説明

プラズマ処理用トレイ及びプラズマ処理装置

【課題】吸着力を高めたプラズマ処理用トレイ及びこのようなトレイを備えたプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】本発明のプラズマ処理用トレイ10は、化合物半導体から成る被処理基板を、静電気力を用いて載置部に静電吸着させてプラズマ処理するプラズマ処理装置10において用いられるものであり、体積抵抗率が107〜1013Ω・cmのトレイからなる。トレイは導電材料を分散させた窒化アルミニウム材料から成ることが好ましい。通常の窒化アルミニウムの体積抵抗率は1014Ω・cm程度であり、本発明のトレイは、通常の窒化アルミニウム等に炭化チタンや炭素繊維等の導電材料を含有させることで得ることができる。この場合、導電材料の含有量を調整することにより、窒化アルミニウム材料の体積抵抗率を調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気力を用いて基板を載置部に静電吸着させるためのプラズマ処理用トレイ及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中で基板にプラズマ処理等の表面処理を行う場合、基板をトレイに載せて処理することがある。特に複数の基板を同時に処理する場合には、これら複数の基板をトレイに載せて表面処理を行う方法が採用される。
プラズマ処理等の表面処理では、基板の表面にラジカルやイオンが到達して基板表面が処理されるときに熱が発生するため、基板の温度が上昇する。基板温度が高くなると、基板上に形成された電子回路が破壊されたり、基板表面に設けられたフォトレジストが損傷を受けたりする。そこで、従来は、基板の載置部に冷却媒体を流す構造を設け、基板で発生した熱を、冷却媒体を介して外部に放出し基板を冷却するようにしている。
【0003】
真空中で表面処理を行う表面処理装置では基板で発生した熱を効率的に外部に放出しにくい。特に、基板をトレイに載せて処理する場合には、トレイと基板、トレイと載置部との間に微小な隙間が生じることは避けられず、基板で発生した熱が冷却媒体に伝わりにくい。
そこで、基板とトレイとの間に熱伝導シート(特許文献1、2)やメカチャック(特許文献3)を設けて両者の熱伝導率の向上を図ったり、静電チャックに吸着されるトレイ(特許文献3、4)を用いることでトレイと載置部の間の熱伝導性の向上を図ったりしている。
【0004】
静電チャックは、トレイが載置される載置部の誘電層の下に電極を設けたものである。前記電極に直流電圧が印加されると、誘電層とその上に載置されたトレイの間に静電気力が発生し、この静電気力によってトレイは誘電層に吸着される。
静電チャックに固着されるためには、トレイがアルミニウムなどの金属製であることが好ましい。ところが、化合物半導体基板をプラズマ処理する場合、処理中にトレイから生じる金属ラジカル等によって基板が汚染されてしまい、得られたチップの電気特性が低下することがある。このため、一般に、化合物半導体基板の場合にはエッチングされにくいアルミナや二酸化ケイ素、窒化アルミニウムなどのセラミック製のトレイが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-201404号公報
【特許文献2】特開2009-238869号公報
【特許文献3】特開2002-43404号公報
【特許文献4】特開平3-3250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この場合、セラミック製トレイの静電気力による吸着力を強めるためにトレイ内に金属部材を設けることが行われている(特許文献3,4)。ところが、トレイ内に金属部材を設けると、プラズマ処理中に金属部材で放電が生じたり、金属ラジカル等が生じたりする。また、金属部材が高温となって変形し、トレイから剥がれるという問題があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、金属部材を用いることなく静電気力による吸着力を高めることができるプラズマ処理用トレイ及びこのようなトレイを備えたプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本願の第1発明は、化合物半導体から成る被処理基板を、静電気力を用いて載置部に静電吸着させてプラズマ処理するプラズマ処理装置において、前記被処理基板を載置するプラズマ処理用トレイであって、
前記トレイの体積抵抗率が107〜1013Ω・cmであることを特徴とする。
【0009】
また、本願の第2発明は、化合物半導体から成る被処理基板が載置されるトレイと、
前記被処理基板が載置されたトレイが載置される載置部と、
前記被処理基板を前記載置部に静電吸着させる静電チャックと、
前記載置部に設けられた前記トレイを介して前記被処理基板の温度を制御する温度制御機構とを備えるプラズマ処理装置において、
前記トレイの体積抵抗率が107〜1013Ω・cmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
セラミック系のプラズマ処理用トレイの材料として、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム(AlN)が知られているが、熱伝導性が優れている点で炭化珪素や窒化アルミニウムが好ましく、特に窒化アルミニウムが好ましい(炭化珪素の熱伝導率:150 W/m・K、窒化珪素の熱伝導率:13 W/m・K、アルミナの熱伝導率:30 W/m・K、窒化アルミニウムの熱伝導率:160 W/m・K)。
また、少なくとも表層が窒化ガリウムで構成された被処理物を、塩素ガスをプラズマ状態に励起することによりエッチングするドライエッチング方法においては、エッチング反応室内に配置される前記被処理基板を搬送するためのトレイの構成部材の少なくとも一部に窒化アルミニウムを含む物質を用いることが好ましい。このようなトレイを用いることにより、被処理物をエッチングするときに該エッチング面に残渣や多数のピラー(柱状物)やエッチピット(穴)が発生せず平滑なエッチング面が得られる。窒化アルミニウムからプラズマ処理用トレイを形成すれば、基板で発生した熱を効率よくプラズマ処理用トレイに伝達させることができることに加え、少なくとも表層が窒化ガリウムで構成された被処理物のエッチング面を円滑にすることができるので、電気特性に優れる窒化ガリウム素子を製造することができる。これに対して、上述した窒化ガリウムのドライエッチング方法において、炭化珪素から形成されたトレイを使用すると、条件によってはエッチング面に炭素成分が付着する傾向がある。また、アルミナから形成されたトレイを使用すると、エッチング面が荒れる傾向がある。さらに、窒化珪素から形成されたトレイを使用すると、被処理物の冷却が難しくなる傾向がある。
【0011】
一方、静電気力による吸着力は、クーロン力とジョンソン・ラーベック力の2種類より成り、そのうちクーロン力は誘電体の体積抵抗率が比較的大きい抵抗領域(体積抵抗率:1014Ω・cm〜)で支配的であり、ジョンソン・ラーベック力は誘電体の体積抵抗率が比較的低い抵抗領域(体積抵抗率:1010〜1012Ω・cm)で支配的であり、その中間の領域では両方の力が現れることが知られている。クーロン力に比べてジョンソン・ラーベック力は非常に大きく、静電チャックの吸着には有用であるが、一般的なセラミック、例えば窒化珪素の体積抵抗率は1014Ω・cm程度、アルミナの体積抵抗率は1014Ω・cm程度、窒化アルミニウムの体積抵抗率は1014Ω・cm程度であり、いずれも体積抵抗率が高い。ただし、一般的な炭化珪素の体積抵抗率は低く、106Ω・cm程度である。なお、ここで挙げた体積抵抗率はいずれも20℃における値である。
【0012】
そこで、本発明では、静電チャックとの間に作用する静電気力による吸着力を高めるために、プラズマ処理用トレイの体積抵抗率が、一般的なトレイに用いられるセラミックよりも低くなるようにした。具体的には、プラズマ処理用トレイの体積抵抗率が107〜1013Ω・cmであることが必要である。このような体積抵抗率を持つトレイは、窒化珪素やアルミナ、窒化アルミニウムのようなセラミック材料中に炭化チタンや炭素繊維などの導電材料を分散させることで製造できる。体積抵抗率が107Ω・cmよりも低いとトレイの吸着性の点では優れるもののトレイ中の導電材料がエッチング中に被処理物の表面に堆積して素子の電気特性が悪化する。体積抵抗率が1013Ω・cmを超えるとトレイが静電チャックに吸着しない。なお、導電材料の種類や含有量を調整することにより、トレイの体積抵抗率を調整することができる。また、熱伝導効率が優れている点で窒化アルミニウム中に導電材料を分散させたトレイが好ましい。さらに、窒化アルミニウム中に導電材料を分散させたトレイは、被処理物が窒化ガリウムである場合に平滑なエッチング面が得られる点でも好ましい。
【0013】
以上より、本発明によれば、プラズマ処理用トレイを載置部に載置したときに静電チャックによる吸着力によって該プラズマ処理用トレイと載置部を十分に接触させることができるため、基板で発生した熱をトレイを介して効率良く載置部に伝達させることができる。従って、トレイを用いて被処理基板を載置部に載置してプラズマ処理する場合に、該被処理基板を効率よく且つ精度良く温度制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例に係るプラズマ処理用トレイの断面構成図。
【図2】本実施例に係るプラズマ処理用トレイを用いてプラズマ処理するためのプラズマ処理装置の例を示す概略構成図。
【図3】本実施例に係るプラズマ処理用トレイの効果を調べるために行った実験の処理条件を示す表。
【図4】実施例及び比較例の実験結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明に係るプラズマ処理用トレイ及びそれを用いた被処理基板のプラズマ処理方法の実施例について説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施例に係るプラズマ処理用トレイ10(以下、単に「トレイ10」という。)の断面図である。トレイ10は、その上面に被処理基板11(図2にのみ示す)の大きさに対応する複数の凹部12が設けられている。これら凹部12により、複数の基板を同時に処理することができる。
本実施例に係るトレイ10は、体積抵抗率が107〜1013Ω・cmのセラミック、例えば体積抵抗率が1011Ω・cmの窒化アルミニウム材料から構成されている。ここで、「窒化アルミニウム材料」とは炭化チタンや炭素繊維などの導電材料を窒化アルミニウムに分散させたものである。通常の窒化アルミニウムの体積抵抗率は1014Ω・cm程度であり、本実施例に係るトレイを構成する窒化アルミニウム材料は通常の窒化アルミニウムに比べると体積抵抗率が低い。
【0017】
図2は、上記トレイ10を用いて被処理基板のプラズマ処理を行うプラズマ処理装置20の縦断面図である。プラズマ処理装置20は、真空容器20aの内部に上部電極21及び下部電極22が対向して設けられている。下部電極22の上面には誘電層23が設けられており、下部電極22及び誘電層23が静電チャック部24として機能する。また、本発明の載置部として機能する誘電層23の上面には、ヘリウムガス等の熱媒体を循環させるための溝26が設けられており、この溝26はポンプや熱交換器等に接続している(図示せず)。
下部電極22は、その内部に冷却水を循環させることにより該下部電極22を冷却する冷却機構25を備えている。
【0018】
次に、本実施例に係るトレイ10の効果を調べるために、被処理基板としてのサファイア基板を載せた当該トレイ10を下部電極22の上に載置し、プラズマ処理を行う実験を行い、そのときのトレイ10の温度を測定した。実験では、なお、本実施例との比較のために、通常の窒化アルミニウム製のトレイ及びアルミナ製のトレイを用いてサファイア基板のプラズマ処理を行い、各トレイの温度も測定した。
なお、比較のために用いた通常の窒化アルミニウム製のトレイは、そのまま誘電層23の上に載置して実験を行う(比較例1)と共にトレイの下面にニッケル製の薄膜(裏打ち)を取り付けて誘電層23の上に載置した(比較例2)。また、アルミナ製のトレイは、その下面にニッケル製の薄膜(裏打ち)を取り付けて誘電層23に上に載置し、実験を行った(比較例3)。
実験には、サムコ株式社製の誘導結合型のプラズマエッチング装置(型番:RIE-200iP)を用い、下部電極22には20℃の冷却水を循環させた。その他の処理条件を図3に示す。
【0019】
図4に示すように、実施例では、下部電極22に印加する高周波電圧が150,300,500,800Vのいずれであってもトレイ10の温度が45℃を上回ることはなかった。また、比較例のうちトレイの下面にNiの裏打ちをした例(比較例2及び3)では、下部電極22に印加する高周波電圧が150,300,500,800Vのいずれであってもトレイの温度が50℃を上回ることはなかった。
これに対して、トレイの下面にNiの裏打ちがない比較例1では、下部電極22に印加する高周波電力を上げるとトレイの温度が150℃、180℃、220℃、250℃と上昇し、トレイに発した熱を十分に放出できないことが分かった
【0020】
このように、本実施例では、下部電極22の印加電力を上げることでトレイへの入熱量が増加しても、Ni薄膜で裏打ちした従来のトレイと同等或いはそれ以上にトレイの熱を放出することができた。従来のトレイの下面にNi薄膜を取り付けているのは、トレイを静電チャックに十分に吸着させて放熱効果を上げるためであるが、本実施例のトレイ10ではNi薄膜がなくても十分に放熱することができたことから、静電気力によって強く吸着できたものと思われる。
【0021】
また、トレイの下面にNi薄膜を取り付けると、プラズマ処理中や処理後にNi薄膜が剥がれたり、プラズマ処理中にNi薄膜で異常な放電が起きたりするおそれがあるが、本実施例のトレイ10ではそのような現象が起きることもない。
【0022】
なお、上記実施例では、トレイ10の窒化アルミニウム材料の体積抵抗率を1011Ω・cmとしたが、107〜1013Ω・cmの範囲にあれば、同等の作用効果が得られる。
また、上記実施例では、窒化アルミニウムに導電材料を分散させてトレイ10を形成したが、窒化ケイ素やアルミナに導電材料を分散させてトレイを形成しても良い。
【符号の説明】
【0023】
10…プラズマ処理用トレイ
11…被処理基板
20…プラズマ処理装置
20a…真空容器
21…上部電極
22…下部電極
23…誘電層
24…静電チャック部
25…冷却機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体から成る被処理基板を、静電気力を用いて載置部に静電吸着させてプラズマ処理するプラズマ処理装置において、前記被処理基板を載置するプラズマ処理用トレイであって、
前記トレイの体積抵抗率が107〜1013Ω・cmであることを特徴とするプラズマ処理用トレイ。
【請求項2】
化合物半導体から成る被処理基板が載置されるトレイと、
前記被処理基板が載置されたトレイが載置される載置部と、
前記被処理基板を前記載置部に静電吸着させる静電チャックと、
前記載置部に設けられた前記トレイを介して前記被処理基板の温度を制御する温度制御機構とを備えるプラズマ処理装置において、
前記トレイの体積抵抗率が107〜1013Ω・cmであることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−74650(P2012−74650A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220292(P2010−220292)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(392022570)サムコ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】