説明

ブレード部材製造装置、回転成形体、および電子写真装置用ブレード

【課題】硬化時間が短い処方を成型する高サイクル成型に対しても、硬度や引張り強度、厚みのバラツキ無く、安定したブレード部材を成型できるブレード部材製造装置、回転成形体、および電子写真装置用ブレードを提供する。
【解決手段】本発明のブレード部材製造装置は、遠心成型金型20の一端側を加熱する固定ヒータ23を有する。固定ヒータ23で遠心成型金型20の一端側を加熱することにより、遠心成型金型20内の、一端側の雰囲気温度と他端側の雰囲気温度とが同等の温度となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、レーザビームプリンタ、ファクシミリ等の電子写真プロセスを利用した画像成型装置に用いられる電子写真装置用ブレードに関する。また、該電子写真装置用ブレードを製造するための回転成形体、および該回転成形体を製造するブレード部材製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒金型に原料を入れ、高速で回転させて遠心力により内周面に充填させ、加熱硬化させて薄肉円筒状のシートを成型する方法を遠心成型法という。従来から電子写真装置に用いられる中間転写ベルト、転写搬送ベルト等の薄肉円筒状のベルトはこの遠心成型法で製造されている。現像剤量規制ブレード等のブレード部材は、遠心成型により得られた薄肉円筒状のシートを所定寸法に切断し、支持体に接合させることで製造されている。現像剤量規制ブレードは、感光体上に残存するトナーを除去するクリーニングブレードや現像機内でトナーを摩擦帯電させながら薄膜を形成するものである。
【0003】
このような薄肉回転成型体を遠心成型する従来の遠心成型金型の外観を図6に一部破断状態で模式的に示す。
【0004】
一端側に開口111aが形成されたカップ状をなす金型本体110の他端側には、図示しない駆動源に連結される回転軸111bが突設されている。開口111aを介して金型本体110の内周面111cに供給される熱硬化性樹脂は駆動源の作動による金型本体110の回転に伴い、その内周面111cに全域に均一に拡散する。そして、拡散した樹脂は金型本体110に埋設されたヒータ113により加熱を受けて硬化する。このようにして遠心成型された薄肉回転成型体112は、金型本体110の回転を停止した後に金型本体110の内周面111c、つまり内壁から剥がされ、目的となる部品に加工される。
【0005】
電子写真装置用ブレードは、一般に、ゴム板、金属性薄板、樹脂板、およびこれらの積層体から形成される。現像剤量規制ブレードは、現像剤担持体に圧接されるブレード部材と、このブレード部材を所定の位置に支持する支持部材とからなる。ブレード部材の現像剤担持体に圧接される面は、現像剤の摩擦電荷を制御する機能を有していることから、電荷制御面とも呼ばれる。また、クリーニングブレードは感光体に当接するブレード部材と、このブレード部材を所定の位置に支持する指示部材とから作製される。
【0006】
近年、電子写真プロセスは、より高画質化、高速度化が進み、電子写真装置用部材に対する要求も高くなってきている。現像剤量規制ブレードは現像剤担持体との摺擦で現像剤を摩擦帯電する方法によって、画像ムラや画像スジ、ゴーストの発生を防止するための技術が検討されている。また、クリーニングブレードは、現像剤の小粒径化に対応して、トナーのすり抜けが生じないブレード部材の開発検討が進められている。
【0007】
これらの要求を受けて、例えば、現像剤量規制ブレードでは、ブレード部材の物性や厚みのバラツキが、現像剤担持体に対する当接圧の変化する原因となる。また、クリーニングブレードにおいては、ブレード部材の物性が安定していないと欠けやブレード部材のめくれが生じ、そこから現像剤がすり抜ける等クリーニング不良の原因となってしまう。従って、ブレード部材の物性の安定化や厚み精度の向上が望まれている。
【0008】
しかし、遠心成型による熱硬化性樹脂の薄肉円筒状シートの成型では、以下のような問題点がある。熱硬化性樹脂は、混合した時点から硬化反応が開始し、加熱することによって、さらに反応が進み粘度が上昇していく。従って、硬化温度の違いにより反応の進行具合が異なり、厚みムラや物性のバラツキが生じてしまう。
【0009】
また、近年では生産性向上のために、熱硬化性樹脂においても硬化時間の短い処方が一般的になってきている。しかしながら、この硬化時間短縮処方を遠心成型で成型すると、熱硬化性樹脂材料の注入から、遠心成型機からの脱型までの成型サイクルが速くなり、遠心成型金型の開口部が開閉するサイクルが速くなる。そうなると、遠心成型金型の開口部近辺の温度が下がり、遠心成型金型に温度バラツキが生じ、回転成型体の厚みや物性がばらつく原因となってしまう。従って、物性・厚みに対して安定したブレード部材を得るために、成型サイクルが速い処方でも温度のバラツキが無い遠心成型機が望まれている。
【0010】
このような課題を解決するために、遠心成形機にウレタンエラストマを所定量注入し、成形ドラムを加熱回転させて、ウレタンエラストマを硬化させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭62−169609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に開示された方法では、遠心成形機全体を均一に加熱・保温させることが難しく、近年の硬化時間が短い処方による高サイクル成型では、遠心成型機の温度を維持させることができず厚み・物性のバラツキが生じてしまう。
【0012】
即ち、近年の高画質化、高速度化の要求に伴い、電子写真装置用ブレードのブレード部材に対し、物性・厚みの安定化が望まれている。そのためには、製造装置である遠心成型機の温度を一定化することが必要であることが分かった。また、硬化時間短縮処方を製造する高サイクル成型に対しても、常時、遠心成型機内部が一定の温度に保持されることが、ブレード部材を安定して得るための必須事項であることが分かった。これに対し、本発明者は、高サイクル成型に対して、遠心成型機内部の温度を一定にするためには、遠心成型金型開口部の空間温度を一定にすることが重要であることをつきとめた。
【0013】
そこで、上記課題に鑑み、本発明は、硬化時間が短い処方を成型する高サイクル成型に対しても、硬度や引張り強度、厚みのバラツキ無く、安定したブレード部材を成型できるブレード部材製造装置を提供することを目的とする。また、該ブレード部材製造装置によって製造された回転成形体、および電子写真装置用ブレードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のブレード部材製造装置は、一端側に開口部が形成され、他端側が密閉された円筒形状の遠心成型金型を有する。本発明のブレード部材製造装置は、遠心成型金型を回転させながら、遠心成型金型の内側に材料を流し込んで硬化させることで電子写真装置用ブレードのブレード部材を製造するための回転成型体を成形する。本発明のブレード部材製造装置は、遠心成型金型内の、一端側の雰囲気温度と他端側の雰囲気温度とが同等の温度となるように、遠心成型金型の一端側を加熱する加熱手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、開口部が形成された一端側を加熱手段により、遠心成型金型内の、一端側の雰囲気温度と他端側の雰囲気温度とが同等の温度となるように加熱する。これにより、遠心成型金型の開口部付近の空間温度を一定にすることが可能になる。その結果、遠心成型金型全域において、硬度や引張り強度、厚みのバラツキが少なく安定した成型体を得ることができる。さらに、遠心成型機の開閉による温度低下が抑えられ、硬化時間が短い高サイクル成型を行っても、硬度や引張り強度、厚みのバラツキが少なく安定した成型体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1に本実施形態の遠心成形装置の模式図を示す。
【0018】
本実施形態の遠心成型機は、一端側に開口部22を有し、他端側に駆動源に連結される回転軸21bが突設された遠心成型金型20を有する。また、本実施形態の遠心成型機は、遠心成型金型20の側面部分を加熱するヒータ26と、遠心成形金型20の開口部22近傍を加熱する固定ヒータ23とを有する。遠心成型金型20の内周面に熱硬化性樹脂の原料を注入し、遠心成型金型20を高速で回転させて遠心力により内周面に拡散させ、加熱硬化させて薄肉円筒状のシートを成型する。なお、ヒータ26は、熱風、赤外線、その他の熱媒を使用するものであって良い。また、遠心成形金型20は一端側に開口111aが形成されており、他端側には、図示しない駆動源に連結される回転軸21bが突設されている。
【0019】
開口21aを介して遠心成形金型20の内周面に供給される熱硬化性樹脂は、駆動源の作動による遠心成形金型20の回転に伴い、その内周面に全域に均一に拡散し、遠心成形金型20に埋設されたヒータにより加熱を受けて硬化する。このようにして遠心成型された遠心成型体21は、遠心成形金型20の回転を停止した後に遠心成形金型20の内周面、つまり内壁から剥がされ、目的となる部品に加工される。
【0020】
遠心成型機の開口部22には、扉が設けられており、この扉は、材料を注入し、脱型する作業が可能であれば特に制限されるものではなく、扉方式、シャッター方式等、その他開閉可能なものであれば良い。一般的には観音扉や左右片側開き扉であるが、特に、上下運動のシャッター式扉が良い。これは、密閉性が良く、自動化が容易である。また、作業効率も良くなり、硬化時間が短い高サイクル成型にも対応可能である。
【0021】
本実施形態の遠心成型機は、加熱機構として、開口部22付近に固定ヒータ23を設けている。そして、この固定ヒータ23で遠心成形金型20の一端側、すわなち、開口部22付近を加熱することで遠心成型機の開閉に伴い、遠心成型機の開口部22側から遠心成型金型20の内表面の温度が低下してしまうのを防止できる。その結果、遠心成型金型20内の全域の雰囲気温度が一定となるため、硬度や引張り強度、厚みが安定した回転成型体を得ることができる。さらに、遠心成型機の開閉による温度低下が抑えられ、硬化時間が短い高サイクル成型を行っても、硬度や引張り強度、厚みのバラツキが少なく安定した成型体を得ることが可能となる。なお、固定ヒータ23としては、特に制限されるものではなく、熱風、赤外線、その他の熱媒等、遠心成型金型20開口部22の空間温度を一定にすることが可能な熱媒であれば良い。
【0022】
また、遠心成型金型20の開口部22の加熱機構は、図2に示すように開口部22にて円周状にリングヒータ33を配置しているものであってもよい。遠心成型金型20は高速回転している回転体である。このため、リングヒータ33により円周状に金型を囲んで周方向に均一に加熱することにより遠心成型金型20内の全域の雰囲気温度をより一定にすることができる。
【0023】
熱硬化性樹脂原料の注入や脱型作業による遠心成型機の開閉に伴い、遠心成型金型の表面温度は、遠心成型金型20の奥行き方向に対して開口部22から20%程度の領域で温度が低下しやすい。この温度低下しやすい領域に対して、効率的に加熱することが、遠心成型金型の全領域を均一な温度にするための有効な手段である。よって、リングヒータ33は、遠心成型金型20の開口部22から奥行き方向に対して20%の領域部分に設置することが望ましい。なお、リングヒータ33は遠心成型金型20に対し、円周状に設置可能なヒータであれば特に制限されるものではない。また、リングヒータ33は、遠心成型金型20の外周側ではなく、内周側、あるいは、開口部22の前面に設けるものであってもよい。なお、リングヒータ33としては電気ヒータ、赤外線ヒータ等を適用してもよい。
【0024】
なお、遠心成型金型20の開口部22における温度と遠心成型金型20の後背部24における温度の差は5℃以内であることが好ましく、特に3℃以内にあることが好ましい。開口部22側と後背部24側の温度差が5℃を超えると、熱硬化性樹脂原料に対する熱量が開口部22側と後背部24側で差が生じてしまい、硬化後の成型体の硬度や物性に差が生じてしまうからである。また、原料の流れ性にも差が生じ、厚みムラの原因となってしまうからである。
【0025】
さらに、遠心成型金型20の開口部22の加熱機構は、図3に示すように、遠心成型金型22の前面から温風を送風する温風送風機43でも良い。温風送風機43によって、遠心成型金型20の表面温度が低下しやすい領域に効率的に温風を送風することによって、当該領域の温度低下を防止できる。温風送風機43は遠心成型機の前面、すわなち、開口部22側に設置し、遠心成型金型の全領域温度が均一になるような温度、風量で送風するのが良い。
【0026】
また、開口部22が形成された遠心成型金型20の一端側に、図4に示すように遠心成型金型20の開口部22近傍に断熱層53を形成しておくものであってもよい。遠心成型機は一端側が開口しており、他端側は密閉されているため、密閉された他端側の温度低下は少ないが、開口側の温度低下は大きい。よって、温度低下が大きい遠心成型金型20の開口部22近傍に断熱層53を形成することで、開口部22付近の熱量の低下を防止し、遠心成型金型20の表面温度が低下することを防止できる。このように遠心成型金型20の一端側の温度低下を防止することで遠心成型金型の全領域温度が均一にすることができる。なお、断熱層53は、温度低下が防止できる材質であれば特に制限されるものではない。
【0027】
さらに、遠心成型金型20の開口部22の加熱機構として、図5に示すように、発熱量を変化させることができる可変ヒータ63と、可変ヒータ63の発熱量を制御する制御装置64を有する構成としてもよい。一般的に遠心成型機には遠心成型金型20の開口部22側から後背部24までを加熱するためヒータ26が使用されており、ヒータ26の温調にて遠心成型金型内の空間温度が制御されている。しかし、遠心成型機の開閉に伴う開口部22側の温度低下が大きいため、ヒータ26だけで温度を一定にするのは難しい。これに対して、本実施形態では、制御装置64が可変ヒータ63の発熱量を制御することで遠心成型金型の全領域温度を均一にする。制御装置64による制御は、遠心成型金型の全領域温度を均一にすることができるように可変ヒータ63を制御するものであればどのような制御であってもよい。遠心成型金型の全領域温度が均一となるようなヒータ26の発熱量と可変ヒータ63の発熱量との関係を予め求めておき、これに応じて可変ヒータ63を制御するものであってもよい。あるいは不図示の温度センサからの測定結果に基づき可変ヒータ63を制御するものであってもよい。つまり、不図示の制御手段が温度センサより得られた遠心成型金型20の開口部22近傍の温度が、開口部22側と後背部24側との間で雰囲気温度に差違を生じていると判断した場合には、可変ヒータ63をONする。これにより、開口部22側と後背部24側との間での雰囲気温度の差違が解消される。一方、制御手段は、可変ヒータ63により加熱しすぎて開口部22側の温度が高くなりすぎ、開口部22側と後背部24側との間での雰囲気温度の差違が生じた場合には可変ヒータ63をOFFする。本構成は、このような制御により、遠心成型金型の全領域温度が均一にすることができる。なお、可変ヒータ63は開口部22付近を効率的に加熱可能なヒータであればどのような構成のものであってもよい。なお、制御手段による可変ヒータ63の制御はON−OFF制御以外に、供給電力の増減によるものであってもよい。
【0028】
上述した各構成例は適宜組み合わせて用いるものであってもよい。
【0029】
(電子写真装置用ブレード)
ここで、電子写真装置用ブレードの現状の製造方法、材料等について、簡単に説明する。
【0030】
電子写真装置用ブレードは、電子写真複写機、レーザビームプリンタ、ファクシミリ等の電子写真プロセスを利用した画像形成装置に用いられる弾性ブレードに関するものである。これらの弾性ブレ―ドは一般に鋼板等の剛性の有するブレード支持部材と、ゴム弾性を有するブレード部材及び接着剤層から構成される。
【0031】
それぞれの材質は特に限定されるものではなく、ブレード支持部材として、クロメート処理及び潤滑樹脂等の表面処理鋼板、リン青銅、ばね鋼等の弾性金属板より加工したもの、プラスチックやセラミックなど成型品等が挙げられる。また、ゴム弾性を有するブレード部材としては熱硬化性ポリウレタン、シリコンゴム、液状ゴム等が挙げられる。
【0032】
本発明のブレード部材は、上述した遠心成形機を用いて遠心成型法によって成型されたものである。この遠心成型法により、均一な厚みのシートを容易に作製することができるため、熱硬化性材料の成型方法として広く用いられる。遠心成型金型にはあらかじめ樹脂による離型層を形成し、その内周面で成型することが好ましい。遠心成型金型のフレがあると、注入した原料が均一に広がらないため、厚みのばらつきが大きくなる。厚み精度を向上させようとすると、遠心成型金型のフレ精度をこれまで以上に厳しくしなければならず、コストアップにつながるが、遠心成型金型に樹脂による離型層を形成することにより、遠心成型金型のフレが矯正される。このため、これまでと同レベルのフレ精度の遠心成型金型でも、厚み精度を向上させることができる。
【0033】
遠心成型金型のフレを小さくする離型層の材料としては、加熱により硬化する樹脂またはゴム状になるものや、溶剤や水に溶解可能な樹脂またはゴムなどが好ましい。なお、離型層の材料は、遠心成形材料に対して離型性を有し、この離型層を形成する時に液体であれば、特に限定されるものではない。しかしながら、溶剤などを用いない150℃以上の耐熱性を有する熱硬化性樹脂が好ましい。このような熱硬化性樹脂としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴムなどを挙げることができる。特に、作業性、安全性の点からシリコーン樹脂が良好である。
【0034】
遠心成型金型と離型層の間には、遠心成型金型から円滑に離型層を除去するための保持層を設けることが好ましい。離型層は薄肉円筒状シートの成型を繰り返し行っていると、離型性が次第に低下していくため、ある程度の成型回数ごとに遠心成型金型から離型層を除去し、新たな離型層を形成し直す必要がある。このときに機械的強度が低い樹脂を離型層として用いた場合、遠心成型金型から完全に除去するには、極めて長い時間と労力を要する。遠心成型金型と離型層の間に保持層を設けることで、保持層と離型層は強固に接合されているため、遠心成型金型から保持層を離型層とともに除去することは比較的容易である。
【0035】
保持層としては、遠心成形材料の硬化温度以上、一般的には150℃程度の耐熱温度を有する熱硬化性樹脂にて形成されていることが好ましい。保持層は、特に室温から150℃の範囲でゴム状弾性を示さないようなものであれば、型本体から離型層と共に保持層を除去する際に有利である。このような熱硬化性樹脂としては、例えばポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができるが、特に型本体の内周面との間に適度な密着性を保持することができるエポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
成型を繰り返すと離型性が低下するが、このときに、離型層のみを追加して形成してもよい。保持層と何層かの離型層の全体の厚みが薄肉円筒状シートの物性に影響を及ぼす程度になった場合、遠心成型金型から保持層を離型層とともに除去し、新たに保持層と離型層を形成し直せばよい。
【0037】
離型層の一層当りの厚みは、0.1mm〜3mm程度、特に0.3mm〜1mmの範囲にあることが好ましい。離型層の厚みが0.1mm未満の場合には保持層の上に均一な厚みの離型層を形成することが難しく、逆に離型層の厚みが3mm以上になると複数層の離型層を積層した場合に個々の離型層の密着性が低下して層間剥離を生ずるおそれがある。また、離型層を複数積層させた場合、離型層全体の厚みは3〜20mm程度、特に5mm以内に設定することが好ましい。離型層全体の厚みが20mmを超えると、保持層および離型層を介して金型本体から遠心成形材料への熱伝導の効率が低下し、遠心成形材料の円滑な硬化が阻害され、その物性に悪影響を及ぼすおそれが生ずる。
【0038】
保持層の厚みは0.1mm以上5.0mm以下が好ましい。保持層の厚みが0.1mm以上であれば、保持層の強度が充分なため、金型本体から保持層を離型層と共に除去することが容易となる。一方、保持層の厚みが5.0mm以下であれば、この保持層および離型層を介して金型本体から遠心成形材料への熱伝導の効率は低下せず、遠心成形材料の円滑な硬化が阻害されることがない。
【0039】
薄肉円筒状シートを形成する熱硬化性樹脂としては、耐磨耗性、機械的特性に優れるものであればよく、ポリウレタン樹脂が挙げられる。上記ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート、ポリオール、鎖延長剤および触媒を用い、プレポリマー法、セミワンショット法に準じて製造されている。
【0040】
例えば、プレポリマー法の場合は、ポリイソシアネートとポリオールを用いてプレポリマーを調製し、このプレポリマーに鎖延長剤および触媒を添加したのち、これを成形用の金型に注入して硬化させるものである。
【0041】
ポリイソシアネートとしては、例えば、以下のものが好適である。例えば、4、4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2、4−トリレンジイソシアネート(2、4−TDI)、2、6−トリレンジイソシアネート(2、6−TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、が好適である。また、1、5−ナフチレンジイソシアネート(1、5−NDI)、p−フェニレンジイソシアネート(PPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)も好適である。さらに、4、4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、カルボジイミド変性MDIも好適である。この他、ポリメチレンフェニルポリイソシアネート(PAPI)等があげられる。なお、これらのなか中でも、MDIを用いることが好ましい。
【0042】
ポリオールとしては、以下のものが挙げられる。すわなち、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、カプロラクトンエステルポリオール、ポリカーボネートエステルポリオール、シリコーンポリオール等であり、数平均分子量が1500〜5000であることが好ましい。これは、1500未満であると、得られるウレタンゴムの物性が低下する傾向がみられ、また5000を超えると、プレポリマーの粘度が高くなりハンドリングが困難になる傾向がみられるからである。
【0043】
ポリオールとして、低分子量の鎖延長剤を併用する。例えば、グリコールが使用され、このようなグリコールとしては、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール(DEG)、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール(DPG)等が挙げられる。また、1、4−ブタンジオール(1、4−BD)、1、6−ヘキサンジオール(1、6−HD)、1、4−シクロヘキサンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。さらにキシリレングリコール(テレフタリルアルコール)、トリエチレングリコール等が挙げられる。また、上記グリコールの他に、その他の多価アルコールが使用され、このような多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0044】
触媒としては、一般に用いられるポリウレタン硬化用の触媒を使用することができ、例えば三級アミン触媒が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例について比較例と併せて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
本実施例では、現像剤量規制ブレードを作成し、その効果を確認した。
【0047】
まず、本実施例で使用した現像剤量規制ブレードは以下のようにして作製した。
【0048】
支持部材としてウレタン変性オレフィン樹脂及びアクリル変性オレフィン樹脂を含む非クロム表面処理層を有する電気亜鉛メッキ鋼板ジンコート21(商品名:新日本製鐵(株)製)を使用した。これに、フィルム状ホットメルト接着剤エルファン−UH(商品名:日本マタイ(株)製)を仮接着した。
【0049】
次いで、アジペート系ウレタンプレポリマー100質量部(Mn2000、NCO含有量6.25質量%)と、1、4−ブタンジオール3.7質量部、トリメチロールプロパン1.9質量部を注型機ミキシングチャンバー内で混合攪拌した。その後、これを130℃で保持した遠心成型機に注入して成型した。遠心成型機には、遠心成型金型の後背部から中央部にかけて固定ヒータが設置しており、130℃に設定した。その後、脱型し加熱硬化させたシート状のポリウレタンエラストマを所定寸法に裁断し、ブレード部材とした。このブレード部材と上記ホットメルト接着剤を仮接着した支持板金とを加熱接着し、現像剤量規制ブレードを得た。
<実施例1>
図1に示すように、開口部22が形成された遠心成型金型20の一端側に固定ヒータ23を設置した。この時の遠心成型金型20の開口部22と開口部22から離れた後背部24での成型金型表面の温度差は4℃であった。この遠心成型金型で成型したポリウレタンエラストマの硬度・引張り強度・厚みを表1に示す。さらにこのポリウレタンエラストマで作成した現像剤量規制ブレードで測定した、現像担持体に対する当接圧、トナー制御性を表1に示す。
<実施例2>
図2に示すように、開口部22が形成された遠心成型金型20の一端側にリングヒータ33を設置した。この時の遠心成型金型20の開口部22と開口部22から離れた後背部24での成型金型表面の温度差は2℃であった。この遠心成型金型20で成型したポリウレタンエラストマの硬度・引張り強度・厚みを表1に示す。さらにこのポリウレタンエラストマで作成した現像剤量規制ブレードで測定した、現像担持体に対する当接圧、トナー制御性を表1に示す。
<実施例3>
図3に示すように、開口部22が形成された遠心成型金型20の一端側に外部から100℃の温風を送風できる送風機43を設置し、成型したエラストマシートを脱型後、3分間温風を送風した。この時の遠心成型金型20の開口部22と開口部22から離れた後背部24での成型金型表面の温度差は2℃であった。この遠心成型金型20で成型したポリウレタンエラストマの硬度・引張り強度・厚みを表1に示す。さらにこのポリウレタンエラストマで作成した現像剤量規制ブレードで測定した、現像担持体に対する当接圧、トナー制御性を表1に示す。
<実施例4>
図4に示すように、開口部22が形成された遠心成型金型20の一端側に円周状の断熱層53を設けた。この時の遠心成型金型20の開口部22と開口部22から離れた後背部24での成型金型表面の温度差は2℃であった。この遠心成型金型20で成型したポリウレタンエラストマの硬度・引張り強度・厚みを表1に示す。さらにこのポリウレタンエラストマで作成した現像剤量規制ブレードで測定した、現像担持体に対する当接圧、トナー制御性を表1に示す。
<実施例5>
図5に示すように、開口部22が形成された遠心成型金型20の一端側に可変ヒータ63を設置し、温度センサの測定温度に基づき可変ヒータ63を制御し、遠心成型金型開口部の温度が130℃になるように温調した。この時の遠心成型金型20の開口部22と開口部22から離れた後背部24での成型金型表面の温度差は2℃であった。この遠心成型金型で成型したポリウレタンエラストマの硬度・引張り強度・厚みを表1に示す。さらにこのポリウレタンエラストマで作成した現像剤量規制ブレードで測定した、現像担持体に対する当接圧、トナー制御性を表1に示す。
<比較例1>
遠心成型機21で遠心成型金型の後背部24から中央部25にかけての固定ヒータ26のみで温調した。この時の遠心成型金型の開口部42と開口部から離れた後背部44での成型金型表面の温度差は10℃であった。この遠心成型金型で成型したポリウレタンエラストマの硬度・引張り強度・厚みを表1に示す。さらにこのポリウレタンエラストマで作成した現像剤量規制ブレードで測定した、現像担持体に対する当接圧、トナー制御性を表1に示す。
(硬度の評価方法)
国際ゴム硬度(IRHD)の測定は、ウォーレス(H.W.WALLACE)社製ウォーレス微小硬度計を用い、JIS K 6253に基づいて行った。得られた遠心成型金型開口部の硬度Hfと、遠心成型金型後背部の硬度Hbの硬度差をΔHとし表1に示した。硬度差が小さい方がバラツキの少ないポリウレタンシートが成型できたことを示す。
(引張り強度の測定方法)
引張り強度の測定は、引張り試験機(メーカー名:上島製作所)を用い、JIS K 6251に基づいて行った。100%伸張したときの応力をM100とし、遠心成型金型開口部のM100fと、遠心成型金型後背部のM100bの応力差をΔM100とし表1に示した。ΔM100の小さい方がバラツキの少ないポリウレタンシートが成型できたことを示す。また、破断した時の応力をTBとし、遠心成型金型開口部のTBfと、遠心成型金型後背部のTBbの応力差をΔTBとし表1に示した。ΔTBの小さい方がバラツキの少ないポリウレタンシートが成型できたことを示す。
(厚みの評価方法)
遠心成形体の厚みは、ダイヤルシックネスゲージ(メーカー名:ミツトヨ)を用い、計測した。遠心成形体全体を均一に5点測定し、最大値と最小値の差が0.05mm以内を〇、0.05mmを超える場合を×とした。
(当接圧の測定)
得られたポリウレタンエラストマで作成した現像剤量規制ブレードについて、LASER SHOT−LBP(キヤノン社製)用カートリッジに組み込み、現像剤担持体に対する当接圧を測定した。遠心成型金型開口部で作成した現像剤量規制ブレードの当接圧Ffと、遠心成型金型後背部から成型した現像剤量規制ブレードの当接圧Fbの差をΔFとし表1に示した。当接圧差ΔFが小さい方がバラツキの少ないポリウレタンシートが成型できたことを示す。
(画像評価方法)
この様にして作製した現像剤量規制ブレードについて、LASER SHOT−LBP(キヤノン社製)用カートリッジに組み込み、トナー制御性について評価を行った。トナー制御性はゴースト評価によって確認した。トナー制御性が良好な現像剤量規制ブレードではゴーストの発生が無いが、トナー制御性が悪い現像剤量規制ブレードではゴーストの発生が見られる。ゴーストの発生が無かったものを〇、僅かにゴーストが確認されたものを△、はっきりゴーストが確認されたものを×とした。
以上で得られた結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
上記表1の結果から、実施例品はいずれにおいても硬度、引張り強度、当接圧のバラツキが小さく、厚み能力も良好である。その結果、ゴーストの発生しない良好な画像が得られた。これに対して、比較例では硬度、引張り強度、当接圧のバラツキが大きく、厚み能力も悪い。従って画像評価においてもゴーストの発生が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の遠心成形機の一例の模式図であって、遠心成型金型の開口部近傍に固定ヒータを設けた例である。
【図2】本発明の遠心成形機の一例の模式図であって、遠心成型金型の開口部近傍にリングヒータを設けた例である。
【図3】本発明の遠心成形機の一例の模式図であって、遠心成型金型の開口部近傍に温風送風機を設けた例である。
【図4】本発明の遠心成形機の一例の模式図であって、遠心成型金型の開口部近傍に断熱層を設けた例である。
【図5】本発明の遠心成形機の一例の模式図であって、遠心成型金型の開口部近傍に可変ヒータを設けた例である。
【図6】従来の遠心成型機の一例の模式図である。
【符号の説明】
【0053】
21 遠心成型金型
22 開口部
23 固定ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に開口部が形成され、他端側が密閉された円筒形状の遠心成型金型を有し、前記遠心成型金型を回転させながら、前記遠心成型金型の内側に材料を流し込んで硬化させることで電子写真装置用ブレードのブレード部材を製造するための回転成型体を成形するブレード部材製造装置において、
前記遠心成型金型内の、前記一端側の雰囲気温度と前記他端側の雰囲気温度とが同等の温度となるように、前記遠心成型金型の前記一端側を加熱する加熱手段を有することを特徴とするブレード部材製造装置。
【請求項2】
前記加熱手段が、円周形状のリングヒータである、請求項1に記載のブレード部材製造装置。
【請求項3】
前記加熱手段が、前記開口部から前記遠心成型金型の内部へと温風を送風する温風送風機である、請求項1に記載のブレード部材製造装置。
【請求項4】
前記加熱手段は発熱量を変化させることができる可変ヒータであり、前記遠心成型金型を加熱するヒータと、前記ヒータの加熱状況に応じて前記一端側の雰囲気温度と前記他端側の雰囲気温度とが同等の温度となるように前記可変ヒータを制御する制御手段とを有する、請求項1に記載のブレード部材製造装置。
【請求項5】
前記遠心成型金型の前記一端側の外部に断熱層が形成されている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のブレード部材製造装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに1項に記載のブレード部材製造装置を用いて成型されたことを特徴とする回転成型体。
【請求項7】
支持体にブレード部材を結合してなす電子写真装置用ブレードにおいて、
前記ブレード部材が、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のブレード部材製造装置を用いて成型された円筒状薄肉体を切断して形成されたものであることを特徴とする電子写真装置用ブレード。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−80694(P2008−80694A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264517(P2006−264517)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】