説明

ベルト式無段変速機

【課題】固定片を回転部材と一体回転可能に組み付ける場合に、その組み付け工程を簡略化することの可能な、ベルト式無段変速機を提供する。
【解決手段】無端状のベルト50が巻き掛けられ、かつ、ベルト50を介して動力伝達がおこなわれる2個のプーリと、2個のプーリのうち一方のプーリが26設けられた回転部材22と、回転部材22の回転中心となる軸線A1とを有し、プーリ26が、回転部材22と相対移動できる可動片33と、回転部材22と相対移動できず、かつ、回転部材22と一体回転する固定片31とを有しており、回転部材22と固定片31とが別体で構成されており、2個のプーリの回転数の比である変速比を無段階に変更できる、ベルト式無段変速機において、回転部材22および固定片31が、スプライン嵌合部70,71を介して接続部材21に連結されて、回転部材22と固定片31とが一体回転する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のプーリにベルトを巻き掛けて、そのプーリ同士の間で動力伝達をおこなう構成のベルト式無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動力源から被駆動部材に至る間に形成される動力伝達経路として、変速機を設けたものが知られている。この変速機は入力回転数と出力回転数との比、つまり変速比を変更する伝動装置である。この変速機には、変速比を無段階に変更可能な無段変速機と、変速比を段階的に変更可能な有段変速機とがある。この無段変速機の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された無段変速機は、駆動ベルトにより動力を伝達する構成のベルト式無段変速機である。このベルト式無段変速機は、平行に設けられたプライマリ軸およびセカンダリ軸を有している。そして、プライマリ軸にはプライマリプーリが設けられている。さらに、セカンダリ軸にはセカンダリプーリが設けられている。このセカンダリプーリは、セカンダリ軸の軸線に沿った方向には動かない固定片と、セカンダリ軸の軸線に沿った方向に移動可能な可動片とを有している。固定片は焼き嵌めによってセカンダリ軸に固定されている。このセカンダリ軸の外周には、シェル部材としてのプランジャが固定されている。また、可動片には、プランジャの外周面に摺動自在に接触するシリンダが設けられている。このシリンダとプランジャとの間に作動油室が形成されている。さらに、プライマリプーリおよびセカンダリプーリには駆動ベルトが巻き掛けられている。そして、作動油室に導入されるセカンダリ圧を調圧すると、作動油室の油圧に基づいて、可動片に加えられる推力が制御される。なお、ベルト式無段変速機は特許文献2にも記載されており、電気自動車の手動変速機が特許文献3に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−275154号公報
【特許文献2】特開2006−105217号公報
【特許文献3】特開平7−139626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の特許文献1に記載されたベルト式無段変速機においては、固定片をセカンダリ軸に焼き嵌め固定するために、焼き嵌め専用機が必要であり、固定片をセカンダリ軸と一体回転可能に組み付ける工程が複雑化する虞があった。
【0005】
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、固定片を回転部材と一体回転可能に組み付ける場合に、その組み付け工程を簡略化することの可能なベルト式無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、無端状のベルトと、このベルトが巻き掛けられ、かつ、このベルトを介して動力伝達がおこなわれる2個のプーリと、この2個のプーリのうち一方のプーリが設けられ、かつ、動力により回転される回転部材とを有し、前記回転部材に設けられたプーリが、前記回転部材の回転中心となる軸線に沿った方向で前記回転部材と相対移動できる可動片と、前記回転部材と相対移動できず、かつ、前記回転部材と一体回転する固定片とを有しており、前記回転部材と固定片とが別体で構成されているとともに、前記2個のプーリの回転数の比である変速比を無段階に変更することのできる、ベルト式無段変速機において、前記回転部材および前記固定片が、スプライン嵌合部を介して接続部材に連結されて、その回転部材と固定片とが一体回転する構成であることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記回転部材に伝達する動力を発生する動力源と、この動力源から前記回転部材に至る動力伝達経路に設けられ、かつ、相互に差動回転可能な3個の回転要素を有する遊星機構とを有し、3個の回転要素のうちのいずれか1個の回転要素が、前記接続部材であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の発明は、無端状のベルトと、このベルトが巻き掛けられ、かつ、このベルトを介して動力伝達がおこなわれる2個のプーリと、この2個のプーリのうち一方のプーリが設けられ、かつ、動力により回転される回転部材と、この回転部材の回転中心となる軸線とを有し、前記回転部材に設けられたプーリが、前記軸線に沿った方向で前記回転部材と相対移動できる可動片と、前記軸線に沿った方向で前記回転部材と相対移動できず、かつ、前記回転部材と一体回転する固定片とを有しており、前記回転部材と固定片とが別体で構成されており、前記固定片には前記軸線を中心として環状に形成され、かつ、前記ベルトが接触する接触面が設けられており、前記2個のプーリの回転数の比である変速比を無段階に変更することのできる、ベルト式無段変速機において、前記固定片に、前記可動片に接触して前記軸線に沿った方向における前記可動片の移動を防止するストッパが設けられており、このストッパにおける前記可動片に接触する先端が、前記軸線に沿った方向で前記接触面よりも前記可動片に近い位置まで延ばされていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3の構成に加えて、前記ストッパは、前記軸線を中心とする半径方向で前記接触面よりも内側に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、回転部材および固定片が、接続部材にスプライン嵌合部を介して連結されており、回転部材と固定片とが一体回転できる。したがって、回転部材と固定片とを固定する焼き嵌め専用機を用いずに済み、回転部材と固定片とを固定する作業もしくは工程を簡略化できる。
【0011】
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他、動力源の動力が遊星機構を経由して回転部材に伝達される。また、3個の回転要素のうちのいずれか1個の回転要素が、動力を伝達する機能と、接続部材としての機能とを兼備する。したがって、接続部材を専用で設けずに済み、部品点数の増加を抑制できる。
【0012】
請求項3の発明は、可動片が回転部材の軸線に沿った方向で、固定片に近づく向きで移動すると、可動片がストッパに接触するため、可動片が固定片の接触面に接触することを防止できる。
【0013】
請求項4の発明によれば、軸線に沿った方向で回転部材における可動片が取り付けられている箇所の外径は、軸線に沿った方向で回転部材における固定片が取り付けられている箇所の外径以上であるため、回転部材には、可動片が固定片に近づく可能性があるが、可動片がストッパに接触するため、請求項3の発明と同様の効果を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明は、車両、工作機械などに用いることが可能である。具体的には、動力源から被駆動部材に至る動力伝達経路にベルト式無段変速機が配置される。前記車両は、動力源の動力を車輪に伝達して駆動力(推力)を発生させて、地上を走行する移動体であり、この車両には、乗用車、バス、トラックなどが含まれる。この発明を車両に用いる場合、駆動力源から車輪(被駆動部材)に至る動力伝達経路に、ベルト式無段変速機を配置することが可能である。この発明を車両に用いる場合、駆動力源としては、エンジン、電動機、油圧モータ、フライホイールシステムなどのうち、少なくとも1種類の駆動力源を用いることが可能である。複数の駆動力源を用いる場合、同じ車輪に対して複数の駆動力源が伝達されるように構成された第1パワートレーン、または、各駆動力毎に異なる車輪に動力が伝達されるように構成された第2パワートレーンのいずれでもよい。第1パワートレーンはいわゆる二輪駆動車であり、第2パワートレーンは四輪駆動車が挙げられる。前記二輪駆動車においては、駆動力源の動力が前輪または後輪のいずれに伝達される構成であってもよい。また、エンジンは燃料を燃焼させた場合の熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であって、エンジンとしては内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることが可能である。さらに、電動機は、電気エネルギを運動エネルギに変換して出力する動力装置であり、直流電動機、または交流電動機のいずれでもよい。また、電動機としては、電動機としての機能(力行機能)と発電機としての機能(回生機能)とを兼備したモータ・ジェネレータを用いることも可能である。油圧モータは、圧油の流体エネルギを回転部材の運動エネルギに変換する動力装置である。さらに、フライホイールシステムは、慣性質量体の慣性エネルギを、回転部材の運動エネルギとして用いる動力装置である。
【0015】
一方、前記工作機械は、工具(刃物を含む)により、対象物を加工する機械である。具体的には、対象物を切削、研磨、塑性変形させることができる。そして、工作機械では、工具または対象物のうち、少なくとも一方を回転させて対象物を加工することができる。この場合、動力源から工作物または工具に至る動力伝達経路に、ベルト式無段変速機を配置することが可能である。この発明において、この回転部材は、動力源の動力が伝達されて回転することが可能な要素であり、回転部材とは、回転することが可能な部材という意味であり、常時回転することを意味するものではなく、現在、回転しているという意味でもない。したがって、回転部材は、停止することも可能である。この回転部材が回転する場合は軸線を中心として回転する。この発明において、ベルトが巻き掛けられるプーリは複数個が設けられる。このため、回転部材も複数個が設けられる。このため、動力源の動力が第1回転部材を経由して第2回転部材に伝達される。この発明におけるプーリは、動力源から出力される動力の伝達方向で、上流または下流に配置されるプーリのいずれでもよい。さらに、この発明のベルト式無段変速機を、車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に用いると、車両の惰力走行時には、車両の運動エネルギがベルト式無段変速機に伝達されて、その動力で2個のプーリが回転することもできる。
【0016】
さらに、この発明では、プーリが固定片および可動片により構成されており、可動片を軸線に沿った方向に移動させることにより、プーリからベルトに加えられる挟圧力を変更可能である。また、この発明では、回転部材と固定片とが別体で構成されている。具体的には、回転部材と固定片とは、物理的に別部材であり、回転部材および固定片が接続部材にスプライン嵌合されて、その回転部材と固定片とが一体回転する構成となっている。この発明の遊星機構としては、遊星歯車機構または遊星ローラ機構を用いることが可能である。まず、遊星歯車機構は、歯車同士の噛み合い力により動力伝達をおこなう機構である。一方、遊星ローラ機構は、ローラ同士の間に介在される作動油のせん断力により動力伝達をおこなうトラクション伝動装置である。そして、遊星機構のうちのいずれかの回転要素が、接続部材としての機能を兼ねている。
【0017】
さらに、2個のプーリに巻き掛けられたベルトは無端状(環状)であり、押圧力により動力伝達をおこなうベルト、または引っ張り力により動力伝達をおこなうベルト(チェーン)のいずれでもよい。このベルトは、2個のプーリ同士の間で動力伝達をおこなう「巻き掛け伝動部材」として機能する。この発明における接続部材は、回転部材と固定片とを一体回転するように接続する要素であり、ベルトを介して2個のプーリで動力伝達をおこなう場合に、回転部材と固定片とが軸線を中心として相対回転することがないような強度を有する。ここで、接続部材として金属材料を用いることができる。さらに、動力源から出力される動力の伝達経路における上流側と下流側とに、2個のプーリが配置される。なお、一方のプーリは、上流側に配置されるプーリまたは下流側に配置されるプーリのいずれでもよい。
【0018】
つぎに、この発明のベルト式無段変速機を、車両に用いた場合の具体例を、図面に基づいて説明する。図2は、車両の駆動力源から車輪(後輪)に至る動力伝達経路に、ベルト式無段変速機を配置したパワートレーンを示すスケルトン図である。図2に示された車両1には、走行のための駆動力を発生させる駆動力源としてエンジン2が設けられている。このエンジン2としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが用いられる。このエンジン2は、燃料を燃焼させてその熱エネルギをクランクシャフト3の運動エネルギとして出力する動力装置である。このエンジン2の出力軸であるクランクシャフト3は、車両1の幅方向(左右方向)に配置されている。このクランクシャフト3は軸線A1を中心として回転可能に設けられており、軸線A1は略水平に配置されている。この軸線A1は、工学上の仮想線であり、物理的に実在するわけではない。
【0019】
前記エンジン2の外壁にはトランスアクスルケース4が固定されている、このトランスアクスルケース4は、軸線A1に沿った方向に分割されたハウジング5およびケーシング6およびリヤカバー7を有している。ハウジング5およびケーシング6およびリヤカバー7は、共に金属材料により構成されている。この金属材料としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金が挙げられる。そして、ハウジング5およびケーシング6およびリヤカバー7は、別部材として成形および加工されている。また、軸線A1に沿った方向で、ハウジング5とリヤカバー7との間に、ケーシング6が配置されている。そして、ハウジング5とケーシング6とが、図示しない固定機構、例えば、ボルトおよびナットを用いて締め付け固定されている。また、ケーシング6とリヤカバー7とが、図示しない固定機構、例えば、ボルトおよびナットを用いて締め付け固定されている。
【0020】
このように構成されたトランスアクスルケース4の内部には、流体伝動装置8および前後進切換機構9およびベルト式無段変速機10およびデファレンシャル11が配置されている。これらの流体伝動装置8および前後進切換装置9およびベルト式無段変速機10およびデファレンシャル11は、エンジン2から車輪12に至る動力伝達経路を構成する伝動装置である。なお、車輪12は、トランスアクスルケース4の外部に設けられており、その車輪12は、図示しない懸架装置を介して、図示しない車体により支持されている。
【0021】
前記軸線A1に沿った方向で、前後進切換装置9とエンジン2との間に、流体伝動装置8が配置されている。流体伝動装置8は、ポンプインペラ13およびタービンランナ14を有する。そのポンプインペラ13とクランクシャフト3とが動力伝達可能に接続され、タービンランナ14とインプットシャフト15とが動力伝達可能に接続されている。このインプットシャフト15は軸線A1を中心として回転可能に配置されている。さらに、ポンプインペラ13とインプットシャフト15とを動力伝達可能に接続するロックアップクラッチ16が設けられている。このように構成された流体伝動装置8においては、ロックアップクラッチ16が解放されている場合は、ポンプインペラ13とタービンランナ14との間で、流体の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。また、ロックアップクラッチ16が係合された場合は、クランクシャフト3とインプットシャフト15との間で摩擦力により動力伝達がおこなわれる。
【0022】
一方、前後進切換装置9は、軸線A1に沿った方向で、ベルト式無段変速機10と流体伝動装置8との間に配置されている。この前後進切換装置9は、この具体例では、ダブルピニオン形式の遊星歯車機構を有している。この遊星歯車機構は、前記インプットシャフト15と一体回転するサンギヤ17と、このサンギヤ17の外周側に、サンギヤ17と同軸上に配置されたリングギヤ18と、前記サンギヤ17に噛み合わされたピニオンギヤ19と、このピニオンギヤ19およびリングギヤ18に噛み合わされたピニオンギヤ20と、ピニオンギヤ19,20を自転可能に、かつ、公転可能な状態で保持したキャリヤ21とを有している。そして、このキャリヤ21と、ベルト式無段変速機10のプライマリシャフト22とが動力伝達可能に接続されている。このキャリヤ21は、金属材料、例えば圧延鋼鈑により構成されている。
【0023】
また、前後進切換装置9は、出力要素であるキャリヤ21の回転方向を正逆に切り替える切替機構を有している。この実施例では、切替機構として摩擦係合装置、具体的には、フォワードクラッチ23およびリバースブレーキ24を用いている。このフォワードクラッチ23は、前記インプットシャフト15と前記キャリヤ21とを選択的に連結・解放するものである。このフォワードクラッチ23としては、油圧により動作する油圧クラッチ、または、電磁力により動作する電磁クラッチを用いることが可能である。さらに、リバースブレーキ24は、前記リングリヤ20に制動力を与えて、そのリングギヤ20を停止させることができる。このリバースブレーキ24としては、油圧により動作する油圧ブレーキ、または、電磁力により動作する電磁ブレーキを用いることが可能である。
【0024】
つぎに、前記ベルト式無段変速機10の構成を説明する。このベルト式無段変速機10は、プライマリシャフト22およびセカンダリシャフト25を有している。このプライマリシャフト22は、金属材料、例えば、炭素鋼またはクロム鋼により構成されている。また、前記プライマリシャフト22が回転する場合の中心線が軸線A1である。前記セカンダリシャフト25が回転する場合の中心線が軸線B1である。この軸線A1と軸線B1とは平行である。さらに、プライマリシャフト22にはプライマリプーリ26が設けられており、セカンダリシャフト25にはセカンダリプーリ27が設けられている。このように、エンジン2から車輪12に至る動力の伝達方向で、上流側にプライマリプーリ26が配置され、下流側にセカンダリプーリ27が配置されている。ここで、上流側および下流側とは、動力伝達経路における2箇所について、その相対的な位置関係を意味している。つまり、動力伝達経路を上流側と下流側とに区別する基準があるわけではないし、動力伝達経路における個々の位置を、単独で特定しているわけでもない。以下、プライマリシャフト22およびプライマリプーリ26の具体例を順次説明する。
【0025】
(第1具体例)
第1具体例を図1に基づいて説明する。図1は、軸線A1に沿った方向における半断面図、図3は、軸線A1と直交する平面における断面図である。プライマリシャフト22には、軸線A1に沿った方向で異なる位置に、2つの孔28,29が形成されている。2つの孔28,29は、共に軸線A1に沿った方向の深さを有している。また、軸線A1に沿った方向で、孔28は孔29よりも、リヤカバー7に近い位置に形成されている。さらに、軸線A1に沿った方向で、孔29は孔28よりも、前後進切換装置9に近い位置に形成されている。孔28,29は共に軸線A1を中心として形成されている。さらに、軸線A1に沿った方向で、孔28と孔29との間に隔壁32が形成されている。つまり、孔28と孔29とが、隔壁32により仕切られている。一方、前記キャリヤ21は円筒部30を有しており、その円筒部30が孔29に挿入されている。図3に示すように、円筒部30の外周面には外歯60が形成されている。この外歯60は、円周方向に沿って歯61と歯溝62とを交互に配置したものである。また、孔29を形成するプライマリシャフト22の内周面には、内歯63が形成されている。この内歯63は、円周方向に沿って歯64と歯溝75とを交互に配置したものである。そして、内歯63と外歯60とが噛み合わされてスプライン嵌合部70を構成しており、キャリヤ21とプライマリシャフト22とが一体回転することが可能である。
【0026】
さらに、プライマリシャフト22には、プライマリプーリ26が設けられている。このプライマリプーリ26はプライマリシャフト22と一体回転する構成である。このプライマリプーリ26は、固定片31および可動片33を有する。固定片31および可動片33は、金属材料、例えば機械構造用合金鋼により構成されている。まず、固定片31の構成を説明すると、固定片31は、円筒部65と、この円筒部65における軸線A1に沿った方向の端部から、半径方向で外側に向けて張り出された鍔部66とを有する。前記図3では、プライマリシャフト22および円筒部65が便宜上同じ形状線で示されている。円筒部65の内周には内歯67が形成されている。この内歯67は、円周方向に沿って歯68と歯溝69とを交互に配置したものである。そして、内歯67と外歯60とが噛み合わされてスプライン嵌合部71を構成しており、キャリヤ21とプライマリシャフト22とが一体回転することが可能である。なお、内歯63の歯先円の直径は、内歯67の歯先円の直径と同じであり、内歯63の歯底円の直径は、内歯67の歯底円の直径と同じである。このように、キャリヤ21およびプライマリシャフト22および固定片31は一体回転することが可能に連結されている。
【0027】
つぎに、プライマリシャフト22と固定片31との連結構造を説明する。前記固定片31における鍔部66の内周には、内歯72および環状溝76が形成されている。具体的には、軸線A1に沿った方向で、内歯72と内歯30との間に環状溝76が設けられている。図4は、軸線A1と直交する平面内における固定片31の断面図である。この図4に示すように、内歯72は、円周方向に沿って歯73と歯溝74とを交互に配置したものである。また、内歯72の歯先円の直径は、内歯67の歯底円の直径を越える値に構成されている。
【0028】
一方、プライマリシャフト22の外周には外歯77が設けられている。この外歯77は、軸線A1に沿った方向で前後進切換装置9に近い方の端部に設けられている。この外歯77は、図5に示すように、歯78と歯溝79とを円周方向に交互に配置したものである。そして、外歯77の歯先円は環状溝76の内径よりも小さく構成され、かつ、外歯77の歯底円は内歯72の歯先円よりも大きく構成されている。さらに、図1に示すように、外歯77は、軸線A1に沿った方向で環状溝76内に配置されている。また、キャリヤ21にプライマリシャフト22および固定片31がスプライン嵌合された状態で、外歯77の歯78と内歯72の歯73とが、軸線A1を中心とする円周方向で同一の位相に位置している。このため、プライマリシャフト22と固定片31とを軸線A1に沿った方向で、離れさせようとする向きの荷重が生じた場合でも、歯78と歯73とが接触することで、プライマリシャフト22と固定片31との相対移動が防止される。さらにまた、鍔部66には、軸線A1を中心とする円錐状の接触面79が形成されている。
【0029】
つぎに、可動片33の構成を説明する。この可動片33は、円筒形状に構成された円筒部34と、その円筒部34の外周に連続して形成されたフランジ部35とを有している。このフランジ部35は、軸線A1を中心とする半径方向で、外側に向けて突出されている。さらに、フランジ部35の外周にはOリング37が取り付けられている。また、前記円筒部34がプライマリシャフト22の外側を取り囲むように配置されており、円筒部34とプライマリシャフト22とが、スプライン嵌合部90により連結されている。具体的には、プライマリシャフト22の外周には外歯(図示せず)が形成され、円筒部34の内周には内歯(図示せず)が形成されており、その内歯と外歯とが噛み合わされている。つまり、プライマリシャフト22と可動片33とが、軸線A1に沿った方向に相対移動可能であり、かつ、一体回転する構成である。また、可動片33の円筒部34の内周には段部80が設けられている。この段部80は軸線A1と直交する方向の端面である。一方、プライマリシャフト22の外周には段部81が設けられている。この段部81は軸線A1と直交する方向の端面である。前記段部80および段部81は、共に軸線A1を中心として環状に設けられており、軸線A1を中心とする半径方向で、段部80の一部と段部81の一部とが重なっている。このため、プライマリシャフト22と可動片33とが軸線A1に沿った方向に相対移動すると、段部80と段部81とが接触して、プライマリシャフト22と可動片32との相対移動が規制される。具体的には、軸線A1に沿った方向で、可動片32と固定片31との間の距離が、予め定められた距離以下になることを防止できる。
【0030】
つぎに、可動片33を軸線A1に沿った方向に動作させる機構について説明する。前記プライマリシャフト22にはシリンダ38が設けられている。このシリンダ38は、全体として環状に構成されており、シリンダ38は湾曲部39および円筒部41を有している。前記湾曲部39は、前記プライマリシャフト22の外側に配置されており、軸線A1に沿った方向の平面内で湾曲部39がほぼS字形状に湾曲されている。その湾曲部39の外周に連続して円筒部41が形成されている。この円筒部41は、前記可動片33のフランジ部35の外側に配置されており、Oリング37が円筒部41の内周に接触してシール面を形成している。そして、湾曲部39の内周端がプライマリシャフト22に固定されている。また、前記プライマリシャフト22が軸受44を介してケーシング6により回転可能に支持されている。前記軸受43は、内輪161および外輪162および転動体163を有している。
【0031】
そして、外輪162をリヤカバー7に接触させ、かつ、外輪162を軸線A1に沿った方向に位置決め固定するプレート166が固定されている。このプレート166は、ボルト165によりリヤカバー7に固定されている。また、プライマリシャフト22にはナット82が締め付け固定されており、ナット82と、プライマリシャフト22の外周に形成した段部83とにより、シリンダ38および内輪161が挟み付けられている。つまり、軸線A1に沿った方向の荷重により、シリンダ38および内輪161が挟み付けられて、プライマリシャフト22が軸線A1に沿った方向に位置決め固定されている。さらに、プライマリシャフト22が、軸受43により回転可能に支持されている。なお、前記固定片31は、軸受44により回転可能に支持されている。軸受44は、円筒部65の外周に取り付けられた内輪84と、ケーシング6に支持された外輪85と、内輪84と外輪85との間に介在された転動体86とを有する。上記のようにして、プライマリシャフト22とシリンダ38とが一体回転するように構成されており、可動片33の円筒部34の端部がシリンダ39に接触して、図1で左方向に可動片33が移動することが規制される。円筒部34の端部とは、軸線A1に沿った方向の端部である。このように、軸線A1に沿った方向で、可動片33と固定片31との距離が、予め定められた距離以上になることを防止できる。
【0032】
そして、シリンダ38と可動片33との間に油圧室46が形成されている。また、可動片33の円筒部34を半径方向に貫通する油路87が形成されており、プライマリシャフト22には半径方向に貫通する油路88が形成されている。この油路88は孔28に接続されている。そして、油路88は、プライマリシャフト22の外周面と、円筒部34との間を経由して油路87に接続されている。さらに、フランジ部35には円錐形状の接触面89が形成されている。この接触面89と接触面79との間に溝C1が形成されている。プライマリプーリ26にベルト50が巻き掛けられると、ベルト50の側面は接触面79,89に接触する。そして、孔28および油路88および油路87を経由して油圧室46に圧油が供給されると、油圧室46の油圧により、可動片33を軸線A1に沿った方向に押圧する推力が発生する。具体的には、可動片33を固定片31に近づける向き(図1で右向き)の推力が発生する。そして、油圧室46に供給されるオイル量が制御されて、プーリ21におけるベルト50の巻き掛け半径が調整される。
【0033】
つぎに、セカンダリシャフト25およびセカンダリプーリ27の構成を説明する。セカンダリプーリ27は、固定片48および可動片49を有している。固定片48は、セカンダリシャフト25と一体回転し、かつ、軸線B1に沿った方向には移動できない構成である。これに対して、可動片49は、セカンダリシャフト25と一体回転し、かつ、軸線B1に沿った方向に移動できる構成である。さらに、可動片49に軸線に沿った方向の推力を与える油圧室(図示せず)が設けられている。この可動片49と固定片48との間に溝D1が形成されている。そして、プライマリプーリ26およびセカンダリプーリ27にベルト50が巻き掛けられている。このベルト50は、リング状の保持器(図示せず)に、円周方向に沿って複数のエレメントを積層した状態で取り付けたものである。さらに、前記セカンダリシャフト25からデファレンシャル11に至る経路には、伝動装置として歯車伝動装置51が設けられている。さらに、デファレンシャル11の出力軸であるドライブシャフト52に、前記車輪12が連結されている。
【0034】
つぎに、図2に示すパワートレーンの制御および動作を説明する。例えば、車速およびアクセル開度などのパラメータに基づいて、エンジン2の駆動・停止が制御される。そして、エンジン2が運転されており、かつ、流体伝動装置8におけるロックアップクラッチ16が解放されている場合は、ポンプインペラ13とタービンランナ14との間で、作動油の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。これに対して、ロックアップクラッチ16が係合された場合は、クランクシャフト3とインプットシャフト15との間で摩擦力により動力伝達がおこなわれる。このようにして、エンジントルクがインプットシャフト15に伝達される。
【0035】
さらに、前後進切換装置9の制御について説明する。シフトポジションとして前進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ23が係合され、かつ、リバースブレーキ24が解放されて、インプットシャフト15とプライマリシャフト22とが一体回転するように連結される。この状態においては、エンジントルクがインプットシャフト15に伝達されると、インプットシャフト15およびキャリヤ21およびプライマリシャフト22が一体回転する。これに対して、後進ポジションが選択された場合はフォワードクラッチ23が解放され、かつ、リバースブレーキ24が係合されて、リングギヤ18が固定される。すると、このリングギヤ18が反力要素となり、インプットシャフト15の回転に伴って、キャリヤ21およびプライマリシャフト22が、インプットシャフト15の回転方向とは逆の方向に回転する。
【0036】
ついで、ベルト式無段変速機10の変速比および伝達トルクの制御を説明する。このベルト式無段変速機10では、ベルト50が複数のエレメントを積層して構成されており、エレメント同士の間に生じる押圧力により、プライマリプーリ26の動力が、セカンダリプーリ27に伝達される。また、プライマリプーリ26の油圧室46に供給されるオイル量を制御することにより、プライマリプーリ26におけるベルト50の巻き掛け半径が調整される。このようにして、プライマリシャフト22の回転数と、セカンダリシャフト25の回転数との比、すなわち変速比が無段階(連続的)に変更される。さらに、セカンダリプーリ27の油圧室(図示せず)の油圧を制御することにより、セカンダリプーリ27からベルト50に加えられる挟圧力が変化し、伝達トルクが制御される。このようにして、セカンダリプーリ27に伝達されたトルクは、セカンダリシャフト25および歯車伝動装置51およびデファレンシャル11を経由してドライブシャフト52に伝達されて、駆動力が発生する。
【0037】
つぎに、ベルト式無段変速機10の製造工程で、第1具体例のプライマリシャフト22に固定片31を組み付ける工程を、図6および図7および図8に基づいて説明する。この図6および図7および図8は、内歯72および外歯77の展開図である。図6は、固定片31とプライマリシャフト22とが同軸上に配置され、かつ、プライマリシャフト22と固定片31とが固定(連結)される前の状態である。図6に示すように、プライマリシャフト22と固定片31とが固定される前には、軸線A1を中心とする円周方向で、歯78の位相と歯溝74の位相とを一致させる。そして、プライマリシャフト22と固定片31とを近づける向きで、軸線A1に沿った方向にプライマリシャフト22と固定片31とを相対移動させる。その後、歯78が歯溝74を通過し、外歯77が固定片31の環状溝76内に至った時点で、プライマリシャフト22と固定片31との相対移動を終了する。
【0038】
さらに、図7に示すように、固定片31とプライマリシャフト22とを軸線A1を中心として相対回転させる。そして、図8に示すように、外歯77の歯78と、内歯72の歯73とが、軸線A1を中心とする円周方向で同じ位相になった時点で、プライマリシャフト22と固定片31との相対回転を終了させる。このように、外歯77の歯78と、内歯72の歯73とが、軸線A1を中心とする円周方向で同じ位相になった時点では、内歯63の歯64と、内歯67の歯68とが、軸線A1を中心とする円周方向で同じ位相となる。そこで、キャリヤ21に対して、プライマリシャフト22および固定片31を、軸線A1に沿った方向に近づけていくと、キャリヤ21が、固定片31およびプライマリシャフト22にスプライン嵌合される。
【0039】
この第1具体例では、プライマリシャフト22および固定片31が、共にキャリヤ21にスプライン嵌合されて、プライマリシャフト22と固定片31とが一定回転する構成である。また、プライマリシャフト22および固定片31が、共にキャリヤ21にスプライン嵌合された状態で、歯78と歯73とが接触して、プライマリシャフト22と固定片31とが軸線A1に沿った方向に相対移動することを防止できる。このため、第1具体例では、プライマリシャフト22と固定片31とを一体回転する構成とし、かつ、軸線A1に沿った方向に相対移動することを防止するにあたり、プライマリシャフト22と固定片31とを相互に焼き嵌め固定する工程および圧入する工程をおこなわずに済む。このため、焼き嵌め専用機が不要であり、プライマリシャフト22と固定片31との組み付け工程もしくは作業を簡略化できる。したがって、ベルト式無段変速機10の製造コストの上昇を抑制できる。
【0040】
さらに、第1具体例では、可動片33に推力を与えて、可動片33と固定片31とでベルト50を挟み付ける場合、固定片31に加わるスラスト荷重、つまり、軸線A1に沿った方向の荷重は、プマリシャフト22の歯78で受けることとなる。その結果、図1において、プライマリシャフト22には軸線A1に沿った方向で右向きの荷重が伝達される。ここで、固定片31とプライマリシャフト22とは、歯78と歯73との噛み合い力により、軸線A1に沿った方向の位置決めがおこなわれる構成である。したがって、第1具体例では、プライマリシャフト22と固定片31とを焼き嵌めする場合のように、摩擦力でスラスト荷重を受ける構成に比べて、軸線A1に沿った方向で、歯73,78の配置長さ、軸受44の配置長さは、相対的に短くて済む。なお、第1具体例において、可動片33に加わるスラスト荷重は、シリンダ38および内輪161を経由してナット82に伝達され、そのナット82からプライマリシャフト22に荷重が伝達される。その結果、図1において、プライマリシャフト22には軸線A1に沿った方向で左向きの荷重が伝達される。このように、プライマリシャフト22において、右向きに加わる荷重と左向きに加わる荷重とが相殺される。
【0041】
また、第1具体例において、プライマリシャフト22と固定片31とを組み立てる前の工程では、プライマリシャフト22と固定片31とが別々に成形および加工される。このため、固定片31の耐久性を向上させることを目的とする表面処理、具体的には浸炭処理を固定片31に施す場合、プライマリシャフト22に処理を施すことなく、固定片31に単独で浸炭処理をおこなうことができる。したがって、ベルト式無段変速機10の生産効率が向上し、製造コストの上昇を抑制できる。さらに、第1具体例では、油圧制御装置の油圧回路から供給される圧油が孔28および孔29に供給される。この孔29に供給された圧油は、キャリヤ21の円筒部30とプライマリシャフト22の外周面との間、および固定片31とプライマリシャフト22の外周面との間を経由して溝C1に供給される。溝C1に供給された圧油はベルト50を潤滑および冷却する。このため、ベルト50をオイルで潤滑するために、プライマリシャフト22を半径方向に貫通する油路、固定片31を貫通する油路を設けずに済む。
【0042】
この第1具体例は、請求項1および請求項2に対応する具体例である。こここで、第1具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ベルト50が、この発明におけるベルトに相当し、プライマリプーリ26が、この発明におけるプーリに相当し、プライマリシャフト22が、この発明における回転部材に相当し、軸線A1が、この発明における軸線に相当し、可動片31が、この発明の可動片に相当し、固定片33が、この発明における固定片に相当する。また、エンジン2が、この発明の動力源に相当し、前後進切換装置9を構成するシングルピニオン型の遊星歯車機構が、この発明の遊星機構に相当し、サンギヤ17およびリングギヤ18およびキャリヤ21が、この発明における「3個の回転要素」に相当し、キャリヤ21が、この発明の接続部材に相当し、接触面79が、この発明の接触面に相当する。
【0043】
(第2具体例)
つぎに、プライマリシャフト22およびプライマリプーリ26の第2具体例を、図9に基づいて説明する。図9は、プライマリシャフト22の回転中心となる軸線A1に沿った方向の半断面図である。図9において、図1の構成と同じである場合は、図1の構成と同じ符号を付してある。第2具体例では、プライマリシャフト22において、スプライン嵌合部90を形成する外歯の歯先円の直径が、プライマリシャフト22の外歯77の歯先円の直径よりも大きく構成されている。また、プライマリシャフト22の外周において、軸線A1に沿った方向で、スプライン嵌合部90を形成する外歯と、外歯77との間にはストレート部91が形成されている。このストレート部91は、プライマリシャフト22の外周面の一部を構成しており、軸線A1と直交する平面内での断面形状が円形である。そして、このストレート部91の直径は、外歯77の歯先円の直径と同じである。
【0044】
また、一方、可動片33の内周において、スプライン嵌合部90を形成する内歯以外の部分の内径(直径)は、外歯77およびストレート部91の直径よりも大きい。さらに、第2具体例では、第1具体例で説明したナット82は設けられていない。すなわち、第2具体例では、軸線A1に沿った方向で、プライマリシャフト22におけるリヤカバー7側の端部に、ストッパ92が形成されている。このストッパ92は、プライマリシャフト22の外周に向けて張り出しており、ストッパ92は軸線A1を中心として環状に構成されている。また、プライマリシャフト22の軸線A1に沿った方向で、ストッパ92と嵌合部90との間には大径部170が設けられている。この大径部170の直径は、嵌合部90を形成する外歯の歯先円の直径よりも大きい。なお、大径部170の直径はストッパ92の直径よりも小さい。この大径部170の外周に、軸受43およびシリンダ38が取り付けられている。そして、プレート166とリヤカバー7とにより、外輪162が軸線A1に沿った方向で位置決め固定された状態で、内輪161の端面がストッパ92に接触して、軸受43とプライマリシャフト22とが軸線A1に沿った方向で位置決めされる。
【0045】
一方、前記固定片31における鍔部66の内周にはストッパ93が設けられている。このストッパ93には、移動する可動片33が接触して、軸線A1に沿った方向で可動片33の移動範囲を規制する機構である。このストッパ93は、接触面79の内周端から、軸線A1に沿った方向で可動片33に向けて突出されている。また、ストッパ93は、軸線A1を中心とする円周方向に、所定間隔をおいて複数設けられている。軸線A1を中心とする円周方向で、1個のストッパ93の幅は、1個の歯73の幅と同じである。また、軸線A1を中心とする円周方向で、ストッパ93と歯73と同じ位相に配置されている。さらに、ストッパ93の先端の外接円は、ストレート部91の直径よりも大きく、かつ、可動片33の内径(直径)よりも大きい。そして、固定片31およびプライマリシャフト22を、スプライン嵌合部70,71によりキャリヤ21に連結した状態において、ストッパ93は、軸線A1に沿った方向で、ストレート部91と外歯77との間に位置する。
【0046】
つぎに、第2具体例におけるプライマリシャフト22とプライマリプーリ26との組立工程を説明する。この第2具体例では、図10に示すように、プライマリシャフト22と固定片31とを連結する前の工程で、プライマリシャフト22の外周に、軸受43が取り付けられ、ついで、シリンダ38が取り付けられる。その後、プライマリシャフト22と可動片33とが、軸線A1に沿った方向に相対移動されて、プライマリシャフト22の外周に可動片33が取り付けられ、かつ、プライマリシャフト22の外歯と、可動片33の内歯とが噛合されて、スプライン嵌合部90が形成される。このようにして、可動片33とプライマリシャフト22とが一体回転可能に連結される。その後、プライマリシャフト22と固定片31とが軸線A1を中心として同軸上に配置され、プライマリシャフト22と固定片31とが、軸線A1に沿った方向に相対移動され、第1具体例と同様の工程により、プライマリシャフト22と固定片31とが連結される。この第2具体例では、軸線A1を中心とする円周上で、ストッパ92が歯73と同じ位相に設けられているため、先にストッパ92が、歯78同士の間を通過し、ついで、歯73が歯78同士の間を通過する。なお、プライマリシャフト22と固定片31とのこの他の連結作業は、第1具体例の場合と同じである。このように、第2具体例では、軸線A1に沿った方向で、プライマリシャフト22の同じ側の端部、図9では右側の端部から、可動片33および固定片31が、プライマリシャフト22に取り付けられる。
【0047】
このようにして、プライマリシャフト22に可動片33および固定片31を取り付けると、ベルト50がプライマリプーリ26に巻き掛けられる前において、可動片33が固定片31に近づく向きでプライマリシャフト22に沿った移動した場合、ストッパ92の先端と可動片33とが接触する。このため、可動片33と固定片21との接触を確実に防止できる。特に、可動片33が固定片31の接触面79に接触することを防止できる。したがって、接触面79に傷が付くことを未然に回避でき、固定片31の耐久性の低下を抑制できる。また、プライマリシャフト22に固定片31を取り付けた場合、ストッパ92が軸線A1に沿った方向に延ばされているため、軸線A1に沿った平面内で、固定片31を回転させる向きの荷重が生じた場合、ストッパ92の内面がプライマリシャフト22の外周面に接触する。したがって、固定片31が倒れることを抑制できる。なお、この第2具体例において、第2具体例と同じ構成部分については、第1具体例と同じ作用効果を得られる。さらに、第2具体例では、固定片31に軸線A1に沿った方向の荷重が加えられた場合、第1具体例と同様の原理で図9で右向きのスラスト荷重がプライマリシャフト22に伝達される。これに対して、可動片35に図9で左向きのスラスト荷重が加わると、その荷重は大径部170に伝達される。したがって、プライマリシャフト22に図9で左向きのスラスト荷重が伝達される。このようにして、プライマリシャフト22には、図9で右向きのスラスト荷重と、図9で左向きの荷重とが作用して、その荷重同士が相殺される。
【0048】
この第2具体例は、請求項3および請求項4に対応する具体例である。この第2具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ストッパ93が、この発明のストッパに相当する。この第2具体例におけるその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、第1具体例とこの発明の構成との対応関係と同じである。また、第1具体例および第2具体例では、ベルト式無段変速機10の組み立てが完了した状態、およびベルト式無段変速機10の組立工程の途中においても、便宜上、共通の軸線A1を用いて説明している。また、軸線A1を中心とする円周方向で、歯同士、まはた歯溝同士の「位相が一致する」、または「同一位相にある」とは、円周方向における歯の中心同士、または歯溝の中心同士が一致していることを意味する。
【0049】
なお、図2に示すパワートレーンでは、エンジン2からベルト式無段変速機10に至る動力伝達経路に前後進切換装置9が配置されているが、ベルト式無段変速機10から車輪12に至る動力伝達経路に前後進切換装置が配置されたパワートレーンにおいても、この発明を適用可能である。また、前後進切換装置9は遊星歯車機構を有しているが、平行軸歯車式の前後進切換装置を用いることも可能である。また、図2に示すパワートレーンでは、エンジンから前輪に至る動力伝達経路にベルト式無段変速機が配置されているが、エンジンから後輪に至る動力伝達経路にベルト式無段変速機が配置されている場合にも、この発明を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトおよびプライマリプーリの構成の「第1具体例」を示す断面図である。
【図2】この発明におけるベルト式無段変速機を有する車両のパワートレーンを示すスケルトン図である。
【図3】図1のキャリヤをプライマリプーリおよび固定片にスプライン嵌合した状態を示す断面図である。
【図4】図1の固定片に形成された内歯を示す断面図である。
【図5】図1のプライマリプーリに形成された外歯を示す断面図である。
【図6】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトと固定片とを連結する前の工程を示す展開図である。
【図7】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトと固定片とを連結する途中の工程を示す展開図である。
【図8】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトと固定片とを連結する工程の終了後を示す展開図である。
【図9】この発明のベルト式無段変速機において、プライマリシャフトおよびプライマリプーリの構成の「第2具体例」を示す断面図である。
【図10】第2具体例で、プライマリシャフトにプライマリプーリを取り付ける工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
2…エンジン、 10…ベルト式無段変速機、 17…サンギヤ、 18…リングギヤ、 21…キャリヤ、 22…プライマリシャフト、 31…固定片、 33…可動片、 26…プライマリプーリ、 50…ベルト、 70,71…スプライン嵌合部、 93…ストッパ、 A1…軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状のベルトと、このベルトが巻き掛けられ、かつ、このベルトを介して動力伝達がおこなわれる2個のプーリと、この2個のプーリのうち一方のプーリが設けられ、かつ、動力により回転される回転部材とを有し、前記回転部材に設けられたプーリが、前記回転部材の回転中心となる軸線に沿った方向で前記回転部材と相対移動できる可動片と、前記回転部材と相対移動できず、かつ、前記回転部材と一体回転する固定片とを有しており、前記回転部材と固定片とが別体で構成されているとともに、前記2個のプーリの回転数の比である変速比を無段階に変更することのできる、ベルト式無段変速機において、
前記回転部材および前記固定片が、スプライン嵌合部を介して接続部材に連結されて、その回転部材と固定片とが一体回転する構成であることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記回転部材に伝達する動力を発生する動力源と、この動力源から前記回転部材に至る動力伝達経路に設けられ、かつ、相互に差動回転可能な3個の回転要素を有する遊星機構とを有し、3個の回転要素のうちのいずれか1個の回転要素が、前記接続部材であることを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項3】
無端状のベルトと、このベルトが巻き掛けられ、かつ、このベルトを介して動力伝達がおこなわれる2個のプーリと、この2個のプーリのうち一方のプーリが設けられ、かつ、動力により回転される回転部材と、この回転部材の回転中心となる軸線とを有し、前記回転部材に設けられたプーリが、前記軸線に沿った方向で前記回転部材と相対移動できる可動片と、前記軸線に沿った方向で前記回転部材と相対移動できず、かつ、前記回転部材と一体回転する固定片とを有しており、前記回転部材と固定片とが別体で構成されており、前記固定片には前記軸線を中心として環状に形成され、かつ、前記ベルトが接触する接触面が設けられており、前記2個のプーリの回転数の比である変速比を無段階に変更することのできる、ベルト式無段変速機において、
前記固定片に、前記可動片に接触して前記軸線に沿った方向における前記可動片の移動を防止するストッパが設けられており、このストッパにおける前記可動片に接触する先端が、前記軸線に沿った方向で前記接触面よりも前記可動片に近い位置まで延ばされていることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項4】
前記ストッパは、前記軸線を中心とする半径方向で前記接触面よりも内側に設けられていることを特徴とする請求項3に記載のベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−185916(P2009−185916A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27003(P2008−27003)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】