説明

プローブ及び超音波診断装置

【課題】クロストークを低減して高品位の画像を取得し得るプローブ及び超音波診断装置を提供する。
【解決手段】基板11と、基板11上に固定配置される下部電極12と、下部電極12上に設けられる空洞13と、空洞13上に設けられる上部電極14と、上部電極14を含みコルゲート15を有するダイヤフラム16と、からなる超音波振動子1が複数互いに隣接して配置されてなるプローブ10において、超音波振動子1のそれぞれは、一の超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積と、一の超音波振動子1に隣接する周辺の超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積と、が互いに異なるように配置されたプローブ10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブ及び超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を応用した超音波振動子の開発が進められている。「MEMS技術」とは、半導体の製造工程に用いられる成膜、露光、エッチング等によるミクロンオーダの微細加工技術を利用して、微小部材を製造する技術をいう。
【0003】
例えば、特許文献1には、MEMS技術を応用した超音波振動子が開示されている。
超音波振動子の基本構造は、基板と、基板上に固定された下部電極と、下部電極上に設けられた空洞と、空洞上に設けられた上部電極と、上部電極を含むダイヤフラムとからなる。上部電極及び下部電極はコンデンサを形成し、コンデンサに直流電圧を印加すると、上部電極及び下部電極間に静電力が働く。直流電圧に重ねて交流電圧を印加すると、上部電極は振動し、上部電極を含むダイヤフラムも上部電極とともに振動する。このとき、超音波振動子から超音波が送波される。
特許文献1によれば、ダイヤフラムは空洞半径の70%より外側にコルゲートを有して構成される。コルゲートを有することにより、ダイヤフラムは中心部の比較的広い領域で空洞ギャップを一定に保ったまま小さくすることができる。空洞ギャップを一定に保つことで、超音波振動子全体として大きな送信感度及び受信感度を得ることができる。また、空洞ギャプを小さくすることで、超音波振動子の駆動電圧を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−74628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の超音波振動子を複数備えて構成される超音波探触子(以下、「プローブ」と記載する)では、一の超音波振動子が振動したときに隣接する超音波振動子が共振する、いわゆるクロストークが発生する場合がある。クロストークが発生すると、超音波ビームの形状が乱れてアーチファクトが発生し、高品位の画像を得ることができない。
【0006】
本発明の課題は、クロストークを低減して高品位の画像を取得し得るプローブ及び超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、基板と、該基板上に固定配置された下部電極と、該下部電極上に設けられた空洞と、該空洞上に設けられた上部電極と、該上部電極を含みコルゲートを有するダイヤフラムと、からなる超音波振動子が複数互いに隣接して配置されてなるプローブにおいて、
前記超音波振動子のそれぞれは、一の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、該一の超音波振動子に隣接する周辺の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、が互いに異なるようにして配置されたプローブが提供される。
【0008】
また、本発明によれば、基板と、該基板上に固定配置された下部電極と、該下部電極上に設けられた空洞と、該空洞上に設けられた上部電極と、該上部電極を含みコルゲートを有するダイヤフラムと、からなる超音波振動子が複数互いに隣接して配置されてなるプローブと、前記プローブに接続され、前記プローブを介して超音波を送波又は受波して超音波診断用の画像を生成し、生成された画像を表示する本体と、
を備えた超音波診断装置において、
前記超音波振動子のそれぞれは、一の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、該一の超音波振動子に隣接する周辺の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、が互いに異なるようにして配置された超音波診断装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、MEMS技術を応用した超音波振動子を複数備えたプローブにおいて、クロストークを低減し、高品位の画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】超音波診断装置の機能ブロック図である。
【図2A】超音波振動子の概略断面図である。
【図2B】超音波振動子の概略断面図である。
【図2C】超音波振動子の概略断面図である。
【図3】超音波振動子の概略正面図である。
【図4】複数の超音波振動子からなる複合体の一部を示す図である。
【図5】他の例の複合体の一部を示す図である。
【図6】ファントムの簡略図である。
【図7】超音波ビーム断面プロファイルを示す図である。
【図8】ファントム画像描出性に関する判断基準及び評価工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態における超音波振動子、プローブ及び超音波診断装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
図1に、超音波診断装置100の機能ブロック図を示す。
超音波診断装置100は、プローブ10及び本体20により構成される。
【0013】
プローブ10は、複数の超音波振動子1、送受信部2、送波タイミング回路2a、無線機3、昇圧回路4、第1の蓄電ユニット5、第2の蓄電ユニット6を備えて構成される。
【0014】
超音波振動子1は、送波タイミング回路2aからの駆動信号に基づいて被写体に超音波を送波する。また、超音波振動子1は、送波した超音波が被写体で反射して戻ってきたエコー波を受波する。超音波振動子1は、受波したエコー波を電気信号に変換し、変換した電気信号(エコー信号)を送受信部2に出力する。
なお、超音波振動子1の詳細な構成及び動作については後述する(図2A〜C等参照)。
【0015】
送受信部2は、超音波振動子1を介して、超音波を送波又はエコー波を受波する。また、送受信部2は、送波タイミング回路2aを備えて構成される。
【0016】
送波タイミング回路2aは、制御部21から出力される制御信号を無線機3を介して入力し、入力した制御信号に基づいて、適切なタイミングにて超音波振動子1に駆動信号を出力する。駆動信号は、2値又は3値の矩形波であることが望ましい。
また、送波タイミング回路2aは、超音波振動子1のうち、開口サイズに応じて必要な振動子に駆動信号を出力する。
送受信部2は、超音波振動子1からのエコー信号を入力し、入力したエコー信号を無線機3に出力する。
【0017】
無線機3は、本体20からの制御信号を無線通信により受信し、受信した制御信号を送受信部2に出力する。また、無線機3は、送受信部2からのエコー信号を入力し、入力したエコー信号を無線機22に送信する。また、無線機3は、本体20からの各種制御信号をプローブ10の各部に出力する。
【0018】
昇圧回路4は、第1の蓄電ユニット5から供給される電圧値を昇圧する回路である。昇圧回路4は、無線機3を介して入力される制御信号に基づいて、昇圧のON/OFFを行う。
【0019】
第1の蓄電ユニット5は、非対称性電極構造のキャパシタにより構成され、プローブ10の各部に電力を供給する。「非対称性電極構造のキャパシタ」とは、例えばリチウムイオンキャパシタである。
なお、図1において、電力の供給線は図示簡略のため省略している。
【0020】
第2の蓄電ユニット6は、対称性電極構造のキャパシタ又は化学二次電池により構成され、第1の蓄電ユニット5の充電を行う。「対称性電極構造のキャパシタ」とは、例えば電気二重層キャパシタである。また、「化学二次電池」とは、例えばリチウムイオン電池である。
【0021】
なお、上記説明した構成では、非対称性電極構造のキャパシタにリチウムイオンキャパシタを用いたがこれに限らず、正極を二酸化鉛、負極を多孔質カーボンとする非対称性電極構造のキャパシタを用いるとしてもよい。
また、第1の蓄電ユニット5はプローブ10の各部に電力を供給するとしたがこれに限らず、第1の蓄電ユニット5は超音波振動子1に電力を供給し、第2の蓄電ユニット6は超音波振動子1以外のプローブ10の各部に電力を供給する構成としてもよい。
【0022】
本体20は、制御部21、無線機22、診断情報生成部23、表示部24を備えて構成される。
【0023】
制御部21は、CPU、RAM及びROM等を備えて構成される。CPUは、ROMに記憶されている各種プログラムをRAMに展開し、展開した各種プログラムとの協働により無線機22、診断情報生成部23及び表示部24の動作を統括的に制御する。また、制御部21は、無線機22を介してプローブ10に制御信号を送信し、プローブ10の各部の動作を制御する。
【0024】
無線機22は、制御部21からの制御信号を入力し、入力した制御信号をプローブ10の無線機3に無線通信により送信する。
また、無線機22は、送受信部2から出力されるエコー信号をプローブ10の無線機3を介して入力し、入力したエコー信号を診断情報生成部23に出力する。
【0025】
診断情報生成部23は、送受信部2から出力されるエコー信号を無線機22を介して入力し、入力したエコー信号に基づいて診断情報を生成する。診断情報としては、例えばBモード画像、カラードップラ画像、ドップラスペクトラム画像等がある。Bモード画像は、被写体の内部状態を表す。また、カラードップラ画像は、被写体の血流等の速度分布像を表す。また、ドップラスペクトラム画像は、ドップラ信号のスペクトラムを表す。
診断情報生成部23は、生成した診断情報を表示部24に出力する。
【0026】
表示部24は、LCD又は有機ELディスプレイ等を備えて構成される。表示部24は、診断情報生成部23からの診断情報を入力し、入力した診断情報を画面上に表示する。
【0027】
電源ACは、本体20の各部に電力を供給する商用交流電源である。
【0028】
なお、上記構成の他、本体20は操作部、記憶部、印刷部等(図示省略)を備えて構成されるとしてもよい。
また、上記構成では、プローブ10及び本体20とが無線通信により信号のやり取りを行うこととしたがこれに限らず、プローブ10及び本体20とがプローブケーブルにて接続される構成としてもよい。この場合、プローブ10は第1の蓄電ユニット5及び第2の蓄電ユニット6を備えずとも、商用交流電源ACからの電力を取得し得る。
【0029】
図2A〜図2Cに、超音波振動子1の概略断面図を示す。
図2A〜図2Cは何れも超音波振動子1の断面図であり、図2Aは電圧が印加されていない状態、図2Bは直流電圧が印加された状態、図2Cは直流電圧に重ねて交流電圧が印加されて振動している状態、を示す図である。
【0030】
図2Aを例に挙げて、超音波振動子1の構成について説明する。
超音波振動子1は、基板11、基板11上に固定された下部電極12、下部電極12上に設けられた空洞13、空洞13上に設けられた上部電極14、上部電極14を含み、コルゲート15を有するダイヤフラム16を備えて構成される。ダイヤフラム16は、上部電極14やコルゲート15の他、絶縁膜及びシリコン窒化膜を含む。
【0031】
ダイヤフラム16は、外周部にコルゲート15を有し、コルゲート15は、中心をダイヤフラム16の中心と同一とする同心円の2つの凸形状からなる。なお、ここでは2つの凸形状としたがこれに限らず、1つ又は3つ以上の凸形状としてもよい。
【0032】
コルゲート15は、ダイヤフラム16の中心から半径方向に一定の距離R2以上離れた場所に形成される。具体的には、距離R2は、空洞13の半径R1に対し、R2>0.7×R1、の関係を満たす。すなわち、コルゲート15は、空洞13の半径R1の70%より外側に形成される。これにより、ダイヤフラム16の面積の約50%以上を有効利用することができる。なお、空洞13の半径R1は、およそ30nm〜80nmである。
【0033】
図2Aでは、電圧が印加されていない状態であるため、空洞ギャップdはダイヤフラム16の全範囲でほぼ同一であり、ダイヤフラム16は基板11とほぼ平行である。電圧が印加されていない初期状態の空洞ギャップdは、およそ50nm〜100nmである。
【0034】
図2Bでは、下部電極12と上部電極14との間に直流電圧が印加されて下部電極12及び上部電極14に逆極性の電荷が誘起され、下部電極12と上部電極14との間に静電力が生じている。
【0035】
下部電極12及び上部電極14により形成されるコンデンサに蓄えられる単位面積あたりの電荷量Qは、容量C、直流電圧Vdc、誘電率e、下部電極12と上部電極14との距離d、を用いると下記式(1)を満たす。
Q=C×Vdc=(e/d)×Vdc・・・(1)
【0036】
図2Bに示すように、ダイヤフラム16は静電力によって基板11側に引き寄せられるが、コルゲート15の角部15aに応力が集中する。これにより、角部15aを基点としたダイヤフラム16外周部は大きく屈曲するが、中央部は比較的平行性を保持したまま基板11側に引き寄せられる。ダイヤフラム16の比較的大きな領域の中央部で空洞ギャップdを一定に保つことができるため、下部電極12及び上部電極14に誘起される電荷の面積密度は均一となり、下部電極12の電荷と上部電極14の電荷との間に働く静電力も比較的一定となる。
【0037】
図2Cでは、下部電極12と上部電極14との間に直流電圧が印加され、重ねて交流電圧が印加されたことによりダイヤフラム16が振動している。
直流電圧Vdcに交流電圧(振幅±Vac)が重ねて印加されると、交流電圧Vacにより下記式(2)に示す電荷ΔQが周期的に下部電極12及び上部電極14に誘起される。
ΔQ=C×Vac=(e/d)×Vac・・・(2)
【0038】
電荷ΔQにより、下部電極12と上部電極14との間で下記式(3)に示す静電力Fが
周期的に変動する。
F=e/d2×Vdc×Vac・・・(3)
【0039】
静電力Fによりダイヤフラム16が振動し、超音波振動子1は超音波を送波する。
音圧は、下部電極12と上部電極14との間の距離が短いほど増大し、また、直流電圧Vdc及び交流電圧Vacが大きいほど増大する。
送信感度及び受信感度も同様に、下部電極12と上部電極14との間の距離が短いほど増大し、また、直流電圧Vdc及び交流電圧Vacが大きいほど増大する。
【0040】
直流電圧によりダイヤフラム16を基板11側に引きつけない状態では、ダイヤフラム16の振動の共振周波数は減少する。一方、直流電圧によりダイヤフラム16を基板11側に引きつけた状態では、コルゲート15に内部応力が生じてダイヤフラム16の振動の共振周波数は増大する。コルゲート15及び空洞ギャップdは、印加される直流電圧及び交流電圧の下で所望の空洞ギャップと共振周波数が得られるように設計される。ここでは、コルゲート15の表面の凸部の幅を1μm、凸部の高さを1μmとして設計した。
【0041】
図3に、超音波振動子1の概略正面図を示す。
図3に示すように、超音波振動子1は、ダイヤフラム16の中心と同一の同心円状のコルゲート15を有する。また、超音波振動子1は、六角形の絶縁膜により区画される。なお、ここでは六角形としたがこれに限らず、四角形でも円形でもよい。
【0042】
図4に、複数の超音波振動子1からなる複合体の一部を示す。
図4に示す複合体101は、図3に示した超音波振動子1の複合体であって、複数の超音波振動子1が互いに隣接して蜂の巣形状を構成する。
また、複合体101は、コルゲート15内領域の面積が「大」、「中」、「小」の3種類の超音波振動子1により構成される。
【0043】
ここで、「大」は「中」よりも10%以上コルゲート15内領域の面積が大きいものとし、「中」は「小」よりも10%以上コルゲート15内領域の面積が大きいものとし、「小」は予め定められた面積であるものとする。「小」のコルゲート15内領域の面積は、例えば既述したように、R2>0.7×R1、の関係を満たすことが望ましい(図2A参照)。
【0044】
複合体101では、一の超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積と、これに隣接する周辺の超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積とが互いに異なる。
例えば、コルゲート15内領域の面積が「小」の超音波振動子1に隣接する周辺の超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積は何れも「大」又は「中」であり、「小」ではない。このように超音波振動子1を配置し、互いに隣接する超音波振動子1では異なる駆動電圧及び間隙にて駆動させることにより、隣接する超音波振動子1間のクロストークを抑制することができる。
【0045】
図5に、他の例の複合体を示す。
図5に示す複合体102は、図4の複合体101に対して、コルゲート15内領域の面積が「大」、「小(又は中でもよい)」の2種類の超音波振動子1により構成される。2次元の画像を得る場合、複合体102は、x方向における超音波振動子1ごとにy方向の全ての超音波振動子1を振動させて超音波を送波する。すなわち、2次元の画像を得る場合であれば、x方向においてコルゲート15内領域の面積が「大」であるy方向の複数の超音波振動子1を一つの超音波振動子1とみなし、同様にx方向においてコルゲート15内領域の面積が「小」であるy方向の複数の超音波振動子1を一つの超音波振動子1とみなすことができる。よって、x方向において互いに隣接する超音波振動子1を異なる駆動電圧及び間隙にて駆動させることにより、x方向において隣接する超音波振動子1間のクロストークを抑制することができる。
【0046】
〔実験〕
表1に、実験条件及び実験結果を示す。
【表1】

【0047】
実施例1は、本実施形態に係る構成である。すなわち、複合体101において隣接する超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積を10%だけ異ならせた構成である。具体的には、複合体101において、「大」は「中」よりも10%だけコルゲート15内領域の面積が大きく、「中」は「小」よりも10%だけコルゲート15内領域の面積が大きい。
【0048】
実施例2は、本実施形態に係る構成であり、実施例1に対し、複合体101において隣接する超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積を20%だけ異ならせた構成である。具体的には、複合体101において、「大」は「中」よりも20%だけコルゲート15内領域の面積が大きく、「中」は「小」よりも20%だけコルゲート15内領域の面積が大きい。
【0049】
比較例1は、実施例1及び2に対し、複合体101における超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積を全て同一とした構成である。
【0050】
比較例2は、実施例1及び2に対し、複合体101において隣接する超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積を5%だけ異ならせた構成である。具体的には、複合体101において、「大」は「中」よりも5%だけコルゲート15内領域の面積が大きく、「中」は「小」よりも5%だけコルゲート15内領域の面積が大きい。
【0051】
なお、本実験では、実施例1、2及び比較例1、2の何れの構成においても超音波振動子1の一音線の送信に用いる駆動振動子数は0.2mmピッチの振動子50個、アジマス方向の幾何焦点位置はいずれも35mm、駆動波の周波数は8MHz、送信の繰り返し周期は3kHz、とした。
【0052】
図6に、ファントムの簡略図を示す。
ファントムPは、各深度に配置された複数のターゲットを備えて構成される。なお、ファントムPには、Gammex社製のファントム(404GS−LE)を用いた。
本実験では、深度35mmに水平配置された5連のターゲットT11〜T15、及び深度60mmに配置された3連無エコーターゲットT21〜T23に対して超音波ビームの送受信を行った。なお、5連のターゲットT11〜T15は、水平上において2mm、1mm、0.5mm、0.25mmの間隔を空けて配置されており、3連無エコーターゲットは各々、4mm、2mm、1mm径の円形無エコー領域があるターゲットとなっている。
【0053】
図7に、実施例1、2及び比較例1、2の超音波ビーム断面プロファイルを示す。
図7は、深度35mmの位置に音波が収束するよう各素子に時間遅延をかけて超音波ビームを送波した場合の35mm位置における超音波ビーム断面プロファイルである。
縦軸は音響強度(dB)、横軸はターゲットT1の位置を中心としたファントムP内の距離(mm)を示す。超音波ビーム断面プロファイルは、ターゲットT1の位置を頂点としたメインローブを形成し、メインローブの両サイドにサイドローブを形成する。
A1は、実施例1の構成の超音波診断装置により得られた超音波ビーム断面プロファイルである。
A2は、実施例2の構成の超音波診断装置により得られた超音波ビーム断面プロファイルである。
A3は、比較例1の構成の超音波診断装置により得られた超音波ビーム断面プロファイルである。
A4は、比較例2の構成の超音波診断装置により得られた超音波ビーム断面プロファイルである。
【0054】
図7によれば、A1のメインローブの音響強度は高く半値幅は小さい。また、A1及びA2のサイドローブの音響強度は低いことが確認できる。一方、A3及びA4は、メインローブの音波強度は高いが半値幅は大きい。また、A3及びA4はサイドローブの音響強度が高いことが確認できる。
メインローブの音響強度が高く半値幅が小さいほど分解能が良好であり、ターゲットT1を画像で把握し易い。また、サイドローブの音響強度が低いほど偽像が画像化されない。このことから、A1又はA2の超音波ビームを受波できる実施例1又は実施例2の構成の超音波診断装置は高品位の画像取得に適しているといえる。
【0055】
図8に、表1に示したファントム画像描出性に関する判断基準及び評価工程を示す。
ファントム画像描出性については、方位分解能のスコア及びアーチファクトのスコアを加算した総合スコアにより評価した。
【0056】
方位分解能のスコアについては、ファントムP内の深度35mmに水平配置された5連のターゲットT11〜T15(図6参照)に向けて超音波ビームを送波し、得られた画像において分離描出されたターゲット数により判断した。
例えば、得られた画像において分離して描出されたターゲット数が5点の場合、分解能は良好と判断でき、スコアを3とした。一方、得られた画像において分離して描出されたターゲット数が2点以下の場合、分解能は悪く、スコアを0とした。
【0057】
アーチファクトのスコアについては、ファントムP内の深度60mmに配置された3連無エコーターゲットT21〜T23(図6参照)に向けて超音波ビームを送波し、得られた画像により判断した。具体的には、無エコーターゲット周辺のバックグラウンド部の平均画像輝度を80(8bit)としたとき、周辺散乱体による偽像により、本来輝度が低いはずの無エコー部分に相当する位置の輝度が上昇してしまう程度により判断した。径1mm、2mm、4mmの何れのターゲット内においても輝度20(8bit)以下の面積比が70%以上であるときにスコア3、1mmターゲットのみ輝度20以下の面積比が70%未満である場合にスコア2、1mmおよび2mmターゲットで輝度20以下の面積比が70%未満である場合にスコア1、何れのターゲットにおいても輝度20以下の面積比が70%未満の場合をスコア0とした。
【0058】
ファントム画像描出性については、方位分解能のスコア及びアーチファクトのスコアを加算して、5点以上の場合を〇、4点の場合を〇△、3点の場合を△、2点の場合を△×、1点以下の場合を×と評価した。
ファントム画像描出性は、表1で示したように、実施例1、2の構成では〇であり、比較例1、2の構成では△であった。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、複数の超音波振動子1が蜂の巣形状を構成するプローブにおいて、コルゲート15内領域の面積を隣接する超音波振動子1同士で異なるように配置することにより、クロストークの低減を図ることができ、高品位の画像を得ることができる。
【0060】
また、一の超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積と、これに隣接する周辺の超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積との差を10%以上異ならせることで、クロストークを十分に低減することができる。
【0061】
また、コルゲート15をダイヤフラム16の中心と同一の同心円状とすることで、良好な送信感度及び受信感度を得ることができる。
【0062】
また、コルゲート15内領域の面積の種類は、少なくとも2種類又は3種類とすることができる。2種類の場合とは、例えば2次元の画像を得る場合にy方向の複数の超音波振動子1を一つの超音波振動子1とみなし、x方向においてコルゲート15内領域の面積を「大」、「小(又は中)」、「大」、「小」、・・・とした場合である(図5参照)。また、3種類の場合とは、例えば3次元の画像を得る場合であって、例えばコルゲート15内領域の面積が「小」の超音波振動子1の周辺に配置された超音波振動子1のコルゲート15内領域の面積を「大」、「中」、「大」、・・・とした場合である(図4参照)。
【符号の説明】
【0063】
100 超音波診断装置
10 プローブ
11 基板
12 下部電極
13 空洞
14 上部電極
15 コルゲート
16 ダイヤフラム
1 超音波振動子
2 送受信部
2a 送波タイミング回路
3 無線機
4 昇圧回路
5 第1の蓄電ユニット
6 第2の蓄電ユニット
20 本体
21 制御部
22 無線機
23 診断情報生成部
24 表示部
AC 商用交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に固定配置された下部電極と、該下部電極上に設けられた空洞と、該空洞上に設けられた上部電極と、該上部電極を含みコルゲートを有するダイヤフラムと、からなる超音波振動子が複数互いに隣接して配置されてなるプローブにおいて、
前記超音波振動子のそれぞれは、一の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、該一の超音波振動子に隣接する周辺の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、が互いに異なるようにして配置されたプローブ。
【請求項2】
前記超音波振動子のそれぞれは、前記一の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、該一の超音波振動子に隣接する周辺の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、の差が10%以上異なるようにして配置された請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記コルゲートの輪郭は、前記ダイヤフラムの中心と同一の同心円状である請求項1又は2に記載のプローブ。
【請求項4】
前記コルゲート内領域の面積の種類は、2種類又は3種類である請求項1〜3の何れか一項に記載のプローブ。
【請求項5】
基板と、該基板上に固定配置された下部電極と、該下部電極上に設けられた空洞と、該空洞上に設けられた上部電極と、該上部電極を含みコルゲートを有するダイヤフラムと、からなる超音波振動子が複数互いに隣接して配置されてなるプローブと、前記プローブに接続され、前記プローブを介して超音波を送波又は受波して超音波診断用の画像を生成し、生成された画像を表示する本体と、を備えた超音波診断装置において、
前記超音波振動子のそれぞれは、一の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、該一の超音波振動子に隣接する周辺の超音波振動子のコルゲート内領域の面積と、が互いに異なるようにして配置された超音波診断装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−4926(P2012−4926A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139001(P2010−139001)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】