説明

ヘッドアップディスプレイ

【課題】 印加する電圧を変化させることにより透過する光の屈折角を制御するとともに焦点距離を変化させることが可能なヘッドアップディスプレイを提供する。
【解決手段】 ヘッドアップディスプレイは、直線偏光の画像を出力する画像表示装置と、光偏向液晶セルと、前記光偏向液晶セルの後段に配置され複数の焦点を有するレンズとを含み、前記画像表示装置が出力する画像を投影する光学系と、制御部とを有する。前記制御部は、外部からの情報に従い、前記光偏向液晶セルに印加する電圧を変化させることにより、液晶層の屈折率を変化させて、通過する前記画像の光の屈折角を制御して、該画像の投影位置及び大きさを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両における情報表示装置として、いわゆるヘッドアップディスプレイ(HUD)が知られている。ヘッドアップディスプレイは、フロントガラス下部に設けられたプロジェクタからの表示画像を、当該フロントガラスに設けられたコンバイナ(透光性反射部材)で運転者に向けて反射させることにより、運転者がフロントガラス前方の景色と虚像である表示画像を重ねて視認できるようにするものである。
【0003】
運転者の体格や車両のシート形状等によって、運転者の視点の高さが異なるので、運転者の視点の位置が変わっても、運転者が表示画像を視認できるようにヘッドアップディスプレイを調整できるようにすることが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、表示装置からの画像光を反射させる反射板をコンバイナの前段に設け、運転者の視点に合わせて鮮明な虚像が得られるように、反射板の傾きをモータ等の機械的作動部により調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−229366号公報
【特許文献2】特開2003−39982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように機械的作動部により視点位置の変化に対応する場合は、装置の大きさや重さへの影響がある。特にヘッドアップディスプレイを装着する部分はスペースが限られていることが多いので、装置の大きさは車両に搭載する面で問題となる。
【0007】
また、機械的作動部は長期信頼性に問題があったり、ノイズの発生、高価なステッピングモータやマイコンが必要になったりすることがある。
【0008】
さらに、太陽光などの強い光線がコンバイナ側から反射板等を介して表示装置に逆光として入射した場合に虚像が見づらくなるため、バックライト用の光源の光度を高めて虚像をより明るくするなどの対策が必要である。
【0009】
本発明の目的は、印加する電圧を変化させることにより透過する光の屈折角を制御するとともに焦点距離を変化させることが可能なヘッドアップディスプレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、直線偏光の画像を出力する画像表示装置と、光偏向液晶セルと、前記光偏向液晶セルの後段に配置され複数の焦点を有するレンズとを含み、前記画像表示装置が出力する画像を投影する光学系と、制御部とを有するヘッドアップディスプレイであって、前記光偏向液晶セルは、相互に対向する一対の第1及び第2の透明基板と、前記第1及び第2の透明基板上に形成され、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板の一方の上方に形成されるプリズムを有するプリズム層と、前記プリズム層上に形成され、前記画像表示装置の出力の偏光方向と平行に配向処理が施された配向膜と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、液晶分子を有する液晶層とを有し、前記制御部は、外部からの情報に従い、前記第1及び第2の透明電極に印加する電圧を変化させることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて前記プリズムの斜面と前記液晶層の界面を通過する前記画像の光の屈折角を制御して、該画像の投影位置及び大きさを制御するヘッドアップディスプレイが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印加する電圧を変化させることにより透過する光の屈折角を制御するとともに焦点距離を変化させることが可能なヘッドアップディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例による光偏向液晶セル100の概略断面図である。
【図2】プリズム層3の概略斜視図である。
【図3】ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。
【図4】本発明の実施例による光偏向液晶セル100を光学系20に組み込んだヘッドアップディスプレイの構成を表す概念図である。
【図5】図4に示すヘッドアップディスプレイにおいて、視点位置を固定して、ドライバーから見える虚像の位置及び大きさを調整する例を説明するための概念図である。
【図6】本実施例のヘッドアップディスプレイを用いて進行方向をフロントガラス25に、実環境(景色)に合わせて矢印(虚像)27を表示する例を示す概念図である。
【図7】外光の液晶表示装置への入射を防ぐことが可能なヘッドアップディスプレイの光学系20の構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施例による光偏向液晶セル(液晶光学素子)100を概略的に示す厚さ方向断面図である。光偏向液晶セル100は、印加する電圧を変更することにより当該セルを透過する光の光路を変換(変更)可能な光路変換素子である。
【0014】
透明電極が形成された一対のガラス基板(透明電極2が形成されたガラス基板1、及び、透明電極12が形成されたガラス基板11)を用意した。ガラス基板1、11は、それぞれ、厚さ0.7mmtであり、材質は無アルカリガラスである。透明電極2、12は、それぞれ、厚さ150nmであり、材質はインジウムスズ酸化物(ITO)であり、所望の平面形状にパターニングされている。
【0015】
片側のガラス基板1の透明電極2上に、プリズム層3を形成した。プリズム層3は、ベース層3b上にプリズム3aが並んだ形状を有する。ベース層3bの厚さは、例えば2μm〜30μm程度である。本実施例では、UV硬化型のアクリル系樹脂等の180℃以上の熱処理に対する特性(透過率)変化の少ない材料(以下、単に耐熱性プリズム材料と呼ぶ)を用いてプリズム層3を形成する。なお、UV硬化型のアクリル系樹脂等の180℃以上の熱処理に対する特性(透過率)変化の少ない(180℃以上の熱処理が可能な)材料を用いることにより、従来では非常に困難であったポリイミド等からなるLCD用配向膜をプリズム上に形成できる。なお、本明細書において、「特性(透過率)変化の少ない」とは、特性(透過率)変化が熱処理前に比べて概ね2%以内である状態を示す。UV硬化型のアクリル系樹脂は、耐熱性だけでなく、ガラスへの密着性も優れていると共に金属には密着しにくい(離型性が良い)という性質を有しており、本発明の実施例によるプリズムを形成する材料として好適である。また、エポキシ系の樹脂も耐熱性に優れており、本発明の実施例によるプリズムを形成する材料として使用可能であると考えられる。また、ポリイミドも使用可能である。
【0016】
図2は、プリズム層3の概略斜視図であり、右側部分にプリズム3aの断面形状の拡大図を示す。各プリズム3aは、例えば、頂角約45°、底角が約45°及び約90°の三角柱状であり、複数のプリズム3aが、プリズム長さ方向と直交する方向(この方向を、プリズム幅方向と呼ぶこととする)に、方向を揃えて並んでいる。プリズム3aの高さは約20μmであり、プリズム3aの底辺の長さ(プリズムのピッチ)は約20μmである。
【0017】
図3は、ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。プリズム層3の作製方法について説明する。プリズム層3の型が形成され、ガラス基板1(縦150mm×横150mm×厚さ0.7mmt)の透明電極2上に、所定量の耐熱性プリズム材料3R(例えば、紫外線(UV)硬化型のアクリル系樹脂)を滴下し、その上の所定位置に、離型剤もしくはコーティング剤付きのプリズム金型を置き、厚手の石英部材などを基板の裏側に配置して補強した状態でプレスを行った。金型のサイズ(プリズム形成領域のサイズ)は、縦80mm×横80mmである。
【0018】
プレスして1分以上放置し、耐熱性プリズム材料3Rを十分広げた後、ガラス基板1の裏側から紫外線を照射し、耐熱性プリズム材料3Rを硬化させた。紫外線の照射量は200mJ/cmとした。紫外線の照射量は、樹脂が硬化するように適宜設定すればよい。なお、ITOは紫外線を吸収するため、透明電極の膜厚が変われば紫外線照射量も変える必要があろう。
【0019】
耐熱性プリズム材料3Rの硬化後、石英、プレス治具などを取り外し、プリズム層3が形成されたガラス基板1を押し下げることにより、プリズム金型から剥離する。
【0020】
なお、プリズム層3の大きさは、耐熱性プリズム材料3Rの滴下量を調整することにより行う。滴下量を調整してプリズム形成領域全体A1(縦80mm×横80mm)のうちの必要な領域A2(縦60mm×横60mm)にプリズム層3を形成した。なお、プリズム層3を構成するUV硬化型のアクリル系樹脂の屈折率は、1.51である。
【0021】
プリズム層3は、頂角の角度により、1辺から入射し、他辺から出射する光の進行方向を変える機能を有する。
【0022】
図1に戻って説明を続ける。プリズム付きガラス基板1と、もう一方のITO付きガラス基板11を洗浄機にて洗浄した。洗浄方法は、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線照射、赤外線乾燥の順に行った。なお、洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0023】
次に、プリズム層3上及びもう一方のガラス基板11の透明電極12上に、ポリイミド等により配向膜13を形成した。プリズム層3上に配向膜13を形成することにより、配向規制力を十分なものにすることができる。ここでは、日産化学製のSE−130をフレキソ印刷法で厚さ80nm形成して、180℃で1.5時間焼成を行った。焼成後、配向膜13に配向処理を行った。配向膜13の配向方向は、両ガラス基板を重ね合わせてセルを形成したとき、プリズム層3上の配向膜13ともう一方のガラス基板11の透明電極12上の配向膜13のラビング方向とがアンチパラレルとなるように定めた。なお、配向膜の材料は上記のものに限らず市販の多くのポリイミド配向膜材料が使用可能である。
【0024】
次に、プリズム層3上の配向膜13に対して、配向処理として光配向を実施した。ここでは紫外線を偏光した光をガラス基板11に対して法線方向から照射する方法を用いた。すなわち、プリズム層3の傾斜面に対しては45°傾けた方向から照射した。露光に用いた偏光フィルタの波長は310nmであり、照度8.5mW/cmで120秒間露光した(照射量:約1J/cm)。光配向方向は、露光に用いる偏光フィルタの偏光方向とプリズム方向(図2のx方向)が平行となるようにした。液晶分子の配向方向は紫外光の偏光方向に直交するように並ぶ。結果としてプリズム方向と直交する方向(図2のy方向)に液晶分子が配向するようにした。なお、プリズム層3上の配向膜13に対して、配向処理としてラビング処理を実施してもよい。ラビング処理を行う場合は、例えば、図2のy方向に押し込み量0.8mmで行う。
【0025】
配向方法として光配向を用いることにより、凸凹のあるプリズム層3上においても、均一な液晶配向を得ることができるようになる。結果として、ラビング処理に比べて、投影像の画質が著しく向上する。
【0026】
もう一方のITO付きガラス基板11の配向膜13に対しては、配向処理としてラビング処理を実施した。ストロングアンカリングになるように、押し込み量0.8mmで、強めに押し込んでラビング処理を行った。ラビングの方向はプリズム層3の傾斜方向に対してアンチパラレルになるように、図1の矢印18の方向(図2のx方向とは逆方向)に行った。なお、ガラス基板11の配向膜13に対して光配向を行ってもよい。
【0027】
次に、プリズム層3を形成した側のガラス基板1上に、ギャップコントロール剤を2wt%〜5wt%含んだメインシール剤16を形成した。形成方法として、スクリーン印刷やディスペンサが用いられる。プリズム層3のベース層(2μm〜30μm)とプリズムの高さ(0μm〜20μm)を含め液晶層15の厚さが、例えば10μm〜35μmとなるように、ギャップコントロール剤を選択した。なお、プリズム層3は位置によって高さが変化するので、それに応じて液晶層15の厚さも変化する。
【0028】
ここでは、ギャップコントロール剤として径が45μmの積水化学製のプラスチックボールを選択し、これを三井化学製のシール剤ES−7500に4wt%添加して、メインシール剤16とした。
【0029】
プリズムを形成しない側のガラス基板11上には、ギャップコントロール剤14として径が21μmの積水化学製のプラスチックボールを、乾式のギャップ散布機を用いて散布した。
【0030】
次に、両ガラス基板1、11の重ね合わせを行い、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させた。ここでは、150℃で3時間の熱処理を行った。
【0031】
このようにして作製された空セルに、液晶を真空注入して、液晶層15を形成した。実施例では、液晶として、Δεが正でΔn=0.212、ne=1.716、no=1.504のメルク製のものを用いた。なお、液晶のΔnが大きな材料を用いるほど画像を大きく曲げることが可能であるが、Δnが大きな液晶は配向性があまりよくない場合があるため本実施例では比較的Δnが大きく配向性に優れた材料を用いた。
【0032】
液晶注入後、プレスを行い余分な液晶を吐き出してから、注入口にエンドシール剤を塗布し、封止した。封止後、120℃で1時間の熱処理を行い、液晶の配向状態を整えた。このようにして、光偏向液晶セル100を作製した。
【0033】
配向膜13の配向処理を光配向により行った場合には、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行う必要がある。なぜならばプリズム層3上の配向膜13の光配向の配向規制力はそれほど強くなく、液晶注入時の液晶の流れの影響を受ける方向に配向(流動配向)する現象が見られる。これを解消するためには、高温処理を行い、液晶を一旦等方相温度以上にすることで流動配向を消去して本来の光配向に起因した方向に再配向させることができる。しかし、この方法では液晶を注入してから時間がたってしまうと流動配向が安定してしまい、多少の熱処理では完全に消去できなくなる(これを配向のメモリー性と呼ぶ)。したがって、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行うことが望ましく、可能であれば3時間以内、遅くとも24時間以内に熱処理を行うことが望ましい。
【0034】
実施例の光偏向液晶セル100において、電圧無印加状態で、液晶分子の長軸がプリズム長さ方向に直交し、電圧印加により、液晶分子の長軸が基板法線方向に立ち上がる。実施例に用いた液晶は、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に平行な偏光成分に対して、屈折率1.716を示し、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に垂直な偏光成分に対して、屈折率1.504を示す。
【0035】
プリズム層3を構成するUV硬化型のアクリル系樹脂の屈折率は、1.51であり、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に垂直な偏光成分に対する液晶の屈折率と同等である。なお、第1の材料の屈折率と第2の材料の屈折率との差が、第1の材料の屈折率または第2の材料の屈折率に対して3%以内(より好ましくは2%以内)であるとき、両材料の屈折率が同等であるとする。
【0036】
したがって、実施例による光偏向液晶セル100は、液晶分子の長軸が基板法線方向に立ち上がる電圧印加時には、液晶層の屈折率(1.504)とプリズム層3の屈折率(1.51)が同等となるので、プリズムの作用は消滅し、入射光をほぼそのまま直進させることとなる。一方、電圧非印加時(低い電圧の印加時を含む)には、液晶層の屈折率とプリズム層3の屈折率が異なるので、プリズムの作用が生じ、入射光を屈折させることとなる。
【0037】
なお、プリズム形成用の金型にはエア抜き用の微小な溝を形成してもよい。また、金型と基板とは真空中で重ね合わせてもよい。なお、液晶の注入方法は真空注入に限らず、例えばOneDrop Fill(ODF)法を用いてもよい。
【0038】
なお、実施例の光偏向液晶セル100では、プリズムパターンより広く上下基板間で90°に交差した長方形状の電極パターンを用い、両基板側から端子を取り、また、メインシール部分で上下基板の電極が交差しないようにした。メインシール部分で上下基板の電極を交差させないことにより、短絡が抑制される。なお、片側から端子を取りたい場合は、メインシールに上下導通用の金ボールを添加する構造等とすればよい。
【0039】
以上のようにして作製した液晶セル100をプロジェクター光学系に組み込んで画像の変化の様子を観察した。液晶プロジェクターに予め配置されている液晶表示装置の偏光板の貼り方向と液晶セル100の液晶分子配向方向が平行になるように向きを合わせて配置した。液晶セル100の透明電極にピン端子等をつなげることにより導通をとり、液晶セル100に交流電圧を印加できるようにした。液晶セル100はプロジェクターレンズの外側に配置した。また、液晶セル100の外側には、多焦点レンズを配置した。ここで用いた多焦点レンズは、後述する図4に示す光学系20の多焦点レンズ31と同様のものであり、場所によって焦点距離の異なる凸レンズ(レンズ厚が薄くなるにつれ焦点距離が短くなるタイプ)を1/2にカットした形状のものである。
【0040】
液晶セル100に電圧を印加したところ、プロジェクターにより投影された画像の位置が電圧により上下方向に移動する様子が観察された。また、多焦点レンズにより画像の大きさや焦点距離も変化した。この時、画像の画質はほとんど劣化することなく、その位置、焦点距離、大きさだけを変化させることができた。
【0041】
なお、液晶分子は細長い分子形状を有しており、ある方向の偏光(液晶分子の長軸方向)は曲げることができるが、ある方向の偏光はそのまま透過する。したがって、光源から出た光がヘッドアップディスプレイやプロジェクター用の液晶表示装置を経由して出射される偏光方向と、液晶セル100の液晶表示装置側に施される配向処理の方向が平行になるように配置しないと、全ての光を曲げることはできなくなる。
【0042】
図4は、本発明の実施例による光偏向液晶セル100を光学系20に組み込んだヘッドアップディスプレイの構成を表す概念図である。
【0043】
ヘッドアップディスプレイの光学系20は車両30のフロントガラス25下方に搭載される。LED等の光源21の光は、ある程度平行光になるように配光制御された状態で液晶表示装置22に入射される。液晶表示装置22に表示される光26による画像は、液晶表示装置22の表示面に平行に配置される光偏向液晶セル100を透過して、反射板(ミラー)24により上方向に反射されて、コンバイナ兼用のフロントガラス25上に投影される。液晶表示装置22は、偏光板を用いており、液晶表示装置22から出射する画像の光26は直線偏光状態になっている。この偏光の軸と光偏向液晶セル100のオフ時の投射面内の液晶分子配列方向が平行になるように、光偏向液晶セル100の向きを合わせて配置した。また、光偏向液晶セル100の後段(本実施例では、反射板24とフロントガラス25との間)の光軸中に複数の焦点を有する多焦点レンズ31を配置した。制御部28は、光偏向液晶セル100に印加する電圧を制御することにより、光偏向液晶セル100が画像の光26を曲げる角度を調整し、多焦点レンズ31に入射する画像の光26の位置や角度を調整可能である。
【0044】
多焦点レンズ31は、複数の焦点を有し、例えば、それぞれが異なる焦点距離を有する第1の領域と第2の領域を有し、好ましくは第1の領域と第2の領域の中間の焦点距離を有する第3の領域(単数又は複数の領域)を有する。なお、第1〜第3の領域は、焦点距離が段階的に変化しても良いし連続的に変化しても良い。
【0045】
本実施例では、多焦点レンズ31として、領域によって焦点距離が連続的に変化する凸レンズ(レンズ厚が薄くなるにつれ焦点距離が短くなるタイプ)を1/2にカットした形状のものを用いた。光偏向液晶セル100に電圧が印加されずに光が最大角度曲げられた場合に、当該光が通過する領域を、最も焦点距離が短い第1の領域R1とし、光偏向液晶セル100に電圧が印加されて光が曲げられない(直進する)場合に、当該光が通過する領域を、最も焦点距離が長い第2の領域R2とし、光偏向液晶セル100に中間電圧が印加されて、光がある程度曲げられている場合に、当該光が通過する領域を、第1の領域と第2の領域との中間の焦点距離を有する第3の領域R3とする。
【0046】
なお、上述の例では、1つのレンズが複数の焦点距離を有する場合を説明したが、複数の単焦点レンズを組み合わせることにより、多焦点レンズ31を構成してもよい。この場合、例えば、第1〜第3の領域R1〜R3のそれぞれに対応して単焦点レンズを配置すればよい。
【0047】
また、多焦点レンズ31は上述の例に限らず、例えば、可変焦点レンズや、電圧により焦点距離を変更可能な液晶レンズ等を用いることもできる。このように焦点距離を制御可能なレンズを多焦点レンズ31として用いる場合、制御部28は、光偏向液晶セル100が画像の光26を曲げる角度に合わせて、多焦点レンズ31の焦点距離を制御する。例えば、図4に示す光学系20では、光偏向液晶セル100が画像の光26を曲げる角度(光が下向きに曲がる角度)が大きくなるにつれて、多焦点レンズ31の焦点距離が短くなるように制御する。
【0048】
なお、第1〜第3の領域R1〜3の各領域の焦点距離の関係は、上述のように領域R1の焦点距離がもっとも短く、領域R2の焦点距離がもっとも長く、領域R3の焦点距離がそれらの中間であるものに限らず、希望する視覚効果(光偏向液晶セル100により光が曲げられる角度との関係)に従い、例えば、領域R1及び領域R2を同等の焦点距離として、領域R3をそれらよりも短い又は長い焦点距離を有するものとしたり、領域R2がもっとも短い焦点距離を有し領域R1が最も長い焦点距離を有するようにしたりしても良い。
【0049】
図5は、図4に示すヘッドアップディスプレイにおいて、視点位置を固定して、ドライバーから見える虚像の位置及び大きさを調整する例を説明するための概念図である。
【0050】
この例では、液晶表示装置22から入射した光が下向きに曲がるようにプリズム層3の向きを合わせている。この時の光偏向液晶セル100の液晶層15内の液晶分子の配向方向はプリズム方向と直交となっている。本実施例で用いた材料やプリズム角度では、光は光偏向液晶セル100により最大12°程度曲げられる。ヘッドアップディスプレイで取ることの可能な光路長は車両30への設置スペースによって制限されるが、例えば、本実施例では、光路長を50cmとしているので、フロントガラス25に投影される光26による画像は、上下にその位置を10cm程度移動させることが可能である。なお、ヘッドアップディスプレイの光路長を長くすることにより、さらに大きな範囲で投影像の位置を調整可能となる。
【0051】
光偏向液晶セル100に印加する電圧を変化させることにより、光26による画像がフロントガラス25に投影される位置を下方向に移動させ、同一視点位置Pから見た投影像(虚像)27の位置をP1からP2、P3に移動させる。電圧を印加せずに最大角度(本実施例では、12°)曲げた状態が位置P1であり、その時の光路(光軸)はOP1である。また、電圧を印加して光を曲げない状態が位置P3であり、その時の光路(光軸)はOP3である。さらに、中間電圧を印加した状態がP2であり、その時の光路(光軸)はOP2である。
【0052】
光路(光軸)OP1を通過する画像の光26は、多焦点レンズ31のレンズ厚の薄い部分(光路OP1〜OP3が通過する中で最も焦点距離が短い部分)である第1の領域R1を通過して、他の光路OP2又はOP3を通る投影像よりも小さい投影像27sとしてフロントガラス25に投影される。このとき、焦点距離が短くなるので、投影像27sは遠くに見える。
【0053】
光路(光軸)OP2を通過する画像の光26は、多焦点レンズ31のレンズ厚が中間の部分(光路OP1〜OP3が通過する中で中間の焦点距離を有する部分)である第3の領域R3を通過して、他の光路OP1よりも大きく、OP3を通る投影像よりも小さい投影像27mとしてフロントガラス25に投影される。このとき、投影像27sに比べて焦点距離が長くなるので、投影像27sよりも投影像27mは近くに見える。
【0054】
光路(光軸)OP3を通過する画像の光26は、多焦点レンズ31のレンズ厚が厚い部分(光路OP1〜OP3が通過する中で最も焦点距離が長い部分)である第2の領域R2を通過して、他の光路OP1及びOP2を通る投影像よりも大きい投影像27lとしてフロントガラス25に投影される。このとき、投影像27s及び27mに比べて焦点距離が長くなるので、投影像27s及び27mよりも投影像27lは近くに見える。
【0055】
以上の構成により、光偏向液晶セル100に印加する電圧を変化させることにより、画像26がフロントガラス25に投影される位置を下方向に移動させるとともに、該移動に伴い画像の光路26が変化して、多焦点レンズ31の異なる焦点距離を有する部分を通過することにより、フロントガラス25に投影される大きさを下方向に移動するに従い大きくして近くにあるように表示させることができる。
【0056】
なお、他の構成の多焦点レンズ31を用いる場合でも、光26による画像がフロントガラス25に投影される位置を下方向に移動するとともに、多焦点レンズ31の焦点距離が長くなるように設定すれば、上述の効果を得ることが可能である。例えば、複数の単焦点レンズを組み合わせて用いる場合には、光路OP1上の第1の領域R1には、最も焦点距離の短いレンズを配し、光路OP3上の第2の領域R2には最も焦点距離の長いレンズを配し、光路OP2上の第3の領域R3には、それらの中間の焦点距離を有するレンズを配置すればよい。また、液晶レンズや可変焦点レンズを用いる場合は、光26による画像がフロントガラス25に投影される位置を下方向に移動するとともに、それらの焦点距離を長くするように制御すればよい。
【0057】
近年、カーナビゲーションシステムを搭載する車両が増加しつつあるが、路地がたくさんある場合など、ドライバーがどの路地で曲れば良いかが判りにくい場合がある。そのため、図6に示すように本実施例のヘッドアップディスプレイを用いて進行方向をフロントガラス25に、実環境(景色)に合わせて矢印(虚像)27を表示し、実際に曲がるべき交差点をドライバーに強く認識させることができる。図6(A)では、実際に曲がるべき交差点(以下、単に「目標交差点」とする)を矢印27で指し示している。この状態から、車両が前方に移動すると、図6(B)に示すように、目標交差点が近づいてくるため、それに伴い矢印27と目標交差点が見える位置にずれが生じるが、光偏向液晶セル100に印加する電圧を制御することにより矢印27の表示位置を下方向に移動させるとともに大きさを大きくし、常に矢印27の位置を目標交差点が見えている位置に合わせることができる。
【0058】
図6に示す例の場合、制御部28は、車両30に搭載されているカーナビゲーションシステム等から車両30の位置情報(目標交差点までの距離情報、3Dセンサーによる高低情報、操舵角情報等)を取得し、該取得した位置情報に基づき光偏向液晶セル100に印加する電圧を制御する。例えば、目標交差点までの距離が小さくなるに従い、光偏向液晶セル100に印加する電圧を上昇させ、光偏向液晶セル100で画像の光26を曲げる角度を小さくし、フロントガラス25に投影される投影像(矢印)27の位置を下方向に移動させる。このとき、画像の光26は多焦点レンズ31の焦点距離が比較的長い部分を通過するようになり、投影像(矢印)27の大きさが大きくなり、近くにあるように見えるようになる。
【0059】
このように、車両30の進行(位置)に合わせて投影像(矢印)27の位置及び大きさを移動させることにより、ドライバーは目標交差点を間違えることなく運転をすることが可能となる。また、矢印の投影像27の輝度を、車両30から目標交差点までの距離が遠い場合には、暗めに設定し、近づくにつれて明るめに設定することで、距離感を強調することもできる。したがって、本発明の実施例による光偏向液晶セル100を用いたヘッドアップディスプレイは、上述の例のようにフロントガラス25に矢印27等を表示し、進行方向を実風景と同期させて表示するようなナビゲーションシステムに好適である。
【0060】
図7は、外光の液晶表示装置への入射を防ぐことが可能なヘッドアップディスプレイの光学系20の構成例を示す概念図である。
【0061】
基本的構成は図5に示す例と同様であるが、光偏向液晶セル100と液晶表示装置22との位置関係が異なる。光偏向液晶セル100を液晶表示装置22から所定の距離を置いて配置する。この距離は、少なくとも光偏向液晶セル100で可能な最大角度(この例では12°)で光を曲げた場合に、フロントガラス25方面から光偏向液晶セル100に入射した外光29が液晶表示装置22の表示面に入射しないようになるのに十分な距離である。
【0062】
一般に、フロントガラス25の方面から太陽光などの強い光線29が逆光として光学系20に入射した場合、虚像27は見づらくなる。これは入射した外光29が液晶表示装置22表面で散乱を生じ液晶表示装置22の投影像輝度が相対的に低下することでコントラスト比が低下することによるものである。
【0063】
この場合、バックライト用の光源21の光度を高めて虚像27をより明るくするなどの対策が必要となるが、コントラスト比は「点灯部輝度/非点灯部輝度」で表されるものであり、光源の輝度を高めることだけでは大きな改善効果は得られない。
【0064】
本実施例では、太陽光などの光線29の液晶表示装置22への入射を制限することで、上記非点灯部輝度上昇を抑制し問題を解消できる。
【0065】
太陽光などの外光29が液晶表示装置22に入射する方向に来たときには、例えば、センサ(図示せず)などで光29が液晶表示装置22に入射してきた事を感知して、制御部28により光偏向液晶セル100に印加する電圧を調整し、太陽光29が液晶表示装置22に入らないように光29を逃がすように光路を切り替える。この時、投影像27の位置は最適な位置から少しずれることがあるものの、ドライバーは投影像を認識可能である。このような構成により光源21の輝度を高く設定することなく逆光対策を行うことができる。
【0066】
図7の例では、多焦点レンズの領域R1、R3を通過する光線は屈折の作用を受け、液晶表示装置からの光線26と外光29とで異なる光路を辿っている。ここで、多焦点レンズ31から光偏向液晶セル100又は液晶表示装置22までの光路を十分に長く取ることで、外光29は光偏向液晶セル100又は液晶表示装置22に到達しない構成とすることができる。外光29が到達しないため、外光29は虚像27に対して影響しない。
【0067】
図7の例で、多焦点レンズの領域R2を通過する光線は、フロントガラス25から光偏向液晶セル100間で外光29と投影像の光26がほぼ同じ光路を辿っている。この場合、上記した光路の切り替えが有効に作用する。
【0068】
以上、本発明の実施例によれば、投影像27の表示位置により焦点距離を変更することができるので、目の焦点移動を少なくできる。また、投影された表示が直感的にわかりやすくなる。さらに、目の焦点付近に投影像27を表示することができるため、視線移動を少なくすることができる。
【0069】
また、本発明の実施例によれば、液晶表示装置22から出る光が直線偏光であれば、光偏向液晶セル100により全ての光を曲げることが可能である。なお、光偏向液晶セル100により光を曲げることのできる角度は、セル構造(プリズム形状、液晶の屈折率異方性等)により制御可能な範囲が異なるが、18°程度まで曲げることが可能である。
【0070】
また、本発明の実施例によれば、機械的作動部なしに、電圧によりヘッドアップディスプレイなどのプロジェクター光学系による投影像の位置を連続的に制御することができる。よって、視点の高さに合わせた画像の位置調整が可能である。さらに、視点の高さと投影像の位置と実風景の位置を調整してあわせることが可能である。
【0071】
なお、上述の実施例では、車両30に搭載されるヘッドアップディスプレイを例に説明したが、動きに合わせて角度調整を行うことができるので、船舶やヘリコプター、農機等のピッチ姿勢が大きく変動するものに搭載されるヘッドアップディスプレイ等にも好適である。
【0072】
また、本発明の実施例によれば、光源の輝度を高くすること無く、プロジェクター光学系の逆光対策を行うことができる。
【0073】
なお、上述の実施例では、光偏向液晶セル100により光を上下に曲げる例のみを説明したが、プリズム層3の向きを変えることで、左右方向又は斜め方向に光を曲げることもできる。さらに、光偏向液晶セル100を2枚使用することにより、上下方向及び左右方向に光を曲げることも可能となる。
【0074】
また、上述の実施例では、光偏向液晶セル100を液晶表示装置22と反射板24との間に配置したが、反射板24上や反射板24と多焦点レンズ31との間に配置するようにしてもよい。
【0075】
また、多焦点レンズ上に反射金属を形成するなどにより、多焦点レンズ31と反射板24をいったいに形成するようにしても良い。
【0076】
また、実施例の光偏向液晶セル100は、偏光板を用いる液晶光学素子に比べ、高透過率である。各セルの光透過率として90%以上、反射防止コーティングにより95%以上が見込まれる。
【0077】
また、上記実施例では、三角柱状のプリズムを用い、底角として、45°及び90°であるものを用いたが、底角はこれに限らない。基板に垂直入射した光線について、基板から適当に緩い角度で立ち上がる斜面がプリズムを構成し、垂直に近い底角で立ち上がる面はプリズムを構成しない。このような構成により、各セルで一方向への偏向が容易になる。
【0078】
また、上記実施例では、三角柱状プリズムのピッチを20μmとした。プリズムのピッチは1μm〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0079】
また、プリズムの形状は、実施例で示したものに限らず、例えば、断面形状がサインカーブ状でもよい。
【0080】
また、光源として、発光ダイオード(LED)の他に、例えば、HIDランプ、電界放射(FE)光源、蛍光灯等が考えられる。
【0081】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0082】
1、11 ガラス基板
2、12 透明電極
3 プリズム層
3a プリズム
3b ベース層
13 配向膜
14 ギャップコントロール剤
15 液晶層
20 光学系
21 光源
22 液晶表示装置
24 反射板
25 フロントガラス(コンバイナ)
26 画像の光
27 投影像
28 制御部
29 外光
30 車両
31 多焦点レンズ
100 光偏向液晶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光の画像を出力する画像表示装置と、
光偏向液晶セルと、前記光偏向液晶セルの後段に配置され複数の焦点を有するレンズとを含み、前記画像表示装置が出力する画像を投影する光学系と、
制御部と
を有するヘッドアップディスプレイであって、
前記光偏向液晶セルは、
相互に対向する一対の第1及び第2の透明基板と、
前記第1及び第2の透明基板上に形成され、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極と、
前記第1及び第2の透明基板の一方の上方に形成されるプリズムを有するプリズム層と、
前記プリズム層上に形成され、前記画像表示装置の出力の偏光方向と平行に配向処理が施された配向膜と、
前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、液晶分子を有する液晶層とを有し、
前記制御部は、外部からの情報に従い、前記第1及び第2の透明電極に印加する電圧を変化させることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて前記プリズムの斜面と前記液晶層の界面を通過する前記画像の光の屈折角を制御して、該画像の投影位置及び大きさを制御するヘッドアップディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−24921(P2013−24921A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156781(P2011−156781)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】