説明

プラントにおける電動弁の動作性能予測方法

【課題】プラントに設置されている電動弁が、次回に動作する時、設計条件を満たす能力を発揮しうるか否かを予測する方法を提供する。
【解決手段】弁体4の開閉時において、弁体位置検出手段18,19によって得られる弁体4の特定位置における弁体駆動力検出センサ38が検出した駆動力とそのときの流体圧力と、弁全閉時の前後の差圧に基づいて、今後の動作時において、制御流路に想定される圧力環境の基に、弁装置3の構造型式に応じた必要操作力計算式に当て嵌めて、現時点で得られる最大操作力を求め、この最大操作力と予め設計時に求めた設計操作力との差を、操作力の余裕度として求め、電動弁1の今後の動作時において、どの程度の期間、設計操作力を出し続けられるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所等のプラントにおける電動弁の動作性能予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等のプラント施設には、弁装置とそれを開閉駆動する動力部を一体化した電動弁が、数多く使用されている。
【0003】
この電動弁における弁駆動部の操作力は、弁開閉に必要な操作力より、常に上回っていることを、保証しなければならない。
【0004】
特に、原子力発電所等の緊急隔離や緊急開放の役割をもつ安全系の電動弁は、プラントに実装した後は、非常時の流体条件を満たす条件のもとに、実稼動試験をすることが不可能な電動弁である。
【0005】
従来、電動弁を非常時に確実に動作させるための条件として、隔離弁においては、全開状態にある弁を全閉状態に閉じるための操作力を、また、開放弁においては、全閉状態にある弁を全開状態に開くための操作力を、緊急時の流体条件を最大とした設計条件に基づいて、弁の構造形式に対応した計算式により計算される値とされている。
【0006】
即ち、電動弁における弁操作に必要となるトルクは、弁の詳細な形状データと流体圧力条件、及び可動部の摩擦係数等の多くの不確定な係数を用いた演算により算出されている。
【0007】
このための計算式には、従来から周知の火力発電等の一般火力用弁(非特許文献1の78頁に記載されている)に採用されている一般火力用弁モデルにおけるものと、非特許文献1の78、79頁に記載されている、原子力用弁において、開時の引抜き力を考慮した計算式を用いる。
【0008】
を閉じる時の必要操作力Fc
c=F1+F2+F3 (N) ……(1c)
1 :弁体・弁座面の摺動抵抗力(非特許文献1ではT1
2 :弁棒押上力(非特許文献1では3
3 :パッキン摺動抵抗力(非特許文献1ではT4
【0009】
弁を開くときの必要操作力Fo
omax(F1、F4)−F2+F3+F5+F6 (N) ……(1o)
4 :モータの慣性による弁体の食い込み抵抗力
(非特許文献1ではT2
5 :弁棒が熱膨張することによる弁体の食い込み抵抗力
(非特許文献1ではT5
6 :弁箱内に圧力がこもることによる抵抗力
(非特許文献1ではT6
【0010】
図17は、弁の構造形式を仕切弁とした模式図であり、操作力の算出は、以下のような計算式に基づいて行われる。
【0011】
仕切弁01における弁体02は、流路03における流入口04と流出口05の間に、弁箱06の中で、流路03に直交して上下する弁棒07に連動して、流路03を全閉したり全開したりする。
【0012】
弁棒07は、弁箱06と弁棒07の摺動部をシールするグランドパッキン08に摺接して上下し、弁棒07の上下移動に際して、摺動抵抗力FR(=F3)を生じている。
【0013】
なお、グランドパッキン08の摺動抵抗力FRの計算式は、次のようになる。
R(=F3)=K×π×d2×N×h×P0
ここで、K :グランドパッキンの摩擦係数
2 :弁棒径(m)
N :パッキン有効リング数
(圧縮後の相当リング数)
h :パッキン1リング高さ(m)
0 :パッキン締付面圧(Pa)
また、弁
【0014】
棒07には、弁箱06に加わる流体圧力P3と、弁棒07の径d1応じて、弁箱06の中から外に向かう推力FP(=F2)が生じている。
【0015】
さらに、弁体02には、弁体02の構造に固有の係数kと、弁差圧ΔPに応じて、弁体02を動かすのに要する駆動力FΔP(=1)が生じている。
【0016】
なお、固有の係数kは、弁座当り面の外径d2と、弁座シート面09の摩擦係数μとに関連するので、その係数kは、弁座当り面の面積D2と摩擦係数μの積で表される。
k=D2×μ
【0017】
よって、駆動力FΔPは、係数kと弁差圧ΔPの積で表される。
ΔP=k×ΔP (N)
【0018】
仕切弁01を閉じるときの操作力Fcは、上記弁棒07の摺動抵抗力FRに抗する成分と、弁棒07の推力FPに抗する成分と、弁体02の駆動力FΔPに抗する成分の合計で表される。
c=FR+FP+FΔP …………………………(1C
また、FR3、FP=F21=FΔPとして、
c=F1+F2+F3 …………………………(1C
として、表すことができる。
【0019】
1=FΔP:締切時の摺動抵抗力を計算したものである(経時的に変動するパラメータ)
1(π/4)×D22×μ×ΔP=k×ΔP (N)
ここで、D2 :弁座当り面外径 (m)
ΔP:弁差圧 (Pa)
μ :シート面の摩擦係数
【0020】
・ F2=FP
:弁棒押上げ力
弁捧07は、内圧Pによって、弁箱06の内部から大気に押し出されるピストンの如き力を受ける。この力、すなわち弁棒07を弁箱06の内部の圧力Pに打ち勝って押し込むための加重である。
2(π/4)×d22×P (N)
ここで、d2 :弁棒径 (m)
P :弁内圧 (Pa)

【0021】
3R:グランドパッキンの摺動抵抗力FR(経時的に変動するパラメータ)
なお、グランドパッキン08の摺動抵抗力FRの計算式は、次のようになる。
R(=F3)=K×π×d2×N×h×P0 (N)
ここで、K :グランドパッキンの摩擦係数
2 :弁棒径 (m)
N :パッキン有効リング数
(圧縮後の相当リング数)
h :パッキン1リング高さ (m)
0 :パッキン締付面圧 (Pa)
【0022】
従来は、上記(1C)式に、プラント実装時の非常時に想定し得る最大の条件(以下設計条件と称する)における、流体圧力P″と弁差圧ΔP″を当てはめて、その際の操作力Fを、非常時設計値における必要操作力F″として求め、その必要操作力F″を上回るように、摺動抵抗力FRや駆動力FΔPにおける各部固有の係数や、パラメータ、および電動モータの出力トルク等を定めている。
【0023】
・ F4 :モータの慣性による弁体の突込みを引抜くための荷重(経時的に変動するパラメータ)
4{(L/π)×β×K×E+TS2)}1/2/β(N)
ここで、L :ステムのねじリード
K :弁体・弁棒・駆動装置血バネの総パネ定数
β :スラスト対トルク変換係数(ステムネジ係数)
E :モータの慣性エネルギー (Nm)
S :モータ停止時の出力トルク(設定トルク) (Nm)
【0024】
・ F5 :弁を閉めることによる弁箱とステムの相対収縮によるトルクアップ(弁棒の熱膨張による弁体の突込みを引き抜くための荷重)(経時的に変動するパラメータ)
弁棒の熱膨張により閉方向に生じる推力で、押し込まれた弁棒を引き抜く荷重である。
5K×Δl (N)
K :総バネ定数(弁棒、駆動装置、弁体)
Δl :ステムの弁箱に対する相対伸び (m)
【0025】
・ F6 :ボンネット内に密封された内圧力により弁体を弁座に押し込もうとする力(ボンネットの内圧こもりによる弁体の抵抗力に対して引抜くための荷重)(経時的に変動するパラメータ)
弁箱胴部圧力(P3)と弁出入口圧力(P1、P2)の差圧による押付力が作用する。
この押付力によって押し込まれた弁体を引き抜くために要する荷重である。
【0026】
上記F1からF6までの弁棒の軸方向の荷重を、弁棒サイズによって定められて弁棒トルク換算係数βを用いて、弁棒の軸トルクに換算する。
【0027】
【非特許文献1】原子力用バルブ 著者 原子力用バルブ編纂委員会 昭和60年10月30日初版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
上述の機能を有する電動弁においては、運転による損耗や経年劣化により、弁部の状態は常に変化するとともに、弁部の内部ロスが増大し、必要操作力が増加していく状況においても、実装したままで実稼動試験することが出来ない流体条件の下では、緊急時に、電動弁の有する操作力(以下実効操作力とする)が、緊急時の流体条件の下で必要とされる設計上の操作力(以下設計操作力とする)を、常に上回っていることを保証する必要がある。
【0029】
本発明は、実際に作り出すことが可能な流体条件における測定トルクとそのときの流体圧力と、弁全閉時の弁前後の差圧から、実稼動試験することが出来ない流体条件における必要トルクを正確に予測して、その流体条件における操作力の裕度(または安全率)を把握し、裕度が不足している場合には、警告を発し、これを基に、例えばメンテナンス計画を作成するのに役立つ方法を、提供するものである。
【0030】
既に述べた通り、使用状況により、様々な程度の損耗や劣化が弁に生ずるので、従来は、個々の弁について、時々刻々変化する必要操作力を正確に把握することは不可能であった。
【0031】
また、弁の有する操作力が、必要操作力に対して余裕が無くなる時期を予測することも出来なかった。
【0032】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑みなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
【0034】
1. プラントにおける制御流路に配設した弁装置と、弁装置を開閉駆動する電動モータと、その電動モータにより弁体を開閉移動する伝動機構と、伝動機構に連係して弁体の開閉に要する駆動力を電気的に検出する弁体駆動力検出センサを備える電動弁において、
プラントにおける制御流路を、電動弁により実際に開路もしくは閉路した実開閉時に、弁装置における弁開閉区間の弁開閉度に対応する弁体駆動力を、弁体駆動力検出センサにより検出し、弁体が閉または開する直前の過渡データ生成区間を省いた弁開閉区間における弁体駆動力の中から、弁体を駆動するのに要した最大の駆動力を、そのときの流体圧力と、弁全閉時の前後の差圧を合算して、当該電動弁における実開閉時の必要操作力として注出し、この必要操作力を、弁装置の構造型式に応じた必要操作力計算式に当て嵌めて、現在の実開閉時における制御流路の圧力環境の基に、当該電動弁において経時的に変動するパラメータの現在値を求め、これにより求められたパラメータの現在値を、以後の動作時において、制御流路に想定される圧力環境の基に、前記計算式に当て嵌めて、現時点で得られる最大操作力を求め、さらにこの最大操作力と予め設計時に求めた設計操作力との差を、操作力の余裕度として求め、当該電動弁の今後の動作時において、如何なる程度の期間に亘って、設計操作力を出し続けられるか否かを判定する。
【0035】
2. 上記(1)項において、弁体駆動力検出センサは、伝動機構において、弁棒に直結たウオームホイールに噛合してウオームの軸線方向移動に対応するトルク値を検出するトルクセンサである。
【0036】
3. 上記(1)項において、弁体駆動力検出センサは、伝動機構において、弁棒に直結して、弁棒に加わるスラスト値を検出するスラストセンサである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
請求項1記載の発明によると、電動弁における実稼働状態において、弁装置の構造に掛かる各変動パラメータ(経時的に変動するパラメータ)を、弁体駆動力検出センサの検出値やそのときの流体圧力と、弁全閉時の弁前後の差圧から、それぞれに変動パラメータの現在値として求めて、その各パラメータを、弁装置駆動に所要される必要操作力を求める計算式に当てはめて、現時点で得られる最大操作力と予め設計時に求めておいた設計操作力との差を求め、その差を操作力の余裕度として数値化することができ、その余裕度の値は、電動弁が稼働する毎に求められて順次更新され、その余裕度の値の変化を追跡することにより、当該電動弁が設計操作力を、如何なる程度の期間に亘って、発揮しうるかどうかを、容易に判定することができる。
【0038】
請求項2記載の発明によると、既設又は既存の弁体駆動力検出センサを使用することができる。
【0039】
請求項3記載の発明によると、弁体を直接駆動するスラスト力を直接測定することにより、トルクを操作力に変換するステムファクタを容易に求めることができるので、演算処理やデータベースの構造を簡単にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明方法を、その一実施要領を示す図面に基づいて説明する。
図1〜図3は、本発明方法を具体的に適用する電動弁の一例を示すもので、 図1は、弁形式を仕切弁とした電動弁の要部を切欠して示す正面図、図2は、図1に示す電動弁の分解斜視図、図3は、図2に示す、トルクセンサの拡大縦断面図である。
【0041】
図1に示す如く、電動弁1は、プラントにおける制御流路2中に装着した弁装置3と、この弁装置3における弁体4を、制御流路2内に位置する弁座2aに対して開閉駆動する電動モータ5を備えている。なお、弁装置3は、仕切弁としてある。
【0042】
図2に示す如く、電動弁1は、電動モータ5により、弁装置3を、開閉駆動する伝動機構6と、その伝動機構6に連係され、弁体4の開閉駆動に要する駆動力を電気的に検出する弁体駆動力検出センサ(トルクセンサ)7を備えている。
【0043】
伝動機構6は、弁装置3における弁体4に連係されているステム8と、そのステム8の上端のステムネジ9に螺合して、ステム8を、弁箱3aから上下方向に出し入れ駆動するステムナット10と、ステムナット10に嵌合固定され、ステムナット10と一体に回転するウオームホイール11と、ウオームホイール11に噛合されて、ウオームホイール11を回転させるウオーム12と、ウオーム12と一体をなすウオーム軸13を、電動モータ5の出力軸14に連結して、電動モータ5により、ウオーム軸13を回転駆動させる歯車15、16とからなってている。
【0044】
ウオーム軸13の回転量は、ウオーム12と歯車15の間に設けた減速歯車手段17を介して、弁体4の開閉方向についてそれぞれに測られ、弁全閉検出リミットスイッチ18と、弁全開検出リミットスイッチ19を作動させるようになっている。
【0045】
ウオーム12と一体をなすウオーム軸13は、電動モータ5により駆動される歯車15と一体をなす軸20に対して、回転不能かつ軸線方向に摺動自在に結合されている。
【0046】
図3に示す如く、ウオーム軸13の軸端21を、トルクバネ軸22における対向する軸端23に設けた拡径軸24の内腔25に、スラストラジアル軸受26を介して、軸線方向には、互いに移動不可能に、かつ回転方向には、互いに回転自在に連結してある。
【0047】
トルクバネ軸22の拡径軸24側の端部には、鍔27を設けて、拡径軸24の端部と連結してあり、拡径軸24とトルクバネ軸22は、一体構造になっている。
【0048】
拡径軸24とトルクバネ軸22が繋がっている根元の連結段部28には、ドーナツ板状をなすバネ押し板29が、その内孔29aを、トルクバネ軸22に緩く嵌合して設けられ、そのバネ押し板29の軸線方向一端面(図3において左側)は、拡径軸24の根本の端面に当接し、他面(図3において右側)は、トルクバネ軸22に内孔を緩く嵌合させて複数枚の板バネ30を重ねてなるトルクバネ31の内側端部(図3において左側)を当接してある。
【0049】
トルクバネ31の外側端部(図3において右側)には、トルクバネ軸22に内孔32aを緩く嵌合したバネ押し板32が当接し、そのバネ押し板32の外側面(図3において右側)は、トルクバネ軸22の先端に螺合した予圧ナット33により押圧され、トルクバネ31に予圧を掛けてある。
【0050】
なお、内側のバネ押し板29の内側面は、伝動機構ハウジングの壁面34に当接して、壁面34より内側には移動不可能となっている。
【0051】
また、外側のバネ押し板32の外側面は、伝動機構ウジングに固定した押さえ板35に当接して、押さえ板35より外側には移動不可能となっている。
【0052】
これにより、ウオーム軸13が図3における左右方向へ動くときには、内側のバネ押し板29がトルクバネ31を押圧して外側に移動し、拡径軸24とトルクバネ軸22は、ウオーム軸13とともに外側に移動する。
【0053】
ウオーム軸13が左方へ動くときには、外側のバネ押し板32がトルクバネ31を押圧して、拡径軸24とトルクバネ軸22は、ウオーム軸13とともに、内側方に移動する。
【0054】
この際、拡径軸24の動きは、その拡径軸24の外周に螺刻したネジ条36と噛合するピニオン37に伝達され、図2に示すトルクリミットスイッチ38を動作させる。
【0055】
なお、ウオーム12と、ウオーム軸13と、トルクバネ31によるトルクリミットスイッチ38の動作は、周知の機械式トルク検出手段であるので、その詳細な説明は省略する。
【0056】
上記伝動機構6を介して、電動モータ5により弁体4を駆動するとき、弁体4の移動を阻止する力が働くと、その反力として、ウオーム12には、軸線方向の移動力が働く。
【0057】
ウオーム12を移動させる力は、トルクバネ31を圧縮しつつ、ウオーム軸13と、それと軸線方向に一体に連結しているトルクバネ軸22を移動させる。
【0058】
トルクバネ軸22の内端には、拡径軸24が設けられ、この拡径軸24の軸線方向の移動は、ピニオン37で検出され、トルクリミットスイッチ38を動作させる。
【0059】
本発明においては、上記ウオーム12とトルクバネ31との間に働く力を、トルク値として電気的に検出する。
【0060】
トルクバネ軸22と拡径軸24を連結している鍔27には、鍔部27の外周方向への歪みを検出する歪み検出センサ39が設けられている。なお、このトルクを電気的に検出する歪み検知器40、すなわちトルクセンサは、公知の弁体駆動力検出センサをなしている。
【0061】
図1において、電動モータ5へ電力を供給する動力線41には、電動モータ5の駆動電流を検出するクランプ型の電流計42が装着されている。
【0062】
この電流計42は、前記ウオーム軸13に連結されている弁体4の全開、全閉を検出するリミットスイッチ18、19とは別途に、弁体4の開閉移動における開閉度合いの全開位置及び全閉位置を検出する弁体位置検出手段43における開度検出センサーをなしている。
【0063】
本発明は、通常の稼動運転及び試験運転のいずれにおいても、弁体4の開閉時において、前記弁体位置検出手段43によって得られる弁体4の開度に対応する特定位置における、トルクセンサ7が検出した弁体の駆動力に基づいて、当該電動弁1の以後の動作機会において、設計操作力が得られるか否かを予想するものである。
【0064】
そのため、本発明においては、電動弁1の開閉動作時において、弁体4を全開から全閉、または全閉から全開に駆動したときに、必要操作力F′と、その時の流体圧力P及び弁全閉時の差圧ΔPを測定する。
【0065】
従来一般的に制御流路2に設置されている静圧計により、弁箱3aと大気圧の間の流体圧力Pと、制御流路2における弁体4を挟んだ全閉止状態の差圧ΔPを、電動弁1の作動時に計測する。
【0066】
なお、この明細書において、必要操作力F′とは、一定の力で、弁体4と弁座2aもしくはストッパ等を押し当てて停止させる弁、例えば仕切弁や玉形弁においては、弁体と弁座もしくはストッパーが離れるときから、逆側に操作完了するまでに発生した操作力の最大値を言い、また、弁体と弁座もしくはストッパ等に押し当てることなく停止させる弁、例えばバタフライ弁については、起動から停止までの操作力の最大値を言うものとする。
【0067】
一般に、弁の操作力Fは、流体の差圧ΔPに比例して、弁体を駆動する駆動力成分FΔPと、流体の圧力Pに比例して、弁棒を弁箱から押し出す推力成分FPと、流体の状態とは無関係な摩擦抵抗R等による摺動抵抗力成分FRとからなることは知られている。
【0068】
このうち、流体圧力Pに比例する駆動力成分FPの大きさは、弁の一部の構成部品の形状と流体圧力Pで定まる。即ち、弁形式によって定まる。
【0069】
次に、弁体4の弁開閉操作力F′を算出する要領を示す一般的な計算式を示す。
【0070】
・ 操作力Fまたは必要操作力F′
操作力Fは、前述の如く、流体圧力Pに依存する弁体の駆動力FPと、差圧ΔPに依存する弁棒を弁箱から押しだす推力FΔPと、流体圧力Pに依存しない摺動抵抗力FRによて定まる。
F又はFc=FP+FΔP+FR (N) ……(1)
【0071】
・ 圧力Pによって生じる推力FP
推力FPは、既知の弁棒断面積Dと圧力Pの積として算出できる。
P=D×(N) ……(2)
なお、推力Fpは、弁体の操作方向によって符号が正負逆になる。
例えば、仕切弁が弁を開くときには、弁棒に操作力を加える方向と推力が働く方向と同じになるので、負荷を駆動する動力側から見た符号は−となり、弁を閉じるときには、同符号は+となる。
【0072】
・ 差圧ΔPによって生じる駆動力FΔP
駆動力FΔPは、差圧ΔPと弁固有の係数kの積として算出できる。
ΔP=ΔP×k (N) ……(3)
【0073】
・ 流体の圧力Pに無関係な摩擦抵抗Rによる摺動抵抗力FR(経時的に変動するパラメータ)。
バルブ開度が大きく操作力が安定している区間は、差圧ΔPにより発生する抗力が無視できる領域で、この部分では弁体による差圧の影響はないと考えられる。
差圧ΔP=0からFΔP=0
F=FP+FR (N) ……(4)
よって FRは、
操作時に弁棒が弁箱に挿入するときFRc−FP ……(4a)
操作時に弁棒が弁箱から挿出するときFRo+FP ……(4b)
として求めることができる。
【実施例1】
【0074】
以下本発明を、仕切弁装置に適用した場合について説明する。
図4〜図7は、図1〜図3に示す弁装置3の弁形式を仕切弁とした、電動弁1における弁開閉状態のタイムチャートを示す。
【0075】
図4は、全開状態の弁装置3を、全閉状態に至らしめる時のトルクセンサ7が出力するトルク信号Tgと、電流計42によるモータ電流Imのタイムチャートを示す。
【0076】
図5は、図4における弁体4が弁座2aに着座している弁体開度0%(全閉部)付近の拡大図である。
【0077】
図6は、全閉状態の弁装置3を、全開状態とする時のトルクセンサ7が出力するトルク信号Tgと、電流計42によるモータ電流Imのタイムチャートを示す。
なお、トルク信号Tg、及びびその信号から計測される各トルクの値とは、第1式の操作力Fとの間に、F=a・Tg(aは、後述するステムテムファクタSf等)とする一定の比例関係が成立しているので、以下の各タイムチャートに基づく説明においては、トルク値を使用する。
【0078】
図7は、図6における弁体4が弁座2aに着座している弁体開度0%(全閉部)付近の拡大図である。
【0079】
仕切弁においては、第1式の操作力F又は弁開閉時の必要操作力F′は、流体圧力Pと差圧ΔPにより定まることは、弁形式から予め知ることが出来るので、差圧ΔPが、最も大となる弁開度0%の全閉時付近の、トルク特性に注目して測定する。
【0080】
図5は、弁を閉じるとき、図7は、弁を開くときの、それぞれの弁開度0%付近のトルク特性を拡大して示している。
【0081】
図4に示す弁装置3を閉じる時には、次のように各必要データを測定する。
【0082】
a. 設定トルクTsの測定。
採取したデータより、トルクリミットスイッチ39が動作してモータ電流を遮断した時点における、トルクスイッチ39に予め設定された設定トルクTsの値を読み取る。
【0083】
b. 駆動部が出しうる操作力F′maxを求めるための、各パラメータを準備する。
予め、初期データとして、次のものがデータベースに登録してある。
m :定格電圧におけるモータ出力トルク (Nm)
md:電圧降下時におけるモータ出力トルク (Nm)
R :減速比
E :効率
f :ステムファクター
【0084】
c. パッキン摺動抵抗力Rを、トルク波形の運転トルクから求める。
弁が閉じ始める開度100%付近で操作力が安定している部分(図4において左側で過渡的変化が過ぎた部分)には、弁体4による差圧ΔPの影響がない(Δp=0)と考えられるので、かつ仕切弁が閉じるときには、弁棒が弁箱に挿入されることから、摺動抵抗力FR′は、式(4b)から、FR=F−FPとして求められる。
【0085】
d. 弁装置3を閉じる時の必要操作力Fc′を求める。
差圧の影響が大きく、最も大きな操作力Fc′が必要となる点、図5における弁体が着座して、トルク特性が直線的に増大する直前の値を、このときの必要操作力Fc′として波形から読みとり、この値を必要操作力Fc′として、第(1)式に当て嵌める。
c′=FP′+FΔP′+FR(N) ……(1a)
と表せる。
【0086】
e. 駆動力FΔP′を求める。
弁装置3を閉じる時の圧力をP′(別途測定されている)とすると
P′=P′×D、FR=FR′と表せる。
この時点でFc′、FP′、FR′は求められているので
ΔP′は、
ΔP′=Fc′−FP′−FR′と ……(3′)
として求めることができる。
【0087】
f. 必要(設計値)操作力Fc″を求める。
任意(設計値)の圧力P″、差圧ΔP″時に、弁を確実に作動させるために必須(設計値)な操作力Fc″を、式(1a)から算出する。
c″=(P″×D)+(ΔP″×k)+FR (N) ……(1b)
【0088】
g. 弁固有の係数を求める。
弁固有の差圧に対する係数は、=FΔP′/ΔPとなる。
【0089】
h. 最大の操作力Fmaxを求める。
駆動部が発生できる最大の操作力Fmaxは、前記準備した各パラメータから
max=Tm×GR×E/Sf ……(5)
よって、仮想的に求められる最大出力トルクTmaxは、前記比例関係式から、
maxmax×Sf (Nm)
として求めることが出来る。
【0090】
なお、交流モータに供給される電圧の低下が予想される場合には、定格電圧におけるモータ出力トルクTmではなく、電圧降下時のモータ出力トルクTmdを用いて、次のように算出する。
md=Tm×(降下時の電圧/定格電圧)2 (Nm) ……(6)
【0091】
i. 次に判定をする。
前記(a)において測定した設定トルクTs、前記(f)において求めた必要(設計値)操作力F″、(h)において求めた駆動部の最大操作力Fmaxから、 駆動部余裕度Ya=Fmax(Ts/Sf)、機構部余裕度Yb=(Ts/Sf)−F″として、数値化して求め、設計値を条件としてその条件下において、電動弁1が設計操作力を得られるか否かを判定する。
設定トルクTs≧ 操作力Fmaxであれば動作しない。
理由 弁が全閉する前にトルクスイッチ38が動作して完動しない。
駆動部余裕度Ya=Fmax(Ts/Sf (N)
設定トルクTs< 操作力Fmaxあれば動作可能である。
機構部余裕度Yb=(Ts/Sf−F″ (N)
Ya、Ybの値は、それぞれ駆動部と機構部の裕度として使用できる(図16参照)。
【0092】
弁装置3の弁を開くときには、図7に示す弁を開く電動弁の動作状態において、弁体が着座しているところから離れる、引抜きトルクTqの発生する過渡的な部分で、操作力Fを測定し、その動作における必要操作力F′を、前述の拡張モデルの式(1on)を採用して、前記(a)〜(i)のステップと同様にして、判定を行う。
なお、図中点線で示す波形は、無負荷運転時のトルク特性で、流体圧が加わると、引抜きトルクTqの上昇があることが判る。
また、無負荷運転において測定された引抜きトルクTqの値によっても、将来の弁開時の必要操作力F′を、予測することができる。
【実施例2】
【0093】
次に、本発明を、バタフライ弁装置に適用した場合について説明する。
【0094】
図8は、図1〜図3に示す弁装置3の弁形式をバタフライ弁とした全開状態の弁装置3を、全閉状態に至らしめる時のトルクセンサ7が出力するトルク信号Tgと、電流計42によるモータ電流Imのタイムチャートである。
【0095】
図9は、図8における弁体4が弁体開度50%付近の拡大図である。
【0096】
図10は、全閉状態の弁装置3を、全開状態に至らしめる時のトルクセンサ7が出力するトルク信号Tgと、電流計42によるモータ電流Imのタイムチャートである。
【0097】
流体中でバタフライ弁を操作するのに必須なトルクTは、式(8)式に示すようにTd、Ts、Tb、Thの合計のとなる。なお、このバタフライ弁の操作力は、そのままトルクで測られるので、力成分はトルクとして説明する。
トルクTの値は、バタフライ弁の各開度毎に算出し、その内の最大値が、操作に必須な必要トルクTmax(前記必要操作力F′に対応する)となる。
【0098】
max=Td+Ts+Tb+Th (Nm) …(8)
max:操作に必須な必要トルク(Nm)
d:弁体が流体から受ける水力トルク(Nm)
=Ct×d3×ΔP
t水力トルク係数
d弁体直径(m)
ΔP:弁体の前後差圧(Pa)
s:全閉時弁体がシートに食い込む際のシート押圧トルク
s×π×Dd×b×(Dd/2)×0.64×μs (Nm)
Ps:弁座接触圧力(Pa)
b:弁座接触幅(m)
Ps:弁座接触圧力(Pa)
μs:弁座摩擦係数
b:軸受、グランドパッキン等の摩擦トルク
(π/4)×Dd2×ΔP×(d/2)×qb (Nm)
d:弁棒直径(m)
b:軸受け、グランドパッキン等の摩擦係数
h:静水的トルク:弁が横軸の時のみ適用
ρ×g×IxNm)
ρ:水の単位体積当たりの質量(1000kg/m3
g:重力加速度(9.8m/s2
x:円板の慣性モーメント(m4
【0099】
力トルクTdは、開度30度から50度付近で最大となる。
シート押圧トルクTcと摩擦トルクTbは、全閉位置で最大となる。
大口径の弁の場合、水力トルクTdがトルクの大部分を占めて中間開度で最大値となる。
【0100】
小さい口径では、全閉でシート押圧トルクTcと摩擦トルクTbが支配的となり最大トルクとなる。
【0101】
電動の駆動装置を選んだ場合には、弁の経年変化を見越して算出した必要トルクTmaxに余裕率1.1倍から1.3倍をかけた値を操作トルクとして機種を選択する。手動の駆動装置の場合には、必要トルク:Tmaxで選択する。
以下 、前記(a)〜(i)ステップと同様にして、判定を行う
【実施例3】
【0102】
本発明を、玉形弁装置に適用した例を説明する。
図11、図12は、図1〜図3に示す弁装置3の弁形式を、玉形弁とした電動弁1における弁開閉状態のタイムチャートを示す。
【0103】
図11は、全閉状態にある玉形弁形式の弁装置3を、全開状態に至らせる時のトルクセンサ7が出力するトルク信号Tgと、電流計42によるモータ電流Imのタイムチャートである。
【0104】
図12は、図11における弁体4が弁座2aに着座している弁体開度0%(全閉部)付近の拡大図である。
【0105】
操作力の算出方法
弁体下面よりの流体圧力P′を加える場合を例にとると、必要操作力F′は、弁体の後側が圧力零のときに、
F′=Fs1′+Fs2′+FR (N)
と表せる。
【0106】
Fs1′:内圧による弁座荷重
Fs1′=(π/4)×d2×P
d:弁座内径(m)
P:流体圧力(Pa)
【0107】
s2′:所要面圧による荷重
s2′=(π/4)×(do2−d2)K1×P
do:弁座当たり面外径 (m)
K1:面圧係数
【0108】
R′:流体に無関係な成分で、グランドパッキンの摺動抵抗
R′=K×π×dS×N×h×P0×χ (N)
K:グランドパッキンの摩擦係数
S:弁棒径 (m)
N:パッキン有効リング数
(圧縮後の相当リング数)
h:パッキン1リング高さ (m)
0:パッキン締付面圧 (Pa)
χ:ダブルパッキン係数
(シングルパッキンの場合1.0)
【0109】
以下 、前記(a)〜(i)ステップを経て、判定を行う
【実施例4】
【0110】
図13から図15は、図2における電動弁1の弁体駆動力検出センサ(トルクセンサ)7を、ステム8の直上に設けたスラストセンサ7Aに代えて、第1式の操作力Fを計測する、別の実施例を示す。
【0111】
図13は、電動弁1におけるステム8の上端部の縦断を示し、電動弁1のケーシング1aに、スラストラジアル軸受1bを介して回転自在に枢支されたウオームホイール11と一体的に結合されているドライブスリーブ44が設けられている。
【0112】
ドライブスリーブ44の軸芯には、上下に貫通する通孔45が設けられ、その通孔45の下端部は、ステム8より若干大径の通孔45aをなし、中央部は、その通孔45aより内径を大とし、内面にスプライン溝を刻設したスプライン孔45bをなし、かつ上端部は、スプライン孔45bの溝部の外径より大径のネジ径をもつ雌ネジ45cとしてある。
【0113】
中央のスプライン孔45bには、軸芯部に上下に貫通して設けた内孔に、ステム8の雄ネジ8aに螺合する雌ネジ10aを螺設したステムナット10Aを備えている。
【0114】
ステムナット10Aは、スプライン孔45bの内径よりも小径で、ドライブスリーブ44の下端通孔45aの上端縮径段部45dに、下面が当接係合する縮径段部46を、下端に備え、その縮径段部46の上方に、外径部をスプライン孔45bに係合するスプライン軸47を備え、かつスプライン軸47の上端は、スプライン孔45bの上端より若干上方に突出されてある。
【0115】
ドライブスリーブ44における上方の雌ネジ45cには、ステムナット10Aの上端面に下端面を当接して、ステムナット10Aの上方移動を係止するロックナット48の拡径雄ネジ48aが螺合している。
【0116】
ロックナット48は、ステム8の径より大径の通孔48bを備え、ステムナット10Aの上方において、上下に移動するステム8に挿通されている。
【0117】
ロックナット48における拡径雄ネジ48aより上方には、雄ネジ48aの外径より小径の外径を有する筒部48cが突出しており、その筒部48cの中央部には、拡径雄ネジ48aのネジ勾配とは逆勾配の逆雄ネジ48dが螺設されている。
【0118】
逆雄ネジ48dには、その逆雄ネジ48dのネジ勾配に合致する勾配の逆雌ネジ49aを備えた締付けナット49が螺合し、締付けナット49は、その外周部をドライブスリーブ44の上端44eに当接しうる外径をなしている。
【0119】
締付けナット49の上面には、締付け治具などを係合する、複数の突起49bが設けられている。
また、ロックナット48の上方には、これを回転させるためのハンドルを係合する孔48eが設けられている。
【0120】
ロックナット48の拡径雄ネジ48aの下方であって、ステムナット10Aの上端面に当接する下端面より少し上方には、通孔48bとの肉厚を薄くするための軸芯と同心の円周溝48fが設けられている。
【0121】
ステムナット48に設けた円周溝48fには、適数の歪みセンサ50を設けて、弁体駆動力検出センサ7Aが構成されている。
【0122】
ステムナット10Aは、ロックナット48を下方にねじ込むことにより、ドライブスリーブ44における通孔45中央部のスプライン孔45bにおいて、軸線方向に挾持されている。
【0123】
その際の挾持圧力は、弁体駆動力検出センサ7Aによって計測され、ステム8にスラスト力が加わらないとき、スラスト力零に校正される。スラスト力の実効値とスラスト信号Sgの検出値は、予め校正されている。
【0124】
ステムナット10Aに、予め予圧を加えた状態で、締付けナット49を、ロックナット48を上方に引きあげる方向に回転させて、ロックナット48をドライブスリーブ44の上端に押圧して固定する。
【0125】
ロックナット48は、ドライブスリーブ44の螺合部と、締付けナット49の螺合部のネジ勾配を逆にしてあるので、ロックナット48のドライブスリーブ44における位置は、容易に変動することはない。
【0126】
ドライブスリーブ44が、ウオームホイール11の回転に伴ってステム8を下方へ送ると、この際にステム8に加わるスラストFの反力が、ステムナット10Aとロックナット48の当接部に作用する。ステムナット10Aの上方移動は自由であり、ロックナット48は固定状態にあるので、ステムナット10Aにおける圧力は、円周溝48fに掛り、歪みセンサ50を歪ませて、弁体駆動力検出センサ7Aにスラスト信号Sgを出力する。
【0127】
図14は、図4と同様に、電動弁1が全開から全閉に至る間に、上記スラストセンサ7Aが出力するスラスト信号Sgと、電流計42によるモータ電流Imのタイムチャートである。
【0128】
図15は、図14における弁体4が弁座2aに着座する弁体開度0%(全閉部)付近の拡大図である。
【0129】
なお、スラスト信号Sgは、弁体4を閉じる時に要する操作力Fと同一次元で、同一の力を表す(Sg=F)ので、以下スラスト力を記号Fで示す。
【0130】
図14と図15は、図4と図5の内容と同様に、トルクをスラストに置きかえたものである。
この実施例に示すように、弁体4を直接駆動するスラスト力を直接測定すると、トルクを操作力に変換するステムファクタSfを考慮しなくて済むので、演算処理やデータベースの構造を簡単にすることができる。
【実施例5】
【0131】
図16は、電動弁1の開閉操作時における駆動部余裕度Yaと、機構部余裕度Ybの変化を模式的に示すタイムチャートである。
【0132】
電動弁1は、製造時を最大の性能保持時点として、時間経過に伴い、暫時に性能を劣化していく。
【0133】
電動弁1に要求される性能は、設計条件下において、必要操作力を発揮して、全閉又は全開操作を確実に行う能力を維持することにあり、その能力を劣化させる要因は、機構部分の劣化と電動機の劣化に分けられ、製造時、出荷時、最終作動時と、それぞれの時点で発揮した能力による劣化グラフを描いて、最終駆動時以降の性能を予測することは、或る程度可能である。
【0134】
しかし、機構部及び電動機の劣化要因のパラメータが多く、使用環境の履歴、駆動履歴等、記録蓄積の困難な要因もあり、しかも、各パラメータの劣化特性にはノンリニアなものもあり、仮想線で示すような各種の劣化特性を延長したグラフからは、将来予測される設計条件下での確実な動作を保証することはできない。
【0135】
そのため本発明においては、電動弁の作動時に、現実の必要操作力 F′を実測して求め、その値から、その作動状況における、差圧ΔPに比例して弁体を駆動する駆動力成分FΔP′と、流体の圧力Pに比例して弁棒を弁箱から押し出す推力成分FP′と、流体の状態に無関係な摩擦抵抗R等による摺動抵抗力成分FR′を求め、それらの算出値から、最も苛酷な状況において所要される設計上の必要操作力F″と最大操作力Fmaxを算出して、電動弁1に予め設定された、モータの駆動を停止する限動設定値の設定トルクTsと比較し、駆動部余裕度Yaと機構部余裕度Ybを求めている。
【0136】
電動弁1の作動を複数回行わせることにより、駆動部余裕度Yaと機構部余裕度Ybの、変化率を求めることができ、最大操作力Fmax、必要操作力F″の各予想曲線と設定トルクTsの交叉点Pを予測して、電動弁1の動作限界を予測することができる。
このように、電動弁1の今後の動作機会において、どの程度の期間、設計操作力を出し続けられるか否かを判定することができる。
【0137】
なお、上述の計算式において、弁装置3に負荷の掛かっていない無負荷状態において、グランドパッキン抵抗を含めた弁装置3の抵抗を、電動弁1の作動の都度求めることができる。
【0138】
この抵抗値を、設計初期値と比較して、機構部の劣化を判定することもできる。
また、グランドボルトを片締した場合の、パッキンが劣化した場合にも、グランド抵抗が大きくなり、前回駆動時と最終駆動時のデータを比較して、機構部の劣化の度合を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】弁形式を仕切弁とした本発明の一実施形態の電動弁の要部を切欠して示す正面図である。
【図2】図1に示す電動弁の分解斜視図である。
【図3】図2に示す、トルクセンサの拡大縦断面図である
【図4】仕切弁装置による電動弁を、全開状態から全閉状態に至る時のトルクセンサが出力するトルク信号と、電流計によるモータ電流のタイムチャートである。
【図5】図4における弁体が弁座に着座している弁体開度0%(全閉部)付近を、拡大図して示す、トルクセンサと電流センサのタイムチャートである。
【図6】仕切弁装置による電動弁を、全閉状態から全開状態に至る時のトルクセンサが出力するトルク信号と、電流計によるモータ電流のタイムチャートである。
【図7】図6における弁体が弁座に着座している弁体開度0%(全閉部)附近を、拡大図して示す、トルクセンサと電流センサのタイムチャートである。
【図8】バタフライ弁による電動弁を、全開状態から全閉状態に至らしめる時のトルクセンサが出力するトルク信号と、電流計によるモータ電流のタイムチャートである。
【図9】図8における弁体開度50%付近を、拡大して示す、トルクセンサと電流センサのタイムチャートである。
【図10】バタフライ弁による電動弁を、全閉状態から全開状態に至る時のトルクセンサが出力するトルク信号と、電流計によるモータ電流のタイムチャートである。
【図11】ボール弁としてなる電動弁を、全閉状態から全開状態に至る時のトルクセンサが出力するトルク信号と、電流計によるモータ電流のタイムチャートである。
【図12】図11における弁体が弁座に着座している弁体開度0%(全閉部)付近を、拡大図して示す、トルクセンサと電流センサのタイムチャートである。
【図13】電動弁の弁体駆動力検出センサを、ステムの直上に設けたスラストセンサに代えた別の実施例を示す、ステムの上端部の縦断面図である。
【図14】図13に示すスラストセンサを備える仕切弁装置による電動弁を、全開状態から全閉状態とする時のスラストセンサが出力するスラスト信号と、電流計によるモータ電流のタイムチャートである。
【図15】図14における弁体が弁座に着座している弁体開度0%(全閉部)付近を、拡大図して示す、スラストセンサと電流センサのタイムチャートである。
【図16】電動弁の開閉操作時における裕度の変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図17】従来の操作力の算出方法説明するための、仕切弁の縦断面を示す模式図である。
【符号の説明】
【0140】
電動弁
制御流路
弁装置
3a 弁箱
弁体
電動モータ
伝動機構
弁体駆動力検出センサ(トルクセンサ、)
7A 弁体駆動力検出センサ(スラストセンサ)
ステム(弁棒)
8a 雄ネジ
ステムネジ
ステムナット
10A ステムナット
ウオームホイール
ウオーム
ウオーム軸
出力軸
歯車
歯車
減速歯車手段
弁全閉検出リミットスイッチ
弁全開検出リミットスイッチ

軸端
トルクバネ軸
対向軸端
拡径軸
内腔
スラストラジアル軸受

外側段部
バネ押し板
板バネ
トルクバネ
バネ押し板
予圧ナット
壁面
押さえ板
ネジ条
ピニオン
トルクリミットスイッチ
歪みセンサ
歪み検知機
動力線
電流計
弁体位置検出手段
ドライブスリーブ
44e 上端
通孔
45a 通孔
45b スプライン孔
45c 雌ネジ
45d 縮径段部
縮径段部
スプライン軸
ロックナット
48a 拡径雄ネジ
48b 通孔
48c 筒部
48d 逆雄ネジ
締付けナット
49a 逆雌ネジ
48f 円周溝
48e 孔
歪みセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントにおける制御流路に配設した弁装置と、弁装置を開閉駆動する電動モータと、その電動モータにより弁体を開閉移動する伝動機構と、伝動機構に連係して弁体の開閉に要する駆動力を電気的に検出する弁体駆動力検出センサを備える電動弁において、
プラントにおける制御流路を、電動弁により実際に開路もしくは閉路した実開閉時に、弁装置における弁開閉区間の弁開閉度に対応する弁体駆動力を、弁体駆動力検出センサにより検出し、弁体が閉または開する直前の過渡データ生成区間を省いた弁開閉区間における弁体駆動力の中から、弁体を駆動するのに要した最大の駆動力を、そのときの流体圧力と、弁全閉時の前後の差圧とを合算して、当該電動弁における実開閉時の必要操作力として注出し、この必要操作力を、弁装置の構造型式に応じた必要操作力計算式に当て嵌めて、現在の実開閉時における制御流路の圧力環境の基に、当該電動弁において経時的に変動するパラメータの現在値を求め、これにより求められたパラメータの現在値を、今後の動作時において、制御流路に想定される圧力環境の基に、前記計算式に当て嵌めて、現時点で得られる最大操作力を求め、さらにこの最大操作力と予め設計時に求めた設計操作力との差を、操作力の余裕度として求め、当該電動弁の以後の動作時において、如何なる期間に亘って、設計操作力を出し続けられるか否かを判定することを特徴とするプラントにおける電動弁の動作性能予測方法。
【請求項2】
弁体駆動力検出センサは、伝動機構において、弁棒に直結してウオームホイールに噛合するウオームの軸線方向移動に対応するトルク値を検出するトルクセンサである、請求項1記載のプラントにおける電動弁の動作性能予測方法。
【請求項3】
弁体駆動力検出センサは、伝動機構において、弁棒に直結して、弁棒に加わるスラスト値を検出するスラストセンサである、請求項1記載のプラントにおける電動弁の動作性能予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−180936(P2012−180936A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−116053(P2012−116053)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2007−231770(P2007−231770)の分割
【原出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【出願人】(000228419)日本ギア工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】