説明

プラズマ表面処理方法、プラズマ処理装置及び被処理物

【目的】例えばDLC膜とバッファ膜といった多層膜を、ドロップレットの影響を受けることなく高純度に、かつ円滑に積層形成することのできるプラズマ表面処理方法、プラズマ処理装置及びそのプラズマ処理装置によって表面処理された被処理物の提供する。
【構成】2種類の第1プラズマ16及び第2プラズマ17を使用する。各プラズマは、第1プラズマ発生部2、第2プラズマ発生部3において真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って発生させる真空アークプラズマである。各プラズマ発生に伴って生じるドロップレット23を分離、除去して、第1プラズマ16及び第2プラズマ17を共通輸送ダクト10を経由してプラズマ処理部1に誘導する。このとき、第1プラズマ16及び第2プラズマ17を共通輸送ダクト10に導入するタイミングを制御して、プラズマ処理部1内のワークW表面に対して積層膜形成等の表面処理加工が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って発生させたプラズマを少なくとも処理用プラズマとして使用するプラズマ表面処理方法、プラズマ処理装置及びそのプラズマ処理装置を用いて表面処理加工された被処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラズマ中で固体材料の表面に薄膜を形成したり、イオンを注入したりすることにより、固体の表面特性が改善されることが知られている。金属イオンや非金属イオンを含むプラズマを利用して形成した膜は、固体表面の耐磨耗性・耐食性を強化し、保護膜、光学薄膜、透明導電性膜,摺動性膜などとして有用なものである。特に、特開2001−182527号公報(特許文献1)に示されるように、シャンティングアークなどによって合成されるダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond-Like Carbon)薄膜は、高摺動性膜としての利用価値が高い。DLC膜の中でも、膜中にほとんど水素を含まないテトラヘロドラルアモルファスカーボン(ta−C;tetrahedral amorphous carbon)は、密度が高く、また、接触する固体相手材との融着性が低いという特徴を呈しており、ハードディスクの保護膜や切削工具の保護膜として極めて有用である。
【0003】
金属イオンや非金属固体イオン(主に、炭素C)を含むプラズマを発生する方法として、真空アーク(あるいは陰極アークとも呼ばれる)放電法がある。この真空アーク放電法には、陰極物質を蒸発させる陰極アーク放電法と陽極物質を蒸発させる陽極アーク放電法があるが、一般に陽極物質を蒸発させることは困難であり、本願明細書に記載される真空アーク放電法とは特に断らない限り陰極アーク放電法を示している。同様に、真空アークと称した場合も断らない限り陰極アークを示している。上記真空アークプラズマは、アーク放電において陰極と陽極の間に発生するプラズマであり、陰極表面上に存在する陰極点から陰極材料が蒸発し、この陰極蒸発物質により形成されるプラズマである。一般に、陽極は不活性であり、蒸発しない。また、雰囲気ガスとして反応性ガス又は/及び不活性ガス(例えば、希ガス)を導入した場合には、反応性ガス又は/及び不活性ガスも同時にイオン化される。このようなプラズマを用いて、固体表面への薄膜形成やイオンの注入を行って表面処理加工を行うことができる。
【0004】
DLC膜は、一般に、ta−Cと、a−Cと、水素含有のDLCであるta−C:H及びおよびa−C:Hの四つに分類される。ta−Cは炭素結合のsp構造を多く含むものであり、a−C(amorphous Carbon)はsp構造を多く含むものである。更にそれぞれ水素を含むものが、ta−C:H及びa−C:Hである。ta−CはDLCの中でも最も固い。DLC膜は水素を多く含むほど柔らかくなる。
【0005】
例えば、切削工具へのコーティングの中で、DLC膜は耐摩耗性・高摺動性膜として有用である。真空アーク以外の成膜方法、例えば、イオン化蒸着法、スパッタ法、CVD法、ホローカソードアーク蒸着法などでは、水素を含む場合がほとんどであり、ta−C膜を製造することができない。もちろん、水素を含んだa−Cやa−C:Hも、耐摩耗性・摺動性膜として利用可能である。しかしながら、例えば、AlあるいはAl合金製品の切削の場合、製品の切削くずと水素含有DLC膜とが融着してしまい、保護膜としての機能を果たすことができない。これに対し、唯一ta−CはAl系切削くずとの融着が発生しない。
【0006】
ところで、ta−Cは極めて固い代わりに、内部応力が極めて高いという特性を持つ。そのため、成膜される基材との密着性が悪いということが知られている。この高い内部応力を緩和して、基材との高い密着性を確保する手段として、基材とDLC膜との間に、Cr,W,Siなどの薄い膜を緩衝膜(バッファ膜、あるいはバッファ層)として挟む方法がある。
【0007】
一方、真空アーク成膜装置においては、プラズマの発生時に陰極から副生する陰極材料粒子(以下、「ドロップレット」という)による表面処理上の固有の問題がある。一般に、真空アーク放電では、陰極点から陰極材料イオン、電子、陰極材料中性粒子(原子及び分子)といった真空アークプラズマ構成粒子が放出されると同時に、サブミクロン以下から数百ミクロン(0.01〜1000μm)の大きさのドロップレットも放出される。しかし、表面処理における問題となるのは、前記ドロップレットの発生であり、ドロップレットが基材表面に付着すると、基材表面に形成される薄膜の均一性が失われ、薄膜の欠陥品となる。このために基材にドロップレットが付着しない方法が開発されなければならない。
【0008】
ドロップレットの問題を解決する一方法として、P.J.Martin, R.P.Netterfield and T.J.Kinder, Thin Solid Films 193/194 (1990)77(非特許文献1)に記載される磁気フィルタ法がある。この磁気フィルタ法は、真空アークプラズマを湾曲したドロップレット捕集ダクトを通して処理部に輸送するものである。この方法によれば、発生したドロップレットは、ダクト内周壁に付着捕獲(捕集)され、ダクト出口ではドロップレットをほとんど含まないプラズマ流が得られる。また、ダクトに沿って配置された磁石により湾曲磁界を形成し、この湾曲磁界によりプラズマ流を屈曲させ、プラズマを効率的にプラズマ加工部に移動させるようになっている。
【特許文献1】特開2001−182527号公報
【非特許文献1】P.J.Martin, R.P.Netterfield and T.J.Kinder, Thin Solid Films 193/194 (1990)77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記バッファ膜を形成して、密着性の高いDLC膜、特にta−C膜を切削冶具等のワークに形成する場合、真空の成膜チャンバの壁面に、真空アーク成膜装置と、バッファ膜の成膜のための蒸着装置を併設する必要がある。しかしながら、それらの装置を個々に成膜チャンバに取り付けると、ワーク出し入れのためのスペースや排気ポートのスペースなど、蒸着装置に必要不可欠な機能を成膜チャンバに配置するスペースが少なくなり、適切に配設するのが困難となる問題があった。殊に、それぞれの成膜装置を個々配置すると、成膜チャンバの中で固定されたワークに対して、バッファ膜の成膜方向とDLCの成膜方向とを一致させることが難しいという問題も生じる。
【0010】
更に、上記磁気フィルタ法には、下記のような問題点が存在する。ドロップレットは湾曲するダクト内壁に堆積するため、それを定期的に取り除く必要があるが、通常ダクトが細いため、その作業が容易ではない。また、ドロップレットが厚さ0.5mm程度に堆積すると、その堆積物が内壁から剥がれ、プラズマ内へ不純物として混入するおそれがある。更に、黒鉛のような高融点材料を陰極に用いた場合には、ドロップレットが完全に液化せず、ドロップレットが湾曲ダクト内壁で弾性衝突し、反射を繰り返してダクト出口から放出され、被加工物表面に付着してしまう問題を生じる。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、複数の物質からなる多層膜又は混合膜を、ドロップレットの影響を受けることなく高純度に、かつ円滑に形成することのできるプラズマ表面処理方法及びプラズマ処理装置を提供することを目的とする。また、例えば、所望の表面特性を被処理物に付与する金属膜用、半導体膜用又は絶縁体膜用の真空アーク成膜装置と、例えばバッファ膜の成膜装置とを成膜チャンバに対してコンパクトに配設して、高純度の多層膜形成を円滑に行えるプラズマ表面処理方法及びプラズマ処理装置の提供することを目的とする。更に、係るプラズマ処理装置を用いて表面処理加工された、例えば、金属膜、半導体膜、絶縁体膜、アモルファス膜等とバッファ膜の積層構造、又は複数の物質から形成される化合物半導体膜、合金膜若しくはセラミック膜等を備えた被処理物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、本発明の第1の形態は、真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って第1プラズマを発生させ、前記第1プラズマに含有される前記アーク放電部の陰極から発生する陰極材料粒子(以後、ドロップレットと言う)を分離させ、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2プラズマを発生させ、前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを共通輸送ダクトに導入経由してプラズマ処理部に電磁的に誘導し、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御し、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工するプラズマ表面処理方法である。
【0013】
本発明の第2の形態は、真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、前記第1プラズマに含有される前記アーク放電の陰極から発生するドロップレットを前記第1プラズマから分離させるドロップレット分離手段と、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを電磁的に導入する共通輸送ダクトと、前記共通輸送ダクトを経由して電磁的に誘導された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより被処理物を表面処理加工するプラズマ処理部と、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御する制御手段とを有するプラズマ処理装置である。
【0014】
本発明の第3の形態は、前記第2の形態において、前記制御手段は前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの前記共通輸送ダクトへの導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御するプラズマ処理装置である。
【0015】
本発明の第4の形態は、前記第2又は第3の形態において、前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトに非直線的に輸送する輸送経路と、前記ドロップレット分離手段により前記第1プラズマから分離させたドロップレットを捕集するドロップレット捕集部とを備え、前記ドロップレット捕集部の捕集口が前記第1プラズマ発生手段のプラズマ発生部と直面する方向に配設され、且つ前記捕集口の断面積が前記輸送経路の輸送断面積と等しいか若しくは大きいプラズマ処理装置である。
【0016】
本発明の第5の形態は、前記第2、第3又は第4の形態において、前記ドロップレット捕集部及び前記捕集口の断面がトラック形状である請求項2、3又は4に記載のプラズマ処理装置である。
【0017】
本発明の第6の形態は、前記第2〜第5の形態のいずれかにおいて、前記ドロップレット捕集部の終端部にドロップレットを反射する反射板を配設し、且つ前記反射板によるドロップレットの反射方向にドロップレットを捕獲するドロップレット捕獲部を配設したプラズマ処理装置である。
【0018】
本発明の第7の形態は、前記第4、第5又は第6の形態において、前記ドロップレット分離手段は前記輸送経路に設けた磁界発生部を含み、前記磁界発生部により発生させた磁界と輸送経路によってドロップレットを分離した前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトに輸送するプラズマ処理装置である。
【0019】
本発明の第8の形態は、前記第7の形態において、前記第1プラズマのプラズマ発生部から前記共通輸送ダクトに至る第1プラズマ輸送経路と前記共通輸送ダクトとのなす角度が略90°であるプラズマ処理装置である。
【0020】
本発明の第9の形態は、前記第2〜第8の形態のいずれかにおいて、固体から直接プラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させるプラズマ処理装置である。
【0021】
本発明の第10の形態は、前記第2〜第8の形態のいずれかにおいて、固体を蒸発させてプラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させるプラズマ処理装置である。
【0022】
本発明の第11の形態は、前記第2〜第8の形態のいずれかにおいて、気体、又は気化あるいはミスト化した液体によりプラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させるプラズマ処理装置である。
【0023】
本発明の第12の形態は、前記第2〜第8の形態のいずれかにおいて、前記第2プラズマ発生手段が陰極をプラズマ源物質として用いた真空アークプラズマを発生させるプラズマ発生手段であり、前記第2プラズマのプラズマ発生部及びその発生部から前記共通輸送ダクトに至る第2プラズマ輸送経路が前記プラズマ処理部と直面しない位置に設けられているプラズマ処理装置である。
【0024】
本発明の第13の形態は、前記第12の形態において、前記第2プラズマ輸送経路が略クランク状であるプラズマ処理装置である。
【0025】
本発明の第14の形態は、前記の第12又は第13の形態において、前記ドロップレット捕集部の一部が前記第2プラズマ輸送経路の一部を兼ねるプラズマ処理装置である。
【0026】
本発明の第15の形態は、前記第13、第14又は第15の形態において、前記第2プラズマ発生手段と前記第2プラズマ輸送経路との接続部に開閉手段を配設したプラズマ処理装置である。
【0027】
本発明の第16の形態は、前記第15の形態において、前記開閉手段が、ドロップレットを前記共通輸送ダクト側に再進入しない角度に反射させる形状を備え、かつ前記開閉手段の下方に前記ドロップレットを貯留する貯留部を配設したプラズマ処理装置である。
【0028】
本発明の第17の形態は、前記第2〜第16の形態のいずれかにおいて、前記第1プラズマ発生手段及び/又は、前記第2プラズマ発生手段及び/又は前記共通輸送ダクトに、ドロップレットの進行を防止するバッフル及び/又はオリフィスを配設しているプラズマ処理装置である。
【0029】
本発明の第18の形態は、前記第2〜第16の形態のいずれかにおいて、前記第1プラズマ発生手段及び/又は、前記第2プラズマ発生手段及び/又は前記共通輸送ダクトに、バイアス電圧を印加するバイアス電圧印加手段を有するプラズマ処理装置である。
【0030】
本発明の第19の形態は、前記第2〜第16の形態のいずれかにおいて、前記第1プラズマ発生手段の陽極及び/又は前記第2プラズマ発生手段の陽極を電気的にバイアスするバイアス手段を有するプラズマ処理装置である。
【0031】
本発明の第20の形態は、前記第2〜第19の形態のいずれかにおいて、前記共通輸送ダクトの最終部のプラズマ進行方向をz軸方向、垂直な平面をxy平面とし、前記共通輸送ダクトに、プラズマをx方向及び/又はy方向に走査する偏向コイルを配設したプラズマ処理装置である。
【0032】
本発明の第21の形態は、前記第2〜第20のいずれかのプラズマ処理装置により発生された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを用いて前記プラズマ処理部内で表面処理加工された被処理物である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の第1の形態によれば、前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを共通輸送ダクトを経由して前記プラズマ処理部に誘導し、また前記共通輸送ダクトに各プラズマを導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工するので、多層成膜を円滑に行うことができる。また、前記共通輸送ダクトにより前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記プラズマ処理部に導入するため、記第1プラズマ及び前記第2プラズマによる各成膜機能を備えたプラズマ処理装置のコンパクト化を実現することができる。更に、ドロップレットを分離した、真空アークプラズマからなる前記第1プラズマを用いて、高純度のDLC膜等の成膜を行うことができる。
【0034】
本発明の第2の形態に係るプラズマ処理装置によれば、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの複数のプラズマ発生源に対して、前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを、前記共通輸送ダクトを経由して前記プラズマ処理部に導入し、かつその導入タイミングを制御可能にした構造であるため、成膜チャンバなどの前記プラズマ処理部周辺におけるスペースを制約することなく、複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設してプラズマ処理装置の構造を簡素化することができる。また、ドロップレットを分離した、真空アークプラズマからなる前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトを経由して導入するため、高純度の多層膜形成を円滑に行うことができる。
【0035】
本発明の第3の形態によれば、前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの前記共通輸送ダクトへの導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御する前記制御手段を有するから、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの前記共通輸送ダクトへの導入のタイミングを成膜仕様・条件に応じて調整することができ、少なくとも真空アークプラズマによる膜を含む多層膜形成を円滑に行うことができる。
【0036】
本発明の第4の形態によれば、前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトに非直線的に輸送する輸送経路を備えるため、前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトに直線的に輸送する場合と比較して、前記第1プラズマの発生時に生ずる前記ドロップレットが直進して前記共通輸送ダクト内に進入することを防止でき、高純度の多層膜形成を円滑に行うことができる。また、前記ドロップレット捕集部の捕集口が前記第1プラズマ発生手段のプラズマ発生部と直面する方向に配設されているので、前記プラズマ発生部から直進してくる前記ドロップレットを、前記ドロップレット捕集部の捕集口、捕集部底部、側壁等に確実に付着又は堆積させることができ、確実に捕集してドロップレット除去効率を高めることができる。従って、一旦、ドロップレット捕集部に入射したドロップレットは確実に捕集されるため、前記プラズマ処理部へ進行するプラズマの純度をより一層高く保持することができる。殊に、ドロップレットの回収のために、および/または中性粒子や拡散イオンによる内面の膜付着汚れを防止し清掃作業を効率化するために、前記ドロップレット捕集部内面に、金属製、セラミック製、樹脂製、あるいはゴム製の防着筒(あるいは防着板,あるいは防着フィルム)を装着する必要があるが、定期的回収/清掃作業を行う場合には、前記捕集口の断面積が前記輸送経路の輸送断面積と等しいか若しくは大きいので、前記捕集口周辺又は前記ドロップレット捕集部内面に付着したドロップレットや膜の回収や清掃・除去の作業、前記防着筒の着脱作業を簡易かつ円滑に行うことができる。
【0037】
本発明の第5の形態によれば、前記ドロップレット捕集部及び前記捕集口の断面がトラック形状(トラック形状とは、長円形であり、つまり、円を半分に切り、切った位置を2本の等しい直線で接続した形状を言う)であるので、第1プラズマ輸送経路の断面よりも、ドロップレット捕集部の断面を大きくすることができるため、第1プラズマ輸送経路の断面とドロップレット捕集部の断面が等しい場合より、第1プラズマが副生するドロップレットをより効率的に捕集できる。また、トラック形状は、装置設計および製作において、第1プラズマ輸送経路と共通輸送経路とドロップレット捕集部との接続が容易となる。更にまた、ドロップレット捕集部の断面が一定の場合,前述の防着筒の着脱作業をドロップレット捕集部の可開放端部から円滑に行うことができる。
【0038】
本発明の第6の形態によれば、前記ドロップレット捕集部の終端部にドロップレットを反射する反射板を配設し、且つ前記反射板によるドロップレットの反射方向にドロップレットを捕獲するドロップレット捕獲部を配設したので、前記ドロップレット捕集部の終端部に進行したドロップレットを前記反射板によって反射させ前記ドロップレット捕獲部に捕獲、回収することができ、確実にプラズマ中からドロップレットを分離、排除することが可能になる。
【0039】
本発明の第7の形態によれば、前記ドロップレット分離手段は前記輸送経路に設けた磁界発生部を含み、前記磁界発生部により発生させた磁界と輸送経路の幾何学的配置・形状によってドロップレットを分離した前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトに輸送するので、前記磁界の作用によりプラズマ流のみを前記共通輸送ダクトに導くことによって、ドロップレットの分離、排除を確実に行うことができる。
【0040】
本発明の第8の形態によれば、前記第1プラズマ輸送経路を進行する前記第1プラズマが磁界により略直角に屈曲されてプラズマ流のみが前記共通輸送ダクトに導かれるから、前記磁界の作用を受けずに直進するドロップレットをより確実に分離することができる。従って、前記ドロップレットが前記プラズマ処理部に進入することを確実に防止でき、高純度のプラズマ流を用いてプラズマ処理を行うことができる。また、第1プラズマ発生部で発生した中性粒子も前記磁界の作用を受けずに直進し、屈曲されたプラズマ流から除去される。従って、プラズマ処理部にはイオンと電子から成るプラズマ流が到達し、その結果、主にイオンのみによって成膜が行なわれる。一般的に、中性粒子によって形成した膜の膜質よりイオンを用いて形成した膜の膜質が優れていることが知られており、中性粒子が高効率に除去されたプラズマ流により、均質で優れた膜質を有する膜を形成することができる。
【0041】
本発明の第9の形態によれば、前記第2プラズマの発生を、固体から直接プラズマを得るプラズマ発生方法により行うので、例えば、真空アーク放電方法、シャンティングアーク方法、または各種スパッタ(例えば、セルフスパッタ、アンバランスドマグネトロンスパッタ、V字型スパッタ)を利用する方法を用いて前記第2プラズマを発生させて各種成膜仕様に応じた多層成膜を行うことができる。
【0042】
本発明の第10の形態によれば、前記第2プラズマの発生を、固体を蒸発させてプラズマを得るプラズマ発生方法により行うので、例えば、ホローカソードアーク、電子ビーム励起プラズマ、各種スパッタ(例えば、高周波スパッタ、中周波スパッタ、直流スパッタ、交流スパッタ、マグネトロンスパッタ)、抵抗蒸発又は電子ビーム蒸発の方法で蒸発させた蒸発物を、ホローカソード、電子ビーム励起プラズマ、直流放電、低周波・中周波・高周波プラズマ(誘導結合型又は容量結合型)、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ、又は電子シャワープラズマなどでプラズマ化する方法を用いて前記第2プラズマを発生させて各種成膜仕様に応じた多層成膜を行うことができる。
【0043】
本発明の第11の形態によれば、前記第2プラズマの発生を、気体又は気化あるいはミスト化した液体によりプラズマを得るプラズマ発生方法により行うので、直流放電、ホローカソードアーク、低周波・中周波・高周波プラズマ、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ又は電子シャワープラズマなどを利用する方法を用いて前記第2プラズマを発生させて各種成膜仕様に応じた多層成膜を行うことができる。
【0044】
本発明の第12の形態によれば、前記第2プラズマとして真空アークプラズマを発生させる場合において、前記第2プラズマのプラズマ発生部及びその発生部から前記共通輸送ダクトに至る第2プラズマ輸送経路が前記プラズマ処理部と直面しない位置に設けられているので、前記第2プラズマのプラズマ発生部のプラズマ発生に伴って生じるドロップレットが直進して前記共通輸送ダクトに進入することを防止でき、前記第2プラズマとして真空アークプラズマを使用する場合でも高純度の多層成膜を行うことができる。
【0045】
本発明の第13の形態によれば、前記第12の形態において、前記第2プラズマ輸送経路が略クランク状であるので、第2プラズマ輸送経路が前記プラズマ処理部と直面しない輸送経路の配置が可能となり、ドロップレットの前記共通輸送ダクトへの侵入を確実に防止して、前記第2プラズマとして真空アークプラズマを使用する場合でも高純度の多層成膜を行うことができる。
【0046】
本発明の第14の形態によれば、前記の第12又は第13の形態において、前記ドロップレット捕集部の一部が前記第2プラズマ輸送経路の一部を兼ねるため、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの発生に伴って生じるドロップレットの捕集を前記ドロップレット捕集部で集合的に行うことができ、装置構造を簡素化することができる。
【0047】
本発明の第15の形態によれば、前記第2プラズマ発生手段と前記第2プラズマ輸送経路との接続部に開閉手段を配設したので、前記開閉手段の開閉により前記第2プラズマの導入タイミングを制御して、膜厚や層構成等の種々の成膜仕様・条件に応じた成膜制御を簡易に行うことができる。
【0048】
本発明の第16の形態によれば、前記開閉手段が、ドロップレットを前記共通輸送ダクト側に再進入しない角度に反射させる形状を備え、かつ前記開閉手段の下方に前記ドロップレットを貯留する貯留部を配設したので、前記開閉手段がドロップレットを前記共通輸送ダクト側に再進入しない角度に反射させる反射体の機能を具備させることができる。更に、前記開閉手段により反射させたドロップレットを前記貯留部により貯留、回収するため、ドロップレットの逆流や滞留を防止でき、より高純度のプラズマによる成膜を行うことができる。
【0049】
本発明の第17の形態によれば、前記第1プラズマ発生手段及び/又は、前記第2プラズマ発生手段及び/又は前記共通輸送ダクトに、ドロップレットの進行を防止するバッフル及び/又はオリフィスを配設しているので、前記第1プラズマ及び/又は前記第2プラズマの発生に伴って生じるドロップレットをプラズマ発生部周辺や前記共通輸送ダクトに進行しても前記バッフル及び/又はオリフィスに衝突させて確実に捕集することができる。したがって、ドロップレットの分離、除去する効率が向上し、より高純度のプラズマによる成膜を行え、被膜の高品質性を保証することができる。
【0050】
本発明の第18の形態によれば、前記バイアス電圧印加手段により、前記第1プラズマ発生手段及び/又は、前記第2プラズマ発生手段及び/又は前記共通輸送ダクトに、好ましくはプラズマ電位と同電位又は略同電位のバイアス電圧を印加するので、前記第1プラズマ及び/又は前記第2プラズマのプラズマ発生部側へのプラズマ流の発生を抑制ないし排除して、発生プラズマの前記プラズマ処理部への輸送効率を高め、成膜速度の向上を図ることができる。
【0051】
本発明の第19の形態によれば、前記第1プラズマ発生手段の陽極及び/又は前記第2プラズマ発生手段の陽極を電気的にバイアスするバイアス手段を有するので、この陽極バイアスにより見掛け上の陽極抵抗が大きくなり、発生プラズマの前記プラズマ処理部への輸送効率及び成膜速度の向上を図ることができる。
【0052】
本発明の第20の形態によれば、前記共通輸送ダクトの最終部のプラズマ進行方向をz軸方向、垂直な平面をxy平面とし、前記共通輸送ダクトに、プラズマをx方向及び/又はy方向に走査する偏向コイルを配設したので、高純度プラズマ流を前記偏向コイルによりxy方向に走査することによって、プラズマ流を被処理物表面全体に一様に照射することができ、高品質の被膜を被処理物に形成できる。
【0053】
本発明の第21の形態によれば、前記の第2〜第20のいずれかの形態に係るプラズマ処理装置により発生された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの高純度プラズマを用いて前記プラズマ処理部内で表面処理加工され、例えばDLC膜とバッファ膜の積層膜等の高性能多層膜構造を具備した被処理物を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明に係るプラズマ表面処理方法を適用したプラズマ処理装置の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るプラズマ処理装置の断面構成図である。本発明に係るプラズマ処理装置は、被処理物(ワーク)を設置するプラズマ処理部と一体化されることによりプラズマ加工装置として組み立てられるものである。このプラズマ加工装置を用いるプラズマ表面処理方法においては、2種類の第1プラズマ16及び第2プラズマ17を使用する。各プラズマは、第1プラズマ発生部2、第2プラズマ発生部3において真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って発生させる真空アークプラズマである。各プラズマ発生に伴って生じるドロップレット23を分離、除去して、第1プラズマ16及び第2プラズマ17を共通輸送ダクト10を経由してプラズマ処理部1に誘導する。このとき、第1プラズマ16及び第2プラズマ17を共通輸送ダクト10に導入するタイミングを制御することにより、プラズマ処理部1内のワークW表面に対して積層膜形成等の表面処理加工が行われる。なお、このプラズマ表面処理に際しては必要に応じて反応性ガス又は非反応性ガスを導入することもできる。
【0055】
プラズマ処理部1は、内部にワークWを載置するための、自公転機構を持つワーク配設テーブル7を有する角型の成膜チャンバであり、真空チャンバ4によって構成されている。真空チャンバ4には圧力計及び真空制御装置5、処理用ガスの導入制御系開閉装置6及び真空排気口8が配設されている。真空排気口8に接続されるべき真空排気制御装置、開閉バルブ、真空ポンプなどは図示してない。真空チャンバ4の一側面にはプラズマ導入口34が開口配置されている。プラズマ導入口34は、2つのプラズマ発生部2、3から発生するプラズマを導くプラズマ共通輸送ダクト10と連通している。真空チャンバ4と共通輸送ダクト10の最終部との間に、プラズマをチャンバ内でスキャンするためのスキャナー装置18が設けられている。なお、成膜チャンバは必ずしも角型である必要はなく、円柱形やベルジャー形またはそれらの変形でもよく,被処理物を収められる容器形状であればよい。
【0056】
共通輸送ダクト10及びスキャナー装置18はプラズマ導入口34に対して、換言すればチャンバの中心部に向けて直線状に配設されている。共通輸送ダクト10はその直線方向と交差する方向に配設されたプラズマ輸送経路9に接続している。プラズマ輸送経路9は共通輸送ダクト10と略直角に屈曲し、第1プラズマ発生部2と接続する第1プラズマ輸送経路と、共通輸送ダクト10に対して略クランク状に折曲し、第2プラズマ発生部3と接続する第2プラズマ輸送経路からなる。第1プラズマ輸送経路の始端側に第1プラズマ発生部2が配設され、第2プラズマ輸送経路の始端側に第2プラズマ発生部3が配設されている。第1プラズマ発生部2は、陽極(アノード)12と陰極(カソード)13からなる真空アーク放電部を有する。同様に、第2プラズマ発生部2も、陽極14と陰極15からなる真空アーク放電部を有する。各アーク放電部には、カソード及びアノード電極の他に、トリガ電極(図示略)やアーク安定化磁界発生器(電磁コイル若しくは磁石)24等も備えている。トリガ電極は、陰極と陽極の間に真空アークを誘起するための電極である。アーク安定化磁界発生器24は、アーク放電部における真空チャンバーの外周に配置され、真空アークの陰極点及びアーク放電により発生したプラズマを安定化させるためのものである。
【0057】
前記陰極13、15は、プラズマの主構成物質を供給するソースであり、その形成材料は、導電性を有する固体なら特に限定されない。金属単体、合金、無機単体、無機化合物(金属酸化物・窒化物)等、特に問わず、それらは単独又は2種以上混合して使用することができる。プラズマの構成粒子は、アーク放電部の陰極13、15からの蒸発物質、若しくは蒸発物質と導入ガスを起源(ソース)とするプラズマ化した荷電粒子(イオン、電子)ばかりでなく、プラズマ前状態の分子、原子の中性粒子をも含む。プラズマ加工法(真空アーク蒸着法)における蒸着条件は、電流:1〜600A(望ましくは5〜500A、さらに望ましくは10〜150A)である。更に、電圧:5〜100V(望ましくは10〜80V、更に望ましくは10〜50V)、圧力:10−10〜10Pa(望ましくは10−6〜10Pa、更に望ましくは10−5〜10Pa)である。金属単体としては、Al、Ti、Zn、Cr、Sb、Ag、Au、Zr、Cu、Fe、Mo、W、Nb、Ni、Mg、Cd、Sn、V、Co、Y、Hf、Pd、Rh、Pt、Ta、Hg、Nd、Pb等がある。また、合金(金属化合物)としては、TiAl、AlSi、NdFe等がある。また、無機単体としては、C、Si等がある。また、無機化合物(セラミックス)としては、TiO、ZnO、SnO、ITO(Indium-Tin-0xide :スズ混入酸化インジウム)、In、CdSnO、CuO等の酸化物がある。更に、TiN、TiAlC、TiC、CrN、TiCN等の炭化物・窒化物等も、それぞれ挙げることができる。
【0058】
陽極12、14の形成材料は、プラズマの温度でも蒸発せず、非磁性の材料で導電性を有する固体なら特に限定されない。金属単体、合金、無機単体、無機化合物(金属酸化物・窒化物)等、特に問わず、それらは単独又は2種以上混合して使用することができる。前述の陰極に使用した材料を適宜選択して使用することができる。本実施形態において、陽極はステンレス鋼、銅又は炭素材(黒鉛:グラファイト)等から形成され、この陽極には水冷式又は空冷式などの冷却機構を付設するが望ましい。また、陽極の形状はアークプラズマの全体の進行を遮るものでなければ、特に限定されず、筒状体(円筒、角筒を問わない)、コイル状、U字形、更には、上下・左右に一対平行に配置したり、上下左右のどこか1箇所、又は複数箇所に配置して形成してもよい。
【0059】
プラズマ処理部1のチャンバ内には、ガス導入を行わない場合もあるが、ガス導入システム(図示略)及びガス排出システム(図示略)を接続してもよい。これらのシステムとしては汎用のものを使用できる。ガス導入流量が一定に制御され、かつ排気流量を制御することにより容器全体の真空度(圧力)が一定に制御されるものとする。導入ガスは、アーク放電部から導入してもよく、プラズマ処理部1とアーク放電部の両方から導入してもよい。プラズマ処理部1とプラズマ発生部の両方から導入する場合、ガスの種類が異なってもよく、導入ガスとしては、反応性ガスを使用しない場合に、圧力を一定に保持するための希ガス(通常、Ar、He)等の非反応性ガスを適宜使用する。反応性ガスを使用すると、陰極材料等をソースとする蒸発粒子(プラズマ粒子)と反応して、複化合物膜を容易に形成できる。反応性ガスとしては、窒素(N)、酸素(O)、水素(H)、炭化水素ガス(C、C、CH、C等)、酸化炭素ガス(CO、CO)の群から1種又は複数種を適宜に選択して使用できる。ここで、反応性を制御するために希ガスを混合して反応性ガスの濃度を調整してもよい。又、アルコールの蒸気、有機金属ガス、又は有機金属液体の蒸気等を反応性ガスとして用いることができる。
【0060】
共通輸送ダクト10に対して略クランク状に折曲した第2プラズマ輸送経路の横側で、かつ第1プラズマ輸送経路に沿って、第1プラズマ発生部2に対向する経路にドロップレット捕集部11の捕集口11B(後述の図10、図11参照)が第1プラズマ発生部2と直面して配設されている。この捕集部11内には傾斜配置したドロップレット用反射板19が設けられている。第1プラズマ発生部2又は第2プラズマ発生部3において、真空アークプラズマを発生させると、陰極からドロップレットが発生する。第1プラズマ発生部2において、陰極13に例えばグラファイト用いた場合、真空アークプラズマを発生させると、陰極からグラファイトのドロップレットが発生する。このドロップレット23は、矢印で示す軌跡のように、陰極面のあらゆる方向に放出されるが、放出された後は直線的に運動し,個体障害物が存在すれば,基本的に弾性反射する。そのため,ドロップレットは陰極に直面する方向で捕集するのが最も効果的である。第1プラズマ発生部2から直進してくるドロップレットは、反射板19に衝突して、捕集部底部、側壁等に確実に付着又は堆積させることができ、確実に捕集して効率よくドロップレットを分離、除去することができる。
【0061】
第1プラズマ発生部2から直進するドロップレットをドロップレット捕集部11に回収してプラズマ流と分離するために、第1プラズマ輸送経路から共通輸送ダクト10に磁界ガイド輸送する磁界発生部が第1プラズマ輸送経路及び第2プラズマ輸送経路に配設されている。第1プラズマ輸送経路の始端側より、第1プラズマ引き出し用コイル25及び第1プラズマ屈曲コイル26が設けられ、かつ共通輸送ダクト10にはプラズマ収束コイル27が設けられる。これらのコイルは電磁コイル(電磁石)であり、これらの電磁コイルからなる磁界発生部により発生された磁界の作用により第1プラズマ16は第1プラズマ輸送経路から共通輸送ダクト10に誘導される。したがって、直進するドロップレットを分離しながら、高純度化した第1プラズマ16を共通輸送ダクト10に導入輸送することができる。同様に、第2プラズマ輸送経路の始端側には、第2プラズマ引き出し用コイル31、32、第2プラズマ屈曲コイル30が設けられており、これらのコイルにより発生された磁界の作用により第2プラズマ17は第2プラズマ輸送経路から共通輸送ダクト10に誘導される。したがって、第2プラズマ発生部3から直進するドロップレットをドロップレット捕集部11の側壁等に衝突させて分離しながら、高純度化した第2プラズマ17を共通輸送ダクト10に導入輸送することができる。なお、第2プラズマ発生部3の出口には、第2プラズマの共通輸送ダクト10への導入タイミングを制御するための開閉手段であるシャッター22が設けられている。第2プラズマ引き出し用コイル31、32はシャッター22の前後に配置されている。
【0062】
上記構成のプラズマ処理装置は、第1プラズマ及び/又は第2プラズマの発生時期、あるいは共通輸送ダクト10への導入時期を調整することにより、例えば共通輸送ダクト10への導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御して、ワークの成膜仕様・条件に応じた真空アークプラズマによる膜を含む多層膜形成を円滑に行うことができる。また、本実施形態に係るプラズマ処理装置は、共通輸送ダクト10を経由して、2種類の第1及び第2プラズマ16、17を成膜仕様・条件に応じてプラズマ処理部1に供給することができ、プラズマ加工装置の装置構造のコンパクト化を実現することができる。
【0063】
本発明の構造特長を明確にするために、本発明に至る段階で検討したプラズマ加工装置の装置構造例と上記実施形態を比較する。図2及び図3はその比較例を示すが、本発明の実施形態と同様の部材については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0064】
図2は、比較例として示すプラズマ処理装置の断面構成図である。真空アーク(陰極アーク)を蒸発源・プラズマ源とした第1プラズマ発生部101及び第2プラズマ発生部102を真空の成膜チャンバ100の側面に直接取り付けた場合である。第1プラズマ発生部101及び第2プラズマ発生部102はそれぞれ、陰極103、陽極104及び安定化電磁コイル105からなるアーク放電部を有し、それぞれ第1プラズマ106、第2プラズマ107を発生する。この場合、蒸発源である真空アークの陰極がチャンバ内のワークWに直面するため、各陰極から放出されるドロップレット108、109がワークWに容易に付着する。また、第1プラズマ発生部101及び第2プラズマ発生部102を成膜チャンバ100に直付けしているため、チャンバ側面にそれらが占める割合が多くなり、装置構造が複雑になっている。
【0065】
図3は、比較例として示す、他のプラズマ処理装置の断面構成図である。第2プラズマ発生部201にプラズマ輸送コイル205を配置したトーラス型プラズマ磁気輸送ダクト209を設け、フィルタードアークを蒸発源として配設した例である。第2プラズマ203はトーラス(ドーナツ状ダクトの一部)型の磁気フィルタを接続した真空アーク蒸発源を用いている。このトーラス型フィルタードアークはCrやAlなど、溶融したドロップレットを放出する陰極の場合に有効である。溶融したドロップレット206は固体に接すると固着するため、主にトーラスダクトの外周部内壁で捕集可能となる。第1プラズマ発生部202には、ドロップレット207を捕集するドロップレット捕集部を兼ねたT字形状プラズマ輸送ダクト208が接続されている。しかし、この場合、ドロップレットの分離や捕集は可能であるが、第1プラズマ204と第2プラズマ203のプラズマ流の成膜チャンバ200への接続口が個々に存在するため、それらを複数個配設しようとすると、成膜チャンバの壁面積の制約が一層生じることになり、実際上実施は困難となる。
【0066】
殊に、図2及び図3の場合には、ワークWが成膜チャンバ100、200内の一箇所に配設して処理すると、第1プラズマによる処理と第2プラズマによる処理を複合的に一度のプロセスで行えないという欠陥がある。一方、本実施形態では、共通輸送ダクト10を経由して各プラズマを導入する構造であるため、成膜チャンバにおけるスペースを制約することなく、複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設して構造の簡素化を実現することができる。また、共通輸送ダクト10を経由して導入されるプラズマはドロップレットが分離された高純度のものであり、多層膜形成を円滑かつ高精度に行うことができる。したがって、図2及び図3に示した、ドロップレットの分離、成膜チャンバの壁面積の制約、多層成膜の精密形成などの問題を一挙に解決して、プラズマ加工装置のコンパクト化と、多層成膜の円滑実施及び精密形成を実現している。
【0067】
以下、本発明に係るプラズマ処理装置の多層成膜の制御性について説明する。図4及び図5は本発明に係るプラズマ処理装置を用いてバッファ膜形成をワークWに施した成膜例の概略断面図と、その成膜プロセスのタイミングチャートを示す。以下の場合では、第1プラズマ16、第2プラズマ17の発生のための蒸発源には、それぞれ、DLC膜形成用のカーボン、バッファ膜の形成用のW、Cr、Ti等を使用する。
【0068】
図4の(4A)は、遷移混合膜L3を層形成した場合である。図5の(5A)はその成膜プロセスのタイミングチャートを示す。ワークW表面に、まずバッファ膜L2を成膜し,その上に遷移混合膜L3成膜を介して所望の改質膜(DLC膜L1)を成膜する。例えば、Cr膜をバッファ膜L2とし,DLCを改質膜とする場合である。この場合、Cr膜L2はワークWの基板とDLCとの応力の差を緩和し、DLC膜の接着膜となる。図5の(5A)に示すように、バッファ膜L2は、シャッター22を開き、第2プラズマ輸送経路における磁界発生をオンにして、第2プラズマ17の定常導入状態にして行う。ついで、シャッター22の開閉を交互に行い、かつ第1プラズマ輸送経路の磁界発生部における動作をオン・オフにして、第1プラズマ16及び第2プラズマ17を交互に共通輸送ダクト10に送り出す状態にする。これにより、バッファ膜L2の上に遷移混合膜L3が形成される。その形成後、シャッター22を閉じて、第2プラズマ17の供給を遮断し、かつ第1プラズマ輸送経路における磁界発生をオンにして、第1プラズマ17の定常導入状態にする。このとき、予め、遷移混合膜L3が中間下地層として形成されているので、その上にDLC膜L1を安定して積層形成することができる。
【0069】
図4の(4B)は、(4A)のバッファ膜と改質膜とを交互に積層した膜を示す。図5の(5B)はその多層成膜プロセスのタイミングチャートを示す。(5A)と同様のプロセスを繰り返すことにより、バッファ膜L5の上に、遷移混合膜L6を介在させてDLC膜L4を形成した多層構造成膜を行うことができる。図4の(4C)は上記遷移混合膜の形成プロセスを利用して、バッファ膜L8上に、遷移混合膜L7を厚く形成した場合である。図5の(5C)のタイミングチャートを示すように、この場合、第1プラズマ17の定常導入状態にせずに、遷移混合膜L7のみを形成する。なお、成膜プロセス実行の際、プラズマ導入タイミング制御に必要な、シャッター22の開閉制御、磁界発生部のコイル駆動制御等は図示しないシーケンサやコンピュータ制御装置によって管理される。
【0070】
図6は、遷移混合膜を形成しない成膜例を示す概略断面図である。図4に示した遷移混合膜を使用するときと、使用しないときを比較検討する。(6A)、(6B)は、図4の(4A)、(4B)において遷移混合膜を層形成しない場合である。図7の(7A)、(7B)は、図6の(6A)、(6B)の成膜プロセスに対応したタイミングチャートを示す。いずれの成膜プロセスにおいても、遷移混合膜を層形成しないため、第2プラズマ17と第1プラズマ16の定常導入状態が切換え制御されるだけである。図4と図6の成膜状態を比較すると、遷移混合膜層を設けた、図4の場合は、図6の場合に比べバッファ膜と改質膜と密着性が高くなる。このような遷移層の成膜は短時間のうちに行う必要があるが、本実施形態に係るプラズマ処理装置は、シャッター22の開閉制御、磁界発生部のコイル駆動制御等による多層成膜の制御性に優れており、遷移混合膜等を含んだ複合多層成膜を簡易、かつ高精度に製造することができる。
【0071】
以下、本発明に係るプラズマ処理装置の装置内部構成の詳細を説明する。
図8は、本発明に係るドロップレット捕集部11周辺の概略構成図である。(8A)はドロップレット捕集部11周辺を示す。このドロップレット捕集部11は、第1プラズマ発生部2と接続されている第1プラズマ輸送経路のダクト径と同径のドロップレット捕集口11Aとドロップレット捕集ダクトを備えている。第1プラズマ輸送経路のダクトの全形は略T字形であり、第1プラズマ発生部2で発生したプラズマは磁界発生部の磁界の作用によって、略T字状ダクト(第2プラズマの接続を無視した場合)のT部で該直角に屈曲され、プラズマ処理部1方向へ輸送される。一方、磁界の作用を受けないドロップレットや中性粒子(原子や分子)は矢印23に示すように直進しドロップレット捕集部11へ進行する。このとき、矢印23Aに示すように、ドロップレットの放出角度によってはドロップレット捕集部11へ向かわず、プラズマ処理部1方向へ進入するものも存在する。これは、ドロップレット捕集口11Aが第1プラズマ輸送経路のダクトと同径(同一断面)に形成されていることに起因すると考えられる。そこで、このようなドロップレットの成膜チャンバ1への進入を防ぐ構造にしたものを図8の(8B)に示す。
【0072】
(8B)では、ドロップレット捕集口11Bの断面積が第1プラズマ輸送経路の輸送断面積より大きくしている。したがって、第1プラズマ輸送経路より拡径されたドロップレット捕集口11Bにより、プラズマ処理部1方向へ進入しようとするドロップレットもドロップレット捕集ダクト側へ進行させ、分離効率をより向上させることができる。図1の実施形態ではドロップレット捕集口11Bを採用している。また、ドロップレット捕集口11Bその及び捕集口周辺が第1プラズマ輸送経路より拡径されることにより、ドロップレット捕集部11内面に付着したドロップレットの回収や清掃の作業、ドロップレット回収容器の装着・剥離の着脱作業を簡易かつ円滑に行うことができる。
【0073】
図9は、本発明に係るプラズマ輸送経路等に配設されるバッフル及びオリフィスを示す概略配置図である。図中には第1プラズマ輸送経路、第2プラズマ輸送経路及びドロップレット捕集部11内壁に沿って配置した複数個のバッフル21及びオリフィス20を示されている。前記バッフル21は板状片からなり、ドロップレットを捕捉あるいは反射し、ドロップレットがプラズマ処理部1方向へ進行しないようにする働きを有する。1片のバッフル21の幅は約3〜15mmであり、内壁と30〜150°の角度で輸送経路内等に取り付けられている。バッフル21を内壁に接触させず、内壁面と0.5〜5mm程度離間させて取着してもよい。オリフィス20は穴あき円板からなり、プラズマ輸送経路内部を一時的に縮径するためのものである。オリフィス20はバッフル21より内径が小さく(30〜80mm)、板厚は0.5〜5mmでよい。これらバッフル21及びオリフィス20を配置することによりプラズマ処理部1方向へ進行するドロップレットの量をより一層少なくすることができる。なお、バッフル21及びオリフィス20はダクト内壁への汚れを防止するための取り外し可能な防着管(プラズマ輸送経路ダクトの内壁を覆うように配設)に取り付けるのが装置のメンテナンス上好ましい。
【0074】
図10は、本発明に係る反射板19の取り付け状態を示す概略構成図である。ドロップレット捕集部11のドロップレット捕集部11内に反射板19が配設されている。ドロップレット捕集部11のドロップレット捕集口11Bに配設した反射板19を示す。図10の(10A)、(10B)はそれぞれ、反射板19周辺を示す平面図、側面図である。反射板19はドロップレット捕集部11の終端部に、第1プラズマ輸送経路の輸送方向に対向して傾斜配置されている。反射板19及びドロップレット捕獲部11Cを設けることにより、第1プラズマ発生部2から発生するドロップレットを反射板19で下向きに反射させてドロップレット捕獲部11C側に導き、効率的にドロップレットの捕集を行うことができる。尚、図中の符号35は第1プラズマ輸送経路の途中に開口形設されたプラズマ導入口であり、共通輸送ダクト10に連通している。
【0075】
図11は、本発明に係るドロップレット捕獲部11Cの概略構成図である。ドロップレット捕集部11下方にドロップレット捕獲部11Cが配設されている。ドロップレット捕獲部11Cは反射板19によるドロップレットの反射方向にドロップレットを捕獲するためのドロップレット回収容器11Dからなる。ドロップレット回収容器11D内壁には、ドロップレットの捕集効果を高めるために、下向きに向いたバッフル11Eが多数植設されている。図10と同様にドロップレットを反射板19で下向きに反射させてドロップレット捕獲部11C側に導き、より効率的にドロップレットの捕集を行うことができる。また、図中の符号35は第1プラズマ輸送経路の途中に開口形設されたプラズマ導入口であり、共通輸送ダクト10に連通している。
【0076】
図12は、本発明に係るプラズマ輸送経路のダクト形状を説明するための概略構成図である。共通輸送ダクト10に対して略クランク状に折曲した第2プラズマ輸送経路を(12A)及び(12B)に示す。第1プラズマ発生部2と第2プラズマ発生部3とを接続するプラズマ輸送経路のダクト形状は第1プラズマが副生するドロップレットのドロップレット捕集部11も加味すると略十字状あるいは略X字状となる。第1プラズマ発生部2とドロップレット捕集部11を結ぶ水平ラインに対して直交する交差方向に、共通輸送ダクト10へのプラズマ導入経路36及び第2プラズマ輸送経路のプラズマ導入口37が配設される。このダクトには最も効率的に製造する具体例として、プラズマ導入口35やプラズマ導入口37は符号40で示す円形形状でもよいが、ドロップレット捕集口11Bおよびドロップレット捕集ダクトを、符号41で示す同一形状のトラック状にするのが好適である。円形や矩形形状と比べて、トラック状捕集ダクト形状にすると、第1プラズマ輸送経路の断面よりも、ドロップレット捕集部の断面を大きくすることができるため、殊には共通輸送管方向へのドロップレット捕集部の口を広げられるため、第1プラズマ輸送経路の断面とドロップレット捕集部の断面が等しい場合より、第1プラズマが副生するドロップレットをより効率的に捕集できる。後述の斜行壁も必要でなくなる。また,断面積が同一形状であるため,ドロップレット捕集部11内面に付着したドロップレットや膜の回収や清掃の作業、ダクト内部の汚れを防止するための防着筒やインナー部材等の着脱作業を簡易かつ円滑に行うことができる。このトラック形状は円筒管を軸方向に二つに切り、その間を平板で接続すればよい(図面上38は溶接ラインを示す)。
【0077】
図12の(12C)及び(12D)は、ドロップレット捕集部11終端に設けたドロップレットポケットへのドロップレット回収口39を備える場合のダクト構造を示す。この場合、ドロップレット回収口39周辺の断面は符号42で示すような変形トラック形状となるが、ドロップレットの回収や清掃の作業等に支障を生じない。なお、T字形状のプラズマ輸送経路において、図13の(13A)〜(13C)に示すように、傾斜板を兼ねる斜行壁S1〜S3を持つダクトも考えられるが、ドロップレット捕集口11Bの径よりもドロップレット捕集ダクトの最終部の径が細くなると、上記の防着筒の配設が困難となり、図12に示したプラズマ輸送経路の方が実用性に優れている。
【0078】
図14は、本発明に使用するプラズマ発生方法を説明するための模式図である。第2プラズマの発生方式は、成膜仕様・条件に応じて適宜選択されてよい。適用可能なプラズマ発生方式として、例えば、固体から直接プラズマを得るプラズマの発生方法がある。(14A)に示す真空アーク放電(本実施形態で採用した陰極アーク放電(又は陽極アーク放電)、(14B)に示すような高圧パルス電源90を印加してターゲット材91からプラズマを誘起させるシャンティングアークがある。また、各種スパッタ(セルフスパッタ、マグネトロンスパッタ、V字型スパッタ)を利用してもよい。
【0079】
図15は、本発明に使用する他のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。(15A)に示すように、前記マグネトロンスパッタにはアンバランスドマグネトロンスパッタがあり、永久磁石92の近傍に配置したスパッタターゲット94をスパッタ蒸発源96として固体を蒸発させ,その固体蒸発物をアンバランスマグネトロン自体のプラズマ化機能や誘導結合RFプラズマ源コイルによりプラズマ化するなどしてプラズマ流を誘起させる。また、(15B)に示すように、V字型スパッタでは、一組または複数組の永久磁石95をV字型に配置したスパッタ蒸発源97を備える。V字型スパッタの場合も、アンバランスマグネトロンの場合と同様に、バランスしていない磁場に起因してスパッタ領域から漏れる電子によって、蒸発物がプラズマ化される。
【0080】
図16は、本発明に使用する他のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。更に、別の適用可能なプラズマ発生方式として、固体を蒸発した後でプラズマ化するプラズマ発生方法がある。この場合、ホローカソードアーク、電子ビーム励起プラズマ、各種スパッタ(高周波スパッタ、中周波スパッタ、直流スパッタ、交流スパッタ、マグネトロンスパッタ)の他に、抵抗蒸発や電子ビーム蒸発などを利用できる。抵抗蒸発法は、(16A)に示すように、抵抗蒸発源80として蒸発用ボート81に収容した蒸発材料82を用い、また容量結合プラズマ源電極83により支援して、プラズマを誘起させる。電子ビーム蒸発法は、図16の(16B)に示すように、電子ビーム蒸発源84として蒸発ターゲット86に電子ビームを照射し、また誘導結合プラズマ源コイル87により支援して、プラズマを誘起させる。これらの方法で蒸発させた蒸発物をプラズマ化するプラズマとして、ホローカソードアーク、電子ビーム励起プラズマ、直流放電、低周波・中周波・高周波プラズマ(誘導結合型の例は図15を参照。容量結合型の例は図16の(16A)を参照)、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ、又は電子シャワープラズマなどを利用できる。
【0081】
更に、別の適用可能なプラズマ発生方式として、気体、あるいは気化またはミスト化した液体をプラズマ化する方法を利用できる。直流放電、低周波・中周波・高周波プラズマ、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ、又は電子シャワープラズマなどを利用できる。図17は、気体、あるいは気化またはミスト化した液体を、導入管部303を通して輸送しプラズマ発生部300でプラズマ化する方法(図17の(17A))と、気体、あるいは気化またはミスト化した液体をチャンバ302内に配置したプラズマ発生部301でプラズマ化する方法(図17の(17B))を示している。導入管部303が貫通するプラズマ発生部300でプラズマ化する場合、高周波プラズマ(誘導結合型および容量結合型)、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマを利用できる。チャンバ302内でプラズマ化する場合、前記の方法が可能である。バッファ膜を真空アークで利用できない材料、例えば、Siなどとする場合これらの真空アーク以外の方法を利用するとよい。
【0082】
図18は、本発明に係る第2プラズマのプラズマ輸送経路への取り付け態様を示す概略構造図であり、第2プラズマとして真空アークを例にとった。但し、図面ではプラズマ輸送のための電磁コイル等は省略してある。(18A)では、第2プラズマ発生部3を共通輸送ダクト10へのプラズマ導入経路36の方向(ワーク方向)に直面して取り付けてある。この場合、厳密には,真空アークプラズマP1はドロップレットを放出するため、この取り付け態様は好ましくない。この取り付け態様は真空アーク以外のプラズマ源とする場合がよい。換言すれば、真空アーク以外のプラズマの場合であって、ドロップレットの発生が少ないかほとんど無いときには、ワークに直面して輸送されプラズマ輸送効率の最も高い、この取り付け態様が好ましい。(18B)は、第2プラズマを発生する真空アーク発生源をプラズマ出口に直面しない配置の一態様を示す。第2プラズマ発生部3とプラズマ導入経路36とを結ぶプラズマ輸送経路は、略「く」の字型あるいは膝型(Knee型;ニー型)と呼ばれる形状を有する。
【0083】
図19は、本発明に係る第2プラズマのプラズマ輸送経路への取り付け態様の別の態様を示す概略構造図である。(19A)は、トーラス型磁気フィルタを介して第2プラズマを発生する真空アーク発生源を接続する方法である。トーラス型磁気フィルタについては図3で説明したものと同様のものであり、第2プラズマ発生部3から発生したプラズマP3に含有される、溶融ドロップレットは固体に接すると固着するため、主にトーラスダクトの外周部内壁で捕集される。(19B)は、既に説明したように、第2プラズマ発生部の接続ダクトの軸とプラズマ出口の軸とが第2プラズマ発生部3の接続ダクト及びプラズマ導入経路36の直径以上の距離ずらして接続する方法である。第2プラズマP4が真空アークである場合、その陰極点から放出されるドロップレットは直面するダクト壁内面401に付着して除去される。この場合、第2プラズマP4の流れがそのダクト壁内面401を回避してプラズマ導入経路36に流れ込むといった、屈曲した第2プラズマ輸送経路402が形成される。第1プラズマ発生部2のドロップレット流と第2プラズマP4との合流領域400がプラズマ導入経路36より離れた地点で生じる。また、この場合、ドロップレット捕集部ダクト11の一部が第2プラズマ17のプラズマ輸送ダクトを兼ねるとともに、その一部の内壁が第2真空アーク(第2プラズマ)のドロップレット除去部となる。第2真空アークの陰極には、Cr,Al,Ti,Hfなどの溶融ドロップレットを副生する金属や合金を用いるのが好適である。
【0084】
図20は、本発明に係る第2プラズマ発生部3の三次元的配置例を示す概略構成図である。第1プラズマ発生部2、第2プラズマ発生部3、プラズマ導入経路36は一平面上に配置されているが、必ずしも平面上である必要はない。図20の(20A)は第2プラズマ発生部3全体をニー型となるように3次元的に配置、接続した場合である。第2プラズマ発生部3と第1プラズマ発生部2のドロップレット捕集部11とプラズマ導入経路36とが形成する平面から、−90〜+90°回転して第2プラズマ発生部3を接続している。(20B)は、図18の(18B)において示した略「く」字型のプラズマ輸送経路を形成するように第2プラズマ発生部3を3次元的に配置した状態を示す。
【0085】
図21は、図20の第2プラズマ発生部3の配置例におけるプラズマ流等の向きを説明するための模式図である。(21A)は、第1プラズマの発生方向A、第2プラズマの発生方向B、プラズマ導入経路36への出口方向C及び第1プラズマ16のドロップレット流の方向Dの関係を示している。(21B)は、図20の(20B)における、第1プラズマ16発生方向A、第2プラズマ17の発生方向B、プラズマ導入経路36への出口方向C及び第1プラズマ16のドロップレット流の方向Dの関係を示している。
【0086】
図22は、本発明に係るシャッター22の取り付け構成を示す概略構造図である。図20の第1プラズマ発生部2において、真空アークの陰極点をグラファイトとした場合には、副生するグラファイトドロップレットが第2プラズマ発生部3へも進入する場合がある。これは第2プラズマ発生部3で発生するプラズマの汚染を招く。平面図(22A)に示すように、汚染防止の点からも、第2プラズマ17のプラズマ輸送ダクトにシャッター22を設けるのが好ましい。シャッター22は既に述べたように、(22A)の第2プラズマ発生部の側面図(22B)は、成膜処理にあわせて図中の矢印の方向に開閉される可動式開閉機構と取り付け構成を示している。シャッター22は平面板状でもよいが、ドロップレットが第2プラズマ発生部3方向へ進行してきた場合、プラズマ導入経路36側に進行しない方向に反射する構造を持つのがよい。このため、シャッター22のダクト側の外表面には、ドロップレットを反射させるためのバッフル21が斜め上向きに多数個、取り付けられている。平面シャッターにバッフルを取り付けても良い。シャッター下部にはドロップレットの捕集ポケット22aを設けるのがよい。
【0087】
図23は、本発明に係るシャッター22の概略構造図である。図に示すように、バッフル付き平面シャッターの代わりに、進入ドロップレットの反射方向をプラズマ導入経路36方向以外へ方向付けることができる三次元構造でもよい。(23A)及び(23B)に示すシャッター51は斜め下方に切除した形状であり、シャッター口50に進入してくるドロップレット53の反射方向を下方に向けさせることができる。また、角板張り合わせ構造や、(23C)に示すように丸み加工を施した構造のシャッター52を用いてもよい。なお、第1プラズマ発生部2側にも必要に応じてシャッター機構を設けてもよい。
【0088】
図24は、本発明に係るスキャナー装置18の概略構成図である。輸送されるプラズマ流の直径は30mm〜70mmである。これは成膜面積に等しい。従って、それ以上の領域に成膜しようとする場合、あるいは,それ以上の領域に複数の被処理物が配置されている場合、プラズマをスキャンすることにより所望の成膜を得ることができる。(24A)に示すように、共通輸送ダクト10の出口付近に、スキャナー装置18が配設されている。スキャナー装置18は電磁コイルからなるスキャナーコイル62と補正用コイル(図示せず)から構成されている。(24B)の断面図に示すように、(24A)のスキャナーコイル62は、電磁コイルであるX方向電磁石63とY方向電磁石64からなり、スキャナー部ダクト外周に取り付けられる。一方向のみのスキャンでよい場合は、X方向電磁石63とY方向電磁石64のいずれか一方の電磁石を配設すればよい。
【0089】
図25は、本発明に係るスキャナー装置18に用いる駆動電流を示す波形図である。(25A)に示すように、電磁石62に交播電流を流すことにより1次元的に一方向のみスプラズマ流をスキャンさせることができる。一方、図24の(24B)に示すように、X方向電磁石63とY方向電磁石64を取り付けた場合、図25の(25B)に示すように、方向電磁石63とY方向電磁石64の各々に、位相差を有し、周期的に変化する電流71、72を流すことにより、磁界Bx、By、Bzを変化させてプラズマ流を回転若しくは2次元的にスキャンさせることができる。
【0090】
図26は、本発明に係る陽極を接地電位としたバイアス電圧印加の方法を説明するための模式配線図である。共通輸送ダクト10等のプラズマ輸送経路を介してプラズマ処理部1までプラズマを効率的に輸送するためには、図に示すように、陽極(12、14)を接地電位とし、プラズマ輸送経路のダクト(スキャナー部も含む)にバイアス電源500によるバイアス電圧を印加するのがよい。バイアス電圧は、−30V〜+30Vが好ましく、特にプラズマ電位と同じ電圧、つまり、+10V〜+20V、殊に+15V±3Vが好適な場合が多い。プラズマ輸送ダクト系統に好適なバイアス電圧を印加すると、プラズマ輸送効率および成膜速度が数倍改善される。プラズマ輸送ダクトにバイアスを印加するためには、成膜チャンバとプラズマ輸送ダクト(スキャナー部も含む)とが絶縁されていなければならない。また、図26では第1プラズマ発生部2の真空アーク陽極12が成膜チャンバと絶縁されて配設されている。
【0091】
また、第1プラズマ発生部2の真空チャンバ自体を陽極とする場合にも適用することができる。陽極をバイアスすると、1〜25%プラズマ輸送効率が向上し、成膜速度も向上させることができる。陽極をバイアスした場合、見掛け上陽極の抵抗が向上するため、プラズマを維持している電流は他の流れ易い領域へ流れようとする。この場合、流れ易い場所は接地電位であるプラズマ処理部1の成膜チャンバであるため、プラズマの成膜チャンバへの輸送効率が改善されることになる。陽極バイアス電圧は0V〜10Vが適切であり、より好ましくは、0.5V〜5Vである。
【0092】
図27は、本発明に係るバイアス電圧印加の別の方法を説明するための模式配線図である。陽極にバイアスを印加する場合、図に示すように、電圧電源を用いるのではなく、陽極12と直列に抵抗Rを接続しても良い。用いる抵抗は、0Ω〜0.2Ω程度が適切であり、より好ましくは、0.005Ω〜0.1Ωである。真空アークの陽極表面は刻々と堆積物が堆積するため、表面抵抗が刻々と変化する。従って、抵抗値を外部制御できる電子負荷を用いるのもよい。
【0093】
図28は、本発明に係るバイアス電圧印加の、更に別の方法を説明するための模式配線図である。第1プラズマ発生部2の真空チャンバ600自体を陽極とし、プラズマ輸送ダクトバイアスおよび/あるいは陽極バイアスを印加する方式の一例の配線図を示す。なお、プラズマ輸送ダクト内に沿って防着筒が配設してある場合には、その防着筒にバイアスが加わるようにしなければならない。更に、プラズマ輸送ダクトとスキャナー部を絶縁し、それぞれ異なるバイアス電圧を印加しても良い。つまり,各位置のプラズマの状態に従って、対応する位置のバイアス電圧を変えても良い。印加するバイアス電圧は,各位置でのプラズマ電位とほぼ等しい電圧を印加するのが好適である。プラズマ輸送方向に従って、更に細分したバイアスを印加するカスケードバイアスを行ってもよい。
【0094】
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係るプラズマ表面処理方法及びプラズマ処理装置は、主として工業用に用いられるプラズマ加工装置に適用でき、金属製又は非金属製の被処理物表面に被膜を形成することができる。従って、金属、半導体、絶縁体、DLC膜等の多層成膜、又は複数の物質から形成される合金膜、セラミック膜又は化合物半導体膜等を単一の加工装置で行えるプラズマ表面処理方法及びプラズマ処理装置を実現することができる。更に、複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設して簡素化されたプラズマ加工装置を提供することができる。また、少なくとも真空アークプラズマによる膜を含む多層膜形成を円滑に行うことができると共に、高純度のプラズマを用いて、被処理物に対して高性能、高純度被覆膜を形成することができる。更に、ドロップレット回収材の着脱作業を円滑に行え、作業性に富んだプラズマ加工装置を実現することができ、ドロップレットを分離して除去した、高純度のプラズマを用いて、被処理物に対して高性能、高純度被覆膜を形成するプラズマ加工装置を実現することができる。
【0096】
更に、固体から直接プラズマを得るプラズマ発生手段、固体を蒸発させてプラズマを得るプラズマ発生手段、気体又は気化あるいはミスト化した液体によりプラズマを得るプラズマ発生手段などから選択された手段と真空アークプラズマにより、各種成膜仕様に応じた高純度の多層成膜を行うプラズマ加工装置を提供することができる。また、膜厚や層構成等の種々の成膜仕様・条件に応じた成膜制御を簡易に行う多層成膜形成用プラズマ加工装置を提供することができる。更に、前記ドロップレットの除去効率やプラズマの輸送効率が高く、高純度のプラズマを用いて高速で成膜できる多層成膜形成用プラズマ加工装置を提供することができる。
【0097】
本発明に係る被処理物は、金属膜、合金膜、半導体膜、絶縁体膜もしくはDLC膜等の非金属膜などから形成される高性能膜、又はこの膜とバッファ膜もしくは種々の膜から構成される高性能多層膜を具備し、好適な耐磨耗性、耐熱性、耐食性、導電性等が付与された種々の工業製品として用いることができる。より具体的には、硬質金属切削工具、軟質金属切削工具、ドライ切削用工具、高速切削用工具などの種々の切削工具、樹脂成形金型、半導体成形金型、焼結体・セラミック成形金型、離型性要求金型、プレス金型などの金型、機械部品、摺動部品、撥水要求部品、耐食要求部品など、種々の製造装置、製品及びそれらの構成部材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置の断面構成図である。
【図2】比較例として示すプラズマ処理装置の断面構成図である。
【図3】比較例として示す、他のプラズマ処理装置の断面構成図である。
【図4】本発明に係るプラズマ処理装置を用いて、遷移混合膜を含む成膜をワークに施した成膜例を示す概略断面図である。
【図5】図4の成膜プロセスのタイミングチャートである。
【図6】遷移混合膜を形成しない成膜例を示す概略断面図である。
【図7】図6の成膜プロセスのタイミングチャートである。
【図8】本発明に係るドロップレット捕集部周辺の概略構成図である。
【図9】本発明に係るプラズマ輸送経路等に配設されるバッフル及びオリフィスを示す概略配置図である。
【図10】本発明に係る反射板の取り付け状態を示す概略構成図である。
【図11】本発明に係るドロップレット捕獲部の概略構成図である。
【図12】本発明に係るプラズマ輸送経路のダクト形状を説明するための概略構成図である。
【図13】本発明に係るその他のドロップレット捕集部を示す概略構造図である。
【図14】本発明に使用するプラズマ発生方法を説明するための模式図である。
【図15】本発明に使用する、他のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。
【図16】本発明に使用する、更に他のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。
【図17】本発明に使用する、更に別のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。
【図18】本発明に係る第2プラズマのプラズマ輸送経路への取り付け態様を示す概略構造図である。
【図19】本発明に係る第2プラズマのプラズマ輸送経路への取り付け態様の別の態様を示す概略構造図である。
【図20】本発明に係る第2プラズマ発生部の3次元的配置例を示す概略構造図である。
【図21】図20の第2プラズマ発生部の配置例におけるプラズマ流等の向きを説明するための模式図である。
【図22】本発明に係るシャッターの取り付け構成を示す概略構造図である。
【図23】本発明に係るシャッターを示す概略構造図である。
【図24】本発明に係るスキャナー装置の概略構成図である。
【図25】本発明に係るスキャナー装置に用いる駆動電流を示す波形図である。
【図26】本発明に係る陽極を接地電位としたバイアス電圧印加の方法を説明するための模式配線図である。
【図27】本発明に係るバイアス電圧印加の別の方法を説明するための模式配線図である。
【図28】本発明に係るバイアス電圧印加の、更に別の方法を説明するための模式配線図である。
【符号の説明】
【0099】
1 プラズマ処理部
2 第1プラズマ発生部
3 第2プラズマ発生部
4 真空チャンバ(成膜チャンバ)
5 圧力計及び真空制御装置
6 処理用ガスの導入制御系開閉装置
7 ワーク配設テーブル
8 真空排気口
9 プラズマ輸送経路
10 共通輸送ダクト
11A ドロップレット捕集口
11B ドロップレット捕集口
11C ドロップレット捕獲部
11D ドロップレット回収容器
11E バッフル
12 陽極
13 陰極
14 陽極
15 陰極
16 第1プラズマ
17 第2プラズマ
18 スキャナー装置
19 ドロップレット用反射板
20 オリフィス
21 バッフル
22 シャッター
22a 捕集ポケット
23 ドロップレット
24 アーク安定化磁界発生器
25 第1プラズマ引き出し用コイル(電磁コイル)
26 第1プラズマ屈曲コイル(電磁コイル)
27 プラズマ収束コイル(電磁コイル)
34 プラズマ導入口
36 プラズマ導入経路
37 プラズマ導入口
38 溶接ライン
39 ドロップレット回収口
50 シャッター口
52 シャッター
53 ドロップレット
62 スキャナーコイル(電磁コイル)
63 X方向電磁石(電磁コイル)
64 Y方向電磁石(電磁コイル)
71 電流
72 電流
80 抵抗蒸発源
81 蒸発用ボート
82 蒸発材料
83 容量結合プラズマ源電極
84 電子ビーム蒸発源
86 蒸発ターゲット
87 誘導結合プラズマ源コイル
90 高圧電源
91 ターゲット材
92 永久磁石
94 スパッタターゲット
95 永久磁石
96 スパッタ蒸発源
97 スパッタ蒸発源
100 成膜チャンバ
101 第1プラズマ発生部
102 第2プラズマ発生部
103 陰極
104 陽極
105 安定化電磁コイル
108 ドロップレット
109 ドロップレット
200 成膜チャンバ
201 第2プラズマ発生部
202 第1プラズマ発生部
203 第2プラズマ
204 第1プラズマ
205 プラズマ輸送コイル(電磁コイル)
206 ドロップレット
207 ドロップレット
209 トーラス型プラズマ磁気輸送ダクト
208 T字形状プラズマ輸送ダクト
300 プラズマ発生部
301 プラズマ発生部
302 チャンバ
303 導入管部
401 ダクト壁内面
402 第2プラズマ輸送経路
500 バイアス電源
600 真空チャンバ
Bx 磁界
By 磁界
Bz 磁界
L1 DLC膜
L2 バッファ膜
L3 遷移混合膜
L4 DLC膜
L5 バッファ膜
L6 遷移混合膜
L8 バッファ膜
L7 遷移混合膜
P1 真空アークプラズマ
P3 プラズマ
P4 第2プラズマ
S1〜S3 斜行壁
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って第1プラズマを発生させ、前記第1プラズマに含有される前記アーク放電部の陰極から発生する陰極材料粒子(以後、ドロップレットと言う)を分離させ、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2プラズマを発生させ、前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを共通輸送ダクトに導入経由してプラズマ処理部に電磁的に誘導し、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御し、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工することを特徴とするプラズマ表面処理方法。
【請求項2】
真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、前記第1プラズマに含有される前記アーク放電の陰極から発生するドロップレットを前記第1プラズマから分離させるドロップレット分離手段と、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを電磁的に導入する共通輸送ダクトと、前記共通輸送ダクトを経由して電磁的に誘導された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより被処理物を表面処理加工するプラズマ処理部と、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御する制御手段とを有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記制御手段は前記ドロップレットを分離させた前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの前記共通輸送ダクトへの導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御する請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトに非直線的に輸送する輸送経路と、前記ドロップレット分離手段により前記第1プラズマから分離させたドロップレットを捕集するドロップレット捕集部とを備え、前記ドロップレット捕集部の捕集口が前記第1プラズマ発生手段のプラズマ発生部と直面する方向に配設され、且つ前記捕集口の断面積が前記輸送経路の輸送断面積と等しいか若しくは大きい請求項2又は3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記ドロップレット捕集部及び前記捕集口の断面がトラック形状である請求項2、3又は4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記ドロップレット捕集部の終端部にドロップレットを反射する反射板を配設し、且つ前記反射板によるドロップレットの反射方向にドロップレットを捕獲するドロップレット捕獲部を配設した請求項2〜5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記ドロップレット分離手段は前記輸送経路に設けた磁界発生部を含み、前記磁界発生部により発生させた磁界と輸送経路によってドロップレットを分離した前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトに輸送する請求項4、5又は6に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記第1プラズマのプラズマ発生部から前記共通輸送ダクトに至る第1プラズマ輸送経路と前記共通輸送ダクトとのなす角度が略90°である請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
固体から直接プラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させる請求項2〜8のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
固体を蒸発させてプラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させる請求項2〜8のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
気体、又は気化あるいはミスト化した液体によりプラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させる請求項2〜8のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記第2プラズマ発生手段は陰極をプラズマ源物質として用いた真空アークプラズマを発生させるプラズマ発生手段であり、前記第2プラズマのプラズマ発生部及びその発生部から前記共通輸送ダクトに至る第2プラズマ輸送経路が前記プラズマ処理部と直面しない位置に設けられている請求項2〜8のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
前記第2プラズマ輸送経路が略クランク状である請求項12に記載のプラズマ処理装置。
【請求項14】
前記ドロップレット捕集部の一部が前記第2プラズマ輸送経路の一部を兼ねる請求項12又は13に記載のプラズマ処理装置。
【請求項15】
前記第2プラズマ発生手段と前記第2プラズマ輸送経路との接続部に開閉手段を配設した請求項12、13又は14に記載のプラズマ処理装置。
【請求項16】
前記開閉手段が、ドロップレットを前記共通輸送ダクト側に再進入しない角度に反射させる形状を備え、かつ前記開閉手段の下方に前記ドロップレットを貯留する貯留部を配設した請求項15に記載のプラズマ処理装置。
【請求項17】
前記第1プラズマ発生手段及び/又は、前記第2プラズマ発生手段及び/又は前記共通輸送ダクトに、ドロップレットの進行を防止するバッフル及び/又はオリフィスを配設している請求項2〜16のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項18】
前記第1プラズマ発生手段及び/又は、前記第2プラズマ発生手段及び/又は前記共通輸送ダクトに、バイアス電圧を印加するバイアス電圧印加手段を有する請求項2〜16のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項19】
前記第1プラズマ発生手段の陽極及び/又は前記第2プラズマ発生手段の陽極を電気的にバイアスするバイアス手段を有する請求項2〜16のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項20】
前記共通輸送ダクトの最終部のプラズマ進行方向をz軸方向、垂直な平面をxy平面とし、前記共通輸送ダクトに、プラズマをx方向及び/又はy方向に走査する偏向コイルを配設した請求項2〜19のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項21】
請求項2〜20のいずれかに記載のプラズマ処理装置により発生された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを用いて前記プラズマ処理部内で表面処理加工されたことを特徴とする被処理物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2007−9303(P2007−9303A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194713(P2005−194713)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(501377645)株式会社オンワード技研 (11)
【Fターム(参考)】