説明

プリフォームの製造装置および製造方法

【課題】プリフォームの賦形性を良好にでき、しかも生産性に優れるプリフォームの製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のプリフォームの製造装置1は、底面11および底面11に近づくにつれて開口面積が小さくなるように傾斜している側面12でキャビティ13が形成された雌型10と、型が閉じられたときに底面11に当接する上面21、および、型が閉じられたときに雌型10の側面12との間に間隔が生じるように対向する複数の側面22を有する雄型20とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製成形品を得るための成形材料であるプリフォームを製造する製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂の成形品を作製する方法として、例えば、強化繊維に未硬化樹脂が含浸されたシート状のプリプレグを賦形してプリフォームを製造し、このプリフォームを成形する方法が知られている。
プリフォームを製造する方法としては、例えば、プリプレグを複数枚積層し、そのプリプレグの周縁部を手作業であるいは成形機により折曲し、賦形する方法が知られている(特許文献1)。また、プリプレグが複数枚積層されたプリフォーム基材を、所定の凸型形状を有するプリフォームツール上に配置し、弾性体膜によってプリフォーム基材をプリフォームツール上に押し付け、減圧引きしながら賦形する方法が知られている(特許文献2)。
しかしながら、特許文献1,2に記載の方法では、賦形性が低く、得られたプリフォームが元のプリプレグの形状に戻ってしまうことがあった。
【特許文献1】再公表WO2004/018186号公報
【特許文献2】特開2006−7492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、プリプレグを雌型と雄型とにより予備賦形した後、得られた予備賦形品を脱気し、内部の気泡を除去して、プリフォームの賦形性を向上させる方法が考えられる。このプリフォームの製造方法では、特許文献1,2に記載の方法よりもプリフォームの賦形性が良好である。
ところが、予備賦形の際に、雌型のキャビティの側面と雄型の側面との間に挟まれたプリプレグによって、雄型の移動が妨げられることがあった。その結果、雄型の上面がプリプレグを充分に押圧せず、得られるプリフォームの賦形性が不充分になることがあった。この問題はプリプレグを深絞りに賦形する場合にとりわけ顕著であった。
また、脱気工程を有するプリフォームの製造方法では、予備賦形品を脱気用の装置に移動させなければならず、工程数が多いため、生産性が高いとはいえなかった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、プリフォームの賦形性を良好にでき、しかも生産性に優れるプリフォームの製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]底面とこの底面に近づくにつれて開口面積が小さくなるように傾斜している複数の側面とでキャビティが形成された雌型と、
型が閉じられたときに前記底面に当接する上面、および、型が閉じられたときに雌型の側面との間に間隔が生じるように対向する複数の側面を有する雄型とを具備することを特徴とするプリフォームの製造装置。
[2]底面とこの底面に近づくにつれて開口面積が小さくなるように傾斜している複数の側面とでキャビティが形成された雌型と、型が閉じられたときに前記底面に当接する上面、および、型が閉じられたときに雌型の側面との間に間隔が生じるように対向する複数の側面を有する雄型とを有する型を用い、
プリプレグとこのプリプレグの雄型側に重ねられたフィルムとを、雌型と雄型との間に配置し、
雌型と雄型とを閉じて、雌型の底面と雄型の上面との間にプリプレグとフィルムとを挟み、
次にフィルムと雌型との間を減圧引きして、プリプレグを賦形することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明のプリフォームの製造装置および製造方法は、プリフォームの賦形性を良好にでき、しかも生産性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
<プリフォームの製造装置>
本発明のプリフォームの製造装置(以下、製造装置と略す。)の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の製造装置を示す。この製造装置1は、雌型10と、雄型20と、加熱機30とを具備して、プリプレグを賦形する装置である。
【0007】
本実施形態例における雌型10は、略正方形の底面11と、底面11を囲むように形成された側面12とでキャビティ13が形成され、側面12が底面11に近づくにつれて開口面積が小さくなるように傾斜している型枠である。また、本実施形態例における雌型10は固定された下型である。
【0008】
本実施形態例における雄型20は、型が閉じされたときに雌型10の底面11を押圧する略正方形の上面(凸面)21と、型が閉じられた際に雌型10の側面12との間に間隔が生じるように対向し、鉛直方向に沿って形成された側面22とを有する型枠である。また、本実施形態例における雄型20は上下方向に移動可能な上型である。
【0009】
加熱機30は、賦形前にプリプレグを軟化させるために加熱するものである。加熱方式としては、例えば、熱風式、赤外線式などが挙げられ、中でも、迅速に加熱できる点では、赤外線式が好ましい。
また、本実施形態例における加熱機30は、プリプレグを加熱するときに、型開きした雌型10と雄型20の間に位置し、それ以外のときには、雌型10と雄型20との間に位置しないように移動するようになっている。
【0010】
また、本実施形態例の製造装置1では、図2に示すように、一端が雌型10に固定され、他端がキャビティ13上に配置された板ばね40を備えてもよい。板ばね40は、その先端が、下降中の雄型20の側面22に達するように取り付けられる。
【0011】
<プリフォームの製造方法>
本発明のプリフォームの製造方法(以下、製造方法と略す。)の一実施形態例について説明する。
本実施形態例の製造方法は、上記製造装置1を用いてプリフォームを製造する方法であり、雌型10と雄型20との間に、プリプレグおよび該プリプレグの雄型側に重ねられたフィルムを配置する工程と、雌型10の底面11と雄型20の上面21との間にフィルムおよびプリプレグを挟む工程と、フィルムと雌型10との間を減圧引きして、プリプレグを賦形する工程とを有する方法である。
【0012】
具体的には、まず、図3に示すように、雌型10のキャビティ13上にプリプレグ50を配置する。
ここで、プリプレグ50の形態は、強化繊維が一方向に引き揃えられたUDプリプレグであってもよいし、強化繊維が製織された織物プリプレグであってもよい。
プリプレグ50の形状としては、例えば、三角形状、矩形状、菱形状等の多角形状、円形状、楕円形状、扇形状などが挙げられるが、目的とするプリフォームの形状に応じて適宜選択すればよい。
プリプレグ50の周縁部、特に、図2に示すような隅部51には、賦形後に余剰部分が生じないように切り込み52を形成してもよい。
【0013】
プリプレグ50を構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、高強度ポリエステル繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、ナイロン繊維などが挙げられる。これらの中でも比強度および比弾性に優れることから、炭素繊維が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、硬化後の強度を高くできることから、エポキシ樹脂が好ましい。
プリプレグ50中には、硬化剤、離型剤、脱泡剤、紫外線吸収剤、充填材などの各種添加剤などが含まれてもよい。
【0014】
プリプレグ50の積層枚数としては2〜20枚であることが好ましい。プリプレグ50の積層枚数が2枚以上であれば、充分な強度の成形品を得ることができ、20枚以下であれば、成形品のコストを抑えることができる。
【0015】
製造装置1が板ばね40を備え、プリプレグ50の隅部51に切り込み52を形成した場合には、図2に示すように、板ばね40を、プリプレグ50の、切り込み52の片側の近傍部53(以下、切り込み近傍部53と略す。)の下に配置する。
板ばね40を上記のように配置することにより、雄型20がプリプレグ50を雌型10のキャビティ13内に押し込む際に、板ばね40がプリプレグ50の切り込み近傍部53を雄型20に押圧するようになる。切り込み近傍部53を雄型20に押圧することによって、プリプレグ50の切り込み近傍部53を、もう一方の片側の切り込み近傍部54より先に折曲させることができる。したがって、一方の切り込み近傍部53を他方の切り込み近傍部54に重ねることができる。
【0016】
次いで、図4に示すように、プリプレグ50の上に、例えばナイロン製のフィルム60を配置する。その際、フィルム60より内側の部分に外側から空気が侵入しないように、フィルム60の縁を雌型10の台座部14にシーラント61により固定する。
【0017】
その後、図5に示すように、加熱機30をプリプレグ50と雄型20との間に配置させて、プリプレグ50を加熱する。プリプレグ50の加熱温度は40〜80℃であることが好ましい。加熱温度を40℃以上にすれば、所定のプリフォームの形状に容易に成形でき、80℃以下にすれば、プリフォーム製造時の硬化性樹脂の硬化を防ぐことができる。
【0018】
次いで、図6に示すように、雄型20を下降させて、雌型10と雄型20とを閉じ、雄型20の上面21を雌型10の底面11に押圧させる。これにより、雌型10の底面11と雄型20の上面21との間にフィルム60およびプリプレグ50を挟む。
押圧時の圧力は0.01〜0.1MPaであることが好ましい。圧力を0.01MPa以上にすれば、所定のプリフォームの形状に容易に成形でき、0.1MPa以下にすれば、製造装置1を単純化できる。
【0019】
次いで、図7に示すように、フィルム60と雌型10との間を減圧引きして、フィルム60を雌型10に張り付くように変形させる。フィルム60と雌型10との間を減圧引きする方法としては、例えば、雌型10のキャビティ13に接続される孔をあらじめ雌型10に形成しておき、その孔を介して、真空ポンプにより減圧引きする方法、フィルム60の縁と雌型10の台座部14との間に、フィルム60の内側と外側とを連通させる配管を差し込み、その配管を介して、真空ポンプにより減圧引きする方法などが挙げられる。
上記のようにフィルム60を雌型10に張り付くように変形させることにより、プリプレグ50の、雄型20によって押圧されていない部分を、雌型10の側面12に押し付けて、密着させることができる。その結果、プリプレグ50を雌型10の側面12の形状に沿って賦形することができる。
【0020】
上述したプリフォームの製造装置1および製造方法では、閉じられた際に雌型10の側面12と雄型20の側面22との間に間隔が生じるようになっているため、雌型10の側面12と雄型20の側面22にプリプレグ50が挟まれず、雄型20の移動が妨げられにくい。そのため、雄型20の上面21がプリプレグ50を充分に押圧することができる。
また、雄型20の上面21によりプリプレグ50を押圧して固定した状態で真空成形するから、位置ずれを防止しながら賦形できる。しかもプリプレグ50が積層体である場合には、プリプレグ50,50間の気泡を除去できる。したがって、上記製造装置1および製造方法によれば、プリフォームの賦形性を良好にできる。
このような製造装置1および製造方法は、プリプレグを深絞りに賦形する場合にとりわけ効果を発揮する。
また、上記製造装置1および製造方法では、賦形と脱気とを同時に行うため、生産性に優れる。
【0021】
なお、本発明は、上記実施形態例に限定されない。例えば、上記実施形態例では、雄型20の側面22は鉛直方向に沿って形成されていたが、閉じられた際に雌型10の側面12との間に間隔が生じるようにすれば、鉛直方向に沿って形成されていなくてもよい。
また、雌型10の底面11および雄型20の上面21の形状は、得ようとするプリフォームの形状に応じて選択すればよく、例えば、三角形状、矩形状、菱形状等の多角形状、円形状、楕円形状、扇形状などが挙げられる。雄型20の上面21は雌型10の底面11と同一の形状である必要はなく、プリプレグ50が位置ずれしないように押圧できれば特に制限はない。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
本実施例では、炭素繊維を一方向に引き揃えた一方向材にエポキシ樹脂を加熱含浸させて、一方向プリプレグを得た。このプリプレグを2枚重ねてプリプレグ積層体を得た。その際、炭素繊維の方向が交互に直交するようにプリプレグを積層した。
次いで、上記プリプレグ積層体を略正方形に裁断し、また、隅部に楔形状の切り込みを形成した。
【0023】
次いで、切り込みを形成したプリプレグ積層体(以下、「プリプレグ積層体」のことも説明の便宜上「プリプレグ」という。)を、図1に示す製造装置1における雌型10上に載せた。その際、プリプレグ50の四隅を雌型10の開口部の四隅に対応させ、また、プリプレグ50の切り込み近傍部の下に、一端が雌型10に取り付けられた板ばね40(図2参照)を配置させた。
さらに、そのプリプレグ50の上に、切り込みを形成したプリプレグ50を3枚積層した。その際にも、プリプレグ50の切り込み近傍部の下に板ばね40を配置させ、さらに、各プリプレグ50の切り込みが順次ずれるように、プリプレグ50を配置した。次いで、プリプレグ50の上に、ナイロン製のフィルム60を配置し、そのフィルム60の縁を雌型10の台座部14に固定した(図4参照)。
次いで、図5に示すように、赤外線ヒータ(加熱機30)をプリプレグ50と雄型20との間に配置させ、プリプレグ50を60℃になるように加熱して軟化させた後、雄型20を下降させ、プリプレグ50を雌型10内に押し込んだ。このとき、板ばね40によって、各プリプレグ50の切り込み近傍部を雄型20の側面22に押圧させた。
次いで、図6に示すように、雌型10と雄型20とを閉じて、雄型20の上面21を雌型10の底面11に押圧させて、雌型10の底面11と雄型20の上面21との間にフィルム60およびプリプレグ50を挟んだ。
次いで、図7に示すように、フィルム60と雌型10との間を減圧引きしてフィルム60を雌型10に張り付かせるように変形させることによって、プリプレグ50の、雄型20によって押圧されていない部分を、雌型10の側面12に密着させた。このようにしてプリプレグ50を雌型10の側面12の形状に沿って賦形して、プリフォームを得た。
その後、雌型10および雄型20に空気を吹き付けて冷却した後、雄型20を上昇させて、得られたプリフォームを雌型10のキャビティ13から取り出した。得られたプリフォームの賦形性は良好であった。
【0024】
次いで、得られたプリフォームを圧縮成形用の雌型内に配置し、これを雄型で挟み、加熱加圧して、繊維強化樹脂製の成形品を得た。
賦形性に優れたプリフォームから得た上記成形品は偏肉が緩和されており、その結果、強度、外観に優れていた。また、成形時の安定性にも優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のプリフォームの製造装置の一実施形態例の概略構成図である。
【図2】プリプレグを雌型の上に配置した際のプリプレグの隅部付近を示す上面図である。
【図3】本発明のプリフォームの製造方法の一実施形態例における一工程を示す図である。
【図4】本発明のプリフォームの製造方法の一実施形態例における一工程を示す図である。
【図5】本発明のプリフォームの製造方法の一実施形態例における一工程を示す図である。
【図6】本発明のプリフォームの製造方法の一実施形態例における一工程を示す図である。
【図7】本発明のプリフォームの製造方法の一実施形態例における一工程を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 製造装置(プリフォームの製造装置)
10 雌型
11 底面
12 側面
13 キャビティ
14 台座部
20 雄型
21 上面
22 側面
30 加熱機
40 板ばね
50 プリプレグ
60 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面とこの底面に近づくにつれて開口面積が小さくなるように傾斜している複数の側面とでキャビティが形成された雌型と、
型が閉じられたときに前記底面に当接する上面、および、型が閉じられたときに雌型の側面との間に間隔が生じるように対向する複数の側面を有する雄型とを具備することを特徴とするプリフォームの製造装置。
【請求項2】
底面とこの底面に近づくにつれて開口面積が小さくなるように傾斜している複数の側面とでキャビティが形成された雌型と、
型が閉じられたときに前記底面に当接する上面、および、型が閉じられたときに雌型の側面との間に間隔が生じるように対向する複数の側面を有する雄型とを有する型を用い、
プリプレグとこのプリプレグの雄型側に重ねられたフィルムとを、雌型と雄型との間に配置し、
雌型と雄型とを閉じて、雌型の底面と雄型の上面との間にプリプレグとフィルムとを挟み、
次にフィルムと雌型との間を減圧引きして、プリプレグを賦形することを特徴とするプリフォームの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−148931(P2009−148931A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327179(P2007−327179)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】