説明

ホスファターゼの阻害剤としてのバナジウム化合物

【課題】ホスファターゼの阻害剤としてのバナジウム化合物。
【解決手段】新規のバナジウム化合物、並びに、ホスファターゼ、特にイノシトールホスファターゼの阻害剤としてのそれらの使用が記載される。神経変性疾患の治療における該化合物の使用もまた記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化合物、並びに、ホスファターゼ、特にイノシトールホスファターゼの阻害におけるその使用に関する。該化合物は、神経変性疾患並びにアポトーシスの阻害が有益である他の状態の治療における使用が見出された。
【発明の開示】
【0002】
バナジン酸塩(vanadate)、ペロキソバナジウム(pV)及びビスペロキソバナジウム (bpV)誘導体は、チロシンホスファターゼ(protein tyrosine phosphatase)(PTPases)の阻害剤として周知であり、bpVは他の二分子のクラスよりも強力である[Posner, 1994 #157] [Cuncic, 1999 #221]。バナジン酸塩、リン酸塩アナログは、PTP-1Bの競合的阻害剤であり、一方、ペルバナデートは、PTP-1Bの触媒作用的システインを不可逆的に酸化する[Huyer, 1997 #220]。ペルバナデートよりも高い安定性を示すペロキソバナジウム化合物が最近に合成された [Posner, 1994 #157]。他の生物学的機能以外に、それらは全て、インスリン擬態性の特徴を示し[Rumora, 2001 #153]、例えば、脂肪細胞におけるグルコース輸送の増加[Shisheva, 1993 #260]、インスリン受容体が媒介する、インスリン受容体基質(IRS)-1のチロシンリン酸化の亢進[Wilden, 1995 #259]、及びIRK-関連PTPasesの阻害による、インスリン受容体キナーゼ(IRK)リン酸化の誘発[Band, 1997 #155]を示す。
【0003】
インスリン擬態性のダウンストリーム効果は、主に、持続性インスリンシグナルをもたらすインスリン受容体の脱リン酸化に関与する、PTPaseの阻害によって生じると考えられる[Shechter, 1990 #258]。全てのPTPaseは、所謂CX5Rモチーフといわれる同じ活性サイトを共有している。この配列相同性は、SACホスファターゼ、ミオチューブラリン(Myotubularin)(MTM)及びPTEN (ホスファターゼ及び染色体10で欠落されたテンシン(tensin)相同体)(No 98を参照されたい)のような幾つかのホスホイノシトールホスファターゼにおいても見出される。後者は初め、PTPaseであると考えられていたが、その後、PI(3)P, PI(3,4,5)P3 及びI(3,4,5)P4のような3-リン酸化されたホスホイノシタイド(phosphoinositides)(PI)に対する高い親和性を有することが示された[Maehama, 1998 #175]。
【0004】
PTENは、多くの癌細胞が突然変異されるか又は除去されるかする、腫瘍抑制因子である[Li, 1997 #255] [Steck, 1997 #256] [Waite, 2002 #262] (No 289)。3-リン酸化された脂質は、主に、細胞外の刺激に応じてホスホイノシトール3キナーゼ(PI3K)によって生成される。細胞内のPI(3,4,5)P3を脱リン酸化することにより、PTENはPI3Kを相殺し、それ故、PI3Kの主要なダウンストリームターゲットの一つ、タンパク質キナーゼB (PKB)活性を阻害する(No 232, No 236, No 265)。Akt [Downward, 1998 #254]とも呼ばれるPKBは、ウイルスの腫瘍性タンパク質v-akt (No 284)の哺乳類の相同体である。PI(3,4,5)P3が、即ち細胞増殖シグナリングに関与する重要な第2のメッセンジャーであるために[Stephens, 1993 #257]、PTENは、アポトーシスを引き起こす細胞における重要なシグナリング経路を終結すると言うことができる (No 202)。
【0005】
加えて、PTENは、PI3K/PKB 経路の負の制御によって細胞サイクルの進行をブロックすることが示されており(No 235)、また、血管形成の制御に関与する(No 191)。悪性メラノーマにおけるPTENの損失は、PKBの活性化をもたらす(No 275)。ストッカー(Stocker)らは[Stocker, 2002 #186]近年、ショウジョウバエ突然変異体において、PTENの欠損が、PKBを直接もたらすPI(3,4,5)P3のレベルを上昇させることを示した。PI(3,4,5)P3は、PKBのN-末端プレクストリン相同性(PH)ドメインに結合し、その後、高次構造上の変化をもたらし(No 287)、そして膜にその漸増(recruitment)をもたらす。転位置PKBにおいて、二つの主要なサイト(Thr308 及びSer473)でリン酸化され、これはその活性にとって重大である(No 285)。スレオニンは、ホスホイノシトール依存性キナーゼ-1 (PDK-1)によってリン酸化され(No 286)、これは、順に、それらのPHドメインに結合しているPI(3,4,5)P3によって活性化される([Downward, 1998 #254][Hill, 2002 #237]を参照されたい)。セリン残基をリン酸化するキナーゼは依然として知られていない。
【0006】
本発明者らは、あるバナジウムに基づく化合物が、PTEN阻害剤の新しいクラス、bpV化合物を表すことを発見した。それらの阻害剤は、インビトロ及びインビボでPTPaseのために証明されたような、PTENに対する著しく低いIC50 値を示す。従って、それらの分子の使用により、ホスファターゼの異なるグループ間での区別をすることができる。
【0007】
よって、第1の側面において、本発明は、ホスファターゼの阻害に使用するための薬剤の製造における、次式のバナジウム含有化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する:
【化16】

【0008】
式中L-L’ は
【化17】

【0009】
であり、及びL’ はCOO、CONR5、CONHR6、CH2NR5R6
であり、
或いは、式中L及びL’ は共に次の基
【化18】

【0010】
又は次の基
【化19】

【0011】
を形成し、
式中、L’’ はO、S又はNHであり;
R1、R2、R3、R4、R5 及びR6 は独立して、H、ヒドロキシル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC1-6アルキル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC3-6シクロアルキル、任意にC1-3アルキル、ヒドロキシ、NR7R8又はSO3で置換されたフェニル、(OCH2CH2)n (NHCH2CH2)n、アミノ酸又は2〜5のアミノ酸から成るペプチドであり;及び
R7 及びR8 は独立して、H 又はC1-6アルキルである。
【0012】
第2の側面において、本発明はホスファターゼの阻害に使用するための薬剤の製造における、次式のバナジウム含有化合物又はその薬学的に許容される塩を提供する:
【化20】

【0013】
式中L-L’ は
【化21】

【0014】
であり、及びL’ はCOO、CONR5、CONHR6、CH2NR5R6であり、
或いは、式中L及びL’ は共に次の基
【化22】

【0015】
又は次の基
【化23】

【0016】
を形成し、
式中、L’’ はO、S 又はNHであり;
R1、R2、R3、R4、R5 及びR6 は独立して、H、ヒドロキシル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC1-6アルキル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC3-6シクロアルキル、任意にC1-3 アルキル、ヒドロキシ、NR7R8 又はSO3で置換されたフェニル、(OCH2CH2)n (NHCH2CH2)n、アミノ酸又は2〜5のアミノ酸から成るペプチドであり;及び
R7 及びR8 は独立してH 又はC1-6アルキルである。
【0017】
本発明における使用のための好ましい化合物は、カリウムビスペロキソ(ビピリジン)オキソバナデート(bpV(bipy)、カリウムビスペロキソ(1,10-フェナントロリン)オキソバナデート(pV(フェナントロリン))、カリウムビスペロキソ(ピコンリネート(piconlinate))オキソバナデート(pV(pic))及びカリウムビスペロキソ(フェニルビグアニド)オキソバナデート(pV(biguan))を含む。
【0018】
特に、二つの化合物、pV(phenbig) [ジカリウムビスペロキソ(フェニルビグアニド)オキソバナデート]又はbpV(HOpic) [ジカリウムビスペロキソ(5-ヒドロキシピリジン-2-カルボキシル)オキソバナデート]は、特異的なPTEN阻害が見出されたが、しかしSopB、MTM又はPTPの阻害は見出されなかった。それらのような化合物は、糖尿病の治療に特に有用であろう。
【0019】
R1R2N-C(=NH)-NH-C(=E)-NR3R4 (E = NH, S, O)リガンドに由来するペルオキソバナデートは新規の化合物であり、本発明の独立的な側面を表す。同様に、2-ピコニルアミドリガンドに由来するペルオキソバナデート(それらがN,N 又はN,O 配意のいずれにせよ)もまた新規であり、本発明の独立的な側面を表す。
【0020】
ここで議論されるように、本明細書に記載された化合物は、ホスファターゼ、特にPTENの阻害剤としての使用が見出される。このように、それ故、それらは、アルツハイマー病のような神経変性疾患、並びに、創傷治癒、やけど、心臓肥大、低酸素症、虚血、糖尿病、及びスポーツ傷害のようなアポトーシスの阻害が有益である疾病又は状態の治療での使用が見出される。さらに、癌細胞はよりアポトーシスに抵抗性であり、よって、本発明の化合物は、より多くのアポトーシスを起こしやすい正常な細胞を保護するための、従来の化学療法薬剤と組み合わせての使用が見出され得る。
【0021】
本明細書に記載されたような薬剤は、用量あたり、所定の量の各活性成分を含む単位用量形態であってよい。そのような単位は、化合物を5-100mg/日で提供するのに適応されてよく、好ましくは5-15mg/日、10-30mg/日、25-50mg/日、40-80mg/日、又は60-100mg/日で提供するのに適応される。式Iの化合物のための用量は、100-1000mg/日の範囲で提供され、好ましくは100-400mg/日、300-600mg/日、又は500-1000mg/日の範囲で提供される。そのような用量は、単回投与に、或いは複数の別々の投与として、提供されることができる。最終的な用量は、勿論、治療される状態、投与経路、患者の年齢、体重及び状態に依存し、医者の裁量に依存する。
【0022】
本明細書で記載される化合物は、適切な組成物の形態で投与されることが最も好ましい。適切な組成物としては、全身的に又は局所的に投与する薬物のために通常用いられる組成物の全てが挙げられる。薬学的に許容されるキャリアは、活性成分として作用しないように実質的に不活性であるべきである。適切な不活性キャリアは、水、アルコール、ポリエチレングリコール、鉱物油又は石油ゲル、プロピレングリコール等を含む。前記薬学的な製剤は、ヒト又は獣医学の医薬に使用するための従来の方法で投与されるために処方されてよい。
【0023】
下記に詳細に述べるように、本発明の薬学的組成物は、固体又は液体形態で投与するために特に処方されてよく、以下に適用されるものを含む:(1)経口投与、例えば、ドレンチャー(水性又は非水性溶液又は懸濁液)、錠剤、ボーラス、粉末、顆粒、舌に施用されるペースト;(2)非経口投与、例えば、皮下注射、筋肉内注射、又は静脈内注射によって、例えば、滅菌溶液又は懸濁液として;(3)局所的な施用、例えば、クリーム、軟膏、又は肌に適用されるスプレーとして;又は、(4)膣内又は直腸内、例えば、腟坐薬、クリーム又は泡として。しかしながら、ある態様において、対象となる薬剤は、単に滅菌水に溶解されるか懸濁されるかであってもよい。ある態様において、薬学的製剤は、非発熱性であり、即ち、患者の体温を上昇させない。「有効量」という句は、本明細書で用いられるように、動物において、何らかの所望の効果を生じるために有効である、本発明の一以上の薬剤を含む、薬剤、物質、又は組成物の一以上の量を意味する。薬剤が、治療的効果を達成するために用いられるとき、「有効量」を含む実際の用量は、治療される具体的な状態、疾病の重篤度、患者のサイズ及び健康状態、投与経路などを含む多くの条件に依存して変動することが認められている。医薬の開業医は、医薬業界で周知の方法を用いて、適切な用量を容易に決定することが可能である。「薬学的に許容される」という句は、適切な利益/リスクの割合と釣り合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題又は合併症なしで、健全な医学的な判断内で、ヒト及び動物の組織に接触して使用するのに適する、化合物、物質組成物、及び/又は剤形を指す。
【0024】
「薬学的に許容されるキャリア」という句は、本明細書で用いられるように、薬学的に許容される物質、液体又は固体賦形剤(solid filler)のような組成物又は溶媒、希釈剤、賦形剤(excipient)、溶媒、又は一つの器官又は体の部分から他の器官又は体の部分への対象薬剤の運搬又は輸送に関与する被包性の物質を意味する。それぞれのキャリアは、製剤の他の成分と適合性であるという意味で「許容可能」であることが必要である。薬学的に許容されるキャリアとして役立つ物質の幾つかの例は、以下のものを含む:(1)糖、例えばラクトース、グルコース及びスクロース;(2)スターチ、例えばコーンスターチ及びポテトスターチ;(3)セルロース、及びその誘導体、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース及び酢酸セルロース;(4)粉状のトラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えばカカオ脂及び坐薬ろう;(9)油、例えばピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーンオイル及びダイズ油;(10)グリコール、例えばプロピレングリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールのようなポリオール;(12)エステル、例えばオレイン酸アセチル及びラウリン酸エチル;(13)アガー;(14)緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)発熱物質(pyrogen)-非含有水;(17)等張性生理食塩水;(18)リンガー液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝溶液;及び(21)薬学的製剤に用いられる他の非毒性の適合性物質。ある態様において、一以上の薬剤は、塩基性官能基、例えばアミノ又はアルキルアミノを含み、また、従って、薬学的に許容される酸と薬学的に許容される塩を形成することができる。
【0025】
この点において「薬学的に許容される塩」という語は、比較的無毒性の、本発明の化合物の無機酸及び有機酸付加塩を示す。これらの塩は、本発明の化合物の最終的な単離及び精製の間にインサイチューで調製されることができ、或いは、別個に、遊離塩基形態にある本発明の精製された化合物を適切な有機酸又は無機酸と反応させて、これにより形成された塩を単離することによって調製されることができる。代表的な塩は、臭化水素酸塩(ydrobromide)、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミテート(palmitate)、ステアレート(stearate)、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチレート(napthylate)、メシレート、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオネート(lactobionate)、及びラウリルスルホネート(laurylsulphonate)など (Berge, Bighley et al. 1977)を含む。薬剤の薬学的に許容される塩は、従来の非毒性の塩又は該化合物の四級アンモニウム塩、例えば非毒性有機酸又は無機酸による塩を含む。例えば、そのような従来の非毒性の塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミド酸、リン酸、硝酸などのような無機酸に由来するもの;及び、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イソチオン酸などのような有機酸から調製される塩を含む。他の場合において、一以上の薬剤は、一以上の酸性官能基を含み、これによって、薬学的に許容される塩基と薬学的に許容される塩を形成することができる。それらの塩は、該化合物の最終的な単離及び精製の間にインサイチューで調製されることができ、或いは、別個に、遊離酸の形態にある精製された化合物を、薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩又は重炭酸塩のような適切な塩基と反応させることによって、又はアンモニアと反応させることによって、或いは薬学的に許容される有機一級又は二級又は三級アミンと反応させることによって調製されることができる。
【0026】
代表的なアルカリ又はアルカリ土類塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びアルミニウム塩などを含む。塩基付加塩の形成に有用である代表的な有機アミンは、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジンなどを含む(例えば、Berge et al., supraを参照されたい)。湿潤剤、乳化剤及び潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、並びに着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、調味料及び香料(perfuming agents)、保存剤及び酸化防止剤も、本発明の組成物中に存在することができる。薬学的に許容される酸化防止剤の例には、次のものが含まれる:(1)水溶性酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2) 油-可溶性酸化防止剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル(ascorbyl palmitate)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールなど;及び (3) 金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸など。本発明の製剤は、経口、経鼻、局所的(頬側及び舌下を含む)、直腸、膣及び/又は非経口投与のために適切なものを含む。該製剤は、単位剤形であることが便利であり、調剤の分野で周知の任意の方法によって調製されることができる。単回剤形を調製するためのキャリア物質と組合される活性成分の量は、治療されるホスト、投与の具体的な様式に極めて依存する。単回剤形を調製するためのキャリア物質と組合される活性成分の量は、一般に、治療的効果を生じる化合物の量である。通常、100パーセント以外で、この量は、活性成分の約1パーセントから約99パーセントの範囲にあり、好ましくは約5パーセントから約70パーセント、最も好ましくは約10パーセントから約30パーセントの範囲である。これらの製剤又は組成物の調製方法は、薬剤を、キャリア及び任意に、一以上の補助成分との会合させる工程を含む。一般に、製剤は、本発明の薬剤を液体キャリア均一に及び親密に会合させることによって調製され、又は最終的に固体キャリアを分割するか、又はそれらの両方で、調製されることができ、次いで、必要であれば、産物を形作る。
【0027】
経口投与のために適した本発明の製剤は、カプセル、カシェ剤、ピル、錠剤、ロゼンジ(味をつけたベース、通常はスクロース及びアカシア又はトラガカントを用いて)、粉末、顆粒の形態で用いられ、或いは、水性又は非水性液体中の溶液又は懸濁液として、或いは、水中油又は油中水の液体懸濁液として、或いはエリキシル又はシロップとして、或いはトローチ(不活性ベース、例えばゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアカシアを用いて)として、及び/又はうがい薬等としての形態であってよく、それぞれ、活性成分として、所定の量の本発明の化合物を含む。本発明の化合物は、ボーラス、舐剤又はペーストとして投与されることもできる。経口投与のための本発明の固体剤形(カプセル、錠剤、ピル、ドラジー(dragees)、粉末、顆粒など)において、活性成分は、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム、及び/又は以下の任意のもののような、薬学的に許容される一以上のキャリアと混合される:(1) 充填剤(fillers)又は増量剤、例えばスターチ、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及び/又はケイ酸;(2) 結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/又はアカシア;(3) 湿潤剤、例えば、グリセロール; (4) 崩壊剤、例えば、アガー-アガー、炭酸カルシウム、ポテト又はタピオカスターチ、アルギン酸、ある種の(certain)ケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム; (5) 溶液緩染剤、例えば、パラフィン; (6) 吸収促進剤、例えば、四級アンモニウム化合物; (7) 湿潤剤、例えば、セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロール; (8) 吸収剤、例えば、カオリン及びベントナイト粘土; (9) 潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコールナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物;及び(10)着色剤。カプセル、錠剤及びピルの場合、薬学的組成物は、緩衝剤を含むこともできる。同じタイプの固体組成物は、ラクトース又は乳糖のような増量剤、並びに高分子量ポリエチレングリコール等を用いて軟質及び硬質充填ゼラチンカプセルにおいて充填剤として用いられてもよい。錠剤は、任意に一以上の補助成分と共に、圧縮で又は型にいれて製剤されてもよい。圧縮錠剤は、結合剤(例えばゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(disintegrant)(例えば、グリコール酸ナトリウムスターチ又は架橋されたカルボキシメチルセルロースナトリウム)、表面活性剤又は拡散剤を用いて調製されてよい。型に入れて作られた錠剤は、適切な機械で、不活性液体希釈剤で湿らされた粉末状化合物の混合物を型に入れることによって製造されてよい。
【0028】
本発明の薬学的組成物の錠剤、及び他の固体剤形、例えば、ドラジェー(dragees)、カプセル、ピル及び顆粒は、任意に、腸溶コーティング及び薬学的製剤分野で周知の他のコーティングのような、コーティング及び殻でスコア又は調製されてもよい。それはまた、活性成分の緩徐な又は制御された放出を提供するために、例えば、所望の放出プロフィールを与えるための種々の割合でのヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリクス、リポソーム及び/又はマイクロスフィアを用いて処方されてもよい。それらは、例えば細菌を保定するフィルターを通す濾過によって、或いは、使用の直前に、滅菌水、又は何らかの他の滅菌された注射用溶剤に溶解される滅菌固体組成物の形態に滅菌した薬剤を組み込むことによって滅菌されてもよい。それらの組成物はまた、任意に、乳白剤を含んでもよく、活性成分を、消化管のある位置でのみ、又は優先的に、任意に遅延された方法で放出する組成物であってよい。用いられ得る包埋する組成物の例は、ポリマー物質及びろうを含む。活性成分はまた、適切な場合、一以上の上記の賦形剤とともに、マイクロ被包された形態であってもよい。本発明の化合物の経口投与のための液体剤形は、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルを含む。活性成分に加えて、該液体剤形は、当該分野で通常用いられる不活性希釈剤、例えば水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳濁剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ピーナッツ油、コーン油、胚種油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、及びそれらの混合物を含んでよい。不活性希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳濁剤及び懸濁剤、甘味剤、調味剤、着色剤、香料、及び保存剤のようなアジュバントを含むことができる。懸濁液は、活性化合物に加えて、懸濁剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、アガー-アガー及びトラガカント、及びそれらの混合物を含んでもよい。
【0029】
直腸又は膣内投与のための本発明の薬学的組成物の製剤は、坐薬としてあってもよく、これは、本発明の一以上の化合物を、一以上の適切な非刺激性の賦形剤又は、例えばカカオ脂、ポリエチレングリコール、坐薬ろう、又はサリチル酸塩を含み、室温で固体であるが体温で液体であって、それ故、直腸内又は膣腔内で融解して薬剤を放出するキャリアと混合されることによって調製されてよい。膣内投与のために適した本発明の製剤は、当該分野で適切である周知のキャリアを含む、膣坐薬、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡又はスプレー製剤をも含む。本発明の化合物の、局所的又は経皮的投与のための剤形は、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤を含む。活性化合物は、滅菌条件下で、薬学的に許容されるキャリアと、及び任意の保存剤、緩衝剤、又は必要な発泡剤(propellants)と混合されて良い。
【0030】
軟膏、ペースト、クリーム及びゲルは、本発明の活性化合物に加えて、賦形剤、例えば動物性及び植物性脂肪、油、ろう、パラフィン、スターチ、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、タルク及び酸化亜鉛、又はそれらの混合物を含んでもよい。粉末及びスプレーは、本発明の化合物に加えて、賦形剤、例えばラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム及びポリアミド粉末、又はそれらの物質の混合物を含むことができる。スプレーは、さらに、クロロフルオロ炭化水素のような通例の発泡剤及びブタン及びプロパンのような揮発性の非置換炭化水素を含むことができる。経皮的パッチは、本発明の化合物の体への制御された輸送を提供するさらなる利点を有する。そのような剤形は、薬剤を適切な媒体に溶解するか分散させるかによって製造することができる。吸収エンハンサーは、肌を通過する薬剤の流動(flux)を増強するために用いられることができる。そのような流動の速度は、速度制御膜を提供することによっても、又は、化合物をポリマーマトリクス又はゲルに分散させることによっても制御することができる。
【0031】
眼製剤、眼軟膏、粉末、溶液などもまた、本発明の範囲内であると考えられる。非経口投与のために適した本発明の薬学的組成物は、本発明の一以上の化合物を、一以上の薬学的に許容される滅菌等張水溶液又は非水溶液、分散液、懸濁液又は乳濁液、或いは、使用の直前に滅菌注射用溶液又は分散液に再構築され得る滅菌粉末と組み合わされて含み、これは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬、意図される受取人の血液との等張性を製剤に与える溶質、又は懸濁剤又は肥厚剤を含んでよい。本発明の薬学的組成物において用いられ得る適切な水性及び非水性キャリアの例は、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのような)、及びそれらの適切な混合物、オリーブ油のような植物油、及びオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルを含む。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング物質の使用によって維持され、分散の場合には所望の粒子サイズの維持によって維持され、及び界面活性剤の使用によって維持される。
【0032】
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳濁剤、及び分散剤のようなアジュバントを含んでもよい。微生物の活性の予防は、種々の抗菌性及び抗真菌性の薬剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノールなどの包含によって保証される。組成物中に、糖、塩化ナトリウムなどのような等張性剤を含むことも望まれる。さらに、注射可能な薬学的形態の延長された吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤を包含することによってもたらされる。ある場合において、薬剤の効果を延長させるために、皮下注射又は筋肉内注射からの薬剤の吸収を遅くすることが望ましい。これは、結晶性の液体懸濁液又は水への溶解性が低いアモルファス物質の使用によって達成されうる。このように、薬剤の吸収の速度は、その溶解速度に依存し、結晶サイズ及び結晶形態に依存する。或いは、非経口的に投与される薬剤形態の遅延吸収は、薬剤を油性溶媒に溶解又は懸濁することによって達成される。注射可能デポー(depot)形態は、対象化合物のマイクロカプセルマトリクス(microencapsule matrices)を、ポリ乳酸-ポリグリコライドのような生分解性ポリマー中で形成することによって製造される。薬剤のポリマーに対する割合、及び、用いられる具体的なポリマーの性質に依存して、薬剤放出速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例は、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)を含む。デポー注射製剤は、薬剤をリポソーム又は体組織と適合するマイクロエマルジョン中に閉じ込めることによっても調製される。
【0033】
本発明の化合物が医薬品としてヒト及び動物に投与される場合に、それらはそれ自体で与えられることができ、或いは、例えば、0.1〜99.5%(より好ましくは0.5〜90%)の活性成分を薬学的に許容されるキャリアと組み合わせて含む薬学的組成物として与えられることができる。上記組成物は別として、使用は、適切な量の治療剤を含む例えば硬膏剤、絆創膏、包帯剤、ガーゼパッドなどのカバーが製造されても良い。詳細に記述したように、治療的組成物は、ステント、デバイス、プロステーシス、及びインプラントで投与/送達されてもよい。
【0034】
本明細書に記載された化合物は、以下の一般方法に従って合成することができる。
【0035】
一般式:[M]n[V(=O)(O2)2(L-L)] (式中、M = Na、K 又はNH4)を有するペルオキソバナデートの合成
典型的な方法において、K2[V(=O)(O2)2(pic)]H2O (pic =ピリジン-2-カルボキシレート)は、滅菌水をV2O5 (0.69 g, 3.8 mmol) 及びKOH (0.49 g, 8.8 mmol)に加えて、黄褐色の懸濁液を形成することによって調製した。続いてH2O2 (0.5 ml の 30% w/v)を加えて、いくらかの茶色沈殿を有する明るいオレンジの溶液を生成した。明るい色の溶液をガラスろ過器(sinter glass filter)で濾過し、30分静置させた。この反応混合物にさらにH2O2 (10 ml)を添加し、続いて、ピコリン酸 (0.97 g, 7.9 mmol)を添加した。この溶液をさらに30分間攪拌し、その後、エタノール (40 ml)を滴下して加え、明るい黄色の合物を沈殿させた。この溶液を4℃で二日間静置したままおき、生成した全ての黄色固体を濾過して集め、無水エタノールで3回洗浄し、減圧下で一晩乾燥させた(収率は、用いたL-Lリガンドに依存して、40〜80%の間で変動した)。pV錯体は、赤外、UV可視、1H NMR 及び51V NMR分光法によって性質決定できる。元素分析はサンプルの純度を確かめるために用いられ得る。
【0036】
この合成方法は、以下の先の報告を基礎としている:
[1] Alan Shaver, Jesse B. Ng,. David A. Hall, Bernadette Soo Lum, 及びBarry I. Posner, Inorg. Chem. 1993, 32, 3109-3113
[2] Barry I. Posner, Robert Faureb, James W. Burgess, A. Paul Bevand, Danielle Lachance, Guiyi Zhang-Sun, I. George Fantus, Jesse B. Ng, David A. Hall, Bernadette Soo Lum 及びAlan Shavers, J. Biol. Chem. 1994, 269, 4596-4604
【0037】
一般式[V(=O)(L-L)2]及び[M]2[V(=O)(L-L)2] (M = Na, K, NH4)を有するバナジン酸塩の合成
典型的な方法において、[V(=O)(pic)2]H2Oは、水(20 mL)中のピコリン酸(0.83 g, 6.5 mmol)の溶液を、水(20 mL)中の[V(=O)(SO4)]3H2O (0.72 g, 3.30 mmol)に加えることによって調製した。2 M NaOHを滴下して加えて、pHを4.4に上昇させた。沈殿した明るいブルーの固体を濾過して単離し、メタノール及びジエチルエーテルで数回洗浄した。この固体を減圧下で乾燥した(収率は、用いたL-Lリガンドに依存して45〜90%の間で変動した)。バナジン酸塩錯体は、赤外及びUV可視分光法、質量分析法及び磁気運動量測定(magnetic momentum determination)で性質決定できる。元素分析はサンプルの純度を確かめるために用いられ得る。
【0038】
この合成方法は、以下の先の報告を基礎としている:
[1] Marco Melchior, Katherine H. Thompson, Janet M. Jong, Steven J. Rettig, Ed Shuter,
Violet G. Yuen, Ying Zhou, John H. McNeill, 及びChris Orvig, Inorg. Chem. 1999, 38, 2288-2293
【0039】
第三の側面において、本発明は、本明細書に記載された化合物の有効量を被検者に投与することを含む、ホスファターゼを阻害する方法を提供する。特に、該ホスファターゼはPTENであり、より詳細には、本発明は、アルツハイマー病のような神経変性疾患、並びに、創傷治癒、やけど、心臓肥大、低酸素症、虚血、及びスポーツ傷害のような、アポトーシスの阻害が有益である疾病又は状態を治療する方法を提供する。さらに、癌細胞はアポトーシスにより抵抗性であり、よって、本発明の化合物は、よりアポトーシスを受けやすい正常細胞を保護するような化学療法剤と組み合わせての使用が見出される。
【0040】
本発明は、以下の例を参照して記載されるが、いずれの方法においても本発明を限定するものと解釈されるべきではない:
図に関連する例:
図1:チロシンホスファターゼPTP-β及びPTP-1B及びホスホイノシトール3-ホスファターゼPTENに対する、bpV化合物(bpV(bipy)、bpV(phen)、bpV(HOpic)、及びbpV(pic))のIC50値を示す。PTPaseのための実験は、基質としてpNPPを用い、100 μM〜1 nMの阻害剤濃度で行った。阻害剤の二つのグループの間の著しい相違が区別できる。芳香族のbpVは、より高いナノモーラーのIC50を示したが、極性bpV化合物によってPTPを阻害するためにはμモーラー濃度が必要であった。PTENに対する調査は、マラカイトグリーンに基づくホスフェート放出アッセイによって行った。我々は、PI(3,4,5)P3を基質として用い、また、0.1〜500 nMの濃度範囲のbpV阻害剤の存在下で及びなしで、放出されたホスフェートを測定した。これらのPTP阻害剤は、低いナノモーラー濃度で50%の阻害を示す、極めて強力なPTEN阻害剤として証明することができた。全てのIC50 値は、三通りの測定の平均+/- S.E.として提示した。計算は、Prism GraphPadを用いて行った。
【0041】
図2a:bpV化合物のインスリン擬態性性質:72時間飢餓させたNIH3T3及びUM-UC-3細胞を、10 μM〜0.1 μMの濃度の全4つのbpV阻害剤と共に15分間インキュベーションした。細胞可溶化液をSDS-PAGEで分析し、その後、pSer473 PKB、Mass PKB 及びチューブリン(tubulin)抗体を用いたウェスタンブロッティングで分析した。最も高い濃度 (10 μM)は、全4つのbpVについて、インスリン経路の誘発を示すPKBのリン酸化を示した。1 μM 及び0.1 μMは、わずかなリン酸化しかもたらさないか、又は効果がなかった。bpV(phen)は、他の化合物と比較してPKBの低いリン酸化を示し、インスリン擬態性性質に関して、あまり強力でないことが明らかにされた。このパネルは、他3つの実験代表の結果を示す。
【0042】
図2b:増殖因子、bpV(pic) 及びbpV(phen)によって誘導されるチロシン残基のリン酸化:静止状態のNIH3T3細胞を、10% NCS、50、10及び0.5 μg/mlインスリン及び種々の濃度のbpV(pic)及びbpV(phen)に、15分間曝露した。特異的抗ホスホチロシン抗体によるウェスタンブロット分析は、10 μM bpV(pic)について、最も高いリン酸化シグナルを与える、予想されたタンパク質バンドパターンを示した。対照的に、10 μM bpV(phen)は、より低いリン酸化速度を誘発し、他方では、10%で刺激された繊維芽細胞と類似した。ナノモーラー領域での濃度は、チロシン残基のリン酸化に関係しない。0.01 μM bpV 及び0.5 μg/mlインスリンによる共刺激作用は、対照細胞と比較した場合に、変化したリン酸化をもたらさなかった。分子サイズを右に示す。図は、他の3つのブロットの代表を示す。
【0043】
図2c:bpV(pic)の細胞毒性:NIH3T3細胞を、種々の濃度のbpV(pic)、bpV(HOpic)、bpV(bipy)及びbpV(phen)で処理して2時間インキュベーションした。該細胞にMTT (5 mg/ml)を添加した後、さらに4時間インキュベーションした。最後に、ODを570 nmで測定した。10 μMまでの濃度は、細胞の生存度に何ら影響しなかったが、100 μMのbpVは、繊維芽細胞に影響し、結果として約40%の細胞損失であった。最も高い適用用量の1 mMは、細胞のほとんど80%を死滅させた。同様の結果は、2回目の実験でも得られた。
【0044】
図3:bpV(pic)及びbpV(phen)インキュベーション後のアクチン再配列:NIH3T3細胞を増殖させ、インキュベーションし(0.1-10 μM)、8-チャンバースライドに固定し、TRITC-ファロイジン及びDAPIで染色した。細胞のアクチン染色を分析するために、免疫蛍光顕微鏡観察を用いた。溶媒のみで処理した対照細胞は、典型的なアクチン分布を示した。0.1 μMのbpV(pic)及びbpV(phen)で処理した後、形態は、24時間後まで変化せずに残った。1〜10 μMもの高濃度で24時間以上処理したものだけが、形態学的変化を起こした。アクチンフィラメントは、再配列を開始し、細胞及び核が集まった。繊維芽細胞は、剥離し死に始めた。それらの発見は、前記化合物の毒性がμモーラー濃度で開始することを示す。スケールバー=10 μm。
【0045】
図3:PI3K阻害剤Ly294002 及びmTOR阻害剤ラパマイシンの存在下における、PKBリン酸化に及ぼすμモーラーbpV(pic)の影響:休止繊維芽細胞を、Ly294002 (10 μM) 及びラパマイシン(50 nM)と共に、それぞれ20分及び30分間前インキュベーションした。続いてこれを、10又は1 μMのbpV(pic)で処理した。PI3K阻害剤ly294002は、bpV(pic)誘導PKBリン酸化を減少した。反対に、mTOR阻害剤ラパマイシンは、PKBのリン酸化レベルを上昇させた。
【0046】
図5:PTEN阻害に依存する用量、インビボ:
図5a 全4つのbpV化合物の異なる濃度で5分間インキュベーションし、0.5 μg/mlインスリンで15分間刺激した飢餓繊維芽細胞は、濃度依存性様式で、pSer473を検出するウェスタンブロットにおいて、PKBリン酸化の上昇を示した。濃度測定分析は、NIHイメージプログラムを用いて、低いナノモーラー領域でのインビボでのIC50値をもたらした。
【0047】
図5b:PTEN-ネガティブ細胞株UM-UCで行った同様の実験は、bpV阻害剤がPTENを標的にすることを示すのと同じ濃度では、PKBのSer473のリン酸化レベルを変化させなかった。パネルは、二回繰り返した実験の代表の結果を示す。
【0048】
図6:bpV(pic)あり及びなしでのLy294002による用量依存性PKB阻害:実験は、Ly294002前-処理されたNIH3T3細胞を、200 nM bpV(pic)あり又はなしでインキュベートし、続いて、10 μg/mlのインスリンで15分間刺激して行った。細胞サンプルを、PKBウェスタンブロットで分析した。この図に示された結果は、PTEN阻害剤bpV(pic)がLy294002 依存性PKB阻害を部分的に抑制することを証明した。バンドの光学密度は、NIHイメージを用いて分析して算出し、PrismGraphでブロットした。グラフに示したように、5 μMのLy294002はPKB活性化を完全に阻害するのに充分であり、しかしながら、200 nM のbpV(pic)の存在下において、リン酸化がなお生じる。それ故、PTEN阻害剤は、Ly294002のIC50を変化させる。
【0049】
図7:PTEN阻害剤:bpVsの新しいクラスの性質決定された特徴の概要。
【実施例】
【0050】
実施例1
クローニング及びPTENの発現
ヒトPTENのDNA配列のコーディング領域を、pGEX-4T2発現ベクター(ファルマシア)中にクローン化した。タンパク質の発現は、100 μMのIPTGを18℃で用いて、大腸菌DH5a株で一晩誘導した。GST-融合タンパク質を、製造者のマニュアルに従って、グルタチオンセファロース4B(ファルマシア)を用いて精製した。タンパク質の結合性及び特異性を、GST抗体(ノバゲン)を用いたウェスタンブロットで確認した。
bpV(pic)の合成
K2[V(=O)(O2)2(pic)]H2O (pic =ピリジン-2-カルボキシレート)を、V2O5 (0.69 g, 3.8 mmol) 及びKOH (0.49 g, 8.8 mmol)に希釈水を加えて調製し、黄褐色の懸濁液を形成した。これに、続いて、H2O2 (0.5 mlの30% w/v)を加え、これは、いくらかの茶色い沈殿を有する明るいオレンジの溶液を生成した。明るい色の溶液を、ガラス濾過器を通して濾過し、30分間静置させた。さらなるH2O2 (10 ml)を反応混合物に加え、続いて、ピコリン酸(0.97 g, 7.9 mmol)を加えた。この溶液を、さらに30分間攪拌し、その後、エタノール(40 ml)を滴下して加えて、明るい黄色の化合物を沈殿させた。この溶液を4℃で二日間静置しておき、生成した黄色い固体を濾過により全て集め、無水エタノールで3回洗浄し、減圧下で一晩乾燥させた(収率は、用いたL-Lリガンドに依存して40〜80%で変動した)。収量:1.62 g; 58 %。この化合物は、NMR 及びIR分光法で性質決定し、その純度は元素分析で確定した。元素分析:検出: C, 19.7; H, 2.0; N, 3.7。算出C6H4NO7K2V・2H2O: C, 19.6; H, 2.1; N, 3.8. IR ν (KBr): 1630 (CO); 951 (VO), 860, 872 (OO) cm-1. 51V NMR (D2O): -744.1 ppm。
【0051】
チロシンホスファターゼ(PTPase)分析
チロシンホスファターゼ(PTPase)アッセイは、合成基質 p-ニトロフェニルホスフェート(pNPP)及びホスファターゼPTP-1B及びPTP-β(Upstate Biotechnology)を用いて行った。標準的なアッセイ条件は、25 mM HEPES pH 7.2、50 mM NaCl、5 mM DTT、2.5 mM EDTA、100 μg/ml BSA、1 mM pNPP (Sigma) 及びそれぞれ4ユニットのPTP-1B 及び10ユニットの-βであった。このアッセイは、酵素を添加することによって開始し、予熱したELISAリーダーチャンバー中で、30℃で15分行った。吸光度の直線的な上昇を、410 nmの波長で30秒毎にモニターした。阻害の調査は、bpV(bipy)、bpV(HOpic)、及びbpV(phen) (Calbiochem)のようなPTPase阻害剤、及び、100 μM〜1 nMの濃度の合成された化合物を含む同様のアッセイ系で行った。
【0052】
マラカイトグリーンホスフェート放出アッセイ及びPTENによるIC50調査
組換えPTENの酵素活性を、ホスフェート放出アッセイ (No 230, No 83)に基づくマラカイトグリーン染料を用いて測定した。標準的なアッセイ条件は、200 mM Tris pH 7.4、50 ng/μl BSA、及び15 ng/μl PTENであった。合成脂質PI(3,4,5)P3dC16 (Cell Signals)を、PTENのための基質として用いた。該脂質をメタノール/H2Oに溶解し、-20℃で保存した。それらのPIPase実験において使用する前に、適切な量の脂質を乾燥し、1% オクチルグリコシド(Sigma)に再懸濁した。超音波処理の10分後、脂質サンプルを酵素アッセイに加える準備をした。全てのアッセイは、PI(3,4,5)P3dC16を含む予熱された緩衝溶液中に酵素を添加することによって開始された。直線的PIPase反応を、インキュベーションチャンバー中で30℃で30分間行った。酵素反応を停止するため、0.7容量の着色試薬(3.6 M HCl 及び17 mMモリブデン酸アンモニウム中の2.3 mg/mlマラカイトグリーン)を酵素溶液に加えた。この混合物を20分間発展させ、625 nmでの吸光度を測定した。全ての阻害剤の調査のために、0.1 nMから500 nMまでの阻害剤濃度をPTENと共にインキュベートし、150 μM超音波処理された脂質を添加して酵素アッセイを開始した。ホスフェート放出の標準化のために、ホスフェート標準曲線を用いた。全ての実験を三回繰り返した。IC50 値の算出は、GraphPad Prismを用いて行った。
【0053】
細胞毒性アッセイ
bpV化合物の細胞毒性を、MTTアッセイを行って測定した。NIH3T3細胞を、無血清培地に再懸濁し、1 mM〜0.1 nMの濃度の四つの全てのbpV化合物に2時間曝露した。MTT溶液(5 mg/ml) (Lancaster Synthesis Ltd)を該細胞に添加し、さらに4時間インキュベーションした。細胞ペレットを、100 mM HClを含むDMSOに再懸濁し、570 nmで測定した。
【0054】
ファロイジン染色
形態学的な変化をモニターするために、NIH3T3細胞を8-ウェルチャンバースライド上で増殖させ、0.1〜10 μMの濃度のbpV(pic) 及びbpV(phen)と共にそれぞれ6時間及び24時間インキュベートした。繊維芽細胞を4% パラ-ホルムアルデヒド(PFA)で固定し、0.2% トリトンで透過化処理し(permeabilised)、10% NCS (ウシ新生仔血清)でブロックした。アクチンフィラメントを染色するために、細胞をTRITC-ファロイジン (Sigma) (1:1000)で1時間インキュベートした。最後に、核をDAPI (Sigma)染色して計測(mounted)した。形態学的分析は、TRITC 及びDAPIフィルターを用いて顕微鏡で評価し、カメラを用いて写真を取った。
【0055】
組織培養
NIH3T3細胞(継代5〜20)を、10% NCS D-MEM (GIBCO BRL)中で、6-ウェルプレート上で、37℃、5% CO2で増殖した。細胞の飢餓を72時間にわたって、0.5% NCSを含有するD-MEM中で行った。前の使用培地を、0% D-MEMに交換した。PTEN膀胱腫瘍細胞株(N0 195, No 196)であるUM-UC-3細胞を、10% MEM (GIBCO BRL)中で増殖し、3日間0.5% MEMで飢餓させ、最後に、無血清MEMでインキュベーションした。
【0056】
PKBアッセイ:bpV化合物によるインスリンシグナリング経路の活性化
4つのbpV化合物のインスリン擬態性性質を証明するため、NIH3T3 及びUM-UC-3細胞を、0.1、1 及び10 μMの濃度のbpV(bipy)、bpV(phen)、bpV(HOpic) 及びbpV(pic)に15分間曝露した。細胞をPBSで一回洗浄し、80 μl SDS-PAGEバッファー(250 mM Tris pH 6.8, 20% グリセロール、4% SDS、0.01%ブロモフェノールブルー、50 mMメルカプトエタノール)を用いて溶解した。サンプルを15分間煮沸し、最後の段落で記載されたようにウェスタンブロットで分析されるまで、-20℃で保存した。
【0057】
NIH3T3細胞によるホスホチロシンアッセイ
NIH3T3細胞を、先に記載したように増殖させて飢餓させた。72時間の飢餓後、細胞を、10% NCS、50、10及び0.5 μg/mlのインスリン(Sigma)、10、1、0.1及び0.01 μMのbpV(pic) 及びbpV(phen)のそれぞれで、15分間インキュベーションした。細胞可溶化液を、上記のように調製し、全てのサンプルを、抗ホスホチロシン抗体(Upstate)を用いてウェスタンブロットで分析した。
【0058】
PI3K阻害剤Ly294002及びmTOR阻害剤ラパマイシンの存在下におけるPKBアッセイ
PI3K 及びmTORがbpV-依存性インスリン擬態性特徴に及ぼす影響を調査するために、我々は、NIH3T3細胞を10 μM LY294002 (Promega) 及び50 nMラパマイシン (Calbiochem)でそれぞれ20分及び30分間処理し、続いて、10 μM 又は1 μMのbpV(pic)と共に15分間インキュベーションした。細胞可溶化液をPKBウェスタンブロットで分析した。
【0059】
PKBアッセイ:PTENにおけるbpV化合物の阻害性効果の用量依存性
PTENにおけるバナジン酸塩分子の阻害性効力の調査のために、bpV(bipy)、bpV(HOpic)、bpV(pic)及びbpV(phen)を、1 nMから 100 nMまでの濃度で細胞に5分間添加し、続いて、0.5 μg/mlインスリンで15分間刺激した。UM-UC-3細胞を正確に同じ方法で処理した。細胞サンプルを、PKB抗体によるウェスタンブロットで分析した。
【0060】
Ly294002用量依存性
bpV(pic)が、Ly294002-依存性PKB阻害に及ぼす影響を有するか否かを検出するために、我々は、0.01から100 μMまでの濃度のLy294002を二つのセットの静止状態の繊維芽細胞に適用し、20分間インキュベーションする用量応答性実験を完成した。次いで、細胞の一つのバッチをさらに200 nM bpV(pic) (5分)で処理し、全ての細胞を、最後に10 μg/mlのインスリンで15分間刺激した。細胞可溶化液を先に記載したように集めた。算出及びグラフは、GraphPad Prismを用いて行った。
【0061】
ウェスタンブロット分析
全ての細胞可溶化液サンプルを、10% SDS-PAGEにロードし、PKB分析のためのPVDF膜及びホスホチロシン検出のためのニトロセルロースに移動した。PKBのためのウェスタンブロット膜は、TBST中で、5%ミルクパウダーにより1時間ブロックし、続いて、抗マス(Mass)PKB抗体(1:1000)又は抗ホスホ-PKB (Ser473)抗体(1:1000)と共に、TBST中で2時間インキュベーションした。最後に、膜を5% ミルクパウダー溶液中のセイヨウワサビペルオキシダーゼ-抱合型(conjugated)二次抗血清(BIORAD) (1:1000)に1時間曝露した。ウェスタンブロットをECLTM溶液(Amersham)で展開した。リン酸化されたチロシン残基を検出するために、ニトロセルロース膜を2.5% ミルクパウダーで1時間ブロックし、最初に特異的抗ホスホチロシン抗体(4G10) (1:3000)で1時間インキュベートし、最後に、西洋わさびペルオキシダーゼ接合二次抗マウス抗血清でインキュベーションした。全てのPKB及びホスホ-チロシン実験は、3つの独立した実験で行い、全ての膜は特異的チューブリン抗体(1:1000)を用いてリプローブ(re-probed)した。バンドの密度分析は、パブリックドメインのNIHイメージ V1.62プログラム(U.S. National Institutes of Healthで開発され、インターネット http://rsb.info.nih.gov/nih-image/で入手可能)を用いて行った。pS473バンドの輝度は、対応するマスPKBのものを用いて標準化し、コントロールに対する変化を示すための任意の単位として表した。
【0062】
結果
チロシンホスファターゼPTP-1B 及びPTP-β-に対するIC50
PTPaseアッセイを、基質としてpNPPを用い、bpV阻害剤なしで及びbpV阻害剤の存在下で行った。我々は、それぞれ異なる化合物のIC50値を示した(表1)。芳香族阻害剤(bpV(bipy)及びbpV(phen))並びに極性阻害剤(bpV(HOpic)及びbpV(pic))の二つのbpV化合物のグループに区別することができる。芳香族分子によるPTP-βアッセイは、それぞれ60.3 nM (+/-9.6) 及び343 nM (+/-88.5)のIC50値になった。それらの結果は、先に公開された値と対応した。驚くべきことに、二つの極性化合物bpV(HOpic) 及びbpV(pic) のIC50値は、4.9 μM (+/-0.9) 及び12.7 μM (+/-3.2)もの高さであった。匹敵する結果は、非−受容体様PTP-1B (IC50値は図1を参照)のために測定されることができた。
【0063】
PTENはbpV化合物によって阻害される。
IC50分析-PTENは、PI(3)P、PI(3,4,5)P3及びIP4に対する基質親和性を示す3-ホスファターゼである。我々は、基質としてPI(3,4,5)P3を用いてPTENのホスフェート放出アッセイを確立した。この酵素アッセイは、何年も前に確立した方法(No 230, No 83)に基づく。遊離の無機ホスフェートは、酸性マラカイトグリーン染料を用いて検出した(OD625)。このアッセイは、ホスホイノシトールホスファターゼPTENエアリアー(earlier)(No 131)のために確立された。PTENのKm値は、約150 μMであり、モルパーセンテージ1.72 (データは示さず)に対応する。さらにその上、我々は、bpV化合物がPTPを阻害するのみならず、PTENのホスホイノシトールホスファターゼ活性をもブロックすることを、最初に証明し得た。阻害剤効力のさらなる性質決定のために、我々は、適切な量のPTENを、150 μMのPI(3,4,5)P3dC16及び種々の濃度の全四つのbpV化合物とインキュベーションすることによって、IC50調査を行った。IC50調査の結果を図1にまとめた。我々は、4つの全ての阻害剤で、14〜38 nMの値となる、驚くほど低いIC50値を測定した。それらの数字は、PTPaseのものより10〜100倍低く、このクラスの阻害剤がPTENの活性サイトにより高い親和性を示すことを示した。さらにその上、我々は、bpVの二つのグループの間に著しい相違を検出できず、PTENの活性中心におけるそれらのバナジン酸塩の結合が、異なるリガンドによって影響されないことを示した。それらの発見は、将来の薬理学的な調査において非常に有用なツールとして開発され得る極めて強力なPTEN阻害剤の新しいクラスを特徴づける。
【0064】
PKBアッセイ:bpV化合物による、インスリンシグナリング経路の活性化
高用量のバナジン酸塩、pV及びbpVが、PKBリン酸化をもたらすということは、過去に示されている(No 184, 234)。インスリンシグナリング経路の活性化におけるビスペロキソバナジン酸塩のこの機能を評価するため、我々は、NIH3T3 及びUM-UC-3の飢餓細胞を、0.1 μMから10 μMまでの濃度のbpV(pic), bpV(HOpic), bpV(bipy) 及びbpV(phen)と共にインキュベーションした。図2aは、抗pS473 及びMass PKB抗体を用いたPKBウェスタンブロットで明らかになった結果を示す。10 μMの濃度は、NIH3T3細胞において、全ての化合物で、リン酸化PKBの最も高いシグナルを与えた。1 μMを用いることでも、bpV(pic), bpV(HOpic) 及びbpV(bipy)の弱いシグナルがなお検出できたが、しかし、bpV(phen)ではリン酸化は見られなかった。最も低い濃度(100 nM)は、いずれのpV化合物でもPKBのリン酸化をもたらさず、インスリン擬態性性質がμモーラー領域でのみ検出可能であること暗示した。興味深いことに、bpV(phen)は、他の分子よりも低いインスリン経路の擬態能力を有するように思われた。これは、シグナリングカスケードにおける異なるターゲットのためであり得る。bpV分子との延長されたインキュベーション時間後には、リン酸化PKBのさらなる活性は見られなかった(データは示さず)。反対に、UM-UC-3細胞で明らかにされた結果は、この細胞株においてPTENが欠損しているために、リン酸化されたPKBの高いバックグラウンドレベルを示した。これとは別に、PKBの刺激が、NIH3T3細胞のために記載された同様の様式で生じた。4つの全ての阻害剤の安定性の評価は、bpVを24時間まで、前インキュベーションすることによって行った。如何なる相違も観察されず(光学密度はNIHイメージを用いて測定した)、これらの分子が我々のアッセイ条件で極めて安定であることを示した(データは示さず)。マスPKB抗体のためのウェスタンブロット分析は、全ての細胞で均一な発現レベルを示す全てのサンプルについて一致したシグナルを示した。
【0065】
bpV阻害剤はチロシン残基のリン酸化を上昇させた
インスリンシグナリング経路の一つの主要な特徴である、チロシン残基のリン酸化の検出のために、我々は、静止状態の繊維芽細胞を異なる濃度のbpV(pic)及びbpV(phen)(10 μM〜0.01 μM)、NCS (10%)及びインスリン(50、10及び0.5 μg/ml)とともにインキュベーションした。リン酸化されたチロシン残基のためのウェスタンブロット分析は、刺激された細胞のタンパク質バンド(図2b)の典型的なパターンを明らかにした(No 277,278,279)。ネガティブコントロールは、同様のパターンを示したが、しかしながら、より弱いシグナルであり、幾つかのバンドは欠いていた。最も高いチロシンリン酸化の程度は、10 μM bpV(pic)で処置した細胞で検出することができ、これは、チロシン残基のリン酸化は、10 μM オルトバナジン酸ナトリウム (No 279)、100 μM バナジン酸塩 (No 282)又は0.5 mM ペルバナデート (No 238)で明らかであるという公開されているデータと一致する。これらの結果は、最も高い用量のbpV(pic)は、50 μg/mlのインスリン及び10% NCSよりも強力であることを示した。PKB分析で証明された結果と一致して、10 μMのbpV(phen)は、bpV(pic)の等価な(equivilant)濃度よりも低い刺激をもたらした。これは、bpV(phen)が他の化合物よりも低いインスリン擬態性効力を有することのもう一つの証拠を与える。1 及び0.1 μMのbpV(pic)による処理は、0.5 μg/mlインスリンとのインキュベーション後に明らかになったものと同様のシグナルをもたらした。さらにその上、最も低い濃度(0.01 μM)は、ネガティブコントロールと区別できない。これらの結果をまとめると、bpV化合物は、μモーラー濃度においてのみインスリン擬態性性質を示し、チロシンリン酸化において、芳香族bpV(phen)及び極性bpV(pic)の間に著しい多様性があると言うことができる。
【0066】
bpV化合物の細胞毒性
MTTアッセイ、ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼを介した生細胞の活性の測定方法を行って、我々は、10 μMまでの4つの全ての化合物の濃度が、繊維芽細胞の生存に影響しないことを明らかに示した(Fig 2c)。100 μMという高濃度でのみ、細胞の約40%が死滅する著しい細胞毒性であった。1 mMの阻害剤による処理は、約80%の細胞の死をもたらした。これは、インビトロでPTENホスファターゼ活性を阻害できる用量が、細胞生存度に影響しないことを示した。四つの化合物の間で、細胞毒性の相違は観察されなかった。
【0067】
ファロイジン-TRITC 及びDAPIで免疫染色されたNIH3T3細胞のアクチン再配列によって表される、阻害剤曝露後の形態学的変化は、繊維芽細胞の細胞骨格の形態を示した。繊維芽細胞のアクチン染色は、周知の確立された技術である(No 280, No 281)。アクチンストレスファイバーの出現と分布は、細胞の結着性(integrity)の集団であり(No 283, No 266, No 271)、その結果、薬物の細胞毒性がアクチン配列を意味するものとして測定されることができる。溶媒のみで処理されたコントロール細胞は、典型的な細胞骨格アクチン構造及びストレスファイバーの出現を示した(図3a-d)。0.1 μMのbpV(pic)及びbpV(phen)での、6時間及び24時間の処理後、細胞の形態は未変化のままだった(図3e-h)。1及び10 μMもの高濃度で、24時間に渡りインキュベーションしたもののみが、アクチンストレスファイバーの損失と、影響された細胞の縁におけるF-アクチンの厚い領域の存在によって特徴づけられる形態の変化を表した(図3kj,l,n+p)。繊維芽細胞は脱離及び死滅を始めた。さらにその上、細胞及び核は、死細胞の典型的な特徴で寄せ集まった。1 及び10μMのbpVに6時間だけ曝露した繊維芽細胞は、コントロール細胞で見られるものと同じアクチン分散及び形態を示した。これらの発見は、化合物の毒性が、μモーラー濃度で始まることを示している。さらにその上、二つのbpV化合物の間に著しい相違が観察されないことは、細胞毒性に関して、極性bpVバナジン酸塩と芳香族bpVバナジン酸塩の間に多様性が存在しないという証拠を与える。
【0068】
bpバナジン酸塩誘導インスリン経路におけるLy294002及びラパマイシンの影響
PKBのリン酸化をブロックするLy294002は、周知のPI 3-K阻害剤である。反対に、ラパマイシンは、mTOR、所謂ラパマイシンの哺乳類ターゲットを阻害する。我々は、これら二つの阻害剤が、bpバナジン酸塩誘導インスリン経路に及ぼす影響を調査した。NIH3T3細胞を、適切な用量のLy294002とラパマイシンと前インキュベートし、次いで、それぞれ10 及び1 μMのbpV(pic)に曝露した。実証したように、早期の飢餓された、非-刺激性繊維芽細胞は、PKBのSer473のリン酸化を誘導するために、μモーラー濃度のbpVを必要とする(図2a)。図4に示したように、10 μMのbpV(pic)は、高度のリン酸化をもたらす。50 nMのラパマイシンの添加は、同様の刺激を与えるが、しかしながら、Ly294002による前インキュベーションは、リン酸化の速度を減少させた。これは、バナジン酸塩によるPKBのリン酸化が、PI 3K依存性経路であることを証明している。さらに、我々は、1 μMのbpV(pic)濃度(図4 長い曝露時間)で、何らのシグナルも見られず、それにも関わらず、ラパマイシンとの前インキュベーションがリン酸化されたSer473を刺激することを示し、このシグナリング経路におけるmTORの役割に関係することを示した。
【0069】
bpV化合物はナノモーラー濃度でのPKBリン酸化を刺激する
bpV阻害剤の効力の調査で、我々は、全4つの化合物で濃度依存性実験を行った。静止状態のNIH3T3細胞を、1 nMから100 nMまでの濃度のbpV(HOpic)、bpV(pic)、bpV(bipy)及びbpV(phen)とともにインキュベーションした。該化合物は、用量依存性の様式で、PKBのリン酸化を誘導した(図5a)。1 及び10 nMのような最も低い濃度では活性化は証明されなかったが、しかし、コントロール(0.5 μg/mlインスリン)と比較して、20 nMのbpV(pic)、bpV(HOpic)及びbpV(bipy)(約20%)で、わずかな上昇が検出できた。60 nM〜100 nMのような高濃度は、リン酸化されたPKBシグナルの著しい増強をもたらした。光学密度は、NIHイメージプログラムを用いて測定し、IC50値は3回の独立した実験の結果に関して算出した。それらの阻害係数は、bpV(pic)の48 nM (+/- 8.5)からbpV(HOpic)の96 nM (+/- 16.3)までと確証された。これらの結果をまとめると、PTENは、インビトロで確立されたように(図1)、インビボでもより低いナノモーラー濃度のbpV化合物で阻害されうるということができる。よって、PKBの刺激は、上昇した細胞内PI(3,4,5)3レベルのために、PTEN阻害によって刺激される。さらにその上、我々は、二つのグループの阻害剤の間に何らの多様性を検出することができず、これは、PTENホスファターゼの活性サイトが、サイズ又は電荷に関して接近を制限されないことを示している。PTP及びPTENに関するこの阻害の明瞭な(distinct)相違を確立することによって、それらの分子が、ホスファターゼの種々のクラスを識別するための有用なツールとして探求されることができる。
【0070】
bpVは、UM-UC-3細胞中のPKBリン酸化に影響を示さない
bpVがPTENを阻害し、それ故、PKBリン酸化をもたらす高いPI(3,4,5)P3レベルに影響するという事実をさらに証明するため、我々は、PTENネガティブ腫瘍細胞株UM-UC-3で同じ実験を繰り返した。飢餓UM-UC-3細胞を、同じ濃度の全4つの阻害剤に曝露した。pS473のウェスタンブロットの分析は、PKBの如何なる刺激も示さなかった(図5b)。最も高い用量の100 nMのbpV阻害剤でさえ、リン酸化をわずかに上昇させたのみであり、bpVのIC50のシフトが生じたことを意味している。それらの結果は、PTEN及びその後のPI(3,4,5)3が、我々の細胞系においてbpV化合物によって誘導されるPKBの活性化の鍵となる分子であることを再度示している。
【0071】
PTEN阻害剤bpV(pic)は、Ly294002誘導PKB阻害を部分的に抑制することができる
種々の濃度のLy294002 (0.01〜100 μM)と共に前インキュベーションした静止状態のNIH3T3細胞は、単独で、pSer473ウェスタンブロットにおいて、200 nM bpV(pic)で共処理したものよりも著しく低いシグナルを与えた。IC50におけるこのシフトは、bpV(pic)が、Ly294002誘導PKB阻害を抑制できることを明らかに示した。ウェスタンブロットシグナルの光学密度の分析が、コントロールに標準化され、阻害の平均値が算出された。図6のグラフは、bpV(pic)が有る場合と無い場合の実験の著しい相違を示している。bpV化合物の存在は、Ly294002が誘導する阻害の減少をもたらす。これらの結果は、われわれの細胞系において、bpVがPTEN阻害剤として作用し、その後、上昇したPI(3,4,5)P3レベルがPKBのリン酸化をもたらすということを明らかに証明した。
【0072】
以下の6つの化合物は、イノシトールホスファターゼの阻害剤として試験した:
【化24】

【0073】
この調査で試験された化合物の概要:pV=ペルオキソバナデート;バナジウム (+V) 錯体VO(O2)2 (リガンド);バナジウム(+IV)錯体VO(リガンド)2
【0074】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0075】
全ての化合物は、低いnM領域で阻害すると思われる;
pV(phenbig) 及びOHpic4は、非常に良い阻害剤と思われる。
【0076】
考察
多年にわたり、PTENは多くのガン組織において突然変異した腫瘍抑制因子として記載されてきた(No 240, 246, 247, 267)。腫瘍抑制因子としてのその役割は、主に、PI3K/PKBシグナリング経路の負性制御によって発揮されることが新たに証明された(No, 236, 232, 265)。最近の多くの研究がPTENをホスファターゼとして性質決定し(概説 No 98を参照)、代謝及び疾病におけるその役割を性質決定しているにも関わらず、このタンパク質に対する特異的な阻害剤は存在しない。調査は主に、PTENヌル細胞株(No 106, 164, 233, 236)又はPTENネガティブショウジョウバエ突然変異(No 175)において行われる。ここで提示した研究(work)は、PTEN阻害剤の極めて強力なクラスを記載する最初の研究である。我々は、周知のチロシンホスファターゼ(PTPase)阻害剤のクラスのビスペロキソバナジウム(bpV)が、PTENに極めて高い親和性を示すことを証明できた。我々は、インビトロ及びインビボでこれらの化合物を性質決定し、また、PTPase阻害性性質と比較して著しい相違を検出した。それらのインスリン擬態性は、細胞の増殖因子刺激の後に活性化される経路を惹起する。それらの特徴は、インスリン受容体基質IRS-1のような脱リン酸化標的タンパク質であるPTPaseを阻害することによって主に示された。我々の細胞系におけるbpVの、これらのインスリン擬態性特徴を評価するために、我々は、μモーラー用量を繊維芽細胞に適用し、PKBのSer473残基(図2a)及びチロシン残基(図2b)のリン酸化の程度を分析した。文献(No 140)と一致して、我々は、両方の場合のリン酸化のレベルの上昇を証明した。
【0077】
PTPaseアッセイにおいて、我々は、極性(bpV(HOpic)及びbpV(pic))と芳香族(bpV(phen)及びbpV(bipy))のbpVの間の明瞭な相違を明らかにした。後者は、高いナノモーラーIC50値をもたらしたが、しかし、極性化合物は、μモーラーもの高さの濃度で50% 阻害をもたらした(図1)。公開されたデータとの変動は、アッセイ条件に起因すると思われる。IC50値は、DTT 及びEDTA濃度のようなバッファー条件に依存し得ると記載されている(No 146, 206)。PTEN活性を分析するために、我々は、酸性マラカイトグリーン染料を用いてホスフェート放出アッセイを行った(No 230, No 83)。このアッセイは、PTEN(No 131)にうまく適用され、遊離無機ホスフェートの1〜10 nmolの間で直線的な結果を与えた(No 231)。同じ調査において、この方法が、種々の阻害剤の存在下におけるホスファターゼ活性の調査に適していることが示された。注目すべきことには、全てのbpVに適用される阻害性調査が、低いナノモーラー濃度でのPTEN阻害を明らかにした。これは、PTENに対するbpVの高い親和性を証明している。さらにその上、PTPaseについて観察されたように、極性及び芳香族化合物の間で検出可能な著しい相違は無かった。これは、PTENの活性サイトのより開放的な構造に起因すると思われ(No 165)、これによって、閉じた構造を有するPTPaseと明瞭に対照をなす(No Sonnenberg et al, 2003, Liu et al, 2003)。これらのインビトロデータに基づいて、我々は、異なる濃度のbpVで処理し、インスリンで刺激した、静止状態の繊維芽細胞を用いた調査を行った。飢餓繊維芽細胞は、PKBリン酸化における薬剤依存的な変化を検出するために、ある用量の増殖因子で刺激されることが必要であることが、最近示された(Byrne et al)。PTEN阻害剤は、PTEN活性の損失を導き、それ故、PI(3,4,5)P3レベルの上昇を導くために、我々は、バナジン酸塩による処理後のPKBの用量依存的活性化を予想した。我々は、細胞のナノモーラーbpV曝露との関連において、リン酸化されたSer473の上昇を明らかに証明することができた(図5a)。デンシトメーター分析を用いて、我々は、異なる化合物について48〜99 nMの間で、50%の阻害を確証した。それらの値は、我々の酵素アッセイで得た結果と同等である。インビトロの結果とのわずかな変動は、バナジン酸塩の膜透過性の遅滞に起因するものと思われる。インスリン及びバナジン酸塩も、PKBを活性化する(No 184, 234)が、しかし、ここで適用したものより高い濃度だと公開されているために、我々は、PTENネガティブUM-UC-3細胞株において同じ実験を繰り返した。提案されたように、bpVは、PKBの活性化を刺激せず、これらの化合物がPTENを標的にすることが示された(図5b)。最後に、我々の発見をさらに確認するために、我々は、我々の細胞系におけるPI3K阻害剤Ly294002の影響を調査した。bpVがPI3K-依存的経路を介して作用する場合、それらの化合物がLy294002誘導PKB阻害を救助できることが予想される。適切な濃度のLy294002の適用は、PKBリン酸化を予防した(図6)。しかしながら、bpV(pic)による共-処理は、この阻害を抑制し、これは、bpVがPTENを標的にし、PI(3,4,5)P3レベルの上昇を導き、PI3K/PKBダウンストリーム経路の活性化を導くことを明らかに示した。
【参考文献】
【0078】
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16 Hill, M. M. 及びHemmings, B. A. (2002) Inhibition of protein kinase B/Akt implications for cancer therapy.
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】チロシンホスファターゼPTP-β及びPTP-1B及びホスホイノシトール3-ホスファターゼPTENに対する、bpV化合物(bpV(bipy)、bpV(phen)、bpV(HOpic)、及びbpV(pic))のIC50値を示す。
【図2a】bpV化合物のインスリン擬態性性質。
【図2b】増殖因子、bpV(pic) 及びbpV(phen)によって誘導されるチロシン残基のリン酸化。
【図2c】bpV(pic)の細胞毒性。
【図3】bpV(pic)及びbpV(phen)インキュベーション後のアクチン再配列。
【図4】PI3K阻害剤Ly294002 及びmTOR阻害剤ラパマイシンの存在下における、PKBリン酸化に及ぼすμモーラーbpV(pic)の影響。
【図5a】PTEN阻害に依存する用量、インビボ。
【図5b】PTEN阻害に依存する用量、インビボ。
【図6】bpV(pic)あり及びなしでのLy294002による用量依存性PKB阻害。
【図7】PTEN阻害剤:bpVsの新しいクラスの性質決定された特徴の概要。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファターゼの阻害に使用するための薬剤の製造における、次式のバナジウム含有化合物又はその薬学的に許容される塩の使用:
【化1】

式中L-L’ は
【化2】

であり、及びL’ はCOO、CONR5、CONHR6、CH2NR5R6
であり、
或いは、式中L及びL’ は共に次の基
【化3】

又は次の基
【化4】

を形成し、
式中、L’’ はO、S又はNHであり;
R1、R2、R3、R4、R5 及びR6 は独立して、H、ヒドロキシル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC1-6アルキル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC3-6シクロアルキル、任意にC1-3アルキル、ヒドロキシ、NR7R8又はSO3で置換されたフェニル、(OCH2CH2)n (NHCH2CH2)n、アミノ酸又は2〜5のアミノ酸から成るペプチドであり;及び
R7 及びR8 は独立して、H 又はC1-6アルキルである。
【請求項2】
ホスファターゼの阻害に使用するための薬剤の製造における、次式のバナジウム含有化合物又はその薬学的に許容される塩の使用:
【化5】

式中L-L’ は
【化6】

又は
【化7】

であり、及びL’ はCOO、CONR5、CONHR6、CH2NR5R6であり、
或いは、式中L及びL’ は共に次の基
【化8】

又は次の基
【化9】

を形成し、
式中、L’’ はO、S 又はNHであり;
R1、R2、R3、R4、R5 及びR6 は独立して、H、ヒドロキシル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC1-6アルキル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC3-6シクロアルキル、任意にC1-3 アルキル、ヒドロキシ、NR7R8 又はSO3で置換されたフェニル、(OCH2CH2)n (NHCH2CH2)n、アミノ酸又は2〜5のアミノ酸から成るペプチドであり;及び
R7 及びR8 は独立してH 又はC1-6アルキルである。
【請求項3】
前記薬剤が、PTENのようなイノシトールホスファターゼの阻害に使用するための薬剤である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が、アポトーシスの阻害が必要である疾病の治療に使用するための薬剤である、請求項1〜3の何れか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記疾病又は状態が、アルツハイマー病のような神経変性疾患、創傷治癒、やけど、心臓肥大、低酸素症、虚血、糖尿病、スポーツ傷害であり、及び抗癌剤としてである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記化合物は、カリウムビスペロキソ(ビピリジン)オキソバナデート(bpV(bipy)、カリウムビスペロキソ(1,10-フェナントロリン)オキソバナデート(pV(フェナントロリン))、カリウムビスペロキソ(ピコンリネート(piconlinate))オキソバナデート(pV(pic))及びカリウムビスペロキソ(フェニルビグアニド)オキソバナデート(pV(biguan))である、請求項1〜5の何れか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記化合物は、pV(phenbig) [ジカリウムビスペロキソ(フェニルビグアニド)オキソバナデート]又はbpV(HOpic) [ジカリウムビスペロキソ(5-ヒドロキシピリジン-2-カルボキシル)オキソバナデート]である、請求項1〜5の何れか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤が、糖尿病の治療のための薬剤である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
次式のバナジウム含有化合物:
【化10】

式中、L-L’ は
【化11】

であり、及びL’ はCONR5 及びCONHR6であり;及び
式中R1 はC1-6アルキルである。
【請求項10】
次式のバナジウム含有化合物:
【化12】

式中、L-L’ は
【化13】

であり、及びL’ はCONR5 及びCONHR6であり;及び
式中R1 はC1-6アルキルである。
【請求項11】
次式のバナジウム含有化合物、またはその薬学的に許容される塩:
【化14】

式中L 及びL’ は共に、次の基を形成する:
【化15】

式中L’’ はO、S 又はNHであり;
R1、R2、R3 及びR4 は独立して、H、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC1-6アルキル、任意にヒドロキシ又はNR7R8で置換されたC3-6シクロアルキル、任意にC1-3 アルキル、ヒドロキシ、NR7R8 又はSO3で置換されたフェニル、(OCH2CH2)n (NHCH2CH2)n、アミノ酸又は2〜5のアミノ酸から成るペプチドであり;及び
R7 及びR8 は独立して、H 又はC1-6アルキルである。
【請求項12】
請求項9〜11の何れか1項に記載の化合物を、任意に薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又はキャリアの一以上と共に含有する薬学的製剤。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−515406(P2007−515406A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542013(P2006−542013)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/GB2004/005080
【国際公開番号】WO2005/054257
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(505167543)インペリアル・イノベ−ションズ・リミテッド (23)
【Fターム(参考)】