説明

ボリュームデータ間の対応付け方法

【課題】処理時間を短縮し、かつ精度よくボリュームデータ間の位置合わせを行う。
【解決手段】参照ボリュームデータ(D1)から探索ウィンドウ(3次元ブロック)を複数抽出する。抽出した複数の探索ウィンドウに設定される基準点に対応する入力ボリュームデータ(D2)の探索ウィンドウ内の対応点を、各探索ウィンドウより抽出したボクセルデータの相関(3次元POC)から探索する。探索した対応点と基準点との対応関係から参照ボリュームデータと入力ボリュームデータとの間の剛体変形パラメータ(回転ずれ、位置ずれを示すパラメータ)を推定し、入力ボリュームデータを剛体変形(回転ずれ、位置ずれを補正)する。剛体変形処理後の入力ボリュームデータと参照ボリュームデータについて、同様にして対応点を探索し、探索した対応点の情報を用いてFFD(Free-Form Deformation)により、入力ボリュームデータをさらに非剛体変形させる。参照ボリュームデータを剛体・非剛体変形させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同一対象物を撮像した2つの3次元の立体画像のデータ(ボリュームデータ)間の対応付けを行うボリュームデータ間の対応付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボリュームデータとは、3次元の小立方体(ボクセル)を単位として、各ボクセルにその部分の透過率などのデータを持たせ、物体の内部構造まで表現したデータのことであり、医療や流体解析、コンピュータグラフィックスなど広範な分野において頻繁に用いられるデータ形式である。
【0003】
例えば医療分野においては、X線CT (Computed Tomography) やMRI (Magnetic Resonance Imaging) から得られるデータが挙げられる。これらの医用画像撮影装置は、人体内部のスライス像を連続的に取得することが可能であり、取得した2次元画像群を積層することで3次元ボリュームデータとして人体内部を可視化することができる。その有用性はすでに広く知られており、日常臨床でも一般的に用いられている。
【0004】
ボリュームデータを扱う上では、複数のボリュームデータの比較や合成が要求される場面が頻繁に現れる。特に医療分野においては、異なる時間に撮影した病変部位を観察することで、病状の進行や解剖学的な変化について手掛かりを得ることができる。また、異なる装置を用いて撮影したボリュームデータをフュージョン(重ね合わせ)することで、それぞれの装置が苦手とする情報を補完した観察が可能となる。他にも、例えば多列検出器型CTを用いて心臓などのボリュームデータを高速かつ連続的に取得し、時間方向にデータを比較することで心臓の動きを可視化することも可能である。
【0005】
ここで、撮影のタイミングが異なるボリュームデータ間には一般に未知の位置ずれやひずみが存在するため、正確に比較や合成を行うためにはまず2つのボリュームデータ間のずれやひずみを表すパラメータを知る必要がある。これは、2つのボリュームデータの位置合わせ(レジストレーション)問題として、これまでにランドマークベース(例えば、非特許文献1参照)や幾何学的形状ベース(例えば、非特許文献2参照)、ボクセル類似度ベース(例えば、非特許文献3,4,5,6,7,特許文献1参照)の手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−54636号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C. R. Maurer Jr., J. M. Fitzpatrick, M. Y. Wang,R. L. Galloeay Jr., R. J. Maciunas, and G. S.Allen. Registration of head volume images usingimplantable fiducial markers. IEEE Trans. MedicalImaging, Vol. 16, No. 4, pp. 447--462, Aug 1997.
【非特許文献2】P. J. Besl and N. D. McKay. A method for registrationof 3-D shapes. IEEE Trans. Pattern Analysisand Machine Intelligence, Vol. 14, No. 2, pp. 239--256,Feb 1992.
【非特許文献3】A. Roche, X. Pennec, G. Malandain, and N. Ayache.Rigid registration of 3-D ultrasound with MR images:A new apploach combining intensity and gradient information.IEEE Trans. Medical Imaging, Vol. 20,No. 10, pp. 1038--1049, Oct 2001.
【非特許文献4】F. Maes, A. Collignon, D. Vandermeulen, G. Marchal,and P. Suetens. Multimodality image registrationby maximization of mutual information. IEEETrans. Medical Imaging, Vol. 16, No. 2, pp. 187--198,Apr 1997.
【非特許文献5】C. Studholme, D. L. G. Hill, and D. J. Hawkes. Aninvariant entropy measure of 3D medical image alignment.Pattern Recognition, Vol. 32, No. 1, pp. 71--86,Apr 1998.
【非特許文献6】D. L. G. Hill, P. G. Batchelor, M. Holden, andD. J. Hawks. Medical image registration. Physicsin Medicine and Biology, Vol. 46, pp. R1--R45, 2001.
【非特許文献7】D. Rueckert, L. I. Sonoda, C. Hayes, D. L. G. Hill,M. O. Leach, and D. J. Hawkes. Nonrigid registrationusing free-form deformation: Application to breastMR images. IEEE Trans. Medical Imaging, Vol. 18,No. 8, pp. 712--721, Aug 1999.
【非特許文献8】K. Takita, T.Aoki, Y. Sasaki, T. Higuchi, andK. Kobayashi. High-accuracy subpixel image registrationbased on phase-only correlation. IEICETrans. Fundamentals, Vol. E86-A, No. 8, pp. 1925--1934, Aug 2003.
【非特許文献9】K. Takita, M. A. Muquit, T. Aoki, and T. Higuchi.A sub-pixel correspondence search technique for computervision applications. IEICE Trans. Fundamentals,Vol. E28-A, No. 8, pp. 1913--1923, 2004.
【非特許文献10】S. Nagashima, T. Aoki, T. Higuchi, andK. Kobayashi. A subpixel image matching techniqueusing phase-only correlation. Proc. IEEE2006 Int. Symp. Intelligent Signal Processing andCommunication Systems, pp. 701--704, Dec 2006.
【非特許文献11】K. S. Arun, T. S. Haung, and S. D. Blostein.Least-squares fitting of two 3-D point sets. IEEETrans. Pattern Analysis and Machine Intelligence,Vol. PAMI-9, No. 5, pp. 698--700, Sep 1987.
【非特許文献12】S. Lee, G. Wolberg, and S. Y. Shin. Scattered datainterpolation with multilevel B-splines. IEEE Trans.Visualization and Computer Graphics, Vol. 3, No. 3,pp. 228--244, Jul 1997.
【非特許文献13】D. R. Forsey and R. H. Bartels. Hierarchical B-splinerefinement. ACM Trans. Computer Graphics, Vol. 22,No. 4, pp. 205--212, Aug 1988.
【非特許文献14】M. A. Fischler and R. C. Bolles. Random sampleconsensus: A paradigm for model fitting with applicationsto image analysis and automated cartgraphy.Comm. of the ACM, Vol. 24, No. 6, pp. 381--395, Jun1981.
【非特許文献15】J. A. Nelder and R. Mead. A simplex method forfunction minimization. Computer Journal, Vol. 7,No. 4, pp. 308--313, 1965.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ランドマークベースの手法では、埋め込み型マーカなどの位置情報を用いてレジストレーションを行うため、撮影時に侵襲的なマーカが必要であるという問題がある。
【0009】
幾何学的形状ベースの手法としては、ICP(Iterative Closest Point)アルゴリズムが知られている。これは、3次元形状モデル(ポリゴンデータなど)の位置合わせに広く用いられている手法であり、モデル間の対応付けと運動推定を繰り返すことで位置合わせを行う。そのため、まずボリュームから形状モデルを生成する必要があるが、2つのデータ間でモダリティ(様相)が異なるような場合は同一の形状モデルを得ることが難しく、マルチモーダルレジストレーションに適さない。
【0010】
なお、異なる撮像機器から得られたデータをレジストレーションすることをマルチモーダルレジストレーションと呼んでいる。例えば医療分野では、CTから得られたデータとMRIから得られたデータをレジストレーションするような場合がこれにあたる。また、同じ撮像機器の場合でも、撮影方法が著しく異なるようなデータの場合は、マルチモーダルレジストレーションと呼ぶ場合がある。例えば、MRIからはT1強調画像とT2強調画像など、撮影方法によってコントラストが大きく異なった画像が得られる。
【0011】
ボクセル類似度ベースの手法は、位置合わせパラメータをボリュームデータ間の類似度が最大となるように非線形最適化によって決定する手法であり、医用データのレジストレーションにおいて現在最もよく用いられている。なかでも、非特許文献6に示されているような正規化された相互情報量(Normalized Mutual Information:NMI)を類似度として用いる手法が広く知られており、この手法ではボリュームデータ間で計算した相互情報量を最大化することでレジストレーションを行う。なお、特許文献1には、2つのボリュームデータから特徴点を抽出し、この特徴点の近傍のみで相互情報量を最大化することでレジストレーションを行うようにすることが開示されている。
【0012】
しかし、このような相互情報量の最大化は非線形最適化問題として解かれるため、その膨大な計算時間を要する。特に、3次元のボリュームデータは2次元画像などに比べて大幅に大きなデータ量を持つため、データの解像度によっては位置合わせに数時間を要する場合もある。また、非線形最適化において正しい解を得るためには適切な初期値を設定しなければならず、この初期値を推定する処理も必要となる。
【0013】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ボリュームデータ間の高精度な対応付け方法を提供することにある。2つのボリュームデータの間でボクセル同士の対応関係を知ることは、レジストレーションや対象の動きを可視化する際にきわめて有用である。レジストレーションにおいては、ボクセル同士の対応関係からレジストレーションのためのパラメータを推定することができる。本発明においてボリュームデータの対応付け方法に併せて提供されるボリュームデータの位置合わせ方法は、従来技術から精度を低下させることなく大幅な処理時間の削減を達成している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために本発明は、同一対象物を撮像した2つの3次元の立体画像のデータを第1および第2のボリュームデータとして取り込むデータ取込ステップと、第1のボリュームデータから複数の部分領域を抽出し、この抽出した複数の部分領域にそれぞれ設定された基準点に対応する第2のボリュームデータの対応点を、基準点を含む第1のボリュームデータの部分領域と基準点に対応する対応点を含む第2のボリュームデータの部分領域との相関から探索する対応点探索ステップと、探索された対応点と基準点との対応関係から第1のボリュームデータと第2のボリュームデータとの間の回転ずれおよび位置ずれを表すパラメータを剛体変形パラメータとして推定する剛体変形パラメータ推定ステップとを設けたものである。
【0015】
本発明では、第1のボリュームデータから部分領域が抽出され、この抽出された部分領域に設定された基準点に対応する第2のボリュームデータの部分領域内の対応点が、その部分領域の相関から探索される。同様にして、第1のボリュームデータから複数の部分領域が抽出され、その抽出された部分領域内の基準点に対応する第2のボリュームデータの部分領域内の対応点が探索される。そして、この探索された対応点と基準点との対応関係から第1のボリュームデータと第2のボリュームデータとの間の剛体変形パラメータ(回転ずれおよび位置ずれを表すパラメータ)が推定される。
【0016】
本発明では、部分領域の相関から対応点を探索するが、この場合の相関法として位相限定相関法(Phase-Only Correlation:POC)を用いることが考えられる。POCは、信号を離散フーリエ変換して得られる位相成分のみに着目して信号間の相関を求める手法であり、さまざまな外乱に対してロバストに信号の位置合わせ、類似度評価を行うことができるという特徴がある(例えば、非特許文献8参照)。
【0017】
POC関数が示す相関ピークは、その理論モデルを入力信号によらず導出することが可能であり、これを用いたフィッティングによって信号間のずれをサンプリング分解能以上の精度で求めることができる。POCは、本出願人らによってさまざまな分野への応用が実現されているが、特にサブピクセル精度での画像対応付けが必要となるステレオビジョンなどにおいてその有効性が確認されている(例えば、非特許文献9参照)。
【0018】
本発明では、その一形態として、これまで1次元および2次元で使用されていたPOCを3次元へ拡張し、この3次元へ拡張したPOC(3次元POC)を用いた3次元ブロックマッチングによってサブボクセル精度でボリュームデータ間の対応付けを行う。そして、得られた対応関係から、ボリュームデータ間の剛体変形パラメータを推定する。
【0019】
また、本発明では、その一形態として、推定された剛体変形パラメータに基づいて第1のボリュームデータと第2のボリュームデータとの間の回転ずれおよび位置ずれを補正する。この場合、第1のボリュームデータの回転ずれおよび位置ずれを補正するようにしてもよいし、第2のボリュームデータの回転ずれおよび位置ずれを補正するようにしてもよい。この第1のボリュームデータと第2のボリュームデータとの間の回転ずれおよび位置ずれの補正を「剛体変形」と呼ぶ。すなわち、本発明では、第1のボリュームデータを剛体変形させてもよいし、第2のボリュームデータを剛体変形させてもよい。
【0020】
また、本発明では、その一形態として、回転ずれおよび位置ずれが補正された第1および第2のボリュームデータを剛体変形処理後の第1および第2のボリュームデータとし、剛体変形処理後の第1のボリュームデータから複数の部分領域を抽出し、この抽出した複数の部分領域にそれぞれ設定された基準点に対応する剛体変形処理後の第2のボリュームデータの対応点を、基準点を含む剛体変形処理後の第1のボリュームデータの部分領域と基準点に対応する対応点を含む剛体変形処理後の第2のボリュームデータの部分領域との相関から探索するようにし、この探索された対応点の情報を用いて剛体変形処理後の第1および第2のボリュームデータの何れか一方の非剛体部分を変形させて重ね合わせるようにしてもよい。この剛体変形処理後の第1および第2のボリュームデータの何れか一方の非剛体部分を変形させて重ね合わせるような補正を「非剛体変形」と呼ぶ。すなわち、本発明では、剛体変形処理後の第1のボリュームデータを非剛体変形させてもよいし、剛体変形処理後の第2のボリュームデータを非剛体変形させてもよい。
【0021】
本発明は、ボリュームデータの高精度な対応付けを提供する。併せて提供するボクセルの対応関係を利用したボリュームデータの位置合わせ方法は、従来手法で一般的に用いられる複雑な最適化計算を必要としないため、位置合わせに要する計算時間を大幅に削減することができる。また、最適化計算において必須である変形パラメータの初期値を設定する必要もない。さらに、非剛体変形への対応も容易である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1のボリュームデータから部分領域を複数抽出し、この抽出した複数の部分領域内の基準点に対応する第2のボリュームデータの部分領域内の対応点を各部分領域の相関から探索することで、ボリュームデータ間の高精度な対応付けが可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、ボリュームデータの対応関係から推定した剛体変形パラメータに基づいて第1のボリュームデータと第2のボリュームデータとの間の回転ずれおよび位置ずれを補正するようにして、複雑な最適化計算を必要とせず、処理時間を短縮し、かつ精度よくボリュームデータ間の位置合わせを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施に用いるボリュームデータ間位置合わせ装置の一例を示すブロック図である。
【図2】このボリュームデータ間位置合わせ装置で行われる特有の処理動作(剛体変形処理)を示すフローチャートである。
【図3】このボリュームデータ間位置合わせ装置における対応点の探索処理(3次元ブロックマッチング)の過程を示すフローチャートである。
【図4】図3に続くフローチャートである。
【図5】このボリュームデータ間位置合わせ装置における対応点の探索処理(3次元ブロックマッチング)の過程を説明するためのボリュームデータの階層構造を示す図である。
【図6】対応点の探索処理に際して用いる3次元POCの流れを示す図である。
【図7】このボリュームデータ間位置合わせ装置で行われる特有の処理動作(非剛体変形処理)を示すフローチャートである。
【図8】POCに基づく対応点探索におけるパラメータを例示する図である。
【図9】本発明に係る手法と従来手法を用いてレジストレーションを行い、それらの性能を相関係数により比較した結果を示す図である。
【図10】実験にて使用したボリュームの一部((a),(b))およびレジストレーションの結果((c),(d))を示すディスプレイ上の写真である。
【図11】X線CTデータおよびMRIデータのアキシャル像((a),(b))およびレジストレーションの結果((c),(d))を示すディスプレイ上の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の実施に用いるボリュームデータ間位置合わせ装置の一例を示すブロック図である。
【0026】
同図において、100はボリュームデータ間位置合わせ装置であり、プロセッサや記憶装置からなるハードウェアと、これらのハードウェアと協働して各種機能を実現させるプログラムとによって実現される。具体的には、パーソナルコンピュータ(パソコン)にプログラムがインストールされ、このインストールされたプログラムに従うCPUの処理動作として実現される。
【0027】
ボリュームデータ間位置合わせ装置100は、参照ボリュームデータ取込部1と、入力ボリュームデータ取込部2と、撮像条件補正部3と、剛体変形処理部4と、非剛体変形処理部5と、ボリュームデータ記憶部6とを備えている。剛体変形処理部4は、オブジェクト領域抽出部4Aと、対応点探索部4Bと、剛体変形パラメータ推定部4Cと、剛体変形実行部4Dと、反復処理命令部4Eとを備え、非剛体変形処理部5は、オブジェクト領域抽出部5Aと、対応点探索部5Bと、非剛体変形実行部5Cとを備えている。
【0028】
この実施の形態において、ボリュームデータ間位置合わせ装置100には、一例として、参照ボリュームデータD1としてCT(図示せず)によって撮影された対象物のスライス画像を再構成した3次元の立体画像のデータが入力され、入力ボリュームデータD2としてMRI(図示せず)によって撮影された対象物のスライス画像を再構成した3次元の立体画像のデータが入力されるものとする。
【0029】
ここで、本実施の形態においては、位置合わせの基準となるボリュームデータを「参照ボリュームデータ」と呼ぶこととし、この参照ボリュームデータを基準として入力ボリュームデータの位置合わせを行うものとする。なお、この例において、撮影された対象物は同一人の頭部であるとする。
【0030】
また、本実施の形態において、剛体変形処理とは、撮影対象物自体は変形しないものとして、2つのボリュームデータ間の移動、回転によるずれなどを修正する処理のことを意味する。また、非剛体変形処理とは、撮像対象物が例えば心臓のように、時間的に変形することによって生じる2つのボリュームデータ間のずれを修正する処理のことを意味する。
【0031】
図2におよび図7にこのボリュームデータ間位置合わせ装置100で行われる特有の処理動作のフローチャートを示す。以下、このフローチャートを参照しながら、ボリュームデータ間位置合わせ装置100における各部の処理動作について説明する。
【0032】
〔剛体変形処理〕
先ず、図2に示すフローチャートを用いて、ボリュームデータ間位置合わせ装置100で行われる剛体変形処理について説明する。
【0033】
〔ボリュームデータの取り込み〕
参照ボリュームデータ取込部1は、CTによって撮影され再構成された3次元の立体画像のデータを参照ボリュームデータD1として取り込み、この取り込んだ参照ボリュームデータD1を撮像条件補正部3へ送る(ステップS101)。
【0034】
入力ボリュームデータ取込部2は、MRIによって撮影され再構成された3次元の立体画像のデータを入力ボリュームデータD2として取り込み、この取り込んだ入力ボリュームデータD2を撮像条件補正部3へ送る(ステップS102)。
【0035】
〔撮像条件の補正〕
撮像条件補正部3は、参照ボリュームデータ取込部1からの参照ボリュームデータD1と入力ボリュームデータ取込部2からの入力ボリュームデータD2との間の撮像条件に起因する相違を補正する(ステップS103)。この例では、撮像条件に起因する相違として、参照ボリュームデータD1と入力ボリュームデータD2との間の倍率や大まかな回転ずれや位置ずれを補正する。補正された参照ボリュームデータD1はボリュームデータ記憶部6に保存される。また、補正された参照ボリュームデータD1および入力ボリュームデータD2は、剛体変形処理部4へ送られる。
【0036】
なお、撮像条件補正部3において、倍率については装置が持つスケール(1ボクセルと実座標上の大きさ〔m〕の対応)を利用して合わせるなどする。回転ずれについては、それぞれのデータに主成分を計算して合わせるなどする。位置ずれについては、それぞれのデータの重心を利用して合わせるなどする。
【0037】
〔オブジェクト領域の抽出〕
剛体変形処理部4において、オブジェクト領域抽出部4Aは、撮像条件補正部3で補正された参照ボリュームデータD1および入力ボリュームデータD2を取り込み、この参照ボリュームデータD1および入力ボリュームデータD2から所定の領域をオブジェクト領域としてそれぞれ抽出する(ステップS104)。
【0038】
この例では、参照ボリュームデータD1および入力ボリュームデータD2に含まれる背景を除去し、対象物に関する情報が含まれる領域のみをオブジェクト領域として抽出する。以下、この抽出されたオブジェクト領域のボリュームデータを参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2とする。
【0039】
なお、ここでの背景とは、CTやMRIなどから得られる医用ボリュームデータで言えば、対象の周りに存在する空気を指す。空気は、対象とは全く異なるボクセル値を持つので、ボクセル値に閾値処理を施すことで容易に対象と空気を分離することができる。
【0040】
〔対応点の探索(3次元ブロックマッチング)〕
対応点探索部4Bは、オブジェクト領域抽出部4Aからの参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2を取り込み、この参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2間の対応点の探索を行う(ステップS105)。図3および図4にこの場合の対応点の探索処理のフローチャートを示す。
【0041】
対応点探索部4Bは、先ず、参照ボリュームデータOB1にN個の基準点(xi,yi,zi:i=1,2,・・・・,N)を定める(ステップS201(図3))。また、参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2をリサイズして行くことで、各辺の長さ(x,y,z軸方向の長さ)が元のデータの2−lとなる一連の階層ボリュームデータを生成する(ステップS202)。
【0042】
なお、本実施の形態のリサイズでは、隣接する8ボクセルを平均化することで1ボクセルとし、ボリュームデータの各辺をそれぞれ2分の1の長さにする。しかし、必ずしもこのような方法をとる必要はなく、他にも、例えば平滑化フィルタをかけた後に単純にダウンサンプリング(1ボクセルおきにサンプリング)する方法などが考えられる。
【0043】
すなわち、参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2を段階的に縮小し、元の参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2を最下位階層とし、最も縮小された参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2を最上位階層とする複数階層(l=0,1,2,・・・・lmax)のボリュームデータを生成する。以下、参照ボリュームデータOB1の各階層のボリュームデータを第1群のボリュームデータ、入力ボリュームデータOB2の各階層のボリュームデータを第2群のボリュームデータと呼ぶ。
【0044】
そして、i=1とし(ステップS203)、第1群の最上位階層lmaxのボリュームデータに初期基準点(floor(xi/2lmax),floor(yi/2lmax),floor(zi/2lmax))をplmaxとして設定し(図5参照)、第2群の最上位階層lmaxのボリュームデータの第1群の最上位階層lmaxに設定した初期基準点plmaxに対応する点に初期対応点をqlmaxとして設定する(ステップS204)。この際、最上位階層lmaxにおいては基準点と対応点とが同じ座標を持つと仮定し、初期基準点plmax=初期対応点qlmaxとする。
【0045】
次に、l=lmax−1とし(ステップS205)、第1群の階層l=lmax−1のボリュームデータに初期基準点plmaxに対応する基準点(floor(xi/2lmax-1),floor(yi/2lmax-1),floor(zi/2lmax-1))をplmax−1として定め、この基準点plmax−1を中心とする3辺の長さが予め定められた3次元のブロック(部分領域)を探索ウィンドウW1として設定する(ステップS206:図5参照)。
【0046】
基準点(floor(xi/2lmax-1),floor(yi/2lmax-1),floor(zi/2lmax-1))における「floor」の意味について説明する。B=floor(A)は、AをA以下の最も近い整数とする。ボリュームデータに設定した基準点(xi, yi, zi)は、階層探索を行う際に解像度を変更したボリュームデータに合わせて(xi/2lmax,yi/2lmax,zi/2lmax)とする必要があるが、この際に必ずしも座標が整数とはならない。このため、本実施の形態では、整数とするために、floor関数を用いている。
【0047】
また、第2群の階層l=lmax−1のボリュームデータに初期対応点qlmaxに対応する対応候補点(最上位階層lmaxに設定した初期対応点qlmaxを2倍した座標)をqlmax−1’として定め、この対応候補点qlmax−1’を中心とする3辺の長さが予め定められた3次元のブロック(部分領域)を探索ウィンドウW2として設定する(ステップS207(図4):図5参照)。なお、探索ウインドウW1,W2の大きさは同じであり、以下に説明する各階層でも同じ大きさの探索ウィンドウW1,W2を用いるものとする。
【0048】
そして、対応点探索部4Bは、ステップS206で設定した基準点plmax−1を中心とする探索ウィンドウW1とステップS207で設定した対応候補点qlmax−1’を中心とする探索ウィンドウW2のボクセルデータを抽出し、例えば後述する位相限定相関法(3次元POC)を用いてウインドウ間のずれをボクセルレベルで求め、このずれから探索ウインドウW2におけるボクセルレベルの対応点qlmax−1を決定する(ステップS208)。すなわち、第2群の階層lmax−1のボリュームデータにおける対応点qlmax−1を決定する。
【0049】
図6にステップS208で行われる3次元POCの処理の流れを示す。対応点探索部4Bは、基準点plmax−1を中心とする探索ウィンドウW1のボクセルデータを抽出し、この抽出したボクセルデータに対して3次元フーリエ変換を行う(ステップS301)。また、対応候補点qlmax−1’を中心とする探索ウィンドウW2のボクセルデータを抽出し、この抽出したボクセルデータに対して3次元フーリエ変換を行う(ステップS302)。
【0050】
そして、この3次元フーリエ変換が施された探索ウィンドウW1の3次元スペクトルと探索ウィンドウW2の3次元スペクトルとを合成し(ステップS303)、この合成した3次元スペクトルの振幅を正規化して位相成分のみとし(ステップS304)、この位相成分のみとした3次元スペクトルに3次元逆フーリエ変換を施して(ステップS305)、2つの探索ウィンドウW1,W2の相関を表す位相限定相関関数を得る。
【0051】
この位相限定相関関数から階層l=lmax−1のボリュームデータの空間内における探索ウィンドウW1とW2との間のずれをボクセルレベルで求め、このずれから探索ウィンドウW2におけるボクセルレベルの対応点qlmax−1を決定する。なお、3次元POCの詳細については後述する。
【0052】
次に、対応点探索部4Bは、l=l−1とし(ステップS209)、すなわちl=lmax−2とし、ステップS206〜S208の処理を繰り返す。
【0053】
この場合、対応点探索部4Bは、第1群の階層lmax−2のボリュームデータに基準点plmax−1に対応する基準点(floor(xi/2lmax-2),floor(yi/2lmax-2),floor(zi/2lmax-2))をplmax−2として定め、この基準点plmax−2を中心とする探索ウィンドウ(3次元ブロック)W1を設定する(ステップS206:図5参照)。
【0054】
また、第2群の階層l=lmax−2のボリュームデータに対応点qlmax−1に対応する対応候補点(階層lmax−1で求めた対応点qlmax−1を2倍した座標)をqlmax−2’として定め、この対応候補点qlmax−2’を中心とする探索ウィンドウ(3次元ブロック)W2を設定する(ステップS207:図5参照)。
【0055】
そして、基準点plmax−2を中心とする探索ウィンドウW1と対応候補点qlmax−2’を中心とする探索ウィンドウW2のボクセルデータを抽出し、3次元POCを用いてウインドウ間のずれをボクセルレベルで求め、このずれから探索ウインドウW2におけるボクセルレベルの対応点qlmax−2を決定する(ステップS208)。すなわち、第2群の階層lmax−2のボリュームデータにおける対応点qlmax−2を決定する。
【0056】
以下、同様にして、対応点探索部4Bは、第1群の階層および第2群の階層を1段階ずつ下げながら、ステップS206〜208の処理を繰り返して行く。そして、最下位階層におけるボクセルレベルの対応付けが終了し、l=−1となると(ステップS210のYES)、対応点探索部4Bは、参照ボリュームデータOB1と入力ボリュームデータOB2において、基準点p0を中心とする探索ウィンドウW1のボクセルデータとl=0の階層においてステップS206〜S208を実行することによって得られたボクセルレベルの対応候補点q0を中心とする探索ウインドウW2のボクセルデータを抽出する(ステップS211)。
【0057】
そして、3次元POCを用いてウインドウ間のずれをサブボクセルレベル(ボクセルレベルよりもさらに細かいレベル)で求め、このずれから探索ウインドウW2における対応点q0をサブボクセルレベルへ更新し、この更新したサブボクセルレベルの対応点q0を基準点p0に対応する対応点として記憶する(ステップS212)。すなわち、参照ボリュームデータOB1に定められるi=1番目の基準点p0に対応する入力ボリュームデータOB2における正規の対応点q0として記憶する。
【0058】
そして、対応点探索部4Bは、i=i+1とし(ステップS214)、すなわちi=2とし、2番目の基準点について、ステップS204〜S212の処理を繰り返す。これにより、上述と同様にして、参照ボリュームデータOB1に定められる基準点p0に対応する入力ボリュームデータOB2における対応点q0が決定され、この決定された対応点q0がi=2番目の基準点に対応する正規の対応点として記憶される。この処理は、ステップS213においてi=Nとなるまで繰り返される。
【0059】
これにより、参照ボリュームデータOB1におけるN個の基準点について、各基準点に対応する入力ボリュームデータOB2における正規の対応点が次々に決定されて行く。
【0060】
本実施の形態では、上述したように、ボリュームデータの解像度を変えたものをいくつか生成して階層状にし、低い解像度のデータから高い解像度のデータへ順番に対応点探索を行っていくことで、効率の良い対応付けが可能となり、また、データ間で大きな動きが生じている場合にも対応することができるようになる。
【0061】
〔剛体変形パラメータの推定〕
剛体変形パラメータ推定部4Cは、対応点探索部4Bによって探索された対応点と基準点との対応関係から参照ボリュームデータOB1と入力ボリュームデータOB2との間の回転ずれおよび位置ずれを表すパラメータを剛体変形パラメータとして推定する(ステップS106(図2))。
【0062】
例えば、回転ずれとしてX,Y,Z軸の各軸の回転ずれ量Δθx,Δθy,Δθzを求め、位置ずれとして各軸の平行ずれ量Δx,Δy,Δzを求める。この例では、回転ずれとして回転行列を求め、位置ずれとして並進ベクトルを求める。剛体変形パラメータの推定は、たとえば後述するように最小二乗法を用いて行うことができる。
【0063】
なお、この剛体変形パラメータ推定部4Cにおいて剛体変形パラメータを推定する場合、例えば非特許文献14に示されているようなロバスト推定法を用いるようにすれば、対応関係に誤りが含まれていても高精度にパラメータの推定を行うことが可能である。
【0064】
〔剛体変形の実行〕
剛体変形実行部4Dは、剛体変形パラメータ推定部4Cによって推定された剛体変形パラメータに基づいて、撮影条件補正部3から送られてくる入力ボリュームデータD2の回転ずれおよび位置ずれを補正(剛体変形)する(ステップS107)。すなわち、入力ボリュームデータD2を剛体変形させることによって、ボリュームデータ記憶部6に記憶されている参照ボリュームデータD1との間の回転ずれおよび位置ずれを補正する。
【0065】
そして、この剛体変形させた入力ボリュームデータD2をD2’として、反復処理命令部4Eへ送る。なお、剛体変形実行部4Dは、剛体変形後の入力ボリュームデータD2’を、次の回の剛体変形前の入力ボリュームデータD2として記憶する。
【0066】
〔反復処理〕
反復処理命令部4Eは、剛体変形実行部4Dからの剛体変形された入力ボリュームデータD2’をオブジェクト領域抽出部4Aへ送り、オブジェクト領域抽出部4Aでのオブジェクト領域の抽出(ステップS104)、対応点探索部4Bでの対応点の探索(ステップS105)、剛体変形パラメータ推定部4Cでの剛体変形パラメータの推定(ステップS106)、剛体変形実行部4Dでの剛体変形の実行(ステップS107)を再度行わせる。
【0067】
反復処理命令部4Eは、このステップS104〜S107の処理を繰り返させ、その回数が所定回数に達した時点で(ステップS108のYES)、その時の補正された入力ボリュームデータD2’を剛体変形処理後の入力ボリュームデータとしてボリュームデータ記憶部6に記憶させる(ステップS109)。
【0068】
このような反復処理により、剛体変形パラメータの推定とこの推定された剛体変形パラメータを用いての入力ボリュームデータの剛体変形が繰り返され、入力ボリュームデータと参照ボリュームデータとの間で大きな移動や回転が生じている場合にも対応することができるようになる。
【0069】
〔非剛体変形処理〕
次に、図7に示すフローチャートを用いて、ボリュームデータ間位置合わせ装置100で行われる非剛体変形処理について説明する。
【0070】
〔オブジェクト領域の抽出〕
非剛体変形処理部5において、オブジェクト領域抽出部5Aは、ボリュームデータ記憶部6に記憶されている参照ボリュームデータD1を読み出し(ステップS401)、またボリュームデータ記憶部6に記憶されている剛体変形処理後の入力ボリュームデータD2’を読み出し(ステップS402)、この参照ボリュームデータD1および入力ボリュームデータD2’からオブジェクト領域を抽出し、参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2とする(ステップS403)。
【0071】
なお、この場合、参照ボリュームデータD1に対しては剛体変形処理部4での剛体変形は実施されていないが、入力ボリュームデータD2に剛体変形を実施することによって参照ボリュームデータD1との間の回転ずれおよび位置ずれが補正されており、両者に対して補正が行われているものと考えれば、参照ボリュームデータD1も剛体変形処理後のボリュームデータであると言える。ここでは、参照ボリュームデータD1も剛体変形処理後のボリュームデータと考える。
【0072】
〔対応点の探索〕
対応点探索部5Bは、オブジェクト領域抽出部5Aからの参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2を取り込み、この参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2間の対応点の探索を行う(ステップS404)。この対応点探索部5Bでの対応点の探索処理は、剛体変形処理部4における対応点探索部4Bでの対応点の探索処理(図3)と同じであるので、その説明は省略する。
【0073】
非剛体変形実行部5Cは、対応点探索部5Bによって探索された対応点の情報を用いて、FFD(Free-Form Deformation)により入力ボリュームデータD2’を補正(非剛体変形)し、剛体変形処理後の入力ボリュームデータD2’と参照ボリュームデータD1の非剛体部分を重ね合わせる(ステップS405)。そして、この補正された入力ボリュームデータD2’を非剛体変形処理後の入力ボリュームデータD2”として、ボリュームデータ記憶部6に記憶させる(ステップS406)。FFDによる非剛体変形処理の詳細については後述する。
【0074】
なお、FFD(Free-Form Deformation)については、例えば非特許文献7にも開示されているように、ボリュームデータの非剛体位置合わせにおいては一般的である。本発明によりあらかじめ得られたボクセルの対応関係を利用したFFDによる非剛体変形は、従来技術であるボクセル類似度ベースの手法を用いたFFDに比べて約100倍の計算速度向上が見られた。従来技術ではボリュームデータの対応関係が未知の状態で計算を始めるため特に計算量の多い非剛体変形では非線形最適化に膨大な時間がかかるが、あらかじめ本発明により高精度にボリュームデータの対応関係が得られていれば、大幅な計算速度向上が可能である。
【0075】
なお、上述した実施の形態では、剛体変形処理部4の対応点探索部4Bにおいて対応点を探索する場合、参照ボリュームデータOB2の全体に基準点を定めるようにするが、例えばCTやMRIなどの医用ボリュームデータを扱う場合には、骨などの形状変化が少ない部分に集中的に定めることで、位置合わせ精度を向上させることが可能である。
【0076】
例えば、参照ボリュームデータOB2について、骨のある領域を所定の特徴のある領域として検索させ、この検索された特徴のある領域に基準点を定めるようにする。すなわち、検索された特徴のある領域を探索ウィンドウの抽出領域とする。非剛体変形処理部5の対応点探索部5Bにおいて対応点を探索する場合も同様である。
【0077】
また、この実施の形態では、オブジェクト領域抽出部4Aや5Aにおいて背景を除去して対象物のある領域のみを抽出するようにしたが、上述した骨のある領域など特徴のある領域をオブジェクト領域として抽出するようにしてもよい。また、撮像条件補正部3やオブジェクト領域抽出部4A,5Aは必ずしも設けなくてもよい。
【0078】
また、上述した実施の形態では、対応点探索部4Bや5Bにおいて、参照ボリュームデータOB1および入力ボリュームデータOB2の階層は、複数階層であれば何階層であってもよく、2層としても構わない。例えば、例えば図5に示した例では、最下位階層l0を0層とした場合、lmaxは3層であるが、lmaxを2層としてもよい。また、lmaxを4層、5層と、その層を増やして行ってもよい。
【0079】
また、上述した実施の形態では、対応点の探索を複数階層で行うようにしたが、必ずしも複数階層を利用する必要はなく、対象にそれほど大きなずれがない場合は1層でも対応付けは可能である。
【0080】
また、上述した実施の形態では、剛体変形処理部4におけるオブジェクト領域抽出部4Aと非剛体変形処理部5におけるオブジェクト領域抽出部4Aとを別としたが、また、剛体変形処理部4における対応点探索部4Bと非剛体変形処理部5における対応点探索部4Bとを別としたが、共通のブロックとすることも可能である。
【0081】
また、上述した実施の形態では、対応点探索部4Bや5Bにおいて、3次元POCを用いてウインドウ間のずれを求めるようにしたが、必ずしも3次元POC(位相限定相関法)を用いなくてもよく、他の相関法を用いてもよい。また、位相に限定するのではなく、log処理やルート処理などによって振幅を抑制する振幅抑制相関法を用いてもよい。
【0082】
また、上述した実施の形態では、剛体変形処理部4における剛体変形実行部4Dにおいて、入力ボリュームデータD2に対して剛体変形を実施するようにしたが、参照ボリュームデータD1に対して剛体変形を実施するようにしてもよい。また、非剛体変形処理部5における非剛体変形実行部5Cにおいて、剛体変形処理後の入力ボリュームデータD2’に対して非剛体変形を実施するようにしたが、参照ボリュームデータD1(剛体変形処理後の参照ボリュームデータD1)に対して非剛体変形を実施するようにしてもよい。
【0083】
また、上述した実施の形態では、対応点探索部4Bや5Bにおいて対応点を探索する場合、参照ボリュームデータOB2に基準点を複数定め、その基準点を中心する探索ウィンドウを抽出するようにしたが、探索ウィンドウを1つずつ切り出し、その探索ウィンドウの中心を基準点として、対応点を探索して行くようにしてもよい。
【0084】
また、上述した実施の形態では、剛体変形処理部4の反復処理命令部4Eにおいて、所定回数に達するまでステップS104〜S107の処理を繰り返させるようにしたが、補正された入力ボリュームデータD2’と参照入力ボリュームデータD1との回転ずれおよび位置ずれが所定の閾値よりも小さくなった場合に、反復処理を停止し、その時の補正された入力ボリュームデータD2’を剛体変形処理後の入力ボリュームデータとしてボリュームデータ記憶部6に記憶させるようにしてもよい。またこの他にも、推定される剛体変形パラメータの変化率が所定の閾値よりも小さくなった場合に反復処理を停止してもよい。
【0085】
また、上述した実施の形態では、参照ボリュームデータD1をCTによって撮像されたものとし、入力ボリュームデータD2をMRIによって撮像されたものとしたが、参照ボリュームデータD1と入力ボリュームデータD2をともにCTによって撮像されたものとしたり、MRIによって撮像されたものとしてもよく、さらにこれらとも異なる別の撮像装置で撮像されたデータとしてもかまわない。
【0086】
次に、3次元POCを用いたボリュームデータ間の位置合わせ手法について、さらに詳細に説明する。
【0087】
〔3次元位相限定相関法〕
ここでは3次元POCの基本的な定義と、3次元POCを用いたボリュームマッチングの高精度化について述べる。
【0088】
〔3次元位相限定相関関数〕
1×N2×N3ボクセルの2つのボリュームデータf(n1,n2,n3)およびg(n1,n2,n3)が与えられたとする。ここで、ボリュームデータの離散空間インデックス(整数)を、便宜上、n1=−M1、・・・、M1、n2=−M2、・・・、M2、n3=−M3、・・・、M3とする。ただし、M1、M2、M3は正の整数であり、N1=2M1+1、N2=2M2+1、N3=2M3+1である。
【0089】
なお、ここでは説明を簡単にするために離散空間のインデックスを正負対称にとり、かつボリュームデータの大きさN1,N2,N3を奇数にしているが、これは必須ではない。すなわち、通常よく用いられるように非負のインデックスを用い、N1,N2,N3を任意の正の整数に設定するように一般化することが可能である。ボリュームf(n1,n2,n3)およびg(n1,n2,n3)の3次元離散フーリエ変換(Discrete Fourie Transform:DFT)F(k1,k2,k3)およびG(k1,k2,k3)をそれぞれ次式で定義する。
【0090】
【数1】

【0091】
3次元POC関数r(n1,n2,n3)を、正規化相互パワースペクトルの3次元逆離散フーリエ変換(Inverse Discrete Fourier Transform:IDFT)として定義する。
【0092】
【数2】

【0093】
すると、(4)式に示す3次元POC関数r(n1,n2,n3)は、2つのボリュームデータf(n1,n2,n3)とg(n1,n2,n3)の3次元の相互相関を表すことになり、2つのボリュームが類似している場合、3次元POC関数は、デルタ関数に近いきわめて鋭いピークを有する。この相関ピークの高さは2つのボリュームの位相差スペクトルθF(k1,k2,k3)−θR(k1,k2,k3)の線形性を表しており、位相差スペクトルが完全に線形であれば、相関ピークの高さは1となる。この相関ピークの高さはボリュームの類似度の尺度として有用である。一方、相関ピークの座標は2つのボリュームの相対的な位置ずれに対応している。
【0094】
以下では、g(n1,n2,n3)がf(n1,n2,n3)を(δ1,δ2,δ3)だけ微小に平行移動させたボリュームである場合を考える。ここで、δ1,δ2,δ3は、それぞれn1,n2,n3方向のサブボクセルレベルの移動量を表している。このとき、f(n1,n2,n3)とg(n1,n2,n3)の3次元POC関数は、次式で与えられる。
【0095】
【数3】

【0096】
ここで、α=1である。上式は、ボリュームが(δ1,δ2,δ3)だけ微小に平行移動した場合の3次元POC関数の一般形を表している。αは、相関ピークの高さを表現するために導入されたパラメータである。ボリュームに対して無相関なノイズが加わるとαの値が減少するため、実際にはα≦1となる。この相関ピークのモデルに基づく関数フィッティングにより、パラメータα,δ1,δ2,δ3を推定することで、ボリュームの類似度(位相差スペクトルの線形性)とサブボクセル精度の移動量を求めることができる。
【0097】
〔3次元POCに基づくボリュームマッチングの高精度化〕
以下(A)〜(C)では、3次元POCに基づくボリュームマッチングの高精度化について述べる。
(A)窓関数の適用
DFTでは、信号が周期的に循環することを仮定するため、画像端での信号の不連続性が問題となる。この不連続性の影響を軽減するため、ボリュームに対して窓関数を適用することが重要である。本手法では下記のハニング窓を用いる。
【0098】
【数4】

【0099】
(B)スペクトルの重み付け
一般に、自然画像のエネルギーは低周波領域に集中し、高周波成分のエネルギーは相対的に小さいことが知られている。このため、エイリアシング、ぼけ、雑音、歪みなどの外乱が加わると、高周波成分のS/Nが大幅に劣化する。そこで、信頼性の低い高周波成分の影響を抑制するために、正規化相互パワースペクトルR(k1,k2,k3)の計算の際に、低域通過型のスペクトル重み付け関数H(k1,k2,k3)を適用することにより、大幅な精度向上が可能である。本手法ではH(k1,k2,k3)として、次式で与えられるガウス関数を用いる。
【0100】
【数5】

【0101】
この場合、3次元POC関数は、H(k1,k2,k3)R(k1,k2,k3)の3次元IDFTであり、式(5)に対応する相関ピークのモデルは、次式のように変化する。
【0102】
【数6】

【0103】
なお、重み付け関数については、これら以外にも用途に応じて、任意の関数を適用することが可能である[非特許文献8参照]。
【0104】
(C)ピークモデルのフィッティング
一般に、移動量(δ1,δ2,δ3)は実数値であり、3次元POC関数のピーク座標がサンプリング格子点の間に存在するため、正確に移動量を推定することが困難である。そこで、相関ピークのモデルが式(5)、(9)で与えられることを考慮し、実際に計算されたPOC関数の数値データに対して本モデルをフィッティングすることで、ボクセル間に存在するピークの位置を推定する。
【0105】
上記(B)のスペクトル重み付け関数H(k1,k2,k3)を適用した場合は、式(9)の例のように、H(k1,k2,k3)に応じた相関ピークモデルをフィッティングする必要がある。このとき、α,δ1,δ2,δ3がフィッティングパラメータとなる。
【0106】
なお、式(5)の形の相関ピークモデルの場合は、POC関数の数値データから直接的に相関ピークの座標と値を求めるピーク評価式(Peak Evaluation Formula:PEF)が導出されており[非特許文献10参照]、リアルタイム処理に寄与している。それ以外の一般的な相関ピークモデルの場合は、Levenberg-Marquardt法などの非線形最小二乗法を用いたフィッテイングを行う。
【0107】
このように、3次元POC関数の相関ピーク形状は、入力ボリュームによらず、H(k1,k2,k3)のみによって決定されるという特徴があるため、関数フィッティングによって高精度な移動量推定が可能である。
【0108】
〔3次元位相限定相関法に基づくボリュームレジストレーション〕
本手法で提案するボリュームレジストレーション手法の詳細について述べる。提案アルゴリズムは2つのステップで構成され、まず、(i)3次元POCに基づいてサブボクセルレベルの対応点探索を行い、次に(ii)ボクセルの対応関係からボリュームデータの変形パラメータを推定する。
【0109】
まず、ボリュームの変形モデルとして剛体変形を用い、剛体変形を記述するパラメータを推定する。本手法は非剛体変形への拡張も容易であり、本節ではFFDを用いた非剛体レジストレーションについても述べる。以下では本手法における各処理の詳細を述べる。
【0110】
〔サブボクセル対応点探索〕
本手法では、まず2つのボリュームデータから小領域(部分領域(3次元ブロック))を切り出し、3次元POCを用いてブロック間の移動量をサブボクセル精度で求めることで対応付けを行う。このとき、粗密戦略に基づく階層探索を行うことで効率的な対応付けを実現している。以下では、ボリュームI上に設定した基準点p=(p1,p2,p3)に対応するJ上の対応点q=(q1,q2,q3)を求めるものとし、対応付け手法の詳細について述べる。
【0111】
【数7】

【0112】
【数8】

【0113】
以上に示した処理Step1〜Step6によって、基準点pの対応点qをサブボクセル精度で求めることができる。
【0114】
〔剛体変形パラメータの推定〕
前述のブロックマッチングで得られた対応関係から剛体変形パラメータを推定する。剛体変形を記述するパラメータは、前述の対応点が3点以上あれば推定が可能である。本手法では、行列の特異値分解に基づいて回転行列Rおよび並進ベクトルtの最小二乗解を求めるアルゴリズム[非特許文献11参照]を用いる。以下にその手順を示す。
【0115】
【数9】

【0116】
〔反復推定〕
ボリューム間に大きな回転などが含まれる場合、一度の対応点探索及び剛体変形パラメータの推定だけでは高精度な位置合わせが難しいことが多い。そこで、まず前述の方法で推定された剛体変形パラメータを利用し、ボリュームデータ間の変形が小さくなるように剛体変形を施す。
【0117】
そして、再び対応付けを行い、剛体変形パラメータを推定する。このように、対応付け、剛体変形パラメータの推定、ボリュームの変形を繰り返すことで、ボリューム間で大きな変形が生じている場合でも正確に位置合わせを行うことが可能となる。実際には、例えばボリュームが一方向に20°程度回転している場合、約10回の繰り返し推定で誤差が収束することを確認している。
【0118】
〔非剛体レジストレーション〕
医用ボリュームデータにおいて、心臓や肺といった臓器に加え関節や筋肉などの組織は、それ自体が変形するなど、剛体変形では表現が不可能な変形を伴う場合があるため、剛体レジストレーションだけでは不十分であるといえる。したがって、剛体レジストレーションに加え、局所的な変形を補正するために非剛体レジストレーションを行う必要がある。
【0119】
非剛体レジストレーションでは、一度剛体レジストレーションを行った後、再度対応点探索を行い、この対応関係を用いて非剛体な変形パラメータを推定する。以下では、各ボクセルの移動をFree-Form Deformation(FFD)モデルにより推定する手法について述べる。
【0120】
本手法では、ローカルな変形モデルとしてB-スプライン補間に基づくFFD[非特許文献12参照]を用いる。FFDは3次元変形物体のモデリングに有用であり、これまで主に人体の運動の追跡や解析に利用されてきた。B-スプライン補間に基づくFFDでは、ボリュームデータの3次元領域内に格子状に制御点が配置され、この制御点の移動がボリュームの変形を決定付ける。x,y,z方向にそれぞれ間隔δx,δy,δzで格子状の制御点φi,j,kが並ぶとき、任意の座標x=(x,y,z)における移動ベクトルT(x)は次式で表される。
【0121】
【数10】

【0122】
ここで入力ボリュームをI,Jとすると、pi,j,kはI上の基準点であり、qi,j,kは3次元POCを用いた対応付けによって得られたJ上の対応点である。しかし、後述する高精度化手法を用いて対応点を得た場合、基準点は格子状とならない。そのような場合にはマルチレベルB-スプライン[非特許文献12参照]を利用してFFDを計算する必要がある。マルチレベルB-スプラインは、不規則に並んだデータ点からC2−連続な補間を高速に計算するアルゴリズムである。本手法の詳細については非特許文献12、13を参考にされたい。
【0123】
〔レジストレーションの高精度化〕
ボリューム間の対応関係から剛体変形パラメータを推定する場合、対応関係に誤り(誤対応)が含まれていると位置合わせ精度が低下してしまう。そこで、ここでは、3次元POCに基づく対応付けにおける誤対応を削減し、剛体変形パラメータの推定精度を向上させるための手法について述べる。
【0124】
〔基準点の選別〕
例えば医用ボリュームデータなどを扱う場合、断層画像に造影する部位は撮影に利用した装置のモダリティ(CTやMRIなど)によって異なる。レジストレーションにより両者に不足する情報を補完し合うことは、診断能の向上やより詳細な人体構造の把握につながるため、モダリティの異なるボリュームをレジストレーションする意義は大きい。しかし、モダリティが異なるボリュームデータに対して3次元POCに基づく対応点探索を適用する場合、両者で位相情報が全く異なるような箇所に基準点を設定すると正しく対応点を求めることができず、誤対応となる。
【0125】
これを避けるため、2つのデータ間で位相情報が共通するような箇所に基準点を配置する。例えばX線CTとMRIで位相情報が共通となるような部位としては、骨や皮膚などが挙げられるが、剛体レジストレーションにおいてはその運動が剛体変形で記述しやすい硬組織周辺を利用するのが望ましい。そこで本手法では、CT値に基づいてX線CTデータ上で骨に相当する箇所に基準点を配置し、対応点探索を行う。
【0126】
〔ロバスト推定の利用〕
前述の基準点選別に加え、POC関数のピーク値に対して閾値を設けることでさらに誤対応を減らすことが可能である。3次元ブロック間で計算されるPOC関数は、両ブロックが類似しているほど高いピーク値を示す(1に近付く)ため、ピーク値が低い対応点は信頼性が低いと考えることができる。そこで、本手法では、このピーク値に対して閾値を設定し、閾値を下回る対応点は誤対応として除外する。なお、経験上、閾値は0.1程度が妥当である。
【0127】
しかし、実際には、ピーク値に対する閾値処理だけで全ての誤対応を除去することは困難である。そこで、本手法では、対応関係に誤りが含まれていても高精度に剛体変形パラメータを求めることができるロバスト推定手法として、RANSAC(RANdom SAmple Consensus)[非特許文献14参照]を用いる。以下に、RANSACを用いた剛体変形パラメータの推定手法を示す。
【0128】
Step1:基準点と対応点のペアからランダムに3組選び、その3組から剛体変形パラメータの推定を行う。
Step2:Step1で求めたパラメータに基づいて、全ての基準点に剛体変形を施す。
Step3:剛体変形された基準点とその対応点の距離が閾値以内ならば、これをinlier(外れ点でない点)に含める。
Step4:inlierの個数を数える。
Step5:Step1〜4をNr回繰り返す。
Step6:Nr個のinlier集合のうち最も要素数が多いものを用いて、変形パラメータを再推定する。
【0129】
〔実験・考察〕
医用ボリュームデータを例として、本手法(ボリュームレジストレーション手法)の性能評価を行う。まず、剛体レジストレーションについて従来手法と性能比較を行い、本手法では従来手法に比べて高精度かつ高速なレジストレーションが可能であることを示す。続いて、FFDを用いた非剛体レジストレーションを適用し、本手法により非剛体変形に対しても高精度な位置合わせが可能であることを示す。最後に、X線CTとMRIから得られたボリュームに対してレジストレーションを行い、本手法がモダリティの違いにロバストであることを示す。
【0130】
〔剛体レジストレーション〕
ここでは、歯科用CTで撮影した顎部ボリュームデータを用いる。一人の被験者から異なるタイミングで取得した4つのデータを利用し、これらをそれぞれボリューム1〜4とする。そして、全ての組み合わせ(4C2=6組)に対して位置合わせを行った。再構成したボリュームは512×512×512のボクセル数で構成され、0.2×0.2×0.2mmの分解能をもつ。4つのボリュームのうち1つは意図的に首を傾けて撮影されているため、比較的大きな位置ずれや歪みが加わっている。図10(a)、(b)に実験にて使用したボリュームの一部を示す。
【0131】
本実験では、従来手法としてStudholmeらの手法[非特許文献5]を利用した。これは、2つのデータ間の正規化相互情報量(Normalized Mutual Information:NMI)が最大となるように剛体変形パラメータを最適化する手法であり、医用データのレジストレーションにおいて一般に広く用いられている。非剛体レジストレーションでは、Rueckertらの手法[非特許文献7]を従来手法として用いた。Studholmeらの手法と同じく正規化相互情報量の最大化に基づく手法であるが、変形モデルとしてFFDを利用しているため非剛体なひずみを補正することが可能である。
【0132】
実験にあたり、POCに基づく対応点探索に用いたパラメータを図8に示す。Studholmeらの手法における非線形最適化にはNelder-Mead法[非特許文献15参照]を用い、最適化計算における初期値は適当な値を手動で設定した。
【0133】
レジストレーションの精度を評価するために、次の相関係数(Correlation Coefficient:CC)を指標として用いる。
【0134】
【数11】

【0135】
本手法と従来手法を用いてレジストレーションを行い、それらの性能を相関係数により比較した結果を図9に示す。ボリューム1,2,4は自然な姿勢で撮影したものであり、ボリューム3は意図的に首を傾けて撮影したものである。相関係数による評価では1に近いほどレジストレーション精度が高いといえる。
【0136】
図9を見ると、本手法は全てのボリュームの組み合わせに対して従来手法と同等またはそれ以上の精度を示しており、高いレジストレーション精度を持っていることがわかる。また、本実験において、ボリュームデータ一組の剛体レジストレーションに要する時間は、Studholmeらの手法が約4分であるのに対し、本手法では約1分であり、本手法によって75%の計算時間削減が達成されている。非剛体レジストレーションの場合は、Rueckertらの手法が約665分、本手法が約6分であり、本手法によって約99%の計算時間削減が達成されている。
【0137】
なお、両手法の実装にはMATLAB7.4.0を利用し、実験に使用したパーソナルコンピュータ(PC)はCPU:Xeon(3.0GHz×2)、Memory:16GB、OS:CentOS 4.7である。このように、3次元POCに基づくボリュームレジストレーション手法は、精度、計算時間の両面において従来手法よりも優れていることがわかる。
【0138】
ボリューム1と3を用いた提案手法による非剛体レジストレーション結果を図10(c),(d)に示す。ボリューム3に非剛体変形を加えて補正したデータのコロナル像にボリューム1の輪郭線を重ねて表示した。ボリューム1と3の間には非剛体な変形が加わっているため、剛体レジストレーションのみでは図10(c)のように位置ずれが目立つ。このような場合には非剛体レジストレーションが必要であり、最終的には本手法により図10(d)に示す通り非剛体なひずみが補正されていることがわかる。
【0139】
〔マルチモーダルレジストレーション〕
X線CTとMRIのそれぞれで同一の被験者の頭部データを取得し、本手法を用いて剛体レジストレーションを行った。ボリュームを再構成する際、ボクセル数を512×512×512,ボクセル分解能を0.469×0.469×0.469mmとしている。
【0140】
図11(a),(b)にX線CTデータおよびMRIデータのアキシャル像を示す。図11(c),(d)は、本手法によるレジストレーション結果である。図11(c)は、レジストレーション後のMRI画像上にX線CTデータの輪郭線を重ねたものであり、図11(d)ではMRI画像とX線CT画像を格子状に交互に合成している。これらの結果より、モダリティが異なる場合でも本手法によって高精度なレジストレーションが可能であることがわかる。
【0141】
〔むすび〕
本手法では、位相限定相関法を3次元に拡張し、これを用いたボリュームデータの対応付け手法を提案した。本手法では、POCを利用した3次元ブロックマッチングと階層探索を組み合わせることでサブボクセル精度でボリュームデータ間の対応付けを行う。ボクセル同士の対応関係はボリュームデータのレジストレーションなどの際にきわめて有用であり、従来技術に比べて精度を低下させることなく大幅に高速なレジストレーションを実現することができる。
【0142】
本手法は、モダリティの違いに対してもロバストに対応付けを行うことができ、また、非剛体レジストレーションにも容易に拡張することができる。タイミングを変えて取得した複数のX線CTおよびMRIデータを用いて、本手法が従来手法に比べて精度、計算時間の両面で高い性能を示すことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明のボリュームデータ間の対応付け方法は、同一対象物のほぼ同一箇所を撮像した3次元の立体画像のデータ(ボリュームデータ)間の対応付けを行う方法として、医療などの分野に限らず、各種の分野において適用することが可能である。
【符号の説明】
【0144】
1…参照ボリュームデータ取込部、2…入力ボリュームデータ取込部、3…撮像条件補正部、4…剛体変形処理部、4A…オブジェクト領域抽出部、4B…対応点探索部、4C…剛体変形パラメータ推定部、4D…剛体変形実行部、4E…反復処理命令部、5…非剛体変形処理部、5A…オブジェクト領域抽出部、5B…対応点探索部、5C…非剛体変形実行部、6…ボリュームデータ記憶部、W1,W2…探索ウィンドウ(3次元ブロック)、100…ボリュームデータ間位置合わせ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一対象物を撮像した2つの3次元の立体画像のデータを第1および第2のボリュームデータとして取り込むデータ取込ステップと、
前記第1のボリュームデータから複数の部分領域を抽出し、この抽出した複数の部分領域にそれぞれ設定された基準点に対応する前記第2のボリュームデータの対応点を、前記基準点を含む前記第1のボリュームデータの部分領域と前記基準点に対応する前記対応点を含む前記第2のボリュームデータの部分領域との相関から探索する対応点探索ステップと、
前記探索された対応点と基準点との対応関係から前記第1のボリュームデータと前記第2のボリュームデータとの間の回転ずれおよび位置ずれを表すパラメータを剛体変形パラメータとして推定する剛体変形パラメータ推定ステップと
を備えることを特徴とするボリュームデータ間の対応付け方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたボリュームデータ間の対応付け方法において、
前記第1のボリュームデータと前記第2のボリュームデータとの間の撮像条件に起因する相違を補正する補正ステップ
を備えることを特徴とするボリュームデータ間の対応付け方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたボリュームデータ間の対応付け方法において、
前記対応点探索ステップは、
前記第1のボリュームデータにおける所定の特徴のある領域を検索する特徴領域検索ステップを備え、
前記特徴領域検索ステップにより検索された特徴のある領域を前記部分領域の抽出領域とする
ことを特徴とするボリュームデータ間の対応付け方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載されたボリュームデータ間の対応付け方法において、
前記対応点探索ステップは、
前記第1および第2のボリュームデータを段階的に縮小し、それぞれ当該第1および第2のボリュームデータを最下位階層とし最も縮小された第1および第2のボリュームデータを最上位階層とする第1群および第2群のボリュームデータを生成する第1ステップと、
前記第1群の最上位階層のボリュームデータに初期基準点を設定する第2ステップと、
前記第2群の最上位階層のボリュームデータの前記初期基準点に対応する点に初期対応点を設定する第3ステップと、
前記第1群のボリュームデータのうち前記初期基準点が設定された階層より1階層下の階層のボリュームデータに前記初期基準点に対応する基準点を定め、この基準点を中心とする部分領域を設定する第4ステップと、
前記第2群のボリュームデータのうち前記初期対応点が設定された階層より1階層下の階層のボリュームデータに前記初期対応点に対応する対応候補点を定め、この対応候補点を中心とする部分領域を設定する第5ステップと、
前記第4ステップで設定した基準点を中心とする部分領域と前記第5ステップで設定した対応候補点を中心とする部分領域との相関から、前記基準点に対応する前記第2群の前記対応候補点が定められたボリュームデータにおける対応点を決定する第6ステップと、
前記第4ステップにおいて設定された基準点を初期基準点に設定し、前記第6ステップにおいて決定された対応点を初期対応点に設定し、前記第1群の階層および前記第2群の階層を順次下げて、前記第4ステップ〜第6ステップを実行することを繰り返すことにより、最終的に前記第1のボリュームデータに定められる基準点に対応する前記第2のボリュームデータにおける正規の対応点を決定する第7ステップと、
前記第2ステップで前記最上位階層のボリュームデータに設定する初期基準点を変更し、前記第2ステップ〜第7ステップを実行することを繰り返すことによって、前記第1のボリュームデータに定められる複数の基準点に対応する前記第2のボリュームデータにおける正規の対応点を決定し、この決定された対応点を探索された対応点として記憶する第8ステップと
を備えることを特徴とするボリュームデータ間の対応付け方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載されたボリュームデータ間の対応付け方法において、
前記対応点探索ステップで用いられる相関は位相限定相関である
ことを特徴とするボリュームデータ間の対応付け方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載されたボリュームデータ間の対応付け方法において、
前記推定した剛体変形パラメータに基づいて前記第1のボリュームデータと前記第2のボリュームデータとの間の回転ずれおよび位置ずれを補正する剛体変形ステップ
を備えることを特徴とするボリュームデータ間の対応付け方法。
【請求項7】
請求項6に記載されたボリュームデータ間の対応付け方法において、
所定の条件を満たすまで、前記対応点探索ステップ、前記剛体変形パラメータ推定ステップおよび剛体変形ステップを繰り返す
ことを特徴とするボリュームデータ間の対応付け方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載されたボリュームデータ間の対応付け方法において、
前記剛体変形ステップによって回転ずれおよび位置ずれが補正された前記第1および第2のボリュームデータを剛体変形処理後の第1および第2のボリュームデータとし、前記剛体変形処理後の第1のボリュームデータから複数の部分領域を抽出し、この抽出した複数の部分領域にそれぞれ設定された基準点に対応する前記剛体変形処理後の第2のボリュームデータの対応点を、前記基準点を含む前記剛体変形処理後の第1のボリュームデータの部分領域と前記基準点に対応する前記対応点を含む前記剛体変形処理後の第2のボリュームデータの部分領域との相関から探索する剛体変形処理後対応点探索ステップと、
この剛体変形処理後対応点探索ステップによって探索された対応点の情報を用いて前記剛体変形処理後の第1および第2のボリュームデータの何れか一方の非剛体部分を変形させて重ね合わせる非剛体変形ステップと
をさらに備えることを特徴とするボリュームデータ間の対応付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−41656(P2011−41656A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191315(P2009−191315)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】