するリザーバモデルを備えている場合には、このリザーバモデルに流入するブレーキ液量に応じて推定してもよい。
【0147】
能動制御偏差演算部e5では、能動制御目標値演算部e4において設定された能動制御目標値とマスタシリンダ圧センサにより検出されたマスタシリンダ圧との偏差を演算する。この偏差は後述する切換部c3に出力される。以下、切換部c3においてアシスト部材能動制御が選択されている場合について示す。
【0148】
サーボ制御部d1では、能動制御偏差演算部e5において演算された偏差に基づいてフィードバックによるサーボ制御を行う。そして、駆動モータ50に供給する電流指令値を演算し、駆動モータ50に出力する。駆動モータ50に出力された電流は、回転駆動し、伝達機構を介してアシスト部材の進退移動を行う。具体的には、能動制御目標値がマスタシリンダ圧よりも高いときはアシスト部材を前進させ、能動制御目標値がマスタシリンダ圧よりも低いときはアシスト部材を後退させる。
【0149】
尚、アシスト部材能動制御では、アシスト部材受動制御における制御ゲインKp,Ki,Kdを異なるゲインに設定し、P-Q特性を考慮した制御量として出力する。尚、P-Q特性とは、液圧と液量との関係を示す特性であり、マスタシリンダ圧力を変更するには、どの程度の液量を変更しなければならないか、を表すものである。液量が決まると、アシスト部材や入力部材のストローク量が決まるからである。
【0150】
〔制御切換処理〕
次に、アシスト部材受動制御とアシスト部材能動制御の切換処理について説明する。ペダル初期変位記憶部c1では、入力部材絶対変位量及びホイルシリンダ圧制御装置9からのABS制御信号を入力とし、ABS制御信号入力時における入力部材絶対変位量に所定のオフセット値を差し引いた値を記憶する。
【0151】
比較部c2では、記憶されたペダル初期変位から所定のオフセット値を差し引いた値と現在の入力部材絶対変位量とを比較し、運転者によりブレーキペダルBPが戻された場合には、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換える指令を出力する。
【0152】
切換部c3では、ABS制御信号及び比較部c2からの切換信号に基づき、制御を切り換える。ABS制御信号が入力されたときは、アシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換え、比較部c2から指令信号が入力されたときはアシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換える。
【0153】
〔アシスト部材能動制御導入の論理〕
ここで、変位センサ7に入力される運転者の踏力,液室2e,2d及び付勢手段6d,6eとの関係について説明する。実施例1の制御構成では、アシスト部材を駆動モータ50により駆動すると、その影響は付勢手段を介して入力部材に作用すると共に、液室2e,2dに作用する。入力部材は液室2e,2dに臨んで配置されており、また、付勢手段を介してアシスト部材と弾性的に接続されていることから、この液室2e,2dに作用した影響は、液圧の変化によって入力部材にも影響を与える。また、入力部材は運転者の踏力が入力されることで変位するため、変位センサ7が検出する値は、運転者の踏力に基づく影響とアシスト部材の作動に基づく影響の両方が現れる。
【0154】
上述したように、通常制御であるアシスト部材受動制御は、運転者の踏力によって生じた入力部材の変位を検出し、その変位に応じてアシスト部材を制御する。このとき、制御系が振動等を起こさないような制御ゲインを設定し、制御系の安定化を図っている。
【0155】
ここで、ホイルシリンダ圧制御装置9においてABS制御が実行されると、ホイルシリンダから減圧により流出したブレーキ液がマスタシリンダ側に環流され、その影響は液室2e,2dに及ぶ。そうすると、この影響によって変位センサ7も影響を受け、当初、アシスト部材受動制御において想定していた影響とは異なり、制御系に外乱が作用することとなる。
【0156】
このマスタシリンダ側へのブレーキ液の環流による影響は、減圧作動が間欠的に行われること、また、非常に細かな周期で繰り返されること、を想定すると、変位センサ7の検出値は、液室2e,2dに生じる液圧変動よりも遅れて変位するものであり、また、これに伴ってアシスト部材を制御しても、アシスト部材の制御に伴う液室2e,2dの変動とが干渉し、制御系全体が振動するおそれがある。また、この振動によって入力部材が大きく進退移動し、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0157】
そこで、実施例2では、ABS制御作動が検出されたときは、変位センサ7による検出値に基づくアシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換え、変位センサ7のように液室2e,2dに作用する外乱から制御位相として遅れることのない能動制御目標値を設定してフィードバック制御を行うこととした。
【0158】
具体的には、ABS制御開始時点におけるマスタシリンダ圧に所定のオフセットを加算した値を目標値としたフィードバックループを形成する。これにより、目標値が振動することを回避する。また、マスタシリンダ圧センサの検出値を用いてフィードバックループを形成しているため、変位センサ7のように圧力が変化し、その次に、変位が生じるような制御位相の遅れた信号に比べて、制御位相の早い信号を用いることで、制御の安定性を確保する。
【0159】
これにより、制御系の振動が抑制されることでアシスト部材の変位が制限され、マスタシリンダ側へのブレーキ液の環流による影響は、アシスト部材と入力部材に作用する。ここで、アシスト部材と入力部材との間には、一対のばね6d,6e(付勢手段)により両者の相対変位を中立位置に保持する機能を有しているため、マスタシリンダ圧の変動を吸収すべくアシスト部材が移動すると、入力部材も一緒に移動する。
【0160】
しかしながら、入力部材に作用するマスタシリンダ圧はアシスト部材能動制御に切り換えられた後は変化していないため、アシスト部材と入力部材の間の相対変位量は一定となり、相対変化量の変化に伴う振動等は生じない。よって、運転者に与える違和感を抑制することができる。また、若干の振動が生じることで、運転者はABS制御作動が行われていることを感知することができる。
【0161】
また、上述のように、本制御によれば、入力部材の絶対変位量はABS制御の増減圧作動に応じて若干変動するものの、アシスト部材能動制御における入力信号として入力部材の絶対変位量を用いていないため、制御系に影響はない。
【0162】
ただし、入力部材の絶対変位量を入力情報として用いないため、ブレーキペダル操作に基づく情報がなくなることになる。そうすると、運転者のブレーキペダル操作に応じた入力部材の変位を許容できず、ABS制御中に運転者がブレーキペダルを戻したとしても、入力部材が戻らなくなる。そのため、変位センサ7の検出値を所定のタイマ値に基づいて更新し、言い換えると、変位センサ7の信号の位相を遅らせて検出し、その変化量に応じて能動制御目標値の補正や、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御への切り換えを行うこととした。
【0163】
以下、上記実施例2の制御構成に基づく制御処理についてフローチャートにも基づいて説明する。尚、実施例1の図3に示す基本制御構成及び図4に示すアシスト部材受動制御は同じであるため省略する。
【0164】
図13はアシスト部材能動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
ステップS201では、ペダル変化量を演算する。尚、この処理は実施例1の図6に示すペダル変化量算出処理と同じである。
ステップS202aでは、ABS制御開始時におけるマスタシリンダ圧を記憶する。
ステップS203aでは、記憶されたマスタシリンダ圧に所定のオフセットを加算して能動制御目標値として設定する。
ステップS204aでは、能動制御目標値をペダル変化量に基づいて補正する。
ステップS205aでは、設定された能動制御目標値とマスタシリンダ圧とが一致するようにサーボ制御を実行する。
【0165】
図14は図13のステップS202aにおいて実行されるマスタシリンダ圧記憶処理を表すフローチャートである。
ステップS21では、前回制御周期においてABS制御非作動状態から、今回の制御周期においてABS制御作動状態に変化したかどうかを判断し、変化した場合にはステップS22aに進み、それ以外のときはステップS23に進む。
ステップS22aでは、現時点でのマスタシリンダ圧センサにより検出されたマスタシリンダ圧をマスタシリンダ圧記憶値として記憶する。
ステップS23では、ABS制御状態が非作動か否かを判断し、ABS制御非作動のときはステップS22aに進んで現時点でのマスタシリンダ圧を記憶値として更新し、ABS制御作動のときは記憶値の更新を禁止して本制御フローを終了する。
【0166】
図15は図13のステップS203a,S204aにおいて実行される能動制御目標値設定処理を表すフローチャートである。
ステップS41では、図6に示すフローチャートにおいて設定されるペダル変化量算出フラグが1に設定されているか否かを判断し、1に設定されているときはペダル変化量の更新が行われると判断してステップS42に進み、0にセットされているときは、ペダル変化量の更新が禁止されているため本制御フローを終了する。
【0167】
ステップS42では、更新されたペダル変化量が予め設定された所定値Aよりも大きいか否かを判断し、大きいときはステップS43aに進み、それ以外のときはステップS44に進む。尚、この所定値Aとは、運転者のブレーキペダル操作の状態をある程度の応答性で検出しつつ、制御系が振動を起こさない範囲で設定される。
【0168】
ステップS43aでは、ブレーキペダルが運転者により踏み込まれていると判断し、ABS制御開始時に記憶されたマスタシリンダ圧にオフセットを加算した値(もしくは補正された能動制御目標値)を、マスタシリンダ圧が更に増加するような値に補正して能動制御目標値とする。
【0169】
ステップS44では、ペダル変化量が所定値B未満か否かを判断し、所定値未満のときはステップS45aへ進み、それ以外のときはペダル操作が行われていないと判断して本制御フローを終了する。
【0170】
ステップS45aでは、ブレーキペダルが運転者により戻されていると判断し、ABS制御開始時に記憶されたマスタシリンダ圧にオフセットを加算した値(もしくは補正された能動制御目標値)を、マスタシリンダ圧が減少するような値に補正して能動制御目標値とする。
【0171】
尚、実施例2においても、実施例1の図9に示すペダル初期変位記憶部c1,比較部c2及び切換部c3において実行される制御切り換え処理は同じであり、実施例1の図10に示すペダル初期変位検出処理も同じであるため説明を省略する。
【0172】
次に、上記制御フローに基づく作用について説明する。図16は実施例2におけるABS制御作動時のアシスト部材能動制御を表すタイムチャートである。図16中、太い実線が実施例2の作動を表し、細い実線が制御切り換えを行わない比較例の作動を表す。
【0173】
時刻t1において、この時点ではアシスト部材受動制御が選択されている。よって、運転者がブレーキペダルBPを踏み始めると、入力部材がストロークを開始し、それに伴ってアシスト部材も移動する。また、この時点で設定された倍力比に応じたマスタシリンダ圧が発生し、それに伴ってホイルシリンダ圧も上昇を開始する。
【0174】
時刻t2において、車輪のスリップ率が所定値以上になり、ABS制御が開始されると、ホイルシリンダ圧制御機構3においては、減圧信号が出力され、ホイルシリンダからブレーキ液がリザーバに流出する。同時にポンプP1,P2の駆動によってマスタシリンダ側に環流される。一方、マスタシリンダ圧制御機構5においては、ABS制御信号を入力した時点でアシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換えられ、ABS制御信号を入力した時点でのマスタシリンダ圧にオフセットを加算した値が能動制御目標値として設定される。
【0175】
同時に、ABS制御開始時点での入力部材絶対変位量から所定のオフセット値を差し引いた値がペダル初期位置として記憶され、ペダル変位量を算出するためのタイマのカウントアップが開始される。
【0176】
ABS制御作動が継続している間は、基本的にはマスタシリンダ圧は能動制御目標値に維持される。このとき、ABS制御作動により環流したブレーキ液量に応じてマスタシリンダ圧が上昇しようとするものの、アシスト部材の進退移動によってマスタシリンダ圧が変化しないよう制御されているため、ブレーキ液の環流に伴うマスタシリンダ圧の変化はない。ただし、アシスト部材に対し付勢手段を介して接続された入力部材には、マスタシリンダ圧が一定であることからアシスト部材との相対変位量は変化しないものの、アシスト部材の進退移動に伴って変動が発生する。ただし、入力部材の変位に応じてアシスト部材を制御しているものではなく、入力部材が変動したとしても、制御系の振動等を招くことはない。
【0177】
以降、この制御状態が継続され、ABS制御作動に伴う減圧制御がなされると、その都度マスタシリンダ側にブレーキ液が環流されて、その作動に応じてアシスト部材及び入力部材が進退移動する。
【0178】
これに対し、比較例では、ブレーキ液の環流によってマスタシリンダ圧が変化すると、この変化によって入力部材絶対変位量が変動し、この変動に応じてアシスト部材絶対変位量も変動する。アシスト部材と入力部材は付勢手段を介して接続されているため、アシスト部材が変動するときの力が入力部材に入力され、以後、この変動を繰り返すことで制御系が振動し、入力部材絶対変位量も大きく変化し、運転者に違和感を与えていた。これに対し、実施例2のようにアシスト部材能動制御に切り換え、制御位相の早いマスタシリンダ圧に基づいてフィードバック制御を行うことで、制御系の振動を抑制することが可能となり、入力部材絶対変位量の振動に伴う変化も小さくすることができる。
【0179】
以下、実施例2に基づく技術的思想の創作に係る作用効果について下記に列挙する。
(12)ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の移動方向に対して相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材を進退移動させるアクチュエータ(駆動モータ50)と、駆動モータ50をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、アシスト部材の移動による推力によりマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられ、車輪のスリップ状態を検出した時にホイルシリンダ4のブレーキ液を排出し、排出したブレーキ液をマスタシリンダ2に環流させる液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、マスタシリンダ圧制御装置8は、駆動モータ50を駆動して入力部材の移動量に応じてアシスト部材を進退移動させるアシスト部材受動制御と、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動時にはアシスト部材からの力の入力に対する入力部材の変位を制限するアシスト部材能動制御と、を行うこととした。
【0180】
よって、液圧制御ユニットの作動によってマスタシリンダ側にブレーキ液が環流され、この環流によってアシスト部材が影響を受けたとしても、アシスト部材からの力の入力によって入力部材が変位することが制限されているため、脈圧やペダル振動を抑えて良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0181】
(12)マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサを備え、アシスト部材能動制御はマスタシリンダ圧の変化が所定の範囲内になるようにアシスト部材の移動量を制御することとした。
【0182】
すなわち、制御位相の早いマスタシリンダ圧に基づいてフィードバック制御を行うことで、制御系の振動を抑制することが可能となり、入力部材絶対変位量の振動に伴う変化も小さくすることができる。
【0183】
(13)入力部材とアシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋(プライマリ液室2d)内に臨んで配置され、入力部材の受圧面積は、アシスト部材の受圧面積より小さいこととした。よって、アシスト部材を僅かに進退移動させるだけで環流されたブレーキ液に伴うマスタシリンダ圧の変化を吸収することが可能となり、入力部材の変動を小さくすることができる。
【0184】
(14)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)は通信線Lで接続している。よって、種々の上方のやりとりができる。
【0185】
(15)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態を、通信線Lを介して液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)から受信することとした。よって、液圧制御ユニットの情報を素早く検知することができる。
【0186】
(16)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態を受信した時にアシスト部材能動制御を行うこととした。よって、マスタシリンダ側に何らかの影響が想定された段階で事前にアシスト部材能動制御を行うことが可能となり、ペダルフィーリングを更に向上できる。
【0187】
(17)ブレーキペダルBPの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、所定の入力信号に応じてアシスト部材を駆動するアクチュエータ(駆動モータ50)をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられた液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態に応じてアクチュエータ(駆動モータ50)を駆動するための所定の入力信号を切り換えることとした。
【0188】
よって、液圧制御ユニットの作動状態によっては制御系の安定化が阻害される場合、入力信号を切り換えることで、制御系の安定化を図ることができる。
【0189】
(18)所定の入力信号は、前記液圧制御ユニット非作動時には入力部材のストローク量(入力部材絶対変位量)であり、液圧制御ユニットの作動時にはマスタシリンダ内の圧力に応じた信号である。すなわち、液圧制御ユニット非作動時は運転者の意図を最も反映しやすい入力部材絶対変位量を用いて制御し、液圧制御ユニット作動時は、液圧制御ユニットの作動に伴う入力部材の変動が制御系に与える影響を考慮して、より制御位相の早いマスタシリンダ圧を入力信号とすることで、安定したペダルフィーリングを確保することができる。
【0190】
(19)液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動はアンチロックブレーキ制御の作動(ABS制御作動)であり、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、アンチロックブレーキ制御開始時のマスタシリンダ圧を記憶し、該記憶されたマスタシリンダ圧に対してマスタシリンダ圧が所定の範囲内となるように制御することとした。
【0191】
よって、ABS制御作動によってブレーキ液が環流され、それに伴うマスタシリンダ圧の変化を吸収する際に入力部材やアシスト部材が変動したとしても、この入力部材の情報を用いることなく、記憶されたマスタシリンダ圧に対して制御されるため、制御系が振動することなく、良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0192】
(20)ブレーキペダルBPの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、入力信号に応じてアシスト部材を駆動するアクチュエータ(駆動モータ50)をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられた液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニットが作動したときは、液圧制御ユニットが非作動時の入力信号よりも位相遅れが小さな入力信号に切り換えることとした。
【0193】
具体的には、マスタシリンダ圧が変化して初めて移動する入力部材ではなく、マスタシリンダ圧自体を入力信号として用いた。よって、制御系の振動を効果的に抑制することができる。
【0194】
以上、実施例1,2について説明したが、上記構成に限られず、例えば、ABS制御開始時の入力部材絶対変位量を記憶しておき、この記憶された入力部材絶対変位量を固定値とする。そして、マスタシリンダ圧を検出し、図4(c)に示す入力部材絶対変位量とマスタシリンダ液圧の関係から、現在のマスタシリンダ圧と固定された入力部材絶対変位量に応じた倍力比を算出する。次に、固定された入力部材絶対変位量と倍力比が決まったことから、図4(b)に示す相対変位量を算出する。そして、固定された入力部材絶対変位量と相対変位量とからアシスト部材の目標変位量を設定し、このアシスト部材をフィードバック制御する構成としても良い。
【0195】
すなわち、マスタシリンダ側にブレーキ液が環流されると、マスタシリンダ圧が上昇しようとする。このとき、倍力比を適宜変更してアシスト部材を制御すれば、入力部材に作用するマスタシリンダ圧上昇分の力を付勢手段により吸収させることができるため、入力部材の変動を抑制でき、良好なペダルフィーリングを確保できる。
【0196】
尚、入力部材自体が多少変動するものの、入力部材の位置を記憶された固定値とし、マスタシリンダ圧の変化に応じてアシスト部材を制御するため、アシスト部材の制御に伴って入力部材絶対変位量が変動することに伴う制御系の振動も抑制することができる。
【符号の説明】
【0197】
1 ブレーキ制御装置
2 マスタシリンダ
2b プライマリピストン(アシスト部材)
2e,2d 液室
3 ホイルシリンダ圧制御機構
3a,3b マスタシリンダ圧センサ
4 ホイルシリンダ
5 マスタシリンダ圧制御機構
6 インプットロッド(入力部材)
6d,6e バネ(付勢手段)
7 変位センサ
8 マスタシリンダ圧制御装置
9 ホイルシリンダ圧制御装置
12,13,22,23 増圧弁
14,15,24,25 減圧弁
16,26 リザーバ
50 駆動モータ
57 ボールネジ軸(アシスト部材)
58 可動部材(アシスト部材)
BP ブレーキペダル
L 通信線
M モータ
P ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダル操作に対するアシスト力を付与可能なブレーキ倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスタシリンダ内の容積を変化させる入力部材及びアシスト部材を設け、ブレーキペダル操作に伴う入力部材の変位に伴ってアシスト部材を変位させる技術が開示されている。これにより、ブレーキペダル操作によるマスタシリンダ内の容積変化に加え、アシスト部材による容積変化を与えることで、ブレーキペダル操作時にアシスト力を付与する所謂倍力機構を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ブレーキ倍力装置とホイルシリンダの間にアンチロックブレーキ制御等を実行可能なブレーキ液圧制御ユニットが配置される場合、以下に示す問題があった。アンチロックブレーキ制御では、ホイルシリンダ内のブレーキ液圧をタイヤのスリップ状態に応じて適宜増減圧する。具体的には、増圧時はマスタシリンダからホイルシリンダにブレーキ液を供給し、減圧時はホイルシリンダからブレーキ液をリザーバに排出する。そして、このリザーバに蓄えられたブレーキ液は、ポンプによってマスタシリンダ内に環流される。液量収支を確保するためである。
【0005】
このとき、マスタシリンダ内では、ブレーキペダル操作に係わらずブレーキ液の変動が生じ、この変動に伴って入力部材やアシスト部材がストロークする。上述したように、制御上は、入力部材の変位に対するアシスト部材の変位を制御しているため、ブレーキペダル操作に伴う入力部材の変位以外の外乱によって入力部材やアシスト部材が変位すると、制御が振動的または発散的になり、脈圧やペダル振動を招くおそれがあった。
【0006】
また、マスタシリンダ側に環流されるブレーキ液は減圧量等によって異なり、環流作動自体も間欠的に実行されることから、ブレーキペダルに与える反力が一定とならず、運転者に違和感を与えるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、ブレーキ倍力装置とホイルシリンダとの間にブレーキ液圧制御ユニットが介在したとしても、良好なペダルフィーリングを得ることが可能なブレーキ倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、液圧制御ユニットの作動時と非作動時とで倍力装置の制御を異ならせ、液圧制御ユニットが作動したとしても入力部材の変位が小さくなるように制御することとした。
【発明の効果】
【0009】
よって、脈圧やペダル振動を抑えて良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】実施例1の制御構成を表すブロック図である。
【図3】実施例1のアシスト部材受動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
【図4】実施例1の入力絶対変位量に対するアシスト部材絶対変位量との倍力比に基づく関係、及び、入力変位量に対する相対変位量との倍力比に基づく関係、及び入力絶対変位量に対するマスタシリンダ液圧との倍力比に基づく関係を表す図である。
【図5】実施例1のアシスト部材能動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
【図6】実施例1のペダル変化量算出処理を表すフローチャートである。
【図7】実施例1のアシスト部材絶対変位量記憶処理を表すフローチャートである。
【図8】実施例1の能動制御目標値設定処理を表すフローチャートである。
【図9】実施例1のペダル初期変位記憶部,比較部及び切換部において実行される制御切り換え処理を表すフローチャートである。
【図10】実施例1のペダル初期変位検出処理を表すフローチャートである。
【図11】実施例1におけるABS制御作動時のアシスト部材能動制御を表すタイムチャートである。
【図12】実施例2の制御構成を表すブロック図である。
【図13】実施例2のアシスト部材能動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
【図14】実施例2のマスタシリンダ圧記憶処理を表すフローチャートである。
【図15】実施例2の能動制御目標値設定処理を表すフローチャートである。
【図16】実施例2におけるABS制御作動時のアシスト部材能動制御を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実現する最良の形態を、図面に基づき説明する。
〔実施例1〕
〔ブレーキ制御装置の構成〕
図1は、本実施例1のブレーキ制御装置1の全体構成を示す。FL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪である。また、矢印付きの破線は信号線であり、矢印の向きによって信号の流れを表す。
【0012】
ブレーキ制御装置1は、マスタシリンダ2と、リザーバタンクRESと、ホイルシリンダ圧制御機構3と、各輪FL,FR,RL,RRに設けられたホイルシリンダ4a〜4dと、マスタシリンダ2に接続して設けられたマスタシリンダ圧制御機構5およびインプットロッド6と、ブレーキ操作量検出装置7と、マスタシリンダ圧制御機構5を制御するマスタシリンダ圧制御装置8と、ホイルシリンダ圧制御機構3を制御するホイルシリンダ圧制御装置9と、を有している。
【0013】
インプットロッド6は、ブレーキペダルBPとともに、マスタシリンダ2内の液圧(以下、マスタシリンダ圧Pmc)を加減圧する。マスタシリンダ圧制御機構5およびマスタシリンダ圧制御装置8は、マスタシリンダ2のプライマリピストン2bとともに、マスタシリンダ圧Pmcを加減圧する。
【0014】
以下、説明のため、マスタシリンダ2の軸方向にx軸を設定し、ブレーキペダルBPの側を負方向と定義する。マスタシリンダ2はいわゆるタンデム型であり、シリンダ2a内にプライマリピストン2bおよびセカンダリピストン2cを有している。シリンダ2aの内周面と、プライマリピストン2bのx軸正方向側の面およびセカンダリピストン2cのx軸負方向側の面との間で、加圧室としてのプライマリ液室2dが形成されている。シリンダ2aの内周面とセカンダリピストン2cのx軸正方向側の面との間で、加圧室としてのセカンダリ液室2eが形成されている。
【0015】
プライマリ液室2dは、ブレーキ回路10と連通可能に接続され、セカンダリ液室2eは、ブレーキ回路20と連通可能に接続されている。プライマリ液室2dの容積は、プライマリピストン2bおよびセカンダリピストン2cがシリンダ2a内で摺動することで変化する。プライマリ液室2dには、プライマリピストン2bをx軸負方向側に付勢する戻しバネ2fが設置されている。セカンダリ液室2eの容積は、セカンダリピストン2cがシリンダ2a内で摺動することで変化する。セカンダリ液室2eには、セカンダリピストン2cをx軸負方向側に付勢する戻しバネ2gが設置されている。
【0016】
インプットロッド6のx軸正方向側の一端6aは、プライマリピストン2bの隔壁2hを貫通し、プライマリ液室2d内に設置されている。インプットロッド6の一端6aとプライマリピストン2bの隔壁2hとの間はシールされ、液密性が保たれているとともに、一端6aは隔壁2hに対してx軸方向に摺動可能に設けられている。一方、インプットロッド6のx軸負方向側の他端6bは、ブレーキペダルBPに連結されている。ブレーキペダルBPが踏まれるとインプットロッド6はx軸正方向側に移動し、ブレーキペダルBPが戻されるとインプットロッド6はx軸負方向側に移動する。
【0017】
プライマリ液室2dの作動液は、インプットロッド6または(駆動モータ50により駆動される)プライマリピストン2bがx軸正方向側へ推進することによって加圧される。加圧された作動液は、ブレーキ回路10を経由してホイルシリンダ圧制御機構3に供給される。また、加圧されたプライマリ液室2dの圧力により、セカンダリピストン2cがx軸正方向側へ推進する。セカンダリ液室2eの作動液は、セカンダリピストン2cの上記推進によって加圧され、ブレーキ回路20を経由してホイルシリンダ圧制御機構3に供給される。
【0018】
このようにインプットロッド6がブレーキペダルBPと連動して移動し、プライマリ液室2dを加圧する構成により、万一、故障により駆動モータ50が停止した場合にも、運転者のブレーキ操作によってマスタシリンダ圧Pmcを上昇でき、所定のブレーキ力が確保される。また、マスタシリンダ圧Pmcに応じた力がインプットロッド6を介してブレーキペダルBPに作用し、ブレーキペダル反力として運転者に伝達されるため、上記構成を採らない場合に必要な、ブレーキペダル反力を生成するバネ等の装置が不要となる。よって、ブレーキ制御装置の小型化・軽量化が図られ、車両への搭載性が向上する。
【0019】
インプットロッド6の他端6b側には、運転者の要求ブレーキ力を検出するブレーキ操作量検出装置7が設けられている。ブレーキ操作量検出装置7は、インプットロッド6のx軸方向変位量を検出する変位センサ(ブレーキペダルBPのストロークセンサ)である。本実施例1では、2つの変位センサ7a,7bが設けられており、これらにより検出された変位量はそれぞれマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。このように複数個の変位センサを組み合わせることにより、万一、故障により1つのセンサからの信号が途絶えた場合にも、残りのセンサによって運転者のブレーキ要求が検出・認知されるため、フェールセーフが確保される。
【0020】
また、ブレーキ操作量検出装置7としては、ブレーキペダルBPの踏力を検出する踏力センサや、ストロークセンサと踏力センサを組み合わせた構成であってもよい。
【0021】
リザーバタンクRESは、隔壁によって互いに仕切られた少なくとも2つの液室を有している。各液室はそれぞれブレーキ回路10j,20jを介して、マスタシリンダ2のプライマリ液室2dおよびセカンダリ液室2eと連通可能に接続されている。
【0022】
ホイルシリンダ圧制御機構3は、ABS制御や車両挙動安定化制御等を実行可能な液圧制御ユニットであり、マスタシリンダ2等で加圧された作動液を、ホイルシリンダ圧制御装置9の制御指令に従って、各ホイルシリンダ4a〜4dへ供給する。
【0023】
ホイルシリンダ4a〜4dは、シリンダ、ピストン、パッド等を有しており、ホイルシリンダ圧制御機構3から供給された作動液によって上記ピストンが推進され、このピストンに連結されたパッドがディスクロータ40a〜40dに押圧される周知のものである。なお、ディスクロータ40a〜40dはそれぞれ車輪FL,FR,RL,RRと一体回転し、ディスクロータ40a〜40dに作用するブレーキトルクは、車輪FL,FR,RL,RRと路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0024】
マスタシリンダ圧制御機構5は、プライマリピストン2bの変位量すなわちマスタシリンダ圧Pmcを、マスタシリンダ圧制御装置8の制御指令に従って制御するものであり、駆動モータ50と、減速装置51と、回転−並進変換装置55と、を有している。
【0025】
マスタシリンダ圧制御装置8は演算処理回路であり、ブレーキ操作量検出装置7や駆動モータ50からのセンサ信号や、後述するホイルシリンダ圧制御装置9からの信号等に基づいて、駆動モータ50の作動を制御する。
【0026】
ホイルシリンダ圧制御装置9は演算処理回路であり、先行車との車間距離や道路情報、および車両状態量(例えば、ヨーレート、前後加速度、横加速度、ハンドル舵角、車輪速、車体速等)に基づき、各輪FL,FR,RL,RRで発生させるべき目標ブレーキ力を算出する。そして、この算出結果に基づき、ホイルシリンダ圧制御機構3の各アクチュエータ(ソレノイドバルブやポンプ)の作動を制御する。
【0027】
なお、マスタシリンダ圧制御装置8とホイルシリンダ圧制御装置9とは信号線Lで結線されて通信可能である。
【0028】
[ホイルシリンダ圧制御機構]
以下、ホイルシリンダ圧制御機構3の油圧回路構成を説明する。
【0029】
ブレーキ回路は独立した2つのブレーキ系統を有し、プライマリ系統およびセカンダリ系統に分かれている。プライマリ系統は、プライマリ液室2dから作動液の供給を受け、ブレーキ回路10を介してFL輪とRR輪のブレーキ力を制御する。セカンダリ系統は、セカンダリ液室2eから作動液の供給を受け、ブレーキ回路20を介してFR輪とRL輪のブレーキ力を制御する。このようにいわゆるX配管構造であるため、一方のブレーキ系統が失陥した場合でも、他方の正常なブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力が確保され、車両の挙動が安定に保たれる。以下、プライマリ系統を例にとって説明する。
【0030】
ブレーキ回路10のマスタシリンダ2側(以下、上流という)からホイルシリンダ4a,4d側(以下、下流という)に向かう途中には、アウト側ゲート弁11が設けられている。アウト側ゲート弁11は、マスタシリンダ2で加圧された作動液をホイルシリンダ4a,4dに供給する際に開弁される。
【0031】
アウト側ゲート弁11が設けられたブレーキ回路10kの下流はブレーキ回路10a,10bに分岐し、ブレーキ回路10a,10bは、それぞれブレーキ回路10l,10mを介してホイルシリンダ4a,4dに接続している。ブレーキ回路10a,10b上には、それぞれ増圧弁12,13が設けられている。増圧弁12,13は、マスタシリンダ2または後述のポンプPで加圧された作動液をホイルシリンダ4a,4dに供給する際に開弁される。
【0032】
ブレーキ回路10a,10bには、増圧弁12,13の下流側で、リターン回路10c,10dがそれぞれ接続している。リターン回路10c,10d上にはそれぞれ減圧弁14,15が設けられている。減圧弁14,15は、ホイルシリンダ4a,4d内の圧力(以下、ホイルシリンダ圧Pwc)を減圧する際に開弁される。リターン回路10c,10dは合流してリターン回路10eを形成し、リターン回路10eはリザーバ16に接続している。
【0033】
一方、ブレーキ回路10はアウト側ゲート弁11の上流で分岐し、吸入回路10gを形成している。吸入回路10g上には、吸入回路10gの連通・遮断を切り換えるイン側ゲート弁17が設けられている。イン側ゲート弁17は、例えば、マスタシリンダ2で加圧された作動液を後述のポンプPで昇圧してホイルシリンダ4a,4dに供給する際に開弁される。吸入回路10gは、リザーバ16からのリターン回路10fと合流して吸入回路10hを形成している。
【0034】
ブレーキ回路10には、マスタシリンダ2以外の液圧源として、作動液の吸入・吐出を行うポンプPが接続されている。ポンプPはプランジャ式又はギヤ式のポンプであって、第1ポンプP1および第2ポンプP2を備えている。ポンプPは、例えば、車両挙動安定化制御等の自動ブレーキ制御を行う際、マスタシリンダ2の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタシリンダ圧Pmcを昇圧してホイルシリンダ4a,4dに供給する。第1ポンプP1は、吸入回路10hおよび吐出回路10iと接続し、吐出回路10iを介してブレーキ回路10kと接続している。
【0035】
モータMは、DC(直流)ブラシレスモータ又はDCブラシモータであり、その出力軸にはポンプP1、P2が連結されている。モータMは、ホイルシリンダ圧制御装置9の制御指令に基づき供給される電力によって作動し、ポンプP1、P2を駆動する。
【0036】
アウト側ゲート弁11、イン側ゲート弁17、増圧弁12,13、および減圧弁14,15は、ソレノイドへの通電により弁の開閉が行われる電磁式のものであり、ホイルシリンダ圧制御装置9が出力する駆動信号に応じた大きさの駆動電流が通電されることで、弁の開閉量が各弁個々に制御される。
【0037】
なお、アウト側ゲート弁11および増圧弁12,13は常開弁であり、イン側ゲート弁17および減圧弁14,15は常閉弁である。これにより万一、故障によりいずれかの弁への電力供給が停止した場合であっても、マスタシリンダ2で加圧された作動液が全てホイルシリンダ4a,4dに到達する回路構成となるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0038】
ブレーキ回路20側の油圧回路も、上記ブレーキ回路10側と同様に構成されている。
【0039】
ブレーキ回路10(マスタシリンダ2とホイルシリンダ圧制御機構3との間)、およびブレーキ回路20(ホイルシリンダ圧制御機構3内)には、それぞれ、マスタシリンダ圧Pmc(プライマリ液室2dおよびセカンダリ液室2eの圧力)を検出する圧力センサであるマスタシリンダ圧センサ3a,3bが設けられている。マスタシリンダ圧センサ3a,3bが検出したマスタシリンダ圧Pmcの情報は、マスタシリンダ圧制御装置8およびホイルシリンダ圧制御装置9に入力される。なお、マスタシリンダ圧センサの個数および設置位置に関しては、制御性やフェールセーフ等を考慮して任意に決定できる。
【0040】
以下、ブレーキ制御時のホイルシリンダ圧制御機構3の動作を説明する。
通常制御時には、マスタシリンダ2の作動液がブレーキ回路10,20を介して各ホイルシリンダ4a〜4dに供給され、ブレーキ力が発生する。
【0041】
ABS制御時には、車輪FLを例にとると、ホイルシリンダ4aに接続されている減圧弁14を開弁させるとともに増圧弁12を閉弁させ、ホイルシリンダ4aの作動液をリザーバ16に戻すことで減圧を行う。また、車輪FLがロック傾向から回復したら、増圧弁12を開弁させるとともに減圧弁14を閉弁させることで増圧を行う。このときポンプPは、リザーバ16に逃がした作動液をブレーキ回路10kに戻す。
【0042】
車両挙動安定化制御等の自動ブレーキ制御時には、アウト側ゲート弁11,21を閉弁させる一方で、イン側ゲート弁17,27を開弁させる。同時にポンプPを作動させ、吸入回路10g,10h,20g,20h、吐出回路10i,20iを介してマスタシリンダ2からブレーキ回路10k,20kに向けて作動液を吐出させる。さらに、ホイルシリンダ圧Pwcが必要なブレーキ力に応じた目標圧となるようにアウト側ゲート弁11,21または増圧弁12,13,22,23を制御する。
【0043】
〔マスタシリンダ圧制御機構〕
以下、マスタシリンダ圧制御機構5の構成と動作について説明する。駆動モータ50は三相DCブラシレスモータであり、マスタシリンダ圧制御装置8の制御指令に基づき供給される電力によって動作し、所望の回転トルクを発生する。
【0044】
減速装置51は、駆動モータ50の出力回転をプーリ減速方式により減速する。減速装置51は、駆動モータ50の出力軸に設けられた小径の駆動側プーリ52と、回転−並進変換装置55のボールネジナット56に設けられた大径の従動側プーリ53と、駆動側および従動側プーリ52,53に巻き掛けられたベルト54と、を有している。減速装置51は、駆動モータ50の回転トルクを、減速比(駆動側および従動側プーリ52,53の半径比)分だけ増幅させて、回転−並進変換装置55に伝達する。
【0045】
なお、駆動モータ50の回転トルクが十分に大きく、減速によるトルク増幅が必要でない場合には、減速装置51を省略して、駆動モータ50と回転−並進変換装置55とを直結することとしてもよい。この場合、減速装置51の介在に起因して発生する、信頼性や静粛性、および搭載性等に関する諸問題を回避できる。
【0046】
回転−並進変換装置55は、駆動モータ50の回転動力を並進動力に変換し、この並進動力によりプライマリピストン2bを押圧する。本実施例1では、動力変換機構としてボールネジ方式を採用しており、回転−並進変換装置55は、ボールネジナット56と、ボールネジ軸57と、可動部材58と、戻しバネ59と、を有している。
【0047】
マスタシリンダ2のx軸負方向側には第1ハウジング部材HSG1が接続され、第1ハウジング部材HSG1のx軸負方向側には第2ハウジング部材HSG2が接続されている。ボールネジナット56は、第2ハウジング部材HSG2内に設けられたベアリングBRGの内周に、軸回転可能に設置されている。ボールネジナット56のx軸負方向側の外周には、従動側プーリ53が嵌合されている。ボールネジナット56の内周には、中空のボールネジ軸57が螺合している。ボールネジナット56とボールネジ軸57との間の隙間には、複数のボールが回転移動可能に設置されている。
【0048】
ボールネジ軸57のx軸正方向側の端には、可動部材58が一体に設けられている。可動部材58のx軸正方向側の面には、プライマリピストン2bが接合している。プライマリピストン2bは、第1ハウジング部材HSG1内に収容されている。プライマリピストン2bのx軸正方向側の端は第1ハウジング部材HSG1から突出してマスタシリンダ2のシリンダ2aの内周に嵌合している。
【0049】
第1ハウジング部材HSG1内では、プライマリピストン2bの外周に、戻しバネ59が設置されている。戻しバネ59のx軸正方向側の端は第1ハウジング部材HSG1内部のx軸正方向側の面Aに固定される一方、x軸負方向側の端は可動部材58に係合している。戻しバネ59は、面Aと可動部材28との間でx軸方向に押し縮められて設置され、可動部材58およびボールネジ軸57をx軸負方向側に付勢している。
【0050】
従動側プーリ53が回転するとボールネジナット56が一体に回転し、このボールネジナット56の回転運動により、ボールネジ軸57がx軸方向に並進運動する。x軸正方向側へのボールネジ軸57の並進運動の推力により、可動部材58を介して、プライマリピストン2bがx軸正方向側に押圧される。なお、図1では、ブレーキ非操作時にボールネジ軸57がx軸負方向側に最大変位した初期位置にある状態を示す。
【0051】
一方、ボールネジ軸57には、上記x軸正方向側への推力と反対方向(x軸負方向側)に、戻しバネ59の弾性力が作用する。これによりブレーキ中、すなわちプライマリピストン2bがx軸正方向側に押圧されマスタシリンダ圧Pmcが加圧されている状態で、万一、故障により駆動モータ50が停止し、ボールネジ軸57の戻し制御が不能となった場合でも、戻しバネ59の反力によりボールネジ軸27が初期位置に戻される。これによりマスタシリンダ圧Pmcがゼロ付近まで低下するため、ブレーキ力の引きずりの発生が防止され、この引きずりに起因して車両挙動が不安定になる事態が回避される。
【0052】
また、インプットロッド6とプライマリピストン2bとの間に画成された環状空間Bには、一対のバネ6d,6e(付勢手段)が配設されている。一対のバネ6d,6eは、その各一端がインプットロッド6に設けられたフランジ部6cに係止され、バネ6dの他端がプライマリピストン2bの隔壁2hに係止され、バネ6eの他端が可動部材58に係止されている。一対のバネ6d,6eは、プライマリピストン2bに対してインプットロッド6を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢し、ブレーキ非作動時にインプットロッド6とプライマリピストン2bとを相対移動の中立位置に保持する機能を有している。また、インプットロッド6とプライマリピストン2bとが中立位置からいずれかの方向に相対変位したとき、一対のバネ6d,6eにより、プライマリピストン2bに対してインプットロッド6を中立位置に戻す付勢力が作用する。
【0053】
なお、駆動モータ50には回転角検出センサ50aが設けられており、これにより検出されるモータ出力軸の位置信号がマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。マスタシリンダ圧制御装置8は、入力された位置信号に基づき駆動モータ50の回転角を算出し、この回転角に基づき回転−並進変換装置25の推進量、すなわちプライマリピストン2bのx軸方向変位量を算出する。
【0054】
また、駆動モータ50には温度センサ50bが設けられており、検出された駆動モータ50の温度情報はマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。
【0055】
(倍力制御処理)
次に、マスタシリンダ圧制御機構5とマスタシリンダ圧制御装置8による、インプットロッド6の推力の増幅作用について説明する。
【0056】
マスタシリンダ圧制御機構5およびマスタシリンダ圧制御装置8は、運転者のブレーキ操作によるインプットロッド6の変位量に応じて、プライマリピストン2bを変位させる。これによりプライマリ液室2dが、インプットロッド6の推力に加えてプライマリピストン2bの推力によって加圧され、マスタシリンダ圧Pmcが調整される。すなわちインプットロッド6の推力が増幅される。増幅比(以下、倍力比α)は、プライマリ液室2dにおけるインプットロッド6とプライマリピストン2bの軸直方向断面積(以下、それぞれ受圧面積AIRおよびAPP)の比等により、以下のように決定される。
【0057】
マスタシリンダ圧Pmcの液圧調整は、式(1)で示される圧力平衡関係をもって行われる。
Pmc=(FIR+K×△x)/AIR=(FPP−K×△x)/APP …(1)
ここで、圧力平衡式(1)における各要素は、以下のとおりである。
Pmc:プライマリ液室2dの液圧(マスタシリンダ圧)、
FIR :インプットロッド6の推力、
FPP :プライマリピストン2bの推力、
AIR :インプットロッド6の受圧面積、
APP :プライマリピストン2bの受圧面積、
K :バネ6d,6eのバネ定数、
Δx:インプットロッド6とプライマリピストン2bとの相対変位量。
【0058】
尚、実施例1では、インプットロッド6の受圧面積AIRは、プライマリピストン2bの受圧面積APPよりも小さく構成されている。
【0059】
ここで相対変位量Δxは、インプットロッド6の変位をxIR、プライマリピストン2bの変位をxPPとして、Δx=xPP−xIRと定義する。よって、Δxは、相対移動の中立位置では0、インプットロッド6に対してプライマリピストン2bが前進(x軸正方向側へ変位)する方向では正符号、その逆方向では負符号となる。なお、圧力平衡式(1)ではシールの摺動抵抗を無視している。プライマリピストン2bの推力FPPは、駆動モータ50の電流値から推定できる。
【0060】
一方、倍力比αは、下記(2)式のように表わされる。
α=PM/C×(APP+AIR)/FIR …(2)
よって、この(2)式に上記(1)式のPM/Cを代入すると、倍力比αは下記(3)式のようになる。
α=(1+K×Δx/FIR)×(AIR+APP)/AIR …(3)
【0061】
倍力制御では、目標のマスタシリンダ圧特性が得られるように、駆動モータ50(プライマリピストン2bの変位xPP)を制御する。ここでマスタシリンダ圧特性とは、インプットロッド6の変位xIRに対するマスタシリンダ圧Pmcの変化の特性を指す。インプットロッド6の変位xIRに対するプライマリピストン2bの変位xPPを示すストローク特性と、上記目標マスタシリンダ圧特性とに対応して、インプットロッド6の変位xIRに対する相対変位量Δxの変化を示す目標変位量算出特性が得られる。検証により得られた目標変位量算出特性データに基づき、相対変位量Δxの目標値(以下、目標変位量Δx*)が算出される。
【0062】
すなわち、目標変位量算出特性は、インプットロッド6の変位xIRに対する目標変位量Δx*の変化の特性を示し、インプットロッド6の1つの変位量xIRに対応して1つの目標変位量Δx*が定まる。検出されたインプットロッド6の変位量xIRに対応して決定される目標変位量Δx*を実現するように駆動モータ50の回転(プライマリピストン2bの変位量xPP)を制御すると、目標変位量Δx*に対応する大きさのマスタシリンダ圧Pmcがマスタシリンダ2で発生する。
【0063】
ここで、上記のようにインプットロッド6の変位量xIRはブレーキ操作量検出装置7により検出され、プライマリピストン2bの変位量xPPは回転角検出センサ50aの信号に基づき算出され、相対変位量Δxは上記検出(算出)された変位量の差により求められる。倍力制御では、具体的には、上記検出した変位量xIRと目標変位量算出特性とに基づいて目標変位量Δx*を設定し、上記検出(算出)された相対変位量Δxが目標変位量Δx*と一致するように駆動モータ50を制御(フィードバック制御)する。なお、プライマリピストン2bの変位量xPPを検出するストロークセンサを別途設けることとしてもよい。
【0064】
このように踏力センサを用いることなく倍力制御を行った場合、その分、コストを低減できる。また、相対変位量Δxが任意の所定値となるように駆動モータ50を制御することにより、受圧面積比(AIR+APP)/AIRで定まる倍力比よりも大きな倍力比や小さな倍力比を得ることができ、所望の倍力比に基づく制動力を得ることができる。
【0065】
一定倍力制御は、インプットロッド6およびプライマリピストン2bを一体的に変位させる、すなわちインプットロッド6に対してプライマリピストン2bが常に上記中立位置となり相対変位量Δx=0で変位するように、駆動モータ50を制御するものである。このようにΔx=0となるようにプライマリピストン2bを変位させた場合、上記(3)式により、倍力比αは、α=(AIR+APP)/AIRとして一意に定まる。よって、必要な倍力比に基づいてAIRおよびAPPを設定し、変位量xPPがインプットロッド6の変位量xIRに等しくなるようにプライマリピストン2bを制御することで、常に一定の(上記必要な)倍力比を得ることができる。
【0066】
一定倍力制御における目標マスタシリンダ圧特性は、インプットロッド6の前進(x軸正方向側への変位)に伴い発生するマスタシリンダ圧Pmcが2次曲線、3次曲線、あるいはこれらにそれ以上の高次曲線等が複合した多次曲線(以下、これらを総称して多次曲線という)状に大きくなる。また、一定倍力制御は、インプットロッド6の変位xIRと同じ量だけプライマリピストン2bが変位する(xPP=xIR)ストローク特性を有している。このストローク特性と上記目標マスタシリンダ圧特性とに基づき得られる目標変位量算出特性では、インプットロッド6のあらゆる変位xIRに対して目標変位量Δx*が0となる。
【0067】
これに対して、倍力可変制御は、目標変位量Δx*を正の所定値に設定し、相対変位量Δxがこの所定値となるように駆動モータ50を制御する。これにより、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が前進移動するに従い、インプットロッド6の変位量xIRに比べてプライマリピストン2bの変位量xPPが大きくなるようにするものである。上記(3)式により、倍力比αは、(1+K×Δx/FIR)倍の大きさとなる。すなわち、インプットロッド6の変位量xIRに比例ゲイン(1+K×Δx/FIR)を乗じた量だけプライマリピストン2bを変位させることと同義となる。このようにΔxに応じて倍力比αが可変となり、マスタシリンダ圧制御機構5が倍力源として働いて、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させつつペダル踏力の大きな低減を図ることができる。
【0068】
すなわち、制御性の観点からは上記比例ゲイン(1+K×Δx/FIR)は1であることが望ましいが、例えば緊急ブレーキ等により運転者のブレーキ操作量を上回るブレーキ力が必要な場合には、一時的に、1を上回る値に上記比例ゲインを変更することができる。これにより、同量のブレーキ操作量でも、マスタシリンダ圧Pmcを通常時(上記比例ゲインが1の場合)に比べて引き上げることができるため、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキ操作量検出装置7の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定できる。
【0069】
このように倍力可変制御は、インプットロッド6の前進に対してプライマリピストン2bの前進をより進め、インプットロッド6に対するプライマリピストン2bの相対変位量Δxがインプットロッド6の前進に伴い大きくなり、これに対応してインプットロッド6の前進に伴うマスタシリンダ圧Pmcの増加が一定倍力制御よりも大きくなるように駆動モータ50を制御する方法である。
【0070】
倍力可変制御における目標マスタシリンダ圧特性は、インプットロッド6の前進(x軸正方向側への変位)に伴い発生するマスタシリンダ圧Pmcの増加が一定倍力制御よりも大きくなる(多次曲線状に増加するマスタシリンダ圧特性がより急峻になる)。また、倍力可変制御は、インプットロッド6の変位xIRの増加に対するプライマリピストン2bの変位xPPの増加分が1よりも大きいストローク特性を有している。このストローク特性と上記目標マスタシリンダ圧特性とに基づき得られる目標変位量算出特性では、インプットロッド6の変位xIRが増加するに応じて目標変位量Δx*が所定の割合で増加する。
【0071】
また、倍力可変制御として、上記制御〔マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が移動するに従い、インプットロッド6の変位量xIRに比べてプライマリピストン2bの変位量xPPが大きくなるように駆動モータ50を制御すること〕に加え、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が移動するに従い、インプットロッド6の変位量xIRに比べてプライマリピストン2bの変位量xPPが小さくなるように駆動モータ50を制御することを含めてもよい。このように1を下回る値に上記比例ゲインを変更することで、ハイブリッド車両の回生ブレーキ力分だけ液圧ブレーキを減圧する回生協調ブレーキ制御に適用することも可能である。
【0072】
図2は実施例1の制御構成を表すブロック図である。まず、基本となる通常倍力制御の構成(アシスト部材受動制御)について説明し、ABS制御時においてアシスト部材の作動範囲を制限するアシスト部材能動制御の構成について説明する。
【0073】
以下の説明において、回転−並進変換装置55及び減速機構51を総称して伝達機構と記載する。また、駆動モータ50の回転により伝達機構を介して進退作動する部材(ボールネジ軸57,可動部材58及びプライマリピストン2b)を総称してアシスト部材と表記する。アシスト部材の変位量は、駆動モータ50の回転角検出センサ50aに基づいて算出されるものであるが、以下、この変位量をアシスト部材絶対変位量と記載する。
【0074】
また、ブレーキ操作量検出装置7である変位センサ7a,7bを総称して変位センサ7と表記する。また、ブレーキペダルBPに連動して進退作動するインプットロッド6を入力部材と表記し、変位センサ7は入力部材のX軸方向変位量を検出するものであるが、以下、この変位量を入力部材絶対変位量と記載する。
【0075】
〔アシスト部材受動制御〕
目標相対変位量演算部a1では、入力部材絶対変位量に基づいて目標相対変位量が演算される。尚、この目標相対変位量とは、設定された倍力比と入力部材絶対変位量との関係に基づいて設定する方法や、他のコントローラ等において緊急制動が必要な場合等に基づいて設定する方法や、ハイブリッド車両における回生協調制動が必要な場合等に基づいて設定する方法等がある。詳細については後述するが、ここでは、アシスト部材受動制御において目標相対変位量が設定されるという点が明確であればよい。
【0076】
実相対変位量演算部a2では、変位センサ7により検出された入力部材絶対変位量と回転角検出センサ50aにより検出されたアシスト部材絶対変位量との偏差に基づいて実相対変位量を演算する。
【0077】
受動制御偏差演算部a3では、目標相対変位量と実相対変位量との偏差を演算する。この偏差は後述する切換部c3に出力される。以下、切換部c3においてアシスト部材受動制御が選択されている場合について示す。
【0078】
サーボ制御部d1では、受動制御偏差演算部a3において演算された偏差に基づいてフィードバックによるサーボ制御を行う。そして、駆動モータ50に供給する電流指令値を演算し、駆動モータ50に出力する。駆動モータ50に出力された電流は、回転駆動し、伝達機構を介してアシスト部材の進退移動を行う。ここで、サーボ制御とは、例えば、比例ゲインをKp,積分ゲインをKi,微分ゲインをKdとしたとき、下記の式に基づき制御量が算出される。
電流指令値=Kp×(偏差)+Ki∫(偏差)dt+Kd×d(偏差)/dt
尚、上記比例成分と積分成分と微分成分を適宜組み合わせてサーボ制御を構成してもよく特に限定しない。
【0079】
〔アシスト部材能動制御〕
アシスト部材絶対変位量記憶部b1では、アシスト部材絶対変位量及びホイルシリンダ圧制御装置9からのABS制御信号を入力とし、ABS制御信号入力時におけるアシスト部材絶対変位量を記憶する。
【0080】
ペダル変化量演算部b2では、予め設定されたタイマ値毎に入力部材絶対変位量の変化量を更新して記憶する。
【0081】
目標値補正部b3では、ペダル変化量演算部b2において演算されたペダル変化量に応じてアシスト部材能動制御において設定される目標値を補正する。
【0082】
能動制御目標値演算部b4では、アシスト部材絶対位置記憶部b1において記憶された絶対位置を初期のアシスト部材の目標値とし、目標値補正部b3からの指令に応じて補正された値を最終的なアシスト部材の能動制御目標値として出力する。
【0083】
能動制御偏差演算部b5では、能動制御目標値演算部b4において設定された能動制御目標値とアシスト部材絶対変位量との偏差を演算する。この偏差は後述する切換部c3に出力される。以下、切換部c3においてアシスト部材能動制御が選択されている場合について示す。
【0084】
サーボ制御部d1では、能動制御偏差演算部b5において演算された偏差に基づいてフィードバックによるサーボ制御を行う。そして、駆動モータ50に供給する電流指令値を演算し、駆動モータ50に出力する。駆動モータ50に出力された電流は、回転駆動し、伝達機構を介してアシスト部材の進退移動を行う。尚、アシスト部材能動制御では、アシスト部材受動制御における制御ゲインKp,Ki,Kdを異なるゲインに設定して制御してもよく、特に限定しない。
【0085】
〔制御切換処理〕
次に、アシスト部材受動制御とアシスト部材能動制御の切換処理について説明する。ペダル初期変位記憶部c1では、入力部材絶対変位量及びホイルシリンダ圧制御装置9からのABS制御信号を入力とし、ABS制御信号入力時における入力部材絶対変位量に所定のオフセット値を差し引いた値を記憶する。
【0086】
比較部c2では、記憶されたペダル初期変位から所定のオフセット値を差し引いた値と現在の入力部材絶対変位量とを比較し、運転者によりブレーキペダルBPが戻された場合には、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換える指令を出力する。
【0087】
切換部c3では、ABS制御信号及び比較部c2からの切換信号に基づき、制御を切り換える。ABS制御信号が入力されたときは、アシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換え、比較部c2から指令信号が入力されたときはアシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換える。
【0088】
〔アシスト部材能動制御導入の論理〕
ここで、変位センサ7に入力される運転者の踏力,液室2e,2d及び付勢手段6d,6eとの関係について説明する。実施例1の制御構成では、アシスト部材を駆動モータ50により駆動すると、その影響は付勢手段を介して入力部材に作用すると共に、液室2e,2dに作用する。入力部材は液室2e,2dに臨んで配置されており、また、付勢手段を介してアシスト部材と弾性的に接続されていることから、この液室2e,2dに作用した影響は、液圧の変化によって入力部材にも影響を与える。また、入力部材は運転者の踏力が入力されることで変位するため、変位センサ7が検出する値は、運転者の踏力に基づく影響とアシスト部材の作動に基づく影響の両方が現れる。
【0089】
上述したように、通常制御であるアシスト部材受動制御は、運転者の踏力によって生じた入力部材の変位を検出し、その変位に応じてアシスト部材を制御する。このとき、制御系が振動等を起こさないような制御ゲインを設定し、制御系の安定化を図っている。
【0090】
ここで、ホイルシリンダ圧制御装置9においてABS制御が実行されると、ホイルシリンダから減圧により流出したブレーキ液がマスタシリンダ側に環流され、その影響は液室2e,2dに及ぶ。そうすると、この影響によって変位センサ7も影響を受け、当初、アシスト部材受動制御において想定していた影響とは異なり、制御系に外乱が作用することとなる。
【0091】
このマスタシリンダ側へのブレーキ液の環流による影響は、減圧作動が間欠的に行われること、また、非常に細かな周期で繰り返されること、を想定すると、これに伴って入力信号が振動し、制御系全体が振動するおそれがある。また、この振動によって入力部材が大きく進退移動し、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0092】
そこで、実施例1では、ABS制御作動が検出されたときは、変位センサ7による検出値に基づくアシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換え、変位センサ7のように直接的に液室2e,2dに作用する外乱の影響を受けにくい能動制御目標値を設定してフィードバック制御を行うこととした。
【0093】
具体的には、ABS制御開始時点におけるアシスト部材絶対変位量を目標値としたフィードバックループを形成する。このとき、アシスト部材の変位が制限されるため、マスタシリンダ側へのブレーキ液の環流による影響は、入力部材に作用する。しかしながら、アシスト部材と入力部材との間には、一対のばね6d,6e(付勢手段)により両者の相対変位を中立位置に保持する機能を有しているため、大きなマスタシリンダ圧が入力部材に作用しても、この付勢手段により反力が作用し、入力部材が大きく変動することがない。よって、運転者に与える違和感を抑制することができる。また、若干の振動が生じることで、運転者はABS制御作動が行われていることを感知することができる。
【0094】
また、上述のように、本制御によれば、入力部材の絶対変位量は若干変動するものの、アシスト部材能動制御における入力信号として入力部材の絶対変位量を用いていないため、制御系に影響はない。
【0095】
ただし、入力部材の絶対変位量を入力情報として用いないため、ブレーキペダル操作に基づく情報がなくなることになる。そうすると、運転者のブレーキペダル操作に応じた入力部材の変位を許容できず、ABS制御中に運転者がブレーキペダルを戻したとしても、入力部材が戻らなくなる。そのため、変位センサ7の検出値を所定のタイマ値に基づいて更新し、言い換えると、変位センサ7の信号の位相を遅らせて検出し、その変化量に応じて能動制御目標値の補正や、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御への切り換えを行うこととした。
【0096】
以下、上記実施例1の制御構成に基づく制御処理についてフローチャートにも基づいて説明する。
【0097】
図3はアシスト部材受動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
ステップS101では、入力絶対変位量を検出する。
ステップS102では、目標相対変位量を演算する。
ステップS103では、実相対変位量を演算する。
ステップS104では、目標相対変位量と実相対変位量との受動制御偏差に基づいてサーボ制御を実行する。
【0098】
図4は入力絶対変位量に対するアシスト部材絶対変位量との倍力比に基づく関係、及び、入力変位量に対する相対変位量との倍力比に基づく関係、及び入力絶対変位量に対するマスタシリンダ液圧との倍力比に基づく関係を表す図である。例えば、倍力比を1よりも大きな値に設定したときは、入力絶対変位量に対するアシスト部材絶対変位量を倍力比1のときよりも大きくなるように設定する。言い換えると、入力絶対変位量に応じて目標相対変位量が大きくなるように設定する(倍力比が1のとき目標相対変位量は0である)。尚、詳細な原理については上述したため、説明を省略する。
【0099】
図5はアシスト部材能動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
ステップS201では、ペダル変化量を演算する。
ステップS202では、ABS制御開始時におけるアシスト部材絶対変位量を記憶する。
ステップS203では、記憶されたアシスト部材絶対位置を能動制御目標値として設定する。
ステップS204では、能動制御目標値をペダル変化量に基づいて補正する。
ステップS205では、設定された能動制御目標値とアシスト部材絶対変位量とが一致するようにサーボ制御を実行する。
【0100】
図6は図5のステップS201において実行されるペダル変化量算出処理を表すフローチャートである。
ステップS11では、ABS制御信号を受信したと同時にカウントアップが開始されるタイマが予め設定された所定値よりも大きいか否かを判断し、大きいときは更新タイミングが来たと判断してステップS12に進み、それ以外のときはステップS16へ進む。
【0101】
ここで、予め設定された所定値とは、ABS制御によるマスタシリンダ側への外乱の周期に比べて長く、かつ、運転者のブレーキペダル操作の状態をある程度の応答性で検出できる程度に設定しておく。これにより、制御系の振動を抑制するとともに、応答性を確保する。
ステップS12では、ペダル変化量算出フラグを1にセットする。
ステップS13では、タイマの値を0にリセットする。
ステップS14では、ペダル変化量として、現時点での入力部材絶対変位量と記憶されたペダル位置記憶値と差を算出する。
ステップS15では、現時点での入力部材絶対変位量を記憶されたペダル位置記憶値として更新する。
ステップS16では、ペダル変化量算出フラグを0にリセットする。
ステップS17では、タイマをカウントアップする。
【0102】
図7は図5のステップS202において実行されるアシスト部材絶対変位量記憶処理を表すフローチャートである。
ステップS21では、前回制御周期においてABS制御非作動状態から、今回の制御周期においてABS制御作動状態に変化したかどうかを判断し、変化した場合にはステップS22に進み、それ以外のときはステップS23に進む。
ステップS22では、現時点でのアシスト部材絶対変位量をアシスト部材絶対変位量記憶値として記憶する。
ステップS23では、ABS制御状態が非作動か否かを判断し、ABS制御非作動のときはステップS22に進んで現時点でのアシスト部材絶対変位量を記憶値として更新し、ABS制御作動のときは記憶値の更新を禁止して本制御フローを終了する。
【0103】
図8は図5のステップS203,S204において実行される能動制御目標値設定処理を表すフローチャートである。
ステップS41では、図6に示すフローチャートにおいて設定されるペダル変化量算出フラグが1に設定されているか否かを判断し、1に設定されているときはペダル変化量の更新が行われると判断してステップS42に進み、0にセットされているときは、ペダル変化量の更新が禁止されているため本制御フローを終了する。
【0104】
ステップS42では、更新されたペダル変化量が予め設定された所定値Aよりも大きいか否かを判断し、大きいときはステップS43に進み、それ以外のときはステップS44に進む。尚、この所定値Aとは、運転者のブレーキペダル操作の状態をある程度の応答性で検出しつつ、制御系が振動を起こさない範囲で設定される。
【0105】
ステップS43では、ブレーキペダルが運転者により踏み込まれていると判断し、ABS制御開始時に記憶されたアシスト部材絶対変位量(もしくは補正された能動制御目標値)を、アシスト部材が更に前進するような値に補正して能動制御目標値とする。
【0106】
ステップS44では、ペダル変化量が所定値B未満か否かを判断し、所定値未満のときはステップS45へ進み、それ以外のときはペダル操作が行われていないと判断して本制御フローを終了する。尚、この所定値Bとは、運転者のブレーキペダル操作の状態をある程度の応答性で検出しつつ、制御系が振動を起こさない範囲で設定される。
【0107】
ステップS45では、ブレーキペダルが運転者により戻されていると判断し、ABS制御開始時に記憶されたアシスト部材絶対変位量(もしくは補正された能動制御目標値)を、アシスト部材が後退するような値に補正して能動制御目標値とする。
【0108】
図9はペダル初期変位記憶部c1,比較部c2及び切換部c3において実行される制御切り換え処理を表すフローチャートである。
【0109】
ステップS301では、ホイルシリンダ圧制御装置9からの信号に基づいてABS制御作動か否かを判断し、ABS制御作動状態であればステップS302に進み、ABS制御非作動状態であればステップS306に進んで通常の倍力制御であるアシスト部材受動制御を実行する。
ステップS302では、ABS制御信号入力時における入力部材絶対変位量から所定のオフセット値を差し引いた値をペダル初期変位として記憶する。
【0110】
ステップS303では、ペダル初期変位が入力部材絶対変位量と一致しているか否かを判断し、一致しているときはステップS305へ進み、アシスト部材能動制御を実行する。一致していないときはステップS304に進む。
【0111】
ステップS304では、現時点での入力部材絶対変位量がペダル初期変位よりも大きいか否かを判断し、大きいときはステップS305へ進んでアシスト部材能動制御を実行し、小さいときは運転者によりブレーキペダルが戻されたと判断してステップS306に進み、アシスト部材受動制御に切り換える。
【0112】
図10はペダル初期変位検出処理を表すフローチャートである。
ステップS3021では、前回制御周期においてABS制御非作動状態から、今回の制御周期においてABS制御作動状態に変化したかどうかを判断し、変化した場合にはステップS3022に進み、それ以外のときはステップS3023に進む。
ステップS3022では、ペダル初期変位として、現時点での入力部材絶対変位量を記憶する。
ステップS3023では、ABS制御非作動状態か否かを判断し、ABS制御非作動状態のときはステップS3022に進んでペダル初期変位を更新し、ABS制御作動状態のときはペダル初期変位の更新を行うことなく本制御フローを終了する。すなわち、ABS制御開始時点で設定されたペダル初期変位は、ABS制御中は更新しないことを意味する。
【0113】
次に、上記制御フローに基づく作用について説明する。図11は実施例1におけるABS制御作動時のアシスト部材能動制御を表すタイムチャートである。図11中、太い実線が実施例1の作動を表し、細い実線が制御切り換えを行わない比較例の作動を表す。
【0114】
時刻t1において、この時点ではアシスト部材受動制御が選択されている。よって、運転者がブレーキペダルBPを踏み始めると、入力部材がストロークを開始し、それに伴ってアシスト部材も移動する。また、この時点で設定された倍力比に応じたマスタシリンダ圧が発生し、それに伴ってホイルシリンダ圧も上昇を開始する。
【0115】
時刻t2において、車輪のスリップ率が所定値以上になり、ABS制御が開始されると、ホイルシリンダ圧制御機構3においては、減圧信号が出力され、ホイルシリンダからブレーキ液がリザーバに流出する。同時にポンプP1,P2の駆動によってマスタシリンダ側に環流される。一方、マスタシリンダ圧制御機構5においては、ABS制御信号を入力した時点でアシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換えられ、ABS制御信号を入力した時点でのアシスト部材絶対変位量が能動制御目標値として設定される。
【0116】
同時に、ABS制御開始時点での入力部材絶対変位量から所定のオフセット値を差し引いた値がペダル初期位置として記憶され、ペダル変位量を算出するためのタイマのカウントアップが開始される。
【0117】
ABS制御作動が継続している間は、基本的にはアシスト部材の絶対変位量は能動制御目標値に維持される。このとき、ABS制御作動により環流したブレーキ液量に応じてマスタシリンダ圧が上昇するものの、アシスト部材の絶対変位量が変化しないよう制御されているため、マスタシリンダ圧の変化に伴うアシスト部材絶対変位量の変化はない。ただし、アシスト部材に対し付勢手段を介して接続された入力部材には、マスタシリンダ圧の変化が作用するため、付勢手段に規制されつつ若干の変動が発生する。
【0118】
以降、この制御状態が継続され、ABS制御作動に伴う減圧制御がなされると、その都度マスタシリンダ側にブレーキ液が環流されて、その作動に応じたマスタシリンダ圧が発生する。
【0119】
すなわち、比較例では、ブレーキ液の環流によってマスタシリンダ圧が変化すると、この変化によって入力部材絶対変位量が変動し、この変動に応じてアシスト部材絶対変位量も変動する。以後、この変動を繰り返すことで制御系が振動し、入力部材絶対変位量も大きく変化し、運転者に違和感を与えていた。これに対し、実施例1のようにアシスト部材能動制御に切り換え、アシスト部材絶対変位量を抑制することで、制御系の振動を抑制することが可能となり、入力部材絶対変位量の変化も小さくすることができる。
【0120】
時刻t3において、運転者がブレーキペダルを若干戻すと、記憶されたペダル初期位置からのペダル変化量が所定値B未満と判断され、能動制御目標値がアシスト部材絶対変位量として小さくなるように、すなわちブレーキペダルBPを戻す方向に変更される。これにより、アシスト部材絶対変位量が変更される。
【0121】
時刻t4において、運転者がブレーキペダルBPを踏み込み始めると、入力部材の絶対変位量が増加する。このとき、入力部材が大きく変化した場合であっても、タイマのカウントアップ中であるため、ペダル変化量が更新されず、能動制御目標値が変更されないため、アシスト部材絶対変位量は維持される。
【0122】
時刻t5において、運転者がブレーキペダルBPを戻し始めると、その分、マスタシリンダ圧も低下し始める。そして、時刻t6において、入力部材絶対変位量がペダル初期変位を下回ると、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換えられ、アシスト部材は入力部材絶対変位量に応じた相対変位量を達成するように制御される。
【0123】
以下、実施例1に基づく技術的思想の創作に係る作用効果について下記に列挙する。
(1)ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の移動方向に対して相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材を進退移動させるアクチュエータ(駆動モータ50)と、駆動モータ50をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、アシスト部材の移動による推力によりマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられ、車輪のスリップ状態を検出した時にホイルシリンダ4のブレーキ液を排出し、排出したブレーキ液をマスタシリンダ2に環流させる液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、マスタシリンダ圧制御装置8は、駆動モータ50を駆動して入力部材の移動量に応じてアシスト部材を進退移動させるアシスト部材受動制御と、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動時にはアシスト部材からの力の入力に対する入力部材の変位を制限するアシスト部材能動制御と、を行うこととした。
【0124】
よって、液圧制御ユニットの作動によってマスタシリンダ側にブレーキ液が環流され、この環流によってアシスト部材が影響を受けたとしても、アシスト部材から付勢手段を介して伝達される入力部材の変位を制限するため、脈圧やペダル振動を抑えて良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0125】
(2)アシスト部材能動制御は、アシスト部材の移動量を所定の範囲内に制限することとした。よって、アシスト部材自体の変動を所定範囲内に抑制することで、アシスト部材と付勢手段を介して接続された入力部材の変動を抑制することができる。
【0126】
(3)入力部材とアシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋(プライマリ液室2d)内に臨んで配置され、入力部材の受圧面積は、アシスト部材の受圧面積より小さいこととした。よって、マスタシリンダ圧が変化したとしても、入力部材に作用する力を小さくすることが可能となり、入力部材の変動を小さくすることができる。
【0127】
(4)アシスト部材能動制御は、アシスト部材の移動量をゼロとした。具体的には、ABS制御作動時のアシスト部材絶対変位量を目標値とし、この目標値となるようにアシスト部材を制御することとした。よって、更に入力部材の変動を抑制することができる。
【0128】
(5)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)は通信線Lで接続している。よって、種々の情報のやりとりができる。
【0129】
(6)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態を、通信線Lを介して液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)から受信することとした。よって、液圧制御ユニットの情報を素早く検知することができる。
【0130】
(7)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態を受信した時にアシスト部材能動制御を行うこととした。よって、マスタシリンダ側に何らかの影響が想定された段階で事前にアシスト部材能動制御を行うことが可能となり、ペダルフィーリングを更に向上できる。
【0131】
(8)液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動はアンチロックブレーキ制御の作動(ABS制御作動)であり、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)はアンチロックブレーキ制御開始時のアシスト部材の絶対位置であるアシスト部材絶対変位量を記憶する位置記憶手段(アシスト部材絶対変位量記憶部b1)を有し、アシスト部材能動制御は、記憶された位置に対して所定の範囲内にアシスト部材の位置を制御することとした。
【0132】
よって、ABS制御作動によってマスタシリンダ圧が変動し、入力部材が変動したとしても、この入力部材の情報を用いることなく、記憶された位置に対して制御されるため、制御系が振動することなく、良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0133】
(9)ブレーキペダルBPの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、所定の入力信号に応じてアシスト部材を駆動するアクチュエータ(駆動モータ50)をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられた液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態に応じてアクチュエータを駆動するための所定の入力信号を切り換えることとした。
【0134】
よって、液圧制御ユニットの作動状態によっては制御系の安定化が阻害される場合、入力信号を切り換えることで、制御系の安定化を図ることができる。
【0135】
(10)所定の入力信号は、液圧制御ユニット非作動時には入力部材のストローク量(入力部材絶対変位量)であり、液圧制御ユニットの作動時にはアシスト部材の絶対位置(アシスト部材絶対変位量)に応じた信号である。すなわち、液圧制御ユニット非作動時は運転者の意図を最も反映しやすい入力部材絶対変位量を用いて制御し、液圧制御ユニット作動時は、液圧制御ユニットの作動に伴う入力部材の変動が制御系に与える影響を考慮して、より位相遅れが小さな、すなわち直接的な制御対象であるアシスト部材絶対変位量に応じた信号とすることで、安定したペダルフィーリングを得ることができる。
【0136】
(11)ブレーキペダルBPの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、入力信号に応じて前記アシスト部材を駆動するアクチュエータ(駆動モータ50)をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4の間に設けられた液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態に応じてアクチュエータ(駆動モータ50)を駆動するための制御ゲインを切り換えることとしてもよい。
【0137】
すなわち、実施例1では、変位センサ7をそのまま用いてアシスト部材受動制御を行うと、変位センサ7の変動に対して制御系が振動することを回避するために、ABS制御作動時のアシスト部材絶対変位量を用いてアシスト部材能動制御を行うものである。そして、このアシスト部材能動制御の制御目標値である能動制御目標値は、タイマにより更新タイミングが規制されたペダル変化量を用いて補正するように構成している。
【0138】
言い換えると、変位センサ7の信号の伝達を遅らせて入力信号の変動を抑制し、制御系の振動を抑制しているものである。すなわち、入力信号に遅れ要素を付与し、安定化させたものである。ここで、フィードバック制御ループを考えたとき、系の目標値に対する応答性は制御ゲインによって調整される。よって、例えばサーボ制御部d1の制御ゲインを応答性が低下するように変更することで、制御系の振動を抑制することとしてもよい。
【0139】
〔実施例2〕
次に実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため異なる点についてのみ説明する。図12は実施例2の制御構成を表すブロック図である。基本となる通常倍力制御の構成(アシスト部材受動制御)、及び制御切換処理については実施例1と同じであるため説明を省略する。実施例1では、アシスト部材の位置を所定範囲に制限することで入力部材の変動を抑制した。これに対し、実施例2では、マスタシリンダ圧を制御対象としている点が異なる。
【0140】
以下、ABS制御時においてアシスト部材の作動範囲を制限するアシスト部材能動制御の構成について説明する。尚、マスタシリンダ圧センサ3a,3bを総称してマスタシリンダ圧センサと記載する。
【0141】
〔アシスト部材能動制御〕
マスタシリンダ圧記憶部e1では、マスタシリンダ圧センサ信号及びホイルシリンダ圧制御装置9からのABS制御信号を入力とし、ABS制御信号入力時におけるマスタシリンダ圧を記憶する。
【0142】
ペダル変化量演算部e2では、予め設定されたタイマ値毎に入力部材絶対変位量の変化量を更新して記憶する。
【0143】
目標値補正部e3では、ペダル変化量演算部e2において演算されたペダル変化量に応じてアシスト部材能動制御において設定される目標値を補正する。
【0144】
能動制御目標値演算部e4では、マスタシリンダ圧記憶部e1において記憶されたマスタシリンダ圧に所定のオフセットを設定した値を初期のマスタシリンダ圧目標値とし、目標値補正部e3からの指令に応じて補正された値を最終的なマスタシリンダ圧の能動制御目標値として出力する。
【0145】
記憶されたマスタシリンダ圧にオフセットを加算するのは、ABS制御によって減圧制御が行われた後は、増圧制御が成される際にマスタシリンダ側からブレーキ液を十分に供給するためである。尚、環流液量を、例えばABS制御において減圧弁14,15,24,25の開弁時間により推定し、減圧時間が所定時間以上のときは減圧量が多く、それに伴って環流液量が多いと判断してオフセット値を大きい値に変更するようにしてもよい。減圧量が多いと、その分マスタシリンダ側に環流されるブレーキ液量も多いと推定され、能動制御目標値を高くしておけばブレーキ液が環流されたときとしてもさほどアシスト部材の移動によって吸収する必要がない。すなわち、アシスト部材の作動量を低減できるからである。
【0146】
更に、環流液量の推定には、減圧弁や増圧弁の作動時間の組み合わせによって推定してもよいし、ABS制御において目標液圧を演算する構成の場合は、その目標液圧と現時点でのホイルシリンダ圧との偏差に応じて推定してもよい。更に、リザーバ16,26に流入したブレーキ液量を推定するリザーバモデルを備えている場合には、このリザーバモデルに流入するブレーキ液量に応じて推定してもよい。
【0147】
能動制御偏差演算部e5では、能動制御目標値演算部e4において設定された能動制御目標値とマスタシリンダ圧センサにより検出されたマスタシリンダ圧との偏差を演算する。この偏差は後述する切換部c3に出力される。以下、切換部c3においてアシスト部材能動制御が選択されている場合について示す。
【0148】
サーボ制御部d1では、能動制御偏差演算部e5において演算された偏差に基づいてフィードバックによるサーボ制御を行う。そして、駆動モータ50に供給する電流指令値を演算し、駆動モータ50に出力する。駆動モータ50に出力された電流は、回転駆動し、伝達機構を介してアシスト部材の進退移動を行う。具体的には、能動制御目標値がマスタシリンダ圧よりも高いときはアシスト部材を前進させ、能動制御目標値がマスタシリンダ圧よりも低いときはアシスト部材を後退させる。
【0149】
尚、アシスト部材能動制御では、アシスト部材受動制御における制御ゲインKp,Ki,Kdを異なるゲインに設定し、P-Q特性を考慮した制御量として出力する。尚、P-Q特性とは、液圧と液量との関係を示す特性であり、マスタシリンダ圧力を変更するには、どの程度の液量を変更しなければならないか、を表すものである。液量が決まると、アシスト部材や入力部材のストローク量が決まるからである。
【0150】
〔制御切換処理〕
次に、アシスト部材受動制御とアシスト部材能動制御の切換処理について説明する。ペダル初期変位記憶部c1では、入力部材絶対変位量及びホイルシリンダ圧制御装置9からのABS制御信号を入力とし、ABS制御信号入力時における入力部材絶対変位量に所定のオフセット値を差し引いた値を記憶する。
【0151】
比較部c2では、記憶されたペダル初期変位から所定のオフセット値を差し引いた値と現在の入力部材絶対変位量とを比較し、運転者によりブレーキペダルBPが戻された場合には、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換える指令を出力する。
【0152】
切換部c3では、ABS制御信号及び比較部c2からの切換信号に基づき、制御を切り換える。ABS制御信号が入力されたときは、アシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換え、比較部c2から指令信号が入力されたときはアシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御に切り換える。
【0153】
〔アシスト部材能動制御導入の論理〕
ここで、変位センサ7に入力される運転者の踏力,液室2e,2d及び付勢手段6d,6eとの関係について説明する。実施例1の制御構成では、アシスト部材を駆動モータ50により駆動すると、その影響は付勢手段を介して入力部材に作用すると共に、液室2e,2dに作用する。入力部材は液室2e,2dに臨んで配置されており、また、付勢手段を介してアシスト部材と弾性的に接続されていることから、この液室2e,2dに作用した影響は、液圧の変化によって入力部材にも影響を与える。また、入力部材は運転者の踏力が入力されることで変位するため、変位センサ7が検出する値は、運転者の踏力に基づく影響とアシスト部材の作動に基づく影響の両方が現れる。
【0154】
上述したように、通常制御であるアシスト部材受動制御は、運転者の踏力によって生じた入力部材の変位を検出し、その変位に応じてアシスト部材を制御する。このとき、制御系が振動等を起こさないような制御ゲインを設定し、制御系の安定化を図っている。
【0155】
ここで、ホイルシリンダ圧制御装置9においてABS制御が実行されると、ホイルシリンダから減圧により流出したブレーキ液がマスタシリンダ側に環流され、その影響は液室2e,2dに及ぶ。そうすると、この影響によって変位センサ7も影響を受け、当初、アシスト部材受動制御において想定していた影響とは異なり、制御系に外乱が作用することとなる。
【0156】
このマスタシリンダ側へのブレーキ液の環流による影響は、減圧作動が間欠的に行われること、また、非常に細かな周期で繰り返されること、を想定すると、変位センサ7の検出値は、液室2e,2dに生じる液圧変動よりも遅れて変位するものであり、また、これに伴ってアシスト部材を制御しても、アシスト部材の制御に伴う液室2e,2dの変動とが干渉し、制御系全体が振動するおそれがある。また、この振動によって入力部材が大きく進退移動し、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0157】
そこで、実施例2では、ABS制御作動が検出されたときは、変位センサ7による検出値に基づくアシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換え、変位センサ7のように液室2e,2dに作用する外乱から制御位相として遅れることのない能動制御目標値を設定してフィードバック制御を行うこととした。
【0158】
具体的には、ABS制御開始時点におけるマスタシリンダ圧に所定のオフセットを加算した値を目標値としたフィードバックループを形成する。これにより、目標値が振動することを回避する。また、マスタシリンダ圧センサの検出値を用いてフィードバックループを形成しているため、変位センサ7のように圧力が変化し、その次に、変位が生じるような制御位相の遅れた信号に比べて、制御位相の早い信号を用いることで、制御の安定性を確保する。
【0159】
これにより、制御系の振動が抑制されることでアシスト部材の変位が制限され、マスタシリンダ側へのブレーキ液の環流による影響は、アシスト部材と入力部材に作用する。ここで、アシスト部材と入力部材との間には、一対のばね6d,6e(付勢手段)により両者の相対変位を中立位置に保持する機能を有しているため、マスタシリンダ圧の変動を吸収すべくアシスト部材が移動すると、入力部材も一緒に移動する。
【0160】
しかしながら、入力部材に作用するマスタシリンダ圧はアシスト部材能動制御に切り換えられた後は変化していないため、アシスト部材と入力部材の間の相対変位量は一定となり、相対変化量の変化に伴う振動等は生じない。よって、運転者に与える違和感を抑制することができる。また、若干の振動が生じることで、運転者はABS制御作動が行われていることを感知することができる。
【0161】
また、上述のように、本制御によれば、入力部材の絶対変位量はABS制御の増減圧作動に応じて若干変動するものの、アシスト部材能動制御における入力信号として入力部材の絶対変位量を用いていないため、制御系に影響はない。
【0162】
ただし、入力部材の絶対変位量を入力情報として用いないため、ブレーキペダル操作に基づく情報がなくなることになる。そうすると、運転者のブレーキペダル操作に応じた入力部材の変位を許容できず、ABS制御中に運転者がブレーキペダルを戻したとしても、入力部材が戻らなくなる。そのため、変位センサ7の検出値を所定のタイマ値に基づいて更新し、言い換えると、変位センサ7の信号の位相を遅らせて検出し、その変化量に応じて能動制御目標値の補正や、アシスト部材能動制御からアシスト部材受動制御への切り換えを行うこととした。
【0163】
以下、上記実施例2の制御構成に基づく制御処理についてフローチャートにも基づいて説明する。尚、実施例1の図3に示す基本制御構成及び図4に示すアシスト部材受動制御は同じであるため省略する。
【0164】
図13はアシスト部材能動制御の基本制御構成を表すフローチャートである。
ステップS201では、ペダル変化量を演算する。尚、この処理は実施例1の図6に示すペダル変化量算出処理と同じである。
ステップS202aでは、ABS制御開始時におけるマスタシリンダ圧を記憶する。
ステップS203aでは、記憶されたマスタシリンダ圧に所定のオフセットを加算して能動制御目標値として設定する。
ステップS204aでは、能動制御目標値をペダル変化量に基づいて補正する。
ステップS205aでは、設定された能動制御目標値とマスタシリンダ圧とが一致するようにサーボ制御を実行する。
【0165】
図14は図13のステップS202aにおいて実行されるマスタシリンダ圧記憶処理を表すフローチャートである。
ステップS21では、前回制御周期においてABS制御非作動状態から、今回の制御周期においてABS制御作動状態に変化したかどうかを判断し、変化した場合にはステップS22aに進み、それ以外のときはステップS23に進む。
ステップS22aでは、現時点でのマスタシリンダ圧センサにより検出されたマスタシリンダ圧をマスタシリンダ圧記憶値として記憶する。
ステップS23では、ABS制御状態が非作動か否かを判断し、ABS制御非作動のときはステップS22aに進んで現時点でのマスタシリンダ圧を記憶値として更新し、ABS制御作動のときは記憶値の更新を禁止して本制御フローを終了する。
【0166】
図15は図13のステップS203a,S204aにおいて実行される能動制御目標値設定処理を表すフローチャートである。
ステップS41では、図6に示すフローチャートにおいて設定されるペダル変化量算出フラグが1に設定されているか否かを判断し、1に設定されているときはペダル変化量の更新が行われると判断してステップS42に進み、0にセットされているときは、ペダル変化量の更新が禁止されているため本制御フローを終了する。
【0167】
ステップS42では、更新されたペダル変化量が予め設定された所定値Aよりも大きいか否かを判断し、大きいときはステップS43aに進み、それ以外のときはステップS44に進む。尚、この所定値Aとは、運転者のブレーキペダル操作の状態をある程度の応答性で検出しつつ、制御系が振動を起こさない範囲で設定される。
【0168】
ステップS43aでは、ブレーキペダルが運転者により踏み込まれていると判断し、ABS制御開始時に記憶されたマスタシリンダ圧にオフセットを加算した値(もしくは補正された能動制御目標値)を、マスタシリンダ圧が更に増加するような値に補正して能動制御目標値とする。
【0169】
ステップS44では、ペダル変化量が所定値B未満か否かを判断し、所定値未満のときはステップS45aへ進み、それ以外のときはペダル操作が行われていないと判断して本制御フローを終了する。
【0170】
ステップS45aでは、ブレーキペダルが運転者により戻されていると判断し、ABS制御開始時に記憶されたマスタシリンダ圧にオフセットを加算した値(もしくは補正された能動制御目標値)を、マスタシリンダ圧が減少するような値に補正して能動制御目標値とする。
【0171】
尚、実施例2においても、実施例1の図9に示すペダル初期変位記憶部c1,比較部c2及び切換部c3において実行される制御切り換え処理は同じであり、実施例1の図10に示すペダル初期変位検出処理も同じであるため説明を省略する。
【0172】
次に、上記制御フローに基づく作用について説明する。図16は実施例2におけるABS制御作動時のアシスト部材能動制御を表すタイムチャートである。図16中、太い実線が実施例2の作動を表し、細い実線が制御切り換えを行わない比較例の作動を表す。
【0173】
時刻t1において、この時点ではアシスト部材受動制御が選択されている。よって、運転者がブレーキペダルBPを踏み始めると、入力部材がストロークを開始し、それに伴ってアシスト部材も移動する。また、この時点で設定された倍力比に応じたマスタシリンダ圧が発生し、それに伴ってホイルシリンダ圧も上昇を開始する。
【0174】
時刻t2において、車輪のスリップ率が所定値以上になり、ABS制御が開始されると、ホイルシリンダ圧制御機構3においては、減圧信号が出力され、ホイルシリンダからブレーキ液がリザーバに流出する。同時にポンプP1,P2の駆動によってマスタシリンダ側に環流される。一方、マスタシリンダ圧制御機構5においては、ABS制御信号を入力した時点でアシスト部材受動制御からアシスト部材能動制御に切り換えられ、ABS制御信号を入力した時点でのマスタシリンダ圧にオフセットを加算した値が能動制御目標値として設定される。
【0175】
同時に、ABS制御開始時点での入力部材絶対変位量から所定のオフセット値を差し引いた値がペダル初期位置として記憶され、ペダル変位量を算出するためのタイマのカウントアップが開始される。
【0176】
ABS制御作動が継続している間は、基本的にはマスタシリンダ圧は能動制御目標値に維持される。このとき、ABS制御作動により環流したブレーキ液量に応じてマスタシリンダ圧が上昇しようとするものの、アシスト部材の進退移動によってマスタシリンダ圧が変化しないよう制御されているため、ブレーキ液の環流に伴うマスタシリンダ圧の変化はない。ただし、アシスト部材に対し付勢手段を介して接続された入力部材には、マスタシリンダ圧が一定であることからアシスト部材との相対変位量は変化しないものの、アシスト部材の進退移動に伴って変動が発生する。ただし、入力部材の変位に応じてアシスト部材を制御しているものではなく、入力部材が変動したとしても、制御系の振動等を招くことはない。
【0177】
以降、この制御状態が継続され、ABS制御作動に伴う減圧制御がなされると、その都度マスタシリンダ側にブレーキ液が環流されて、その作動に応じてアシスト部材及び入力部材が進退移動する。
【0178】
これに対し、比較例では、ブレーキ液の環流によってマスタシリンダ圧が変化すると、この変化によって入力部材絶対変位量が変動し、この変動に応じてアシスト部材絶対変位量も変動する。アシスト部材と入力部材は付勢手段を介して接続されているため、アシスト部材が変動するときの力が入力部材に入力され、以後、この変動を繰り返すことで制御系が振動し、入力部材絶対変位量も大きく変化し、運転者に違和感を与えていた。これに対し、実施例2のようにアシスト部材能動制御に切り換え、制御位相の早いマスタシリンダ圧に基づいてフィードバック制御を行うことで、制御系の振動を抑制することが可能となり、入力部材絶対変位量の振動に伴う変化も小さくすることができる。
【0179】
以下、実施例2に基づく技術的思想の創作に係る作用効果について下記に列挙する。
(12)ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の移動方向に対して相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材を進退移動させるアクチュエータ(駆動モータ50)と、駆動モータ50をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、アシスト部材の移動による推力によりマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられ、車輪のスリップ状態を検出した時にホイルシリンダ4のブレーキ液を排出し、排出したブレーキ液をマスタシリンダ2に環流させる液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、マスタシリンダ圧制御装置8は、駆動モータ50を駆動して入力部材の移動量に応じてアシスト部材を進退移動させるアシスト部材受動制御と、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動時にはアシスト部材からの力の入力に対する入力部材の変位を制限するアシスト部材能動制御と、を行うこととした。
【0180】
よって、液圧制御ユニットの作動によってマスタシリンダ側にブレーキ液が環流され、この環流によってアシスト部材が影響を受けたとしても、アシスト部材からの力の入力によって入力部材が変位することが制限されているため、脈圧やペダル振動を抑えて良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0181】
(12)マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサを備え、アシスト部材能動制御はマスタシリンダ圧の変化が所定の範囲内になるようにアシスト部材の移動量を制御することとした。
【0182】
すなわち、制御位相の早いマスタシリンダ圧に基づいてフィードバック制御を行うことで、制御系の振動を抑制することが可能となり、入力部材絶対変位量の振動に伴う変化も小さくすることができる。
【0183】
(13)入力部材とアシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋(プライマリ液室2d)内に臨んで配置され、入力部材の受圧面積は、アシスト部材の受圧面積より小さいこととした。よって、アシスト部材を僅かに進退移動させるだけで環流されたブレーキ液に伴うマスタシリンダ圧の変化を吸収することが可能となり、入力部材の変動を小さくすることができる。
【0184】
(14)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)は通信線Lで接続している。よって、種々の上方のやりとりができる。
【0185】
(15)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態を、通信線Lを介して液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)から受信することとした。よって、液圧制御ユニットの情報を素早く検知することができる。
【0186】
(16)コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態を受信した時にアシスト部材能動制御を行うこととした。よって、マスタシリンダ側に何らかの影響が想定された段階で事前にアシスト部材能動制御を行うことが可能となり、ペダルフィーリングを更に向上できる。
【0187】
(17)ブレーキペダルBPの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、所定の入力信号に応じてアシスト部材を駆動するアクチュエータ(駆動モータ50)をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられた液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動状態に応じてアクチュエータ(駆動モータ50)を駆動するための所定の入力信号を切り換えることとした。
【0188】
よって、液圧制御ユニットの作動状態によっては制御系の安定化が阻害される場合、入力信号を切り換えることで、制御系の安定化を図ることができる。
【0189】
(18)所定の入力信号は、前記液圧制御ユニット非作動時には入力部材のストローク量(入力部材絶対変位量)であり、液圧制御ユニットの作動時にはマスタシリンダ内の圧力に応じた信号である。すなわち、液圧制御ユニット非作動時は運転者の意図を最も反映しやすい入力部材絶対変位量を用いて制御し、液圧制御ユニット作動時は、液圧制御ユニットの作動に伴う入力部材の変動が制御系に与える影響を考慮して、より制御位相の早いマスタシリンダ圧を入力信号とすることで、安定したペダルフィーリングを確保することができる。
【0190】
(19)液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)の作動はアンチロックブレーキ制御の作動(ABS制御作動)であり、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、アンチロックブレーキ制御開始時のマスタシリンダ圧を記憶し、該記憶されたマスタシリンダ圧に対してマスタシリンダ圧が所定の範囲内となるように制御することとした。
【0191】
よって、ABS制御作動によってブレーキ液が環流され、それに伴うマスタシリンダ圧の変化を吸収する際に入力部材やアシスト部材が変動したとしても、この入力部材の情報を用いることなく、記憶されたマスタシリンダ圧に対して制御されるため、制御系が振動することなく、良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0192】
(20)ブレーキペダルBPの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、アシスト部材に対して入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置(マスタシリンダ圧制御機構5)と、入力信号に応じてアシスト部材を駆動するアクチュエータ(駆動モータ50)をコントロールするコントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)と、マスタシリンダ2とホイルシリンダ4との間に設けられた液圧制御ユニット(ホイルシリンダ圧制御機構3,ホイルシリンダ圧制御装置9)と、を備え、コントロールユニット(マスタシリンダ圧制御装置8)は、液圧制御ユニットが作動したときは、液圧制御ユニットが非作動時の入力信号よりも位相遅れが小さな入力信号に切り換えることとした。
【0193】
具体的には、マスタシリンダ圧が変化して初めて移動する入力部材ではなく、マスタシリンダ圧自体を入力信号として用いた。よって、制御系の振動を効果的に抑制することができる。
【0194】
以上、実施例1,2について説明したが、上記構成に限られず、例えば、ABS制御開始時の入力部材絶対変位量を記憶しておき、この記憶された入力部材絶対変位量を固定値とする。そして、マスタシリンダ圧を検出し、図4(c)に示す入力部材絶対変位量とマスタシリンダ液圧の関係から、現在のマスタシリンダ圧と固定された入力部材絶対変位量に応じた倍力比を算出する。次に、固定された入力部材絶対変位量と倍力比が決まったことから、図4(b)に示す相対変位量を算出する。そして、固定された入力部材絶対変位量と相対変位量とからアシスト部材の目標変位量を設定し、このアシスト部材をフィードバック制御する構成としても良い。
【0195】
すなわち、マスタシリンダ側にブレーキ液が環流されると、マスタシリンダ圧が上昇しようとする。このとき、倍力比を適宜変更してアシスト部材を制御すれば、入力部材に作用するマスタシリンダ圧上昇分の力を付勢手段により吸収させることができるため、入力部材の変動を抑制でき、良好なペダルフィーリングを確保できる。
【0196】
尚、入力部材自体が多少変動するものの、入力部材の位置を記憶された固定値とし、マスタシリンダ圧の変化に応じてアシスト部材を制御するため、アシスト部材の制御に伴って入力部材絶対変位量が変動することに伴う制御系の振動も抑制することができる。
【符号の説明】
【0197】
1 ブレーキ制御装置
2 マスタシリンダ
2b プライマリピストン(アシスト部材)
2e,2d 液室
3 ホイルシリンダ圧制御機構
3a,3b マスタシリンダ圧センサ
4 ホイルシリンダ
5 マスタシリンダ圧制御機構
6 インプットロッド(入力部材)
6d,6e バネ(付勢手段)
7 変位センサ
8 マスタシリンダ圧制御装置
9 ホイルシリンダ圧制御装置
12,13,22,23 増圧弁
14,15,24,25 減圧弁
16,26 リザーバ
50 駆動モータ
57 ボールネジ軸(アシスト部材)
58 可動部材(アシスト部材)
BP ブレーキペダル
L 通信線
M モータ
P ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の移動方向に対して相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材を進退移動させるアクチュエータと、前記アクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、前記アシスト部材の移動による推力によりマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる倍力装置と、
マスタシリンダとホイルシリンダとの間に設けられ、車輪のスリップ状態を検出した時に前記ホイルシリンダのブレーキ液を排出し、前記排出したブレーキ液を前記マスタシリンダに環流させる液圧制御ユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記アクチュエータを駆動して前記入力部材の移動量に応じて前記アシスト部材を進退移動させるアシスト部材受動制御と、前記液圧制御ユニットの作動時には前記アシスト部材からの力の入力に対する入力部材の変位を制限するアシスト部材能動制御とを行うことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材能動制御は、前記アシスト部材の移動量を所定の範囲内に制限することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ倍力装置において、
前記入力部材と前記アシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋内に臨んで配置され、前記入力部材の受圧面積は、前記アシスト部材の受圧面積より小さいことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項4】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材能動制御は、前記アシスト部材の移動量をゼロにすることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項5】
請求項4に記載のブレーキ倍力装置において、
前記入力部材と前記アシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋に臨んで配置され、前記入力部材の受圧面積は、前記アシスト部材の受圧面積より小さいことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項6】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサを備え、
前記アシスト部材能動制御は前記マスタシリンダ圧の変化が所定の範囲内になるように前記アシスト部材の移動量を制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項7】
請求項6に記載のブレーキ倍力装置において、
前記入力部材と前記アシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋に臨んで配置され、
前記入力部材の受圧面積は、前記アシスト部材の受圧面積より小さいことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項8】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
前記コントロールユニットと前記液圧制御ユニットは通信線で接続していることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項9】
請求項8に記載のブレーキ倍力装置において、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットの作動状態を前記通信線を介して前記液圧制御ユニットから受信することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項10】
請求項9に記載のブレーキ倍力装置において、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットの作動状態を受信した時に前記アシスト部材能動制御を行うことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項11】
請求項10に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材能動制御は、前記アシスト部材の移動量を所定の範囲内に制限することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項12】
請求項11に記載のブレーキ倍力装置において、
マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサを備え、
前記アシスト部材能動制御は前記マスタシリンダ圧が所定の範囲内になるように前記アシスト部材の移動量を制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項13】
請求項2に記載のブレーキ倍力装置において、
前記液圧制御ユニットの作動はアンチロックブレーキ制御の作動であり、
前記コントロールユニットは前記アンチロックブレーキ制御開始時の前記アシスト部材の絶対位置を記憶する位置記憶手段を有し、
前記アシスト部材能動制御は、前記記憶された位置に対して所定の範囲内に前記アシスト部材の位置を制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項14】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置と、
所定の入力信号に応じて前記アシスト部材を駆動するアクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、
マスタシリンダとホイルシリンダとの間に設けられた液圧制御ユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットの作動状態に応じて前記アクチュエータを駆動するための前記所定の入力信号を切り換えることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項15】
請求項14に記載のブレーキ倍力装置において、
前記所定の入力信号は、前記液圧制御ユニット非作動時には前記入力部材のストローク量であり、前記液圧制御ユニットの作動時には前記マスタシリンダ内の圧力またはアシスト部材の絶対位置に応じた信号であることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項16】
請求項15に記載のブレーキ倍力装置において、
前記液圧制御ユニットの作動はアンチロックブレーキ制御の作動であり、
前記コントロールユニットは前記アンチロックブレーキ制御開始時の前記アシスト部材の絶対位置を記憶し、該記憶された位置に対して前記アシスト部材の位置が所定の範囲内となるように制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項17】
請求項15に記載のブレーキ倍力装置において、
前記液圧制御ユニットの作動はアンチロックブレーキ制御の作動であり、
前記コントロールユニットは、前記アンチロックブレーキ制御開始時の前記マスタシリンダ圧を記憶し、該記憶されたマスタシリンダ圧に対して前記マスタシリンダ圧が所定の範囲内となるように制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項18】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の移動方向に対して相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材を進退移動させるアクチュエータと、前記アクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、前記アシスト部材の移動による推力によりマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる倍力装置と、
マスタシリンダとホイルシリンダとの間に設けられ、車両の状態に応じて前記ホイルシリンダのブレーキ液を排出し、前記排出したブレーキ液を前記マスタシリンダに環流させる液圧制御ユニットと、
を有するブレーキ倍力装置において、
前記マスタシリンダの圧力を検出するマスタシリンダ圧センサを有し、
前記コントロールユニットは、前記アクチュエータを駆動して前記入力部材の移動量に応じて前記アシスト部材を進退移動させるアシスト部材受動制御と、前記液圧制御ユニットの作動時には前記検出されたマスタシリンダ圧の変動を所定の範囲内に制御するアシスト部材能動制御と、を行うことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項19】
請求項18に記載のブレーキ倍力装置において、
前記液圧制御ユニットの作動はアンチロックブレーキ制御の作動であり、
前記コントロールユニットは、前記アンチロックブレーキ制御開始時の前記マスタシリンダ圧を記憶し、該記憶されたマスタシリンダ圧に対して前記マスタシリンダ圧が所定の範囲内となるように制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項20】
請求項19に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材能動制御は、前記記憶されたマスタシリンダ圧を目標値として前記マスタシリンダ圧が前記目標値となるように前記アシスト部材の位置を制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項21】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置と、入力信号に応じて前記アシスト部材を駆動するアクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、
マスタシリンダとホイルシリンダの間に設けられた液圧制御ユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットの作動状態に応じて前記アクチュエータを駆動するための制御ゲインを切り換えることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項22】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置と、入力信号に応じて前記アシスト部材を駆動するアクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、
マスタシリンダとホイルシリンダとの間に設けられた液圧制御ユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットが作動したときは、前記液圧制御ユニットが非作動時の前記入力信号よりも位相遅れが小さな入力信号に切り換えることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の移動方向に対して相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材を進退移動させるアクチュエータと、前記アクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、前記アシスト部材の移動による推力によりマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる倍力装置と、
マスタシリンダとホイルシリンダとの間に設けられ、車輪のスリップ状態を検出した時に前記ホイルシリンダのブレーキ液を排出し、前記排出したブレーキ液を前記マスタシリンダに環流させる液圧制御ユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記アクチュエータを駆動して前記入力部材の移動量に応じて前記アシスト部材を進退移動させるアシスト部材受動制御と、前記液圧制御ユニットの作動時には前記アシスト部材からの力の入力に対する入力部材の変位を制限するアシスト部材能動制御とを行うことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材能動制御は、前記アシスト部材の移動量を所定の範囲内に制限することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ倍力装置において、
前記入力部材と前記アシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋内に臨んで配置され、前記入力部材の受圧面積は、前記アシスト部材の受圧面積より小さいことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項4】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材能動制御は、前記アシスト部材の移動量をゼロにすることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項5】
請求項4に記載のブレーキ倍力装置において、
前記入力部材と前記アシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋に臨んで配置され、前記入力部材の受圧面積は、前記アシスト部材の受圧面積より小さいことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項6】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサを備え、
前記アシスト部材能動制御は前記マスタシリンダ圧の変化が所定の範囲内になるように前記アシスト部材の移動量を制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項7】
請求項6に記載のブレーキ倍力装置において、
前記入力部材と前記アシスト部材はマスタシリンダ圧が作用する第1の部屋に臨んで配置され、
前記入力部材の受圧面積は、前記アシスト部材の受圧面積より小さいことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項8】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
前記コントロールユニットと前記液圧制御ユニットは通信線で接続していることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項9】
請求項8に記載のブレーキ倍力装置において、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットの作動状態を前記通信線を介して前記液圧制御ユニットから受信することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項10】
請求項9に記載のブレーキ倍力装置において、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットの作動状態を受信した時に前記アシスト部材能動制御を行うことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項11】
請求項10に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材能動制御は、前記アシスト部材の移動量を所定の範囲内に制限することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項12】
請求項11に記載のブレーキ倍力装置において、
マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサを備え、
前記アシスト部材能動制御は前記マスタシリンダ圧が所定の範囲内になるように前記アシスト部材の移動量を制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項13】
請求項2に記載のブレーキ倍力装置において、
前記液圧制御ユニットの作動はアンチロックブレーキ制御の作動であり、
前記コントロールユニットは前記アンチロックブレーキ制御開始時の前記アシスト部材の絶対位置を記憶する位置記憶手段を有し、
前記アシスト部材能動制御は、前記記憶された位置に対して所定の範囲内に前記アシスト部材の位置を制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項14】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置と、
所定の入力信号に応じて前記アシスト部材を駆動するアクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、
マスタシリンダとホイルシリンダとの間に設けられた液圧制御ユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットの作動状態に応じて前記アクチュエータを駆動するための前記所定の入力信号を切り換えることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項15】
請求項14に記載のブレーキ倍力装置において、
前記所定の入力信号は、前記液圧制御ユニット非作動時には前記入力部材のストローク量であり、前記液圧制御ユニットの作動時には前記マスタシリンダ内の圧力またはアシスト部材の絶対位置に応じた信号であることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項16】
請求項15に記載のブレーキ倍力装置において、
前記液圧制御ユニットの作動はアンチロックブレーキ制御の作動であり、
前記コントロールユニットは前記アンチロックブレーキ制御開始時の前記アシスト部材の絶対位置を記憶し、該記憶された位置に対して前記アシスト部材の位置が所定の範囲内となるように制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項17】
請求項15に記載のブレーキ倍力装置において、
前記液圧制御ユニットの作動はアンチロックブレーキ制御の作動であり、
前記コントロールユニットは、前記アンチロックブレーキ制御開始時の前記マスタシリンダ圧を記憶し、該記憶されたマスタシリンダ圧に対して前記マスタシリンダ圧が所定の範囲内となるように制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項18】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の移動方向に対して相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材を進退移動させるアクチュエータと、前記アクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、前記アシスト部材の移動による推力によりマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる倍力装置と、
マスタシリンダとホイルシリンダとの間に設けられ、車両の状態に応じて前記ホイルシリンダのブレーキ液を排出し、前記排出したブレーキ液を前記マスタシリンダに環流させる液圧制御ユニットと、
を有するブレーキ倍力装置において、
前記マスタシリンダの圧力を検出するマスタシリンダ圧センサを有し、
前記コントロールユニットは、前記アクチュエータを駆動して前記入力部材の移動量に応じて前記アシスト部材を進退移動させるアシスト部材受動制御と、前記液圧制御ユニットの作動時には前記検出されたマスタシリンダ圧の変動を所定の範囲内に制御するアシスト部材能動制御と、を行うことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項19】
請求項18に記載のブレーキ倍力装置において、
前記液圧制御ユニットの作動はアンチロックブレーキ制御の作動であり、
前記コントロールユニットは、前記アンチロックブレーキ制御開始時の前記マスタシリンダ圧を記憶し、該記憶されたマスタシリンダ圧に対して前記マスタシリンダ圧が所定の範囲内となるように制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項20】
請求項19に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材能動制御は、前記記憶されたマスタシリンダ圧を目標値として前記マスタシリンダ圧が前記目標値となるように前記アシスト部材の位置を制御することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項21】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置と、入力信号に応じて前記アシスト部材を駆動するアクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、
マスタシリンダとホイルシリンダの間に設けられた液圧制御ユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットの作動状態に応じて前記アクチュエータを駆動するための制御ゲインを切り換えることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項22】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材に相対変位可能に設けられたアシスト部材と、前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アシスト部材の移動によりマスタシリンダ内を加圧する倍力装置と、入力信号に応じて前記アシスト部材を駆動するアクチュエータをコントロールするコントロールユニットと、
マスタシリンダとホイルシリンダとの間に設けられた液圧制御ユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記液圧制御ユニットが作動したときは、前記液圧制御ユニットが非作動時の前記入力信号よりも位相遅れが小さな入力信号に切り換えることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−254796(P2012−254796A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−185989(P2012−185989)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【分割の表示】特願2008−97117(P2008−97117)の分割
【原出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【分割の表示】特願2008−97117(P2008−97117)の分割
【原出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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