説明

ベルト伝動装置

【課題】伝動ベルトが被水で水に濡れたために伝動性能を低下させたり、伝動ベルトがプーリから外れたりするなどの異常を容易に判定できるベルト伝動装置を供する。
【解決手段】電気抵抗率が絶縁材より小さく水よりも大きい素材により伝動ベルト15が構成され、プーリに架け渡された状態の伝動ベルト15の電気抵抗を測定する電気抵抗測定手段30と、電気抵抗測定手段30が測定した電気抵抗値rが所定の正常電気抵抗値範囲(R≦r≦R)から外れる場合はベルト状態に異常があると判定する判定手段31とを備えたベルト伝動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ間に架け渡された伝動ベルトにより動力伝達がなされるベルト伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト伝動装置において、伝動ベルトには所定の張力が加えられることにより、プーリと伝動ベルトとの間に適度な摩擦力が働きプーリと伝動ベルトとの間の滑りを抑えて円滑に動力の伝達が行われる。
伝動ベルトの状態が変化すると、プーリと伝動ベルトとの間で必要な摩擦力が得られず適正な動力伝達ができないことがある。
【0003】
伝動ベルトを長年使用していると、プーリとの接触面が摩耗して適正な動力伝達ができなくなることがあるが、このような伝動ベルトの摩耗による寿命を検知する方法については既に提案された例がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4184309号公報
【0005】
同特許文献1に開示されたベルト寿命検知方法は、伝動ベルトが導電層の外側に導電率の低い外層が被覆して形成される特殊なもので、かかる伝動ベルトが架け渡されるプーリ間の電気抵抗を測定することにより伝動ベルトの寿命を検知する方法である。
なお、伝動ベルトが架け渡されていないとき、プーリ間は絶縁処理がなされている。
【0006】
すなわち、ベルト伝動装置の駆動により伝動ベルトのプーリとの接触部(導電率の低い外層)が摩耗してくると、導電層がプーリと接触してプーリ間の電気抵抗が低下するので、これを測定することで、伝動ベルトの摩耗状態を監視してベルトの寿命を検知しようとするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、ベルト伝動装置は、被水により伝動ベルトが水で濡れるようなことがあると、プーリと伝動ベルトの接触部の滑り(ベルトスリップ)が生じ易くなり、異音が発生したり、ベルトの摩耗が進んで伝動性能が低下するおそれがある。
【0008】
特許文献1に開示された伝動ベルトは、その導電層が帆布であって、ベルト長手方向に延びる導電性の糸と絶縁体の糸を交互に並べてベルト幅方向に延びる絶縁体の糸によって織られた織物である特殊なベルトであり、水よりも電気抵抗率が小さい導電性の糸を備えているので、被水に対して電気特性がどのように変化するか不明である。
もし被水によりプーリ間の電気抵抗が低下するとすると、摩耗による電気抵抗の低下と区別することができなくなる。
【0009】
また、電気抵抗の低下のみを測定してベルトの寿命を検知するので、伝動ベルトがプーリから外れたような異常は検知することができない。
なお、特許文献1に開示された伝動ベルトは前記したように特殊な構造のベルトであり、一般に使用されている伝動ベルトは使えず、特別に製造しなければならないためコストが高い。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、伝動ベルトが被水で水に濡れたために伝動性能を低下させたり、伝動ベルトがプーリから外れたりするなどの異常を容易に判定できるベルト伝動装置を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、複数のプーリに無端状の伝動ベルトが架け渡され動力が伝達されるベルト伝動装置において、電気抵抗率が絶縁材より小さく水よりも大きい素材により前記伝動ベルトが構成され、前記プーリに架け渡された状態の前記伝動ベルトの電気抵抗を測定する電気抵抗測定手段と、前記電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が所定の正常電気抵抗値範囲から外れる場合はベルト状態に異常があると判定する判定手段とを備えたベルト伝動装置とした。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のベルト伝動装置において、前記ベルト伝動装置が内燃機関の機関ケースに支持された補機に機関動力を伝達するものであり、前記複数のプーリのうち少なくとも1つのプーリは前記機関ケースと前記絶縁材を介して絶縁状態にある支軸に軸支され、前記複数のプーリのうち少なくとも1つのプーリは前記機関ケースと導通状態にあり、前記電気抵抗測定手段は、前記伝動ベルトの電気抵抗として前記機関ケースと絶縁状態にある支軸と前記機関ケースまたは前記機関ケースと導通状態にある部材との間の電気抵抗を測定することを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のベルト伝動装置において、前記支軸を前記機関ケースから絶縁状態で支持する前記絶縁材の露出部が、フード部材で構成したラビリンス構造により外部から覆い隠されることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項2または請求項3記載のベルト伝動装置において、前記補機を制御する補機制御手段を備え、前記補機制御手段は、前記電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が前記正常電気抵抗値範囲より低く異常と前記判定手段が判定したときに、前記補機の駆動を抑制または停止するよう制御することを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの項記載のベルト伝動装置において、前記伝動ベルトに常に張力を与えるテンショナと、前記テンショナによる張力を制御する張力調整手段とを備え、前記張力調整手段は、前記電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が前記正常電気抵抗値範囲より低く異常と前記判定手段が判定したときに、前記テンショナによる張力を増加するように制御することを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの項記載のベルト伝動装置において、異常を報知する報知手段と、前記報知手段を制御する報知制御手段とを備え、前記報知制御手段は、前記電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が前記正常電気抵抗値範囲より高く異常と前記判定手段が判定したときに、前記報知手段を駆動して報知するように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載のベルト伝動装置によれば、電気抵抗率が絶縁材より小さく水よりも大きい素材からなる伝動ベルトのプーリに架け渡された状態の電気抵抗を測定し、その測定した電気抵抗値が所定の正常電気抵抗値範囲から外れる場合はベルト状態に異常があると判定するので、伝動ベルトが被水で水に濡れたために伝動性能を低下させたり、伝動ベルトがプーリから外れたりするなどの異常を容易に判定することができる。
【0018】
請求項2記載のベルト伝動装置によれば、内燃機関の機関ケースに支持された補機に機関動力を伝達するベルト伝動装置であり、複数のプーリのうち少なくとも1つのプーリは機関ケースと絶縁状態にある支軸に軸支され、複数のプーリのうち少なくとも1つのプーリは機関ケースと導通状態にあり、前記電気抵抗測定手段は、伝動ベルトの電気抵抗として機関ケースと前記絶縁材を介して絶縁状態にある支軸と機関ケースまたは機関ケースと導通状態にある部材との間の電気抵抗を測定するので、機関ケースと絶縁状態にある支軸に支持され導通状態にあるプーリと機関ケースに導通状態にあるプーリとの間の電気抵抗すなわちプーリ間に架け渡される伝動ベルトの電気抵抗を、極めて簡単に測定することができる。
【0019】
請求項3記載のベルト伝動装置によれば、支軸を機関ケースから絶縁状態で支持する絶縁材の露出部が、フード部材で構成したラビリンス構造により外部から覆い隠されるので、外部から水が絶縁材の露出部まで浸入するのをフード部材で構成したラビリンス構造が防止するので、被水時の絶縁材の絶縁状態を容易に維持することができる。
【0020】
請求項4記載のベルト伝動装置によれば、電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が正常電気抵抗値範囲より低く異常と判定手段が判定したときに、補機の駆動を抑制または停止するよう制御するので、被水により伝動ベルトが水に濡れて滑り伝動性能が低下しても、補機の駆動を抑制または停止することで、補機の抵抗を小さくして伝動ベルトの滑りを少なくし伝動性能を回復することができる。
【0021】
請求項5記載のベルト伝動装置によれば、伝動ベルトに常に張力を与えるテンショナと、テンショナによる張力を制御する張力調整手段とを備え、電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が正常電気抵抗値範囲より低く異常と判定手段が判定したときに、テンショナによる張力を増加するように制御するので、被水により伝動ベルトが水に濡れて滑り伝動性能が低下しても、テンショナによる張力を増加することでベルトスリップを少なくして伝動性能を回復することができる。
【0022】
請求項6記載のベルト伝動装置によれば、異常を報知する報知手段と、報知手段を制御する報知制御手段とを備え、電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が正常電気抵抗値範囲より高く異常と判定手段が判定したときに、前記報知手段を駆動して報知するので、伝動ベルトが切断したりプーリから外れたりしたときを速やかに運転者が知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本願発明の一実施の形態に係るベルト伝動装置の概略模式図である。
【図2】同ベルト伝動装置の要部断面(図1のII−II線断面)模式図である。
【図3】ベルト伝動装置の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図3に基づいて説明する。
本実施の形態に係るベルト伝動装置は、車両に搭載される内燃機関1の動力を補機類であるACジェネレータ2とエアコンプレッサ3に伝達するものである。
内燃機関1はクランク軸11を車体左右方向に指向させ横置きに車両に搭載され、図1は、その内燃機関1を車体左方から視た概略模式図であり、内燃機関1の左側面に設けられたベルト伝動装置10が図示されている。
【0025】
内燃機関1の前側にACジェネレータ2が配設され、後側にエアコンプレッサ3が配設されている。
内燃機関1の機関ケース1cにベアリング11bを介して回転自在に軸支されるクランク軸11の左端に駆動プーリ11pが嵌着され(図2参照)、前側のACジェネレータ2の入力軸12の左端に被動プーリ12pが嵌着され、後側のエアコンプレッサ3の入力軸13の左端に被動プーリ13pが嵌着されている。
【0026】
内燃機関1の駆動プーリ11pとACジェネレータ2の被動プーリ12pとエアコンプレッサ3の被動プーリ13pとの間に無端状の伝動ベルト15が架け渡される。
伝動ベルト15に常に適正な張力を与えるテンショナ装置20が機関ケース1cの左側面に設けられている。
テンショナ装置20は、機関ケース1cの左側面に突設された枢軸21に一端を枢支されて揺動する揺動アーム22の先端に絶縁材23を介して支軸24が突設され、支軸24の端部にベアリング25を介してアイドルプーリ26が回転自在に軸支されている(図2参照)。
【0027】
このアイドルプーリ26を伝動ベルト15に押圧して張力を与えるテンショナは、油圧オートテンショナ27と油圧アクチュエータ28が長尺方向に並んで一体に組み付けられたものである。
【0028】
油圧アクチュエータ28の油圧オートテンショナ27とは反対側に突出したブラケットが機関ケース1cの側壁に突設されたピン1pに軸支され、互いに一体に組み付けられた油圧オートテンショナ27と油圧アクチュエータ28がピン1pを中心に揺動自在とし、油圧オートテンショナ27の揺動先端側に突出したブラケットが揺動アーム22の中央付近に突設されたピン22pに軸支される。
【0029】
互いに一体の油圧オートテンショナ27と油圧アクチュエータ28が、揺動アーム22を枢軸21を中心に揺動して先端のアイドルプーリ26を伝動ベルト15に押圧することで、駆動プーリ11pと被動プーリ12p,13p間に架け渡された伝動ベルト15に張力を与え、伝動ベルト15とプーリ11p,12p,13pとの接触面での滑りを抑えて、内燃機関1の動力をACジェネレータ2とエアコンプレッサ3に適正に伝達する。
【0030】
油圧オートテンショナ27は、伝動ベルトが緩み張力が低下すると、小さい減衰力で速やかにばねにより伸長して適度な張力を回復し、伝動ベルト15の張力が増大すると、大きな減衰力で緩慢に収縮して伝動ベルト15に過度の張力が加わらないようにしたものである。 油圧アクチュエータ28は、オイルパイプ28pが延出して機関ケース1cと連結されており、機関ケース1cから油圧の供給を受けて伸長して油圧オートテンショナ27自体を移動させることでベルト張力を変更させることができる。
【0031】
本ベルト伝動装置10は、テンショナ装置20の絶縁材23を挟んだ揺動アーム22と支軸24との間の電気抵抗値を測定する絶縁抵抗計30が設けられている。
絶縁材23はゴム材からなり、電気抵抗率が1012Ω・mと極めて大きい。
【0032】
内燃機関1は、機関ケース1cが車体にアースされており、したがって、図2を参照して、機関ケース1cにベアリング11bを介して軸支されるクランク軸11およびクランク軸11に嵌着される駆動プーリ11pは導電性の金属材で連結されて導通状態にあって電位差を有せずアースされている。
【0033】
また、図2を参照して、テンショナ装置20の揺動アーム22も機関ケース1cと導電性の金属材で連結されて導通状態にあって電位差を有せずアースされている。
したがって、絶縁抵抗計30の揺動アーム22に接する検出端子aは、アースされた機関ケース1cに、さらには機関ケース1cと導通状態の駆動プーリ11pの伝動ベルト15との接触面Aまで略導通状態にある。
【0034】
他方、揺動アーム22に絶縁材23を介して支持される支軸24は、ベアリング25を介してアイドルプーリ26といずれも導電性の金属材で導通状態にあるので、絶縁抵抗計30の支軸24に接する検出端子bは、アイドルプーリ26の伝動ベルト15との接触面Bと略導通状態にある。
【0035】
したがって、絶縁抵抗計30が計測する検出端子aが接する揺動アーム22と検出端子bが接する支軸24との間の電気抵抗は、検出端子a,bとそれぞれ略導通状態にある伝動ベルト15の接触面Aと接触面Bとの間の電気抵抗に略等しく、結局、絶縁抵抗計30は伝動ベルト15の電気抵抗を測定していることになる。
【0036】
このように、絶縁抵抗計30は、伝動ベルト15の電気抵抗を測定するのに、絶縁抵抗計30から延びる2本の検出配線の先端の検出端子a,bがそれぞれ回転することのない揺動アーム22と支軸24に接すればよいので、移動体にブラシを摺接させて測定するのに比べて、電気抵抗値を簡単にかつ正確に測定することができる。
【0037】
伝動ベルト15は、電気抵抗率が絶縁材23より小さく水(電気抵抗率約5×10Ω・m)よりも大きい素材により構成されており、本ベルト伝動装置10における伝動ベルト15の接触面Aと接触面Bの間の電気抵抗値は、測定してみると、1.8MΩ程度である。
これは伝動ベルト15が正常状態(ドライ状態)にあるときで、1.8MΩの近辺の電気抵抗値が正常電気抵抗値である。
【0038】
被水により伝動ベルト15が水に濡れ、伝動ベルト15の表面に水膜が生じると、水の導電性により伝動ベルト15の接触面Aと接触面Bの間の電気抵抗値は、約0.1MΩと大幅に低下する。
【0039】
伝動ベルト15が水に濡れると、プーリ11p,12p,13pとの接触部で滑りが生じ易くなるので、動力伝達が適確に実行されないおそれがある。
また、伝動ベルト15がプーリ11p,12p,13pから外れたり切断したときは、絶縁抵抗計30は、絶縁材23の電気抵抗を測ることになり、電気抵抗値は略無限大となる。
【0040】
そこで、本ベルト伝動装置10は、絶縁抵抗計30が測定した伝動ベルト15の電気抵抗値rに基づいて伝動ベルト15の異常を判定して対処するコンピュータ31による制御装置を備えている。
【0041】
図1を参照して、絶縁抵抗計30が測定した伝動ベルト15の電気抵抗値rの検出信号はコンピュータ31に入力される。
電気抵抗値rを入力したコンピュータ31は、信号処理して、テンショナ装置20の油圧アクチュエータ28を油圧制御することでベルト張力を調整する。
また、本内燃機関1が搭載される車両には、運転席前方のインストルメントパネルに警告ランプ33が設けられており、コンピュータ31はこの警告ランプ33の制御も行う。
【0042】
すなわち、コンピュータ31は、張力調整手段である油圧アクチュエータ油圧調整手段32に指示信号を出力して油圧アクチュエータ油圧調整手段32により油圧アクチュエータ28を油圧制御するとともに、警告ランプ33による報知を制御する。
【0043】
コンピュータ31によるベルト伝動装置10の制御手順を図3に示し、以下図3の制御手順に従って説明する。
なお、伝動ベルト15が正常状態(ドライ状態)にあるときの電気抵抗値と判定できる正常電気抵抗値範囲の下限抵抗値Rと上限抵抗値Rを予め決めておく。
【0044】
すなわち、絶縁抵抗計30が測定した測定電気抵抗値rが、下限抵抗値R以上で上限抵抗値R以下の正常電気抵抗値範囲内(R≦r≦R)であれば伝動ベルト15は正常状態にあると判定し、正常電気抵抗値範囲を外れると(r<R,R<r)、伝動ベルト15は異常状態にあると判定する。
【0045】
図3のフローチャートにおいて、まず、測定電気抵抗値rを読込み(ステップ1)、次いで測定電気抵抗値rが上限抵抗値R以下か否かを判別し(ステップ2)、上限抵抗値R以下ならばステップ3に進み、上限抵抗値Rを超えていればステップ6に飛ぶ。
測定電気抵抗値rが上限抵抗値R以下でステップ3に進むと、測定電気抵抗値rが下限抵抗値R以上か否かを判別し、下限抵抗値R以上ならばステップ4に進み、下限抵抗値R未満ならばステップ5に飛ぶ。
【0046】
測定電気抵抗値rが上限抵抗値R以下で下限抵抗値R以上の正常電気抵抗値範囲内(R≦r≦R)にあるときは、ステップ1,2,3を経て伝動ベルト15が正常状態にあると判定してステップ4に進み、油圧アクチュエータ28を通常油圧に設定する。
伝動ベルト15が正常状態にあるため、油圧アクチュエータ28の油圧を通常油圧に調整することで、伝動ベルト15に通常の適度な張力が与えられ適正な動力伝達が実行される。
【0047】
被水により伝動ベルト15が水に濡れるようなことがあると、前記したように測定電気抵抗値rは大幅に低下するので、ステップ3で測定電気抵抗値rが下限抵抗値R未満(r<R)と判別されてステップ5に飛び、伝動ベルト15は異常状態にあると判定して油圧アクチュエータ28の油圧を高圧に設定する。
【0048】
したがって、油圧アクチュエータ28の高油圧は油圧オートテンショナ27を介して揺動アーム22を押圧し伝動ベルト15の張力を増大することで、被水により滑り易くなった伝動ベルト15の滑りを抑制して、異音の発生を防止し、ベルトスリップによる伝動ベルト15の摩耗を抑制して伝動性能を回復し動力伝達を確実に行うようにすることができる。
【0049】
伝動ベルト15に付着した水は、被水が続かない限り、伝動ベルト15の回動により振り払われたり、内燃機関1やプーリ11p,12p,13pからの熱により蒸発して、伝動ベルト15は乾燥した正常状態(ドライ状態)に戻る。
【0050】
したがって、被水により測定電気抵抗値rが下限抵抗値R未満(r<R)である限り、ステップ1,2,3,5が繰り返されて油圧アクチュエータ28の油圧を高圧に設定してベルト張力が通常より増大されるが、伝動ベルト15が乾燥して正常状態(ドライ状態)に戻ると、測定電気抵抗値rが下限抵抗値R以上となってステップ3からステップ4に進むようになり、油圧アクチュエータ28の油圧を通常油圧に調整して通常のベルト張力とする通常制御に戻る。
【0051】
また、伝動ベルト15がプーリ11p,12p,13pから外れたり切断したときは、前記したように電気抵抗値は略無限大となるので、ステップ2で測定電気抵抗値rが上限抵抗値Rを超えると判別されてステップ6に飛び、伝動ベルト15は異常状態にあると判定されて油圧アクチュエータ28の油圧を解除し、さらにステップ7に進んで警告ランプ33を点滅駆動して、運転者に伝動ベルト15がプーリ11p,12p,13pから外れたか切断した異常状態にあることを知らせる。
伝動ベルト15がプーリ11p,12p,13pから外れたり切断している限り、ステップ1,2,6,7が繰り返されて警告ランプ33が点滅して運転者に警告を続ける。
【0052】
なお、伝動ベルト15がプーリ11p,12p,13pから外れたり切断した場合は、ACジェネレータ2やエアコンプレッサ3の補機類が作動しなくなるだけなので、しばらくの内燃機関の運転は可能で走行を暫時持続することができるため、警告ランプ33が点滅したときは、運転者は車両を最寄りの修理可能な場所まで移動して速やかに伝動ベルトを交換または修理することになる。
【0053】
以上の実施の形態では、被水により伝動ベルト15が水に濡れたとき、ステップ5で油圧アクチュエータ28の油圧を高圧に調整していたが、コンピュータが補機制御手段を備えて補機のACジェネレータ2の発電レベルを下げたり、またエアコンプレッサ3の冷凍能力レベルを下げたり回転当たりの吐出量を抑制するなどして補機の抵抗を小さくしてベルトスリップを抑え、異音の発生を防止し、ベルトスリップによる伝動ベルト15の摩耗を抑制して伝動性能を回復し動力伝達を確実に行うようにすることができる。
なお、このように補機類の作動を制御した場合には、伝動ベルト15が乾燥してドライ状態に戻ったとき、補機類の作動を通常のレベルまで回復させるようにする。
【0054】
ステップ5において、補機のACジェネレータ2の発電レベルを下げたり、エアコンプレッサ3の回転当たりの吐出量を抑制するなどして補機の抵抗を小さくすると、同時に油圧アクチュエータ28の油圧を高圧に調整するようにしてもよい。
【0055】
なお、本実施の形態では、図2に示すように、揺動アーム22に絶縁材23を介して支軸24が支持されているが、この介装された絶縁材23の両端面が露出しており、同露出面が水に濡れたりすると、揺動アーム22と支軸24とを絶縁する絶縁材23の絶縁性能が失われるので、絶縁材23の両端面を外部から覆い隠すラビリンス構造が形成されている。
【0056】
すなわち、揺動アーム22の絶縁材23周りの外周縁に沿って外側面に円筒状のフード板51aが突設され、アイドルプーリ26の外周縁に沿って内側面に突設された円筒状のフード板51bが前記フード板51aと軸方向で重なりフード板51aを内側に収めるようにして、内側の円筒状フード板51aを外側の円筒状フード板51bが覆うラビリンス構造を構成して絶縁材23の外側の露出端面を覆い隠している。
【0057】
また、揺動アーム22の絶縁材23周りの外周縁に沿って内側面に円筒部の端縁を中心側に延出した中空円板部を一体に形成したフード板52aが突設され、支軸24の絶縁材23より内側に突出した内端部に中空円板状のフード板52bが嵌着されている。
フード板52bは、揺動アーム22とフード板52aの中空円板部との間に挿入されるようにして、内側のフード板52bを外側のフード板52aが外周と側方を覆うラビリンス構造を構成して絶縁材23の内側の露出端面を覆い隠している。
【0058】
フード板51a,51bによるラビリンス構造およびフード板52a,52bによるラビリンス構造により絶縁材23の全ての露出面は外部から覆い隠されるので、外部から水が絶縁材23まで浸入するのを防止して被水時の絶縁材23の絶縁状態を容易に維持することができる。
【0059】
以上の実施の形態では、絶縁抵抗計30は、検出配線の先端の検出端子a,bをテンショナ装置20の絶縁材23を挟んだ揺動アーム22とアイドルプーリ26の支軸24に接して伝動ベルト15の電気抵抗を測定していたが、揺動アーム22に接する検出端子aは揺動アーム22と導通状態にある機関ケース1cあるいは機関ケース1cに導通状態にある他の部材に接するようにしてもよい。
また、検出端子bが接するプーリの支軸は、伝動ベルトが架け渡されるプーリの支軸であって機関ケースと絶縁状態にある支軸であれば何れのプーリの支軸であってもよい。
【0060】
なお、伝動ベルト15に張力を与えるべくアイドルプーリ26を伝動ベルト15に押し当てるのに油圧オートテンショナ27を使用していたが、油圧式に限らず伝動ベルトに張力を与えることができるテンショナならどのような方式でもよい。
ただし、伝動ベルトの張力を任意に調整できるものでなければならない。
【符号の説明】
【0061】
1…内燃機関、1c…機関ケース、2…ACジェネレータ、3…エアコンプレッサ、
10…ベルト伝動装置、11…クランク軸、11p…駆動プーリ、12…入力軸、12p…被動プーリ、13…入力軸、13p…被動プーリ、15…伝動ベルト、
20…テンショナ装置、21…枢軸、22…揺動アーム、23…絶縁材、24…支軸、25…ベアリング、26…アイドルプーリ、27…油圧オートテンショナ、28…油圧アクチュエータ、
30…絶縁抵抗計、31…コンピュータ、32…油圧アクチュエータ油圧調整手段、33…警告ランプ、
51a,51b…フード板、52a,52b…フード板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプーリに無端状の伝動ベルトが架け渡され動力が伝達されるベルト伝動装置において、
電気抵抗率が絶縁材より小さく水よりも大きい素材により前記伝動ベルトが構成され、
前記プーリに架け渡された状態の前記伝動ベルトの電気抵抗を測定する電気抵抗測定手段と、
前記電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が所定の正常電気抵抗値範囲から外れる場合はベルト状態に異常があると判定する判定手段とを備えたことを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項2】
前記ベルト伝動装置が内燃機関の機関ケースに支持された補機に機関動力を伝達するものであり、
前記複数のプーリのうち少なくとも1つのプーリは前記機関ケースと前記絶縁材を介して絶縁状態にある支軸に軸支され、
前記複数のプーリのうち少なくとも1つのプーリは前記機関ケースと導通状態にあり、
前記電気抵抗測定手段は、前記伝動ベルトの電気抵抗として前記機関ケースと絶縁状態にある支軸と前記機関ケースまたは前記機関ケースと導通状態にある部材との間の電気抵抗を測定することを特徴とする請求項1記載のベルト伝動装置。
【請求項3】
前記支軸を前記機関ケースから絶縁状態で支持する前記絶縁材の露出部が、フード部材で構成したラビリンス構造により外部から覆い隠されることを特徴とする請求項2記載のベルト伝動装置。
【請求項4】
前記補機を制御する補機制御手段を備え、
前記補機制御手段は、
前記電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が前記正常電気抵抗値範囲より低く異常と前記判定手段が判定したときに、前記補機の駆動を抑制または停止するよう制御することを特徴とする請求項2または請求項3記載のベルト伝動装置。
【請求項5】
前記伝動ベルトに常に張力を与えるテンショナと、
前記テンショナによる張力を制御する張力調整手段とを備え、
前記張力調整手段は、
前記電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が前記正常電気抵抗値範囲より低く異常と前記判定手段が判定したときに、前記テンショナによる張力を増加するように制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかの項記載のベルト伝動装置。
【請求項6】
異常を報知する報知手段と、
前記報知手段を制御する報知制御手段とを備え、
前記報知制御手段は、
前記電気抵抗測定手段が測定した電気抵抗値が前記正常電気抵抗値範囲より高く異常と前記判定手段が判定したときに、前記報知手段を駆動して報知するように制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかの項記載のベルト伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−144813(P2011−144813A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3562(P2010−3562)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】