説明

プロトン伝導性高分子材料並びにこれを用いた固体電解質膜、電気化学セル及び燃料電池

【課題】プロトン伝導性と耐久性に優れたプロトン伝導性材料および固体電解質膜を提供し、さらに、電流特性と信頼性に優れた電気化学セルおよび燃料電池を提供する。
【解決手段】キノキサリン系化合物の構造と、イミダゾール系化合物の構造と、プロトン放出機能を持つ置換基とを有するプロトン伝導性高分子材料、この材料からなる固体電解質膜、並びにこの材料を用いた電気化学セル及び燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池や電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ、コンデンサなどの電気化学セル及び燃料電池、並びにこれらに使用されるプロトン伝導性高分子材料及びこれを用いた固体電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体電解質は、例えば固体高分子型燃料電池の電解質膜として、ナフィオン(登録商標、パーフルオロスルホン酸型イオン交換膜)等のプロトン伝導性高分子固体電解質膜が知られている(例えば特開平7−22034号公報(特許文献1)、特開平7−326363号公報(特許文献2))。
【0003】
また、特開平7−320780号公報(特許文献3)には、リチウム二次電池の固体電解質として、ポリイミダゾール等の高分子と電解質塩との複合体からなる固体電解質が開示されている。この複合体は、高分子の溶液と電解質塩を混合し乾燥することにより得られている。
【0004】
また、特開2003−242833号公報(特許文献4)には、キノキサリン構造を含む重合体と酸性化合物とを含有するプロトン伝導性固体電解質及びこれを含む固体電解質膜、並びにこの電解質膜を用いた燃料電池、電気二重層コンデンサ及びエレクトロクロミック素子が開示されている。このプロトン伝導性固体電解質は、キノキサリン構造をもつ重合体にプロトンを放出することが可能な酸性化合物(無機酸、有機酸、酸型モノマー、酸型高分子)を含有させることによって、プロトン伝導性に優れた固体高分子電解膜を実現している。例えば、実施例として、ポリフェニルキノキサリンを酸型モノマー(パラスチレンスルホン酸)溶液に浸漬させ、この酸型モノマーを重合させて得た電解質膜と、電解液として20%硫酸水溶液、ポリアニリン電極、ポリピリジン−2,5−ジイル電極を用いた二次電池が記載されている。また、ポリフェニルキノキサリンを酸型モノマー(ビニルスルホン酸)溶液に浸漬させ、この酸型モノマーを重合させて得た電解質膜を用いた燃料電池が記載されている。
【特許文献1】特開平7−22034号公報
【特許文献2】特開平7−326363号公報
【特許文献3】特開平7−320780号公報
【特許文献4】特開2003−242833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、プロトン伝導性と耐久性に優れたプロトン伝導性高分子材料および固体電解質膜を提供することにあり、さらに、電流特性と信頼性に優れた電気化学セルおよび燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、キノキサリン構造とイミダゾール構造と、プロトン放出機能を持つ置換基とを有するプロトン伝導性高分子材料は、優れたプロトン伝導性を示し、高温下においても耐久性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、キノキサリン系化合物の構造と、イミダゾール系化合物の構造と、プロトン放出機能を持つ置換基を有することを特徴とするプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0008】
また本発明は、前記キノキサリン系化合物の構造が、下記一般式(1)で表されるキノキサリン構造である上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中のRは、その少なくとも一つが主鎖または側鎖に結合する基、あるいは少なくとも二つが主鎖を形成する基であり、他は、それぞれ独立に、前記のプロトン放出機能を持つ置換基、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。)
また本発明は、前記キノキサリン系化合物の構造が、下記一般式(2)で表されるキノキサリン構造単位である上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中のRは、それぞれ独立に、前記のプロトン放出機能を持つ置換基、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。)
また本発明は、前記キノキサリン系化合物の構造を持つ単位と、前記イミダゾール系化合物の構造を持つ単位と、これらの単位の少なくともいずれかに結合するプロトン放出機能を持つ置換基とを有し、且つ前記キノキサリン系化合物の構造のキノキサリン縮合環が主鎖を構成している重合体を含む上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0013】
また本発明は、前記プロトン放出機能を持つ置換基が、少なくとも前記イミダゾール系化合物の構造のイミダゾール環窒素原子に結合している上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0014】
また本発明は、前記キノキサリン系化合物の構造を持つ単位の連鎖と、前記イミダゾール系化合物の構造を持つ単位の連鎖と、これらの単位の少なくともいずれかに結合するプロトン放出機能を持つ置換基とを有するブロック共重合体を含む上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0015】
また本発明は、前記キノキサリン系化合物の構造を持つ単位を有する主鎖に対して、前記イミダゾール系化合物、あるいは当該化合物の構造を持つ側鎖が結合した重合体を含む上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0016】
また本発明は、前記キノキサリン系化合物の構造を持つ単位を有する高分子化合物と、前記イミダゾール系化合物の構造を持つ単位を有する高分子化合物と、これらの高分子化合物の少なくともいずれかに結合するプロトン放出機能を持つ置換基とを含む上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0017】
また本発明は、前記イミダゾール系化合物の構造が、ベンズイミダゾール骨格またはベンズビスイミダール骨格を有する上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0018】
また本発明は、前記イミダゾール系化合物の構造が、下記一般式(3)〜(5)で表されるベンズイミダゾール骨格を持つ単位、下記一般式(6)で表されるベンズビスイミダゾール骨格を持つ単位、下記一般式(7)で表されるビニルイミダゾール単位から選ばれる少なくとも1種を含む上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
(式中のRは、それぞれ独立に、前記のプロトン放出機能を持つ置換基、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。Zは、前記の置換基を有してもよいアリーレン基を表す。)
また本発明は、下記一般式(8)で表される、キノキサリン構造とイミダゾール構造とプロトン放出機能を持つ置換基とを持つ単位を有する重合体を含む上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0025】
【化8】

【0026】
(式中のRは、少なくとも1つがプロトン放出機能を持つ置換基であり、他は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。Xは置換基を有してもよいアリーレン基を表す。Yは、それぞれ独立に、ヘテロ原子、スルホニル基、メチレン基、炭素数が2〜20の置換基を有してもよいアルキレン基、炭素数が6〜20の置換基を有してもよいアリーレン基を表し、mは0〜5の整数を表す。)
また本発明は、前記プロトン放出機能を持つ置換基が、スルホン酸基又はスルホン酸基を有する置換基である上記のプロトン伝導性高分子材料に関する。
【0027】
また本発明は、上記のプロトン伝導性高分子材料を含む電極活物質に関する。
【0028】
また本発明は、上記のプロトン伝導性高分子材料を含む固体電解質に関する。
【0029】
また本発明は、さらに酸性化合物を含む上記の固体電解質に関する。
【0030】
また本発明は、前記酸性化合物が、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、ほう酸、四フッ化ほう酸、リン酸、六フッ化リン酸、プロピオン酸、フッ化プロピオン酸、酪酸、フッ化酪酸からなる群から選択される少なくとも一種以上である上記の固体電解質に関する。
【0031】
また本発明は、前記酸性化合物が、スルホン酸系化合物、カルボン酸系化合物及びリン酸系化合物からなるモノマー並びにこれらのポリマーからなる群から選択される少なくとも1種以上である上記の固体電解質に関する。
【0032】
また本発明は、上記の固体電解質からなる固体電解質膜に関する。
【0033】
また本発明は、膜の厚みが10〜200μmである上記の固体電解質膜に関する。
【0034】
また本発明は、上記のプロトン伝導性高分子材料を電極活物質として用いた電気化学セルに関する。
【0035】
また本発明は、一対の電極と、これらの電極の間に設置された上記の固体電解質膜とを有する電気化学セルに関する。
【0036】
また本発明は、プロトン源を含む電解質を含有し、充放電に伴う酸化還元反応において電荷キャリアとしてプロトンのみが作用するように動作し得る上記の電気化学セルに関する。
【0037】
また本発明は、燃料極と、空気極と、これらの電極の間に設置された上記の固体電解質膜とを有する燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0038】
ポリキノキサリンは耐熱性に優れたポリマーであり、その分解温度はTG(Thermogravimetry)測定によると大気下において500℃以上であることが実測されている。さらに、そのキノキサリン骨格は、プロトン親和性が高く、酸性下においても耐酸化還元性に優れている。一方、イミダゾール系化合物は、酸性下においてその骨格自体がプロトン伝導性を有することが知られている。また、イミダゾール系化合物の中でもポリベンズイミダゾールは、耐熱性が高く、ポリキノキサリンと同程度であることが実測されている。
【0039】
本発明のプロトン伝導性高分子材料および固体電解質膜は、このように耐熱性と耐酸化還元性に優れ、プロトン親和性を持つキノキサリン構造と、プロトン伝導性を有するイミダゾール構造とを有するため、高いプロトン伝導性とともに、酸性雰囲気下においても良好な耐久性、すなわち高い信頼性を実現することができる。さらに、プロトン放出機能を持つ置換基を有するため、優れたプロトン伝導性を実現することができる。
【0040】
本発明のプロトン伝導性高分子材料および固体電解質膜は、その製造において、重合形式を任意に選択することが可能であり、ランダム構造体や、ブロック構造体、グラフト構造体を形成することができる。また、キノキサリン構造の単位とイミダゾール構造の単位の組成を任意に設定することが可能であり、使用環境や使用目的に応じた特性を得ることができる。
【0041】
また、重合体を製造した後に、イミダゾール環にプロトン放出機能を持つ置換基を容易に導入することができる。従って、重合過程において、例えば原料モノマーに結合したスルホン酸基による重合性の低下の影響を受けず、十分な分子量のポリマーを製造することができるため、耐熱性と強度に優れた電解質膜を形成できる。
【0042】
また、製造時あるいは製造後に、スルホン酸基の結合形態およびスルホン化度を制御することができるため、高温においても良好なプロトン伝導度を長期維持できるプロトン伝導性高分子材料および固体電解質膜を提供できる。
【0043】
本発明のプロトン伝導性高分子材料および固体電解質膜を用いることによって、電流特性や信頼性に優れた、二次電池や電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ、コンデンサ等の電気化学セルおよび燃料電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明のプロトン伝導性高分子材料は、キノキサリン系化合物の構造と、イミダゾール系化合物の構造と、プロトン放出機能を持つ置換基を有することを特徴とする。
【0045】
本発明のプロトン伝導性高分子材料は、例えば以下の連鎖構造を有するプロトン伝導性高分子化合物を含むことができる。プロトン放出機能を持つ置換基は、キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位とイミダゾール系化合物の骨格を持つ単位の少なくともいずれかに結合している。
(a)キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位とイミダゾール系化合物の骨格を持つ単位とを有するランダム共重合構造。
(b)キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位の連鎖と、イミダゾール系化合物の骨格を持つ単位の連鎖とが結合したブロック構造。
(c)キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位とイミダゾール系化合物の骨格を持つ単位とを有するランダム共重合連鎖と、キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位の連鎖と、イミダゾール系化合物の骨格を持つ単位の連鎖とが結合したブロック構造。
(d)キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位を含む幹高分子(主鎖)に対し、イミダゾール系化合物の骨格を持つ側鎖(分岐鎖)またはイミダゾール系化合物が結合したグラフト構造。
(e)キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位の連鎖と、イミダゾール系化合物の骨格を持つ単位の連鎖とを有するブロック重合体からなる幹高分子(主鎖)に対し、イミダゾール系化合物の骨格を持つ側鎖(分岐鎖)またはイミダゾール系化合物が結合したグラフト構造。
(f)キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位とイミダゾール系化合物の骨格を持つ単位とを有するランダム共重合連鎖と、キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位の連鎖と、イミダゾール系化合物の骨格を持つ単位の連鎖とを有するブロック重合体からなる幹高分子(主鎖)に対し、イミダゾール系化合物の骨格を持つ側鎖(分岐鎖)またはイミダゾール系化合物が結合したグラフト構造。
【0046】
また、本発明のプロトン伝導性高分子材料は、キノキサリン系化合物の骨格を持つ単位を有する高分子化合物と、イミダゾール系化合物の骨格を持つ単位を有する高分子化合物と、これらの高分子化合物の少なくともいずれかに結合するプロトン放出機能を持つ置換基とを含む形態をとることができる。
【0047】
本発明のプロトン伝導性高分子材料に含まれる高分子化合物は、特に放電容量等の電気的特性の点から、キノキサリン系化合物の構造とイミダゾール系化合物の構造とプロトン放出機能を持つ置換基とを有するプロトン伝導性高分子化合物であることが望ましい。
【0048】
また、本発明におけるプロトン伝導性高分子化合物は、上記一般式(1)で表されるキノキサリン構造を有することが好ましい。このキノキサリン構造は、当該構造の一部が主鎖または側鎖に結合する形態をとることができるが、所望の特性を得る点から、上記一般式(2)で示されるように、キノキサリン構造を主鎖の一部として含んでいることが好ましい。
【0049】
プロトン放出機能を持つ置換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基等が挙げられるが、スルホン酸基、あるいはスルホン酸基を有する置換基が好ましい。
【0050】
なお、本明細書中の各一般式中のRのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。また式中、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。また式中、Rのアシル基は、−COXで表される置換基であり、Xとしては上記アルキル基を挙げることができる。また式中、Rのアルコキシル基は、−OXで表される置換基であり、Xとしては上記アルキル基を挙げることができる。また式中、Rのカルボン酸エステル及びスルホン酸エステルのエステル基中のアルキル部分としては上記アルキル基を挙げることができる。また式中、Rのアルケニル基としては、エテニル基(ビニル基)、2−プロペニル基(アリル基)、1,3−ブタジエニル基、4−メトキシ−2−ブテニル基等が挙げられる。また式中、Rのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。また式中、Rのヘテロ環化合物残基としては、炭素数2〜20、ヘテロ原子数1〜5の3〜10員環の基を挙げることができ、ヘテロ原子としては、酸素、硫黄、窒素が挙げられる。
【0051】
以下、具体例を挙げて本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0052】
プロトン伝導性高分子化合物における、プロトン放出機能を持つ置換基のイオン交換基としてスルホン酸基を有する繰り返し単位の例を下記一般式(9)、(10)、(11)に示す。
【0053】
ここで、1ユニットに結合しているスルホン酸基の数を「スルホン化度」と定義する。例えば、一般式(9)の場合は、スルホン化度2と表示する。
【0054】
【化9】

【0055】
【化10】

【0056】
【化11】

【0057】
上記の式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。Xは、それぞれ独立に置換基を有してもよいアリーレン基を表す。Yは、それぞれ独立に、ヘテロ原子、スルホニル基、メチレン基、炭素数が2〜20の置換基を有してもよいアルキレン基、炭素数が6〜20の置換基を有してもよいアリーレン基を表し、mは0〜5の整数を表す。
【0058】
ここで言うX、Y及びmの「それぞれ独立に」とは、各繰り返し単位においてすべてが同じでも良く、また、すべてが異なっていても良いことを意味し、さらに、重合体のそれぞれの構造においても独立であることを示している。
【0059】
上記の式中のYのヘテロ原子としては、酸素、硫黄、窒素が挙げられ、窒素の場合は連結基の他に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0060】
一般に、キノキサリン系重合体は、下記式(12)で表される芳香族テトラアミノ化合物と下記式(13)で表されるテトラカルボニル化合物を原料として、有機溶媒中で脱水縮合反応を利用し、公知の方法によって重合できる(J. Polymer Science, Vol.5, 1453頁, 1967年に記載)。
【0061】
【化12】

【0062】
【化13】

【0063】
例えば、一般式(9)で表される単位を有する重合体は、以下の反応式(14)によって合成できる。
【0064】
【化14】

【0065】
ここでは、原料のテトラカルボニル化合物として、末端のフェニル環にスルホン酸基が1つずつ直接結合した化合物を用いたが、スルホン酸基の結合形態や結合数が異なる化合物を用いることによって、所望のスルホン酸基を有する置換基とスルホン化度を有するキノキサリン系重合体を得ることができる。例えば、一般式(15)で表されるようにフェニル環に炭素数1〜20(n:1〜20)のアルキレン基を介してスルホン酸基が結合した重合体、一般式(16)で表されるようにフェニル環にスルホン酸基が直接結合した重合体、一般式(17)で表されるようにフェニル環にケトン基を介してスルホン酸基が結合した重合体、一般式(18)で表されるようにフェニル環にスルホン酸基と電子吸引性のカルボキシル基が結合した重合体を得ることができる。
【0066】
【化15】

【0067】
【化16】

【0068】
【化17】

【0069】
【化18】

【0070】
次に、一般式(10)で表される単位を有する重合体の合成方法について説明する。
【0071】
ベンズイミダゾール系重合体は、例えば、下記の反応式(19)に示す公知の方法によって合成できる。一般式(12)で表される芳香族テトラアミノ化合物と、化学式(20)、(21)又は(22)で表される芳香族ジカルボニル化合物を用いることができる。
【0072】
【化19】

【0073】
【化20】

【0074】
【化21】

【0075】
【化22】

【0076】
ベンズイミダゾール系重合体のスルホン化は、以下の反応式(23-a)、(23-b)に示す方法より行うことができ、一般式(10)、(11)に示す構造単位を得ることができる。なお、式中の「DMAc」はN,N−ジメチルアセトアミドを示す。
【0077】
【化23】

【0078】
ここでは、スルホン化剤として、1,4−ブタンスルホン(1,4-butanesulfone)、4−ブロモメチルベンゼンスルホネート(4-bromo-methylbenzenesulfonate)を用いたが、炭素数や構造の異なるスルホン化剤を用いることにより、スルホン酸基を有する所望の構造の置換基を持つベンズイミダゾール系重合体を合成することができる。
【0079】
次に、キノキサリン構造を持つ単位の連鎖と、前記イミダゾール構造を持つ単位の連鎖と、これらの単位の少なくともいずれかに結合するプロトン放出機能を持つ置換基とを有するブロック共重合体(プロトン伝導性高分子化合物)について説明する。
【0080】
この具体例として、一般式(24)に示す、2、2’−(p−フェニレン)1−フェニルキノキサリンのスルホン化体の単位を含む連鎖と、ベンズイミダゾールのスルホン化体構造を持つ単位を含む連鎖とのブロック共重合体を挙げることができる。
【0081】
前述の合成法に従って、各連鎖を構成するスルホン化体ポリマーを調製した後、それぞれのポリマー末端基を活性化させて、活性化されたポリマー末端同士を結合し得る任意の化合物を作用させることにより、ブロック共重合体化合物を得ることができる。さらに、これらを繰り返すことにより、所望のブロック数を有する共重合体化合物を合成することができる。
【0082】
また、ラジカル開始剤やニッケル塩などの重合開始剤の添加により、ポリマーの末端でモノマーの重合を開始させ、新たな重合鎖を形成させてもよい。一方のポリマーを溶解させた反応溶媒中において、共重合の対象とする他方のポリマーの合成プロセスを実施することによっても、ブロック共重合体化合物を得ることができる。
【0083】
【化24】

【0084】
上述した各合成方法を併用することによって、分岐構造を持ったグラフト構造の共重合化合物や、ブロック構造と分岐構造を併せ持った共重合化合物を得ることも可能であり、さらに、任意の結合構造のスルホン酸基やスルホン化度を有するプロトン伝導性高分子化合物を合成することができる。
【0085】
次に、キノキサリン構造とイミダゾール構造を有する単位からなる重合体(プロトン伝導性高分子化合物)について説明する。このような重合体としては、一般式(8)で表される、キノキサリン骨格とベンズイミダゾール骨格を有する繰り返し単位を含むものを挙げることができる。
【0086】
【化25】

【0087】
(式中のRは、少なくとも1つがプロトン放出機能を持つ置換基であり、他は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。Xは置換基を有してもよいアリーレン基を表す。Yは、それぞれ独立に、ヘテロ原子、スルホニル基、メチレン基、炭素数が2〜20の置換基を有してもよいアルキレン基、炭素数が6〜20の置換基を有してもよいアリーレン基を表し、mは0〜5の整数を表す。)
ここで言うX、Y及びmの「それぞれ独立に」とは、各繰り返し単位においてすべてが同じでも良く、また、すべてが異なっていても良いことを意味し、さらに、重合体のそれぞれの構造においても独立であることを示している。
【0088】
上記の式中のYのヘテロ原子としては、酸素、硫黄、窒素が挙げられ、窒素の場合は連結基の他に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0089】
上記重合体の合成は以下の方法により行うことができる。
【0090】
キノキサリン系重合体の原料である一般式(12)及び(13)の化合物と、ベンズイミダゾール系重合体の原料である一般式(20)、(21)、(22)のいずれかの化合物を用いて、上述した公知のキノキサリン系重合体の調製法に従って、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFとする)等の有機溶媒中にて脱水縮重合反応を行う。具体的には、一般式(13)のテトラカルボニル化合物(X:p−フェニレン、R:スルホン酸基を有するフェニル基)をDMFに溶解させ、30分攪拌する。次に、予め3,3’−ジアミノベンジジンとイソフタルアルデヒドをDMFに溶解させておいた溶液を添加し、大気中、120℃で10時間攪拌し、反応させることによって得られる。重合温度は、特に限定されないが、一般的には、使用する溶媒の還流温度付近で行うことができる。反応時間も特に制限されず、使用するモノマーの種類や溶媒によって適宜設定することができる。高分子量化する場合には、脱水重縮合であることから、一般的に少なくとも10時間以上行うことが好ましい。重合溶媒としては、使用する原料化合物が溶解しやすく、かつ原料化合物と反応しないものであれば特に限定されない。
【0091】
重合体へのスルホン酸基(スルホン酸基を持つ置換基を含む)の導入は、前述の通り、スルホン酸基を持つ原料を用いて重合体を形成する方法や、重合体を形成した後にスルホン化剤を用いてスルホン化する方法により行うことができる。
【0092】
本発明におけるプロトン伝導性高分子材料において、重合体(高分子化合物)のスルホン酸基の結合構造の相違は、プロトン伝導度や耐久性に影響を及ぼし、重合体のスルホン化度は、親水性の度合いに影響を与え、溶媒への溶解度などを変化させる。よって、プロトン伝導性高分子材料の用途に応じて、重合体のスルホン酸基の結合構造およびスルホン化度を適宜選択することが好ましい。
【0093】
式(16)のようにスルホン酸基が直接結合しているプロトン伝導性化合物は、水溶液中において、下記反応式(25)に示すように加水分解反応によりスルホン酸基が脱離し易い。また、この現象は、水溶液中に限られず、大気中の温度の差異によっても同様に起こり、特に高温環境下で生じ易い。これに対して、例えば、式(15)のようにメチレン基などのアルキレン結合を介してスルホン酸基が結合する構造、あるいは式(18)のようにスルホン酸基が結合しているフェニル環にさらに電子吸引性置換基が結合し、フェニル環の電子密度が低下した構造は、スルホン酸基の脱離が防止される。
【0094】
【化26】

【0095】
本発明におけるプロトン伝導性高分子材料において、重合体(高分子化合物)の共重合組成としては、原料化合物の仕込み量を変化させることにより、任意の質量比率に制御することが可能である。共重合組成については、特に制限されないが、目的とする性能の要求範囲に応じて、適した組成の共重合体を用いることが好ましい。例えば、電気化学セルの電極活物質として用いる場合には、大きな酸化還元容量が要求されるため、プロトン源を含む電解液中においては、プロトン親和性が高いプロトン伝導性化合物の単位が多く含まれる方が好ましい。ここでは、キノキサリン系化合物の単位を多く含有する組成であることが好ましい。また、固体電解質膜として用いる場合には、イオン伝導度や、膜の形成し易さ、強度に優れた組成であることが望ましい。例えば、キノキサリン構造の単位とイミダゾールの単位とのモル比が1/9〜9/1、あるいは2/8〜8/2の範囲で適宜設定することができる。
【0096】
本発明の固体電解質膜のイオン伝導度(プロトン伝導度)としては、特に制限はないが、当該固体電解質膜を用いて作製する電気化学セルや燃料電池に求められる性能に応じて適宜設定される。一般的には、25℃で0.1mS/cm以上であれば良いが、好ましくは、同温度で1mS/cm以上である。
【0097】
本発明におけるプロトン伝導性高分子材料において、重合体(高分子化合物)の分子量は、所望の特性が得られる範囲内であれば特に制限されないが、例えばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による重量平均分子量で500〜100,000程度のものを用いることができ、好ましくは5,000〜100,000,より好ましくは5,000〜80,000程度のものを用いることができる。固体電解質膜を形成する場合には、膜の形成性と溶媒への溶解性、強度の観点から30,000〜100,000が好ましく、35,000〜80,000がより好ましく、40,000〜80,000がさらに好ましい。また、なるべく低分子量体が混在しないものがより好ましい。
【0098】
本発明の固体電解質膜の強度としては、特に制限はないが、各種電気化学セルや燃料電池に用いる場合の取り扱い性の観点から、引っ張り強度として9.8MPa(100kg/cm2)以上が好ましく、29.4MPa(300kg/cm2)以上がより好ましい。
【0099】
本発明において、プロトン伝導性高分子材料に含有させる酸性化合物としては、プロトンを放出することが可能な化合物であれば特に限定されず、スルホン酸系化合物、カルボン酸系化合物、リン酸系化合物などの無機化合物や有機化合物、高分子化合物のいずれをも用いることができる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0100】
具体的には、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、ほう酸、四フッ化ほう酸、リン酸、六フッ化リン酸、プロピオン酸、フッ化プロピオン酸、酪酸、フッ化酪酸が挙げられる。酸性の高分子化合物としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、リン酸系高分子、ポリアクリル酸等が挙げられる。酸性のモノマー化合物も用いることができ、スチレンスルホン酸やビニルスルホン酸等のスルホン酸系モノマー、アクリル酸やメタクリル酸等のカルボン酸系モノマー、ビニルリン酸等のリン酸系モノマーが挙げられる。これらの中で、硫酸、スルホン酸系化合物、リン酸系化合物とそのフッ化物が好ましく、特に、硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、六フッ化燐酸が好ましい。
【0101】
次に、本発明の電気化学セルについて説明する。
【0102】
本発明の電気化学セルは、本発明のプロトン伝導性高分子材料を活物質として含む電極を用いること、もしくは、本発明のプロトン伝導性高分子材料からなる固体電解質膜を用いることを特徴とする。
【0103】
本発明の電気化学セルは、正極および負極の活物質としてプロトン伝導型化合物を含有し、電解質としてプロトン源を含む電解質を含有する構成を有することが好ましい。さらに、両極の充放電に伴う酸化還元反応において電荷キャリアとしてプロトンのみが作用し得るように構成されていることが好ましい。すなわち、両極の充放電に伴う酸化還元反応の電子授受において、電極活物質のプロトンの吸脱着のみが関与するように動作し得るものが好ましい。
【0104】
電極活物質として使用されるプロトン伝導型化合物としては、プロトン源を含む溶液中において、酸化還元性を有しているものであれば、特に限定されず、例えば以下の化合物を使用することができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリペリナフタレン、ポリフラン、ポリフルラン、ポリチエニレン、ポリピリジンジイル、ポリイソチアナフテン、ポリキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリインドール等のインドール系高分子化合物、ポリアミノアントラキノン、ポリイミダゾール及びこれらの誘導体などのπ共役系高分子、インドール三量体化合物等のインドール系π共役化合物、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン等のキノン系化合物、ポリアントラキノン、ポリベンゾキノン、ポリベンゾキノン等のキノン系高分子(キノン酸素が共役によりヒドロキシル基になり得るもの)、前記高分子を与えるモノマーの2種以上の共重合で得られるプロトン伝導型高分子などが挙げられる。これらの化合物にドーピングを施すことによりレドックス対が形成され、導電性が発現する。これら化合物は、その酸化還元電位の差を適宜調整することによって正極活物質及び負極活物質として選択使用される。
【0105】
ここでは、正極活物質として一般式(26)で表されるインドール系化合物(インドール三量体)を用い、負極活物質としては、一般式(27)で表されるポリフェニルキノキサリン、もしくは本発明のプロトン伝導性高分子材料を用いた例を挙げる。
【0106】
【化27】

【0107】
(式中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、アミノ基、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、これらの置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を示す。)
【0108】
【化28】

【0109】
(式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。
【0110】
図2に、本発明の電気化学セルの模式的構成図を示す。
【0111】
正極集電体1上に正極電極2、負極集電体4上に負極電極3がそれぞれ配置され、これらの電極がセパレータ5を介して対向配置されている。また、電解液としてプロトン源を含む水溶液または非水溶液が充填されており、ガスケット6により封止されている。
【0112】
電極は、次のようにして作製することができる。
【0113】
活物質と、導電補助剤と、必要によりバインダーとを混合する。導電補助材は、活物質に対して1〜50質量部、好ましくは10〜30質量部混合することができる。バインダーは、活物質に対して1〜20質量部、好ましくは5〜10質量部混合することができる。この混合粉末を、所定サイズ・形状の金型に充填し、常温〜400℃、好ましくは100〜300℃で加圧成形することにより電極を形成することができる。もしくは、その混合物を溶媒に加えてスラリーを調製し、導電性基材上にスクリーン印刷し、乾燥を行うことにより電極を形成することができる。
【0114】
導電助剤としては、繊維状カーボン(商品名:VGCF、昭和電工製)、粒子状カーボン(商品名:ケッチェンブラックEC600JD、ケッチェンブラックインターナショナル製))を用いることができる。
【0115】
バインダーとしては、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることができる。
【0116】
電解液としては、プロトンを含有する水溶液または非水溶液を用いることができる。例えば、無機酸又は有機酸を用いることができ、無機酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、テトラフルオロほう酸、六フッ化リン酸、六フッ化ケイ酸などが挙げられ、有機酸としては、飽和モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ラウリン酸などが挙げられる。なかでも、硫酸水溶液等の酸含有水溶液を好適に用いることができる。プロトンの含有量としては、電極材料の反応性の点から、10-3mol/l以上が好ましく、10-1mol/l以上がより好ましく、一方、電極材料の活性低下や溶出の防止の点から、18mol/l以下が好ましく、7mol/l以下がより好ましい。
【0117】
セパレータは、電気化学セルの両極を電気的に絶縁できるものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系多孔質膜やイオン交換膜、または本発明の固体電解質膜を用いることができる。固体電解質膜の厚みは、特に限定されないが、10〜200μmが好ましく、10〜80μmがより好ましい。
【0118】
本発明の電気化学セルの外装形状は、コイン型、ラミネート型などの従来使用されている形状をとることができ、特に限定されるものではない。
【0119】
次に、本発明の燃料電池について説明する。
【0120】
本発明の燃料電池は、本発明のプロトン伝導性高分子材料からなる固体電解質膜を用いることを特徴とする。
【0121】
図3に、本発明の燃料電池の模式的構成図を示す。
【0122】
この単セルは、基本構造として、燃料極セパレータ7、触媒と多孔質支持体を含む燃料極触媒層8、プロトン伝導性固体電解質9、触媒と多孔質支持体を含む空気極触媒層10、空気極セパレータ11がこの順で積層された積層構造をとっている。
【0123】
セパレータは、単セルを直列に接続するために導電材料からなり、触媒層にガスや燃料を供給するための供給孔あるいは供給路が設けられている。この導電材料としては、耐酸性を有する導電性炭素材料が好適に用いられる。具体的には、例えば、グラファイトシートや、グラファイトと各種樹脂の複合シート等を用いることができる。
【0124】
触媒層は、一般に触媒と多孔質支持体からなるものを用いることができる。触媒としては白金系触媒が用いられ、多孔質カーボン等の支持体に担持される。多孔質支持体にはガス拡散性に優れたカーボン繊維シート等を好適に用いることができる。触媒層は、電池特性の点から、固体電解質膜との密着性が高いことが好ましい。例えば、固体電解質膜の軟化点以上の温度で熱プレスを行うことにより、この密着性を高めることができる。
【0125】
本発明の固体電解質膜の両側に空気極触媒層および燃料極触媒層が密着配置され、それぞれ空気極セパレータ及び燃料極セパレータを貼り合せて単セルを形成し、必要に応じて複数の単セルを直列に接続してパッケージ化することで燃料電池を得ることができる。
【0126】
得られた燃料電池は、燃料極側に水素やメタノール等の燃料を供給し、空気極側に酸素や空気を供給することにより作動する。燃料極で電子とともに発生したプロトンは、固体電解質膜を介して空気極側へ移動し、酸素と反応して水を生成する。
【0127】
本発明の固体電解質膜は、たとえば透明電極、変色極材料層、プロトン伝導性固体電解質膜、対極材料層および電極の積層構造を有するエレクトロクロミック素子にも適用可能である。
【実施例】
【0128】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
【0129】
〔作製後の目的化合物の確認方法〕
目的化合物の確認は、生成物の収率の算出、CHNS元素分析およびIR測定を行い、化学構造とスルホン化度を確認した。重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により得た(J.Polymer Science,part B,Polymer Physics,第38巻,1348頁,2000年、Chemistry Letters,1049頁,2000年)。収率は、重合前後の仕込み原料の濃度差より算出した。この収率が96%以上であれば、ほぼ目的化合物が生成できているものと判断できる。
【0130】
〔固体電解質膜の強度の測定〕
固体電解質膜の強度は、引っ張り強度試験により測定した。
【0131】
プロトン伝導性高分子化合物を有機溶媒に完全に溶解させ、スクリーン印刷機を用いてガラス基盤上に成膜後、常温から徐々に昇温しながら乾燥し、完全に溶媒を揮発させて、所定の膜厚の固体電解質膜を作製した。
【0132】
得られた固体電解質膜の一端を固定し、フォースゲージを用いて除々に加重を加え、膜が破れた時の値を測定し、この値を引っ張り強度とした。
【0133】
〔イオン伝導度(プロトン伝導度)の測定〕
作製した固体電解質膜のイオン伝導度は、交流インピーダンス法にて測定した。具体的には、固体電解質膜を白金の不活性電極ではさみ、25℃、6Mの燐酸中において交流を印加し、インピーダンスの周波数特性で測定した。
【0134】
〔耐久性の評価〕
作製したプロトン伝導性高分子化合物の耐久性は、サイクリックボルタンメトリー法(以下CV法)によるCVサイクル試験を行い評価した。
【0135】
CV法は、次の条件で行った。試験用サンプルは、プロトン伝導性高分子化合物とカーボン(導電補助剤)を任意の質量比で混合し、その混合物を溶媒に分散させ、導電性基材上に塗布し、乾燥して作製した。電解液としては5wt%の硫酸水溶液を用い、参照極として、Ag/AgCl電極、対極としてPtを用いた。掃引速度20mV/sec、掃引電位範囲0.5V〜−0.3V、測定温度60℃にて、10,000回サイクル試験を実施した。
【0136】
5wt%の硫酸水溶液を用いた理由は次のとおりである。キノキサリン重合体は、塩基性ポリマーとして知られており、酸塩基反応によりプロトンがドーピングし、レドックス対が形成され導電性が発現し、酸化還元反応を起こす。したがって、電気化学的な活性は、プロトン濃度に大きく依存する。具体的に、キノキサリン重合体は、プロトン源として硫酸水溶液を用いる場合、40wt%程度のプロトン濃度下で、最も大きな酸化還元活性が認められるが、10wt%以下になると極端に活性が低下し、ほぼ酸化還元ピークが認められない。実際に、5wt%硫酸水溶液中における無置換のキノキサリン重合体(サンプルA:後述の比較例1)と、スルホン酸基を有するキノキサリン−ベンズイミダゾール共重合体(サンプルB:後述の実施例1)のサイクルリックボルタモグラムを図1に示す。
【0137】
これより、サンプル(A)は、ほぼ活性が認められないのに対して、サンプル(B)は、大きな活性が認められた。これは、スルホン酸基の有無とイミダゾール構造単位の有無に基づくプロトン伝導度の相違によるものと考えられる。従って、この活性の維持率がスルホン酸基およびイミダゾール構造単位による機能の耐久性として判断することができる。ここでは、初期のCV容量に対する10,000回サイクル試験を実施した後のCV容量の割合を容量残存率とした。容量残存率(%)=100×(10,000サイクル後のCV容量)/(初期CV容量)。
【0138】
〔実施例1〕
スルホン化度2のキノキサリン−ベンズイミダゾール重合体を以下の反応式(28)に従って調製した。
【0139】
【化29】

【0140】
まず、テトラカルボニル化合物のスルホン化体〔b〕をDMFに溶解させ、30分攪拌した。次に、予め3,3’−ジアミノベンジジン〔a〕とイソフタルアルデヒド〔c〕をDMFに溶解させておいた溶液を添加した。その後、大気中、120℃で10時間攪拌し、反応させた。得られた固形物をろ過し、メタノールで洗浄した後、120℃で10時間減圧乾燥して、茶黄色の重合物を得た。
【0141】
重合反応前後の原料の濃度分析値から算出すると、得られた重合物の収率は97.3%であった。また、重合物のCHNS元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定よる重量平均分子量は65,000であった。
【0142】
得られた重合物のCVサイクル試験を下記の通り行った。
【0143】
重合物と粒子状カーボン(商品名:ケッチェンブラックEC600JD、ケッチェンブラックインターナショナル製)をこの記載順に7:3の質量比で混合し、その混合物をm−クレゾールに分散させ、導電性基材上に塗布し、120℃で乾燥したものを測定用サンプルとした。このサンプルについて、上記方法に従ってCVサイクル試験を行った結果、初期CV容量は170C/gであり、10,000サイクル後の容量残存率は41%であった。
【0144】
〔実施例2〕
実施例1で作製したプロトン伝導性高分子化合物の粉末をm−クレゾールに完全に溶解させ、この溶液をスクリーン印刷機を用いてガラス基盤上に成膜した。次いで、常温から徐々に80℃まで昇温し、最終的に120℃で1時間乾燥させm−クレゾールを揮発させた。これにより、膜厚50μmの茶黄色の固体電解質膜を得た。
【0145】
得られた膜の引っ張り強度は、41.2MPa(420kg/cm2)であり、イオン伝導度(プロトン伝導度)は0.53×10-2S/cmであった。
【0146】
〔実施例3〕
正極活物質としてプロトン伝導型化合物である6−カルボン酸メチルインドール三量体を選択し、導電補助剤として繊維状カーボン(商品名:VGCF、昭和電工(株)製)、結着剤としてPVDF(平均分子量:1100)を選択し、これらをこの記載順に69:23:8の重量比で秤取り、ブレンダーを用いて攪拌・混合した。次に、この混合粉末を1cm2角の金型に入れ、200℃で加圧成形することにより正極電極を得た。
【0147】
負極電極は、実施例1で調製したプロトン伝導性高分子化合物の粉末と導電補助剤として粒子状カーボン(商品名:ケッチェンブラックEC600JD、ケッチェンブラックインターナショナル製)をこの記載順に75:25の重量比で秤取り、ブレンダーを用いて攪拌・混合した以外は、正極電極と同じ方法により作製した。
【0148】
電解液として、20wt%硫酸水溶液を用い、セパレータとして、厚さ15μmの陽イオン交換膜を用いた。
【0149】
このセパレータを介して、上記正極電極および負極電極の電極面を対向させて貼り合わせ、ガスケットで外装し、図2に示す構成の電池を形成した。
【0150】
得られた電池について、25℃と−20℃における放電容量を測定した。充電条件は、CCCV:10mA−1.2V、10分間とし、放電条件は、CC:2mAとした。25℃での放電容量は0.9mAhであり、−20℃での放電容量は0.63mAhであった。また、25℃において、放電電流を100mAにしたときの放電容量を測定した。この放電容量は0.57mAhであった。
【0151】
〔実施例4〕
実施例2において作製した厚み50μmの固体電解質膜をセパレータとして用い、負極活物質としてポリフェニルキノキサリン(一般式(27)において全てのRがHである高分子化合物)を用いた以外は、実施例3と同様にして電池を作製し、放電容量を測定した。
【0152】
25℃での放電容量は1.02mAhであり、−20℃での放電容量は0.58mAhであった。また、放電電流を100mAにしたときの放電容量は0.46mAhであった。
【0153】
〔実施例5〕
実施例2において作製した厚み50μmの固体電解質膜を用い、定法に従い、その両側に白金触媒が担持された多孔質導電性炭素電極を設置し、燃料電池用積層体を作製した。この積層体の両側に水素供給室と空気供給室を設けて燃料電池を作製した。
【0154】
水素極に水素を供給し、60℃にて、起電力を測定した結果、200mAで0.61Vの起電力が得られた。また、1Aでは0.47Vの起電力が得られた。
【0155】
〔実施例6〕
下記式(29)で表されるスルホン化度4のキノキサリン−ベンズイミダゾール重合体を調製した。
【0156】
【化30】

【0157】
この重合体は、実施例1と同様にして重合物を調製した後、前述の反応式(23−a)で示される方法により、ベンズイミダゾール環のN位部分にスルホン酸基を持つ置換基を導入して得た。
【0158】
得られた重合物の収量は97.2%であった。また、CHNS元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定よる重量平均分子量は72,000であった。
【0159】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期CV容量は254C/gであり、10,000サイクル後の容量残存率は72%であった。
【0160】
実施例2と同様にして固体電解質膜を作製し、評価試験を行った結果、この膜の引っ張り強度は59.8MPa(610kg/cm2)、イオン伝導度は0.82×10-2S/cmであった。
【0161】
実施例3と同様にして電池を作製し、放電容量を測定した結果、25℃での放電容量は1.21mAh、−20℃での放電容量は1.04mAhであった。また、25℃において、放電電流を100mAにしたときの放電容量は0.97mAhであった。
【0162】
実施例5と同様にして燃料電池を作製し、起電力を測定した結果、200mAで0.71Vの起電力が得られた。また、1Aでは0.52Vの起電力が得られた。
【0163】
〔実施例7〕
下記式(30)で表されるスルホン化度4のキノキサリン−ベンズイミダゾール重合体を調製した。
【0164】
【化31】

【0165】
この重合体は、スルホン酸基の結合構造が異なるテトラカルボニル化合物のスルホン化体を用いた以外は実施例1と同様にして重合物を調製し、次いで、前述の反応式(23−b)で示される方法により、ベンズイミダゾール環のN位部分にスルホン酸基を持つ置換基を導入して得た。
【0166】
得られた重合物の収量は98.1%であった。また、CHNS元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定よる重量平均分子量は85,000であった。
【0167】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期CV容量は281C/gであり、10,000サイクル後の容量残存率は73%であった。
【0168】
実施例2と同様にして固体電解質膜を作製し、評価試験を行った結果、この膜の引っ張り強度は71.6MPa(730kg/cm2)、イオン伝導度は0.91×10-2S/cmであった。
【0169】
実施例3と同様にして電池を作製し、放電容量を測定した結果、25℃での放電容量は1.41mAh、−20℃での放電容量は1.22mAhであった。また、25℃において、放電電流を100mAにしたときの放電容量は1.15mAhであった。
実施例5と同様にして燃料電池を作製し、起電力を測定した結果、200mAで0.78Vの起電力が得られた。また、1Aでは0.66Vの起電力が得られた。
【0170】
〔実施例8〕
下記式(31)で表される連鎖構造を有するキノキサリン−ベンズイミダゾールブロック共重合体を調製した。
【0171】
【化32】

【0172】
まず、スルホン化度1のポリフェニルキノキサリン(一般式(27)において全てのRがHである高分子化合物のスルホン化体)を定法に従って重合した後、その重合溶液に、ポリベンズイミダゾールを形成するための重合原料を投入して重合を行った(2段重合)。次いで、前述の反応式(23−a)で示される方法により、ポリベンズイミダゾール連鎖のN位部分にスルホン酸基を持つ置換基を導入した。
【0173】
CHNS元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認された。収率は97.9%であった。GPC測定により、分子量分布は統一されており、重量平均分子量は75,000であった。これらの分析結果と原料の仕込み組成から、ポリフェニルキノキサリン(PPQx)連鎖部分とポリベンズイミダゾール(PBI)連鎖部分の質量比率(PBI/PPQx)が0.7であるブロック共重合体であることが確認された。
【0174】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期CV容量は232C/gであり、10,000サイクル後の容量残存率は75%であった。
【0175】
実施例2と同様にして固体電解質膜を作製し、評価試験を行った結果、この膜の引っ張り強度は74.5MPa(760kg/cm2)、イオン伝導度は0.79×10-2S/cmであった。
【0176】
実施例3と同様にして電池を作製し、放電容量を測定した結果、25℃での放電容量は0.81mAh、−20℃での放電容量は0.59mAhであった。また、25℃において、放電電流を100mAにしたときの放電容量は0.48mAhであった。
実施例5と同様にして燃料電池を作製し、起電力を測定した結果、200mAで0.67Vの起電力が得られた。また、1Aでは0.53Vの起電力が得られた。
【0177】
〔実施例9〕
下記式(32)で表されるスルホン化度2のキノキサリン−ベンズイミダゾールグラフト重合体を調製した。
【0178】
【化33】

【0179】
まず、式(13)(Xがp−フェニレン、Rが2−ベンズイミダゾリル)で示されるテトラカルボニル化合物をDMFに溶解させ、30分攪拌した。次に、3,3’−ジアミノベンジジンをDMFに溶解させておいた溶液を添加した。その後、大気中、120℃で10時間攪拌し、反応させた。得られた固形物をろ過し、メタノールで洗浄した後、120℃で10時間減圧乾燥して、茶黄色の重合物を得た。次に、前述の反応式(23−a)で示される方法によりベンズイミダゾール環のN位部分にスルホン酸基を持つ置換基を導入した。
【0180】
得られた重合物の収率は、96.2%であった。また、CHNSの元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定による重量平均分子量は41,000であった。
【0181】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期CV容量は271C/gであり、10,000サイクル後の容量残存率は84%であった。
【0182】
実施例2と同様にして固体電解質膜を作製し、評価試験を行った結果、この膜の引っ張り強度は32.4MPa(330kg/cm2)、イオン伝導度は0.86×10-2S/cmであった。
【0183】
実施例3と同様にして電池を作製し、放電容量を測定した結果、25℃での放電容量は1.16mAh、−20℃での放電容量は1.04mAhであった。また、25℃において、放電電流を100mAにしたときの放電容量は0.89mAhであった。
実施例5と同様にして燃料電池を作製し、起電力を測定した結果、200mAで0.71Vの起電力が得られた。また、1Aでは0.59Vの起電力が得られた。
【0184】
〔実施例10〕
実施例2にて調製した固体電解質膜を、常温下、60wt%硫酸に24時間浸漬して、硫酸をドーピングした。浸漬前後において、膜の色が茶黄色から赤色に変化し、硫酸がドーピングされたことが確認された。
【0185】
この固体電解質膜の引っ張り強度は34.3MPa(350kg/cm2)であり、イオン伝導度は0.59×10-2S/cmであった。
【0186】
この固体電解質膜をセパレータとして用いた以外は、実施例5と同様にして燃料電池を作製した。水素極に水素を供給し、60℃にて、起電力を測定した結果、200mAで0.65Vの起電力が得られた。また、1Aでは0.51Vの起電力が得られた。
【0187】
〔実施例11〕
実施例2にて調製した固体電解質膜を、常温下、30wt%ポリスチレンスルホン酸水溶液に24時間浸漬して、ポリスチレンスルホン酸をドーピングした。浸漬前後において、膜の色が茶黄色から薄赤色に変化し、ポリスチレンスルホン酸がドーピングされたことが確認された。
【0188】
この固体電解質膜の引っ張り強度は38.2MPa(390kg/cm2)であり、イオン伝導度は0.55×10-2S/cmであった。
【0189】
〔実施例12〕
反応式(14)で表される定法に従い、スルホン化度2のポリフェニルキノキサリンを調製した。得られた重合物の収率は92.4%であった。また、CHNSの元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定による重量平均分子量は11,000であった。
【0190】
一方、反応式(19)及び(23−a)に示される定法に従い、スルホン化度2のポリベンズイミダゾールを調製した。得られた重合物の収率は98.6%であった。また、CHNS元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定による重量平均分子量は84,000であった。
【0191】
これらの重合物を5:5の質量比で混合し、高速ブレンダーを用いて乾式混合を行い(30秒×3回)、プロトン伝導性高分子材料を得た。
【0192】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期CV容量は186C/gであり、10,000サイクル後の容量残存率は61%であった。
【0193】
実施例2と同様にして固体電解質膜を作製し、評価試験を行った結果、この膜の引っ張り強度は30.4MPa(310kg/cm2)、イオン伝導度は0.65×10-2S/cmであった。
【0194】
実施例3と同様にして電池を作製し、放電容量を測定した結果、25℃での放電容量は0.58mAh、−20℃での放電容量は0.32mAhであった。また、25℃において、放電電流を100mAにしたときの放電容量は0.27mAhであった。
実施例5と同様にして燃料電池を作製し、起電力を測定した結果、200mAで0.57Vの起電力が得られた。また、1Aでは0.43Vの起電力が得られた。
〔実施例13〕
定法に従い、無置換体のポリフェニルキノキサリン(一般式(27)において全てのRがHである高分子化合物)を調製した。すなわち、テトラカルボニル化合物と3,3’−ジアミノベンジジンをDMFに溶解させ、30分攪拌した後、大気中で、120℃で10時間攪拌し、反応させた。得られた黄色の固形物をろ過し、メタノールで洗浄した後、120℃で10時間減圧乾燥して重合物を得た。収率は、99.4%であった。また、CHNSの元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定による重量平均分子量は45,000であった。
【0195】
一方、反応式(19)及び(23−a)で表される定法に従い、スルホン化度2のポリベンズイミダゾールを調製した。得られた重合物の収率は98.6%であった。また、CHNS元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定による重量平均分子量は84,000であった。
【0196】
これらの重合物をその記載順に6:4の質量比で混合し、高速ブレンダーを用いて乾式混合を行い(30秒×3回)、プロトン伝導性高分子材料を得た。
【0197】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期CV容量は78C/g、10,000サイクル後の容量残存率は81%であった。
【0198】
実施例2と同様にして固体電解質膜を作製し、評価試験を行った結果、この膜の引っ張り強度は47.1MPa(480kg/cm2)、イオン伝導度は0.43×10-2S/cmであった。
【0199】
実施例3と同様にして電池を作製し、放電容量を測定した結果、25℃での放電容量は0.39mAh、−20℃での放電容量は0.31mAhであった。また、25℃において、放電電流を100mAにしたときの放電容量は0.28mAhであった。
【0200】
実施例5と同様にして燃料電池を作製し、起電力を測定した結果、200mAで0.59Vの起電力が得られた。また、1Aでは0.48Vの起電力が得られた。
【0201】
〔比較例1〕
実施例13と同様にして、無置換のポリフェニルキノキサリン(一般式(27)において全てのRがHである高分子化合物)を調製した。収率は99.4%であった。また、CHNSの元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定による重量平均分子量は45,000であった。
【0202】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期容量は5.3C/gであり、活性が非常に乏しかった。
【0203】
実施例2と同様にして固体電解質膜を作製し、評価試験を行った結果、この膜の引っ張り強度は54.9MPa(560kg/cm2)、イオン伝導度は3.4×10-5S/cmであった。
【0204】
さらにこの固体電解質膜を、常温下、60wt%硫酸に24時間浸漬して、硫酸をドーピングした。浸漬前後において、膜の色が黄色から赤色に変化し、硫酸がドーピングされたことが確認された。
【0205】
〔比較例2〕
反応式(14)に示される定法に従い、スルホン化度2のポリフェニルキノキサリンを調製した。すなわち、テトラカルボニル化合物のスルホン化体と3,3’−ジアミノベンジジンをDMFに溶解させ、30分攪拌した後、大気中で、120℃で10時間攪拌し、反応させた。得られた黄色の固形物をろ過し、メタノールで洗浄した後、120℃で10時間減圧乾燥して重合物を得た。収率は92.4%であった。また、CHNS元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定による重量平均分子量は11,000であった。
【0206】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期CV容量は150C/g、10,000サイクル後の容量残存率は19%であった。
【0207】
実施例2と同様にして固体電解質膜の作製を試みたが、膜の形成が困難であったため、イオン伝導度は測定できなかった。
【0208】
実施例3と同様にして電池を作製し、放電容量を測定した結果、25℃での放電容量は、0.71mAh、−20℃での放電容量は0.49mAhであった。また、25℃において、放電電流を100mAにしたときの放電容量は0.38mAhであった。
【0209】
〔比較例3〕
スルホン酸基を持たないテトラカルボニル化合物を用いた以外は実施例1と同様にして、スルホン酸基を持たないキノキサリン−ベンズイミダゾール重合体を調製した。収率は98.1%であった。また、CHNSの元素分析値およびIRスペクトルから目的の物質であることが確認され、GPC測定による重量平均分子量は64,000であった。
【0210】
実施例1と同様にしてCVサイクル試験を実施した結果、初期CV容量は8.7C/gであり、活性が非常に乏しかった。
【0211】
実施例2と同様にして固体電解質膜を作製し、評価試験を行った結果、この膜の引っ張り強度は66.7MPa(680kg/cm2)、イオン伝導度は7.1×10-5S/cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】本発明の実施例1のCV試験によるサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図2】本発明の電気化学セルの模式的断面図である。
【図3】本発明の燃料電池の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0213】
1 正極集電体
2 正極電極
3 負極電極
4 負極集電体
5 セパレータ
6 ガスケット
7 燃料極セパレータ
8 燃料極触媒層
9 プロトン伝導性固体電解質膜
10 空気極触媒層
11 空気極セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノキサリン系化合物の構造と、イミダゾール系化合物の構造と、プロトン放出機能を持つ置換基を有することを特徴とするプロトン伝導性高分子材料。
【請求項2】
前記キノキサリン系化合物の構造が、下記一般式(1)で表されるキノキサリン構造である請求項1に記載のプロトン伝導性高分子材料。
【化1】


(式中のRは、その少なくとも一つが主鎖または側鎖に結合する基、あるいは少なくとも二つが主鎖を形成する基であり、他は、それぞれ独立に、前記のプロトン放出機能を持つ置換基、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。)
【請求項3】
前記キノキサリン系化合物の構造が、下記一般式(2)で表されるキノキサリン構造単位である請求項1に記載のプロトン伝導性高分子材料。
【化2】


(式中のRは、それぞれ独立に、前記のプロトン放出機能を持つ置換基、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。)
【請求項4】
前記キノキサリン系化合物の構造を持つ単位と、前記イミダゾール系化合物の構造を持つ単位と、これらの単位の少なくともいずれかに結合するプロトン放出機能を持つ置換基とを有し、且つ前記キノキサリン系化合物の構造のキノキサリン縮合環が主鎖を構成している重合体を含む請求項1、2又は3に記載のプロトン伝導性高分子材料。
【請求項5】
前記プロトン放出機能を持つ置換基が、少なくとも前記イミダゾール系化合物の構造のイミダゾール環窒素原子に結合している請求項4に記載のプロトン伝導性高分子材料。
【請求項6】
前記キノキサリン系化合物の構造を持つ単位の連鎖と、前記イミダゾール系化合物の構造を持つ単位の連鎖と、これらの単位の少なくともいずれかに結合するプロトン放出機能を持つ置換基とを有するブロック共重合体を含む請求項1〜5のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子材料。
【請求項7】
前記キノキサリン系化合物の構造を持つ単位を有する主鎖に対して、前記イミダゾール系化合物、あるいは当該化合物の構造を持つ側鎖が結合した重合体を含む請求項1〜5のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子材料。
【請求項8】
前記キノキサリン系化合物の構造を持つ単位を有する高分子化合物と、前記イミダゾール系化合物の構造を持つ単位を有する高分子化合物と、これらの高分子化合物の少なくともいずれかに結合するプロトン放出機能を持つ置換基とを含む請求項1、2又は3に記載のプロトン伝導性高分子材料。
【請求項9】
前記イミダゾール系化合物の構造は、ベンズイミダゾール骨格またはベンズビスイミダール骨格を有する請求項1〜8のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子材料。
【請求項10】
前記イミダゾール系化合物の構造は、下記一般式(3)〜(5)で表されるベンズイミダゾール骨格を持つ単位、下記一般式(6)で表されるベンズビスイミダゾール骨格を持つ単位、下記一般式(7)で表されるビニルイミダゾール単位から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜8のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子材料。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

(式中のRは、それぞれ独立に、前記のプロトン放出機能を持つ置換基、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。Zは、前記の置換基を有してもよいアリーレン基を表す。)
【請求項11】
下記一般式(8)で表される、キノキサリン構造とイミダゾール構造とプロトン放出機能を持つ置換基とを持つ単位を有する重合体を含む請求項1に記載のプロトン伝導性高分子材料。
【化8】


(式中のRは、少なくとも1つがプロトン放出機能を持つ置換基であり、他は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルコキシル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、前記の置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、前記の置換基を有してもよい炭素数2〜20のアルケニル基、前記の置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリール基、複素環式化合物残基を表す。Xは置換基を有してもよいアリーレン基を表す。Yは、それぞれ独立に、ヘテロ原子、スルホニル基、メチレン基、炭素数が2〜20の置換基を有してもよいアルキレン基、炭素数が6〜20の置換基を有してもよいアリーレン基を表し、mは0〜5の整数を表す。)
【請求項12】
前記プロトン放出機能を持つ置換基が、スルホン酸基又はスルホン酸基を有する置換基である請求項1〜11のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子材料。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかのプロトン伝導性高分子材料を含む電極活物質。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかのプロトン伝導性高分子材料を含む固体電解質。
【請求項15】
さらに酸性化合物を含む請求項14に記載の固体電解質。
【請求項16】
前記酸性化合物が、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、ほう酸、四フッ化ほう酸、リン酸、六フッ化リン酸、プロピオン酸、フッ化プロピオン酸、酪酸、フッ化酪酸からなる群から選択される少なくとも一種以上である請求項15に記載の固体電解質。
【請求項17】
前記酸性化合物が、スルホン酸系化合物、カルボン酸系化合物及びリン酸系化合物からなるモノマー並びにこれらのポリマーからなる群から選択される少なくとも1種以上である請求項15に記載の固体電解質。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれかに記載の固体電解質からなる固体電解質膜。
【請求項19】
膜の厚みが10〜200μmである請求項18に記載の固体電解質膜
【請求項20】
請求項1〜12のいずれかのプロトン伝導性高分子材料を電極活物質として用いた電気化学セル。
【請求項21】
一対の電極と、これらの電極の間に設置された請求項18又は19に記載の固体電解質膜とを有する電気化学セル。
【請求項22】
プロトン源を含む電解質を含有し、充放電に伴う酸化還元反応において電荷キャリアとしてプロトンのみが作用するように動作し得る請求項20又は21に記載の電気化学セル。
【請求項23】
燃料極と、空気極と、これらの電極の間に設置された請求項18又は19に記載の固体電解質膜とを有する燃料電池。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−117828(P2006−117828A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308139(P2004−308139)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】