説明

ベルト式無段変速機の油圧制御装置

【課題】1つのソレノイド弁を用いてライン圧とセカンダリ圧とを制御する場合に、最低保証圧を確保しながらライン圧の過剰分を抑制することが可能なベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】ソレノイド圧Psls がレギュレータ弁及び挟圧コントロール弁に信号圧として入力され、ソレノイド圧によってライン圧及びセカンダリ圧を比例的に制御する。レギュレータ弁71は、バルブスプール91を一方向に付勢する第1スプリング92と、ソレノイド圧を受けてバルブスプールを押すプランジャ93と、プランジャとバルブスプールとの間に介装された第2スプリング94とを備え、ソレノイド圧が所定値以下の領域では、プランジャの移動を第2スプリングによって制限してライン圧を一定圧に保持し、ソレノイド圧が所定値より高い領域ではライン圧をソレノイド圧に比例して上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の油圧制御装置、特にライン圧を制御するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間にベルトを巻き掛け、プライマリプーリの油室(プライマリ油室)への供給油量をレシオコントロール弁(流量制御弁)で制御することによって、プーリ比を制御すると共に、セカンダリプーリの油室(セカンダリ油室)への供給油圧を挟圧コントロール弁(圧力制御弁)で制御することによって、ベルト挟圧を制御するベルト式無段変速機が知られている。
【0003】
図9は、従来のベルト式無段変速機における油圧回路の一例を示す。オイルポンプ200の吐出圧は、レギュレータ弁210によってライン圧に調圧され、ライン圧は、減圧弁220によって所定圧に減圧された上でリニアソレノイド弁230へ供給されている。ライン圧は挟圧コントロール弁240へも供給され、この挟圧コントロール弁240によって所定のセカンダリ圧に調圧された油圧がセカンダリ油室250へ供給されている。リニアソレノイド弁230の出力圧(ソレノイド圧)は、レギュレータ弁210と挟圧コントロール弁240とに信号圧として入力され、ソレノイド圧に応じてライン圧とセカンダリ圧とがそれぞれ制御される。
【0004】
図10は、従来におけるソレノイド圧に対するライン圧とセカンダリ圧の特性を示す。横軸はリニアソレノイド弁の出力圧(ソレノイド圧)であり、縦軸は油圧である。図9のように1個のリニアソレノイド弁によってレギュレータ弁と挟圧コントロール弁とを制御した場合、ライン圧とセカンダリ圧とが共にソレノイド圧に比例した油圧になる。ライン圧の最低圧はセカンダリ圧の最低圧より高く、ライン圧の最高圧はセカンダリ圧の最高圧と等しく設定されている。挟圧コントロール弁はライン圧を元圧としているので、セカンダリ圧がライン圧を上回ることはない。
【0005】
図11はレギュレータ弁210の一例の具体的構造を示す。レギュレータ弁210は、スプール211とスプリング212とを有し、スプリング212が配置されたポート213にはリニアソレノイド弁からソレノイド圧が入力されている。レギュレータ弁210には、ライン圧が入力される入力ポート214、ライン圧が信号圧としてフィードバックされる信号ポート215、ドレーンポート216,217が設けられている。ソレノイド圧が0のときには、信号ポート215に入力されるライン圧とその受圧面積との積がスプリング荷重と釣り合うようにライン圧が調圧され、ソレノイド圧が上昇するに従い、信号ポート215に入力されるライン圧と受圧面積との積と、ポート213に入力されるソレノイド圧と受圧面積との積とスプリング荷重との和とが釣り合うように、ライン圧が可変調圧される。
【0006】
ライン圧は、油圧回路を構成する全てのバルブの元圧であり、各種ソレノイド弁の元圧を確保するために、最低保証圧Pmin が予め決められている。図11に示すレギュレータ弁210の場合、スプリング荷重に釣り合うように信号ポート215にフィードバックされたライン圧が最低保証圧に相当する。そのため、ソレノイド圧が低い領域において、ライン圧がセカンダリ圧に比べてかなり高い油圧に調整され、必要分より高圧になる範囲が発生してしまう。図10では、斜線で示す領域がライン圧の過剰分になる。そのため、オイルポンプの駆動損失が大きくなり、燃費に影響する。スプリング荷重を低くすれば、ライン圧の過剰分を低減することは可能であるが、ソレノイド圧が0近傍のときに最低保証圧Pmin を確保できなくなるという問題がある。
【0007】
特許文献1には、無段変速機の油圧回路であって、リニアソレノイド弁の出力圧をレギュレータ弁と挟圧コントロール弁とに信号圧として入力し、それによってライン圧とベルト挟圧とを可変調圧するものが開示されている。特許文献1は、上述の油圧回路と同様に1つのソレノイド弁によってライン圧とベルト挟圧とを可変調圧するものであるが、レギュレータ弁の構造は図11に示す構造と基本的に同じであり、図10と同様に斜線で示すライン圧の過剰分が発生する。
【0008】
特許文献2には、プライマリプーリの制御信号圧とセカンダリプーリの制御信号圧とを利用してライン圧を制御することで、制御領域全体でライン圧を必要最小限に抑えるものが開示されている。しかし、特許文献2では、適正なライン圧設定を2つのソレノイド弁の信号圧で制御するものであり、油圧回路が複雑になると同時に、制御も複雑になるという問題がある。
【0009】
特許文献3には、レギュレータ弁にプランジャを追加して、リバース時にはリバース圧を導いてライン圧を増大させるものが開示されている。しかし、特許文献3はリバース時におけるライン圧の増圧に関するものであり、通常走行時におけるライン圧の過剰分を抑制するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−21016号公報
【特許文献2】特開2009−63020号公報
【特許文献3】特開2008−274999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、1つのソレノイド弁を用いてライン圧とセカンダリ圧とを制御する場合に、最低保証圧を確保しながらライン圧の過剰分を抑制することが可能なベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、ベルトが巻きかけられたプライマリプーリとセカンダリプーリとを有し、前記両プーリにはそれぞれ可動シーブを作動させる油室が設けられ、前記セカンダリプーリの油室の供給油圧を制御することにより、ベルト挟圧を制御するベルト式無段変速機であって、オイルポンプの吐出圧を所定のライン圧に調圧するレギュレータ弁と、前記ライン圧が一定圧に減圧された上で供給され、電気信号に応じたソレノイド圧を発生するソレノイド弁と、前記ライン圧が供給され、前記セカンダリプーリの油室への供給油圧を前記ベルト挟圧を制御するための所定のセカンダリ圧に調圧する挟圧コントロール弁とを備え、前記ソレノイド圧が前記レギュレータ弁及び前記挟圧コントロール弁に信号圧として入力され、前記ソレノイド圧によってライン圧及びセカンダリ圧が制御される油圧制御装置において、前記レギュレータ弁は、前記ソレノイド圧が所定値以下の領域における前記ソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配を、前記ソレノイド圧が所定値より高い領域における前記ソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配よりも低くするライン圧調整手段を有することを特徴とする、油圧制御装置を提供する。
【0013】
本発明では、1つのソレノイド弁によってレギュレータ弁と挟圧コントロール弁とを制御する油圧制御装置であって、レギュレータ弁がソレノイド圧の大きさによってソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配を変化させるライン圧調整手段を有する。すなわち、ソレノイド圧が所定値以下の領域におけるソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配を、ソレノイド圧が所定値より高い領域におけるソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配よりも低くする。そのため、ライン圧の最低保証圧はソレノイド圧が0におけるライン圧によって与えられる。一方、ソレノイド圧が所定値より高い領域では、ソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配が高くなるので、できるだけセカンダリ圧の特性に近づけることができ、ライン圧の過剰分を少なくすることができる。
【0014】
ライン圧調整手段を構成するため、レギュレータ弁が、バルブスプールと、固定部とバルブスプールとの間に介装され、バルブスプールを一方向に付勢する第1スプリングと、バルブスプールの一端部と対向して配置され、ソレノイド圧を受けてバルブスプールを第1スプリングと同一方向に押すプランジャと、プランジャとバルブスプールとの間に介装された第2スプリングと、を備えた構造とするのが望ましい。ソレノイド圧が所定値以下の領域では、プランジャの移動を第2スプリングによって制限するため、バルブスプールに作用する力は変わらず、ライン圧を最低保証圧に維持できる。最低保証圧は、第1スプリングと第2スプリングのばね荷重の和、及び受圧面積によって設定できる。ソレノイド圧が所定値、つまり第2スプリングのばね荷重に相当する圧力より高くなると、プランジャがバルブスプールを直接押し上げるので、ライン圧をソレノイド圧に比例して上昇させることができる。この場合には、レギュレータ弁の一部を変更するだけでライン圧調整手段を構成できるので、既存の油圧回路を変更する必要がなく、構成を簡素化できる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、レギュレータ弁にソレノイド圧の大きさによってソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配を変化させるライン圧調整手段を設けたので、ソレノイド圧が0の時のライン圧によって最低保証圧を確保でき、ソレノイド圧が所定値より高い領域では、ソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配が高くなるので、セカンダリ圧の特性に近づけることができ、ライン圧の過剰分を少なくすることができる。そのため、オイルポンプの駆動ロスを低減でき、燃費が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る無段変速機を搭載した車両の構成を示すスケルトン図である。
【図2】本発明に係る無段変速機の油圧制御装置の一例を示す回路図である。
【図3】本発明に係るレギュレータ弁の第1実施例の断面図である。
【図4】図3に示すレギュレータ弁を用いた場合の、ソレノイド圧に対するライン圧及びセカンダリ圧の各特性を示す図である。
【図5】本発明に係るレギュレータ弁の第2実施例の断面図である。
【図6】図5に示すレギュレータ弁を用いた場合の、ソレノイド圧に対するライン圧及びセカンダリ圧の各特性を示す図である。
【図7】レギュレータ弁の比較例の断面図である。
【図8】図7に示すレギュレータ弁を用いた場合の、ソレノイド圧に対するライン圧及びセカンダリ圧の各特性を示す図である。
【図9】従来のベルト式無段変速機の油圧回路の一例である。
【図10】従来のソレノイド圧に対するライン圧及びセカンダリ圧の各特性を示す図である。
【図11】従来のレギュレータ弁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明に係るベルト式無段変速機を搭載した車両の構成の一例を示す。エンジン1の出力軸1aは、無段変速機2を介してドライブシャフト(出力軸)32に接続されている。無段変速機2には、トルクコンバータ3、変速装置4、油圧制御装置7及びエンジン1により駆動されるオイルポンプ6などが設けられている。
【0018】
無段変速機2は、トルクコンバータ3のタービン軸5の回転を正逆切り替えてプライマリ軸10に伝達する前後進切替装置8、プライマリプーリ11とセカンダリプーリ21との間にベルト15を巻き掛けた変速装置4、セカンダリ軸20の動力をドライブシャフト32に伝達するデファレンシャル装置30などで構成されている。
【0019】
前後進切替装置8は、遊星歯車機構80と逆転ブレーキB1と直結クラッチC1とで構成されている。遊星歯車機構80のサンギヤ81が入力部材であるタービン軸5に連結され、リングギヤ82が出力部材であるプライマリ軸10に連結されている。逆転ブレーキB1はピニオンギヤ83を支えるキャリア84とトランスミッションケースとの間に設けられ、直結クラッチC1はキャリア84とサンギヤ81との間に設けられている。直結クラッチC1を解放して逆転ブレーキB1を締結すると、前進走行状態となり、逆に、逆転ブレーキB1を解放して直結クラッチC1を締結すると、後進走行状態となる。
【0020】
プライマリプーリ11は、プライマリ軸10上に一体に形成された固定シーブ11aと、プライマリ軸10上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bとを備えている。可動シーブ11bの背後には、プライマリ軸10に固定されたシリンダ12が設けられ、可動シーブ11bとシリンダ12との間に油室13が形成されている。油室13へ供給される作動油を、後述するレシオコントロール弁76,77で流量制御することにより、変速制御が実施される。
【0021】
セカンダリプーリ21は、セカンダリ軸20上に一体に形成された固定シーブ21aと、セカンダリ軸20上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bとを備えている。可動シーブ21bの背後には、セカンダリ軸20に固定されたピストン22が設けられ、可動シーブ21bとピストン22との間に油室23が形成されている。この油室23への供給油圧(セカンダリ圧)を制御することにより、トルク伝達に必要なベルト挟圧力が与えられる。なお、油室23には初期挟圧力を与えるバイアススプリング24が配置されている。セカンダリプーリ21の油室23の近傍の供給油路中には、セカンダリ圧を検出する油圧センサ108が設けられている。
【0022】
セカンダリ軸20の一方の端部はエンジン側に向かって延び、この端部に出力ギヤ27が固定されている。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びるドライブシャフト32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0023】
無段変速機2は電子制御装置100(図1参照)によって制御される。電子制御装置100には、エンジン回転数センサ101、車速センサ(又はセカンダリプーリ回転数センサ)102、スロットル開度(又はアクセル開度)センサ103、シフトポジションセンサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、及びセカンダリ圧を検出する油圧センサ108からそれぞれ検出信号が入力されている。入力信号として、その他の信号(例えばブレーキ信号、CVTの作動油温など)を入力してもよいことは勿論である。プライマリプーリ回転数センサ105及び車速センサ102の検出信号により、プーリ比を検出できる。
【0024】
電子制御装置100は、油圧制御装置7に内蔵されたソレノイド弁を制御している。油圧制御装置7は、オイルポンプ6、プライマリプーリ11の油室13、セカンダリプーリ21の油室23、逆転ブレーキB1、直結クラッチC1とそれぞれ配管を介して接続されている。電子制御装置100は、車速とスロットル開度とに応じて予め設定された変速マップに従って目標プーリ比又はプライマリ回転数を決定し、油圧制御装置7内のソレノイド弁を制御することによって、無段変速機2のプライマリプーリ11の油室13への供給油量を調整し、プーリ比又はプライマリ回転数を目標値へとフィードバック制御している。また、エンジントルクと変速比とからベルト伝達トルクを求め、ベルト滑りを発生させない最低限のベルト挟圧力となるように、セカンダリプーリ21の油室23への供給油圧(セカンダリ圧)を目標値へとフィードバック制御している。この際、油圧センサ108で実際のセカンダリ圧が検出される。
【0025】
図2は油圧制御装置7の一例の油圧回路図である。図2において、レギュレータ弁71はオイルポンプ6の吐出圧を所定のライン圧PL に調圧する弁である。クラッチモジュレータ弁72はライン圧を減圧して、リニアソレノイド弁SLSの元圧及び直結クラッチC1,逆転ブレーキB1への元圧となるクラッチモジュレータ圧Pcmを出力する減圧弁である。ソレノイドモジュレータ弁73は、クラッチモジュレータ圧Pcmを調圧して、アップシフト用ソレノイド弁DS1、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2の元圧となる一定のソレノイドモジュレータ圧Psmを発生する弁である。ガレージシフト弁74は、ガレージシフト時に直結クラッチC1及び逆転ブレーキB1への供給圧を過渡制御できるように油路を切り替える切替弁である。マニュアル弁75はマニュアル弁75はシフトレバーと機械的に連結された手動操作弁である。アップシフト用レシオコントロール弁76及びダウンシフト用レシオコントロール弁77は、ソレノイド弁DS1、DS2が出力するアップシフト用信号圧Pds1 とダウンシフト用信号圧Pds2 との相対関係によって、プライマリ油室13に給排される作動油量を調整する流量制御弁である。レシオチェック弁78は、閉じ込み制御のために、プライマリ油室13への作動油を流量制御から圧力制御に切り替えて、プライマリ油室13の油圧とセカンダリ油室23の油圧との比率を予め設定された関係に保持するための弁である。
【0026】
挟圧コントロール弁79は、セカンダリプーリ21の油室23への供給油圧を所望のセカンダリ圧に調圧する圧力制御弁である。挟圧コントロール弁79の一端側にスプリング79aが配置され、スプリング79aを配置したポート79bにソレノイド圧Psls が信号圧として入力されている。スプリング79aと対向する他端側の信号ポート79cには、ソレノイドモジュレータ圧Psmが入力されている。入力ポート79dにはライン圧が供給され、出力ポート79eはセカンダリプーリ21の油室23と接続され、信号ポート79fにはセカンダリ圧が挟圧コントロール弁79をスプリング79aと対向方向に付勢するべくフィードバックされている。そのため、セカンダリ圧はソレノイド圧Psls 比例した油圧に調圧される。なお、ソレノイド圧が0の時のセカンダリ圧は、ライン圧の最低保証圧より低く、0より高い圧に設定されている。
【0027】
リニアソレノイド弁SLSは、指示電流に応じてクラッチモジュレータ圧Pcmを可変調圧し、指示電流に比例したソレノイド圧Psls を出力するものである。ソレノイド圧Psls は、ライン圧の調圧制御、逆転ブレーキB1と直結クラッチC1のガレージシフト時の過渡制御、セカンダリ圧の調圧制御などに用いられる。アップシフト用ソレノイド弁DS1及びダウンシフト用ソレノイド弁DS2は、入力されるデューティ比信号に応じてソレノイドモジュレータ圧Psmを調圧し、アップシフト用信号圧Pds1 とダウンシフト用信号圧Pds2 とをそれぞれ出力する。本実施形態では、リニアソレノイド弁SLSは常開型のリニアソレノイド弁、ソレノイド弁DS1,DS2は共に常閉型のデューティソレノイド弁を使用している。
【0028】
図2に示す油圧制御装置7のうち、レギュレータ弁71、減圧弁72、挟圧コントロール弁79、リニアソレノイド弁SLSを結ぶ油路構成は図9と同様であり、レギュレータ弁71を除く他の弁は本発明と直接関係がないため、本明細書では詳しい説明を省略する。
【0029】
−第1実施例−
図3に、本発明に係るレギュレータ弁71の第1実施例を示す。レギュレータ弁71は、バルブボデー90内を上下に移動自在なバルブスプール91を備えており、バルブボデー90に固定されたガイド部材(固定部材)95とバルブスプール91との間に、バルブスプール91を図3の上方向に付勢する第1スプリング92が介装されている。なお、ガイド部材95はキー96によってバルブボデー90に対して抜け止めされている。バルブスプール91の一端部と対向して、ソレノイド圧Psls を受けてバルブスプール91を第1スプリング92と同一方向に押すプランジャ93が配置され、さらにプランジャ93とバルブスプール91との間に第2スプリング94が配置されている。バルブボデー90には、ライン圧(オイルポンプの吐出圧)が供給される入力ポート90a、ライン圧が信号圧として入力される信号ポート90b、入力ポート90aから供給された油をオイルポンプ6の吸込み側へ排出するドレーンポート90cが設けられている。プランジャ93はガイド部材95内を上下に移動自在であり、このガイド部材95の側壁にソレノイド圧Psls が入力される信号ポート90dが形成され、ソレノイド圧Psls をプランジャ93の下面側に作用させるよう構成されている。なお、信号ポート90dにはオリフィスとして機能する小さな連通穴が形成されているので、格別のオリフィスを省略できる。バルブスプール91のプランジャ側と反対側の端部に設けられた信号ポート90eはドレーンされ、スプリング92、94が収容されたポート90fもドレーンされている。
【0030】
本実施例では、第1スプリング92の一端部を支持するばね受け部としてガイド部材95を用いたが、ガイド部材95に代えてバルブボデー90自身にばね受け部を設けてもよいし、第1スプリング92を支持するばね受け部材をバルブボデー90に別に装着してもよい。また、プランジャ93を移動自在にガイドする部材としてガイド部材95を用いたが、バルブボデー90にプランジャ93を移動自在にガイドする部分を形成してもよい。なお、実施例のように、ガイド部材95が第1スプリング92のばね受け部材と、プランジャ93のガイド部材と、ソレノイド圧Psls が入力される信号ポート90dとを兼ねる場合には、部品数が少なく、かつ効率的に構成できる。
【0031】
ここで、信号ポート90bにおけるバルブスプール91を下方へ押すライン圧PL の受圧面積をA、プランジャ93を上方へ押すソレノイド圧Psls の受圧面積をB、第1スプリング92のばね荷重をSP1、第2スプリング94のばね荷重をSP2とする。
B×Psls ≦SP2の時、図3の左半分に示すように、第2スプリング94によってプランジャ93が動かないので、
A×PL =SP1+SP2
であり、ライン圧PL は一定値に保持される。この一定値が最低保証圧である。
B×Psls >SP2になると、図3の右半分に示すように、プランジャ93が第2スプリング94に打ち勝って動き、バルブスプール91に接触するので、
A×PL =SP1+B×Psls
となり、ソレノイド圧Psls に比例したライン圧PL に調圧される。
【0032】
図4は、図3に示すレギュレータ弁71におけるライン圧特性を示す。なお、図4には、従来のライン圧特性とセカンダリ圧特性も記載されているが、これら特性は図10に記載されたものと同じである。ソレノイド圧が所定値S1(=SP2/B)以下の領域では、ライン圧は一定値(最低保証圧Pmin )に保持される。この一定値は、第1スプリング92と第2スプリング94のばね荷重の和と、受圧面積Aとによって設定できる。ソレノイド圧が所定値S1を越えると、ライン圧はソレノイド圧に比例して上昇する。本発明のライン圧の上昇勾配は従来のライン圧の上昇勾配より大きく、セカンダリ圧の上昇勾配より小さく設定され、ライン圧の最大値とセカンダリ圧の最大値とは等しく設定されている。この設定は、受圧面積A,Bによって調整できる。このように、最低保証圧を確保しながら、ライン圧をセカンダリ圧より少しだけ高い圧に調圧できるので、制御領域全体にわたってライン圧を必要最小限に抑えることができ、オイルポンプの駆動損失を低減できる。
【0033】
−第2実施例−
図5に、本発明に係るレギュレータ弁71Aの第2実施例の構造を示す。第1実施例と同一機能部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この実施例では、バルブボデー90にプラグ97が固定され、バルブスプール91とプラグ97との間に軸方向に移動自在なプランジャ93が配置されている。バルブスプール91とプランジャ93との間に第1スプリング92が配置され、プランジャ93とプラグ97との間に第2スプリング94が配置されている。第1スプリング92と第2スプリング94の初期ばね荷重は等しい。第1スプリング92が配置された空間と連通するポート90fはドレーンされ、第2スプリング94が配置された空間と連通する信号ポート90dにはソレノイド圧Psls が入力されている。
【0034】
図6は図5に示すレギュレータ弁71Aによるライン圧特性を示す。この実施例では、ソレノイド圧が所定値S2以下の領域において、プランジャ93が第1,第2スプリング92,94によってバルブスプール91とプラグ97との中間位置に保持されている(図5の左半分に示す)。そのため、図6に示すように、ライン圧はソレノイド圧の増大につれて緩やかな勾配で上昇する。この勾配は、従来のライン圧の上昇勾配より小さい。ソレノイド圧が所定値S2を越えると、プランジャ93がバルブスプール91に当接し、プランジャ93とバルブスプール91とが一体で動く。そのため、ソレノイド圧が所定値S2以下の領域に比べて、ライン圧はソレノイド圧に応じて大きな勾配で上昇する。
【0035】
この実施例の場合も、ソレノイド圧がS2以上のライン圧の上昇勾配は従来のライン圧の上昇勾配より大きく、セカンダリ圧の上昇勾配より小さく設定され、ライン圧の最大値とセカンダリ圧の最大値とは等しく設定されている。そのため、ライン圧をセカンダリ圧より少しだけ高い圧に調圧でき、制御領域全体にわたってライン圧を必要最小限に抑えることができる。また、ソレノイド圧が所定値S2以下の領域では、ライン圧が緩やかに上昇するので、所定値S2でのライン圧の勾配変化が小さくて済む。
【0036】
−比較例−
図7はレギュレータ弁の比較例を示し、図8はこのレギュレータ弁71Bによるライン圧特性を示す。この比較例は、第2実施例(図5)における第2スプリング94を省略したものであり、バルブスプール91とプランジャ93との間に第1スプリング92のみが配置されている。
【0037】
比較例の場合も、図8に示すように、ソレノイド圧が所定値S3以下の領域では最低保証圧Pmin を確保することができ、所定値S3を越えると、ライン圧をソレノイド圧に比例して変化させることができる。しかし、ライン圧特性が二点鎖線で示すようにゼロ点を通る特性となるので、予め設定されたセカンダリ圧より低い特性になるという欠点がある。セカンダリ圧はライン圧を上回ることはないので、必然的にセカンダリ圧の上限がライン圧特性によって制限され、所望のセカンダリ圧を得ることができなくなる。このことは、ベルト挟圧が不足する可能性を招き、ベルト滑りの原因になる。これに対し、本発明では2個のスプリングの作用によって図4、図6に示すように、ライン圧がセカンダリ圧より常に高くなるように設定できるので、ベルト挟圧が不足するという事態を防止できる。
【0038】
前記実施例では、レギュレータ弁及び挟圧コントロール弁を制御するためのソレノイド弁としてリニアソレノイド弁を使用したが、デューティソレノイド弁を使用することもできる。また、本発明のレギュレータ弁の構造は、図3及び図5に限るものではなく、ソレノイド圧が所定値以下の領域では所定値以上の領域に比べて、ライン圧の上昇勾配が小さい特性が得られる構造であれば、任意に変更可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
2 無段変速機
4 変速装置
6 オイルポンプ
7 油圧制御装置
11 プライマリプーリ
13 プライマリ油室
21 セカンダリプーリ
23 セカンダリ油室
71 レギュレータ弁
79 挟圧コントロール弁
90 バルブボデー
91 バルブスプール
92 第1スプリング
93 プランジャ
94 第2スプリング
95 ガイド部材
SLS リニアソレノイド弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻きかけられたプライマリプーリとセカンダリプーリとを有し、前記両プーリにはそれぞれ可動シーブを作動させる油室が設けられ、
前記セカンダリプーリの油室の供給油圧を制御することにより、ベルト挟圧を制御するベルト式無段変速機であって、
オイルポンプの吐出圧を所定のライン圧に調圧するレギュレータ弁と、
前記ライン圧が一定圧に減圧された上で供給され、電気信号に応じたソレノイド圧を発生するソレノイド弁と、
前記ライン圧が供給され、前記セカンダリプーリの油室への供給油圧を前記ベルト挟圧を制御するための所定のセカンダリ圧に調圧する挟圧コントロール弁とを備え、
前記ソレノイド圧が前記レギュレータ弁及び前記挟圧コントロール弁に信号圧として入力され、前記ソレノイド圧によってライン圧及びセカンダリ圧が制御される油圧制御装置において、
前記レギュレータ弁は、前記ソレノイド圧が所定値以下の領域における前記ソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配を、前記ソレノイド圧が所定値より高い領域における前記ソレノイド圧に対するライン圧の上昇勾配よりも低くするライン圧調整手段を有することを特徴とする、油圧制御装置。
【請求項2】
前記レギュレータ弁は、
バルブスプールと、
固定部と前記バルブスプールとの間に介装され、前記バルブスプールを一方向に付勢する第1スプリングと、
前記バルブスプールの一端部と対向して配置され、前記ソレノイド圧を受けて前記バルブスプールを前記第1スプリングと同一方向に押すプランジャと、
前記プランジャとバルブスプールとの間に介装された第2スプリングとを備え、
前記ソレノイド圧が所定値以下の領域では、前記プランジャの移動を第2スプリングによって制限してライン圧を一定圧に保持し、
前記ソレノイド圧が所定値より高い領域では、前記ライン圧をソレノイド圧に比例して上昇させることを特徴とする、請求項1に記載の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−247290(P2011−247290A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117899(P2010−117899)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】