説明

ボイラ給水用補給水の供給方法

【目的】ボイラ給水を供給するための貯水タンクへ補給水を供給するに当り、補給水の軟水化および脱酸素処理の確実性を高める。
【構成】貯水タンク40へ補給水を供給する注水路51に設けた軟水化装置53において、ナトリウム型陽イオン交換樹脂が充填された樹脂ユニット群から一つの樹脂ユニットを選択し、選択した樹脂ユニットを用いて補給水から硬度分を除去する。また、硬度分が除去された補給水を脱酸素装置56に所定流量Xで通過させて補給水に含まれる溶存酸素を除去し、その補給水を貯水タンク40へ供給して貯留する。軟水化装置53と脱酸素装置56との間において、補給水の硬度分濃度および水温をそれぞれ硬度分センサ57および水温センサ58で測定し、測定した硬度分濃度が所定濃度を超えたときは樹脂ユニットを他の樹脂ユニットに切替え、また、測定した水温が所定温度未満のときは所定流量X未満で補給水を脱酸素装置56に通過させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ給水用補給水の供給方法、特に、補給水をボイラ給水として貯水タンクに貯留し、当該貯水タンクからボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を負荷装置において利用する蒸気ボイラ装置において、貯水タンクへ補給水を供給するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水や地下水などの原水に由来の補給水をボイラ給水として貯水タンクに貯留し、この貯水タンクからのボイラ給水を蒸気ボイラへ供給する蒸気ボイラ装置が知られている。この蒸気ボイラ装置において用いられる蒸気ボイラは、例えば貫流ボイラの場合、ボイラ給水によるボイラ水を加熱して蒸気を生成するための多数の伝熱管を備えている。この伝熱管は、炭素鋼などの非不動態化金属を用いて形成されているため、ボイラ給水に含まれる溶存酸素の影響により腐食が生じやすい。溶存酸素の影響による腐食は、通常、伝熱管の厚さ方向に進行する孔状の腐食(孔食)であり、進行速度が速く、伝熱管に対して孔開きのような致命的な破壊を短時間でもたらすことが多い。また、伝熱管は、ボイラ給水に含まれる硬度分、すなわち、カルシウムイオンやマグネシウムイオンにより生成するスケールが付着しやすい。このスケールは、伝熱管の熱伝導性を低下させ、ボイラ水の円滑な加熱を阻害することになる。
【0003】
そこで、蒸気ボイラ装置では、蒸気ボイラ内での腐食やスケール生成を抑制し、蒸気ボイラ装置の継続的で安定な運転を図るために、通常、貯水タンクへ供給する補給水を軟水化するとともに脱酸素処理している(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。ここで、補給水の軟水化は、ナトリウム型陽イオン交換樹脂を用いた補給水の処理により、補給水中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンをナトリウムイオンで置換することで実施されている。一方、脱酸素処理は、例えば、補給水を気体分離膜に通過させることで実施されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−120904公報、段落[0005]
【特許文献2】特開2004−19970公報、段落[0009]
【0005】
しかし、補給水として用いられる原水は、上述のように水道水や地下水などであるため、地質的要因により水質が多様である。例えば、原水の硬度分濃度は、地域によって高いところもあれば低いところもあり、また、季節的要因やその他の要因のために、同じ地域においても変動しやすい。このため、軟水化のために用いられるナトリウム型陽イオン交換樹脂は、補給水の硬度分濃度が高い地域等において破過しやすく、比較的短時間で補給水中の硬度分の一部を除去できなくなる可能性がある。また、原水の溶存酸素濃度は、温度の影響を受けるため、原水の温度が変動しやすい環境では常時変動しやすい。一般に、補給水は、水温が低下した場合に溶存酸素濃度が高まる傾向にあるため、気体分離膜は、補給水の温度が低下したときに高負荷状態になり、補給水中の溶存酸素が透過しやすくなる。
【0006】
本発明の目的は、蒸気ボイラ装置へボイラ給水を供給するための貯水タンクへ補給水を供給するに当り、補給水の軟水化および脱酸素処理の確実性を高めることにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、補給水をボイラ給水として貯水タンクに貯留し、当該貯水タンクからボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を負荷装置において利用する蒸気ボイラ装置において、貯水タンクへ補給水を供給するための方法に関するものである。この供給方法は、ナトリウム型陽イオン交換樹脂を有する少なくとも二つの樹脂ユニットを含む樹脂ユニット群から一つの樹脂ユニットを選択し、選択した樹脂ユニットのナトリウム型イオン交換樹脂でのイオン交換により補給水から硬度分を除去する工程Aと、硬度分が除去された補給水を脱酸素装置に所定流量で通過させ、補給水に含まれる溶存酸素を除去する工程Bと、脱酸素装置を通過した補給水を貯水タンクへ供給する工程Cと、工程Aと工程Bとの間において、補給水の硬度分濃度および水温を測定する工程Dとを含んでいる。ここで、工程Dにおいて測定した硬度分濃度が所定濃度を超えたときは樹脂ユニット群において他の樹脂ユニットを選択して工程Aを実行し、かつ、工程Dにおいて測定した水温が所定温度未満のときは工程Bにおいて所定流量未満で補給水を脱酸素装置に通過させる。
【0008】
このようなボイラ給水用補給水の供給方法において、補給水は、工程Aにおいて硬度分が除去され、続いて工程Bにおいて溶存酸素が除去された後、工程Cにおいて貯水タンクへ供給されて貯留される。この一連の過程において、補給水は、工程Dにおいて、工程Aと工程Bとの間で硬度分濃度と水温とが測定される。
【0009】
ここで、測定した硬度分濃度が所定濃度を超えたとき、すなわち、ナトリウム型陽イオン交換樹脂の破過等の原因のために樹脂ユニットからの補給水において硬度漏れがあったときは、樹脂ユニット群において樹脂ユニットを他のものに切替えて工程Aを実行する。この結果、以後の補給水は、工程Aにおいて他の樹脂ユニットのナトリウム型陽イオン交換樹脂により硬度分が除去されることになり、硬度分がより確実に除去される。一方、測定した補給水の水温が所定温度未満のとき、すなわち、補給水中の溶存酸素濃度が高まったときは、工程Bにおいて補給水の流量を所定流量未満にする。この結果、補給水は、脱酸素装置での滞留時間が長くなり、溶存酸素がより確実に除去される。
【0010】
この供給方法では、例えば、工程A、B、CおよびDを実行しながら、樹脂ユニット群において、工程Aのために選択した樹脂ユニット以外の樹脂ユニットのナトリウム型陽イオン交換樹脂を再生する。このようにすると、工程Aのために使用している樹脂ユニット以外の樹脂ユニットにおいて、ナトリウム型イオン交換樹脂のイオン交換能を高めた状態に設定することができるため、工程Dで測定した硬度分濃度が所定濃度を超えたときは、工程Aにおいて樹脂ユニットを他のものに円滑に切替えることができる。
【0011】
また、この供給方法において用いられる脱酸素装置は、通常、補給水の流量を低下させた場合において補給水の滞留時間が長くなる形式のもの、例えば、気体分離膜に補給水を通過させる形式のもの、減圧環境下で補給水を通過させる形式のもの、および、加熱環境下で補給水を通過させる形式のものからなる群から選ばれた一の形式のものである。
【0012】
この供給方法を適用可能な蒸気ボイラ装置は、蒸気が凝縮して得られる復水を貯水タンクへ回収するための、負荷装置から延びる復水経路を有していてもよい。この場合、本発明の供給方法により、蒸気ボイラに対して溶存酸素量が少ないボイラ給水を供給することができるため、復水経路の腐食も併せて効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るボイラ給水用補給水の供給方法は、上述の工程を含むため、蒸気ボイラ装置において貯水タンクへ補給水を供給するに当り、補給水の軟水化および脱酸素処理の確実性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1を参照して、本発明の実施の一形態に係るボイラ給水用補給水の供給方法を実施可能な蒸気ボイラ装置を説明する。図1において、蒸気ボイラ装置1は、熱交換器、蒸気釜、リボイラ若しくはオートクレーブ等の蒸気使用設備である負荷装置2に対して蒸気を供給するためのものであり、給水装置10、蒸気ボイラ20および復水経路30を主に備えている。
【0015】
給水装置10は、蒸気ボイラ20へボイラ給水を供給するためのものであり、ボイラ給水を貯留するための貯水タンク40と、ボイラ給水として用いる補給水を貯水タンク40へ供給するための補給経路50とを主に備えている。貯水タンク40は、その底部から蒸気ボイラ20へ延びる給水経路41を有している。給水経路41は、蒸気ボイラ20に連絡しており、貯水タンク40内に貯留されたボイラ給水を蒸気ボイラ20へ送り出すための給水ポンプ42を有している。
【0016】
補給経路50は、注水路51を有している。この注水路51は、水道水、工業用水若しくは地下水等の水源から供給される原水が貯留されている原水タンク(図示せず)から貯水タンク40へ補給水を供給するためのものであり、貯水タンク40へ向けて前処理装置52、軟水化装置53、予備ろ過装置54、ろ過処理装置55および脱酸素装置56をこの順に有している。また、注水路51において、ろ過処理装置55と脱酸素装置56との間には、硬度分センサ57および水温センサ58が配置されており、これらのセンサ57,58の脱酸素装置56側において流量調節弁59を有している。さらに、注水路51は、軟水化装置53および流量調節弁59を制御するための制御装置60を有している。
【0017】
前処理装置52は、原水タンクからの補給水中に溶存している次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を吸着可能な活性炭が充填されたろ過装置であり、原水から次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を除去するためのものである。
【0018】
軟水化装置53は、図2に示すように、第一樹脂ユニット61aおよび第二樹脂ユニット61bの二つの樹脂ユニットからなる樹脂ユニット群61を備えている。この軟水化装置53において、注水路51は、切替弁62により第一経路51aと第二経路51bとの二つの経路に分岐しており、第一経路51aが第一樹脂ユニット61aに連絡し、第二経路51bが第二樹脂ユニット61bに連絡している。そして、第一経路51aと第二経路51bとは、各樹脂ユニット61a,61bの下流側で合流して一体化しており、予備ろ過装置54へ延びている。
【0019】
ここで、各樹脂ユニット61a,61bには、ナトリウム型陽イオン交換樹脂が充填されている。ナトリウム型陽イオン交換樹脂は、前処理装置52において処理された補給水に含まれる硬度分、すなわち、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンをナトリウムイオンに置換し、補給水を軟化水へ変換するためのものである。また、切替弁62は、電磁弁であり、注水路51を第一経路51a若しくは第二経路51bのいずれかに選択するためのものである。
【0020】
この軟水化装置53において、第一樹脂ユニット61aおよび第二樹脂ユニット61bは着脱可能であり、ナトリウム型陽イオン交換樹脂を交換することができる。
【0021】
予備ろ過装置54は、軟水化装置53で軟水化された補給水中に混入している懸濁物質やゴミ等の固形物を除去するためのものであり、固形物をろ過して分離するためのワインドフイルタ、プリーツフイルタ若しくはメッシュフイルタ等のろ過材(図示せず)を備えている。
【0022】
ろ過処理装置55は、予備ろ過装置54において処理された補給水に含まれる各種の溶解成分、すなわち、各種のイオンや低分子量物質を除去するためのものであり、溶解成分をろ過して分離するためのろ過膜(図示せず)を備えている。ここで用いられるろ過膜は、ナノろ過膜である。ナノろ過膜は、一般にNF(Nanofiltration)膜と呼称されている、ポリアミド系やポリエーテル系等の合成高分子を用いて形成されたものであり、AMST(Association of Membrance Separation Technology)規格のAMST−002において、「操作圧力1.5MPaで使用され、除去率90%以上を示す分離対象物質の分子量範囲が200〜1,000を示し、試験液の塩化ナトリウム濃度が500〜2,000mg/リットルで、操作圧力が0.3〜1.5MPaの評価条件の下で塩化ナトリウム除去率が5%以上、93%未満の膜」と定義されているものである。因みに、ナノろ過膜は、各社から市販されており、容易に入手することができる。
【0023】
ろ過処理装置55において、ナノろ過膜は、各種の形状で用いられる。すなわち、ナノろ過膜は、平膜型、中空糸膜型、管状型およびノモリス型などの各種の形状で用いられる。
【0024】
脱酸素装置56は、ろ過処理装置55において処理された補給水中の溶存酸素を除去するためのものであり、通過する補給水の滞留時間が長いほど脱酸素能力が高まる形式のもの、例えば、補給水を気体分離膜に通過させて溶存酸素を除去する形式のもの(例えば、中空糸状の気体分離膜の外部を減圧しながら内部に補給水を通過させて溶存酸素を除去する形式のもの)、補給水を減圧環境下で通過させて溶存酸素を除去する形式のもの、若しくは、補給水を加熱しながら通過させて溶存酸素を除去する形式のものなどの公知の各種の形式のものが用いられる。
【0025】
硬度分センサ57は、ろ過処理装置55からの補給水に含まれる硬度分濃度を測定するためのものであり、例えば、比色式、電極式若しくは滴定式などのセンサである。一方、水温センサ58は、ろ過処理装置55からの補給水の水温を測定するためのものであり、例えば、サーミスタ、熱電対若しくは測温抵抗体などのセンサである。
【0026】
流量調節弁59は、電磁弁であり、ろ過処理装置55から脱酸素装置56へ流れる補給水の流量を任意に調節可能なものである。
【0027】
制御装置60は、硬度分センサ57および水温センサ58によりそれぞれ測定された硬度分情報および水温情報に基づき、切替弁62および流量調節弁59を制御するためのものである。
【0028】
蒸気ボイラ20は、貫流ボイラであり、図3に示すように、給水経路41から供給されるボイラ給水を貯留可能な環状の貯留部21、貯留部21から起立する多数の伝熱管22(図3では二本のみ示している)、伝熱管22の上端部に設けられた環状のヘッダ23、ヘッダ23から負荷装置2へ延びる蒸気供給路24およびバーナーなどの燃焼装置25を主に備えている。燃焼装置25は、ヘッダ23側から貯留部21方向へ燃焼ガスを放射し、伝熱管22を加熱可能である。
【0029】
伝熱管22は、非不動態化金属を用いて形成されている。非不動態化金属は、中性水溶液中において自然には不動態化しない金属をいい、通常はステンレス鋼、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケルおよびジルコニウム等を除く金属である。具体的には、炭素鋼、鋳鉄、銅および銅合金等である。なお、炭素鋼は、中性水溶液中においても、高濃度のクロム酸イオンの存在下では不動態化する場合があるが、この不動態化はクロム酸イオンの影響によるものであって中性水溶液中での自然な不動態化とは言い難い。したがって、炭素鋼は、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。また、銅および銅合金は、電気化学列(emf series)が貴な位置にあるため、通常は水分の影響による腐食が生じ難い金属と考えられているが、中性水溶液中において自然に不動態化するものではないので、非不動態化金属の範疇に属する。
【0030】
復水経路30は、伝熱管22と同じく非不動態化金属を用いて形成されており、負荷装置2から貯水タンク40へ延びている。また、復水経路30は、スチームトラップ31を有している。スチームトラップ31は、蒸気と水とを分離するためのものである。復水経路30の先端部は、通常、貯水タンク40内に貯留されたボイラ給水に対して空気を巻き込まないようにするため、ボイラ給水内に配置されているのが好ましく、貯水タンク40の底部近傍に配置されているのが特に好ましい。
【0031】
次に、ボイラ給水用補給水の供給方法に触れながら、上述の蒸気ボイラ装置1の運転方法を説明する。ここでは、制御装置60は、初期状態において、切替弁62を第一経路51a側に切替えており、また、注水路51においてろ過処理装置55から脱酸素装置56へ流れる補給水の流量が所定流量Xになるよう流量調節弁59を設定しているものとする。
【0032】
蒸気ボイラ装置1の運転時には、原水タンクから注水路51を通じて貯水タンク40へ補給水を供給し、この補給水をボイラ給水として貯水タンク40に貯留する。
【0033】
この際、原水タンクからの補給水は、先ず、注水路51を通じて前処理装置52へ供給され、そこで上述の酸化剤が活性炭により吸着除去される。続いて、前処理装置52からの補給水は、軟水化装置53へ流れる。軟水化装置53へ流れた補給水は、切替弁62を経由して第一経路51aへ流れ、第一樹脂ユニット61aを通過する。これにより、補給水に含まれる硬度分は、ナトリウム型陽イオン交換樹脂によりナトリウムイオンとイオン交換され、硬度分が除去された軟化水になる。
【0034】
因みに、軟水化装置53において用いられるナトリウム型陽イオン交換樹脂は、酸化剤の影響により劣化してイオン交換能が低下しやすいが、この実施の形態において軟水化装置53へ供給される補給水は、前処理装置52において酸化剤が除去されているため、ナトリウム型陽イオン交換樹脂を劣化させにくい。したがって、軟水化装置53は、長期間に渡って安定的に補給水を軟水化することができる。
【0035】
軟水化装置53において軟化水となった補給水は、次に、予備ろ過装置54でのろ過処理により懸濁物質やゴミ等の固形物が除去された後、ろ過処理装置55においてさらにろ過処理される。ろ過処理装置55において、予備ろ過装置54からの補給水は、ナノろ過膜によりろ過される。これにより、補給水に含まれる、伝熱管22等の蒸気ボイラ20の腐食原因となる成分および復水経路30の腐食原因となる成分の一部が除去される。ここで、蒸気ボイラ20の腐食原因となる成分は、主に、塩化物イオン(Cl)および硫酸イオン(SO2−)である。また、復水経路30の腐食原因となる成分は、補給水中の塩類が軟水化装置53での軟水化によりナトリウム塩となったもの、例えば、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ成分である。これらのアルカリ成分は、蒸気ボイラ20での加熱により分解し、炭酸ガスを生成するため、復水経路30に対する腐食原因となり得る。なお、以下の説明において、蒸気ボイラ20の腐食原因となる成分および復水経路30の腐食原因となる成分を総称し、「腐食促進成分」と云う場合がある。
【0036】
一方、軟水化装置53からの補給水に含まれる、原水に由来のシリカは、大半(通常は40%以上)がナノろ過膜を通過する。
【0037】
因みに、予備ろ過装置54からの補給水は前処理装置52において酸化剤が除去されており、しかも、予備ろ過装置54において固形物が除去されているため、ろ過処理装置55のナノろ過膜は、酸化による劣化が生じにくく、目詰まりを起こしにくい。したがって、ろ過処理装置55は、長期間に渡って安定的に補給水から上述のような腐食促進成分を除去することができる。
【0038】
ろ過処理装置55においてろ過処理された補給水は、次に、脱酸素装置56において脱酸素処理される。これにより、補給水は、蒸気ボイラ20の伝熱管22等の腐食(特に孔食)および復水経路30の腐食を促進する溶存酸素が除去される。
【0039】
以上の結果、貯水タンク40には、脱酸素装置56において処理された補給水、すなわち、脱酸素処理されかつ腐食促進成分が除去された軟化水がボイラ給水として貯留されることになる。このボイラ給水は、ろ過処理装置55のナノろ過膜を透過したシリカを含む。
【0040】
貯水タンク40に補給水が貯留された状態で給水ポンプ42を作動させると、貯水タンク40に貯留された補給水、すなわちボイラ給水は、給水経路41を通じて蒸気ボイラ20へ供給される。蒸気ボイラ20へ供給されたボイラ給水は、貯留部21においてボイラ水として貯留される。このボイラ水は、各伝熱管22を通じて燃焼装置25により加熱されながら各伝熱管22内を上昇し、徐々に蒸気になる。そして、各伝熱管22内において生成した蒸気は、ヘッダ23において集められ、蒸気供給路24を通じて負荷装置2へ供給される。
【0041】
負荷装置2へ供給された蒸気は、負荷装置2を通過して復水経路30へ流れ、そこで潜熱を失って一部が凝縮水に変わり、スチームトラップ31において蒸気と水とが分離されて高温の復水になる。このようにして生成した復水は、復水経路30を通じて貯水タンク40へ回収され、貯水タンク40に貯留された補給水と混合されてボイラ給水として再利用される。この際、貯水タンク40に貯留されたボイラ給水は、高温の復水により加熱されるので、蒸気ボイラ20での加熱負担が軽減される。したがって、蒸気ボイラ装置1は、蒸気ボイラ20を稼動するための燃料コストを抑制することができ、経済的に運転することができる。
【0042】
上述のような蒸気ボイラ装置1の運転中において、蒸気ボイラ20内でボイラ水として貯留されるボイラ給水は、伝熱管22の内面等に接触する。一般に、非不動態化金属からなる伝熱管22等は、ボイラ水の影響を受けて腐食が進行しやすいが、この実施の形態では、ボイラ給水において塩化物イオンや硫酸イオン等のイオン成分および溶存酸素が除去されているため、蒸気ボイラ20は、伝熱管22等の腐食が起こりにくい。また、ボイラ給水に含まれるシリカは、蒸気ボイラ20の貯留部21や伝熱管22の内部表面に皮膜を形成するため、蒸気ボイラ20に対する腐食抑制作用を高めることができる。さらに、ボイラ水は、既述のようなアルカリ成分が除去されているため、加熱時に炭酸ガスを発生させにくい。このため、この蒸気ボイラ装置1では、炭酸ガスの影響による復水経路30の腐食も併せて抑制される。すなわち、この実施の形態の蒸気ボイラ装置1は、ボイラ給水中の腐食抑制成分および溶存酸素を除去することができるため、ボイラ給水への薬剤添加に依らずに蒸気ボイラ20および復水経路30の両方の腐食を抑制することができる。
【0043】
また、この蒸気ボイラ装置1において、蒸気ボイラ20へ供給されるボイラ給水は、硬度分が除去された軟化水であるため、伝熱管22は、スケールの付着も併せて抑制される。
【0044】
蒸気ボイラ装置1の運転中において、硬度分センサ57および水温センサ58は、常時、ろ過処理装置55から脱酸素装置56へ流れる補給水の硬度分濃度および水温をそれぞれ計測する。補給水の硬度分濃度を硬度分センサ57で計測するのは、軟水化装置53での補給水の処理状況、すなわち軟水化状況を確認することを目的としている。一方、補給水の水温を水温センサ58で計測するのは、補給水に含まれる溶存酸素量の大小を予測することを目的としている。補給水は、水温が低いほど溶存酸素の溶解度が高く、溶存酸素量が多くなるため、水温によって溶存酸素量の大小傾向を予測することができる。
【0045】
硬度分センサ57により計測された補給水の硬度分濃度が予め設定した所定濃度Yを超えたとき、軟水化装置53の第一樹脂ユニット61aにおいてナトリウム型陽イオン交換樹脂の破過(イオン交換能の低下)などの異常が発生しているものと判断することができるため、制御装置60は、切替弁62を作動させ、注水路51を第一経路51aから第二経路51bへ切替える。これにより、前処理装置52からの補給水は、第二経路51bへ流れて第二樹脂ユニット61bへ供給され、そのナトリウム型陽イオン交換樹脂によりイオン交換処理される。
【0046】
注水路51が第二経路51bへ切替えられている間、軟水化装置32から第一樹脂ユニット61aを取り外し、ナトリウム型陽イオン交換樹脂を新たなものに交換する。このようにしておくと、第二樹脂ユニット61bの使用時において硬度分センサ57により測定される補給水の硬度分濃度が予め設定した所定濃度Yを超えたとき、制御装置60により注水路51を第二経路51bから第一経路51aへ切替えることで、ナトリウム型イオン交換樹脂が交換された第一樹脂ユニット61aにより補給水をイオン交換処理することができる。このように、樹脂ユニット群61において選択された樹脂ユニット(すなわち、使用中の樹脂ユニット)以外の樹脂ユニットに充填されたナトリウム型陽イオン交換樹脂を不使用中に交換しておくと、補給水の硬度分濃度が予め設定した所定濃度Yを超えたときに、切替弁62の切替えにより樹脂ユニットを他方のものに速やかに変更することができる。したがって、補給水は、軟水化装置32において、より確実に軟水化される。この結果、貯水タンク40には硬度分の少ない補給水がボイラ給水として貯留されることになるので、蒸気ボイラ装置20は、スケールの生成が効果的に抑制される。
【0047】
一方、水温センサ58により測定された補給水の水温が所定水温Z未満になったとき、補給水は溶存酸素量が高まり脱酸素装置56での脱酸素処理不足が予想されることになる。そこで、制御装置60は、流量調節弁59を制御し、ろ過処理装置55から脱酸素装置56へ流れる補給水の流量を所定流量X未満に低下させる。この結果、脱酸素装置56は、補給水の流通速度が低下し、補給水の滞留時間が長くなるため、補給水中の溶存酸素の除去能力が高まる。したがって、貯水タンク40は、補給水の水温が低下しても、溶存酸素量が少ない補給水が供給されることになる。
【0048】
また、水温センサ58により測定された補給水の水温が所定水温Z以上に復帰したとき、制御装置60は、流量調節弁59を制御し、ろ過処理装置55から脱酸素装置56へ流れる補給水の流量を所定流量Xに復帰させる。
【0049】
以上の結果、貯水タンク40は、溶存酸素がより確実に除去された補給水がボイラ給水として貯留されることになるので、蒸気ボイラ装置1は、蒸気ボイラ20の腐食(特に孔食)の進行がより効果的に抑制され、また、復水経路30の腐食も併せてより効果的に抑制される。
【0050】
変形例
(1)上述の実施の形態では、軟水化装置53において、不使用中の樹脂ユニットのナトリウム型陽イオン交換樹脂を交換するようにしているが、樹脂ユニットのナトリウム型陽イオン交換樹脂は、不使用中において、軟水化装置53に装着したままの状態で再生するようにすることもできる。
【0051】
この場合は、軟水化装置53に塩化ナトリウム水溶液の調製装置を設け、この調製装置から不使用中の樹脂ユニット内へ塩化ナトリウム水溶液を供給する。これにより、ナトリウム型陽イオン交換樹脂に付着した硬度分がナトリウムイオンと再度交換され、ナトリウム型陽イオン交換樹脂は硬度分とのイオン交換能が高まる。
【0052】
(2)上述の実施の形態では、軟水化装置53において二つの樹脂ユニット61a,61bを有する樹脂ユニット群61を用いているが、樹脂ユニット群61は、三つ以上の樹脂ユニットを有していてもよい。
【0053】
(3)上述の実施の形態では、ろ過処理装置55と脱酸素装置56との間に硬度分センサ57および水温センサ58を配置し、補給水の硬度分濃度および水温を測定しているが、補給水の硬度分および水温は、軟水化装置53と予備ろ過装置54との間若しくは予備ろ過装置54とろ過処理装置55との間において測定することもできる。但し、脱酸素装置56での脱酸素能力を高めるために、補給水の水温は、上述の実施の形態のように、脱酸素装置56の直前で測定するのが好ましい。
【0054】
(4)上述の実施の形態では、ろ過処理装置55においてナノろ過膜を用いたが、このナノろ過膜は逆浸透膜に変更することもできる。逆浸透膜は、一般にRO(Reverse Osmosis)膜と呼称されている、ポリアミド等の合成高分子を用いて形成されたものであり、AMST(Association of Membrance Separation Technology)規格のAMST−002において、「塩化ナトリウム濃度が500〜2,000mg/リットルで操作圧力が0.5〜3.0MPaの評価条件の下での塩化ナトリウムの除去率が93%以上の膜」と定義されており、ナノろ過膜とは区別されている。因みに、逆浸透膜は、各社から市販されており、容易に入手することができる。
【0055】
逆浸透膜は、ナノろ過膜と同様に各種の形状で用いられる。すなわち、逆浸透膜は、平膜型、中空糸膜型、管状型およびノモリス型などの各種の形状で用いられる。
【0056】
ろ過処理装置55において用いられる逆浸透膜は、ナノろ過膜と同じく、補給水に含まれる腐食促進成分を除去することができるため、蒸気ボイラ装置1において、蒸気ボイラ20の伝熱管22や復水経路30の腐食を効果的に抑制することができる。特に、逆浸透膜は、補給水中に含まれる、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなど、すなわち、炭酸ガスの発生原因となるアルカリ成分の除去能がナノろ過膜よりも優れているため、蒸気ボイラ20において炭酸ガスが発生するのをより効果的に防止することができ、復水経路30の腐食をより効果的に抑制することができる。
【0057】
(5)ろ過処理装置55は、図4に示すように、ナノろ過膜55aと逆浸透膜55bの両方を備えていてもよい。この場合、ろ過処理装置55は、補給水をナノろ過膜55aでろ過処理した後に逆浸透膜55bでろ過処理するよう設定するのが好ましい。このようなろ過処理装置55は、補給水中の腐食促進成分をナノろ過膜55aおよび逆浸透膜55bの両方で除去することになり、腐食促進成分の除去能力が高まるため、蒸気ボイラ装置1において、蒸気ボイラ20の伝熱管22や復水経路30の腐食をさらに効果的に抑制することができる。
【0058】
(6)上述の各実施の形態では、腐食促進成分による腐食を抑制するためにろ過処理装置55を用いているが、腐食促進成分を原因とする腐食抑制のために、公知の各種の薬剤を補給水、ボイラ給水若しくはボイラ水に対して添加することもできる。
【0059】
(7)上述の各実施の形態は、蒸気ボイラ20として貫流ボイラを用いた場合を例としているが、蒸気ボイラ20として他の形態のものを用いた場合も本発明を同様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の一形態に係る補給水の供給方法を実施可能な蒸気ボイラ装置の概略図。
【図2】前記蒸気ボイラ装置において用いられる軟水化装置の概略図。
【図3】前記蒸気ボイラ装置において用いられる蒸気ボイラの一部断面概略図。
【図4】前記蒸気ボイラ装置において用いられる他の形態のろ過処理装置の概略図。
【符号の説明】
【0061】
1 蒸気ボイラ装置
2 負荷装置
20 蒸気ボイラ
30 復水経路
40 貯水タンク
50 補給経路
53 軟水化装置
56 脱酸素装置
57 硬度分センサ
58 水温センサ
59 流量調節弁
61 樹脂ユニット群
61a 第一樹脂ユニット
61b 第二樹脂ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補給水をボイラ給水として貯水タンクに貯留し、前記貯水タンクから前記ボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を負荷装置において利用する蒸気ボイラ装置において、前記貯水タンクへ前記補給水を供給するための方法であって、
ナトリウム型陽イオン交換樹脂を有する少なくとも二つの樹脂ユニットを含む樹脂ユニット群から一つの樹脂ユニットを選択し、選択した前記樹脂ユニットの前記ナトリウム型イオン交換樹脂でのイオン交換により前記補給水から硬度分を除去する工程Aと、
前記硬度分が除去された前記補給水を脱酸素装置に所定流量で通過させ、前記補給水に含まれる溶存酸素を除去する工程Bと、
前記脱酸素装置を通過した前記補給水を前記貯水タンクへ供給する工程Cと、
工程Aと工程Bとの間において、前記補給水の硬度分濃度と水温とを測定する工程Dとを含み、
工程Dにおいて測定した前記硬度分濃度が所定濃度を超えたときは前記樹脂ユニット群において他の樹脂ユニットを選択して工程Aを実行し、かつ、工程Dにおいて測定した前記水温が所定温度未満のときは工程Bにおいて前記所定流量未満で前記補給水を前記脱酸素装置に通過させる、
ボイラ給水用補給水の供給方法。
【請求項2】
工程A、B、CおよびDを実行しながら、前記樹脂ユニット群において、工程Aのために選択した樹脂ユニット以外の樹脂ユニットの前記ナトリウム型陽イオン交換樹脂を再生する、請求項1に記載のボイラ給水用補給水の供給方法。
【請求項3】
前記脱酸素装置は、気体分離膜に前記補給水を通過させる形式のもの、減圧環境下で前記補給水を通過させる形式のもの、および、加熱環境下で前記補給水を通過させる形式のものからなる群から選ばれた一の形式のものである、請求項1または2に記載のボイラ給水用補給水の供給方法。
【請求項4】
前記蒸気ボイラ装置は、前記蒸気が凝縮して得られる復水を前記貯水タンクへ回収するための、前記負荷装置から延びる復水経路を有している、請求項1から3のいずれかに記載のボイラ給水用補給水の供給方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−157577(P2008−157577A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348907(P2006−348907)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】