プラスチックフィルム、金属被覆基板、及び、それらの製造方法
【課題】スパッタや蒸着等の気相法によりコストアップを極力抑えながらプラスチックフィルム上に金属薄膜を形成するに当たり、金属とプラスチックフィルムの密着強度の大幅な向上を図る。
【解決手段】基材の表面を粗化面化し(110)、その基材の粗化面にポリイミド前駆体を塗布して(103)、加熱イミド化する(104)ことにより、基材の粗化面に対応した粗化面(Rms0.05μm以上)を有する粗化フィルム110を得る。次に基材から剥がした粗化フィルムを真空チャンバ内に収容して、Crスパッタ(122)、Cuスパッタ(123)を順にすることにより粗化面上に金属薄膜を形成し、更にその上にCuメッキすることにより金属被覆基板130を得る。
【解決手段】基材の表面を粗化面化し(110)、その基材の粗化面にポリイミド前駆体を塗布して(103)、加熱イミド化する(104)ことにより、基材の粗化面に対応した粗化面(Rms0.05μm以上)を有する粗化フィルム110を得る。次に基材から剥がした粗化フィルムを真空チャンバ内に収容して、Crスパッタ(122)、Cuスパッタ(123)を順にすることにより粗化面上に金属薄膜を形成し、更にその上にCuメッキすることにより金属被覆基板130を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に金属膜を被覆することで、フレキシブル回路基板、フレキシブル配線板、あるいはTABテープ等に用いられる金属被覆プラスチックフィルムなどを作製するのに適したプラスチックフィルム、そのプラスチックフィルムに金属の薄膜を被覆してなる金属被覆基板、及び、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルム上に金属を被覆してなる金属被覆基板は、金属被覆部分で回路を形成し、場合によっては、その回路上にICやコンデンサなどのマイクロチップを積載することで、携帯電話やデジタルカメラなどの電子機器を高密度実装化するための必須材料となっている。
【0003】
この種の金属被覆基板の金属としては、価格、加工性、電気的特性、耐マイグレーション性などの面から、銅が最も多く用いられている。また、基板材料であるプラスチックフィルムとしては、用途によって、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルムなどが用いられている。
【0004】
この金属被覆基板の製造方法としては、
(1)圧延法ないし電解法を用いて予め銅箔を作製し、接着剤でプラスチックフィルムに接合する方法、
(2)接着剤を介さず、プラスチックフィルムの前駆体を銅箔に塗布し、前記前駆体を重合させて接着させるキャスティング法(例えば、特許文献1参照)、
(3)熱可塑性プラスチックフィルムを銅箔と積層してラミネートするラミネート法(例えば、特許文献2参照)、
(4)プラスチックフィルムにスパッタなどで金属を薄く被覆し、その上にメッキで金属を所定の厚さまで被覆する蒸着メッキ法(例えば、特許文献3参照)
などが用いられている。
【0005】
しかしながら、上記の手法において、(1)の接着剤を用いた手法では、銅箔とプラスチックフィルムとの高温密着安定性が低いために、所定のチップ部品を高温接着処理が必要な半田材を用いて積層することができないという問題があった。
【0006】
また、(2)、(3)の接着剤を使用しないキャスティング法やラミネート法は、比較的高温密着性に優れているため、チップ部品を実装するような用途に広く用いられているが、例えば、携帯電話の屈曲部等の用途向けには更なる密着性の向上が望まれていた。また近年では、高密度実装化の要望が一層高まり、回路の高精細化対応のために、被覆金属をより薄くしたいとの要望が高まっている。
【0007】
この要望を満足するために、キャスティング法やラミネート法においては、なるべく薄い銅箔を用いてプラスチックフィルムをキャスト成膜したり、積層ラミネートしたりしているが、この銅箔として、薄いものを作製し接着することには限界がある。というのは、例えば、膜厚9μm以下の銅箔を電解法や圧延法で作製したとしても、貼り付け加工などの際にハンドリング性が悪く、皺などの発生が起こったりする問題がある。
【0008】
そこで、予め厚物の銅箔を貼り付けておき、後の工程で、薬品によるエッチング等により銅箔を薄く加工したり、予めバッファ層を積層しておき、積層後にバッファ層を引き剥がすなどして薄膜化を達成したりしている(例えば、特許文献4参照)。しかし、エッチング法では均一にエッチングする技術が難しいために生産性が低く、また、バッファ層を用いる方法では、2種以上の金属箔を積層することになるため、いずれもコストが高いものとなっている。さらに、得られる金属被膜とプラスチックフィルムとの密着性に関しても、十分な性能は得られていない。
【0009】
一方、(4)の蒸着メッキ法においては、比較的低コストで、薄い金属膜をプラスチックフィルム上に被覆することが可能となるが、プラスチックフィルムと被覆金属との接着安定性が圧倒的に劣っているという問題点があった。
【0010】
この問題点を解決する手段としては、
(5)蒸着メッキ前に、プラズマ処理によりプラスチックフィルム(例えば、ポリイミドフィルム)の表面を改質する手法、
が行われている。(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
【特許文献1】特開昭60−157286
【特許文献2】米国特許第4543295
【特許文献3】特開昭61−47015
【特許文献4】特開2001−30847
【非特許文献1】真空 第39巻 第1号(1996年発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
(5)に示した、蒸着メッキ前に、プラズマ処理によりプラスチックフィルムの表面を改質する手法により、蒸着メッキ前にプラスチックフィルム(例えば、ポリイミドフィルム)上へプラズマ処理を行うと、プラスチックフィルム中の化学結合が切断され(ポリイミドフィルムの場合は、ケトン基のC−CやC−N結合が切断される。)て極性基が形成され、これが被覆金属とイオン結合すると考えられる。
【0013】
ここで、このプラズマ処理においては、プラスチックフィルムの表面粗さも大きくなり、二乗平均粗さ(Rms)で200nm(0.2μm)付近まで粗化面化可能であることが示唆されている。そして、このプラスチックフィルムの粗化面化がアンカー効果を発揮し、上述した金属膜とプラスチックフィルムとの密着性向上の要因となるとも考えられる。しかしながら、当該プラスチックフィルムの二乗平均粗さRmsが約10nm以上となると、上述した金属膜とプラスチックフィルムとの密着性向上は飽和してしまっていることから(非特許文献1の図4参照。)、当該プラスチックフィルム表面の二乗平均粗さRmsと金属膜の密着強度との間には、相関が無いことが考察される。つまり、プラズマ処理によりプラスチックフィルム上を粗化面化する手法では密着強度の向上に格別の効果を得ることができないことが知られていた。
【0014】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、プラスチックフィルム上に、気相法により金属膜を形成するに当たり、コストアップを極力抑えながら金属とプラスチックフィルムとの密着強度を大幅に向上できる、基板部材としてのプラスチックフィルム、該プラスチックフィルムを使用した金属被覆基板、及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者等は、まずプラズマによる粗化面化処理が行われたプラスチックフィルム表面について研究を行った。具体的な研究内容として、例えば、(株)キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK-8500を用い、プラスチックフィルムとしてデュポン製のポリイミドフィルム(製品名カプトン)にプラズマを40分間照射して処理した表面の代表的な部分149×112μmの範囲を測定レンジ0.02μm、白黒超深度で観察した。この観察の結果、得られた顕微鏡写真を図2に示す。また、この観察の結果、図2の顕微鏡写真上にA−Bで示した線に沿って111.7μmの距離に渡り表面の凹凸を計測した。その結果を図3に示す。
【0016】
また、図2に示した測定範囲から20×20μmの領域を任意に5点選び、その各領域内における平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmを計測した。その計測結果の平均値を図4に示す。
【0017】
次に、プラズマ処理時間を上述した40分間から、20分間、5分間、プラズマ照射なし、と変化させた後、同様に、測定範囲内の任意5領域におけるRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmを各々計測した。その計測結果の平均値を図8に示す。
【0018】
これらの計測結果から、本発明者らは以下のような知見を得た。
すなわち、プラスチックフィルム表面を粗面化するためにプラズマ照射による処理を行った場合、平均粗さRaを大きくするためにはプラズマ照射時間を延長する。すると、プラスチックフィルム表面には、深い凹と高い凸とを有する凹凸が寡占的に生成することが判明した。そして、この深い凹と高い凸とを有する凹凸は、アンカーとしての効果を発揮し得ないものと考えられる。そして、プラスチックフィルム表面における、深い凹と高い凸とを有する凹凸の存在割合は、平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比(Ry/Ra)で表現することができる。このRy/Raが、例えば80以上となった場合は、深い凹と高い凸とを有する凹凸の寡占的状態が過剰となり、当該凹凸がアンカーとしての役割を果たすことができず、金属膜とプラスチックフィルムとの密着性が飽和してしまう原因であることに想到した。
【0019】
上述の推察に基づき、本発明者らは、金属とプラスチックフィルムとの密着強度を大幅に向上できるプラスチックフィルム表面の粗化面の構造とは、表面平均粗さRaが好ましくは0.09μm以上のとき、Ry/Raが40以下のものであることを見出した。
なお、プラスチックフィルム表面の表面平均粗さRaは、0.09μm以上であれば所定の密着性が得られるが、1μmを超えると、プラスチックフィルム表面上に被覆された金属膜をエッチングして回路パターンを形成する際に、当該エッチング精度が低下してしまう。
【0020】
次に、本発明者らは、上述の、表面の表面平均粗さRaが好ましくは0.09μm以上で、Ry/Raが好ましくは40以下の構造を持った粗化面を有するプラスチックフィルムの製造方法を研究した。
【0021】
多数の試行錯誤において、本発明者らは、プラズマ処理によらないプラスチックフィルムの粗化面化処理方法をも検討したが、平滑なプラスチックフィルムを形成した後、サンドブラスト等を用いて、表面を粗化面化する手法では、やはり極端な凹凸部や亀裂が発生し、所定の粗さを有する粗化面を得ることが難しかった。そして、さらに検討を重ねた結果、プラスチックフィルムの形成時に、所定の粗化面を有する基材上で当該プラスチックフィルムを形成することにより、上述の構造を持った粗化面を有するプラスチックフィルムを製造できることを見出した。
【0022】
そして、この所定の粗化面を有する基材上で形成したプラスチックフィルムの粗化面に金属膜を被覆したところ、プラズマ処理による粗化面化処理とは異なって、プラスチックフィルムと金属膜との密着強度が著しく向上していることを見出し、本発明を成すことができた。つまり、本願発明は、以下の構成を有する。
【0023】
第1の構成は、少なくとも片面の表面平均粗さRaが0.09μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であることを特徴とするプラスチックフィルムである。
【0024】
第2の構成は、第1の構成に記載のプラスチックフィルムに、金属膜が被覆されたものであることを特徴とする金属被覆基板である。
【0025】
第3の構成は、第2の構成に記載の金属被覆基板の金属膜上に、更にメッキ法による金属膜が積層されていることを特徴とする金属被覆基板である。
【0026】
第4の構成は、基材の表面を粗化面化する基材表面粗化面化処理工程と、
該基材表面粗化面処理工程により得られた基材の粗化面にプラスチックフィルムまたはその前駆体を接触させることにより、前記基材の粗化面に対応した粗化面を有するプラスチックフィルムを形成する粗化フィルム形成工程と、を備えることを特徴とするプラスチックフィルムの製造方法である。
【0027】
第5の構成は、第4の構成に記載のプラスチックフィルムの製造方法において、前記基材表面粗化面化処理工程とは、前記基材の表面を表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であるように粗化面化する基材表面粗化面化処理工程であることを特徴とするプラスチックフィルムの製造方法である。
【0028】
第6の構成は、第4または5の構成に記載のプラスチックフィルムの製造方法により製造されたプラスチックフィルムの前記粗化面上へ、気相法により金属膜を形成する、金属膜形成工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0029】
第7の構成は、第6の構成に記載の金属被覆基板の製造方法により製造された金属被覆基板の前記金属膜上へ、メッキ法により同種または異種の金属膜を積層形成するメッキ成膜工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0030】
第8の構成は、第6または第7の構成に記載の金属被覆基板の製造方法により製造された金属被覆基板の前記金属膜にエッチング加工を施すことにより、所定の回路を形成することを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0031】
第1の構成を有するプラスチックフィルムは、金属膜が被覆される表面の表面平均粗さRaを0.09μm以上とし、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raを40以下としたことで、金属膜とプラスチックフィルムとの密着性を大幅に向上させることができるプラスチックフィルムである。
【0032】
第2の構成を有する金属被覆基板は、当該金属被覆基板を構成する金属膜とプラスチックフィルムとの密着性が大幅に向上しているため、金属膜とプラスチックフィルムとの密着強度が高い金属被覆基板である。
【0033】
第3の構成を有する金属被覆基板は、金属膜の上に更にメッキ法による金属膜を積層しているので、金属膜の厚さが自由に効率良く制御された金属被覆基板である。
【0034】
第4の構成を有するプラスチックフィルムの製造方法によれば、予め基材を粗化面化し、その基材の粗化面にプラスチックフィルムまたはその前駆体を接触させることで、粗化面を有するプラスチックフィルムを形成することができる。
【0035】
第5の構成を有するプラスチックフィルムの製造方法によれば、予め基材の表面を表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であるように粗化面化したことで、その基材の粗化面にプラスチックフィルムまたはその前駆体を接触させることで、所定の粗化面を有するプラスチックフィルムを再現性良く形成することができる。
第6の構成を有する金属被覆基板の製造方法によれば、第4または5の構成により製造されたプラスチックフィルムの粗化面上へ、気相法により金属膜を形成するので、金属被覆とプラスチックフィルムとの密着性が大幅に高められた金属被覆基板を容易に得ることができる。
【0036】
第7の構成を有する金属被覆基板の製造方法によれば、第6の構成により製造された金属被覆基板の金属膜の上に同種または異種の金属の薄膜をメッキ法により積層形成するので金属膜の厚さを自由に効率良く制御することができる。
【0037】
第8の構成を有する金属被覆基板の製造方法によれば、第6または第7の構成により製造された金属被覆基板にエッチング加工を施すことにより、金属膜部分により所定の回路を形成するので、例えば、フレキシブル回路基板やフレキシブル配線板として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態例に係るプラスチックフィルムは、基材の粗化面に接触させることで形成したプラスチックフィルムであり、金属被覆基板は、当該プラスチックフィルムの粗化面に気相法により金属膜を被覆し、所望により該金属膜の上へ更にメッキ法により金属薄膜を積層形成したものである。
【0039】
実施形態に係るプラスチックフィルムを得るには、まず、表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下である粗化面を有する基材を用意する。
【0040】
このような粗さの粗化面を有する基材の製法としては、上記表面粗さの範囲を創出できる方法であれば、どのような方法を用いても良いが、例えば、基材である金属表面に高電流密度のメッキをおこない、所謂「ヤケたメッキ条件」として、粗い金属粒を付加した基材や、基材である金属表面を機械研磨により所定の粗さに荒らした基材を用いることができる。基材の形状としては、プラスチックフィルムを形成できる形状であれば、例えば、板状やロール状(楕円ロール状も可)などいずれの形状であっても良い。
【0041】
そして、このように粗化面化した基材の粗化面にプラスチックフィルムの前駆体を塗布して、粗化面化処理面を有するプラスチックフィルムを作製する。例えば、プラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを用いる場合は、基材の粗化面に、ポリアミド酸を塗布し、これを加熱イミド化しながら、基材から順次フィルムを引き剥がしたり、特にポリアミド酸をゲルフィルム化してなるポリイミドフィルム前駆体をロール形状の基材の間を押し出したりすことにより、基材の粗化面をフィルムに転写して、粗化面を有するプラスチックフィルムを作製する。
【0042】
また、両面が粗化面化されたプラスチックフィルムを所望する場合は、まず第1の粗化面化した基材にプラスチックの前駆体を塗布し、第2の粗化面化した基材で該プラスチックの前駆体を挟み込む。このとき第1および第2の粗化面化した基材の間隔をプラスチックフィルムの所望の厚さと一致させる。挟み込みが完了したら、熱的および/または化学的処理により該プラスチックの前駆体を重合させた後に、両基材を適宜な方法で取り外すことで、両面が粗化面化されたプラスチックフィルムを得ることができる。
【0043】
あるいは、まずプラスチックの前駆体をゲルフィルム化した後、該ゲルフィルムを第1および第2の粗化面化した基材で挟み込む。次に、該両基材の間隔をプラスチックフィルムの所望の厚さと一致させ、熱的および/または化学的処理により該プラスチックの前駆体を重合させた後に、両基材を適宜な方法で取り外すことで、両面が粗化面化されたプラスチックフィルムを得ることとしても良い。
【0044】
また、異なる、粗化面化プラスチックフィルムの製法として、金属の表面に電解メッキ法などで金属粒を付与して、表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下である粗化面化した金属箔を基材として用意し、この金属箔上に硬化前の前駆体を塗布して、その後硬化させたり、この金属箔に硬化前の前駆体を積層し、加熱ラミネート化させたりして、前駆体を硬化し、その後、この金属箔をエッチング除去することで、粗化面を有するプラスチックフィルムを製造する方法も採ることができる。
【0045】
上述の粗化面化を行った結果、表面平均粗さRaが0.09μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下である粗化面を有するプラスチックフィルムを得ることができた。そして、当該粗化面上に、金属膜として例えば銅の膜を被覆した場合、銅張り絶縁基板として求められる密着性を確保することができた。また、携帯電話の屈曲部などの、屈曲特性に高い信頼性が求められる用途向けとして、後述する密着性試験おいて1.0N/mm2以上の熱安定的な密着強度を得る必要がある場合には、平均粗さRaを0.2μm以上とするのが望ましいことも判明した。
【0046】
次に、このようにして得た粗化面を有するプラスチックフィルムの粗化面に金属を被覆することにより、特に高温密着性の高い金属被覆基板を得ることができる。
これは、プラスチックフィルムの形成時に、所定の粗化面を有する基材上でプラスチックフィルムを形成することで表面を粗化面化した場合には、深い凹と高い凸とを有する凹凸が寡占的に存在しているのではなく、比較的凹凸が緩やかで均一な凹凸面が形成され、プラズマ処理による粗化面化とは異なって、表面粗さによるアンカー効果が著しく向上する為と考えられる。
【0047】
金属を被覆する方法としては、気相法、液相法、無電解メッキ法、およびこれらを複合した手法など、いずれの手法も用いることができるが、屈曲の繰り返しに対する耐久性や、はんだ処理などに対する高い耐熱性が必要な用途向けには、これらのうち、気相法の一つであるスパッタ法を第1層目に行うことで、高い密着性が得られることから最も望ましい。
【0048】
そして、スパッタ法で第1層(シード層)目を形成した後、更に電解ないし無電解のメッキ法で、所定の厚さまで金属膜を成膜する手法を採ることにより、生産性良く、金属膜を被覆することが可能となる。
【0049】
なお、必要に応じて、第1層成膜前の前処理として、予めプラスチックフィルムにコロナ放電やグロー放電等の放電処理を施して、フィルム表面に官能基を付加すると、密着強度をより高めることができ好ましい。
【0050】
粗化面化したプラスチックフィルム上に被覆する金属としては、価格や加工性などの点から銅ないし銅を主相とする燐青銅、黄銅等の耐酸化性合金等が望ましく、この他にも例えば、Al、ステンレスなども使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
また、プラスチックフィルム上に被覆する第1層目の最初の金属としては、たとえば、Cr、Ni、Mo、W、V、Ti、Si、Fe、Alや、これらを主とする合金を使用するのが好ましい。
【0052】
この場合、まず、これらの第1層目の最初の金属をシード層として薄く被覆し、その後に、当該最初の金属上へ、銅ないし銅を主相とする燐青銅、黄銅等の耐酸化性合金等を、第2番目の金属として被覆する。この構成を採ると、密着力の高温安定性を更に向上させることができる。ここで、後工程である回路形成の際のエッチング性を良好にするために、第1層目の金属の厚さは、おおよそ10〜500Åの範囲に設定するのが望ましく、さらに望ましい範囲は40〜60Åである。当該第1層目の第2番目の金属である銅層ないし銅を主相とする耐酸化性合金層の膜厚は、1000Å以上に設定するのが望ましいが、生産性の観点からは1000〜3000Åの範囲がさらに望ましい。
【0053】
上述したように、プラスチックフィルム上へ第1層目の最初の金属、銅層ないし銅を主相とする耐酸化性合金層等を、スパッタ法等を用いて設けた後に、この層の上へ更にメッキ法等にて所定(例えば、銅または銅合金)の金属膜を被覆する場合、この所定の金属膜の膜厚は、後工程の要求により自在に設定することができる。例えば、当該金属膜に大きな電流を流したいのであれば、数μm〜数十μmとすることもできる。さらに、両面に金属被覆が施された基板を製造する際には、該金属被覆処理を片面ずつ行っても良いし、両面同時に行うこともできる。
【0054】
プラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを用いる場合は、その前駆体としては、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の略等モル量を、有機溶媒中で反応させて作製されたポリアミド酸の溶液を用いることが望ましい。
【0055】
前記テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、m(p)−ターフェニル−3,4,3‘,4’−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物など、およびこれらから選ばれる2種以上の混合物が好個に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
また、ジアミン成分としては、例えば、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルメタン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルスルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン(n=3,4,5)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、1,2−ビス[2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ]エタン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス〔4−(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,6−ジヒドロキシ−1,3−フェニレンジアミン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、2,2’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−メトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリドなどの芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、キシレンジアミンなど、および、これらから選ばれる2種以上の混合物が好個に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
前記のポリアミド酸製造に使用できる有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、クレゾ−ル類などが好個に使用できる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0058】
また、閉環剤としては、ジカルボン酸無水物や、2種以上のジカルボン酸無水物の混合物、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、ベータピコリン等の複素環式第3級アミンなど、およびこれら脂肪族第3級アミンや複素環式第3級アミンなどの2種以上の混合物を好個に使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
また、本願発明に係る金属被覆基板において、被覆金属膜とプラスチックフィルムとの間の線膨張係数差の割合を、±40%以下とすることで、金属被覆時におけるプラスチックフィルムのカールや、該金属被覆基板に熱履歴などを加えた場合の応力を低減できることから、該金属被覆基板の熱安定性が向上でき好ましい。そのような金属膜とプラスチックフィルムとの組み合わせ例として、例えば、金属膜が銅の場合、銅は300Kにおいて16.6×10−6/Kの線膨張係数を有するので、プラスチックフィルムは線膨張係数が10〜23×10−6/Kのものを選択することが望ましい。さらに、プラスチックフィルムの引っ張り弾性率として、1000MPa以上のものを選択することで、高信頼性の金属被覆基板を得ることが出来る。
【0060】
ここで、引っ張り弾性率が1000MPa以上で、線膨張係数が10〜23×10−6/Kであるプラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを製造するのに適したジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の組み合わせとしては、例えば、テトラカルボン酸二無水物としてビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジアミン成分として1,4−ジアミノベンゼンを主成分としたものを挙げることができる。これらの成分は、何れも各々ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物として50%以上含まれていることが望ましく、その他の成分は、前述したジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の1種以上と置き換えることができる。
【0061】
また、所望により、まずポリアミド酸等を基材に塗布し乾燥させて自己支持性を有するゲルフィルムを作製し、次に、このフィルムの端を固定して縦横に引き延ばすことで、所定の伸延処理を行い、このフィルムの線膨張係数を被覆する金属の線膨張係数に近づけることができる。なお、この処理を行う場合は、まず、表面粗さ(Ra)0.02μm以下の平滑な基材上でゲルフィルムを作製し、引き剥がして伸延処理を行い、その後、粗化面化した基材上に押し当てて、触媒法ないしは加熱法およびこれらの複合法でイミド化を行うことが好ましい。
【0062】
次に実施形態としての金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を得るための具体的な製造方法の実施例について、プラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを用いる場合を例として説明する。図1は概略的な工程図であり、図中の工程101〜105で粗化面を有するプラスチックフィルム110を作製し、その上で工程121〜124を実施することで金属被覆基板130を作製し、更にその金属被覆基板に工程141を実施することで回路基板150を得ることを示している。
【0063】
なお、本実施形態において、表面粗さの計測には(株)キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK-8500を用い、粗化面化フィルム110の粗化面において、代表的な部分を測定範囲とし、149×112μmの範囲を測定レンジ0.02μmにて白黒超深度で観察した。次に、この測定範囲から任意に20×20μmの範囲を5点選び、その範囲内の平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmを各々計測し、その平均値を求め測定値とした。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
(1)粗化面化基材の製造工程(基材表面粗化面化処理101)
二乗平均表面粗さが0.02μm以下で厚さが0.3mmの銅基板に、下記メッキ液Aを用いて、電流密度40A/dm2で15秒間通電して成膜することにより、ヤケたニッケル被膜を形成した。次に、同じメッキ液Aを用いて、電流密度5A/dm2で5秒間通電し成膜して粗化面化基材を作製した。当該粗化面化基材における表面凹凸の値を、図9に示す。
【0065】
メッキ液A:スルファミン酸ニッケル Ni含有率50g/L
塩化ニッケル Ni含有率15g/L
ホウ酸 30g/L
純水 残部
【0066】
(2)ポリイミド前駆体の製造工程(ポリイミド前駆体準備工程102)
窒素気流下、重合槽中のN,N−ジメチルアセトアミド1800gへ、1,4−ジアミノベンゼン108gと、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物294gとを添加して撹拌し、ポリアミド酸溶液を作製した。
【0067】
(3)粗化面化ポリイミドフィルムの製造工程
前記で作製した粗化面化基材表面にフッ素系離型剤である(有)ブレニー技研製リケイザイNo.10を塗布、乾燥させた後に、前記で作製したポリアミド酸溶液を塗布流延して(ポリイミド前駆体塗布工程103)、140℃の熱風で乾燥し、その後、加熱炉内に設置して480℃まで段階的に徐々に昇温し、この温度で1分間保持して、溶媒の除去とイミド化を行った(加熱イミド化工程104)。
【0068】
次に、このフィルムを基材から引き剥がし、離型材成分をアセトンで洗浄(フィルム引き剥がし・洗浄工程105)することで、粗化面を有するポリイミドフィルム(粗化フィルム110)を作製した。このポリイミドフィルム(粗化フィルム110)の表面凹凸の値を図7に示す。さらに、このポリイミドフィルム(粗化フィルム110)において、粗化面の代表的な部分149×112μmの範囲を、(株)キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK-8500を用い測定レンジ0.02μm、白黒超深度で観察した。この観察の結果、得られた顕微鏡写真を図5に示す。また、この観察の結果、図5の顕微鏡写真上にA−Bで示す線に沿って、111.7μmの距離に渡り凹凸を計測した。その結果を図6に示す。
【0069】
(4)スパッタ成膜工程
前記で作製したポリイミドフィルムを150℃で20分間の予備加熱乾燥後、室温に戻し、プラズマエッチング用の真空チャンバ内の陰極に設置した。次に、この真空チャンバ内を10−4Paまで排気した後、酸素を10%含むアルゴンガスを導入して、全圧約0.2Pa付近でAC出力100Wを加え、フィルムの粗化面をプラズマエッチングした(エッチング工程121)。
【0070】
次に、Crと銅のターゲットが設置されたスパッタ装置内に、前記フィルムの粗化面がターゲット側となるように設置した。次にスパッタ装置の真空チャンバ内を10−4Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して、全圧約0.2Paとし、電力2kWを加えて、Cr、銅の順にフィルム上に成膜を行った(Crスパッタ、Cuスパッタ工程122、123)。ここで、Crの膜厚は50Å、銅の膜厚は2000Åとなるように成膜した。
【0071】
(5)メッキ成膜工程
上記で作製した銅被膜付きポリイミドフィルム上に、メッキ液として(株)ワールドメタル製、硫酸銅メッキ浴BMP−CUS(以下、メッキ液Bと記載する)を用いて電流密度2A/dm2で光沢銅被膜を約5μmメッキ(Cuメッキ工程124)し、フィルムと金属膜との密着強度に優れた極薄の 金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)130を作製した。
【0072】
(6)エッチング性評価工程
上記金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)をパターン間隔30μmにエッチング加工し(エッチングによる回路形成工程141)、それにより得た回路基板150へ無電解Snメッキをおこなった後に、電圧100Vを加えて絶縁抵抗値を測定したところ、1011Ω以上の高い絶縁抵抗値が得られた。
【0073】
(7)密着性評価
密着性の評価は、引き剥がし試験において銅金属膜の強度が必要なため、得られた金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)の銅金属膜の厚さを30μmまで厚く再メッキして行った。試験はJIS C6471の90゜方向引き剥がし試験に準じ、試料を180゜Cで加熱処理した後に行った。その結果、1.2〜1.5N/mm2と非常に高い密着強度が得られた。
【0074】
(実施例2)
実施例2では、実施例1における工程(1)において、銅基板として表面を研磨紙により研磨加工したものを用いた。次に、当該銅基板の表面へメッキ液Aを接触させ、電流密度5A/dm2で15秒間通電して、ここへNi膜を成膜し、表面凹凸が図10のような基材を作製した。さらに、工程(3)で得られるポリイミドフィルムの表面凹凸を図11のような値とし、他は実施例1と同様にして、金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を作製した。
【0075】
エッチング性能および密着性を、実施例1と同様に評価したところ、絶縁抵抗値は1011Ω以上、密着強度は0.9〜1.2N/mm2と高い値が得られた。
【0076】
(実施例3)
実施例3では、次のように作業を行った。
(1)粗化面化基材の製造工程
平均表面粗さRaが0.02μmのステンレス基板表面へ、下記メッキ液Bを接触させて、電流密度2A/dm2で通電し、光沢銅被膜を1μmメッキした。次に、当該光沢銅被膜上に前記メッキ液Aを接触させ、電流密度40A/dm2で15秒間通電することで、ヤケたニッケル被膜を形成し、さらに、再度メッキ液Aを用いて、電流密度5A/dm2で10秒間通電して表面凹凸を有する粗化面化基材を作製した。当該粗化面化基材の表面凹凸は、ほぼ図9の値と同等であった。
【0077】
(2)ポリイミド前駆体の製造工程
窒素気流下、重合槽中のN,N−ジメチルアセトアミド1800gへ、1,4−ジアミノベンゼン108gと、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物294gとを添加して撹拌し、ポリアミド酸溶液を作製した。
【0078】
(3)粗化面化ポリイミドフィルムの製造工程
前記で作製したポリアミド酸溶液を前記で作製した粗化面化基材上に塗布流延して140℃の熱風で乾燥し、その後加熱炉内に設置して480℃まで段階的に徐々に昇温し、この温度で1分間保持して溶媒の除去とイミド化を行った。
【0079】
次に、ステンレス基材と銅箔との接合面で、この銅箔付きフィルムを基材から引き剥がし、さらに硝酸水溶液に浸漬することにより銅箔のみを除去して、粗化面を有するポリイミドフィルムを作製した。当該粗化面を有するポリイミドフィルムの表面凹凸は、ほぼ図7の値と同等であった。
【0080】
(4)スパッタ成膜工程
前記で作製したポリイミドフィルムを150℃で20分間の予備加熱乾燥後、室温に戻し、プラズマエッチング用の真空チャンバ内の陰極に設置した。次にチャンバ内を10−4Paまで排気した後、酸素を10%含むアルゴンガスを導入して、全圧約0.2Pa付近でAC出力100Wを加えてフィルムの粗化面をプラズマエッチングした。
【0081】
次に、Crと銅のターゲットが設置されたスパッタ装置内に前記フィルムの粗化面がターゲット側となるように設置した。次に、スパッタ装置のチャンバ内を10−4Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して、全圧約0.2Paとし、電力2kWを加えて、Cr、銅の順にフィルム上に成膜を行った。ここで、Crの膜厚は50Å、銅の膜厚は2000Åとなるように成膜した。
【0082】
(5)メッキ成膜工程
上記で作製した銅被膜付きポリイミドフィルム上に、前記メッキ液Bを用いて電流密度2A/dm2で光沢銅被膜を約5μmメッキし、フィルムと金属膜との密着強度に優れた極薄の金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を作製した。
【0083】
(6)エッチング性能評価
上記金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を実施例1と同様に、パターン間隔30μmにエッチング加工し、無電解Snメッキ後に、電圧100Vを加えて絶縁抵抗値を測定したところ1011Ω以上の高い絶縁抵抗値が得られた。
【0084】
(7)密着性評価
密着性の評価は、引き剥がし試験で銅箔の強度が必要なため、実施例1と同様に、得られた金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)の銅箔の厚さを30μmまで厚く再メッキして行った。試験はJIS C6471の90゜方向引き剥がし試験に準じて試料を180℃で加熱処理した後に行った。その結果、1.2〜1.5N/mm2と非常に高い密着強度が得られた。
【0085】
(比較例1)
実施例1〜3と比較するために比較例に係る金属被覆基板を次の条件で作製した。
即ち、デュポン製ポリイミドフィルム(製品名カプトン)を用いて、酸素分圧20%の酸素と窒素の混合ガスを用い、AC出力100Wを加え40分間プラズマ処理を行い、図8の40分処理品と同等の表面凹凸を有するポリイミドフィルムを作製した。そして、他は実施例1と同様にして、金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を作製した。
【0086】
エッチング性能および密着性を実施例1と同様に評価したところ、絶縁抵抗値は1010Ω以上と高かったが、密着強度は0.4〜0.7N/mm2と低かった。よって、実施例1〜3のように金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を作製することにより、金属薄膜とプラスチックフィルムとの間に高い密着強度が確保できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の活用例として、様々な実装状況に対応可能なフレキシブル回路基板やフレキシブル配線板へ適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態例に係る金属被覆基板の製造方法の説明図である。
【図2】プラズマ照射されたポリイミドフィルムの白黒超深度による顕微鏡写真である。
【図3】図2の顕微鏡写真上にA−Bで示した線に沿った凹凸の計測結果である。
【図4】図2の顕微鏡写真上の任意領域における平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmの計測結果である。
【図5】実施例1に係る粗化面化処理を行ったポリイミドフィルムの白黒超深度による顕微鏡写真である。
【図6】図5の顕微鏡写真上にA−Bで示した線に沿った凹凸の計測結果である。
【図7】図5の顕微鏡写真上の任意領域における平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmの計測結果である。
【図8】プラズマ照射時間を変化させたときの任意領域における平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmの計測結果である。
【図9】実施例1に係る粗化面化基材における表面凹凸の値である。
【図10】実施例2に係る粗化面化基材における表面凹凸の値である。
【図11】実施例2に係る粗化面を有するポリイミドフィルムの表面凹凸の値である。
【符号の説明】
【0089】
101 基材表面粗化処理工程
102 ポリイミド前駆体準備工程
103 基材の粗化面にポリイミド前駆体を塗布する工程
104 加熱イミド化工程
105 フィルム引き剥がし・洗浄工程
110 粗化フィルム(粗化面を有するプラスチックフィルム)
122 Crスパッタ工程
123 Cuスパッタ工程
124 Cuメッキ工程
130 金属被覆基板
141 エッチングによる回路形成工程
150 回路基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に金属膜を被覆することで、フレキシブル回路基板、フレキシブル配線板、あるいはTABテープ等に用いられる金属被覆プラスチックフィルムなどを作製するのに適したプラスチックフィルム、そのプラスチックフィルムに金属の薄膜を被覆してなる金属被覆基板、及び、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルム上に金属を被覆してなる金属被覆基板は、金属被覆部分で回路を形成し、場合によっては、その回路上にICやコンデンサなどのマイクロチップを積載することで、携帯電話やデジタルカメラなどの電子機器を高密度実装化するための必須材料となっている。
【0003】
この種の金属被覆基板の金属としては、価格、加工性、電気的特性、耐マイグレーション性などの面から、銅が最も多く用いられている。また、基板材料であるプラスチックフィルムとしては、用途によって、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルムなどが用いられている。
【0004】
この金属被覆基板の製造方法としては、
(1)圧延法ないし電解法を用いて予め銅箔を作製し、接着剤でプラスチックフィルムに接合する方法、
(2)接着剤を介さず、プラスチックフィルムの前駆体を銅箔に塗布し、前記前駆体を重合させて接着させるキャスティング法(例えば、特許文献1参照)、
(3)熱可塑性プラスチックフィルムを銅箔と積層してラミネートするラミネート法(例えば、特許文献2参照)、
(4)プラスチックフィルムにスパッタなどで金属を薄く被覆し、その上にメッキで金属を所定の厚さまで被覆する蒸着メッキ法(例えば、特許文献3参照)
などが用いられている。
【0005】
しかしながら、上記の手法において、(1)の接着剤を用いた手法では、銅箔とプラスチックフィルムとの高温密着安定性が低いために、所定のチップ部品を高温接着処理が必要な半田材を用いて積層することができないという問題があった。
【0006】
また、(2)、(3)の接着剤を使用しないキャスティング法やラミネート法は、比較的高温密着性に優れているため、チップ部品を実装するような用途に広く用いられているが、例えば、携帯電話の屈曲部等の用途向けには更なる密着性の向上が望まれていた。また近年では、高密度実装化の要望が一層高まり、回路の高精細化対応のために、被覆金属をより薄くしたいとの要望が高まっている。
【0007】
この要望を満足するために、キャスティング法やラミネート法においては、なるべく薄い銅箔を用いてプラスチックフィルムをキャスト成膜したり、積層ラミネートしたりしているが、この銅箔として、薄いものを作製し接着することには限界がある。というのは、例えば、膜厚9μm以下の銅箔を電解法や圧延法で作製したとしても、貼り付け加工などの際にハンドリング性が悪く、皺などの発生が起こったりする問題がある。
【0008】
そこで、予め厚物の銅箔を貼り付けておき、後の工程で、薬品によるエッチング等により銅箔を薄く加工したり、予めバッファ層を積層しておき、積層後にバッファ層を引き剥がすなどして薄膜化を達成したりしている(例えば、特許文献4参照)。しかし、エッチング法では均一にエッチングする技術が難しいために生産性が低く、また、バッファ層を用いる方法では、2種以上の金属箔を積層することになるため、いずれもコストが高いものとなっている。さらに、得られる金属被膜とプラスチックフィルムとの密着性に関しても、十分な性能は得られていない。
【0009】
一方、(4)の蒸着メッキ法においては、比較的低コストで、薄い金属膜をプラスチックフィルム上に被覆することが可能となるが、プラスチックフィルムと被覆金属との接着安定性が圧倒的に劣っているという問題点があった。
【0010】
この問題点を解決する手段としては、
(5)蒸着メッキ前に、プラズマ処理によりプラスチックフィルム(例えば、ポリイミドフィルム)の表面を改質する手法、
が行われている。(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
【特許文献1】特開昭60−157286
【特許文献2】米国特許第4543295
【特許文献3】特開昭61−47015
【特許文献4】特開2001−30847
【非特許文献1】真空 第39巻 第1号(1996年発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
(5)に示した、蒸着メッキ前に、プラズマ処理によりプラスチックフィルムの表面を改質する手法により、蒸着メッキ前にプラスチックフィルム(例えば、ポリイミドフィルム)上へプラズマ処理を行うと、プラスチックフィルム中の化学結合が切断され(ポリイミドフィルムの場合は、ケトン基のC−CやC−N結合が切断される。)て極性基が形成され、これが被覆金属とイオン結合すると考えられる。
【0013】
ここで、このプラズマ処理においては、プラスチックフィルムの表面粗さも大きくなり、二乗平均粗さ(Rms)で200nm(0.2μm)付近まで粗化面化可能であることが示唆されている。そして、このプラスチックフィルムの粗化面化がアンカー効果を発揮し、上述した金属膜とプラスチックフィルムとの密着性向上の要因となるとも考えられる。しかしながら、当該プラスチックフィルムの二乗平均粗さRmsが約10nm以上となると、上述した金属膜とプラスチックフィルムとの密着性向上は飽和してしまっていることから(非特許文献1の図4参照。)、当該プラスチックフィルム表面の二乗平均粗さRmsと金属膜の密着強度との間には、相関が無いことが考察される。つまり、プラズマ処理によりプラスチックフィルム上を粗化面化する手法では密着強度の向上に格別の効果を得ることができないことが知られていた。
【0014】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、プラスチックフィルム上に、気相法により金属膜を形成するに当たり、コストアップを極力抑えながら金属とプラスチックフィルムとの密着強度を大幅に向上できる、基板部材としてのプラスチックフィルム、該プラスチックフィルムを使用した金属被覆基板、及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者等は、まずプラズマによる粗化面化処理が行われたプラスチックフィルム表面について研究を行った。具体的な研究内容として、例えば、(株)キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK-8500を用い、プラスチックフィルムとしてデュポン製のポリイミドフィルム(製品名カプトン)にプラズマを40分間照射して処理した表面の代表的な部分149×112μmの範囲を測定レンジ0.02μm、白黒超深度で観察した。この観察の結果、得られた顕微鏡写真を図2に示す。また、この観察の結果、図2の顕微鏡写真上にA−Bで示した線に沿って111.7μmの距離に渡り表面の凹凸を計測した。その結果を図3に示す。
【0016】
また、図2に示した測定範囲から20×20μmの領域を任意に5点選び、その各領域内における平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmを計測した。その計測結果の平均値を図4に示す。
【0017】
次に、プラズマ処理時間を上述した40分間から、20分間、5分間、プラズマ照射なし、と変化させた後、同様に、測定範囲内の任意5領域におけるRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmを各々計測した。その計測結果の平均値を図8に示す。
【0018】
これらの計測結果から、本発明者らは以下のような知見を得た。
すなわち、プラスチックフィルム表面を粗面化するためにプラズマ照射による処理を行った場合、平均粗さRaを大きくするためにはプラズマ照射時間を延長する。すると、プラスチックフィルム表面には、深い凹と高い凸とを有する凹凸が寡占的に生成することが判明した。そして、この深い凹と高い凸とを有する凹凸は、アンカーとしての効果を発揮し得ないものと考えられる。そして、プラスチックフィルム表面における、深い凹と高い凸とを有する凹凸の存在割合は、平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比(Ry/Ra)で表現することができる。このRy/Raが、例えば80以上となった場合は、深い凹と高い凸とを有する凹凸の寡占的状態が過剰となり、当該凹凸がアンカーとしての役割を果たすことができず、金属膜とプラスチックフィルムとの密着性が飽和してしまう原因であることに想到した。
【0019】
上述の推察に基づき、本発明者らは、金属とプラスチックフィルムとの密着強度を大幅に向上できるプラスチックフィルム表面の粗化面の構造とは、表面平均粗さRaが好ましくは0.09μm以上のとき、Ry/Raが40以下のものであることを見出した。
なお、プラスチックフィルム表面の表面平均粗さRaは、0.09μm以上であれば所定の密着性が得られるが、1μmを超えると、プラスチックフィルム表面上に被覆された金属膜をエッチングして回路パターンを形成する際に、当該エッチング精度が低下してしまう。
【0020】
次に、本発明者らは、上述の、表面の表面平均粗さRaが好ましくは0.09μm以上で、Ry/Raが好ましくは40以下の構造を持った粗化面を有するプラスチックフィルムの製造方法を研究した。
【0021】
多数の試行錯誤において、本発明者らは、プラズマ処理によらないプラスチックフィルムの粗化面化処理方法をも検討したが、平滑なプラスチックフィルムを形成した後、サンドブラスト等を用いて、表面を粗化面化する手法では、やはり極端な凹凸部や亀裂が発生し、所定の粗さを有する粗化面を得ることが難しかった。そして、さらに検討を重ねた結果、プラスチックフィルムの形成時に、所定の粗化面を有する基材上で当該プラスチックフィルムを形成することにより、上述の構造を持った粗化面を有するプラスチックフィルムを製造できることを見出した。
【0022】
そして、この所定の粗化面を有する基材上で形成したプラスチックフィルムの粗化面に金属膜を被覆したところ、プラズマ処理による粗化面化処理とは異なって、プラスチックフィルムと金属膜との密着強度が著しく向上していることを見出し、本発明を成すことができた。つまり、本願発明は、以下の構成を有する。
【0023】
第1の構成は、少なくとも片面の表面平均粗さRaが0.09μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であることを特徴とするプラスチックフィルムである。
【0024】
第2の構成は、第1の構成に記載のプラスチックフィルムに、金属膜が被覆されたものであることを特徴とする金属被覆基板である。
【0025】
第3の構成は、第2の構成に記載の金属被覆基板の金属膜上に、更にメッキ法による金属膜が積層されていることを特徴とする金属被覆基板である。
【0026】
第4の構成は、基材の表面を粗化面化する基材表面粗化面化処理工程と、
該基材表面粗化面処理工程により得られた基材の粗化面にプラスチックフィルムまたはその前駆体を接触させることにより、前記基材の粗化面に対応した粗化面を有するプラスチックフィルムを形成する粗化フィルム形成工程と、を備えることを特徴とするプラスチックフィルムの製造方法である。
【0027】
第5の構成は、第4の構成に記載のプラスチックフィルムの製造方法において、前記基材表面粗化面化処理工程とは、前記基材の表面を表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であるように粗化面化する基材表面粗化面化処理工程であることを特徴とするプラスチックフィルムの製造方法である。
【0028】
第6の構成は、第4または5の構成に記載のプラスチックフィルムの製造方法により製造されたプラスチックフィルムの前記粗化面上へ、気相法により金属膜を形成する、金属膜形成工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0029】
第7の構成は、第6の構成に記載の金属被覆基板の製造方法により製造された金属被覆基板の前記金属膜上へ、メッキ法により同種または異種の金属膜を積層形成するメッキ成膜工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【0030】
第8の構成は、第6または第7の構成に記載の金属被覆基板の製造方法により製造された金属被覆基板の前記金属膜にエッチング加工を施すことにより、所定の回路を形成することを特徴とする金属被覆基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0031】
第1の構成を有するプラスチックフィルムは、金属膜が被覆される表面の表面平均粗さRaを0.09μm以上とし、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raを40以下としたことで、金属膜とプラスチックフィルムとの密着性を大幅に向上させることができるプラスチックフィルムである。
【0032】
第2の構成を有する金属被覆基板は、当該金属被覆基板を構成する金属膜とプラスチックフィルムとの密着性が大幅に向上しているため、金属膜とプラスチックフィルムとの密着強度が高い金属被覆基板である。
【0033】
第3の構成を有する金属被覆基板は、金属膜の上に更にメッキ法による金属膜を積層しているので、金属膜の厚さが自由に効率良く制御された金属被覆基板である。
【0034】
第4の構成を有するプラスチックフィルムの製造方法によれば、予め基材を粗化面化し、その基材の粗化面にプラスチックフィルムまたはその前駆体を接触させることで、粗化面を有するプラスチックフィルムを形成することができる。
【0035】
第5の構成を有するプラスチックフィルムの製造方法によれば、予め基材の表面を表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であるように粗化面化したことで、その基材の粗化面にプラスチックフィルムまたはその前駆体を接触させることで、所定の粗化面を有するプラスチックフィルムを再現性良く形成することができる。
第6の構成を有する金属被覆基板の製造方法によれば、第4または5の構成により製造されたプラスチックフィルムの粗化面上へ、気相法により金属膜を形成するので、金属被覆とプラスチックフィルムとの密着性が大幅に高められた金属被覆基板を容易に得ることができる。
【0036】
第7の構成を有する金属被覆基板の製造方法によれば、第6の構成により製造された金属被覆基板の金属膜の上に同種または異種の金属の薄膜をメッキ法により積層形成するので金属膜の厚さを自由に効率良く制御することができる。
【0037】
第8の構成を有する金属被覆基板の製造方法によれば、第6または第7の構成により製造された金属被覆基板にエッチング加工を施すことにより、金属膜部分により所定の回路を形成するので、例えば、フレキシブル回路基板やフレキシブル配線板として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態例に係るプラスチックフィルムは、基材の粗化面に接触させることで形成したプラスチックフィルムであり、金属被覆基板は、当該プラスチックフィルムの粗化面に気相法により金属膜を被覆し、所望により該金属膜の上へ更にメッキ法により金属薄膜を積層形成したものである。
【0039】
実施形態に係るプラスチックフィルムを得るには、まず、表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下である粗化面を有する基材を用意する。
【0040】
このような粗さの粗化面を有する基材の製法としては、上記表面粗さの範囲を創出できる方法であれば、どのような方法を用いても良いが、例えば、基材である金属表面に高電流密度のメッキをおこない、所謂「ヤケたメッキ条件」として、粗い金属粒を付加した基材や、基材である金属表面を機械研磨により所定の粗さに荒らした基材を用いることができる。基材の形状としては、プラスチックフィルムを形成できる形状であれば、例えば、板状やロール状(楕円ロール状も可)などいずれの形状であっても良い。
【0041】
そして、このように粗化面化した基材の粗化面にプラスチックフィルムの前駆体を塗布して、粗化面化処理面を有するプラスチックフィルムを作製する。例えば、プラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを用いる場合は、基材の粗化面に、ポリアミド酸を塗布し、これを加熱イミド化しながら、基材から順次フィルムを引き剥がしたり、特にポリアミド酸をゲルフィルム化してなるポリイミドフィルム前駆体をロール形状の基材の間を押し出したりすことにより、基材の粗化面をフィルムに転写して、粗化面を有するプラスチックフィルムを作製する。
【0042】
また、両面が粗化面化されたプラスチックフィルムを所望する場合は、まず第1の粗化面化した基材にプラスチックの前駆体を塗布し、第2の粗化面化した基材で該プラスチックの前駆体を挟み込む。このとき第1および第2の粗化面化した基材の間隔をプラスチックフィルムの所望の厚さと一致させる。挟み込みが完了したら、熱的および/または化学的処理により該プラスチックの前駆体を重合させた後に、両基材を適宜な方法で取り外すことで、両面が粗化面化されたプラスチックフィルムを得ることができる。
【0043】
あるいは、まずプラスチックの前駆体をゲルフィルム化した後、該ゲルフィルムを第1および第2の粗化面化した基材で挟み込む。次に、該両基材の間隔をプラスチックフィルムの所望の厚さと一致させ、熱的および/または化学的処理により該プラスチックの前駆体を重合させた後に、両基材を適宜な方法で取り外すことで、両面が粗化面化されたプラスチックフィルムを得ることとしても良い。
【0044】
また、異なる、粗化面化プラスチックフィルムの製法として、金属の表面に電解メッキ法などで金属粒を付与して、表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下である粗化面化した金属箔を基材として用意し、この金属箔上に硬化前の前駆体を塗布して、その後硬化させたり、この金属箔に硬化前の前駆体を積層し、加熱ラミネート化させたりして、前駆体を硬化し、その後、この金属箔をエッチング除去することで、粗化面を有するプラスチックフィルムを製造する方法も採ることができる。
【0045】
上述の粗化面化を行った結果、表面平均粗さRaが0.09μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下である粗化面を有するプラスチックフィルムを得ることができた。そして、当該粗化面上に、金属膜として例えば銅の膜を被覆した場合、銅張り絶縁基板として求められる密着性を確保することができた。また、携帯電話の屈曲部などの、屈曲特性に高い信頼性が求められる用途向けとして、後述する密着性試験おいて1.0N/mm2以上の熱安定的な密着強度を得る必要がある場合には、平均粗さRaを0.2μm以上とするのが望ましいことも判明した。
【0046】
次に、このようにして得た粗化面を有するプラスチックフィルムの粗化面に金属を被覆することにより、特に高温密着性の高い金属被覆基板を得ることができる。
これは、プラスチックフィルムの形成時に、所定の粗化面を有する基材上でプラスチックフィルムを形成することで表面を粗化面化した場合には、深い凹と高い凸とを有する凹凸が寡占的に存在しているのではなく、比較的凹凸が緩やかで均一な凹凸面が形成され、プラズマ処理による粗化面化とは異なって、表面粗さによるアンカー効果が著しく向上する為と考えられる。
【0047】
金属を被覆する方法としては、気相法、液相法、無電解メッキ法、およびこれらを複合した手法など、いずれの手法も用いることができるが、屈曲の繰り返しに対する耐久性や、はんだ処理などに対する高い耐熱性が必要な用途向けには、これらのうち、気相法の一つであるスパッタ法を第1層目に行うことで、高い密着性が得られることから最も望ましい。
【0048】
そして、スパッタ法で第1層(シード層)目を形成した後、更に電解ないし無電解のメッキ法で、所定の厚さまで金属膜を成膜する手法を採ることにより、生産性良く、金属膜を被覆することが可能となる。
【0049】
なお、必要に応じて、第1層成膜前の前処理として、予めプラスチックフィルムにコロナ放電やグロー放電等の放電処理を施して、フィルム表面に官能基を付加すると、密着強度をより高めることができ好ましい。
【0050】
粗化面化したプラスチックフィルム上に被覆する金属としては、価格や加工性などの点から銅ないし銅を主相とする燐青銅、黄銅等の耐酸化性合金等が望ましく、この他にも例えば、Al、ステンレスなども使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
また、プラスチックフィルム上に被覆する第1層目の最初の金属としては、たとえば、Cr、Ni、Mo、W、V、Ti、Si、Fe、Alや、これらを主とする合金を使用するのが好ましい。
【0052】
この場合、まず、これらの第1層目の最初の金属をシード層として薄く被覆し、その後に、当該最初の金属上へ、銅ないし銅を主相とする燐青銅、黄銅等の耐酸化性合金等を、第2番目の金属として被覆する。この構成を採ると、密着力の高温安定性を更に向上させることができる。ここで、後工程である回路形成の際のエッチング性を良好にするために、第1層目の金属の厚さは、おおよそ10〜500Åの範囲に設定するのが望ましく、さらに望ましい範囲は40〜60Åである。当該第1層目の第2番目の金属である銅層ないし銅を主相とする耐酸化性合金層の膜厚は、1000Å以上に設定するのが望ましいが、生産性の観点からは1000〜3000Åの範囲がさらに望ましい。
【0053】
上述したように、プラスチックフィルム上へ第1層目の最初の金属、銅層ないし銅を主相とする耐酸化性合金層等を、スパッタ法等を用いて設けた後に、この層の上へ更にメッキ法等にて所定(例えば、銅または銅合金)の金属膜を被覆する場合、この所定の金属膜の膜厚は、後工程の要求により自在に設定することができる。例えば、当該金属膜に大きな電流を流したいのであれば、数μm〜数十μmとすることもできる。さらに、両面に金属被覆が施された基板を製造する際には、該金属被覆処理を片面ずつ行っても良いし、両面同時に行うこともできる。
【0054】
プラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを用いる場合は、その前駆体としては、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の略等モル量を、有機溶媒中で反応させて作製されたポリアミド酸の溶液を用いることが望ましい。
【0055】
前記テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、m(p)−ターフェニル−3,4,3‘,4’−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物など、およびこれらから選ばれる2種以上の混合物が好個に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
また、ジアミン成分としては、例えば、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルメタン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルスルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフィド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン(n=3,4,5)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、1,2−ビス[2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ]エタン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス〔4−(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,6−ジヒドロキシ−1,3−フェニレンジアミン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、2,2’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−メトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリドなどの芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、キシレンジアミンなど、および、これらから選ばれる2種以上の混合物が好個に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
前記のポリアミド酸製造に使用できる有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、クレゾ−ル類などが好個に使用できる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0058】
また、閉環剤としては、ジカルボン酸無水物や、2種以上のジカルボン酸無水物の混合物、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、ベータピコリン等の複素環式第3級アミンなど、およびこれら脂肪族第3級アミンや複素環式第3級アミンなどの2種以上の混合物を好個に使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
また、本願発明に係る金属被覆基板において、被覆金属膜とプラスチックフィルムとの間の線膨張係数差の割合を、±40%以下とすることで、金属被覆時におけるプラスチックフィルムのカールや、該金属被覆基板に熱履歴などを加えた場合の応力を低減できることから、該金属被覆基板の熱安定性が向上でき好ましい。そのような金属膜とプラスチックフィルムとの組み合わせ例として、例えば、金属膜が銅の場合、銅は300Kにおいて16.6×10−6/Kの線膨張係数を有するので、プラスチックフィルムは線膨張係数が10〜23×10−6/Kのものを選択することが望ましい。さらに、プラスチックフィルムの引っ張り弾性率として、1000MPa以上のものを選択することで、高信頼性の金属被覆基板を得ることが出来る。
【0060】
ここで、引っ張り弾性率が1000MPa以上で、線膨張係数が10〜23×10−6/Kであるプラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを製造するのに適したジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の組み合わせとしては、例えば、テトラカルボン酸二無水物としてビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジアミン成分として1,4−ジアミノベンゼンを主成分としたものを挙げることができる。これらの成分は、何れも各々ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物として50%以上含まれていることが望ましく、その他の成分は、前述したジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物の1種以上と置き換えることができる。
【0061】
また、所望により、まずポリアミド酸等を基材に塗布し乾燥させて自己支持性を有するゲルフィルムを作製し、次に、このフィルムの端を固定して縦横に引き延ばすことで、所定の伸延処理を行い、このフィルムの線膨張係数を被覆する金属の線膨張係数に近づけることができる。なお、この処理を行う場合は、まず、表面粗さ(Ra)0.02μm以下の平滑な基材上でゲルフィルムを作製し、引き剥がして伸延処理を行い、その後、粗化面化した基材上に押し当てて、触媒法ないしは加熱法およびこれらの複合法でイミド化を行うことが好ましい。
【0062】
次に実施形態としての金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を得るための具体的な製造方法の実施例について、プラスチックフィルムとしてポリイミドフィルムを用いる場合を例として説明する。図1は概略的な工程図であり、図中の工程101〜105で粗化面を有するプラスチックフィルム110を作製し、その上で工程121〜124を実施することで金属被覆基板130を作製し、更にその金属被覆基板に工程141を実施することで回路基板150を得ることを示している。
【0063】
なお、本実施形態において、表面粗さの計測には(株)キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK-8500を用い、粗化面化フィルム110の粗化面において、代表的な部分を測定範囲とし、149×112μmの範囲を測定レンジ0.02μmにて白黒超深度で観察した。次に、この測定範囲から任意に20×20μmの範囲を5点選び、その範囲内の平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmを各々計測し、その平均値を求め測定値とした。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
(1)粗化面化基材の製造工程(基材表面粗化面化処理101)
二乗平均表面粗さが0.02μm以下で厚さが0.3mmの銅基板に、下記メッキ液Aを用いて、電流密度40A/dm2で15秒間通電して成膜することにより、ヤケたニッケル被膜を形成した。次に、同じメッキ液Aを用いて、電流密度5A/dm2で5秒間通電し成膜して粗化面化基材を作製した。当該粗化面化基材における表面凹凸の値を、図9に示す。
【0065】
メッキ液A:スルファミン酸ニッケル Ni含有率50g/L
塩化ニッケル Ni含有率15g/L
ホウ酸 30g/L
純水 残部
【0066】
(2)ポリイミド前駆体の製造工程(ポリイミド前駆体準備工程102)
窒素気流下、重合槽中のN,N−ジメチルアセトアミド1800gへ、1,4−ジアミノベンゼン108gと、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物294gとを添加して撹拌し、ポリアミド酸溶液を作製した。
【0067】
(3)粗化面化ポリイミドフィルムの製造工程
前記で作製した粗化面化基材表面にフッ素系離型剤である(有)ブレニー技研製リケイザイNo.10を塗布、乾燥させた後に、前記で作製したポリアミド酸溶液を塗布流延して(ポリイミド前駆体塗布工程103)、140℃の熱風で乾燥し、その後、加熱炉内に設置して480℃まで段階的に徐々に昇温し、この温度で1分間保持して、溶媒の除去とイミド化を行った(加熱イミド化工程104)。
【0068】
次に、このフィルムを基材から引き剥がし、離型材成分をアセトンで洗浄(フィルム引き剥がし・洗浄工程105)することで、粗化面を有するポリイミドフィルム(粗化フィルム110)を作製した。このポリイミドフィルム(粗化フィルム110)の表面凹凸の値を図7に示す。さらに、このポリイミドフィルム(粗化フィルム110)において、粗化面の代表的な部分149×112μmの範囲を、(株)キーエンス製の超深度形状測定顕微鏡VK-8500を用い測定レンジ0.02μm、白黒超深度で観察した。この観察の結果、得られた顕微鏡写真を図5に示す。また、この観察の結果、図5の顕微鏡写真上にA−Bで示す線に沿って、111.7μmの距離に渡り凹凸を計測した。その結果を図6に示す。
【0069】
(4)スパッタ成膜工程
前記で作製したポリイミドフィルムを150℃で20分間の予備加熱乾燥後、室温に戻し、プラズマエッチング用の真空チャンバ内の陰極に設置した。次に、この真空チャンバ内を10−4Paまで排気した後、酸素を10%含むアルゴンガスを導入して、全圧約0.2Pa付近でAC出力100Wを加え、フィルムの粗化面をプラズマエッチングした(エッチング工程121)。
【0070】
次に、Crと銅のターゲットが設置されたスパッタ装置内に、前記フィルムの粗化面がターゲット側となるように設置した。次にスパッタ装置の真空チャンバ内を10−4Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して、全圧約0.2Paとし、電力2kWを加えて、Cr、銅の順にフィルム上に成膜を行った(Crスパッタ、Cuスパッタ工程122、123)。ここで、Crの膜厚は50Å、銅の膜厚は2000Åとなるように成膜した。
【0071】
(5)メッキ成膜工程
上記で作製した銅被膜付きポリイミドフィルム上に、メッキ液として(株)ワールドメタル製、硫酸銅メッキ浴BMP−CUS(以下、メッキ液Bと記載する)を用いて電流密度2A/dm2で光沢銅被膜を約5μmメッキ(Cuメッキ工程124)し、フィルムと金属膜との密着強度に優れた極薄の 金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)130を作製した。
【0072】
(6)エッチング性評価工程
上記金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)をパターン間隔30μmにエッチング加工し(エッチングによる回路形成工程141)、それにより得た回路基板150へ無電解Snメッキをおこなった後に、電圧100Vを加えて絶縁抵抗値を測定したところ、1011Ω以上の高い絶縁抵抗値が得られた。
【0073】
(7)密着性評価
密着性の評価は、引き剥がし試験において銅金属膜の強度が必要なため、得られた金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)の銅金属膜の厚さを30μmまで厚く再メッキして行った。試験はJIS C6471の90゜方向引き剥がし試験に準じ、試料を180゜Cで加熱処理した後に行った。その結果、1.2〜1.5N/mm2と非常に高い密着強度が得られた。
【0074】
(実施例2)
実施例2では、実施例1における工程(1)において、銅基板として表面を研磨紙により研磨加工したものを用いた。次に、当該銅基板の表面へメッキ液Aを接触させ、電流密度5A/dm2で15秒間通電して、ここへNi膜を成膜し、表面凹凸が図10のような基材を作製した。さらに、工程(3)で得られるポリイミドフィルムの表面凹凸を図11のような値とし、他は実施例1と同様にして、金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を作製した。
【0075】
エッチング性能および密着性を、実施例1と同様に評価したところ、絶縁抵抗値は1011Ω以上、密着強度は0.9〜1.2N/mm2と高い値が得られた。
【0076】
(実施例3)
実施例3では、次のように作業を行った。
(1)粗化面化基材の製造工程
平均表面粗さRaが0.02μmのステンレス基板表面へ、下記メッキ液Bを接触させて、電流密度2A/dm2で通電し、光沢銅被膜を1μmメッキした。次に、当該光沢銅被膜上に前記メッキ液Aを接触させ、電流密度40A/dm2で15秒間通電することで、ヤケたニッケル被膜を形成し、さらに、再度メッキ液Aを用いて、電流密度5A/dm2で10秒間通電して表面凹凸を有する粗化面化基材を作製した。当該粗化面化基材の表面凹凸は、ほぼ図9の値と同等であった。
【0077】
(2)ポリイミド前駆体の製造工程
窒素気流下、重合槽中のN,N−ジメチルアセトアミド1800gへ、1,4−ジアミノベンゼン108gと、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物294gとを添加して撹拌し、ポリアミド酸溶液を作製した。
【0078】
(3)粗化面化ポリイミドフィルムの製造工程
前記で作製したポリアミド酸溶液を前記で作製した粗化面化基材上に塗布流延して140℃の熱風で乾燥し、その後加熱炉内に設置して480℃まで段階的に徐々に昇温し、この温度で1分間保持して溶媒の除去とイミド化を行った。
【0079】
次に、ステンレス基材と銅箔との接合面で、この銅箔付きフィルムを基材から引き剥がし、さらに硝酸水溶液に浸漬することにより銅箔のみを除去して、粗化面を有するポリイミドフィルムを作製した。当該粗化面を有するポリイミドフィルムの表面凹凸は、ほぼ図7の値と同等であった。
【0080】
(4)スパッタ成膜工程
前記で作製したポリイミドフィルムを150℃で20分間の予備加熱乾燥後、室温に戻し、プラズマエッチング用の真空チャンバ内の陰極に設置した。次にチャンバ内を10−4Paまで排気した後、酸素を10%含むアルゴンガスを導入して、全圧約0.2Pa付近でAC出力100Wを加えてフィルムの粗化面をプラズマエッチングした。
【0081】
次に、Crと銅のターゲットが設置されたスパッタ装置内に前記フィルムの粗化面がターゲット側となるように設置した。次に、スパッタ装置のチャンバ内を10−4Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して、全圧約0.2Paとし、電力2kWを加えて、Cr、銅の順にフィルム上に成膜を行った。ここで、Crの膜厚は50Å、銅の膜厚は2000Åとなるように成膜した。
【0082】
(5)メッキ成膜工程
上記で作製した銅被膜付きポリイミドフィルム上に、前記メッキ液Bを用いて電流密度2A/dm2で光沢銅被膜を約5μmメッキし、フィルムと金属膜との密着強度に優れた極薄の金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を作製した。
【0083】
(6)エッチング性能評価
上記金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を実施例1と同様に、パターン間隔30μmにエッチング加工し、無電解Snメッキ後に、電圧100Vを加えて絶縁抵抗値を測定したところ1011Ω以上の高い絶縁抵抗値が得られた。
【0084】
(7)密着性評価
密着性の評価は、引き剥がし試験で銅箔の強度が必要なため、実施例1と同様に、得られた金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)の銅箔の厚さを30μmまで厚く再メッキして行った。試験はJIS C6471の90゜方向引き剥がし試験に準じて試料を180℃で加熱処理した後に行った。その結果、1.2〜1.5N/mm2と非常に高い密着強度が得られた。
【0085】
(比較例1)
実施例1〜3と比較するために比較例に係る金属被覆基板を次の条件で作製した。
即ち、デュポン製ポリイミドフィルム(製品名カプトン)を用いて、酸素分圧20%の酸素と窒素の混合ガスを用い、AC出力100Wを加え40分間プラズマ処理を行い、図8の40分処理品と同等の表面凹凸を有するポリイミドフィルムを作製した。そして、他は実施例1と同様にして、金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を作製した。
【0086】
エッチング性能および密着性を実施例1と同様に評価したところ、絶縁抵抗値は1010Ω以上と高かったが、密着強度は0.4〜0.7N/mm2と低かった。よって、実施例1〜3のように金属被覆基板(銅張りフレキシブル基板)を作製することにより、金属薄膜とプラスチックフィルムとの間に高い密着強度が確保できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の活用例として、様々な実装状況に対応可能なフレキシブル回路基板やフレキシブル配線板へ適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態例に係る金属被覆基板の製造方法の説明図である。
【図2】プラズマ照射されたポリイミドフィルムの白黒超深度による顕微鏡写真である。
【図3】図2の顕微鏡写真上にA−Bで示した線に沿った凹凸の計測結果である。
【図4】図2の顕微鏡写真上の任意領域における平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmの計測結果である。
【図5】実施例1に係る粗化面化処理を行ったポリイミドフィルムの白黒超深度による顕微鏡写真である。
【図6】図5の顕微鏡写真上にA−Bで示した線に沿った凹凸の計測結果である。
【図7】図5の顕微鏡写真上の任意領域における平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmの計測結果である。
【図8】プラズマ照射時間を変化させたときの任意領域における平均粗さRa、最大凹凸高さRy、10点平均粗さRz、二乗平均粗さRsmの計測結果である。
【図9】実施例1に係る粗化面化基材における表面凹凸の値である。
【図10】実施例2に係る粗化面化基材における表面凹凸の値である。
【図11】実施例2に係る粗化面を有するポリイミドフィルムの表面凹凸の値である。
【符号の説明】
【0089】
101 基材表面粗化処理工程
102 ポリイミド前駆体準備工程
103 基材の粗化面にポリイミド前駆体を塗布する工程
104 加熱イミド化工程
105 フィルム引き剥がし・洗浄工程
110 粗化フィルム(粗化面を有するプラスチックフィルム)
122 Crスパッタ工程
123 Cuスパッタ工程
124 Cuメッキ工程
130 金属被覆基板
141 エッチングによる回路形成工程
150 回路基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面の表面平均粗さRaが0.09μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であることを特徴とするプラスチックフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックフィルムに、金属膜が被覆されたものであることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項3】
請求項2に記載の金属被覆基板の金属膜上に、更にメッキ法による金属膜が積層されていることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項4】
基材の表面を粗化面化する基材表面粗化面化処理工程と、
該基材表面粗化面化処理工程により得られた基材の粗化面にプラスチックフィルムまたはその前駆体を接触させることにより、前記基材の粗化面に対応した粗化面を有するプラスチックフィルムを形成する粗化面化フィルム形成工程と、を備えることを特徴とするプラスチックフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプラスチックフィルムの製造方法において、前記基材表面粗化面化処理工程とは、前記基材の表面を表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であるように粗化面化する基材表面粗化面化処理工程であることを特徴とするプラスチックフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のプラスチックフィルムの製造方法により製造されたプラスチックフィルムの前記粗化面上へ、気相法により金属膜を形成する、金属膜形成工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属被覆基板の製造方法により製造された金属被覆基板の前記金属膜上へ、メッキ法により同種または異種の金属膜を積層形成するメッキ成膜工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の金属被覆基板の製造方法により製造された金属被覆基板の前記金属膜にエッチング加工を施すことにより、所定の回路を形成することを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項1】
少なくとも片面の表面平均粗さRaが0.09μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であることを特徴とするプラスチックフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックフィルムに、金属膜が被覆されたものであることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項3】
請求項2に記載の金属被覆基板の金属膜上に、更にメッキ法による金属膜が積層されていることを特徴とする金属被覆基板。
【請求項4】
基材の表面を粗化面化する基材表面粗化面化処理工程と、
該基材表面粗化面化処理工程により得られた基材の粗化面にプラスチックフィルムまたはその前駆体を接触させることにより、前記基材の粗化面に対応した粗化面を有するプラスチックフィルムを形成する粗化面化フィルム形成工程と、を備えることを特徴とするプラスチックフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプラスチックフィルムの製造方法において、前記基材表面粗化面化処理工程とは、前記基材の表面を表面平均粗さRaが0.05μm以上であり、表面平均粗さRaと最大凹凸高さRyとの比Ry/Raが40以下であるように粗化面化する基材表面粗化面化処理工程であることを特徴とするプラスチックフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のプラスチックフィルムの製造方法により製造されたプラスチックフィルムの前記粗化面上へ、気相法により金属膜を形成する、金属膜形成工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属被覆基板の製造方法により製造された金属被覆基板の前記金属膜上へ、メッキ法により同種または異種の金属膜を積層形成するメッキ成膜工程を備えることを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の金属被覆基板の製造方法により製造された金属被覆基板の前記金属膜にエッチング加工を施すことにより、所定の回路を形成することを特徴とする金属被覆基板の製造方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図5】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図5】
【公開番号】特開2006−1185(P2006−1185A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181187(P2004−181187)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】
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